JP2019186122A - 新規メディエータ - Google Patents

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Abstract

【課題】新規のメディエータを提供すること。【解決手段】本発明は、新規のメディエータ、およびこれを含む電極吸着剤、電極改変剤、これらを含む電極、電池、並びにこれらを使用する方法に関する。【選択図】なし

Description

本発明は、フェニレンジアミン系化合物のメディエータとしての用途及び、当該化合物を含む電極改変剤、当該化合物を含む電極、当該電極を含む酵素センサー、及び電池に関する。また本発明は、フェニレンジアミン系化合物および酸化還元酵素を用いた電気化学的測定、フェニレンジアミン系化合物および酸化還元酵素を含む組成物、フェニレンジアミン系化合物を含む電極に関する。
酵素電極においてメディエータは、酵素による酸化還元反応によって発生した電子を、電極に受け渡すための媒介物質として利用されている。酵素から電極への効率的な電子伝達のためには、メディエータが電極の近傍に局在化していることが望ましい。そのため、電極とメディエータを化学結合させる方法や、メディエータ自体を高分子化する方法など、電極にメディエータを固定化させる様々な手法が利用されている。しかしながら、化学結合法はメディエータの側鎖官能基に制限があり、メディエータ自体を高分子化する方法はメディエータの酸化還元電位が変化する可能性があるなど、従来の手法は汎用性に欠けていた。なお、グラッシーカーボン電極を強酸で処理することで表面の官能基を活性化させ、キノン類等のメディエータを吸着固定することも報告されているが、産業界ではほとんど実用化されていない。
さらに、いずれの方法もメディエータの電極への固定化のために煩雑な工程が必要であり、高コストとなるという問題もあった。そこで、電極への固定化に煩雑な工程を必要としない、簡便に使用できる電子メディエータが望まれていた。
特許文献1(特開平7−234201)は、電気化学的測定方法に用いる電子メディエータとしてp-フェニレンジアミン化合物を記載している。開示されているp-フェニレンジアミン化合物は、ヒドロキシル基、メルカプト基、カルボキシル基、ホスホノオキシ基およびスルホ基からなる群より選ばれる1以上の基を有するp-フェニレンジアミン誘導体である。
特許文献2(国際公開第2004/011929号パンフレット)は、炭素粒子を酸処理して表面を活性化させた後、当該酸処理済炭素粉末にN,N'-ジフェニル-p-フェニレンジアミン(DPPD)を添加し、この炭素粉末を炭素電極に固定化すること、及び該電極を用いた溶液中の硫化水素やチオールの検出を報告している。
特許文献3(特表2007−526474)は、N,N'-ジフェニル-p-フェニレンジアミンで誘導化した炭素を含む電極、及び当該電極を用いたpHセンサーを記載している。
特許文献4(特開2008−185534)は、メディエータとしてフェニレンジアミン系化合物である2,3,5,6-テトラメチル-1,4-フェニレンジアミンまたはN,N-ジメチル-p-フェニレンジアミン、及びこれを用いたエタノール測定を記載している。
特許文献5(特開2016−042032)は、メディエータとしてN,N,N',N'-テトラメチル-1,4-フェニレンジアミン、及びこれを用いたグルコース測定を記載している。
N-イソプロピル-N'-フェニル-p-フェニレンジアミン(IPPD)、N,N'-ジフェニル-p-フェニレンジアミン(DPPD)、N-(1,3-ジメチルブチル)-N'-フェニル-p-フェニレンジアミン(6PPD)は、いずれもゴムの老化防止剤として知られている(非特許文献2、日本ゴム協会誌、82巻、第2号、2009、p. 45-49)。
非特許文献1(Analyst, 2003, 128, 473-479)は、炭素粉末を0.1 M塩酸で酸処理し炭素表面を活性化させた後、当該酸処理済炭素粉末にDPPDを添加し、この炭素粉末を炭素電極(基底平面熱分解グラファイト電極、BPPG電極)に固定化すること、及び該電極を用いたスルフィドの検出を報告している。
特開平7−234201 国際公開第2004/011929号パンフレット 特表2007−526474(国際公開第2005/085825号パンフレット) 特開2008−185534 特開2016−042032
Analyst, 2003, 128, 473-479 日本ゴム協会誌、82巻、第2号、2009、p. 45-49
本発明は、上記の問題を解決しうる、新規メディエータを提供することを目的とする。
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意努力した結果、フェニレンジアミン系化合物が、驚くべきことに、酸処理等の特別な処理を必要とせずに電極表面に吸着可能であり、かつ、該化合物がメディエータとして機能しうることを見出し、本発明を完成させた。本発明者らの知る限り、IPPD、DPPD、6PPDが電極に吸着するメディエータであることはこれまでに報告されておらず、これは驚くべき知見である。
本発明は以下の実施形態を包含する:
[1] 式Iの構造を有する電極改変剤を含む電池
Figure 2019186122
[式中、
R1、R2及びR7は、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のXにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC1-6アルキル、C1-6アルケニル、C1-6アルキニル、C3-9シクロアルキル、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル又はフェナントレニル、であり、
R3、R4、R5及びR6は、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のYにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC1-6アルキル、C1-6アルケニル、C1-6アルキニル、C1-6アルコキシ、ハロ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、スルホン又はアミノであり、
R8は、場合により1以上のXにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル及びフェナントレニル、からなる群より選択され、
ここでXは水素、場合によりハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ及びスルホンからなる群より選択される置換基により置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖の、C1-6アルキル、C1-6アルケニル、C1-6アルキニル、C1-6アルコキシ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロ、カルボキシ、シアノ、スルホン又はアミノであり、
Yはハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ及びスルホンからなる群より選択される]。
[2] 式Iの化合物が電極に固定化されている、1に記載の電池。
[3] 酸化還元酵素を有する1又は2に記載の電池。
[4] 酸化還元酵素が電極に固定化されている、3に記載の電池。
[5] 式Iで表される化合物が、
Figure 2019186122
Figure 2019186122
及び
Figure 2019186122
からなる群より選択される、1〜4のいずれかに記載の電池。
[6] 式Iの構造を有する電極改変剤を用いる工程を含む、電池の製造方法
Figure 2019186122
[式中、
R1、R2及びR7は、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のXにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC1-6アルキル、C1-6アルケニル、C1-6アルキニル、C3-9シクロアルキル、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル又はフェナントレニル、であり、
R3、R4、R5及びR6は、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のYにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC1-6アルキル、C1-6アルケニル、C1-6アルキニル、C1-6アルコキシ、ハロ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、スルホン又はアミノであり、
R8は、場合により1以上のXにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル及びフェナントレニル、からなる群より選択され、
ここでXは水素、場合によりハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ及びスルホンからなる群より選択される置換基により置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖の、C1-6アルキル、C1-6アルケニル、C1-6アルキニル、C1-6アルコキシ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロ、カルボキシ、シアノ、スルホン又はアミノであり、
Yはハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ及びスルホンからなる群より選択される]。
[7] 前記電極改変剤を、電池の電極と接触させる工程を含む、6に記載の方法。
[8] 1〜5のいずれかに記載の電池を用いる、発電方法。
[9] 式Iで表される化合物が、
Figure 2019186122
Figure 2019186122
及び
Figure 2019186122
からなる群より選択される、6又は7に記載の方法。
本発明のフェニレンジアミン系化合物は、p-フェニレンジアミンのような従来のメディエータと異なり、電極の酸処理や、メディエータ自体の高分子化等の特別な処理を必要とせずに、そのまま電極表面に吸着可能であり、そのため、簡便に電極に固定化することができる。またこのような電極は電気化学的測定に用いることができる。またこのような電極は電池に応用することができる。
IPPD及びGDHを用いたサイクリックボルタンメトリーを実施し、掃引速度とIOmaxおよびIRmaxをプロットした結果を示す。 IPPDの代わりにDPPDを用いた結果を示す。 IPPDの代わりに6PPDを用いた結果を示す。 IPPDの代わりにp-フェニレンジアミンを用いた結果を示す。 IPPDの代わりにp-フェニレンジアミンを用いた結果を示す。横軸は掃引速度の平方根である。 IPPDを用いたサイクリックボルタモグラムを示す。 IPPDを用いた際の、グルコース終濃度と300mVにおける酸化電流値の関係を示す。 DPPDを用いた際の、グルコース終濃度と300mVにおける酸化電流値の関係を示す。 6PPDを用いた際の、グルコース終濃度と300mVにおける酸化電流値の関係を示す。 FADGDH-AAとIPPDを用いた際のグルコース終濃度と300mVにおける酸化電流値の関係をに示す。 GLD1とIPPDを用いた際のグルコース終濃度と300mVにおける酸化電流値の関係を示す。 GODとIPPDを用いた際のグルコース終濃度と300mVにおける酸化電流値の関係を示す。 FPOX-CE IPPDを用いた際のグルコース終濃度と300mVにおける酸化電流値の関係を示す。 IPPDを吸着させ、GDHを固定化した電極を用いた際のグルコース終濃度と200mVにおける酸化電流値の関係を示す。
(フェニレンジアミン系化合物)
(フェニレンジアミン系化合物が吸着した電極)
ある実施形態において本発明はフェニレンジアミン系化合物を提供する。別の実施形態において本発明はフェニレンジアミン系化合物を含む、電極改変剤を提供する。この電極改変剤は電極表面に吸着可能であり、電極の電子受容性を改変し得る。別の実施形態において本発明はフェニレンジアミン系化合物又は本発明の電極改変剤が吸着した電極を提供する。別の実施形態において本発明はフェニレンジアミン系化合物又は本発明の電極改変剤を含む電気化学的測定用組成物を提供する。別の実施形態において本発明は、フェニレンジアミン系化合物又は本発明の電極改変剤を含む電気化学的測定用キットを提供する。
本発明のフェニレンジアミン系化合物は、電極と接触させることで電極表面に吸着することができる。このとき、電極に吸着させるために、電極表面を酸処理して活性化するなどの特別の操作は必要ない。さらに、本発明のフェニレンジアミン系化合物は、酸化還元酵素により触媒される酸化還元反応において、メディエータとして機能する。酸化還元酵素としては、EC第1群に分類される各種の酸化還元酵素、例えばグルコースオキシダーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ、アマドリアーゼ(フルクトシルペプチドオキシダーゼまたはフルクトシルアミノ酸オキシダーゼともいう)、ペルオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、ビリルビンオキシダーゼ、ピルビン酸オキシダーゼ、D-またはL-アミノ酸オキシダーゼ、アミンオキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼ、コリンオキシダーゼ、キサンチンオキシダーゼ、サルコシンオキシダーゼ、D-またはL-乳酸オキシダーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ、チトクロムオキシダーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、コレステロールデヒドロゲナーゼ、アルデヒドデヒドロゲナーゼ、アルデヒドオキシダーゼ、フルクトースデヒドロゲナーゼ、ソルビトールデヒドロゲナーゼ、D-またはL-乳酸デヒドロゲナーゼ、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、グリセロールデヒドロゲナーゼ、17Bヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ、エストラジオール17Bデヒドロゲナーゼ、D-またはL-アミノ酸デヒドロゲナーゼ、グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ、3-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ、ジアホラーゼ、カタラーゼ、グルタチオンレダクターゼ、チトクロムb5レダクターゼ、アドレノキシンレダクターゼ、チトクロムb5レダクターゼ、アドレノドキシンレダクターゼ、硝酸レダクターゼ、リン酸デヒドロゲナーゼ、ビリルビンオキシダーゼ、ラッカーゼ、ポリアミンオキシダーゼ、ギ酸デヒドロゲナーゼ、ピラノースオキシダーゼ、ピラノースデヒドロゲナーゼ、タウロピンデヒドロゲナーゼ等が挙げられるが、これに限らない。また、複数の酵素の組合せであってもよい。上記酵素の補酵素としては、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、ピロロキノリンキノン等が挙げられる。上記に挙げた酸化還元酵素は、例えばMethods in Enzymology(1〜602巻)に記載の方法で、種々の基質を用いた活性測定を行うことができる。
本明細書において、メディエータとして機能するとは、フェニレンジアミン系化合物が電子移動に与ることをいい、例えば電極を用いる系では、本発明のフェニレンジアミン系化合物は、酸化還元酵素から電子を受け取って還元型となり、電極に電子を渡して酸化型に戻る。このような観点から、本発明のフェニレンジアミン系化合物のことを電子移動媒介剤、電子伝達促進剤、或いは電子メディエータ(単にメディエータともいう)と呼ぶこともできる。本明細書においてこれらの用語は同義とする。
ある実施形態において、本発明の電極から、酸処理した炭素粉末又は炭素粒子を有する電極は除かれる。
ある実施形態において、本発明の電極と共に用いられる酸化還元酵素は、当該電極に固定化されていてもよい。すなわち、この実施形態において本発明は、酸化還元酵素が固定化され、本発明の電極改変剤が吸着した電極を提供する。ある実施形態において本発明は、酸化還元酵素が固定化され、本発明の電極改変剤が吸着した電極を含む、酵素センサーを提供する。
本発明のフェニレンジアミン系化合物又は該フェニレンジアミン系化合物を含む電極改変剤は、特別な処理を必要とすることなく、電極表面に吸着することができる。したがってある実施形態では、改変された電極を作製するために、予め本発明のフェニレンジアミン系化合物又は該フェニレンジアミン系化合物を含む電極改変剤を電極に吸着させてもよい。別の実施形態では、電気化学的測定を行う際に、本発明のフェニレンジアミン系化合物又は該フェニレンジアミン系化合物を含む電極改変剤、及び酸化還元酵素を含む測定溶液(組成物)を使用することができる。この実施形態では、本発明のフェニレンジアミン系化合物又は該フェニレンジアミン系化合物を含む電極改変剤、及び酸化還元酵素を含む組成物を電極に物理的に接触させると、本発明のフェニレンジアミン系化合物又は該フェニレンジアミン系化合物を含む電極改変剤が電極に吸着し、電気化学的特性が改変された電極が、測定時にその場で作製される。
ある実施形態では、本発明のフェニレンジアミン系化合物又は該フェニレンジアミン系化合物を含む電極改変剤を電極に吸着させるに当たり、電極を酸で前処理しない。別の実施形態では、本発明のフェニレンジアミン系化合物又は該フェニレンジアミン系化合物を含む電極改変剤を電極に吸着させるに当たり、電極を酸で前処理してもよい。また、ある実施形態では、本発明のフェニレンジアミン系化合物又は該フェニレンジアミン系化合物を含む電極改変剤を、高分子に包摂して、電極に吸着させてもよい。
ある実施形態において、本発明のフェニレンジアミン系化合物は下記の一般式Iの化合物でありうる:
Figure 2019186122
[式中、
R1、R2及びR7は、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のXにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC1-6アルキル、C1-6アルケニル、C1-6アルキニル、C3-9シクロアルキル、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル又はフェナントレニル、であり、
R3、R4、R5及びR6は、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のYにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC1-6アルキル、C1-6アルケニル、C1-6アルキニル、C1-6アルコキシ、ハロ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、スルホン又はアミノであり、
R8は、場合により1以上のXにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル及びフェナントレニル、からなる群より選択され、
ここでXは水素、場合によりハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ及びスルホンからなる群より選択される置換基により置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖の、C1-6アルキル、C1-6アルケニル、C1-6アルキニル、C1-6アルコキシ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロ、カルボキシ、シアノ、スルホン又はアミノであり、
Yはハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ及びスルホンからなる群より選択される]。
ある実施形態において、本発明のフェニレンジアミン系化合物は、N-イソプロピル-N'-フェニル-p-フェニレンジアミン(IPPD)
Figure 2019186122
であり得る(CAS No. 101-72-4)。
ある実施形態において、本発明のフェニレンジアミン系化合物は、N,N'-ジフェニル-p-フェニレンジアミン(DPPD)
Figure 2019186122
であり得る(Cas No. 74-31-7)。
ある実施形態において、本発明のフェニレンジアミン系化合物は、N-(1,3-ジメチルブチル)-N'-フェニル-p-フェニレンジアミン(6PPD)
Figure 2019186122
であり得る(CAS No. 793-24-8)。
本発明のフェニレンジアミン系化合物から、以下の構造
Figure 2019186122
を有するp-フェニレンジアミンは除かれる。
本発明のフェニレンジアミン系化合物に酵素と共有結合させるための官能基を修飾してもよい。フェニレンジアミン系化合物と官能基の間にC1〜C20のアルキルやアミノ酸、ペプチド等をリンカーとして入れても良い。リンカーの間に適宜、ヒドロキシル基やアミノ基、アルケン等が含まれていてもよい。官能基として、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、アルデヒド基、ヒドラジノ基、チオシアネート基、エポキシ基、ビニル基、ハロゲン基、酸エステル基、リン酸基、チオール基、ジスルフィド基、ジチオカルバメート基、ジチオホスフェート基、ジチオホスホネート基、チオエーテル基、チオ硫酸基、スクシンイミド基、マレイミド基及びチオ尿素基等が挙げられる。
フェニレンジアミン系化合物には、酸化還元状態及びイオン化状態があり得る。上記の化学式では、本発明のフェニレンジアミン系化合物を、中性型で還元型の形態で記載した。しかしながらこの形態のみならず、本発明のフェニレンジアミン系化合物は、酸化型(ジイミン型)、半酸化型、又は還元型(ジアミン型)であり得る。また、本発明のフェニレンジアミン系化合物は、中性型、又はカチオン型でありうる。便宜上、本発明のフェニレンジアミン系化合物、例えば上記化学式で表される本発明のフェニレンジアミン系化合物という場合、これは、中性型、又はカチオン型の、酸化型、半酸化型、又は還元型の形態のものを包含するものとする。例えば、測定系に、本発明のフェニレンジアミン系化合物として中性型で酸化型の化合物を添加した後、溶液のpHや電子授受によりそれが酸化型でカチオン型の化合物に変化することがあり得るが、そのような化合物も本発明のフェニレンジアミン系化合物に包含されるものとする。
本発明のフェニレンジアミン系化合物は、人工合成してもよく、天然物を取得してもよい。また市販されているものであってもよい。合成する場合は、慣用の有機合成手法を用いて有機合成を行い、NMR、IR、質量分析等により生成物を確認することができる。
(酸化還元酵素の固定化方法)
酸化還元酵素は任意の公知の方法により固相に固定化されうる。例えば酸化還元酵素をビーズや膜、電極表面に固定化してもよい。固定化方法としては、架橋試薬を用いる方法、高分子マトリックス中に封入する方法、透析膜で被覆する方法、光架橋性ポリマー、導電性ポリマー、酸化還元ポリマーなどがあり、ポリマー中に固定あるいは電極上に吸着固定してもよく、またこれらを組み合わせて用いてもよい。典型的には、グルタルアルデヒドを用いて酸化還元酵素をカーボン電極上に固定化した後、アミン基を有する試薬で処理してグルタルアルデヒドをブロッキングする。固定化する酸化還元酵素の量は、電気化学的測定或いは燃料電池発電に必要な電流を生じうる量とすることができ、適宜決定しうる。
(本発明のフェニレンジアミン系化合物の吸着方法)
ある実施形態において、本発明のフェニレンジアミン系化合物は、溶液中に遊離した状態で存在していてもよく、また、ビーズや膜、電極表面に吸着、例えば物理的に吸着されていてもよい。本発明のフェニレンジアミン系化合物が電極表面に吸着していることを、電極表面に固定化されている、ということもあるが、本明細書においてこれらは同義とする。吸着方法としては、本発明のフェニレンジアミン系化合物を適当な媒体中に溶解させ、その溶液を電極と物理的に接触させる工程を含む方法が挙げられる。別の実施形態では、本発明のフェニレンジアミン系化合物を電極に噴霧してもよい。吸着させるフェニレンジアミン系化合物の量は、電気化学的測定或いは電池発電に必要な電流を生じうる量とすることができ、適宜決定しうる。
ある実施形態では、電極に本発明のフェニレンジアミン系化合物が吸着され、さらに酸化還元酵素が固定化されていてもよい。この場合、先に本発明のフェニレンジアミン系化合物を吸着させ次いで酸化還元酵素を固定化してもよく、又は先に酸化還元酵素を固定化させ次いで本発明のフェニレンジアミン系化合物を吸着してもよく、又は酸化還元酵素を固定化する操作においてフェニレンジアミン系化合物を同時に吸着させてもよい。
試料溶液に添加する本発明のフェニレンジアミン系化合物の終濃度は特に限定されず、例えば、0.01μM〜10mM、0.02μM〜5mM、0.03μM〜1mM、0.04μM〜800μM 、0.05μM〜600μM 、0.06μM〜500μM 、0.08μM〜400μM 、0.1μM〜300μM 、0.15μM〜200μM 、0.2μM〜100μM 、0.3μM〜50μM 、例えば0.05μM〜100μMの範囲であり得る。試料溶液に添加する本発明のフェニレンジアミン系化合物の終濃度は特に限定されず、例えば0.000001〜0.5%(w/v)、0.000003〜0.3%(w/v)、0.000005〜0.1%(w/v)、0.00001〜0.05%(w/v)、0.00002〜0.03%(w/v)、0.00003〜0.01%(w/v)であり得る。なお、フェニレンジアミン系化合物と他の試薬との添加順序は制限されず、同時でも逐次添加でもよい。
ある実施形態において酸化還元反応を行う時間又は電気化学的測定を行う時間は、60分以下、30分以下、10分以下、5分以下、又は1分以下とすることができる。または、長期間測定する酵素センサーや電池等においては、酸化還元反応を行う時間は、60分以上、120分以上、1日以上、2日以上、3日以上、1週間以上、2週間以上、3週間以上とすることができる。例えばフェニレンジアミン系化合物を酸化還元酵素と共に使用する場合、試料に含まれる又は試料中に生成すると推定される還元型のメディエータの濃度範囲に対応して、電気化学的測定用試薬の各成分の濃度を調節することができる。
特に断らない限り、本発明の組成物に含まれる酸化還元酵素或いは本発明の電極に固定化された酸化還元酵素は、精製された酵素である。酸化還元酵素を含む細胞抽出物や細胞破砕液、粗酵素抽出液は、酸化還元酵素以外にも様々な夾雑物質を含む。例えば微生物では粗酵素抽出液中のリボフラビン量は約53〜133μMとの報告がある(J Indust Micro Biotech 1999, 22, pp. 8-18)。このような粗酵素抽出液等は、そのまま電気化学的測定に供すると、夾雑物質が電子を受け取るなどして電極への電子の授受が妨害されるため、粗酵素抽出液において、このリボフラビン濃度では正確な電気化学的測定は困難である。そこで本発明の電気化学的測定法では、夾雑物質が除去された酸化還元酵素を使用することができる。本明細書において酸化還元酵素が精製されている、又は精製酵素である、とは、必ずしもタンパク質が純品である必要はなく、電気化学的測定が可能な程度に酵素標品から夾雑物質が除去されていることをいう。
(酸化還元酵素の活性測定)
酸化還元酵素の活性測定を説明するに当たり、具体的な酵素としてグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)を例とする。GDH(EC 1.1.99.10)は、グルコースの水酸基を酸化してグルコノ−δ−ラクトンを生成する反応を触媒する。このとき電子受容体が電子を受け取り、還元型電子受容体になる。GDHの活性は、この作用原理を利用し、例えば、電子受容体としてフェナジンメトサルフェート(PMS)及び2,6-ジクロロインドフェノール(DCIP)を用いた以下の測定系を用いて測定することができる。
(反応1) D-グルコ−ス + PMS(酸化型)
→ D-グルコノ-δ-ラクトン + PMS(還元型)
(反応2) PMS(還元型) + DCIP(酸化型)
→ PMS(酸化型) + DCIP(還元型)
具体的には、まず、(反応1)において、D-グルコースの酸化に伴い、PMS(還元型)が生成する。続いて進行する(反応2)により、PMS(還元型)が酸化されるのに伴ってDCIPが還元される。この「DCIP(酸化型)」の消失度合を波長600nmにおける吸光度の変化量として検知し、この変化量に基づいて酵素活性を求めることができる。
GDHの活性は、以下の手順に従って測定することができる。100mM リン酸緩衝液(pH7.0) 2.05mL、1M D-グルコース溶液 0.6mLおよび2mM DCIP溶液 0.15mLを混合し、37℃で5分間保温する。次いで、15mM PMS溶液 0.1mL及び酵素サンプル溶液0.1mLを添加し、反応を開始する。反応開始時、および、経時的な吸光度を測定し、酵素反応の進行に伴う600nmにおける吸光度の1分間あたりの減少量(ΔA600)を求め、次式に従いGDH活性を算出する。この際、GDH活性は、37℃において濃度200mMのD-グルコース存在下で1分間に1μmolのDCIPを還元する酵素量を1Uと定義する。
Figure 2019186122
なお、式中の3.0は反応試薬+酵素試薬の液量(mL)、16.3は本活性測定条件におけるミリモル分子吸光係数(cm2/μmol)、0.1は酵素溶液の液量(mL)、1.0はセルの光路長(cm)、ΔA600blankは100mM リン酸緩衝液(pH7.0)を酵素サンプル溶液の代わりに添加して反応開始した場合の600nmにおける吸光度の1分間あたりの減少量、dfは希釈倍数を表す。
本発明の電気化学的測定用キットは、少なくとも1回のアッセイに十分な量の本発明のフェニレンジアミン系化合物又は該フェニレンジアミン系化合物を含む電極改変剤を含む。典型的には、本発明の電気化学的測定用は、本発明のフェニレンジアミン系化合物に加えて、酸化還元酵素、アッセイに必要な緩衝液、キャリブレーションカーブ作製のための基質標準溶液、ならびに指針を含む。例えば酸化還元酵素はGDHであってもよく、この場合、基質標準溶液はグルコース標準溶液であり得る。
ある実施形態において、本発明の電気化学的測定用キットは、本発明のフェニレンジアミン系化合物と酸化還元酵素とを同一試薬として含む。別の実施形態において、本発明の電気化学的測定用キットは、フェニレンジアミン系化合物と酸化還元酵素とを別々の試薬として含む。別の実施形態では、酸化還元酵素は電極に固定化されていてもよく、そのような電極に対して用いる本発明の電気化学的測定用キットはフェニレンジアミン系化合物を単一試薬として含む。ただしここでいう単一試薬とは、当該試薬がフェニレンジアミン系化合物以外の物質を含まないことを意味するものではない。本発明のフェニレンジアミン系化合物が単一試薬中で溶解するよう、該単一試薬は、適当な媒体を含み得る。媒体は本発明のフェニレンジアミン系化合物が溶解するものであればどのようなものでもよく、水、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、アセトニトリルなどが挙げられるがこれに限らない。本発明のフェニレンジアミン系化合物は種々の形態で、例えば、粉末固体状の試薬として、ビーズや電極表面に固定化された試薬として、または適切な保存溶液中の溶液、例えば遮光されている溶液として提供することができる。
電気化学的測定の一例としてグルコース濃度の測定が挙げられる。グルコース濃度の測定は、比色式電気化学的測定用の場合は、例えば、以下のように行うことができる。電気化学的測定用の反応層にはグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)、そして反応促進剤としてN-(2-アセトアミド)イミド2酢酸(ADA)、ビス(2-ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン(Bis-Tris)、炭酸ナトリウムおよびイミダゾールからなる群より選ばれる1以上の物質を含む液状もしくは固体状の組成物を保持させておく。ここで、必要に応じてpH緩衝剤、発色試薬(変色試薬)を添加する。ここにグルコースを含む試料を加え、一定時間反応させる。この間、GDHより電子を直接受け取ることによって重合し生成する色素もしくは還元された色素の最大吸収波長に相当する吸光度をモニタリングする。レート法であれば、吸光度の時間あたりの変化率から、エンドポイント法であれば、試料中のグルコースがすべて酸化された時点までの吸光度変化から、予め標準濃度のグルコース溶液を用いて作製したキャリブレーションカーブを元にして、試料中のグルコース濃度を算出することができる。
この方法において使用できる発色試薬(変色試薬)としては、例えば2,6-ジクロロインドフェノール(DCIP)を電子受容体として添加し、600nmにおける吸光度の減少をモニタリングすることでグルコースの定量が可能である。また、発色試薬としてニトロテトラゾリウムブルー(NTB)を加え、570nm吸光度を測定することにより生成するジホルマザンの量を決定し、グルコース濃度を算出することが可能である。なお、いうまでもなく、使用する発色試薬(変色試薬)はこれらに限定されない。
(酵素センサー)
ある実施形態において本発明は、酸化還元酵素が固定化され、本発明の電極改変剤が吸着した電極を含む、酵素センサーを提供する。酵素センサーの電極としては、例えばカーボン電極、金電極、白金電極などが挙げられ、この電極上に酸化還元酵素を塗布または固定化することができる。さらに、導電性材料としてCo、Pd、Rh、Ir、Ru、Os、Re、Ni、Cr、Fe、Mo、Ti、Al、Cu、V、Nb、Zr、Sn、In、Ga、Mg、Pbのうち少なくとも一種類の元素を含む金属微粒子が含まれていてもよく、これらは、合金であっても、めっきを施したものであってよい。カーボンとして、カーボンナノチューブやカーボンブラック、グラファイト、フラーレン、及びその誘導体等も含まれる。酸化還元酵素の固定化方法としては、上記の「酸化還元酵素の固定化方法」の段落を参照のこと。
ある実施形態において、本発明の酵素センサーの一例としてグルコースセンサーが挙げられる。このグルコースセンサーは、電極に吸着された本発明のフェニレンジアミン系化合物及び電極に固定化されたGDH又はグルコースオキシダーゼ(GOD)を有しうる。該グルコースセンサーは持続血糖測定や連続グルコースモニタリングに使用可能である。
本発明の電極、酵素センサー、及び電気化学的測定用組成物は、ポテンショスタットやガルバノスタットなどを用いることにより、種々の電気化学的な測定手法に用いることができる。電気化学的測定法としては、アンペロメトリー、例えばクロノアンペロメトリー、ボルタンメトリー、例えばサイクリックボルタンメトリー、ポテンショメトリー、クーロメトリーなどの様々な手法が挙げられる。例えば測定対象基質がグルコースであれば、アンペロメトリー法により、グルコースが還元される際の電流を測定することで、試料中のグルコース濃度を算出することができる。印加電圧は条件や装置の設定にもよるが、例えば-1000mV〜+1000mV(vs. Ag/AgCl)などとすることができる。
なお、試験化合物が電極に吸着するか否かは、サイクリックボルタンメトリーにより確認することができる。掃引速度を変化させ、例えば10mV/secから50mV/secの範囲で変化させ、酸化電流の最大値(IOmax)および還元電流の最大値(IRmax)がどのように変化するか調べる。一般的に、メディエータが電極に吸着している場合、サイクリックボルタンメトリーの掃引速度とIOmaxおよびIRmaxの値は比例関係になることが知られている。メディエータが拡散している場合は、掃引速度の0.5乗にIOmaxおよびIRmaxが比例する。IOmaxおよびIRmaxと、掃引速度の関係から、化合物が吸着しているか、拡散しているかを決定する。
電気化学的測定の一例としてグルコースの電気化学的測定が挙げられる。ある実施形態において、本発明は、グルコースを含みうる試料と、フェニレンジアミン系化合物と、精製されたグルコースオキシダーゼ又は精製されたグルコースデヒドロゲナーゼとを接触させる工程及び電流を測定する工程を含む、グルコースの電気化学的測定方法を提供する。該フェニレンジアミン系化合物は溶液中に存在するか又は電極に吸着されていてもよく、酵素は電極に固定化されていてもよい。
例えばグルコース濃度の電気化学的測定は、以下のようにして行うことができる。恒温セルに緩衝液を入れ、一定温度に維持する。作用電極としてGDH又はGODを固定化した電極を用い、対極(例えば白金電極)および参照電極(例えばAg/AgCl電極やAg/Ag+電極)を用いる。反応液に本発明のフェニレンジアミン系化合物を添加する。カーボン電極に一定の電圧を印加して、電流が定常になった後、グルコースを含む試料を加えて電流の増加を測定する。標準濃度のグルコース溶液により作製したキャリブレーションカーブに従い、試料中のグルコース濃度を計算することができる。印加する電位は、例えば+800mV以下、+700mV以下、+600mV以下、+500mV以下、+400mV以下、+300mV以下、+200mV以下、+100mV以下、+50mV以下とすることができ、-200mV以上、-100mV以上、-50mV以上、例えば0mV以上、とすることができ、例えば+800mV〜-200mV、+800mV〜-100mV、+800mV〜-50mV、+600mV〜0mV、+500mV〜0mV、+400mV〜0mV、+300mV〜0mV、+200mV〜0mVとすることができる(いずれも銀塩化銀参照電極に対し)。グルコースが含まれる測定溶液のpHはpH3〜10の範囲内であり得る。例えば、pH5、pH6、pH7、pH8、pH9、pH10であり、溶液中に緩衝剤として、グリシン、酢酸、クエン酸、リン酸、炭酸、グッド緩衝剤等が含まれていてもよい。GDHやGOD以外の酵素、及びグルコース以外の基質を用いる場合でも適宜、pHを変えて測定することができる。
具体的な例としては、グラッシーカーボン(GC)電極に0.2U〜150U、例えば0.5U〜100UのGDH又はGODを固定化し、グルコース濃度に対する応答電流値を測定する。電解セル中に、100mM リン酸カリウム緩衝液(pH6.0)10.0mlを添加する。GC電極をポテンショスタットBAS100B/W(BAS製)に接続し、37℃で溶液を撹拌し、銀塩化銀参照電極に対して+500mVを印加する。これらの系に1M D-グルコース溶液を終濃度が5、10、20、30、40、50mMになるよう添加し、添加ごとに定常状態の電流値を測定する。この電流値を既知のグルコース濃度(5、10、20、30、40、50mM)に対してプロットし、検量線を作成する。これよりGDH又はGOD酵素固定化電極でグルコースの定量が可能となる。
さらに電気化学測定のために印刷電極を用いることもできる。これにより測定に必要な溶液量を低減することができる。電極は絶縁基板上に形成しうる。具体的には、フォトリゾグラフィ技術や、スクリーン印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷などの印刷技術により、電極を基板上に形成させ得る。絶縁基板の素材としては、シリコン、ガラス、セラミック、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルなどが挙げられ、各種の溶媒や薬品に対する耐性の強いものを用いることができる。作用極の面積は、所望の応答電流に応じて設定することができる。例えばある実施形態では、作用極の面積を1mm2以上、1.5mm2以上、2mm2以上、2.5mm2以上、3mm2以上、4mm2以上、5mm2以上、6mm2以上、7mm2以上、8mm2以上、9mm2以上、10mm2以上、12mm2以上、15mm2以上、20mm2以上、30mm2以上、40mm2以上、50mm2以上、1cm2以上、2cm2以上、3cm2以上、4cm2以上、5cm2以上、例えば10cm2以上とすることができる。ある実施形態では、作用極の面積を10cm2以下、5cm2以下、例えば1cm2以下、とすることができる。対極も同様でありうる。
(本発明の電池)
ある実施形態において本発明は、本発明のフェニレンジアミン系化合物、又は、フェニレンジアミン系化合物を含む電極改変剤を有する電池を提供する。ある実施形態において、本発明の電池では、本発明の化合物が当該電池の電極に固定化されている。ある実施形態において、本発明の電池は酸化還元酵素を有する。ある実施形態において酸化還元酵素は電池の有する電極に固定化されていてもよい。ある実施形態において本発明は、本発明の電池を用いる発電方法を提供する。
(本発明の燃料電池)
ある実施形態において本発明は、本発明のフェニレンジアミン系化合物や、フェニレンジアミン系化合物を含む電極改変剤を有する燃料電池用のアノード又はカソード及び当該アノード又はカソードを備えた燃料電池を提供する。ある実施形態において本発明は、本発明のフェニレンジアミン系化合物や、フェニレンジアミン系化合物が吸着した電極を使用した発電方法やGDHやGODなどといった酸化還元酵素をアノード電極に固定化し、酸化還元酵素に対応した基質、例えばグルコースを燃料とする発電方法を提供する。適宜、上記に示した酸化還元酵素を固定化した場合に、固定化した酸化還元酵素の基質となる化合物を燃料とすることができる。
ある実施形態において、本発明の燃料電池は、本発明のフェニレンジアミン系化合物が吸着したアノード又はカソード、燃料槽、カソード、酸化還元酵素を有するアノード、及び電解質を備えている。また本発明の燃料電池は、必要に応じて、アノードとカソードとの間に負荷抵抗を配置することができ、そのための配線を備えうる。ある実施形態において負荷抵抗は、本発明の燃料電池の一部である。ある実施形態において、負荷抵抗は、本発明の燃料電池の一部ではなく、本発明の燃料電池は、適当な負荷抵抗に接続できるよう構成されている。本発明の燃料電池において酸化還元酵素はアノードの一部を構成する。例えば酸化還元酵素はアノードに近接若しくは接触していてもよく、固定化されていてもよく、又は吸着していてもよい。燃料槽は電極に固定化された酸化還元酵素の基質となる化合物を含む。例えば、グルコースデヒドロゲナーゼを電極に固定化した場合、燃料はグルコースであり得る。ある実施形態において本発明の燃料電池はアノードとカソードを分離するイオン交換膜を有し得る。イオン交換膜は1nm〜20nmの孔を有し得る。アノードは炭素電極のような一般的な電極であり得る。例えば、カーボンブラック、グラファイト、活性炭等の導電性炭素質からなる電極や、金、白金等の金属からなる電極を用いることができる。具体的には、カーボンペーパー、グラッシーカーボン、HOPG(高配向性熱分解グラファイト)等が挙げられる。対をなすカソードとしては、例えば、白金や白金合金等、燃料電池において一般的に用いられている電極触媒を、カーボンブラック、グラファイト、活性炭のような炭素質材料、又は金、白金等からなる導電体に担持させた電極や、白金や白金合金等の電極触媒そのものからなる導電体をカソード電極として用い、酸化剤(カソード側基質、酸素等)を電極触媒に供給するような形態とすることができる。
別の実施形態では、上記のような基質酸化型酵素電極からなるアノードと対をなすカソードとして、基質還元型酵素電極を使用しうる。酸化剤を還元する酸化還元酵素としては、ラッカーゼやビリルビンオキシターゼなど公知の酵素が挙げられる。酸化剤を還元する触媒として酸化還元酵素を用いる場合には、必要に応じて、公知の電子伝達メディエータを用いてもよい。カソード用メディエータはアノード用メディエータと同一でも異なってもよい。酸化剤としては、酸素、過酸化水素等が挙げられる。
ある実施形態において、カソードにおける電極反応を妨害する不純物(アスコルビン酸や尿酸等)による影響を回避するために、酸素選択性の膜(例えばジメチルポリシロキサンの膜)をカソード電極の周囲に配置することができる。
本発明の発電方法は、酸化還元酵素を有するアノードに燃料となる酸化還元酵素の基質となる化合物を供給する工程を含む。酸化還元酵素を有するアノードに燃料が供給されると、基質が酸化され、同時に生成した電子を、酸化還元酵素は、該酸化酵素と電極との間の電子伝達を仲介する電子伝達メディエータ、例えばフェニレンジアミン系化合物へと受け渡し、該電子伝達メディエータによって導電性基材(アノード電極)へ電子が受け渡される。アノード電極から配線(外部回路)を通って電子がカソード電極に到達することで、電流が発生する。
上記過程において発生するプロトン(H+)は、電解質溶液内をカソード電極まで移動する。そして、カソード電極では、電解質溶液内をアノードから移動してきたプロトンと、外部回路を経てアノード側から移動してきた電子と、酸素や過酸化水素等の酸化剤(カソード側基質)とが反応して水が生成される。これを利用し発電を行うことができる。
本発明のフェニレンジアミン系化合物を含む電極改変剤や、該電極改変剤が吸着した電極は、種々の電気化学的測定に用いることができる。また、該電極は、酸化還元酵素を固定化することで、酵素センサーに利用することができる。さらに本発明のフェニレンジアミン系化合物を含む電極改変剤や、該電極改変剤が吸着した電極は、燃料電池に用いることができる。これらは例示であり、本発明のフェニレンジアミン系化合物を含む電極改変剤又は該電極改変剤が吸着した電極の用途はこれに限らない。
以下の実施例により、本発明をさらに例証する。ただし、本発明の技術的範囲は、それらの例により何ら限定されるものではない。
実施例1.Mucor属由来GDH遺伝子の宿主への導入とGDH活性の確認
特許第4648993号に記載のMucor属由来GDH(MpGDH)のアミノ酸配列を配列番号1に、塩基配列を配列番号2に示す。MpGDHにN66Y/N68G/C88A/A175C/N214C/Q233R/T387C/G466D/E554D/L557V/S559Kの各変異を導入した改変GDH(MpGDH-M2)をコードする遺伝子を取得した。MpGDH-M2のアミノ酸配列は配列番号3に示し、その遺伝子の塩基配列は配列番号4に示す。プラスミドpUC19のマルチクローニングサイトに対象遺伝子であるMpGDH-M2遺伝子を常法により挿入させたDNAコンストラクトを作製した。具体的には、pUC19は、In-Fusion HD Cloning Kit(クロンテック社)に付属されているpUC19 linearized Vectorを用いた。pUC19のマルチクローニングサイトにあるIn-Fusion Cloning Siteにて、MpGDH-M1遺伝子を、上記したIn-Fusion HD Cloning Kitを使用して、キットに添付されたプロトコールに従って連結して、コンストラクト用プラスミド(pUC19-MpGDH-M2)を得た。
これらの遺伝子をコウジカビ(Aspergillus sojae;アスペルギルス・ソーヤ)で発現させ、そのGDH活性を評価した。
具体的には、MpGDH-M2を取得することを目的として、GDH遺伝子を用いて、Double-joint PCR(Fungal Genetics and Biology,2004年,第41巻,p.973-981)を行い、5’アーム領域−pyrG遺伝子−TEF1プロモーター遺伝子−フラビン結合型GDH遺伝子−3’アーム領域から成るカセットを構築し、下記の手順でアスペルギルス・ソーヤNBRC4239株由来pyrG破壊株(pyrG遺伝子の上流48bp、コード領域896bp、下流240bp欠損株)の形質転換に用いた。なお、pyrG遺伝子はウラシル栄養要求性マーカーである。500ml容三角フラスコ中の20mMウリジンを含むポリペプトンデキストリン液体培地100mlに、アスペルギルス・ソーヤNBRC4239株由来pyrG破壊株の分生子を接種し、30℃で約20時間振とう培養を行った後、菌体を回収した。回収した菌体からプロトプラストを調製した。得られたプロトプラスト及び20μgの対象遺伝子挿入DNAコンストラクトを用いて、プロトプラストPEG法により形質転換を行い、次いで0.5%(w/v)寒天及び1.2Mソルビトールを含むCzapek-Dox最少培地(ディフコ社;pH6)を用いて、30℃、5日間以上インキュベートし、コロニー形成能があるものとして形質転換アスペルギルス・ソーヤを得た。
得られた形質転換アスペルギルス・ソーヤは、ウリジン要求性を相補する遺伝子であるpyrGが導入されることにより、ウリジン無添加培地に生育できるようになることで、目的の遺伝子が導入された株として選択できた。得られた菌株の中から目的の形質転換体を、PCRで確認して選抜した。
MpGDH変異体の遺伝子により形質転換した形質転換アスペルギルス・ソーヤを用いて、それぞれのGDH生産を行った。
200ml容三角フラスコ中のDPY液体培地(1%(w/v)ポリペプトン、2%(w/v)デキストリン、0.5%(w/v)酵母エキス、0.5%(w/v)KH2PO4、0.05%(w/v)MgSO4・7H20;pH未調整)40mlに、各菌株の分生子を接種し、30℃で4日間、160rpmで振とう培養を行った。次いで、培養後の培養物から菌体をろ過し、得られた培地上清画分をAmicon Ultra-15, 30K NMWL(ミリポア社製)で10mLまで濃縮し、150mM NaClを含む20mM リン酸カリウム緩衝液(pH6.5)で平衡化したHiLoad 26/60 Superdex 200pg(GEヘルスケア社製)にアプライし、同緩衝液で溶出させ、GDH活性を示す画分を回収し、MpGDH-M2の精製標品を得た。なお、この酵素はそのFAD結合部位を介してFADと結合している状態のものである(ホロ酵素)。
実施例2.フェニレンジアミン系化合物と炭素電極との吸着性確認
3種のフェニレンジアミン系化合物(N-イソプロピル-N'-フェニル-p-フェニレンジアミン(IPPD、東京化成工業社製、製品コードP0327)、N,N'-ジフェニル-p-フェニレンジアミン(DPPD、東京化成工業社製、製品コードD0609)、N-(1,3-ジメチルブチル)-N'-フェニル-p-フェニレンジアミン(6PPD、東京化成工業社製、製品コードD3331)を用いて、印刷電極によるサイクリックボルタンメトリー(CV)を行った。具体的には、カーボンの作用電極(12.6mm2)、銀の参照電極が印刷されてなる、SCREEN-PRINTED ELECTRODES(DropSens社製、製品番号DRP-C110)上に、終濃度10μg/mlのIPPD 10%エタノール水溶液を3μl塗布し、室温で乾燥させた。その後電極を純水で洗浄し、専用コネクター(DropSens社製、DRP-CAC)を用いて、ALS 電気化学アナライザー 814D(BAS社製)に接続した。印刷電極を作用極とし、銀塩化銀電極(BAS社製)を参照極、白金電極(BAS社製)を対極として、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)10mL中に浸漬させた。この溶液を650rpmで撹拌させながら、-200mVから+400mV(vs.Ag/AgCl)の範囲で電圧を掃引したサイクリックボルタンメトリーを行った。掃引速度を10mV/secから50mV/secの範囲で変化させ、酸化電流の最大値(IOmax)および還元電流の最大値(IRmax)がどのように変化するか調べた。一般的に、メディエータが電極に吸着している場合、サイクリックボルタンメトリーの掃引速度とIOmaxおよびIRmaxの値は比例関係になることが知られている。メディエータが拡散している場合は、掃引速度の0.5乗にIOmaxおよびIRmaxが比例する。
IPPDを用いたサイクリックボルタンメトリーを実施し、掃引速度とIOmaxおよびIRmaxをプロットした結果を図1に示す。その結果、掃引速度とIOmaxおよびIRmaxが比例関係にあることが確認され、IPPDがカーボン電極に吸着することが示された。
IPPDの代わりにDPPD、6PPDを用いて同様の試験を行った結果を図2、図3に示す。いずれの化合物においても掃引速度とIOmaxおよびIRmaxが比例関係にあることが確かめられ、IPPDと同様、カーボン電極に吸着することが示された。
比較例(p−フェニレンジアミン)
なお、本発明のジフェニルアミン系化合物の代わりに、メディエータとして機能することが既に知られているp−フェニレンジアミンを用いて同様の測定を実施すると、酸化波、還元波のいずれも観測されない。水による電極の洗浄、あるいはリン酸カリウム緩衝液への浸漬により、p−フェニレンジアミンが電極から剥離したためと考えられる。
終濃度100μg/mlのp-フェニレンジアミン10%エタノール溶液10μl、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)10μlを上記の印刷電極に載せ、-200mVから+400mV(vs.Ag/Ag+)の範囲で電圧を掃引したサイクリックボルタンメトリーを行ったところ、図4および5に示すようにIOmaxおよびIRmaxが掃引速度の0.5乗に比例することが確認された。これは、p−フェニレンジアミンが電極に吸着せず、拡散していることを示している。
実施例3.フェニレンジアミン系化合物を用いた電気化学的評価
FAD依存性GDHと3種のフェニレンジアミン系化合物(IPPD、DPPD、6PPD)を用いて、印刷電極を用いたサイクリックボルタンメトリーを行った。具体的には、カーボンの作用電極(12.6mm2)、銀塩化銀の参照電極が印刷されてなる、SCREEN-PRINTED ELECTRODES(DropSens社製、製品番号DRP-110)を、専用コネクター(DropSens社製、DRP-CAC)を用いて、ALS 電気化学アナライザー 814D(BAS社製)に接続し、2000U/mlのGlucose Dehydrogenase(FAD-dependent)(BBI社製、Product Code:GLD3、以下GLD3と表記する)溶液5μl、1.5Mの塩化カリウムを含有した50mMのリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)20μl、フェニレンジアミン系化合物の10%エタノール水溶液25μlを電極上に載せた。化合物の終濃度は、IPPDは2.5μM、DPPDおよび6PPDは0.5μMとした。そして、-200mVから400mV(vs. Ag/AgCl)の範囲で電圧を掃引したサイクリックボルタンメトリーを行った。掃引速度は30mV/secとした。続いて、種々の終濃度になるようにグルコース溶液を添加し、同様にサイクリックボルタンメトリーを行った。また対照実験として、フェニレンジアミン系化合物を含まない条件で、上記と同様にサイクリックボルタンメトリーを行った。
フェニレンジアミン系化合物としてIPPDを用いた際のサイクリックボルタモグラムを図6に示す。また、IPPD、DPPD、6PPDを用いた際の、グルコース終濃度と300mVにおける酸化電流値の関係をプロットしたものを図7、8、9に示す。IPPD、DPPD、6PPDのいずれの化合物を用いた場合でも、グルコースに対する応答電流が観測される。一方で、これらの化合物を含まない場合は応答電流が観測されなかったことから、IPPD、DPPD、6PPDはいずれもメディエータとして機能していることが示された。したがって、アノード電極としても利用できることが示された。
続いて上記と同様に、FADGDH-AA(キッコーマンバイオケミファ社製、製品番号60100)またはGlucose Dehydrogenase(FAD-dependent)(BBI社製、Product Code:GLD1、以下GLD1と表記する)とIPPDを混合し、-200mVから+400mV(vs. Ag/AgCl)の範囲で電圧を掃引したサイクリックボルタンメトリーを行った。ただしIPPD終濃度は、FADGDH-AAとの組み合わせでは5μM、GLD1との組み合わせでは2.5μMとした。結果を図10、11に示す。IPPD添加時のみグルコースに対する応答電流が観測されたことから、IPPDがメディエータとして機能していることが分かった。したがって、アノード電極としても利用できることが示された。
続いて、GOD from A.niger Type X-S(Sigma-Aldrich社製、製品番号G7141、以下GODと表記する)とIPPDを混合し、上記と同様にサイクリックボルタンメトリーを行った。結果を図12に示す。IPPD添加時のみグルコースに対する応答電流が観測されたことから、IPPDがメディエータとして機能していることが分かった。したがって、アノード電極としても利用できることが示された。
実施例4.その他の酸化還元酵素について
続いて、Fructosyl-peptide Oxidase (FPOX-CE)(キッコーマンバイオケミファ社製、製品番号60123、以下FPOX-CEと表記する)とIPPDを用いて、印刷電極によるクロノアンペロメトリーを行った。具体的には、0.79U/mlのFPOX-CE溶液5μl、3Mの塩化ナトリウムを含有した100mMのリン酸カリウム緩衝液(pH8.0)35μl、10ng/μlのIPPDの10%エタノール溶液5μlを電極上に載せた。さらに、9mMのフルクトシルグリシン溶液を1μlずつ添加した。そして、+250mV(vs. Ag/AgCl)を印加し、120秒間の応答電流値変化を観測した。
印加後から10秒後の値を記録したところ、図13に示すように、フルクトシルグリシンの濃度が増加するにつれて応答電流値が増加することがわかった。したがって、IPPDはFPOX-CEに対してもメディエータとして機能していることが示された。したがって、アノード電極としても利用できることが示された。
実施例5.フェニレンジアミン系化合物・GDH固定化センサーを用いたグルコース測定
SCREEN-PRINTED ELECTRODES(DropSens社製、製品番号DRP-C110)上に、5%ポリエチレンイミン(平均分子量10000)を3μl塗布し、室温乾燥させた。引き続き、IPPD(10%エタノール溶解)を3μl、GDH-M2を30U分も塗布し、室温乾燥させた。最後に、2.5mg/dlのポリエチレングルコールジグリシジルエーテル(平均分子量500)を1μl塗布し、4℃で一晩静置した。得られた電極を純粋で洗浄し、IPPD・GDH固定化電極とした。次に、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7)中にIPPD・GDH固定化電極とAg/AgCl参照極、白金対極を浸漬させ、CV測定を行った。掃印速度は10mV/secとした。2Mグルコースを適宜添加し、各グルコース濃度における+200mVにおける酸化電流値を算出した。その結果を図14に示す。グルコース濃度が増加するにつれて、応答電流値も増加することが分かった。したがって、濃度が既知のグルコースを測定し、検量線を作成することでグルコース濃度を定量することができるといえる。また、アノード電極としても利用できることが示された。
実施例6 炭素以外の電極素材を用いた際の吸着確認試験
IPPDとGDH-M2を含むpH7のリン酸緩衝液中に金電極(BAS社製、Cat No. 002421)、Ag/AgCl参照極、白金対極を浸漬させ、CV測定を行った。掃印速度を10〜100mV/secとし、掃印速度とIOmaxおよびIRmaxをプロットした。その結果、掃引速度とIOmaxおよびIRmaxが比例関係にあることが確認され、IPPDが金電極に吸着することが示された。
同様に、金電極の代わりに白金電極(BAS社製、Cat No. 002422)を用いた際にも、掃引速度とIOmaxおよびIRmaxが比例関係にあることが確認され、IPPDが白金電極に吸着することが示された。
実施例7.燃料電池の構築
精製GDHをカーボン電極にグルタルアルデヒドによる架橋固定化することでアノード電極を作製する。その際、IPPD(10%エタノール溶液)をアノードに接触させ、IPPDを電極に吸着させる。場合により接触後、アノードを室温乾燥させる。また、ビリルビンオキシダーゼ(BOD、天野エンザイム社製)を多孔質カーボン電極に固定化することでカソード電極を作製する。アノード電極とカソード電極との間に固体高分子電解質膜としてナフィオン膜を挟んだ、バイオ電池を構築する。また、アノード電極とカソード電極を結ぶ配線の間に、一定の負荷抵抗と電圧計をそれぞれ直列と並列に挿入する。アノード側には、1M リン酸カリウム緩衝液(pH7.0)、400mM D-グルコースを含む電解質溶液を入れ、グルコースを供給し、30℃,pH7の条件で作動させ、電流が流れるようにする。
特定の理論に拘束されることを望むものではないが、本発明の燃料電池について以下のように考察される。すなわち、実施例3において本発明の化合物を吸着させた電極を用いてグルコースが定量できた。したがって例えば酸素を用いる燃料電池であれば、燃料槽にメディエータを添加せずに簡便な設計で電気を流すことを可能とすることが期待される。これは種々の用途において有利となる。
本発明のフェニレンジアミン系化合物を含む電極改変剤又は該電極改変剤が吸着した電極を用いることにより、電池等の各種の電気化学的測定を行うことができる。
本明細書で言及又は引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
配列の簡単な説明
配列番号1 Mucor prainii由来GDH(aa)
配列番号2 Mucor prainii由来GDH(DNA)
配列番号3 MpGDH-M2(aa)
配列番号4 MpGDH-M2(DNA)

Claims (9)

  1. 式Iの構造を有する電極改変剤を含む電池
    Figure 2019186122
    [式中、
    R1、R2及びR7は、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のXにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC1-6アルキル、C1-6アルケニル、C1-6アルキニル、C3-9シクロアルキル、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル又はフェナントレニル、であり、
    R3、R4、R5及びR6は、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のYにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC1-6アルキル、C1-6アルケニル、C1-6アルキニル、C1-6アルコキシ、ハロ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、スルホン又はアミノであり、
    R8は、場合により1以上のXにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル及びフェナントレニル、からなる群より選択され、
    ここでXは水素、場合によりハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ及びスルホンからなる群より選択される置換基により置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖の、C1-6アルキル、C1-6アルケニル、C1-6アルキニル、C1-6アルコキシ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロ、カルボキシ、シアノ、スルホン又はアミノであり、
    Yはハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ及びスルホンからなる群より選択される]。
  2. 式Iの化合物が前記電池の電極に固定化されている、請求項1に記載の電池。
  3. 酸化還元酵素を有する、請求項1又は2に記載の電池。
  4. 酸化還元酵素が電極に固定化されている、請求項3に記載の電池。
  5. 式Iで表される化合物が、
    Figure 2019186122
    Figure 2019186122
    及び
    Figure 2019186122
    からなる群より選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電池。
  6. 式Iの構造を有する電極改変剤を用いる工程を含む、電池の製造方法
    Figure 2019186122
    [式中、
    R1、R2及びR7は、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のXにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC1-6アルキル、C1-6アルケニル、C1-6アルキニル、C3-9シクロアルキル、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル又はフェナントレニル、であり、
    R3、R4、R5及びR6は、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のYにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC1-6アルキル、C1-6アルケニル、C1-6アルキニル、C1-6アルコキシ、ハロ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、スルホン又はアミノであり、
    R8は、場合により1以上のXにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル及びフェナントレニル、からなる群より選択され、
    ここでXは水素、場合によりハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ及びスルホンからなる群より選択される置換基により置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖の、C1-6アルキル、C1-6アルケニル、C1-6アルキニル、C1-6アルコキシ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロ、カルボキシ、シアノ、スルホン又はアミノであり、
    Yはハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ及びスルホンからなる群より選択される]。
  7. 前記電極改変剤を、電池の電極と接触させる工程を含む、請求項6に記載の方法。
  8. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の電池を用いる、発電方法。
  9. 式Iで表される化合物が、
    Figure 2019186122
    Figure 2019186122
    及び
    Figure 2019186122
    からなる群より選択される、請求項6又は7に記載の方法。
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