JP2019205402A - 新規プロモーター、および同プロモーターを用いたタンパク質の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】新規プロモーターの提供。【解決手段】本発明は、以下の(a)〜(d)のいずれか一つのDNA:(a)配列表の配列番号1又は2で示される塩基配列からなるDNA;(b)配列表の配列番号1又は2で示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーションすることができ、プロモーター活性を有するDNA;(c)配列表の配列番号1又は2で示される塩基配列において1または数個の塩基が欠失、置換、もしくは付加された塩基配列からなり、プロモーター活性を有するDNA;(d)配列表の配列番号1又は2と少なくとも80%以上の配列同一性を有する塩基配列からなり、プロモーター活性を有するDNA、を提供する。【選択図】図3

Description

本発明はバークホルデリア(Burkholderia)属細菌より単離したプロモーター、さらに好ましくは、誘導基質を必要としない構成型プロモーター、それらのプロモーターを含む組換えDNAベクター、該ベクターにより形質転換させた宿主細胞に標的のタンパク質を産生させる方法に関する。
バークホルデリア属細菌を宿主とした宿主ベクター系の開発が行われており(特許文献1を参照)、外来タンパク質を発現させるための発現ベクターに使用されるプロモーターとしてはアラビノース或いはラムノーズにより誘導される誘導型プロモーター(非特許文献1及び2を参照)などが知られている。一方、遺伝子を恒常的に発現させる構成型プロモーターとしては、例えばリボソームタンパク質遺伝子から取得したプロモーター(非特許文献1を参照)や誘導型プロモーターを構成型に改変したプロモーター(特許文献2を参照)などが知られており、誘導型と組み合わせて利用することにより複雑な発現制御が可能となる。しかしながら、それらのプロモーター活性は誘導型プロモーターと比較して低く、タンパク質の発現量としても低い場合がある。実際、誘導型プロモーターを改変することで得られた構成型プロモーターを利用した発現系でも、誘導型プロモーターに対してタンパク質の発現量が約半分程度であることが確認されている(特許文献3及び非特許文献3を参照)。
バークホルデリア属細菌を物質の生産や分解のための触媒反応の系として利用する場合、単に触媒酵素を過剰発現させるだけでは高効率な活性を宿主細胞に付与できない場合がある。特に、代謝系酵素のように触媒反応物によるフィードバック阻害を受けることがある場合、該触媒に関与する遺伝子の発現量の高低を制御する必要がある。発現量を一定の水準となるよう長時間制御するには、誘導型プロモーターの利用は容易ではなく発現量が一定である構成型プロモーターを使う方が望ましい。構成型プロモーターを利用した遺伝子発現量の制御には、トランスポゾンを利用した染色体DNAへの遺伝子挿入技術(非特許文献4を参照)を利用し、目的とする遺伝子の発現カセットをゲノムに挿入し(非特許文献5を参照)、さらにはそのコピー数をコントロールすることで達成することが可能である(非特許文献6を参照)。
上記リボソームタンパク質遺伝子由来の構成型プロモーターとは異なる活性を示す構成型プロモーターが取得できれば、ゲノム挿入型発現カセットへの応用のみならず、細胞内コピー数が同等の複数種の発現ベクターに転写活性の異なる構成型プロモーター支配下に発現標的遺伝子を発現することで発現量を調整することが可能となり、遺伝子の発現量をより多様に制御できる。
特許第6099627号公報 特許第5641297号公報 特許第3944577号公報
Lefebrel and Valvano, Appl. Environ. Microbiol., 68(12), 5956−5954(2002) Cardona and Valvano, Plasmid, 54(3):219−228(2005) Nakashima and Tamura, Biotechnol. Bioeng., 86:136−148(2004) Sallam et al., J. Biotechol., 121(1), 13−22(2006) Sallam et al., Gene, 386(1−2), 173−182(2007) Sallam et al., Appl. Environ. Microbiol., 76(8), 2531−3539(2010)
本発明の課題は、バークホルデリア属細菌において発現ベクターやゲノム挿入型発現カセットを利用するにあたって、多様な発現制御ができるように、新たなプロモーターを提供することである。また本発明の別の課題としては、新たな構成型プロモーターを提供することである。さらにまた、これらのプロモーターの活性を利用した遺伝子発現系および、標的のタンパク質を製造する方法を提供することである。
本発明者らは、新たに取得した配列番号1および配列番号2で表される配列が、その下流に配置した発現標的タンパク質を高レベルに発現させていることから、プロモーター活性を有する有用なプロモーターであることを確認した。またさらにそれが発現誘導剤非添加でも発現標的タンパク質を高レベルに発現させていることから、さらに好ましい性質を持つ構成型プロモーター活性を有する構成型プロモーターであることを見出した。
即ち、本願は以下の発明を包含する。
[1] 以下の(a)〜(d)の何れかのプロモーター活性をもつことを特徴とするDNA:
(a)配列表の配列番号1又は2で示される塩基配列からなるDNA;
(b)配列表の配列番号1又は2で示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーションすることができるDNA;
(c)配列表の配列番号1又は2で示される塩基配列から1または数個の塩基が欠失、置換、もしくは付加された塩基配列からなるDNA;
(d)配列表の配列番号1又は2と少なくとも80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より更に好ましくは98%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるDNA。
[2] 構成型のプロモーター、好ましくはバークホルデリア属細菌宿主の形質転換用の構成型プロモーターである、[1]に記載のDNA。
[3] シグナル配列を含んでも良いタンパク質をコードする遺伝子が下流、好ましくは30塩基又はそれ未満の下流に配置される、[1]又は[2]に記載のDNA。
[4] タンパク質をコードする遺伝子が、酵素、好ましくはエステラーゼ(より好ましくはコレステロールエステラーゼ、又はリパーゼ)、又はペルオキシダーゼ(より好ましくは配列番号3のアルキルヒドロペルオキシドレダクターゼ)である、[3]に記載のDNA。
[5] 前記遺伝子がバークホルデリア属細菌由来の酵素をコードする遺伝子である、[4]に記載のDNA。
[6] バークホルデリア属細菌のアルキルヒドロペルオキシドレダクターゼをコードする遺伝子と少なくとも80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より更に好ましくは98%以上の配列同一性を有する塩基配列からなる遺伝子の開始コドンより上流にある非翻訳領域の一部からなる、[5]に記載のDNA。
[7] バークホルデリア属細菌のアルキルヒドロペルオキシドレダクターゼが配列番号3で示されるアミノ酸配列からなる、[6]に記載のDNA。
[8] ターミネーター配列が下流に配置される、[1]〜[7]のいずれかに記載のDNA。
[9] ターミネーター配列が配列番号17、18又は19で示される塩基配列からなる、[8]に記載のDNA。
[10] 第二のターミネーター配列が上流に配置される、[9]に記載のDNA。
[11] 下流に配置されるターミネーター配列と、上流に配置される第二のターミネーター配列とが互いに異なる、[10]に記載のDNA。
[12] 下流に配置されるターミネーター配列と、上流に配置される第二のターミネーター配列とが、配列番号17又は配列番号18で示される塩基配列からなる、[11]に記載のDNA。
[13] タンパク質をコードする遺伝子の下流に、当該タンパク質の発現に必要なシャペロンをコードする遺伝子が配置される、[6]〜[12]のいずれかに記載のDNA。
[14] シャペロンがターミネーター配列の前に配置される、[13]に記載のDNA。
[15] シャペロンがシグナル配列を含む、[13]又は[14]に記載のDNA。
[16] シグナル配列を含むシャペロンが配列番号15で示される塩基配列からなる、[15]に記載のDNA。
[17] [1]〜[16]に記載のDNAを含む発現ベクター。
[18] [1]〜[16]に記載のDNAを挿入した挿入配列(Insertion sequence)又はトランスポゾンを含む発現ベクター。
[19] [1]〜[16]に記載のDNAの下流に発現標的遺伝子を配置させた、遺伝子発現カセット。
[20] [1]〜[16]に記載のDNA、[17]又は[18]に記載の発現ベクター、あるいは[19]に記載の発現カセットを含む形質転換体。
[21] [1]〜[16]に記載のDNA、[17]又は[18]に記載の発現ベクター、あるいは[19]に記載の発現カセットを宿主に移入して調製された形質転換体。
[22] 宿主がバークホルデリア属に分類される微生物である、[21]に記載の形質転換体。
[23] [1]〜[16]に記載のDNAの下流にアンチセンスRNAとして転写されるDNAが配置される、[20]〜[22]のいずれかに記載の形質転換体。
[24] [20]〜[22]のいずれかに記載の形質転換体を培養する工程を含む、発現標的遺伝子がコードするタンパク質を生産する方法。
[25] 発現標的遺伝子がエステラーゼをコードする、[24]に記載の方法。
[26][23]に記載の形質転換体を用いて宿主細胞における遺伝子発現を抑制する方法。
本発明により新規のプロモーターが提供される。特に、本発明の構成型プロモーターを使用することで、タンパク質の恒常的な高生産が期待できる他、異なる転写活性を持つプロモーターと組み合わせることで生体触媒を使用した高効率な物質変換システムを構築出来ると期待される。
構成型プロモーターと予想された配列の活性を確かめるための発現ベクターを示す図である。T1(Terminator1)、T2(Terminator2)はターミネーターを示し、T1は配列番号27、T2は配列番号26をそれぞれ表す。 構成型プロモーターの下流にコレステロールエステラーゼとそのシャペロンをコードする遺伝子を導入した発現ベクターを示す図である。なお、T1、T2は上述の通りである。 コレステロールエステラーゼ発現ベクターを形質転換したバークホルデリア・スタビリス(Burkholderia stabilis)が示すコレステロールエステラーゼ活性を示す図である。 コレステロールエステラーゼ発現ベクターを形質転換したバークホルデリア・スタビリスにより生産されたコレステロールエステラーゼを示す図である。 異なる培地で培養した際のコレステロールエステラーゼ活性を示す図である。 バークホルデリア・スタビリス野生株のコレステロールエステラーゼが誘導発現であることを示す図である。 各プロモーターの下流にバークホルデリア・プランタリイ(Burkholderia plantarii)のリパーゼ遺伝子を配置した場合のリパーゼ活性を示す図である。 バークホルデリア・マルティボランス(Burkholderia multivorans)で各プロモーターにより生産されたコレステロールエステラーゼ活性を示す図である。
以下、本発明を実施例等に基づいて説明するが、本発明の範囲は以下の実施例等に限定して解釈されない。遺伝子操作技術は、例えばマニアティスらの方法(Maniatis,T.,et al.Molecular Cloning.Cold Spring Harbor Laboratory 1982年、1989年)、基礎から学ぶ遺伝子工学(第2版、田村隆明、2017年、羊土社)、遺伝子工学(野島博、2013年、東京化学同人)、蛋白質・酵素の基礎実験法(改訂第2版、堀尾武一、1994年南光堂)、WO2013065772A1、又は、市販の各種酵素、キット類に添付された手順書等に従えば実施できるものである。また、プロモーター配列と挿入遺伝子の開始コドンまでの間には、適切な間隔をあけて(通常開始コドンの数塩基上流)、リボソーム結合部位であるRBS(ribosome−binding site)が存在しても良い。これにより、RBSをコンセンサス配列にして翻訳開始を促進させることもできる。
第一の実施形態において、本発明は、以下の(a)〜(d)のいずれか一つのDNA:
(a)配列表の配列番号1又は2で示される塩基配列からなるDNA;
(b)配列表の配列番号1又は2で示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーションすることができ、プロモーター活性を有するDNA;
(c)配列表の配列番号1又は2で示される塩基配列において1または数個の塩基が欠失、置換、もしくは付加された塩基配列からなり、プロモーター活性を有するDNA;
(d)配列表の配列番号1又は2と少なくとも80%以上の配列同一性を有する塩基配列からなり、プロモーター活性を有するDNA、
を提供する。
本発明のDNAは、プロモーター活性を有する限り、配列表の配列番号1又は2で示される塩基配列と実質的に同一の塩基配列からなっても良い。本明細書においては、配列番号1及び2に対応するプロモーターを区別のためにそれぞれプロモーター1及びプロモーター2ともいう。本発明の「プロモーター活性」により、プロモーターの下流に位置する遺伝子がmRNAへと転写される。
本発明においてプロモーター活性としては、タンパク質の発現が認められるか否かで判断することが好ましい。すなわち、適当なレポーター遺伝子を用いることにより確認することが好ましい。例えば、プロモーター配列の下流にレポーター遺伝子を作動可能に連結したDNAを細胞内へ導入し、発現したタンパク質の量を免疫学的手法や生化学的手法により定量することができる。レポーター遺伝子としては、β−ガラクトシダーゼ(lacZ)遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、β−ラクタマーゼ遺伝子、GFP(Green Fluorescent Protein)遺伝子等の蛍光タンパク質遺伝子、コレステロールエステラーゼ遺伝子等を用いることができる。
さらに具体的には、本件実施例に示す通り、プロモーター候補(変異させた配列)の下流に直結させてコレステロールエステラーゼ遺伝子を繋げ、その下流にシャペロン、およびターミネーター配列をおいたDNAを、バークホルデリア・スタビリスに移入して得た形質転換体で、実際にコレステロールエステラーゼの発現量が、プロモーター候補(変異させた配列)を欠落させたDNAの移入された形質転換体に比較して増加することを確認することにより、プロモーター活性が増大したと判断できる。プロモーター活性は、発現誘導剤非添加でも発現標的タンパク質を高レベルに発現させることができる構成型プロモーター活性が好ましい。構成型プロモーター活性の有無は、上述の形質転換体を例に説明すると、当該形質転換体を培養した場合に、誘導物質を除いた培地でも、該当のプロモーターが発現標的タンパク質を実質的なレベルとして生産できるか否かで判断すればよい。本発明の配列番号1又は2で示される塩基配列が有するプロモーター活性は構成型プロモーター活性である点で好ましい。
本発明のプロモーターは、宿主を培養する培地等の種類やその他の条件によって活性が異なる。コレステロールエステラーゼを産生する場合を例に説明すると、例えば、YS(酵母エキス、ソルビトール)培地では配列2のプロモーターの方が配列1よりも生産量が多いことがあり、LB(Lysogeny Broth)培地とNB(Nutrient Broth)培地においては、配列1のプロモーターの方が配列2よりも生産量が多いことがある。
本発明のDNAは、プロモーターによる発現の標的となるタンパク質(以下、「発現標的タンパク質」という)をコードする遺伝子(以下、「発現標的遺伝子」という)の上流に配置することで、発現標的タンパク質を発現させることができればその由来は限定されない。発現標的タンパク質は、本発明のプロモーターにより発現可能なタンパク質であれば特に限定されない。このようなタンパク質として酵素があり、例えば、エステラーゼ、リパーゼ、アミラーゼ、グルコアミラーゼ、α−ガラクトシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、α−グルコシダーゼ、β−グルコシダーゼ、マンノシダーゼ、イソメラーゼ、インベルターゼ、トランスフェラーゼ、リボヌクレアーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、キチナーゼ、カタラーゼ、ラッカーゼ、フェノールオキシダーゼ、オキシダーゼ、オキシドレダクターゼ、セルラーゼ、キシラナーゼ、ペルオキシダーゼ、ヒドロラーゼ、クチナーゼ、プロテアーゼ、フィターゼ、リアーゼ、ペクチナーゼ、アミノペプチダーゼ、カルボキシペプチダーゼが挙げられる。エステラーゼの中でも、コレステロールエステラーゼが好ましい。発現標的タンパク質は、シグナル配列を含んでもよいし、含んでいなくてもよい。通常は、発現標的タンパク質にはシグナル配列を含むことが好ましい。
実質的に同一の塩基配列を有するDNAとして、配列表の配列番号1又は2で示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、プロモーター活性を有するDNAが挙げられる。ここで「ストリンジェントな条件」とは、例えば、「1xSSC、0.1% SDS、37℃」程度の条件であり、より厳しい条件としては「0.5xSSC、0.1% SDS、42℃」程度の条件であり、さらに厳しい条件としては「0.2xSSC、0.1% SDS、65℃」程度の条件である。このようにハイブリダイゼーションの条件が厳しくなるほどプローブ配列と高い相同性、好ましくは高い同一性を有するDNAの単離を期待しうる。ただし、上記SSC、SDS及び温度の条件の組み合わせは例示であり、当業者であればハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを決定する上記もしくは他の要素(例えば、プローブ濃度、プローブの長さ、ハイブリダイゼーションの反応時間など)を適宜組み合わせることにより、上記と同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
本発明のDNAは、配列表の配列番号1又は2で示される塩基配列において、1または複数個、好ましくは数個の核酸に欠失、置換又は付加などの変異が生じた塩基配列を含有するDNAであり、プロモーター活性を有するDNAが含まれる。例えば、配列表の配列番号1で示される塩基配列中においては、1〜52塩基核酸、好ましくは1〜26塩基核酸、より好ましくは1〜13塩基核酸、さらに好ましくは1〜5塩基核酸が欠失、置換、付加した塩基配列からなるDNA等、配列番号2で示される塩基配列中においては、1〜54塩基核酸、好ましくは1〜27塩基核酸、より好ましくは1〜13塩基核酸、さらに好ましくは1〜5塩基核酸が欠失、置換、付加した塩基配列からなるDNA等が挙げられる。
本発明のDNAはその全長塩基配列が配列表の配列番号1又は2で示されるプロモーターの塩基配列とBLAST等(例えば、デフォルト即ち初期設定のパラメータを用いて)を用いて計算した時に、少なくとも80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の配列相同性、好ましくは配列同一性を有する塩基配列からなるプロモーターである。
本発明のプロモーターの塩基配列は、例えばチェーンターミネーション法(Sanger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA,74:5463−5467(1977))により決定することが出来る。
第二の実施形態において、本発明は、上記DNAを含む発現ベクターを提供する。
発現ベクターは、上記DNAを、バークホルデリア属細菌で自律複製するプラスミドベクターの任意の場所に組み込み、プロモーター配列の下流に発現標的遺伝子の導入を容易にするマルチクローニングサイトや転写を終結させるためのターミネーターを配置することにより構築することが出来る。また既存の発現ベクターのプロモーター領域を、配列表の配列番号1又は2で示される塩基配列からなるDNA、或いは、配列番号1又は2で示される塩基配列と実質的に同一の塩基配列からなり、プロモーター活性を有するDNA、と置換することにより、本発明の発現ベクターを調製することも出来る。
プラスミドベクターは宿主内にて複製起点より複製される。そのため、宿主にて複製可能な複製起点を持つプラスミドベクターを使用することが好ましい。バークホルデリア属細菌などのグラム陰性細菌では、グラム陰性細菌で複製可能な複製起点を持つプラスミドベクターが好ましい。グラム陰性細菌で複製可能な複製起点を持つプラスミドベクターとしてpBBR122ベクターが挙げられる。
構築した発現ベクターのプロモーターの下流に発現標的遺伝子を導入したプラスミドベクターを宿主細胞に形質転換し、ベクターの持つ選択マーカーに従って選択した形質転換体において標的タンパク質が恒常的に発現されることが期待できる。ここで使用されるシャトルベクターやマルチクローニングサイト、そしてターミネーターは特に限定されるものではない。本発明は、このような発現標的遺伝子を導入したベクターも包含する。発現標的遺伝子は本発明のプロモーターを利用して発現させようとするタンパク質をコードする遺伝子であり、本発明のプロモーターの下流に作動可能に配置すればよい。本発明は発現標的遺伝子を上記プロモーターの下流に配置したプラスミドベクターも含む。
発現標的遺伝子は、配列番号1又は2から30塩基以下、好ましくは15塩基以下、より好ましくは6塩基以下、特に好ましくは直結にて、その下流に配置され得る。発現標的遺伝子は、例えば、コードするタンパク質が分泌型である場合、シグナル配列を有していてもよい。
発現標的遺伝子の下流には、例えば(第一の)ターミネーター配列を配置することが好ましい。ターミネーター配列は、RNAポリメラーゼをDNAから乖離させ、転写を終結させる配列であり、通常、遺伝子の下流に配置され得る。本件のターミネーター配列としては、特に限定されずに公知の各種のターミネーター配列が使用できるが、例えば本件明細書の配列表にて開示する配列番号17、18又は19のいずれを使用しても良い。発現標的遺伝子がコレステロールエステラーゼをコードする場合(配列番号4)、その遺伝子に元から付いている天然のターミネーター配列である配列番号19を使うことも簡便であって好ましい。
第一のターミネーター配列に加え、プロモーターの上流に第二のターミネーター配列を置くことも好ましい。これにより、上流の他の遺伝子の転写を終結させ、その影響を回避することが期待される。この場合に、上述の第一のターミネーター配列と第二のターミネーター配列とは同一であってもよいが、通常は別の配列のターミネーター配列を選択することがより好ましい。
本発明のプロモーターが対象とするタンパク質によっては、その発現等のためにシャペロンが同時に発現され得る。これにより、正しい立体構造のポリペプチド鎖が形成され、延いては正しい機能を持つタンパク質が生成される。タンパク質を生産させる場合において、シャペロンが必要である場合は、タンパク質とシャペロンを同時に発現させることが好ましい。
シャペロンと発現標的遺伝子がコードするタンパク質は、同時に発現するのであれば、配列上離れた場所に配置されていてもよい。ただし、転写を開始するために必要なプロモーター、転写を終結させるターミネーターは必要であるため、シャペロンは、プロモーターとターミネーターとの間に配置する必要がある。
シャペロンを発現標的遺伝子と同時に発現させるために、シャペロン配列を、発現標的遺伝子とターミネーターとの間に挿入し、シャペロンを発現標的遺伝子のプロモーターで発現させてもよい。
シャペロンが特定の場所で機能する場合、シャペロン配列はシグナル配列を含むことが好ましい。
より具体的には、配列番号5のアミノ酸配列を有するコレステロールエステラーゼの場合、シャペロンの配列としては、特に限定されないが、例えば、配列番号12のアミノ酸配列が挙げられる。このシャペロンは、配列番号14のシグナル配列を含んでもよい。
配列番号40のアミノ酸配列を有するリパーゼの場合、シャペロンの配列としては、特に限定されないが、例えば、配列番号47のアミノ酸配列が挙げられる。このシャペロンは、配列番号49のシグナル配列を含んでもよい。
第三の実施形態において、本発明は、上記DNAを含む遺伝子発現カセットを提供する。
配列表の配列番号1又は2で示される塩基配列からなるDNA、或いは、配列表の配列番号1又は2で示される塩基配列と実質的に同一の塩基配列からなり、プロモーター活性を有するDNA、と発現標的遺伝子とを含む発現カセットを調製すれば、発現プラスミドベクターを構築せずとも本発明のプロモーターを含む宿主細胞での組換えタンパク質発現系を構築できる。本発明はこのような、プロモーターの下流に発現標的遺伝子を配置した発現カセットを包含する。
バークホルデリア属細菌を含むいくつかの細菌においては、遺伝子組換え実験において相同組み換えの効率が低く、非特異部位での組換えが起こりやすい事が知られる。実際、例えば、バークホルデリア属細菌において、相同組換えによる遺伝子組換えを意図して構築したベクターや直線上のDNAをバークホルデリア属細菌細胞に形質転換するとそれらDNAは該宿主細胞のゲノムに非特異的に組み込まれることが高頻度で起こりうる。このことから、例えば、配列表の配列番号1又は2で示される塩基配列からなるDNA、或いは、配列表の配列番号1又は2で示される塩基配列と実質的に同等の塩基配列からなり、プロモーター活性を有するDNA、の下流に発現標的遺伝子を配置し、さらにターミネーターや抗生剤耐性遺伝子等の選択マーカー遺伝子を配置した直鎖状のDNAを発現カセットとして構築し、該構築物を宿主細胞に形質転換することでゲノムの非特異部位に挿入することにより本発明のプロモーターを利用して該宿主細胞で発現標的遺伝子を発現させることができる。この場合、直鎖DNAは一般的な大腸菌用クローニングベクター上で構築後、PCRにより増幅することができる。また、ベクターから必要な部分を切り出して調製することも出来る。
発現標的遺伝子の発現系をゲノムに挿入する方法として、公知の遺伝子導入方法を用いて行うことができるが、好適にはトランスポゾンベクターを利用して挿入する方法が挙げられる。トランスポゾンベクターは、配列の転移に必要な酵素をコードするトランスポゼース遺伝子及び、トランスポゼースが認識する2つの反復配列を含む構成となっている。この認識配列の間に遺伝子発現システムを組み込めば、ゲノム挿入型の構成型発現系を構築できるベクターとして利用することができる。
バークホルデリア属細菌において利用可能なトランスポゾンベクターはいくつか公知のものがあり、例えばpUTminiTn5ベクター(de Lorenzo et al., J. Bacteriol., 172(11),6568−6572(1990))が挙げられる。したがって、配列表の配列番号1又は2で示されるDNA、或いは、配列番号1又は2で示される塩基配列と実質的に同一の塩基配列からなり、プロモーター活性を有するDNA、を導入した発現ベクターに発現標的遺伝子の下流にあるターミネーターまでを含んだDNAをトランスポゾンベクターに組み込んで、宿主細胞のゲノムへ転移させることにより、1コピーから多コピーまでの発現カセットコピー数を持つ組換え細胞を構築することが可能である。そしてゲノム挿入型発現系は、発現カセットのコピー数という点ではマルチコピーの発現ベクターに対して発現量という点では及ばないものの、ゲノム内に安定に保持されるため、ベクターを選択・保持するための抗生剤を培地に添加する必要がないという利点がある。
このような遺伝子発現系の利用はタンパク質生産とは逆のタンパク質発現抑制へ応用することも可能である。宿主内発現標的遺伝子の開始コドンを含むアンチセンスRNAを細胞内に過剰に発現すると、細胞内では発現標的遺伝子のmRNAに発現したアンチセンスmRNAがハイブリダイズし、mRNAも翻訳が妨げられると共に分解が促進され、結果として発現標的遺伝子由来タンパク質の生産を抑制することが可能である(Nakashima et al., Nucleic Acids Res., 34:e138(2006); Nakashima and Tamura, Nucleic Acids Res., 37:e103(2009))。従って、配列表の配列番号1又は2で示される塩基配列からなるDNA、或いは、配列表の塩基配列1又は2で示される塩基配列と実質的に同一の塩基配列からなり、プロモーター活性を有するDNA、の下流に発現標的遺伝子のアンチセンスRNAを細胞内に蓄積させて発現標的遺伝子由来タンパク質の生産を抑制することができる。このようなアンチセンスRNA等の利用技術は、遺伝子破壊とともに宿主細胞の機能改変に有効な方法であり、宿主細胞の代謝経路を人為的に改変する代謝工学が可能になる。
第四の実施形態において、本発明は、上記発現ベクター又は上記遺伝子発現カセットを含む形質転換体を提供する。
本発明のプロモーターを含むベクターや発現カセットを導入する宿主は限定されないが、例えば、バークホルデリア属に分類される微生物が挙げられる。バークホルデリア属細菌は地圏や水圏、植物表層などの多様な自然生態系に常在するβプロテオバクテリアである。工業生産に適したリパーゼ生産能を有する菌株や植物病原性糸状菌駆除能を有する菌株がいる一方、病原因子生産能を有するために日和見感染を引き起こす菌株やペクチナーゼなどの産生による植物病原菌株など、様々な菌株が含まれる(大坪嘉行ら著、化学と生物、Vol.47 No.1、35−42頁(2009年))。
バークホルデリア属に分類される微生物としては、バークホルデリア・スタビリス(Burkholderia stabilis)、バークホルデリア・マルティボランス(Burkholderia multivorans)、バークホルデリア・セパシア(B. cepacia)、バークホルデリア・マレイ(Burkholderia mallei)、バークホルデリア・グルマエ(Burkholderia glumae)、バークホルデリア・アンビファリア(Burkholderia ambifaria)、バークホルデリア・ドロサ(Burkholderia dolosa)、バークホルデリア・グラディオリ(Burkholderia gladioli)、バークホルデリア・プランタリイ(BurkholderiaBurkholderia plantarii)(AZEGAMI et al., Int J Syst Evol Microbiol, 37(2): 144−152(1987);Seo et al., BMC Genomics, 16:346(2015))等が挙げられる。
バークホルデリア・プランタリイDSM 9509は、バイオリソースセンターであるDSMZから購入可能である。
バークホルデリア属細菌は様々な自然生態系に存在することから、バークホルデリア属細菌を培養する培地や条件はさまざまである。例えばバークホルデリア・セパシアを培養するためには、PY培地(5%ポリペプトン、5%酵母エキス)にて28℃で培養すればよい(特開平9−322776)。また、DSMZにて購入可能な菌株については、DSMZが推奨する培地と条件をCultivation conditionsとして公開しており、それを参照すればよい。
第五の実施形態において、本発明は、上記形質転換体を培養する工程を含む、上記プロモーターの下流に位置する発現標的遺伝子がコードするタンパク質を生産する方法、を提供する。
より具体的には、上記形質転換体を培養し、培養物から発現標的遺伝子がコードするタンパク質を単離、精製することにより、標的タンパク質を生産することができる。ここで、培養物とは、菌を培養して得た菌体及び培養液の混合物を意味し、形質転換体は、使用する宿主に適した培地を用い、静置培養法、ローラーボトルによる培養法などにより培養することができる。培養は、公知の方法で行うことができ、用いる宿主細胞の種類により、適宜用いる培地や培養条件を決定することができる。
標的タンパク質が菌体内又は細胞内に生産される場合には、宿主細胞を破砕することによりタンパク質を採取することができる。また、標的タンパク質が宿主細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離等により宿主細胞を除去する。その後、タンパク質の単離生成に用いられる各種クロマトグラフィーを用いた一般的な生化学的方法を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、前記の培養物中から標的タンパク質を単離精製することができる。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例の範囲に限定されるものではない。
実施例1 プロモーター活性を測定するための発現ベクターの作製
バークホルデリア・スタビリス(受託番号:NITE BP−02704)をLB培地(1% Bacto(商標)Tryptone、0.5% Bacto(商標)Yeast extract、0.5%塩化ナトリウム)にて30℃で振とう培養して定常期まで増殖した菌液500μLを10mLのLB培地にそれぞれ添加し、30℃で12時間培養した。
培養後、菌を遠心分離(3,000xg、10分、室温)で回収し、500μLのトリス−EDTA(TE)バッファーで再懸濁し、50μLのプロテイナーゼK(20mg/mL)と25μLの10%SDSを添加し、55℃、30分間インキュベートした。反応後、600μLのフェノール、クロロホルム、イソアミルアルコール混合溶液(50:49:1)を添加し、撹拌したのち遠心分離(20,817xg、10分、室温)を行なった。得られた上清を別のチューブに移し、フェノール、クロロホルム、イソアミルアルコール混合液で再抽出した後、得られた上清に50μLの3M酢酸ナトリウムと350μLのイソプロパノールを添加しDNAを沈殿させ、回収したDNAに対して500μLの70%エタノールで2回洗浄した。DNAは室温で10分間風乾し、200μLのTEに溶解し、4℃に保管した。
該精製DNAをテンプレートとして、配列番号20と21、22と23、24と25に記載の合成オリゴデオキシリボヌクレオチドプライマー(以下、プライマーと略記)を用いて、ポリメラーゼチェーンリアクション法(以下、PCRと略記:Saiki et al., Science、239 487−491(1988))によるDNAの増幅を行なった。なお、用いたPCR用酵素はKOD FX Neo(Toyobo社製)である。その結果、二種類のターミネーター(配列番号26及び27)、マルチクローニングサイト(BglII、NheI、SnaBI、SacI、KpnI、SpeI、BamHI、XbaI、NdeI)断片(配列番号28)を得た。上記方法と同様にpBBR122プラスミド(MoBiTec社製)をテンプレートとして配列表中の配列番号29、30に記載のプライマーを用いてDNAの増幅を行った。PCR反応によって増幅されたこれらのDNA断片をアガロースゲル電気泳動に供し、ゲルから切り出してWizard(登録商標)SV Gel and PCR Clean−Up System(Promega社製)を用いて精製した。この精製済みのDNA断片をIn−Fusion(登録商標)HD Cloning Kit(TaKaRa社製)を用いて連結し、大腸菌DH5αに形質転換後、200μg/mLのカナマイシンを含むLB寒天培地に塗布した。28度で24時間培養後、得られたコロニーを200μg/mLのカナマイシン硫酸塩を含むLB培地に植え継ぎ、28度で12時間培養後、培養液からWizard(登録商標) Plus MiniPreps DNA Purification Systems (Promega社製)を用いてプラスミドを抽出した。このプラスミドをプロモーター活性測定用の発現ベクターとした(図1)。
実施例2 コレステロールエステラーゼ発現ベクターの作製
実施例1にて精製したバークホルデリア・スタビリスのゲノムDNAをテンプレートとして、配列表中の配列番号31〜36に記載のプライマーを用いて、PCRによるDNAの増幅を行なった。その結果、コレステロールエステラーゼとそのシャペロンをコードする遺伝子のDNA断片、及びプロモーター領域のDNA断片が得られた(配列表番号1、2)。実施例1にて作製した発現ベクターをテンプレートとして、配列表中の配列番号37、38に記載のプライマーを用いてDNAの増幅を行い、発現ベクターのDNA断片を増幅した。これらのPCR反応によって増幅されたプロモーター、コレステロールエステラーゼとシャペロン、発現ベクターのDNA断片を実施例1に記載の方法と同様に精製して連結し、コレステロールエステラーゼの発現ベクターを作製した(図2)。
実施例3 コレステロールエステラーゼ遺伝子を用いたプロモーター活性の測定
バークホルデリア・スタビリスに実施例2で作製したコレステロールエステラーゼの発現ベクターを導入するため、該菌株をLB培地100mLにて対数増殖期に至るまで30℃で振とう培養した後、遠心分離にて菌体を回収した。回収した菌体に100mLの氷冷滅菌水を加え、懸濁後再び遠心分離し菌体を回収した。この操作をもう一度繰り返した後、回収した菌体に5mL冷却10%グリセリン溶液を加え、よく懸濁し、遠心分離により菌体を回収した。
回収した菌体に5mLの氷冷10%グリセリン溶液を加え、懸濁し、40μLずつ分注し、液体窒素で瞬間冷凍し−80℃にて保存した。冷凍保存した菌体を氷上にて融解し、実施例2にて作製した2種の発現ベクターをそれぞれ約1ngずつ加え、混合した。この混合液を0.2cm幅エレクトロポレーションキュベット(Bio−Rad社製)に移し、遺伝子導入装置ジーンパルサーIIを用いて電場強度12.5kV/cm、キャパシタンス25μF、外部抵抗200Ωにてそれぞれ電気パルスを与えた。電気パルス処理した菌体とDNAの混合液を1mLのLB培地に混合し、30℃にて1時間培養した後、200μLの菌液を200μg/mLのカナマイシン硫酸塩を含むLB培地に塗布し、30℃にて1日間培養し、各発現ベクターの形質転換体を得た。
発現ベクターを導入したバークホルデリア・スタビリスを5mLの3%酵母エキス、3%ソルビトール培地(100μg/mLカナマイシン硫酸塩を含む)に植菌し、12時間28℃にて培養した。この菌液を50mLの3%酵母エキス、3%ソルビトール培地(100μg/mLカナマイシン硫酸塩を含む)に菌体濁度OD=0.2となるように添加し、バッフル付きフラスコを用いて28℃で36時間培養した。一方、発現ベクターを導入していないバークホルデリア・スタビリス野生株も同様に、5mLの3%酵母エキス、3%ソルビトール培地に植菌し、12時間28℃にて培養した。この菌液を50mLの3%酵母エキス、3%ソルビトール培地に菌体濁度OD=0.2となるように添加し、バッフル付きフラスコを用いて28℃で36時間培養した。培養後、各株が生産したコレステロールエステラーゼの量を評価するため、ラウリン酸p−ニトロフェニルに対するコレステロールエステラーゼ活性を測定した。
培養後に培養液を適宜希釈し、1mMのラウリン酸p−ニトロフェニルと37℃で反応させ、加水分解反応によって生じるp−ニトロフェノールを波長400nmの吸光度によって測定した。その結果、発現ベクターを導入していないバークホルデリア・スタビリス野生株ではコレステロールエステラーゼ活性がほとんど確認されなかったが、配列番号1又は2の塩基配列で表されるプロモーターを導入した形質転換体において高いコレステロールエステラーゼ活性が観察された(図3)。さらに培養液を3%酵母エキス、3%ソルビトール培地(YS培地)で3倍に希釈して混合し、遠心分離によって上清を回収して粗タンパク質抽出液とした。この粗タンパク質抽出液を10−20%グラジエントゲルを用いてSDS−PAGEで分離し、クマシー・ブリリアントブルーG250を使用して染色した。コレステロールエステラーゼの分子量は33.2kDaであり、予想される大きさにコレステロールエステラーゼ活性に対応する濃さのバンドが観察された(図4)。このように、培地中に脂肪酸を添加していない条件においても、コレステロールエステラーゼが生産されたことから、配列番号1又は2の塩基配列で表されるプロモーターは構成型プロモーターであることが分かった。
バークホルデリア・スタビリス野生株において、コレステロールエステラーゼは或る種の脂肪酸によって誘導発現するため(以下の参考例を参照のこと)、コレステロールエステラーゼの工業的製造ではバークホルデリア・スタビリスにコレステロールエステラーゼを生産させるために、それらの脂肪酸を含む培地で培養しなければならない。そのため、非水溶性の脂肪酸を含む培地からコレステロールエステラーゼを分離精製しなければならず、安定製造の妨げとなっている。脂肪酸を含まない簡易な培地からコレステロールエステラーゼを分離・精製できる可能性を得たことは、高純度で安定した品質の酵素を製造するためには極めて大きな成果といえる。
実施例4 異なる培地での発現確認
実施例3で構成型プロモーターであると確認されたプロモーターを導入した形質転換体をそれぞれ5mLのLB培地(100μg/mLカナマイシン硫酸塩を含む)に植菌し、72時間28℃にて培養した。一方、発現ベクターを導入していないバークホルデリア・スタビリス野生株も同様に、5mLのLB培地に植菌し、72時間28℃にて培養した。また、本発明のプロモーターを導入した形質転換体をそれぞれ5mLのDifco(登録商標) Nutrient Broth(Becton Dickinson社製)(以下NB培地と略することがある)(100μg/mLカナマイシン硫酸塩を含む)に植菌し、72時間28℃にて培養した。一方、発現ベクターを導入していないバークホルデリア・スタビリス野生株も同様に、5mLのNB培地に植菌し、72時間28℃にて培養した。培養後、各株が生産したコレステロールエステラーゼの量を評価するため、ラウリン酸p−ニトロフェニルに対するコレステロールエステラーゼ活性を測定した。培養後に培養液を適宜希釈し、1mMのラウリン酸p−ニトロフェニルと37℃で反応させ、加水分解反応によって生じるp−ニトロフェノールを波長400nmの吸光度によって測定した(図5)。その結果、発現ベクターを導入していないバークホルデリア・スタビリス野生株ではコレステロールエステラーゼ活性がほとんど確認されなかったが、本発明のプロモーターを導入した形質転換体においてコレステロールエステラーゼ活性が確認された。この結果より、本発明のプロモーターは培地に関わらず構成発現させることができることが確認された。
参考例 バークホルデリア・スタビリス野生株でのコレステロールエステラーゼ誘導発現確認
バークホルデリア・スタビリスを100mLの前培養培地(0.1% リン酸水素二カリウム、1% ミルクカゼイン、0.5% 酵母エキス、0.2%塩化カリウム、0.05% 硫酸マグネシウムを含む液体培地(pH7.0))にて28℃、200rpmで24時間、前培養した。得られた培養液2mLを2Lジャーファーメンターにて滅菌した本培養培地(1.6Lの0.1% リン酸水素二カリウム、1.5% ミルクカゼイン、0.5% 酵母エキス、0.2%塩化カリウム、0.05% 硫酸マグネシウム、1% 大豆粉、3% オレイン酸を含む液体培地(pH6.5))に添加し、28℃、650rpmで48時間培養した。
48時間後に培養液を回収し、オレイン酸添加培地の培養液とした。上記と全く同じ前培養培地にて同条件にて前培養を行ったあと、本培養培地のオレイン酸のみをパルミチン酸に置換した培地にて同条件で培養を行って得られた培養液をパルミチン酸添加培地の培養液、本培養培地のオレイン酸のみをミリスチン酸に置換した培地にて同条件で培養を行って得られた培養液をミリスチン酸添加培地の培養液、本培養培地のオレイン酸を除いた培地にて同条件で培養を行って得られた培養液を脂肪酸未添加培地の培養液とした。
得られた各培養液について、特開2008−86277号公報に記載の方法によりコレステロールエステラーゼ活性の測定を行った。その結果、未添加培地ではコレステロールエステラーゼが発現しなかったが、培地中にオレイン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸などの脂肪酸を加えるとコレステロールエステラーゼが発現することが分かった(図6)。このことから、コレステロールエステラーゼはこれらの脂肪酸の添加によって誘導発現することが確認される。
実施例5 他のターゲット遺伝子に対するプロモーター活性の測定
配列番号45に記載のバークホルデリア・プランタリイ(DSM 9509)に由来するリパーゼ遺伝子とシャペロン遺伝子を含む配列を全合成した。全合成したリパーゼ遺伝子とシャペロン遺伝子を含む配列を、実施例2で作製した発現ベクターのコレステロールエステラーゼ遺伝子とシャペロン遺伝子を含む配列と置き換え、配列番号1または配列番号2をプロモーターとして有するリパーゼ発現ベクターを得た。これらのプラスミドを用い、実施例3と同様にバークホルデリア・スタビリスを形質転換し、形質転換体を得た。この形質転換体を3%酵母エキス、3%ソルビトール培地で前培養し、前培養液を菌体濁度OD=0.2となるように同培地で希釈して40mLの培地で本培養した。培養後、菌液を遠心分離し、上清中に含まれるリパーゼのジアシルグリセロールに対する活性を測定した(図7)。その結果、バークホルデリア・スタビリス野生株では、リパーゼの活性がほとんど確認されなかったが、本発明のプロモーターを導入した形質転換体においては高いリパーゼ活性が観察された。この結果より、本発明のプロモーターは、バークホルデリア・スタビリス以外の細菌に由来する遺伝子の発現にも利用できることが確認された。
実施例6 他のバークホルデリア属でのプロモーター活性の確認
実施例3で作製した本発明のプロモーターを有するコレステロールエステラーゼ発現ベクターをバークホルデリア・マルティボランス(NBRC102086)に導入するため、該菌株をLB培地100mLにて対数増殖期に至るまで30℃で振とう培養した後、遠心分離にて菌体を回収した。回収した菌体に100mLの氷冷滅菌水を加え、懸濁後再び遠心分離し菌体を回収した。この操作を2回繰り返した後、回収した菌体に5mL冷却10%グリセリン溶液を加え、よく懸濁し、遠心分離により菌体を回収した。回収した菌体に5mLの氷冷10%グリセリン溶液を加え、懸濁し、100μLずつ分注し、−80℃にて保存した。冷凍保存した菌体を氷上にて融解し、実施例3で作製した本発明のプロモーターを有するコレステロールエステラーゼ発現ベクターをそれぞれ約1ngずつ加え、混合した。この混合液を0.1cm幅エレクトロポレーションキュベット(Bio−Rad社製)に移し、遺伝子導入装置ジーンパルサーIIを用いて電場強度12.5kV/cm、キャパシタンス25μF、外部抵抗200Ωにてそれぞれ電気パルスを与えた。電気パルス処理した菌体とDNAの混合液を1mLのLB培地に混合し、30℃にて1時間培養した後、200μLの菌液を30μg/mLのクロラムフェニコールを含むLB培地に塗布し、30℃にて1日間培養し、各発現ベクターの形質転換体を得た。
発現ベクターを導入したバークホルデリア・マルティボランスを5mLの3%酵母エキス、3%ソルビトール培地(30μg/mLクロラムフェニコールを含む)に植菌し、48時間28℃にて培養した。一方、バークホルデリア・マルティボランス野生株も同様に、5mLの3%酵母エキス、3%ソルビトール培地に植菌し、48時間28℃にて培養した。培養後、各株が生産したコレステロールエステラーゼの量を評価するため、ラウリン酸p−ニトロフェニルに対するコレステロールエステラーゼ活性を測定した。培養後に培養液を適宜希釈し、1mMのラウリン酸p−ニトロフェニルと37℃で反応させ、加水分解反応によって生じるp−ニトロフェノールを波長400nmの吸光度によって測定した(図8)その結果、発現ベクターを導入していないバークホルデリア・マルティボランス野生株ではコレステロールエステラーゼ活性がほとんど確認されなかったが、本発明のプロモーターを有するコレステロールエステラーゼ発現ベクターを導入した形質転換体ではコレステロールエステラーゼ活性が確認された。この結果から、本発明のプロモーターは他のバークホルデリア属でも構成型プロモーターとして働くことが示された。
本発明によれば、本発明のプロモーターDNAを用いることにより、タンパク質の高生産が可能になり、さらに好ましくは構成的なプロモーターDNAを用いることにより、タンパク質の恒常的な高生産が可能になり、高効率なタンパク質の製造方法の提供が可能になる。
配列番号1:プロモーター1の塩基配列
配列番号2:プロモーター2の塩基配列
配列番号3:バークホルデリア・スタビリス由来のアルキルヒドロペルオキシドレダクターゼのアミノ酸配列
配列番号4:マチュアなコレステロールエステラーゼの塩基配列
配列番号5:マチュアなコレステロールエステラーゼのアミノ酸配列
配列番号6:コレステロールエステラーゼのシグナル配列の塩基配列
配列番号7:コレステロールエステラーゼのシグナルのアミノ酸配列
配列番号8:シグナル配列とマチュアなコレステロールエステラーゼとが直結した、その塩基配列
配列番号9:シグナル配列とマチュアなコレステロールエステラーゼとが直結した、そのアミノ酸配列
配列番号10:シグナル配列とマチュアなコレステロールエステラーゼとその発現に必要なシャペロンとが直結した塩基配列
配列番号11:配列番号10に部分配列として含まれるシャペロンの塩基配列
配列番号12:配列番号11のアミノ酸配列
配列番号13:配列番号11のシグナル配列の塩基配列
配列番号14:配列番号13のアミノ酸配列
配列番号15:シャペロンのシグナル配列とマチュアなシャペロンとが直結した塩基配列
配列番号16:シャペロンのシグナル配列とマチュアなシャペロンとが直結したアミノ酸配列
配列番号17:ターミネーター配列の塩基配列
配列番号18:ターミネーター配列の塩基配列
配列番号19:コレステロールエステラーゼの下流に天然状態で配置されているターミネーター配列の塩基配列
配列番号20:合成オリゴデオキシリボヌクレオチドプライマー(Terminator1−pBBR−F)
配列番号21:合成オリゴデオキシリボヌクレオチドプライマー(Terminator1−MCS−R)
配列番号22:合成オリゴデオキシリボヌクレオチドプライマー(MCS−Terminator1−F)
配列番号23:合成オリゴデオキシリボヌクレオチドプライマー(MCS−Terminator2−R)
配列番号24:合成オリゴデオキシリボヌクレオチドプライマー(Terminator2−MCS−F)
配列番号25:合成オリゴデオキシリボヌクレオチドプライマー(Terminator2−pBBR−R)
配列番号26:ターミネーター配列(Terminator2)
配列番号27:ターミネーター配列(Terminator1)
配列番号28:マルチクローニングサイト
配列番号29:合成オリゴデオキシリボヌクレオチドプライマー(pBBR−Terminator2−F)
配列番号30:合成オリゴデオキシリボヌクレオチドプライマー(pBBR−Terminator1−R)
配列番号31:合成オリゴデオキシリボヌクレオチドプライマー(CholesterolEsterase−F)
配列番号32:合成オリゴデオキシリボヌクレオチドプライマー(CholesterolEsterase−R)
配列番号33:配列番号1のプロモーターを増幅するための合成オリゴデオキシリボヌクレオチドプライマー(Promoter1−F)
配列番号34:配列番号1のプロモーターを増幅するための合成オリゴデオキシリボヌクレオチドプライマー(Promoter1−R)
配列番号35:配列番号2のプロモーターを増幅するための合成オリゴデオキシリボヌクレオチドプライマー(Promoter2−F)
配列番号36:配列番号1のプロモーターを増幅するための合成オリゴデオキシリボヌクレオチドプライマー(Promoter2−R)
配列番号37:発現ベクターを増幅するための合成オリゴデオキシリボヌクレオチドプライマー(Terminator2−chaperon−F)
配列番号38:発現ベクターを増幅するための合成オリゴデオキシリボヌクレオチドプライマー(Terminator1−R)
配列番号39:マチュアなバークホルデリア・プランタリイ由来のリパーゼの塩基配列
配列番号40:マチュアなバークホルデリア・プランタリイ由来のリパーゼのアミノ酸配列
配列番号41:バークホルデリア・プランタリイ由来のリパーゼのシグナル配列の塩基配列
配列番号42:バークホルデリア・プランタリイ由来のリパーゼのシグナルのアミノ酸配列
配列番号43:バークホルデリア・プランタリイ由来のリパーゼのシグナル配列とマチュアなリパーゼとが直結した塩基配列
配列番号44:バークホルデリア・プランタリイ由来のリパーゼのシグナル配列とマチュアなリパーゼとが直結したそのアミノ酸配列
配列番号45:シグナル配列と、マチュアなコレステロールエステラーゼと、シャペロンとが直結した塩基配列
配列番号46:配列番号45に含まれるシャペロンの塩基配列
配列番号47:配列番号46のアミノ酸配列
配列番号48:配列番号45に含まれるシグナル配列の塩基配列
配列番号49:配列番号48のアミノ酸配列

Claims (10)

  1. 以下の(a)〜(d)のいずれか一つのDNA:
    (a)配列表の配列番号1又は2で示される塩基配列からなるDNA;
    (b)配列表の配列番号1又は2で示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーションすることができ、プロモーター活性を有するDNA;
    (c)配列表の配列番号1又は2で示される塩基配列において1または数個の塩基が欠失、置換、もしくは付加された塩基配列からなり、プロモーター活性を有するDNA;
    (d)配列表の配列番号1又は2と少なくとも80%以上の配列同一性を有する塩基配列からなり、プロモーター活性を有するDNA。
  2. プロモーター活性が構成型の活性である、請求項1に記載のDNA。
  3. 請求項1又は2に記載のDNAを含む発現ベクター。
  4. 請求項1又は2に記載のDNAを挿入した挿入配列(Insertion sequence)又はトランスポゾンを含む発現ベクター。
  5. 請求項1又は2に記載のDNAの下流に発現標的遺伝子を配置させた、遺伝子発現カセット。
  6. 請求項1又は2に記載のDNAの下流にアンチセンスRNAとして転写されるDNAを配置させた、遺伝子カセット。
  7. 請求項3若しくは4に記載の発現ベクター又は請求項5に記載の遺伝子発現カセットを含む形質転換体。
  8. 宿主がバークホルデリア属に分類される微生物である、請求項7に記載の形質転換体。
  9. 発現標的遺伝子がコードするタンパク質を生産する方法であって、請求項1又は2に記載のDNAを用いて発現標的遺伝子を発現させる工程を含む、方法。
  10. 請求項7又は8に記載の形質転換体を培養する工程を含む、請求項9に記載の方法。
JP2018103382A 2018-05-30 2018-05-30 新規プロモーター、および同プロモーターを用いたタンパク質の製造方法 Active JP7061018B2 (ja)

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