JP2019190532A - 転がり軸受及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】真空環境下等において好適に使用でき、転がり軸受から発生する塵埃やアウトガスが少なく、優れた耐久性を有する転がり軸受を提供する。【解決手段】内外輪の軌道面及び転動体の転動面の少なくとも1つに、20℃における蒸気圧が1×10−5Pa以下であるフッ素系潤滑油と、フッ素樹脂とを含有し、かつ、平均分子量が6250以下であるフッ素系潤滑油からなる潤滑膜を有し、前記フッ素系潤滑油と前記フッ素樹脂との配合比が、質量比で、フッ素系潤滑油:フッ素樹脂=1:0.22〜1:0.44である転がり軸受。【選択図】図1

Description

本発明は転がり軸受、より詳細には低発塵の転がり軸受に関する。また、本発明はその製造方法に関する。
転がり軸受は、例えば半導体製造装置内部に配設される搬送系装置に用いられることがある。このような真空環境下あるいはクリーンルーム等の清浄雰囲気中(以下、「真空環境下等」と記すこともある。)で使用される転がり軸受には、動作円滑性、高耐久性などに加え、低発塵性が要求される。従来から、転がり軸受の転動部位に潤滑剤を塗布・封入することにより、転動体及び転動体と接触する部位の摩耗を防ぎ、動作の円滑性を保っているが、発塵等による汚染がほとんど許容されない真空環境下等で用いられる転がり軸受においては、極めて揮発性が低いフッ素系潤滑油を基油としたフッ素系潤滑剤を用いることにより、転がり軸受外部に飛散あるいは蒸発する潤滑剤の量を抑制している。
このようなフッ素系潤滑剤について、特許文献1,2では、軸受材料との親和性が高い官能基を分子構造中に有するフッ素系潤滑油を用いることで、低発塵性及び耐久性を高めている。また、特許文献3には、基油としてフッ素系潤滑油と、増ちょう剤としてポリテトラフルオロエチレンと、を含有するフッ素系グリースが示されている。さらに、特許文献4及び5には、フッ素系グリースを封入した転動装置が示されている。また、特許文献6には、ポリテトラフルオロエチレンを主として含有するフッ素系固体潤滑剤をコーティングした転がり軸受が示されている。
更に、特許文献7には、オイルプレーティング処理により、20℃における蒸気圧が1×10−5Pa以下の潤滑油と、フッ素樹脂とを含有する潤滑剤からなる潤滑膜を形成した転がり軸受が示されている。
特開2001−173667号公報 特開昭62−246621号公報 特開平1−284542号公報 特開2003−13974号公報 特開2002−357225号公報 特開平5−240257号公報 特開2005−36959号公報
しかしながら、特許文献1、2では、軸受材料との親和性の高い官能基を有するフッ素系潤滑油を付着させることにより低発塵性、耐久性を向上させているが、軸受部材に化学的に付着している分子は一分子層であり、化学的に付着していない他のフッ素系潤滑油は付着に供されていない。また、一般に官能基を有するフッ素系潤滑油は、官能基を有しないフッ素系潤滑油と比較して蒸気圧が高いため、付着に供されていないフッ素系潤滑油が蒸発してアウトガスや発塵粒子として発生する。
特許文献7のように、オイルプレーティング処理により、付着に供されていないフッ素系潤滑剤の量を減じることもできるが、潤滑膜の耐久性に改善の余地がある。
また、特許文献3〜5のように、フッ素系グリースを使用した場合には、外部飛散を抑制するためにグリース使用量を少量にする必要があるが、この場合には、潤滑作用の不足や耐久性の低下を余儀なくされる。
特許文献6のように、フッ素系高分子固体潤滑剤で転動部位をコーティングする場合は、比較的大きなアキシアル荷重がかかる状況においては、固体潤滑剤の剥離や欠落が生じたり、摩耗による発塵が多くなるため、耐久性及び低発塵性の点で不十分な場合がある。
本発明は、上述のような問題点に鑑みてなされたものであり、真空環境下等において好適に使用でき、転がり軸受から発生する塵埃やアウトガスが少なく、優れた耐久性を有する転がり軸受を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、本発明は下記の転がり軸受及びその製造方法を提供する。
(1)内外輪の軌道面及び転動体の転動面の少なくとも1つに、
20℃における蒸気圧が1×10−5Pa以下であるフッ素系潤滑油と、フッ素樹脂とを含有し、かつ、平均分子量が6250以下であるフッ素系潤滑油からなる潤滑膜を有し、
前記フッ素系潤滑油と前記フッ素樹脂との配合比が、質量比で、フッ素系潤滑油:フッ素樹脂=1:0.22〜1:0.44であることを特徴とする転がり軸受。
(2)真空中あるいはクリーンルームで用いられることを特徴とする上記(1)記載の転がり軸受。
(3)20℃における蒸気圧が1×10−5Pa以下であるフッ素系潤滑油と、フッ素樹脂とを含有し、かつ、平均分子量が6250以下であるフッ素系潤滑油と、希釈溶媒とを、質量比で、フッ素系潤滑油:希釈溶媒=1:7.6〜1:15.6で混合した潤滑剤希釈溶液を用い、内外輪の軌道面及び転動体の転動面の少なくとも1つに、オイルプレーティング処理することを特徴とする転がり軸受の製造方法。
(4)前記オイルプレーティング処理は、100℃以上250℃以下で、15分間以上60分間以下加熱することを特徴とする上記(3)記載の転がり軸受の製造方法。
本発明によれば、特定のフッ素系潤滑油と、フッ素樹脂とを含有する潤滑剤からなる潤滑膜を形成することにより、高度な回転性能を維持しつつ、発塵及びアウトガスを抑制することができるとともに、耐久性にも優れる転がり軸受が得られる。
本発明の転がり軸受の一例を示す一部破断断面図である。 耐久試験装置を示す断面図である。 発塵試験装置を示す断面図である。 試験1における、耐久性試験の100℃、荷重条件1での結果を示すグラフである。 試験1における、耐久性試験の150℃、荷重条件1での結果を示すグラフである。 試験1における、耐久性試験の200℃、荷重条件1での結果を示すグラフである。 試験1における、耐久性試験の200℃。荷重条件2での結果を示すグラフである。 試験1における、発塵試験の回転速度300min−1での結果を示すグラフである。 試験1における、発塵試験の回転速度1000min−1での結果を示すグラフである。 試験1における、潤滑油とフッ素樹脂との割合及び潤滑油と溶剤との割合を変えた時の発塵試験の回転速度300min−1での結果を示すグラフである。 試験1における、潤滑油とフッ素樹脂との割合及び潤滑油と溶剤との割合を変えた時の初時試験の回転速度1000min−1での結果を示すグラフである。 試験2の結果を示すグラフである。 試験3の結果を示すグラフである。 試験4における、回転速度300min−1での結果を示すグラフである。 試験4における、回転速度1000min−1での結果を示すグラフである。 アウトガス試験装置を示す断面斜視図である。 試験5の結果を示すグラフである。 トルク試験装置を示す断面図である。 試験6の結果を示すグラフである。 試験7の結果を示すグラフである。 試験8の結果を示すグラフである。
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
本発明において、転がり軸受の種類や構造自体には制限はなく、内外輪の軌道面及び転動体の転動面の少なくとも一つに、後述する特定のフッ素系潤滑剤からなる潤滑膜が形成されている。例えば、図1に示すように、転がり軸受100は、内輪101と、外輪102と、転動体である玉103と、プレス加工により製造した波形の保持器104と、を備えており、内輪101の軌道面、外輪102の軌道面及び玉103の表面に、それぞれ潤滑膜105が形成されている。尚、潤滑膜105は、内輪101の軌道面、外輪102の軌道面及び玉103の何れか1つに形成されていてもよい。
内輪101、外輪102、玉103及び保持器104を形成する材料には制限はないが、一般的に軸受用として使用されている金属材料で形成される他、例えば耐食性を有する金属材料により形成される。この種の金属材料としては、JIS規格SUJ2などの軸受鋼、JIS規格SUS440Cなどのマルテンサイト系ステンレス鋼、JIS規格SUS630などの析出硬化型ステンレス鋼、及び、これらの金属材料に浸炭処理、窒化処理や、ダイヤモンドライクカーボンの皮膜処理などの適当な硬化熱処理を施したものなどが挙げられる。また、軽荷重用途であれば、例えばJIS規格SUS304やSUS316などのオーステナイト系ステンレス鋼や、チタン合金に表面硬化処理を施したものを用いることができる。なお、玉103には、上記金属材料の他に窒化けい素やアルミナ、ジルコニア等のセラミックを用いることができる。
上記に列挙した金属材料及びセラミックの中でも、耐食性を有する材料を用いることが好ましく、特に、内輪101及び外輪102にはマルテンサイト系ステンレス鋼を用い、玉103にはマルテンサイト系ステレンス鋼及びセラミックを用いることが望ましい。その理由は以下の通りである。
通常、転がり軸受に耐食性を持たせるために、潤滑剤中に防錆剤を添加するという方法が取られる。ところが、この防錆剤は本発明の潤滑膜105を構成するフッ素系潤滑剤の各成分と比べて蒸発しやすいことから、防錆剤の添加は発塵やアウトガスを増加させる要因となってしまう。そこで、内輪101及び外輪102に耐食性の材料を用いれば、耐食性を実現するとともに、潤滑剤の使用量を低減できるため、本発明が目的とする発塵及びアウトガスの抑制も達成することができる。
また、保持器104には、上記金属材料の他、黄銅、チタン材などが好適に用いられるが、合成樹脂材料を用いることもできる。この合成樹脂材料としては、例えばPTFE、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)などのフッ素樹脂や、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ナイロン46等のエンジニアリングプラスチックなどの使用も可能である。 これらの合成樹脂材料には、ガラス繊維などの強化繊維が添加されていてもよい。保持器104の形式は、波形の他に、冠形、もみ抜き形とすることもできる。
潤滑膜105は、フッ素系潤滑油と、フッ素樹脂とを含むフッ素系潤滑剤からなる。フッ素系潤滑油は、20℃における蒸気圧が1×10−5Pa以下であり、蒸気圧が低いほどアウトガスが少なく好ましい。20℃における蒸気圧が1×10−5Paを超えると、フッ素樹脂を添加してもアウトガス抑制の効果が十分に得られない。また、フッ素系潤滑油の平均分子量が6250以下であり、平均分子量が6250を超えると転がり軸受の動摩擦トルク値が著しく大きくなる。
フッ素系潤滑油は上記の蒸気圧を、フッ素系潤滑剤は上記の平均分子量を満足する限り制限はないが、フッ素系潤滑油は例えば、フルオロポリエーテル重合体又はポリフルオロアルキル重合体を用いることができる。フルオロポリエーテル重合体としては、−C−F2x−O−という一般式(Xは1〜4の整数)で示される単位を主要な繰り返し単位とする重合体である。
ポリフルオロアルキル重合体は、R−(CF−Rという式(nは整数)で表されるものであり、R及びRとしては下記化学式1に示すものが挙げられる。なお、R及びRは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
Figure 2019190532
また、フッ素系潤滑油は、分子構造中に官能基を有しないものに加え、分子構造中に官能基を有するものを一定量添加させても良い。この官能基については、金属に対して親和性の高いもの、例えばエポキシ基、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、メルカプト基、スルフォン基又はエステル基などが好ましい。
上述のフッ素系潤滑油として、より詳しくは、パーフルオロポリエーテル(PFPE)あるいはその誘導体との混合物、例えばソルベイスペシャルティポリマーズジャパン株式会社の商品名フォンブリン(FONBLIN)Yスタンダード、フォンブリンエマルジョン(FE20,EM04など)又はフォンブリンZ誘導体(FONBLIN Z DEAL,FONBLIN Z DIAC,FONBLIN Z DISOC,FONBLIN Z DOL,FONBLIN Z DOLTX2000,FONBLIN Z TETRAOLなど)が好適に用いられる。
フッ素樹脂は、付着に供しない余分のフッ素系潤滑油をトラップする作用があり、発塵及びアウトガスの抑制効果をより高める。そのため、潤滑膜105を厚く形成することができ、耐久性の向上を図ることもできる。
フッ素樹脂としては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)や四フッ化エチレンパーフルオロビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ化エチレンプロピレン共重合体(FEP)などを用いることができる。また、フッ素樹脂の平均分子量は、フッ素系潤滑剤の平均分子量が上記範囲となるように選択される。
そして、上記フッ素系潤滑油と上記フッ素樹脂とを混合したフッ素系潤滑剤を調製し、オイルプレーティング処理して潤滑膜105を形成する。フッ素系潤滑剤におけるフッ素系潤滑油とフッ素樹脂との配合比は、質量比で、フッ素系潤滑油:フッ素樹脂=1:0.22〜1:0.44が好ましい。フッ素樹脂の含有量が上記配合比よりも低い場合には発塵抑制効果が劣化し、逆に高い場合にはフッ素系潤滑油の含有量が低くなるため、潤滑性能が劣化する。より望ましくは、上記配合比が1:0.26〜1:0.44である。
また、フッ素樹脂はパウダーであり、フッ素系潤滑剤は、いわゆるゲル状になっている。 フッ素系樹脂は微粒であるほど好ましく、平均粒径で1μm以下がより好ましい。
オイルコーティング処理するためには、フッ素系潤滑剤の濃度が高すぎるため、希釈溶媒で希釈して潤滑剤希釈溶液を調製する。潤滑剤希釈溶液は、質量比で、フッ素系潤滑油:希釈溶媒=1:7.6〜1:15.6とすることが好ましい。この配合比より希釈溶媒が少ない場合は、フッ素系潤滑油が過剰量となって低アウトガス性と低発塵性が損なわれる可能性があり、配合比より希釈溶媒が多い場合は、フッ素系潤滑油が不足して潤滑耐久性能が不十分となる可能性がある。望ましくは、上記配合比は,フッ素系潤滑油:希釈溶媒=1:7.6〜1:14.1である。
希釈溶媒としては、代替フロン系の希釈溶媒、パーフロオロカーボン(PFC)、フッ素系不活性溶液のスリーエムジャパン株式会社製「ノベック」、三井・デュポンフロロケミカル株式会社製「バートレル」、ソルベイスペシャルティポリマーズジャパン株式会社製「ガルデン」などが挙げられる。
潤滑剤希釈溶液は、上記のフッ素系潤滑油、フッ素樹脂及び希釈溶媒のみから構成してもよいが、潤滑膜105としての化学的、機械的特性を考慮して、更には潤滑剤希釈溶液の塗布性を考慮して、他の成分を添加することもできる。例えば、平均粒径1μmのフッ素樹脂と、平均粒径2.5μmのフッ素樹脂とを混合してもよい。
そして、内輪101、外輪102、玉103及び保持器104を組み立てて転がり軸受100を完成状態としてから、脱脂洗浄後、内輪101及び外輪102間で玉103の存在する箇所に、潤滑剤希釈溶液をスポイトなどにより必要量だけ注入する。その後、転がり軸受100を数回回転させることにより、潤滑剤希釈溶液を内輪101、外輪102、玉103及び保持器104の転動部位、摺動部位に付着させる。尚、潤滑剤希釈溶液の供給は、スポイトの他にも刷毛による塗布を行ってもよいし、スプレーを用いた噴霧により行ってもよい。
また、潤滑剤希釈溶液の貯留槽に、組み立てた転がり軸受100を浸漬した後、引き上げることもできる。この浸漬法では、転がり軸受100を構成する個々の部品を、個別に浸漬して潤滑膜を形成した後、軸受を組み立ててもよい。
この後、潤滑剤希釈溶液を付着させた転がり軸受100の全体を、100℃以上250℃以下で、15分間以上60分間以下加熱して、希釈溶媒を蒸発させることにより、潤滑膜105を形成する。加熱温度及び加熱時間において、上限温度及び上限加熱時間を超える場合には、潤滑膜105を構成する潤滑剤の潤滑性が劣化し、また、内輪101及び外輪102の各軌道面や玉103の転動面の硬度低下及び寸法変化の原因となる。逆に、あまりに低い温度や短い加熱時間に設定すると、希釈溶媒を完全に除去することができない。そのため、実際のオイルプレーティング処理の際には、上記の加熱温度及び加熱時間の範囲内であって、かつ、用いた希釈溶媒の種類や含有量に応じて該希釈溶媒を除去するのに十分な加熱温度及び加熱時間を設定する。また、軌道面等を構成する材料についても考慮し、例えば焼入れ・焼き戻し処理した鋼を用いる場合には、上記硬度低下及び寸法変化をもたらさないような加熱温度及び加熱時間を設定する。
本発明の転がり軸受として、例えば下記を例示することができる。
分子構造中に官能基を有しないフッ素系潤滑油を90質量%と、分子構造中に官能基を有するフッ素系潤滑油を10質量%とを混合してフッ素系潤滑油とする。このフッ素系潤滑油の20℃における蒸気圧は1×10−5Pa以下であり、平均分子量は6250である。
上記フッ素系潤滑油と、平均分子量が3000で、平均粒径が1μmのPTFEパウダーとを、質量比で、フッ素系潤滑油:PTFEパウダー=1:0.26にて混合し、平均分子量が6250以下のフッ素系潤滑剤を調製する。
次いで、フッ素系潤滑剤と、希釈溶媒であるソルベイスペシャルティポリマーズジャパン株式会社製「ガルデンSV80」とを、質量比で、フッ素系潤滑油:希釈溶媒=1:7.6にて希釈して潤滑剤希釈溶液とする。
そして、潤滑剤希釈溶液にSUS440C製の深溝玉軸受を浸漬し、内外輪の表面を拭き取り、軸受全体を120℃で約30分間加熱して潤滑膜を形成して本発明の転がり軸受が完成する。
本発明の転がり軸受100では、潤滑膜105による潤滑作用が安定的に維持され、しかも、フッ素系潤滑油が低蒸気圧であるため揮発しにくく、更には付着に供しないフッ素系潤滑油がフッ素樹脂によりトラップされるため、低発塵及び低アウトガスとなる。また、グリースと異なり、回転抵抗が極めて小さいため、トルクの上昇を招くこともなく、高精度な回転性能が得られる。更には、流動性が保たれることから固体潤滑膜で見られる剥離や欠落、摩耗による発塵が抑制される。そのため、本発明の転がり軸受は、真空中あるいは精密機械製造工場等のクリーンルームでの使用に好適である。
製造方法においても、オイルプレーティング処理することにより、潤滑膜105を薄膜にすることができる。潤滑膜105が厚くなると、余分な潤滑剤が飛散しやすくなるため、発塵やアウトガスの抑制効果が低下するが、本発明によればこのような問題もない。
以下に試験例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。
[試験1]
先ず、試験装置について説明する。
(耐久試験装置)
図2に耐久試験装置を示すが、図示されるように、水平に配置された回転軸1の2箇所段部に、2個の試験軸受2が回転軸両端からそれぞれ装填、嵌合している。略スリーブ形状の軸受ハウジング3が2個の試験軸受2にそれぞれ嵌合していて、試験軸受ハウジング3は外径に段部を有していて、段部が突き当てとなるように軸受ハウジング3が門型ハウジング5にそれぞれ嵌合している。2個の門型ハウジング5は真空槽7の中間板16に機械的に接合されていて、回転軸1が水平を保持するように試験軸受2を支持している。
試験軸受2は、ばね6(図では圧縮ばね)等で予圧が付与できるようになっている。軸受ハウジング3の外径にはヒータ4が巻かれていて、要に応じて試験軸受2を昇温することが可能である。
門型ハウジング5で支持される試験軸受2と回転軸1等はすべて真空槽7の内部に配置されている。回転軸1の端部にはカップリング9が配置されていて、カップリング9に同軸的に接続される回転導入軸10が、真空槽7との真空気密を保持しながら、外部から回転自在となっている。真空槽7の底部7Aには排気ポート8が真空気密的に接続されていて、排気ポート8に真空ポンプを接続・作動させて真空槽7の内部を真空環境にすることができる。
回転導入軸10の真空気密は、磁気シールや磁気カップリング,あるいは差動排気シールやOリング等の弾性シール等を使用できる。
真空ポンプを作動させて、真空槽7の内部を真空環境とした後に、外部駆動(図示せず)によって回転導入軸10を回転させると試験軸受2も回転するので、真空環境において、試験軸受2の回転試験を行うことが可能となる。
この時、ヒータ4に通電して作動させると、試験軸受2を昇温することができる。試験軸受2の温度を図示しないセンサ(熱電対等)でモニタ制御を行なえば、所定の軸受試験温度で、真空環境での試験軸受2の回転試験を行うことが可能となる。
回転軸1や軸受ハウジング3、門型ハウジング5の材質は特に問われるものではないが、一般の軟鋼やSUS304等のオーステナイト系ステンレス鋼等、SUS420等のマルテンサイト系ステンレス鋼等、SUS430等のフェライト系ステンレス鋼等、SUS630等の析出硬化型ステンレス鋼等が用いられる。
ばね6の材質は、一般のピアノ線、オイルテンパー線等で良いが、昇温して試験を行う場合は、SUS304やSUS631等のステンレス鋼等、さらに350℃以上での試験を行う場合は、インコネル600やインコネルX−750等の耐熱性能の優れる合金材料を使用すると良い。
カップリング9の材質も特に問われるものではなく、A5052、A5056等の一般アルミニウム合金の他、A2017、 A2024、A7075等のジュラルミン、SUS316LやSUS304、SUS303等のステンレス鋼等が、単独、あるいは複合的に用いられる。試験軸受2を昇温して試験を行う場合は、回転軸1が熱膨張することが考えられるので、熱膨張長さを吸収できる充分な許容軸方向変位量を持ったカップリング9が選定される。図示しないが、軸とそれを覆うカップとその両者をボールで機械結合した形式の、ボールカップリング等は許容軸方向変位量が大きいので、試験軸受2を昇温させる場合は好適である。
回転軸1上の2個の試験軸受2の中央地点からの等配位置に支持軸受11が2個配置されていて、支持軸受11は略円筒形状の支持軸受ハウジング12に嵌合している。支持軸受ハウジング12の外径の中央地点対応位置にはワイヤー13が取り付けられていて、ワイヤー13のもう一方の端部にはウェイトトレー14が取り付けられている。試験軸受2を水平支持すると、2個の試験軸受2の中央地点からワイヤー13が懸垂されて、その直下にウェイトトレー14が懸垂される。ウェイトトレー14にウェイト15を載せて懸垂させると、2個の試験軸受2にはラジアル荷重が負荷されることになるが、それぞれの試験軸受2には均等に荷重が負荷されるように回転軸1やそれに付属する部品等が設定、配置されている。ウェイト15の重量は、試験軸受2に支持される回転軸1やそれに付属する部品等の重量を勘案して、所定のラジアル荷重となるように設定される。
天板7Bの材質は、SUS304、SUS316、SUS316L等のオーステナイト系ステンレス鋼等の他、 A5052、A5056等の一般アルミニウム合金、A2017、 A2024、A7075等のジュラルミン等が用いられるが、ガラスを使用して真空槽7の内部を覗くことができるようにするのでも良い。ガラスの材質は一般のソーダガラスの他、強化ガラス、石英ガラス等が用いられ、酸化ホウ素添加の耐熱ガラス等を使用すると高温の軸受試験に好適と言える。
門型ハウジング5は、真空槽7の深さ方向の中央位置に水平に配置された真空槽中間板16に締結されている、真空槽中間板16上の門型ハウジング5の中間地点には、貫通穴16Aが設けられていて、貫通穴16Aの中央を通過してワイヤー13が懸垂されている。
図示しないメンテナンスポートから手を入れて、ウェイトトレー14にウェイト15を積載した後、このメンテナンスポートを閉塞して真空槽7を真空封止化する。
次に、本装置の機能・効果について説明する。試験軸受2を2個、回転軸1に挿入し、所定の手順で装置を組み立てて、2個の門型ハウジング5によって回転軸1が水平となるように配置する。回転軸1は、回転導入軸10にカップリング9で回転拘束的に接続されている。回転導入軸10は、外部回転自在に真空封止されている。
真空槽7の底部7Aには排気ポート8が貫通して設けられているので、排気ポート8を真空気密的に図示しない真空ポンプと接続すれば、真空槽7の内部を排気できる。
真空ポンプを作動させると、真空槽7の内部は真空環境となる。この時、図示しない外部駆動機構によって回転導入軸10を回転させれば、回転軸1が回転し、試験軸受2も回転する。したがって、真空環境中で試験軸受2を回転させることができる。
ヒータ4に通電すると、ヒータ4が巻かれている軸受ハウジング3が加熱され、軸受ハウジング3に嵌合している試験軸受2が加熱される。この時、図示しない熱電対等の温度センサを試験軸受2の外径に接触配置してヒータ4を制御することにより、所定の軸受温度における試験が可能となる。
回転導入軸10には、常圧環境中に、図示しないトルク検出器が接続されていて、試験最中に回転導入軸10の動摩擦トルクを常時モニタしている。試験軸受2の運転が継続して、いずれ試験軸受2が損傷した場合には、試験軸受2の動摩擦トルク値になんらかの変化が生じ、それにより回転導入軸10の動摩擦トルク値に変化が生じるので、試験軸受2の損傷の発生を検知することができる。回転導入軸10の駆動源がサーボモータ等である場合には、モータのサーボ電圧出力値の変化をモニタすることで、トルク検出器を取り付けなくても、トルク検出器による動摩擦トルク値の変化をモニタすることに代えることができる。
動摩擦トルク値に変化が生じたら、あるいはサーボ電圧出力値に変化が生じたら、試験軸受2に損傷が生じた可能性があるので、試験装置を停止して試験を終了し、試験軸受2の走行距離(総回転数)を耐久性能の指標とする。
装置諸元は以下の通りである。
・試験軸受:
内径:8〜40mm
個数:2
軸受姿勢:水平軸
回転輪:内輪回転
・回転速度:最大3000min−1
・試験環境:真空
・軸受温度:最高大400℃
・測定項目:動摩擦トルク値
(発塵試験装置)
図3に発塵試験装置を示すが、図示されるように、2個の支持軸受21によって水平に支持された回転軸22の端部22Aに同軸的にセンタ軸23が嵌合し、締結されている。センタ軸23の外径には試験軸受24が同軸的に嵌合し、試験軸受24の内輪が内輪押さえ25によって内輪がセンタ軸23と機械一体的に取り付けられている。試験軸受24の外輪は、試験軸受ハウジング26に同軸的に嵌合していて、試験軸受ハウジング26は回転軸22と同軸的に配置されている。試験軸受24の外輪端面は、外輪押さえ27の端面と全周で接触していて、圧縮ばね28によって外輪押さえ27の端面から図右方に負荷を受けていて、それにより試験軸受24は予圧に保持されている。
回転軸22の端部22Aにはカップリング29が同軸的に嵌合し、機械一体的に結合していて、カップリング29の反対側には一部しか図示しないモータ30のモータ軸30Aが同軸的に嵌合し、機械一体的に結合している。
したがって、モータ30を回転駆動させれば、回転軸22が回転して試験軸受24の内輪を回転させることができる。試験軸受24は予圧状態を保持したまま回転する。
回転軸22はリング形状の磁気シール31を貫通していて、回転軸22の外径と磁気シール31とは気密的に封止されている。磁気シール31の外径に機械的に連なる部品は、全てOリングによって気密的に封止されて気密室を形成しているので、回転軸22の端部22Aは気密室32の外から中に挿入されて、同時に気密が保持される。
回転軸22を回転させても、磁気シール31の機能によって気密室32は気密状態が保持されるので、回転軸22の端部22Aに試験軸受24を機械的に結合することで気密室32の内部で試験軸受24を回転させることができる。気密室32の内部は気密状態が保持されているので、支持軸受21から発塵が生じたとしても塵埃が気密室32に入り込むことはない。
気密室32は、円筒形状に気密室胴部33を具備していて、気密室胴部33をアクリルやガラス等の透明部材を用いれば気密室32にある試験軸受24を目視することができる。
気密室胴部33の端面には、円盤形状の側板34が気密的に結合されている。側板34には貫通穴が2箇所設けられていて、いずれにも配管ポート35が気密的に結合されている。配管ポート35の一方にヘパフィルタ等で清浄化されたクリーンエアを配管、接続し、もう一方に図示しないパーティクルカウンタを配管、接続すれば、気密室32にクリーンエアを継続的に導入し、同時に気密室32の内部のエアをパーティクルカウンタでパーティクル測定を行なうことができる。パーティクルカウンタ内設のポンプによってエアをパーティクルカウンタに導入するのと同時に、クリーンエアを気密室32に導入できるので、パーティクルカウンタで測定されるパーティクルは、全て気密室32の内部で発生したパーティクルであると言える。
したがって、気密室32の内部で試験軸受24を回転させれば、他に発塵源は気密室32の内部には存在しないので、測定されたパーティクルは全て試験軸受24から発生したものと言える。よって、この装置により、常圧環境中の軸受の発塵試験が実行可能となる。
試験諸元は以下の通りである。
・試験軸受:
内径:8〜60mm
個数:1
軸受姿勢:水平軸
回転輪:内輪回転
・回転速度:最大3000min−1
・試験環境:常圧
・軸受温度:常温成り行き
・測定項目:発塵サイズと個数
次に、試験軸受を説明する。
(試験軸受)
分子構造中に官能基を有しないフッ素系潤滑油A(20℃における蒸気圧:1×10−5Pa以下、平均分子量:6250)を用意した。
上記フッ素系潤滑油Aにフッ素系樹脂(PTFE;平均分子量3000)を、質量比で、フッ素系潤滑油A:フッ素系樹脂(PTFE)=1:0.26にて混合し、平均分子量が6250以下であるフッ素系潤滑油Aを調製した。
次いで、フッ素系潤滑油Aと、希釈溶媒である「ノベック7100」とを、質量比で、フッ素系潤滑油A:希釈溶媒=1:7.6にて希釈して潤滑剤希釈溶液Aとした。
そして、潤滑剤希釈溶液AにSUS440C製の深溝玉軸受を浸漬し、軸受全体を140℃で約30分間加熱して潤滑膜を形成して試験軸受(実施例)とした。
また、比較のために、特開2005−36959号公報に従い、潤滑油Bとしてアルキル化シクロペンタン(蒸気圧:1×10−5Pa以下)を用い、この潤滑油Bに上記のフッ素系樹脂(PTEF)を、質量比で、潤滑油B:フッ素系樹脂(PTFE)=1:0.20にて混合して潤滑剤Bを調製した。次いで、潤滑剤Bと、希釈溶媒であるヘキサンとを、質量比で、潤滑油B:希釈溶媒=1:19にて希釈して潤滑剤希釈溶液Bを調製し、同様にしてオイルプレーティング処理して試験軸受(比較例)を作製した。
尚、各試験軸受とも、内輪と外輪との隙間の空間を露出(シールド無し)した。また、後述する試験2〜8においても、試験軸受はシールド無しである。
(耐久性試験)
上記の試験軸受について、図2に示す耐久試験装置を用いて耐久性能を評価した。尚、試験軸受は、内径が8mmとし、ここでは実施例1、比較例1とする。
試験条件は以下の通りである。
・回転速度:3000min−1
・試験環境:真空(1×10−1Pa程度)
・軸受温度:100、150及び200℃
・荷重条件:予圧あり
荷重条件はラジアル荷重違いで2条件であり、
荷重条件1:ラジアル荷重P/C<5(*1)
荷重条件2:同P/C>5(ラジアル荷重値開示せず)
(*1 P:動等価荷重、C:基本動定各荷重)
・試験終了条件:モニタしている動摩擦トルク値が急激に増加したり、異音や多量の摩耗
粉が生じたり、あるいは、それらが複合して起こった場合に試験終了
・試験条件番号と試験回数:試験は4条件で行った。追い番号で、試験条件1−1〜1−4と呼称する。各試験条件と、実施例番号、比較例番号及び試験回数は以下のとおり。
試験条件1−1:100℃×荷重条件1、実施例1−1:1回、比較例1−1:1回
試験条件1−2:150℃×荷重条件1、実施例1−2:2回、比較例1−2:3回
試験番号1−3:200℃×荷重条件1、実施例1−3:1回、比較例1−3:1回
試験番号1−4:200℃×荷重条件2、実施例1−4:1回、比較例1−4:1回
各試験条件での試験結果を図4〜7に示すが、試験条件番号と図との対応は、試験条件1−1については図4、試験条件1−2については図5、試験条件1−3については図6、試験条件1−4については図7に示す。
各図に示すように、100℃では、実施例1−1は、比較例1−1に対して約3倍の耐久性能を示した。150℃については同等から約2倍程度、200℃については約3倍〜6倍超、実施例1群が比較例1群に対して優れた耐久性能を示した。このように、本発明の転がり軸受が真空高温環境下での耐久性能に優れることが分かる。
(発塵性試験)
上記の試験軸受について、図3に示す発塵試験装置を用いて発塵性を評価した。尚、試験軸受は内径が20mmであり、回転速度300min−1については実施例2−1及び比較例2−1、回転速度1000min−1については実施例2−2及び比較例2−2とする。
試験条件は以下の通りである。
・回転速度:300min−1及び1000min−1の2条件
・試験環境:常圧
・軸受温度:常温
・荷重条件:予圧荷重のみ
・測定装置:パーティクルカウンタ
・測定流量:0.25ft/2.5min、測定パーティクル個数を4倍にして1ftに換算
・測定回数:24回
何れも0.1μm以上のパーティクル個数を測定し、その試験結果を図8、9に示す。尚、図8は回転速度が300min−1の場合であり、図9は回転速度が1000min−1の場合である。尚、パーティクル個数が0である場合は、便宜上「1個」として記載した。
図8に示すように、回転速度300min−1では実施例2−1が1ftあたり0.1μm以上のパーティクルが0〜数個であるのに対し、比較例2−1は2000個程度であり、実施例2−1は清浄度クラス1、比較例2−1は清浄度クラス100となる。また、図9に示すように、回転速度1000min−1では、同じく実施例2−2が300個前後であるのに対して、比較例2−2は10万個前後であり、実施例2−2は清浄度クラス10をほぼ満足し、比較例2−2は清浄度クラス10000となる。また、上記の実施例2−1と実施例2−2のフッ素系潤滑油と混合するフッ素樹脂の割合と、フッ素系潤滑油と希釈する溶媒の比率を表1の実施例2−3〜2〜6、比較例2−3〜2−6に示すように変更し、上記と同様に測定した結果を図10及び図11に示す。このように、本発明の転がり軸受は,極めて低発塵性であることが分かる。
Figure 2019190532
[試験2]
本試験では、フッ素樹脂の配合量を検証した。
上記フッ素系潤滑剤Aにおいて、表2に示すように、フッ素系潤滑油の質量は実施例1と同一とし、混合するフッ素系樹脂(PTFE)の質量だけを1/2とし、希釈溶媒で希釈した潤滑剤希釈溶液Cをオイルプレーティング処理した試験軸受を比較例3−1、同様に、混合するフッ素樹脂(PTFE)を全く含まず、実施例1と同一量のフッ素系潤滑油Aを同希釈溶媒で希釈した潤滑剤希釈溶液Dをオイルプレーティング処理した試験軸受を比較例3−2とした。尚、フッ素系潤滑油Aの量は何れも同量である。また、試験軸受は、内輪が8mmであり、オイルプレーティングの処理方法は上記と同じ方法とした。そして、図2に示す耐久試験装置を用い、下記条件にて試験を行った。
Figure 2019190532
試験条件は、下記の通りである。
・回転速度:3000min−1
・試験環境:真空(1×10−1Pa程度)
・軸受温度:200℃
・荷重条件:予圧あり(但し、荷重条件は上記の荷重条件1のみ)
・試験終了条件:モニタしている動摩擦トルク値が急激に増加したり、異音や多量の摩耗
粉が生じたり、あるいは、それらが複合して起こった場合に試験終了
・試験回数:いずれの試料についても1回
結果を図12に示すが、実施例1−3の結果を流用し、実施例3として併記してある。
図示されるように、実施例3(即ち、実施例1−3)に対して、比較例3−1は真空高温耐久性能は約1/2、比較例3−2は約3割となった。実施例3のフッ素樹脂量を1とすると、比較例3−1は0.5、比較例3−2は0である。また、フッ素系潤滑油量は、実施例3、比較例3−1及び比較例3−2とも1である。そして、実施例3の耐久性能を1とすると、比較例3−1は0.5、比較例3−2は0.3であることから、フッ素樹脂量と耐久性能とは、おおよそ比例関係にあり、フッ素樹脂量に相応して耐久性能が大きくなる。このことから、実施例3のフッ素系潤滑油は全量、フッ素樹脂に吸着、保持されていると考えられ、実施例3におけるフッ素系潤滑油とフッ素樹脂との配合比は適当であると考えられる。これは、フッ素樹脂がフッ素系潤滑油を吸着して保持する機能があることを示しており、グリースにおける増ちょう剤的な役割を果たしているためと考えられる。
フッ素樹脂により耐久性能が向上するメカニズムは、以下のように考えられる。即ち、フッ素樹脂の配合量が請求項に定める所定量の1/2であると、フッ素樹脂に吸着されずにフッ素系潤滑油の素性そのままで軸受表面に付着している油が残こり、それらが転動面に留まることができずに飛散したり、表面積が大きいためにフッ素樹脂に吸着されている場合に比較して容易に蒸発したり、熱劣化したりするためと考えられる。また、フッ素樹脂の添加量が零の場合は、全てのフッ素系潤滑油が素性そのままで軸受表面に付着しているだけなので、上記の飛散、蒸発、熱劣化の各現象がより促進的に進んで更に耐久性能が低下したと考えられる。
上記のとおり、フッ素樹脂は軸受の真空高温耐久性能に大きく効果があり、本発明で定めるフッ素樹の配合量が適当であると言える。
[試験3]
本試験では、フッ素系潤滑油の配合量を耐久性能から検証した。
表3に示すように、上記フッ素系潤滑剤Aにおいてフッ素系潤滑油量を6割の量とし、フッ素樹脂量を同量とした潤滑剤希釈溶液Eを用い、上記と同様にオイルプレーティング処理した試験軸受(実施例4−1)とした。また、試験軸受は、内輪が8mmである。そして、図2に示す耐久試験装置を用い、下記条件にて試験を行った。
Figure 2019190532
試験条件は、下記の通りである。
・回転速度:3000min−1
・試験環境:真空(1×10−1Pa程度)
・軸受温度:200℃
・荷重条件:予圧あり(但し、荷重条件は上記の荷重条件1のみ)
・試験終了条件:モニタしている動摩擦トルク値が急激に増加したり,異音や多量の摩耗
粉が生じたり、あるいは,それらが複合して起こった場合に試験終了
・試験回数:いずれの試料についても1回。実施例1−3については、上記の試験番号1
−3での結果を流用。
結果を図13に示すが、上記実施例1−3の試験軸受の結果を流用し、実施例4として併記してある。図示されるように、実施例4−1は、実施例4(即ち、実施例1−3)に対して、真空高温耐久性能は約4割となった。 実施例4のフッ素系潤滑油量を1とすると、実施例4−1では0.6であり、フッ素樹脂量は実施例4、実施例4−1とも1である。そして、実施例4の耐久性能を1とすると、実施例4−1では0.4であるから、フッ素系潤滑油量と耐久性能はおおよそ比例する。また、試験2の結果を勘案すると、実施例4、実施例4−1の何れの試料もフッ素系潤滑油の全量がフッ素樹脂に吸着、保持されていると考えられる。よって、耐久性能を良好に確保するためには、フッ素系潤滑油を多めに配合することが好ましいといえる。
この試験結果は,フッ素系潤滑油を吸着、保持するのに必要充分量のフッ素樹脂が配合されていれば、フッ素系潤滑油の含有量によって真空高温耐久性能が定まることを示している。実施例1−3と実施例4−1ともフッ素樹脂量(グリースの増ちょう剤に相当)は同一であり、前述の試験2の結果から、実施例1−3と実施例4−1のいずれもフッ素系潤滑油の全量がフッ素樹脂に吸着、保持されていると考えられる。そのため、フッ素系潤滑油量と耐久性能とは相関していて、フッ素系潤滑油量の総量によって真空高温耐久性能が左右されると考えられる。
[試験4]
本試験では、フッ素樹脂による発塵性への影響を検証した。
上記潤滑剤希釈溶液Dをオイルプレーティング処理して試験軸受(比較例5−1、比較例5−2)とし、上記潤滑剤希釈液Aをオイルプレーティング処理した試験軸受(実施例5−1、実施例5−2)とした。尚、フッ素系潤滑油の量は、両潤滑剤希釈溶液とも同量であり、オイルプレ−ティング処理方法も同一である。また、試験軸受は、内輪が20mmである。そして、図3に示す発塵試験装置を用いて、0.1μm以上のパーティクルの発生個数を測定した。
試験条件は、下記の通りである。
・回転速度:300min−1及び1000min−1の2条件
・試験環境:常圧
・軸受温度:常温
・荷重条件:予圧荷重のみ
・測定装置:パーティクルカウンタ
・測定流量:0.25ft/2.5min、測定パーティクル個数を4倍にして1ftに換算
・測定回数:24回
試験結果を図14、15に示すが、図14は回転速度が300min−1の場合であり、比較例5−1の結果を示す。また、図15は回転速度が1000min−1の場合であり、比較例5−2の結果を示す。また、図15には上記実施例2−1の結果を実施例5−1として、図15には上記実施例2−2の結果を実施例5−2としてそれぞれ流用し、併記してある。尚、パーティクル個数が0である場合は、便宜上「1個」として記載した。
図14に示すように、回転速度300min−1については、実施例5−1(即ち、実施例2−1)が1ftあたり0.1μm以上のパーティクルが0〜数個であるのに対し、比較例5−1は3〜40000個程度である。回転速度300min−1については、実施例5−1は清浄度クラス1、比較例5−1は清浄度クラス1000〜10000程度となる。また、回転速度1000min−1については、実施例5−2(即ち、実施例2−2)が20個前後であるのに対して、比較例5−2は,100万個前後である。回転速度1000min−1については、実施例5−2は清浄度クラス10をほぼ満足し、比較例2−2は清浄度クラス100000となる。
上記のとおり、フッ素樹脂は発塵特性の向上に大きな効果があることが分かる。フッ素樹脂は固形物であるので、軸受の回転にともなって外内輪と転動体との間で轢かれて圧延される。そのため、軸受がスムーズに回転するためには、その配合量は極力、少ない方が良い。フッ素系潤滑油とフッ素樹脂との配合比は、前述の試験2や試験3で検証したとおり、本発明で定める比率で構成される実施例1−3が充分な耐久性能を示しており、耐久性能上は前記配合比が適当とされている。加えて、実施例1−3と同仕様である実施例2−1及び実施例2−2と同仕様である実施例5−1及び実施例5−2が、本試験において充分優れた発塵特性を示しており、本発明で定めるフッ素系潤滑油とフッ素樹脂との配合比は、耐久性能上、かつ、発塵特性上適当であると考えられる。
[試験5]
本試験では、アウトガスの発生を検証した。
先ず、試験装置を説明する。図16は、アウトガス試験装置を示す断面斜視図である。図示されるように、真空槽41と真空槽42とが、短管43により真空気密的に連結されている。短管43の中央には、均一内径を有するオリフィス部44が形成されている。オリフィス部44の両端近くのオリフィス部44の領域内に真空計45A,45Bが1個ずつ設置されていて、オリフィス部44の両端近くの圧力を測定することができる。真空槽41の短管43から離れた位置の高さ中腹に試料台46が設置されていて、試料台46にはヒータ47が内含、埋設されている。図ではヒータ47を露呈して表示している。試料台46の上面は平面になっていて、上面上に試験軸受48を、その端面を下にして置くことができる。
その状態で、ヒータ47に通電を行なえば、試料台46が加熱され、その上面上に置かれている試験軸受48が加熱される。図示しない熱電対等のセンサを試料台46の上面近くに埋設して、試料台46の温度をコントロールすれば、所定の温度で試験軸受48を加熱することができる.加熱された試験軸受48からは、アウトガス分子が放出されることになる。試験軸受48に潤滑剤が塗布、あるいは充填されていると、その潤滑剤の分子が加熱されて試験軸受48の外部に放出され、アウトガス分子の主成分となる。
真空槽41と真空槽42には、図示しないベーク用ヒータがそれぞれの外表面に巻かれていて、ベーク用ヒータに通電すれば、両真空槽41,42の外表面を加熱することができる。外表面が加熱されると、熱伝導によって真空槽41,42のそれぞれの内面を加熱することができる。それにより、真空槽41,42の各内面に吸着、保持されていたガス分子を試験事前に内面から離脱、排出してアウトガス量測定のノイズとならないようにする。
真空ポンプ50が真空槽42に真空気密的に接続されていて、真空ポンプ50を稼動させれば、真空槽42とそれに連通する短管43及び真空槽41を真空排気して真空環境にすることができる。
前述の手順に従って試験軸受48からアウトガス分子を放出すれば、アウトガス分子は短管43まで到達し、オリフィス部44を通過して真空槽42に到達し、最終的に真空ポンプ50によって排出される。つまり、試験軸受48から放出されたアウトガス分子は、すべてオリフィス44部を通過することになる。
配管の入口と出口の圧力値をそれぞれP1、P2とすると、その2面間の圧力差は(P1−P2)であり、配管を通過するガスの流量をQとすると、Qは次式で表される。
Q=C(P1−P2)
(Cは配管のコンダクタンスである。)
試験軸受48から放出されたアウトガス分子は、すべてオリフィス部44を通過するので、オリフィス部44の領域中に2個の圧力計を設置し、圧力計位置をそれぞれ入口及び出口と定めてその圧力(P1及びP2)を測定すれば、圧力計間のオリフィス部44の圧力差を計測することができる。オリフィス部44の内径寸法と圧力計間の距離とが明らかであれば、Cの値は定まるので、圧力差(P1−P2)と併せて流量Q、すなわちアウトガス分子の流量が判明する。
試験軸受48から放出されるアウトガス分子はすべてオリフィス部44を通過するので、Q値が試験軸受48からのアウトガス放出速度ということになる。
上記の試験装置を用いて測定するには、以下の手順に従う。
(1)真空槽41の試料台46に何も配置しない(試験軸受48を乗せない)状態で真空ポンプ50を稼動させ、真空槽41及び真空槽42を真空環境にする。
(2)試料台46に埋設されるヒータと真空槽41及び真空槽42に巻かれているベーク用ヒータとを通電して、200〜400℃程度に加熱する。
(3)真空ポンプ50を稼動したまま、168時間程度加熱し続ける(ベーキング)。
(4)加熱を終了し、真空ポンプ50を稼動させたまま保持して、試料台46の温度を常温まで戻し、ベーキングを終了する。
(5)以降はバックグラウンドの測定についての説明である。試料台46の温度が常温まで戻って所定時間(例えば1時間)保持したら、オリフィス入口と出口の圧力値P1とP2を測定する。
(6)圧力差(P1−P2)から、Qの値を求める。
(7)所定の温度(例えば100℃)に試料台46のヒータ47を設定し、所定の温度に到達し、所定時間保持した後、P1とP2を測定してQの値を求める。
(8)上記(7)を所定温度間隔で200℃程度まで行い、次に折り返して、温度降下の際も所定温度で所定時間保持後にP1,P2を測定してQ値を求める。
(9)上記(5)〜(8)を3〜4回繰り返し、所定温度のQ値に大きく違いがなくなったら、安定したところのQ値を所定温度のガス放出速度バックグラウンドとする。
(10)以降は、試験軸受48の放出ガス測定についての説明である。バックグラウンド測定が終了したら、一旦、真空ポンプ50を停止し、真空槽41を大気開放して試料台46の上面に試験軸受48を置く。
(11)ここから,試験軸受48からの放出ガス速度を測定するが、手順としてはバックグラウンド測定と同一である。つまり、試験軸受48を試料台46の上面に設置したら、上記(5)〜(9)を行い、Q値に大きく違いがなくなったら、安定したところのQ値を所定温度の試験軸受ガス放出速度とする。
装置諸元は以下のとおりである。
・試験軸受:
内径:8mm
個数:1
軸受姿勢・状態:縦軸静置
・試験環境:真空
・軸受温度:常温〜200℃程度
・測定項目:オリフィス入口及び出口の圧力値
上記の実施例1と比較例1の各試験軸受、並びに汎用のフッ素系真空用グリースを軸受空間すきまの30%程度充填した転がり軸受を試験軸受に用い、上記アウトガス試験装置にてアウトガス量を測定した。尚、ここでは、実施例1の試験軸受を実施例6、比較例1の試験軸受1を比較例6−1、汎用のフッ素系真空用グリースを充填した試験軸受を比較例6−2とする。
試験条件は以下の通りである。
・回転速度:静置、回転せず
・試験環境:真空
・軸受温度:常温〜200℃のおおよそ50℃きざみの所定温度。但し、グリース充填軸受(比較例6−2)については、真空槽汚染防止のために上限を170℃。
・荷重条件:なし
結果を図17に示すが、バックグラウンド値は常温から200℃まで値がほとんど変化していないのに対し、実施例6、比較例6−1及び比較例6−2の各試験軸受は何れも温度が高いほど軸受からのアウトガス量(放出ガス速度)が大きいことが分かる。
比較例6−2は、真空用フッ素グリースが充填された軸受であるが、3つの試験軸受の中では格段にアウトガス量が大きい。それに対して、残りの実施例6及び比較例6−1は,バックグラウンドよりも大きいアウトガス量であることを示しているものの、バックグラウンド値と大きくは乖離しておらず、比較例6−2の真空用グリース充填軸受に比べて格段に小さいアウトガス量である。
また、200℃においては、比較例6−1は、実施例6に対して1.5倍程度のアウトガス量である。つまり、実施例6の本発明の軸受は、真空用グリース充填軸受に対して格段にアウトガス量が小さく、特に高温(200℃程度)において、アルキル化シクロペンタンを潤滑油とするオイルプレーティング軸受と比べてアウトガス量が小さい。
このように、本発明が規定するフッ素系潤滑剤の組成、配合及び構成に従えば、真空環境で格段にアウトガス量が小さく、高温におけるアウトガス量が特に小さい真空環境用軸受を構築できる。
[試験6]
本試験では、軸受の動摩擦トルクを検証した。
先ず、試験装置について説明する。図18は試験装置を示す断面図であり、同図(1)は側面図、(B)はA矢視図である。図示されるように、回転軸61が支持軸受62に水平支持されていて、回転軸61の一端がカップリング63によってモータ64と同軸的に結合している。回転軸61のもう一方の端部には試験軸受65の内径が回転軸61と同軸的に嵌合している。試験軸受65には断面略コの字型の外筒66が同軸的に嵌合している。外筒66の端面は、試験軸受65と直角度良く配置されるように外筒66は成形されている。
外筒66の端面には、エアパッド67がパッド面を対向して同軸的に配置されている。エアパッド67にエアを導通させれば、エアパッド67のパッド面からエアが噴出して外筒66の端面を押圧するため、試験軸受65に対して非接触状態でアキシアル荷重を負荷することができる。
エアパッド67のパッド面と反対側端面中心に接続軸68が球面座接続されているので、エアパッド67は球面座周り自在に姿勢を保つことができる。接続軸68は荷重計69Aが接続、支持されている。荷重計69Aの近傍の圧縮バネ70を圧縮すると、その荷重で荷重計69Aが前進し、エアパッド67を介して外筒66に同軸荷重を負荷することができる。エアパッド67にエアを導通し、荷重計69Aが出力する荷重値をモニタしながら圧縮バネ70を圧縮することで、所定のアキシアル荷重を試験軸受65に負荷することができる。
外筒66の外径の、試験軸受65に対応する位置に、ピン71が外径と垂直に配置されている。ピン71には糸72が接続されていて、糸72は紙面垂直方向に延長された後、別の荷重計69Bの軸に同軸的に接続されている。糸72は紙面に垂直、つまり試験軸受65の外径の接線方向に支持されるようピン71や荷重計69B等が配置されている。
ここで、エアパッド67にエアを導通してエアパッド機能を稼動させ、所定のアキシアル荷重を外筒66を介して試験軸受65にかける。その後、モータ64に通電して所定回転速度で回転させると、試験軸受65の内輪が回転する。内輪の回転に伴って転がり摩擦により試験軸受65の外輪も連れ回りを開始するが、外筒66と荷重計69Bとが糸72で連結されているため、荷重計69Bが回り止めとなって、試験軸受65の内輪が回転を継続し、外輪は静止している状態となる。この時の荷重計69Bの出力値が試験軸受65の連れ回り力である。
連れ回り力にピン71と糸72の接続位置の半径方向寸法を考慮すれば、所定回転速度における試験軸受65の動摩擦トルク値が測定できる。試験軸受65に負荷されるアキシアル荷重はエアパッドに負荷する荷重値であり、試験軸受65に負荷されるラジアル荷重は外筒66の自重量となる。エアパッド67の機能により、外筒66はエアパッド67から摩擦力は負荷されない。
転がり軸受では、一方向回転の場合、回転起動直後にトルクスパイクを生じて不安定な大きな動摩擦トルク値を示すことがあるが、回転起動後1分程度で動摩擦トルク値は落ち着き始め、その後、転がりなじみが進行して次第に動摩擦トルク値は緩やかに小さくなっていき、回転起動後15分程度には値が落ち着く傾向がある。そのため、回転起動後1分と15分の時の動摩擦トルク値を測定すれば、試験軸受65の動摩擦トルク特性をおおよそ知ることができる。
装置諸元は以下の通りである。
・試験軸受
内径:20mm
個数:1
軸姿勢水平
・回転速度:最大1000min−1
・回転方向:一方向
・試験環境:常圧
・軸受温度:常温
・荷重条件:アキシアル荷重及びラジアル荷重有り
・測定時期:回転起動1分後及び15分後
・測定項目:軸受つれ回り力
平均分子量が8400のフッ素系潤滑油(蒸気圧:1×10−5Pa以下)を希釈溶媒で21倍(フッ素系潤滑油:希釈溶媒=1:21)に希釈した潤滑剤希釈溶液に、SUS440C製の深溝玉軸受(内径20mm、プレス保持器)を浸漬し、取り出し、軸受全体を120℃で約30分間加熱して潤滑膜を形成して試験軸受(比較例7−1)とした。
また、アルキル化シクロペンタンを主成分として含有する潤滑剤を、希釈溶媒で19倍に希釈した潤滑剤希釈溶液を用い、他は比較例7−1と同様にして試験軸受(比較例7−2)を作製した。
そして、図18に示すトルク試験装置を用い、実施例1の試験軸受(ここでは実施例7)との動摩擦トルク値の比較を行った。試験条件は以下の通りである。
・回転速度:1000min−1
・試験環境:常圧
・軸受温度:常温
・荷重条件:アキシアル荷重及びラジアル荷重有り
・測定時期:回転起動1分後及び15分後
・測定項目:軸受つれ回り力
結果を図19に示すが、比較例7−1は、3種の試験軸受の中で最も動摩擦トルク値が大きいのに対し、実施例7は動摩擦トルク値が比較的小さくなっている。また、比較例7−2に対しては、実施例7の方が動摩擦トルク値が大きくなっているが、15分時の両者の値は非常に近い値となっている。このように、実施例7は比較例7−1、7−2に対して希釈率が小さいにも関わらず、動摩擦トルク値が小さい、または同等になっている。
このように、オイルプレーティングされるフッ素系潤滑油の分子量を本発明の規定のとおり7000以下にすれば、動摩擦トルク値を小さくすることができ、加えて、アルキル化シクロペンタンを含有する潤滑剤希釈溶液をオイルプレーティングした場合の動摩擦トルク値に近づけることができる。
[試験7]
本試験では、フッ素系潤滑油量の影響について、トルク値から検証した。
フッ素系潤滑油の含有量を、実施例7の6割の量とし、実施例7と同一のフッ素樹脂を同量配合してフッ素系潤滑剤を調製した。これを実施例7と同一の希釈溶媒で希釈して潤滑剤希釈溶液を調製した。そして、この潤滑剤希釈溶液に、SUS440C製の深溝玉軸受(内径20mm、プレス保持器)を浸漬し、取り出し、軸受全体を120℃で約30分間加熱して潤滑膜を形成して試験軸受(実施例8−1)とした。
また、フッ素系潤滑油の含有量を実施例7の2倍量とし、他は実施例8−1と同様にして試験軸受(比較例8−1)とした。
そして、図18に示すトルク試験装置を用い、実施例7との動摩擦トルク値の比較を行った。試験条件は試験6と同一である。
結果を図20に示すが、比較例8−1は、3種の試験軸受の中で最も動摩擦トルク値が大きい。それに対し、実施例7は動摩擦トルク値が格段に小さくなっている。また、実施例8−1は、実施例7よりも動摩擦トルク値が小さい。
このように、オイルプレーティングされるフッ素系潤滑油量が多いほど、動摩擦トルク値は大きくなる傾向にあるが、フッ素系潤滑油量とフッ素樹脂との配合比を本発明の規定のとおりとし、同じくフッ素系潤滑剤と希釈溶媒との配合比を本発明の規定のとおりにすることで、フッ素系潤滑油量を極端に少なくすることなく、動摩擦トルク値が大きく上昇することを防いで、小さい値に保持することが可能となる。
上述のように,フッ素系潤滑油とフッ素樹脂との配合比及びフッ素系潤滑油と希釈溶媒との配合比を、本発明で規定する範囲にし、オイルプレーティング処理を行なえば、フッ素系潤滑油量を極端に減じることなく、動摩擦トルク値の小さい転がり軸受を構築できる。
[試験8]
本試験では、フッ素樹脂量の影響について、トルク値から検証した。
フッ素樹脂量を零とした以外は、実施例7と同一にして試験軸受(比較例9)とした。そして、図18に示すトルク試験装置を用い、実施例7との動摩擦トルク値の比較を行った。試験条件は試験6と同一である。
結果を図21に示すが、比較例9と実施例7とは、動摩擦トルク値がほとんど同一である。実施例7はフッ素樹脂が添加されているにもかかわらず、添加されていない場合とほとんど同じ動摩擦トルク特性であると言える。
つまり、フッ素系潤滑油量とフッ素樹脂との配合比を本発明で規定する範囲とし、同じくフッ素系潤滑剤と希釈溶媒との配合比を本発明で規定する範囲にすることで、フッ素樹脂を添加しても、動摩擦トルク値が大きく上昇することを防いで、小さい値に保持することが可能となる。先述のとおり、フッ素系潤滑油とフッ素樹脂とを本発明で規定する範囲で含有させることで、転がり軸受の真空高温下での耐久性能及び低発塵性能を大きく向上させることができるばかりでなく、動摩擦トルク値の上昇を抑制して動摩擦トルク値を小さい値で保持することができる。
上述のように、フッ素系潤滑油とフッ素樹脂との配合比及びフッ素系潤滑油と希釈溶媒との配合比を本発明で規定する範囲としてオイルプレーティング処理を行なえば、潤滑剤にフッ素樹脂を含有しても動摩擦トルク値の小さい転がり軸受を構築できる。
1 回転軸
2 試験軸受
3 軸受ハウジング
4 ヒータ
5 門型ハウジング
6 ばね
7 真空槽
7A 底部
8 排気ポート
9 カップリング
10 回転導入軸
11 支持軸受
12 支持軸受ハウジング
13 ワイヤー
14 ウェイトトレー
15 ウェイト
16 中間板
16A 貫通穴
21 支持軸受
22 回転軸
22A 端部
23 センタ軸
24 試験軸受
25 内輪押さえ
26 試験軸受ハウジング
27 外輪押さえ
28 圧縮ばね
29 カップリング
30 モータ
30A モータ軸
31 磁気シール
32 気密室
33 気密室胴部
34 側板
35 配管ポート
41 真空槽1
42 真空槽2
43 短管
44 オリフィス部
45A、45B 圧力計
46 試料台
47 ヒータ
48 試験軸受
49 アウトガス分子
50 真空ポンプ
69A、69B 荷重計
70 圧縮バネ
71 ピン
72 糸

Claims (4)

  1. 内外輪の軌道面及び転動体の転動面の少なくとも1つに、
    20℃における蒸気圧が1×10−5Pa以下であるフッ素系潤滑油と、フッ素樹脂とを含有し、かつ、平均分子量が6250以下であるフッ素系潤滑油からなる潤滑膜を有し、
    前記フッ素系潤滑油と前記フッ素樹脂との配合比が、質量比で、フッ素系潤滑油:フッ素樹脂=1:0.22〜1:0.44であることを特徴とする転がり軸受。
  2. 真空中あるいはクリーンルームで用いられることを特徴とする請求項1記載の転がり軸受。
  3. 20℃における蒸気圧が1×10−5Pa以下であるフッ素系潤滑油と、フッ素樹脂とを含有し、かつ、平均分子量が6250以下であるフッ素系潤滑油と、希釈溶媒とを、質量比で、フッ素系潤滑油:希釈溶媒=1:7.6〜1:15.6で混合した潤滑剤希釈溶液を用い、内外輪の軌道面及び転動体の転動面の少なくとも1つに、オイルプレーティング処理することを特徴とする転がり軸受の製造方法。
  4. 前記オイルプレーティング処理は、100℃以上250℃以下で、15分間以上60分間以下加熱することを特徴とする請求項3記載の転がり軸受の製造方法。
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