JP7436981B2 - コレステロールエステラーゼ活性が向上したポリペプチド - Google Patents

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本発明は、ポリペプチドを改変することにより、改変前のポリペプチドと比較してコレステロールエステラーゼ活性が向上したポリペプチド、改変前のポリペプチドと比較してコレステロールエステラーゼ活性を向上する方法、該ポリペプチドの製造方法、および該ポリペプチドを含む試薬組成物、該ポリペプチドを用いたコレステロールの測定方法等に関する。
リパーゼ(triacylglycerol lipase、EC 3.1.1.3)は、脂質を構成するエステル結合を加水分解する酵素群の中で、特にトリグリセリドやジグリセリドを加水分解して脂肪酸とグリセロールを遊離する反応を触媒する基質特異性をもつエステラーゼ(エステル結合を加水分解する反応を触媒する)である。
コレステロールエステラーゼ(EC 3.1.1.13)は、脂質を構成するエステル結合を加水分解する酵素群の中で、特にコレステロール脂肪酸エステルを加水分解して脂肪酸とコレステロールを遊離する反応を触媒する基質特異性をもつエステラーゼである。
リパーゼやコレステロールエステラーゼのような酵素は、常温、常圧、中性pHのような温和な環境で、特定の反応だけを触媒する高い基質特異性(分子認識能)をもつため工業利用に向いているが、実用化のためには製造コストを低く抑えることが課題になる場合がある。従って、製造コストを低く抑えることに成功して実用化に至っている酵素の基質特異性を改変することができれば、製造コストが低く抑えられた新たな酵素を創出することができる。
製造コストを低く抑えることに成功して実用化に至っている公知のリパーゼの例としてバークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia:以下「B.セパシア」と呼ぶことがある。シュードモナス・セパシア(Pseudomonas cepacia)、「P.セパシア」と呼ばれる場合もある)由来のリパーゼがある(特許文献1、配列番号1)。B.セパシア由来リパーゼの基質特異性を、コレステロールエステラーゼに改変することができれば、製造コストを低く抑えられたコレステロールエステラーゼを新たに創出することができる。
B.セパシア由来リパーゼの立体構造は明らかになっており(非特許文献1)、リガンドと結合した構造の報告もある(非特許文献2~5)。しかし、非特許文献2~5のリガンドはステロール骨格を含むものではなく、さらにリガンドは様々な向きで結合しているので、これらの構造からコレステロールエステルがどのような向きでリパーゼ分子と結合し、どのアミノ酸がコレステロールエステラーゼ活性を向上するために重要なのかを推察することは困難であった。
US5290694A RECOMBINANT DNA、 BACTERIUM OF THE GENUS PSEUDOMONAS CONTAINING IT、 AND PROCESS FOR PREPARNG LIPASE BY USING IT
Structure 5、173-185(1997) Eur.J.Biochem.254、333-340(1998) Eur.J.Biochem.268、3964-3973 (2001) Chemistry&Biology12、427-437 (2005) J.Phys.Chem.B112、4876-4883 (2008)
本発明の課題は、バークホルデリア属の細菌に由来するリパーゼのポリペプチドを改変することにより、改変前のポリペプチドと比較してコレステロールエステラーゼ活性が向上したポリペプチドを提供することである。また本発明の別の課題としては、バークホルデリア属の細菌に由来するリパーゼのポリペプチドを改変することにより、改変前のポリペプチドと比較してコレステロールエステラーゼ活性を向上する方法、該ポリペプチドの製造方法、および該ポリペプチドを含む試薬組成物、該ポリペプチドを用いたコレステロールの測定方法等を提供することである。
本発明者らは、配列番号1、2、3または4で示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するポリペプチドにおいて、配列番号1~3の場合には当該アミノ酸配列の287位に位置するロイシンを、又は配列番号4の場合には当該アミノ酸配列の286位のロイシンを、イソロイシン又はアラニンに置換することにより、改変前のポリペプチドと比較してコレステロールエステラーゼ活性が向上したポリペプチドが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本願発明は以下の発明を包含する。
[1]配列番号1~4のいずれかで示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するポリペプチドであって、配列番号1~3の場合には当該アミノ酸配列の287位のロイシンに相当するアミノ酸が、又は配列番号4の場合には当該アミノ酸配列の286位のロイシンに相当するアミノ酸がイソロイシン又はアラニンに置換されており、置換前のポリペプチドと比較してコレステロールエステラーゼ活性が向上しているポリペプチド。
[2]前記アミノ酸配列が配列番号1又は2で示されるアミノ酸配列であり、当該アミノ酸配列における266位のバリンに相当するアミノ酸が更にロイシンに置換されている、[1]に記載のポリペプチド。
[3]前記ポリペプチドが、バークホルデリア(Burkholderia)属、シュードモナス(Pseudomonas)属又はパラバークホルデリア(Paraburkholderia)属の細菌のポリペプチドに由来する、[1]又は[2]に記載のポリペプチド。
[4]前記配列番号1~4のいずれかで示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するポリペプチドが、リパーゼ活性を有するポリペプチドである、[1]~[3]のいずれかに記載のポリペプチド。
[5][1]~[4]のいずれかに記載のポリペプチドを製造する方法であって、
配列番号1~4のいずれかで示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するポリペプチドにおいて、配列番号1~3の場合には当該アミノ酸配列の287位のロイシンに相当するアミノ酸を、又は配列番号4の場合には当該アミノ酸配列の286位のロイシンに相当するアミノ酸をイソロイシン又はアラニンに置換する工程を含む、方法。
[6]前記アミノ酸配列が配列番号1又は2で示されるアミノ酸配列であり、当該アミノ酸配列の266位のバリンに相当するアミノ酸をロイシンに置換する工程を更に含む、[5]に記載の方法。
[7]配列番号1~4のいずれかで示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するポリペプチドのコレステロールエステラーゼ活性を向上する方法であって、
配列番号1~3の場合には当該アミノ酸配列の287位のロイシンに相当するアミノ酸を、又は配列番号4の場合には当該アミノ酸配列の286位のロイシンに相当するアミノ酸をイソロイシン又はアラニンに置換する工程を含む、方法。
[8]前記アミノ酸配列が配列番号1又は2で示されるアミノ酸配列であり、当該アミノ酸配列の266位のバリンに相当するアミノ酸をロイシンに置換する工程を更に含む、[7]に記載の方法。
[9][1]~[4]のいずれかに記載のポリペプチドを含む、試薬組成物。
[10]リポタンパク質中のコレステロール又はそのエステルを測定するための、[9]に記載の試薬組成物。
[11]前記リポタンパク質が、超高比重(密度)リポタンパク質、高比重(密度)リポタンパク質、低比重(密度)リポタンパク質、超低比重(密度)リポタンパク質、中間比重(密度)リポタンパク質、カイロミクロン、small-LDL、βリポタンパク質、pre-リポタンパク質及びαリポタンパク質から成る群から選択される少なくとも1種のリポタンパク質である、[10]に記載の試薬組成物。
[12][9]~[11]のいずれかに記載の試薬組成物を含む、キット。
[13][9]~[11]のいずれかに記載の試薬組成物又は[12]に記載のキットを用いてコレステロール又はそのエステルを測定する方法であって、
前記組成物又はキットに含まれるポリペプチドと、コレステロール又はそのエステルを含むか、又はその疑いのある被験試料とを接触させる工程を含む、方法。
本発明により、製造コストを低く抑えることに成功して実用化に至っているB.セパシア由来を含むリパーゼに代表される、配列番号1~4のいずれかで示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するポリペプチドを改変することにより、改変前のポリペプチドと比較してコレステロールエステラーゼ活性が向上したポリペプチドの提供が容易となる。
図1は、バークホルデリア・セパシアリパーゼのSDS-PAGEの結果を示す。 図2は、バークホルデリア・ユボネンシスリパーゼのSDS-PAGEの結果を示す。 図3は、バークホルデリア・タイランデンシスリパーゼのSDS-PAGEの結果を示す。 図4は、バークホルデリア・グルマエリパーゼのSDS-PAGEの結果を示す。
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について説明するが、本発明の範囲は以下の実施形態に限定して解釈されない。遺伝子操作技術は、例えばマニアティスらの方法(Maniatis、T.、et al.Molecular Cloning.Cold Spring Harbor Laboratory 1982年、1989年)等に記載の方法、又は、市販の各種酵素、キット類に添付された手順書等に従えば実施できるものである。
本発明の第一の実施形態において、本発明は、配列番号1~4のいずれかで示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するポリペプチドであって、配列番号1~3の場合には当該アミノ酸配列の287位のロイシンに相当するアミノ酸が、又は配列番号4の場合には当該アミノ酸配列の286位のロイシンに相当するアミノ酸が、イソロイシン又はアラニンに置換されており、置換前のポリペプチドと比較してコレステロールエステラーゼ活性が向上しているポリペプチドを提供する。
本発明の第一の実施形態において、ポリペプチド(鎖)の一次構造は、通常アミノ酸配列と一致する。本発明のアミノ酸配列は配列番号1~4のいずれかで示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するポリペプチドであれば限定されないが、85%以上の同一性を有するポリペプチドであれば好ましく、90%以上の同一性を有するポリペプチドであればより好ましく、95%以上の同一性を有するポリペプチドであればさらに好ましく、98%以上の同一性を有するポリペプチドであれば特に好ましく、100%の同一性を有するポリペプチドが最も好ましい。すなわち、本発明のアミノ酸配列は配列番号1~4のいずれかで示されるアミノ酸配列と80~100%の間の任意の同一性を有するポリペプチドであればよい。配列番号1~4について、配列間の同一性を以下の表1に示す。
本実施形態におけるポリペプチドは天然由来、または人為的に合成された合成ポリペプチドであっても良く、天然由来のポリペプチドに人為的に変異を加えたポリペプチドや、天然由来および/または人為的に合成されたポリペプチドのキメラポリペプチドであってもよい。
ポリペプチドが天然由来の場合、配列番号1~4のいずれかで示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有する限り、その由来は限定されない。しかしながら、ポリペプチドはバークホルデリア属由来、シュードモナス属由来、またはパラバークホルデリア属由来が好ましく、種および株によって限定されないが、シュードモナス属の場合は、シュードモナス・セパシア、シュードモナス・アシドフィラ(Pseudomonas acidophila)、シュードモナス・ルテオラ(Pseudomonas luteola)、またはシュードモナス・メソアシドフィラ(Pseudomonas mesoacidophila)が好ましい。バークホルデリア属の場合は、バークホルデリア・セパシア、バークホルデリア・スタビリス(Burkholderia stabilis)、バークホルデリア・アムビファリア(Burkholderia ambifaria)、バークホルデリア・アンシナ(Burkholderia anthina)、バークホルデリア・カタリネンシス(Burkholderia catarinensis)、バークホルデリア・セノセパシア(Burkholderia cenocepacia)、バークホルデリア・セパシア、バークホルデリア・コンタミナンス(Burkholderia contaminans)、バークホルデリア・ディフサ(Burkholderia diffusa)、バークホルデリア・グラジオリ(Burkholderia gladioli)、バークホルデリア・グルマエ(Burkholderia glumae)、バークホルデリア・ラタ(Burkholderia lata)、バークホルデリア・ラテンス(Burkholderia latens)、バークホルデリア・マレイ(Burkholderia mallei)、バークホルデリア・メタリカ(Burkholderia metallica)、バークホルデリア・マルチボランス(Burkholderia multivorans)、バークホルデリア・オクラホメンシス(Burkholderia oklahomensis)、バークホルデリア・プランタリイ(Burkholderia plantarii)、バークホルデリア・シュードマレイ(Burkholderia pseudomallei)、バークホルデリア・シュードマルチボランス(Burkholderia pseudomultivorans)、バークホルデリア・プラクアエ(Burkholderia puraquae)、バークホルデリア・ピロシニア(Burkholderia pyrrocinia)、バークホルデリア・セミナリス(Burkholderia seminalis)、バークホルデリア・シンギュラリス(Burkholderia singularis)、バークホルデリア・スタグナリス(Burkholderia stagnalis)、バークホルデリア・テリトリ(Burkholderia territorii)、バークホルデリア・タイランデンシス(Burkholderia thailandensis)、バークホルデリア・ユボネンシス(Burkholderia ubonensis)、またはバークホルデリア・ベトナミエンシス(Burkholderia vietnamiensis)が好ましい。パラバークホルデリア属由来の場合はパラバークホルデリア・アスパラチ(Paraburkholderia aspalathi)、パラバークホルデリア・ブリオフィラ(Paraburkholderia bryophila)、パラバークホルデリア・カフェイニリティカ(Paraburkholderia caffeinilytica)、パラバークホルデリア・フンゴラム(Paraburkholderia fungorum)、パラバークホルデリア・ギンセンギテラエ(Paraburkholderia ginsengiterrae)、パラバークホルデリア・インサルサ(Paraburkholderia insulsa)、パラバークホルデリア・クルリエンシス(Paraburkholderia kururiensis)、パラバークホルデリア・セディミニコラ(Paraburkholderia sediminicola)、またはパラバークホルデリア・フェナジニウム(Paraburkholderia phenazinium)が好ましい。また公知の種に分類できないバークホルデリア属菌(Burkholderia sp.)、シュードモナス属菌(Pseudomonas sp.)、またはパラバークホルデリア属菌(Paraburkholderia sp.)でもよい。ポリペプチドは、バークホルデリア(シュードモナス)・セパシア、バークホルデリア・ユボネンシス、又はバークホルデリア・グルマエ、バークホルデリア・タイランデンシスに由来することが特に好ましい。
上記の菌はバイオリソースセンターであるDSMZ(German Collection of Microorganisms and Cell Cultures GmbH)(https://www.dsmz.de/)から購入可能である。
本実施形態において、配列番号1~4のいずれかで示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するポリペプチドは、コレステロールエステラーゼ活性以外に任意の反応を触媒する活性を持っていてもよい。
本発明においてコレステロールエステラーゼ活性以外の活性は限定されないが、リパーゼ活性などのエステラーゼ活性であってもよい。これらの活性はBiosci Biotechnol Biochem.83、1974-1984(2019)、Biochimica et Biophysica Acta 1259 9-17(1995)などに記載された公知の活性の測定方法で検出できれば良く、活性の強さや、リパーゼ活性およびコレステロールエステラーゼ活性など複数の活性がある場合、その比率によって限定されない。なお、配列番号1~4で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドはリパーゼ活性を有する。
本実施形態において、配列番号1~3の場合には当該アミノ酸配列の287位のロイシンに相当するアミノ酸が、又は配列番号4の場合には当該アミノ酸配列の286位のロイシンに相当するアミノ酸が、イソロイシン又はアラニンに置換されている。コレステロールエステラーゼ活性を更に向上させる観点からは、配列番号1又は2で示されるアミノ酸配列における266位のバリンに相当するアミノ酸が更にロイシンに置換されていることが好ましい。
配列番号1~3と配列番号4とで置換されるロイシンの位置が異なるように、各ポリペプチドにおいては、置換されるアミノ酸の位置がポリペプチドの種類によって異なる場合がある。つまり、「287位」や「286位」のアミノ酸位は配列番号1~4のアミノ酸配列を基準とした場合のアミノ酸の位置であり、他のアミノ酸配列において相当する位置とは異なる位置にロイシンと同一又は異なるアミノ酸があったとしても、このアミノ酸をイソロイシン又はアラニンに置換することで、置換前よりもコレステロールエステラーゼ活性が向上する限り、置換後のポリペプチドは本発明の範囲内に含まれる。266位のバリンについても同様であり、対応するアミノ酸をロイシンに置換することで、置換前よりもコレステロールエステラーゼ活性が向上する限り、置換後のポリペプチドは本発明の範囲内に含まれる。
本明細書で使用する場合、「アミノ酸配列の287位のロイシンに相当するロイシン」などの記載における「相当する」とは、対応するアミノ酸が、比較されるタンパク質(酵素)間においてその機能の発揮に同等の貢献をしていることを意味し、特に基質特異性に対する貢献が同等であることを意味する。例えば、基準のアミノ酸配列(つまり配列番号1~4とのいずれかのアミノ酸配列)に対して比較対象のアミノ酸配列を、一次構造(即ちアミノ酸配列)の部分的な相同性を考慮しつつ、最適な比較ができるように並べたときに(このときに必要に応じてギャップを導入し、アライメントを最適化してもよい)、基準のアミノ酸配列中の特定のアミノ酸に対応する位置のアミノ酸を「相当するアミノ酸」として特定することができる。
一次構造を比較する方法にはGENETYX Ver.10.15、MacVector(登録商標)などの遺伝子解析ソフトウェアを使用する方法があり、ClustalW(http://www.ebi.ac.uk/clustalw/)、MultAlin (http://bioinfo.genopole-toulouse.prd.fr/multalin/)、T-COFFEE (http://www.tcoffee.org/Projects_home_page/t_coffee_home_page.html)、MAFFT (http://align.bmr.kyushu-u.ac.jp/mafft/online/server/)、PROMALS (http://prodata.swmed.edu/promals/)等のマルチプルアラインメントツールを提供しているサイトを利用する方法もある。
一次構造同士の比較に代えて、又はこれに加えて三次構造(立体構造)同士の比較によって「相当するアミノ酸」を特定することもできる。三次構造情報を利用することによって信頼性の高い比較結果が得られる。この場合は、複数の酵素の三次構造の原子座標を比較しながらアライメントを行っていく手法をとることが出来る。変異対象酵素の三次構造情報は例えばProtein Data Bank(http://www.pdbj.org/index_j.html)より取得することができる。
配列番号1~3のアミノ酸配列を基準とする場合、当該アミノ酸配列の287位のロイシンに相当するアミノ酸、又は配列番号4のアミノ酸配列を基準とする場合、当該アミノ酸配列の286位のロイシンに相当するアミノ酸は、ロイシンであることが好ましい。
配列番号1又は2のアミノ酸配列を基準とする場合、当該アミノ酸配列の266位のバリンに相当するアミノ酸は、バリンであることが好ましい。配列番号3のアミノ酸配列を基準とする場合、当該アミノ酸配列の266位のロイシンに相当するアミノ酸はロイシンであることが好ましい。配列番号4のアミノ酸配列を基準とする場合、当該アミノ酸配列の265位のロイシンに相当するアミノ酸はロイシンであることが好ましい。
配列番号1~3のいずれかのアミノ酸配列における287位又は配列番号4のアミノ酸配列における286位に相当するアミノ酸はイソロイシンに置換されていることが好ましい。
配列番号1~3のいずれかのアミノ酸配列における266位又は配列番号4のアミノ酸配列における265位に相当するアミノ酸は、ロイシンに置換されていることが好ましい。
本実施形態において、「置換前のポリペプチドと比較してコレステロールエステラーゼ活性が向上している」とは、置換前のポリペプチドが保持していなかったコレステロールエステラーゼ活性が置換により新たに付与されるか、もしくは、置換前のポリペプチドとの比較でコレステロールエステラーゼ活性が実質的に向上していることを意味する。実質的に向上しているとは、置換前のポリペプチドとの比較で活性が少なくとも実質的に向上していることを意味する。20%以上向上していれば好ましく、50%以上向上していればより好ましく、100%以上向上していればさらに好ましく、200%以上向上していれば特に好ましく、1000%以上が最も好ましい。
本実施形態において、アミノ酸配列をコードする塩基配列は特に限定されないが、例えば配列番号1~4のアミノ酸配列をコードする塩基配列の場合、それぞれ順番に配列番号5~8が例示される。配列番号5~8の塩基配列は、コレステロールエステラーゼ活性が低下しない限り、大腸菌や放線菌等宿主のコドン使用頻度に合わせて変更され得る。また、配列番号5~8で示されるような塩基配列はジェンスクリプトジャパン株式会社等のDNA合成受託会社に依頼して合成してもよい。
本実施形態におけるポリペプチドは、置換前又は置換後にリパーゼ活性を有していてもよい。このようなリパーゼ活性を有するポリペプチドは、ポリペプチドが三次構造を形成してリパーゼ活性をBiosci Biotechnol Biochem.83、1974-1984(2019)などに記載された公知の活性の測定方法で検出できればよく、活性の程度や、リパーゼ活性に加えコレステロールエステラーゼ活性など複数の活性がある場合、その比率によって限定されない。
本発明の第二の実施形態において、配列番号1~4のいずれかで示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するポリペプチドにおいて、配列番号1~3の場合には当該アミノ酸配列の287位のロイシンに相当するアミノ酸を、又は配列番号4の場合には当該アミノ酸配列の286位のロイシンに相当するアミノ酸をイソロイシン又はアラニンに置換する工程を含む、ポリペプチドの製造方法が提供される。
本実施形態におけるポリペプチドやその他の用語の定義は第一の実施形態で説明したとおりである。
本実施形態に係る方法は、アミノ酸配列が配列番号1又は2で示されるアミノ酸配列である場合、当該アミノ酸配列の266位のバリンに相当するアミノ酸をロイシンに置換する工程を更に含むことが好ましい。
アミノ酸を異なるアミノ酸に置換する方法のひとつとして、部位特異的変異導入法(Site Directed Mutagenesis、SDM)が挙げられる。すなわち、原型の遺伝子DNAが組み込まれたプラスミドの一本鎖DNAを鋳型にして、変異させようとする塩基配列を含む合成オリゴヌクレオチドをプライマーとして変異型の遺伝子を合成するものである(Sambrook etal.、Molecular cloning、2nd edition、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor、NewYork(1989)。また、KOD -Plus- Mutagenesis Kit、Muta-Direct(登録商標)部位特異的変異導入キット等の市販キットを用いた方法によっても実施することができる。
本発明の第三の実施形態において、配列番号1~4のいずれかで示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するポリペプチドのコレステロールエステラーゼ活性を向上する方法であって、配列番号1~3の場合には当該アミノ酸配列の287位のロイシンに相当するアミノ酸を、又は配列番号4の場合には当該アミノ酸配列の286位のロイシンに相当するアミノ酸をイソロイシン又はアラニンに置換する工程を含む、方法が提供される。
本実施形態におけるポリペプチドやその他の用語の定義は第一の実施形態で説明したとおりである。
本実施形態に係る方法は、アミノ酸配列が配列番号1又は2で示されるアミノ酸配列である場合、当該アミノ酸配列の266位のバリンに相当するアミノ酸をロイシンに置換する工程を更に含むことが好ましい。
本発明の第四の実施形態において、第一の実施形態に係るポリペプチドを含む、試薬組成物が提供される。
試薬組成物の目的は特に限定されないが、試薬組成物は、リポタンパク質中のコレステロール又はそのエステルを測定するために使用されるのが好ましい。測定は、コレステロールエステルおよび/またはコレステロールを定性、半定量、または定量するための測定であれば好ましく、定量するための測定がより好ましい。
定性、半定量、又は定量の対象として、超高比重(密度)リポ蛋白、高比重(密度)リポ蛋白、低比重(密度)リポ蛋白、超低比重(密度)リポ蛋白、中間比重(密度)リポ蛋白、カイロミクロン、small-LDL、βリポ蛋白、pre-βリポ蛋白、及びαリポ蛋白であるリポ蛋白分画中のコレステロールが挙げられる。
試薬組成物は更に緩衝液、界面活性剤、安定化剤、キレート剤、防腐剤等の酵素の活性測定に使用される成分を含んでいてもよい。
本発明の第五の実施形態において、第四の実施形態に係る試薬組成物を含むキットが提供される。
キットは試薬組成物以外の構成要素を含んでいてもよい。例えば、そのような構成要素として、試薬組成物に含まれ得る緩衝液、界面活性剤、安定化剤、キレート剤、防腐剤、発色等の酵素の活性測定に使用される成分に加え、これらの成分を含む1又は複数の容器、アッセイ用のプレートなどが挙げられる。
本発明の第六の実施形態において、第四の実施形態に係る試薬組成物又は第五の実施形態に係るキットを用いてコレステロール又はそのエステルを測定する方法であって、前記組成物又はキットに含まれるポリペプチドと、コレステロール又はそのエステルを含むか、又はその疑いのある被験試料とを接触させる工程を含む、方法が提供される。
被験試料としては、ヒト又はその他の哺乳動物に由来する血液や尿などが挙げられるが、これらに限定されない。
被験試料とコレステロールエステラーゼ活性が向上しているポリペプチドとを接触させることで、従来よりも迅速にコレステロール又はそのエステルの検出が可能になる。
以下、本発明を実施例等に基づいて説明するが、本発明の範囲は以下の実施例等に限定して解釈されない。また、以下に示した測定値等は測定の条件や使用機器の精度等によりその値は変化し得る。
1)バークホルデリア・セパシア由来リパーゼの発現ベクター作製
配列番号9~12に記載のバークホルデリア・セパシアに由来するリパーゼ遺伝子及びその変異体遺伝子とそのシャペロン遺伝子を含むDNA配列を全合成した。当該DNAを鋳型として配列番号13と14に記載の合成オリゴデオキシリボヌクレオチドプライマー(以下、プライマーと略記)を用いて、ポリメラーゼチェーンリアクション法(以下、PCRと略記)によるDNAの増幅を行なった。なお、用いたPCR用酵素はKOD FX Neo(Toyobo社製)である。
上記方法と同様に、特開2019-205402号公報の実施例2に記載の発現ベクターを鋳型として、配列番号15と16に記載のプライマーを用いてDNAの増幅を行った。
PCR反応によって増幅されたこれらのDNA断片をアガロースゲル電気泳動に供し、ゲルから切り出してWizard(登録商標)SV Gel and PCR Clean-Up System(Promega社製)を用いてそれぞれ精製した。この精製済みのDNA断片をIn-Fusion(登録商標)HD Cloning Kit(TaKaRa社製)を用いて連結し、大腸菌DH5αに形質転換後、25μg/mLのカナマイシン硫酸塩を含むLB(1% Bacto(商標)Tryptone、0.5% Bacto(商標)Yeast extract、0.5%塩化ナトリウム)寒天培地に塗布した。37℃で24時間培養後、得られたコロニーを25μg/mLのカナマイシン硫酸塩を含むLB培地に植え継ぎ、37℃で12時間培養後、培養液からWizard(登録商標)Plus MiniPreps DNA Purification Systems(Promega社製)を用いてプラスミドを抽出した。なお、この発現用ベクターは、リパーゼの分泌シグナルペプチド配列の切断箇所の3‘側にポリヒスチジンタグ(Hisタグ)配列が挿入されており、分泌シグナルペプチドが切断された成熟型リパーゼのN末端にHisタグが付加されるように設計した。
2)バークホルデリア・スタビリスを宿主としたバークホルデリア・セパシア由来リパーゼの発現
宿主としてのバークホルデリア・スタビリス(FERM P-21014株)に上記1)で作製したリパーゼの発現ベクターを導入するため、バークホルデリア・スタビリスの菌株をLB培地100mLにて対数増殖期に至るまで30℃で振とう培養した後、遠心分離にて菌体を回収した。回収した菌体に100mLの氷冷滅菌水を加え、懸濁後再び遠心分離し菌体を回収した。この操作をもう一度繰り返した後、回収した菌体に5mL冷却10%グリセリン溶液を加え、よく懸濁し、遠心分離により菌体を回収した。回収した菌体に1mLの氷冷10%グリセリン溶液を加え、懸濁し、40μLずつ分注し、液体窒素で瞬間冷凍し-80℃にて保存した。冷凍保存した菌体を氷上にて融解し、上記1)にて作製した4種類の発現ベクターをそれぞれ約100ng加え、混合した。この混合液を0.2cm幅エレクトロポレーションキュベット(Bio-Rad社製)に移し、遺伝子導入装置ジーンパルサーIIを用いて電場強度2.4kV/cm、キャパシタンス25μF、外部抵抗200Ωにてそれぞれ電気パルスを与えた。電気パルス処理した菌体とDNAの混合液を1mLのLB培地に混合し、30℃にて1時間培養した後、200μLの菌液を200μg/mLのカナマイシン硫酸塩を含むLB培地に塗布し、30℃にて2日間培養し、各発現ベクターの形質転換体を得た。
発現ベクターを導入したバークホルデリア・スタビリスを5mLの3%酵母エキス、3%ソルビトール培地(100μg/mLカナマイシン硫酸塩を含む)に植菌し、28℃にて72時間培養した。培養液を遠心分離した上清を粗酵素液として用いた。
3)組換え型バークホルデリア・セパシアリパーゼの精製
Chelating Sepharose Fast Flow(GEヘルスケア社)担体にNi2+を固定化した後、担体約50μLをマイクロ遠心チューブに加え、溶液A(50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 8.0)、0.3M NaCl)で平衡化した。5000×gで30秒間遠心し、上清を除去した。上記2)で調製した粗酵素液1mLを加え、10分間ゆっくりと混合した。5000×gで30秒間遠心後、上清を除去した。Sepharose担体を1mLの洗浄バッファー(50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)、0.3M NaCl、20mMイミダゾール)で3回洗浄した。洗浄は、洗浄バッファーを加えSepharose担体を10秒間ゆっくりと混合し、その後5000×gで30秒間遠心し、上清を除去した。Sepharose担体に0.1mLの溶出バッファー(50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)、0.3M NaCl、0.4Mイミダゾール)を加え、1分間ゆっくりと混合し、その後5000×gで30秒間遠心し、上清を回収し組換え型リパーゼの溶液を得た。得られた組換え型リパーゼの溶液のタンパク質濃度の定量は、Pierce BCA Protein Assay Kit(Thermo Fisher Scientific)を用いてその推奨プロトコールに従って測定した。得られた組換え型リパーゼの溶液を一部取り、SDS-PAGEで分析した。バークホルデリア・セパシアリパーゼの分子量は33.1kDaであり、予想される大きさに組換え型リパーゼのバンドが観察された(図1)。
実施例1 組換え型バークホルデリア・セパシアリパーゼのコレステロールエステラーゼ活性の測定
上記1)~3)で得た組換え型リパーゼ溶液のコレステロールエステラーゼ活性の評価は、以下の酵素活性測定法を用いて実施した。
<酵素活性測定法>
下記の試薬を下記の通りの濃度で含有する反応試薬を調製した。
[反応試薬]
40mM リン酸カリウム緩衝液(pH6.8)
0.02% TODB(同仁化学研究所)
10U/mL ペルオキシダーゼ
0.3% トリトンX-100
2.5U/mL コレステロールオキシダーゼ
10% 仔牛血清液
0.035% 4-アミノアンチピリン
反応試薬を37℃で10分間予備加温し、日立7080自動分析装置((株)日立製作所製)を用いて、150μLの反応試薬に3μLの組換え型リパーゼ溶液を添加し、37℃で反応させた。添加後76.69秒から119.53秒の主波長546nm、副波長660nmにおける吸光度を測定し、単位時間当たりの吸光度変化量(ΔA/min)を得た。下記の式から得られる値をコレステロールエステラーゼ活性と定義し、コレステロールエステラーゼ活性を算出した。
(式)
コレステロールエステラーゼ活性(U/mL)=ΔA/min÷18x(150+3)÷3÷1000
{式中、ΔA/minは上記反応試薬を添加した76.69秒から119.53秒の主波長546nm、副波長660nmにおける吸光度を測定し、得られた単位時間当たりの吸光度変化量を示す。18はTODBと4-アミノアンチピリンの酸化縮合反応物の550nmにおけるミリモル分子吸光係数、150+3は反応総体積(反応試薬の体積+組換え型リパーゼ溶液の体積)、3は上記組換え型リパーゼ溶液の体積をそれぞれ意味する。}
組換え型リパーゼの溶液について、得られた活性値と上記3)のタンパク質濃度から、タンパク質1mgあたりの比活性(U/mg)を算出した。その結果を表2に示す。
表2に示されるとおり、野生型のバークホルデリア・セパシアリパーゼはコレステロールエステラーゼ活性をほとんど有しないのに対して、266L(266位のアミノ酸をロイシンに置換したことを示す。以下同様)変異体あるいは287I変異体はコレステロールエステラーゼ活性が向上し、266L287I二重変異体はコレステロールエステラーゼ活性が著しく向上した。この結果より、バークホルデリア・セパシア由来リパーゼの266位および287位のアミノ酸をそれぞれロイシン、イソロイシンに置換されたポリペプチドは改変前のポリペプチドと比較してコレステロールエステラーゼ活性が向上することが示された。
実施例2 バークホルデリア・ユボネンシス由来リパーゼおよびその変異体のコレステロールエステラーゼ活性の測定
配列番号17~22に記載のバークホルデリア・ユボネンシスに由来するリパーゼ遺伝子及びその変異体遺伝子とそのシャペロン遺伝子を含むDNA配列を全合成した。当該DNAを鋳型に用いて配列番号23と24に記載のプライマーを用いて、PCRによるDNAの増幅を行ない、上記1)に記載の方法に準じて、発現ベクターを作製した。
上記2)に記載の方法に準じてバークホルデリア・スタビリスを宿主としてバークホルデリア・ユボネンシス由来リパーゼを発現させた。
上記3)に記載の方法に準じて組換え型バークホルデリア・ユボネンシスリパーゼを精製し、タンパク質濃度を測定した。得られた組換え型リパーゼの溶液を一部取り、SDS-PAGEで分析した。バークホルデリア・ユボネンシスリパーゼの分子量は33.1kDaであり、予想される大きさに組換え型リパーゼのバンドが観察された(図2)。 実施例1に記載の方法に準じてコレステロールエステラーゼ活性を測定し、比活性を算出した。その結果を表3に示す。
表3に示されるとおり、野生型のバークホルデリア・ユボネンシスリパーゼはコレステロールエステラーゼ活性をほとんど有しないのに対して、266L変異体あるいは287I変異体はコレステロールエステラーゼ活性が向上し、266L287I二重変異体はコレステロールエステラーゼ活性が著しく向上した。この結果より、バークホルデリア・ユボネンシス由来リパーゼの266位および287位のアミノ酸をそれぞれロイシン、イソロイシンに置換されたポリペプチドは改変前のポリペプチドと比較してコレステロールエステラーゼ活性が向上することが示された。
実施例3 バークホルデリア・タイランデンシス由来リパーゼおよびその変異体のコレステロールエステラーゼ活性の測定
配列番号25~27に記載のバークホルデリア・タイランデンシスに由来するリパーゼ遺伝子及びその変異体遺伝子とそのシャペロン遺伝子を含むDNA配列を全合成した。当該DNAを鋳型に用いて配列番号28と29に記載のプライマーを用いて、PCRによるDNAの増幅を行ない、上記1)に記載の方法に準じて、発現ベクターを作製した。
上記2)に記載の方法に準じてバークホルデリア・スタビリスを宿主としてバークホルデリア・タイランデンシス由来リパーゼを発現させた。
上記3)に記載の方法に準じて組換え型バークホルデリア・タイランデンシスリパーゼを精製し、タンパク質濃度を測定した。得られた組換え型リパーゼの溶液を一部取り、SDS-PAGEで分析した。バークホルデリア・タイランデンシスリパーゼの分子量は33.3kDaであり、予想される大きさに組換え型リパーゼのバンドが観察された(図3)。実施例1に記載の方法に準じてコレステロールエステラーゼ活性を測定し、比活性を算出した。
その結果を表4に示す。
表4に示されるとおり、野生型のバークホルデリア・タイランデンシス由来リパーゼに対して287I変異体はコレステロールエステラーゼ活性が向上した。この結果より、バークホルデリア・タイランデンシス由来リパーゼの287位のアミノ酸をイソロイシンに置換されたポリペプチドは改変前のポリペプチドと比較してコレステロールエステラーゼ活性が向上することが示された。
実施例4 バークホルデリア・グルマエ由来リパーゼおよびその変異体のコレステロールエステラーゼ活性の測定
配列番号30~32に記載のバークホルデリア・グルマエに由来するリパーゼ遺伝子及びその変異体遺伝子とそのシャペロン遺伝子を含むDNA配列を全合成した。当該DNAを鋳型に用いて配列番号33と34に記載のプライマーを用いて、PCRによるDNAの増幅を行ない、上記1)に記載の方法に準じて、発現ベクターを作製した。
上記2)に記載の方法に準じてバークホルデリア・スタビリスを宿主としてバークホルデリア・グルマエ由来リパーゼを発現させた。
上記3)に記載の方法に準じて組換え型バークホルデリア・グルマエリパーゼを精製し、タンパク質濃度を測定した。得られた組換え型リパーゼの溶液を一部取り、SDS-PAGEで分析した。バークホルデリア・グルマエリパーゼの分子量は33.1kDaであり、予想される大きさに組換え型リパーゼのバンドが観察された(図4)。実施例1に記載の方法に準じてコレステロールエステラーゼ活性を測定し、比活性を算出した。その結果を表5に示す。
表5に示されるとおり、野生型のバークホルデリア・グルマエ由来リパーゼに対して286I変異体はコレステロールエステラーゼ活性が向上した。この結果より、バークホルデリア・グルマエ由来リパーゼの286位のアミノ酸をイソロイシンに置換されたポリペプチドは改変前のポリペプチドと比較してコレステロールエステラーゼ活性が向上することが示された。
本発明によれば、従来のポリペプチドと比較してコレステロールエステラーゼ活性が向上している新規ポリペプチドの提供が可能になる。
配列番号1:バークホルデリア(シュードモナス)・セパシア由来リパーゼのアミノ酸配列
配列番号2:バークホルデリア・ユボネンシス由来リパーゼのアミノ酸配列
配列番号3:バークホルデリア・タイランデンシス由来リパーゼのアミノ酸配列
配列番号4:バークホルデリア・グルマエ由来リパーゼのアミノ酸配列
配列番号5:バークホルデリア(シュードモナス)・セパシア由来リパーゼの塩基配列
配列番号6:バークホルデリア・ユボネンシス由来リパーゼの塩基配列
配列番号7:バークホルデリア・タイランデンシス由来リパーゼの塩基配列
配列番号8:バークホルデリア・グルマエ由来リパーゼの塩基配列
配列番号9:バークホルデリア(シュードモナス)・セパシア由来リパーゼの分泌シグナルペプチドとHisタグとマチュアなリパーゼ(野生型)とシャペロンとが直結した塩基配列
配列番号10:バークホルデリア(シュードモナス)・セパシア由来リパーゼの分泌シグナルペプチドとHisタグとマチュアなリパーゼ(266L変異)とシャペロンとが直結した塩基配列
配列番号11:バークホルデリア(シュードモナス)・セパシア由来リパーゼの分泌シグナルペプチドとHisタグとマチュアなリパーゼ(287I変異)とシャペロンとが直結した塩基配列
配列番号12:バークホルデリア(シュードモナス)・セパシア由来リパーゼの分泌シグナルペプチドとHisタグとマチュアなリパーゼ(266L、287I二重変異)とシャペロンとが直結した塩基配列
配列番号13:配列番号9~12の核酸を増幅するための合成オリゴデオキシリボヌクレオチドプライマー
配列番号14:配列番号9~12の核酸を増幅するための合成オリゴデオキシリボヌクレオチドプライマー
配列番号15:発現ベクターを増幅するための合成オリゴデオキシリボヌクレオチドプライマー
配列番号16:発現ベクターを増幅するための合成オリゴデオキシリボヌクレオチドプライマー
配列番号17:バークホルデリア・ユボネンシス由来リパーゼの分泌シグナルペプチドとHisタグとマチュアなリパーゼ(野生型)とシャペロンとが直結した塩基配列
配列番号18:バークホルデリア・ユボネンシス由来リパーゼの分泌シグナルペプチドとHisタグとマチュアなリパーゼ(266L変異)とシャペロンとが直結した塩基配列
配列番号19:バークホルデリア・ユボネンシス由来リパーゼの分泌シグナルペプチドとHisタグとマチュアなリパーゼ(287I変異)とシャペロンとが直結した塩基配列
配列番号20:バークホルデリア・ユボネンシス由来リパーゼの分泌シグナルペプチドとHisタグとマチュアなリパーゼ(266L、287I二重変異)とシャペロンとが直結した塩基配列
配列番号21:バークホルデリア・ユボネンシス由来リパーゼの分泌シグナルペプチドとHisタグとマチュアなリパーゼ(266I変異)とシャペロンとが直結した塩基配列
配列番号22:バークホルデリア・ユボネンシス由来リパーゼの分泌シグナルペプチドとHisタグとマチュアなリパーゼ(287A変異)とシャペロンとが直結した塩基配列
配列番号23:配列番号17~22の核酸を増幅するための合成オリゴデオキシリボヌクレオチドプライマー
配列番号24:配列番号17~22の核酸を増幅するための合成オリゴデオキシリボヌクレオチドプライマー
配列番号25:バークホルデリア・タイランデンシス由来リパーゼの分泌シグナルペプチドとHisタグとマチュアなリパーゼ(野生型)とシャペロンとが直結した塩基配列
配列番号26:バークホルデリア・タイランデンシス由来リパーゼの分泌シグナルペプチドとHisタグとマチュアなリパーゼ(287I変異)とシャペロンとが直結した塩基配列
配列番号27:バークホルデリア・タイランデンシス由来リパーゼの分泌シグナルペプチドとHisタグとマチュアなリパーゼ(287A変異)とシャペロンとが直結した塩基配列
配列番号28:配列番号25~27の核酸を増幅するための合成オリゴデオキシリボヌクレオチドプライマー
配列番号29:配列番号25~27の核酸を増幅するための合成オリゴデオキシリボヌクレオチドプライマー
配列番号30:バークホルデリア・グルマエ由来リパーゼの分泌シグナルペプチドとHisタグとマチュアなリパーゼ(野生型)とシャペロンとが直結した塩基配列
配列番号31:バークホルデリア・グルマエ由来リパーゼの分泌シグナルペプチドとHisタグとマチュアなリパーゼ(286I変異)とシャペロンとが直結した塩基配列
配列番号32:バークホルデリア・グルマエ由来リパーゼの分泌シグナルペプチドとHisタグとマチュアなリパーゼ(286A変異)とシャペロンとが直結した塩基配列
配列番号33:配列番号30~32の核酸を増幅するための合成オリゴデオキシリボヌクレオチドプライマー
配列番号34:配列番号30~32の核酸を増幅するための合成オリゴデオキシリボヌクレオチドプライマー

Claims (14)

  1. 配列番号1~4のいずれかで示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するポリペプチドのコレステロールエステラーゼ活性を向上する方法であって、
    配列番号1~3の場合には当該アミノ酸配列の287位のロイシンに相当するアミノ酸を、又は配列番号4の場合には当該アミノ酸配列の286位のロイシンに相当するアミノ酸をイソロイシン置換する工程を含む、方法。
  2. 前記アミノ酸配列が配列番号1又は2で示されるアミノ酸配列であり、当該アミノ酸配列の266位のバリンに相当するアミノ酸をロイシンに置換する工程を更に含む、請求項に記載の方法。
  3. 配列番号1~4のいずれかで示されるアミノ酸配列と97%以上の同一性を有するポリペプチドであって、配列番号1~3の場合には当該アミノ酸配列の287位のロイシンに相当するアミノ酸が、又は配列番号4の場合には当該アミノ酸配列の286位のロイシンに相当するアミノ酸がイソロイシンに置換されており、置換前のポリペプチドと比較してコレステロールエステラーゼ活性が向上しているポリペプチドを含む、リポタンパク質中のコレステロール又はそのエステルを測定するための試薬組成物。
  4. 前記アミノ酸配列が配列番号1又は2で示されるアミノ酸配列であり、当該アミノ酸配列における266位のバリンに相当するアミノ酸が更にロイシンに置換されている、請求項3に記載の試薬組成物。
  5. 前記ポリペプチドが、バークホルデリア(Burkholderia)属、シュードモナス(Pseudomonas)属又はパラバークホルデリア(Paraburkholderia)属の細菌のポリペプチドに由来する、請求項3又は4に記載の試薬組成物。
  6. 前記配列番号1~4のいずれかで示されるアミノ酸配列と98%以上の同一性を有するポリペプチドが、リパーゼ活性を有するポリペプチドである、請求項3~5のいずれか一項に記載の試薬組成物。
  7. 前記リポタンパク質が、超高比重リポタンパク質、高比重リポタンパク質、低比重リポタンパク質、超低比重リポタンパク質、中間比重リポタンパク質、カイロミクロン、small-LDL、βリポタンパク質、pre-リポタンパク質及びαリポタンパク質から成る群から選択される少なくとも1種のリポタンパク質である、請求項3~6のいずれか一項に記載の試薬組成物。
  8. 請求項3~7のいずれか一項に記載の試薬組成物を含む、キット。
  9. 請求項3~7のいずれか一項に記載の試薬組成物又は請求項に記載のキットを用いてコレステロール又はそのエステルを測定する方法であって、
    前記組成物又はキットに含まれるポリペプチドと、コレステロール又はそのエステルを含むか、又はその疑いのある被験試料とを接触させる工程を含む、方法。
  10. 配列番号1~4のいずれかで示されるアミノ酸配列と97%以上の同一性を有するポリペプチドのコレステロールエステラーゼとしての使用であって、前記ポリペプチドが、配列番号1~3の場合には当該アミノ酸配列の287位のロイシンに相当するアミノ酸が、又は配列番号4の場合には当該アミノ酸配列の286位のロイシンに相当するアミノ酸がイソロイシンに置換されており、置換前のポリペプチドと比較してコレステロールエステラーゼ活性が向上している、使用。
  11. 前記アミノ酸配列が配列番号1又は2で示されるアミノ酸配列であり、当該アミノ酸配列における266位のバリンに相当するアミノ酸が更にロイシンに置換されている、請求項10に記載の使用。
  12. 前記ポリペプチドが、バークホルデリア(Burkholderia)属、シュードモナス(Pseudomonas)属又はパラバークホルデリア(Paraburkholderia)属の細菌のポリペプチドに由来する、請求項10又は11に記載の使用。
  13. 前記配列番号1~4のいずれかで示されるアミノ酸配列と98%以上の同一性を有するポリペプチドが、リパーゼ活性を有するポリペプチドである、請求項10~12のいずれか一項に記載の使用。
  14. リポタンパク質中のコレステロール又はそのエステルを測定するための試薬組成物の製造における、請求項10~12のいずれか一項に記載の使用。
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