以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。本実施形態では、打込み工具の一例としての釘打ち機1を例示する。釘打ち機1は、打込み材の一例としての釘101を直線状に打ち出すことで、被加工物(例えば、木材)100)に釘101を打込むことが可能な工具である。
まず、図1を参照して、釘打ち機1の概略構成について説明する。図1に示すように、釘打ち機1の外郭は、主に、工具本体10と、ハンドル14と、マガジン17とを主体として形成されている。
工具本体10は、本体ハウジング11とノーズ部12とを含む。本体ハウジング11には、モータ2、ドライバ3、ドライバ駆動機構400等が収容されている。ドライバ3は、所定の動作線Lに沿って移動可能に配置されている。ドライバ駆動機構400は、動作線Lに沿ってドライバ3を直線状に移動させることで、釘101を釘打ち機1から打ち出させる機構である。ノーズ部12は、動作線Lの延在方向(以下、単に動作線L方向という)における本体ハウジング11の一端に連結されている。ノーズ部12は、本体ハウジング11とは反対側の端部に、釘101が打ち出される射出口123を有する。また、ノーズ部12には、動作線L方向に進退可能なコンタクトアーム13が配置されている。本体ハウジング11内には、コンタクトアームスイッチ131(図7参照)が配置されている。コンタクトアームスイッチ131は、常時にはオフ状態で維持され、コンタクトアーム13の押込みに応じてオン状態とされるように構成されている。
ハンドル14は、動作線L方向において本体ハウジング11の中央部から、動作線Lと交差する方向に突出している。ハンドル14は、使用者によって把持される部位である。ハンドル14の基端部(本体ハウジング11に接続された端部)には、作業者による引き操作が可能に構成されたトリガ140が設けられている。ハンドル14内には、トリガスイッチ141が配置されている。トリガスイッチ141は、常時にはオフ状態で維持され、トリガ140の引き操作に応じてオン状態とされるように構成されている。また、ハンドル14の先端部(基端部とは反対側の端部)には、端子等を備えたバッテリ装着部15が設けられている。バッテリ装着部15には、充電式のバッテリ19が取り外し可能に装着されている。
マガジン17は、複数の釘101を充填可能に構成されており、ノーズ部12に装着されている。マガジン17に充填された釘101は、釘送り機構(図示せず)によって、ドライバの移動経路上に一本ずつ供給される。なお、マガジン17の構成は周知であるため、その説明は省略する。
本実施形態では、釘打ち機1は、使用者により、コンタクトアームスイッチ131およびトリガスイッチ141が何れもオン状態とされた場合、ドライバ3によって釘101を被加工物100に打込む動作(以下、打込み動作という)を開始するように構成されている。つまり、使用者によるコンタクトアーム13の被加工物100に対する押し付け操作およびトリガ140の引き操作に応じて、打込み動作が行われる。なお、2つの動作が行われる順序は、特に限定されていない。
以下、釘打ち機1の詳細構成について説明する。なお、以下の説明では、便宜上、動作線L方向(図1の左右方向)を釘打ち機1の前後方向と規定し、射出口123が設けられている側(図1の右側)を釘打ち機1の前側、反対側(図1の左側)を後側と規定する。また、動作線Lに直交し、ハンドル14の延在方向に対応する方向(図1の上下方向)を釘打ち機1の上下方向と規定し、ハンドル14の基端部側(図1の上側)を上側、ハンドル14の先端部側(図1の下側)を下側と規定する。また、前後方向および上下方向に直交する方向を左右方向と規定する。
まず、工具本体10の内部構造について説明する。
まず、本体ハウジング11の内部構造について説明する。図2に示すように、本体ハウジング11内には、モータ2、ドライバ3、ドライバ駆動機構400、加速度センサ115等が配置されている。以下、これらの構成について順に説明する。
図2に示すように、モータ2は、本体ハウジング11の後下部に収容されている。また、モータ2は、出力シャフト(図示せず)の回転軸が左右方向に延在するように配置されている。本実施形態では、モータ2として、ブラシレスDCモータが採用されている。モータ2の出力シャフトには、出力シャフトと一体的に回転するプーリ21が連結されている。なお、本実施形態では、モータ2の駆動はコントローラ18(図1参照)によって制御される。モータ2の制御の詳細に関しては、後述する。
図3に示すように、ドライバ3は、長尺状の部材であって、長軸に関して左右対称形状に形成されている。ドライバ3は、本体部30と、打撃部31と、一対のアーム部35とを含む。本体部30は、全体として概ね矩形薄板状に形成された部分である。打撃部31は、本体部30よりも左右方向の幅が細く形成され、本体部30の前端から前方に延在する部分である。一対のアーム部35は、本体部30の後部から左右に突出する部分である。
本体部30は、後述する押圧ローラ83(図2参照)によって押圧されてリング部材5(図2参照)に摩擦係合する部位である。本体部30は、一対のローラ当接部301と、レバー当接部305と、一対のリング係合部306とを有する。以下、これらの部分について順に説明する。
一対のローラ当接部301は、本体部30の上面から上方へ突出し、本体部30の左右の端に沿って前後方向に延在するように、本体部30に一体的に形成されている。ローラ当接部301の突出端(上端)に形成された面部は、押圧ローラ83の外周面に当接する当接面として形成されている。また、ローラ当接部301の前端部は、後方に向けて高さ(上下方向の厚み)が漸増する傾斜部302として形成されている。一方、ローラ当接部301のうち傾斜部302の後側部分は、一定の高さを有する。レバー当接部305は、本体部30の上面から上方へ突出するように設けられ、本体部30の後部において左右のローラ当接部301をつなぐように、左右方向に延在する。レバー当接部305は、後述する押出しレバー711が後方から当接する部位である。
一対のリング係合部306は、本体部30の下面から下方へ突出し、本体部30の左右の端部に沿って前後方向に延在するように、本体部30に一体的に形成されている。リング係合部306の前端部は、後方に向けて高さ(上下方向の厚み)が漸増する傾斜部307として形成されている。一対のリング係合部306には、夫々、後述する2つのリング部材5の外周係合部51に係合可能な係合溝308が形成されている。各係合溝308は、リング係合部306の突出端から上方へ凹むように形成され、リング係合部306の全長に亘って前後方向に延在する。また、係合溝308は、左右方向の幅が上方に向けて狭くなるように(言い換えると、係合溝308を規定するリング係合部306の左右方向の壁面が上方へ向けて近づくように)形成されている(図6参照)。なお、ドライバ3とリング部材5との係合態様については後で詳述する。
本体部30の後端32は、ドライバ3の後端を規定する。打撃部31の前端310は、ドライバの前端を規定する。前端310は、釘101(図1参照)の頭部を打撃し、釘101を前方へ打出して被加工物100に打ち込む部位である。
一対のアーム部35は、本体部30の左右に突出している。なお、詳細説明および図示は省略するが、アーム部35は、接続部材によって、本体ハウジング11内に配置された戻し機構に接続されている。戻し機構は、釘101を打ち出した後のドライバ3を初期位置に復帰させるように構成された機構である。本実施形態の釘打ち機1では、戻し機構として、いかなる公知の構成が採用されてもよい。例えば、打込み位置まで前方へ移動されたドライバ3を、接続部材を介して弾性部材(例えば、圧縮コイルバネや捩りコイルバネ)の弾性力で動作線Lに沿って初期位置へ引き戻すように構成された戻し機構を採用することができる。
以上のように構成されたドライバ3は、その長軸が動作線Lに沿って釘打ち機1の前後方向に延在するように配置される。また、ドライバ3は、動作線Lに沿って(釘打ち機1の前後方向に、またはドライバ3の長軸方向にとも言い換えられる)移動可能に保持されている。
ここで、図1および図4を参照して、ドライバ3の初期位置および打込み位置について説明する。初期位置とは、ドライバ駆動機構400が作動していない状態(以下、初期状態という)でドライバ3が保持される位置である。本実施形態では、図1に示すように、ドライバ3の初期位置は、ドライバ3の後端32が、本体ハウジング11の後端部内に固定された後方ストッパ部118に当接する位置に設定されている。打込み位置とは、ドライバ駆動機構400によって前方へ移動されたドライバ3が釘101を被加工物に打ち込む位置である。本実施形態では、図4に示すように、ドライバ3の打込み位置は、ドライバ3の前端310が射出口123から僅かに突出した位置に設定されている。打込み位置は、一対のアーム部35の前端が、本体ハウジング11前端部の内部に固定された一対の前方ストッパ部117に後方から当接する位置でもある。上記の配置から、本実施形態では、初期位置と打込み位置は、ドライバ3の移動可能範囲の両端を規定する最後方位置と最前方位置であると言い換えることもできる。
図2に示すように、本実施形態では、ドライバ駆動機構400は、フライホイール4と、2つのリング部材5と、保持機構6と、作動機構7と、押圧機構8とを含む。以下、これらの構成の詳細について順に説明する。なお、以下で参照する図1および図2では、説明の便宜上、後述するリング部材5の一部が破断された状態で図示されている。
フライホイール4は、円筒状に形成されており、図2に示すように、本体ハウジング11内のモータ2の前側で、回転可能に支持されている。フライホイール4は、モータ2によって回転軸A1周りに回転駆動される。回転軸A1は、モータ2の回転軸と平行に、ドライバ3の動作線Lに直交する左右方向に延在する。フライホイール4の支持シャフトには、フライホイール4と一体的に回転するプーリ41が連結されている。プーリ21とプーリ41にはベルト25が架け渡されている。よって、モータ2が駆動されると、モータ2の回転がベルト25を介してフライホイール4に伝達され、フライホイール4は図2の時計回り方向に回転する。また、図5および図6に示すように、フライホイール4の外周45には、フライホイール4の全周に亘って延在する一対の係合溝47が形成されている。係合溝47には、リング部材5が係合可能である。係合溝47は、左右方向の幅が、フライホイール4の径方向内側に向けて狭くなるように形成されている。
図2に示すように、各リング部材5は、フライホイール4よりも大径のリング状に形成されている。本実施形態では、リング部材5の内径は、フライホイール4の外径(厳密には、フライホイール4の回転軸A1から係合溝47の底部までの径)よりも大きく設定されている。図5に示すように、2つのリング部材5は、夫々、フライホイール4の外周45に設けられた一対の係合溝47に対して径方向外側に配置されている。本実施形態では、2つのリング部材5は、後述する保持機構6によって、フライホイール4の外周45(より詳細には係合溝47)から離間した離間位置と、外周45(係合溝47)に一部が接触する接触位置との間で移動可能に保持されている。
各リング部材5は、フライホイール4の回転エネルギをドライバ3に伝達するための伝達部材であって、ドライバ3およびフライホイール4と摩擦係合可能に構成されている。図6に示すように、リング部材5の外周側部分および内周側部分には、夫々、ドライバ3の係合溝308およびフライホイール4の係合溝47に係合可能な外周係合部51および内周係合部53が設けられている。リング部材5の径方向の断面形状は、概ね六角形状に形成されており、外周係合部51は、リング部材5の径方向外側へ向けて厚みが小さくなるように形成される一方、内周係合部53は、リング部材5の径方向内側へ向けて軸方向の厚みが小さくなるように形成されている。つまり、外周係合部51および内周係合部53は、いずれも先端に向けて断面が先細り形状に形成されている。なお、リング部材5と、ドライバ3およびフライホイール4との係合態様については後で詳述する。
保持機構6は、リング部材5を、フライホイール4の外周45(係合溝47)から離間した離間位置と、外周45(係合溝47)に接触する接触位置との間で移動可能に保持するように構成されている。図2および図5に示すように、本実施形態の保持機構6は、一対のリング付勢部60と、一対のストッパ66とで構成されている。一対のリング付勢部60は、リング部材5に対して斜め前下方と斜め後ろ下方に配置され、リング部材5を板バネによって下側から上方へ付勢した状態で回転可能に支持している。一対のストッパ66は、夫々、ドライバ3の下方、且つ、リング部材5に対して斜め前上方と斜め後ろ上方に配置され、リング部材5の回転を許容しつつ、リング部材5の上方への移動を規制するように構成されている。
ここで、保持機構6によるリング部材5の保持態様について説明する。図5に示すように、初期状態においては、リング付勢部60は下方からリング部材5に当接し、リング部材5を上方へ付勢する一方、ストッパ66はリング部材5に対して上方から当接し、リング部材5がそれ以上上方へ移動することを規制する。これにより、図6に示すように、リング部材5は、フライホイール4の全周に亘って、外周45(係合溝47)から離間した離間位置で保持される。なお、フライホイール4の上端部のみが図示されているが、フライホイール4の全周に亘って、同様に、リング部材5はフライホイール4の外周45(より詳細には係合溝47)から離間している。一方、詳細は後述するが、作動機構7によってドライバ3が前方へ移動されるのに伴って、リング部材5がドライバ3によって下方へ押圧されると、リング付勢部60の付勢力に抗してリング部材5が下方へ移動する。そして、リング部材5は、フライホイール4の上部において、外周45(係合溝47)に接触する接触位置で保持されることになる(図12参照)。
図2に示すように、作動機構7は、本体ハウジング11内において、ドライバ3よりも上方、且つ、フライホイール4よりも後方に配置されている。作動機構7は、初期位置に配置されたドライバ3を、後述する伝達位置に移動させるように構成された機構である。本実施形態では、作動機構7は、ソレノイド715と、ソレノイド715のロッドによって回動される押出しレバー711とを主体として構成されている。初期状態では、押出しレバー711の他端部は、ドライバ3のレバー当接部305に対して斜め上後方に保持されている。ソレノイド715が作動されると、押出しレバー711が下方へ回動される。これに伴って、押出しレバー711の先端部がレバー当接部305を後方から前方へ押圧することで、ドライバ3を前方へ移動させる(図11参照)。なお、本実施形態では、ソレノイド715の作動はコントローラ18(図1参照)によって制御される。ソレノイド715の制御の詳細に関しては、後述する。
図2に示すように、押圧機構8は、本体ハウジング11内で、フライホイール4とドライバ3との対向方向において、フライホイール4とは反対側でドライバ3と対向するように配置されている。押圧機構8は、ドライバ3が初期位置から前方へ移動する過程で、リング部材5に向けて(つまり、フライホイール4に近づく方向に)ドライバ3を押圧することで、リング部材5を介してフライホイール4からドライバ3への回転エネルギの伝達を可能とするように構成されている。
図2および図6に示すように、本実施形態では、押圧機構8は、ローラ支持部材81と、押圧ローラ83と、ホルダ85と、弾性部材87とを含む。押圧ローラ83は、ローラ支持部材81によって回転可能に支持されている。ホルダ85は、本体ハウジング11に支持され、ローラ支持部材81を上下方向に相対移動可能に保持している。弾性部材87は、僅かに圧縮された状態で、ローラ支持部材81とホルダ85の間に配置されている。このような構成により、初期状態では、ローラ支持部材81および押圧ローラ83は、弾性部材87の弾性力によって下方へ付勢され、最下方位置で保持される。
図2に示すように、加速度センサ115は、本体ハウジング11の後端部内に配置されている。加速度センサ115は、加速度を検出可能な周知のセンサであって、図示しない配線を介して、コントローラ18(図1参照)に検出結果を出力するように構成されている。本実施形態では、打込み動作に伴って生じた工具本体10の動きに対応する情報として、加速度が用いられる。そして、加速度センサ115によって検出された加速度に基づいて、モータ2の制御が行われる。この点については後で詳述する。
次に、ハンドル14の内部構造について説明する。
図2に示すように、ハンドル14の上端部の内部には、上述のように、トリガスイッチ141が配置されている。ハンドル14の下端部の内部(バッテリ装着部15の上方)には、コントローラ18が収容されている。コントローラ18は、モータ2およびソレノイド715の制御を通じてドライバ駆動機構400の動作を制御するように構成されている。また、ハンドル14の下端部(コントローラ18の上方)には、速度表示部116が設けられている。本実施形態では、速度表示部116は、大きさの異なる3つのLEDライトを含み、コントローラ18(図1参照)によって、設定されたモータ2の回転速度に応じたLEDの駆動制御が行われる。具体的には、モータ2の回転速度に応じて、駆動されるLEDの数、色、駆動態様(点灯または点滅)等が変更される。
以下、釘打ち機1の電気的構成について説明する。図7に示すように、釘打ち機1は、釘打ち機1の動作を制御するコントローラ18を備えている。本実施形態では、コントローラ18は、CPU181、ROM182、RAM183、タイマ184等を含むマイクロコンピュータとして構成されている。
コントローラ18には、三相インバータ201と、ホールセンサ203が電気的に接続されている。本実施形態では、三相インバータ201は、6つの半導体スイッチング素子を用いた三相ブリッジ回路を備えている。三相インバータ201は、コントローラ18からの制御信号が示すデューティ比に従って三相ブリッジ回路の各スイッチング素子をスイッチング動作させることで、モータ2を駆動する。ホールセンサ203は、モータ2の各相に対応して配置される3つのホール素子を備えており、モータ2のロータの回転位置を示す信号を出力するように構成されている。なお、ホールセンサ203の回転位置からモータ2の実回転速度が得られることから、ホールセンサ203は、モータ2の回転速度を検出しているともいえる。詳細は後述するが、本実施形態では、コントローラ18(CPU181)は、打込み動作の前および後に検出されたモータ2の回転速度に基づいてデューティ比を変更することで、モータ2の回転速度を制御する。なお、コントローラ18と三相インバータ201は、基板180に搭載されて、ハンドル14の下端部に収容されている(図1参照)。
更に、コントローラ18には、コンタクトアームスイッチ131と、トリガスイッチ141と、ソレノイド715と、加速度センサ115と、速度表示部(LED)116とが電気的に接続されている。本実施形態では、CPU181は、コンタクトアームスイッチ131、トリガスイッチ141、および加速度センサ115から出力された信号に基づいて、適宜、三相インバータ201およびソレノイド715に対して制御信号を出力することで、モータ2およびソレノイド715の駆動を制御する。また、CPU181は、モータ2の回転速度に応じて速度表示部(LED)116の点灯を制御する。
ここで、本実施形態における釘打ち機1の制御の概要について説明する。
まず、上述のように、コンタクトアーム13の押し付け操作と、トリガ140の引き操作とを両方とも行うこと(但し順序は問わない)が、打込み動作の開始条件として規定されている。一方で、ドライバ3による釘101の打込みのために十分な回転エネルギをフライホイール4に蓄積するためには、モータ2の駆動後にある程度の時間がかかる。そこで、本実施形態では、2つの操作が行われた時点で十分な回転エネルギが蓄積された状態とするために、2つの操作が次のように扱われる。まず、2つの操作のうち先に行われた一方の操作は、モータ2を予め駆動させ、スタンバイ状態とさせるための指示(以下、スタンバイ指示という)の入力操作とみなされる。また、2つの操作のうち、後で行われた操作は、ソレノイド715を作動させる指示(以下、作動指示という)の入力操作とみなされる。
更に、2つの操作が行われた後(つまり、打込み動作が一度行われた後)のトリガ140の引き操作の解除は、スタンバイ状態を解除する指示(以下、スタンバイ解除指示という)の入力操作とみなされる。一方、スタンバイ状態が解除されない状態(トリガ140の引き操作が継続されている状態)で行われるコンタクトアーム13の押し付け操作は、新たな作動指示を入力するための操作とみなされる。つまり、トリガ140の引き操作が継続され、スタンバイ状態が維持された場合には、コンタクトアーム13の押し付け操作に応じて、次の打込み動作が行われる。これにより、回転エネルギの効率的な蓄積や、釘101を連発する時の操作性の向上が図られている。
このように、本実施形態では、上述の各種指示の入力操作に応じて、モータ2の駆動の開始および停止が行われる。具体的には、CPU181は、コンタクトアームスイッチ131およびトリガスイッチ141のオン・オフ状態によって各種指示を認識し、指示に応じてモータ2の駆動を開始し、または停止する。
更に、本願の発明者は、打込み動作の前のフライホイール4の回転エネルギおよび打込み動作でドライバ3によって消費されるフライホイール4の回転エネルギ(以下、消費エネルギという)と、被加工物100に対する釘101の打込み状態との間には、一定の対応関係が存在することに着目した。なお、消費エネルギは、打込み動作の前のフライホイール4の回転エネルギ(以下、打込み前エネルギという)と、打込み動作の後のフライホイール4の回転エネルギ(以下、打込み後エネルギという)との差である。本実施形態では、この対応関係に基づいて、打込み動作が実際に行われる度にモータ2の回転速度を設定することで、次の打込み動作のための回転エネルギを、釘101の適正な打込み状態を実現可能な範囲内とする制御が行われる。
具体的には、CPU181は、図8に例示するテーブル187を参照して、打込み動作が行われる度にモータ2の回転速度Nを設定し、設定した回転速度Nでモータ2を駆動する。なお、テーブル187は、コントローラ18のROM182(図7参照)に予め記憶されている。
ここで、テーブル187について説明する。図8に示すように、テーブル187には、打込み動作が行われる前のモータ2の回転速度N1(rpm)と、打込み動作が行われた後のモータ2の回転速度N2(rpm)の範囲と、次の打込み動作のためのモータ2の回転速度N(rpm)とが対応付けられて格納されている。
テーブル187は、フライホイール4が複数の異なる回転速度で実際に回転され、夫々の回転速度において特定された釘101の打込み状態に基づいて作成されている。なお、釘101の打込み状態には、例えば、適正、打込み不足、打込み過剰がある。適正は、打ち込まれた釘101の頭部が被加工物100の表面と概ね面一にある状態をいい、消費エネルギが適正である場合に対応する。打込み不足とは、釘101の頭部が被加工物100の表面から突出しており、消費エネルギが不足している場合に対応する。打込み過剰とは、釘101の頭部が被加工物100に埋没しており、消費エネルギが過剰である場合に対応する。釘101の打込み状態が適正であれば、次の打込み動作のためにドライバ3に供給される回転エネルギを変更する必要はない。一方、釘101が打込み不足状態であれば、その不足度合いに応じてドライバ3に供給される回転エネルギを増加させることが望ましい。また、釘101が打込み過剰状態であれば、その過剰度合いに応じてドライバ3に供給される回転エネルギを減少させることが望ましい。
このことから、打込み前エネルギと、適正状態に対応する打込み後エネルギの範囲、打込み不足状態に対応する打込み後エネルギの範囲、および打込み過剰状態に対応する打込み後エネルギの範囲とを対応付け、更に、各打込み後エネルギの範囲と、次の打込み動作時にドライバ3に供給される回転エネルギの増減の必要性を対応付けることができる。なお、打込み不足状態および打込み過剰状態に夫々対応する打込み後エネルギの範囲は、その不足度合いおよび過剰度合いに応じて更に複数の範囲に細分化されうる。
フライホイール4の回転エネルギをE(J)、フライホイール4の慣性モーメントをI(kg・m2)、フライホイール4の角速度をω(rad/s)とした場合、回転エネルギEは、次の式で表される。
E=Iω2/2
フライホイール4の慣性モーメントIは一定であり、フライホイール4の角速度ω(rad/s)は回転速度(rpm)に換算できる。また、フライホイール4の回転速度とモータ2の回転速度とはプーリ21、41の回転比に応じた比例関係にある。よって、フライホイール4の回転エネルギは、モータ2の回転速度の関数として表すことも可能である。そこで、本実施形態では、処理の容易化のため、打込み前エネルギに対応する情報として、打込み動作前のモータ2の回転速度N1が採用され、打込み後エネルギに対応する情報として、打込み動作後のモータ2の回転速度N2が採用されている。特に、本実施形態では、モータ2としてブラシレスモータが採用されているため、元々、ロータの回転位置を検出するためのホールセンサ203が必要である。そこで、打込み前エネルギおよび打込み後エネルギに対応する情報として、モータ2の回転速度N1およびN2を利用することで、新たな検出機構を付加することなく、適切な情報を容易に取得することができる。
更に、ドライバ3に供給される回転エネルギの増減は、次の打込み動作前のフライホイール4の回転エネルギの増減、ひいてはモータ2の回転速度の増減によって実現されうる。そこで、ドライバ3に供給される回転エネルギを変更する必要がない範囲には、次の打込み動作のためのモータ2の回転速度Nとして、回転速度N1と同じ回転速度が対応付けられている。一方、ドライバ3に供給される回転エネルギを増加させるべき範囲には、回転速度N1より大きい回転速度Nが対応付けられている。また、ドライバ3に供給される回転エネルギを減少させるべき範囲には、回転速度N1より小さい回転速度Nが対応付けられている。
具体的には、例えば、打込み動作前のモータ2の回転速度N1が12,000rpmの場合、打込み動作後のモータ2の回転速度N2が7,000rpm未満の範囲には、次の打込み動作のためのモータ2の回転速度Nとして、回転速度N1と同じ12,000rpmが対応付けられている。つまり、12,000rpmの回転速度N1に対して7,000rpm未満の回転速度N2が得られた場合、消費エネルギは適正な範囲内にあるため、回転速度Nは前回の打込み動作時から変更されない。なお、本実施形態では、12,000rpmは、設定可能範囲における最高速度である。
一方、回転速度N2が7,000rpm以上8,000rpm未満の範囲には、回転速度Nとして、回転速度N1より小さい11,000rpmが対応付けられている。つまり、12,000rpmの回転速度N1に対して7,000rpm以上8,000rpm未満の回転速度N2が得られた場合、消費エネルギが過剰の範囲内にあるため、ドライバ3に供給される回転エネルギを減少させるべく、回転速度Nが前回の打込み動作時よりも低くされる。回転速度N2が8,000rpm以上9,000rpm未満の範囲は、消費エネルギが更に過剰の範囲内にあるため、回転速度Nとして、更に低い10,000rpmが対応付けられている。同様にして、9,000rpm以上の回転速度N2の範囲についても、回転速度Nが対応づけられている。なお、本実施形態では、8,000rpmは、設定可能範囲における最低速度である。
また、例えば、打込み動作前のモータ2の回転速度N1が11,000rpmの場合、打込み動作後のモータ2の回転速度N2が5,000rpm未満の範囲には、次の打込み動作のためのモータ2の回転速度Nとして、最高速度の12,000rpmが対応付けられている。なお、5,000rpmは、回転速度N1が11,000rpmのときの回転速度N2の閾値である。釘101が大幅に打込み不足の場合には、モータ2の回転速度が大幅に低下することが知られている。よって、回転速度N2が閾値よりも小さい場合には、ドライバ3に供給される回転エネルギを効果的に増加させるべく、回転速度Nとして最高速度が設定される。詳細な説明は省略するが、テーブル187の残りの部分においても、同様の基準に基づいて、回転速度N1、回転速度N2、および回転速度Nが対応付けられている。
以下、図9および図10を参照して、コントローラ18のCPU181によって実行される打込み制御処理の詳細と、処理中の釘打ち機1の具体的な動作について説明する。なお、打込み制御処理は、バッテリ19がバッテリ装着部15に装着されることで釘打ち機1への電力供給が開始されると開始され、電力供給が停止されると終了される。なお、以下の説明および図では、処理中の各「ステップ」を「S」と簡略表記する。また、図では、「スイッチ」を「SW」とも簡略表記する。
打込み制御処理の開始時点では、コンタクトアーム13およびトリガ140はいずれも初期位置にあって、コンタクトアームスイッチ131およびトリガスイッチ141はいずれもオフ状態である。モータ2は駆動されていない非駆動状態にある。図1に示すように、ドライバ3は、戻し機構によって初期位置に戻されて保持されている。図6に示すように、リング部材5は、保持機構6によって、フライホイール4の外周45(より詳細には係合溝47)から径方向外側に僅かに離間した離間位置に保持されている。このとき、押圧ローラ83は最下方位置で保持され、ドライバ3の本体部30の前端部に上方から滑り状態で接触しているが、ドライバ3を下方へ押圧している状態ではない。この状態では、リング部材5は、ドライバ3からも離間した位置に保持されている。より詳細には、リング部材5は、外周係合部51がドライバ3の係合溝308に対して僅かに下方へ離間した位置で保持されている。
図9に示すように、CPU181はまず、モータ2の回転速度Nとして、初期値を設定する(S11)。本実施形態では、初期値は、回転速度Nの設定可能範囲における最大値(最高速度の12,000rpm)とされている。なお、初期値は予めROM182に記憶されており、CPU181は、S11において、ROM182から初期値を読み出し、次の打込み動作のためのモータ2の回転速度NとしてRAM183に記憶させる。
CPU181は、モータ2の回転速度Nに応じて、速度表示部116のLEDを点灯させる(S12)。ここでは、3つのLEDがすべて点灯され、回転速度Nが最大値に設定されていることを示す。これにより、使用者は、自動的に設定された回転速度Nを容易に認識することができる。
CPU181は、スタンバイ指示が入力されない間は待機する(S13:NO、S13)。コンタクトアームスイッチ131およびトリガスイッチ141のうち何れか一方がオン状態とされた場合、CPU181はこれをスタンバイ指示の入力と認識し(S13:YES)、モータ2の駆動を開始する(S15)。具体的には、CPU181は、三相インバータ201を介してモータ2への通電を開始する。このとき、CPU181は、モータ2のロータの回転速度が、RAM183に記憶されている回転速度Nとなるように、デューティ比を制御する。なお、コントローラ18によって認識されたトリガスイッチ141およびコンタクトアームスイッチ131のオン・オフ状態は、例えば、夫々に対応するフラグがRAM183にセットまたはクリアされることで記憶される。
モータ2の駆動に伴って、フライホイール4が回転駆動され、回転エネルギの蓄積を開始する。なお、この段階では、リング部材5は離間位置に配置されているため、フライホイール4の回転エネルギをドライバ3に伝達不能な状態にある。よって、フライホイール4が回転しても、リング部材5およびドライバ3は動作しない。
CPU181は、スタンバイ指示が入力されてから所定時間が経過しない間は、スタンバイ解除指示または作動指示の入力があるまで監視を継続する(S17:NO、S19:NO、S23:NO、S17)。なお、ここでいうスタンバイ解除指示は、スタンバイ指示に対応するコンタクトアームスイッチ131またはトリガスイッチ141がオフ状態とされることである。
スタンバイ解除指示または作動指示の入力がないまま所定時間が経過した場合(S17:YES)、または、所定時間内にスタンバイ解除指示が入力された場合(S17:NO、S19:YES)には、CPU181は、モータ2の駆動を停止し(S21)、スタンバイ指示の入力の監視に戻る(S13)。なお、所定時間が経過したか否かの判断は、例えば、タイマ184によって、スタンバイ指示の入力からの経過時間が計時され、予めROM182に記憶されている所定時間と経過時間とが比較されることで行われる。なお、所定時間は特に限定されるものではないが、本実施形態では、所定時間の一例として、5秒が採用されている。
CPU181は、所定時間が経過する前に、作動指示が入力された場合、つまり、コンタクトアームスイッチ131およびトリガスイッチ141のうち、スタンバイ指示に対応しないスイッチもオン状態とされた場合(S17:NO、S19:NO、S23:YES)、ホールセンサ203(図7参照)によって検出された、打込み動作前のモータ2の回転速度N1を特定し、RAM183に記憶させる(図10のS25)。CPU181は、一旦モータ2の通電を中止することで、モータ2の駆動を停止する(S27)。モータ2の駆動は停止されるが、フライホイール4およびモータ2のロータは慣性で回転を続ける。CPU181は、モータ2の駆動停止とほぼ同時に、作動指示に応じてソレノイド715を作動させ、ドライバ3に打ち込み動作を行わせる(S29)。
具体的には、次のようにして打込み動作が行われる。まず、ソレノイド715の作動により、押出しレバー711が回動し、押出しレバー711の後端部がドライバ3のレバー当接部305を後方から前方へ押圧する。ドライバ3は、初期位置から打込み位置へ向かって、動作線Lに沿って前方へ移動を開始する。ドライバ3は、離間位置に保持されているリング部材5に対しても相対的に移動する。
押圧ローラ83は、傾斜部302の当接面に前方から当接する。傾斜部302が押圧ローラ83に押圧されつつ前方へ移動するのに伴って、リング部材5の外周係合部51の一部がドライバ3の係合溝308(図6参照)に進入して、係合溝308の開口端に当接する。なお、リング係合部306の前端部に傾斜部307が形成されていること、また、係合溝308の左右方向の幅は、開口端側の方が広いことから、外周係合部51は、係合溝308にスムーズに進入することができる。押圧ローラ83が傾斜部302の当接面に当接し、外周係合部51の一部が係合溝308の開口端に当接した状態で、ドライバ3が更に前方へ移動すると、傾斜部302はカムとして機能し、また、くさび効果を発揮する。このため、離間位置に保持されていたリング部材5がリング付勢部60の板バネの付勢力に抗して下方へ押し下げられる。同時に、最下方位置に保持されていた押圧ローラ83が、弾性部材87の弾性力に抗して上方へ押し上げられる。
ドライバ3が更に前方へ移動し、図11に示す伝達位置に達すると、図12に示すように、下方へ移動されたリング部材5の内周係合部53の一部がフライホイール4の係合溝47に進入して、係合溝47の開口端に当接し、リング部材5は、それ以上下方への移動が禁止された状態となる。このとき、リング部材5は、ストッパ66から離間した状態でリング付勢部60によって最下方位置で回転可能に支持されており、内周係合部53の一部のみがフライホイール4の上部に当接している。つまり、リング部材5は、保持機構6によって接触位置に保持されている。また、傾斜部302によって押圧ローラ83が押し上げられることで圧縮された弾性部材87の弾性力により、リング部材5は、ドライバ3を介してフライホイール4に対して押し付けられている。このため、ドライバ3の係合溝308の開口端において、ドライバ3とリング部材5の外周係合部51の一部が摩擦係合状態に置かれる。また、フライホイール4の係合溝47の開口端において、フライホイール4とリング部材5の内周係合部53の一部が摩擦係合状態に置かれる。
このように、リング部材5がドライバ3およびフライホイール4と摩擦係合状態に置かれることで、ドライバ3は、リング部材5を介してフライホイール4の回転エネルギを受けることが可能な伝達可能状態となる。なお、「摩擦係合状態」とは、2つの部材が互いに摩擦力によって係合した状態(滑り状態を含む)をいう。リング部材5は、リング部材5の内周係合部53のうち、ドライバ3によってフライホイール4に押し付けられた部分のみがフライホイール4と摩擦係合した状態で、フライホイール4によって回転軸A2周りに回転される。なお、本実施形態では、図11に示すように、リング部材5はフライホイール4よりも大径に形成されており、リング部材5の内径はフライホイール4の外径(厳密には、フライホイール4の回転軸A1から係合溝47の底部までの径)よりも大きい。このため、リング部材5の回転軸A2は、フライホイール4の回転軸A1とは異なっており、回転軸A1よりも下方(ドライバ3から離れる方向)に位置する。なお、回転軸A2は、回転軸A1に対して平行に延在する。リング部材5は、リング部材5と摩擦係合した状態のドライバ3を、図11に示す伝達位置から前方へ向けて押し出す。
ドライバ3が伝達位置から前方へ押し出され、図13に示すように、押圧ローラ83が、ローラ当接部301のうち傾斜部302の後側部分の当接面に当接し、最上方位置まで押し上げられる。弾性部材87の弾性力により、リング部材5は、ドライバ3を介してフライホイール4に対して更に押し付けられる。よって、ドライバ3と外周係合部51の一部、および、フライホイール4と内周係合部53の一部は、より強固に摩擦係合した状態となる。これにより、リング部材5は、より効率的にフライホイール4の回転エネルギをドライバ3に伝達することができる。なお、図13は、ドライバ3が釘101(図1参照)を打撃する打撃位置に配置された状態を示している。なお、CPU181は、打込み制御処理のS29(図10参照)においてソレノイド715を作動させた後、ドライバ3が打撃位置まで到達するのに必要な所定時間が経過すると、ソレノイド715への電流供給を停止することで、押出しレバー711を初期位置に戻す。
ドライバ3は、打撃位置に達して釘101を打撃し、更に、図4に示す打込み位置まで移動して、釘101を被加工物100に打ち込む。ドライバ3のアーム部35の前端が前方ストッパ部117に後方から当接することで、ドライバ3の移動が停止され、打込み動作が終了する。これに伴い、戻し機構(図示せず)が作動して、ドライバ3を初期位置に復帰させる。
図10に示すように、CPU181は、S29でソレノイド715を作動させ、ドライバ3の打込み動作が終了すると、ホールセンサ203によって検出された、打込み動作後のモータ2の回転速度N2を特定し、RAM183に記憶させる(S31)。なお、回転速度N2の特定のタイミングは、例えば、ソレノイド715が作動され、ドライバ3が打込み位置まで移動して釘101の打込みを完了するのに要する時間に応じて設定されればよい。なお、ドライバ3が打込み位置まで移動して釘101の打込みを完了するのに要する時間は、非常に短い時間(30ミリ秒程度)である。
更に、CPU181は、加速度センサ115によって検出された加速度が、所定の閾値を超えているか否かを判断する(S33)。なお、加速度の閾値は、予め設定され、例えば、ROM182に記憶されている。上述のように、加速度は、打込み動作に伴って生じる工具本体10の動きに対応する情報として採用されている。釘101が被加工物100にほとんど打込まれず、工具本体10が反動で跳ね返される(典型的には、動作線Lに概ね平行に被加工物から離れる方向に移動する)ような場合(つまり、消費エネルギが大幅に不足している場合)には、加速度が増大する。そこで、CPU181は、加速度が閾値を超えている場合(S33:YES)、ドライバ3に供給される回転エネルギを効果的に増加させるべく、回転速度Nとして、初期値(設定可能範囲における最大値)を設定する(S34)。
CPU181は、加速度が閾値を超えていない場合には(S33:NO)、テーブル187を参照して、回転速度N1および回転速度N2に対応する回転速度Nを設定する(S35)。S34またはS35では、この時点でRAM183に記憶されている回転速度Nが、新たに設定された回転速度Nに置き換えられる。CPU181は、S34またはS35で設定されたモータ2の回転速度Nに応じて、速度表示部116のLEDを点灯させる(S36)。
CPU181は、スタンバイ解除指示の入力があったか否かを判断する(S37)。なお、ここでいうスタンバイ解除指示は、トリガスイッチ141がオフ状態とされることである。CPU181は、スタンバイ解除指示の入力があった場合(S37:YES)、スタンバイ解除指示の入力から所定時間が経過しない間は、スタンバイ指示の入力があるまで監視を継続する(S39:NO、S41:NO、S39)。なお、S39で採用される所定時間は、S17で採用される所定時間と同じでも異なってもよいが、本実施形態では、S17と同じ5秒とされている。
スタンバイ指示の入力がないまま所定時間が経過した場合(S39:YES)、CPU181は、図9のS11の処理に戻り、回転速度Nを初期値に設定する。つまり、打込み動作の後、スタンバイ状態が解除され、所定時間、新たなスタンバイ指示の入力がなされない場合には、モータ2の回転速度Nの設定が最高速度に戻されることになる。その後の処理は、上述の通りである。
所定時間内にスタンバイ指示の入力があった場合には(S39:NO、S41:YES)、CPU181は、図9のS15の処理に戻り、モータ2の駆動を開始する。このとき、CPU181は、モータ2のロータの回転速度を、前の打込み動作後にS34またはS35で設定され、RAM183に記憶された回転速度Nとなるように制御する。その後の処理は、上述の通りである。
CPU181は、トリガスイッチ141がオン状態で維持されており、スタンバイ解除指示の入力がされていないと判断した場合には(S37:NO)、前の打込み動作後にS34またはS35で設定され、RAM183に記憶された回転速度Nで、モータ2の駆動を開始する(S43)。これは、上述のように、作動指示が入力されるまでフライホイール4に回転エネルギを蓄積させるための処理である。CPU181は、モータ2の駆動開始から所定時間が経過しない間は、作動指示の入力があるまで監視を継続する(S45:NO、S49:NO、S45)。なお、S45で採用される所定時間は、S17およびS39で採用される所定時間と同じでも異なってもよいが、本実施形態では、S17およびS39と同じ5秒とされている。作動指示の入力がないまま所定時間が経過した場合(S45:YES)、CPU181は、モータ2の駆動を停止して、図9のS11の処理に戻り、回転速度Nを初期値に設定する。つまり、打込み動作の後、スタンバイ状態のまま、所定時間、新たな作動指示の入力がなされない場合には、モータ2の回転速度Nの設定が最高速度に戻されることになる。その後の処理は、上述の通りである。
所定時間内に作動指示の入力があった場合には(S45:NO、S49:YES)、CPU181は、S25に戻って打込み前のモータ2の回転速度N1を検出し、モータ2の駆動を停止した後(S27)、ソレノイド715を作動させてドライバ3に打込み動作を行わせる(S29)。つまり、打込み動作の後、スタンバイ状態のまま新たな作動指示が入力されると、前の打込み動作に基づいて適切に設定された回転速度Nで、速やかに次の打込み動作が行われる。
図14を参照して、以上に説明した打込み制御処理(図9および図10参照)の具体的な適用例について説明する。図14に示すように、回転速度Nの初期値には、最高速度の12,000rpmが設定される(S11)。1回目の打込み動作の前と後に検出された回転速度N1、N2が、夫々、12,000rpm、10,000rpmの場合(S25,S31)、釘101の頭部が被加工物100Aに埋没してしまう打込み過剰状態が生じている。これに対し、テーブル187(図8参照)が参照され、次の打込み動作のための回転速度Nが、より低速の8,000rpmに設定される(S35)。その結果、2回目の打込み動作の回転速度N1、N2は、夫々、8,000rpm、5,000rpmとなり(S25,S31)、釘101の頭部が被加工物100Aの表面と概ね面一となる、適正な打込み状態が実現される。この場合、テーブル187が参照され、回転速度Nは前回と同じ8,000rpmに設定される(S35)。3回目の打込み動作でも、適正な打込み状態が実現され、回転速度Nは前回と同じ8,000rpmに設定される(S35)。
回転速度Nが8,000rpmに設定された状態で、被加工物100Aよりも固い被加工物100Bに対して4回目の打込み動作が行われると、回転速度N1、N2は、夫々、8,000rpm、2,000rpmとなり(S25,S31)、釘101の頭部が被加工物100Aの表面から突出する打込み不足状態が生じる。これに対し、テーブル187が参照され、次の打込み動作のための回転速度Nが、より高速の10,000rpmに設定される(S35)。その結果、5回目の打込み動作の回転速度N1、N2は、夫々、10,000rpm、6,500rpmとなり(S25,S31)、適正な打込み状態が実現される。
以上に説明したように、本実施形態では、CPU181が、打込み前エネルギに対応する情報としてのモータ2の回転速度N1と、打込み後エネルギに対応する情報としてのモータ2の回転速度N2とに基づいて、モータ2の回転速度Nを設定する。より詳細には、CPU181は、ROM182に記憶されたテーブル187を参照して、モータ2の回転速度Nを設定する。テーブル187には、実測により得られた、打込み動作の前のフライホイール4の回転エネルギ、打込み動作による消費エネルギ、および被加工物100に対する釘101の打込み状態との間の対応関係に基づいて、回転速度N1、回転速度N2の範囲、および回転速度Nが対応付けられている。CPU181は、このテーブル187を参照して回転速度Nを簡便に設定し、次に行われる打込み動作でドライバ3に供給される回転エネルギを適切に制御して、適正な打込み状態を実現することができる。
言い換えると、本実施形態の釘打ち機1では、CPU181が、打込み動作が行われる度に、次の打込み動作のために適切な回転速度Nを自動的に設定する。これにより、使用者が打込み状態を確認しながらモータの回転速度を手動で設定する必要がなくなり、作業効率を向上することができる。モータ2の回転速度を手動で設定するための操作部材も不要であるため、余分なコスト増加も防止することができる。また、例えば、打込み不足を防止するためにモータの回転速度を過度に高く設定する必要をなくすことで、モータ2、前方ストッパ部117等の保護や、電力消費の抑制、立ち上がり時間の短縮化にも寄与している。特に、釘打ち機1は、充電式のバッテリ19を電源としているため、電力消費の抑制により、一度の充電で打込める釘101の数を増加でき、作業効率も向上することができる。
また、本実施形態では、打込み動作後のモータ2の回転速度N2が、打込み動作前のモータ2の回転速度N1に対応する所定の閾値よりも小さい場合、モータ2の回転速度Nが最高速度に設定される。同様に、打込み動作の後、次の打込み動作が行われることなく所定時間が経過した場合も、モータ2の回転速度Nが最高速度に設定される。更に、加速度センサ115によって検出された加速度が所定の閾値を超えた場合にも、モータ2の回転速度Nが最高速度に設定される。これらの場合はいずれも、大幅な打込み不足状態に対応している。よって、モータ2の回転速度Nを設定可能範囲における最大値とすることで、次に行われる打込み動作でドライバ3に供給される回転エネルギが不足するのを確実に防止することができる。
上記実施形態は単なる例示であり、本発明に係る打込み工具は、例示された釘打ち機1の構成に限定されるものではない。例えば、下記に例示される変更を加えることができる。なお、これらの変更は、これらのうちいずれか1つのみ、あるいは複数が、実施形態に示す釘打ち機1、あるいは各請求項に記載された発明と組み合わされて採用されうる。
打ち込み工具は、釘101以外の打込み材を打出す工具であってもよい。例えば、鋲、ピン、ステープル等を打出すタッカ、ステープルガンとして具現化されてもよい。また、フライホイール4の駆動源は、特にモータ2に限定されない。例えば、直流モータに代えて交流モータが採用されてもよい。
CPU181は、打込み動作1回毎ではなく、打込み動作が所定回数行われる度に、次の所定回数の打込み動作のための回転速度Nを設定してもよい。この場合、回転速度N2の平均値に基づいて、回転速度Nが設定されてもよい。
打込み動作前エネルギに対応する情報と、打込み動作後エネルギに対応する情報として、モータ2の回転速度N1、N2に代えて、例えば、打込み動作の前と後に夫々検出されたフライホイール4の回転速度が採用されてもよい。この場合、フライホイール4の回転速度の検出は、例えば、上記実施形態と同様、ホールセンサを用いて行われてもよい。モータ2またはフライホイール4の回転速度は、ホールセンサ以外のセンサ(例えば、光学式のセンサや接触式のセンサ)によって検出されてもよい。
図8に示すテーブル187の数値は、回転速度N1、回転速度N2、回転速度Nの対応関係を説明するための単なる例示であるため、フライホイール4の仕様に応じて、適宜、適切な数値が採用されうることはいうまでもない。また、回転速度N1、回転速度N2、回転速度Nの対応関係は、テーブル187以外の形式で記憶されていてもよい。また、テーブル187は、コントローラ18が不揮発性メモリを含む場合は、不揮発性メモリに記憶されていてもよいし、データを読み取り可能な外部の記憶媒体(例えば、SDカード、USBメモリ)に記録されていてもよい。なお、回転速度Nは、必ずしもテーブル187等の予め記憶された対応関係を参照して設定される必要はなく、打込み動作が行われる度に、打込み動作前エネルギに対応する情報と、打込み動作後エネルギに対応する情報とに基づいて算出されてもよい。
上記実施形態では、コンタクトアームスイッチ131およびトリガスイッチ141が、順序を問わず、両方ともオン状態とされることが、打込み動作の開始条件として規定されている。しかしながら、打込み動作の開始条件として、2つのスイッチがオン状態とされる順序が規定されていてもよい。また、打込み動作の開始条件が異なる複数の動作モードが用意され、CPU181は、それらのうち、使用者によって選択されたモードに従って、打込み動作の開始を判断してもよい。
上記実施形態では、CPU181は、打込み動作前エネルギに対応する情報および打込み動作後エネルギに対応する情報のみならず、加速度センサ115の検出結果に基づき、回転速度Nを設定している。しかしながら、加速度センサ115は省略されてもよい。
CPU181によって自動的に設定された回転速度Nを使用者に報知する方法は、LEDを含む速度表示部116に限られるものではなく、いかなる方法が採用されてもよい。例えば、液晶ディスプレイで回転速度Nを示す数値が表示されてもよい。ブザー等、音による報知が行われてもよい。回転速度N以外のモータ3の駆動条件に関する情報が報知されてもよい。例えば、回転速度Nが変更されたことが、LEDの点滅等で報知されてもよい。また、例えば、打込み動作後のモータ2の回転速度N2が閾値より小さい場合、打込み動作の後で次の打込み動作が行われることなく所定時間が経過した場合、または加速度が所定の閾値を超えた場合に、モータ2の回転速度Nが最高速度にリセットされたことが、通常の回転速度Nの報知とは別の色のLEDの点灯によって報知されてもよい。更に、モータ3の駆動条件のみならず、その他の釘打ち機1の動作状態に関する情報が報知されてもよい。例えば、加速度センサ115の検出結果に対応する情報(例えば、加速度が閾値を超えたこと)が報知されてもよい。なお、このような情報の報知は、必ずしも行われる必要はない。
上記実施形態では、コントローラ18は、CPU181等を含むマイクロコンピュータによって構成される例が挙げられているが、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuits)、FPGA(Field Programmable Gate Array)などのプログラマブル・ロジック・デバイスで構成されていてもよい。また、上記実施形態の打込み制御処理は、CPU181が、ROM182に記憶されたプログラムを実行することにより実現されればよい。釘打ち機1が不揮発性メモリを含む場合は、プログラムは、不揮発性メモリに記憶されていてもよい。あるいは、プログラムは、データを読み取り可能な外部の記憶媒体(例えば、SDカード、USBメモリ)に記録されていてもよい。上記実施形態および変形例の打込み制御処理は、複数の制御回路で分散処理されてもよい。
ドライバ3の形状や、ドライバ3を駆動するドライバ駆動機構400の構成は、適宜、変更可能である。例えば、ドライバ3のローラ当接部301において、傾斜部302は、側面視で全体が直線状に形成されていてもよいし、少なくとも一部が緩やかな円弧状に形成されていてもよい。つまり、傾斜部302の上面(押圧ローラ83との当接面)は、全体が平面であってもよいし、全体が湾曲面であってもよいし、一部が平面で一部が湾曲面であってもよい。また、傾斜部302の傾斜度合いは途中で変化していてもよい。傾斜部302はより長く設けられてもよい。ローラ当接部301は、後方に向けて厚みが漸増する傾斜部を複数含んでいてもよい。また、ドライバ駆動機構400に代えて、ドライバ3をフライホイール4に摩擦係合させることで、リング部材5を介することなく、フライホイール4からドライバ3に直接回転エネルギを伝達するように構成された駆動機構が採用されてもよい。また、フライホイール4の回転エネルギは、リング部材5以外の伝達部材(例えば、中間ローラ)を介してドライバ3に伝達されてもよい。
リング部材5と、ドライバ3およびフライホイール4との係合態様は、上記実施形態で例示された態様には限られない。例えば、リング部材5の数と、リング部材5に対応するドライバ3の係合溝308およびフライホイール4の係合溝47の数は、1であってもよいし、3以上であってもよい。また、例えば、外周係合部51および内周係合部53、並びに対応する係合溝308および係合溝47の形状、配置、数、係合位置等は、適宜変更が可能である。保持機構6のリング付勢部60およびストッパ66の構成は、何れも適宜変更可能である。
作動機構7は、ドライバ3を、初期位置に配置された初期状態から、フライホイール4の回転エネルギの伝達が可能な状態に移行させることが可能に構成されていればよく、その構成は適宜変更可能である。例えば、作動機構7は、ドライバ3を伝達位置に向けて前方へ押し出すのではなく、初期位置に配置されたドライバ3をフライホイール4に向けて付勢することで、フライホイール4とドライバ3とを、直接的または間接的に(例えば、リング部材5を介して)摩擦係合させるように構成されていてもよい。
上記実施形態の各構成要素と本発明の各構成要素の対応関係を以下に示す。釘打ち機1は、本発明の「打込み工具」の一例である。釘101は、本発明の「打込み材」の一例である。射出口123は、本発明の「射出口」の一例である。モータ2は、本発明の「モータ」の一例である。フライホイール4は、本発明の「フライホイール」の一例である。ドライバ3は、本発明の「ドライバ」の一例である。動作線Lは、本発明の「動作線」の一例である。CPU181は、本発明の「制御部」の一例である。回転数N1、N2は、夫々、本発明の「第1情報」、「第2情報」の一例である。ROM182は、本発明の「記憶部」の一例である。ホールセンサ203は、本発明の「第1センサ」の一例である。加速度センサ115は、本発明の「第2センサ」の一例である。速度表示部116は、本発明の「報知部」の一例である。
更に、本発明および上記実施形態の趣旨に鑑み、以下の構成(態様)が構築される。以下の構成のうちいずれか1つのみ、あるいは複数が、独立して、または実施形態およびその変形例に示す釘打ち機1あるいは各請求項に記載された発明と組み合わされて採用されうる。
[態様1]
前記第1情報、前記第2情報、および前記モータの回転速度は、予め互いに対応付けられてテーブルに格納され、記憶部に記憶されており、
前記制御部は、前記テーブルを参照して、前記回転速度を設定するように構成されている。
[態様2]
前記モータは、ブラシレスモータであって、
前記第1センサは、前記モータの回転位置を検出するように構成されたホールセンサである。
[態様3]
前記打込み工具は、充電式のバッテリを着脱可能なバッテリ装着部を更に備えている。
[態様4]
前記第2センサは、少なくとも前記モータおよび前記フライホイールを収容する工具本体、または、前記工具本体に連結されたハンドルに設けられている。
[態様5]
前記第2センサは、加速度センサであって、
前記制御部は、前記加速度が所定の閾値を超えた場合に、前記モータの回転速度を、設定可能範囲における最大値に設定するように構成されている。