以下、電動機駆動装置の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。複数の実施形態において、実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。また、第1、第2実施形態を包括して「本実施形態」という。本実施形態の電動機駆動装置は、ハイブリッド自動車や電気自動車の動力源であるモータジェネレータ(以下、「MG」)を駆動するシステムにおいて、3相交流電動機であるMGの駆動を制御する装置である。実施形態中の「MG」及び「MG制御装置」は、「電動機」及び「電動機駆動装置」に相当する。
最初に、各実施形態に共通する基本構成について、図1〜図10を参照して説明する。図1に、「2電源2インバータ」、すなわち、2つの電源11、12及び2台のインバータ60、70が用いられるシステムの全体構成を示す。MG80は、U相巻線81、V相巻線82及びW相巻線83を有する永久磁石式同期型の3相交流電動機である。ハイブリッド車両に適用される場合、MG80は、駆動輪を駆動するためのトルクを発生する電動機としての機能、及び、エンジンや駆動輪から伝わる車両の運動エネルギにより駆動されて発電可能な発電機としての機能を有する。
本実施形態のMG80は、3相巻線81、82、83の端点同士が結合されていないオープン巻線の構成である。第1インバータ60の各相出力端子は、3相巻線81、82、83の一端811、821、831に接続されており、第2インバータ70の各相出力端子は、3相巻線81、82、83の他端812、822、832に接続されている。回転角センサ85は、レゾルバ等により構成され、MG80の機械角θmを検出する。機械角θmは、制御部200の電気角演算部87で電気角θeに換算される。
第1電源11及び第2電源12は、互いに絶縁された独立した2つの電源であり、それぞれがニッケル水素、リチウムイオン等の二次電池や電気二重層キャパシタ等の充放電可能な蓄電装置である。例えば第1電源11に出力型のリチウムイオン電池を用い、第2電源12に容量型のリチウムイオン電池を用いるというような構成であってもよい。2台のインバータ60、70は、2つの電源11、12から個別に直流電力が入力される。第1電源11は、第1インバータ60を経由してMG80と電力を授受可能であり、第2電源12は、第2インバータ70を経由してMG80と電力を授受可能である。
MG80は、第1インバータ60を経由して第1電源11から電力が供給され、第2インバータ70を経由して第2電源12から電力が供給される。3相巻線81、82、83の第1インバータ60側には、U相電圧VU1、V相電圧VV1、W相電圧VW1が印加される。3相巻線81、82、83の第2インバータ70側には、U相電圧VU2、V相電圧VV2、W相電圧VW2が印加される。
例えば第1インバータ60からMG80への電力経路に、3相巻線81、82、83に通電される相電流を検出する電流センサ84が設けられる。図1の例では、V相電流Iv及びW相電流Iwが検出されるが、どの2相又は3相の電流が検出されてもよい。また、電流センサ84は、第2インバータ70からMG80への電力経路に設けられてもよく、第1インバータ60及び第2インバータ70の両方の経路に設けられてもよい。
第1コンデンサ16は、高電位側配線P1と低電位側配線N1との間に接続され、第2コンデンサ17は、高電位側配線P2と低電位側配線N2との間に接続される。第1電圧センサ18は、第1電源11から第1インバータ60に入力される入力電圧VH1を検出する。第2電圧センサ19は、第2電源12から第2インバータ70に入力される入力電圧VH2を検出する。
MG制御装置100は、第1インバータ60、第2インバータ70、制御部200及びドライブ回路67、77を備える。第1インバータ60は、巻線81、82、83の各相に対応して設けられ、ブリッジ接続される6つの第1スイッチング素子61〜66を有する。スイッチング素子61、62、63は、それぞれU相、V相、W相の上アームのスイッチング素子であり、スイッチング素子64、65、66は、それぞれU相、V相、W相の下アームのスイッチング素子である。第2インバータ70は、巻線81、82、83の各相に対応して設けられ、ブリッジ接続される6つの第2スイッチング素子71〜76を有する。スイッチング素子71、72、73は、それぞれU相、V相、W相の上アームのスイッチング素子であり、スイッチング素子74、75、76は、それぞれU相、V相、W相の下アームのスイッチング素子である。
各スイッチング素子61〜66、71〜76は、例えばIGBTで構成され、低電位側から高電位側へ向かう電流を許容する還流ダイオードが並列に接続されている。高電位側配線P1、P2と低電位側配線N1、N2との短絡を防止するため、各相の上アーム素子と下アーム素子とは、同時にオンせず、相補的にオンオフするように、すなわち、一方がオンのとき他方がオフするように制御される。
制御部200は、マイコン等により構成され、図示しないCPU、ROM、I/O、及び、これらの構成を接続するバスライン等を備えている。制御部50は、ROM等の実体的なメモリ装置(すなわち、読み出し可能非一時的有形記録媒体)に予め記憶されたプログラムをCPUで実行することによるソフトウェア処理や、専用の電子回路によるハードウェア処理による制御を実行する。
制御部200は、トルク指令trq*及び検出値の情報に基づき、第1インバータ60への出力電圧指令である第1電圧指令を生成する第1インバータ制御回路201、及び、第2インバータへの出力電圧指令である第2電圧指令を生成する第2インバータ制御回路202を有する。各インバータ制御回路201、202には、相電流Iv、Iw、電気角θe、入力電圧VH1、VH2等の情報が入力される。第1ドライブ回路67は、第1インバータ制御回路201が生成した第1電圧指令に基づくゲート信号を第1インバータ60へ出力する。第2ドライブ回路77は、第2インバータ制御回路202が生成した第2電圧指令に基づくゲート信号を第2インバータ70へ出力する。
図2に制御部200の概略構成を示す。以下の図中、インバータを「INV」と記す。第1インバータ制御回路201及び第2インバータ制御回路202は、個別のマイコン内にそれぞれ設けられてもよく、共通の1つのマイコン内に設けられてもよい。各インバータ制御回路201、202は、2電源2インバータのシステムとして駆動するために、独立且つ協調した電圧指令を生成する。
制御部200が取得する情報として、MG80は共通であるため、角度(具体的には電気角θe)及び3相電流の検出値は共通でよい。ただし、破線で示すように、電流センサ84や回転角センサ85が複数設けられ、各インバータ制御回路201、202が対応する検出値を取得してもよい。電気角θeに基づく3相電流からdq軸電流への座標変換、電流フィードバック制御、dq軸電流から算出した推定トルクによるトルクフィードバック制御等は、モータ制御分野における周知技術であるため説明を省略する。各インバータ制御回路201、202は、dq制御により、それぞれ、第1インバータ60への第1電圧指令ベクトル、及び、第2インバータ70への第2電圧指令ベクトルを生成する。
特許文献1(特許第3352182号公報)に開示された従来技術では、2台のインバータに与える電圧指令ベクトルを逆極性とする「反転動作」を行うことで、2台のインバータの出力を重畳させる。これにより最大出力が得られるが、効率や安定性を考慮した場合、必ずしも180°反転動作が望ましいとは限らない。例えば各種センサのサンプリングタイミングやマイコンの制御タイミング、インバータ制御回路の情報共有にずれが生じた場合、180°反転スイッチングが成立せず、出力に影響を及ぼすおそれがある。
つまり、2つの電圧指令ベクトルの純位相差が180°以外である「非反転動作」を行う方が望ましい場合があると考えられる。なお、非反転動作のうち、2つの電圧指令ベクトルの位相が同一であり純位相差が0°の場合、2台のインバータ60、70の出力が相殺する。特に、電圧指令ベクトルの振幅が等しい場合にはベクトル和が0となりMG80が駆動されないため、実質的に除外して考えてもよい。
そこで本実施形態では、各インバータ60、70への電圧指令ベクトルをdq座標上の位相及び振幅で幾何学的に表現し、2台のインバータ60、70が出力するシステム出力、すなわち合成電圧指令を一意に決定する出力式を導出する。制御部200は、この出力式を用いることで、常にシステム出力を管理しながら、高精度且つ安定した駆動が可能となる。
次に図3、図4を参照し、合成電圧指令の算出構成について説明する。図3に示すように、制御部200は、合成電圧指令算出部203及び出力管理部204を有する。以下、「電圧指令ベクトル」の「指令」を省略し、「第1電圧ベクトルV1」及び「第2電圧ベクトルV2」と記す。図4において、第1電圧ベクトルV1は一点鎖線矢印で示され、第2電圧ベクトルV2は実線矢印で示される。また、第2電圧ベクトルV2と原点対称の第2電圧反転ベクトルV2rは破線で示される。第1電圧ベクトルV1と第2電圧反転ベクトルV2rとを合成した合成電圧ベクトルVはブロック矢印で示される。
また、各ベクトルの位相及び振幅を以下の記号で記す。各電圧位相は、q軸正方向を基準としてdq座標上で反時計回り方向に増加するように定義され、[°(deg)]単位で表される。
Vθ1:第1電圧ベクトルV1の位相
Vamp1:第1電圧ベクトルV1の振幅
Vθ2:第2電圧ベクトルV2の位相
Vθ2r(=Vθ2−180):第2電圧反転ベクトルV2rの位相
Vamp2:第2電圧ベクトルV2及び第2電圧反転ベクトルV2rの振幅
Vθ:合成電圧ベクトルVの位相
Vamp:合成電圧ベクトルVの振幅
上記の通り、第2電圧ベクトルV2及び第2電圧反転ベクトルV2rの振幅Vamp2は等しく、第2電圧反転ベクトルの位相Vθ2rは、第2電圧ベクトルV2の位相Vθ2から180を減じた値となる。
図3において、合成電圧指令算出部203は、第1インバータ制御回路201からdq軸電圧指令vd1、vq1を取得し、第1電圧ベクトルV1の位相Vθ1及び振幅Vamp1に変換する。また、合成電圧指令算出部203は、第2インバータ制御回路202からdq軸電圧指令vd2、vq2を取得し、第2電圧ベクトルV2の位相Vθ2及び振幅Vamp2に変換する。さらに、合成電圧指令算出部203は、第2電圧ベクトルV2の位相Vθ2から第2電圧反転ベクトルV2rの位相Vθ2rを算出する。
そして、合成電圧指令算出部203は、下記の出力式により合成電圧ベクトルVの位相Vθ及び振幅Vampを算出する。合成電圧ベクトルVの位相Vθは、式(1.1)が成り立つとき、式(2.1)により算出され、式(1.2)が成り立つとき、式(2.2)により算出される。また、合成電圧ベクトルVの振幅Vampは、式(3)により算出される。
出力管理部204は、合成電圧指令算出部203が算出した合成電圧ベクトルVの位相Vθ及び振幅Vampに基づいて、2台のインバータ60、70の出力特性及び出力量を管理する。出力管理部204は、例えば後述のように、MG80のトルクが最大となるか、又は、2台のインバータ60、70の電力が目標値に近づく合成電圧ベクトルVの最適位相を算出する。そして、合成電圧ベクトルVの位相Vθが最適位相となるように、第1電圧ベクトルV1又は第2電圧ベクトルV2の少なくとも一方の位相を進角又は遅角させるように調整する。
本実施形態では、出力式(2.1)、(2.2)、(3)を用いて算出される合成電圧ベクトルVに基づき、現在のシステム出力を把握した上で出力を維持しながら、出力優先型の特性を有する反転動作と、効率優先型の特性を有する非反転動作とを使い分けることができる。したがって、2台のインバータ60、70で実現できる効果の幅や種類に自由度を持たせることが可能となる。また、システム出力限界に対する余裕度が把握容易となり、合成電圧ベクトルVに基づくトルク制限や出力制限を実施することでシステムを安定的に動作可能となる。上記出力式の詳細な意義については後述する。
続いて、式(2.1)、(2.2)、(3)の導出過程を説明する。図4に示すように、第1電圧ベクトルV1は、第2電圧ベクトルV2から時計回り方向、且つ、第2電圧反転ベクトルV2rと重なる場合を含み、第2電圧反転ベクトルV2rから反時計回り方向の領域に存在するものとする。なお、その逆の領域では第1電圧ベクトルV1と第2電圧ベクトルV2とを入れ替えればよい。0≦Vθ1<360、−180≦Vθ2r<180の範囲でVθ1、Vθ2rを定義すると、「Vθ1≧Vθ2r」の関係が成り立つ。
図4において、dq座標原点をO、第2電圧ベクトルV2の終点をA、第1電圧ベクトルV1の終点をB、合成電圧ベクトルVの終点をC、第2電圧反転ベクトルV2rの終点をDとする。直線ABをベクトルVshiftと定義すると、ベクトルVshiftは合成電圧ベクトルV(すなわち直線OC)と平行である。原点Oから直線ABにひいた垂線をOPとする。
三角形OABにおいて、∠OABをα(0≦α<180)、∠OBAをβ(0≦β<180)とする。∠DOCは∠OABの同位角であるからαに等しく、∠COBは∠OBAの錯角であるからβに等しい。したがって、式(4.1)、(4.2)が成り立つ。また、式(4.1)、(4.2)より式(4.3)が導かれる。Vθ=Vθ1=Vθ2rのとき、α=β=0となる。
α=Vθ−Vθ2r ・・・(4.1)
β=Vθ1−Vθ ・・・(4.2)
α+β=Vθ1−Vθ2r ・・・(4.3)
したがって、三角形OPA及び三角形OPBにおいて直線ABの長さを求めると、合成電圧ベクトルVの振幅Vampの出力式(3)が導出される。
また、直線OPの長さについて式(5)が成り立つため、第1電圧ベクトルV1と第2電圧ベクトルV2との振幅比(Vamp1/Vamp2)は、式(6.1)で表される。なお、式(5)は正弦定理からも導かれる。
ここで、式(1.1)が成り立つとき、cosβ≠0、すなわちβ≠90であり、式(6.1)は式(6.2)に書き換えられる。一方、式(1.2)が成り立つとき、cosβ=0、すなわちβ=90である。
式(6.2)を整理すると、tanβの式(7)、及び、角度βについての式(8)が得られる。0≦β<180、β≠90の前提の下、式(8)より角度βは一意に決まる。
式(1.1)が成り立つとき、式(4.2)、(8)より式(2.1)が導かれる。また、式(1.2)が成り立つとき、式(4.2)より式(2.2)が導かれる。以上のとおり、合成電圧ベクトルVの位相Vθの出力式(2.1)、(2.2)が導出される。
以上のように、本実施形態の制御部200は、各インバータ60、70に指令する電圧ベクトルV1、V2の位相Vθ1、Vθ2及び振幅Vamp1、Vamp2より、合成電圧ベクトルVの位相Vθ及び振幅Vampを一意に決定することができる。
図5のフローチャートに本実施形態による処理を示す。この処理ルーチンは、MG80の駆動中、繰り返される。フローチャートの説明で、記号「S」はステップを意味する。S11で、第1インバータ制御回路201及び第2インバータ制御回路202は、それぞれ、第1インバータ60へのdq軸電圧指令vd1、vq1、第2インバータ70へのdq軸電圧指令vd2、vq2を算出する。S12では、各dq軸電圧指令が電圧ベクトルの位相Vθ1、Vθ2及び振幅Vamp1、Vamp2に変換される。
合成電圧指令算出部203は、S13で、出力式(2.1)、(2.2)により、合成電圧ベクトルVの位相Vθを算出し、S14で、出力式(3)により、合成電圧ベクトルVの振幅Vampを算出する。出力管理部204は、S20で、出力特性及び出力量を管理する。なお、S20の詳細な内容については後述する。
次に、上記出力式の意義、或いは上記出力式から得られる知見について、図6〜図10を参照して説明する。図6(a)、(b)に、合成電圧ベクトルVの終点の軌跡を示す。ここで電圧ベクトルの始点は原点に決まっているため、以下、「ベクトルの終点の軌跡」を省略し、単に「ベクトルの軌跡」と記す。また、第1電圧ベクトルV1と第2電圧ベクトルV2との位相差(Vθ1−Vθ2)を「純位相差」と定義するのに対し、第1電圧ベクトルV1と第2電圧反転ベクトルV2rとの位相差(Vθ1−Vθ2r)を「管理位相差ΔVθ」と定義する。管理位相差の絶対値|ΔVθ|は、「0°≦|Δθ|≦180°」の範囲で定義される。以下の実施形態では、主に「Vθ1≧Vθ2r、ΔVθ≧0」であることを前提として説明する。
図6(a)に、「反転動作」の場合の合成電圧ベクトルVを示す。反転動作では、管理位相差ΔVθ(=Vθ1−Vθ2r)が0°、純位相差(Vθ1−Vθ2)が180°となる。このとき、合成電圧ベクトルの位相Vθは、「Vθ=Vθ1=Vθ2r」となる。また、式(3)においてcos0=1であるため、式(9)に示すように、合成電圧ベクトルの振幅Vampは、第1電圧ベクトルV1の振幅Vamp1及び第2電圧反転ベクトルV2rの振幅Vamp2の和となる。
このように、反転動作での合成電圧ベクトルVの軌跡は、半径(Vamp1+Vamp2)の電圧円で描かれる。したがって、電源電圧を最大限に利用した1電源1インバータ構成と同等の矩形波電圧が出力される。よって、出力を優先する場合、制御部200は、各インバータ60、70に反転動作をさせるように電圧指令を演算することが好ましい。以下の、
図6(b)に、管理位相差ΔVθが0°以外、すなわち純位相差が180°以外である「非反転動作」の場合の合成電圧ベクトルVを示す。合成電圧ベクトルVの振幅Vampは、2電源の電圧和(Vamp1+Vamp2)よりも小さくなる。そのため、合成電圧ベクトルVの軌跡は、図6(a)の最大電圧円より内側の円で描かれる。
この場合、電源電圧に依存する合成電圧をそれ以上増やすことはできないため、制御部200は、弱め界磁制御により電圧位相Vθを進角させることで、d軸電流を負側により増加させ、トルクを等トルクライン上に収束させる。したがって、合成電圧ベクトルVの位相Vθの限界値である位相リミットを設定することが必要であると考えられる。効率を優先する場合、非反転動作により各電圧ベクトルV1、V2の位相Vθ1、Vθ2を操作し、合成電圧ベクトルVの位相Vθを最適化することが好ましい。
図7に、2電源2インバータ構成における2電源の電圧、すなわち電圧指令ベクトルの振幅が等しい(Vamp1=Vamp2)前提で、第1電圧ベクトルV1を固定し、第2電圧ベクトルV2の位相Vθ2を360°変化させたときの合成電圧ベクトルVの軌跡を実線円で示す。また、比較として、1電源1インバータ構成における最大電圧円を破線円で示す。合成電圧ベクトルVの軌跡は、管理位相差ΔVθが180°のとき原点Oを通り、管理位相差ΔVθが0°のとき最大電圧円上の点Qを通る。したがって、合成電圧ベクトルVの振幅Vampは、電圧位相Vθの変化に応じて、0から各電圧ベクトルV1、V2の振幅Vamp1(=Vamp2)の2倍まで変化する。
図8に、式(3)に基づく、管理位相差ΔVθ(=Vθ1−Vθ2r)と合成電圧ベクトルVの振幅Vampとの関係を示す。図8には、「Vθ1−Vθ2r≧0」の場合に限らず、「Vθ1−Vθ2r<0」の場合を含めて記す。管理位相差の絶対値|ΔVθ|が0°から180°に近づくに従って振幅Vampは単調減少する。管理位相差の絶対値|ΔVθ|が0°のとき、振幅Vampは(Vamp1+Vamp2)で最大となり、管理位相差の絶対値|ΔVθ|が180°のとき、振幅Vampは(Vamp1−Vamp2)で最小となる。各電圧ベクトルV1、V2の振幅Vamp1、Vamp2が等しい場合、合成電圧ベクトルVの振幅Vampは、管理位相差の絶対値|ΔVθ|が0°のとき、各インバータの電圧振幅Vamp1(=Vamp2)の2倍となり、管理位相差の絶対値|ΔVθ|が180°のとき0となる。
図9に、合成電圧ベクトルVの振幅Vamp毎の位相Vθとトルクtrqとの関係を示す。トルクtrqは、合成電圧ベクトルVの位相Vθ及び振幅Vamp、MG回転数ω、極対数p、逆起電圧定数φ、dq軸自己インダクタンスLd、Lqに基づき、式(10)で表される。
図9より、電圧振幅Vampが小さいほど、等トルク出力に必要な位相Vθが大きくなることがわかる。つまり、トルクtrqを一定に維持するためには、電圧振幅Vampが小さいほど、弱め界磁制御に相当する電圧位相Vθを進角させる操作をする必要がある。
図10に、出力最大となる矩形波出力での、合成電圧ベクトルVの位相Vθとトルクtrqとの関係を示す。合成電圧ベクトルVの位相Vθによってトルクtrqが決まる。正のトルクは力行動作を意味し、負のトルクは回生動作を意味する。回生時に負のトルクが最小となる最小トルク位相Vθminから、力行時に正のトルクが最大となりMG最大性能点に対応する最大トルク位相Vθmaxまでの範囲が位相制御範囲となる。合成電圧ベクトルVの位相Vθは位相制御範囲でのみ設定可能であり、範囲を超えると制御発散に至る。図10によりシステム出力限界に対する余裕度が把握容易となり、合成電圧ベクトルVに基づくトルク制限や出力制限を実施することでシステムを安定的に動作可能となる。
このように本実施形態では、出力式(2.1)、(2.2)を用いて合成電圧ベクトルVの出力特性や出力量を管理し、動作要求に応じて反転動作と非反転動作とを使い分け、2台のインバータ60、70で実現できる効果の幅や種類に自由度を持たせることが可能となる。また、特開2017−175700号公報には、2台の3相インバータの動作を組み合わせて5レベルの巻線端電圧を切り替える電圧マルチレベル化の技術が開示されている。本実施形態では、2台のインバータ60、70の動作を自由に操作することで、電圧マルチレベル化を容易に実現することができる。
次に、出力管理部204による出力特性及び出力量の具体的な管理方法について、実施形態毎に説明する。出力管理部204は、特に高出力領域で、合成電圧ベクトルVの位相Vθを最適位相に制御する。また、出力管理部204は、管理位相差ΔVθを制限範囲内で最適化する。以下の実施形態の説明では、管理位相差ΔVθを単に「位相差ΔVθ」と記す。また、「第1電圧ベクトルV1の位相Vθ1」を「第1電圧位相Vθ1」、「第2電圧ベクトルV2の位相Vθ2」を「第2電圧位相Vθ2」、「第2電圧反転ベクトルV2rの位相Vθ2r」を「第2電圧反転位相Vθ2r」と記す。また、「合成電圧ベクトルVの位相Vθ」を「合成電圧位相Vθ」、「合成電圧ベクトルVの振幅Vamp」を「合成電圧振幅Vamp」と記す。
(第1実施形態)
第1実施形態について、図11〜図17を参照して説明する。図11に制御部200の構成例を示す。制御部200において、2つのインバータ制御回路201、202の一方はMG80のトルクを管理し、他方は電力を管理する。図11の構成例では、第1インバータ制御回路201は、トルク指令trq*に対するフィードバック制御によりトルクを管理する。第2インバータ制御回路202は、2台のインバータ60、70の目標電力分配比率、又は、第2インバータ70の目標電力量に基づいて電力を管理する。2つのインバータ制御回路201、202が管理を分担することで、MG80がトルク指令trq*に応じたトルクを出力しつつ、2つの電源11、12の電源状態を適切に管理することができる。
図11には、2台のインバータ60、70に出力される電圧ベクトルの位相Vθ1、Vθ2の演算に係る構成を主に示し、電圧振幅Vamp1、Vamp2の演算に係る構成は省略する。また、第1インバータ制御回路201と第2インバータ制御回路202とは、シリアル通信で相互に情報が通信される。
第1インバータ制御回路201は、例えば上位ECUのトルク指令算出部からトルク指令trq*が入力される。トルク減算器32は、トルク指令trq*と実トルクtrq_realとのトルク偏差を算出する。フィードバック制御器33は、トルク偏差を0に近づけるように第1電圧位相Vθ1をPI演算する。フィードバックされる実トルクtrq_realは、直接検出されたトルク検出値でもよく、電流センサが検出した電流に基づいて推定されたトルク推定値でもよい。フィードバック制御器33が演算した第1電圧位相Vθ1に基づき第1インバータ60のスイッチング動作が制御されるとともに、第1電圧位相Vθ1は、第2インバータ制御回路202の位相算出器36に送信される。
第2インバータ制御回路202の電力制御部50は、2台のインバータ60、70の実電力分配比率が目標電力分配比率に追従するように、又は、第2インバータ70の実電力量が目標電力量に追従するように位相差ΔVθ(=Vθ1−Vθ2r)を演算する。位相算出器36は、第1電圧位相Vθ1と位相差ΔVθとに基づき、式(11)により第2電圧位相Vθ2を算出し、第2インバータ70に出力する。なお、位相算出器36が第2電圧反転位相Vθ2rを出力し、第2インバータ70が第2電圧反転位相Vθ2rに基づきスイッチング動作するように構成してもよい。
Vθ2=Vθ2r+180=Vθ1−ΔVθ+180 ・・・(11)
このように、第1インバータ制御回路201は、トルク指令trq*に対する実トルクtrq_realのフィードバック制御によりMG80のトルクを管理し、第2インバータ制御回路202は、2台のインバータ60、70へ供給される電力分配比率または電力量を管理する。トルク管理側である第1インバータ制御回路201の制御パラメータは第1電圧位相Vθ1であり、電力管理側である第2インバータ制御回路202の制御パラメータは位相差ΔVθである。なお、第1インバータ制御回路201と第2インバータ制御回路202とを入れ替えてもよい。
続いて本実施形態による最適位相の導出について、1つの電源及び1台のインバータを用いる「1電源1インバータ」方式と対比しつつ説明する。上記式(10)のトルク式、及び図9、図10に示す通り、MG80のトルクを制御破綻なく最大限に使うためには、電圧振幅Vamp及び回転数ωに基づいて電圧位相Vθの上下限を制限する必要がある。これは1電源1インバータ方式でも同じであるが、2電源2インバータ方式では、2つの電圧ベクトルV1、V2の組み合わせパターンが多様に存在するため難しさが生じる。
図12(a)に、1電源1インバータ方式での電圧振幅Vamp及び回転数ωと制限位相Vθlimとの関係を規定する位相リミッタマップを示す。位相リミッタマップにより制限されるパラメータは、制御パラメータである電圧位相Vθそのものである。1電源1インバータ方式では、電源の入力電圧VHが変動しない限り基本的に電圧振幅Vampは一定となる。電圧振幅Vampが一定のとき、回転数ωが高いほど制限位相Vθlimは低く設定される。
制御開始時における初期制限位相Vθlim_stは実線のマップで規定され、初期回転数ω_stにおける制限位相Vθlim_stが黒丸で表される。その後、電圧振幅Vampが大から小へ低下したとき、制限位相Vθlimは破線のマップで規定される。すなわち、制限中の電圧振幅Vampの減少又は回転数ωの増加によって、黒丸の点から白丸の点へ制限位相Vθlimが変化するように制御される。
図12(b)に、2電源2インバータ方式での位相リミッタマップを示す。マップ自体は1電源1インバータ式と同様であり、位相リミッタマップを用い制限中の電圧振幅Vamp及び回転数ωに基づいて制限されるパラメータは、合成電圧位相Vθである。一方、2電源2インバータ方式の制御部200の制御パラメータは、第1電圧位相Vθ1及び位相差ΔVθである。つまり、2電源2インバータ方式での制御パラメータである第1電圧位相Vθ1及び位相差ΔVθが直接制限されるわけではない。
「ΔVθ≠0、Vθ2r<Vθ1」を前提とすると、第1電圧位相Vθ1、第2電圧反転位相Vθ2r、及び合成電圧位相Vθは、「Vθ2r<Vθ<Vθ1」の関係にある。図12(b)では、初期の第1電圧位相の制限位相Vθ1limを黒四角で表し、第1電圧位相の制限位相Vθ1limから位相差ΔVθを差し引いた第2電圧反転位相Vθ2rを黒三角で表す。そこで、トルク管理側の第1インバータ制御回路201において、合成電圧位相Vθの制限位相Vθlimの変化を第1電圧位相の制限位相Vθ1limに反映させる必要がある。
図13に、位相とトルクとの関係を示す。図10に示した通り、力行時には最大トルク位相Vθmaxで正のトルクが最大となり、最大トルク位相Vθmaxを超えると位相制御範囲を逸脱し制御が破綻する。そこで、合成電圧の位相Vθを増加させるとき、最大トルク位相Vθmaxを超えることがないように、最大トルク位相Vθmaxよりも少し小さい位相、すなわち、マージンδだけ小さい位相が合成電圧の制限位相Vθlimとして設定される。ここで、位相差ΔVθの値によっては、図13に示すように、第1電圧位相Vθ1が最大トルク位相Vθmaxを超える場合がある。
制御開始時には、実線で示すトルクカーブにおいて、最大トルク位相Vθmax_stの手前の黒丸の点が合成電圧の初期制限位相Vθlim_stとして設定される。また、黒四角の点が第1電圧位相の制限位相Vθ1lim_stとして設定される。その後、合成電圧振幅Vampの減少や回転数ωの増加によって、破線で示すトルクカーブの白丸の点が新たな合成電圧制限位相Vθlimとして設定される。また、この変化を反映して、白四角の点が新たな第1電圧位相の制限位相Vθ1limとして設定される。
これにより、トルク管理側の第1インバータ制御回路201において、制御破綻を回避しつつ、最大トルクを実現することができる。具体的には、合成電圧制限位相Vθlimは、図12(b)のマップにより、合成電圧振幅Vamp及び回転数ωから算出される。なお、式(2.1)、(2.2)、(3)の合成電圧ベクトル式と式(10)のトルク式との連立方程式を直接解いて求めてもよい。
第1電圧位相の制限位相Vθ1limは、式(2.1)、(2.2)の合成電圧ベクトル式に基づき、式(1.1)の条件では式(12.1)により算出され、式(1.2)の条件では式(12.2)により算出される。式(12.1)中の(Vθ1−V2θr)は、位相差ΔVθに書き換えられる。
電力管理側の第2インバータ制御回路202における第2電圧反転位相Vθ2rは、第1電圧位相Vθ1及び位相差ΔVθを制御パラメータとして制御される。なお、電力管理側の第2電圧反転位相Vθ2rの変化は、トルク管理側の第1電圧位相Vθ1に対して十分に遅い。したがって、合成電圧ベクトル式を用いることで、電力管理側の制御モードによらず第1電圧位相の制限位相Vθ1limを算出することができる。以上の制御により、少なくとも合成電圧位相Vθが制限位相Vθlimを超えないようにし、制御破綻を防止することができる。
ところで位相差の絶対値|ΔVθ|が180°に近づくと、図8に示すように合成電圧振幅Vampが小さくなるため、MG80の最大トルクが減少する。以下、「トルクを優先する」とは、MG80のトルクを最大にすることを優先する意味であり、「電力を優先する」とは、2台のインバータの電力を目標値に近づけることを優先する意味である。トルクと電力のどちらを優先するかは初期に一律に決定されてもよい。或いは、2つの電源11、12を構成する電池の温度、SOC、充放電電力量(Win/Wout)や、車速、アクセル開度等の車両状態等に応じて、都度選択されてもよい。
本実施形態では、トルクと電力のどちらを優先するかに応じて位相差ΔVθが制御される。具体的に出力管理部204は、トルクを優先する場合、第1電圧位相Vθ1の制限中に位相差ΔVθが増大して第1電圧位相Vθ1がさらに制限されることを防ぐため、位相差上限ΔVθlimを0に設定する。一方、電力を優先する場合、出力管理部204は、初回制限時、すなわち、合成電圧位相Vθが制限位相Vθlimを初めて超えたときの位相差ΔVθの値に設定する。これにより、ニーズに応じた位相差ΔVθの制御が可能となる。また、トルクや回転数の過渡時に通信遅れにより認識される電圧にずれが生じた場合でも、合成電圧位相Vθが制限位相Vθlimを超えないように守ることができる。
次に第1実施形態による最適位相の制御について、図14、図15のフローチャートを参照する。図14のS11〜S14は図5と同じであり、図5における「出力特性、出力量管理」のS20が、S21以降に詳しく展開されている。出力管理部204は、S21で、合成電圧振幅Vamp及び回転数ωから合成電圧ベクトルVの制限位相Vθlimを算出する。S22では、式(12.1)、(12.2)により、第1電圧位相Vθ1の制限位相Vθ1limが算出される。そしてS23で、第1電圧位相Vθ1は制限位相Vθ1lim以下に制限される。
好ましくは、S21の後、S22、S23と併行してS24〜S26が実行される。S24では、合成電圧位相Vθが制限位相Vθlimを超えているか判断される。合成電圧位相Vθが制限位相Vθlimを超えている場合、S24でYESと判断され、S25に移行する。S25で出力管理部204は、位相差ΔVθの上限ΔVθlimを算出する。
図15に示すように、トルクを優先するか電力を優先するかによって、算出される位相差上限ΔVθlimが異なる。電力よりトルクを優先する場合、S251でYESと判断され、S252で、「ΔVθlim=0」、すなわち、第1電圧位相Vθ1と第2電圧反転位相Vθ2rとが同位相となるように算出される。一方、トルクより電力を優先する場合、S251でNOと判断され、位相差上限ΔVθlimは初回制限時の値に算出される。すなわち、合成電圧位相Vθが制限位相Vθlimを初めて超えたときの位相差ΔVθの値が位相差上限ΔVθlimとして固定される。
図14に戻り、S26で、位相差ΔVθは上限ΔVθlim以下に制限される。なお、第2電圧反転位相Vθ2rが第1電圧位相Vθ1より大きくなる場合、S25、S26の位相差ΔVθを「位相差の絶対値|ΔVθ|」に置き換えればよい。S24にて合成電圧位相Vθが制限位相Vθlim以下の場合、NOと判断され、S25、S26はスキップされる。図14の処理は、MG80の駆動中、繰り返し実行される。そして、合成電圧位相Vθが制限位相Vθlim以下となり、S24でNOと判断されるまでS25、S26の処理が繰り返される。
次に、図16、図17のタイムチャートを参照し、第1実施形態の動作例を説明する。図16にはトルク優先時の動作例を示し、図17には電力優先時の動作例を示す。各図の最上段にはトルク指令trq*を破線で示し、実トルクtrq_realを実線で示す。2段目には位相差指令ΔVθcomを破線で示し、位相差上限ΔVθlimを長破線で示し、制限後位相差ΔVθを実線で示す。3段目には入力電圧の和(VH1+VH2)を破線で示し、合成電圧振幅Vampを実線で示す。4段目には位相リミットフラグを実線で示す。最下段には合成電圧位相Vθを実線で示し、合成電圧制限位相Vθlimを長破線で示し、第1電圧位相Vθ1を一点鎖線で示し、第2電圧反転位相Vθ2rを二点鎖線で示す。
まず、図16を参照し、トルク優先時の動作例について説明する。図16では、位相差指令ΔVθcomは0より大きい値で一定であり、トルク指令trq*が時間につれて増加した後、減少する。また、位相差上限ΔVθlimは0に設定されている。時刻ta1以前、合成電圧位相Vθは制限位相Vθlimより小さく、位相リミットフラグはOFFであり、位相差指令ΔVθcomは制限されていない。第1電圧位相Vθ1、第2電圧反転位相Vθ2r及び合成電圧位相Vθは、時間と共にほぼ平行に増加している。このとき、合成電圧振幅Vampは入力電圧の和(VH1+VH2)より小さい。また、実トルクtrq_realはトルク指令trq*に一致している。
トルク指令trq*が次第に増加すると、合成電圧位相Vθも次第に増加し、時刻ta1に制限位相Vθlimを超える。これをトリガーとして位相リミットフラグがONし、位相差指令ΔVθcomに対する制限が開始される。このとき、位相を急変させることは矩形波制御の特性乱れの原因となるため、時間に対し傾きを持たせるように徐変される。その結果、制限後位相差ΔVθは、時刻ta1から時刻ta2の期間Iに、位相差上限ΔVθlimである0に向かって減少する。
時刻ta2に制限後位相差ΔVθが0になったとき、合成電圧振幅Vampは入力電圧の和(VH1+VH2)に一致する。その後、時刻ta2から時刻ta3までの期間IIにおいて制限後位相差ΔVθは0に維持され、合成電圧振幅Vampが一定の状態が継続する。また、実トルクtrq_realは、トルク指令trq*より小さい一定の値となる。一方、期間IIの間にトルク指令trq*は増加から減少に転じる。
時刻ta3に合成電圧位相Vθが減少し始めると、位相リミットフラグがOFFし、位相差指令ΔVθcomに対する制限が解除される。そして、位相の急変による矩形波制御の特性乱れを避けるため、制限後位相差ΔVθは、時刻ta3から時刻ta4の期間に、0から位相差指令ΔVθcomに向かって増加する。それに伴い、合成電圧振幅Vampは入力電圧の和(VH1+VH2)から低下する。時刻ta4に、制限後位相差ΔVθは位相差指令ΔVθcomに復帰する。時刻ta4以後は、時刻ta1以前と同様の非制限状態に戻る。
ここで、1電源1インバータ方式に相当する比較例として、位相差上限ΔVθlimを0としない場合、最上段に細い二点鎖線で示すように、実トルクtrq_realは、時刻ta1に位相リミットフラグがONしたときの値で制限される。すなわち、期間Iにおいて、実トルクtrq_realはトルク指令trq*を下回る。
それに対し第1実施形態では、位相リミットフラグがONしたとき、位相差上限ΔVθlimを0とすることで、期間Iの実トルクtrq_realは、トルク指令trq*を実現可能となる。つまり、実トルクtrq_realがトルク指令trq*を実現できない期間は、期間IIのみに短縮される。したがって、第1実施形態の効果として、図16のトルク差分Δtrq_effが余分に出力可能なトルクに相当する。
続いて図17を参照し、電力優先時の動作例について説明する。図17では、トルク指令trq*は一定であり、位相差指令ΔVθcomが時間につれて0から増加した後、減少して0に戻る。また、位相差上限ΔVθlimは、時刻tb1における位相差指令ΔVθcomの値に設定される。実トルクtrq_realはトルク指令trq*に常に一致する。初期の時刻tb0には位相差指令ΔVθcomは0であり、合成電圧振幅Vampは入力電圧の和(VH1+VH2)に等しい。
時刻tb0から時刻tb1にかけて、位相差指令ΔVθcomは増加し、合成電圧振幅Vampは入力電圧の和(VH1+VH2)から低下する。合成電圧位相Vθは制限位相Vθlimより小さく、位相リミットフラグはOFFであり、位相差指令ΔVθcomは制限されていない。時刻tb0から時刻tb1までの間には、位相差指令ΔVθcomの増加に伴い、第1電圧位相Vθ1と第2電圧反転位相Vθ2rとの差が広がりつつ、合成電圧位相Vθが漸増する。一方、制限位相Vθlimは次第に減少する。
時刻tb1に合成電圧位相Vθが制限位相Vθlimを超えると、これをトリガーとして、位相リミットフラグがONする。そして、この時点での位相差指令ΔVθcomの値を位相差上限ΔVθlimとして、位相差指令ΔVθcomに対する制限が開始される。その後、時刻tb1から時刻tb2までの間、制限後位相差ΔVθは、位相差上限ΔVθlimに制限され、第1電圧位相Vθ1、第2電圧反転位相Vθ2r、及び合成電圧位相Vθは一定に維持される。一方、時刻tb1から時刻tb2までの間に位相差指令ΔVθcomは増加から減少に転じる。
時刻tb2に位相差指令ΔVθcomが位相差上限ΔVθlimを下回ると同時に、合成電圧位相Vθは制限位相Vθlimを下回り、位相リミットフラグがOFFする。その後、時刻tb1以前の動作とほぼ対称に、位相差指令ΔVθcomの減少に伴い、第1電圧位相Vθ1と第2電圧反転位相Vθ2rとの差が狭まりつつ、合成電圧位相Vθが漸減する。一方、制限位相Vθlimは次第に増加する。以上のように、第1実施形態では、出力限界時の制御破綻を防止しつつ、制限内での最大出力を実現することができる。
(変形例)
第1実施形態の変形例について説明する。図14のS24では、合成電圧位相Vθが制限位相Vθlimを超えたときYESと判断されるが、これに代えて、第1電圧位相Vθ1又は第2電圧反転位相Vθ2rの少なくとも一方が制限位相を超えたときYESと判断されるようにしてもよい。ここでの制限位相は、合成電圧の制限位相Vθlimが共通に用いられてよい。
この場合、位相差ΔVθが0であることを前提として、制限位相Vθlimを算出する位相リミッタマップの電圧振幅は、2電源の入力電圧VH1、VH2の和(VH1+VH2)を用いてもよい。これにより、1電源1インバータ方式のアルゴリズムに対し合成電圧ベクトルの演算を追加することなく、簡易に位相差制限を実現することができる。ただし、意図的に位相差の絶対値|ΔVθ|を0より大きい値としている場合、入力電圧VH1、VH2の和では算出できないため、合成電圧ベクトルを演算する必要がある。
(第2実施形態)
第2実施形態について、図18〜図20を参照して説明する。第1実施形態と同様に、第2実施形態においても、第1インバータ制御回路201はMG80のトルクを管理し、第2インバータ制御回路202は電力を管理する構成を想定する。2電源2インバータ方式において、目標電力分配比率又は目標電力量の実現とMG最大トルクの実現とを高出力領域で実現することは背反の関係となる。そのため、トルク指令trq*を実現可能な範囲で最大の電力分配比率又は電力量を許容することが第2実施形態の技術思想である。
図18に、第2実施形態の制御の考え方を説明するための、図4と類似のベクトル図を示す。第1電圧ベクトルV1の振幅Vamp1、及び第2電圧ベクトルV1の振幅Vamp2と、合成電圧ベクトルVの振幅Vampとの関係は、式(3)とは別の式(13)で表される。式(13)は、三角形OBCについての余弦定理の式において、「∠OBC=180−ΔVθ」を代入することで導かれる。
式(13)より、位相差ΔVθが0°のときcos(ΔVθ)が1で合成電圧振幅Vampが最大であり、位相差ΔVθが180°に近づくほど合成電圧振幅Vampが減少することがわかる。すなわち、合成電圧振幅Vampへの影響は、電力管理側の制御パラメータである位相差ΔVθが支配的であると考えられる。そこで第2実施形態では、電力管理側の第2インバータ制御回路202で位相差ΔVθを最小にするように制御することで、最大トルクの減少を防止する。
図19を参照し、具体的な制御構成について説明する。第2実施形態の制御対象は、合成電圧ベクトルVの電圧利用率が最大のとき、つまり、第1電圧指令、第2電圧指令ともに振幅に自由度が無い矩形波電圧であるときのみである。また、第1実施形態では、制御パラメータとして第1電圧位相Vθ1及び位相差ΔVθが用いられるのに対し、第2実施形態では、制御パラメータとして位相差ΔVθが用いられる。
ここでも、第1電圧位相Vθ1は第2電圧反転位相Vθ2r以上であり、位相差ΔVθが0以上であることを前提として説明する。第2電圧反転位相Vθ2rが第1電圧位相Vθ1より大きくなる可能性がある場合、位相差ΔVθを「位相差の絶対値|ΔVθ|」に置き換えて解釈すればよい。
図19に、合成電圧振幅Vamp及び回転数ωとトルクtrqとの関係を規定するマップを示す。実線は、電圧振幅Vampが最大となる条件、すなわち位相差ΔVθが0であり、電圧振幅Vampが2電源の入力電圧VH1、VH2の和(VH1+VH2)となる条件での最大トルクカーブTCXを示す。最大トルクカーブTCXは、1電源1インバータ方式と同様に、MG80が出力可能な許容最大トルクを表す。最大トルクカーブTCX上での現在の回転数ωpにおける最大トルクtrq_maxが黒丸の点で表される。
回転数ωpが一定で位相差ΔVθが0から大きくなると、合成電圧振幅Vampが小さくなり、現在のトルクカーブTCpが破線で表される。また、回転数ωpにおける最大トルクtrq_maxがトルク指令trq*に一致する制限トルクカーブTClimを二点鎖線で示す。制限トルクカーブTClimに相当する位相差ΔVθを位相差上限ΔVθlimとする。回転数ωpにおけるトルク指令trq*が菱形で表され、現在の最大トルクtrq_maxが白丸で表される。
図19において、現在のトルクカーブTCp上の最大トルクは、トルク指令trq*を下回っている。すなわち、現在の位相差ΔVθは位相差上限ΔVθlimを超えている。この場合、現在の位相差ΔVθが位相差上限ΔVθlimに制限される。これにより、現在の合成電圧振幅Vamp及び回転数ωpにおける最大トルクtrq_maxをトルク指令trq*に一致させることができる。なお、上記説明ではトルクが正である力行時を想定しているが、トルクが負である回生時を含めて表すと、最大トルクtrq_maxの絶対値がトルク指令trq*の絶対値よりも小さい場合、位相差ΔVθを位相差上限ΔVθlimに制限するように制御される。
第2実施形態の制御では、電力管理側の電力演算が遅いため。演算順序が一部前後する場合があるが、その影響は大きくないと推定される。また、第1実施形態の位相リミッタとは制限パラメータが異なるため、制御の干渉はなく、両立することが可能である。
次に、図20のタイムチャートを参照し、第2実施形態の動作例を説明する。図20の最上段にはトルク指令trq*を破線で示し、実トルクtrq_realを実線で示す。また、合成電圧振幅Vamp及び回転数ωに基づくトルクカーブ上の最大トルクtrq_maxを長破線で示す。2段目には位相差指令ΔVθcomを破線で示し、位相差上限ΔVθlimを長破線で示し、制限後位相差ΔVθを実線で示す。3段目には入力電圧の和(VH1+VH2)を破線で示し、合成電圧振幅Vampを実線で示す。4段目には電力(又は位相差)リミットフラグを実線で示す。最下段には第1電圧位相Vθ1を一点鎖線で示し、第2電圧反転位相Vθ2rを二点鎖線で示す。
図20では、トルク指令trq*は一定であり、位相差指令ΔVθcomが時間につれて0から増加した後、減少して0に戻る。また、位相差上限ΔVθlimは、時刻tc1における位相差指令ΔVθcomの値に設定される。すなわち、図19のマップにおいて制限トルクカーブTClimに相当する位相差上限ΔVθlimが設定される。実トルクtrq_realはトルク指令trq*に常に一致する。初期の時刻tc0には位相差指令ΔVθcomは0であり、合成電圧振幅Vampは入力電圧の和(VH1+VH2)に等しい。
時刻tc0から時刻tc1にかけて、位相差指令ΔVθcomは、位相差上限ΔVθlim未満であって、電力リミットフラグがOFFである条件内で増加する。これに伴い、合成電圧振幅Vampは入力電圧の和(VH1+VH2)から低下し、合成電圧振幅Vampに基づく最大トルクtrq_maxはトルク指令trq*を上回る範囲で低下する。時刻tc0から時刻tc1までの間、位相差指令ΔVθcomの増加に伴い、第1電圧位相Vθ1と第2電圧反転位相Vθ2rとは、差が広がりつつ漸増する。
時刻tc1に、合成電圧振幅Vampに基づく最大トルクtrq_maxがトルク指令trq*にまで低下すると、電力リミットフラグがONする。そして、この時点での位相差指令ΔVθcomの値を位相差上限ΔVθlimとして、位相差指令ΔVθcomに対する制限が開始される。その後、時刻tc1から時刻tc2までの間、制限後位相差ΔVθは、位相差上限ΔVθlimに制限され、第1電圧位相Vθ1及び第2電圧反転位相Vθ2rは一定に維持される。一方、時刻tc1から時刻tc2までの間に位相差指令ΔVθcomは増加から減少に転じる。
時刻tc2に位相差指令ΔVθcomが位相差上限ΔVθlimを下回ると同時に、合成電圧振幅Vampに基づく最大トルクtrq_maxはトルク指令trq*を上回り、位相リミットフラグがOFFする。その後、時刻tc1以前の動作とほぼ対称に、位相差指令ΔVθcomの減少に伴い、第1電圧位相Vθ1と第2電圧反転位相Vθ2rとは、差が狭まりつつ漸減する。以上のように、第2実施形態によっても制限内での最大出力を実現することができる。
(その他の実施形態)
(a)上記実施形態の出力式では、第1電圧ベクトルV1と第2電圧反転ベクトルV2rとの位相差(Vθ1−Vθ2r)を用いている。これとは逆に、第1電圧反転ベクトルV1rを定義し、第2電圧ベクトルV2と第1反転電圧ベクトルV1rとの位相差(Vθ2−Vθ1r)を用いてもよい。その他、第1インバータ60及び第2インバータ70に関する構成の区別は便宜的なものであり、適宜入れ替えてもよい。
(b)第1実施形態における第1インバータ制御回路201と第2インバータ制御回路202とを入れ替え、第1電圧位相Vθ1に代えて、第2電圧反転位相Vθ2rをその電圧ベクトルの制限位相以下に制限してもよい。また、第1電圧位相Vθ1及び第2電圧反転位相Vθ2rの両方を、それぞれの電圧ベクトルの制限位相以下に制限してもよい。
(c)2台のインバータ60、70は、独立した2電源から電力供給される構成に限らず、共通の1つの電源から電力供給されてもよい。また、独立した2電源が用いられる構成において、各電源は、両方ともバッテリやキャパシタで代表される二次電池である構成に限定されない。例えば、一方の電源が二次電池であり、他方の電源が燃料電池や発電機により構成されてもよい。
(d)電動機のオープン巻線の相数は、3相に限らず4相以上であってもよい。また、2相のオープン巻線がブリッジ接続された構成であってもよい。
(e)2電源2インバータ式の電動機駆動装置は、電気自動車、燃料電池車などの純電気車や、PHV(プラグインハイブリッド)、レンジエクステンダをはじめとする電気リッチなハイブリッドパワトレイン、さらには、12〜48VのISG(Integrated Starter Generator)といった軽い電動化車両に至るまで適用される。この技術は、従来技術例であるリアクトルによる昇圧回路を一切使用せずに、高効率に高出力を実現する用途に適用可能な電圧型回路トポロジによるものであり、各車両において、従来の昇圧回路では熱的に成立困難な領域においても高出力化が求められる用途に適する。
以上、本発明は、上記実施形態になんら限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。