JP2020005614A - 脂質および脂肪酸組成物の製造方法、ならびに脂肪酸組成物 - Google Patents

脂質および脂肪酸組成物の製造方法、ならびに脂肪酸組成物 Download PDF

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Abstract

【課題】パルミトレイン酸を高含有量で含有し、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)を抑制し、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)を抑制しない選択的抗菌剤、つまり表皮常在細菌叢のバランスを保つ抗菌剤として有用な、脂肪酸組成物を提供する。【解決手段】酵母の新規な形質転換株を作製し、該形質転換株が産生する脂質から、パルミトレイン酸を高含有量で含有し、かつ、炭素数が18で不飽和結合を1個有する脂肪酸(C18:1)(オレイン酸およびバクセン酸)の含有量の低い脂肪酸組成物を得る。【選択図】なし

Description

本発明は、新規な脂質および脂肪酸組成物の製造方法ならびに脂肪酸組成物に関し、さらには、該脂質および脂肪酸組成物の製造に有用なサッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)の新規な形質転換株、ならびに該脂肪酸組成物を含有する皮膚外用剤、医薬部外品および化粧品に関する。
アトピー性皮膚炎は、日本皮膚科学会ガイドラインによると、表皮、なかでも角層の異常に起因する皮膚の乾燥とバリアー機能異常という皮膚の生理学的異常を伴い、多彩な非特異的刺激反応および特異的アレルギー反応が関与して生じる、慢性に経過する炎症と掻痒をその病態とする湿疹・皮膚炎群の一疾患であるとされる。特に先進国では罹患率が高く、子供の15〜30%、成人の5%が罹患しているといわれる。
アトピー性皮膚炎は、アトピー素因(フィラグリン遺伝子等の変異、家族歴、アレルギー疾患の既往歴、IgE抗体を産生しやすい性質等)、表皮常在細菌叢のバランスの乱れ、栄養的要因(高リノール酸食用油やそれを素材とする食品等)、環境的要因(塵埃、ストレス、不規則な生活等)等の複合的な要因によって発症する。
近年、黄色ブドウ球菌がアトピー性皮膚炎患者の皮膚に高頻度で検出されること、アトピー性皮膚炎患者の炎症部で黄色ブドウ球菌が劇的に増加することが報告され(非特許文献1、2)、表皮の黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の異常増殖がアトピー性皮膚炎の増悪化の原因となっている可能性が示唆されている。これは、黄色ブドウ球菌が生産するプロテインA,δトキシンなどが免疫系を刺激して炎症の増悪化に関与しているためとされている。さらに、黄色ブドウ球菌が産生するV8プロテアーゼは、表皮のバリア機能を破壊することにより、この菌の皮膚内部への侵入を可能とし、アトピー性皮膚炎が増悪化することも解明されている(非特許文献3)。
それゆえ、アトピー性皮膚炎患者に対し、ムピロシン、フシジン酸等の外用、ジクロキサシリン、セファレキシン、エリスロマイシン等の内服等、抗生物質による治療も行われている。
しかしながら、上記のような抗生物質は、皮膚の常在細菌であり、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の増殖を阻害し、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の分泌物による炎症の憎悪に対し抑制作用を示す表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)までも殺菌してしまい、表皮常在細菌叢のバランスの乱れが改善されない可能性が高い。前記表皮ブドウ球菌は善玉菌であり、近年、化粧品業界等において、美肌菌として注目されている。
一方、アトピー性皮膚炎患者の皮脂中におけるサピエン酸((Z)−6−ヘキサデセン酸)の含有量が、健常者に比べて1/10程度に減少していることが報告され(非特許文献3)、サピエン酸の異性体であり、食経験もあるパルミトレイン酸((Z)−9−ヘキサデセン酸)が、黄色ブドウ球菌に対して抗菌活性を有することが報告される(特許文献1)に至って、パルミトレイン酸の皮膚外用剤における利用が検討されてきた。
しかし、食経験があり、安全性が確認されている植物油等で、パルミトレイン酸を多く含有するものは少なく、シーベリー(Hippophae rhamnoides)という植物の果肉に40重量%程度含有されているものの、シーベリーは栽培地域が限定されており、パルミトレイン酸の実用的な供給源として適するとはいえない。
また、マカダミアナッツ油には、パルミトレイン酸が約20重量%含まれるが、オレイン酸も50重量%以上含まれている。本発明者らは、オレイン酸が、パルミトレイン酸の黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性を阻害することを見出しており(特願2017−034097)、マカダミアナッツ油は実用的でない。
イワシ油にはパルミトレイン酸が約10重量%含まれ、精密蒸留などでエイコサペンタエン酸(EPA)エチルエステルを精製した後の副産物から、パルミトレイン酸エチルエステルとして精製することは可能であるが、動物由来の原料であり、植物志向の強い消費者には好まれないため、化粧品用途には適さない。
さらに、シーベリーの果肉油をはじめ、植物油等には、例えばリノール酸、リノレイン酸等、二重結合を2個以上有し、酸化安定性のよくない多価不飽和脂肪酸(二重結合を2個以上有する不飽和脂肪酸)が相当量含有されるため、植物油から得られた脂肪酸組成物については、酸化安定性に問題があり、皮膚外用剤等に利用するには好ましくない。
一方、出芽酵母(サッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae))のジアシルグリセロールトランスフェラーゼ遺伝子破壊株に、N末端欠失型のジアシルグリセロールトランスフェラーゼをコードする遺伝子を導入して形質転換することにより、脂質産生能を高め、さらにパルミトレイン酸含有量の高い脂質を産生させる技術も開示されている(特許文献2)。
しかし、特許文献2に開示されたサッカロミセス・セレビシェの形質転換株により産生される脂質は、パルミトレイン酸と同程度の量のオレイン酸を含有し、上記した理由から、黄色ブドウ球菌に対する選択的抗菌剤として利用するには適さなかった。
本発明者らは、以前に、上記特許文献2に記載された出芽酵母の形質転換株を用いて産生された脂質から、シュードザイマ(Pseudozyma)属またはモエスジオマイセス(Moesziomyces)属に属する微生物由来のリパーゼ等を用いて、sn−1,3位の脂肪酸を選択的に遊離させて、パルミトレイン酸含有量を高める技術を開示した(特願2017−034097)。
しかし、上記技術では、sn−1,3位の脂肪酸を遊離させて回収するため、理論収率は67%にとどまる。
また、本発明者らは、カンジダ(Candida)属に属する微生物由来のリパーゼの脂肪酸特異性を利用し、加水分解率が低い段階で加水分解反応を停止させて、パルミトレイン酸含有量を高める方法についても開示したが、この方法では、パルミトレイン酸の収率は低かった。
収率の点では、上記シュードザイマ(Pseudozyma)属またはモエスジオマイセス(Moesziomyces)属に属する微生物由来のリパーゼ等を用いる方法が好ましいが、脂肪酸はエチルエステルとして得られるため、遊離脂肪酸に鹸化分解する工程を必要とするものであった。
さらに、病院の集中治療室(ICU)などで働く労働者で、手洗いやアルコール消毒を繰り返す者では、41.2%〜52.9%の労働者において、手に黄色ブドウ球菌が検出されることが報告されている(非特許文献4、5)。
それゆえ、食品工場等の労働者や、家庭で家事に従事する者で、頻繁に手洗いや消毒を繰り返し、手荒れ等の肌荒れが見られる者の皮膚では、アトピー性皮膚炎患者と同様に、黄色ブドウ球菌が増殖している可能性が示唆される。
従って、アトピー性皮膚炎の症状の悪化を防止し、または症状を改善するためのみならず、皮膚の洗浄、消毒に起因する肌荒れの予防または改善のためにも、黄色ブドウ球菌の異常な増殖を防止または抑制し、表皮常在菌叢のバランスを正常な状態に維持、改善する必要性は高い。
国際公開第2011/011486号公報 特開2015−146778号公報
S. Higaki et al.; International J. Dermatology 38 265 (1999) H. H. Kong et al.; Genome Research 22 8505 (2012) Teruaki Nakatsuji et al.; Journal of Investigative Dermatology 136, 2192-2200 (2016) H. Takigawa et al.; Dermatology 211 240 (2005) M. Rosenthal et al.;Pathogens 3 1-13 (2014) P. Horn et al.;Scand. J. Clin. Lab. Invest. 67 165-177 (2007)
そこで、本発明は、パルミトレイン酸を高含有量で含有し、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)を抑制し、表皮ブドウ球菌を抑制しない選択的抗菌剤、つまり表皮常在細菌叢のバランスを保つ抗菌剤として有用な、脂肪酸組成物を提供することを目的とした。
本発明者らは、パルミトレイン酸の皮膚外用剤への利用を検討する過程で、オレイン酸に加えてバクセン酸といった炭素数が18で、二重結合を1個有する脂肪酸が、パルミトレイン酸の抗菌活性を阻害することを見出した。そして、上記課題を解決すべくさらに検討した結果、パルミトレイン酸を高含有量で含有し、かつ、炭素数が18で、二重結合を1個有する脂肪酸(オレイン酸およびバクセン酸)の含有量の低い脂肪酸組成物が、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に対する選択的抗菌剤として有効であることを見出し、さらに、前記脂肪酸組成物の製造に好適に用い得る酵母の新規形質転換株を得ることに成功し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下に関する。
[1]脂質産生能を有するサッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)の形質転換株であって、染色体上のジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGA1)遺伝子およびΔ9不飽和化酵素(OLE1)遺伝子、またはジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGA1)遺伝子、タンパク質ホスファターゼメチルトランスフェラーゼ1(PPM1)遺伝子およびΔ9不飽和化酵素(OLE1)遺伝子が破壊されまたは機能低下しており、さらに、ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ遺伝子、パルミトレイン酸合成特異的Δ9不飽和化酵素遺伝子、チトクロームb遺伝子が過剰に発現されている形質転換株。
[2]過剰に発現されているジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ遺伝子が、サッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)のジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼのN末端を欠損しているタンパク質をコードする遺伝子である、[1]に記載の形質転換株。
[3]過剰に発現されているパルミトレイン酸合成特異的Δ9不飽和化酵素遺伝子が、カエノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)のΔ9不飽和化酵素(cFAT5)遺伝子またはマウスのΔ9不飽和化酵素(mSCD3)遺伝子である、[1]または[2]に記載の形質転換株。
[4]過剰に発現されているチトクロームb遺伝子が、サッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)のチトクロームb(CYB5)遺伝子である、[1]〜[3]のいずれかに記載の形質転換株。
[5]さらにロイシン合成酵素(LEU2)遺伝子が過剰に発現されている、[1]〜[4]のいずれかに記載の形質転換株。
[6]脂質中の脂肪酸残基の総量あたり、パルミトレイン酸を55重量%以上含有し、かつ炭素数が18で不飽和結合を1個有する脂肪酸(C18:1)(オレイン酸およびバクセン酸)をこれらの合計で10重量%以下含有する脂質を産生し得る形質転換株である、[1]〜[5]のいずれかに記載の形質転換株。
[7][1]〜[6]のいずれかに記載のサッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)の形質転換株を、メチオニン存在下で培養すること、および、培養した細胞から脂質を採取することを含む、脂質の製造方法。
[8]脂質が、脂質中の脂肪酸残基の総量あたり、パルミトレイン酸を55重量%以上含有し、かつ炭素数が18で不飽和結合を1個有する脂肪酸(C18:1)(オレイン酸およびバクセン酸)をこれらの合計で10重量%以下含有する脂質である、[7]に記載の製造方法。
[9][7]または[8]に記載の製造方法により製造された脂質を遊離脂肪酸に変換することを含む、脂肪酸組成物の製造方法。
[10]脂肪酸組成物が、パルミトレイン酸を55重量%以上含有し、かつ、炭素数が18で不飽和結合を1個有する脂肪酸(C18:1)(オレイン酸およびバクセン酸)をこれらの合計で10重量%以下含有する脂肪酸組成物である、[9]に記載の製造方法。
[11]脂肪酸組成物が、パルミトレイン酸を60重量%以上含有する脂肪酸組成物である、[10]に記載の製造方法。
[12]パルミトレイン酸を55重量%以上含有し、かつ、炭素数が18で不飽和結合を1個有する脂肪酸(C18:1)(オレイン酸およびバクセン酸)をこれらの合計で10重量%以下含有する、脂肪酸組成物。
[13]パルミトレイン酸の含有量が60重量%以上である、[12]に記載の組成物。
[14]多価不飽和脂肪酸を1重量%以下含有する、[12]または[13]に記載の組成物。
[15][12]〜[14]のいずれかに記載の組成物を含有する、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に対する選択的抗菌剤。
[16][12]〜[14]のいずれかに記載の組成物を含有する、皮膚外用剤。
[17][12]〜[14]のいずれかに記載の組成物を含有する、医薬部外品。
[18][12]〜[14]のいずれかに記載の組成物を含有する、化粧品。
本発明により、パルミトレイン酸を高含有量で含有し、かつ、パルミトレイン酸の抗菌活性を低下させる炭素数が18で、二重結合を1個有する脂肪酸(オレイン酸およびバクセン酸)の含有量の低い脂肪酸組成物を製造する上で、有用な酵母の新規形質転換株を得ることができる。
上記形質転換株を用いることにより、上記脂肪酸組成物の製造に好適な脂質を得ることができ、上記脂肪酸組成物を効率よくかつ簡便に得ることができる。
本発明の脂肪酸組成物は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に対し、選択的な抗菌活性を有し、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)を抑制し、表皮ブドウ球菌を抑制しない選択的抗菌剤、つまり表皮常在細菌叢のバランスを保つ抗菌剤として、特にアトピー性皮膚炎の症状の悪化を防止し、またはアトピー性皮膚炎の症状を改善するための皮膚外用剤、医薬部外品または化粧品として、好適に利用され得る。
また、本発明の脂肪酸組成物は、アトピー性皮膚炎のみならず、家事や職務上の皮膚の洗浄、消毒等により生じる手荒れ等の肌荒れを予防または改善するための皮膚外用剤、医薬部外品または化粧品としても、好適に利用され得る。
図1は、試験例4において、パルミトレイン酸の抗菌活性に対するオレイン酸の阻害作用を示す図である。 図2は、試験例4において、パルミトレイン酸の抗菌活性に対するバクセン酸の阻害作用を示す図である。
本発明は、脂質産生能を有するサッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)の新規な形質転換株(以下、本明細書において「本発明の形質転換株」ということがある)を提供する。
本発明の形質転換株は、脂質産生能を有するサッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)の形質転換株であって、染色体上のジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGA1)遺伝子およびΔ9不飽和化酵素(OLE1)遺伝子、またはジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGA1)遺伝子、タンパク質ホスファターゼメチルトランスフェラーゼ1(PPM1)遺伝子およびΔ9不飽和化酵素(OLE1)遺伝子が破壊されまたは機能低下しており、さらに、ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ遺伝子、パルミトレイン酸合成特異的Δ9不飽和化酵素遺伝子、チトクロームb遺伝子が過剰に発現されている。
脂質産生能を有するサッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)としては、サッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)に属する酵母であれば、天然のパン酵母、ワイン酵母などを含めどのような酵母を用いてもよいが、形質転換効率の高さや扱いやすさを考慮すると、樹立された培養株であって形質転換用親株として広く用いられている栄養要求性等の選択マーカーを有する実験室酵母標準株、または当該株を用いた形質転換株を用いることが好ましい。典型的な栄養要求性の標準株としてはBY4741株、S288C株、W303株などがあり、これらの標準株を宿主として脂質産生能を増強させる遺伝子操作を行った形質転換株を用いることが特に好ましい。
ここで、「脂質」とは、水に不溶で有機溶媒に可溶であって、かつ脂肪酸が共有結合した化合物をいい、主要な脂質としてトリアシルグリセロール(トリグリセリド)が挙げられる。
染色体上のジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGA1)遺伝子、Δ9不飽和化酵素(OLE1)遺伝子、タンパク質ホスファターゼメチルトランスフェラーゼ1(PPM1)遺伝子の破壊または機能低下とは、これら遺伝子の発現が恒常的に阻害され、または発現が抑制されていることをいう。
上記した標準株またはその形質転換株において、染色体上のジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGA1)遺伝子およびΔ9不飽和化酵素(OLE1)遺伝子、またはジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGA1)遺伝子、タンパク質ホスファターゼメチルトランスフェラーゼ1(PPM1)遺伝子およびΔ9不飽和化酵素(OLE1)遺伝子を破壊し、または機能低下させる方法としては、サッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)において、遺伝子を破壊または機能低下させる一般的な方法を用いることができるが、好ましくは、神坂ら(特開2014−054239号公報)に記載された方法により行うことができる。
たとえば、マーカー遺伝子の両端に、破壊しようとする対象遺伝子の上流域、下流域の配列を付加したDNAを作成し、該DNAを用いて宿主を形質転換することにより、導入したDNAが、破壊しようとする遺伝子の上流と下流域部分で、相同的組み替えを起こし、対象遺伝子を破壊することができる。対象遺伝子が破壊された変異株は、マーカー遺伝子の発現による形質変化により識別することができる。
また、上記破壊対象遺伝子を単離した後、適切な制限酵素で切断し、該切断部位にマーカー遺伝子を挿入して得た断片を用いて形質転換する方法、マーカー遺伝子を、破壊対象遺伝子の一部を含むプライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅し、形質転換する方法、突然変異剤等によりランダム変異を生じさせて、対象遺伝子が変異したものをスクリーニングする方法等を用いることができる。
マーカー遺伝子としては、アミノ酸等の栄養要求性変異を相補する遺伝子や、抗生物質薬剤耐性遺伝子等が挙げられるが、サッカロミセス・セレビシェのロイシン要求性変異を相補する遺伝子で、ロイシン合成に必要な3−イソプロピルリンゴ酸脱水素酵素をコードするLEU2遺伝子、またはそれと相同性を有する他の生物の遺伝子をマーカーとするベクターを含むことが好ましい。何種類かのプラスミドを共存させる場合は、LEU2以外のマーカー遺伝子は、発現させる微生物の形質転換株が選別できるのであれば、どのようなものを用いてもよいが、たとえば、ウラシル合成酵素をコードするURA3遺伝子等が挙げられる。LEU2をマーカー遺伝子として使用しない場合は、LEU2あるいはロイシン合成経路の他の酵素遺伝子及び他の生物でのこれらと相同性を有する遺伝子を、他のマーカー遺伝子をもつベクターで発現させることにより、脂質生産性の向上に寄与し得る。
ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ遺伝子、パルミトレイン酸合成特異的Δ9不飽和化酵素遺伝子、チトクロームb遺伝子が過剰発現されている、とは、これら遺伝子の発現が形質転換前のサッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)に比べて増強され、これら遺伝子によりコードされるタンパク質の発現が増加していることをいう。
本発明の目的には、ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ遺伝子としては、好ましくは、サッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)のジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGA1p)のN末端を欠損しているタンパク質、より好ましくは、N末端側の2番目から37番目までのいずれかのアミノ酸配列が欠損しているタンパク質、さらに好ましくは、N末端側の2番目から29番目ないし37番目のいずれかのアミノ酸までの配列が欠損しているタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。
パルミトレイン酸合成特異的Δ9不飽和化酵素遺伝子としては、パルミトレイン酸を特異的に合成し得るΔ9不飽和化酵素をコードする遺伝子であり、線虫の1種であるカエノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)のパルミトレイン酸合成特異的Δ9不飽和化酵素(cFAT5)をコードする遺伝子、またはマウスのパルミトレイン酸合成特異的Δ9不飽和化酵素(mSCD3)をコードする遺伝子が好ましい。
チトクロームb遺伝子としては、サッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)のチトクロームb(CYB5)をコードする遺伝子等が好ましく用いられる。
上記したジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ遺伝子、パルミトレイン酸合成特異的Δ9不飽和化酵素遺伝子、チトクロームb遺伝子を過剰に発現させるには、通常のサッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)の形質転換方法に従って、染色体上のジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGA1)遺伝子およびΔ9不飽和化酵素(OLE1)遺伝子、またはジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGA1)遺伝子、タンパク質ホスファターゼメチルトランスフェラーゼ1(PPM1)遺伝子およびΔ9不飽和化酵素(OLE1)遺伝子が破壊され、または機能が低下されたサッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)の標準株またはその形質転換株の形質転換を行う。
上記形質転換は、ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ遺伝子、パルミトレイン酸合成特異的Δ9不飽和化酵素遺伝子、チトクロームb遺伝子を、染色体外で複製するベクター中に組み込んで行ってもよく、染色体内に組み込まれるベクター中に組み込んで行ってもよいが、前記遺伝子を組み込んだプラスミドを用いて行うことが好ましい。
脂質生産性の観点からは、上記したように、さらにロイシン合成酵素をコードするLEU2遺伝子が過剰に発現されていることが好ましい。
上記したサッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)の形質転換株、すなわち、染色体上のジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGA1)遺伝子およびΔ9不飽和化酵素(OLE1)遺伝子、またはジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGA1)遺伝子、タンパク質ホスファターゼメチルトランスフェラーゼ1(PPM1)遺伝子およびΔ9不飽和化酵素(OLE1)遺伝子が破壊されまたは機能低下しており、さらに、ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ遺伝子、パルミトレイン酸合成特異的Δ9不飽和化酵素遺伝子、チトクロームb遺伝子が過剰発現されているサッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)の新規な形質転換株は、後述するパルミトレイン酸を高含有量で含有し、かつ、炭素数が18で不飽和結合を1個有する脂肪酸(C18:1)(オレイン酸およびバクセン酸)を実質的に含有しない脂質を産生する能力を有する。
従って、本発明は、上記したサッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)の新規な形質転換株を用いて、脂質を製造する方法(以下、本明細書において「本発明の脂質の製造方法」とも称する)を提供する。
本発明の脂質の製造方法は、上記した新規な形質転換株を、メチオニン存在下で培養すること、および、培養した細胞から脂質を採取することを含む。
サッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)の新規な形質転換株の培養は、神坂ら(特開2014−054239号公報)に記載された方法に従って行うことができる。
たとえば、SD培地等を用いて、15℃〜30℃、好ましくは18℃〜27℃にて、7日間〜14日間、好ましくは7日間〜10日間培養することができる。
なお、上記形質転換株として、メチオニン要求性のBY4741株等を標準株として用いて形質転換したものが好ましいため、上記培養はメチオニンの存在下で行うことが好ましく、0.02g/L〜4g/Lの濃度のメチオニン存在下で行うことがより好ましい。
サッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)の新規な形質転換株を、上記した培地および培養条件等にて培養することにより、菌体内に脂質が蓄積される。本発明の脂質の製造方法においては、培養された菌体を、遠心分離や限外ろ過等により回収し、超音波破砕法等によりクロロホルム、メタノール等の有機溶媒中で破砕し、クロロホルム、メタノール等の有機溶媒により、産生された脂質を抽出し、分離、精製することができる。
本発明の製造方法により製造される脂質は、パルミトレイン酸を高含有量にて含有し、かつ、炭素数が18で不飽和結合を1個有する脂肪酸(C18:1)(オレイン酸およびバクセン酸)の含有量が10重量%以下である。
ここで、「パルミトレイン酸を高含有量にて含有し」とは、脂質の構成成分として含有される脂肪酸残基として、パルミトレイン酸を多量に含有することをいい、具体的には、上記脂質における脂肪酸残基の総量あたり、パルミトレイン酸の含有量は55重量%以上であり、好ましくは60重量%以上である。
ここで、パルミトレイン酸は、9位に二重結合を1個有する炭素数16の不飽和脂肪酸((Z)−9−ヘキサデセン酸))である。
なお、本発明の製造方法において使用するサッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)の形質転換株の脂質産生能等を考慮すると、本発明の製造方法により産生される脂質におけるパルミトレイン酸の含有量は、通常80重量%以下である。
また、本発明の製造方法により製造される脂質では、炭素数が18で不飽和結合を1個有する脂肪酸(C18:1)(オレイン酸およびバクセン酸)の含有量が低減されており、これらの含有量は合計で、脂質中の脂肪酸残基の総量あたり10重量%以下であり、好ましくは6重量%以下であり、より好ましくは、3.5重量%以下である。
ここで、オレイン酸は、9位に二重結合を1個有する炭素数18の不飽和脂肪酸((Z)−9−オクタデセン酸)、18:1(n−9))であり、バクセン酸は、11位に二重結合を1個有する炭素数18の不飽和脂肪酸((Z)−11−オクタデセン酸)、18:1(n−7))である。
なお、本発明の製造方法において使用するサッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)の形質転換株に導入されたΔ9不飽和化酵素遺伝子の機能等を考慮すると、本発明の製造方法により産生される脂質には、炭素数が18で不飽和結合を1個有する脂肪酸(C18:1)(オレイン酸およびバクセン酸)は、若干量、たとえば脂質中の脂肪酸残基の総量あたり、少なくとも0.4重量%程度含有され得る。
本発明は、また、上記した本発明の脂質の製造方法により製造された脂質を遊離脂肪酸に分解することを含む、脂肪酸組成物の製造方法(以下、本明細書において「本発明の脂肪酸組成物の製造方法」とも称する)を提供する。
本発明の脂質の製造方法により製造された脂質を遊離脂肪酸に分解する方法としては、主としてトリアシルグリセロールから脂肪酸を遊離させることができる方法であれば、特に限定されず、鹸化、酵素(リパーゼ)による加水分解等が挙げられる。
鹸化は、自体公知の方法、条件等により行うことができ、たとえば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基を用いて、通常40℃〜90℃にて5分間〜60分間、好ましくは50℃〜75℃にて10分間〜30分間反応させる。
本発明の脂質の製造方法により製造される脂質において、後述するように、脂肪酸の結合部位には特に位置特異性は存在しないため、リパーゼとしては、グリセロールと遊離脂肪酸とのエステル結合を切断し得るリパーゼであれば、その基原等は問わないが、好ましくは膵臓リパーゼおよび、カンジダ(Candida)属、ジウティナ(Diutina)属、シュードザイマ(Pseudozyma)属、モエスジオマイセス(Moesziomyces)属、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、バークホルデリア(Burkholderia)属、クモノスカビ(Rhizopus)属、リゾムコール(Rhizomucor)属、サーモミセス(Thermomyces)属等に属する微生物由来のリパーゼを用いることができる。
本発明においては、リパーゼは、遊離型のリパーゼであってもよく、樹脂等の担体に結合させたり、マイクロカプセルまたはリポソームに内包させたりして、固定化されたものであってもよい。
本発明においては、各社より提供されている市販のリパーゼを用いることができる。
リパーゼの添加量としては、基質であるトリグリセリド100重量部に対し、通常0.01重量部〜10重量部であり、好ましくは0.03重量部〜1.5重量部である。遊離型の酵素の場合は、水系での反応であり、トリグリセリドに対して添加する水の量は、好ましくは0.01重量%〜99重量%、より好ましくは5重量%〜95重量%である。固定化酵素の場合は、水を添加しても、しなくてもよい。
また、リパーゼによる加水分解は、通常10℃〜60℃にて5分間〜24時間、好ましくは30℃〜40℃にて10分間〜120分間、通常pH=4〜9、好ましくはpH=5〜7にて行う。
また、特に緩衝液等でpHを調整しなくてもよく、水と脂質とリパーゼを混合するだけでもよい。
リパーゼによる加水分解反応を停止させるには、加熱による失活、エタノールやメタノールなどの短鎖アルコールによる失活、静置や遠心分離による油水分離等を行うことが好ましい。固定化酵素の場合は、静置や濾過により固定化酵素を除くだけでよい。未反応のトリグリセリドは、反応液に水酸化カリウム水溶液等のアルカリ剤を加え、遊離脂肪酸を鹸化して水層に移行させた後、n−ヘキサン等の非極性有機溶媒により抽出する等して、除去することができる。
上記鹸化、リパーゼによる加水分解等により遊離された脂肪酸は、(1)シリカゲルカラム等によるカラムクロマトグラフィーによる分離、(2)反応液に水酸化カリウム水溶液等のアルカリ剤を加えて、遊離脂肪酸を鹸化して水層に移行させた後、n−ヘキサン等の低極性有機溶媒による抽出等により未反応のトリグリセリドを除去し、水層に塩酸等の酸を添加して酸性とした後、n−ヘキサン等の低極性有機溶媒で抽出し、溶媒を蒸発させて除去する方法、(3)油水分離等により水を除去した後、蒸留により遊離脂肪酸を回収する方法等、通常の方法により回収することができる。
本発明の脂肪酸の製造方法における各工程においては、本発明の特徴を損なわない範囲で、適宜必要に応じて、再結晶、各種クロマトグラフィー等の精製手段、ろ過、遠心分離等の固液分離手段等を用いることができる。
上記した本発明の脂肪酸の製造方法により、パルミトレイン酸を55重量%以上含有し、炭素数が18で不飽和結合を1個有する脂肪酸(C18:1)(オレイン酸およびバクセン酸)を、これらの合計で10重量%以下含有する脂肪酸組成物を製造することができる。
従って、本発明は、パルミトレイン酸を、55重量%以上含有し、炭素数が18で不飽和結合を1個有する脂肪酸(C18:1)(オレイン酸およびバクセン酸)を、これらの合計で10重量%以下含有する脂肪酸組成物(以下、本明細書において「本発明の脂肪酸組成物」ともいう)を提供する。
本発明の脂肪酸組成物は、パルミトレイン酸を好ましくは60重量%以上含有し、より好ましくは65重量%以上含有する。
また、上記した本発明の製造方法における遊離脂肪酸への変換効率等を考慮すると、本発明の脂肪酸組成物におけるパルミトレイン酸の含有量は、通常80重量%以下である。
本発明の脂肪酸組成物は、パルミトレイン酸の他に、炭素数10〜20程度の飽和または不飽和脂肪酸を含有していてもよいが、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に対する選択的抗菌活性の観点からは、炭素数が18で不飽和結合を1個有する脂肪酸(C18:1)(オレイン酸およびバクセン酸)がパルミトレイン酸の抗菌活性に抑制的に作用することから、炭素数が18で不飽和結合を1個有する脂肪酸(C18:1)(オレイン酸およびバクセン酸)の含有量はこれらの合計で、10重量%以下であり、6重量%以下であることが好ましく、3.5重量%以下であることがより好ましい。
また、本発明の製造方法において使用するサッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)の形質転換株に導入されたΔ9不飽和化酵素遺伝子の機能等を考慮すると、本発明の脂肪酸組成物には、炭素数が18で不飽和結合を1個有する脂肪酸(C18:1)(オレイン酸およびバクセン酸)は、若干量、たとえば、これらの合計で、少なくとも0.4重量%程度含有される。
さらに、本発明の脂肪酸組成物は、酸素に対して不安定であり、皮膚外用剤等として製剤化する際に、安定性等品質に悪影響を及ぼすおそれのあるリノール酸((9Z,12Z)−9,12−オクタデカジエン酸)、α−リノレン酸((9Z,12Z,15Z)−9,12,15−オクタデカトリエン酸)、γ−リノレン酸((6Z,9Z,12Z)−6,9,12−オクタデカトリエン酸)等の多価不飽和脂肪酸を実質的に含有しないことが好ましい。
ここで、「多価不飽和脂肪酸を実質的に含有しない」とは、上記多価不飽和脂肪酸の通常の分析方法、たとえばガスクロマトグラフィーによる定量方法等により、上記多価不法脂肪酸が検出されない、すなわち検出限界(0.1重量%)以下であることをいう。
本発明の脂肪酸組成物は、上記の通り、融点が−1℃であるパルミトレイン酸を55重量%以上含有し、長鎖の飽和脂肪酸の含有量が少ないことから、通常20℃で液状を呈する。
本発明の脂肪酸組成物は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に対して選択的抗菌活性を有するパルミトレイン酸の含有量が高く(脂肪酸組成物の全量に対し55重量%以上)、パルミトレイン酸の前記選択的抗菌活性を阻害する炭素数が18で不飽和結合を1個有する脂肪酸(C18:1)(オレイン酸およびバクセン酸)の含有量が低い(これらの合計で10重量%以下)ため、アトピー性皮膚炎の増悪化に関与する黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の生育を抑制するが、健常な皮膚の常在細菌である表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)の生育は抑制せず、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)を減少させるおそれが少ない。
従って、本発明の脂肪酸組成物は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に対する選択的抗菌剤として有用であり、皮膚の常在細菌叢を健常な状態に維持し、または改善して、アトピー性皮膚炎の症状の悪化を防止し、またはアトピー性皮膚炎の症状を改善する上で有効な皮膚外用剤、医薬部外品、化粧品等として、あるいは、家事や職務上の皮膚の洗浄、消毒等により生じる肌荒れを予防または改善する上で有効な皮膚外用剤、医薬部外品、化粧品等として、好ましく利用することができる。
よって、本発明は、本発明の脂肪酸組成物を含有する、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に対する選択的抗菌剤(以下、本明細書において、「本発明の抗菌剤」とも称する)を提供する。
本発明の抗菌剤は、本発明の脂肪酸組成物に、必要に応じて、製剤の分野で用いられる一般的な添加剤を加えて、製剤の分野で周知の製剤化手段、たとえば第十七改正日本薬局方製剤総則[3]製剤各条に記載された方法等により、調製することができ、油状;懸濁液状、乳液状等の液状;ゲル状、ペースト状、クリーム状等の半固形状;粉末状、顆粒状、タブレット状、カプセル状等の固形状等の形態とすることができる。
本発明の目的には、本発明の抗菌剤は、皮膚に外用され得る形態とすることが好ましい。
上記添加剤としては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、被覆剤、基剤、溶剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、安定化剤、粘稠剤、pH調整剤、抗酸化剤、防腐剤、保存剤、矯味剤、甘味剤、香料、着色剤等が挙げられる。
賦形剤としては、無水ケイ酸、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、デンプン(トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、コムギデンプン等)、糖類(ブドウ糖、乳糖、白糖等)、糖アルコール(ソルビトール、マルチトール、マンニトール等)が挙げられる。
結合剤としては、ゼラチン、カゼインナトリウム、デンプン(ヒドロキシプロピルスターチ、アルファー化デンプン、部分アルファー化デンプン等)、セルロースおよびその誘導体(結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース等)等が挙げられる。
崩壊剤としては、ポビドン、クロスポビドン、セルロースおよびその誘導体(結晶セルロース、メチルセルロース等)等が挙げられる。
滑沢剤としては、タルク、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等が挙げられる。
被覆剤としては、メタクリル酸共重合体(メタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体等)、メタクリレート共重合体(アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル共重合体、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル・メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル共重合体等)等が挙げられる。
基剤としては、炭化水素(流動パラフィン等)、ポリエチレングリコール(マクロゴール400、マクロゴール1500等)等が挙げられる。
溶剤としては、精製水、一価アルコール(エタノール等)、多価アルコール(プロピレングリコール、グリセリン等)等が挙げられる。
乳化剤としては、非イオン性界面活性剤(ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等)、陰イオン性界面活性剤(アルキル硫酸ナトリウム、N−アシルグルタミン酸塩等)、精製大豆レシチン等が挙げられる。
分散剤としては、アラビアゴム、アルギン酸プロピレングリコール、非イオン性界面活性剤(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等)、陰イオン性界面活性剤(アルキル硫酸ナトリウム等)等が挙げられる。
懸濁化剤としては、アルギン酸ナトリウム、非イオン性界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等)等が挙げられる。
安定化剤としては、アジピン酸、エチレンジアミン四酢酸塩(エチレンジアミン四酢酸カルシウム二ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム等)、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン等が挙げられる。
粘稠剤としては、水溶性高分子(ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー等)、多糖類(アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム、トラガント等)等が挙げられる。
pH調整剤としては、塩酸、リン酸、酢酸、クエン酸、乳酸、水酸化ナトリウム、リン酸水素ナトリウム等が挙げられる。
抗酸化剤としては、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、dl−α−トコフェロール、エリソルビン酸、没食子酸プロピル等が挙げられる。
防腐剤としては、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸エステル(パラオキシ安息香酸メチル等)等が挙げられる。
また、保存剤としては、安息香酸、安息香酸ナトリウム、ソルビトール、パラオキシ安息香酸エステル(パラオキシ安息香酸メチル等)、プロピレングリコール等が挙げられる。
矯味剤としては、アスコルビン酸、エリスリトール、5’−グアニル酸二ナトリウム、クエン酸、L−グルタミン酸ナトリウム、酒石酸、DL−リンゴ酸等が挙げられる。
また、甘味剤としては、アスパルテーム、カンゾウエキス、サッカリン等が挙げられる。
香料としては、オレンジエッセンス、l−メントール、d−ボルネオール、バニリン、リナロール等が挙げられる。
着色剤としては、タール色素(食用赤色2号、食用青色1号、食用黄色4号等)、無機顔料(ベンガラ、黄色三二酸化鉄、酸化チタン等)、天然色素(アナトー色素、ウコン色素、カロテノイド等)等が挙げられる。
上記した添加剤は、必要に応じて、1種または2種以上を用いることができる。
本発明の抗菌剤における、本発明の脂肪酸組成物の含有量としては、本発明の抗菌剤の全量に対するパルミトレイン酸の含有量として、通常0.001重量%〜10重量%であり、0.005重量%〜5重量%であることが好ましく、0.01重量%〜0.5重量%であることがより好ましい。
本発明の抗菌剤の適用量は、本発明の抗菌剤が適用される対象(以下、本明細書において「適用対象」ともいう)の種別、性別、年齢、皮膚の状態、本発明の抗菌剤の剤形、適用経路等により適宜決定されるが、適用対象がヒト成人であり、外用により適用する場合、パルミトレイン酸の適用量として、1回あたり通常0.02μg/cm〜200μg/cmであり、好ましくは、0.1μg/cm〜50μg/cmであり、より好ましくは、0.2μg/cm〜10μg/cmである。
上記の量は、1日に1回〜数回、適用することができる。
本発明の抗菌剤の適用期間は、適用対象において観察される皮膚の状態(皮膚常在細菌叢のバランスの状態)等により適宜決定されるが、通常1日間〜30日間であり、好ましくは3日間〜15日間である。
なお、本発明の抗菌剤は、安全性の確認された酵母等の脂質より得られるパルミトレイン酸を有効成分とするため安全性が高く、連続した適用に適する。
本発明の抗菌剤の適用対象となる動物(以下、本明細書において「対象動物」ともいう)としては、哺乳動物(ヒト、サル、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ウマ、ロバ、ブタ、ヒツジ等)等が挙げられる。なお、本発明の抗菌剤をヒト以外の対象動物に適用する場合、本発明の抗菌剤の適用量は、対象動物の種類、性別、体重、皮膚の状態等に応じて適宜設定すればよい。
本発明の抗菌剤は、皮膚常在細菌叢のバランスの乱れを正常な状態に改善し、または皮膚常在細菌叢のバランスを正常な状態に維持して、アトピー性皮膚炎の症状の悪化の防止、またはアトピー性皮膚炎の症状の改善に有効であり、アトピー性皮膚炎患者またはアトピー性皮膚炎の症状を呈する動物に対し、好適に適用することができる。
また、本発明の抗菌剤は、アトピー性皮膚炎患者のみならず、家事や職務上、皮膚の洗浄、消毒等を行う頻度が高く、手荒れ等、肌荒れ症状を呈するおそれのある者または肌荒れ症状を呈する者においても、肌荒れ症状を予防しまたは改善するために好適に適用され得る。
本発明はまた、本発明の脂肪酸組成物を含有する皮膚外用剤(以下、本明細書において「本発明の皮膚外用剤」ともいう)を提供する。
ここで、「皮膚外用剤」とは、皮膚の病変部位に外用にて適用される医薬品をいうが、皮膚を通して有効成分を循環血流に送達させることを目的とした経皮吸収型製剤も含まれる。
本発明の皮膚外用剤は、本発明の脂肪酸組成物に、必要に応じて、皮膚外用剤の製造に際して用いられる一般的な添加剤を加えて、外用散剤等の外用固形剤;リニメント剤、ローション剤(液剤、乳濁液剤、懸濁液剤等)等の外用液剤;外用エアゾール剤、ポンプスプレー剤等のスプレー剤;油脂性軟膏剤、水溶性軟膏剤等の軟膏剤;水中油型または油中水型のクリーム剤;水性ゲル剤、油性ゲル剤等のゲル剤;テープ剤、パップ剤等の貼付剤等の剤形で提供することができる。
本発明の皮膚外用剤は、一般的な皮膚外用剤の製造方法、たとえば、第十七改正日本薬局方製剤総則[3]製剤各条の「11.皮膚などに適用する製剤」の項に記載された方法に従って、製造することができる。
本発明の皮膚外用剤には、上記した賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、基剤、溶剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、安定化剤、粘稠剤、pH調整剤、抗酸化剤、防腐剤、保存剤、香料、着色剤等の1種または2種以上を用いることができる。
また、本発明の皮膚外用剤には、本発明の特徴を損なわない範囲で、イブプロフェンピコナール、スプロフェン、ブフェキサマク、ベンダザック、ウフェナマート、グリチルレチン酸等の非ステロイド性抗炎症薬;酪酸クロベタゾン等の副腎皮質ステロイド;フシジン酸ナトリウム、ムピロシン等の抗生物質;タクロリムス水和物等の免疫調整外用薬等を含有させることができる。
本発明の皮膚外用剤における、本発明の脂肪酸組成物の含有量は、本発明の抗菌剤について上記した含有量と同様である。
本発明の皮膚外用剤は、アトピー性皮膚炎患者またはアトピー性皮膚炎の症状を呈する動物に対し、炎症の悪化の防止または症状の改善のために、好適に適用することができる。
また、本発明の皮膚外用剤は、皮膚の洗浄、消毒等に起因する手荒れ等、肌荒れ症状を呈するおそれのある者または肌荒れ症状を呈する者においても、肌荒れ症状を予防しまたは改善するために、好適に適用することができる。
本発明の皮膚外用剤の1日あたりの適用量および適用期間は、本発明の皮膚外用剤の適用対象の種別、性別、年齢、皮膚症状の程度、本発明の皮膚外用剤の剤形等により適宜決定される。たとえば、ヒト成人の場合、パルミトレイン酸の適用量として、本発明の抗菌剤について上述した適用量と同程度の量となるように適用することができ、本発明の抗菌剤について上記した回数及び期間にて適用することができる。
さらに本発明は、本発明の脂肪酸組成物を含有する医薬部外品、特に皮膚外用医薬部外品(以下、本明細書において「本発明の医薬部外品」ともいう)または化粧品(以下、本明細書において「本発明の化粧品」ともいう)を提供する。
ここで、「医薬部外品」とは、医薬品よりは人体等に対する効果が緩和であるが、何らかの改善効果を有するものをいい、特に皮膚に外用される医薬部外品を「皮膚外用医薬部外品」という。いわゆる薬用化粧品は、皮膚外用医薬部外品に含まれる。
また、「化粧品」とは、身体を清潔にしたり、見た目を美しくしたりする目的で、皮膚等に適用されるもので、作用の緩和なものをいう。
本発明の医薬部外品または化粧品は、上記した本発明の皮膚外用剤に準じて製造することができ、化粧水、美容液、乳液、クリーム、洗顔料、パック、身体用洗浄料等の形態で提供され得る。
本発明の医薬部外品または化粧品には、本発明の特徴を損なわない範囲で、多価アルコール(グリセリン、1,3−ブチレングリコール、ジプロピレングリコール等)、アミノ酸またはその塩(アラニン、セリン、プロリン、DL−ピロリドンカルボン酸ナトリウム等)、タンパク質(ホエイ、水溶性コラーゲン、加水分解エラスチン等)、核酸(デオキシリボ核酸ナトリウム等)、ムコ多糖(コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム等)、ヘパリン類似物質、植物抽出物(アシタバ抽出物、キュウリ抽出物、シラカバ抽出物等)等の保湿剤;アズレン類(アズレン、グアイアズレン、グアイアズレンスルホン酸エチル、グアイアズレンスルホン酸ナトリウム等)、アラントインおよびその誘導体(アラントイン、アスコルビン酸アラントイン、アラントイングリチルレチン酸等)、ビタミン((アスコルビル/トコフェリル)リン酸カリウム、パンテノール等)、植物抽出物(カミツレ抽出物、カンゾウ抽出物、キダチアロエ抽出物等)、グリチルリチン酸およびその塩(グリチルリチン酸、グリチルリチン酸アンモニウム、グリチルリチン酸二カリウム等)、グリチルレチン酸およびその誘導体(グリチルレチン酸、グリチルレチン酸グリセリル、グリチルレチン酸ピリドキシン、サクシニルグリチルレチン酸二ナトリウム等)等の抗炎症・肌荒れ防止剤等を含有させることができる。
本発明の医薬部外品または化粧品における本発明の脂肪酸組成物の含有量は、本発明の皮膚外用剤に準じて適宜決定することができるが、パルミトレイン酸の1日あたりの適用量が、本発明の抗菌剤について上記した1日あたりの適用量となるように、本発明の脂肪酸組成物が適用されるように設定されることが好ましい。
本発明の医薬部外品または化粧品は、アトピー性皮膚炎患者の皮膚の状態の悪化を防止し、またはアトピー性皮膚炎患者の皮膚の状態を改善するために、あるいは、手荒れ等、肌荒れ症状を呈するおそれのある者または肌荒れ症状を呈する者において、肌荒れ症状を予防しまたは改善するために、好適に用いることができる。
また、本発明の医薬部外品または化粧品は、主としてヒトの皮膚、特にアトピー素因を有するヒト、または、特に皮膚の洗浄、消毒等に起因する肌荒れ症状を呈するヒトの皮膚の常在細菌叢のバランスを、正常な状態に維持するために好適に用いられる。
特に、本発明の医薬部外品または化粧品は、安全性の確認された酵母等の脂質より得られるパルミトレイン酸を有効成分として含有するため安全性が高く、日常的な皮膚の手入れを目的として、長期間にわたり連続して適用することができる。
さらに本発明について、実施例により詳細に説明する。
[実施例1〜3、比較例1〜3]脂質産生能を有するサッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)の形質転換株の作製
(1)DGA1遺伝子およびOLE1遺伝子破壊株、またはDGA1遺伝子、PPM1遺伝子およびOLE1遺伝子破壊株の作製
サッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)BY4741Δdga1株(Mat a leu2Δ0 his3 Δ1 ura3 Δ0 met15 Δ0 dga1::kanMX4)(インビトロージェン ライフ テクノロジーズ(Invitrogen Life Technologies)社)において、タンパク質ホスファターゼメチルトランスフェラーゼ(PPM1)遺伝子およびΔ9不飽和化酵素(OLE1)遺伝子の破壊は、神坂らの方法(特開2014−054239号公報)に従い、オープンリーディングフレーム(ORF)全体を栄養要求性マーカー遺伝子であるURA3遺伝子および/またはLEU2遺伝子で置き換えて行った。
PPM1遺伝子を破壊するURA3カセットは、以下のようにして作製した。
URA3遺伝子のプロモーター領域からターミネータ領域までをクローニングしたプラスミド(pT-URA3)をテンプレートとして用い、5’-TCCTTGTGACTCCGCATAAACTAGATGATAAAGAGTACAAACAAGTCGCCCGGTAATCTCCGAGCAG-3’(配列番号1)と5’-ATAAACGGTAAGCATATTAAGATCAAATTAGTTGAGGCTGTAAATAAAAAACGACCGAGATTCCCGG-3’(配列番号2)をプライマーとして、複製正確性の高いDNAポリメラーゼであるKOD plus(東洋紡株式会社)を用いたPCRにより増幅した。PCRは、プライマー濃度を0.25μM、1.2mM塩化マグネシウムを含む緩衝液中で、94℃で2分間反応させた後、94℃(15秒間)/55℃(30秒間)/68℃(90秒間)を1サイクルとして30回繰り返した。増幅されたコンストラクトは、PCR purification kit (株式会社キアゲン)で精製し、酵母形質転換キット(インビトロージェン ライフ テクノロジーズ(Invitrogen Life Technologies)社)を用いて、サッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)BY4741Δdga1株に導入し、Δdga1Δppm1破壊株を作製した。
PPM1遺伝子の破壊は、PPM1遺伝子のORFの外側の2つのプライマー(5’-AAAGAAGATGGGTCAGGG-3’(配列番号3)と5’-GTAGTGTAAGTACAGGTA-3’(配列番号4))を用い、破壊株から核酸抽出試薬(「ISOPLANT」、株式会社ニッポンジーン)により抽出したゲノムDNAをテンプレートとしてPCR(「GeneTaq」、株式会社ニッポンジーン)を行い、確認した。
PCRは、プライマー濃度を0.5μMとし、添付の緩衝液中で、95℃で2分間反応させた後、95℃(30秒間)/40℃(30秒間)/72℃(90秒間)を1サイクルとして、25回繰り返した。得られた産物を0.7(w/v)%アガロースゲル電気泳動で分離したが、PPM1遺伝子の破壊の有無による増幅産物の区別が困難であったため、増幅産物をさらに制限酵素TaqI(株式会社ニッポンジーン)により分解して、2(w/v)%アガロースゲルで分離し、野生株と破壊株の低分子の分解産物によって確認した。
得られたΔppm1破壊株からは、さらに5−フルオロオロチン酸(5−FOA、和光純薬工業株式会社)に対する耐性株を取得した。得られた耐性株はウラシル要求性であることを確認し、pL1091-5(ウラシル要求性を相補するプラスミド)での形質転換が可能となった。
また、OLE1遺伝子を破壊するLEU2カセットは、以下のようにして作製した。LEU2遺伝子のプロモーター領域からターミネータ領域までをクローニングしたプラスミド(pT-LEU2)をテンプレートとし、5’-GATAGTTGTGGTGATCATATTATAAACAGCACTAAAACATTACAACAAAGCAGGTATCGTAAGATGC-3’(配列番号5)と5’-TTTCAATTTTTTTTTATGGTAGTTGCAGTTTTGTTATTGTAATGTGATACGTTGAGCCATTAGTATC-3’(配列番号6)をプライマーとして用いて、KODplus(東洋紡株式会社)を用いたPCRで増幅した。
PCRは、プライマー濃度を0.25μM、1.2mM塩化マグネシウムを含む緩衝液中で、94℃で2分間反応させた後、94℃(15秒間)/55℃(30秒間)/68℃(120秒間)を1サイクルとして30回繰り返して行った。増幅されたコンストラクトは、PCR purification kit (株式会社キアゲン)で精製し、酵母形質転換キット(インビトロージェン ライフ テクノロジーズ(Invitrogen Life Technologies)社)を用いて、サッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)BY4741Δdga1株または上記のΔdga1Δppm1破壊株に導入し、Δdga1Δole1二重破壊株またはΔdga1Δppm1Δole1三重破壊株を作製した。
OLE1遺伝子の破壊は、OLE1のORFの外側の2つのプライマー(5’-AATAGATAGTTGTGGTGATC-3’(配列番号7)と5’-GGTAGTTGCAGTTTTGTTAT-3’(配列番号8))を用い、破壊株から抽出されたゲノムDNAをテンプレートとするPCR(「GeneTaq」、株式会社ニッポンジーン)によって確認した。PCRは、プライマー濃度を0.25μM、添付の緩衝液に5(v/v)%DMSOを加えて、95℃で2分間反応させた後、95℃(30秒間)/45℃(30秒間)/72℃(120秒間)を1サイクルとして、30回繰り返して行った。得られた産物を0.7(w/v)%アガロースゲル電気泳動で分離し、野生株(1621bp)に比べて大きなバンド(1865bp)が得られることで破壊株であることを確認した。
得られたΔdga1Δole1株、Δdga1Δppm1Δole1株では、LEU2遺伝子を選択マーカーとして用いてOLE1遺伝子を破壊しているため、生育にロイシンを要求しないが、不飽和脂肪酸を合成できないため、培地に不飽和脂肪酸を添加しないと生育できない。それゆえ、10(w/v)%グルコースを含むSD培地(100g/Lグルコース、1.7g/L酵母ニトロゲンベース、アミノ酸・硫酸アンモニウム不含、5g/L 硫酸アンモニウム、20mg/L ウラシル、60mg/L ロイシン、20mg/L ヒスチジン、20mg/L メチオニン)に、0.25(w/v)% ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(Tergitol NP−40)および0.05(w/v)% オレイン酸を添加した培地を用いて、これら破壊株のスクリーニングを行った。
(2)N末端を欠損したジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子、パルミトレイン酸合成特異的Δ9不飽和化酵素遺伝子およびチトクロームb遺伝子を過剰に発現する形質転換株の作製
(i)神坂ら(特開2014−054239号公報)の方法に従い、ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼのN末端29残基が欠失したタンパク質(Dga1ΔNp)をコードする遺伝子をpL1091-5ベクターに組み込んだpL1091-5/DGA1ΔNを作製した。
(ii)パルミトレイン酸合成特異的Δ9不飽和化酵素遺伝子として、カエノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)のΔ9不飽和化酵素(cFAT5)遺伝子、およびマウスのΔ9不飽和化酵素(mSCD3)遺伝子は、サッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)での発現のために、OptimumGene(商標)アルゴリズム(ジェンスクリプト(Genscript)社)によるコドン最適化を行って遺伝子合成を行い、pUC57/cFAT5および pUC57/mSCD3として取得した。
pUC57/cFAT5を、BamHI とSacIで切断して得たDNA断片をpL1177-2にサブクローニングして、pL1177-2/cFAT5を得た。
pUC57/mSCD3については、これを鋳型として、5’-GCAAGCTTATGCCAGGTCACTTATTA-3’(配列番号9)と5’-ATGCGGCCGCTTAACCTGATTTATGGGA-3’(配列番号10)をプライマーとして、KOD plus(東洋紡株式会社)を用いてPCRにより増幅し、得られた産物をHindIIIとNotIで切断して得たDNA断片をpL1177-2にサブクローニングして、pL1177-2/mSCD3を得た。
(iii)チトクロームbをコードするCYB5遺伝子は、サッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)ゲノムDNAを鋳型として、5’-ATCTCGAGCATGCCTAAAGTTTACAG-3’(配列番号11)と5’-ATGCGGCCGCTGGGCTATTCTGGAAGAA-3’(配列番号12)をプライマーとして、KOD plus(東洋紡株式会社)を用いてPCRにより増幅し、得られた産物をXhoIとNotIで切断し、pL2137-26にサブクローニングして、pL2137-26/CYB5を得た。
(iv)上記で作製したΔdga1Δole1株およびΔdga1Δppm1Δole1株のそれぞれに、神坂らの方法(特許文献2)に従い、pL1091-5/ DGA1ΔN、pL1177-2/cFAT5またはpL1177-2/mSCD3、およびpL2137-26/CYB5を用いて形質転換を行った。
なお、3種のプラスミドを一度に菌株と培養して形質転換株を得るのは効率が悪いので、まず2種のプラスミドで形質転換した株を取得し、次いで、得られた形質転換株を残りのプラスミドで形質転換して、3種のプラスミドを保持した形質転換株を得た。
得られた形質転換株(Δdga1Δole1+DGA1ΔN,cFAT5,CYB5、Δdga1Δole1+DGA1ΔN,mSCD3,CYB5、Δdga1Δppm1Δole1+DGA1ΔN,cFAT5,CYB5)を、実施例1〜3とした。
一方、Δdga1Δole1株に、Dga1ΔNp 遺伝子、OLE1遺伝子、cFAT5遺伝子、CYB5遺伝子を導入して形質転換株(Δdga1Δole1+DGA1ΔN,OLE1、Δdga1Δole1+DGA1ΔN,cFAT5、Δdga1Δole1+DGA1ΔN,OLE1,CYB5)を作製し、それぞれ比較例1〜3とした。
なお、OLE1遺伝子の導入は、神坂らの方法(特許文献2)に従って作製したpL1172-2/OLE1を用いた形質転換により行った。
また、Δdga1株、Δppm1株およびΔdga1Δppm1株のそれぞれに、DGA1ΔN遺伝子、cFAT5遺伝子、PPM1遺伝子が導入された形質転換株(Δdga1+DGA1ΔN、Δdga1+DGA1ΔN,cFAT5、Δppm1+DGA1ΔN、Δdga1+DGA1ΔN,PPM1、Δdga1Δppm1+DGA1ΔN)を作製し、以下の試験例と同様に培養し、産生された脂質の分析を行った。
PPM1遺伝子の導入は、サッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)ゲノムDNAを鋳型として、5’-ATGGATCCCCATGGAGAGAATCATAC-3’(配列番号13)と5’-ATGCGGCCGCTCACCACTGAGCCTTCAT-3’(配列番号14)をプライマーとして、KOD plus(東洋紡株式会社)を用いてPCRにより増幅し、得られた産物をBamHIとNotIで切断し、pL1177-2にサブクローニングして得られたpL1177-2/PPM1を用いて行った。
[試験例1]サッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)の形質転換株により産生される脂質の分析
上記で作製した形質転換株を、窒素源が欠乏した10(w/v)%グルコースを含むSD培地(100g/Lグルコース、1.7g/L 酵母ニトロゲンベース、アミノ酸・硫酸アンモニウム不含、5g/L硫酸アンモニウム、0.02g/L または2g/Lメチオニン)で、30℃または20℃にて、120rpmのロータリーシェーカーで7日間培養した。
培養後、遠心分離(3000rpm、5分)を行って菌体を濃縮し、さらにろ過を行って集めた湿菌体をクロロホルム/メタノール(2:1)中で溶液と等量のガラスビーズ(No.06、株式会社東新理興)の存在下に、ホモジナイザー(日本精機株式会社)により10分間破砕し、ろ過してガラスビーズを除去し、回収された抽出液に飽和食塩水を加えて二層分配を行い、下層の脂質層を硫酸マグネシウムで脱水、濃縮して、脂質抽出液を得た。
また、脂肪酸組成の分析は、次のようにして行った。すなわち、集菌した菌体を蒸留水で洗浄し、得られたペレットを105℃で3時間加熱して、その乾燥重量を測定した。次いで、乾燥させた菌体に、10(w/v)%塩酸メタノール(冷やしたメタノールに塩化アセチルを10(w/v)%となるように滴下して調製)1mL、ジクロロメタン0.5mLを加え、60℃で3時間反応させて脂肪酸メチルエステルを生成させた後、内部標準として250nmolヘプタデカン酸メチルエステルを加え、さらにヘキサン1mL、飽和食塩水1mLを加えて、二層分配した。ヘキサン層に分配される脂肪酸メチルエステルを、ガスクロマトグラフ(「GC−17A」、カラム;「TC−70」)(株式会社島津製作所)で測定し、内部標準との比により、全脂肪酸量を算出し、脂肪酸組成を求めた。また、全脂肪酸量を菌体乾燥重量で除して、脂質含有量を求めた。
実施例1〜3および比較例1〜3の各形質転換株により産生された脂質の分析結果を表1に示す。
表1に示されるように、Δdga1Δole1株に、DGA1ΔN遺伝子、cFAT5遺伝子およびCYB5遺伝子を導入した実施例1の形質転換株、Δdga1Δole1株に、DGA1ΔN遺伝子、mSCD3遺伝子およびCYB5遺伝子を導入した実施例2の形質転換株、およびΔdga1Δppm1Δole1株に、DGA1ΔN遺伝子、cFAT5遺伝子およびCYB5遺伝子を導入した実施例3の形質転換株では、パルミトレイン酸を高含有量で含有し、炭素数が18で不飽和結合を1個有する脂肪酸(C18:1)(オレイン酸およびバクセン酸)をほとんど含有しない脂質が産生されることが確認された。
一方、Δdga1Δole1株にOLE1遺伝子が導入されている比較例1および3の各形質転換株では、C18:1(オレイン酸およびバクセン酸)を高含有量で含有する脂質が産生された。また、cFAT5遺伝子が導入されているものの、CYB5遺伝子が導入されていない比較例2の形質転換株では、パルミトレイン酸を高含有量で含有し、C18:1(オレイン酸およびバクセン酸)をほとんど含有しない脂質が産生されたが、酵母の増殖阻害が認められ、脂質産生量の低下が認められた。
また、データは示していないが、Δdga1株、Δppm1株およびΔdga1Δppm1株のそれぞれに、DGA1ΔN遺伝子、cFAT5遺伝子、PPM1遺伝子が導入された形質転換株(Δdga1+DGA1ΔN、Δdga1+DGA1ΔN,cFAT5、Δppm1+DGA1ΔN、Δdga1+DGA1ΔN,PPM1、Δdga1Δppm1+DGA1ΔN)により産生された脂質は、パルミトレイン酸とともに、C18:1(オレイン酸およびバクセン酸)も相当量含有されるものであった。
[試験例2]脂質産生能を有するサッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)の形質転換株の培養条件の検討
実施例3の形質転換株(Δdga1Δppm1Δole1+DGA1ΔN,cFAT5,CYB5)を下記の培養条件で培養し、増殖および脂質産生に及ぼす影響を検討した。なお、下記に示す培養条件以外は、試験例1の場合と同様に培養して、試験例1の場合と同様に、菌体の乾燥重量を測定し、全脂肪酸量、脂質含有量および脂肪酸組成の分析を行った。
(1)培地
窒素源が欠乏した10(w/v)%グルコースを含むSD培地(100g/Lグルコース、1.7g/L酵母ニトロゲンベース、アミノ酸・硫酸アンモニウム不含、5g/L硫酸アンモニウム、0.02g/Lメチオニン)、窒素源が欠乏した10(w/v)%グルコースを含むメチオニン高濃度含有SD培地(100g/Lグルコース、1.7g/L酵母ニトロゲンベース、アミノ酸・硫酸アンモニウム不含、5g/L硫酸アンモニウム、2g/Lメチオニン)、窒素源が欠乏した天然培地(100g/Lグルコース、4g/L酵母エキス)、窒素源が欠乏したメチオニン高濃度含有天然培地(100g/Lグルコース、4g/L酵母エキス、2g/Lメチオニン)をそれぞれ用いた。
(2)培養温度および培養期間
20℃にて、4日間、7日間および10日間、それぞれ培養した。
結果は、表2に示した。
表2に示されるように、窒素源が欠乏した10(w/v)%グルコースを含むSD培地で培養した場合、培養10日まで脂質含有量、パルミトレイン酸含有量ともに増加しており、脂質の抽出のためには、10日間の培養が適することが示唆された。また、培地中のメチオニン濃度の影響は少ないことが認められた。
酵母エキスを含有する天然培地では、SD培地に比べて、脂質含有量は低下したが、パルミトレイン酸を高含有量で含有し、かつC18:1(オレイン酸およびバクセン酸)をほとんど含有しない脂質が得られたことから、天然培地を用いた培養も可能であることが示唆された。
[実施例4、5]サッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)の形質転換株を用いた脂質の製造
サッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)の上記実施例3の形質転換株(Δdga1Δppm1Δole1+DGA1ΔN,cFAT5,CYB5)を用いて、下記の通り脂質を製造した。
(1)前培養
300mLのバッフル付三角フラスコにSD培地(20g/Lグルコース、1.7g/L酵母ニトロゲンベース、アミノ酸・硫酸アンモニウム不含、5g/L硫酸アンモニウム、0.02g/Lメチオニン)50mLを入れ、上記形質転換株を植菌し、30℃で2日間、160rpmのロータリーシェーカーで振とう培養した。
(2)本培養
(i)5L容量の培養装置に10(w/v)%GSD培地(100g/Lグルコース、1.7g/L 酵母ニトロゲンベース、アミノ酸・硫酸アンモニウム不含、5g/L硫酸アンモニウム、0.02g/Lメチオニン)を3L入れ、前培養液を植菌し、23℃、250rpm、通気量1.5L/分で12日間培養を行った(実施例4)。
(ii)10L容量の培養装置に天然培地(100g/Lグルコース、4g/L酵母エキス)を6L入れ、前培養液を植菌し、23℃、250rpm、通気量3L/分で10日間培養を行った(実施例5)。
(3)脂質の抽出および分析
上記実施例4の本培養においては、培養4日目、7日目および12日目に、実施例5の本培養においては、培養4日目、7日目および10日目に、それぞれ培養液から菌体を回収し、脂質を抽出した(実施例4、5)。メチルエステル化を70℃で5時間の反応により行い、ガスクロマトグラフとして、「GC−2025AF」(カラム;「HR−SF−10」)(株式会社島津製作所製)を用いた他は、試験例1の場合と同様にして、菌体の乾燥重量、全脂肪酸量、脂質含有量および脂肪酸組成を求めた。
結果を表3に示した。
表3に示されるように、10(w/v)%GSD培地を用いて本培養を行った実施例4では12日間の培養で、また、天然培地を用いて本培養を行った実施例5では10日間の培養で、十分な脂質の産生が認められ、65重量%を超える高含有量でパルミトレイン酸を含有する脂質を得ることができた。さらに、いずれの実施例においても、脂質中における炭素数が18で不飽和結合を1個含む脂肪酸(18:1)(オレイン酸およびバクセン酸)の含有量は、6.0重量%以下と、非常に低いものであった。
なお、天然培地を用いた実施例5においても、GSD培地を用いた実施例4に比べて、若干の脂肪酸産生量の低下は認められたものの、良好なパルミトレイン酸の産生が認められており、本発明の形質転換株を用いることにより、天然培地を用いても、目的とする脂質の産生が得られることが確認された。
[実施例6、7]脂肪酸組成物の製造
(1)粗酵母油の調製
上記実施例3のサッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)の形質転換株を、上記実施例4に記載した通り培養し、菌体を回収した。
回収した湿菌体10gに、200mLの0.5mm〜0.7mmガラスビーズ、200mLのクロロホルム/メタノール(2:1,v/v)を添加し、10,000rpmで10分間ホモジナイズ(「AM−3」、日本精機株式会社)した。濾紙で濾過して溶媒層を回収した後、沈殿を100mLのクロロホルム/メタノール(2:1,v/v)で洗浄し、溶媒層を回収した。前記両溶媒層を混合し、エバポレーターで約30mLまで脱溶媒した。これを、50mLのヘキサンで3回抽出し、ヘキサン層を脱溶媒し、1.7gの粗酵母油を回収した。
(2)酵母由来トリグリセリドの精製、ならびに該精製酵母トリグリセリドのsn−1,3位およびsn−2位の脂肪酸組成の分析
上記と同様にして得た脱溶媒後の粗酵母油3.57gを、n−ヘキサン:酢酸エチル=98:2(容量比)で平衡化したシリカゲルクロマトグラフィー(2.6cm×26cm)に負荷して、前記溶媒40mL×15本、およびヘキサン:酢酸エチル=95:5(容量比)40mL×15本で溶出させた。トリアシルグリセリドを含むフラクションNo.15〜25の画分を回収し、エバポレーターで溶媒を除去し、精製酵母トリグリセリド2.74gを得た。
得られた精製酵母トリグリセリドについて、sn−1,3位およびsn−2位の脂肪酸組成を、下記の通り、Y. Watanabeらの方法(J. Oleo Sci., 64, 1193 (2015))に従って測定した。
上記精製酵母トリグリセリド100mgに、エタノール1gおよびシュードザイマ アンタークティカ(Pseudozyma antarctica)由来の固定化リパーゼ(「ノボザイム(Novozym)435)」(ノボザイムズ(Novozymes)社))0.044gを加え、30℃で往復振とうさせながら3時間反応させ、ろ過して上清を回収した。次いで、エバポレーターで溶媒を除去し、全量を、n−ヘキサン:ジエチルエーテル=8:2(容量比)で平衡化したセプ−パックシリカ(Sep−Pack silica)カートリッジ(「WAT051900」(ウォーターズ(Waters)社))に負荷し、前記溶媒30mLにより、脂肪酸エチルエステルおよびジグリセリドを溶出させて除去した。次に、ジエチルエーテル10mLでsn−2位にアシル基を一つ有するモノグリセリド(sn−2モノグリセリド)を溶出させ、ロータリーエバポレーターで溶媒を除去した。
メタノール3mLに、精製トリグリセリドおよび前記トリグリセリド由来のsn−2モノグリセリド各5μL、および28重量%のナトリウムメトキシドのメタノール溶液を添加し、75℃で15分間加熱して、脂肪酸のメチルエステル化を行った。放冷後、n−ヘキサン0.5mLを添加混合し、次いで水3mLを添加混合して、脂肪酸メチルエステルをn−ヘキサンにて抽出し、n−ヘキサン層を回収した。
回収したn−ヘキサン層を、キャピラリーガスクロマトグラフ(「Agilent 6890N」(アジレントテクノロジー(Agilent Technologies)社)にて下記の条件下に分析し、脂肪酸の定量を行った。
<分析条件>
キャピラリーカラム:DB−23(0.25mm×30m)(アジレントテクノロジー(Agilent Technologies)社)
注入口温度:245℃
注入量:3μL
検出器:水素炎イオン化型検出器(FID)(250℃)
カラム温度:
(i)150℃で0.5分間保持
(ii)150℃〜170℃;4℃/分にて昇温
(iii)170℃〜195℃;5℃/分にて昇温
(iv)195℃〜215℃;10℃/分にて昇温
(v)215℃で11分間保持
精製酵母トリグリセリド(sn−1,2,3位の全脂肪酸の組成)およびsn−2モノグリセリドの脂肪酸組成(重量%)から、sn−1,3位の脂肪酸組成(重量%)を算出した。その結果を表4に示した。
表4に示されるように、実施例3のサッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)の形質転換株由来の精製酵母トリグリセリドにおいては、従来の植物油脂等に比べてパルミトレイン酸が多く含まれるとともに、オレイン酸(C18:1,n−9)およびバクセン酸(C18:1,n−7)がほとんど含まれないことが認められた。さらに、酸化安定性が悪く、製剤安定性の観点から好ましくない多価不飽和脂肪酸もほとんど含まれないことが認められた。
また、表4に示されるように、実施例3のサッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)の形質転換株由来の精製酵母トリグリセリドでは、トリグリセリド全体における脂肪酸組成(sn−1,2,3位の全脂肪酸組成)と、sn−1,3位における脂肪酸組成との間に大きな差は認められなかった。
特許文献2に記載された出芽酵母の形質転換株を用いて産生された脂質では、sn−2位よりもsn−1,3位におけるパルミトレイン酸(C16:1)含有量が約2倍近く高く、一方、sn−1,3位よりもsn−2位におけるバクセン酸およびオレイン酸(C18:1)含有量が3.6倍高いことから、sn−1,3位の脂肪酸を選択的に遊離させるリパーゼを用いて、sn−1,3位において選択的に加水分解またはエタノリシスさせる必要があった(理論収率=67%)(特願2017−034097)。
しかし、本発明の形質転換株由来の精製酵母トリグリセリドから脂肪酸組成物を製造する際には、トリグリセリドにおける脂肪酸残基の結合位置を気にすることなく、鹸化分解により脂肪酸を遊離させればよいため(理論収率=100%)、上記精製酵母トリグリセリドは、本発明の脂肪酸組成物を製造するための出発原料として、より有用であることが示唆された。
(3)脂肪酸組成物の調製
0.9gの水酸化ナトリウムを2.5mLの水に溶かした後、50mLのエタノールを添加し、上記(1)で調製した粗酵母油1.7gを添加し、65℃で60分間、時々撹拌しながら鹸化分解した。
冷却後、75mLの水を添加し、50mLのヘキサンで2回抽出し、夾雑物(スクワレンやコレステロール等)を除去した。水/エタノール層に、酸性になるまで濃塩酸を添加した後、50mLのヘキサンで2回抽出し、エバポレーターで脱溶媒し、1.24gの遊離脂肪酸(sn−1,2,3位)を回収した(実施例6)。
得られた脂肪酸組成物の脂肪酸組成を、上記精製酵母トリグリセリドの場合と同様の方法により分析した。結果を表5に示した。
表5に示されるように、実施例6の脂肪酸組成物は、パルミトレイン酸を70重量%近い含有量で含有し、かつ、オレイン酸およびバクセン酸の含有量は、非常に少量(合計で3.4重量%)であった。
[試験例3]脂肪酸組成物の抗菌活性の評価
実施例6の脂肪酸組成物を含む下記試料について、次の通り、日本化学療法学会標準法である微量液体希釈法に従って最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration,MIC)を測定し、抗菌活性を評価した。
(1)供試試料
抗菌活性の評価を行った試料は以下の通りである。
(i)実施例6の脂肪酸組成物
(ii)上記した実施例3の形質転換株由来の精製トリグリセリドから、リパーゼによりsn−1,3位の脂肪酸を遊離させて得た脂肪酸組成物(実施例7の脂肪酸組成物とする)
(iii)神坂ら(特許文献2)の方法により、サッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)の形質転換株(Δdga1+DGA1ΔN)により生産された油脂から調製した精製トリグリセリドより、以下の通り、リパーゼによりsn−1,3位の脂肪酸を遊離させて得た脂肪酸組成物(比較例4の脂肪酸組成物とする)
すなわち、上記精製酵母トリグリセリド200mgに、エタノール2gおよび上記ノボザイム(Novozym)435(ノボザイムズ(Novozymes)社)0.088gを加え、30℃で往復振とうさせながら2.5時間反応させ、ろ過して上清を回収した。次いで、エバポレーターで溶媒を除去し、半量ずつ、n−ヘキサン:ジエチルエーテル=8:2(容量比)で平衡化したセプ−パックシリカ(Sep−Pack silica)カートリッジ(「WAT051900」(ウォーターズ(Waters)社))に負荷し、前記溶媒10mLで脂肪酸エチルエステルを溶出させた。
2回分のカラム分画により得られた脂肪酸エチルエステルを混合し、脱溶媒後(推定130mg)、エタノール3gおよび5M水酸化ナトリウム0.2gを加え、60℃で15分間加熱し、鹸化した。次いで、室温まで冷却して水4mLを添加し、酸性になるまで2M塩酸を添加した後、n−ヘキサン3mLで2回抽出した。ヘキサン層を回収してエバポレーターで溶媒を除去し、遊離脂肪酸を回収して得た。
(iv)サッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)の形質転換株(Δdga1+DGA1ΔN)により生産された油脂から調製した精製トリグリセリドを、次の通り鹸化分解して得た脂肪酸組成物(比較例5の脂肪酸組成物とする)
すなわち、上記精製酵母トリグリセリド50mgに、エタノール3g、水0.1mLおよび5M水酸化ナトリウム0.1gを加え、60℃で15分間加熱して鹸化した。次いで室温まで冷却し、水4mLを添加して、酸性になるまで2M塩酸を添加し、n−ヘキサン3mLで2回抽出した。ヘキサン層を回収し、エバポレーターで溶媒を除去して遊離脂肪酸を回収して得た。
(v)試薬のパルミトレイン酸(9-cis-C16:1, 東京化成工業株式会社)
(vi)試薬のサピエン酸(6-cis-C16:1,関東化学株式会社)
(vii)溶媒として使用するジメチルスルホキシド(DMSO)
(2)供試試料溶液の調製
上記(i)〜(vi)の各脂肪酸組成物を、それぞれ10,000μg/mLとなるようにジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解して調製した。
(3)試験菌株
抗菌活性の評価を行った試験菌株は以下の通りである。
(i)Staphylococcus aureus subsp. aureus NBRC100910株(Type strain)
(ii)Staphylococcus aureus subsp. aureus NBRC13276株
(iii)Staphylococcus aureus subsp. aureus NBRC14462株
(iv)Staphylococcus aureus subsp. aureus NBRC12732株
(v)Staphylococcus aureus subsp. aureus IID1677株 (MRSA株)
(vi)Staphylococcus aureus subsp. aureus JCM8702株 (MRSA株)
(vii)Staphylococcus aureus subsp. aureus JCM16544株 (MRSA株)
(viii)Staphylococcus aureus subsp. aureus JCM16545株 (MRSA株)
(ix)Staphylococcus aureus subsp. aureus JCM16546株 (MRSA株)
(x)Staphylococcus epidermidis NBRC100911株(Type strain)
(xi)Staphylococcus epidermidis NBRC12933株
(xii)Staphylococcus epidermidis ATCC35984株
(4)試験菌株懸濁液の調製
各菌株をそれぞれN.B.培地(0.5重量%鰹肉エキス(和光純薬工業株式会社)、1重量%ポリペプトン(日本製薬株式会社)、0.5重量%塩化ナトリウム、pH=7.0)3mLに1白金耳植菌し、振とうしながら37℃で一晩前々培養した。この前々培養液を、植菌量が10重量%となるように、新しいN.B.培地3.6mLに植菌し、振とうしながら37℃で3時間前培養した。660nmにおける濁度(OD660)の測定値から、OD660=1における生菌数が6.4×10コロニーフォーミングユニット(colony forming unit,cfu)/mLとして生菌数を算定し、この前培養液を、2.0×10cfu/mLとなるように、N.B.培地(pH=6.0)で希釈して、試験菌株懸濁液を調製した。
(5)最小阻止濃度(MIC)の測定
試験菌株懸濁液(2.0×10cfu/mL)234μLを96穴丸底マイクロプレートの2列目に分注し、3〜12列目には130μLずつ分注した。次いで、供試試料(10,000μg/mL)26μLをマイクロプレートの2列目に添加し、ピペッティングにより十分懸濁し、10倍に希釈した。次に、この懸濁液130μLをマイクロプレートの3列目に添加して懸濁し、順次2倍ずつ段階的に希釈した。
マイクロプレートを37℃にて2日間静置して培養した後、試験菌株の生育を、培養液の濁度または沈殿した菌体の有無を目視により確認して判定し、試験菌株の生育が見られなくなる供試試料の最小濃度をMICとした。
MICの測定結果を表6に示した。
表6に示されるように、サッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)の形質転換株(Δdga1+DGA1ΔN)により産生された油脂から、リパーゼによりsn−1,3位の脂肪酸を選択的に遊離させて得た脂肪酸組成物(比較例4の脂肪酸組成物)は、前記油脂の鹸化分解により、sn−1,2,3位の脂肪酸を遊離させて得た脂肪酸組成物(比較例5の脂肪酸組成物)に比べて、黄色ブドウ球菌に対して高い抗菌活性を有し、S. aureus NBRC13276株、IID1677株、JCM16546株等に対するMICは1桁以上低い値であった。
しかし、上記比較例4の脂肪酸組成物は、パルミトレイン酸を高含有量で含有するが、炭素数が18で不飽和結合を1個有する脂肪酸(C18:1)(オレイン酸およびバクセン酸)を含有するため、パルミトレイン酸の抗菌活性に対し、夾雑するC18:1(オレイン酸およびバクセン酸)の阻害作用が強く現れるS. aureus NBRC14462株に対しては、抗菌活性が認められなかった。
一方、本発明の実施例6の脂肪酸組成物はC18:1(オレイン酸およびバクセン酸)をほとんど含有しないため、S. aureus NBRC14462株に対しても、良好な抗菌活性が認められた。本発明の実施例6の脂肪酸組成物のMICは、上記比較例4の脂肪酸組成物に比べて、1桁以上低い値であった。S. aureus IID1677株やJCM8702株に対しても、本発明の実施例6の脂肪酸組成物は、上記比較例4の脂肪酸組成物に比べて、MIC値にて4倍〜8倍高い抗菌活性を示した。
また、本発明の実施例3の形質転換株により産生された油脂から、リパーゼによりsn−1,3位の脂肪酸を選択的に遊離させて得た脂肪酸組成物(実施例7の脂肪酸組成物)は、前記油脂の鹸化分解により、sn−1,2,3位の脂肪酸を遊離させて得た実施例6の脂肪酸組成物とほぼ同じMICを示した。
つまり、本発明のサッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)の形質転換株により産生される脂質(トリグリセリド)において、パルミトレイン酸の結合部位には位置特異性がなく、リパーゼを用いてsn−1,3位を選択的に遊離させる必要がないことが示され、本発明の形質転換株により産生された脂質を用いることにより、リパーゼによる加水分解工程を省略することができ、収率を向上させ得ることが示唆された。
さらに、表6に示されるように、S. epidermidisの3種の菌株に対しては、本発明の実施例6および7の各脂肪酸組成物のMICは500μg/mLまたは1000μg/mLと大きく、ほとんど抗菌活性を示さないことが認められた。
試験例3の上記結果から、本発明の実施例6および7の各脂肪酸組成物は、悪玉菌であるS. aureusの幅広い菌株の生育を抑制し、善玉菌であるS. epidermidisの幅広い菌株の生育を抑制しないことが示され、皮膚菌叢を健全化する優れた機能を有することが示唆された。
[試験例4]パルミトレイン酸の抗菌活性に対するオレイン酸およびバクセン酸の阻害作用の検討
パルミトレイン酸が黄色ブドウ球菌に対して示す抗菌活性に対し、オレイン酸およびバクセン酸が及ぼす各阻害作用について、以下に検討した。
(1)供試試料
(i)パルミトレイン酸とオレイン酸(9−cis−C18:1、東京化成工業株式会社)とを、パルミトレイン酸:オレイン酸(重量比)=100:0、90:10、80:20、67:33、50:50、33:67、20:80の各混合比にてそれぞれ混合して、パルミトレイン酸とオレイン酸とを含有する試料をそれぞれ調製した。
(ii)パルミトレイン酸とバクセン酸(11−cis−C18:1)とを、パルミトレイン酸:バクセン酸(重量比)=100:0、90:10、80:20、67:33、50:50、33:67、20:80の各混合比にてそれぞれ混合して、パルミトレイン酸とバクセン酸とを含有する試料をそれぞれ調製した。
なお、バクセン酸は、バクセン酸エチルエステル(東京化成工業株式会社)を、上記実施例6と同様に鹸化分解し、遊離の脂肪酸に変換することにより調製した。
(2)供試試料溶液の調製
上記(i)および(ii)で調製した各混合比の試料について、脂肪酸の総濃度が40,000μg/mLとなるようにDMSOに溶解して調製した。
(3)試験菌株
黄色ブドウ球菌としては、以下の菌株を用いた。
(i)Staphylococcus aureus subsp. aureus NBRC100910株(Type strain)
(ii)Staphylococcus aureus subsp. aureus NBRC13276株
(iii)Staphylococcus aureus subsp. aureus NBRC14462株
(iv)Staphylococcus aureus subsp. aureus NBRC12732株
(v)Staphylococcus aureus subsp. aureus IID1677株 (MRSA株)
(4)MICの測定
試験例3と同様に、試験菌株懸濁液を調製し、MICを測定した。ただし、試験菌懸濁液はマイクロプレートの1列目のウェルに234μLを分注し、2列目から12列目のウェルに130μLずつ分注した。供試試料溶液26μLを1列目の試験菌懸濁液に添加して懸濁した後、この懸濁液130μLを2列目から12列目のウェルに順次添加して希釈した。
培養液の濁度または沈殿した菌体の有無を目視により確認し、試験菌株の生育が見られなくなる供試試料の最小濃度(パルミトレイン酸とオレイン酸の合計濃度、またはパルミトレイン酸とバクセン酸の合計濃度の最小値)を求め、各供試試料における脂肪酸の混合比から、パルミトレイン酸のMICに換算して、図1、2に示した。
なお、たとえば、パルミトレイン酸とオレイン酸との混合重量比が20:80で、1列目のウェルに供試菌株の生育が認められた場合、パルミトレイン酸とオレイン酸の合計濃度のMICは>4,000μg/mLであるから、パルミトレイン酸のMICは>800μg/mLとなる。これ以上高濃度のMICは評価できないことから、図1および2では、検出限界値として表記した。
図1、2に示されるように、供試試料におけるオレイン酸またはバクセン酸の含有量が高くなるほど、パルミトレイン酸のMIC値が高くなり、パルミトレイン酸の各供試菌株に対する抗菌活性が低下することが認められた。
試験例4で示された上記結果は、黄色ブドウ球菌に対するパルミトレイン酸の抗菌活性に対し、オレイン酸およびバクセン酸がそれぞれ阻害作用を有することを示すものであった。また、パルミトレイン酸の抗菌活性に対する前記阻害作用の程度は、試験菌株により異なるものであった。
以上詳述したように、本発明により、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に対し、選択的な抗菌活性を有するパルミトレイン酸を、高濃度で含有し、かつ、パルミトレイン酸の抗菌活性を阻害する炭素数が18で不飽和結合を1個有する脂肪酸(C18:1)(オレイン酸およびバクセン酸)の含有量が低い脂肪酸組成物を得ることができる。
本発明の脂肪酸組成物は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に対する選択的抗菌剤として、特にアトピー性皮膚炎の症状の悪化の防止またはアトピー性皮膚炎の症状の改善に有効な皮膚外用剤、医薬部外品または化粧品として、利用することができる。
さらに本発明の脂肪酸組成物は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の検出が報告されている皮膚の洗浄、消毒等に起因する肌荒れの予防または改善に有効な皮膚外用剤、医薬部外品または化粧品として、利用することができる。

Claims (18)

  1. 脂質産生能を有するサッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)の形質転換株であって、染色体上のジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGA1)遺伝子およびΔ9不飽和化酵素(OLE1)遺伝子、またはジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGA1)遺伝子、タンパク質ホスファターゼメチルトランスフェラーゼ1(PPM1)遺伝子およびΔ9不飽和化酵素(OLE1)遺伝子が破壊されまたは機能低下しており、さらに、ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ遺伝子、パルミトレイン酸合成特異的Δ9不飽和化酵素遺伝子、チトクロームb遺伝子が過剰に発現されている形質転換株。
  2. 過剰に発現されているジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ遺伝子が、サッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)のジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼのN末端を欠損しているタンパク質をコードする遺伝子である、請求項1に記載の形質転換株。
  3. 過剰に発現されているパルミトレイン酸合成特異的Δ9不飽和化酵素遺伝子が、カエノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)のΔ9不飽和化酵素(cFAT5)遺伝子またはマウスのΔ9不飽和化酵素(mSCD3)遺伝子である、請求項1または2に記載の形質転換株。
  4. 過剰に発現されているチトクロームb遺伝子が、サッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)のチトクロームb(CYB5)遺伝子である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の形質転換株。
  5. さらにロイシン合成酵素(LEU2)遺伝子が過剰に発現されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の形質転換株。
  6. 脂質中の脂肪酸残基の総量あたり、パルミトレイン酸を55重量%以上含有し、かつ炭素数が18で不飽和結合を1個有する脂肪酸(C18:1)(オレイン酸およびバクセン酸)をこれらの合計で10重量%以下含有する脂質を産生し得る形質転換株である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の形質転換株。
  7. 請求項1〜6のいずれか1項に記載のサッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)の形質転換株を、メチオニン存在下で培養すること、および、培養した細胞から脂質を採取することを含む、脂質の製造方法。
  8. 脂質が、脂質中の脂肪酸残基の総量あたり、パルミトレイン酸を55重量%以上含有し、かつ炭素数が18で不飽和結合を1個有する脂肪酸(C18:1)(オレイン酸およびバクセン酸)をこれらの合計で10重量%以下含有する脂質である、請求項7に記載の製造方法。
  9. 請求項7または8に記載の製造方法により製造された脂質を遊離脂肪酸に変換することを含む、脂肪酸組成物の製造方法。
  10. 脂肪酸組成物が、パルミトレイン酸を55重量%以上含有し、かつ、炭素数が18で不飽和結合を1個有する脂肪酸(C18:1)(オレイン酸およびバクセン酸)をこれらの合計で10重量%以下含有する脂肪酸組成物である、請求項9に記載の製造方法。
  11. 脂肪酸組成物が、パルミトレイン酸を60重量%以上含有する脂肪酸組成物である、請求項10に記載の製造方法。
  12. パルミトレイン酸を55重量%以上含有し、かつ、炭素数が18で不飽和結合を1個有する脂肪酸(C18:1)(オレイン酸およびバクセン酸)をこれらの合計で10重量%以下含有する、脂肪酸組成物。
  13. パルミトレイン酸の含有量が60重量%以上である、請求項12に記載の組成物。
  14. 多価不飽和脂肪酸を1重量%以下含有する、請求項12または13に記載の組成物。
  15. 請求項12〜14のいずれか1項に記載の組成物を含有する、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に対する選択的抗菌剤。
  16. 請求項12〜14のいずれか1項に記載の組成物を含有する、皮膚外用剤。
  17. 請求項12〜14のいずれか1項に記載の組成物を含有する、医薬部外品。
  18. 請求項12〜14のいずれか1項に記載の組成物を含有する、化粧品。
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