本発明の一部の実施形態の一態様によれば、OCT4+/TRA1−60−/TRA1−81−/SSEA1+/SSEA4−の発現シグナチャー(signature)を特徴とするヒト多能性幹細胞を少なくとも50%含み、前記ヒト多能性幹細胞が、内胚葉、外胚葉および中胚葉の、胚の各胚葉に分化することができる、ヒト多能性幹細胞の単離された集団が提供される。
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、未分化状態の多能性幹細胞(PSC)を拡大し、かつ維持する方法であって、(a)前記PSCを、少なくとも2回、最大10回の継代にわたってPSC凝集塊の単一細胞への機械的解離による懸濁培養で継代し、それにより凝集塊を含まないPSCの懸濁培養物を得ること;および(b)前記凝集塊を含まないPSCの前記懸濁培養物を、前記凝集塊の解離を伴うことなく継代し、それにより前記未分化状態の前記PSCを拡大し、かつ維持することを含む方法が提供される。
本発明の一部の実施形態によれば、上記方法はさらに、上記PSCを、上記未分化状態の上記多能性幹細胞の拡大を可能にする条件下で培養することを含む。
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、胚性幹細胞株を導出する方法であって、(a)胚性幹細胞(ESC)を、着床前段階の胚盤胞、着床後段階の胚盤胞および/または胎児の生殖組織から得ること;および(b)前記ESCを、少なくとも2回、最大10回の継代にわたってESC凝集塊の単一細胞への機械的解離による懸濁培養で継代し、それにより凝集塊を含まないESCの懸濁培養物を得ること;および(c)前記凝集塊を含まないESCの前記懸濁培養物を、前記凝集塊の解離を伴うことなく継代し、それにより前記胚性幹細胞株を導出することを含む方法が提供される。
本発明の一部の実施形態によれば、上記方法はさらに、上記ESCを、上記未分化状態の上記胚性単一幹細胞の拡大を可能にする条件下で培養することを含む。
本発明の一部の実施形態によれば、上記継代は酵素的解離がない条件下で行われる。
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、多能性幹細胞をクローニングする方法であって、本発明の一部の実施形態の方法に従って得られる単一多能性幹細胞、または本発明の一部の実施形態の方法に従って得られる単一胚性幹細胞を、前記単一多能性幹細胞の拡大または前記単一胚性幹細胞の拡大をそれぞれ未分化状態で可能にする条件下の懸濁培養で培養し、それにより前記単一多能性幹細胞または前記単一胚性幹細胞をそれぞれクローン培養物に拡大し、それにより前記多能性幹細胞をクローニングすることを含む方法が提供される。
本発明の一部の実施形態によれば、上記培養は、細胞凝集塊を解離させることなく行われる。
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、系譜特異的細胞を多能性幹細胞から作製する方法であって、(a)前記多能性幹細胞を本発明の一部の実施形態の方法に従って懸濁培養で培養し、それにより凝集塊を含まない拡大された未分化多能性幹細胞を得ること;および(b)凝集塊を含まない前記拡大された未分化多能性幹細胞を系譜特異的細胞の分化および/または拡大に好適な培養条件に供し、それにより前記系譜特異的細胞を前記多能性幹細胞から作製することを含む方法が提供される。
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、胚様体を多能性幹細胞から作製する方法であって、(a)前記多能性幹細胞を本発明の一部の実施形態の方法に従って懸濁培養で培養し、それにより凝集塊を含まない拡大された未分化多能性幹細胞を得ること;および(b)凝集塊を含まない前記拡大された未分化多能性幹細胞を、前記多能性幹細胞を胚様体に分化させるために好適な培養条件に供し、それにより前記胚様体を前記多能性幹細胞から作製することを含む方法が提供される。
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、系譜特異的細胞を多能性幹細胞から作製する方法であって、(a)前記多能性幹細胞を本発明の一部の実施形態の方法に従って懸濁培養で培養し、それにより凝集塊を含まない拡大された未分化多能性幹細胞を得ること;(b)凝集塊を含まない前記拡大された未分化多能性幹細胞を、前記多能性幹細胞を胚様体に分化させるために好適な培養条件に供すること;および(c)前記胚様体の細胞を系譜特異的細胞の分化および/または拡大に好適な培養条件に供し、それにより前記系譜特異的細胞を前記多能性幹細胞から作製することを含む方法が提供される。
本発明の一部の実施形態によれば、凝集塊を含まない上記懸濁培養物は、単一細胞または小さいクラスターを含み、各クラスターは最大約200個の多能性幹細胞を含む。
本発明の一部の実施形態によれば、上記培養は基体接着がない培養条件下で行われる。
本発明の一部の実施形態によれば、上記培養条件は、Rho会合キナーゼ(ROCK)阻害剤を含まない。
本発明の一部の実施形態によれば、上記多能性幹細胞はヒト多能性幹細胞である。
本発明の一部の実施形態によれば、上記ヒト多能性幹細胞は胚性幹細胞である。
本発明の一部の実施形態によれば、上記ヒト多能性幹細胞は誘導多能性幹細胞である。
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、本発明の一部の実施形態の方法に従って得られ、かつ内胚葉、外胚葉および中胚葉の、胚の各胚葉に分化することができる、細胞凝集塊を含まない多能性幹細胞の単離された集団が提供される。
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、間葉系幹細胞を懸濁培養で作製する方法であって、本発明の一部の実施形態の多能性幹細胞を多能性幹細胞の間葉系幹細胞への分化に好適な条件下の懸濁培養で培養し、それにより前記間葉系幹細胞を前記懸濁培養で作製することを含む方法が提供される。
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、本発明の一部の実施形態の方法によって作製される懸濁培養物における間葉系幹細胞(MSC)の単離された集団が提供される。
本発明の一部の実施形態によれば、上記細胞の少なくとも40%がCD73+/CD31−/CD105+の発現シグナチャーによって特徴づけられる。
本発明の一部の実施形態によれば、上記MSCは、脂肪形成系譜、骨芽細胞系譜および軟骨形成系譜からなる群から選択される細胞系譜への懸濁培養での分化が可能である。
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、ニューロン始原体細胞を懸濁培養で作製する方法であって、本発明の一部の実施形態の多能性幹細胞をニューロン始原体細胞の分化に好適な条件下の懸濁培養で培養し、それにより前記ニューロン始原体細胞を前記懸濁培養で作製することを含む方法が提供される。
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、本発明の一部の実施形態の方法によって作製される懸濁培養物におけるニューロン始原体細胞の単離された集団が提供される。
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、内胚葉細胞を懸濁培養で作製する方法であって、本発明の一部の実施形態の多能性幹細胞を前記多能性幹細胞の内胚葉細胞への分化に好適な条件下の懸濁培養で培養し、それにより前記内胚葉細胞を前記懸濁培養で作製することを含む方法が提供される。
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、本発明の一部の実施形態の方法によって作製される懸濁培養物における内胚葉細胞の単離された集団が提供される。
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、インターロイキン11(IL11)および毛様体神経栄養因子(CNTF)を含む培養培地が提供される。
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、少なくとも50ng/mlの濃度の塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)と、IL6RIL6キメラ体とを含む培養培地が提供される。
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、動物由来混入物非含有の血清代替物と、IL6RIL6キメラ体とを含む培養培地が提供される。
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、多能性幹細胞と、本発明の一部の実施形態の培養培地とを含む細胞培養物が提供される。
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、マトリックスと、本発明の一部の実施形態の培養培地とを含む培養システムが提供される。
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、多能性幹細胞と、血清非含有の培養培地とを含み、前記培養培地が可溶性インターロイキン6受容体(sIL6R)およびインターロイキン6(IL6)を含む細胞培養物であって、前記sIL6Rの濃度が少なくとも5ng/mlであり、かつ前記IL6の濃度が少なくとも3ng/mlである細胞培養物が提供される。
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、多能性幹細胞と、インターロイキン11(IL11)およびオンコスタチンを含む培養培地とを含む細胞培養物が提供される。
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、未分化状態の多能性幹細胞を拡大し、かつ維持する方法であって、前記多能性幹細胞を本発明の一部の実施形態の培養培地で培養し、それにより前記未分化状態の前記多能性幹細胞を拡大し、かつ維持することを含む方法が提供される。
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、系譜特異的細胞を多能性幹細胞から作製する方法であって、(a)前記多能性幹細胞を本発明の一部の実施形態の方法に従って培養し、それにより拡大された未分化幹細胞を得ること;(b)前記拡大された未分化幹細胞を系譜特異的細胞の分化および/または拡大に好適な培養条件に供し、それにより前記系譜特異的細胞を前記多能性幹細胞から作製することを含む方法が提供される。
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、本発明の一部の実施形態の方法に従って作製される多能性幹細胞の集団を含み、前記集団が1ミリリットルの培地あたり少なくとも1000個の多能性幹細胞を含む細胞培養物が提供される。
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、細胞由来の治療を目的とする本発明の一部の実施形態の細胞培養物の使用が提供される。
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、医薬のスクリーニングを目的とする本発明の一部の実施形態の細胞培養物の使用が提供される。
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、ワクチンの製造を目的とする本発明の一部の実施形態の細胞培養物の使用が提供される。
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、タンパク質の製造を目的とする本発明の一部の実施形態の細胞培養物の使用が提供される。
本発明の一部の実施形態によれば、IL11が、少なくとも0.1ng/mlの濃度で用いられる。
本発明の一部の実施形態によれば、CNTFが、少なくとも0.1ng/mlの濃度で用いられる。
本発明の一部の実施形態によれば、IL11が、少なくとも1ng/mlの濃度で用いられる。
本発明の一部の実施形態によれば、CNTFが、少なくとも1ng/mlの濃度で用いられる。
本発明の一部の実施形態によれば、bFGFの濃度が、50ng/ml〜150ng/mlの間の範囲から選択される。
本発明の一部の実施形態によれば、IL6RIL6キメラ体が、少なくとも50ng/mlの濃度で用いられる。
本発明の一部の実施形態によれば、IL6RIL6キメラ体が、少なくとも50ng/mlの濃度で用いられる。
本発明の一部の実施形態によれば、上記培養培地はさらに、血清代替物を含む。
本発明の一部の実施形態によれば、血清代替物が、少なくとも10%の濃度で用いられる。
本発明の一部の実施形態によれば、血清代替物は動物由来混入物を含まない。
本発明の一部の実施形態によれば、IL6RIL6キメラ体が50ng/ml〜150ng/mlの濃度で用いられる。
本発明の一部の実施形態によれば、IL6RIL6キメラ体が50pg/ml〜150pg/mlの濃度で用いられる。
本発明の一部の実施形態によれば、上記培養培地はさらに、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含む。
本発明の一部の実施形態によれば、bFGFが、少なくとも4ng/mlの濃度で用いられる。
本発明の一部の実施形態によれば、上記培養培地はさらに、アスコルビン酸を含む。
本発明の一部の実施形態によれば、アスコルビン酸が25μg/ml〜100μg/mlの濃度で用いられる。
本発明の一部の実施形態によれば、bFGFが100ng/mlの濃度で用いられ、かつIL6RIL6が100ng/mlの濃度で用いられる。
本発明の一部の実施形態によれば、bFGFが100ng/mlの濃度で用いられ、かつIL6RIL6が100pg/mlの濃度で用いられる。
本発明の一部の実施形態によれば、上記培養培地はさらに、TGFβを含む。
本発明の一部の実施形態によれば、TGFβはTGFβ1を含む。
本発明の一部の実施形態によれば、TGFβはTGFβ3を含む。
本発明の一部の実施形態によれば、上記培養培地は血清非含有である。
本発明の一部の実施形態によれば、上記培養培地は動物由来混入物を含まない。
本発明の一部の実施形態によれば、上記未分化状態の上記多能性幹細胞の拡大、および維持は懸濁培養で行われる。
本発明の一部の実施形態によれば、上記培養は静的な懸濁培養を含む条件下で行われる。
本発明の一部の実施形態によれば、上記培養は動的な懸濁培養を含む条件下で行われる。
本発明の一部の実施形態によれば、上記培養は上記多能性幹細胞を単一細胞として拡大することを可能にする条件下で行われる。
本発明の一部の実施形態によれば、上記培養は細胞クラスターの酵素的解離を含まない条件下で行われる。
本発明の一部の実施形態によれば、上記未分化状態の上記多能性幹細胞の拡大、および維持が二次元培養システムで行われる。
本発明の一部の実施形態によれば、二次元培養システムは、マトリックスと上記培養培地とを含む。
本発明の一部の実施形態によれば、上記多能性幹細胞は胚性幹細胞を含む。
本発明の一部の実施形態によれば、上記多能性幹細胞は誘導多能性幹(iPS)細胞を含む。
本発明の一部の実施形態によれば、胚性幹細胞はヒト胚性幹細胞である。
本発明の一部の実施形態によれば、誘導多能性幹細胞はヒト誘導多能性幹細胞である。
本発明の一部の実施形態によれば、上記培養培地は未分化状態の上記多能性幹細胞を拡大することができる。
本発明の一部の実施形態によれば、上記多能性幹細胞の少なくとも85%が未分化状態にある。
本発明の一部の実施形態によれば、上記培養条件は、インターロイキン11(IL11)および毛様体神経栄養因子(CNTF)を含む培養培地を含む。
本発明の一部の実施形態によれば、上記培養条件は、少なくとも50ng/mlの濃度の塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)と、IL6RIL6キメラ体とを含む培養培地を含む。
本発明の一部の実施形態によれば、上記培養条件は、動物由来混入物非含有の血清代替物と、IL6RIL6キメラ体とを含む培養培地を含む。
本発明の一部の実施形態によれば、上記培養条件は、可溶性インターロイキン6受容体(sIL6R)およびインターロイキン6(IL6)を含み、sIL6Rの濃度が少なくとも5ng/mlであり、かつIL6の濃度が少なくとも3ng/mlである血清非含有の培養培地を含む。
本発明の一部の実施形態によれば、上記培養条件は、インターロイキン11(IL11)およびオンコスタチンを含む培養培地を含む。
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、血清および血清代替物を含む培養培地が提供される。
本発明の一部の実施形態によれば、血清代替物が約10%の濃度で用いられる。
本発明の一部の実施形態によれば、血清が10%の濃度で用いられる。
本発明の一部の実施形態によれば、血清および血清代替物を含む上記培養培地はbFGFを含まない。
本発明の一部の実施形態によれば、血清および血清代替物を含む上記培養培地はIL6RIL6キメラ体を含まない。
本発明の一部の実施形態によれば、血清および血清代替物を含む上記培養培地はさらに、L−グルタミン、β−メルカプトエタノールおよび非必須アミノ酸ストック液を含む。
本発明の一部の実施形態によれば、血清および血清代替物を含む上記培養培地は、80%のDMEM/F12、10%のノックアウト血清代替物(SR)、10%のFBS、2mMのL−グルタミン、0.1mMのβ−メルカプトエタノール、1%の非必須アミノ酸ストック液からなる。
本発明の一部の実施形態によれば、血清および血清代替物を含む上記培養培地は、多能性幹細胞の間葉系幹細胞への懸濁状態での分化に好適である。
本発明の一部の実施形態によれば、多能性幹細胞の間葉系幹細胞への分化に好適な条件は、血清および血清代替物を含む培養培地を含む。
本発明の一部の実施形態によれば、上記方法はさらに、本発明の一部の実施形態の多能性幹細胞を非凍結の生細胞として輸送することを含む。
本発明の一部の実施形態によれば、上記多能性幹細胞は、当該細胞を非凍結の生細胞として輸送した後において依然として生存可能で、増殖性で、かつ未分化状態である。
別途定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術的用語および/または科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載される方法および材料と類似または同等である方法および材料を本発明の実施または試験において使用することができるが、例示的な方法および/または材料が下記に記載される。矛盾する場合には、定義を含めて、本特許明細書が優先する。加えて、材料、方法および実施例は例示にすぎず、限定であることは意図されない。
本発明の実施形態の方法および/またはシステムを実行することは、選択されたタスクを、手動操作で、自動的にまたはそれらを組み合わせて実行または完了することを含んでいる。さらに、本発明の装置、方法および/またはシステムの実施形態の実際の機器や装置によって、いくつもの選択されたステップを、ハードウェア、ソフトウェア、またはファームウェア、あるいはオペレーティングシステムを用いるそれらの組合せによって実行できる。
例えば、本発明の実施形態による選択されたタスクを実行するためのハードウェアは、チップまたは回路として実施されることができる。ソフトウェアとして、本発明の実施形態により選択されたタスクは、コンピュータが適切なオペレーティングシステムを使って実行する複数のソフトウェアの命令のようなソフトウェアとして実施されることができる。本発明の例示的な実施形態において、本明細書に記載される方法および/またはシステムの例示的な実施形態による1つ以上のタスクは、データプロセッサ、例えば複数の命令を実行する計算プラットフォームで実行される。任意選択的に、データプロセッサは、命令および/またはデータを格納するための揮発性メモリ、および/または、命令および/またはデータを格納するための不揮発性記憶装置(例えば、磁気ハードディスク、および/または取り外し可能な記録媒体)を含む。任意選択的に、ネットワーク接続もさらに提供される。ディスプレイおよび/またはユーザ入力装置(例えば、キーボードまたはマウス)も、任意選択的にさらに提供される。
本発明は、その一部の実施形態において、多能性幹細胞を未分化の状態で維持することができる新規の方法および培養培地、並びに細胞凝集塊を含まない単一幹細胞として懸濁培養で培養された新規の多能性幹細胞に関連し、より具体的には、これに限定はされないが、多能性幹細胞を増殖性かつ多能性の未分化状態で維持しながら二次元培養システムまたは三次元培養システムで培養する方法に関連する。
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳細に説明する前に、本発明は、その適用において、下記の説明に示される細部、または、実施例によって例示される細部に必ずしも限定されないことを理解しなければならない。本発明は他の実施形態が可能であり、あるいは、様々な方法で実施、または、実行される。また、本明細書中において用いられる表現法および用語法は説明のためであって、限定として見なされるべきでないことを理解しなければならない。
本発明者らは、骨の折れる(laborious)実験の後に、限定される培地を発見しており、それは、血清非含有および動物由来混入物非含有であり、かつ、ヒトiPSおよびESCなどの多能性幹細胞を、フィーダー細胞支持の不在下、未分化状態で維持する一方、全部で3つの胚性胚葉に分化させるその多能性能を保持することが可能である。
したがって、以下の実施例セクションで示されるように、(例えば成体または包皮繊維芽細胞由来の)hESCおよびiPS細胞は、血清非含有の限定培養培地(例えば、yFIL25,CMrb100F,CMrb100Fp,ILCNTF)の存在下で、並びに動物由来混入物非含有の血清代替物を含む十分に限定された培養培地(例えば、NCM100F,NCM100Fp、NCMrb100F,NCMrb100Fp,NILCNTF,CmHA13,CmHA13p)の存在下で二次元または三次元培養システム上で、未分化状態で培養された(上記培地は、臨床/治療用途に好適である。なぜなら、そこで培養されるヒト多能性幹細胞は、動物由来混入物を完全に欠いているからである)。さらに、以下の実施例の節の実施例4に示されるように、懸濁状態で培養された多能性幹細胞は、国を渡って移送される間も生きた細胞として生存しており、増殖性及び多能性を有したままであることができる。培養下で、多能性幹細胞は、未分化形態を示すとともに、iPSまたはhESCに典型的な分子特性、例えば正常な核型、多能性のマーカー(例えば、Oct4、SSEA4、TRA−1−81、TRA−1−60)の発現、および3つ胚性胚葉全部への分化能(インビトロ(少なくとも10継代後の胚様体の形成による)およびインビボ(少なくとも20継代後の奇形腫の形成による)の双方で)を示す。また、図7〜10に示され、以下の実施例の節の実施例7に記載されるように、多能性幹細胞は、ニューロン、内胚葉、および中胚葉細胞系譜の系譜特異的な細胞を生成させるために使用された。
加えて、本発明者らは、未分化の多能性幹細胞を、細胞凝集塊を含まない単一細胞としての懸濁培養で維持するための好適な培養条件を発見しており、また単一細胞としての懸濁培養で培養されるヒト多能性幹細胞の新規な集団を単離している。
したがって、下記の実施例の節の実施例3において明らかにされるように、本発明者らは多能性幹細胞(例えば、hESCおよびヒトiPS細胞)を、トリプシンまたはROCK阻害剤を使用することなく、(例えば、ピペットを使用して)当該細胞を機械的に継代することによって懸濁培養で培養した。細胞凝集塊を単一細胞に機械的に分離する約3回〜7回の継代後、多能性幹細胞は単一細胞様式の拡大を取り、この拡大は培養継代のための機械的分離を何ら必要とせず、したがってこれらの細胞の大量生産を可能にした。単一細胞として培養された懸濁培養物がMEF上に再置床されたとき、細胞は多能性幹細胞の典型的な形態学を有するコロニーを形成した(図11A〜図11B)。下記の実施例の節の実施例8においてさらに記載されるように、単一細胞としての懸濁培養で培養されたヒト多能性幹細胞は、MEF上で培養されるヒトESCと比較した場合、または細胞凝集塊としての懸濁培養で培養されるhESCと比較した場合、遺伝子発現のよりナイーブなパターンを示す。したがって、細胞凝集塊を含まない単一細胞としての懸濁状態で培養される多能性幹細胞の単離された集団はSSEA4−/TRA1−60−/TRA1−81−/SSEA1+の発現シグナチャーを示し(図12E、図12F、図12Iおよび図12J;表3)、これは、MEF上で培養されるか、または細胞凝集塊としての懸濁培養で培養されるヒトESCの典型的なSSEA4+/TRA1−60+/TRA1−81+/SSEA1−の発現シグナチャー(図12A、図12B、図12C、図12D、図12G、図12H;表3)とは異なっている。対照的に、単一細胞としての懸濁培養で培養された場合、多能性幹細胞は、MEF上(2−D)培養されるhESCと比較した場合、または細胞凝集塊としての懸濁培養で培養されるhESCと比較した場合、増大したレベルのOCT−4(多能性のマーカー)を示す(実施例8、図13A)。加えて、単一細胞としての懸濁状態で培養された多能性幹細胞は、2−Dで培養される多能性幹細胞(例えば、ROCK阻害剤の使用に依存して、4%〜18%の間)と比較した場合に、増大したクローニング効率(例えば、hESCについては約95%の効率)を示すこと(実施例9、表4)、凍結・解凍サイクルに対する増大した生存を示すこと(実施例9、図15)、ならびに遺伝子操作に対するより大きい生存および遺伝子操作のより高い効率を示すこと(実施例9、図16A〜図16B)が見出された。単一細胞としての懸濁状態で培養された多能性幹細胞は、胚の3つすべての胚葉への分化が可能であることが示された:すなわち、外胚葉の胚葉には、GFAP(グリア線維酸性タンパク質)(星状膠細胞のマーカー)、O4(乏突起膠細胞のマーカー)、ならびに、β−チューブリンおよびネスチン(ニューロンのマーカー)を発現するニューロン始原体細胞を形成することによって(実施例10、図17A〜図17C);中胚葉の胚葉には、CD73およびCD105の発現(実施例11、図18Aおよび図18C)、ならびに、CD31の非発現(実施例11、図18B)を有する間葉系幹細胞を形成することによって;内胚葉の胚葉には、PDX1を発現する内胚葉細胞を形成することによって(実施例12、図20A〜図20B)。加えて、本発明者らは、間葉系幹細胞への多能性幹細胞の懸濁培養でのインビトロ分化を初めて明示している(実施例11)。これらのMSCは、脂肪生成細胞系譜への分化(実施例11、図19D)、骨形成細胞系譜への分化(実施例11、図19C)および軟骨形成細胞系譜への分化(実施例11、データは示されず)が可能であった。まとめると、本明細書中において特定される新規な多能性幹細胞は、細胞由来の様々な治療、薬物スクリーニング、ワクチンの製造および/またはタンパク質の製造のための多能性の未分化幹細胞の無限の供給源として使用することができる。
したがって、本発明の一部の実施形態の一態様によれば、未分化状態の多能性幹細胞(PSC)を拡大し、かつ維持する方法であって、(a)前記PSCを、少なくとも2回、最大10回の継代にわたってPSC凝集塊の単一細胞への機械的解離による懸濁培養で継代し、それにより凝集塊を含まないPSCの懸濁培養物を得ること;および(b)前記凝集塊を含まないPSCの前記懸濁培養物を、前記凝集塊の解離を伴うことなく継代し、それにより前記未分化状態の前記PSCを拡大し、かつ維持することを含む方法が提供される。
本発明の一部の実施形態によれば、PSCを、PSC凝集塊の単一細胞への機械的解離によって懸濁培養で継代することが、少なくとも2回、最大9回の継代にわたって;少なくとも2回、最大8回の継代にわたって;少なくとも2回、最大7回の継代にわたって;少なくとも2回、最大6回の継代にわたって;少なくとも2回、最大5回の継代にわたって;少なくとも2回、最大4回の継代にわたって;少なくとも3回、最大9回の継代にわたって;少なくとも3回、最大8回の継代にわたって;少なくとも3回、最大7回の継代にわたって;少なくとも3回、最大6回の継代にわたって;少なくとも3回、最大5回の継代にわたって行われる。
本発明の一部の実施形態によれば、上記方法はさらに、上記PSCを、上記未分化状態の上記多能性幹細胞の拡大を可能にする条件下で培養することを含む。
本明細書で使用される表現「多能性幹細胞」は、細胞を3つの胚性胚葉(すなわち、内胚葉、外胚葉および中胚葉)全部に分化する能力を有する細胞を示す。表現「多能性幹細胞」は、胚性幹細胞(ESC)および/または誘導多能性幹細胞(iPS細胞)を意味することができる。
本明細書で使用される表現「胚性幹細胞」は、妊娠後に形成される胚性組織から得られる細胞(例えば胚盤胞)(着床前(すなわち着床前胚盤胞))、着床後期/原腸形成前期の胚盤胞から得られる拡張胚盤胞細胞(EBC)(国際公開第2006/040763号パンフレットを参照)、および妊娠期間中の任意の時期、好ましくは妊娠の10週以前に胎児の生殖器組織から得られる胚性生殖(EG)細胞を示す。
本発明の一部の実施形態によれば、本発明の多能性幹細胞は、例えばヒトまたは霊長動物(例えばサル)由来の胚性幹細胞である。
本発明の胚性幹細胞は、周知の細胞培養方法を用いて入手可能である。例えば、ヒト胚性幹細胞は、ヒト胚盤胞から単離しうる。ヒト胚盤胞は、典型的には、ヒト体内着床前胚または体外受精(IVF)胚から得られる。あるいは、単細胞ヒト胚は、胚盤胞期まで増殖しうる。ヒトES細胞の単離においては、透明帯が胚盤胞から除去され、内部細胞塊(ICM)が免疫手術によって単離され、ここでは栄養外胚葉細胞が溶解され、穏やかなピペッティングによって無傷ICMから除去される。次いで、ICMは、その増殖(outgrowth)を可能にする適切な培地を有する組織培養フラスコ内にプレーティングされる。9〜15日後、ICMから誘導された増殖物は、機械的解離または酵素的分解のいずれかによって塊に解離され、次いで細胞は、新しい組織培地上に再プレーティングされる。未分化形態を示すコロニーは、マイクロピペットによって個別に選択され、塊に機械的に解離され、再プレーティングされる。次いで、得られたES細胞は、4〜7日ごとに定期的に分割される。ヒトES細胞の調製方法に関するさらなる詳細については、Thomsonら、[米国特許第5,843,780号明細書;Science 282:1145頁、1998年;Curr.Top.Dev.Biol.38:133頁、1998年;Proc.Natl.Acad.Sci.USA92:7844頁、1995年];Bongsoら[Hum Reprod 4:706頁、1989年];およびGardnerら[Fertil.Steril.69:84頁、1998年]を参照のこと。
市販の幹細胞が本発明のこの態様でも使用可能であることは理解されるであろう。ヒトES細胞は、NIHヒト胚性幹細胞レジストリー(NIH human embryonic stem cells registry)(www://escr.nih.gov)から購入することができる。市販の胚性幹細胞系の非限定例として、BG01、BG02、BG03、BG04、CY12、CY30、CY92、CY10、TE03、TE04およびTE06が挙げられる。
拡張胚盤胞細胞(EBC)は、受精の少なくとも9日後の原腸形成前期の胚盤胞から入手可能である。胚盤胞を培養する前、内部細胞塊を露出させるため、透明帯は[例えばタイロード酸性溶液(Sigma Aldrich(St Louis,MO,USA))により]消化される。次いで、胚盤胞は、標準の胚性幹細胞培養方法を用い、受精後少なくとも9日から14日以下にわたり(すなわち原腸形成事象前)、インビトロで全胚として培養される。
胚性生殖(EG)細胞は、当業者に既知の実験技術を用い、(ヒト胎児の場合)妊娠から約8〜11週目の胎児から得られる始原生殖細胞から調製される。生殖隆起は、解離され、小塊に切断され、その後、機械的解離により、細胞に分離される。次いで、EG細胞は、適切な培地を有する組織培養フラスコ内で増殖される。細胞は、EG細胞に一致した細胞形態が認められるまで、典型的には7〜30日または1〜4継代にわたり、毎日交換される培地で培養される。ヒトEG細胞の調製方法に関するさらなる詳細については、Shamblottら、[Proc.Natl.Acad.Sci.USA95:13726頁、1998年]および米国特許第6,090,622号明細書を参照のこと。
本明細書で使用される表現「誘導多能性幹(iPS)細胞」(または胚性様幹細胞)は、体細胞(例えば成体体細胞)の脱分化によって得られる増殖性および多能性幹細胞を示す。
本発明の一部の実施形態によれば、iPS細胞は、ESCの場合と同様の増殖能によって特徴づけられ、それ故、ほぼ無限の時間、培養下で維持・拡大されうる。
IPS細胞は、細胞を再プログラム化し、胚性幹細胞特性を得る遺伝子操作により、多能性を与えられることが可能である。例えば、本発明のiPS細胞は、TakahashiおよびYamanaka、2006年、Takahashiら、2007年、Meissnerら、2007年、およびOkita K.ら、2007年、Nature 448:313−318頁)において本質的に記載のように、体細胞内でのOct−4、Sox2、Kfl4およびc−Mycの発現の誘発により、体細胞から生成しうる。それに加え、またはそれに代わり、本発明のiPS細胞は、Yuら、2007年およびNakagawaら、2008年において本質的に記載のように、Oct4、Sox2、NanogおよびLin28の発現の誘発により、体細胞から生成しうる。体細胞の遺伝子操作(再プログラミング)は、プラスミドまたはウイルスベクターの使用などの任意の既知の方法を用いるか、またはゲノムへの組込みを全く伴わない誘導により、実施可能であることは注目されるべきである[Yu J.ら、Science.2009年、324:797−801頁]。
本発明のiPS細胞は、胚性線維芽細胞[TakahashiおよびYamanaka、2006年;Meissnerら、2007年]、hESCから形成される線維芽細胞[Parkら、2008年]、胎児線維芽細胞[Yuら、2007年;Parkら、2008年]、包皮線維芽細胞[Yuら、2007年;Parkら、2008年]、成体皮膚および皮膚組織[Hannaら、2007年;Lowryら、2008年]、b−リンパ球[Hannaら、2007年]、ならびに成体肝および胃細胞[Aoiら、2008年]の脱分化を誘発することによって入手可能である。
IPS細胞系はまた、WiCellバンクなどの細胞バンクを介して入手可能である。市販のiPS細胞系の非限定例として、iPS包皮クローン1[WiCellカタログ番号:iPS(包皮)−1−DL−1]、iPSIMR90クローン1[WiCellカタログ番号:iPS(IMR90)−1−DL−1]、およびiPSIMR90クローン4[WiCellカタログ番号:iPS(IMR90)−4−DL−1]が挙げられる。
本発明の一部の実施形態によれば、誘導多能性幹細胞は、ヒト誘導多能性幹細胞である。
本明細書中で使用される場合、用語「拡大する」は、多能性幹細胞の数を培養期間にわたって(少なくとも約5%、10%、15%、20%、30%、50%、100%、200%、500%、1000%以上)増大させることを示す。多能性幹細胞の数は、ただ1個の多能性幹細胞から得ることができるので、多能性幹細胞の増殖能に依存することが理解されるであろう。多能性幹細胞の増殖能は、当該細胞の倍加時間(すなわち、細胞が培養において有糸分裂を受けるために必要とされる時間)と、多能性幹細胞培養が未分化状態で維持され得る期間(これは、それぞれの継代の間の日数が乗じられる継代数に等しい)とによって計算することができる。
本発明の一部の実施形態によれば、本発明の一部の実施形態の方法は、ただ1個の多能性幹細胞(例えば、hESCまたはヒトiPS細胞)を5日で少なくとも8倍拡大すること(例えば、5日で少なくとも16倍、例えば、5日で少なくとも32倍、例えば、5日で少なくとも64倍)を可能にする。
本発明の一部の実施形態によれば、本発明の一部の実施形態の方法は、ただ1個の多能性幹細胞(例えば、hESCまたはヒトiPS細胞)、または2個〜100個の細胞の小さいクラスターを約1ヶ月のうちに少なくとも28倍拡大すること(例えば、210倍、例えば、214倍、例えば、216倍、例えば、218倍、例えば、220倍)を可能にする。
本明細書中で使用される場合、用語「凝集塊」は、懸濁状態において互いに接着する細胞のクラスターを示す。
本発明の一部の実施形態によれば、細胞凝集塊は、懸濁培養の培地が凝集塊の機械的解離または酵素的解離を何ら用いることなく変えられるとき(例えば、増大されるとき、減少されるとき、または取り替えられるとき)無傷のままである。
本発明の一部の実施形態によれば、多能性幹細胞凝集塊のそれぞれが、少なくとも約200個の細胞(例えば、約200個)を含み、例えば、少なくとも約500個の細胞(例えば、約500個)、少なくとも約600個の細胞(例えば、約600個)、少なくとも約700個の細胞(例えば、約700個)、少なくとも約800個の細胞(例えば、約800個)、少なくとも約900個の細胞(例えば、約900個)、少なくとも約1000個の細胞(例えば、約1000個)、少なくとも約1100個の細胞(例えば、約1100個)、少なくとも約1200個の細胞(例えば、約1200個)、少なくとも約1300個の細胞(例えば、約1300個)、少なくとも約1400個の細胞(例えば、約1400個)、少なくとも約1500個の細胞(例えば、約1500個)、少なくとも約5×103個の細胞(例えば、約5×103個)、少なくとも約1×104個の細胞(例えば、約1×104個)、少なくとも約5×104個の細胞(例えば、約5×104個)、少なくとも約1×105個の細胞(例えば、約1×105個)またはそれ以上を含む。
本明細書中で使用される場合、用語「継代する」は、培養容器における細胞を2つ以上の培養容器に分けることを示し、これには典型的には、新鮮な培地を加えることが含まれる。継代は典型的には、細胞が培養においてある密度に達したときに行われる。
本発明の一部の実施形態によれば、約1×106細胞/ミリリットルの濃度で播種される細胞培養物を静的な三次元培養システムのもとで継代することが、細胞の濃度が約2倍または3倍に増大したとき(例えば、約2×106細胞/ml〜3×106細胞/mlの濃度で)であって、最大約4倍まで増大したとき(例えば、約4×106細胞/mlの濃度で)に行われる。
本発明の一部の実施形態によれば、約1×106細胞/ミリリットルの濃度で播種される細胞培養物を動的な三次元培養システムのもとで継代することが、細胞の濃度が約20倍〜40倍に増大したとき(例えば、約20×106細胞/ml〜40×106細胞/mlの濃度で)であって、最大約50倍まで増大したとき(例えば、約50×106細胞/mlの濃度で)に行われる。
本発明の一部の実施形態によれば、継代には細胞培養における細胞凝集塊の解離を必ずしも必要としない。
本明細書中で使用される場合、表現「機械的解離」は、多能性幹細胞凝集塊を酵素活性ではなく、むしろ物理的な力を用いることによって単一細胞に分離することを示す。
本明細書中で使用される場合、表現「単一細胞」は、多能性幹細胞が、それぞれのクラスターが約200個超の多能性幹細胞を含む細胞クラスターを懸濁培養において形成しない状態を示す。
本発明の一部の実施形態によれば、多能性幹細胞は、それぞれのクラスターが、約150個超、約100個超、約90個超、約80個超、約70個超、約60個超、約50個超、約40個超、約30個超、約20個超、約19個超、約18個超、約17個超、約16個超、約15個超、約14個超、約13個超、約12個超、約11個超、約10個超、約9個超、約8個超、約7個超、約6個超、約5個超、約3個超、約2個超または約1個超の多能性幹細胞を含む細胞クラスターを懸濁培養において形成しない。
本発明の一部の実施形態によれば、複数の多能性幹細胞のそれぞれは、懸濁培養されている間は別の多能性幹細胞に接着しない。
機械的解離のために、多能性幹細胞のペレット(これは細胞の遠心分離によって達成され得る)、または単離された多能性幹細胞凝集塊を、細胞を少量の培地(例えば、0.2ml〜1ml)において上下にピペッティングすることによって解離させることができる。例えば、ピペッティングを、200μlまたは1000μlのピペットのチップを使用して数回(例えば、3回〜20回の間)行うことができる。
加えて、または代わりに、大きい多能性幹細胞凝集塊の機械的解離を、凝集塊を所定のサイズに壊すために設計されたデバイスを使用して行うことができる。そのようなデバイスを、CellArtis(Goteborg、スウェーデン)から得ることができる。加えて、または代わりに、機械的解離を、凝集塊を倒立型顕微鏡で見ながら、ニードル(例えば、27gのニードル(BD Microlance、Drogheda、アイルランド)など)を使用して手作業で行うことができる。
本発明の一部の実施形態によれば、継代は酵素的解離がない条件下で行われる。
本発明の一部の実施形態によれば、懸濁状態での培養は細胞クラスター/凝集塊の酵素的解離がない条件下で行われる。
本発明の一部の実施形態によれば、培養条件は抗アポトーシス剤を使用することを含まない。
本発明の一部の実施形態によれば、培養条件はRho会合キナーゼ(ROCK)阻害剤を使用することを含まない。
本発明の一部の実施形態によれば、培養は少なくとも1回の継代にわたって、少なくとも2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回、11回、12回、13回、14回、15回、16回、17回、18回、19回、20回の継代にわたって、未分化の多能性状態において行われる。
本発明者らは、懸濁培養における多能性幹細胞が、少なくとも約2回、最大約10回の継代にわたって、細胞クラスターの酵素的解離を伴うことなく機械的に継代されるとき、多能性幹細胞が単一細胞様式の細胞成長を取ること(すなわち、多能性幹細胞が、細胞凝集塊としてではなく、単一細胞として拡大されること)を発見している。したがって、下記の実施例の節の実施例3において記載されるように、細胞凝集塊の機械的解離のみによって最初の2回〜10回の継代にわたって継代されながら懸濁状態で培養された細胞は、少なくとも約15回、20回または25回のさらなる継代にわたって、単一細胞様式の拡大を取り、かつ細胞クラスターのさらなる解離を必要とすることなく成長した。
細胞が単一細胞として培養される間、細胞は依然として、細胞の濃度が約1×106細胞/ミリリットル(例えば、5mlのペトリディッシュあたり5×106細胞)を超えるときには希釈されることが必要であることに留意しなければならない。
本明細書中で使用される場合、表現「懸濁培養」は、多能性幹細胞が表面に接着するのではなく、むしろ培地に懸濁される培養を示す。
多能性幹細胞(例えば、hESCおよびiPS細胞など)を培養するいくつかのプロトコルは、半透過性ヒドロゲル膜の内側への細胞のマイクロカプセル化(この場合、半透過性ヒドロゲル膜により、栄養分、ガスおよび代謝産物の、カプセルを取り囲む培地全体との交換を行うことができる)を含むことに留意しなければならない(詳細については、例えば、米国特許出願公開第20090029462号(Beardsley他)を参照のこと)。
本発明の一部の実施形態によれば、懸濁培養で培養される多能性幹細胞は、細胞のカプセル化が行われない。
本発明の一部の実施形態によれば、多能性幹細胞を懸濁状態で培養するための条件は、基体接着がない(例えば、外部の基体(例えば、細胞外マトリックスの成分、ガラスマイクロキャリアまたはビーズなど)への接着がない)ことである。
本発明の一部の実施形態によれば、多能性幹細胞を懸濁状態で培養するための培養培地および/または条件には、タンパク質キャリアが含まれない。
本明細書中で使用される場合、表現「タンパク質キャリア」は、培養中の細胞へのタンパク質または栄養分(例えば、亜鉛などのミネラル)の輸送において作用するタンパク質を示す。そのようなタンパク質キャリアは、例えば、アルブミン(例えば、ウシ血清アルブミン)、Albumax(脂質富化アルブミン)またはプラスマネート(ヒト血漿の単離タンパク質)が可能である。これらのキャリアはヒト供給源または動物供給源のどちらにも由来するので、ヒトiPS細胞培養物のhESCにおけるそれらの使用が、バッチ特異的な変動、および/または病原体への暴露によって制限される。したがって、タンパク質キャリア(例えば、アルブミン)を含まない培養培地が非常に好都合である。これは、そのような培養培地は、組換え材料または合成材料から製造することができる真に定義された培地を可能にするからである。
本発明の一部の実施形態の方法に従って懸濁培養で培養することが、多能性幹細胞を、細胞の生存および増殖を促進させるが分化を制限する細胞密度で培養容器に置床することによって行われる。典型的には、約1×103細胞/ml〜約2×106細胞/mlの間の置床密度(または播種密度)が使用される。バイオリアクターが使用されるとき、バイオリアクターにおいて播種される細胞の濃度は約1×104細胞/mlから約106細胞/mlまでが可能である。幹細胞の単一細胞懸濁物が通常は播種されるが、小さいクラスター(例えば、10個〜200個の細胞など)もまた使用され得ることが理解されるであろう。
多能性幹細胞に懸濁培養中における栄養分および増殖因子の十分かつ一定した供給をもたらすために、培養培地は毎日取り換えることができ、または所定のスケジュールで、例えば、2〜3日毎に取り換えることができる。例えば、培養培地の取り換えを、多能性幹細胞の懸濁培養物を80gでの約3分間の遠心分離に供し、形成された多能性幹細胞ペレットを新鮮な培地に再懸濁することによって行うことができる。加えて、または代わりに、培養培地を一定したろ過または透析に供し、その結果多能性幹細胞への栄養分または増殖因子の一定した供給をもたらす培養システムを用いることができる。
多能性幹細胞を本発明の一部の実施形態の方法に従って懸濁状態で培養するために使用される培養容器は、その中で培養される多能性幹細胞が内部表面に接着または付着することができないように設計された表面(例えば、表面への付着または接着を防止するための非組織培養用の処理されたセル)を有する組織培養容器(例えば、多能性幹細胞を培養するために好適な純度規格を有するもの)のいずれも可能である。好ましくは、スケール変更可能な培養を得るために、本発明の一部の実施形態に従った培養は、様々な培養パラメーター(例えば、温度、撹拌、pHおよびpO2など)が好適なデバイスを使用して自動的に実施される制御された培養システム(好ましくは、コンピューター制御された培養システム)を使用して行われる。培養パラメーターが記録されると、システムは、多能性幹細胞の拡大のために必要とされる培養パラメーターの自動調節のために設定される。
本発明の一部の実施形態によれば、培養は静的(すなわち、非動的)な懸濁培養を含む条件下で行われる。
多能性幹細胞の非動的培養のために、多能性幹細胞は非被覆の58mmのペトリディッシュ(Greiner、Frickenhausen、ドイツ)で培養することができる。例えば、懸濁培養を58mmペトリディッシュで開始するために、多能性幹細胞が1×106細胞/ディッシュ〜5×106細胞/ディッシュの細胞密度で播種される。
非動的な懸濁培養の間、多能性幹細胞は、細胞凝集塊を上記のように解離し、培養物を約1:2〜1:4の比率でさらなる培養容器に分けることによって5〜7日毎に継代することができる。
本発明の一部の実施形態によれば、培養は(例えば、Waveリアクターまたは撹拌型リアクターを使用して)動的な懸濁培養を含む条件下で行われる。
多能性幹細胞の動的培養のために、多能性幹細胞は、制御装置に接続することができ、したがって制御された培養システムをもたらすスピナーフラスコ[例えば、200ml〜1000mlのスピナーフラスコ、例えば、CellSpin(Integra Biosciences、Fernwald、ドイツ)から得ることができる250mlのスピナーフラスコ、Bellco(Vineland、NJ)から得ることができる100mlのスピナーフラスコ、または125mlの三角フラスコ(Corning Incorporated、Corning NY、米国)]において培養することができる。培養容器(例えば、スピナーフラスコ、三角フラスコ)は絶え間なく振とうされる。本発明の一部の実施形態によれば、培養容器は、磁石プレートを使用して40〜110回転/分(rpm)で振とうされ、インキュベーターの中に置かれる。加えて、または代わりに、培養容器は振とう機(S3.02.10L、ELMI ltd(Riga、ラトビア))を使用して振とうすることができる。本発明の一部の実施形態によれば、培養培地は1〜3日毎に、例えば、毎日交換される。培地をインペラーによって撹拌し、かつ本発明の一部の実施形態による培養培地における多能性幹細胞の動的培養のために使用することができる他の好適な制御されたバイオリアクターには、Biostat(登録商標)Aplus細胞培養(Sartorius North America、Edgewood、New York、米国)、Cell Liftインペラー(Infors HT、Rittergasse、スイス)を備えるCell Optimizer制御型バイオリアクター(Wheaton Science Products、Millville、NJ、米国)、Informs HT Multifors撹拌型リアクター(Informs GA、CH−4103 Bottmingen、スイス)が含まれる。
加えて、または代わりに、多能性幹細胞の動的培養を、細胞の動力学が波のような動きによって達成される制御されたバイオリアクター、例えば、Biostat(登録商標)Cultibag RM(Sartorius North America、Edgewood、New York、米国)(1リットルに関しては2リットルバッグ)などを使用して達成することができる。リアクターのパラメーターには、傾動速度:10〜16回/分(rpm)、角度:7°、温度:37℃、pH:7〜7.4、O2濃度:50%が含まれ得る。別の好適なバイオリアクターが、WavePodシステム20/50 EH5 Wave Bioreactor(GE Healthcare、米国)であり、これは同じパラメーターを使用する一方で、12日間で70倍の増大を可能にする。さらなる好適なバイオリアクターが、リアクター内における最小限の剪断力を可能にする55mlのRWV/STLVバイオリアクター(Synthecon Incorporated、Houston、TX、米国)である。
例えば、懸濁培養を動的条件下で開始するために、多能性幹細胞が約104細胞/ml〜106細胞/mlの密度で播種される。
動的な懸濁培養の間、多能性幹細胞は、細胞凝集塊を上記のように解離させることによって5〜7日毎に継代することができる。バイオリアクターは大きい容量を有するので、細胞培養はさらなる培養容器にさらに分けられることを必要とせず、培地の添加および/または新鮮な培地による培地の取り換えのみを3〜10日毎に行うことができる。
本発明の教示は、多能性幹細胞株を導出するために使用することができる。
用語「導出する」は、本明細書中で使用される場合、胚性幹細胞株または誘導多能性幹細胞株を少なくとも1個の胚性幹細胞または誘導多能性細胞から作製することを示す。
本明細書中で使用される場合、表現「胚性幹細胞株」は、単一生物のただ1個の胚性幹細胞または一群の胚性幹細胞(例えば、ただ1個のヒト胚盤胞)に由来し、かつ未分化状態および多能性能力を維持しながら培養において増殖することができることによって特徴づけられる胚性幹細胞を示す。
本明細書中で使用される場合、表現「誘導多能性幹細胞株」は、単一生物のただ1個の誘導多能性幹細胞または一群の多能性幹細胞に由来し、かつ未分化状態および多能性能力を維持しながら培養において増殖することができることによって特徴づけられる誘導多能性幹細胞を示す。
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、胚性幹細胞株を導出する方法であって、(a)胚性幹細胞(ESC)を、着床前段階の胚盤胞、着床後段階の胚盤胞および/または胎児の生殖組織から得ること;および(b)前記ESCを、少なくとも2回、最大10回の継代にわたって、ESC凝集塊の単一細胞への機械的解離によって懸濁培養で継代し、それにより凝集塊を含まないESCの懸濁培養物を得ること;および(c)凝集塊を含まないESCの前記懸濁培養物を、凝集塊の解離を伴うことなく継代し、それにより前記胚性幹細胞株を導出することを含む方法が提供される。
胚性幹細胞を、着床前段階の胚盤胞、着床後段階の胚盤胞および/または胎児の生殖組織から得ることは、この技術分野で公知の方法および本明細書中上記で記載されるような方法を使用して行うことができる。
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、胚性幹細胞株を導出する上記方法はさらに、上記ESCを上記未分化状態の上記胚性単一幹細胞の拡大を可能にする条件下で培養することを含む。
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、誘導多能性幹細胞(iPS細胞)株を導出する方法であって、体細胞を多能性幹細胞に誘導すること、および未分化状態の前記誘導多能性幹細胞を本発明の一部の実施形態の方法に従って(例えば、本明細書中上記および下記の実施例の節において記載されるように)拡大し、かつ維持し、それにより前記誘導多能性幹細胞(iPS細胞)株を導出することを含む方法が提供される。
上述されるように、また、下記の実施例の節の表4および実施例9において記載されるように、単一細胞としての懸濁状態で培養される多能性幹細胞のクローニング効率が、抗アポトーシス剤(例えば、ROCK阻害剤など)を使用することなく2次元培養システムで培養されるとき(例えば、MEF上で培養されるとき)の同じ細胞のクローニング効率よりも著しく高い。
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、多能性幹細胞をクローニングする方法が提供される。この方法は、本発明の一部の実施形態の方法に従って得られる単一多能性幹細胞(すなわち、1個の細胞)、または本発明の一部の実施形態の方法に従って得られる単一胚性幹細胞(すなわち、1個の細胞)を、未分化状態の前記単一多能性幹細胞の拡大または前記単一胚性幹細胞の拡大を可能にする条件下での懸濁培養で培養し、それにより前記単一多能性幹細胞または前記胚性幹細胞をクローン培養物に拡大し、それにより前記多能性幹細胞をクローニングすることを含む方法が提供される。
本発明の一部の実施形態によれば、単一細胞懸濁培養物の培養が、細胞凝集塊を解離させることなく行われる。
下記の実施例の節の実施例9において記載されるように、同一アッセイ条件下では、懸濁培養において単一細胞として培養される多能性幹細胞は、凍結−解凍サイクルに対するより大きい耐性(例えば、約80%の生存)を、同じ細胞が2−Dで培養されるとき(例えば、MEF上で培養されるとき、50%までの生存)と比較した場合に有する。
本発明の一部の実施形態によれば、多能性幹細胞は、多能性幹細胞が懸濁培養において単一細胞として培養される場合、少なくとも1サイクル、少なくとも2サイクル、少なくとも3サイクル、少なくとも4サイクル、少なくとも5サイクル、少なくとも6サイクル、少なくとも7サイクル、少なくとも8サイクル、少なくとも9サイクル、少なくとも10サイクル(例えば、10サイクルまで)の凍結/解凍を、その多能性能力を保ちながら、未分化状態の細胞の増殖能を妨げることなく受けることができる。
下記の実施例の節の実施例8において記載されるように、懸濁培養において単一細胞として本発明の一部の実施形態の方法に従って培養される多能性幹細胞は独特の発現パターンを示し、この発現パターンはhESCの発現パターンとわずかに異なっているがマウスESCの発現パターンに類似している(TRA1−60−/TRA1−81−/SSEA1+/SSEA4−;Pera M.F.他、2000.Journal of Cell Science、113、5〜10(ヒト胚性幹細胞、解説)を参照のこと)。したがって、表3および図13Aに示されるように、(細胞凝集塊を含まない)単一細胞としての懸濁培養で培養される多能性幹細胞は、OCT4(多能性のマーカー)を、MEF上で培養される多能性幹細胞におけるOCT4 RNAのレベルと比較した場合、または(例えば、凝集塊あたり約200個〜1×105個を超える細胞を有する凝集塊を用いて)細胞凝集塊としての懸濁培養で培養される多能性幹細胞におけるOCT4 RNAのレベルと比較した場合、有意により大きいレベル(例えば、約8倍より大きいRNAレベル)で発現する。
本発明の一部の実施形態の方法に従って培養される細胞はさらに単離することができる。
したがって、本発明の一部の実施形態の一態様によれば、本発明の一部の実施形態の方法に従って作製され、かつ内胚葉、外胚葉および中胚葉の、胚の各胚葉に分化することができる多能性幹細胞の単離された集団が提供される。
図12A〜図12Jに示されるように、また下記の実施例の節の実施例8において記載されるように、単一細胞としての懸濁状態で培養された多能性幹細胞は、TRA1−60、TRA1−81またはSSEA−4を発現しないが、SSEA1を発現する。
したがって、本発明の一部の実施形態の一態様によれば、OCT4+/TRA1−60−/TRA1−81−/SSEA1+/SSEA4−の発現シグナチャーによって特徴づけられるヒト多能性幹細胞を少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%(例えば、70%)、少なくとも約75%(例えば、75%)、少なくとも約80%(例えば、80%)、少なくとも約81%(例えば、81%)、少なくとも約82%(例えば、82%)、少なくとも約83%(例えば、83%)、少なくとも約84%(例えば、84%)、少なくとも約85%(例えば、85%)、少なくとも約86%(例えば、86%)、少なくとも約87%(例えば、87%)、少なくとも約88%(例えば、88%)、少なくとも約89%(例えば、89%)、少なくとも約90%(例えば、90%)、少なくとも約91%(例えば、91%)、少なくとも約92%(例えば、92%)、少なくとも約93%(例えば、93%)、少なくとも約94%(例えば、94%)、少なくとも約95%(例えば、95%)、少なくとも約96%(例えば、96%)、少なくとも約97%(例えば、97%)、少なくとも約98%(例えば、98%)、少なくとも約99%(例えば、99%)、例えば、100%含む、ヒト多能性幹細胞の単離された集団が提供され、ここでヒト多能性幹細胞は、内胚葉、外胚葉および中胚葉の、胚の各胚葉に分化することができる。
本発明の一部の実施形態によれば、単離された細胞集団は、同一アッセイ条件下では、Rex1、Sox2、EGFR、TGA7、TGA6、ITGA2、CTNNB1、CDH1を、MEF上で培養されるhESCと(同じ桁の範囲内での)匹敵し得るレベルで発現する細胞と、MEF上で培養されるhESCと比較した場合には有意により大きいレベルのFBLN5およびPLXNA2を発現する細胞とを含む。
下記の実施例の節の実施例1および実施例2において記載されるように、本発明者らは、多能性幹細胞を増殖性の未分化状態で維持し、かつ拡大するために使用することができる新規な培養培地を発見している。
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、多能性幹細胞を、二次元培養システムまたは三次元培養システムのもと、フィーダー細胞支持体の非存在下、増殖性かつ多能性の未分化状態で維持し、かつ拡大するために好適な定義された培養培地が提供される。
本明細書で使用される表現「培養培地」は、多能性幹細胞の増殖を支持し、それらを未分化状態で維持するのに使用される液体物質を示す。一部の実施形態に従う本発明によって使用される培養培地は、水に基づく培地であることができ、それは、塩、栄養素、ミネラル、ビタミン、アミノ酸、核酸、タンパク質、例えば、サイトカイン、増殖因子およびホルモンなどの物質の組み合わせを含み、それらのすべては、細胞増殖にとって必要であり、多能性幹細胞を未分化状態で維持する能力を有する。例えば、本発明の一部の実施形態の態様に従う培養培地は、合成組織培養培地、例えば、以下にさらに記載のように、必要な添加物が補充された、Ko−DMEM(Gibco−Invitrogen corporation製品(Grand Island,NY,USA))、DMEM/F12(Biological Industries(Biet Haemek,Israel))、Mab ADCB培地(HyClone(Utah,USA))、Nutristem(商標)(Biological Industries,Beit HaEmek,Israel;Stemedia(商標)NutriStem(商標)XF/FF培養培地,STEMGENT,USAとしても知られている),TeSR(商標)(StemCell Technologies)およびTeSR2(商標)(StemCell Technologies)でありうる。
本発明の一部の実施形態によれば、培養培地は、80〜90%の範囲、例えば約85%の濃度のDMEM/F12を含む。
本発明の一部の実施形態によれば、培養培地は血清を含有しない。
本明細書で使用される表現「血清非含有」は、ヒトまたは動物血清を含まないことを示す。
培養プロトコル上での血清の機能が、培養細胞を、インビボで存在する場合と同様の環境(すなわち、細胞が由来する生物の内部、例えば胚の胚盤胞)に提供することであることは注目されるべきである。しかし、動物源(例えばウシ血清)またはヒト源(ヒト血清)のいずれかに由来する血清の使用は、ドナー個体間(それらから血清が得られる)での血清成分中の有意な差異と異種成分由来混入物を有するリスク(動物血清が使用される場合)とによる制限を受ける。
本発明の一部の実施形態によれば、血清非含有培養培地は、血清またはその一部を含まない。
本発明の一部の実施形態によれば、本発明の血清非含有培養培地は、血清アルブミン(例えば、ヒト血清または動物血清から精製されたアルブミン)を含まない。
本発明の一部の実施形態によれば、培養培地は、血清代替物を含む。
本明細書で使用される表現「血清代替物」は、血清の機能を、多能性幹細胞に増殖および生存にとって必要とされる成分を提供することによって代替する、限定された製剤を示す。
様々な血清代替物製剤(serum replacement formulation)は、当該技術分野で既知であり、市販されている。
例えば、GIBCO(商標)Knockout(商標)Serum Replacement(Gibco−Invitrogen Corporation(Grand Island,NY,USA)、カタログ番号10828028)は、培養下で未分化ES細胞を増殖および維持するように最適化された、限定された無血清製剤である。GIBCO(商標)Knockout(商標)Serum Replacementの製剤が、動物源に由来するAlbumax(脂質を豊富に含有するウシ血清アルブミン)を含むことは注目されるべきである(国際特許公開番号、国際公開第98/30679号パンフレット(Price P.J.らに付与))。しかし、Crookら、2007年による最近の出版物(Crook J.M.ら、2007年、Cell Stem Cell,1:490−494頁)は、cGMPに基づいて作製されたKnockout(商標)Serum Replacement(Invitrogen Corporation,USA、カタログ番号04−0095)中のFDAで承認された臨床グレードの包皮線維芽細胞を使用して生成された6つの臨床グレードのhESC系について記載している。
別の市販されている血清代替物は、Gibco−Invitrogen Corporation,Grand Island,NY USA、カタログ番号12587−010から入手可能である、ビタミンAを有しないB27補給物である。B27補給物は、d−ビオチン、脂肪酸遊離画分Vウシ血清アルブミン(BSA)、カタラーゼ、L−カルニチンHCl、コルチコステロン、エタノールアミンHC1、D−ガラクトース(Anhyd.)、グルタチオン(還元)、組換えヒトインスリン、リノール酸、リノレン酸、プロゲステロン、プトレッシン−2−HCl、亜セレン酸ナトリウム、超過酸化物不均化酵素、T−3/アルブミン複合体、DLα−トコフェロール、および酢酸DLαトコフェロールを含む血清非含有製剤である。しかし、B27補給物の使用は、それが動物源由来のアルブミンを含むことから、限定される。
本発明の一部の実施形態によれば、血清代替物は動物由来混入物を含まない(全く含有しない)。そのような混入物は、ヒト細胞に感染し得る病原体、動物の細胞成分または無細胞成分(流体)であり得る。
動物由来混入物非含有の血清代替物が、ヒト細胞を培養するために使用されるとき、そのような血清代替物は「異種非含有」であるとして示されることに留意しなければならない。
用語「異種(xeno)」は、ギリシャ語「クセノス(Xenos)」、すなわちストレンジャー(stranger)に基づく接頭辞である。本明細書で使用される表現「異種成分不含(xeno−free)」は、クセノス(すなわち同一でない、外来)種に由来する一切の成分/混入物を含有しないことを示す。
例えば、ヒト細胞と共に使用するための異種成分非含有血清代替物(即ち、動物由来混入物非含有血清代替物)は、インスリン、トランスフェリンおよびセレンの組み合わせを含みうる。それに加え、またはそれに代わり、異種成分非含有血清代替物は、ヒトまたは組換え生成アルブミン、トランスフェリンおよびインスリンを含みうる。
市販の異種成分非含有血清代替物組成物の非限定例として、Invitrogen corporationから入手可能なITS(インスリン、トランスフェリンおよびセレン)の予混合物(ITS,Invitrogen、カタログ番号51500−056);ヒト血清アルブミン、ヒトトランスフェリンおよびヒト組換えインスリンを含み、かつ、増殖因子、ステロイドホルモン、グルココルチコイド、細胞接着因子、検出可能なIgおよびマイトジェンを含有しないSerum replacement 3(Sigma、カタログ番号S2640)、ヒト由来のタンパク質またはヒト組換えタンパク質のみを含むKnockOut(商標) SR XenoFree(カタログ番号 A10992−01,A10992−02、パート番号12618−012または12618−013,Invitrogen GIBCO)が挙げられる。
本発明の一部の実施形態によれば、ITS(Invitrogen corporation)またはSR3(Sigma)異種成分非含有血清代替製剤は、×1の作用濃度に達するように、1:100比に希釈される。
本発明の一部の実施形態によれば、培養培地における血清代替物[例えば、KnockOut(商標)SR XenoFree(Invitrogen)]の濃度が約1%[体積/体積(v/v)]から約50%(v/v)までの範囲であり、例えば、5%(v/v)〜約40%(v/v)の範囲、例えば、約5%(v/v)〜約30%(v/v)の範囲、例えば、約10%(v/v)〜約30%(v/v)の範囲、例えば、約10%(v/v)〜約25%(v/v)の範囲、例えば、10%(v/v)〜約20%(v/v)の範囲、例えば、約10%(v/v)、例えば、約15%(v/v)、例えば、約20%(v/v)、例えば、約30%(v/v)である。
本発明の一部の実施形態によれば、培養培地は、多能性幹細胞を、少なくとも5回の継代にわたって、少なくとも10回の継代にわたって、少なくとも15回の継代にわたって、少なくとも20回の継代にわたって、少なくとも25回の継代にわたって、少なくとも30回の継代にわたって、少なくとも35回の継代にわたって、少なくとも40回の継代にわたって、少なくとも45回の継代にわたって、少なくとも50回の継代にわたって(例えば、培養において少なくとも25日間、50日間、75日間、100日間または250日間)増殖性の多能性未分化状態で維持することができる。
本発明の一部の実施形態によれば、培養培地は、多能性幹細胞を未分化状態で拡大する能力を有する。
例えば、以下の実施例の節の実施例1に記載のように、hESCまたはヒトiPS細胞は、懸濁培養される場合、二次元培養システムで少なくとも20回の継代にわたって、または三次元培養システムで少なくとも50回の継代にわたって未分化状態で維持されることができた。各継代が5〜7日(例えば144時間)毎に生じ、観察される倍加時間が約25〜36時間であると仮定すると、これらの条件下で培養された単一のhESCまたはヒトiPS細胞は、24〜25個の細胞に(6日以内で)拡大されることができた。制御されたバイオリアクター中で培養された場合、多能性幹細胞の拡大能力は、5日以内で約64倍に増大することに注意すべきである。従って、一ヶ月(即ち720時間)以内の培養で、単一の多能性幹細胞は、220(1×106)個のhESCまたはヒトiPS細胞に拡大されることができる。
本発明者らは、増殖因子の組合せ、すなわち、インターロイキン11(IL11)および毛様体神経栄養因子(CNTF)の組合せ、またはインターロイキン11(IL11)およびオンコスタチンの組合せが、増殖性の未分化多能性状態での多能性幹細胞の成長および拡大を支援するために使用され得ることを発見している。
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、インターロイキン11(IL11)および毛様体神経栄養因子(CNTF)を含む培養培地、またはインターロイキン11およびオンコスタチンを含む培養培地が提供される。
本明細書中で使用される場合、用語「インターロイキン11」は、サイトカインのgp130ファミリーのタンパク質メンバーを示す(これはまた、AGIFおよびIL−11として知られている)。インターロイキン11[例えば、ヒトIL−11ポリペプチド、GenBankアクセション番号NP_000632.1(配列番号32);ヒトIL−11ポリヌクレオチド、GenBankアクセション番号NM_000641.2(配列番号33)]を様々な市販供給元から得ることができ、例えば、R&D Systems、またはPeproTechなどから得ることができる。
本明細書中で使用される場合、用語「毛様体神経栄養因子」(これはまた、HCNTFとして知られている;CNTF)は、その作用が、ある種のニューロン集団における神経伝達物質の合成および神経突起の成長がそれによって促進される神経系に限定されるポリペプチドホルモンを示す。このタンパク質はニューロンおよび乏突起膠細胞のための強力な生存因子であり、炎症性攻撃の期間中における組織破壊を軽減することに関連し得る。CNTF[例えば、ヒトCNTFポリペプチド、GenBankアクセション番号NP_000605.1(配列番号34);ヒトCNTFポリヌクレオチド、GenBankアクセション番号NM_000614(配列番号35)]を様々な市販供給元から得ることができ、例えば、R&D Systems、またはPeproTechなどから得ることができる。
本明細書中で使用される場合、用語「オンコスタチン」(これはまた、OSMオンコスタチンM(OSM)として知られている)は、白血病阻害因子、顆粒球コロニー刺激因子およびインターロイキン6を含むサイトカインファミリーのポリペプチドメンバーを示す。オンコスタチン[例えば、ヒトオンコスタチンポリペプチド、GenBankアクセション番号NP_065391.1(配列番号36)または同P13725(配列番号37);ヒトポリヌクレオチド、GenBankアクセション番号NM_020530.3(配列番号38)]を様々な市販供給元から得ることができ、例えば、R&D Systemsから得ることができる(例えば、R&D Systemsカタログ番号295−OM−010)。
本発明の一部の実施形態によれば、培養培地はグリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)阻害剤を含まない。
GSK3阻害剤の限定されない例には、GSK−アルファまたはGSK−ベータの阻害剤、例えば、CHIR 98014、CHIR 99021、AR−AO144−18、SB216763およびSB415286などが含まれる。GSK3阻害剤の例が、Bennett C他、J.Biological Chemistry、第277巻、第34号(2002年8月23日)、30998頁〜31004頁、および、Ring DB他、Diabetes、第52巻(2003年3月)、588頁〜595頁に記載されている(これらのそれぞれが参照によって本明細書中に全面的に組み込まれる)。
本発明の一部の実施形態によれば、IL11が、少なくとも約0.1ng/ml、かつ最大約10ng/mlの濃度で用いられ、例えば、少なくとも約0.2ng/mlの濃度で、例えば、少なくとも約0.3ng/mlの濃度で、例えば、少なくとも約0.4ng/mlの濃度で、例えば、少なくとも約0.5ng/mlの濃度で、少なくとも約0.6ng/mlの濃度で、例えば、少なくとも約0.7ng/mlの濃度で、例えば、少なくとも約0.8ng/mlの濃度で、例えば、少なくとも約0.9ng/mlの濃度で、例えば、少なくとも約1ng/mlの濃度で、例えば、約1ng/mlの濃度で用いられる。
本発明の一部の実施形態によれば、IL11が、約0.5ng/ml〜約5ng/mlの間の濃度で用いられる。
本発明の一部の実施形態によれば、CNTFが、少なくとも約0.1ng/ml、かつ最大約10ng/mlの濃度で用いられ、例えば、少なくとも約0.2ng/mlの濃度で、例えば、少なくとも約0.3ng/mlの濃度で、例えば、少なくとも約0.4ng/mlの濃度で、例えば、少なくとも約0.5ng/mlの濃度で、少なくとも約0.6ng/mlの濃度で、例えば、少なくとも約0.7ng/mlの濃度で、例えば、少なくとも約0.8ng/mlの濃度で、例えば、少なくとも約0.9ng/mlの濃度で、例えば、少なくとも約1ng/mlの濃度で、例えば、約1ng/mlの濃度で用いられる。
本発明の一部の実施形態によれば、CNTFが、約0.5ng/ml〜約5ng/mlの間の濃度で用いられる。
本発明の一部の実施形態によれば、オンコスタチンが、少なくとも約0.1ng/ml、かつ最大約10ng/mlの濃度で用いられ、例えば、少なくとも約0.2ng/mlの濃度で、例えば、少なくとも約0.3ng/mlの濃度で、例えば、少なくとも約0.4ng/mlの濃度で、例えば、少なくとも約0.5ng/mlの濃度で、少なくとも約0.6ng/mlの濃度で、例えば、少なくとも約0.7ng/mlの濃度で、例えば、少なくとも約0.8ng/mlの濃度で、例えば、少なくとも約0.9ng/mlの濃度で、例えば、少なくとも約1ng/mlの濃度で、例えば、約1ng/mlの濃度で用いられる。
本発明の一部の実施形態によれば、オンコスタチンが、約0.5ng/ml〜約5ng/mlの間の濃度で用いられる。
本発明の一部の実施形態によれば、IL11およびCNTFを含む培地、またはIL11およびオンコスタチンを含む培地はさらに、血清代替物(例えば、動物由来混入物非含有の血清代替物)を約10%〜約20%の間の濃度で含み、例えば、約15%の濃度で含む。
本発明の一部の実施形態によれば、IL11およびCNTFを含む培養培地、またはIL11およびオンコスタチンを含む培養培地はさらに、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含む。
塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF、FGF2またはFGF−βとしても既知)は、線維芽細胞増殖因子ファミリーのメンバーである。bFGF[(例えば、ヒトbFGFポリペプチドGenBank登録番号NP_001997.5(配列番号39);ヒトbFGFポリヌクレオチドGenBank登録番号NM_002006.4(配列番号40)は、Cell Sciences(登録商標)(Canton,MA,USA)(例えば、カタログ番号CRF001AおよびCRF001B)、Invitrogen Corporation製品(Grand Island NY,USA)(例えば、カタログ番号:PHG0261、PHG0263、PHG0266およびPHG0264)、ProSpec−Tany TechnoGene Ltd.(Rehovot,Israel)(例えば、カタログ番号:CYT−218)、およびSigma(St Louis,MO,USA)(例えば、カタログ番号:F0291)などの様々な市販源から入手しうる。
IL11およびCNTFを含む培養培地、またはIL11およびオンコスタチンを含む培養培地におけるbFGFの濃度は、少なくとも約4ng/ml、かつ最大100ng/mlであることが可能であり、例えば、少なくとも約5ng/ml、例えば、少なくとも約6ng/ml、例えば、少なくとも約7ng/ml、例えば、少なくとも約8ng/ml、例えば、少なくとも約9ng/ml、例えば、少なくとも約10ng/mlであることが可能である。
IL11およびCNTFを含む培養培地の限定されない例には、下記の実施例の節において記載されるILCNTF培地、NILCNTF培地が含まれ、これらは、増殖性の多能性未分化状態でのhESCおよびiPS細胞の成長を二次元培養システムでは少なくとも12回の継代にわたって、懸濁培養では少なくとも10回の継代にわたって支援することができることが示された。
本発明者らは、IL6RIL6キメラ体が、ヒト多能性幹細胞の未分化状態での成長を支援するために、動物由来混入物を全く含まない培養培地において使用され得ることを発見している。
したがって、本発明の一部の実施形態の一態様によれば、動物由来混入物非含有の血清代替物と、IL6RIL6キメラ体とを含む培養培地が提供される。
本明細書で使用される表現「IL6RIL6キメラ体」は、インターロイキン−6受容体の可溶性部分[IL−6−R、例えば、GenBank登録番号AAH89410(配列番号41)によって示されるヒトIL−6−R;例えば、GenBank登録番号AAH89410のアミノ酸112〜355(配列番号42)によって示される可溶性IL6受容体の一部]およびインターロイキン−6(IL6;例えば、GenBank登録番号CAG29292(配列番号43)によって示されるヒトIL−6)またはその生物活性画分(例えば受容体結合ドメイン)を含むキメラ体ポリペプチドを示す。
IL6RIL6キメラ体を構築するとき、その2つの機能的部分(すなわち、IL6およびその受容体)が互いに直接に融合され得ること(例えば、結合され得るか、または翻訳融合され得ること、すなわち、ただ1つのオープンリーディングフレームによってコードされ得ること)、または好適なリンカー(例えば、ポリペプチドリンカー)を介してコンジュゲートされ得ること(結合され得るか、または翻訳融合され得ること)に留意しなければならない。本発明の一部の実施形態によれば、IL6RIL6キメラ体ポリペプチドは、天然に存在するIL6およびIL6受容体と類似する量およびパターンのグリコシル化を示す。例えば、好適なIL6RIL6キメラ体が、配列番号19および国際公開WO99/02552(Revel M.他)(これは参照によって本明細書中に全面的に組み込まれる)の図11に示される通りである。
血清代替物が動物由来混入物を全く含まないとすれば、さらなる培養培地成分もまた、動物由来混入物を含むことなく選択することができ(例えば、合成物、組換え物、またはヒト起源からの精製物が可能である)、その結果、培養培地全体が動物由来混入物を含まず、臨床/治療目的に好適な、ヒト多能性幹細胞を培養するための異種非含有培地として使用され得ることに留意しなければならない。
本発明者らは、培地が未分化状態の多能性幹細胞の成長を支援し得ることを依然として維持しながら、IL6RIL6キメラ体が高濃度(すなわち、50ng/ml〜150ng/mlの間)または低濃度(すなわち、50pg/ml〜150pg/mlの間)のどちらにおいてでも用いられ得ることを発見している。
本発明の一部の実施形態によれば、IL6RIL6キメラ体の濃度は、少なくとも約50ng/ml、かつ最大約350ng/mlであり、例えば、約50ng/ml〜200ng/mlの間であり、例えば、約55ng/ml〜約195ng/mlの範囲、例えば、約60ng/ml〜約190ng/mlの範囲、例えば、約65ng/ml〜約185ng/mlの範囲、例えば、約70ng/ml〜約180ng/mlの範囲、例えば、約75ng/ml〜約175ng/mlの範囲、例えば、約80ng/ml〜約170ng/mlの範囲、例えば、約85ng/ml〜約165ng/mlの範囲、例えば、約90ng/ml〜約150ng/mlの範囲、例えば、約90ng/ml〜約140ng/mlの範囲、例えば、約90ng/ml〜約130ng/mlの範囲、例えば、約90ng/ml〜約120ng/mlの範囲、例えば、約90ng/ml〜約110ng/mlの範囲、例えば、約95ng/ml〜約105ng/mlの範囲、例えば、約98ng/ml〜約102ng/mlの範囲であり、例えば、約100ng/mlのIL6RIL6キメラ体である。
約50ng/ml〜200ng/mlの間のIL6RIL6キメラ体を含む動物由来混入物非含有の培養培地の限定されない例には、cmTeSR2、NCMrb100F、NCM100F、cmV5bおよびcmHA13が含まれる。
本発明の一部の実施形態によれば、IL6RIL6キメラ体の濃度は、少なくとも約50pg/ml、かつ最大約150pg/mlであり、例えば、約50pg/ml〜200pg/mlの間であり、例えば、約55pg/ml〜約195pg/mlの範囲、例えば、約60pg/ml〜約190pg/mlの範囲、例えば、約65pg/ml〜約185pg/mlの範囲、例えば、約70pg/ml〜約180pg/mlの範囲、例えば、約75pg/ml〜約175pg/mlの範囲、例えば、約80pg/ml〜約170pg/mlの範囲、例えば、約85pg/ml〜約165pg/mlの範囲、例えば、約90pg/ml〜約150pg/mlの範囲、例えば、約90pg/ml〜約140pg/mlの範囲、例えば、約90pg/ml〜約130pg/mlの範囲、例えば、約90pg/ml〜約120pg/mlの範囲、例えば、約90pg/ml〜約110pg/mlの範囲、例えば、約95pg/ml〜約105pg/mlの範囲、例えば、約98pg/ml〜約102pg/mlの範囲であり、例えば、約100pg/mlのIL6RIL6キメラ体である。
約50pg/ml〜200pg/mlの間のIL6RIL6キメラ体を含む異種非含有の培養培地の限定されない例には、cmTeSR2p、NCMrb100Fp、NCM100Fp、cmV5bpおよびcmHA13pが含まれる。
例えば、IL6RIL6キメラ体を、TeSR(商標)2 Animal Protein−Free Medium(StemCell Technologies、カタログ#05860/05880)培養培地に加えることができる。TeSR(商標)2培地は、組換えヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(rhbFGF)および組換えヒト形質転換増殖因子β(rhTGFβ)を含有する、動物タンパク質非含有かつ血清非含有の定義された完全な配合物である。
本発明の一部の実施形態によれば、IL6RIL6キメラ体を含む動物由来混入物非含有の培養培地はさらに、bFGFを含む。
bFGFを低濃度(例えば、約4ng/ml〜20ng/mlの間)または高濃度(例えば、50ng/ml〜150ng/mlの間)のどちらにおいてでも用いることができる。
本発明の一部の実施形態によれば、動物由来混入物非含有の血清代替物と、IL6RIL6キメラ体とを含む培養培地はさらに、bFGFを少なくとも約4ng/mlの濃度で、例えば、少なくとも約5ng/mlの濃度で、例えば、少なくとも約6ng/mlの濃度で、例えば、少なくとも約7ng/mlの濃度で、例えば、少なくとも約8ng/mlの濃度で、例えば、少なくとも約9ng/mlの濃度で、例えば、少なくとも約10ng/mlの濃度で、例えば、少なくとも約15ng/mlの濃度で、例えば、少なくとも約20ng/mlの濃度で含む。そのような培養培地の限定されない例には、cmV5b、NCM100Fp、NCM100FおよびcmV5bpが含まれる。
本発明の一部の実施形態によれば、動物由来混入物非含有の血清代替物と、IL6RIL6キメラ体とを含む培養培地はさらに、bFGFを少なくとも約50ng/ml〜約1μgの濃度で、例えば、約60ng/ml〜約1μg/mlの濃度で、例えば、約70ng/ml〜約500ng/mlの濃度で、例えば、約80ng/ml〜約500ng/mlの濃度で、例えば、約90ng/ml〜約250ng/mlの濃度で、例えば、約50ng/ml〜約200ng/mlの濃度で、例えば、約50ng/ml〜約150ng/mlの濃度で、例えば、約50ng/mlの濃度で、例えば、約60ng/mlの濃度で、例えば、約70ng/mlの濃度で、例えば、約80ng/mlの濃度で、例えば、約90ng/mlの濃度で、例えば、約100ng/mlの濃度で、例えば、約110ng/mlの濃度で、例えば、約120ng/mlの濃度で、例えば、約130ng/mlの濃度で、例えば、約140ng/mlの濃度で、例えば、約150ng/mlの濃度で含む。そのような培養培地の限定されない例には、NCMrb100F、NCMrb100Fp、cmTeSR2、およびcmTeSR2pが含まれる。
本発明の一部の実施形態によれば、IL6RIL6キメラ体を含む動物由来混入物非含有の培養培地はさらに、アスコルビン酸を含む。
アスコルビン酸(これはまた、ビタミンCとして知られている)は、抗酸化性を有する糖酸(C6H8O6;分子量、176.12グラム/モル)である。本発明の一部の実施形態の培養培地によって使用されるアスコルビン酸は、天然のアスコルビン酸、合成アスコルビン酸、アスコルビン酸塩(例えば、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カルシウム、アスコルビン酸カリウム)、アスコルビン酸のエステル形態(例えば、パルミチン酸アスコルビル、ステアリン酸アスコルビル)、その機能的誘導体(本発明の培養培地において使用されるとき、同じ活性/機能を示す、アスコルビン酸に由来する分子)、またはその類似体(例えば、本発明の培養培地において使用されるとき、アスコルビン酸について認められる活性と類似する活性を示す、アスコルビン酸の機能的等価体)が可能である。本発明の一部の実施形態の培養培地において使用することができるアスコルビン酸処方物の限定されない例には、L−アスコルビン酸およびアスコルビン酸3−リン酸が含まれる。
アスコルビン酸を様々な製造者から得ることができ、例えば、Sigma(St.Louis、MO、米国)から得ることができる(例えば、カタログ番号:A2218、A5960、A7506、A0278、A4403、A4544、A2174、A2343、95209、33034、05878、95210、95212、47863、01−6730、01−6739、255564、A92902、W210901)。
本発明の一部の実施形態によれば、IL6RIL6キメラ体を含む動物由来混入物非含有の培養培地におけるアスコルビン酸の濃度が約25μg/ml〜200μg/mlの間であり、例えば、25μg/ml〜150μg/mlの間、例えば、30μg/ml〜150μg/mlの間、例えば、約40μg/ml〜120μg/mlの間、例えば、約40μg/ml〜100μg/mlの間、例えば、約40μg/ml〜80μg/mlの間、例えば、約40μg/ml〜60μg/mlの間であり、例えば、約50μg/mlである。そのような培養培地の限定されない例には、下記の実施例の節において記載されるcmHA13p培地およびcmHA13培地が含まれる。
本発明の一部の実施形態によれば、IL6RIL6キメラ体を含む動物由来混入物非含有の培養培地はさらに、形質転換増殖因子ベータ(TGFβ)のイソ型を含む。
本明細書中で使用される場合、表現「形質転換増殖因子ベータ(TGFβ)」は、多くの細胞タイプにおける増殖、分化および他の機能の制御において同じ受容体シグナル伝達系を介して機能する形質転換増殖因子ベータ(β)のイソ型のいずれも示す。TGFβは、形質転換を誘導することにおいて作用し、また負のオートクリン増殖因子としても作用する。
本発明の一部の実施形態によれば、TGFβの用語は、TGFβ1[ヒトTGFβ1のmRNA配列:GenBankアクセション番号NM_000660.4(配列番号44)、ポリペプチド配列:GenBankアクセション番号NP_000651.3(配列番号45)]、TGFβ2[ヒトTGFβ2のmRNA配列:GenBankアクセション番号NM_001135599.1 イソ型1(配列番号46)またはGenBankアクセション番号NM_003238.2 イソ型2(配列番号47)、ポリペプチド配列:GenBankアクセション番号NP_001129071.1 イソ型2(配列番号48)またはGenBankアクセション番号NP_003229.1 イソ型2(配列番号49)]、またはTGFβ3[ヒトTGFβ3のmRNA配列:GenBankアクセション番号NM_003239.2(配列番号50)、ポリペプチド配列:GenBankアクセション番号NP_003230.1(配列番号51)]を示す。TGFβのイソ型を様々な市販供給元から得ることができ、例えば、R&D Systems(Minneapolis、MN、米国)およびSigma(St Louis、MO、米国)などから得ることができる。
本発明の一部の実施形態によれば、培養培地に含まれるTGFβはTGFβ1である。
本発明の一部の実施形態によれば、培養培地におけるTGFβ1の濃度は約0.05ng/ml〜約1μg/mlの範囲であり、例えば、0.1ng/ml〜約1μg/ml、例えば、約0.5ng/ml〜約100ng/mlである。
本発明の一部の実施形態によれば、培養培地におけるTGFβ1の濃度は少なくとも約0.5ng/mlであり、例えば、少なくとも約0.6ng/ml、例えば、少なくとも約0.8ng/ml、例えば、少なくとも約0.9ng/ml、例えば、少なくとも約1ng/ml、例えば、少なくとも約1.2ng/ml、例えば、少なくとも約1.4ng/ml、例えば、少なくとも約1.6ng/ml、例えば、少なくとも約1.8ng/ml、例えば、約2ng/mlである。
IL6RIL6キメラ体、bFGFおよびTGFβ1を含む動物由来混入物非含有の培養培地の限定されない例は、下記の実施例の節において記載されるcmV5b、cmV5bp、cmTeSR2およびcmTeSR2pである。
本発明の一部の実施形態によれば、培養培地に含まれるTGFβはTGFβ1である。
本発明の一部の実施形態によれば、培養培地におけるTGFβ3の濃度は約0.05ng/ml〜約1μg/mlの範囲であり、例えば、0.1ng/ml〜約1μg/ml、例えば、約0.5ng/ml〜約100ng/mlである。
本発明の一部の実施形態によれば、培養培地におけるTGFβ3の濃度は少なくとも約0.5ng/mlであり、例えば、少なくとも約0.6ng/ml、例えば、少なくとも約0.8ng/ml、例えば、少なくとも約0.9ng/ml、例えば、少なくとも約1ng/ml、例えば、少なくとも約1.2ng/ml、例えば、少なくとも約1.4ng/ml、例えば、少なくとも約1.6ng/ml、例えば、少なくとも約1.8ng/ml、例えば、約2ng/mlである。
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、少なくとも約50ng/mlの濃度(例えば、50ng/ml〜200ng/mlの間)のbFGFと、高濃度(例えば、50ng/ml〜200ng/mlの間)または低濃度(例えば、50pg/ml〜200pg/mlの間)のどちらかでのIL6RIL6キメラ体とを含む培養培地が提供される。そのような培養培地の限定されない例には、hESCおよびiPS細胞を二次元培養システムでは少なくとも5回の継代にわたって、三次元培養システムでは少なくとも15回の継代にわたって増殖性の多能性未分化状態で維持することができることが示されたCMrb100F、CMrb100Fp、NCMrb100FおよびNCMrb100Fpの培養培地が含まれる。
本発明者らは、高濃度の可溶性インターロイキン6受容体(sIL6R)およびインターロイキン6(IL6)を含む培養培地が、増殖性の未分化多能性状態での多能性幹細胞の成長を支援するために使用され得ることを発見している。
したがって、本発明の一部の実施形態の一態様によれば、sIL6RおよびIL6を含む培養培地であって、sIL6Rの濃度が少なくとも約5ng/mlであり、かつIL6の濃度が少なくとも約3ng/mlである培養培地が提供される。
本発明の一部の実施形態によれば、sIL6Rの濃度は少なくとも約5ng/mlであり、例えば、少なくとも約6ng/ml、少なくとも約7ng/ml、少なくとも約8ng/ml、少なくとも約9ng/ml、少なくとも約10ng/ml、少なくとも約15ng/ml、少なくとも約20ng/ml、少なくとも約25ng/mlであり、例えば、10ng/ml〜50ng/mlの範囲であり、例えば、20ng/ml〜40ng/mlの間であり、例えば、約25ng/mlである。
本発明の一部の実施形態によれば、IL6の濃度は少なくとも約3ng/mlであり、例えば、少なくとも約4ng/ml、少なくとも約5ng/ml、少なくとも約6ng/ml、少なくとも約7ng/ml、少なくとも約8ng/ml、少なくとも約9ng/ml、少なくとも約10ng/ml、少なくとも約15ng/ml、少なくとも約20ng/ml、少なくとも約25ng/mlであり、例えば、10ng/ml〜50ng/mlの範囲であり、例えば、20ng/ml〜40ng/mlの間であり、例えば、約25ng/mlである。
本発明の一部の実施形態によれば、sIL6RおよびIL6を含む培地はさらに、bFGFを少なくとも約4ng/mlの濃度で、かつ最大100ng/mlの濃度で含み、例えば、少なくとも約5ng/mlの濃度で、例えば、少なくとも約6ng/mlの濃度で、例えば、少なくとも約7ng/mlの濃度で、例えば、少なくとも約8ng/mlの濃度で、例えば、少なくとも約9ng/mlの濃度で、例えば、少なくとも約10ng/mlの濃度で含む。
本発明の一部の実施形態によれば、sIL6RおよびIL6を含む培地はさらに、血清代替物を10%〜30%の間の濃度で含み、例えば、約15%の濃度で含む。血清代替物の濃度は、使用される血清代替物のタイプに依存して変化し得ることに留意しなければならない。
sIL6RおよびIL6を含む培養培地の限定されない例には、下記の実施例の節において記載されるyFIL25培地が含まれる。
本発明の一部の実施形態によれば、培養培地はさらにインスリンを含む。インスリンを、Invitrogen(Carlsbad、CA、米国)、Sigma(St Louis、MO、米国)から得ることができる。
培養培地におけるインスリンの濃度は0.0001グラム/リットル〜1グラム/リットルの間で可能である(例えば、約0.001μg/μl〜約0.1μg/μlの間、例えば、約0.005μg/μl〜約0.05μg/μlの間、例えば、約0.01μg/μl)。
本発明の一部の実施形態によれば、培養培地はさらにアルブミンを含む。アルブミンを、Sigma(St Louis、MO、米国)から得ることができる。
培養培地におけるアルブミンの濃度は約0.1%〜約5%の間で可能である。
本発明の一部の実施形態によれば、培養培地はさらにトランスフェリンを含む。トランスフェリンを、Invitrogen(Carlsbad、CA、米国)、Sigma(St Louis、MO、米国)から得ることができる。
本発明の一部の実施形態によれば、培養培地は、脂質混合物をさらに含む。
本明細書で使用される表現「脂質混合物」は、多能性幹細胞を培養するのに必要とされる、規定された(例えば化学的に規定された)脂質組成物を示す。脂質混合物は、通常、血清または血清代替物を含有しない培養培地に添加され、それにより、通常は血清または血清代替物の調合物に添加される脂質を代替することは注目されるべきである。
本発明の一部の実施形態の培養培地中で使用可能である、市販の脂質混合物の非限定例として、Invitrogenから入手可能なChemically Define Lipid Concentrate(カタログ番号11905−031)が挙げられる。
本発明の一部の実施形態によれば、培養培地中の脂質混合物の濃度は、約0.5%[容量/容量(v/v)]〜約3% v/v、例えば約0.5% v/v〜約2% v/v、例えば約0.5% v/v〜約1% v/v、例えば約1% v/vである。
本発明の一部の実施形態によれば、培養培地はさらに重炭酸ナトリウムを含む。重炭酸ナトリウムを、Biological Industries(Beit HaEmek、イスラエル)から得ることができる。
本発明の一部の実施形態によれば、培養培地における重炭酸ナトリウムの濃度が約5%〜約10%であり、例えば、約6%〜約9%、例えば、約7%〜約8%であり、例えば、約7.5%である。
本発明の一部の実施形態によれば、培養培地はさらにL−グルタミンを含む。培養培地におけるL−グルタミンの濃度は、約0.5ミリモル(mM)から約10mMまでが可能であり、例えば、約1mM〜5mM、例えば、2mMが可能である。
本発明の一部の実施形態によれば、培養培地はさらに非必須アミノ酸を含む。非必須アミノ酸を様々な供給元から、例えば、Invitrogen Corporation products(Grand Island、NY、米国)などから10mMのストック液として得ることができる。培養培地における非必須アミノ酸の濃度は約0.1%〜10%が可能であり、例えば、約0.2%〜5%、例えば、0.5%〜2%、例えば、約1%が可能である。
本発明の一部の実施形態によれば、培養培地はさらに還元剤(例えば、ベータ−メルカプトエタノール(β−メルカプトエタノール)など)を約0.01mM〜1mMの間の濃度範囲で、例えば、0.1mMで含む。
述べられるように、本発明の培養培地において使用されるタンパク質性因子(例えば、インターロイキン11、CNTF、オンコスタチン、bFGF、IL6RIL6キメラ体、TGFβ1、TGFβ3、インスリン、アルブミン、トラスフェリン)のどれもが組換え発現され得るか、または生化学的に合成され得る。加えて、天然に存在するタンパク質性因子(例えば、bFGFおよびTGFβなど)を、この技術分野で広く公知の方法を使用して生物学的サンプル(例えば、ヒト血清、細胞培養物)から精製することができる。動物由来混入物非含有の培養培地を調製するために、タンパク質性因子は好ましくはヒト供給源から精製されるか、または組換え発現されることに留意にしなければならない。
本発明のタンパク質性因子(例えばIL6RIL6キメラ体)の生化学的合成は、標準の固相技術を用いて行いうる。これらの方法は、排他的固相合成法、部分固相合成法、断片縮合および古典的溶液合成を含む。
本発明のタンパク質性因子の組換え発現は、Bitterら(1987年) Methods in Enzymol.153:516−544頁、Studierら(1990年) Methods in Enzymol.185:60−89頁、Brissonら(1984年) Nature 310:511−514頁、Takamatsuら(1987年) EMBO J.6:307−311頁、Coruzziら(1984年) EMBO J.3:1671−1680頁、Brogliら(1984年) Science 224:838−843頁、Gurleyら(1986年) Mol.Cell.Biol.6:559−565頁およびWeissbachおよびWeissbach、1988年、「Methods for Plant Molecular Biology」、Academic Press,NY,Section VIII、421−463頁によって記載の組換え技術を用いて行いうる。詳細には、IL6RIL6キメラ体は、PCT公開の国際公開第99/02552号パンフレット(Revel M.らおよびChebath J.らに付与、1997年)(全体として参照により本明細書中に援用される)中に記載のように生成しうる。
したがって、本発明の一部の実施形態の一態様によれば、本発明の一部の実施形態の多能性幹細胞(例えば、細胞凝集塊を含まない単一細胞としての懸濁状態で培養されるhESCまたはiPSC;細胞凝集塊としての懸濁状態で培養されるhESCまたはiPSC;2次元培養システムで培養される多能性幹細胞など)と、本発明の一部の実施形態の培養培地とを含む細胞培養物が提供される。
本発明の一部の実施形態によれば、細胞培養物はフィーダー細胞非含有である(フィーダー細胞支持体を含まない)。
本明細書で使用される表現「フィーダー細胞支持体」は、フィーダー細胞(例えば線維芽細胞)が、多能性幹細胞がフィーダー細胞上で共培養される場合、または多能性幹細胞が、フィーダー細胞によって生成されるならし培地の存在下でマトリックス(例えば、細胞外マトリックス、合成マトリックス)上で培養される場合に、多能性幹細胞を増殖性および未分化状態で維持する能力を示す。フィーダー細胞の支持体は、培養下でありながらのフィーダー細胞の構造(例えば、フィーダー細胞を組織培養プレート内で培養することによって形成される三次元マトリックス)、フィーダー細胞の機能(例えば、フィーダー細胞による増殖因子、栄養素およびホルモンの分泌、フィーダー細胞の増殖速度、フィーダー細胞の老化前の拡大能)、および/または多能性幹細胞のフィーダー細胞層への付着、に依存する。
本明細書で使用される表現「フィーダー細胞支持体の不在」は、フィーダー細胞を含まない培養培地および/または細胞培養物、ならびに/あるいはそれによって生成されるならし培地を示す。
本発明の一部の実施形態によれば、本発明の一部の実施形態の細胞培養物中に含まれる多能性幹細胞は、培養期間中、例えば少なくとも2回の継代、例えば少なくとも4回の継代、例えば少なくとも8回の継代、例えば少なくとも15回の継代、例えば少なくとも20回の継代、例えば少なくとも25回の継代、例えば少なくとも30回の継代、例えば少なくとも35回の継代、例えば少なくとも40回の継代、例えば少なくとも45回の継代、例えば少なくとも50回の継代にわたり、安定な核型(染色体安定性)を示す。
本発明の一部の実施形態によれば、本発明の細胞培養物は、少なくとも20時間の倍加時間、例えば20〜40時間の間(例えば約36時間)の倍加時間を示すことから、非腫瘍形成性の遺伝的に安定な多能性幹細胞(例えばhESCおよびiPS細胞)を示す。
本発明の一部の実施形態によれば、本発明の細胞培養物は、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、例えば少なくとも70%、例えば少なくとも80%、例えば少なくとも85%、例えば少なくとも90%、例えば少なくとも95%の未分化多能性幹細胞によって特徴づけられる。
本発明の一部の実施形態の細胞培養物は1ミリリットル(ml)の培養培地あたり少なくとも1000個の多能性の未分化幹細胞を含む。一部の適用のためには、例えば、多能性幹細胞の単一細胞クローニングのためには、細胞の濃度は100μl〜200μlの培地あたり約1個とすることができ、それぞれの細胞が別個のディッシュに、好ましくはディッシュへの細胞の接着を防止するために非被覆のディッシュ(例えば、非培養処理ディッシュ)に置床(播種)されることに留意しなければならない。
2−Dで培養された多能性幹細胞または細胞凝集塊としての懸濁状態で培養された多能性幹細胞の分化状態または未分化状態を、公知の方法を使用して決定することができる(例えば、Thompson他(1998)に記載される通り)。例えば、分化状態を様々な手法を使用して決定することができ、そのような手法には、例えば、形態学的評価(例えば、図1A〜図1Cおよび図3A〜図3Cに示される)、および/または未分化状態の典型的なマーカーの発現パターンを、免疫学的技術(例えば、膜結合マーカーについてはフローサイトメトリー、細胞外マーカーおよび細胞内マーカーについては免疫組織化学または免疫蛍光、ならびに分泌された分子マーカーについては酵素免疫アッセイなど)を使用して検出することが含まれる。例えば、本発明の一部の実施形態による培養培地において培養されたhESCまたはヒトiPS細胞に対して用いられる免疫蛍光では、Oct4、発達段階特異的胚抗原(SSEA)4、腫瘍拒絶抗原(TRA)−1−60およびTRA−1−81の発現が明示された(例えば、図2A〜図2D)。加えて、特異的な未分化マーカー(例えば、Oct4、Nanog、Sox2、Rex1、Cx43、FGF4)または分化マーカー(例えば、アルブミン、グルカゴン、α−心臓アクチン、β−グロブリン、Flk1、AC133およびニューロフィラメント)の転写物のレベルを、RNAに基づく技術、例えば、RT−PCR分析および/またはcDNAマイクロアレイ分析などを使用して検出することができる。
ES細胞分化の決定はまた、アルカリホスファターゼ活性の測定により行うことができる。未分化のヒトES細胞は、細胞を4%パラホルムアルデヒドにより固定処理し、Vector Red基質キットを製造者の説明書(Vector Laboratories、Burlingame、California、米国)に従って用いて発色させることによって検出することができるアルカリホスファターゼ活性を有する。
本発明の一部の実施形態によれば、細胞培養物は、多能性幹細胞と、異種非含有培地とを含み、したがって培地は、多能性幹細胞の生物種とは異なる生物種に由来する混入物を何ら含有しない。例えば、細胞培養物がヒト多能性幹細胞を含むとき、培地は動物由来混入物を含まない。同様に、細胞培養物が霊長類の多能性幹細胞(例えば、サル)を含むとき、培養培地は他の動物またはヒト由来の混入物を含まない。
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、多能性未分化状態の多能性幹細胞を拡大し、かつ維持する方法が提供される。
本発明の一部の実施形態によれば、未分化状態の多能性幹細胞を拡大し、かつ維持する方法は、多能性幹細胞を(本明細書中に記載される)本発明の新規な培養培地のいずれかにおいて培養することによって行われる。
本発明の一部の実施形態によれば、未分化状態の多能性幹細胞を拡大し、かつ維持することが懸濁培養において行われる。
本発明の一部の実施形態によれば、多能性幹細胞を懸濁培養で培養することが、血清非含有かつフィーダー細胞非含有の培養培地において行われる。
多能性幹細胞の大きいクラスターは細胞分化を生じさせることがあるので、様々な対策が大きい多能性幹細胞凝集物を避けるために取られる。本発明の一部の実施形態によれば、形成された多能性幹細胞凝集塊が5〜7日毎に解離させられ、そして単一細胞、または細胞の小さい凝集塊がさらなる培養容器に分けられる(すなわち、継代される)か、またはさらなる培養培地を伴うが、同じ培養容器に入れられたままであるかのどちらかである。
本発明の一部の実施形態によれば、培養は多能性幹細胞を単一細胞として拡大することを可能にする条件下で行われる。
本明細書中上記で記載されるように、多能性幹細胞の継代を細胞凝集塊の機械的解離を使用して行うことができる。
加えて、および/または代わりに、多能性幹細胞の懸濁培養での継代を、酵素消化を、その後の機械的解離を伴って、または伴うことなく使用して行うことができる。
多能性幹細胞凝集塊の酵素消化を、凝集塊を酵素(例えば、IV型コラゲナーゼ(Worthington biochemical corporation、Lakewood、NJ、米国)および/またはディスパーゼ(Invitrogen Corporation products、Grand Island、NY、米国)など)に供することによって行うことができる。酵素とのインキュベーション時間は、懸濁培養において存在する細胞凝集塊のサイズに依存する。典型的には、多能性幹細胞凝集塊が懸濁培養の間に5〜7日毎に解離させられるとき、1.5mg/mlのIV型コラゲナーゼとの20分〜60分のインキュベーションにより、未分化状態でさらに培養することができる小さい細胞凝集塊が生じる。あるいは、多能性幹細胞凝集塊は、1.5mg/mlのIV型コラゲナーゼとの約25分のインキュベーション、続いて、1mg/mlのディスパーゼとの5分間のインキュベーションに供することができる。ヒトESCをトリプシンとともに継代することは染色体の不安定性および異常をもたらし得ることに留意しなければならない(例えば、Mitalipova MM.他、Nature Biotechnology、23:19〜20、2005、および、Cowan CA他、N.Eng.J.of Med.、350:1353〜1356、2004を参照のこと)。本発明の一部の実施形態によれば、hESC細胞またはiPS細胞をトリプシンとともに継代することは避けなければならない。
本発明の一部の実施形態によれば、大きい細胞凝集塊の酵素的解離または機械的解離後、解離させられた多能性幹細胞凝集塊はさらに、200μlのGilsonピペットチップを使用して(例えば、細胞を上下にピペッティングすることによって)小さい凝集塊に壊される。
本発明の一部の実施形態によれば、未分化状態の多能性幹細胞を拡大し、かつ維持する方法は、二次元培養システムにおいて行われる。
二次元培養システムはマトリックスまたはフィーダー細胞層を含むことができる。
例えば、二次元培養システム上での培養は、多能性幹細胞をマトリックスまたはフィーダー細胞層上に、細胞の生存および増殖を促進するが、分化を制限する細胞密度でプレーティングすることによって行いうる。典型的には、約15,000細胞/cm2〜約3,000,000細胞/cm2の間のプレーティング密度が使用される。
多能性幹細胞の単細胞懸濁液が通常播種されるが、小塊も使用可能であることは理解されるであろう。このため、塊の破壊に使用される(例えばIV型コラゲナーゼによる)酵素的消化(以下の実施例の節における「General Materials and Experimental Methods」を参照)は、幹細胞が完全にばらばらになる前に終了し、細胞は、塊(すなわち10〜200個の細胞)が形成される程度にピペットで粉砕される。しかし、細胞分化を誘発しうる大塊を回避するための手段がとられる。
本発明の一部の実施形態によれば、培養システムは、マトリックスと、本発明の一部の実施形態の培養培地とを含む。
本明細書で使用される用語「マトリックス」は、多能性幹細胞が、付着可能であり、それ故にフィーダー細胞の細胞付着機能を代替しうる任意の物質を示す。かかるマトリックスは、典型的には、多能性幹細胞が付着可能な細胞外成分を含有し、それ故、好適な培養基質を提供する。
本発明の一部の実施形態によれば、マトリックスは、細胞外マトリックスを含む。
細胞外マトリックスは、基底膜に由来する成分または接着分子受容体−リガンドカップリングの一部を形成する細胞外マトリックス成分からなりうる。MATRIGEL(登録商標)(Becton Dickinson,USA)は、本発明での使用に適した市販のマトリックスの一例である。MATRIGEL(登録商標)は、室温でゲル化し、再構成基底膜を形成するEngelbreth−Holm−Swarm腫瘍細胞に由来する可溶性調製物である一方、MATRIGEL(登録商標)はまた、増殖因子低下調製物として使用可能である。本発明での使用に適した他の細胞外マトリックス成分および成分混合物は、包皮マトリックス、ラミニンマトリックス、フィブロネクチンマトリックス、プロテオグリカンマトリックス、エンタクチンマトリックス、ヘパラン硫酸マトリックス、コラーゲンマトリックスなどを、単独でまたはそれらの様々な組み合わせで、含む。
本発明の一部の実施形態によれば、マトリックスは動物由来混入物を含まない(ヒト多能性幹細胞を培養するための異種非含有マトリックスである)。
完全な動物フリーの培養条件が所望される場合、マトリックスは、好ましくは、ヒト源に由来するか、または上記のような組換え技術を用いて合成される。かかるマトリックスとして、例えば、ヒト由来フィブロネクチン、組換えフィブロネクチン、ヒト由来ラミニン、包皮線維芽細胞マトリックスまたは合成フィブロネクチンマトリックス、が挙げられる。ヒト由来フィブロネクチンは、血漿フィブロネクチンまたは細胞フィブロネクチンに由来することができ、それらの双方は、Sigma(St.Louis,MO,USA)から入手可能である。ヒト由来ラミニンおよび包皮線維芽細胞マトリックスは、Sigma(St.Louis,MO,USA)から入手可能である。合成フィブロネクチンマトリックスは、Sigma(St.Louis,MO,USA)から入手可能である。
フィーダー細胞層が所望される場合、ヒト多能性幹細胞は、ヒト包皮繊維芽細胞フィーダー細胞層上で培養されることができる。
本発明者らは、多能性幹細胞が、生の非凍結細胞として輸送され得ること、そして、なおも依然として生存可能で、未分化で、かつ多能性であることを発見している。
本発明の一部の実施形態によれば、細胞は、少なくとも4日間続く輸送(航空輸送または海上輸送)後において依然として生存可能で、未分化で、かつ多能性である。
本発明者らは、本発明の新規な培養培地が、新しい多能性幹細胞株を導出するために使用され得ることを発見している。
本発明の一部の実施形態によれば、多能性幹細胞株は胚性幹細胞株であり、胚性幹細胞株を導出する方法が、(a)胚性幹細胞を、着床前段階の胚盤胞、着床後段階の胚盤胞および/または胎児の生殖組織から得ること;および(b)胚性幹細胞を本発明の一部の実施形態の培養培地において培養し、それにより胚性幹細胞株を導出することを含む。
本発明の一部の実施形態によれば、多能性幹細胞株は誘導多能性幹細胞(iPS細胞)株であり、iPS細胞株を導出する方法が、(a)体細胞を多能性幹細胞に誘導すること;および(b)多能性幹細胞を本発明の一部の実施形態の培養培地において培養し、それにより誘導多能性幹細胞株を導出することを含む。
得られるとすぐに、ESCまたはiPS細胞はさらに、本質的には本明細書中上記で記載されるように、未分化状態の多能性幹細胞の拡大を可能にする本明細書中上記で記載される培養培地のいずれかにおいて培養される。
確立された多能性幹細胞株(例えば、胚性幹細胞株または誘導多能性幹細胞株)は、未分化状態の細胞の増殖能を妨げることなく、一方でそれらの多能性能力を保ちながら、凍結/解凍サイクルを受けることができることが理解されるであろう。例えば、図6A〜図6Cに示されるように、また下記の実施例の節の実施例6において記載されるように、血清代替物(10%〜95%)およびジメチルスルホキシド(DMSO;5%〜10%)を使用した場合、hESCまたはヒトiPS細胞が首尾よく凍結および解凍され、細胞の70%超が生き残り、懸濁培養に直接に回復した。
本明細書中上記で記載される新規な培養培地のいずれもが、多能性の未分化幹細胞を、細胞凝集塊を含まない単一細胞としての懸濁培養で培養し、維持し、かつ拡大するために使用され得ることに留意しなければならない。
本発明の一部の実施形態によれば、未分化状態の多能性幹細胞を、細胞凝集塊を含まない単一細胞としての懸濁培養において拡大および維持するための培養条件は、インターロイキン11(IL11)および毛様体神経栄養因子(CNTF)を含む培養培地を含む。
本発明の一部の実施形態によれば、未分化状態の多能性幹細胞を、細胞凝集塊を含まない単一細胞としての懸濁培養で拡大し、かつ維持するための培養条件は、少なくとも50ng/mlの濃度での塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)と、IL6RIL6キメラ体とを含む培養培地を含む。
本発明の一部の実施形態によれば、未分化状態の多能性幹細胞を、細胞凝集塊を含まない単一細胞としての懸濁培養で拡大し、かつ維持するための培養条件は、動物由来混入物非含有の血清代替物と、IL6RIL6キメラ体とを含む培養培地を含む。
本発明の一部の実施形態によれば、未分化状態の多能性幹細胞を、細胞凝集塊を含まない単一細胞としての懸濁培養で拡大し、かつ維持するための培養条件は、可溶性インターロイキン6受容体(sIL6R)およびインターロイキン6(IL6)を含み、sIL6Rの濃度が少なくとも5ng/mlであり、かつIL6の濃度が少なくとも3ng/mlである血清非含有の培養培地を含む。
本発明の一部の実施形態によれば、未分化状態の多能性幹細胞を、細胞凝集塊を含まない単一細胞としての懸濁培養で拡大し、かつ維持するための培養条件は、インターロイキン11(IL11)およびオンコスタチンを含む培養培地を含む。
下記は、分化した細胞系譜を本発明の一部の実施形態の多能性幹細胞から製造する方法の限定されない記載である。
下記の実施例の節の実施例2において記載されるように、本明細書中上記の培養培地のいずれかにおいて拡大され、かつ維持されたhESCおよびヒトiPS細胞は、二次元培養システム(例えば、フィーダー非含有マトリックス)または三次元培養システム(例えば、静的または動的な懸濁培養)における長期の培養期間(例えば、少なくとも10回または30回の継代の期間)後、インビトロで(EBの形成によって)、またインビボで(奇形腫の形成によって)立証されるように、多能性である(すなわち、胚の3つの胚葉(外胚葉、内胚葉および中胚葉)のすべての細胞タイプに分化することができる)。
したがって、本発明の教示に従って培養されるhESCまたはヒトiPS細胞は、分化した系譜特異的な細胞を作製するための供給源として使用することができる。そのような細胞は、多能性幹細胞から、ESCを様々な分化シグナル(例えば、サイトカイン、ホルモン、増殖因子)に供することによって直接に得ることができ、または胚様体の形成、およびそれに続くEBの細胞の系譜特異的な細胞への分化により間接的に得ることができる。
したがって、本発明の一部の実施形態の態様によれば、胚様体を多能性幹細胞から生成する方法が提供される。本方法は、(a)本発明の一部の実施形態の多能性幹細胞を本発明の一部の実施形態の方法に従って培養し、それによって拡大された未分化多能性幹細胞を得るステップ、および(b)拡大された未分化多能性幹細胞を、幹細胞の胚様体への分化に適した培養条件下に置くステップによって実施され、それによって胚様体を多能性幹細胞から生成する。
本明細書で使用される表現「胚様体」は、分化を経ている、ESC、拡張胚盤胞細胞(EBC)、胚性生殖細胞(EGC)および/または誘導多能性幹細胞の集団からなる形態学的構造を示す。EBの形成は、多能性幹細胞培養物からの分化遮断因子(differentiation blocking factor)の除去後に開始される。EBの形成の第1ステップにおいては、多能性幹細胞が、小細胞塊に増殖し、次いで分化を進める。分化の第1相においては、ヒトESCまたはヒトiPS細胞のいずれかに対する培養下で1〜4日後、内胚葉細胞層が小塊の外部層上に形成される結果、「単純な(simple)EB」が得られる。第2相においては、分化後の3〜20日後、「複雑な(complex)EB」が形成される。複雑なEBは、外胚葉および中胚葉細胞および誘導組織(derivative tissue)の広範な分化によって特徴づけられる。
したがって、本発明の一部の実施形態に従う方法は、拡大された未分化多能性幹細胞を得るための上記の培養培地(例えば、細胞凝集塊もしくは細胞凝集塊を有さない単一細胞としての懸濁培養で、または二次元培養システムで)のいずれかの中で本発明の一部の実施形態の多能性幹細胞を培養することと、それに続き、拡大された未分化多能性幹細胞(例えば、ESCまたはiPS細胞)を、多能性幹細胞の胚様体への分化に適した培養条件下に置くこととを含む。かかる分化促進培養条件は、多能性幹細胞が未分化状態で増殖されるべきである場合に使用される分化阻害因子、例えば、TGFβ1、TGFβ3、アスコルビン酸、IL−11、CNTF、オンコスタチン、bFGFおよび/またはIL6RIL6キメラ体を実質的に有しない。
EBの形成においては、多能性幹細胞(ESCまたはiPS細胞)は、そのフィーダー非含有培養システムまたは懸濁培養物から取り出され、血清または血清代替物を含有しかつ分化阻害因子を含有しない培養培地の存在下で懸濁培養に移される。例えば、EBの形成に適した培養培地は、20%FBSd(HyClone(Utah,USA))、1mM L−グルタミン、0.1mM β−メルカプトエタノール、および1%非必須アミノ酸ストックが補充された塩基性培地(例えば、Ko−DMEMまたはDMEM/F12)を含みうる。
EBの形成のモニタリングは、当業者の能力の範囲内であり、形態学的評価(例えば組織学的染色)および分化特異的マーカーの発現の判定[例えば、免疫学的技術またはRNAに基づく分析(例えば、RT−PCR、cDNAマイクロアレイ)を使用]により、実施できる。
系譜特異的細胞をEBから得るため、EBの細胞は、さらに系譜特異的細胞に適した培養条件下に置くことが可能であることは理解されるであろう。
多能性幹細胞から系譜特異的細胞を生成するための本発明の一部の実施形態によれば、方法は、(c)胚様体の細胞を系譜特異的細胞の分化および/または拡大に適した培養条件下に置くステップをさらに含み、それにより、系譜特異的細胞が胚性幹細胞から生成される。
本明細書で使用される表現「系譜特異的細胞の分化および/または拡大に適した培養条件」は、培養システム、例えば、フィーダー非含有マトリックスまたは懸濁培養物と、EBの細胞に由来する特異的細胞系譜の分化および/または拡大に適した培養培地との組み合わせを示す。さらに、かかる培養条件の非限定例が、以下に記載される。
本発明の一部の実施形態によれば、本発明のこの態様の方法は、ステップ(b)後に系譜特異的細胞を単離するステップをさらに含む。
本明細書で使用される表現「系譜特異的細胞を単離する」は、主に特異的系譜表現型に関連した少なくとも1つの特性を示す細胞を有する培養下での細胞の混合集団の集積を示す。すべての細胞系譜が、3つの胚性胚葉から誘導されることは理解されるであろう。したがって、例えば、肝細胞および膵臓細胞は、内胚葉、骨、軟骨、弾性繊維結合組織、筋細胞、心筋細胞、骨髄細胞、血管細胞(すなわち内皮および平滑筋細胞)から誘導され、また造血細胞は、胚性中胚葉から分化され、神経、網膜および表皮細胞は、胚性外胚葉から誘導される。
本発明の一部の好ましい実施形態によれば、系譜特異的細胞の単離は、蛍光活性化セルソーター(FACS)によるEBの細胞のソーティングによって行われる。
FACS分析によるEB由来の分化細胞を単離する方法は、当該技術分野で既知である。一方法によれば、EBは、トリプシンおよびEDTAの溶液(それぞれ0.025%および0.01%)を用いて分離され、リン酸塩緩衝化生理食塩水(PBS)中の5%ウシ胎仔血清(FBS)で洗浄され、特異的細胞系譜に対する細胞表面抗原特性に特異的な蛍光標識抗体とともに氷上で30分間インキュベートされる。例えば、内皮細胞は、Levenberg S.ら(「Endothelial cells derived from human embryonic stem cells.」 Proc.Natl.Acad.Sci.USA.2002年、99:4391−4396頁)に記載のように、PharMingen(PharMingen,Becton Dickinson Bio Sciences(San Jose,CA,USA))から入手可能な蛍光標識PECAM1抗体(30884X)など、血小板内皮細胞接着分子−1(PECAM1)に特異的な抗体に付着させることによって単離される。造血細胞は、蛍光標識抗体、例えば、CD34−FITC、CD45−PE、CD31−PE、CD38−PE、CD90−FITC、CD117−PE、CD15−FTTC、クラスI−FITC(それら全部におけるIgG1はPharMingenから入手可能)、CD133/1−PE(IgG1)(Miltenyi Biotec(Auburn,CA)から入手可能)、およびグリコホリンA−PE(IgG1)(Immunotech(Miami,FL)から入手可能)を使用して単離される。生細胞(すなわち固定を伴わない)が、ヨウ化プロピジウムの使用によるFACScan(Becton Dickinson Bio Sciences)上で分析され、死細胞が、PC−LYSISまたはCELLQUESTソフトウェアのいずれかを用いて除去される。単離細胞は、Kaufman D.S.ら、(「Hematopoietic colony−forming cells derived from human embryonic stem cells.」 Proc.Natl.Acad.Sci.USA.2001年、98:10716−10721頁)によって記載のように、磁気標識二次抗体および磁気分離カラム(MACS,Miltenyi)を使用し、さらに集積されうることは理解されるであろう。
本発明の一部の実施形態によれば、系譜特異的細胞の単離は、EB内部に含まれる細胞、組織および/または組織様構造の機械的分離によって行われる。
例えば、拍動する心筋細胞は、米国特許出願公開第2003/0022367号明細書(Xuらに付与)中に開示のように、EBから単離されうる。本発明の4日齢EBは、ゼラチンコートされたプレートまたはチャンバースライドに移され、結合および分化が可能になる。分化の8日目に認められる自発的収縮細胞は、機械的に分離され、低カルシウム媒体またはPBSを含有する15mLのチューブに回収される。細胞は、コラゲナーゼ活性に依存し、コラゲナーゼBによる消化を用いて、37℃で60〜120分間解離される。次いで、解離された細胞は、分化用KB培地(differentiation KB meduium)(85mM KCl、30mM K2HPO4、5mM MgSO4、1mM EGTA、5mMクレアチン、20mMグルコース、2mM Na2ATP、5mMピルビン酸塩、および20mMタウリン、pH7.2に緩衝化、Maltsevら、Circ.Res.75:233頁、1994年)に再懸濁され、37℃で15〜30分間インキュベートされる。解離後、細胞がチャンバースライドに播種され、分化培地中で培養され、拍動可能な単一の心筋細胞が生成される。
本発明の一部の実施形態によれば、系譜特異的細胞の単離は、EBに分化因子を施し、それにより、EBの系譜特異的分化細胞への分化を誘発することによって行われる。
以下は、EBの系譜特異的細胞への分化を誘発するための手順およびアプローチの非限定的説明である。
本発明の一部の実施形態のEBを神経前駆体に分化させるため、4日齢EBは、5mg/mlのインスリン、50mg/mlのトランスフェリン、30nMの塩化セレン、および5mg/mlのフィブロネクチンを有するDMEM/F−12培地(ITSFn培地、Okabe S.ら、1996年、Mech.Dev.59:89−102頁)を含む組織培養皿内で5〜12日間培養される。さらに、得られた神経前駆体は、移植され、神経細胞がインビボで生成されうる(Bruestle O.ら、1997年、「In vitro−generated neural precursors participate in mammalian brain development.」 Proc.Natl.Acad.Sci.USA.94:14809−14814頁)。神経前駆体は、その移植前、0.1%DNaseの存在下で、トリプシン処理され、単細胞懸濁液に粉砕されることは理解されるであろう
本発明の一部の実施形態のEBは、オリゴデンドロサイトに分化し、細胞を、修飾SATO培地、すなわち、ウシ血清アルブミン(BSA)、ピルビン酸塩、プロゲステロン、プトレッシン、チロキシン、トリヨードチロニン、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム、アミノ酸、ニューロトロフィン3、毛様体神経栄養因子およびヘペスを有するDMEM中で培養することにより、細胞を有髄化しうる(Bottenstein J.E.およびSato G.H.、1979年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA76、514−517頁;Raff M.C.、Miller R.H.、およびNoble M.、1983年、Nature 303:390−396頁]。要するに、EBは、0.25%トリプシン/EDTAを使用して解離され(37℃で5分間)、単一の細胞懸濁液に粉砕される。懸濁された細胞は、5%ウマ血清および5%ウシ胎仔血清(FCS)が補充されたSATO培地を有するフラスコ内にプレーティングされる。培養下で4日後、フラスコは穏やかに振とうされ、接着が弱い細胞(主にオリゴデンドロサイト)が懸濁される一方、星状細胞は、フラスコに接着し、さらにならし培地を生成する状態が維持される。一次オリゴデンドロサイトは、SATO培地を有する新しいフラスコにさらに2日間移される。培養下で全体で6日経過後、オリゴスフェアー(oligosphere)は、細胞移植のため、部分的に解離され、SATO培地に再懸濁されるか、または完全に解離され、先行する振とうステップから得られるオリゴスフェアーならし培地中にプレーティングされる[Liu S.ら、(2000年) 「Embryonic stem cells differentiate into oligodendrocytes and myelinate in culture and after spinal cord transplantation.」 Proc.Natl.Acad.Sci.USA.97:6126−6131頁]。
肥満細胞の分化においては、本発明の一部の実施形態の2週齢EBは、10%FCS、2mMのL−グルタミン、100単位/mlのペニシリン、100mg/mlのストレプトマイシン、20%(v/v)のWEHI−3細胞ならし培地および50ng/mlの組換えラット幹細胞因子が補充されたDMEM培地を含む組織培養皿に移される(rrSCF、Tsai M.ら、2000年、「In vivo immunological function of mast cells derived from embryonic stem cells:An approach for the rapid analysis of even embryonic lethal mutations in adult mice in vivo.」 Proc Natl Acad Sci USA.97:9186−9190頁)。培養物は、週に1回、細胞を新しいフラスコに移し、かつ培地の半分を交換することにより、拡大される。
血液−リンパ系細胞を本発明の一部の実施形態のEBから生成するため、2〜3日齢EBは、調節可能な酸素含量を有するインキュベーターを使用し、7.5%CO2および5%O2の存在下で、ガス透過性培養皿に移される。分化の15日後、細胞は採取され、コラゲナーゼ(0.1単位/mg)およびディスパーゼ(0.8単位/mg)(双方はF.Hoffman−La Roche Ltd(Basel,Switzerland)から入手可能)での穏やかな消化によって解離される。CD45陽性細胞は、Potocnik A.J.ら、(「Immunology Hemato−lymphoid in vivo reconstruction potential of subpopulations derived from in vitro differentiated embryonic stem cell.」 Proc.Natl.Acad.Sci.USA.1997年、94:10295−10300頁)に記載のように、ヤギ抗ラット免疫グロブリンに複合された抗CD45モノクローナル抗体(mAb)M1/9.3.4.HL.2および常磁性マイクロビーズ(Miltenyi)を使用し、単離される。単離されたCD45陽性細胞は、MACSカラム(Miltenyi)全体にわたる単回通過を用いて、さらに集積しうる。
単離された系譜特異的細胞の分化および拡大に適した培養条件は、様々な組織培養培地、増殖因子、抗生物質、アミノ酸などを含み、また、特定の細胞種および/または細胞系譜を拡大しかつ分化させるため、いずれの条件が適用されるべきかを判定することが当業者の能力の範囲内にあることは理解されるであろう。
上述のように、系譜特異的細胞は、ESCまたはiPS細胞などの拡大された未分化多能性幹細胞を特異的細胞系譜の分化に適した培養条件に直接誘発することによって得ることができる。
例えば、下記の実施例の節の実施例10、実施例11および実施例12において記載されるように、細胞凝集塊を含まない単一細胞としての懸濁培養で拡大され、かつ維持された多能性幹細胞は、多能性幹細胞の、外胚葉細胞系譜のニューロン始原体への直接的な分化(図17A〜図17C、実施例10)、中胚葉系譜の間葉系幹細胞への直接的な分化(図18A〜図18C、実施例11)、および内胚葉細胞系譜のPDX1発現細胞への直接的な分化(図20A〜図20B、実施例12)によってインビトロで立証されるように多能性である。
本発明の一部の実施形態の側面によれば、系譜特異的細胞を多能性幹細胞から生成する方法が提供される。本方法は、(a)多能性幹細胞を本発明の一部の実施形態の方法に従って培養し、それによって拡大された未分化幹細胞を得るステップと、(b)拡大された未分化幹細胞を、系譜特異的細胞の分化および/または拡大に適した培養条件下に置くステップと、によって実施され、それにより、系譜特異的細胞が多能性幹細胞から生成される。
以下は、系譜特異的細胞の多能性幹細胞(例えばESCおよびiPS細胞)からの分化および/または拡大に適した培養条件の非限定例である。
CD73陽性およびSSEA−4陰性である間葉間質細胞は、Trivedi PおよびHematti P.Exp Hematol.2008年、36(3):350−9頁に本質的に記載のように、hESCの培養物中に形成された線維芽細胞様分化細胞の画分を機械的に増大させることにより、hESCから生成されうる。要するに、hESCの分化を誘発するため、培地の変更の間隔は、3〜5日に延長され、ESCコロニーの周辺部の細胞は、紡錘状の線維芽細胞様細胞になる。これらの条件下で9〜10日後、培養下の約40〜50%の細胞が線維芽細胞様の外見を得る場合、ESCコロニーの未分化部分は、物理的に除去され、残りの分化細胞は、同じ条件下で新しい培養プレートを通過される。
hESCのドーパミン作動性(DA)ニューロンへの分化を誘発するため、Vazin T.ら、PLoS One.2009年8月12日;4(8):e6606;およびElkabetz Y.ら、Genes Dev.2008年1月15日;22:152−165頁に本質的に記載のように、細胞は、マウス間質細胞系PA6またはMS5とともに共培養するか、あるいは、間質細胞由来因子1(SDF−1/CXCL12)、プレイオトロフィン(PTN)、インスリン様増殖因子2(IGF2)およびエフリンBl(EFNB1)の組み合わせとともに培養しうる。
中脳ドーパミン(mesDA)ニューロンを生成するため、Friling S.ら、Proc Natl Acad Sci USA.2009年、106:7613−7618頁に本質的に記載のように、hESCは、遺伝子組換えにより、転写因子Lmx1aを発現しうる(例えば、PGKプロモーターおよびLmx1aを有するレンチウイルスベクターを使用)。
肺上皮(II型肺胞上皮)をhESCから生成するため、ESCは、Rippon H.J.ら、Proc Am Thorac Soc.2008年;5:717−722頁に記載のように、市販の細胞培養培地(Small Airway Growth Medium;Cambrex(College Park,MD))の存在下、またはその代わり、肺細胞の細胞系(例えばA549ヒト肺腺癌細胞系)から採取されたならし培地の存在下で培養しうる。
hESCまたはヒトiPS細胞の神経細胞への分化を誘導するため、多能性幹細胞は、Chambers S.M.ら、Nat Biotechnol.2009年、27:275−280頁に本質的に記載のように、TGF−b阻害剤(SB431542、Tocris;例えば10nM)およびNoggin(R&D;例えば500ng/ml)が補充された血清代替培地の存在下で約5日間培養することができ、その後、細胞は、500ng/mLのNogginの存在下で、漸増量(例えば、25%、50%、75%、2日ごとに変更)のN2培地(Li X.J.ら、Nat Biotechnol.2005年、23:215−21頁)とともに培養される。
hESCまたはヒトiPS細胞の神経始原体への分化を誘導するために、細胞が懸濁状態で培養され、その後分化阻害因子が培養培地から除かれ、5×10−5Mのレチノイン酸が21日間加えられる。その後、細胞はフィブロネクチン被覆プレートに移され、細胞を分析のために集める前にさらに5日間培養される。q−PCRおよび免疫染色により、ニューロン始原体細胞の存在が確認される(下記の実施例の節の実施例7を参照のこと)。
hESCまたはヒトiPS細胞の内胚葉細胞(インスリン産生細胞を含む)への分化を誘導するために、分化阻害因子が多能性幹細胞の培養培地から除かれ、細胞が、cAMP増加剤(例えば、フォルスコリン、8−ブロモcAMP、GABA、IBMXおよびDBCなど)を含有する培地において、10ng/mlのアクチビンに48時間さらされる。10日後、細胞が内胚葉のマーカーについて分析される。Sox17についてのq−PCRにより、非処理の対照との比較において、処理細胞でのSox17発現における有意な増大が明示される(下記の実施例の節の実施例7を参照のこと)。
hESCまたはヒトiPS細胞の間葉系幹細胞(MSC)への分化を誘導するために、多能性幹細胞が血清含有培地に14日間移され、その後ゼラチンまたはMatrigelのどちらかに置床される。7〜14日後、細胞がMSCに分化させられ、このMSCは凍結することができるか、またはトリプシンを使用しながら継代することができる。
系譜特異的一次培養物に加え、本発明のEBを使用し、培養下で無限の拡大能を有する系譜特異的細胞系を生成しうる。
本発明の細胞系は、例えば、細胞内でのテロメラーゼ遺伝子の発現(Wei W.ら、2003年、Mol Cell Biol.23:2859−2870頁)または同細胞とNIH3T3 hph−HOXllレトロウイルス産生細胞との共培養(Hawley R.G.ら、1994年、Oncogene 9:1−12頁)を含む当該技術分野で既知の方法によってEB由来細胞を不死化することにより、生成されうる。
下記の実施例の節の実施例11において記載されるように、細胞凝集塊を含まない単一細胞としての懸濁状態で培養される多能性幹細胞はさらに、中胚葉系譜の細胞に懸濁培養(3−D)または2次元培養システムにおいて分化することができる。
下記の実施例の節の実施例11において記載されるように、本発明者らは、多能性幹細胞を懸濁状態において間葉系幹細胞に分化させる新規な方法を発見している。
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、間葉系幹細胞を懸濁培養で作製する方法が提供される。この方法は、本発明の一部の実施形態の多能性幹細胞(例えば、細胞凝集塊を含まない単一細胞としての懸濁状態で培養されるPSC、または細胞凝集塊としての懸濁状態で培養されるPSC)を多能性幹細胞の間葉系幹細胞への分化に好適な条件下での懸濁培養で培養し、それにより間葉系幹細胞を懸濁培養で作製することを含む。
多能性幹細胞をMSCに分化させるために好適な公知の培養培地はどれも使用することができる。
本発明者らは、下記の培養培地が多能性幹細胞の間葉系幹細胞への分化に好適であることを発見している:
(1)Fy富化培地;80%のDMEM/F12(Biological Industries、Beit Haemek、イスラエル)からなり、10%のノックアウト血清代替物、10%のウシ胎児血清(FBS;HyCloneまたはBiological Industries)、2mMのL−グルタミン、0.1mMのβ−メルカプトエタノール、1%の非必須アミノ酸ストック液を含有する(すべてが、別途示される場合を除き、Invitrogen Corporation products(Grand Island、NY、米国)から得られる);
(2)MeSus I培地;80%のDMEM(Biological Industries、Beit Haemek、イスラエル)からなり、20%のFBS(HyCloneまたはBiological Industries)、2mMのL−グルタミンを含有する(すべてが、別途示される場合を除き、Invitrogen Corporation products(Grand Island、NY、米国)から得られる);
(3)MeSus II培地;80%のαMEM(Biological Industries、Beit Haemek、イスラエル)からなり、20%のFBS(HyCloneまたはBiological Industries)、2mMのL−グルタミンを含有する(すべてが、別途示される場合を除き、Invitrogen Corporation products(Grand Island、NY、米国)から得られる);
(4)MeSus III培地;DMEM/F12(Biological Industries、Beit Haemek、イスラエル)、1%のITS(Invitrogen)、および2mMのL−グルタミンからなる(すべてが、別途示される場合を除き、Invitrogen Corporation products(Grand Island、NY、米国)から得られる)。
本発明者らは、培養条件に、多能性幹細胞を未分化用培地による懸濁培養からMSC分化用培地による懸濁培養に徐々に移すことを含めなければならないことを発見している。下記は、多能性幹細胞を分化用培地に移すための限定されない方法である:
I.(i)1回の継代について25%分化培地/75%pCM100F;(ii)1回の継代について50%分化培地/50%pCM100F;(iii)1回の継代について75%分化培地/25%pCM100F;(iv)100%分化培地。
II.(i)1回の継代について50%分化培地/50%pCM100F;(ii)1回の継代について75%分化培地/25%pCM100F;(iii)100%分化培地。
III.(i)1回の継代について50%分化培地/50%pCM100F;(ii)100%分化培地。
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、本発明の一部の実施形態の方法によって作製される懸濁培養物における間葉系幹細胞(MSC)の単離された集団が提供される。
本発明の一部の実施形態によれば、本発明の一部の実施形態の方法によって作製されるMSCの少なくとも約30%(例えば、30%)、少なくとも約35%(例えば、35%)、少なくとも約40%(例えば、40%)、少なくとも約45%(例えば、45%)、少なくとも約50%(例えば、50%)、少なくとも約55%(例えば、55%)、少なくとも約60%(例えば、60%)、少なくとも約65%(例えば、65%)、少なくとも約70%(例えば、70%)、少なくとも約75%(例えば、75%)、少なくとも約80%(例えば、80%)、少なくとも約81%(例えば、81%)、少なくとも約82%(例えば、82%)、少なくとも約83%(例えば、83%)、少なくとも約84%(例えば、84%)、少なくとも約85%(例えば、85%)、少なくとも約86%(例えば、86%)、少なくとも約87%(例えば、87%)、少なくとも約88%(例えば、88%)、少なくとも約89%(例えば、89%)、少なくとも約90%(例えば、90%)、少なくとも約91%(例えば、91%)、少なくとも約92%(例えば、92%)、少なくとも約93%(例えば、93%)、少なくとも約94%(例えば、94%)、少なくとも約95%(例えば、95%)、少なくとも約96%(例えば、96%)、少なくとも約97%(例えば、97%)、少なくとも約98%(例えば、98%)、少なくとも約99%(例えば、99%)、例えば、100%が、CD73+/CD31−/CD105+の発現シグナチャーによって特徴づけられる。
本発明の一部の実施形態によれば、MSCは、脂肪形成系譜、骨芽細胞系譜および軟骨形成系譜からなる群から選択される細胞系譜への懸濁培養での分化が可能である。
下記の実施例の節の実施例10において記載されるように、細胞凝集塊を含まない単一細胞としての懸濁状態で培養される多能性幹細胞はさらに、外胚葉系譜の細胞に懸濁培養(3−D)または2次元培養システムにおいて分化することができる。
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、ニューロン始原体細胞を懸濁培養で作製する方法であって、本発明の一部の実施形態の多能性幹細胞(例えば、細胞凝集塊を含まない単一細胞としての懸濁培養で培養された多能性幹細胞)をニューロン始原体細胞への分化に好適な条件下での懸濁培養で培養し、それによりニューロン始原体細胞を懸濁培養で作製することを含む方法が提供される。
多能性幹細胞をニューロン始原体細胞に分化させるために好適な公知の培養培地はどれも使用することができる。限定されない例には、本質的には「一般的な材料および実験方法」で記載されるような、レチノイン酸(10−3M)またはノギン(10ngr/ml)を含有する培地が含まれる。
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、本発明の一部の実施形態の方法によって作製される懸濁培養物におけるニューロン始原体細胞の単離された集団が提供される。
下記の実施例の節の実施例12において記載されるように、細胞凝集塊を含まない単一細胞としての懸濁状態で培養される多能性幹細胞はさらに、内胚葉系譜の細胞に懸濁培養(3−D)または2次元培養システムにおいて分化することができる。
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、内胚葉細胞を懸濁培養で作製する方法であって、本発明の一部の実施形態の多能性幹細胞(例えば、細胞凝集塊を含まない単一細胞としての懸濁培養で培養された多能性幹細胞)を多能性幹細胞の内胚葉細胞への分化に好適な条件下での懸濁培養で培養し、それにより内胚葉細胞を懸濁培養で作製することを含む方法が提供される。
多能性幹細胞を内胚葉細胞に分化させるために好適な公知の培養培地はどれも使用することができる。限定されない例には、本質的には「一般的な材料および実験方法」で記載されるように、24時間〜48時間、アクチビンAを(例えば、10ng/mlの濃度で)含有する培地が含まれる。
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、本発明の一部の実施形態の方法によって作製される懸濁培養物における内胚葉細胞の単離された集団が提供される。
本発明の教示に従って得られる系譜特異的な細胞または細胞株は、ヒト胚において天然で生じる分化プロセスと類似する分化プロセスによって発達するので、それらはさらに、ヒト細胞由来の治療および組織再生のために使用され得ることが理解されるであろう。
したがって、本発明では、本発明の一部の実施形態の拡大および/または分化させられた系譜特異的な細胞または細胞株を、細胞置換治療(細胞由来の治療)を必要とする障害を処置するために使用することが想定される。
例えば、乏突起膠細胞前駆体を、ミエリン障害を処置するために使用することができ(ミエリン疾患の治療:動物モデルにおける戦略および進歩、Molecular Medicine Today、1997、554頁〜561頁)、軟骨細胞または間葉系細胞を骨欠損および軟骨欠損の処置において使用することができ(米国特許第4642120号)、また上皮系譜の細胞を創傷または火傷の皮膚再生において使用することができる(米国特許第5716411号)。
ある種の障害、例えば、特定の遺伝子産物が失われている遺伝性障害[例えば、嚢胞性線維症患者におけるCFTR遺伝子産物の欠如(Davies JC、2002、嚢胞性線維症肺疾患のための新しい治療法、J.R.Soc.Med.、95 Suppl.、41:58〜67)]などについては、ESC由来細胞またはiPS細胞由来細胞が好ましくは、個体へのそれらの投与に先立って、変異遺伝子を過剰発現させるために操作される。他の障害については、ESC由来細胞またはiPS由来細胞は、ある種の遺伝子を除外するために操作されなければならないことが理解されるであろう。
遺伝子の過剰発現または除外を、ノックイン構築物および/またはノックアウト構築物を使用して行うことができる[例えば、Fukushige,S.およびIkeda,J.E.:Cre−lox部位特異的組換えによる哺乳動物プロモーターの捕獲、DNA Res、3(1996)、73〜50;Bedell,M.A.、Jerkins,N.A.およびCopeland,N.G.:ヒト疾患のマウスモデル Part I:マウスにおける遺伝子分析のための技術および資源、Genes and Development、11(1997)、1〜11;Bermingham,J.J.、Scherer,S.S.、O’Connell,S.、Arroyo,E.、Kalla,K.A.、Powell,F.L.およびRosenfeld,M.G.:Tst−1/Oct−6/SCIPが末梢ミエリン形成における特有の段階を調節し、正常な呼吸のために必要である、Genes Dev、10(1996)、1751〜62を参照のこと]。
本発明の一部の実施形態の系譜特異的な細胞は、多量のタンパク質(例えば、ホルモン、サイトカイン、増殖因子および薬物など)を産生させるために利用することができる(大量生産)。例えば、タンパク質を産生させるために、細胞は、例えば、トランスフェクションによって、タンパク質を過剰発現するように誘導されなければならず、また拡大後にタンパク質が培養培地から単離され得る。
本発明の一部の実施形態の系譜特異的な細胞は、cDNAライブラリーを調製するために利用することができる。mRNAが系譜特異的細胞から標準的な技術によって調製され、cDNAを形成するためにさらに逆転写される。cDNA調製物は、サブトラクション処理されたcDNAライブラリーをこの技術分野で公知の技術によって作製するために、望まれない特異性の胚性線維芽細胞および他の細胞からのヌクレオチドを用いたサブトラクションに供することができる。
本発明の一部の実施形態の系譜特異的な細胞は、系譜前駆体の最終分化細胞への分化に影響を与える因子(例えば、小分子薬物、ペプチドおよびポリヌクレオチドなど)または条件(例えば、培養条件または培養操作など)についてスクリーニングするために使用することができる(例えば、薬物スクリーニング)。例えば、成長影響物質、毒素または潜在的な分化因子を、培養培地へのそれらの添加によって調べることができる。
本発明の一部の実施形態の系譜特異的な細胞は、ワクチンを調製するために使用することができる。例えば、多能性幹細胞または多能性幹細胞から分化した細胞をウイルス粒子とともに接種し、さらに細胞溶解が生じ、かつ新しく産生されたウイルス粒子が培地に放出されるまで、好適な培地において培養することができる。これらの細胞は、ポックスウイルス科に属する弱毒化ウイルスの産生のために使用することができる:具体的には、カナリアポックスウイルス、鶏痘ウイルスおよびワクシニアウイルス(例えば、天然型または組換え型のワクシニアウイルス[例えば、改変ワクシニアウイルスAnkara(例えば、ATCC番号VR−1508で入手可能なMVAなど)または他のオルトポックスウイルス]。さらなる記載については、米国特許出願公開第20040058441号を参照のこと(これは全面的に参照によって本明細書中に組み込まれる)。
本発明の一部の実施形態の細胞培養物、またはそれから作製される系譜特異的な細胞は、目的とするポリヌクレオチドの感染またはトランスフェクションのどちらかを使用して遺伝子操作を受けることができる。ポリヌクレオチドは、プロモーターの調節下にある核酸構築物に含めることができる。
ポリヌクレオチドを細胞に導入する方法は、Sambrook他[Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory、New York(1989、1992)]、Ausubel他[Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley and Sons、Baltimore、Maryland(1989)]、Chang他[Somatic Gene Therapy、CRC Press、Ann Arbor、MI(1995)]、Vega他[Gene Targeting、CRC Press、Ann Arbor、MI(1995)]、Vectors[A Survey of Molecular Cloning Vectors and Their Uses、Butterworths、Boston、MA(1988)]、およびGilboa他[Biotechniques、4(6):504〜512(1986)]に記載され、そのような方法には、例えば、組換えウイルスベクターを用いた(例えば、レトロウイルス、アデノウイルス(例えば、アデノウイルス由来のベクターAd−TK、Sandmairら、2000、Hum Gene Ther.11:2197〜2205)、レトロウイルス成分とアデノウイルス成分を組み合わせたキメラアデノウイルス/レトロウイルスベクター(Panら、Cancer Letters 184:179〜188、2002)を使用した)安定的または一過性のトランスフェクション、リポフェクション、エレクトロポレーションおよび感染が含まれる。加えて、中枢神経系を伴うベクターについては米国特許第4866042号を参照のこと。また、相同組換えを誘導するための陽性・陰性の選択方法については米国特許第5464764号および同第5487992号を参照のこと。
一部の実施形態では、そこに記載される数字には約が付けられている。
用語「ng」はナノグラムを示す。用語「pg」はピコグラムを示す。用語「ml」はミリリットルを示す。用語「mM」はミリモルを示す。用語「μM」はマイクロモルを示す。
本明細書中で使用される用語「約」は、±10%を示す。
用語「含む/備える(comprises、comprising、includes、including)」、「有する(having)」、およびそれらの同根語は、「含むが、それらに限定されない(including but not limited to)」ことを意味する。
用語「からなる(consisting of)」は、「含み、それらに限定される(including and limited to)」ことを意味する。
表現「から本質的になる(consisting essentially of)」は、さらなる成分、工程および/または部分が、主張される組成物、方法または構造の基本的かつ新規な特徴を実質的に変化させない場合にだけ、組成物、方法または構造がさらなる成分、工程および/または部分を含み得ることを意味する。
本明細書中で使用される場合、単数形態(「a」、「an」および「the」)は、文脈がそうでないことを明確に示さない限り、複数の参照物を包含する。例えば、用語「化合物(a compound)」または用語「少なくとも1つの化合物」は、その混合物を含めて、複数の化合物を包含し得る。
本開示を通して、本発明の様々な態様が範囲形式で提示され得る。範囲形式での記載は単に便宜上および簡潔化のためであり、本発明の範囲に対する柔軟性のない限定として解釈すべきでないことを理解しなければならない。従って、範囲の記載は、具体的に開示された可能なすべての部分範囲、ならびに、その範囲に含まれる個々の数値を有すると見なさなければならない。例えば、1〜6などの範囲の記載は、具体的に開示された部分範囲(例えば、1〜3、1〜4、1〜5、2〜4、2〜6、3〜6など)、ならびに、その範囲に含まれる個々の数値(例えば、1、2、3、4、5および6)を有すると見なさなければならない。このことは、範囲の広さにかかわらず、適用される。
数値範囲が本明細書中で示される場合には常に、示された範囲に含まれる任意の言及された数字(分数または整数)を含むことが意味される。第1の示された数字および第2の示された数字「の範囲である/の間の範囲」という表現、および、第1の示された数字「から」第2の示された数「まで及ぶ/までの範囲」という表現は、交換可能に使用され、第1の示された数字と、第2の示された数字と、その間のすべての分数および整数とを含むことが意味される。
本明細書中で使用される用語「方法(method)」は、所与の課題を達成するための様式、手段、技術および手順を示し、これには、化学、薬理学、生物学、生化学および医学の技術分野の実施者に知られているそのような様式、手段、技術および手順、または、知られている様式、手段、技術および手順から、化学、薬理学、生物学、生化学および医学の技術分野の実施者によって容易に開発されるそのような様式、手段、技術および手順が含まれるが、それらに限定されない。
本明細書で使用される場合、用語「治療する/処置する」には、状態の進行を取り消すこと、実質的に阻害すること、遅くすること、または、逆向きにすること、状態の臨床的症状または審美的症状を実質的に改善すること、あるいは、状態の臨床的症状または審美的症状の出現を実質的に防止することが含まれる。
明確にするため別個の実施形態の文脈で説明されている本発明の特定の特徴が、単一の実施形態に組み合わせて提供されることもできることは分かるであろう。逆に、簡潔にするため単一の実施形態で説明されている本発明の各種の特徴は別個にまたは適切なサブコンビネーションで、あるいは本発明の他の記載される実施形態において好適なように提供することもできる。種々の実施形態の文脈において記載される特定の特徴は、その実施形態がそれらの要素なしに動作不能である場合を除いては、それらの実施形態の不可欠な特徴であると見なされるべきではない。
本明細書中上記に描かれるような、および、下記の請求項の節において特許請求されるような本発明の様々な実施形態および態様のそれぞれは、実験的裏付けが下記の実施例において見出される。
次に下記の実施例が参照されるが、下記の実施例は、上記の説明と一緒に、本発明を非限定様式で例示する。
本願で使用される用語と、本発明で利用される実験方法には、分子生化学、微生物学および組み換えDNAの技法が広く含まれている。これらの技術は文献に詳細に説明されている。例えば以下の諸文献を参照されたい:「Molecular Cloning:A laboratory Manual」Sambrookら、(1989);「Current Protocols in Molecular Biology」I〜III巻、Ausubel,R.M.編(1994);Ausubelら、「Current Protocols in Molecular Biology」、John Wiley and Sons、米国メリーランド州バルチモア(1989);Perbal「A Practical Guide to Molecular Cloning」、John Wiley & Sons、米国ニューヨーク(1988);Watsonら、「Recombinant DNA」Scientific American Books、米国ニューヨーク;Birrenら編「Genome Analysis:A Laboratory Manual Series」1〜4巻、Cold Spring Harbor Laboratory Press、米国ニューヨーク(1998);米国特許の第4666828号、同第4683202号、同第4801531号、同第5192659号および同第5272057号に記載される方法;「Cell Biology:A Laboratory Handbook」I〜III巻、Cellis,J.E.編(1994);「Current Protocols in Immunology」I〜III巻、Coligan,J.E.編(1994);Stitesら編「Basic and Clinical Immunology」(第8版)、Appleton & Lange、米国コネティカット州ノーウォーク(1994);MishellとShiigi編「Selected Methods in Cellular Immunology」、W.H. Freeman and Co.、米国ニューヨーク(1980);利用可能な免疫アッセイ法は、特許と科学文献に広範囲にわたって記載されており、例えば:米国特許の第3791932号、同第3839153号、同第3850752号、同第3850578号、同第3853987号、同第3867517号、同第3879262号、同第3901654号、同第3935074号、同第3984533号、同第3996345号、同第4034074号、同第4098876号、同第4879219号、同第5011771号および同第5281521号;「Oligonucleotide Synthesis」Gait,M.J.編(1984);「Nucleic Acid Hybridization」Hames,B.D.およびHiggins S.J.編(1985);「Transcription and Translation」Hames,B.D.およびHiggins S.J.編(1984);「Animal Cell Culture」Freshney,R.I.編(1986);「Immobilized Cells and Enzymes」IRL Press(1986);「A Practical Guide to Molecular Cloning」Perbal,B.(1984)および「Methods in Enzymology」1〜317巻、Academic Press;「PCR Protocols:A Guide To Methods And Applications」、Academic Press、米国カリフォルニア州サンディエゴ(1990);Marshakら、「Strategies for Protein Purification and Characterization−A Laboratory Course Manual」CSHL Press(1996);これらの文献の全ては、あたかも本願に完全に記載されているように援用するものである。その他の一般的な文献は、本明細書を通じて提供される。それらの文献に記載の方法は当業技術界で周知であると考えられ、読者の便宜のために提供される。それらの文献に含まれるすべての情報は本願に援用するものである。
一般的な材料および実験方法
誘導多能性幹(iPS)細胞株−iPS細胞株のJ1.2−3(包皮線維芽細胞由来;Park他、Nature、451:P141−147、2008)、C2およびC3(包皮線維芽細胞由来;Germanguz他、JCMM、2009)、iF4(成人皮膚線維芽細胞由来)[Park他、2008;Germanguz他、2009]、KTN7およびKTN3(ケラチノサイト由来、Novac−Petraro Cellular Reprogramming、印刷中)、ならびにKTR13およびKTR13.4(ケラチノサイト由来、Novac−Petraro Cellular Reprogramming、印刷中)を前述[Park他、2008]のように不活化MEFとともに培養した。
ヒト胚性幹細胞(hESC)株−ヒトESC株のH9.2、I3、I3.2およびI6.2(Amit他、J.Anatomy(2002)に記載される)、ならびにヒトESC株のH14、H7、H9(Winsconsin細胞株)を前述[Amit他、2000]のように培養した。
ヒト伸長胚盤胞細胞(hEBC)株−ヒト伸長胚盤胞細胞株(国際公開WO2006/040763に記載される)のJ3およびJ6を、Amit他、Dev Biol(2000)に記載されるように培養した。
培養培地−下記の培養培地組合せを、iPS株、hESC株およびhEBC株の付着(2D)培養、または懸濁培養(三次元、3D)における成長を支援するそれらの能力について調べた:
yF10−85%のDMEM/F12(Biological Industries、Beit Haemek、イスラエル)からなる基本培養培地で、15%のノックアウト血清代替物(SR)、2mMのL−グルタミン、0.1mMのβ−メルカプトエタノール、1%の非必須アミノ酸ストック液および10ng/mlの塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含有する基本培養培地(すべてが、別途示される場合を除き、Invitrogen Corporation products(Grand Island、NY、米国)から得られる)。この基本培養培地を対照として使用し、また不活化MEFまたは包皮線維芽細胞を2D培養におけるフィーダー層として用いるiPS細胞およびhESCの日常的培養のために使用した。
yFIL25−25ng/mlのインターロイキン6(IL6)およびIL6可溶性受容体(R&D Biosystems、Minneapolis、MN、米国)が添加される基本培地(yF10)。いずれのgp130アゴニストも、例えばオンコスタチン、IL11などがIL6の代わりに使用され得ることは言及されるべきである。
NCM100F−ノックアウト血清代替物の代わりに、血清代替物が動物由来物非含有血清代替物(Invitrogen corporation、Knockout SR(異種非含有)、カタログ番号12618)である基本培地(yF10)。加えて、NCM100F培地には、100ng/mlのIL6RIL6[IL6−IL6受容体キメラ体(配列番号19;Chebath J.他(1997)および国際公開WO99/02552(Revel M.他)に記載される)が含まれた。85KdaのIL6RIL6が製造および精製され(Serono International SA、Geneva、スイス)、Merck−Seronoグループ(Nes−Ziona(イスラエル)およびGeneva(スイス))より寄贈された。
NCM100Fp−ノックアウト血清代替物の代わりに、血清代替物が動物由来物非含有血清代替物(Invitrogen corporation、Knockout SR(異種非含有)、カタログ番号12618)である基本培地(yF10)。加えて、NCM100Fp培地には、100pg/mlのIL6RIL6が含まれた。
ILCNTF−1ng/mlのインターロイキン11(IL11;R&D Biosystems、カタログ番号18−IL)および毛様体神経栄養因子(CNTF;R&D Biosystems、カタログ番号257−NT)が補充される基本培地(yF10)。
NILCNTF−ノックアウト血清代替物の代わりに、血清代替物が動物由来物非含有血清代替物(Invitrogen corporation、Knockout SR(異種非含有)、カタログ番号12618)であり、1ng/mlのIL11およびCNTF(R&D Biosystems)が補充される基本培地(yF10)。
cmV5b−Nutristem培地(Biological Industries)における10ng/mlのbFGF(Invitrogen corporation)、100ng/mlのIL6IL6受容体キメラ体。
cmV5bp−Nutristem(Biological Industries)における10ng/mlのbFGF(Invitrogen corporation)、100pg/mlのIL6IL6受容体キメラ体。
cmTeSR−mTeSR培地(StemCell Technologies)における100ng/mlのIL6IL6受容体キメラ体。
cmTeSRp−mTeSR(StemCell Technologies)における100pg/mlのIL6IL6受容体キメラ体。
cmTeSR2−TeSR2(StemCell Technologies)における100ng/mlのIL6IL6受容体キメラ体。
cmTeSR2p TeSR2(StemCell Technologies)における100pg/mlのIL6IL6受容体キメラ体。
cmHA13 85%のDMEM/F12(Biological Industries、Beit Haemek、イスラエル)で、1%のSR3血清代替物(Sigma)、2mMのL−グルタミン、アスコルビン酸(50μg/ml)、1%の脂質混合物および10ng/mlのbFGF、ならびに100ng/mlでのIL6IL6受容体キメラ体を含有する。85KdaのIL6RIL6が記載の通りに製造および精製され、Merck−Seronoグループより寄贈された。(すべてが、別途示される場合を除き、Invitrogen Corporation products(Grand Island、NY、米国)から得られる)。
cmHA13p 85%のDMEM/F12(Biological Industries、Beit Haemek、イスラエル)で、1%のSR3血清代替物(Sigma)、2mMのL−グルタミン、アスコルビン酸(50μg/ml)、1%の脂質混合物および10ng/mlのbFGF、ならびに100pg/mlでのIL6IL6受容体キメラ体を含有する。85KdaのIL6RIL6が記載の通りに製造および精製され、Merck−Seronoグループより寄贈された。(すべてが、別途示される場合を除き、Invitrogen Corporation products(Grand Island、NY、米国)から得られる)。
CMrb100F−下記を含む基本培地(yF10):bFGF濃度が100ng/mlに増大された;100ng/mlのIL6RIL6(IL6−IL6受容体キメラ体;Chebath J.他(1997)および国際公開WO99/02552(Revel M.他)に記載される)。85KdaのIL6RIL6が製造および精製され(Serono International SA、Geneva、スイス)、Merck−Seronoグループ(Nes−Ziona(イスラエル)およびGeneva(スイス))より寄贈された。
CMrb100Fp−下記を含む基本培地(yF10):bFGF濃度が100ng/mlに増大された;100pg/mlのIL6RIL6(IL6−IL6受容体キメラ体;Chebath J.他(1997)および国際公開WO99/02552(Revel M.他)に記載される)。85KdaのIL6RIL6が製造および精製され(Serono International SA、Geneva、スイス)、Merck−Seronoグループ(Nes−Ziona(イスラエル)およびGeneva(スイス))より寄贈された。
NCMrb100F−ノックアウト血清代替物の代わりに、血清代替物が動物由来物非含有血清代替物(Invitrogen corporation、Knockout SR(異種非含有)、カタログ番号12618)であり、かつbFGF濃度が100ng/mlに増大された基本培地(yF10)。加えて、100ng/mlのIL6RIL6(IL6−IL6受容体キメラ体;Chebath J.他(1997)および国際公開WO99/02552(Revel M.他)に記載される)。85KdaのIL6RIL6が製造および精製され(Serono International SA、Geneva、スイス)、Merck−Seronoグループ(Nes−Ziona(イスラエル)およびGeneva(スイス))より寄贈された。
NCMrb100Fp−ノックアウト血清代替物の代わりに、血清代替物が動物由来物非含有血清代替物(Invitrogen corporation、Knockout SR(異種非含有)、カタログ番号12618)であり、かつbFGF濃度が100ng/mlに増大された基本培地(yF10)。加えて、NCMrb100Fp培地には、100pg/mlのIL6RIL6(IL6−IL6受容体キメラ体;Chebath J.他(1997)および国際公開WO99/02552(Revel M.他)に記載される)が含まれた。85KdaのIL6RIL6が製造および精製され(Serono International SA、Geneva、スイス)、Merck−Seronoグループ(Nes−Ziona(イスラエル)およびGeneva(スイス))より寄贈された。
2次元培養システムにおける培養−フィーダー層非含有の培養システムのために、細胞外マトリックスであるMatrigel(BD Biosciences)またはヒトフィブロネクチン(Millipore、Billerica、MA)を使用した。
懸濁培養の開始−懸濁培養を開始するために、iPS細胞またはES細胞を、1.5mg/mlのIV型コラゲナーゼ(Worthington biochemical corporation、Lakewood、NJ、米国)を使用して、またはスクレーパーを使用してそれらの培養ディッシュから取り出し、200μl〜1000μlのGilsonピペットチップを使用して小さい凝集塊にさらに壊し、1×106細胞/ディッシュ〜5×106細胞/ディッシュの細胞密度で58mmのペトリディッシュ(Greiner、Frickenhausen、ドイツ)において懸濁状態で培養した。ペトリディッシュを5%CO2において37℃でインキュベーターの中に静置した。懸濁培養における培地を毎日交換し、細胞を、27gのニードルを使用する凝集塊の手作業による細断(1回目〜3回目の継代においてのみ)によって、または200μl〜1000μlのGilsonピペットチップを使用する穏和なピペッティングによってのどちらかで5〜7日毎に継代した。あるいは、細胞を、トリプシン/EDTA(0.25%、Biological Industries、Beit Haemek、イスラエル)を、トリプシンとのインキュベーションに先立って、10MのROCK阻害剤(EMD Biosciences,Inc.、La Jolla、CA、米国)による1時間の処理との組み合わせで使用して継代した。
スピナーフラスコにおける培養−ペトリディッシュで少なくとも1回の継代にわたって培養された細胞凝集塊を試験培地において250mlのスピナーフラスコに移し、磁石プレートを使用して40〜110回/分(rpm)で絶え間なく振とうし、インキュベーターの中に置いた。培地を1〜3日毎に交換した。5〜7日毎に、凝集塊を1:2〜1:4の比率で分けた。
制御されたバイオリアクターにおける培養−細胞を制御型バイオリアクターのBiostat(登録商標)Cultibag RM(Sartorius North America、Edgewood、New York、米国)(1リットルに関しては2リットルバッグ)において培養した。リアクターのパラメーターには、傾動速度:16回/分(rpm)、角度:7°、温度:37℃、pH:7〜7.4、O2濃度:50%が含まれた。
免疫組織化学−蛍光免疫染色のために、懸濁状態で成長させたか、またはMEF上で再培養された未分化hESCを4%パラホルムアルデヒドにより固定処理し、一次抗体に4℃で一晩さらした。Cys3コンジュゲート化抗体(Chemicon International、Temecula、CA、米国)を二次抗体として使用した(1:200の希釈)。一次抗体(1:50の希釈)には、SSEA1、SSEA3およびSSEA4(Hybridoma Bank、Iowa、米国)、TRA1−60およびTRA1−81(Chemicon International、Temecula、CA、米国)、Oct4(Santa Cruz Biotechnology、Santa Cruz、CA、米国)、乏突起膠細胞マーカー(O4;R&D Biosystemsから得られる)、グリア線維酸性タンパク質(GFAP;Millipore(Billerica、MA、米国)から得られる)、β−チューブリン(Covance、Princeton、New Jersey、米国)、ネスチン(Chemicon Intnl,Inc.、Temecula、CA、米国)、PDX1(一次抗体はヤギ抗ヒトPDX1である;2つの二次抗体が使用された:FLUORにコンジュゲートされたウサギ抗ヤギIgG(緑色)、またはロバ抗ヤギNL557(赤色)、すべてがR&D Biosystemsから得られる)が含まれる。
フローサイトメトリー分析−懸濁状態で培養されたhPSCの球体を、trypLE(Invitrogen Corporation products、Grand Island、NY、米国)を使用して単一細胞に解離した。単一細胞を、200μlのピペットチップを用いて上下にピペッティングした。細胞を、フィコエリトリンにコンジュゲートされた抗h/mSSEA4 Ab、抗h/mSSEA1 Ab、h/mTRA1−160 Ab、h/mTRA1−81 Abにより染色し、フィコエリトリンコンジュゲート化ラットIgG2Bをイソタイプ対照として使用した(別途述べられる場合を除き、すべての抗体をR&D systems(Minneapolis、MN、米国)から購入した)。その後、染色された細胞を、CellQuestソフトウエアを製造者の説明書に従って使用してFACS caliburフローサイトメーター(Becton Dickinson、San Jose、CA、米国)により分析した。抗CD73(BD Pharmingen)、CD146(BD Pharmingen)、CD105(BioScience)、CD44(BioScience)、CD45およびCD31(BD Pharmingen)の各抗体。
核型分析−核型分析(Gバンド法)を、前述[Amit他、2003]のように、それぞれのサンプル(試験あたり2つのサンプル)から少なくとも10個の細胞に対して行った。核型が分析され、“Internationl System for Human Cytogenetic Nomenclature”(ISCN)に従って報告された。
胚様体(EB)の形成−EBの形成のために、hESCおよびiPS細胞を記載されるように継代し、58mmのペトリディッシュ(Greiner、Frickenhausen、ドイツ)に移した。EBを、80%のDMEM/F12(Biological Industries、Beit Haemek、イスラエル)からなり、10%のウシ胎児血清(FBS)(HyClone、Utah、米国)、10%の血清代替物(SR)、2mMのL−グルタミン、0.1mMのβ−メルカプトエタノールおよび1%の非必須アミノ酸ストック液(Invitrogen Corporation、Grand Island、NY、米国)が補充される培地において成長させた。10日齢〜14日齢のEBをRNA単離および組織学的試験のために集めた。組織学的分析のために、EBを10%中性緩衝化ホルマリンで固定処理し、段階的アルコール(70%〜100%)において脱水し、パラフィンに包埋した。1μm〜5μmの切片を脱パラフィンし、ヘマトキシリン/エオシン(H&E)により染色した。
逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)−総RNAを、試験された培地において懸濁状態(三次元、3D)または2次元(2D)で少なくとも5回の継代にわたって成長させたhESCおよびiPS細胞から、また(懸濁状態で成長させた細胞、または2Dで培養された細胞から形成される)10日齢〜21日齢のEBから、Tri−Reagent(Sigma、St.Louis、MO、米国)を製造者の説明書に従って使用して単離した。相補的DNA(cDNA)を、MMLV逆転写酵素RNase H minus(Promega、Madison、WI、米国)を使用して1μgの総RNAから合成した。PCR反応では、下記の工程が含まれた:94℃での5分間の変性、その後下記工程の繰り返しサイクル(サイクル数が下記の表1に示される):94℃での30秒間の変性、特定のアニーリング温度(下記の表1に示される通り)で、かつ特定のMgCl2濃度(下記の表1に示される通り)の存在下での30秒間のアニーリング、および72℃での30秒間の伸長。使用されたPCRプライマーおよび反応条件が表1に記載される。PCR生成物を、2%アガロースゲル電気泳動を使用してサイズ分画した。DNAマーカーを使用して、生じたフラグメントのサイズを確認した。
リアルタイムRT−PCR−RNAを、2−D、細胞凝集塊としての懸濁培養、または単一細胞としての懸濁培養で培養された細胞から、TriReagent(Talron)を使用して抽出した。その後、RNAを、RTミックス(Applied Biosystems)と、本明細書中下記の表2に提供されるプライマー(Applied Biosystems)とを製造者の説明書に従って使用してリアルタイムRT−PCRに供した。
奇形腫形成−4枚〜6枚の58mmディッシュ(6ウエルプレートにおいて3つ〜6つのウエル)から得られる細胞、または20mlの懸濁培養物から得られる細胞を集め、重症複合免疫不全症(SCID)ベージュマウスの4週齢オスの後肢筋肉に注射した。注射後10週において、生じた奇形腫を集め、EBについて述べた同じ方法を使用して組織学的分析のために調製した。
多能性幹細胞(PSC)のクローニング効率の試験−PSCを、2−D、細胞凝集塊としての懸濁培養、または単一細胞としての懸濁培養で培養し、下記のようにそれらのクローニング能について試験した。ここで、それぞれの処置群について、96個の細胞の6回の繰り返しを行った。
MEFとの2D培養からのクローニング−H7細胞を0.05%のトリプシン/0.53mMのEDTA(Invitrogen)によりトリプシン処理して単一細胞にした。それぞれの個々の細胞を、有糸分裂不活化MEFで覆われた96ウエルプレート(Nunc)における別々のウエルに置床した。それぞれの生物学的反復物における96個の細胞を、10μM/mlのRock阻害剤を加えながらクローニングした。置床後10日に生じたコロニーの数を計算した。3つのコロニーを、1mg/mlのコラゲナーゼIV型および10mg/mlのディスパーゼ(両方がGibcoBRLから得られる)を使用する継代によって選んだ。クローニングされた培養物をpCM100F培地[85%のDMEM/F12(Biological Industries、Beit Haemek、イスラエル)を含有し、15%のノックアウト血清代替物(SR)、2mMのL−グルタミン、0.1mMのb−メルカプトエタノール、1%の非必須アミノ酸ストック液および4ng/mlのbFGFを含有し(すべてが、別途示される場合を除き、Invitrogen Corporation products(Grand Island、NY、米国)から得られる)、100pg/mlのIL6RIL6キメラ体が補充される]において成長させ、1mg/mlのコラゲナーゼIV型により5〜7日毎に日常的に継代した。培養での拡大後、生じた3つのクローンをESC特徴について調べた。
単一細胞としての3D培養物からのクローニング−懸濁状態で単一細胞として培養されたH7細胞を使用した。それぞれの個々の細胞を96ウエルプレート(Nunc)における別々の低付着ウエルに、またはMEFで覆われたプレートに置床した。それぞれの生物学的反復物における96個の細胞を、下記の実施例の節の実施例9における表4に記載されるように、10μM/mlのRock阻害剤の添加を伴って、または伴うことなくクローニングした。置床後10日で、生じたコロニーの数を計算した。3つのコロニーを200μLのチップによって選んだ。クローニングされた培養物を、血清代替物、IL6IL6受容体キメラ体および4ng/mlのbFGFを含有するpCM100F培地において成長させ、ピペットによって5〜7日毎に日常的に継代した。培養での拡大後、生じた3つのクローンをESC特徴について調べた。
凍結・解凍効率−細胞を、下記の凍結用溶液の1つを使用して凍結した:
1.血清および動物凍結用溶液(Biological Industries)。
2.10%のDMSOおよび20%のFBSが補充されたDMEM。
3.10%のDMSOおよび30%のSRが補充されたDMEM。
(冷凍ボックスを使用して)−80℃の冷凍庫における1日〜7日後、バイアルを液体窒素に移した。細胞を解凍し、生存性をトリパンブルー染色によって調べた。3回の別個の実験を行った。
遺伝子操作−細胞を、下記のベクターを使用してトランスフェクションした:CMVプロモーター−GFP(N1プラスミドに基づく)。下記の方法を使用した:
1.下記のパラメーターによる、BTX ECM2001電気穿孔器を使用する電気穿孔法:40μgrのDNA、107個の細胞、3mSc〜6mSc、220V。
2.製造者の説明書に従うトランスフェクション試薬のFugene6(Roche)またはLipofectamine(Invitorgen)(106個の細胞について40μgrのDNA)。
神経分化−神経分化を誘導するために、懸濁状態で培養された単一細胞を、bFGFおよびIL6RIL6キメラ体を含まない培地に移した。レチノイン酸(10−3M)またはノギン(10ngr/ml)のどちらかを3日間〜7日間加えた。分化誘導後3週間で、細胞をフィブロネクチンとともに染色のために置床した。細胞を、O4(乏突起膠細胞マーカー)、GFAP(グリア線維酸性タンパク質)、ネスチンおよびβ−チューブリンについて染色した。
脂肪生成細胞系譜、骨形成細胞系譜および軟骨形成細胞系譜への懸濁MSCの分化のために使用される培地:
脂肪生成培地−10%のFBS、1mMのL−グルタミン、0.5mMのIBMX、10μg/mlのインスリン、10−6Mのデキサメタゾン、0.1mMのインドメタシンが補充されるDMEM F12。
骨形成培地−10%のFBS、1%のピルビン酸ナトリウム、1%の非必須アミノ酸、50μg/mlのL−アスコルビン酸、0.1mMのβ−メルカプトエタノール、10mMのβ−グリセロールリン酸および0.1μMのデキサメタゾンが補充されるGMEM BHK−21。
軟骨形成培地−10−7Mのデキサメタゾン、1%のITS、50μg/mlのL−アスコルビン酸、1mMのピルビン酸ナトリウム、4mMのL−プロリンおよび10ng/mlのTGFβ3が補充されるDMEM。
脂肪生成細胞系譜、骨形成細胞系譜および軟骨形成細胞系譜への懸濁MSCの分化プロトコル:
脂肪生成分化の分化手順およびオイルレッドO染色−MSCを6ウエルプレートにおいて20000細胞/cm2の密度で播種し、培地交換を1週間に2回行いながら4週間、脂肪生成培地において成長させた。
脂肪生成分化を、脂質を多量に含む液胞の細胞内の蓄積をオイルレッドO染色後に観察することによって評価した。
オイルレッドO染色−細胞をPBSにより1回ゆすぎ、4%パラホルムアルデヒド(PFA)により20分間固定処理し、再びゆすぎ、オイルレッドO溶液により室温で10分間染色した。染色溶液を除き、細胞を水により5回洗浄した。
骨形成分化の分化手順およびアリザリンレッド染色−MSCを6ウエルプレートにおいて2000細胞/cm2〜3000細胞/cm2の密度で播種し、培地交換を1週間に2回行いながら4週間、骨形成培地において成長させた。細胞培養物をアリザリンレッド染色によって無機質含有量についてアッセイした。
アリザリンレッド染色−細胞をPBSにより1回ゆすぎ、4%パラホルムアルデヒド(PFA)により20分間固定処理し、再びゆすぎ、2%アリザリンレッド溶液により室温で15分間染色した。染色溶液を除き、細胞を水により数回洗浄した。
軟骨形成分化の分化手順、ヘマトキシリン・エオシン染色およびアルシアンブルー染色−軟骨形成分化のために、2×105個のMSCを15mlのポリプロピレン製ファルコンチューブにおいて300gで5分間遠心分離して、細胞ペレットを形成した。細胞を、細胞塊を乱すことなく培地交換を1週間に2回行いながら9週間、軟骨形成培地において成長させた。細胞切片を、細胞ペレットを4%のPFAにより固定処理し、低融点アガロース(1.5%)に包埋した後で作製した。
ヘマトキシリン・エオシン(H&E)染色およびアルシアンブルー染色−これらは、Rambam Medical Centerの病理学研究室において行われた。
懸濁状態でのMSCの分化プロトコル−(本明細書中上記で記載される)同一の脂肪生成培地、骨形成培地および軟骨形成培地を使用して、MSCを2−D培養システムに播種することなく、MSCを懸濁状態で分化させた。
実施例1
本発明の一部の実施形態の新規な培養培地における多能性幹細胞の懸濁培養
多能性細胞の懸濁状態での培養は、多量の細胞を細胞移植および組織移植のために得ようとするときには特に、従来の培養を上回る著しい利点を有している。懸濁培養を、MEFとともに成長させた多能性細胞またはフィーダー層非含有条件下で成長させた多能性細胞[Amit他、2004]から開始するために、数多くの増殖因子およびサイトカインが用いられた。種々の供給源から得られる多能性細胞が使用された:新生児(包皮線維芽細胞)から得られるiPS細胞、成人(線維芽細胞)から得られるiPS細胞、および、hESC。
実験結果
懸濁培養−下記の培養培地:yFIL25、NCM100F、NCM100Fp、ILCNTF、NILCNTF、cmV5b、cmV5bp、cmTeSR、cmTeSRp、cmTeSR2、cmTeSR2p、cmHA13、CMrb100F、CMrb100Fp、NCMrb100FまたはNCMrb100Fpの存在下で懸濁培養に置かれた24時間後において、多能性細胞は、組織学的試験で大きい核を有する小さい細胞の均一な集団を明らかにした球状の凝集塊または円盤様の構造物をもたらした。球状体は成長し、それらの形態学を維持しながら5〜7日毎に機械的に分けられることによって懸濁培養物の拡大を可能にした。これらのタイプの培地のすべてが、ESCおよびiPS細胞を、単一細胞としての、または100個未満の細胞の小さい凝集塊としての懸濁状態で培養するために好都合であることが見出された。
あるいは、トリプシン−EDTAおよびROCK阻害剤の処理を使用することによって、懸濁された細胞は単一細胞に解離することができ、また依然として、同じ形態学および特徴の球状体を形成し、したがって効率的な細胞拡大を可能にした。試験された培養培地による懸濁培養に供された細胞は、類似する挙動および球状の形態学および組織学を示した。MEFまたはフィブロネクチンを用いた2D培養に懸濁状態での少なくとも5回の継代後で戻されたとき、球状凝集塊のすべてがMEFまたはフィブロネクチンマトリックスにそれぞれ接着し、24時間後〜48時間後、典型的な多能性細胞のコロニー形態学を明示し、大きい核対細胞質比を、1個〜3個の核小体の顕著な存在を伴って、かつ典型的な細胞間間隔を伴って示した。
未分化幹細胞表現型の維持−霊長類の未分化のESCおよびiPS細胞に典型的ないくつかの表面マーカーを、本質的にはThomson他(1998)、Bhattacharya他(2004)、Kristensen他(2005)に記載されるような免疫蛍光染色を使用して調べた(それらのそれぞれが全面的に参照によって本明細書中に組み込まれる)。少なくとも5回の継代にわたって試験培地により懸濁状態で培養されたヒト多能性細胞は、SSEA4、TRA−1−60およびTRA−1−81およびOct4について依然として強く陽性であることが見出された。他の霊長類ESC[Thomson他、1995および1996]の場合のように、またMEFとともに培養された細胞と同様に、SSEA3についての染色は弱く、SSEA1についての染色は陰性であった。幹細胞マーカーについての染色が、懸濁状態で培養された細胞がMEFフィーダー細胞層での2D培養に戻されたときには依然として高いままであった。RT−PCR分析では、MEFとともに培養された細胞と同様に、少なくとも5回の継代にわたって懸濁状態で培養された多能性細胞が、Oct4、Nanog、Sox2、Rex1およびFGF4を含む多能性の遺伝マーカーを発現することが示された[King他、2006]。遺伝子発現における有意な差が、懸濁状態で培養された細胞の間において、または懸濁状態での連続培養後でMEFとともに再培養された細胞に関して何ら検出されなかった。
核型の維持−ギムザバンディングによる核型分析を懸濁状態での少なくとも7回の継代後における細胞に対して行った。細胞は、正常な46,XY核型または46,XX核型を示すことが見出された。したがって、懸濁細胞培養物の核型は安定なままであった。
多能性−試験培地による懸濁培養での長期にわたる拡大後、多能性細胞はそれらの多能性分化能を保っていた。細胞の発達能力を最初にEBの形成によってインビトロで調べた。5回を超える継代にわたって懸濁状態で培養された多能性細胞を、増殖因子の添加を伴わない血清含有培地に移したとき、嚢胞性EBの形成が7日後〜10日後に認められ(これは、空洞形成したEBが培養で10日後に現れた、MEFとともに培養された細胞と同様であった[Itskovitz他、2000])、また嚢胞性EBが14日後〜20日後に認められた。これらのEBの内部には、多能性細胞分化に典型的な胚の3つの胚葉を代表する細胞タイプが存在した。
懸濁多能性細胞の多能性がさらに、奇形腫の形成によってインビボで明示された。約10回の継代にわたって懸濁状態で培養された細胞がSCIDベージュマウスに注射され、10週間後、腫瘍が形成された。これらの奇形腫の内部には、3つの胚葉を代表する組織が認められた。
振とう懸濁培養−多能性細胞を、試験された培地を使用して少なくとも1ヶ月間、スピナーフラスコにおいて懸濁状態で培養した。1ヶ月後での試験では、形態学的には、細胞によって形成された球状の凝集塊が、ペトリディッシュを使用して静的に培養された細胞に関して認められる凝集塊と類似したままであることが示された。MEF上で再培養されたとき、凝集塊における細胞は再接着し、多能性細胞の典型的なコロニーを再び形成した。スピナーフラスコで1ヶ月間培養された細胞の核型は正常であることが見出された。
実施例2
本発明の一部の実施形態の新規な培養培地における多能性幹細胞の二次元培養
血清非含有かつ異種非含有の支援層非含有システムを使用する2D培養における多能性細胞の培養−いくつかの可能な培地の組み合わせを、多能性細胞のフィーダー層非含有培養または動物由来非含有(異種非含有)培養(例えば、包皮線維芽細胞をフィーダーとして使用する)を支援する能力について試験した。すべての試験された培地(すなわち、yFIL25、NCM100F、NCM100Fp、ILCNTF、NILCNTF、cmV5b、cmV5bp、cmTeSR、cmTeSRp、cmTeSR2、cmTeSR2p、cmHA13、CMrb100F、CMrb100Fp、NCMrb100FまたはNCMrb100Fp)が、未分化多能性細胞の培養を支援するために好適であることが見出された。多能性細胞を、未分化増殖、核型安定性および多能性を含むそれらの幹性(stemness)特徴を維持しながら、少なくとも5回の継代にわたって連続して培養した。形態学的な差が、試験された培養システムで成長させたコロニーと、基本培地とともにMEF上で成長させたコロニーとの間において何ら認めることができず、それに対応して、形態学的特徴が一細胞レベルで変化しないままであり、細胞を小さくかつ丸くしており、大きい核対細胞質比を、1個〜3個の核小体の顕著な存在および典型的な細胞間間隔を伴って示した。MEF上で成長させた細胞と同様に、細胞を1/2または1/3の同じ比率で5〜7日毎に日常的に継代した。これは、類似する集団倍加時間を示した。細胞が約100万細胞/10cm2の同じ播種効率で継代され、これは90%を超えて同じ生存率を有した。
本発明の一部の実施形態の新規な培養培地の存在下において2−D培養システムで培養される多能性幹細胞は未分化細胞の発現パターンを維持する−霊長類の未分化のESCおよびiPS細胞に典型的ないくつかの表面マーカーを、本質的にはThomson他(1995、1996、1998)に記載されるような免疫蛍光染色を使用して調べた(それらのそれぞれが全面的に参照によって本明細書中に組み込まれる)。少なくとも7回の継代(例えば、10回、15回の継代)にわたって試験培地により培養された細胞は、SSEA4、TRA−1−60、TRA−1−81およびOct4の表面マーカーに対して強く陽性であることが見出された。他の霊長類ESCの場合のように、SSEA3に関する染色は弱く、SSEA1については陰性であった。
本発明の一部の実施形態の新規な培養培地の存在下において2−D培養システムで培養される多能性幹細胞は、胚の3つの胚葉に由来する細胞系譜へのインビトロおよびインビボでの分化が可能である−試験された条件での長期にわたる培養後における細胞の発達能力を胚様体(EB)の形成によってインビトロで調べた。試験された条件で培養された多能性細胞は、MEF上で成長させたESCによって生じるEBと類似するEBを形成した。これらのEBの内部において、幹細胞は胚の3つの胚葉を代表する細胞タイプに分化した(データは示されず)。
加えて、これらの多能性幹細胞はインビボでの分化が可能であることが示された。したがって、試験された条件下で培養された細胞は、SCIDベージュマウスへのそれらの注射後、胚の3つの胚葉(すなわち、外胚葉、内胚葉および中胚葉)を代表する細胞タイプを含有する奇形腫を形成する(データは示されず)。
実施例3
酵素的継代を伴わない懸濁状態での単一細胞としての多能性幹細胞の培養
実験結果
単一細胞の懸濁培養での培養−多能性細胞を単一細胞として、試験された培地のすべて(yFIL25、NCM100F、NCM100Fp、ILCNTF、NILCNTF、cmV5b、cmV5bp、cmTeSR、cmTeSRp、cmTeSR2、cmTeSR2p、cmHA13、CMrb100F、CMrb100Fp、NCMrb100FまたはNCMrb100Fp)を使用して少なくとも1ヶ月間、スピナーフラスコまたはペトリディッシュにおいて懸濁状態で培養した。1ヶ月後での試験では、細胞が、安定な核型、特異的マーカーに関する発現および分化能を含む多能性細胞の特徴を示すことが示された。細胞が、ROCK阻害剤の使用を伴うことなく、かつトリプシンの使用を伴うことなく継代され、ピペットを使用して機械的に分けられた。ヒトのESCまたはiPSが、酵素的継代を必要とすることなく、単一細胞としての懸濁培養で培養され得ることが示されたのは初めてである。これは、細胞が単一細胞培養様式を取ったからである。このシステムは継代を用いることなく、工業的プロセスのために使用することができる。
単一細胞としての懸濁培養で培養されるヒトESCは2次元培養システムにおいて再置床することができ、これにより典型的なhESCの形態学が明示される−単一細胞としての懸濁状態で17回の継代にわたって培養されたCL1(13E1)を不活化MEFとともに再置床した。1回目の継代の期間中はコロニーの形態学が明瞭でない。数週間後、細胞は、多能性細胞の形態学の細胞間間隔、透明な辺縁部および大きい核対細胞質比を有するコロニーを形成した(図11A〜図11B)。
実施例4
ヒトのESCおよびiPS細胞は懸濁培養中に輸送することができる
生細胞の輸送−記述の方法を使用して細胞凝集塊としての懸濁状態で培養された細胞は室温または0℃〜15℃での輸送に耐える。20ml〜40mlの培養培地(通気または非通気)を含む50mlチューブを使用すれば、チューブあたり200万個〜1000万個の細胞を輸送することができる。細胞の少なくとも50%が生存し、すべての多能性特徴を維持しながら成長し続けた。他のチューブサイズが使用され得る。培地には、抗酸化剤およびRoCK剤または他の抗アポトーシス剤が補充され得る。
実施例5
本発明の一部の実施形態の新規な培養培地の存在下における動的培養条件下での多能性幹細胞の拡大
本発明者らは、本発明の一部の実施形態の新規な培養培地が多能性幹細胞(例えば、iPSCおよびESCなど)の成長および拡大を支援し得るかを、多能性幹細胞が、(細胞凝集塊を含まない)単一細胞として培養されるとき、または細胞凝集塊を伴う懸濁状態で培養されるときの動的培養条件下で調べた。
実験方法
細胞株および播種濃度:C2 IPS細胞株を77回目の継代で使用した。ただし、そのうちの37回の継代は動的培養条件への播種前の懸濁状態においてであった。IPSCを3.7×104細胞/mlの濃度で播種(接種)した。
培養培地および条件:下記の培養培地を動的懸濁培養のために使用した:CM100Fp。細胞を5日間連続してスピナーフラスコまたは制御されたバイオリアクターにおいて培養した。バイオリアクターで培養されたとき、培地は培養プロセス期間中に交換されなかった。スピナーフラスコで培養されたときは、培地を毎日交換した。
懸濁状態での動的成長のための培養条件:
制御されたバイオリアクターにおける培養−細胞を制御型バイオリアクターBiostat(登録商標)Cultibag RM(Sartorius North America、Edgewood、New York、米国)(1リットルに関しては2リットルバッグ)で培養した。リアクターのパラメーターには、傾動速度:16回/分(rpm)、角度:7°、温度:37℃、pH:7〜7.4、O2濃度:50%が含まれた。
スピナーフラスコにおける培養−少なくとも1回の継代にわたってペトリディッシュで培養された細胞凝集塊を試験培地において250mlのスピナーフラスコに移し、磁石プレートを使用して40〜110回/分(rpm)で絶え間なく振とうし、インキュベーターの中に置いた。培地を1〜3日毎に交換した。5〜7日毎に、凝集塊を1:2〜1:4の比率で分けた。
実験結果
本発明の一部の実施形態による培養培地を使用する懸濁培養での多能性幹細胞の拡大−動的培養条件を受けた多能性幹細胞は、細胞凝集塊を伴う懸濁培養で成長させたときは、スピナーフラスコにおける培養の11日以内に細胞数が約26倍にまで拡大し、また細胞凝集塊を含まない単一細胞としての懸濁培養で成長させたときは、スピナーフラスコにおける培養の11日以内に細胞数が約50倍にまで拡大した。加えて、多能性幹細胞は、単一細胞として成長させたとき、制御されたバイオリアクターにおける培養の5日以内に細胞数が約64倍にまで拡大した(図5A〜図5C、データは示されず)。これらの結果から、本発明の一部の実施形態の新規な培養培地は、多能性細胞が動的培養条件下での懸濁状態で培養されるとき、多能性細胞の拡大を支援し得ることが明示される。
実施例6
懸濁状態で培養された多能性幹細胞は凍結/解凍サイクルから十分に回復する
本発明の一部の実施形態の新規な培養培地の存在下での懸濁状態で培養された多能性幹細胞が再凍結/解凍サイクルから回復し得るかを調べるために、細胞を下記の凍結用溶液を使用することによって液体窒素で凍結した:
(1)10%DMSO(Sigma)、10%FBS(HyClone)10%SR(Invitrogen corporation)、70%DMEM
(2)5%DMSO、10%FBS、10%SR、75%DMEM
(3)10%DMSO、90%SR
(4)5%DMSO、95%SR
(5)市販の血清非含有凍結用溶液(Biological Industries、Beit HaEmek、イスラエル)
凍結された細胞は最初、−80℃の冷凍庫において凍結されており、12時間〜3日後、保存用の液体窒素タンクに移した。
実験結果
多能性幹細胞は、上記の凍結用溶液を使用する凍結条件を受け、その後解凍され、懸濁状態において再培養された。図6A〜図6Cは、3つの異なる凍結用溶液を使用して解凍した後、cmrb100p培地による懸濁状態で48回の継代にわたって培養されたC2細胞を明示する。
実施例7
系譜特異的細胞の多能性幹細胞からの作製
ニューロン細胞への分化−4つの試験された細胞株(I3、I4、I6およびH9.2)からの細胞を、少なくとも25回の継代にわたって細胞凝集塊を伴う懸濁状態で培養した。その後、因子を培養培地から除き、5×10−5Mのレチノイン酸を21日間加えた。その後、細胞をフィブロネクチン被覆プレートに移し、細胞を分析のために集める前にさらに5日間培養した。定量的RT−PCR、免疫染色(免疫蛍光およびFACS)を行った。結果はニューロン細胞系譜の遺伝子(例えば、PAX6、HNF、ネスチン、β−チューブリンおよびPSA−NCAMなど)の発現を示す(図7A〜図7C、図8A〜図8B、図9A〜図9G)。
内胚葉細胞への分化−C2細胞株(包皮線維芽細胞に由来するiPS細胞株)から得られる、細胞凝集塊を伴う懸濁状態で培養された細胞を少なくとも10回の継代にわたって懸濁状態で培養した。その後、因子を培養培地から除き、細胞を、cAMP増加剤(例えば、フォルスコリン、8−ブロモcAMP、GABA、IBMXおよびDBCなど)を含有する培地において、10ng/mlのアクチビンに48時間さらした。10日後、細胞を内胚葉のマーカーについて分析した。Sox17についての定量的RT−PCRでは、非処理の対照との比較において、処理された細胞でのSox17発現における有意な増大が明示される(データは示されず)。図10A〜図10Bに示されるように、分化した細胞はPDX1(転写因子)を発現し、これは内胚葉系譜(主にβ−細胞)への分化を示している。
間葉系幹細胞(MSC)への分化−細胞凝集塊が懸濁されている懸濁状態で培養された細胞を血清含有培地に14日間移し、その後ゼラチンまたはMatrigelのどちらかに置床した。7日後〜14日後、生じたMSCは凍結されたか、またはトリプシンを使用しながら継代されたかのどちらかであった。
実施例8
単一細胞としての懸濁培養で培養されるヒト多能性胚性幹細胞の発現パターンの特徴づけ
単一細胞としての懸濁培養で培養される新規なhESCを特徴づけるための研究設計
培養された多能性幹細胞(PSC)の3つの群を調べた:
1.二次元の標準的条件(2D)でMEFとともに培養されるhESC。
2.懸濁培養(3D)で凝集塊(球状、200個超の細胞)として培養されるhESC。
3.懸濁状態(3D)で単一細胞(SC、50個未満の細胞、それらのほとんどが単一細胞としてである)として培養されるhESC。
細胞を、上記条件における少なくとも15回の継代培養後、フローサイトメトリーを使用して多能性マーカーの発現について調べた。
実験結果
単一細胞としての懸濁培養で培養されるヒトESCは、「ナイーブ」なマウスESCの発現パターンと類似する特有の発現パターンを示す−図12A〜図12Jに示されるように、単一細胞としての懸濁状態で培養された多能性幹細胞のFACS分析では、2Dで培養されるか、または細胞凝集塊としての懸濁培養で培養されるhESCと比較した場合、変化した発現パターンが明示される。例えば、2Dで培養されるか、または細胞凝集塊としての懸濁培養で培養されるhESCの大部分が、多能性のマーカーであるTRA1−60(図12A、図12C)、TRA1−81(図12B、図12D)およびSSEA4(図12H)を発現する一方で、単一細胞としての懸濁培養で培養される多能性hESCの大部分は、TRA1−60(図12E)、TRA1−81(図12F)およびSSEA4(図12J)の各マーカーを発現しない。対照的に、2Dで培養されるか、または細胞凝集塊としての懸濁培養で培養されるhESCの11%のみがSSEA1(図12G)を発現する一方で、単一細胞としての懸濁培養で培養されるhESCの大部分がSSEA1(図12I)を発現する。このように、単一細胞としての懸濁状態で培養されたhESCは、2Dで培養されたか、または細胞凝集塊としての懸濁培養で培養されたhESCと比較した場合、改変された発現パターンを示す。そのような発現パターンは、より「ナイーブ」なマウスESC細胞(TRA1−60、TRA1−81およびSSEA4を発現せず、しかしSSEA1を発現する)の発現パターンと似ている。
本明細書中下記の表3には、FACS分析の結果がまとめられる。
単一細胞としての懸濁状態で培養された細胞はOCT−4の増大したレベルを示す−リアルタイムRT−PCR分析を、本明細書中上記の「一般的な材料および実験方法」における表2に列挙されるプライマーを使用して、2−D、細胞凝集塊としての懸濁培養、または単一細胞としての懸濁培養で培養されたhESCに対して行った。図13Aに示されるように、Nanogの発現レベルが、2−Dで成長させたhESCと比較した場合、単一細胞懸濁培養ではわずかに低下している。他方で、OCT4の発現は、2Dで培養されたhESCと比較した場合、SCとしての懸濁状態で培養されたhESCでは約8倍増大していることが見出された。
実施例9
単一細胞としての懸濁培養で培養されるヒト多能性胚性幹細胞のクローニング効率の特徴づけ
実験結果
単一細胞としての懸濁状態で培養されるヒトESC、または2−Dで培養されたhESCをそれらのクローニング効率について調べた。2−Dで培養された細胞をトリプシン処理し、(本明細書中上記の「一般的な材料および実験方法」で記載されるように)MEFで覆われる96ウエルプレートのウエルに1個ずつ、単一細胞として置床し、また、懸濁状態で単一細胞として成長させた細胞を、(本明細書中上記の「一般的な材料および実験方法」で記載されるように)低接着性の96ウエルプレートのウエルに1個ずつ置床した。
単一細胞としての懸濁状態で培養されるヒトESCは、2−Dで培養されるhESCと比較した場合、著しくより大きいクローニング効率を示す−表4に示されるように、著しくより大きいクローニング効率が、2−Dで培養されたhESC(4.33%)と比較して、単一細胞としての懸濁状態で培養されたhESCについて認められた(95.63%)。加えて、ROCK阻害剤の添加によって、2−Dで培養されたhESCのクローニング効率を増大した一方で、単一細胞としての懸濁状態で培養されたhESCのクローニング効率はROCK阻害剤の存在下では増大しなかった。
単一細胞としての懸濁状態で培養されるヒトESCは、2−Dで培養されるhESCと比較した場合、凍結・解凍サイクルに対するより大きい生存を示す−多能性幹細胞が凍結・解凍サイクルに耐え得るかを調べるために、(単一細胞としての懸濁状態で培養された)hESCを、下記の凍結用溶液のいずれかを使用する凍結サイクルに供した:
I. 血清および動物凍結用溶液(Biological Industries)。
II. 10%のDMSOおよび20%のFBSが補充されるDMEM。
III. 10%のDMSOおよび30%のSR(血清代替物)が補充されるDMEM。
−80℃で約1日間〜7日間凍結した後、バイアルを液体窒素に移した。細胞を解凍し、生存性をトリパンブルー染色によって調べた。凍結−解凍サイクルに対するhESCの生存は、単一細胞としての懸濁状態で培養されたhESCについては約80%であった。これは2−Dで培養されるhESCの、同一アッセイ条件下での凍結−解凍サイクルに対する生存(最大50%、データは示されず)よりも著しく大きい。図15は、凍結−解凍サイクル後、懸濁培養で単一細胞として培養されたヒトESCの代表的な像である。
単一細胞としての懸濁状態で培養されるヒトESCは、2−Dで培養されるhESCと比較した場合、遺伝子操作のより大きい生存および効率を示す−細胞を、「一般的な材料および実験方法」で記載されるように、CMVプロモーター−GFP核酸構築物(N1プラスミドに基づく)を使用してトランスフェクションした。遺伝子操作後、細胞の生存を、位相差顕微鏡観察を使用して評価した。図16Aに示されるように、懸濁された単一細胞の90%超がこの手順に耐えた。対照的に、MEFとともに培養された2D細胞からは、(107個の細胞のうち)最大で17個の細胞が回復しただけであった(データは示されず)。その上、2−Dで培養されたhESCのどれもが緑色ではなかった(データは示されず)一方で、単一細胞として3−Dで培養されたhESCの少数が緑色であり、すなわち、導入遺伝子のCMV−GFP構築物を発現した(図16B)。
実施例10
単一細胞としての懸濁培養で培養されるヒト多能性胚性幹細胞は神経細胞系譜への分化が可能である
実験結果
単一細胞としての懸濁状態で培養されるヒトESCはニューロン細胞系譜への分化が可能である−神経分化を誘導するために、単一細胞としての懸濁状態で培養されるhESCを、本明細書中上記の「一般的な材料および実験方法」で記載されるように、レチノイン酸(10−3M)またはノギン(10ngr/ml)のどちらかを含んだニューロン分化用培地(これはbFGFおよびIL6RIL6キメラ体を含まない)に移した。分化を、(10cm2のHFPあたり50μgrの濃度での)ヒト血漿フィブロネクチン(HPF)被覆プレートにおける置床による2−Dで、または懸濁培養でのどちらかで誘導した。分化誘導後3週間で、細胞を、フィブロネクチン、O4、GFAP、ネスチンおよびβ−チューブリンに関する染色のために置床した。図17A〜図17Cに示されるように、細胞は、GFAP(グリア線維酸性タンパク質)(星状膠細胞のマーカー)、O4(乏突起膠細胞のマーカー)、ならびにβ−チューブリンおよびネスチン(ニューロンのマーカー)に関して陽性に染色されたニューロン始原体細胞に分化した。これらの結果は、単一細胞としての懸濁状態で培養されるhESCは、胚の胚葉である外胚葉に分化し得ることを決定的に示す。
実施例11
間葉系幹細胞を懸濁状態で分化させるための新規な方法
本発明者らは、下記のように、多能性幹細胞を懸濁状態で間葉系幹細胞に分化させるための新規な方法を開発している。
MSCへの分化を誘導するために、懸濁状態で培養された単一細胞を下記の培地の1つに徐々に移した:
(1)Fy富化;80%のDMEM/F12(Biological Industries、Beit Haemek、イスラエル)からなり、10%のノックアウト血清代替物(SR)、10%のFBS(HyCloneまたはBiological Industries)、2mMのL−グルタミン、0.1mMのβ−メルカプトエタノール、1%の非必須アミノ酸ストック液を含有する(すべてが、別途示される場合を除き、Invitrogen Corporation products(Grand Island、NY、米国)から得られる)。
(2)MeSus I:80%のDMEM(Biological Industries、Beit Haemek、イスラエル)からなり、20%のFBS(HyCloneまたはBiological Industries)、2mMのL−グルタミンを含有する(すべてが、別途示される場合を除き、Invitrogen Corporation products(Grand Island、NY、米国)から得られる)。
(3)MeSus II:80%のαMEM(Biological Industries、Beit Haemek、イスラエル)からなり、20%のFBS(HyCloneまたはBiological Industries)、2mMのL−グルタミンを含有する(すべてが、別途示される場合を除き、Invitrogen Corporation products(Grand Island、NY、米国)から得られる)。
(4)MeSus III:DMEM/F12(Biological Industries、Beit Haemek、イスラエル)、1%のITS(Invitrogen)、2mMのL−グルタミンからなる(すべてが、別途示される場合を除き、Invitrogen Corporation products(Grand Island、NY、米国)から得られる)。
単一細胞としての懸濁培養で培養されたヒトESCを、下記の方法のいずれか1つを使用して徐々にMSC分化培地に移した:
I.(i)1回の継代について25%分化培地/75%pCM100F;(ii)1回の継代について50%分化培地/50%pCM100F;(iii)1回の継代について75%分化培地/25%pCM100F;(iv)100%分化培地。
II.(i)1回の継代について50%分化培地/50%pCM100F;(ii)1回の継代について75%分化培地/25%pCM100F;(iii)100%分化培地。
III.(i)1回の継代について50%分化培地/50%pCM100F;(ii)100%分化培地。
上記の培地および移行方法のすべてがMSCへの効率的な分化をもたらした。
その後、細胞を懸濁状態(ペトリディッシュ、スピナーフラスコおよび/またはバイオリアクター)で培養し、ピペットによって5〜10日毎に継代した。細胞を分化培地により少なくとも1回の継代にわたって培養した後、MSCの特徴を調べた。図19A〜図19Bは、少なくとも10回の継代にわたって単一細胞としての懸濁状態で培養されたPSCから分化させたMSCの像を示す。細胞がゼラチン上に再置床されたとき、細胞は典型的なMSCの形態学を明示する。図19AはFy富化培地において分化させたCL1細胞を示し、図19BはMeSusII培地において分化させたCL1細胞を示す。
MSC集団を濃縮するために、磁石活性化細胞分取(MACS)を、抗CD73抗体(Milteniy)を製造者の説明書に従って使用して用いた。CD73−MACSは、約40%のCD73陽性細胞から80%超のCD73陽性細胞へのMSCの濃縮をもたらした。
MSCは、単一細胞としての懸濁状態で培養されたhESCの分化によって作製された場合、典型的なMSC発現パターンを示す−図18A〜図18Cに示されるように、FACS分析は、細胞が動物由来非含有培地において成長させられたとき、MSCの82.5%がCD73陽性であり、4.83%のみがCD31陽性であることを示す。加えて、MSCが血清含有培地において成長させられるとき、99.3%がCD105陽性である。
懸濁MSCの脂肪形成細胞系譜への分化−懸濁状態でのMSCを、本明細書中上記の「一般的な材料および実験方法」で記載されるように、2−D培養システムまたは懸濁培養のどちらかでの脂肪形成系譜への分化プロトコルに供した。簡潔には、MSCを6ウエルプレートにおいて20000細胞/cm2の密度で、または懸濁培養において1×106細胞/ml〜5×106細胞/mlの濃度で播種し、培地交換を1週間に2回行いながら4週間、脂肪形成培地の存在下で成長させた。図19Dに示されるように、(単一細胞としての懸濁状態で培養されたhESCの分化により作製された)MSCは、脂質を多量に含む液胞を細胞内に示す脂肪形成細胞系譜への分化が可能であった。
懸濁MSCの骨形成細胞系譜への分化−懸濁状態でのMSCを、本明細書中上記の「一般的な材料および実験方法」で記載されるように、2−D培養システムまたは懸濁培養のどちらかでの骨形成系譜への分化プロトコルに供した。簡潔には、MSCを6ウエルプレートにおいて2000細胞/cm2〜3000細胞/cm2の密度で、または懸濁培養において1×106細胞/ml〜5×106細胞/mlの濃度で播種し、培地交換を1週間に2回行いながら4週間、骨形成培地の存在下で成長させた。図19Cに示されるように、(単一細胞としての懸濁状態で培養されたhESCの分化により作製された)MSCは、アリザリンレッド染色によって検出される無機化した細胞を示す骨形成細胞系譜への分化が可能であった。
懸濁MSCの軟骨形成細胞系譜への分化−懸濁状態でのMSCを、本明細書中上記の「一般的な材料および実験方法」で記載されるように、2−D培養システムまたは懸濁培養のどちらかでの軟骨形成系譜への分化プロトコルに供した。簡潔には、2×105個のMSCを、15mlのポリプロピレン製ファルコンチューブにおいて300gで5分間遠心分離して、細胞ペレットを形成した。細胞を、細胞塊を乱すことなく培地交換を1週間に2回行いながら9週間、チューブにおいてペレットとして軟骨形成培地で成長させた。細胞切片を、細胞ペレットを4%のPFAにより固定処理し、低融点アガロース(1.5%)に包埋した後で作製した。細胞が、軟骨形成細胞系譜の軟骨細胞のマトリックスを染色するアルシアンブルーにより染色された(データは示されず)。これにより、MSCが軟骨形成細胞系譜に分化し得ることが明示される。
実施例12
単一細胞としての懸濁培養で培養されるヒト多能性胚性幹細胞は内胚葉細胞系譜への分化が可能である
実験結果
C2細胞をpCM100F培養培地において懸濁状態で単一細胞として10回超の継代にわたって培養した。内胚葉分化のために、bFGFおよびIL6RIL6キメラ体を培養培地から除き、10ng/mlの濃度でのアクチビンAを懸濁培養において48時間加えた。アクチビンAへの暴露後10日で、細胞をMatrigel(商標)またはHFF(ヒト包皮線維芽細胞)マトリックスに置床したか、あるいは(懸濁状態での)3次元培養システムで培養し、PDX1に対して染色した。SOX17遺伝子の発現レベルがリアルタイムPCRによって調べられると、アクチビンAへの暴露後2日目から10日目までの分化期間中に増大を認めることができるであろう(データは示されず)。図20A〜図20Bは細胞におけるPDX1の発現を示し、これにより内胚葉細胞への分化が明示される。
本発明はその特定の実施態様によって説明してきたが、多くの別法、変更および変形があることは当業者には明らかであることは明白である。従って、本発明は、本願の請求項の精神と広い範囲の中に入るこのような別法、変更および変形すべてを包含するものである。
本明細書で挙げた刊行物、特許および特許出願はすべて、個々の刊行物、特許および特許出願が各々あたかも具体的にかつ個々に引用提示されているのと同程度に、全体を本明細書に援用するものである。さらに、本願で引用または確認したことは本発明の先行技術として利用できるという自白とみなすべきではない。節の見出しが使用されている程度まで、それらは必ずしも限定であると解釈されるべきではない。