以下、本発明の実施の形態に係る撹拌装置について図面を参照して詳細に説明する。なお図面中、同一又は同等の部分には同一の符号を付す。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る撹拌装置100の構成を示す図である。撹拌装置100は、培養容器1に細胞2とともに保持された液体培地3を撹拌する。図1には培養容器1の底面に対する平面視における撹拌装置100が示されている。培養容器1は、底面が円である円筒状で、上面が開口している。培養容器1はポリカーボネート製である。
細胞2は、浮遊系で培養できる動物細胞である。液体培地3は、細胞2の培養に適した液体培地である。液体培地3には、有機物、pH緩衝液、血清、各種ミネラル、抗生物質及びpH指示薬等が含まれている。
撹拌装置100は、底面が四角形である四角柱状で上面が開口している水槽4と、液体培地3に向かって超音波を照射する照射部としての超音波振動子5と、超音波振動子5の動作を制御する制御部としてのコントローラ6と、超音波振動子5及びコントローラ6に電力を供給する駆動用電源7と、を備える。なお、以下では、超音波振動子を単に「振動子」と表記する。
図2は、図1におけるA−A’破線で撹拌装置100を切断し、矢視したときの撹拌装置100を示す。水槽4の内部には、円筒形状の設置台8が配設されている。培養容器1は、設置台8の上に配置されている。水槽4の内部には、液面が振動子5より高く、かつ培養容器1の上端より低い位置まで液体9が入っている。より具体的には、液体9は、重量濃度として10%のエチレングリコールを添加した水である。
振動子5は水槽4の壁4aに取り付けられた粘弾性体10に埋め込まれることで、水槽4に設置されている。振動子5は圧電素子を備える。駆動電圧を印加された圧電素子が一点鎖線で示されている振動子5の中心軸の方向に振動することで、振動子5は超音波(疎密波)を照射する。照射された超音波は中心軸に沿って伝搬する。ここでの超音波とは、周波数が20kHz以上の弾性振動波である。
図1に戻って、振動子5はケーブル11を介してコントローラ6に接続されている。コントローラ6は、ケーブル11を介して駆動用電源7に接続されている。コントローラ6は、CPU(Central Processing Unit)と、外部記憶装置と、RAM(Random Access Memory)と、を備える。CPUが外部記憶装置に記憶されたソフトウェアプログラムをRAMに読み出し、ソフトウェアプログラムを実行制御することで、コントローラ6は振動子5の動作を制御する。
コントローラ6は、振動子5から照射される超音波の周波数及び振幅に対応する駆動電圧を生成する。コントローラ6は、生成した駆動電圧を振動子5に印加する。振動子5は、駆動電圧に応じて振動する。本実施の形態では、コントローラ6は、連続的に駆動電圧を振動子5に印加する。超音波の周波数は165kHzである。なお、細胞2の死滅及び減少を抑制するため、コントローラ6は、駆動電圧の振幅を制御し、超音波に起因して培養容器1内に生じる音圧を300kpa以下にする。
図3は、培養容器1の水平断面における振動子5から照射される超音波の中心軸の位置を示す図である。図3において、振動子5から照射される超音波の中心軸でもある振動子5の中心軸は一点鎖線で示されている。振動子5は、培養容器1の水平断面における培養容器1の中心Oを中心とする円Cの接線に超音波の中心軸を一致させて、液体培地3に向かって超音波を照射する。
次に、本実施の形態における撹拌装置100の使用方法について、図1を参照しながら説明する。
撹拌装置100は、二酸化炭素の濃度が5%に維持された37℃の空気の雰囲気下に設置される。また、撹拌装置100は、液体培地3が外部から汚染されないために密閉空間内に設置される。
撹拌装置100を設置し、水槽4内に配置された培養容器1に保持された液体培地3が雰囲気下で安定するのを待つ。続いて、液体培地3に107個以上の細胞2を滅菌ピペットで液体培地3に播種する。次に、コントローラ6が振動子5に駆動電圧を印加する。これにより、振動子5が中心軸の方向に振動し、超音波が液体培地3に向かって照射される。より詳細には、振動子5の振動によって生じた音響放射圧が、振動子5の端面に接する液体9中を伝搬する。音響放射圧は、培養容器1の側面を介して液体培地3にさらに伝搬する。液体培地3には、音響放射圧に基づく音響流が生じる。この結果、液体培地3において培養容器1の高さ方向を軸とする旋回流12が発生する。
旋回流12をより確実に発生させるために、振動子5によって照射された超音波が液体培地3に励起する音響流は、培養容器1の中心Oを通らない。図4は、培養容器1に対する平面視における撹拌装置100を示す図である。中心軸が一点鎖線で示された超音波によって液体培地3に励起される音響流Sは直進性を有する。超音波の中心軸に垂直な方向における音響流Sの幅をDとする。音響流Sは、超音波の進行方向に液体培地3中を進む。このとき、Dの中点は超音波の中心軸上となる。
ここで、振動子5が(i)の位置にある場合、培養容器1の中心Oと超音波の中心軸との距離LがD/2より短いL1となる。LがL1のとき、音響流Sが中心Oを通り、培養容器1の側面に対して直角にぶつかる。したがって、培養容器1の高さ方向を軸とする旋回流12を発生させることが難しい。このため、LをD/2以上とすることで旋回流12をより確実に発生させることができる。
距離Lの上限は、液体培地3に音響流Sが励起される限り特に限定されない。ただし、培養容器1の底面の半径をRとすると、振動子5が(ii)の位置にある場合、LがR+D/2より長いL2となる。LがL2のとき、振動子5の振動によって生じた音響放射圧はほとんど液体培地3に伝搬しない。よって、音響放射圧の大半を液体培地3に伝搬させるには、LをR+D/2以下とすればよい。
以上説明したとおり、本実施の形態1に係る撹拌装置100によれば、培養容器1内に培養容器1の高さ方向を軸とする旋回流12を発生させることで、細胞2に対するせん断流の発生を抑制することができる。このため、細胞2に過度なストレスを与えることなく、細胞2の増殖率及び生存率が低下を抑えることができる。この結果、細胞2を効率よく培養することができる。
また、LをD/2以上かつR+D/2以下にすることで、旋回流12をより確実に、かつ効率的に発生させることができる。このため、振動子5の駆動に要する消費電力を抑えることができる。なお、図4において、超音波の中心軸に垂直な方向における振動子5の幅が音響流Sの幅Dに一致する場合には、振動子5の幅を上述の音響流Sの幅Dとしてもよい。
なお、本実施の形態では、培養容器1の材質はポリカーボネートに限定されず、オートクレーブによる滅菌が可能な他のプラスチック又はガラスでもよい。例えば、培養容器1の材質としては、ポリスチレンが挙げられる。
また、液体培地3に播種する細胞2の個数は、本実施の形態のように107個以上が好ましいが、これに限定されない。培養する細胞2の種類又は増殖特性に応じて播種する細胞2の個数は適宜調整される。
また、液体9は液体であれば、水でも油でもよいが、音響インピーダンスが培養容器1に近い液体が望ましい。なお、本実施の形態では、液体9としてエチレングリコールを添加した水を用いたが、エチレングリコールを添加しなくてもよい。
本実施の形態では、超音波の周波数を165kHzとしたが、周波数は使用する振動子5に応じて適宜設定される。
なお、本実施の形態では、培養容器1は、底面が円である円筒状としたが、培養容器1の底面は、楕円の他、正方形、長方形、ひし形及び平行四辺形等の点対称の図形であってもよい。培養容器1の底面が楕円の場合、水平断面における培養容器1の中心Oは、楕円の重心に一致する。培養容器1の底面が点対称の図形の場合、点対称の中心が培養容器1の中心Oとなる。
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2に係る撹拌装置200、300及び400について、上記実施の形態1に係る撹拌装置100と異なる点を主に説明する。図5は、培養容器1に対する平面視における撹拌装置200を示す。撹拌装置200は、振動子5に加え、振動子5と同様の振動子5aを備える。振動子5aは、振動子5が取り付けられている水槽4の壁4aに対向する壁4bに取り付けられている。
振動子5と振動子5aとは、培養容器1の中心Oを対称の中心とする点対称の位置関係にある。振動子5は、振動子5から超音波の進行方向に向かって、一点鎖線で示される振動子5から照射される超音波の中心軸に対して左側に培養容器1の中心Oが位置する。振動子5aも同様である。
コントローラ6は、振動子5及び5aそれぞれの動作を個別に制御する。図6は、振動子5及び5aそれぞれに印加される駆動電圧の波形を示す。図6に示すように、振動子5及び5aそれぞれに、波形が同期された駆動電圧が連続的に印加される。この駆動電圧を振動子5及び5aに印加することで、コントローラ6は、振動子5及び5aを連続的に駆動する。
図7は、振動子5及び5aそれぞれに印加される駆動電圧の別の波形を示す。図7に示すように、波形が同期された駆動電圧が同じタイミングで、振動子5及び5aそれぞれに一定時間印加された後、一定時間印加されず、再び一定時間印加される。この駆動電圧を振動子5及び5aに印加することで、コントローラ6は、振動子5及び5aを間欠的に駆動する。
コントローラ6は、振動子5及び5aそれぞれから交互に超音波を照射させてもよい。例えば、図8に示すように、振動子5には、駆動電圧が一定時間印加された後、一定時間印加されず、再び一定時間印加される。一方、振動子5aには、振動子5に駆動電圧が印加されていない時間に駆動電圧が印加される。
振動子5の個数は2個に限らず、振動子5をさらに増設してもよい。図9は、平面視における撹拌装置300を示す。撹拌装置300は、振動子5に加え、振動子5と同様の振動子5a、5b及び5cを備える。振動子5a、5b及び5cは、振動子5が取り付けられていない水槽4の3つの壁4b、4c及び4dそれぞれに取り付けられる。振動子5と振動子5a、5b、5cとは、培養容器1の中心Oを対称の中心とする4回対称の位置関係にある。
図10は、培養容器1に対する平面視における撹拌装置400を示す。撹拌装置400は、水槽4に代えて水槽13を備える。水槽13の形状は底面が八角形の八角柱状である。撹拌装置400は、振動子5に加え、振動子5と同様の振動子5a、5b、5c、5d、5e、5f及び5gを備える。振動子5a〜5gは、振動子5が取り付けられていない水槽13の7つの壁4b、4c、4d、4e、4f、4g及び4hそれぞれに取り付けられる。振動子5と振動子5a、5b、5c、5d、5e、5f及び5gとは、培養容器1の中心Oを対称の中心とする8回対称の位置関係にある。
以上説明したとおり、実施の形態2に係る撹拌装置200、300及び400では、振動子5が複数個であって、すべての振動子5は、培養容器1に対する平面視において、振動子5から超音波の進行方向に向かって、中心軸に対して左右同じ側に培養容器1の中心が位置する方向に超音波を照射することとした。当該超音波によって励起される音響流は、中心Oの周囲を同じ方向に周る旋回流12を発生させる。こうすることで、1個の振動子5の駆動に要する電力量を抑えつつ、1個の振動子5を用いた撹拌装置100と同じ速度の旋回流12を得ることができる。
さらに、振動子5に供給する電力量を抑えることで、振動子5の劣化を遅らせることができ、振動子5の駆動寿命を延長できる。なお、上記実施の形態1に係る撹拌装置100のように振動子5を1個とした場合、撹拌装置100の部品点数を抑えることができるという利点がある。
また、コントローラ6は、振動子5及び5aそれぞれの動作を個別に制御する。これにより、振動子5及び5aそれぞれの振動をより柔軟に制御することができ、旋回流12の速度を適切に調整することができる。上述のように、コントローラ6が、中心Oを対称の中心とする点対称な位置に配置された振動子5及び5aそれぞれに、駆動電圧を連続的に印加すると、同じ方向に旋回流12を生じさせることができる。このため、旋回流12の速度を大きくすることができる。
振動子5及び5aの駆動で発生する熱の伝熱及び超音波の照射によって液体9、培養容器1及び液体培地3の温度が上昇することがある。これに対し、コントローラ6が、振動子5及び5aそれぞれに駆動電圧を間欠的に印加することで、駆動電圧が印加されない時間に細胞2の培養に影響する液体培地3の温度上昇を抑制することができる。
また、本実施の形態では、コントローラ6が振動子5及び5aそれぞれから交互に超音波を照射させてもよいこととした。こうすることで、液体培地3に音響流が常時励起されるため、旋回流12の速度を維持することができる。さらに、振動子5による超音波の照射によって振動子5に近い液体培地3の温度が上昇したとしても、振動子5aが超音波を照射している間に振動子5が超音波の照射を停止することで、温度が上昇した振動子5に近い液体培地3が放熱によって冷却される。結果として、液体培地3の全体の温度上昇を抑制することができる。
なお、図6及び図7に示した駆動電圧の波形は同期されなくてもよい。また、撹拌装置200、300及び400において、振動子5から照射される超音波の中心軸と中心Oとの距離は、振動子5を除く振動子5a等から照射される各超音波の中心軸と中心Oとの距離と等しくなくてもよい。
培養容器1の高さ方向における振動子5、5a〜5gの位置は特に限定されない。培養容器1の高さ方向における旋回流12の速度に応じて適宜調整される。
(実施の形態3)
上記実施の形態2に係る撹拌装置200では、振動子5及び5aから照射された超音波は、水槽4の壁4b及び4aにそれぞれ伝搬し、水槽4、培養容器1及び液体9に拡散する。拡散した超音波が振動子5及び5aから照射された超音波と干渉すると、超音波の音圧が低下することがある。超音波の音圧低下は、撹拌効率を低下させるおそれがある。
撹拌効率の低下を防ぐためには、超音波の拡散を抑制すればよい。そこで、本発明の実施の形態3に係る撹拌装置500は、撹拌装置200の構成に加え、超音波を減衰する減衰材14を備える。以下では、撹拌装置500について、撹拌装置200と異なる点を主に説明する。図11は、培養容器1に対する平面視における撹拌装置500を示す。減衰材14は、超音波を含む音波を吸収する吸音材である。減衰材14の材質は高分子系のシリコーン樹脂である。
減衰材14は、振動子5によって照射される超音波の進行方向に対向する位置に配置されている。より詳細には、減衰材14は、振動子5が取り付けられている水槽4の壁4aに対向する壁4bにおける、超音波が照射される箇所に取り付けられている。培養容器1は、振動子5と減衰材14との間に配置される。振動子5aによって照射される超音波の進行方向に対向する位置にも減衰材14が同様に配置される。
振動子5及び5aから照射された超音波は、水槽4の壁4b及び4aにおいて減衰材14に吸収されるため、超音波の拡散を防止することができる。こうすることで、撹拌効率の低下を回避できる。
また、振動子5及び5aから照射された超音波が水槽4、培養容器1及び液体9に拡散した場合、旋回流12の発生が抑制され、旋回流12の維持が妨げられることも懸念される。減衰材14を設置することで、水槽4の壁4a及び4bを介して拡散する超音波による旋回流12への影響も抑えることができる。
なお、減衰材14は、上記実施の形態1における撹拌装置100、上記実施の形態2における撹拌装置300及び400に設置されてもよい。図1に示された撹拌装置100の場合、減衰材14を、壁4aに対向する壁における超音波が照射される箇所に取り付ければよい。撹拌装置300の場合には、減衰材14を、壁4a、4b、4c及び4dそれぞれの超音波が照射される箇所に1個ずつ取り付ければよい。撹拌装置400の場合には、減衰材14を、壁4a、4b、4c、4d、4e、4f、4g及び4hそれぞれの超音波が照射される箇所に1個ずつ取り付ければよい。
なお、減衰材14の材質を高分子系のシリコーン樹脂としたが、これに限定されない。減衰材14の材質は、音波を吸収し、かつ液体9に耐性があるものから適宜選択される。
(実施の形態4)
上記実施の形態1〜3に係る撹拌装置100〜500によって効率よく培養した細胞2を回収する必要がある。そこで、上記実施の形態2に係る撹拌装置200に、細胞2を回収するための構成を追加した実施の形態として撹拌装置600について説明する。以下では、撹拌装置600について、上記実施の形態2に係る撹拌装置200と異なる点を主に説明する。
図12は撹拌装置600の構成を示す図である。撹拌装置600は、上述の撹拌装置200の構成に加えて、両端が開口した管15と、吸引ポンプ16と、吸引ポンプコントローラ17と、吸引ポンプ駆動電源18と、開閉弁19と、回収用バッグ20と、を備える。
管15の開口した一端は吸入口21である。吸入口21は、液体培地3と接する、又は液体培地3内に入っている。管15の開口した他端は吸引ポンプ16に接続されている。吸引ポンプ16は、ケーブル11を介して、吸引ポンプコントローラ17に接続されている。吸引ポンプコントローラ17は、ケーブル11を介して、吸引ポンプ駆動電源18に接続されている。
吸引ポンプ駆動電源18は、吸引ポンプ16及び吸引ポンプコントローラ17に電力を供給する。吸引ポンプコントローラ17は、CPUと、外部記憶装置と、RAMと、を備える。CPUが外部記憶装置に記憶されたソフトウェアプログラムをRAMに読み出し、ソフトウェアプログラムを実行制御することで、吸引ポンプコントローラ17は吸引ポンプ16の動作を制御する。回収用バッグ20は、開閉弁19を介して吸引ポンプ16に接続されている。開閉弁19を閉めると、吸引ポンプ16から回収用バッグ20への空気の流入が遮断される。一方、開閉弁19を開けると、吸引ポンプ16から回収用バッグ20への空気の流入が可能になる。
吸引ポンプ16、吸引ポンプコントローラ17、吸引ポンプ駆動電源18、開閉弁19及び回収用バッグ20は、回収部として機能する。開閉弁19が開いた状態で、吸引ポンプコントローラ17が吸引ポンプ16を駆動すると、吸引ポンプ16は吸入口21から吸引する。吸入口21が液体培地3と接する、又は液体培地3に入っているため、培養容器1内の細胞2が液体培地3とともに吸入口21から吸引される。吸引された液体培地3及び細胞2は、回収用バッグ20に移送される。これにより、撹拌装置600は細胞2を回収することができる。
吸引ポンプコントローラ17は、回収用バッグ20に回収された液体培地3が規定の量になったら、吸引ポンプコントローラ17は、吸引ポンプ16による吸引を停止する。最後に、開閉弁19を閉めると、細胞2を保持する回収用バッグ20が得られる。
撹拌装置600は、液体培地3が外部から汚染されないために密閉空間内に設置される。液体培地3に播種された細胞2を、超音波による旋回流12によって撹拌しながら培養する。培養後、吸引ポンプコントローラ17が吸引ポンプ16を駆動することで、細胞2が回収用バッグ20に回収される。
以上説明したように、撹拌装置600によれば、細胞2の培養から回収に至るまでのすべての工程を閉鎖した空間で行うことができる。こうすることで、細胞2の培養時及び回収時の作業に伴う汚染の危険性を極力小さくすることができる。汚染を避けることで、高品質な細胞2を取得できる。
なお、管15は常時設置されてもよいし、液体培地3の撹拌中又は細胞2の培養が完了した時点で設置されてもよい。また、管15の形状及び大きさは、培養容器1に入れることができれば任意である。
なお、吸引ポンプコントローラ17は、回収バッグ20に回収された液体培地3の量を、センサで監視してもよい。この場合、吸引ポンプコントローラ17は、センサによって液体培地3が規定の量になったことを検出したタイミングで吸引ポンプ16による吸引を停止する。
また、細胞2の培養は、液体培地3の撹拌時間に基づいて終了してもよいし、液体培地3における細胞2の濃度に基づいて終了してもよい。細胞2の濃度は吸光度等を定期的に測定することで評価できる。撹拌時間に基づいて培養を終了する場合、コントローラ6がタイマで測定した撹拌時間を参照し、規定の時間になったタイミングで超音波の照射を停止すればよい。細胞2の濃度に基づいて培養を終了する場合、コントローラ6が定期的に測定される細胞2の濃度を参照し、規定の濃度になったタイミングで超音波の照射を停止すればよい。
また、コントローラ6を吸引ポンプコントローラ17に通信可能に接続し、コントローラ6が培養終了を吸引ポンプコントローラ17に通知してもよい。この場合、培養終了が通知されると、吸引ポンプコントローラ17は、即時又は一定時間後に吸引ポンプ16を駆動することで、細胞2を回収する。
本実施の形態では細胞2を回収用バッグ20に移送するが、容量がより大きい他の培養容器、細胞2の塊を分離する分離装置、液体培地3を除去して液体培地3中の細胞2の濃度を高める濃縮装置等に細胞2を移送してもよい。
なお、本実施の形態では、細胞2を回収する構成を撹拌装置200に追加したが、撹拌装置200に代えて、撹拌装置100、300〜500に、管15、吸引ポンプ16、吸引ポンプコントローラ17、吸引ポンプ駆動電源18、開閉弁19及び回収用バッグ20、を追加してもよい。
(実施の形態5)
実施の形態4に係る撹拌装置600によって、培養後に細胞2を回収することができる。しかし、回収時に吸入口21の付近に細胞2を集めておかないと細胞2を回収するためにほとんどの液体培地3を吸引しなければならず、回収効率において不利である。
そこで、本発明の実施の形態5に係る撹拌装置700は、撹拌装置600における吸入口21の付近に培養後の細胞2を集めるための構成を備える。以下では、撹拌装置700について、上記実施の形態4に係る撹拌装置600と異なる点を主に説明する。
図13は、平面視における培養容器1の水平断面を示す図である。図13において、培養容器1の水平断面に投影された吸入口21が破線で示されている。撹拌装置700では、培養容器1の水平断面における培養容器1の中心Oに重なる位置に吸入口21が配置される。
図14は、中心Oで培養容器1の高さ方向に切断した培養容器1及び管15の切断面を示す。図14において、培養容器1の高さ方向の、旋回流12の回転軸が破線で示されている。回転軸からの距離に比例する旋回流12の速度によって、図14に示す液体培地3の液面3aのように、培養容器1の側面側の圧力がもっとも高く、回転軸に向かって圧力が小さくなり、回転軸の位置で圧力がもっとも小さくなる。この圧力勾配によって、回転軸に向かう向心力F1が細胞2に作用する。一方、旋回流12による回転によって、培養容器1の回転軸から培養容器1の側面へ向かう遠心力F2が細胞2に作用する。細胞2に作用する遠心力F2の大きさは、回転軸からの距離によって決まる。向心力F1の大きさと遠心力F2の大きさとが等しい場合、細胞2は、回転軸からの距離を一定に保ちながら回転軸の周りを旋回する。
コントローラ6は、振動子5及び5aの動作を制御することによって、向心力F1の大きさと遠心力F2の大きさとが等しい場合の旋回流12の速度よりも旋回流12の速度を大きくする。そうすると、液体培地3に粘性があるため、培養容器1の底面付近での旋回流12の速度は、液面3a付近での旋回流12の速度に比べ相対的に小さくなる。したがって、培養容器1の底面付近では、向心力F1に比べて遠心力F2が小さくなる。その結果、図15に示すように、液体培地3には、培養容器1の底面付近では回転軸へ向かう流れが生じ、回転軸付近では上昇する流れが生じる。液体培地3の流れは、液面3a付近では培養容器1の側面に向かい、培養容器1の側面付近で底面方向に向かう。ここで、細胞2の比重は液体培地3の比重よりも大きいため、回転軸付近で細胞2は上昇せず、回転軸付近に留まる傾向がある。
すなわち、旋回流12によって細胞2に作用する向心力F1が遠心力F2よりも大きい場合に、細胞2を回転軸付近に集めることができる。よって、コントローラ6は、細胞2を回収する際、振動子5及び5aの動作を制御することで、液体培地3の旋回流12によって細胞2に作用する向心力F1を遠心力F2よりも大きくする。こうすることで、図16に示すように、培養容器1の中心Oに重なる位置に細胞2を徐々に集めることができる。
次に、撹拌装置700の動作について説明する。撹拌装置700は、超音波による旋回流12によって液体培地3を撹拌しながら細胞2を培養する。培養時には、コントローラ6は、振動子5及び5aの動作を制御することで、向心力F1を遠心力F2と等しくする、又は向心力F1を遠心力F2よりも小さくする。
培養が終了したら、コントローラ6は、振動子5及び5aの動作を制御することで、向心力F1を遠心力F2よりも大きくする。これにより、吸入口21が配置された位置に細胞2が集まる。続いて、吸引ポンプコントローラ17が吸引ポンプ16を駆動することで、細胞2が回収用バッグ20に回収される。
以上説明したように、本実施の形態に係る撹拌装置700では、コントローラ6が振動子5及び5aの動作を制御することで、細胞2に作用する向心力F1と遠心力F2とを利用して吸入口21が配置された位置に細胞2を集めることができる。これにより、細胞2を効率的に回収することができる。撹拌装置700は、集めた細胞2を回収するので、回収した液体培地3中の細胞2の濃度を、撹拌装置600と比較して高めることができる。
なお、上記のように旋回流12の速度を制御することで回転軸付近の上昇する流れの大きさを調整することができる。このため、所望の大きさ又は重さを有する細胞2のみを中心Oに重なる位置に細胞2を集めることができる。
なお、本実施の形態では、細胞2を回収する構成及び細胞2を集める構成を撹拌装置200に追加したが、撹拌装置200に代えて、撹拌装置100、300〜500を用いてもよい。
(実施の形態6)
上記実施の形態5に係る撹拌装置700では、吸入口21が配置される培養容器1の中心Oに重なる位置に細胞2を集める構成としたが、本発明に係る撹拌装置はこれに限らない。コントローラ6は、振動子5及び5aの動作を制御し、細胞2に作用する向心力F1及び遠心力F2の大きさを適宜調整することで、中心O以外の任意の位置に細胞2を集めることができる。
また、向心力F1及び遠心力F2の大きさの調整によらずとも、超音波の照射方向を変えることによって細胞2を任意の位置に集めることができる。以下では、上記実施の形態4に係る撹拌装置600の構成に、超音波の照射方向を変えるための構成を備えた撹拌装置800について、撹拌装置600と異なる点を主に説明する。
図17は、撹拌装置800の構成を示す図である。撹拌装置800は、振動子5及び5aの超音波の照射方向を手動で変えられる方向可変機構22を備える。これにより、振動子5及び5aから照射される超音波の進行方向を変えることができる。
図18は、培養容器1に対する平面視での撹拌装置800の水槽4、振動子5及び5aを示す。撹拌装置800では、コントローラ6及び振動子5aが振動子5から照射される超音波を定在波にする定在波生成部として機能する。振動子5から照射される超音波U1の進行方向と、振動子5aから照射される超音波U2の進行方向とが対向し、超音波U1の波長、周波数及び振幅と、U2の波長、周波数及び振幅とがそれぞれ等しい場合、超音波U1と超音波U2とが干渉して、定在波が合成される。
定在波は、波の進行があたかも止まっているように観測される波である。定在波で、「腹」の位置で振幅が最大となり、振動が繰り返し行われ、「節」の位置で振幅が最小となる。超音波U1及び超音波U2の波長をλとすると、節及び腹はそれぞれλ/2ごとに現れる。
液体培地3に定在波が生じた場合、定在波の節に細胞2を留めることができる。コントローラ6は、振動子5及び5aから照射される超音波の波長、周波数及び振幅を調整することで、定在波の節を任意の位置に生じさせる。
図17に戻って、撹拌装置800は、位置決め部23を備える。位置決め部23は、管15を保持している。位置決め部23は、管15を左右前後及び培養容器1の高さ方向に移動させることができる。管15を移動させることで、位置決め部23は、吸入口21を培養容器1内の任意の位置に移動させることができる。
次に、撹拌装置800の動作について説明する。撹拌装置800は、超音波による旋回流12によって液体培地3を撹拌しながら細胞2を培養する。培養が終了したら、図18に示すように、方向可変機構22を介して振動子5及び5aによる超音波の照射方向を変更し、超音波を定在波にする。そして、定在波の節に細胞2が留まるまで待つ。
細胞2が定在波の節に集まると、位置決め部23が吸入口21を定在波の節の位置に移動させる。続いて、吸引ポンプコントローラ17が吸引ポンプ16を駆動することで、細胞2が回収用バッグ20に回収される。
以上説明したように、本実施の形態に係る撹拌装置800では、定在波を用いて細胞2を任意の位置に導き集めることができる。また、撹拌装置800は、吸入口21を細胞2の集まる位置に移動させることができるため、細胞2を効率的に回収することができる。
なお、本実施の形態では、振動子5及び5aの超音波の照射方向を手動で変えられる方向可変機構22を採用したが、手動ではなくモータ等を用いた自動の位置決め機構で照射方向を変えてもよい。また、方向可変機構22は、振動子5及び5aの超音波の照射方向を培養容器1の高さ方向で変えてもよい。こうすることで、液体培地3の液面付近に定在波を生じさせて、液体培地3の液面付近に細胞2を集めることができる。これにより、位置決め部23が吸入口21を液体培地3に深く入れずに液面付近に移動させることで細胞2を集めることができる。
位置決め部23による吸入口21の移動には、任意の動力、例えばステッピングモータを利用することができる。また、液体培地中3に形成される定在波の節は、1個であっても複数個であってもよい。定在波の節が複数個の場合、位置決め部23は、吸入口21を複数個の節の位置に順次移動させればよい。
また、本実施の形態では、振動子5から照射される超音波U1を反射させて、定在波を生じさせてもよい。この場合、例えば、図18における振動子5aの位置に、超音波U1を振動子5に向けて反射する反射部材を配置すればよい。
なお、本実施の形態では、撹拌装置200に細胞2を回収する構成、細胞2を集める構成、方向可変機構22及び位置決め部23を追加したが、撹拌装置200に代えて、撹拌装置100、300〜500を用いてもよい。
また、複数の振動子5、又は反射材を配置して、交差する2つの定在波を生じさせてもよい。例えば、図19に示すように、交差する定在波U3及びU4における交差地点に細胞2を留めることができる。この場合、位置決め部23が吸入口21を交差地点に移動させることで、細胞2を効率よく回収できる。
また、図20に示すように、細胞2を回収する際、定在波U5で集められた細胞2に向かって超音波U6を照射してもよい。これにより、細胞2が超音波U6の進行方向に移動する。位置決め部23が吸入口21を細胞2の移動先の位置に固定しておくことで、細胞2を素早く回収することができる。この場合、位置決め部23は、超音波U6によって細胞2が移動した位置に吸入口21を移動させてもよい。
上記のように1つ以上の定在波と、任意の方向に進行する超音波とを組み合わせることで、細胞2を任意の位置に的確に移動させることができる。位置決め部23が吸入口21を細胞2が集まった位置に移動させることで、細胞2を効率よく回収することができる。
なお、別の実施の形態では、上記実施の形態1〜6に係る撹拌装置100〜800を備える、細胞培養装置が提供される。