詳細な説明
本発明は、一般に、荷電質量標識組成物、および試料中の標的分析物を検出するためのその使用方法に関する。ある特定の態様において、本発明は、親和性試薬および親和性試薬に結合した質量標識前駆体を含む荷電質量標識組成物を提供する。質量標識前駆体は、標識結合ユニットおよび質量標識を含む。標識結合ユニットは、質量標識を親和性試薬に可逆的に結合する。質量標識は、電荷ユニットおよび質量スペクトルにおいて所定の質量対電荷値を有する質量標識ユニットを含む。
質量標識は、MS/MSに付されると少なくとも1つの特有の断片を生じる。この断片化は、予測可能であり、バックグラウンドスペクトルから分析的に分離され得る少なくとも1つの質量を生じる。質量標識イオンは、周囲環境下でのイオン化事象によって生じ得る(図1)。質量標識およびその生成物イオンは、質量分析計の真空下で検出される(図1)。質量標識(例えば、第四級質量標識)は、標識結合ユニット(例えば、アセタールまたはケタール結合)により親和性試薬または希少分子に付着され、希少分子の検出方法に使用され得る。
いくつかの例は、質量分析(MS)により1つまたはそれより多くの異なる希少分子および非希少分子集団を含有すると推定される試料中の、1つまたはそれより多くの異なる標的希少分子集団を検出する方法を対象とする。1つまたはそれより多くの異なる標的希少分子集団の濃度は、本発明の組成物が試料中の標的希少分子に結合することによって、非希少分子の濃度よりも高く検出される。付着は、希少分子と質量標識前駆体との非粒子または粒子結合によって行われてもよく、これは、変質剤(alteration agent)を有する液体に曝露された後に、質量標識を希少分子から放出する。処理済み試料はMS分析に付されて、第四級質量標識の存在および/または量が決定および/または定量化され得る。質量標識の存在および/または量は、試料中の標的希少分子の存在および/または量に関連し得る。
用語「親和性試薬」は、特定の結合対のメンバーを指す。例には、抗原−抗体またはハプテン−抗体などの免疫学的対、ビオチン−アビジン対、ホルモン−ホルモン受容体、酵素−基質、核酸二重鎖(duplexes)、IgG−プロテインA、タンパク質−ヌクレオチド対、およびDNA−DNA、DNA−RNAなどのポリヌクレオチド対が含まれる。例えば、核酸(例えば、ポリヌクレオチド)は、標的核酸に相補的な「親和性試薬」であり得る。ポリヌクレオチドは、任意の長さのヌクレオチドのポリマー形態を指し、デオキシリボヌクレオチドもしくはリボヌクレオチドのいずれか、またはこれらの類似体である。以下はポリヌクレオチドの非限定例である:遺伝子または遺伝子断片のコードまたは非コード領域、連結分析により規定された遺伝子座(単数または複数)、エクソン、イントロン、メッセンジャーRNA(mRNA)、転移RNA、リボソームRNA、リボザイム、cDNA、組み換えポリヌクレオチド、分枝ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、任意の配列の単離DNA、任意の配列の単離RNA、核酸プローブ、およびプライマー。ポリヌクレオチドは、例えば、メチル化ヌクレオチドおよびヌクレオチド類似体などの修飾ヌクレオチドを含んでもよい。存在する場合、ヌクレオチド構造への修飾は、ポリマーが組み立てられる前、またはその後に付与され得る。ヌクレオチドの配列は、非ヌクレオチド構成成分によって中断されることがある。ポリヌクレオチドは、標識化構成成分とのコンジュゲーションなどによって更に修飾され得る。親和性の組成物は、有機または無機、磁性または非磁性材料の実体であり得る、増幅および捕捉用粒子を含むことができる。
ある特定の実施形態において、親和性試薬は核酸である。ある特定の実施形態において、標的希少核酸の配列は、文献への参照によって決定することができる。例えば、遺伝子材料の欠失によってもたらされる、がんを生じる変異、および遺伝子内のそれらの位置は、当技術分野において公知である。例えば、Hesketh、The Oncogene Facts Book、Academic Press Limited(1995年)を参照すること。変異および変異の位置を知ることによって、当業者は、試料中の希少核酸配列に結合する核酸親和性試薬を容易に設計することができる。
あるいは、試料中の希少核酸の配列を決定するために、被験体から試料を得て、配列決定することができる。典型的には、試料は被験体から得られる。試料は、任意の臨床的に許容される手法によって得ることができ、核酸は、当技術分野で公知の方法によって試料から抽出される。一般に、核酸は、Maniatisら(Molecular Cloning: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor、N.Y.、280〜281頁、1982年)(この内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)によって記載されているもののなどの、様々な技術によって生物学的試料から抽出され得る。
いったん得られると、核酸分子は、当技術分野で公知の任意の方法よって、例えば、アンサンブル配列決定(ensemble sequencing)または単一分子配列決定によって配列決定される。配列決定を実施する1つの従来の方法は、Sangerら、Proc Natl Acad Sci U S A、74巻(12号):5463〜67頁(1977年)に記載されているような、連鎖停止およびゲル分離によるものである。別の従来の配列決定方法は、核酸断片の化学分解を伴う。Maxamら、Proc. Natl. Acad. Sci.、74巻:560〜564頁(1977年)を参照すること。最後に、ハイブリダイゼーションによる配列決定に基づいた方法が開発されている。例えば、Drmanacら(Nature Biotech.、16巻:54〜58頁、1998年)を参照すること。それぞれの参考文献の内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
ある特定の実施形態において、配列決定は、サンガー配列決定技術によって実施される。古典的なサンガー配列決定は、一本鎖DNAテンプレート、DNAプライマー、DNAポリメラーゼ、放射活性標識または蛍光標識ヌクレオチド、およびDNA鎖伸長を停止する修飾ヌクレオチドを伴う。標識がジデオキシヌクレオチドターミネーターに付着していない(例えば、標識プライマーである)、または単色標識(例えば、放射性同位体)である場合、DNA試料は、4つの標準的デオキシヌクレオチド(dATP、dGTP、dCTP、およびdTTP)、ならびにDNAポリメラーゼを含有する、4つの別々の配列決定反応に分けられる。それぞれの反応には、4つのジデオキシヌクレオチド(ddATP、ddGTP、ddCTP、またはddTTP)のうちの1つのみが添加される。これらのジデオキシヌクレオチドは、DNA鎖伸長における2つのヌクレオチドの間のホスホジエステル結合の形成に必要な3’−OH基を欠いている、連鎖停止ヌクレオチドである。しかしジデオキシヌクレオチドがそれぞれ異なる標識(例えば、4つの異なる蛍光色素)を有する場合、全ての配列決定反応を一緒に実施することができ、別々の反応は必要ない。
ジデオキシヌクレオチドを新生の、すなわち、伸長しているDNA鎖に組み込むことによって、DNA鎖延長を停止させ、様々な長さのDNA断片の入れ子集合(nested set)をもたらす。新たに合成および標識されたDNA断片は変性され、一塩基を鎖の長さの差で分割することができる、変性ポリアクリルアミド尿素ゲルに対するゲル電気泳動を使用して、サイズによって分離される。4つのDNA合成反応のそれぞれが、同じ単色標識(例えば、放射線同位体)によって標識される場合、これらは、ゲルの4つの個別の隣接レーンのうちの1つで分離され、ゲルにおけるそれぞれのレーンは、それぞれの反応に使用されるジデオキシヌクレオチドに従って指定され、すなわち、ゲルレーンA、T、G、Cである。4つの異なる標識を利用した場合、反応をゲルの単一レーンに組み合わせることができる。DNAバンドは、オートラジオグラフィーまたは蛍光によって可視化され、DNA配列を、X線フィルムまたはゲル画像によって直接読み取ることができる。
末端ヌクレオチド塩基は、そのバンドをもたらした反応に添加された、または直接標識に対応したジデオキシヌクレオチドに従って同定される。ゲルにおける異なるバンドの相対的な位置を使用して、示されたDNA配列(最短から最長まで)を読み取る。サンガー配列決定方法は、PerkinElmer、Beckman Coulter、Life Technologiesおよび他から市販されているものなどのDNA配列決定装置を使用して、自動化され得る。
他の実施形態において、核酸の配列決定は、合成技術による単一分子配列決定によって遂行される。単一分子配列決定は、例えば、Lapidusら(米国特許第7,169,560号)、Quakeら(米国特許第6,818,395号)、Harris(米国特許第7,282,337号)、Quakeら(米国特許出願第2002/0164629号)、およびBraslavskyら、PNAS(USA)、100巻:3960〜3964頁(2003年)に示されており、これらの参考文献それぞれの内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。簡潔には、一本鎖核酸(例えば、DNAまたはcDNA)を、フローセルの表面に付着したオリゴヌクレオチドとハイブリダイズさせる。オリゴヌクレオチドは表面に共有結合的に付着され得る、または共有結合的連結以外の当業者に公知の様々な付着を用いることができる。更に付着は、表面に直接的または間接的に付着したポリメラーゼを介して、間接的であってもよい。表面は、平面であっても、そうでなくてもよく、および/あるいは多孔質もしくは非多孔質、または付着に適した当業者に公知の任意の他の種類の表面であってもよい。次に核酸は、単一分子を分割するために、オリゴヌクレオチドの成長鎖表面に組み込まれた蛍光標識ヌクレオチドのポリメラーゼ媒介付加を画像化することによって、配列決定される。
他の単一分子配列決定技術は、DNAの新生鎖への単一ヌクレオチドの組み込みによって切断されるピロホスフェートの検出を伴い、これは、Rothbergら(米国特許第7,335,762号、同第7,264,929号、同第7,244,559号、および同第7,211,390号)、ならびにLeamonら(米国特許第7,323,305号)に示されており、それぞれの内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
他の実施形態において、標的化再配列決定が使用される。再配列決定は、例えば、Harris(米国特許出願第2008/0233575号、同第2009/0075252号、および同第2009/0197257号)に示されており、それぞれの内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。簡潔には、標的の特定のセグメントが配列決定の前に(例えば、PCR、マイクロアレイ、またはMIPSにより)選択される。この特定のセグメントとハイブリダイズするように設計されたプライマーが導入され、プライマー/テンプレート二重鎖が形成される。プライマー/テンプレート二重鎖は、プライマーへのテンプレート依存性ヌクレオチド付加にとって十分な条件下で、ポリメラーゼ、および少なくとも1つの検出可能標識ヌクレオチドに曝露される。標識ヌクレオチドの組み込みが決定され、また、組み込まれたヌクレオチドの反対側の位置にあるテンプレートのヌクレオチドに相補的なヌクレオチドの同一性も決定される。
重合反応の後、プライマーを二重鎖から取り除くことができる。プライマーは、任意の適切な手段によって、例えば、二重鎖が融解するように、表面または基質の温度を上昇させることによって、または緩衝液の条件を変化させて、二重鎖を不安定化することによって、あるいはそれらの組合せによって取り除くことができる。テンプレート/プライマー二重鎖を融解する方法は、当技術分野において周知であり、例えば、Molecular Cloning、a Laboratory Manual、第3版、J. Sambrook、およびD. W. Russell、Cold Spring Harbor Press(2001年)の第10章に記載されており、この教示は参照により本明細書に組み込まれる。
プライマーを取り除いた後、テンプレートを、テンプレートとハイブリダイズすることができる第2のプライマーに曝露することができる。1つの実施形態において、第2のプライマーは、第1のプライマーと同じテンプレート領域(本明細書において第1の領域とも呼ばれる)とハイブリダイズして、テンプレート/プライマー二重鎖を形成することができる。次に重合反応を繰り返し、それによってテンプレートの少なくとも一部分が再配列決定される。
試料の核酸が分解されている場合、または最小量の核酸しか試料から得ることができない場合、PCRを核酸に実施して、配列決定に十分な量の核酸を得ることができる(例えば、Mullisら、米国特許第4,683,195号を参照すること。その内容は、全体が参照により本明細書に組み込まれる)。
希少核酸の配列が公知になると、核酸親和性試薬を、当技術分野において日常的な核酸合成技術を使用して合成することができる。オリゴヌクレオチドを合成する方法は、当技術分野において公知である。例えば、Sambrookら(DNA microarray: A Molecular Cloning Manual、Cold Spring Harbor、N.Y.、2003年)またはManiatisら(Molecular Cloning: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor、N.Y.、1982年)を参照すること。それぞれの内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。オリゴヌクレオチドを合成する適切な方法は、Caruthers(Science、230巻:281〜285頁、1985年)にも記載されており、その内容は参照により組み込まれる。オリゴヌクレオチドは、Operon Technologies、Amersham Pharmacia Biotech、Sigma、およびLife Technologiesなどの市販の供給会社から得ることもできる。オリゴヌクレオチドは、同一の融解温度を有することができる。オリゴヌクレオチドの長さを、5’末端または3’末端で延長または短縮して、望ましい融解温度を有するオリゴヌクレオチドを生成することができる。また、それぞれのオリゴヌクレオチドのアニーリング位置を、核酸親和性試薬の配列および長さが、望ましい融解温度を生じるように設計することができる。25塩基対より少ない核酸親和性試薬の融解温度を決定する最も簡単な方程式は、ウォレスルール(Wallace Rule)(Td=2(A+T)+4(G+C))である。Array Designer Software (Arrayit Inc.)、遺伝分析用オリゴヌクレオチドプローブ配列設計ソフトウェア(Oligonucleotide Probe Sequence Design Software for Genetic Analysis)(Olympus Optical Co.)、NetPrimer、およびHitachi Software EngineeringのDNAsisが含まれるが、これらに限定されないコンピュータプログラムを、オリゴヌクレオチドの設計に使用することもできる。それぞれのプローブのTM(融解温度)は、Invitrogen Corp.から入手可能なOligo Designなどのソフトウエアプログラムの使用によって計算される。
他の実施態様において、親和性試薬は抗体であり得る。抗体が結合する抗原は、公開された文献によって決定することができる。抗血清の生成のために動物を選択するときに考慮される基準を含む、抗体生成のための一般的な方法体系は、Harlowら(Antibodies、Cold Spring Harbor Laboratory、93〜117頁、1988年)に記載されている。例えば、ヤギ、イヌ、ヒツジ、マウス、またはラクダなどの適切なサイズの動物は、免疫応答を生成するのに有効な量の免疫原の投与によって免疫化される。例示的なプロトコールは以下のとおりである。動物には、動物のサイズに応じて、100ミリグラムの、アジュバント、例えばフロイント完全アジュバントに再懸濁した抗原を注射し、3週間後に、動物のサイズに応じて、100マイクログラムから100ミリグラムの、アジュバントを伴う、例えばフロイント完全アジュバントを伴う免疫原を皮下注射する。アジュバント、例えばフロイント完全アジュバントによる2週間毎の追加の皮下または腹腔内注射は、動物の血液中に適切な抗体力価が達成されるまで投与される。例示的な力価には、少なくとも約1:5000の力価、または1:100,000もしくはそれよりも多い力価が含まれ、すなわち、希釈物は検出可能な活性を有する。抗体は、例えば、プロテインG樹脂または標的特異的親和性樹脂を含有するカラムの親和性精製によって精製される。
ヒトリンパ球のin vitro免疫化技術を使用して、モノクローナル抗体を生じる。ヒトリンパ球のin vitro免疫化技術は、当業者には周知である。例えば、Inaiら、Histochemistry、99巻(5号):335〜362頁、1993年5月;Mulderら、Hum. Immunol.、36巻(3号):186〜192頁、1993年;Haradaら、J. Oral Pathol. Med.、22巻(4号):145〜152頁、1993年;Stauberら、J. Immunol. Methods、161巻(2号):157〜168頁、1993年、およびVenkateswaranら、Hybridoma、11巻(6号)729〜739頁、1992年を参照すること。これらの技術を使用して、抗原特異的IgGおよびIgMモノクローナル抗体を含む、抗原反応性モノクローナル抗体を生成することができる。
ある特定の実施形態において、コンジュゲート部分はアプタマーである。本明細書において使用されるとき、「アプタマー」および「核酸リガンド」は、交換可能に使用されて、タンパク質などの標的分子に特異的結合親和性を有する核酸を指す。全ての核酸と同様に、特定の核酸リガンドは、ヌクレオチド(A、U、T、C、およびG)の直鎖状配列により記載されてもよく、典型的には15〜40個のヌクレオチド長である。核酸リガンドは、特定の疾患の有無に関連することが公知の標的タンパク質の相補的配列をコードするように改変され得る。
溶液中において、ヌクレオチドの鎖は、分子を複雑な三次元形状に折り畳む分子内相互作用を形成する。核酸リガンドの形状は、核酸リガンドがその標的分子の表面に密接に結合することを可能にする。顕著な特異性を示すことに加えて、核酸リガンドは、一般にそれらの標的に非常に高い親和性を持って結合し、例えば、大多数の抗タンパク質核酸リガンドは、ピコモルから低ナノモル範囲の平衡解離定数を有する。
本発明の組成物に使用されるアプタマーは、標的組織によって決まる。核酸リガンドは、当技術分野で公知の任意の方法によって発見され得る。1つの実施形態において、核酸リガンドは、SELEX(試験管内進化法(Systematic Evolution of Ligands by Exponential enrichment))と呼ばれるin vitro選択方法を使用して発見される。例えば、Goldら(米国特許第5,270,163号および同第5,475,096号)を参照すること。それぞれの内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。SELEXは、核酸の大きなプールから選択された分子標的に対する核酸リガンドを同定することに使用される反復方法である。この方法は、核酸リガンドの複数回の選択、分配、および増幅を使用して、標的分子に最高の親和性を有する核酸リガンドを分割する、標準的な分子生物学的技術に依存する。SELEX方法は、改善されたin vivo安定性または改善された送達特性などの改善された特性をリガンドに付与する修飾ヌクレオチドを含有する、高親和性核酸リガンドの同定を包含する。そのような修飾の例には、リボースおよび/またはホスフェートおよび/または塩基の位置での化学置換が含まれる。基本的なSELEX方法に対して多数の改善が行われており、そのうちの任意のものを、本発明の方法に使用される核酸リガンドの発見に使用することができる。
「希少分子」は、試料中の非希少分子の量と比較したとき、試料中に比較的少量で存在する分子を指す。いくつかの例において、希少分子は、希少分子を含有すると推定される試料中の総分子集団の約10−8重量%〜約10−2重量%の量で存在する。希少分子は、無細胞循環分子、または悪性新生物もしくはがん細胞などの悪性細胞などの希少細胞に見出される分子;循環内皮細胞;循環上皮細胞;間葉細胞(mesochymal cells);胎児細胞;免疫細胞(B細胞、T細胞、マクロファージ、NK細胞、単球);幹細胞;有核赤血球(正赤芽球または赤芽球);および未熟顆粒球であり得るが、これらに限定されない。希少分子は、例えば、PCT/US2016/053610に更に記載されており、その内容は、全体が参照により本明細書に組み込まれる。
非希少分子は、試料中の希少分子の量と比較したとき、比較的多量に存在する分子を指す。いくつかの例において、非希少分子は、非希少分子および希少分子を含有すると推定される試料中の総分子集団中の希少分子の量より、少なくとも約10倍、または少なくとも約102倍、または少なくとも約103倍、または少なくとも約104倍、または少なくとも約105倍、または少なくとも106倍、または少なくとも約107倍、または少なくとも約108倍多い。非希少分子は、無細胞循環非希少分子、または白血球、血小板、および赤血球であるが、これらに限定されない非希少細胞に見出される非希少分子であり得る。
用語「希少分子」には、例えば、抗原、タンパク質、ペプチド、ホルモン、ビタミン、アレルゲン、自己免疫性抗原、炭水化物、脂質、糖タンパク質、補助因子、抗体、酵素、酵素基質、代謝産物、核酸、抗体、有機アミン、脂肪酸、炭水化物、環状炭水化物、脂肪族炭水化物、芳香族炭水化物、有機カルボン酸、有機アミン、セラミン(ceramine)、セレブロシド、ステロイド、プロスタグランジン、炭水化物、ヌクレオシド、および治療薬、ならびに例えば他の生体分子が含まれ得るが、これらに限定されない。疾患の医療診断に有用な生体分子が含まれ、これには、例えば、がん、心臓損傷、心血管疾患、神経疾患、止血(hemostasis/hemastasis)、胎児母体評価(fetal maternal assessment)、受胎能、骨の状態、ホルモンレベル、ビタミン、アレルギー、自己免疫性疾患、高血圧症、腎疾患、糖尿病、肝疾患、感染症の検出用のバイオマーカー、および疾患の医療診断に有用な他の生体分子が含まれるが、これらに限定されない。例えばバイオマーカーは、例えば、細菌、ウイルス、真菌、および原生動物などの細胞;悪性新生物またはがん細胞などの悪性細胞;循環内皮細胞;循環腫瘍細胞;循環がん幹細胞;循環がん間葉細胞;循環上皮細胞;胎児細胞;免疫細胞(B細胞、T細胞、マクロファージ、NK細胞、単球);ならびに幹細胞からのものであり得る。
希少細胞の標的希少分子には、例えば、がん細胞型バイオマーカー、腫瘍性タンパク質およびがん遺伝子、化学療法抵抗性バイオマーカー、転移能バイオマーカー、および細胞分類マーカーが含まれるが、これらに限定されない。がん細胞型バイオマーカーには、例示として限定されることなく、例えば、サイトケラチン(CK)(CK1、CK2、CK3、CK4、CKS、CK6、CK7、CK8、およびCK9、CK10、CK12、CK13、CK14、CK16、CK17、CK18、CK19、およびCK2)、上皮細胞接着分子(EpCAM)、N−カドヘリン、E−カドヘリン、ならびにビメンチンが含まれる。変異に起因して治療関連性があると思われる腫瘍性タンパク質およびがん遺伝子には、例えば、WAF、BAX−1、PDGF、JAGGED1、NOTCH、VEGF、VEGHR、CA1X、MIB1、MDM、PR、ER、SELS、SEM1、PI3K、AKT2、TWIST1、EML−4、DRAFF、C−MET、ABL1、EGFR、GNAS、MLH1、RET、MEK1、AKT1、ERBB2、HER2、HNF1A、MPL、SMAD4、ALK、ERBB4、HRAS、NOTCH1、SMARCB1、APC、FBXW7、IDH1、NPM1、SMO、ATM、FGFR1、JAK2、NRAS、SRC、BRAF、FGFR2、JAK3、RA、STK11、CDH1、FGFR3、KDR、PIK3CA、TP53、CDKN2A、FLT3、KIT、PTEN、VHL、CSF1R、GNA11、KRAS、PTPN11、DDR2、CTNNB1、GNAQ、MET、RB1、AKT1、BRAF、DDR2、MEK1、NRAS、FGFR1、およびROS1が含まれるが、これらに限定されない。
内皮細胞分類マーカーには、例示として限定されることなく、例えば、CD136、CD105/エンドグリン、CD144/VE−カドヘリン、CD145、CD34、Cd41 CD136、CD34、CD90、CD31/PECAM−1、ESAM、VEGFR2/Fik−1、Tie−2、CD202b/TEK、CD56/NCAM、CD73/VAP−2、クローディン5、ZO−1、およびビメンチンが含まれる。
転移能バイオマーカーには、限定されることなく、ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子(uPA)、プラスミノーゲン活性化因子阻害因子(PAI−1)、CD95、セリンプロテアーゼ(例えば、プラスミンおよびADAM)、セリンプロテアーゼ阻害因子(例えば、ビクニン(Bikunin))、マトリックスメタロプロテイナーゼ(例えば、MMP9)、マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害因子(例えば、TIMP−1)が含まれる。化学療法抵抗性バイオマーカーには、例示として限定されることなく、piwi様PL2L、5T4、ADLH、β−インテグリン、α6インテグリン、c−kit、c−met、LIF−R、CXCR4、ESA、CD20、CD44、CD133、CKS、TRAF2、およびABC輸送体;CD45またはCD31を欠いているがCD34を含有するがん細胞は、がん幹細胞を示す;ならびにCD44を含有するが、CD24を欠いているがん細胞が含まれる。
本明細書における方法では、白血球が非希少細胞として除外され得る。例えば、白血球に存在するCD45、CTLA−4、CD4、CD6S、およびCDSなどであるが、これらに限定されないマーカーを使用して、細胞が目的の希少細胞ではないことを示すことができる。特定の非限定例において、CD45抗原(タンパク質チロシンホスファターゼ受容体C型またはPTPRCとしても公知である)は、元々は白血球共通抗原と呼ばれており、全ての白血球の検出に有用である。
加えて、CD45を、希少細胞と考慮され得る異なる種類の白血球を区別するために使用できる。例えば、顆粒球は、CD45+、CD15+により示され、単球は、CD45+、CD14+により示され、Tリンパ球は、CD45+、CD3+により示され、Tヘルパー細胞は、CD45+、CD3+、CD4+により示され、細胞傷害性T細胞は、CD45+、CD3+、CDS+により示され、β−リンパ球は、CD45+、CD19+、またはCD45+、CD20+により示され、血小板は、CD45+、CD61+により示され、ナチュラルキラー細胞は、CD16+、CD56+、およびCD3−により示される。更に、2つの一般的に使用されるCD分子、すなわち、CD4およびCD8は、一般に、ヘルパーおよび細胞傷害性T細胞のマーカーとしてそれぞれ使用される。これらの分子は、他のいくつかの白血球がこれらのCD分子を発現する(いくつかのマクロファージは、低レベルのCD4を発現し、樹状細胞は高レベルのCDSを発現する)ので、CD3+との組合せによって定義される。
他の場合において、希少細胞は病原体であり、グラム陽性菌(例えば、Enterococcus sp. Group B streptococcus、Coagulase−negative staphylococcus sp. Streptococcus viridans、Staphylococcus aureusおよびsaprophyicus、Lactobacillusおよびその耐性株);例えばCandida albicansが含まれるが、これに限定されない酵母;例えば、Escherichia coli、Klebsiella pneumoniae、Citrobacter koseri、Citrobacter freundii、Klebsiella oxytoca、Morganella morganii、Pseudomonas aeruginosa、Proteus mirabilis、Serratia marcescens、およびDiphtheroids(gnb)、ならびにこれらの耐性株が含まれるが、これらに限定されないグラム陰性菌;例えば、HIV、HPV、Flu、およびMERSAが含まれるが、これらに限定されないウイルス;ならびに性行為感染症が含まれるが、これらに限定されない。希少細胞病原体を検出する場合では、希少細胞病原体集団に結合する結合パートナーを含む粒子試薬が、添加される。加えて、病原体に対する細胞性標的希少分子のそれぞれの集団では、集団における細胞性標的希少分子に結合する、細胞性標的希少分子の結合パートナーを含む試薬が、添加される。
語句「非細胞性標的希少分子」は、細胞に結合していない、および/または試料中を自由に循環している標的希少分子を指す。そのような非細胞性標的希少分子には、疾患の医療診断に有用な生体分子が含まれ、例えば、がん、心臓損傷、心血管疾患、神経疾患、止血、胎児母体評価、受胎能、骨の状態、ホルモンレベル、ビタミン、アレルギー、自己免疫性疾患、高血圧症、腎疾患、糖尿病、肝疾患、感染症の検出用のバイオマーカー、および疾患の医療診断に有用な他の生体分子が含まれるが、これらに限定されない。
「MS標識前駆体」は、変質剤の作用によってMS標識をもたらす任意の分子である。MS標識前駆体は、それ自体、変質剤の作用を介して、切断により、部分との反応により、誘導体化により、または例えば分子、電荷、もしくは原子の付加もしくは取り去りにより、あるいは上記の2つまたはそれよりも多くの組合せにより、別のMS標識に変換されるMS標識であり得る。MS標識前駆体は、標識結合ユニットおよび質量標識を含む。
「質量標識」標識は、「電荷ユニット」および「質量ユニット」を含む。
「電荷ユニット」は、そのうちの1個が形式電荷を有するように配置された一群の原子を含む。図2に示されている構造は、少なくとも1つの電荷ユニットXを含み、これは、例えば、第四級アンモニウムカチオンなどのN−R部分であってもよく、または少なくとも1つのXは、第四級ホスホニウムカチオンであり、ここでX=P−Rであり、Rは、水素、アルキル、または芳香族有機誘導体、例えば、メチル、ベンジルもしくはフェニルなどであり得る。例には、カルニチン、イミダゾリウム、ピリジニウム、テトラエチルアミン、ベンザルコニウムアミン、アルキルベンゼトニウムアミン、トリフェニルホスホニウムカチオン トリアルキル(2,3−ジヒドロキシプロピル)ホスホニウム塩、または他の第四級構造が含まれる。
用語「質量ユニット」は、CH、CH2、O、N、S、P、または3aおよび3bに示されているフェニル基などの3kDAを下回る組合せ質量を有する原子集合体などの、図3のYに示されている少なくとも1個の原子を含み、「電荷ユニット」に付着されている。可変質量ユニットは、例えば、ポリペプチド、ポリマー、カルボン酸、炭水化物、環式環、芳香族環、炭化水素、有機アミン、核酸、および有機アルコールなどの確定された質量の構造を含むことができ、この質量は、例えば、置換および鎖のサイズによって変化され得る。「質量ユニット」は、芳香族環、ペプチド、脂肪酸、炭水化物、有機アミン、核酸、および有機アルコール(例えば、アルキルアルコール、アシルアルコール、フェノール、ポリオール(例えば、グリコール)、チオール、エポキシド、第一級、第二級および第三級アミン、インドール、第三級および第四級アンモニウム化合物、アミノアルコール、アミノチオール、フェノールアミン、インドールカルボン酸、フェノール酸、ビニル酸(vinylogous acid)、カルボン酸エステル、リン酸エステル、カルボン酸アミド、ポリアミドおよびポリエステルからのカルボン酸、ヒドラゾン、オキシム、トリメチルシリルエノールエーテル、カルバメート、尿素、グアニジン、イソシアネート、スルホン酸、スルホンアミド、スルホニル尿素、硫酸エステル、モノグリセリド、グリセロールエーテル、スフィンゴシン)などの追加の分子を含むことができ、このことは、本明細書に記載されている原理に従う方法を多重的にして、一度に1つを超える結果を得ることを可能にする。
「第四級構造」および「質量構造」は、C−C、C−O、C−N、または他の共有結合などの、断片化に抵抗性がある結合を介して付着すべきである。例えば、図4に示されているカルニチンは、L−カルニチン(Cartinine)−Phe−Ala−Gly−Gly−Ser−Cys、L−カルニチン−Phe−Thr−Ala−Ser−Ala−Cys、L−カルニチン−Phe−Phe−Ala−Ser−Cys、L−カルニチン−Phe−Phe−Ala−Ser−Cys、L−カルニチン−phe−gly−gly−ser−cys、L−カルニチン−phe−phe−ser−gly−cys、L−カルニチン−phe−gly−thr−thr−cys、L−カルニチン−phe−gly−thr−ala−cys、カルニチン−arg−gly−cys、およびカルニチン−phe−cysなど、ペプチド質量標識に付着するためのカルボン酸を有する。別の例において、第四級質量標識のメチルイミダゾリウムおよびピリジニウム類似体は、図5に示されているように、−CH2−結合を介して芳香族質量標識に接続されている。
質量標識は、図3のパネルA〜Dに示されているように、例えばアセタールまたはケタール結合などの可逆的結合形成を促進する標識結合ユニットにより、親和性試薬または希少分子に付着することができる。図6は、Rにより表される親和性試薬または希少分子が、アセタールまたはケタール結合を介して、第四級質量標識にどのように接続するかを示す。この場合の標識結合ユニットは、アミンの修飾によって生成されるジオールである。この修飾は、アミンと、β−ヒドロキシ−γ−ブチロラクトンとの反応によって実施され得る。他の可逆的連結化学は、当技術分野において公知であり、本発明の組成物に適しており、例えば、米国特許出願公開第2011/0294952号および同第2016/0086781号に記載されているものであり、それぞれの内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
これらのアセタールまたはケタール結合は、水性酸に曝露されると加水分解によって破壊され、この場合、水性酸は放出試薬と呼ばれる。例えば、酸を有する、アセトニトリルの溶媒または水は、アセタールまたはケタール結合を破壊して、分析のために質量標識を遊離する。アセタールまたはケタール結合は、親和性反応に使用される液体への曝露によって早期に破壊されないこと、および貯蔵の際に安定していることが重要である。一般に、標識結合ユニットと質量標識との結合は、例えば、熱、超音波処理、または適切な場合に応じて酸などの化学試薬であり得る、任意の適切な放出試薬により破壊され得る。放出試薬には、例えば、これらに限定されないが、酸、触媒(例えば、酵素(擬似酵素を含む)および金属)、酸化剤、還元剤、酸、塩基、またはアセタールもしくはケタール結合の破壊を促す他の作用物質などの化学剤も含まれるが、これらに限定されない。
1つまたはそれより多くの質量標識を単一の親和性試薬に付着することができ、例えば、1〜3000のうちの任意の数の質量標識を任意の単一親和性試薬に結合することができる。1つを超える質量標識を単一親和性ユニットに結合させる利点は、シグナル増幅を生成する能力である。主に、MSにより測定される多数の個別の分子が生じ、生じた多数の個別の分子がシグナルを増やすので、そのような手法はシグナルを増幅する。標的が試料の僅か1%未満で存在し得る希少事象の検出において、このことは重要であり得る。
第四級質量標識は、イオン化により、バックグラウンドから分析的に分離された少なくとも1つの予測可能な質量に断片化されるので、特有の質量断片を生じる。質量標識およびこれらの生成物イオンは、質量分析計の内部で検出される。図5は、メチルイミダゾリウムおよびピリジニウムのそれぞれの断片化経路を示す。図7は、高分子量誘導体の断片化経路を示す。第四級質量標識の分子量は、特有の質量断片がバックグラウンド構成成分の質量と重複する領域にないように調整される。図5は、第四級構造としてメチルイミダゾリウム(m/z217)およびピリジニウム(m/z214)、ならびに芳香族質量構造(m/z135)を有する第四級質量標識を示す。第四級質量標識は、示されているように、衝突誘起解離による断片化のために、特有の質量断片を生じ、メチルイミダゾリウム(m/z83)およびピリジニウム(m/z80)により表されている。図7は、イミダゾリウムの高分子量誘導体(m/z309およびm/z259)を有する第四級質量標識を示す。これらの第四級質量標識は、イオン化による断片化のため、高い質量断片(m/z175およびm/z125)を生じる。
1つまたはそれより多くの断片(生成物イオン)への前駆体質量標識の断片化の予測性は、質量標識の化学構造によって決まる。炭素に基づいた質量標識では、予測性はある特定の規則に従う。例えば、カルボカチオンの安定性に順番があり、一次<二次<三次であり、一次イオンは、二次イオンより安定性が低く、そして次に二次イオンは、三次イオンより安定性が低い。この論理を断片化パターンに適用すると、二次カルボカチオンを生成する分割は、一次カルボカチオンを生成する分割よりも成功することを意味する。三次カルボカチオンを生成する分割は、なおさらに成功することになる。カルボニル基C=Oの炭素に陽電荷を有するイオンも、比較的安定している。
典型的には、構造は以下の従来法を使用して分析される。大部分の断片は、偶数電子カチオンである。これらを分割して、より多くの偶数電子カチオンを作製する。ある結合を切断する可能性は、結合強度、および形成される断片の安定性に関連する。ある分子において形成される最も可能性あるイオンを予測するときに、留意する10の一般規則は、以下のとおりである。
1)M+ピークの相対的な高さは、直鎖分子で最大であり、分枝が増加すると減少する。
2)M+ピークの相対的な高さは、同族列の鎖長によって減少する。
3)切断は、アルキル置換炭素にとって好ましく、切断の可能性は、置換が増加すると増加する。
これらの規則は、大部分が、カルボカチオンおよびラジカル安定性が以下の傾向:(最も安定している)ベンジル>アリル>三次>二次>>一次(最も安定性がない、「スティーブンソン則(Stevenson’s Rule)」)を示すという事実によって生じる。破壊点では、通常より大きな断片がラジカルを取り、より小さなカチオンを残す。
4)二重結合、環状構造、とりわけ芳香族環は、分子イオンを安定化し、それが出現する可能性を増加する。
5)二重結合にはアリル切断が好ましく、共鳴安定化アリルカルボカチオン、とりわけシクロアルケンをもたらす。
6)飽和環(シクロヘキサンなど)では、側鎖が切断されて、最初に陽電荷を環に残す傾向がある。
7)不飽和環は、逆ディールスアルダー反応を受けて、中性アルケンを排除することもあり得る。
8)芳香族化合物は、切断されてベンジルカチオン、またはより適切にはトロピリウムカチオンをもたらす。
9)ヘテロ原子に隣接するC−C結合は、多くの場合に破壊されて、ヘテロ原子と共に、炭素に陽電荷を残す。
10)水、CO、NH3、H2Sなどの小さな安定した分子を脱離させることができる場合には、切断が多くの場合に好ましい。
結合の断片化に加えて、様々な分子内転位を実施して、時には予測外のイオンをもたらすことができる。MSにおける転位の1つの一般的な種類は、マクラファティ転位であり、カルボニル基を含有する化合物において実施される。
一般規則1〜3は、炭化水素に十分に当てはまる。転位は一般的であるが、通常、強烈なピークをもたらさない。断片化パターンは、14個の質量ユニット(CH2基)により隔てられているピークによって特徴づけることができる。最も強烈なピークは、C3〜C5断片である。分枝飽和炭化水素のMSは、ある特定の断片がより顕著になることを除いて類似している。環状炭化水素は、はるかに強烈なM+イオンを示す(規則4)。断片を形成するために、2つの結合を破壊しなければならない。通常、アルケンのM+ピークを見ることは容易である。非環状アルケンでは、二重結合が断片中を自由に移動するので、二重結合の位置を決定することが難しい場合があるが、環状アルケンではより容易である。切断は、通常、アリル結合において生じる(規則5)。芳香族炭化水素は、通常、強いM+ピークを示す(規則4)。芳香族環は、安定しており、断片になる傾向が低い。アルキル置換ベンゼンは、多くの場合、ベンジル切断に起因して、m/z91に強いピークをもたらす(規則8)。
アルコールは極めて容易に断片化し、第二級および第一級アルコールは非常に弱いM+ピークを示し、第三級アルコールは、多くの場合にM+を全く示さない。MWは、多くの場合、誘導体化によって決定される。OHに最も近接しているC−C結合は、頻繁に、破壊される最初の結合である。したがって第一級アルコールは、多くの場合、31m/zに顕著なピークを示す。第二級アルコールは、同じように切断され、多くの場合、顕著な+CHR−OHピークを示す。時には、第一級および第二級アルコールのR2CH−OHでは、アルキル基よりむしろ水素が切断され、その結果、M−1ピークがもたらされる。第三級アルコールは、同様に切断されて、+CRR−OH断片をもたらす。アルコールは、水の分子を失って、時には、顕著なM−18ピークを示す。このことは、とりわけ第一級アルコールにおいて注目される。ベンジルアルコールは、脂肪族アルコールとかなり異なって断片化する。ベンジル切断は、予想されたように発生する(規則8)。ベンジルアルコールは、通常、水を失う(M−18)。M−18ピークは、水の欠失が機構的に単純な分子にとって、とりわけ強い。フェノールは、多くの場合、77m/zにピークを示し、フェニルカチオンの形成をもたらし、CO(M−28)およびCHO(M−29)の欠失によってもたらされるピークは、通常、フェノールにおいて見出される。代替案としては、魅力的な切断経路が利用可能である。
エーテルでは、切断は、2つの主な方法で発生し、Oに隣接するC−C結合の破壊(アルコールなど)、またはC断片に電荷を伴う、C−O結合の切断である。芳香族エーテルでは、M+は、通常、強力である。MSはフェノールと類似しており、両方とも、フェノキシルカチオン(m/z93)および関連の娘を形成する。
ケトンは、通常、強いM+ピークを提示する。主な断片化経路は、α切断を伴って、アシリウム(acylium)イオンをもたらす。カルボニル含有断片もラジカルを取ることができる。長い鎖を有するケトンでは、マクラファティ転位は、多くの場合、強いピークをもたらす。芳香族ケトンでは、M+は明白である。一次切断は、カルボニルに対してαであり、強いArCO+ピーク(Ar=Phの場合、m/z105)をもたらす。このことによってCOを失い、フェニルカチオン(m/z77)をもたらす。
アルデヒドは、弱いが識別可能なM+ピークを示す。主な経路は、α切断およびマクラファティ転位である。芳香族アルデヒドは、芳香族ケトンと類似している。M+は強く、M−1(カルボニルに対してα切断)も強く、ArCO+イオン(Ar=Phではm/z105)をもたらす。このイオンからCOを欠失することは、一般的にm/z77のフェニルカチオンをもたらす。
カルボン酸では、M+は弱く、常に目に見えるとは限らない。特徴的なm/z60ピークは、多くの場合、マクラファティ転位によって存在する。カルボニルに対する結合αも、頻繁に破壊されて、M−OHおよびM−CO2Hピークをもたらす。
芳香族酸では、M+は極めて顕著である。一般的なピークは、OHの欠失(M−17)およびCO2Hの欠失(M−45)である。オルト水素担持基が存在する場合、水の欠失(M−18)も目に見える。
脂肪族エステルでは、M+は、通常、明瞭である。最も特徴的なピークは、マクラファティ転位に起因する。M+は、RO鎖が長くない限り、通常、顕著である。基準ピークは、RO・の欠失である。マクラファティ転位は、対応する酸をもたらす。より複雑な転位は、多くの場合、顕著な酸+1ピークをもたらす。
脂肪族モノアミンは、奇数の弱いM+ピークを有する。最も重要な切断は、通常、C−N結合に隣接するC−C結合の破壊である。ほぼ全ての第一級アミンの基準ピークは、30m/zである。芳香族アミンでは、M+は強烈である。NH結合を破壊して、中程度に強烈なM−1ピークをもたらすことができる。一般的な断片化は、HCNおよびH2CNの欠失であり、65および66m/zにピークをもたらす。アルキル置換芳香族アミンは、典型的には、C−Nに隣接するC−C結合の破壊を示して、Ar=Phのとき、強いピークを106にもたらす。
第一級アミドは、R−CONH2結合の破壊に起因して、強いピークをm/z 44にもたらす。脂肪族アミドでは、−M+は弱いが識別可能である。3個を超える炭素の直鎖アミドでは、マクラファティ転位が、基準ピークをm/z59にもたらす。
ニトリルでは、M+は弱い、または脂肪族ニトリルでは存在しない。α水素の欠失は、弱いM−1ピークをもたらし得る。基準ピークは、マクラファティなどの転位に起因して、通常41である。このことは、(C3H5+)が同じ質量を有するので、診断価値を制限している。
脂肪族ニトロ化合物は、弱い奇数M+を有する。主なピークは、炭化水素断片からM−NO2までである。芳香族ニトロ化合物では、M+は強力である。顕著なピークは、NO2ラジカルの欠失によってもたらされ、M−46ピークをもたらす。NOの欠失によるM−30も、顕著である。
図9は、質量分析計におけるペプチド質量標識の予測される断片化の過程を記載する。ペプチド(アミノ酸鎖)の断片化は、典型的には、ペプチド主鎖に沿って生じる。ペプチド鎖のそれぞれの残基が、N−>CおよびC−>N方向の両方で連続的に断片化される。アミノ酸は側鎖が異なる。図9に示されているように、それぞれのアミノ酸は、異なる側鎖に基づいて最も弱い結合を有し、そのことは、ペプチドの予測可能な断片化をもたらす。ペプチドは、Asp(D)で断片化する傾向がある(Mass Spectrometry in Proteomics Ruedi Aebersold*およびDavid R. Goodlett 269、Chem. Rev.、2001年、101巻、269〜295頁)。質量分析計におけるペプチドの断片化を予測することは、例えば、Beardsleyら(Journal of the American Society for Mass Spectrometry、15巻(2号):158〜167頁、2004年)に更に記載されており、この内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。ペプチド断片化アルゴリズムも、市販されている。ペプチドの断片化を予測する例示的なアルゴリズムは、Zhang(Analytical Chemistry、76巻、3908〜3922頁、2004年)またはZhang(Analytical Chemistry、77巻、6364〜6373頁、2005年)に記載されており、それぞれの内容は、全体が参照により本明細書に組み込まれる。
ある特定の実施形態において、ペプチドは、N末端、C末端、または任意の内部アミノ酸残基において標識される。例えば、市販の小型システイン末端ペプチド(例えば、アルギニンが13C6および14N4で完全に標識されている、YGMTSR*YFC)が、質量標識として選択され得る。
用語「変質剤」または「放出剤」は、MS標識前駆体を変質させ、標識結合ユニットの結合を破壊して、質量標識を放出させる能力を有する物質を指す。ある特定の実施形態において、変質剤は、MS標識前駆体と相互作用して、約1Da〜約3kDaの範囲、または約1Da〜約50Daの範囲、または約50Da〜約150Daの範囲、または約150Da〜約700Daの範囲、または約700Da〜約3kDaの範囲の特有の質量を有するMS標識を達成する。いくつかの例において、MS標識の特有の質量は、約3kDaを下回る。MS標識前駆体を、結合破壊により変質させて、中性、陰性、または陽性のイオンまたはラジカルを形成することができる。変質剤によるMS標識前駆体の変質は、MS標識前駆体への原子、電荷、もしくは電子の付加、またはMS標識前駆体からの原子、電荷、もしくは電子の取り去り、あるいはMS標識前駆体における結合切断、またはMS標識前駆体における結合形成であり得る。変質剤には、触媒(例えば、酵素(擬似酵素を含む)および金属)、酸化剤、還元剤、酸、塩基、置換反応または置き換え反応を促す作用物質、ならびにイオン化剤などの化学剤が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの例において、変質剤は、例えば、MS標識前駆体と、MS標識を形成する部分との反応を促すことによって、MS標識前駆体からのMS標識の形成を促進する。いくつかの例において、変質剤は、例えば、MS標識前駆体からのMS標識の放出を促すことによって、MS標識前駆体からのMS標識の形成を促進する。
MS標識前駆体の性質は、例えば、MS標識の性質、用いられるMS方法の性質、用いられるMS検出器の性質、標的希少分子の性質、親和剤の性質、用いられるイムノアッセイの性質、試料の性質、用いられる任意の緩衝液の性質、分離の性質のうちの1つまたはそれより多くによって左右され得る。いくつかの例において、MS標識前駆体は、質量が置換および/または鎖サイズによって変化され得る分子である。MS標識前駆体により生成されるMS標識は、確定された質量の分子であり、分析される試料に存在するはずのものではない。更に、MS標識は、MS検出器により検出される範囲内であるべきであり、重複質量を有するべきではなく、一次質量により検出可能であるべきである。例示として限定されることなく、本発明の方法において使用されるMS標識前駆体の例には、例示として限定されることなく、ポリペプチド、有機および無機ポリマー、脂肪酸、炭水化物、環状炭化水素、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、有機カルボン酸、有機アミン、核酸、有機アルコール(例えば、アルキルアルコール、アシルアルコール、フェノール、ポリオール(例えば、グリコール)、チオール、エポキシド、第一級、第二級、および第三級アミン、インドール、第三級および第四級アンモニウム化合物、アミノアルコール、アミノチオール、フェノールアミン、インドールカルボン酸、フェノール酸、ビニル酸、カルボン酸エステル、リン酸エステル、カルボン酸アミド、ポリアミドおよびポリエステルからのカルボン酸、ヒドラゾン、オキシム、トリメチルシリルエノールエーテル、アセタール、ケタール、カルバミン酸エステル、尿素、グアニジン、イソシアネート、スルホン酸、スルホンアミド、スルホニル尿素、硫酸エステル、モノグリセリド、グリセロールエーテル、スフィンゴシン塩基、セラミン、セレブロシド、ステロイド、プロスタグランジン、炭水化物、ヌクレオシド、および治療薬が含まれる。
MS標識前駆体は、1〜約100,000個のMS標識、または約10〜約100,000個のMS標識、または約100〜約100,000個のMS標識、または約1,000〜約100,000個のMS標識、または約10,000〜約100,000個のMS標識を含むことができる。MS標識前駆体は、タンパク質、ポリペプチド、ポリマー、粒子、炭水化物、核酸、脂質、または付着によりMS標識の複数の反復単位を含むことができる他の巨大分子から構成され得る。複数のMS標識は、全てのMS標識前駆体が多くのMS標識を生じ得るので、増幅を可能にする。
例えば、ポリペプチドMS標識前駆体を用いると、ポリペプチドの鎖長さを調整して、バックグラウンドピークを有することなく質量領域にMS標識を生じることができる。更に、MS標識は、試験される試料に存在しない特有の質量を有するMS標識前駆体から生成され得る。ポリペプチドMS標識前駆体は、追加のアミノ酸または誘導体化されたアミノ酸を含むことができ、このことは方法を多重化して、一度に1つを超える結果を得ることを可能にする。ポリペプチドMS標識前駆体の例には、例えば、ポリグリシン、ポリアラニン、ポリセリン、ポリトレオニン、ポリシステイン、ポリバリン、ポリロイシン、ポリイソロイシン、ポリメチオニン、ポリプロリン、ポリフェニルアラニン、ポリチロシン、ポリトリプトファン、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン、ポリグルタミン、ポリヒスチジン、ポリリシン、およびポリアルギニンが含まれるが、これらに限定されない。アミノ酸または誘導体化されたアミノ酸の混合によって区別されるポリペプチドMS標識前駆体は、ラジカルを伴って、または伴うことなく、偶数または奇数の電子(election)イオンを有する質量を生じる。いくつかの例において、ポリペプチドを触媒によって修飾することができる。例えば、例示として限定されることなく、フェノールおよび芳香族アミンを、触媒としてペルオキシダーゼ酵素を使用することによってポリトレオニンに付加することができる。別の例において、例示として限定されることなく、電子を、触媒としてペルオキシダーゼ酵素を使用することによって芳香族アミンに移行させることができる。別の例において、例示として限定されることなく、ホスフェートを、触媒としてホスファターゼを使用することによって有機ホスフェートから除去することができる。
別の例において、例示として限定されることなく、誘導体化剤を、MS標識前駆体からMS標識を生じる部分として用いることができる。例えば、ジニトロフェニルおよび他のニトロフェニル誘導体をMS標識前駆体から形成することができる。他の例には、例示として限定されることなく、エステル化、アシル化、シリル化、保護アルキル化、シッフ塩基などのケトンに基づいた縮合による誘導体化、環化、蛍光誘導体の形成、および無機アニオンが含まれる。誘導体化反応は、MS分析の前であるが、親和性反応の後の、微量反応において生じ得る、または誘導体化反応を使用して、親和性試薬にコンジュゲートしたMS標識前駆体を生じることができる。
いくつかの例において、MS標識前駆体は例えば、2H、13C、および18Oなどであるが、これらに限定されない同位体を含むことができ、これらはMS標識前駆体から誘導されたMS標識内に留まっている。MS標識は、イオン化の後に一次質量または二次質量によって検出され得る。いくつかの例において、MS標識前駆体は、結合の切断を引き起こすために比較的高い電位を有するもの、例えば、アルキル化アミン、アセタール、第一級アミンおよびアミドなどであるが、これらに限定されず、MS標識は、ラジカルを伴って、または伴うことなく、偶数または奇数の電子イオンを有する質量を生じることができる。ポリペプチドの選択は、特有のMSスペクトルシグネチャーを生じることができる。
上記に記述されたように、変質剤は酵素であり得る(擬似酵素を含む)。いくつかの例において、触媒作用は、例えば、シリカゲル、木炭、DEAE−セルロース、DEAE−SEPHADEX(Sigma Aldrichから市販されている架橋デキストランゲル)、クエン酸セルロース(cellulose citrate)、カオリナイト、リン酸セルロース、酸性白土、AMBERLITE XE−97(Rohm & Haasにより製造されたカルボン酸カチオン交換樹脂)、カルボキシメチルセルロース、ガラス、石英、ダウエックス−50(dowex−50)、デンプンゲル、ポリアクリルアミドゲル、ポリアミノ酸、またはアミノベンジルセルロースに固定化された水不溶性酵素誘導体によって生じ得る。架橋剤を使用して、酵素を固定化することができる。そのような架橋剤には、例えば、グルタルアルデヒド、アジプイミド酸ジメチル、カルボジイミド、無水マレイン酸、MDAメチレンジアニリン、ヒドラジド、およびアジ化アシルが含まれるが、これらに限定されない。
いくつかの例において、本明細書に記載されている原理に従う目的のための酵素は、酵素基質(MS標識前駆体など)を、非変換基質の存在下で質量分析計の質量検出器により検出されるMS標識に変換することができる、高い代謝回転速度を有する任意の酵素である。酵素は、試験試料の中にあるべきではなく、または試料中に存在する場合、試験前に試料から除去されなければならない。この目的に適した酵素の例は、例えば、ホスファターゼ(例えば、アルカリホスファターゼ、脂質ホスファターゼ、チロシンホスファターゼ、セリンホスファターゼ、トレオニンホスファターゼ、およびヒスチジンホスファターゼ);オキシダーゼ(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、銅アミンオキシダーゼ、D−アミノ酸オキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、血漿アミンオキシダーゼ、トリプトファンペルオキシダーゼ、ウリカーゼオキシダーゼ、およびキサンチンオキシダーゼ);β−ガラクトシダーゼ;トランスフェラーゼ(例えば、D−アラニントランスフェラーゼ、グリコシルトランスフェラーゼ、アシルトランスフェラーゼ、アルキルトランスフェラーゼ、アリールトランスフェラーゼ、一炭素トランスフェラーゼ、ケトントランスフェラーゼ、アルデヒドトランスフェラーゼ、窒素トランスフェラーゼ、リントランスフェラーゼ、硫黄トランスフェラーゼ、およびペントシルトランスフェラーゼ);ペプチダーゼ(例えば、ペプシン、パパイン、レンニン(キモシン)、レニン、トロンビン、トリプシン、マトリックスメタロペプチダーゼ、カテプシン(cathespin)、システインプロテアーゼ、およびカルボキシペプチダーゼ);アルドラーゼ(例えば、カルボキシルアルドラーゼ、アルデヒドアルドラーゼ、オキソ酸、トリプトファナーゼ);脂肪酸酵素(例えば、脂肪酸アミンヒドロラーゼ、脂肪酸シンターゼ、およびコリンアセチルトランスフェラーゼ)、ならびに、上記の2つまたはそれよりも多くの組合せ(例えば、アルカリホスファターゼ、酸ホスファターゼ、オキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、ペルオキシダーゼ、アシラーゼ、アスパラギナーゼ、カタラーゼ、キモトリプシン、アミラーゼ、グルコアミラーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコース−6−ホスフェートデヒドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、インベルターゼ、リパーゼ、ホスホグルコムターゼ、リボヌクレアーゼ、アセチルコリンエステラーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、アルドラーゼ、コリンエステラーゼ、クエン酸シンテターゼ、ウレアーゼ、アミルグルコシダーゼ、カルボキシペプチダーゼ、コリンエステラーゼ、ルシフェラーゼ、リボヌクレアーゼ、ピルビン酸キナーゼ、およびスブチロペプチダーゼ(subtilopeptidase)の2つまたはそれよりも多い)が含まれるが、これらに限定されない。
酵素の基質は、基質に対する酵素の作用によって放出されるMS標識を含むMS標識前駆体である。酵素基質の一部であり得るそのようなMS標識には、例示として限定されることなく、例えば、フェノール(例えば、p−ニトロフェニルホスフェート、p−ニトロフェニル−β−D−ガラクトシド、アミノ酸、ペプチド、炭水化物(6−ホスホ−D−グルコネート)、脂肪酸(アセチル−CoA)、アルキルアミン、グリセロールなどの基質からのもの)、ならびにナフトール(例えば、p−ニトロナフチルホスフェート、p−ニトロ−ナフチル−β−D−ガラクトシドなどの基質からのもの)が含まれる。
親和剤に付着した部分からMS標識を放出するために用いることができる金属には、例えば、遷移金属(例えば、パラジウム、白金、金、ルテニウム、ロジウム、またはイリジウム)、キレート金属(例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、N−(2−ヒドロキシエチル)−エチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、またはトランス−1,2−シクロヘキサンジアミン四酢酸(CDTA)により錯化された、鉄、銅、コバルト、マグネシウム)、金属酸化剤(例えば、次亜塩素酸ナトリウム、過ヨウ素酸カリウム、酸化銀、クロム酸、過マンガン酸カリウム、および過ホウ酸ナトリウム)、ならびに金属還元剤(例えば、水素化アルミニウムリチウム、水素化ホウ素ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、ホスファイト、およびナトリウム)が含まれるが、これらに限定されない。
MS標識を直接検出することができる、または放出されたMS標識を別の化合物と更に反応させて、MS標識誘導体を形成することができ、これがMS技術によって検出される。MS標識誘導体は、MS標識前駆体から得られるMS標識から形成される化合物であり、この化合物もMS技術によって検出可能である。このMS標識誘導体を形成する手法は、本明細書に記載されている原理に従う方法の多重能を更に向上させる。例えば、放出されたフェノールまたはナフトールを、ペルオキシダーゼの存在下で芳香族アミンとカップリングさせることができる(例えば、米国特許第5,182,213号を参照すること。このうちの関連する開示は、参照として本明細書に組み込まれる)。1つの例において、放出されたナフトールを、例えば、α−フェニレンジアミン二塩酸塩などのフェニレンジアミンと、アルカリ媒体中の過酸化活性物質の存在下でカップリングさせて、MS標識誘導体を生成する。多重性は、異なるナフトールおよび/または異なるフェニレンジアミンを使用して達成することができる。
内部標準は、質量スペクトル分析の重要な態様である。いくつかの例において、希少標的分子の検出に使用されるMS標識に加えて、測定することができる(内部標準として)第2の質量標識を付加することができる。内部標準は、MS標識と同様の構造を有するが、質量にわずかなシフトがある。追加のアミノ酸または誘導体化アミノ酸を含む内部標準を、調製することができる。あるいは、例えば2H(D)、13C、および18Oなどの同位体標識を組み込むことによって、内部標準を調製することができる。MS同位体標識は、天然に生じる物質より高い質量を有する。例えば、同位体で標識されたMS標識、例えば、グリセロール−C−d7、酢酸ナトリウム−C−d7、ピルビン酸ナトリウム−C−d7、D−グルコース−C−d7、重水素化グルコース、およびデキストロース−C−d7は、それぞれ、グリセロール、酢酸ナトリウム、ピルビン酸ナトリウム、グルコース、およびデキストロースの内部標準として機能を果たす。
MS標識前駆体または変質剤を、親和性試薬に、結合により直接的に、または連結基の仲介を介して、共有結合的に付着させることができる(修飾された親和剤を生じる)。いくつかの実施形態において、修飾された親和剤の調製は、MS標識前駆体または変質剤を直接結合により親和剤に付着するのに適した官能基を用いることによって、実施され得る。用いられる官能基の性質は、例えば、MS標識前駆体の性質、変質剤の性質、および例えば親和剤の一部であり得る担体粒子および標識粒子などの1つまたはそれより多くの異なる粒子の性質を含む、親和剤の性質のうちの1つまたはそれより多くによって左右される。大量の適切な官能基がアミノ基およびアルコールへの付着に利用可能であり、例えばそのような官能基には、例えば、カルボン酸エステル、イミド酸エスエル、スルホン酸エステル、およびリン酸エステルを含む活性化エステル;活性化ニトリット(activated nitrite);アルデヒド;ケトン;およびアルキル化剤が含まれる。
連結基は、1〜約60個もしくはそれよりも多い原子、または1〜約50個の原子、または1〜約40個の原子、または1〜30個の原子、または約1〜約20個の原子、または約1〜約10個の原子の鎖であってもよく、それぞれ、普通には炭素、酸素、硫黄、窒素、およびリンから、通常は炭素および酸素から独立して選択される。連結基におけるヘテロ原子の数は、約0〜約8個、約1〜約6個、または約2〜約4個の範囲であり得る。連結基の原子は、例えば、アルキル、アリール、アラルキル、ヒドロキシル、アルコキシ、アリールオキシ、またはアラルコキシ基の形態で、例えば、炭素、酸素、および窒素のうちの1つまたはそれより多くなどの、水素以外の原子により置換されていてもよい。一般規則として、特定の連結基の長さは、合成に都合良いように任意に選択され得るが、本明細書に開示されている方法に関する機能を実施する連結分子の能力を有する連結基によって、最小限の干渉が引き起こされる。
連結基は、脂肪族であっても、芳香族であってもよい。ヘテロ原子が存在する場合、酸素は、炭素、硫黄、窒素、またはリンに結合したオキシまたはオキソとして普通は存在し、硫黄は、チオエーテルまたはチオノとして普通は存在し、窒素は、普通は、炭素、酸素、硫黄、またはリンに結合した、ニトロ、ニトロソ、またはアミノとして普通は存在し、リンは、通常は、ホスホン酸モノ−またはジエステルおよびリン酸モノ−またはジエステルとして、普通は、炭素、硫黄、酸素、または窒素に結合される。連結基に存在する官能基には、エステル、チオエステル、アミド、チオアミド、エーテル、尿素、チオ尿素、グアニジン、アゾ基、チオエーテル、カルボキシレートなどが含まれ得る。連結基は、多糖、ぺプチド、タンパク質、ヌクレオチド、およびデンドリマーなどの巨大分子であってもよい。
いくつかの実施形態において、MS標識前駆体、または変質剤、場合によってはおよび親和剤は、一緒に非共有結合的に連結され得る。結合対、通常は特定の結合対のメンバーが用いられ、一方のメンバーは、親和剤に連結しており、他方のメンバーは、MS標識前駆体または変質剤に連結している。結合対メンバーの結合は、親和剤と、MS標識前駆体または変質剤との非共有結合的連結をもたらす。結合対のメンバーは、MS標識前駆体または変質剤の一方または両方、および親和剤に、直接連結することができる、あるいは、性質が上記に考察されている連結基の仲介によって間接的に連結することができる。いくつかの例において、特定の結合対のメンバーは比較的高い結合定数を有し、例示として限定されることなく、例えば、アビジン(ストレプトアビジン)−ビオチン結合、フルオレセイン(FITC)およびFITCのための抗体、ローダミン(テキサスレッド)およびローダミンのための抗体、ジギトニン(DIG)およびDIGのための抗体、非ヒト種抗体(例えば、ヤギ、ウサギ、マウス、ニワトリ、ヒツジ)および抗種抗体などである。
修飾された親和剤は、それぞれ異なる親和剤を、別々に、MS標識前駆体または変質剤と個別に反応させ、次に修飾親和剤を合わせて、修飾親和剤を含む混合物を形成することによって、調製され得る。あるいは、異なる親和剤を組み合わせることができ、親和剤をMS標識前駆体または変質剤に連結させる反応は、この組合せによって実施することができる。このことは、方法が多重的になり、一度に1つを超える結果をもたらすことを可能にする。
本発明の方法に用いられるそれぞれ異なる修飾親和剤の量は、例えば、標的希少分子のそれぞれ異なる集団の性質および潜在的な量、MS標識の性質、親和剤の性質、存在する場合は細胞の性質、用いられる場合は粒子の性質、ならびに用いられる場合は遮断剤の量および性質のうちの1つまたはそれより多くによって左右される。いくつかの例において、用いられるそれぞれ異なる修飾親和剤の量は、約0.001μg/μL〜約100μg/μL、または約0.001μg/μL〜約80μg/μL、または約0.001μg/μL〜約60μg/μL、または約0.001μg/μL〜約40μg/μL、または約0.001μg/μL〜約20μg/μL、または約0.001μg/μL〜約10μg/μL、または約0.5μg/μL〜約100μg/μL、または約0.5μg/μL〜約80μg/μL、または約0.5μg/μL〜約60μg/μL、または約0.5μg/μL〜約40μg/μL、または約0.5μg/μL〜約20μg/μL、または約0.5μg/μL〜約10μg/μLである。
用いられる変質剤の数は、MS標識前駆体の性質、変質剤が媒体中に遊離しているか、修飾親和剤の一部であるかにかかわらず、変質剤の性質、ならびに異なる親和性試薬の性質および数のうちの1つまたはそれより多くに応じて、用いられるMS標識前駆体1つあたり1個、またはMS標識前駆体2つあたり1個、またはMS標識前駆体3つあたり1個から全てのMS標識前駆体あたり1個までであり得る。例えば、それぞれのMS標識前駆体が、親和剤への異なるMS標識の不安定エステルまたは不安定アミド連結を含む場合、ジスルフィド、エステル、またはアミド連結を加水分解して異なるMS標識を生じる単一の変質剤を、用いることができる。他の例において、1個の変質剤またはMS標識前駆体の数より少ない変質剤の利用を用いることができる。別の例において、異なる変質剤を使用して、使用されるそれぞれ異なる種類の親和剤のためにMS標識を生じることができる。
水性媒体中に試料(任意選択で濃縮されている)および修飾親和剤を含む組合せは、修飾親和剤が細胞または粒子試薬の標的希少分子に結合する時間および温度にわたって保持することによって、処理される。変質剤を含むそれぞれの修飾親和剤では、変質剤が作用するMS標識前駆体がこの組合せに含まれ、MS標識前駆体はMS標識に変換される。いくつかの例において、追加の部分が添加され、変質剤は、部分とMS標識前駆体との反応を促進して、MS標識を生じる。いくつかの例において、修飾親和剤はMS標識前駆体を含み、変質剤は、媒体中の非結合物質として組合せに含まれる。この例において、変質剤は親和剤のMS標識前駆体に作用して、MS標識を生成する。いくつかの例において、MS標識前駆体を含む実体を親和剤から放出する第1の変質剤が用いられ、続いて、MS標識前駆体からのMS標識の形成を促進するために、第2の変質剤が用いられる。
この処理の温度および持続時間は、例えば、試料の性質、標的希少分子の性質、非希少分子の性質、修飾親和剤の性質、MS標識前駆体の性質、および変質剤の性質によって左右される。いくつかの例において、普通は適温、通常は恒温、好ましくは室温が用いられる。一定時間保持する温度は、普通は、例えば、約5℃〜約99℃、または約15℃〜約70℃、または約20℃〜約45℃の範囲である。保持時間は、例えば、約0.2秒〜約24時間、または約1秒〜約6時間、または約2秒間〜約1時間、または約1〜約15分間である。時間は、例えば、媒体の温度および様々な試薬の結合速度によって左右される。
修飾親和剤、すなわち、標的希少分子に結合するようになった変質剤によって作用された親和剤を、任意選択で、標的分子に結合するようにならなかった修飾親和剤から分離する。いくつかの例において、この分離は、試料中の非希少分子の数の低減を伴う。
試料
本発明の組成物を使用して、多くの異なる種類の試料を分析することができる。生物学的試料、環境試料(例えば、工業試料および農業試料を含む)、および食品/飲料製品試料など)などの、広範囲の異種試料を分析することができる。
例示的な環境試料には、地下水、地表水、飽和汚水、不飽和汚水;排水、冷却水などの工業化工程;工程、工業工程における化学反応および廃棄物処理場からの浸出液を伴う他のシステムにおいて使用された化学物質;廃棄物および水噴射処理;貯蔵タンク内の液体または周囲の漏水検出;産業施設、水処理設備または施設からの放水;農地からの排水および浸出水、地表、地表下および下水道システムなどの市街地での使用からの排水;排水処理技術からの水;ならびに採鉱または石油生産およびその場でのエネルギー生産などの天然資源を抽出する他の工程からの排水が含まれるが、これらに限定されない。
追加の例示的な環境試料には、穀物などの作物試料、ならびにダイズ、コムギおよびトウモロコシなどの飼料産物、などの農業飼料が含まれるが、当然のことながらこれらに限定されない。多くの場合、水分、タンパク質、油、デンプン、アミノ酸、抽出性デンプン、密度、試験重量、消化率、細胞壁含有物、および商業的な価値がある任意の他の構成要素または特性などの、産物の構成要素のデータが望ましい。
例示的な生物学的試料には、ヒトの組織または体液が含まれ、任意の臨床的に許容される方法で収集され得る。組織は、接続細胞および/または細胞外マトリックス材料の集合であり、例えば、ヒトまたは他の哺乳動物から誘導される、例えば、皮膚組織、毛髪、爪、鼻孔組織、CNS組織、神経組織、目組織、肝臓組織、腎臓組織、胎盤組織、乳腺組織、胎盤組織、乳腺組織、胃腸組織、筋骨格組織、尿生殖器組織、骨髄組織などであり、細胞および/または組織に関連する接続材料および液体材料を含む。体液は、例えば、ヒトまたは他の哺乳動物から誘導される液体材料である。そのような体液には、粘液、血液、血漿、血清、血清誘導体、胆汁、血液、母体血、痰、唾液、喀痰、汗、羊水、月経液、母液(mammary fluid)、腹水、尿、精液、および脳脊髄液(CSF)、例えば腰部または脳室CSFが含まれるが、これらに限定されない。試料は、また、微細針吸引液または生検組織であってもよい。試料は、また、細胞または生物学的材料を含有する媒体であってもよい。試料は、血餅、例えば、血清が除去された後の全血から得られた血餅であってもよい。
1つの実施形態において、生物学的試料は、血液試料であり、これから血漿または血清を抽出することができる。血液を、標準的な静脈切開術によって得て、次に分離することができる。血漿試料を調製するための典型的な分離方法には、血液試料の遠心分離が含まれる。例えば、採血の直後に、プロテアーゼ阻害因子および/または抗凝固薬を血液試料に添加することができる。次に管を冷却し、遠心分離し、続いて氷の上に設置することができる。得られた試料を以下の構成成分に分離することができる:上相に血漿の透明な溶液、血小板と混合した白血球の薄い層である軟膜、および赤血球(erythrocyte (red blood cell))。典型的には、8.5mLの全血が約2.5〜3.0mLの血漿を生じる。
血清は、極めて類似した様式で調製される。静脈血を収集し、続いて反転によりプロテアーゼ阻害因子および凝固薬を血液と混合する。管を室温で直立させて、血液を塊にする。次に血液を遠心分離し、得られた上澄みを指定の血清とする。続いて血清試料を氷上に設置すべきである。
試料を分析する前に、試料を、例えば濾過または遠心分離により精製してもよい。これらの技術を使用して、例えば、微粒子および化学的干渉を取り除くことができる。粒子を除去するための様々な濾過媒体には、再生セルロース、セルロースアセテート、ナイロン、PTFE、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、およびポリビニルピロリドンなどの、セルロースおよび膜フィルターなどの濾紙(filer paper)が含まれる。微粒子およびマトリックス干渉を取り除くための様々な濾過媒体には、イオン交換膜および親和性膜などの機能性膜;シリカにおよびポリマーに基づいたカートリッジなどのSPEカートリッジ;ならびにPTFEにおよびガラス繊維に基づいたものなどのSPE(固相抽出)ディスクが含まれる。これらのフィルターのうちのいくつかは、フィルター保持具/ハウジングに緩く設置されたディスクフォーマットで提供されてもよく、他のものは、例えば、標準的な採血管に設置され得る使い捨てチップ内に提供され、なお他のものは、ピペット採取試料を受けるウエルを有するアレイの形態で提供される。別の種類のフィルターには、スピンフィルターが含まれる。スピンフィルターは、セルロースアセテートフィルター膜を有するポリプロピレン遠心管からなり、典型的には水性緩衝液で希釈されている血清および血漿などの試料から、微粒子を除去するために、遠心分離と共に使用される。
濾過は、より大きな空隙率がより大きな微粒子しか濾去せず、より小さな空隙率がより小さい空隙率とより大きな空隙率の両方を濾去するように、部分的には空隙率の値によって影響を受ける。試料濾過の典型的な空隙率の値は、0.20および0.45μmの空隙率である。コロイド材料または大量の微細粒子を含有する試料では、液体試料をフィルターに通すために、顕著な圧力が必要になることがある。したがって、土壌抽出物または排水などの試料では、プレフィルターまたはデプスフィルターベッド(例えば、「2−in−1」フィルター)を使用することができ、これは、膜の最上部に設置されて、これらの種類の微粒子を含有する試料で目詰まりすることを防止する。
いくつかの場合において、フィルターを用いない遠心分離を使用して、微粒子を除去することができ、このことは多くの場合に尿試料において行われている。例えば、試料を遠心分離する。次に得られた上澄みを除去および凍結する。
試料が得られ、精製された後、試料を本発明の組成物により分析して、血漿試料内の希少分子などの1つまたはそれより多くの標的分析物を検出することができる。血漿試料の分析に関して、タンパク質(例えば、アルブミン)、イオンおよび金属(例えば、鉄)、ビタミン、ホルモン、ならびに他の要素(例えば、ビリルビンおよび尿酸)など、多くの要素が血漿中に存在する。これらの要素のいずれかを、本発明の組成物の使用によって検出することができる。より特定的には、本発明の組成物を使用して、疾患状態を示す生物学的試料における分子を検出することができる。特定の例が下記に提示される。
1つまたはそれより多くの標的希少分子が細胞の一部である場合、水性媒体は、細胞の溶解のために溶解剤を含むこともできる。溶解剤は、細胞膜の完全性を壊し、それによって、細胞の細胞内の内容物を放出する、化合物または化合物の混合物である。溶解剤の例には、例えば、非イオン性洗剤、アニオン性洗剤、両性洗剤、低イオン強度水溶液(低張性溶液)、細菌剤、脂肪族アルデヒド、および相補依存性溶解を引き起こす抗体が含まれるが、これらに限定されない。様々な付随的な材料が希釈媒体中に存在し得る。水性媒体中の全ての材料は、望ましい効果または機能を達成するのに十分な濃度または量で存在する。
いくつかの例において、1つまたはそれより多くの標的希少分子が細胞の一部である場合、試料の細胞を固定することが望ましいことがある。細胞の固定は、細胞を固定化し、細胞構造を保存し、細胞を、in vivo様状態の細胞に酷似した状態、および目的の抗原が特定の親和剤により認識され得る状態に維持する。用いられる固定液の量は、細胞を保存するが、後に続くアッセイにおいて誤った結果をもたらさないようなものである。固定液の量は、例えば、固定液の性質および細胞の性質のうちの1つまたはそれより多くによって左右され得る。いくつかの例において、固定液の量は、約0.05重量%〜約0.15重量%、または約0.05重量%〜約0.10重量%、または約0.10重量%〜約0.15重量%である。細胞の固定を実施する作用物質には、例えば、アルデヒド試薬(例えば、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、およびパラホルムアルデヒドなど)、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、およびイソプロパノールなどのC1〜C5アルコールなど)、ケトン(アセトンなどのC3〜C5ケトンなど)などの架橋剤が含まれるが、これらに限定されない。C1〜C5またはC3〜C5という名称は、アルコールまたはケトンにおける炭素原子の数を指す。1つまたはそれより多くの洗浄ステップを、緩衝水性媒体の使用により固定細胞に実施することができる。
必要であれば、固定した後、細胞調製物を透過処理に付すこともできる。いくつかの場合において、アルコール(例えば、メタノールもしくはエタノール)、またはケトン(例えば、アセトン)などの固定剤も、透過処理をもたらし、追加の透過処理ステップは必要ない。透過処理は、目的の標的分子に、細胞膜のアクセスを提供する。用いられる透過処理剤の量は、細胞膜を壊し、標的分子へのアクセスを許すようなものである。透過処理剤の量は、透過処理剤の性質、ならびに細胞の性質および量のうちの1つまたはそれより多くによって左右される。いくつかの例において、透過処理剤の量は、約0.01重量%〜約10重量%、または約0.1重量%〜約10重量%である。細胞の透過処理を実施する作用物質には、アルコール(例えば、メタノールおよびエタノールなどのC1〜C5アルコールなど)、ケトン(アセトンなどのC3〜C5ケトンなど)、洗剤(例えば、サポニン、TRITON X−100(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェニル−ポリエチレングリコール、
t−オクチルフェノキシポリエトキシエタノール、Sigma Aldrichから市販されているポリエチレングリコール tert−オクチルフェニルエーテル緩衝液など)およびTWEEN−20(Sigma Aldrichから市販されているポリソルベート20)など)が含まれるが、これらに限定されない。1つまたはそれより多くの洗浄ステップを、緩衝水性媒体の使用により透過処理細胞に実施することができる。
試料と、本発明の組成物との接触は、試料中の親和性試薬と標的希少分子との結合を達成するのに十分な時間にわたって続けられる。時間は、例えば、異なる標的希少細胞集団の性質およびサイズ、反応混合物の性質、または濾過される量(任意)のうちの1つまたはそれより多くによって左右され得る。いくつかの例において、接触時間は、例えば、約1分間〜約1時間、約5分間〜約1時間、または約5分間〜約45分間、または約5分間〜約30分間、または約5分間〜約20分間、または約5分間〜約10分間、または約10分間〜約1時間、または約10分間〜約45分間、または約10分間〜約30分間、または約10分間〜約20分間である。
アッセイ
本発明の組成物を、質量タグを希少分子に特異的に会合させるアッセイを実施するために使用してもよい。例示的なアッセイは、試料中の希少分子に特異的に結合する親和性試薬を使用する。質量タグは、親和性試薬に会合し、結合する。捕捉部分を標的分析物に特異的に結合させると、質量タグは、希少分子と会合するようになる。次に、非結合親和性試薬の洗浄、または希少分子/親和性試薬/質量タグ複合体を試料から分離する精製の実施など、分離ステップが実施される。分離ステップ(洗浄または精製)の後、次に質量タグは、上記に記載された放出剤の使用により、親和性試薬と質量標識との間の標識化ユニットの結合を破壊することによって、親和性試薬から溶出される。次に質量標識はイオン化され、分析される。具体的には、部分からの質量タグの解離を促す環境を作り出すことができる。例えば、pH変化を使用して、解離を促すことができる。あるいは、化学試薬を使用して、解離を促すことができる。あるいは、熱を使用して、解離を促すことができる。ある特定の実施形態において、技術の組合せ、例えば、pH変化と放出剤の組合せが使用される。結合および放出は、チオール/ジスルフィド化学反応を伴ってもよく、これは生物化学において十分に確立されているが、PNAの相補的結合(R. J. Ballら、Artificial DNA: PNA and XNA、1巻(2010年)、27〜35頁)を代替的に使用することもできる。
特異的結合または特異的会合とは、異種分子集団における目的の標的分析物の決定要因である結合反応を指す。したがって、指定された条件(例えば、イムノアッセイ条件)下では、特異的捕捉部分(例えば、抗体可変ドメイン)は、特定の「標的」に結合し、試料中に存在する他の分子に有意な量で結合しない。特異的結合/会合とは、結合が、厳選すると標的同一性、高、中もしくは低結合親和性、または結合活性に関して選択的であることを意味する。選択的結合は、通常、結合定数または結合動力学が少なくとも10倍異なる場合に達成される。
他方、非特異的結合は、特定の表面構造に比較的無関係である分子間の非共有結合を伴う。非特異的結合は、分子間の疎水性相互作用を含むいくつかの要因によってもたらされることがある。
質量タグのイオン発生
当技術分野で公知の質量タグのイオンを発生する任意の手法を、用いることができる。質量分析のために大気圧でイオン化源を利用する例示的な質量分析技術には、エレクトロスプレーイオン化(ESI、Fennら、Science、246巻:64〜71頁、1989年、およびYamashitaら、J. Phys. Chem.、88巻:4451〜4459頁、1984年)、大気圧イオン化(APCI、Carrollら、Anal. Chem.、47巻:2369〜2373頁、1975年)、ならびに大気圧マトリックス支援レーザー脱離イオン化(AP−MALDI、Laikoら、Anal. Chem.、72巻:652〜657頁、2000年、およびTanakaら、Rapid Commun. Mass Spectrom.、2巻:151〜153頁、1988年)が含まれる。それぞれの参考文献の内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
ダイレクトアンビエントイオン化(direct ambient ionization)/サンプリング法を利用する例示的な質量分析技術には、脱離エレクトロスプレーイオン化(DESI、Takatsら、Science、306巻:471〜473頁、2004年、および米国特許第7,335,897号)、リアルタイムでの直接分析(DART、Codyら、Anal. Chem.、77巻:2297〜2302頁、2005年)、大気圧誘電体バリア放電イオン化(Atmospheric Pressure Dielectric Barrier Discharge Ionization)(DBDI、Kogelschatz、Plasma Chemistry and Plasma Processing、23巻:1〜46頁、2003年、およびPCT国際公開第2009/102766号)、湿潤多孔質物質を使用するイオン発生(Paper Spray、米国特許第8,859,956号)、ならびにエレクトロスプレー支援レーザー脱離/イオン化(ELDI、Shieaら、J. Rapid Communications in Mass Spectrometry、19巻:3701〜3704頁、2005年)が含まれる。それぞれの参考文献の内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
イオン発生は、試料を多孔質材料に設置し、質量タグのイオンを多孔質材料から、またはOuyangらの米国特許出願公開第2012/0119079号(その内容は、全体が参照により本明細書に組み込まれる)に示されているような他の種類の表面から発生させることによって、遂行することができる。あるいは、アッセイを実施して、イオンを非多孔質材料から発生させることができる(例えば、Cooksらの米国特許出願第14/209,304号を参照すること。この内容は、全体が参照により本明細書に組み込まれる)。ある特定の実施形態において、高電圧が適用され得る固体針状プローブまたは表面を使用して、質量タグのイオンを発生させる(例えば、Cooksらの米国特許出願公開第20140264004号を参照すること。この内容は、全体が参照により本明細書に組み込まれる)。
イオン分析
ある特定の実施形態において、イオンは、質量分析計(卓上または小型質量分析計)に直接向けられることによって分析される。図10は、小型質量分析計における様々な部品およびそれらの配置を例示する図である。Mini 12の制御系(Linfan Li、Tsung-Chi Chen、Yue Ren、Paul I. Hendricks、R. Graham Cooks、およびZheng Ouyang、「Miniature Ambient Mass Analysis System」、Anal. Chem.、2014年、86巻、2909〜2916頁、DOI: 10.1021/ac403766c;および860. Paul I. Hendricks、Jon K. Dalgleish、Jacob T. Shelley、Matthew A. Kirleis、Matthew T. McNicholas、Linfan Li、Tsung-Chi Chen、Chien-Hsun Chen、Jason S. Duncan、Frank Boudreau、Robert J. Noll、John P. Denton、Timothy A. Roach、Zheng Ouyang、およびR. Graham Cooks、「Autonomous in-situ analysis and real-time chemical detection using a backpack miniature mass spectrometer: concept, instrumentation development, and performance」、Anal. Chem.、2014年、86巻、2900頁〜2908頁、DOI: 10.1021/ac403765x、それぞれの内容は、全体が参照により本明細書に組み込まれる)、ならびにMini 10の真空系(Liang Gao、Qingyu Song、Garth E. Patterson、R. Graham Cooks、およびZheng Ouyang、「Handheld Rectilinear Ion Trap Mass Spectrometer」、Anal. Chem.、78巻(2006年)、5994〜6002頁、DOI: 10.1021/ac061144k、この内容は、全体が参照により本明細書に組み込まれる)を組み合わせて、図10に示されている小型質量分析計を作った。これは、靴箱(H20×W25cm×D35cm)と同様のサイズを有し得る。ある特定の実施形態において、小型質量分析計は二重LIT構成を使用し、これは、例えば、Owenら(米国特許出願第14/345,672号)、およびOuyangら(米国特許出願第61/865,377号)に記載されており、それぞれの内容は、全体が参照により本明細書に組み込まれる。
質量分析計(小型または卓上)は、不連続インターフェースを備えていてもよい。不連続インターフェースは、例えば、Ouyangら(米国特許第8,304,718号)およびCooksら(米国特許出願公開第2013/0280819号)に記載されており、それぞれの内容は、全体が参照により本明細書に組み込まれる。
検出感度を支配するはずである要因は、化学における全てのステップの総合効率、親和性試薬1つあたりのタグの数、希少分子1つあたりの親和性試薬の数、および質量タグ1つあたりのイオンの数、MSにおけるイオン化感度、MSのS/N比、測定される異なる質量タグに対応する異なる転移の数、ならびにMSの取得時間である。しかし、このような超微量分析では、性能を決定するのは、多くの場合、化学的ノイズの大きさである。このため、複合混合物の場合では、MS/MSは、通常のMSより、後者の場合の総シグナルがより大きな桁であったとしても、低い検出限界を提示する。
参照による組み込み
特許、特許出願、特許公開、学術誌、学術書、論文、ウェブコンテンツなどの他の文書への参照および引用が、本開示の全体にわたって行われている。そのような文書は、全て、その全体が全ての目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
均等物
本明細書に示され、記載されているものに加えて、本発明およびその多くの更なる実施形態の様々な変更が、本明細書に引用されている科学文献および特許文献への参照を含む本文書の完全な内容から、当業者には明白である。本明細書の主題は、重要な情報、例示、および指針を含み、これらを、本発明の様々な実施形態およびその等価物を実施することに適合させることができる。
これらの実施例に使用される材料は、特に指定されない限り、Sigma−Aldrich Corporation (St. Louis MO)からのものであった。抗体コンジュゲートは、Greg T. Hermanson in Bioconjugate Techniques、第3版、2013年、Elsevier Inc.、225 Wyman Street、Waltham MAによって記載されているものなどの、標準的なバイオコンジュゲーション技術によって調製した。イミダゾリウムおよびピリジニウム質量標識は、Michael W. PenningtonおよびBen M. Dunn in Imidazolium Synthesis Protocols、第1版、1994年11月、Springer-Verlag、New York、LLC、New York NYによって記載されているものなどの、標準的なイミダゾリウム合成技術によって調製した。材料は、材料の記載に使用される一般的な用語と共に、表1に示されている。
実施例1:標的希少分子のための第四級質量標識化の方法
がん細胞は、培養SKBRヒト乳がん細胞を、1000μLのリン酸緩衝食塩水(PBS)中で遠心分離(2500rpmで2分間(Eppendorf Centrifuge 5417C))により2回洗浄して、質量標識と反応させることによって調製した。2回とも、溶液を廃棄して、細胞のペレットを生じた。細胞を、透過処理ステップとして0.2% Triton X100(PBST 0.2%)を有する1000μLのPBSに懸濁し、細胞を、7分間インキュベートし、続いて1000μLのPBSで4回洗浄した。細胞を、遮断ステップとして1000μLのカゼイン緩衝液に懸濁し、細胞を、7分間インキュベートし、続いて1000μLのPBST(0.05%)で1回洗浄した。細胞を、300μLの、Dylight 550蛍光標識とコンジュゲートした10ug/mL CK−8−18抗体とカゼイン緩衝液中で反応させて、がん細胞の可視化を可能にした。細胞を25分間インキュベートし、続いて1000μLのPBST(0.05%)で4回洗浄した。細胞を、500μLの、4,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)の1μg/mL溶液と反応させて、がん細胞核の可視化を可能にした。細胞を1分間インキュベートし、続いて1000μLのPBST(0.05%)で4回洗浄した。染色された細胞混合物をPBSにより1mLに希釈し、2μLの試料を顕微鏡下で検査して、染色細胞の数が数えられたことを確認した(約66500細胞/mL)。
質量標識は、L−カルニチン−F−G−G−S−C(QC5−1)とビオチンとをカップリングして、プロピルアミン官能化シリカとし、カップリング剤N−スクシンイミジル3−(2−ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)を使用して、切断性ジスルフィド結合リンカーアーム(すなわち、標識結合ユニット)を備えることによって、調製した。Her−2/neu希少分子に対する抗体を、Dylight488にコンジュゲートし、プロピルアミン官能化シリカ(ナノ粒子、200nm、メソ孔孔径4nm)に、N−ヒドロキシスクシンイミドエステルを有するアミド結合により更にコンジュゲートして、抗体ナノ粒子(親和性試薬、図1)を作製した。ビオチンを、SPDP反応によって、ジスルフィド結合を有する親和性試薬に付着させた。QC5−1ナノ粒子および親和性試薬をストレプトアビジン磁性ビーズ(Pierce 1%、10mg/mlで0.756uM)とコンジュゲートして、18.2ug/mLの組合せ抗体−QC5−1粒子をもたらして、親和性試薬に付着した第四級質量標識を作製した。同じ方法を使用して、他の質量標識を親和性試薬に付着させた。
300μLの0.075ug/mL抗体−QC5−1粒子を染色SKBR3細胞(約20,000個の細胞)に添加することによって、染色細胞を、親和性に付着した第四級質量標識と反応させた。得られた混合物を75rpmのローラーミキサーにより室温で2時間インキュベートした。混合物を遠心分離し、液体をデカントし、続いて1mLのPBST(0.3%)で2回、1mLのPBSで2回洗浄した。反応した細胞を蛍光顕微鏡下で検査し、100%のSBKR細胞が抗体−QC5−1粒子と反応したことを確認した。このことは、第四級質量標識方法が希少分子検出に使用できることを実証した。
実施例2:第四級質量標識化の検出
卓上Linear Ion Trap Mass Spectrometer(LTQ Thermo Fisher)を使用して、(3に等しいシグナル対ノイズ比をもたらす濃度として評価した)検出限界を試験するため、ナノエレクトロスプレーイオン化(nESI)により生成された質量標識イオンを分析した。機器の設定は、以下のとおりである:噴霧電圧1.5kV、毛管温度150℃、チューブレンズ65V、毛管電圧15V、衝突エネルギー35、Q活性化0.3。
試験される化合物のリストは、表1に表されており、第四級構造を有する、または有さない潜在的な質量標識の種類を含み、様々な3個のアミノ酸ペプチド、6個のアミノ酸ペプチド、および9個のアミノ酸ペプチド、ならびに小分子第四級イミダゾリウム塩(メチルイミダゾリウム−メチル−サリチルアルデヒド、MIMSA)および第四級核染色試薬のナイルブルーAが含まれる。ペプチドでは、第四級構造は、L−カルニチン残基をN末端に付加することによって作製した。第四級構造を欠いているペプチドは、10〜50nMの検出限界で検出された。第四級構造の付加は、検出限界を1nMに改善した。このことは、第四級質量標識がより大きな感度を有し、検出のために容易にイオン化されることを実証している。
実施例3:第四級質量標識のメチルイミダゾリウムおよびピリジニウム類似体
第四級質量標識のメチルイミダゾリウムおよびピリジニウム類似体を合成した。そのような質量標識をプロピルアミン官能化シリカナノ粒子にコンジュゲートするため、イミンを直接形成した、またはナノ粒子を1,2−ジオールで修飾して、第四級質量標識のアルデヒド官能基を介してアセタールを形成した。メチルイミダゾリウムおよびピリジニウム類似体は、最初にBlancのクロロメチル化反応を実施し、次に生成物を単離し、N置換イミダゾールまたはピリジン類似体と更に反応させることによって、サリチルアルデヒドから作製した。イミダゾールのN置換基の構造を変化させる、またはクロロメチル化サリチルアルデヒドに導入されたピリジンを置換すると、異なる構造を有する質量標識の合成が促進された。図5は、メチルイミダゾリウム(m/z217)およびピリジニウム(m/z214)質量標識を示す。質量標識は、イオン化、続くMS/MSによる分析で断片化されるので、特有の生成物イオンを生じ、これは、メチルイミダゾリウム(m/z83)およびピリジニウム(m/z80)により表されている。
図6は、Rにより表される親和性試薬または希少分子が、アセタールまたはケタール結合を介して、第四級質量標識にどのように接続するかを示す。結合は、Rに接続したジオールと、第四級質量標識のアルデヒドとの反応によって形成される。最初にジオールは、β−ヒドロキシ−γ−ブチロラクトンの反応によって親和性試薬または希少分子(R)のアミンに付着して、アミド結合を形成する。そのような材料を作製する詳細な手順は、以下のとおりである。
クロロメチルサリチルアルデヒドの調製
パラホルムアルデヒド(1g)を、撹拌しながら室温で12Mの塩酸(4mL)に懸濁した。パラホルムアルデヒド粉末を酸に部分的に可溶化させ(それによって、液体の表面に浮遊している乾燥パラホルムアルデヒドが存在しない)、次にサリチルアルデヒド(0.6gを30分間かけて滴下して加えた)に可溶化させた。得られた混合物は黄色の色彩になり、パラホルムアルデヒドが完全に溶解すると、最終的に透明になった。溶液を12時間かけて撹拌し、その時間で色を失い、生成物が白色の沈殿物として形成された。生成物を濾過し、脱イオン水で3回洗浄して、残留酸を除去した。粗材料を空気乾燥し、更に精製することなく次のステップに使用した。
(メチルイミダゾール)メチルサリチルアルデヒドの調製
粗クロロメチルサリチルアルデヒド(1当量)をジクロロメタンに室温で溶解した。メチルイミダゾール(1.5当量)を滴下して加えると、所望の生成物がほぼ直後に(イミダゾールを添加すると少量で)沈殿した。沈殿物を濾過し、ジクロロメタンで3回洗浄して、全ての残留有機物を除去した(材料を本質的に精製した)。
イミン結合ナノ粒子コンジュゲート種の形成のための一般的手順
メチルイミダゾリウム)メチルサリチルアルデヒド(1.2当量)を、エッペンドルフ管中の無水メタノール(1mL)に溶解した。対応するアミンコンジュゲートパートナー(1当量)をエッペンドルフ管に加え、溶液を30分間放置し、その時間で黄色になり、イミンの形成を示した。
アセタール保護イミダゾリウム質量標識の調製
イミダゾリウム質量標識(0.3g)を無水ジメチルホルムアミドに溶解し、Amberlyst−15(水素形態、質量測定されず)を加えた。エチレングリコール(0.2g)を溶液に一度に加え、イミダゾリウム質量標識が溶解し、反応混合物を6時間撹拌した。得られたアセタールの構造を質量分析により確認した。
ジオール官能化プロピルアミンの調製
プロピルアミン(未希釈、1当量)をベータ−ヒドロキシ−ガンマ−ブチロラクトン(未希釈、1当量)と混合した。反応は、直ぐに発熱を伴って進行し、反応が完了すると、最終的に結晶化した。収量は、本質的に定量的であった。
ジオールによるプロピルアミン官能化シリカナノ粒子の修飾
プロピルアミン官能化シリカナノ粒子(0.03g)を、エッペンドルフ管中のベータ−ヒドロキシ−ガンマ−ブチロラクトン(300μL)で覆い、1時間反応させた。より大きな規模では、反応は、皮膚に感じるほど強い発熱を生じ、遊離プロピルアミンで観察されるものと同類のアミド化反応を示した。
図5は、この方法により生成された第四級質量標識のイミダゾリウム(A)およびピリジニウム(B)類似体を示す。メチルイミダゾリウム(m/z217)およびピリジニウム(m/z214)質量標識。これらの例では、質量構造は、単結合を介して、または形質陽電荷、すなわち、サリチルアルデヒド部分およびメチル基へのコンジュゲーションにより直接接続していない他の全ての原子から構成される。メチルサリチルアルデヒドのアルデヒドを使用して、図3に示されているように、イミン結合を介して、またはアミンの修飾後に、アセタール結合を介して、プロピルアミン官能化シリカナノ粒子のアミンに結合する。
アルデヒドに付着する2つの方法を比較した。イミン結合(図3パネルD)およびアセタール結合(図3パネルB)は、希少分子および親和性試薬のモデルとして有機アミンを使用して作製した。MIMSAとプロピルアミン、メルカプトアニリン、および1,6−ジアミノナフタレンとのコンジュゲートを調査した。イミン結合は、無水メタノールにおいて素早く形成された。結合は、PBSなどの水性溶媒の存在下で容易に切断されることが見出された。方法においてこれらの材料を使用するためには、第四級質量標識を連結するのに使用される結合は、アッセイ手順において典型的に使用される緩衝水溶液中において、安定していることが重要である。イミン系は、水性溶媒への20分の曝露時間の後、結合が完全に加水分解したので、許容されないと見なされた。アセタールおよび材料は、少なくとも20分間にわたってほぼ完全に安定していた。
アセタール連結を介した有機アミンへのコンジュゲーションのために、最初に遊離アミンをβ−ヒドロキシ−γ−ブチロラクトンとの反応によって、1,2−ジオール構造で官能化させた(図6を参照すること)。反応スキームは、有機アミンおよびアミンナノ粒子に成功裏に適用された。これは、要求されるジオール構造(標識結合ユニット、図1)を生成し、質量標識のアルデヒドおよびケトンとコンジュゲートする有効な方法を示した。得られたアセタールおよびケタールは、エチレングリコール誘導アセタールと同じ加水分化安定性を有した。またアセタールおよびケタールは、0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)を有する水中50%アセトニトリルなどの、酸性化噴霧溶媒の簡単な1ステップ液体添加によって、親和性試薬から分離されたし、容易に分離されるものである。質量スペクトルにおける質量標識のシグナルに対する抑制は、0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)を有する水中50%アセトニトリルによるnESIによっては観察されなかった。比較すると、ジスルフィド結合を破壊するために、水中1mg/mLでトリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩を使用することは、nESIの質量標識検出限界を50%またはそれよりも多く抑制した。したがってジスルフィド結合は、第四級質量標識の付着にとって理想的ではなかった。
上記に考察された要素を全て組み込む例示的なワークフローを実施した。プロピルアミン官能化シリカナノ粒子の修飾を、β−ヒドロキシ−γ−ブチロラクトンで行った。次に質量標識のメチルイミダゾリウム類似体(図5、A)を、得られたジオール官能化ナノ粒子に結合した。このコンジュゲーション、および続く洗浄ステップの後、ナノ粒子に結合した質量標識を、トリフルオロ酢酸水溶液の放出溶液に放出し、放出された質量標識を、内部標準に対する較正曲線の使用によって定量化した。内部標準は、質量標識のピリジニウム類似体(図5、B)であった。放出溶液中の質量標識の計算された濃度は、続く洗浄ステップの上澄みで測定されたものより、2桁大きかった(図7)。
図8は、イミダゾリウムの高分子量誘導体(m/z309および259)を有する質量標識が、高い質量の可変質量ユニットを有する質量標識を効果的に形成したことを示している。これらの質量標識も断片化して、特有の生成物イオン(m/z175およびm/z125)を生じ、これらは予測可能であり、バックグラウンド質量スペクトルから分析的に分離された。