JP2019206673A - ポリカルボン酸系共重合体およびその製造方法、並びにこれを用いた無機粒子用添加剤およびセメント組成物 - Google Patents

ポリカルボン酸系共重合体およびその製造方法、並びにこれを用いた無機粒子用添加剤およびセメント組成物 Download PDF

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Abstract

【課題】セメント組成物への添加量が低減された場合であっても所望の流動性を達成し得る、ポリカルボン酸系共重合体を含む無機粒子用添加剤(セメント用添加剤)、および当該無機粒子用添加剤(セメント用添加剤)を含むセメント組成物を提供する。【解決手段】本発明に係るポリカルボン酸系共重合体は、特定の不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(a)由来の構造単位(I)と、特定の不飽和カルボン酸系単量体(b)由来の構造単位(II)と、を有するものであって、特定のトリチオカルボネート構造を有する点に特徴がある。【選択図】図2

Description

本発明は、ポリカルボン酸系共重合体およびその製造方法、並びにこれを用いた無機粒子用添加剤およびセメント組成物に関する。
リビング重合は、構造制御されたポリマーを合成することができる重合であり、次のような特徴を有する(非特許文献1参照)。
1.重合反応を開始するとモノマーが一定濃度以下になるまで重合が進行する。
2.重合率に比例して数平均分子量が増加する。
3.ポリマー分子(活性種)の数は一定で、重合率には関係しない。
4.分子量は、化学量論的に制御される。
5.通常の重合反応よりも狭い分子量分布のポリマーが得られる。
6.引き続いてモノマーを添加することで、再び重合反応を進めることができ、ブロックコポリマーを得ることもできる。
7.定量的な収率で、ポリマー鎖末端を変性することができる。
リビングラジカル重合として、可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT;reversible addition−fragmentation chain transfer)重合(特許文献1参照)、MADIX(macro−molecular design via interchange of xanthates)重合(特許文献2参照)、ATRP(atom transfer radical polymerization)(非特許文献2参照)、NMP(nitroxide−mediated polymerization)(特許文献3参照)、TERP(organotellurium−mediated living radical polymerization)(非特許文献3参照)が知られている。ここで、MADIX重合はRAFT重合と同じ可逆連鎖移動機構であるので、本明細書中では統一的に「RAFT重合」という名称を用いる。
ATRPは、遷移金属錯体による触媒反応であり、遷移金属が2種類の異なる酸化状態をとりながら重合が進行する。開始剤にはハロゲン化アルキルを用いるのが一般的である。遷移金属錯体の遷移金属としては、Ti、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Ru、Rh、Pd、Re、Os等を用いることができるが、Cuを用いる方法が最も一般的である。例えば、Cuをその核とする遷移金属錯体としては、Cuと窒素含有配位子からなる触媒が挙げられる。CuはCu1+とCu2+の2種類の酸化状態をとる。ATRPの難点は、空気中で不安定なハロゲン化アルキルを用いること、大量の触媒を使うことであり、触媒を除去するための精製工程と廃棄物の発生がポリマーの生産コストを高くしてしまう。
NMPは、ラジカル開始剤、モノマー、そして中間ポリマーラジカル種をトラップするニトロキシドラジカルの組み合わせを必要とする。NMPの難点は、単一の分子から、重合を開始する反応性ラジカルと安定なニトロキシドラジカルの両方を供給することのできる汎用開始剤の合成の困難さにある。その点で、NMPは汎用性が最も低い。
TERPは、有機テルル化合物を用いる重合法で、ドーマント種と言われる休眠状態の反応種と活性種の平衡反応による。有機金属を用いるため、完全脱水の雰囲気が必要で取扱いに注意を要する。
RAFT重合では、適切な連鎖移動剤(RAFT剤)の存在下で、置換モノマーの一般的なフリーラジカル重合にRAFT平衡に関わる反応が加わる。RAFT重合の利点としては、ラジカル重合で重合可能な大部分のモノマーの重合反応を制御できること、モノマーや溶媒中の保護されていない官能基(例えば、−OH、−NR、−COOH、−CONR、−SOH)に対して許容性が高く、水またはプロトン性溶媒中でも重合が可能であること、反応条件の適用範囲が広いこと、競合する技術と比較して利用しやすく安価であることが挙げられる。
RAFT剤としては、ジチオエステル類(−(C=S)−S−、特許文献1参照)、ジチオカルバマート類(>N−(C=S)−S−、特許文献4参照)、トリチオカルボネート類(−S−(C=S)−S−、特許文献5、6参照)、キサンタート類(−O−(C=S)−S−、特許文献4、7参照)等のチオカルボニルチオ基(−(C=S)−S−)を有する化合物が挙げられ、可逆的な連鎖移動反応によってリビング性を発現する。
RAFT剤は、代表的には、ラジカル重合開始剤の存在下で、ごく少量の生長ラジカルとほとんどの割合を占めるドーマント種(チオカルボニルチオ基を末端にもつポリマー)からなる平衡状態を確立することでリビング重合を進行させる(非特許文献4参照)。
ブテニルアルキレンポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテル(BAPP)なる特定のモノマーを用いたRAFT重合によって、セメント用添加剤として使用し得るポリカルボン酸系共重合体を合成できることが最近報告されている(非特許文献5参照)。
しかし、非特許文献5に記載のポリカルボン酸系共重合体は、BAPPのアルキレン部のために共重合体の疎水性が高いため、疎水会合によりセメント粒子を凝集させ、セメント組成物の粘性を上げてしまうという点で、セメント用添加剤用途への適性には疑問が残る。
一般に、ポリカルボン酸系共重合体をセメント用添加剤として十分に機能させるためには、セメント組成物とした場合に所望の流動性を達成するための該ポリカルボン酸系共重合体の使用量をできる限り低減できることが重要である。
特表2000−515181号公報 特表2002−512653号公報 米国特許第4581429号公報 特表2002−508409号公報 特表2003−522816号公報 特表2008−508384号公報 特表2002−512653号公報
Roderic P. Quirk and Bumjae Lee, Experimental Criteria for Living Polymerizations, Polymer International 27 (1992) 359−367. M.Kato, M.Kamigaito, M.Sawamoto, and T. Higashimura, Macromolecules 28 (1995) 1721−1723. 山子茂, 中村泰之, リビングラジカル重合2. 重合機構と方法2, 日本ゴム協会紙, 82 (2009) 363−369. A.Favier, M.−T.Charreyre, Experimental Requirements for an Efficient Control of Free−Radical Polymerizations via the Reversible Addition−Fragmentation Chain Transfer (RAFT) Process, Macromolecular Rapid Communications 27 (2006) 653−692. Binbin Yu, Zhong Zeng, Qinyu Ren, Yang Chen, Mei Liang, Huawei Zou, Journal of Molecular Structure 1120 (2016) 171−179. H.Uchikawa,S.Hanehara and D.Sawaki,Cement and Concrete Research 27(1997)37−50.
本発明の課題は、セメント組成物への添加量が低減された場合であっても所望の流動性を達成し得る無機粒子用添加剤(セメント用添加剤)、上記添加剤に使用することができるポリカルボン酸系共重合体、および当該ポリカルボン酸系共重合体の製造方法を提供することにある。また、本発明の他の課題は、当該無機粒子用添加剤(セメント用添加剤)を含むセメント組成物を提供することにある。
本発明の一形態に係るポリカルボン酸系共重合体は、下記一般式(1)で表される不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(a)由来の構造単位(I)と、下記一般式(2)で表される不飽和カルボン酸系単量体(b)由来の構造単位(II)と、を有するものである。
一般式(1)中、RおよびRは、同一または異なって、水素原子またはメチル基を表し、Rは、水素原子または炭素原子数1〜30の炭化水素基を表し、AOは、炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基を表し、nは、AOで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、nは1〜500の数であり、xは0〜2の整数である。
一般式(2)中、R〜Rは、同一または異なって、水素原子、メチル基、または−(CH2)COOM基を表し、−(CHCOOM基は−COOX基または他の−(CHCOOM基と無水物を形成していてもよく、zは0〜2の整数であり、Mは、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム基、有機アンモニウム基、または有機アミン基を表し、Xは、水素原子、メチル基、エチル基、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム基、有機アンモニウム基、または有機アミン基を表す。
そして、本形態に係るポリカルボン酸系共重合体は、下記一般式(3)で表される構造を有する点に特徴がある。
一般式(3)中、QおよびQは、同一または異なって、前記構造単位(I)および前記構造単位(II)の少なくとも一方を含む有機残基を表す。
一つの実施形態においては、上記ポリカルボン酸系共重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で得られたポリエチレングリコール換算の重量平均分子量(Mw)が500〜100000の範囲であり、分散度(Mw/Mn)が1.0〜1.8である。
一つの実施形態においては、前記一般式(1)中のRがメチル基である。
一つの実施形態においては、前記ポリカルボン酸系共重合体の全量に対し、前記構造単位(I)および前記構造単位(II)の合計の含有割合が、90〜100質量%である。
本発明の他の形態によれば、上記ポリカルボン酸系共重合体を含む、無機粒子用添加剤が提供される。
本発明のさらに他の形態によれば、上記ポリカルボン酸系共重合体を含む、セメント組成物が提供される。
本発明の他の形態によれば、前記一般式(1)で表される不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(a)、および前記一般式(2)で表される不飽和カルボン酸系単量体(b)を必須に含有する単量体成分を重合する重合工程を含む、ポリカルボン酸系共重合体の製造方法が提供される。当該製造方法は、下記一般式(4)で表されるトリチオカルボネート型化合物の存在下で前記重合工程を行う点に特徴がある。
一般式(4)中、Zは有機残基を表し、Zは互いに同一である。
一つの実施形態においては、前記トリチオカルボネート型化合物が、下記一般式(5)で表される構造を有する。
一般式(5)中、Z〜Zは、同一または異なって、水素原子、または水素原子を除く原子もしくは原子団を表す。
一つの実施形態においては、前記一般式(5)におけるZ〜Zは、同一または異なって、水素原子、置換または非置換の直鎖状、分岐状または環状の炭素原子数1〜20のアルキル基、置換または非置換の炭素原子数6〜20のアリール基または−COOM基(Mは、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム基、有機アンモニウム基、または有機アミン基を表す)である。
一つの実施形態においては、前記一般式(5)におけるZおよびZが、同一または異なって、水素原子または置換または非置換の直鎖状、分岐状または環状の炭素原子数1〜20のアルキル基であり、Zが置換または非置換のフェニル基である。
一つの実施形態においては、ZおよびZがメチル基であり、Zが−COOM基(Mは、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム基、有機アンモニウム基、または有機アミン基を表す)である。
本発明によれば、セメント組成物への添加量が低減された場合であっても所望の流動性を達成し得る無機粒子用添加剤(セメント用添加剤)、上記添加剤に使用することができるポリカルボン酸系共重合体、および当該ポリカルボン酸系共重合体の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、当該無機粒子用添加剤(セメント用添加剤)を含むセメント組成物を提供することができる。
GPCチャートにおけるベースラインの引き方を示す説明図である。 ポリカルボン酸系共重合体が一般式(3)に含まれるトリチオカルボネート構造を有することを確認するためのUVスペクトルを測定した結果の一例を示すチャートである。
本明細書中で「(メタ)アクリル」との表現がある場合は、「アクリルおよび/またはメタクリル」を意味し、「(メタ)アクリレート」との表現がある場合は、「アクリレートおよび/またはメタクリレート」を意味し、「(メタ)アリル」との表現がある場合は、「アリルおよび/またはメタリル」を意味し、「(メタ)アクロレイン」との表現がある場合は、「アクロレインおよび/またはメタクロレイン」を意味する。また、本明細書中で「酸(塩)」との表現がある場合は、「酸および/またはその塩」を意味する。また、本明細書中で「質量」との表現がある場合は、従来一般に重さの単位として慣用されている「重量」と読み替えてもよく、逆に、本明細書中で「重量」との表現がある場合は、重さを示すSI系単位として慣用されている「質量」と読み替えてもよい。
《ポリカルボン酸系共重合体》
本発明の一形態に係るポリカルボン酸系共重合体は、一般式(1)で表される不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(a)由来の構造単位(I)と、一般式(2)で表される不飽和カルボン酸系単量体(b)由来の構造単位(II)と、を有するものである。
一般式(1)で表される不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(a)由来の構造単位(I)は、具体的には、下記式で表される。
また、一般式(2)で表される不飽和カルボン酸系単量体(b)由来の構造単位(II)は、具体的には、下記式で表される。
一般式(1)および一般式(I)中、RおよびRは、同一または異なって、水素原子またはメチル基を表す。
一般式(1)および一般式(I)中、Rは、好ましくは水素原子である。Rが水素原子であることにより、本発明の効果がより発現され得る。
一般式(1)および一般式(I)中、Rは、好ましくはメチル基である。Rがメチル基であることにより、本発明の効果がより発現され得る。
一般式(1)および一般式(I)中、Rは、水素原子または炭素原子数1〜30の炭化水素基を表す。炭素原子数1〜30の炭化水素基としては、例えば、炭素原子数1〜30のアルキル基(脂肪族アルキル基や脂環式アルキル基)、炭素原子数2〜30のアルケニル基、炭素原子数2〜30のアルキニル基、炭素原子数6〜30の芳香族基などが挙げられる。本発明の効果を一層発現させ得る点で、Rは、好ましくは、水素原子または炭素原子数1〜20の炭化水素基であり、より好ましくは、水素原子または炭素原子数1〜12の炭化水素基であり、さらに好ましくは、水素原子または炭素原子数1〜10の炭化水素基であり、特に好ましくは、水素原子または炭素原子数1〜6のアルキル基である。
一般式(1)および一般式(I)中、AOは、炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基であり、好ましくは炭素原子数2〜8のオキシアルキレン基であり、より好ましくは炭素原子数2〜4のオキシアルキレン基である。また、nが2以上、すなわち複数のオキシアルキレン基を有する場合、当該オキシアルキレン基は互いに異なっていてもよく、例えば、AOが、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基等の中から選ばれる任意の2種類以上であってもよい。かような場合、AOの付加形態は、ランダム付加、ブロック付加、交互付加等のいずれの形態であってもよい。なお、親水性と疎水性とのバランス確保のため、オキシアルキレン基中にオキシエチレン基が必須成分として含まれることが好ましく、オキシアルキレン基全体の50モル%以上がオキシエチレン基であることがより好ましく、オキシアルキレン基全体の90モル%以上がオキシエチレン基であることがさらに好ましい。
一般式(1)および一般式(I)中、nは、AOで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜500の数であり、好ましくは2〜200の数であり、より好ましくは5〜200の数であり、さらに好ましくは8〜100の数であり、特に好ましくは20〜70の数であり、最も好ましくは40〜60の数である。nが上記範囲内にあることにより、セメント組成物とした場合に所望の流動性を達成するための使用量を低減できる、セメント用添加剤を提供することができる。
一般式(1)および一般式(I)中、xは0〜2の整数である。
一般式(1)で表される不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(a)としては、例えば、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシプロピルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、(メタ)アリルアルコール、3−メチル−3−ブテン−1−オール、3−メチル−2−ブテン−1−オール、2−メチル−3−ブテン−2−オール、2−メチル−2−ブテン−1−オール、2−メチル−3−ブテン−1−オールのいずれかにアルキレンオキシドを1〜500モル付加した化合物;が挙げられる。不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(a)は、好ましくは、3−メチル−3−ブテン−1−オールにアルキレンオキシドを1〜500モル付加した化合物、またはメタリルアルコールにアルキレンオキシドを1〜500モル付加した化合物である。
一般式(1)で表される不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(a)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。すなわち、本形態に係るポリカルボン酸系共重合体は、一般式(1)で表される不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(a)由来の構造単位(I)を1種単独で含んでいてもよいし、2種以上の組み合わせで含んでいてもよい。
一般式(2)および一般式(II)中、R〜Rは、同一または異なって、水素原子、メチル基、または−(CHCOOM基を表す。−(CHCOOM基は−COOX基または他の−(CHCOOM基と無水物を形成していてもよい。zは0〜2の整数である。
Mは、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム基、有機アンモニウム基、または有機アミン基を表す。ここで、アルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムなどが挙げられる。また、アルカリ土類金属としては、例えば、カルシウム、マグネシウムなどが挙げられる。
さらに、有機アンモニウム塩としては、例えば、メチルアンモニウム塩、エチルアンモニウム塩、ジメチルアンモニウム塩、ジエチルアンモニウム塩、トリメチルアンモニウム塩、トリエチルアンモニウム塩などが挙げられる。また、有機アミン塩を構成する有機アミンとしては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ヒドロキシエチルジイソプロパノールアミン、ジヒドロキシエチルイソプロパノールアミン、テトラキス(2−ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、ペンタキス(2−ヒドロキシプロピル)ジエチレントリアミン等のアルカノールアミンなどが挙げられる。これらの中でも、好ましくは、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ヒドロキシエチルジイソプロパノールアミン、テトラキス(2−ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、ペンタキス(2−ヒドロキシプロピル)ジエチレントリアミンであり、より好ましくは、トリイソプロパノールアミン、ヒドロキシエチルジイソプロパノールアミンである。
Xは、水素原子、メチル基、エチル基、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム基、有機アンモニウム基、または有機アミン基を表す。Xとしてのアルカリ金属、アルカリ土類金属、有機アンモニウム基および有機アミン基を構成する有機アミンの例は、一般式(2)および一般式(II)におけるR〜Rの定義の中の−(CHCOOM基における「M」について上記で例示したのと同様である。
一般式(2)で表される不飽和カルボン酸系単量体(b)としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸などのモノカルボン酸系単量体またはこれらの塩;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などのジカルボン酸系単量体またはこれらの塩;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などのジカルボン酸系単量体の無水物またはこれらの塩;などが挙げられる。ここでいう塩としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、有機アンモニウム塩、有機アミン塩などが挙げられる。これらの塩は、一般式(2)におけるXがアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム基、有機アンモニウム基、有機アミン基を表す場合にそれぞれ対応している。
一般式(2)で表される不飽和カルボン酸系単量体(b)としては、本発明の効果を一層発現させ得る点で、好ましくは、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸であり、より好ましくは、アクリル酸、マレイン酸である。
一般式(2)で表される不飽和カルボン酸系単量体(b)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。すなわち、本形態に係るポリカルボン酸系共重合体は、一般式(2)で表される不飽和カルボン酸系単量体(b)由来の構造単位(II)を1種単独で含んでいてもよいし、2種以上の組み合わせで含んでいてもよい。
ポリカルボン酸系共重合体中の、構造単位(I)の含有割合は、好ましくは30質量%〜90質量%であり、より好ましくは40質量%〜85質量%であり、さらに好ましくは50質量%〜80質量%であり、特に好ましくは60質量%〜80質量%であり、最も好ましくは70質量%〜80質量%である。ポリカルボン酸系共重合体中の構造単位(I)の含有割合が上記範囲内にあれば、セメント組成物とした場合に所望の流動性を達成するための使用量をより低減できる、セメント用添加剤を提供することができる。
ポリカルボン酸系共重合体中の、構造単位(II)の含有割合は、好ましくは10質量%〜70質量%であり、より好ましくは15質量%〜60質量%であり、さらに好ましくは20質量%〜50質量%であり、特に好ましくは20質量%〜40質量%であり、最も好ましくは20質量%〜30質量%である。ポリカルボン酸系共重合体中の構造単位(II)の含有割合が上記範囲内にあれば、セメント組成物とした場合に所望の流動性を達成するための使用量をより低減できる、セメント用添加剤を提供することができる。
ポリカルボン酸系共重合体中の、構造単位(I)と構造単位(II)との合計の含有割合は、好ましくは90質量%〜100質量%であり、より好ましくは93質量%〜100質量%であり、さらに好ましくは95質量%〜100質量%であり、特に好ましくは96質量%〜100質量%であり、最も好ましくは実質的に100質量%である。ポリカルボン酸系共重合体中の構造単位(I)と構造単位(II)との合計の含有割合が上記範囲内にあれば、セメント組成物とした場合に所望の流動性を達成するための使用量をより低減できる、セメント用添加剤を提供することができる。
ポリカルボン酸系共重合体中には、構造単位(I)および構造単位(II)以外に、他の単量体(c)由来の構造単位(III)を含んでいてもよい。
単量体(c)は、単量体(a)、単量体(b)と共重合可能な単量体である。単量体(c)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。すなわち、本形態に係るポリカルボン酸系共重合体は、他の単量体(c)由来の構造単位(III)を含む場合、これを1種単独で含んでいてもよいし、2種以上の組み合わせで含んでいてもよい。
単量体(c)としては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;メチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等の不飽和モノカルボン酸類と炭素原子数1〜30のアルコールとのエステル類;ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシ(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の各種(アルコキシ)(ポリ)アルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート類;(無水)マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸類と炭素原子数1〜30のアルコールとのハーフエステル類;(無水)マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸類と炭素原子数1〜30のアルコールとのジエステル類;上記不飽和ジカルボン酸類と炭素原子数1〜30のアミンとのハーフアミド類;上記不飽和ジカルボン酸類と炭素原子数1〜30のアミンとのジアミド類;上記アルコールやアミンに炭素原子数2〜18のアルキレンオキシドを1〜500モル付加させたアルキル(ポリ)アルキレングリコールと上記不飽和ジカルボン酸類とのハーフエステル類;上記アルコールやアミンに炭素原子数2〜18のアルキレンオキシドを1〜500モル付加させたアルキル(ポリ)アルキレングリコールと上記不飽和ジカルボン酸類とのジエステル類;上記不飽和ジカルボン酸類と炭素原子数2〜18のグリコールまたはこれらのグリコールの付加モル数2〜500のポリアルキレングリコールとのハーフエステル類;上記不飽和ジカルボン酸類と炭素原子数2〜18のグリコールまたはこれらのグリコールの付加モル数2〜500のポリアルキレングリコールとのジエステル類;マレアミド酸と炭素原子数2〜18のグリコールまたはこれらのグリコールの付加モル数2〜500のポリアルキレングリコールとのハーフアミド類;(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等の(ポリ)アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類;ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート類;ポリエチレングリコールジマレート等の(ポリ)アルキレングリコールジマレート類;ビニルスルホネート、(メタ)アリルスルホネート、2−メチルプロパンスルホン酸(メタ)アクリルアミド、スチレンスルホン酸等の不飽和スルホン酸(塩)類;メチル(メタ)アクリルアミド等の不飽和モノカルボン酸類と炭素原子数1〜30のアミンとのアミド類;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等のビニル芳香族類;1,4−ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート等のアルカンジオールモノ(メタ)アクリレート類;ブタジエン、イソプレン等のジエン類;(メタ)アクリル(アルキル)アミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド等の不飽和アミド類;(メタ)アクリロニトリル等の不飽和シアン類;酢酸ビニル等の不飽和エステル類;(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、ビニルピリジン等の不飽和アミン類;ジビニルベンゼン等のジビニル芳香族類;(メタ)アリルアルコール、グリシジル(メタ)アリルエーテル等のアリル類;(メトキシ)ポリエチレングリコールモノビニルエーテル等のビニルエーテル類;(メトキシ)ポリエチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル等の(メタ)アリルエーテル類;などが挙げられる。
ポリカルボン酸系共重合体中の、構造単位(III)の含有割合は、好ましくは0質量%〜10質量%であり、より好ましくは0質量%〜7質量%であり、さらに好ましくは0質量%〜5質量%であり、特に好ましくは0質量%〜4質量%であり、最も好ましくは実質的に0質量%である。ポリカルボン酸系共重合体中の構造単位(III)の含有割合が上記範囲内にあれば、セメント組成物とした場合に所望の流動性を達成するための使用量をより低減できる、セメント用添加剤を提供することができる。
ポリカルボン酸系共重合体中の、構造単位(I)の含有割合、構造単位(II)の含有割合、構造単位(I)と構造単位(II)との合計の含有割合、ポリカルボン酸系共重合体中の構造単位(III)の含有割合などは、例えば、該ポリカルボン酸系共重合体の各種構造解析(例えば、NMRなど)によって知ることができる。また、上記のような各種構造解析を行わなくても、ポリカルボン酸系共重合体を製造する際に用いられる各種単量体の使用量が判明している場合には、LC(液体クロマトグラフィー)によって、重合反応における単量体の消費率を分析し、消費された単量体が全て重合反応によって共重合体に転化するものとして、ポリカルボン酸系共重合体中の、構造単位(I)の含有割合、構造単位(II)の含有割合、構造単位(I)と構造単位(II)との合計の含有割合、ポリカルボン酸系共重合体中の構造単位(III)の含有割合などを計算してもよい。
ポリカルボン酸系共重合体中の構造単位の含有比率を求める場合には、構造単位がカルボキシル基の塩を有する場合には、カルボキシル基の酸部分を全てナトリウム塩に換算して計算を行う。
ポリカルボン酸系共重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で得られたポリエチレングリコール換算の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは500〜100,000であり、より好ましくは3,000〜70,000であり、さらに好ましくは5,000〜40,000であり、特に好ましくは7,500〜35,000であり、最も好ましくは10,000〜25,000である。ポリカルボン酸系共重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で得られたポリエチレングリコール換算の重量平均分子量(Mw)が上記範囲内にあれば、セメント組成物とした場合に所望の流動性を達成するための使用量をより低減できる、ポリカルボン酸系共重合体を提供することができる。
ポリカルボン酸系共重合体の分散度(Mw/Mn)は、小さいほど好ましく、好ましくは1.8以下であり、より好ましくは1.7以下であり、さらに好ましくは1.6以下であり、特に好ましくは1.5以下であり、最も好ましくは1.4以下である。また、上記分散度(Mw/Mn)の下限は特に制限されないが、好ましくは1.3以上であり、より好ましくは1.2以上であり、さらに好ましくは1.0以上である。上記分散度(Mw/Mn)が上記のような範囲であれば、セメント組成物とした場合に所望の流動性を達成するための使用量をより低減できる、ポリカルボン酸系共重合体を提供することができる。
また、上記分散度(Mw/Mn)は、狭いほど好ましく、例えば、1.2〜1.8であると好ましく、1.2〜1.7であるとより好ましく、1.2〜1.6であると特に好ましい。上記分散度(Mw/Mn)が狭いほど、セメント組成物とした場合に所望の流動性を達成するための使用量をより低減できる、ポリカルボン酸系共重合体を提供することができる。
上述したように、本形態に係るポリカルボン酸系共重合体は、下記一般式(3)で表されるように、トリチオカルボネート構造(−S−C(=S)−S−)を有し、且つ、その両末端に構造単位(I)および構造単位(II)の少なくとも一方を含む有機残基を有する点に特徴がある。本形態に係るポリカルボン酸系共重合体は、このようなトリチオカルボネート構造を必須に含有することに加え、さらに当該トリチオカルボネート構造の両末端に、構造単位(I)および構造単位(II)の少なくとも一方を含む有機残基を有することで、セメント組成物とした場合に所望の流動性を達成するための使用量をより低減できる、ポリカルボン酸系共重合体を提供することができる。
一般式(3)中、QおよびQは、同一または異なって、前記構造単位(I)および前記構造単位(II)の少なくとも一方を含む有機残基を表す。
本形態に係るポリカルボン酸系共重合体は、上記一般式(3)で表されるように、ポリマー主鎖の中に、トリチオカルボネート構造を有する。すなわち、トリチオカルボネート構造の左右に上記構造単位(I)および/または上記構造単位(II)が挿入されて重合反応が進行する。このように、本形態に係るポリカルボン酸系共重合体は、トリチオカルボネート構造がポリマー主鎖の中に配置された構造を有することにより、セメント組成物(セメントペースト、モルタル、コンクリート等)に対して高い流動性(フロー値)を付与することができる。この理由は不明であるが、以下のように推察できる。
一般的に、流動性(フロー値)の大小はセメント表面に吸着したポリマーの吸着層の厚さに依存する(非特許文献6)。よって、本形態に係るポリカルボン酸系共重合体のように、トリチオカルボネート構造がポリマー主鎖の中に配置された構造を有するポリマーは、セメント組成物中において、その吸着コンホメーションが変化し、吸着層の厚みが大きくなっていると推測される。より具体的には、ポリカルボン酸系共重合体は、例えばトレイン型やループ型よりも、テイル型のコンホメーションをとりやすくなっていることで、ポリカルボン酸系共重合体による吸着層が厚くなると考えられる。その結果、本形態に係るポリカルボン酸系共重合体は、少量であっても、セメント組成物に優れた流動性を付与することができると考えられる。なお、上記メカニズムは推測に基づくものであり、その正誤によって本発明の技術的範囲が影響を受けることはない。
一般式(3)中、QおよびQとしての有機残基は、上記構造単位(I)および上記構造単位(II)の少なくとも一方を含むものであれば具体的な構成について特に制限はない。QとQとは同一であってもよいし、異なるものであってもよい。Qおよび/またはQが構造単位(I)および構造単位(II)の両方を含む場合、これらの構造単位の付加形式はランダム型であってもよいし、ブロック型であってもよい。
およびQは、構造単位(I)および構造単位(II)以外に、他の単量体(c)由来の構造単位(III)を含んでいてもよい。なお、他の単量体(c)および構造単位(III)の説明は上述の通りであるため、ここでは詳細な説明は省略する。Qおよび/またはQが構造単位(III)をさらに含む場合、構造単位(I)および/または構造単位(II)との付加形式はランダム型であってもよいし、ブロック型であってもよい。
およびQの末端構造は特に制限されず、例えば、水素原子、またはアルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等)やアリール基(フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等)などからなる炭化水素基が挙げられる。これらの置換基の炭素鎖は、直鎖でも分岐鎖でもよく、途中や末端に環状構造や不飽和結合を有していてもよい。また、これらの置換基は、以下の任意の置換基の少なくとも1つによってさらに置換されていてもよい。かような置換基としては、例えば、アルコキシ基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、チオシアネート基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、スルホ基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルファモイル基等が挙げられる。アルキル基が置換されている場合の特に好ましい置換基は、カルボキシ基である。なお、上記任意の置換基は同種の置換基を置換することはない。例えば、アリール基を置換する任意の置換基にはアリール基は含まれない。
また、QおよびQは、炭素鎖中にB、N、O、Si、P、Sなどの原子が介在していてもよい。
本形態に係るポリカルボン酸系共重合体は、トリチオカルボネート構造(−S−C(=S)−S−)が、ポリマー主鎖の中央付近に含まれていると好ましい。すなわち、本形態に係るポリカルボン酸系共重合体は、その主鎖が、トリチオカルボネート構造を中心として対称型であると好ましい。具体的には、トリチオカルボネート構造(−S−C(=S)−S−)を介して連結されるQ部分およびQ部分をC−S結合部分で切断することにより生じるQおよびQを混合したポリマーの重量平均分子量(Mw(QおよびQ))と、本形態に係るポリカルボン酸系共重合体の重量平均分子量(Mw)との比(Mw(QおよびQ)/Mw)が、1/1.5〜1/2.5であると好ましく、1/1.8〜1/2.2であるとより好ましい。なお、上記C−S結合部分で切断する手法は特に制限されず、公知の方法により行うことができるが、例えば、以下の(イ)〜(ヘ)の方法を採用できる。このように、トリチオカルボネート構造がポリカルボン酸系共重合体主鎖の中央付近に存在することにより、本形態に係るポリカルボン酸系共重合体は、少量であっても、セメント組成物に優れた流動性を付与することができる。かかる理由は不明であるが、ポリカルボン酸系共重合体が対称型の主鎖を有する場合、上述のように、ポリカルボン酸系共重合体による吸着層が厚くなるように、ポリマーのコンホメーションがより変化しやすくなるためであると考えられる。
ポリカルボン酸系共重合体が、上述した対称型の構造(トリチオカルボネート構造をポリマー主鎖の中央付近に含む構造)を有することについては、下記(イ)〜(ヘ)の各種方法によって総合的に確認することが可能である。
(イ)加水分解法:
トリチオカルボネート構造を有するポリマーは加水分解性を有するため、強塩基性条件下または強酸性条件下では加水分解反応が進行する。加水分解反応を行った場合、トリチオカルボネート構造がポリマー末端にある非対称型では、ほとんど重量平均分子量が変化しないが、トリチオカルボネート構造がポリマー主鎖の中央付近にある対称型では、加水分解前の重量平均分子量のおよそ半分の重量平均分子量になる。
(ロ)開始剤投入法:
トリチオカルボネート構造を有するポリマーにアゾ重合開始剤(例えば、AIBN)を過剰量加えて加熱すると、当該ポリマーは、トリチオカルボネート部分で開裂する。アゾ重合開始剤を過剰量加えた場合、トリチオカルボネート構造がポリマー末端にある非対称型では、ほとんど重量平均分子量が変化しないが、トリチオカルボネート構造がポリマー主鎖の中央付近にある対称型では、開裂前の重量平均分子量のおよそ半分の重量平均分子量になる。なお、このアゾ重合開始剤を利用する方法については、文献(Journal of Polymer Science Part A: Polymer Chemistry, Vol. 49, 1-10 (2011))が参照され得る。
(ハ)アミノリシス法:
トリチオカルボネート構造はアミンと反応して置換反応を起こす性質がある。アミンを添加した場合、トリチオカルボネート構造がポリマー末端にある非対称型では、ほとんど重量平均分子量が変化しないが、トリチオカルボネート構造がポリマー主鎖の中央付近にある対称型では、ポリマー中のトリチオカルボネート構造が置換され、置換反応前の重量平均分子量のおよそ半分の重量平均分子量になる。なお、このアミノリシス法については、例えば、以下の文献が参照される:Journal of Polymer Science: Part A: Polymer Chemistry, Vol. 46, 5093-5100 (2008)、Macromol. Rapid Commun. 2006, 27, 1648-1653、Macromolecules 2006, 39, 8616-8624。
(ニ)酵素法:
トリチオカルボネート構造を有するポリマーは、トリチオカルボネート構造を切断する酵素(例えば、パパイン、ブロメライン、フィシンなど)を用いることで、トリチオカルボネート部分で開裂する。上記酵素を加えた場合、トリチオカルボネート構造がポリマー末端にある非対称型では、ほとんど重量平均分子量が変化しないが、トリチオカルボネート構造がポリマー主鎖の中央付近にある対称型では、開裂前の重量平均分子量のおよそ半分の重量平均分子量になる。
(ホ)還元法
トリチオカルボネート構造を有するポリマーは、NaBHなどの還元剤により、トリチオカルボネート構造が還元され、当該還元後のトリチオカルボネート構造が切断される。上記還元剤を加えた場合、トリチオカルボネート構造がポリマー末端にある非対称型では、ほとんど重量平均分子量が変化しないが、トリチオカルボネート構造がポリマー主鎖の中央付近にある対称型では、開裂前の重量平均分子量のおよそ半分の重量平均分子量になる。なお、この還元法については、例えば、以下の文献が参照される:Biomacromolecules 2006, 7, 1389-1392。
(ヘ)加熱法
トリチオカルボネート構造を有するポリマーは、長時間、一定温度以上に加熱し続けることで、トリチオカルボネート構造を脱離させることができる。上記のように、長時間一定温度以上に加熱した場合、トリチオカルボネート構造がポリマー末端にある非対称型では、ほとんど重量平均分子量が変化しないが、トリチオカルボネート構造がポリマー主鎖の中央付近にある対称型では、開裂前の重量平均分子量のおよそ半分の重量平均分子量になる。なお、加熱法については、例えば、以下の文献が参照される:Macromolecules 2005, 38, 5371-5374。
ポリカルボン酸系共重合体が、上述した一般式(3)で表される構造(特に、トリチオカルボネート構造)を有することについては、下記(i)〜(iii)の各種構造解析によって総合的に確認することが可能である。
(i)33S−NMRを利用する方法:
まず、分取ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)などの分離手段を用いて、分析したい共重合体を含有する組成物から当該共重合体のみを単離する。そして、単離された共重合体について33S−NMRを測定することにより、トリチオカルボネート構造(−S−C(=S)−S−)の存在を確認することが可能である。なお、この33S−NMRを利用する方法については、文献(小杉善雄、ベンゼンスルホン酸の硫黄−33核NMR、油化学報文第38巻第7号570−571頁(1989))が参照され得る。
(ii)質量分析を利用する方法:
まず、上記と同様に分取GPCなどの分離手段を用いて、分析したい共重合体を含有する組成物から当該共重合体のみを単離する。そして、単離された共重合体について質量分析を行う。この際、イオン化の手法としてはESI(エレクトロスプレーイオン化)法やMALDI(マトリックス支援レーザー脱離イオン化)法などが用いられ得る。そして、質量分析にはMS/MS測定(精密質量測定)が用いられ得る。すなわち、1つ目の質量分離部(MS1)でトリチオカルボネート構造を含む特定のイオンを選択し、続くコリジョンセルで不活性ガスと衝突させてフラグメンテーションを起こす。次いで、このようにして生じたフラグメントイオン(トリチオカルボネート構造を含む)を2つ目の質量分離部(MS2)で分離し、検出を行うことができる(プロダクトイオンスペクトル)。
(iii)UVスペクトルを利用する方法:
まず、PDA検出器とRI検出器とを備えたGPCを用いて、共重合体を含む溶液中の共重合体のUVスペクトルを測定する。RAFT剤の構造によって多少異なるものの、一般的にトリチオカルボネート構造を有する化合物は210nmから250nm付近および290nmから350nm付近に弱いUV吸収を持つことが知られている。したがって、トリチオカルボネート構造を有するRAFT剤を用いて重合された共重合体と、同モノマー組成で上記RAFT剤を用いずにメルカプトプロピオン酸などの連鎖移動剤を用いて重合された共重合体との間で、それぞれの共重合体成分のピークトップ溶出時間におけるUVスペクトルを比較すると、前者は後者と比較して210nmから250nm付近および290nmから350nm付近におけるUV吸収の強度が大きくなる(後述する実施例を参照)。このことを利用して、ポリカルボン酸系共重合体が上述した一般式(3)で表される構造(トリチオカルボネート構造)を有することを確認することが可能である。なお、特定の構造のRAFT剤がどのような吸収を持つかは使用するRAFT剤のUVスペクトルを予め測定しておくことで確認することができる。
《ポリカルボン酸系共重合体の製造方法》
上述したような構成を有するポリカルボン酸系共重合体を製造する方法について特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されるが、本発明の他の形態によれば、上記ポリカルボン酸系共重合体を製造するための好適な製造方法もまた、提供される。ただし、上述したポリカルボン酸系共重合体の技術的範囲が、以下に詳述する製造方法によって得られたもののみに限定されることはない。
すなわち、本発明の他の形態は、前記一般式(1)で表される不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(a)、および前記一般式(2)で表される不飽和カルボン酸系単量体(b)を必須に含有する単量体成分を重合する重合工程を含む、ポリカルボン酸系共重合体の製造方法に関する。そして、当該製造方法は、下記一般式(4):
で表されるトリチオカルボネート型化合物の存在下で前記重合工程を行う点に特徴を有するものである。
本形態に係るポリカルボン酸系共重合体の製造方法において、一般式(4)で表されるトリチオカルボネート型化合物は連鎖移動剤として機能する。具体的には、リビングラジカル重合の1種である可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合を進行させるための連鎖移動剤(すなわち、RAFT剤)として機能する。上述したように、RAFT重合では、置換モノマーの一般的なフリーラジカル重合にRAFT平衡に関わる反応が加わる。そして、RAFT重合の利点としては、ラジカル重合で重合可能な大部分のモノマーの重合反応を制御できること、モノマーや溶媒中の保護されていない官能基(例えば、−OH、−NR、−COOH、−CONR、−SOH)に対して許容性が高く、水またはプロトン性溶媒中でも重合が可能であること、反応条件の適用範囲が広いこと、競合する技術と比較して利用しやすく安価であることが挙げられる。
ここで、一般式(4)中、Zは有機残基を表す。一般式(4)中に含まれる2つのZは、互いに同一である。すなわち、本形態に係るポリカルボン酸系共重合体の製造方法においては、対称な化学構造(トリチオカルボネート構造を介して対称な化学構造)を有するRAFT剤を連鎖移動剤として用い、当該RAFT剤の存在下で特定の不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(a)、および特定の不飽和カルボン酸系単量体(b)を必須に含有する単量体成分を重合する重合工程を行うのである。このように、互いに同一であるZを有するRAFT剤を用いて重合工程を行うことにより、トリチオカルボネート構造の両末端に生長ポリマーが挿入されて重合反応が進行する。その結果、製造されるポリカルボン酸系共重合体の構造を所望のものに制御しやすく、上述した一般式(3)で表される構造を有するポリカルボン酸系共重合体を得ることができる。さらに、より好ましい形態である、トリチオカルボネート構造を中心として対称型である主鎖を有するポリカルボン酸系共重合体を得ることができる。そして、かようなポリカルボン酸系共重合体は、上述のとおり、セメント組成物に高い流動性を付与することができる。
なお、本形態に係る製造方法のように、リビング重合の中でもRAFT重合によってポリカルボン酸系共重合体を得ることにより、重金属やテルルを含む触媒を必要とすることなく共重合体の製造が可能である。したがって、系中に重金属が混入する虞がない。また、RAFT重合によってポリカルボン酸系共重合体を得ることで、該ポリカルボン酸系共重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィーで得られたポリエチレングリコール換算の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比率として算出される分散度(Mw/Mn)を低くすることが可能となる。そして、セメント組成物とした場合に所望の流動性を達成するための使用量を低減できる、ポリカルボン酸系共重合体を提供することができる。
上述したように、一般式(4)中、Zは有機残基を表す。有機残基の具体的な構成について特に制限はなく、2つのZが同一である限り、任意の有機残基が用いられ得る。
置換基Zとしては、水素原子、またはアルキル基やアリール基などからなる炭化水素基が挙げられる。これらの置換基の炭素鎖は、直鎖でも分岐鎖でもよく、途中や末端に環状構造や不飽和結合を有していてもよい。また、これらの置換基は、一般式(3)の説明において列挙した任意の置換基の少なくとも1つによってさらに置換されていてもよいし、炭素鎖中にB、N、O、Si、P、Sなどの原子が介在していてもよい。
なお、置換基Zは、親水性の観点から、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボニル基、カルボキシ基、アミド基、シアノ基、カルバモイル基、オキソ酸基(スルホン基、ホスホン基、ホスフィン基など)およびオキソ酸エステルなどの極性官能基を有するものであることが好ましく、極性官能基1つ当たりの炭素原子数が15以下であるものがさらに好ましい。このような置換基を有するトリチオカルボネート化合物は分子極性が比較的高く、極性溶媒中、特に、水中で均一に分散しやすく、より低分散度のポリマーを得ることができる。
好ましい実施形態において、本形態に係るポリカルボン酸系共重合体の製造方法において連鎖移動剤として用いられるトリチオカルボネート化合物は、下記一般式(5)で表される構造を有するものである。
一般式(5)中、Z〜Zは、同一または異なって、水素原子、または水素原子を除く原子もしくは原子団を表す。上記一般式(5)に含まれる2つのZは互いに同一であり、2つのZは互いに同一であり、2つのZは互いに同一である。Z〜Zを構成し得る原子としては、水素原子、ハロゲン原子などが挙げられる。
また、Z〜Zを構成し得る原子団としては、置換または非置換の直鎖状、分岐状または環状の炭素原子数1〜20のアルキル基およびこれに対応したアルコキシ基、置換または非置換の直鎖状、分岐状または環状の炭素原子数2〜20のアルケニル基、置換または非置換の直鎖状または分岐状の炭素原子数2〜20のアルキニル基、置換または非置換の炭素原子数6〜20のアリール基、置換または非置換の炭素原子数2〜20のヘテロアリール基、置換または非置換の炭素原子数7〜20のアリールアルキル基、置換または非置換の炭素原子数3〜20のヘテロアリールアルキル基、−COOM基(Mは、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム基、有機アンモニウム基、または有機アミン基を表す)、シアノ基、アルデヒド基、カルボニル基、ヒドロキシル基、アミノ基、イミノ基、アミド基、ニトロ基のほか、リン酸基などのリンを含む官能基や、チオール基、スルホン基などの硫黄を含む官能基などが挙げられる。これらの原子団は、その一部が別の原子団で置換されていたり、別の原子団が挿入されたりしていてもよく、別の原子団の構造としては、シアノ基、カルボキシル基、アルデヒド基、カルボニル基、−C(=O)−X’−R’(X’は−O−または−NR”−を表し、R’およびR”は、同一または異なって、水素原子、または置換もしくは非置換の直鎖状、分岐状もしくは環状の炭素原子数1〜20のアルキル基を表す。)、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アミノ基、イミノ基、アミド基、ニトロ基、のほか、リン酸基などのリンを含む官能基、チオール基、スルホン基などの硫黄を含む官能基などが挙げられるが、これらに制限されない。
一般式(5)中、Z〜Zは、同一または異なって、水素原子、置換または非置換の直鎖状、分岐状または環状の炭素原子数1〜20のアルキル基、置換または非置換の炭素原子数6〜20のアリール基または−COOM基(Mは、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム基、有機アンモニウム基、または有機アミン基を表す)であると好ましい。かような置換基を有するトリチオカルボネート化合物は、反応性(反応の制御性)が良好であり、入手も容易である。
炭素原子数1〜20のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、イソオクチル基、ノニル基、2,3,5−トリメチルヘキシル基、デシル基、ウンデシル基、4−エチル−5−メチルオクチル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等の直鎖状または分岐状のアルキル基;並びに、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の環状のアルキル基(シクロアルキル基)が挙げられる。
上記アルキル基の中でも、置換または非置換の直鎖状または分岐状の炭素原子数1〜8のアルキル基が好ましく、置換または非置換の直鎖状または分岐状の炭素原子数1〜5のアルキル基がより好ましく、置換または非置換の直鎖状または分岐状の炭素原子数1〜3のアルキル基が特に好ましい。
上記アルキル基は置換されていてもよい。当該アルキル基が置換されている場合に、当該アルキル基を置換し得る置換基としては、アルコキシ基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、チオシアネート基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、−C(=O)−X’−R’(X’は−O−または−NR”−を表し、R’およびR”は、同一または異なって、水素原子、または置換もしくは非置換の直鎖状、分岐状もしくは環状の炭素原子数1〜20のアルキル基を表す。)、スルホ基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルファモイル基等が挙げられる。
炭素原子数6〜20のアリール基としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
上記アリール基の中でも、置換または非置換の炭素原子数6〜12のアリール基が好ましく、置換または非置換の炭素原子数6〜10のアリール基がより好ましい。
上記アリール基は置換されていてもよい。当該アリール基が置換されている場合に、当該アリール基を置換し得る置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ヘテロアリール基、ハロゲノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、チオシアネート基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、−C(=O)−X’−R’(X’は−O−または−NR”−を表し、R’およびR”は、同一または異なって、水素原子、または置換もしくは非置換の直鎖状、分岐状もしくは環状の炭素原子数1〜20のアルキル基を表す。)、スルホ基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルファモイル基等が挙げられる。
〜Zとしての−COOM基の「M」の具体例は、一般式(2)および一般式(II)におけるR〜Rの定義の中の−(CHCOOM基における「M」について上記で例示したのと同様である。
一つの好ましい実施形態においては、一般式(5)におけるZおよびZが、同一または異なって、水素原子または置換または非置換の直鎖状、分岐状または環状の炭素原子数1〜20のアルキル基であり、Zが置換もしくは非置換の炭素原子数6〜20のアリール基、または−COOM基(Mは、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム基、有機アンモニウム基、または有機アミン基を表す)である。
一つの好ましい実施形態においては、一般式(5)におけるZおよびZが、同一または異なって、水素原子または置換または非置換の直鎖状、分岐状または環状の炭素原子数1〜20のアルキル基であり、Zが置換もしくは非置換のフェニル基、または−COOM基(Mは、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム基、有機アンモニウム基、または有機アミン基を表す)である。
一つの好ましい実施形態においては、一般式(5)におけるZおよびZが、同一または異なって、水素原子または置換または非置換の直鎖状、分岐状または環状の炭素原子数1〜20のアルキル基であり、Zが置換または非置換のフェニル基である。
一つの好ましい実施形態においては、一般式(5)におけるZおよびZがメチル基であり、Zが−COOM基(Mは、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム基、有機アンモニウム基、または有機アミン基を表す)である。
このような構成を有するトリチオカルボネート化合物(RAFT剤)を用いて重合工程を実施することにより、ポリカルボン酸系共重合体に上述した一般式(3)に含まれるトリチオカルボネート構造をポリマー主鎖中により効果的に導入することが可能となる。さらに、上記構成を有するトリチオカルボネート化合物(RAFT剤)を用いて重合工程を実施することにより、本形態に係るポリカルボン酸系共重合体のより好ましい形態である、対称型の構造(トリチオカルボネート構造をポリマー主鎖の中央付近に含む構造)をより形成しやすくなる。その結果、セメント組成物とした場合に所望の流動性を達成するための使用量を低減できる、ポリカルボン酸系共重合体を提供することができる。
一般式(5)で表されるトリチオカルボネート構造を有する化合物の具体例としては、下記化学式(6)〜(12)で表されるものが挙げられるが、これらに限定されることはない。
上記の中でも、本発明の効果をより効果的に発現し得るという観点から、化学式(6)、(8)で表されるトリチオカルボネート化合物が好ましい。すなわち、本発明において、トリチオカルボネート化合物(RAFT剤)として、S,S−ジベンジルトリチオ炭酸および2,2’−(カルボノチオイルジスルファンジイル)ビス(メチルプロパン酸)の少なくとも一方を用いると好ましい。
ポリカルボン酸系共重合体を得るために採用し得るRAFT重合の条件としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な条件を採用し得る。
RAFT重合の条件としては、例えば、下記のような条件が好ましく挙げられる。
(溶媒)
ポリカルボン酸系共重合体を得るための重合工程(共重合工程)は、溶液重合や塊状重合などの通常の方法で行うことができる。溶液重合は回分式でも連続式でも行うことができる。その際には任意の適切な溶媒を採用し得るが、例えば、水;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール;ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサン等の芳香族又は脂肪族炭化水素;酢酸エチル等のエステル化合物;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン化合物;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル化合物等が挙げられる。中でも、原料モノマーおよび得られる重合体の溶解性の観点から、水および炭素数1〜4の低級アルコールからなる群より選択される少なくとも1種を用いることが好ましく、その中でも、水が脱溶剤工程を省略できる点でより好ましい。水は不純物の少ないものが好ましく、たとえば蒸留水、イオン交換水、純水、超純水、脱気水等を使用することが好ましい。
(重合濃度)
RAFT重合の際の全単量体成分の使用量(重合溶液中に含まれる全単量体成分の含油量)は、他の原料を含む全原料に対して、好ましくは15質量%以上であり、より好ましくは20質量%〜90質量%であり、さらに好ましくは25質量%〜80質量%であり、特に好ましくは30質量%〜60質量%であり、最も好ましくは35質量%〜40質量%である。RAFT重合の際の全単量体成分の使用量が上記範囲内にあれば、重合率が向上し得るとともに、生産性が向上しやすく、2分子停止反応などの副反応が起こりにくい。
(RAFT剤の添加量)
RAFT重合において、全単量体のモル数に対するRAFT剤の添加モル数の比率としては、好ましくは1000分の1〜5分の1であり、より好ましくは500分の1〜10分の1であり、さらに好ましくは250分の1〜15分の1であり、さらにより好ましくは230分の1〜20分の1であり、特に好ましくは200分の1〜50分の1であり、最も好ましくは200分の1〜80分の1である。全単量体のモル数に対するRAFT剤の添加モル数の比率が上記範囲内にあれば、セメント組成物とした場合に所望の流動性を達成するための使用量をより低減できる、ポリカルボン酸系共重合体を提供することができる。
(重合開始剤の種類)
RAFT重合の重合開始剤としては、任意の適切な重合開始剤を採用し得る。このような重合開始剤としては、例えば、アゾ系開始剤や過酸化物などが挙げられる。アゾ系開始剤としては、具体的には、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩(富士フィルム和光純薬株式会社製の商品名「VA−044」など)、2,2’−アゾビス[2−(イミダゾリン−2−イル)プロパン]二硫酸塩二水和物(富士フィルム和光純薬株式会社製の商品名「VA−046B」など)、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン](富士フィルム和光純薬株式会社製の商品名「VA−061」など)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(富士フィルム和光純薬株式会社製の商品名「V−50」など)、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]n水和物(富士フィルム和光純薬株式会社製の商品名「VA−057」など)、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド](富士フィルム和光純薬株式会社製の商品名「VA−086」など)、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)(富士フィルム和光純薬株式会社製の商品名「V−501」など)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(富士フィルム和光純薬株式会社製の商品名「V−70」など)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(富士フィルム和光純薬株式会社製の商品名「V−65」など)、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(富士フィルム和光純薬株式会社製の商品名「V−59」など)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)(富士フィルム和光純薬株式会社製の商品名「V−40」など)、2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド](富士フィルム和光純薬株式会社製の商品名「VF−096」など)、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)(富士フィルム和光純薬株式会社製の商品名「VAm−110」など)、2,2’−アゾビス(イソ酪酸)ジメチル(富士フィルム和光純薬株式会社製の商品名「V−601」など)などが挙げられる。過酸化物としては、過酸化水素、過酸化ベンゾイル、ターシャリーブチルヒドロペルオキシド(日油株式会社製の商品名「パーブチルH−69」など)、1,1,3,3−テトラメチルブチルヒドロペルオキシド(日油株式会社製の商品名「パーオクタH」など)などが挙げられる。
(RAFT剤と重合開始剤との比率)
RAFT重合においては、少量の重合開始剤で重合反応を開始する。重合開始剤の量を一定量以上用いることにより、初期ラジカル濃度を比較的高くすることができ、重合反応が進行しやすい。逆に、重合開始剤の量を一定量以下とすることにより、初期ラジカル濃度を適度に低くすることができ、フリーラジカル重合が同時に進行しにくくなり、分散度の狭い共重合体が得られやすくなる。過酸化水素のように重合開始剤1分子の開裂から1つのラジカルしか発生しない重合開始剤では、RAFT剤のモル数に対する重合開始剤のモル数の比率としては、好ましくは20モル%〜80モル%であり、より好ましくは30モル%〜70モル%であり、さらに好ましくは35モル%〜65モル%であり、特に好ましくは40モル%〜60モル%であり、最も好ましくは45モル%〜55モル%である。富士フィルム和光純薬株式会社製の商品名「V−50」のようなアゾ系開始剤を用いた場合は、重合開始剤1分子の開裂から2つのラジカルが発生するため、RAFT剤のモル数に対する重合開始剤のモル数の比率としては、好ましくは10モル%〜40モル%であり、より好ましくは15モル%〜35モル%であり、さらに好ましくは17モル%〜32モル%であり、特に好ましくは20モル%〜30モル%であり、最も好ましくは22モル%〜28モル%である。
(重合温度)
RAFT重合において、重合温度は、用いられる重合方法、溶媒、重合開始剤、連鎖移動剤等により適宜定められるが、下限として、好ましくは0℃以上であり、より好ましくは30℃以上であり、さらに好ましくは50℃以上であり、上限として、好ましくは150℃以下であり、より好ましくは120℃以下であり、さらに好ましくは100℃以下である。
(重合時間)
RAFT重合において、重合時間は、用いられる重合方法、溶媒、重合開始剤、連鎖移動剤等により適宜定められるが、下限として、好ましくは0.5時間以上であり、より好ましくは1時間以上であり、さらに好ましくは2時間以上であり、上限として、好ましくは20時間以下であり、より好ましくは10時間以下であり、さらに好ましくは5時間以下である。
(単量体添加方法)
各単量体の反応容器への投入方法としては、全量を反応容器に初期に一括投入する方法、全量を反応容器に分割若しくは連続投入する方法、一部を反応容器に初期に投入し、残りを反応容器に分割若しくは連続投入する方法のいずれでもよい。好適な投入方法としては、具体的には、単量体(a)と単量体(b)の全部とを反応容器に連続投入する方法、単量体(a)の一部を反応容器に初期に投入し、単量体(a)の残りと単量体(b)の全部とを反応容器に連続投入する方法、単量体(a)の一部と単量体(b)の一部とを反応容器に初期に投入し、単量体(a)の残りと単量体(b)の残りとをそれぞれ反応容器に交互に数回に分けて分割投入する方法などが挙げられる。また、反応途中で各単量体の反応容器への投入速度を連続的又は段階的に変えることにより各単量体の単位時間当りの投入質量比を連続的又は段階的に変化させて、ポリカルボン酸系共重合体中の構造単位(I)と構造単位(II)との比率が同一ポリマー鎖の中で連続的または段階的に変化するように重合してもよい。なお、重合開始剤や連鎖移動剤は反応容器に初めから仕込んでもよく、反応容器へ滴下してもよく、また目的に応じてこれらを組み合わせてもよい。
(溶存酸素濃度)
RAFT重合において、所定の分子量のポリカルボン酸系共重合体を再現性よく得るには、共重合反応を安定に進行させることが必要であることから、溶液重合を行う場合には、使用する溶媒の25℃における溶存酸素濃度を5ppm以下とすることが好ましい。この溶存酸素濃度は、より好ましくは0.01ppm〜4ppmであり、さらに好ましくは0.01ppm〜2ppmであり、特に好ましくは0.01ppm〜1ppmである。なお、溶媒に単量体を添加後、窒素置換等を行う場合には、単量体をも含んだ系の溶存酸素濃度を上記範囲内とすることが好ましい。上記溶媒の溶存酸素濃度の調整は、重合反応槽で行ってもよく、予め溶存酸素量を調整したものを用いてもよい。溶媒中の酸素を追い出す方法としては、例えば、下記の(1)〜(5)の方法が挙げられる。
(1)溶媒を入れた密閉容器内に窒素等の不活性ガスを加圧充填後、密閉容器内の圧力を下げることで溶媒中の酸素の分圧を低くする。窒素気流下で、密閉容器内の圧力を下げてもよい。
(2)溶媒を入れた容器内の気相部分を窒素等の不活性ガスで置換したまま液相部分を長時間激しく攪拌する。
(3)容器内に入れた溶媒に窒素等の不活性ガスを長時間バブリングする。
(4)溶媒を一旦沸騰させた後、窒素等の不活性ガス雰囲気下で冷却する。
(5)配管の途中に静止型混合機(スタティックミキサー)を設置し、溶媒を重合反応槽に移送する配管内で窒素等の不活性ガスを混合する。
(pH調整)
得られたポリカルボン酸系共重合体は、そのままでも無機粒子用添加剤として用いられ得るが、取り扱い性の観点から、pHを5以上に調整しておくことが好ましい。しかしながら、重合率の向上のため、pH5未満で共重合反応を行い、共重合後にpHを5以上に調整することが好ましい。pHの調整は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等の一価金属および二価金属の水酸化物および炭酸塩等の無機塩;アンモニア;有機アミン;などのアルカリ性物質の1種または2種以上を用いて行うことができる。また、反応終了後、必要ならば濃度調整を行うこともできる。
製造されたポリカルボン酸系共重合体は、製造によって得られた溶液に対して、必要に応じて、濃度調整を行うこともできる。
製造されたポリカルボン酸系共重合体は、溶液の形態でそのまま使用してもよいし、粉体化して使用してもよい。
《無機粒子用添加剤》
上述した本発明の一形態に係るポリカルボン酸系共重合体や、本発明の他の形態に係る製造方法によって製造されたポリカルボン酸系共重合体は種々の用途に用いられ得るが、用途の一例として、無機粒子用添加剤が挙げられる。
無機粒子用添加剤の固形分中におけるポリカルボン酸系共重合体の含有割合は、好ましくは45質量%〜99.98質量%であり、より好ましくは70質量%〜99.95質量%であり、さらに好ましくは85質量%〜99.92質量%であり、特に好ましくは90質量%〜99.9質量%である。
本発明に係るポリカルボン酸系共重合体を無機粒子用添加剤として用いる場合、当該無機粒子用添加剤は、消泡剤を含むものであることが好ましい。
消泡剤としては、任意の適切な消泡剤を用いることができる。本発明の実施形態によれば、上記のような特定のポリカルボン酸系共重合体と消泡剤とを組み合わせて無機粒子用添加剤を構成し、これをセメント用添加剤として用いることにより、特に流動性に優れたセメント組成物を得ることができる。すなわち、本発明に係る無機粒子用添加剤の好ましい一例としては、セメント用添加剤が挙げられる。ここで、消泡剤としては、例えば、オキシアルキレン系消泡剤、オキシアルキレン系以外の消泡剤が挙げられる。
オキシアルキレン系消泡剤としては、例えば、(ポリ)オキシエチレン(ポリ)オキシプロピレン付加物等のポリオキシアルキレン類;ジエチレングリコールヘプチルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル類;ポリオキシアルキレンアセチレンエーテル類;(ポリ)オキシアルキレン脂肪酸エステル類;ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル類;ポリオキシアルキレンアルキル(アリール)エーテル硫酸エステル塩類;ポリオキシアルキレンアルキルリン酸エステル類;ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンラウリルアミン(プロピレンオキシド1〜20モル付加、エチレンオキシド1〜20モル付加物等)、アルキレンオキシドを付加させた硬化牛脂から得られる脂肪酸由来のアミン(プロピレンオキシド1〜20モル付加、エチレンオキシド1〜20モル付加物等)等のポリオキシアルキレンアルキルアミン類;ポリオキシアルキレンアミド等;が挙げられる。
オキシアルキレン系以外の消泡剤としては、例えば、鉱油系、油脂系、脂肪酸系、脂肪酸エステル系、アルコール系、アミド系、リン酸エステル系、金属石鹸系、シリコーン系等の消泡剤が挙げられる。
無機粒子用添加剤の固形分中における消泡剤の含有割合は、好ましくは0.02質量%〜70質量%であり、より好ましくは0.05質量%〜10質量%であり、さらに好ましくは0.08質量%〜6質量%であり、特に好ましくは0.1質量%〜4質量%である。
無機粒子用添加剤の固形分中におけるポリカルボン酸系共重合体と消泡剤との合計の含有割合は、好ましくは50質量%〜100質量%であり、より好ましくは75質量%〜100質量%であり、さらに好ましくは90質量%〜100質量%であり、特に好ましくは95質量%〜100質量%である。
無機粒子用添加剤におけるポリカルボン酸系共重合体と消泡剤との含有比(ポリカルボン酸系共重合体/消泡剤)(質量比)は、好ましくは1/2〜5000/1であり、より好ましくは10/1〜2000/1であり、さらに好ましくは15/1〜1000/1であり、特に好ましくは30/1〜750/1である。
無機粒子用添加剤は、任意の適切な追加成分を含んでいてもよい。追加成分としては、例えば、セメント混和剤として使用され得る分子中にスルホン基を有するスルホン酸系分散剤、本発明に係るポリカルボン酸系共重合体以外のポリカルボン酸系分散剤、水溶性高分子物質、高分子エマルジョン、硬化遅延剤、早強剤・促進剤、AE剤、ひび割れ低減剤、界面活性剤、防水材、防錆剤、セメント湿潤剤、増粘剤、分離低減剤、凝集剤、乾燥収縮低減剤、強度増進剤、セルフレベリング剤、着色剤、防カビ剤などが挙げられる。
スルホン酸系分散剤としては、例えば、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、アントラセンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等の、ポリアルキルアリールスルホン酸塩系スルホン酸系分散剤;メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等の、メラミンホルマリン樹脂スルホン酸塩系スルホン酸系分散剤;アミノアリールスルホン酸−フェノール−ホルムアルデヒド縮合物等の、芳香族アミノスルホン酸塩系スルホン酸系分散剤;リグニンスルホン酸塩、変性リグニンスルホン酸塩等のリグニンスルホン酸塩系スルホン酸系分散剤;ポリスチレンスルホン酸塩系スルホン酸系分散剤;などが挙げられる。
水溶性高分子物質としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の非イオン性セルロースエーテル類;酵母グルカンやキサンタンガム、β−1,3グルカン類等の微生物醗酵によって製造される多糖類;ポリエチレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール類;ポリアクリルアミド等が挙げられる。
高分子エマルジョンとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキル等の各種ビニル単量体の共重合物等が挙げられる。
硬化遅延剤としては、例えば、グルコン酸、グルコヘプトン酸、アラボン酸、リンゴ酸、クエン酸等のオキシカルボン酸もしくはその塩;糖および糖アルコール;グリセリン等の多価アルコール;アミノトリ(メチレンホスホン酸)等のホスホン酸およびその誘導体が挙げられる。
早強剤・促進剤としては、例えば、塩化カルシウム、亜硝酸カルシウム、硝酸カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム等の可溶性カルシウム塩;塩化鉄、塩化マグネシウム等の塩化物;硫酸塩;水酸化カリウム;水酸化ナトリウム;炭酸塩;チオ硫酸塩;ギ酸およびギ酸カルシウム等のギ酸塩等が挙げられる。
AE剤としては、例えば、樹脂石鹸、飽和または不飽和脂肪酸、ヒドロキシステアリン酸ナトリウム、ラウリルサルフェート、ABS(アルキルベンゼンスルホン酸)、アルカンスルホネート、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテル、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテル硫酸エステル又はその塩、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテルリン酸エステル又はその塩、タンパク質材料、アルケニルスルホコハク酸、α−オレフィンスルホネート等が挙げられる。
界面活性剤としては、例えば、各種アニオン性界面活性剤;アルキルトリメチルアンモニウムクロライド等の各種カチオン性界面活性剤;各種ノニオン性界面活性剤;各種両性界面活性剤等が挙げられる。
防水剤としては、例えば、脂肪酸(塩)、脂肪酸エステル、油脂、シリコーン、パラフィン、アスファルト、ワックス等が挙げられる。
防錆剤としては、例えば、亜硝酸塩、リン酸塩、酸化亜鉛等が挙げられる。
ひび割れ低減剤としては、例えば、ポリオキシアルキルエーテル等が挙げられる。
無機粒子用添加剤の固形分中における追加成分の含有割合は、好ましくは0質量%〜50質量%であり、より好ましくは0質量%〜10質量%であり、さらに好ましくは0質量%〜1質量%であり、特に好ましくは0質量%〜0.1質量%である。
無機粒子用添加剤における追加成分の種類、組み合わせ、配合量等は目的に応じて適切に設定され得る。
《セメント組成物》
本発明の他の形態によれば、上述した形態に係る無機粒子用添加剤の一実施形態であるセメント用添加剤(ポリカルボン酸系共重合体および必要に応じて消泡剤を含む)と、セメントとを含むセメント組成物が提供される。セメント組成物は、実用的には、水および骨材をさらに含む。セメント組成物は、必要に応じて上述した追加成分をさらに含んでいてもよい。また、セメント組成物は、上述した各成分をセメント用添加剤として含んでいてもよい。
セメント組成物中のセメント用添加剤の含有量は、セメントに対して、固形分で、好ましくは0.001質量%〜10質量%であり、より好ましくは0.005質量%〜5質量%であり、さらに好ましくは0.01質量%〜3質量%であり、特に好ましくは0.05質量%〜2質量%であり、最も好ましくは0.1質量%〜1質量%である。本発明の実施形態によるセメント用添加剤は、上記のように、セメント組成物とした場合に所望の流動性を達成するための使用量を低減できるという効果を発現できる。
セメント組成物中のポリカルボン酸系共重合体の含有量は、セメントに対して、固形分で、好ましくは0.02質量%〜5質量%であり、より好ましくは0.05質量%〜1質量%であり、さらに好ましくは0.1質量%〜0.5質量%であり、特に好ましくは0.13質量%〜0.2質量%である。
セメント組成物中の消泡剤の含有量は、セメントに対して、固形分で、好ましくは0.00001質量%〜1質量%であり、より好ましくは0.00002質量%〜0.1質量%であり、さらに好ましくは0.00005質量%〜0.01質量%であり、特に好ましくは0.0001質量%〜0.008質量%である。
骨材としては、細骨材(砂等)や粗骨材(砕石等)などの任意の適切な骨材を採用し得る。このような骨材としては、例えば、砂利、砕石、水砕スラグ、再生骨材が挙げられる。また、このような骨材として、珪石質、粘土質、ジルコン質、ハイアルミナ質、炭化珪素質、黒鉛質、クロム質、クロマグ質、マグネシア質等の耐火骨材も挙げられる。
セメント組成物に含まれるセメントとしては、任意の適切なセメントを採用し得る。このようなセメントとしては、例えば、ポルトランドセメント(普通、早強、超早強、中庸熱、耐硫酸塩およびそれぞれの低アルカリ形)、各種混合セメント(高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント)、白色ポルトランドセメント、アルミナセメント、超速硬セメント(1クリンカー速硬性セメント、2クリンカー速硬性セメント、リン酸マグネシウムセメント)、グラウト用セメント、油井セメント、低発熱セメント(低発熱型高炉セメント、フライアッシュ混合低発熱型高炉セメント、ビーライト高含有セメント)、超高強度セメント、セメント系固化材、エコセメント(都市ごみ焼却灰、下水汚泥焼却灰の一種以上を原料として製造されたセメント)などが挙げられる。さらに、セメント組成物には、高炉スラグ、フライアッシュ、シンダーアッシュ、クリンカーアッシュ、ハスクアッシュ、シリカ粉末、石灰石粉末等の微粉体や石膏、膨張材(例えば、エトリンガイト系、石炭系)が添加されていてもよい。セメント組成物に含まれるセメントは、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
セメント組成物においては、その1mあたりの単位水量、セメント使用量、および水/セメント比としては任意の適切な値を設定し得る。このような値としては、好ましくは、単位水量が100kg/m〜185kg/mであり、使用セメント量が250kg/m〜800kg/mであり、水/セメント比(質量比)=0.1〜0.7であり、より好ましくは、単位水量が120kg/m〜175kg/mであり、使用セメント量が270kg/m〜800kg/mであり、水/セメント比(質量比)=0.12〜0.65である。このように、セメント組成物は、貧配合〜富配合まで幅広く使用可能であり、単位セメント量の多い高強度コンクリート、単位セメント量が300kg/m以下の貧配合コンクリートのいずれにも有効である。
セメント組成物は、レディーミクストコンクリート、コンクリート2次製品用のコンクリート、遠心成形用コンクリート、振動締め固め用コンクリート、蒸気養生コンクリート、吹付けコンクリート等に有効であり得る。本発明のセメント組成物は、中流動コンクリート(スランプ値が22〜25cmのコンクリート)、高流動コンクリート(スランプ値が25cm以上で、スランプフロー値が50〜70cmのコンクリート)、自己充填性コンクリート、セルフレベリング材等の高い流動性を要求されるモルタルやコンクリートにも有効であり得る。
セメント組成物は、構成成分を任意の適切な方法で配合して調製すればよい。例えば、構成成分をミキサー中で混練する方法などが挙げられる。
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例には限定されない。なお、特に明記しない限り、「部」とある場合は「質量部」を意味し、「%」とある場合は「質量%」を意味する。
<重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)の測定条件>
重量平均分子量および分子量分布は下記の測定条件で測定した。
装置:Waters Alliance(2695)
解析ソフト:Waters社製、Empowerプロフェッショナル+GPCオプション
使用カラム:東ソー社製、TSKgelガードカラム(内径6.0mm×40mm)+TSKgel G4000SWXL(内径7.8mm×300mm)+G3000SWXL(内径7.8mm×300mm)+G2000SWXL(内径7.8mm×300mm)
検出器:示差屈折率計(RI)検出器(Waters 2414)、フォトダイオードアレイ(PDA)検出器(Waters 2996)
溶離液:水10999g、アセトニトリル6001gの混合溶媒に酢酸ナトリウム三水和物115.6gを溶解し、さらに酢酸でpH6.0に調整したもの
GPC標準サンプル:GLサイエンス製のポリエチレングリコール(ピークトップ分子量(Mp)272500、219300、107000、50000、24000、11840、6450、4250、1470)
検量線:上記ポリエチレングリコールのMp値を用いて3次式で作成した。
流量:1.0mL/分
カラム温度:40℃
測定温度:40℃
測定時間:45分
試料液注入量:100μL(試料濃度0.5質量%の溶離液溶液)
標準サンプル注入量:100μL(濃度0.1質量%の溶離液溶液)
解析法:得られたRIクロマトグラム(GPCチャート)において、図1の例に示すように、ポリマー溶出直前・溶出直後のベースラインにおいて平らに安定している部分を直線(図1の例における直線L)で結び、ポリマーを検出・解析した。ただし、モノマーピークがポリマーピークに重なって測定された場合(図1の例においてMがモノマーピーク)、モノマーとポリマーの重なり部分の最凹部において垂直分割して(図1の例における直線a、b)ポリマー部とモノマー部(図1の例における斜線部)を分離し、ポリマー部のみの分子量・分子量分布を測定した。ダイマー以上のオリゴマーが検出された場合はポリマー部に含めた。
<構造単位の組成の分析方法>
下記の表1において、「構造単位の組成比(質量比(I)/(II))」とは、LC(液体クロマトグラフィー)によって、共重合体を製造するために反応容器に仕込んだ単量体の、重合反応における消費率を分析し、消費された単量体が全て重合反応によって共重合体に転化するものとして計算される構造単位の組成比(質量比)である。なお、上記LC(液体クロマトグラフィー)の分析条件、分析法は下記の通りである。
(LC分析条件)
機種:Waters Alliance(2695)
解析ソフト:Waters社製、Empower2プロフェッショナル
使用カラム:Waters社製、Atlantis dC18ガードカラム+Atlantis dC18、4.6×250mm、2本
検出器:示差屈折率計(RI)検出器(Waters 2414)、多波長可視紫外(PDA)検出器(Waters 2996)
溶離液:水9000g、アセトニトリル6000gの混合溶媒に酢酸ナトリウム三水和物3.75g、酢酸52.2gを溶解させたもの
流量:1mL/分
カラム温度:40℃。
(LC分析法)
各単量体の検量線を作成し、重合後のポリマー溶液の各単量体の残存量から消費量を決定した。
<ポリカルボン酸系共重合体の末端構造の定性分析>
ポリカルボン酸系共重合体が、上述した一般式(3)で表される構造(トリチオカルボネート構造)を有することの定性分析を、UVスペクトルを比較することで行った。その分析方法は下記の通りである。
(UVスペクトルの分析方法)
分析には、連鎖移動剤としてS,S−ジベンジルトリチオ炭酸またはメルカプトプロピオン酸をそれぞれ用いて重合して得られた後述の合成例1の共重合体(1)および比較合成例3の共重合体(C3)を用いた。これらの共重合体のUVスペクトルは、共重合体を前述の<重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)の測定条件>に記載の方法で分析し、得られたRIチャート上で観測されるポリマー部の溶出時間(図1に示すL)を確認し、その溶出時間におけるPDAチャートの吸収スペクトルを切り出すことで得た。また、S,S−ジベンジルトリチオ炭酸のUVスペクトルは、当該化合物を前述の<LC分析条件>に記載の方法で分析し、得られたPDAチャートから、当該化合物の溶出時間における吸収スペクトルを切り出すことで得た(図示せず)。なお、S,S−ジベンジルトリチオ炭酸のUVスペクトルは、310nmに極大ピークを示した。
<モルタル試験>
試験に使用した材料およびモルタルの配合は、太平洋普通ポルトランドセメント900g、強さ試験用ISO標準砂1350g、ならびに各共重合体1.08g(上記セメントに対して0.12質量%)と消泡剤0.108g(上記共重合体に対して10質量%)(MA404;BASFジャパン株式会社製、有姿濃度10質量%)とを含むイオン交換水(全量で270g)である。消泡剤の添加量は、各共重合体の固形分添加量に対して固形分で1質量%であった。室温20℃、相対湿度55%の下、下記の混練方法でホバートミキサーにより4分間機械練りしてモルタルを調製し、上部内径70mm、下部内径:100mm、高さ60mmの金属製のフローコーンに得られたモルタルを詰めた。次に、注水から5.5分後にフローコーンを垂直に持ち上げた後、テーブルに広がったモルタルの直径を直交する2方向について測定し、この平均をモルタルフロー値とした。
(混練方法)
各バッチのモルタルの練混ぜは練混ぜ機(ホバート・ジャパン株式会社、ミキサーN50)を使用する。練混ぜ機の操作は,次のように行う。練り鉢にセメントを加え、各重合体と消泡剤とを含む水を加える。次に練混ぜ機をすぐに低速で始動させ、30秒後に、次の30秒間で砂を加える。練混ぜ機を高速にし、その後30秒練り混ぜる。練混ぜ機を90秒間休止する。休止の最初の15秒間に、練り鉢に付着したモルタルをかき落とす。高速で60秒間練混ぜを続ける。
〔合成例1〕
温度計、攪拌機、滴下ロート、還流冷却器を備えたガラス製反応容器に、イオン交換水240部、3−メチル−3−ブテン−1−オールにエチレンオキサイドを50モル付加した不飽和アルコール136部、アクリル酸22.9部、重合開始剤として2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(富士フィルム和光純薬株式会社製の商品名「V−50」)0.183部、連鎖移動剤としてS,S−ジベンジルトリチオ炭酸0.783部を仕込み、300rpmで攪拌下、反応容器内を500mL/分で30分間窒素置換した後、70℃に昇温した。その後、3時間引き続いて、70℃に温度を維持して重合反応を完結させ、重量平均分子量(Mw)20300の共重合体(1)水溶液からなるセメント用添加剤(1)を得た。得られた共重合体(1)の物性を下記の表1に示す。また、モルタル試験の結果を下記の表2に示す。なお、本合成例において連鎖移動剤として用いられたS,S−ジベンジルトリチオ炭酸(下記の表1では「Ci」と記載)は、下記の化学構造を有している。
〔合成例2〕
温度計、攪拌機、滴下ロート、還流冷却器を備えたガラス製反応容器に、イオン交換水240部、3−メチル−3−ブテン−1−オールにエチレンオキサイドを50モル付加した不飽和アルコール140部、アクリル酸19.0部、重合開始剤として2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(富士フィルム和光純薬株式会社製の商品名「V−50」)0.110部、連鎖移動剤としてS,S−ジベンジルトリチオ炭酸0.472部を仕込み、300rpmで攪拌下、反応容器内を500mL/分で30分間窒素置換した後、70℃に昇温した。その後、3時間引き続いて、70℃に温度を維持して重合反応を完結させ、重量平均分子量(Mw)36100の共重合体(2)水溶液からなるセメント用添加剤(2)を得た。得られた共重合体(2)の物性を下記の表1に示す。また、モルタル試験の結果を下記の表2に示す。
〔合成例3〕
温度計、攪拌機、滴下ロート、還流冷却器を備えたガラス製反応容器に、イオン交換水240部、3−メチル−3−ブテン−1−オールにエチレンオキサイドを50モル付加した不飽和アルコール136部、アクリル酸22.9部、重合開始剤として2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(富士フィルム和光純薬株式会社製の商品名「V−50」)0.183部、連鎖移動剤として2,2’−(カルボノチオイルジスルファンジイル)ビス(メチルプロパン酸)0.836部を仕込み、300rpmで攪拌下、反応装置内を500mL/分で30分間窒素置換した後、70℃に昇温した。その後、3時間引き続いて、70℃に温度を維持して重合反応を完結させ、重量平均分子量(Mw)19400の共重合体(3)の水溶液からなるセメント用添加剤(3)を得た。得られた共重合体(3)の物性を表1に示す。また、モルタル試験の結果を表2に示す。なお、本合成例において連鎖移動剤として用いられた2,2’−(カルボノチオイルジスルファンジイル)ビス(メチルプロパン酸)(下記の表1では「Cii」と記載)は、下記の化学構造を有している。
〔合成例4〕
温度計、攪拌機、滴下ロート、還流冷却器を備えたガラス製反応容器に、イオン交換水240部、3−メチル−3−ブテン−1−オールにエチレンオキサイドを50モル付加した不飽和アルコール140部、アクリル酸19.0部、重合開始剤として2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(富士フィルム和光純薬株式会社製の商品名「V−50」)0.110部、連鎖移動剤として2,2’−(カルボノチオイルジスルファンジイル)ビス(メチルプロパン酸)0.504部を仕込み、300rpmで攪拌下、反応装置内を500mL/分で30分間窒素置換した後、70℃に昇温した。その後、3時間引き続いて、70℃に温度を維持して重合反応を完結させ、重量平均分子量(Mw)27200の共重合体(4)の水溶液からなるセメント用添加剤(4)を得た。得られた共重合体(4)の物性を表1に示す。また、モルタル試験の結果を表2に示す。
〔比較合成例1〕
温度計、攪拌機、滴下ロート、還流冷却器を備えたガラス製反応容器に、イオン交換水240部、3−メチル−3−ブテン−1−オールにエチレンオキサイドを50モル付加した不飽和アルコール136部、アクリル酸22.9部、重合開始剤として2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(富士フィルム和光純薬株式会社製の商品名「V−50」)0.183部、連鎖移動剤として2−{[(2−カルボキシエチル)スルファニルチオカルボニル]スルファニル}プロパン酸0.686部を仕込み、300rpmで攪拌下、反応容器内を500mL/分で30分間窒素置換した後、70℃に昇温した。その後、3時間引き続いて、70℃に温度を維持して重合反応を完結させ、重量平均分子量(Mw)25500の共重合体(C1)水溶液からなるセメント用添加剤(C1)を得た。得られた共重合体(C1)の物性を下記の表1に示す。また、モルタル試験の結果を下記の表2に示す。なお、本比較合成例において連鎖移動剤として用いられた2−{[(2−カルボキシエチル)スルファニルチオカルボニル]スルファニル}プロパン酸(下記の表1では「Ciii」と記載)は、下記の化学構造を有している。
〔比較合成例2〕
温度計、攪拌機、滴下ロート、還流冷却器を備えたガラス製反応容器に、イオン交換水240部、3−メチル−3−ブテン−1−オールにエチレンオキサイドを50モル付加した不飽和アルコール140部、アクリル酸19.0部、重合開始剤として2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(富士フィルム和光純薬株式会社製の商品名「V−50」)0.110部、連鎖移動剤として2−{[(2−カルボキシエチル)スルファニルチオカルボニル]スルファニル}プロパン酸0.413部を仕込み、300rpmで攪拌下、反応容器内を500mL/分で30分間窒素置換した後、70℃に昇温した。その後、3時間引き続いて、70℃に温度を維持して重合反応を完結させ、重量平均分子量(Mw)33200の共重合体(C2)水溶液からなるセメント用添加剤(C2)を得た。得られた共重合体(C2)の物性を下記の表1に示す。また、モルタル試験の結果を下記の表2に示す。
〔比較合成例3〕
温度計、攪拌機、滴下ロート、還流冷却器を備えたガラス製反応容器に、イオン交換水87.8部、3−メチル−3−ブテン−1−オールにエチレンオキサイドを50モル付加した不飽和アルコール186部、アクリル酸0.335部を仕込み、300rpmで攪拌下、反応容器内を500mL/分で窒素置換しながら60℃に昇温した後、そこへ重合開始剤である過酸化水素2.00%水溶液17.49部を添加し、アクリル酸30.9部をイオン交換水18.3部に溶解させた液を3時間、連鎖移動剤である3−メルカプトプロピオン酸1.04部と還元剤であるL−アスコルビン酸1.91部をイオン交換水58.1部に溶解させた水溶液を3.5時間かけて滴下した。滴下終了後、1時間引き続いて、60℃に温度を維持して重合反応を完結させ、重量平均分子量(Mw)30300の共重合体(C3)水溶液からなるセメント用添加剤(C3)を得た。得られた共重合体(C3)の物性を下記の表1に示す。また、モルタル試験の結果を下記の表2に示す。なお、本比較合成例において連鎖移動剤として用いられた3−メルカプトプロピオン酸(下記の表1では「Civ」と記載)は、下記の化学構造を有している。
〔比較合成例4〕
温度計、攪拌機、滴下ロート、還流冷却器を備えたガラス製反応容器に、イオン交換水42.6部、3−メチル−3−ブテン−1−オールにエチレンオキサイドを50モル付加した不飽和アルコール191部、アクリル酸0.345部を仕込み、300rpmで攪拌下、反応容器内を500mL/分で窒素置換しながら60℃に昇温した後、そこへ重合開始剤である過酸化水素2.00%水溶液15.0部を添加し、アクリル酸25.5部をイオン交換水37.9部に溶解させた液を3時間、連鎖移動剤である3−メルカプトプロピオン酸0.610部、還元剤であるL−アスコルビン酸0.389部をイオン交換水38.9部に溶解させた水溶液を3.5時間かけて滴下した。滴下終了後、1時間引き続いて、60℃に温度を維持して重合反応を完結させ、重量平均分子量(Mw)40300の共重合体(C4)水溶液からなるセメント用添加剤(C4)を得た。得られた共重合体(C4)の物性を下記の表1に示す。また、モルタル試験の結果を下記の表2に示す。
図2に、UVスペクトルの測定結果を示す。両者の共重合体を比較するために、共重合体のUV吸収量は濃度に比例して増大することから、同様に濃度に比例するRIの信号強度で割って規格化したUV/RI比率を縦軸としている。化学式(3)で表される構造を有する共重合体においては、290nmから350nm付近におけるUV吸収の強度が大きくなっていることがわかる。上述したように、S,S−ジベンジルトリチオ炭酸のUVスペクトルは、310nmに極大ピークを示したことから、図2に示すUVスペクトルによれば、共重合体(1)がS,S−ジベンジルトリチオ炭酸に由来する化学式(3)で表される構造を有していることが確認された。この結果から推測されるポリマー主鎖の構造を下記の表1に示す。
表2において、同じモノマー組成比、すなわち実施例1、3と比較例1との対比、および実施例2、4と比較例2との対比から明らかなように、本発明の無機粒子用添加剤は、比較例の無機粒子用添加剤に比べてフロー値が顕著に高く、同一フロー値を達成するための使用量を低減できることの工業的な意義は非常に大きい。また、リビング重合を起こさない連鎖移動剤を用いた比較例3および比較例4では著しくフロー値が低下する。
本発明に係るポリカルボン酸系共重合体を含む無機粒子用添加剤、代表的にはセメント用添加剤は、セメントペースト、モルタル、コンクリート等のセメント組成物に好適に用いられる。

Claims (11)

  1. 下記一般式(1):
    一般式(1)中、RおよびRは、同一または異なって、水素原子またはメチル基を表し、Rは、水素原子または炭素原子数1〜30の炭化水素基を表し、AOは、炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基を表し、nは、AOで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、nは1〜500の数であり、xは0〜2の整数である、
    で表される不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(a)由来の構造単位(I)と、
    下記一般式(2):
    一般式(2)中、R〜Rは、同一または異なって、水素原子、メチル基、または−(CHCOOM基を表し、−(CHCOOM基は−COOX基または他の−(CHCOOM基と無水物を形成していても良く、zは0〜2の整数であり、Mは、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム基、有機アンモニウム基、または有機アミン基を表し、Xは、水素原子、メチル基、エチル基、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム基、有機アンモニウム基、または有機アミン基を表す、
    で表される不飽和カルボン酸系単量体(b)由来の構造単位(II)と、を有するポリカルボン酸系共重合体であって、
    下記一般式(3):
    一般式(3)中、QおよびQは、同一または異なって、前記構造単位(I)および前記構造単位(II)の少なくとも一方を含む有機残基を表す、
    で表される構造を有することを特徴とする、ポリカルボン酸系共重合体。
  2. ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で得られたポリエチレングリコール換算の重量平均分子量(Mw)が500〜100000の範囲であり、分散度(Mw/Mn)が1.0〜1.8である、請求項1に記載のポリカルボン酸系共重合体。
  3. 前記一般式(1)中のRがメチル基である、請求項1または2に記載のポリカルボン酸系共重合体。
  4. 前記ポリカルボン酸系共重合体の全量に対し、前記構造単位(I)および前記構造単位(II)の合計の含有割合が、90〜100質量%である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリカルボン酸系共重合体。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載のポリカルボン酸系共重合体を含む、無機粒子用添加剤。
  6. 請求項1〜4のいずれかに記載のポリカルボン酸系共重合体を含む、セメント組成物。
  7. 下記一般式(1):
    一般式(1)中、RおよびRは、同一または異なって、水素原子またはメチル基を表し、Rは、水素原子または炭素原子数1〜30の炭化水素基を表し、AOは、炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基を表し、nは、AOで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、nは1〜500の整数であり、xは0〜2の整数である、
    で表される不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(a)と、
    下記一般式(2):
    一般式(2)中、R〜Rは、同一または異なって、水素原子、メチル基、または−(CHCOOM基を表し、−(CHCOOM基は−COOX基または他の−(CHCOOM基と無水物を形成していても良く、zは0〜2の整数であり、Mは、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム基、有機アンモニウム基、または有機アミン基を表し、Xは、水素原子、メチル基、エチル基、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム基、有機アンモニウム基、または有機アミン基を表す、
    で表される不飽和カルボン酸系単量体(b)と、
    を必須に含有する単量体成分を重合する重合工程を含む、ポリカルボン酸系共重合体の製造方法であって、
    下記一般式(4):
    一般式(4)中、Zは有機残基を表し、Zは互いに同一である、
    で表されるトリチオカルボネート型化合物の存在下で前記重合工程を行うことを特徴とする、ポリカルボン酸系共重合体の製造方法。
  8. 前記トリチオカルボネート型化合物が、下記一般式(5):
    一般式(5)中、Z〜Zは、同一または異なって、水素原子、または水素原子を除く原子もしくは原子団を表す、
    で表される構造を有する、請求項7に記載のポリカルボン酸系共重合体の製造方法。
  9. 前記一般式(5)におけるZ〜Zは、同一または異なって、水素原子、置換または非置換の直鎖状、分岐状または環状の炭素原子数1〜20のアルキル基、置換または非置換の炭素原子数6〜20のアリール基または−COOM基(Mは、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム基、有機アンモニウム基、または有機アミン基を表す)である、請求項8に記載のポリカルボン酸系共重合体の製造方法。
  10. 前記一般式(5)におけるZおよびZが、同一または異なって、水素原子または置換または非置換の直鎖状、分岐状または環状の炭素原子数1〜20のアルキル基であり、Zが置換または非置換のフェニル基である、請求項8または9に記載のポリカルボン酸系共重合体の製造方法。
  11. 前記一般式(5)におけるZおよびZがメチル基であり、Zが−COOM基(Mは、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム基、有機アンモニウム基、または有機アミン基を表す)である、請求項8または9に記載のポリカルボン酸系共重合体の製造方法。
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