本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。本発明の実施の形態に係る通信システム1は、図1に例示するように、人工衛星2に搭載された宇宙側送信局装置10と、地上側の施設3に配置された地上側受信局装置20とを含んで構成されている。
この人工衛星2は、例えば地上の状況等を観測する少なくとも一つのセンサを有し、当該センサにて検出したデータを地上側受信局装置20に対して送出する。またこの人工衛星2は、人工衛星の姿勢等の状況を表すステータス情報をセンサで検出したデータとともに地上側受信局装置20に対して送出する。
宇宙側送信局装置10は、図2に例示するように、制御部11と、記憶部12と、データ入力部13と、無線部14とを含んで構成されている。また地上側受信局装置20は、無線受信部21と、データ処理部22と、記憶部23と、出力部24とを含んで構成されている。
ここで宇宙側送信局装置10の制御部11は、CPU等のプログラム制御デバイスであり、記憶部12に格納されたプログラムを実行する。本実施の形態では、この制御部11は、地上側受信局装置20に対してシングルキャリア信号を送出する処理を行うものである。
この制御部11は、地上側受信局装置20に対する送信対象となるデータを受け入れ、当該受け入れた送信対象のデータに所定の誤り訂正符号を付し、当該誤り訂正符号を付したデータを、無線部14を介して地上側受信局装置20に対してシングルキャリア信号として送出する。この制御部11の動作については後に詳しく述べる。
記憶部12は、ディスクデバイスやメモリデバイス等を含み、制御部11によって実行されるプログラムを格納している。この記憶部12は、また、制御部11のワークメモリとしても動作する。
データ入力部13は、地上側受信局装置に対する送信対象となるデータの入力を受け入れる。本実施の形態の一例では、このデータ入力部13は、人工衛星2に搭載された各種のセンサの出力やステータス情報を受け入れて制御部11に出力する。本実施の形態の一例では、センサは光学カメラや、レーダー等であり、それぞれのセンサは、観測データを出力する。
無線部14は、制御部11が出力する符号化データを単一の搬送波で変調し、シングルキャリア信号として地上側受信局装置20に対して送出する。
地上側受信局装置20の無線受信部21は、宇宙側送信局装置10が送出したシングルキャリア信号を受信してデータ処理部22に出力する。データ部22は、無線受信部21が出力する信号をディジタル信号に変換して復調処理し、送信対象となったデータを再生して出力する。
本実施の形態の一例では、このデータ処理部22は、無線受信部21が出力する信号をA/D変換してディジタル信号とし、このディジタル信号を波形情報として、記憶部23に蓄積して記録する。またこのデータ処理部22は、当該記録した波形情報を、宇宙側送信局装置10が送出したシンボルレートとは異なるシンボルレートで読み出して、当該波形情報に基づく復調処理を行い、送信対象となったデータを再生する。このデータ処理部22の動作については、後に詳しく述べる。
記憶部23は、ディスクデバイスやメモリデバイス等を含む。この記憶部23は、また、データ処理部22のワークメモリとしても動作し、波形情報を記憶する。出力部24は、データ処理部22により復調されたデータを出力する。
次に、本実施の形態の地上側受信局装置20におけるデータ処理部22の構成及び動作について説明する。
本実施の形態の一例では、データ処理部22は、図3に例示するように、記録モジュール31と、読み出しモジュール32とを含んで構成される。また記録モジュール31は、受入部201と、A/Dコンバータ(A/D)202と、ディジタルダウンコンバータ(DDC)203と、記録処理部204を含み、読み出しモジュール32は、信号読出部205と、D/Aコンバータ(D/A)206と、受信機207とを含んで構成される。
受入部201は、無線受信部21が出力する信号(RF信号)を受け入れてA/Dコンバータ202に出力する。なお、この受入部201は、ダウンコンバータ(D/C)を備えて、RF信号を中間周波の信号(IF信号)に変換してから出力してもよい。
A/Dコンバータ(A/D)202は、受入部201が出力する信号を所定のタイミングごとにディジタル値に変換して、ディジタル信号に変換する。ディジタルダウンコンバータ(DDC)203は、例えばDSP(Digital Signal Processer)等で構成できる。DSPのようなプログラム制御デバイスを用いる場合、そのプログラムは、記憶部23に格納しておいてもよい。
ディジタルダウンコンバータ203は、A/Dコンバータ202が出力するディジタル信号(シングルキャリアで変調された信号)を、直交復調して同相成分の信号(以下I信号と呼ぶ)と、直交位相成分の信号(以下Q信号と呼ぶ)とを得る。そしてこのディジタルダウンコンバータ203は、これらI信号及びQ信号のそれぞれを、ローパスフィルタを介して出力する。
なお、このディジタルダウンコンバータ203は、I信号及びQ信号をそれぞれ所定の間隔で間引きして(A/Dコンバータ202の変換のタイミングごとに得られる信号の一部に係る信号を出力しないようにして)もよい。
記録処理部204は、ディジタルダウンコンバータ203が出力する信号(I信号とQ信号との組)を、互いに関連付けて(同じタイミングで変換されたディジタル信号に基づくI信号とQ信号とを関連付けて)記憶部23に蓄積して記録する。このように比較的高速に信号を記録するため、記憶部23としては、SSD(Solid State Drive)や、RAID(Redundant Arrays of Inexpensive Disks:SSDによるRAIDを含む)に構成されたハードディスクドライブ等が用いられてもよい。
信号読出部205は、信号の再生のタイミング(処理の対象とする信号が、記録処理部204により記憶部23に格納された後であれば、このタイミングは、記録処理部204の記録中であると、記録後であるとを問わない)で、記憶部23に格納された処理対象の信号(I信号及びQ信号)を読み出す。
本実施の形態の一例では、この信号読出部205は、ディジタルアップコンバータ(DUC)を含む。そして信号読出部205は、読み出したI信号及びQ信号を、ディジタルアップコンバータにより、所定の周波数の搬送波で直交変調し、当該直交変調したディジタル信号を出力する。
D/Aコンバータ206は、信号読出部205が出力するディジタル信号を所定のタイミングごとに(所定のサンプリングレートで)アナログ信号に変換して出力する。受信機207は、D/Aコンバータ206が出力するアナログ信号を復調し、復調して得たデータを復号して、送信対象となったデータを再生して出力する。
ここで、信号読出部205の信号の読み出しのタイミングを、受信機207が処理可能なシンボルレートに合わせれば、受信機207の復調、復号の処理が比較的低速であっても、データを再生できることとなる。
[動作例]
本実施の形態は以上の構成を備えており、次のように動作する。なお、以下の例では、人工衛星2は、地上を光学的に撮像した光学観測データと、レーダで観測したレーダ観測データと、不定期に発生する人工衛星の姿勢等の状況を表すステータス情報とを地上局側へ送信するものとする。
人工衛星2に搭載された宇宙側送信局装置10は、図4に例示するように、この、地上側受信局装置20に対する送信対象となるデータを受け入れる(S1)。
宇宙側送信局装置10は、当該データを誤り訂正符号化して符号化後データを生成する。宇宙側送信局装置10は、ここで誤り訂正符号化したデータ(符号化後データ)を所定の無線周波数で変調し、地上局側へ送信する(S2)。
地上側受信局装置20は、宇宙側送信局装置10が送出したシングルキャリア信号を受信して、ディジタル信号に変換してディスクデバイスなどのストレージに蓄積して記録する(S11)。
その後、地上側受信局装置20は、ストレージに蓄積して記録したディジタル信号を、内蔵する受信機が処理可能なシンボルレートとなるタイミングごとに順次読み出して、受信機に出力する(S12)。
地上側受信局装置20は、受信機を用いて、当該読み出した信号を復調(S13)し、復調して得たデータ(符号化後データに相当する)を復号して、送信の対象となるデータ(光学観測データやレーダ観測データ及び、ステータス情報)を再生して出力する(S14)。
[変形例A:アナログで直交復調を行う例]
以上で説明した例によると、記録モジュール31では、A/Dコンバータ(A/D)202にてディジタル信号に変換した後、ディジタルダウンコンバータ(DDC)203にて直交復調を行うこととしていたが、本実施の形態の地上側受信局装置20は、以上の構成に限られない。
例えば、本実施の形態の一例では、図5に例示するように、地上側受信局装置20のデータ処理部22の記録モジュール31は、受入部201と、直交復調器301と、一対のA/Dコンバータ(A/D)302と、記録処理部204とを含んで構成されてもよい。なお、ここまでに説明した例と同じ構成となるものについては同じ符号を付して、詳しい説明を省略する。
本実施の形態のこの例では、直交復調器301は、受入部201が出力するRF信号、またはIF信号を直交復調し、同相成分のアナログ信号(以下アナログI信号と呼ぶ)と、直交位相成分のアナログ信号(以下アナログQ信号と呼ぶ)とを得て、それぞれの信号を、ローパスフィルタを介して出力する。なお、アナログ信号を直交復調する直交復調器301の具体的な回路構成については、広く知られたものを採用できるので、ここでの詳しい説明を省略する。
A/Dコンバータ(A/D)302は、直交復調器301が出力するアナログI信号と、アナログQ信号とのそれぞれに対応して一対設けられ、それぞれ対応する信号(アナログI信号またはアナログQ信号)を所定のタイミングごとにディジタル値に変換して、ディジタル信号に変換する。
記録処理部204は、一対のA/Dコンバータ302がそれぞれ出力する信号を、それぞれ関連付けて(アナログI信号を変換したディジタル信号と、当該アナログI信号に対応する(同じタイミングで変換された)アナログQ信号に基づくディジタル信号とを関連付けて)、記憶部23に蓄積して記録する。
なお、読み出しモジュール32の構成はすでに述べた例と同じでよいので、繰り返しての説明を省略する。
[変形例B:アナログで直交変調を行う例]
また、ここまでの説明では、読み出しモジュール32が記憶部23からデータを読み出した後に直交変調を行うにあたり、ディジタル信号を変調することとしていたが、アナログ信号に変換してから直交変調を行ってもよい。
本実施の形態のこの例では、図6に例示するように、地上側受信局装置20のデータ処理部22の読み出しモジュール32は、信号読出部310と、一対のD/Aコンバータ311と、アナログ直交変調器312と、受信機207とを含んで構成される。ここでも、ここまでに説明した例と同じ構成となるものについては同じ符号を付して、詳しい説明を省略する。
本実施の形態のこの例では、信号読出部310は、信号の再生のタイミング(処理の対象とする信号が、記録処理部204により記憶部23に格納された後であれば、このタイミングは、記録処理部204の記録中であると、記録後であるとを問わない)で、記憶部23に格納された処理対象の信号(I信号及びQ信号)を読み出して出力する。この信号処理部310は、読み出したI信号及びQ信号を直交変調することなく出力する。
一対のD/Aコンバータ311の一方のD/Aコンバータ311aは、I信号をアナログ信号(アナログI信号)に変換して出力する。また、他方側のD/Aコンバータ311bは、Q信号をアナログ信号(アナログQ信号)に変換して出力する。
アナログ直交変調器312は、一対のD/Aコンバータ311がそれぞれ出力するアナログI信号とアナログQ信号とを所定の周波数の搬送波で直交変調し、当該直交変調したアナログ信号を出力する。このようなアナログ直交変調器312の具体的な回路構成については、広く知られているので、ここでの詳細な説明を省略する。
そして本実施の形態のこの例では、受信機207は、アナログ直交変調器312が出力するアナログ信号を復調し、復調して得たデータを復号して、送信対象となったデータを再生して出力する。
なお、本実施のこの例では記録モジュール31は、A/Dコンバータ(A/D)202にてディジタル信号に変換した後、ディジタルダウンコンバータ(DDC)203にて直交復調を行うものであっても、アナログ信号の状態で直交復調を行い、アナログI信号とアナログQ信号とをそれぞれA/D変換して記録するものであっても、どちらのものであってもよい。
[ドップラーシフト]
ところで人工衛星2によっては、当該人工衛星2に搭載された宇宙側送信局装置10と、地上側受信局装置20との距離は時間とともに変化する。このため人工衛星2から到来する信号は、宇宙側送信局装置10と地上側受信局装置20との相対速度によって、信号の変調周波数(変調信号の中心周波数)と、シンボルレートとがそれぞれドップラー効果の影響を受けている。
具体的に、人工衛星2の軌道が地球側の受信局のアンテナと地球の中心とを含む面内にあり(つまりアンテナから見て天頂を通過するものとする)、地球の中心を中心とした高さ(地表からの高さ600km)の円軌道として、人工衛星2がこの円軌道上を等速で移動しているものと近似する。ここで中心周波数8200MHz(Xバンド)の信号を宇宙側送信局装置10が送出するときの中心周波数のずれ(この中心周波数の変動量が中心周波数に対するドップラー効果の影響の大きさに相当する)は、図7に示すように、人工衛星2がアンテナに対して近接する方向に移動している間は正の方向に中心周波数がずれ、天頂付近を通過するときに急激に変化して、人工衛星2がアンテナから遠ざかる方向に移動する間は負の方向に中心周波数がずれる。なお、この人工衛星2に対しては、一つのアンテナが信号を受信できる時間(人工衛星2の出から入までの時間)は771秒となるので、図7では横軸が時間であり、この771秒の間の変化を図示している。
また図7において実線は中心周波数のずれ量を表し、縦軸の上方が正の方向としている。また、破線は中心周波数の1秒あたりの変化率(Hz/s)を示しており、天頂付近を通過するときに、変化率の絶対値が大きくなっていることが理解される。つまり、地上側のアンテナに対して最も近接する時点の前後では、中心周波数の変化が大きくなることが理解される。
さらにシンボルレートとの関係では、比較的高いシンボルレートの信号であれば、1シンボル区間での中心周波数の変化が小さい(シンボル区間が短いので、中心周波数の変動量が小さい)ため、中心周波数に対するドップラー効果の影響は相対的に小さくなり、ドップラー効果の影響を補償する必要がないが、比較的低いシンボルレートの信号を処理する場合は、中心周波数に対するドップラー効果の影響を考慮するのが一般的である。
しかしシンボルレートについては、シンボルレートの高低に関わらず、ドップラーシフトの影響を受けて、シンボルレートが変動する(この変動量がシンボルレートに対するドップラー効果の影響の大きさに相当する)ので、この影響を除去しておくことが好ましい。
また、宇宙側送信局装置10が深宇宙探査機に搭載されている場合、深宇宙探査機は人工衛星等よりも、地上側受信局装置20との間の相対速度が大きくなるため、ドップラー効果の影響を補償する必要が生じる。
ここで、受信機において復調・復号において許容する周波数誤差を大きくする方法もある。例えば、QPSK等の低次の変調方法で変調されているのであれば、シンボルレートに同期するループ帯域を広くすればよい。しかしながら宇宙側送信局装置10は32APSK、64APSK等の高次の多値変調を用いるので、ドップラーシフトを補償せずにループ帯域を広くすると、ビット誤り率が大きくなる。つまり、許容する周波数誤差の範囲を大きくするほど、受信感度が低下し、復調・復号可能な信号のS/N比の最低限度が上昇してしまう。しかし人工衛星等との通信ではS/N比が低い場合も存在するので、受信感度はできるかぎり維持するべき要請がある。
そこで本実施の形態では、記録処理部204が信号を記憶部23に記録するまでの過程(記録工程)または、記録された信号を読み出して受信機に出力するまでの過程(読み出し工程)の少なくとも一方において、中心周波数に対するドップラー効果の影響と、シンボルレートに対するドップラー効果の影響との少なくとも一方を補償する処理を行ってもよい。以下、その具体的な方法の例について述べる。
[中心周波数の補償]
中心周波数を補償する場合、記録工程では、
1.アナログ信号のダウンコンバート時に補償する方法、
2.アナログ直交復調の際に補償する方法、
3.A/Dコンバータのサンプリングレートにより補償する方法、
4.DDCにて補償する方法、
のいずれかの方法を採用できるので、以下にそれぞれの例について説明する。まず、1.アナログ信号のダウンコンバート時に補償する方法について説明する。
この例では、記録モジュール31の受入部201が、図8に例示するように、アンテナにて受信したRF信号を増幅する低雑音増幅器401と、ダウンコンバータ402とを含んで構成される。
ここでダウンコンバータ402は、図8に例示したように、局部発振器(LO)411と、混合器412と、フィルタ部413とを備える。さらに局部発振器411は、指定された周波数の信号を発振する信号発振器421と、周波数指定部422とを含む。
信号発振器421は例えば、DCO(ディジタルコントロールオシレータ)で構成され、周波数指定部422が指定する周波数の信号を出力する。周波数指定部422は、図7に例示したような宇宙側送信局装置10と地上側受信局装置20との相対速度に応じて、時間とともに変化する周波数の指示を出力する。
例えばこの周波数指定部422は、人工衛星2等、地球のまわりを周回する衛星に搭載されている宇宙側送信局装置10からの信号を受信する際には、処理する信号を受信するアンテナから見た人工衛星2の出(地平線から上昇し、信号が受信可能となる時点)から入(地平線下に没し、信号が受信不能になる時点)までの間の各時刻ごとに、各時刻での人工衛星2と地上側受信局装置20のアンテナとの相対速度(人工衛星2の軌道は定まっているので、計算により求めることができる)に応じて予め周波数を設定しておく。この設定は例えば時刻の関数として数式により行われてもよいし、時刻ごとの周波数のずれ量Δfを記述したデータテーブルにより行われてもよい。以下の例では、データテーブルにより設定が行われるものとする(2.アナログ直交復調の際に補償する方法、3.A/Dコンバータのサンプリングレートにより補償する方法、4.DDCにて補償する方法、においても同様とする)。
具体的に人工衛星2が、既に挙げた例のように、その軌道が地球側の受信局のアンテナと地球の中心とを含む面内にあり(つまりアンテナから見て天頂を通過するものとする)、地球の中心を中心として地表から所定高さの円軌道であり、また、人工衛星2がこの円軌道上を等速で移動しているものと近似できるのであれば、各時刻ごとに図7に例示したと同様の曲線で表される周波数を指示する。
このように時間変化する指示を出力するため、周波数指定部422は図示しない計時部(クロックICなどで実現できる)を有し、宇宙側送信局装置10から信号が受信されてからの経過時間を計時する。そして例えば設定されたデータテーブルを参照して、当該経過時間に応じた時刻において指示すべき周波数の値を読み出す。なお、対応する時刻に相当する情報がない場合は、当該時刻の前後の時刻に関連付けられた周波数の値を内挿して、現在の時刻において出力するべき周波数の値を推定してもよい。
これにより周波数指定部422は、人工衛星2の出から人工衛星2がアンテナの天頂を通過するまでは、本来出力するべき局部発振器の周波数fに対して、正の方向のずれ量(つまり正の値の)Δfを加算したf+Δfの周波数を指示する。人工衛星2が天頂に近接する(近接する時刻に近づく)につれ、周波数指定部422は、このΔfを低下させ、天頂に達したとき(天頂を通過する時刻)にはΔf=0となるよう制御する。
また天頂を通過した後は、周波数指定部422は、本来出力するべき局部発振器の周波数fに対して、負の方向のずれ量(つまり負の値となった)Δfを加算したf+Δfの周波数を指示する。周波数指定部422は、人工衛星2が天頂から離隔する(時刻が経過する)につれ、このΔfをさらに低下させるが、その低下量(変化量)は時間の経過とともにゆるやかとなるよう制御する。そして人工衛星2の入まで周波数指定部422は、f+Δfの指示を出力する。
混合器412は、従って、このように周波数が時間変化する、局部発振器411の出力する信号と、アンテナ側から到来した信号とを混合して中間周波(IF)の信号を生成して出力する。このとき、IF信号の中心周波数は、元のRF信号に混合される局部発振器411の出力する信号の周波数が、RF信号の中心周波数のずれに合わせて変動しているため、時間とともに変化することなく、予め定めた一定の周波数(予定されている周波数)fIFとなる。つまりこれにより、受信信号の中心周波数に対するドップラー効果の影響を補償できる。
記録モジュール31のA/Dコンバータ202は、このような受入部201が出力するIF信号を所定のタイミングごとにディジタル値に変換して、ディジタル信号に変換することとなる。以降の動作は既に述べた通りであるので、繰り返しての説明を省略する。
次に、2.アナログ直交復調の際に補償する方法について説明する。この方法では、図5に例示した構成の記録モジュール31が用いられる。
図5に例示した記録モジュール31において、直交復調器301が、受入部201が出力するRF信号、またはIF信号を直交復調する際(この例でのRF信号またはIF信号はその中心周波数が、ドップラー効果の影響を受けて時間とともに変化している)に、次のように動作する。
直交復調器301は、直交復調のための局部発振器を備えるが、この局部発振器が図8に例示した局部発振器411と同様の構成を備えることとなる。すなわち、この例の局部発振器では、図8の局部発振器411の周波数指定部422に対応する周波数指定部が設けられ、宇宙側送信局装置10から信号が受信されてからの経過時間を計時する。そして周波数指定部は、例えば設定されたデータテーブルを参照して、当該経過時間に応じた時刻において指示すべき周波数の値を読み出す。なお、対応する時刻に相当する情報がない場合は、当該時刻の前後の時刻に関連付けられた周波数の値を内挿して、現在の時刻において出力するべき周波数の値を推定してもよい。
これにより周波数指定部は、人工衛星2の出から人工衛星2がアンテナの天頂を通過するまでは、本来ここでの局部発振器が出力するべき信号の周波数fに対して、正の方向のずれ量(つまり正の値の)Δfを加算したf+Δfの周波数を指示する。人工衛星2が天頂に近接する(近接する時刻に近づく)につれ、周波数指定部はこのΔfを低下させ、天頂に達したとき(天頂を通過する時刻)にはΔf=0となるよう制御する。
また天頂を通過した後は、周波数指定部は、本来出力するべき局部発振器の周波数fに対して、負の方向のずれ量(つまり負の値となった)Δfを加算したf+Δfの周波数を指示する。人工衛星2が天頂から離隔する(時刻が経過する)につれ、周波数指定部このΔfをさらに低下させるが、その低下量(変化量)は時間の経過とともにゆるやかとなるよう制御する。そして人工衛星2の入まで周波数指定部は、f+Δfの指示を出力する。
直交復調器301は、従って、このように周波数が時間変化する、局部発振器が出力する信号を用いて、直交復調を行う。つまり元のRF信号またはIF信号の中心周波数のずれに合わせて、直交復調時の局部発振器の出力する信号の周波数が変動しているため、直交復調後のアナログI信号及びアナログQ信号の中心周波数は、時間とともに変化することなく、予め定めた一定の周波数(予定されている周波数)fAとなる。つまりこれにより、受信信号の中心周波数に対するドップラー効果の影響を補償できる。
さらに、本実施の形態の一例では、3.A/Dコンバータのサンプリングレートにより補償する方法を採用してもよい。この例では、A/Dコンバータ202は、ディジタル値に変換するタイミング(サンプリングクロック)を、図7に例示したような宇宙側送信局装置10と地上側受信局装置20との相対速度に応じて、時間とともに変化させる。具体的に、A/Dコンバータ202は、図示しない計時部を備えて、宇宙側送信局装置10から信号が受信されてからの経過時間を計時する。そしてA/Dコンバータ202は、例えば設定されたデータテーブルを参照して、当該経過時間に応じた時刻におけるサンプリングクロックの周波数の値を読み出す。なお、対応する時刻に相当する情報がない場合は、当該時刻の前後の時刻に関連付けられた周波数の値を内挿して、現在の時刻におけるサンプリングクロックの周波数の値を推定してもよい。
これにより、A/Dコンバータ202は、人工衛星2の出から人工衛星2がアンテナの天頂を通過するまでは、本来のサンプリングクロック(周波数fc)に対して、入力されるRF信号またはIF信号の中心周波数のずれ量Δfに相当する、正の方向のずれ量(つまり正の値の)Δfcを加算した、fc+Δfcの周波数のサンプリングクロック(比較的高いサンプリングクロック)で入力されるRF信号またはIF信号をディジタル値に変換してディジタル信号を得る。
人工衛星2が天頂に近接する(近接する時刻に近づく)につれ、A/Dコンバータ202は、このΔfcを低下させ、天頂に達したとき(天頂を通過する時刻)にはΔfc=0となるよう制御する。
また天頂を通過した後は、A/Dコンバータ202は、本来のサンプリングクロック(周波数fc)に対して、入力されるRF信号またはIF信号の中心周波数のずれ量Δfに相当する、負の方向のずれ量(つまり負の値となった)Δfcを加算したfc+Δfcの周波数のサンプリングクロック(比較的低いサンプリングクロック)で入力されるRF信号またはIF信号をディジタル値に変換してディジタル信号を得る。人工衛星2が天頂から離隔する(時刻が経過する)につれ、このΔfcはさらに低下するが、その低下量(変化量)は時間の経過とともにゆるやかとなる。そして人工衛星2の入まで、A/Dコンバータ202は、fc+Δfcの周波数のサンプリングクロックで入力されるRF信号またはIF信号をディジタル値に変換してディジタル信号を得る。
この例では、入力される信号がRF信号である場合、中心周波数のみならず、信号のサンプリングタイミングが、人工衛星2と地上側受信局装置20のアンテナとの相対速度に応じた、RF信号のシンボルレートのずれ量に応じても変化することとなるので、信号のシンボルレートについてもドップラー効果の影響が補償されることとなる。
さらにディジタルダウンコンバータ(DDC)203により直交復調を行う場合、4.DDCにて補償する方法を採用してもよい。ディジタルダウンコンバータ203は、入力された信号に対して、数値制御発振器(NCO)が出力する信号(それぞれ位相をπ/2だけ異ならせた一対の信号)を混合して、互いに位相が異なる信号(I信号,Q信号)を生成し、それぞれの信号を、ローパスフィルタを出力することで、I信号及びQ信号を得ている。
本実施の形態のこの例では、このディジタルダウンコンバータ203内部の数値制御発振器が出力する信号の周波数を、図7に例示したような宇宙側送信局装置10と地上側受信局装置20との相対速度に応じて、時間とともに変化させる。
具体的に、このディジタルダウンコンバータ203は、図示しない計時部を備えて、宇宙側送信局装置10から信号が受信されてからの経過時間を計時する。そしてディジタルダウンコンバータ203は、例えば設定されたデータテーブルを参照して、当該経過時間に応じた時刻において数値制御発振器が出力するべき信号の周波数の値を読み出す。なお、対応する時刻に相当する情報がない場合は、当該時刻の前後の時刻に関連付けられた周波数の値を内挿して、現在の時刻において数値制御発振器が出力するべき信号の周波数の値を推定してもよい。
これにより、ディジタルダウンコンバータ203内部の数値制御発振器は、人工衛星2の出から人工衛星2がアンテナの天頂を通過するまでは、本来の数値制御発振器が出力するべき信号の周波数fに対して、入力されるRF信号またはIF信号の中心周波数のずれ量Δfに相当する、正の方向のずれ量(つまり正の値の)Δfを加算した、f+Δfの周波数の信号を出力する。
ディジタルダウンコンバータ203は、人工衛星2が天頂に近接する(近接する時刻に近づく)につれ、このΔfを低下させ、天頂に達したとき(天頂を通過する時刻)にはΔfc=0となるよう制御する。
また天頂を通過した後は、ディジタルダウンコンバータ203は、その内部の数値制御発振器が出力する信号の周波数を、本来出力するべき信号の周波数fに対して、入力されるRF信号またはIF信号の中心周波数のずれ量Δfに相当する、負の方向のずれ量(つまり負の値となった)Δfを加算したf+Δfの周波数の信号を出力する。
ディジタルダウンコンバータ203は、人工衛星2が天頂から離隔する(時刻が経過する)につれ、このΔfをさらに低下させるが、その低下量(変化量)は時間の経過とともにゆるやかとなるよう制御する。そして人工衛星2の入まで、ディジタルダウンコンバータ203は、数値制御発振器の出力する信号の周波数を、f+Δfとして、直交復調を行う。
このディジタルダウンコンバータ203によると、元のRF信号またはIF信号の中心周波数のずれに合わせて、直交復調時に用いる信号の周波数を変動させているため、直交復調後のI信号及びQ信号の中心周波数は、時間とともに変化することなく、予め定めた一定の周波数(予定されている周波数)となる。つまりこれにより、受信信号の中心周波数に対するドップラー効果の影響を補償できる。
また、中心周波数を補償する読み出し工程での方法として、
5.ディジタルアップコンバータ(DUC)にて補償を行う方法、
6.D/Aコンバータのサンプリングレートにより補償する方法、
7.アナログ直交変調の際に補償する方法、
8.アナログ信号のアップコンバート時に補償する方法、
の各4通りの補償の方法がある。
これらの例では、記録工程での中心周波数の補償は行わないものとする。つまり、記憶部23に格納されている波形情報は、ドップラー効果の影響が含まれている状態にあるものとする。
まず、5.ディジタルアップコンバータ(DUC)にて補償を行う方法は、信号読出部205に含まれるディジタルアップコンバータが、記憶部23から読み出した波形情報の表す信号に対して、数値制御発振器(NCO)が出力する信号(それぞれ位相をπ/2だけ異ならせた一対の信号)を混合して、合成処理して直交変調を行う場合に採用できる。
この例では、信号読出部205のディジタルアップコンバータ内部の数値制御発振器が出力する信号の周波数を、図7に例示したような宇宙側送信局装置10と地上側受信局装置20との相対速度を反転したもの(図9)に応じて、時間とともに変化させる。
具体的に、波形情報が記録された時刻(以下の説明では人工衛星2の出、つまり最初に波形情報が記録された時点を時刻「0」とする)ごとに、各時刻での人工衛星2と地上側受信局装置20のアンテナとの相対速度(人工衛星2の軌道は定まっているので、計算により求めることができる)に応じて予め周波数を設定しておく。この設定は例えば時刻の関数として数式により行われてもよいし、時刻ごとの周波数のずれ量Δfを記述したデータテーブルにより行われてもよい。以下の例では、データテーブルにより設定が行われるものとする(6.D/Aコンバータのサンプリングレートにより補償する方法、7.アナログ直交変調の際に補償する方法、8.アナログ信号のアップコンバート時に補償する方法においても同様とする)。
具体的にここでは、人工衛星2の出から入までの時間をTとし、記録された波形情報の数が全体でNであるとすると、記録された時刻の順に先頭からi番目の波形情報が記録された時刻tはt=T×i/Nとして得られる。
そこで、i番目の波形情報の入力を受けた信号読出部205は、例えば設定されたデータテーブルを参照して、時刻t=T×i/N(T,Nは設定されていて、既知であるものとする)においてそのディジタルアップコンバータの数値制御発振器が出力するべき信号の周波数の値を読み出す。なお、対応する時刻に相当する情報がない場合は、当該時刻の前後の時刻に関連付けられた周波数の値を内挿して、現在の時刻において数値制御発振器が出力するべき信号の周波数の値を推定してもよい。
これによると信号読出部205は、人工衛星2の出から人工衛星2がアンテナの天頂を通過するまでの時刻に記録された波形情報に基づく信号が入力されている間は、本来の数値制御発振器が出力するべき信号の周波数fに対して、入力されるRF信号またはIF信号の中心周波数のずれ量Δfに相当する、正の方向のずれ量(つまり正の値の)Δfを減算した、f−Δfの周波数の信号を出力する。
信号読出部205のディジタルアップコンバータは、時刻tが、人工衛星2が天頂に近接する時刻に近づくにつれ、このΔfを低下させ、天頂に達したとき(天頂を通過する時刻)にはΔfc=0となるよう制御する。
また時刻tが、天頂を通過した時刻を経過した後は、信号読出部205のディジタルアップコンバータは、その内部の数値制御発振器が出力する信号の周波数を、本来出力するべき信号の周波数fに対して、入力されるRF信号またはIF信号の中心周波数のずれ量Δfに相当する、負の方向のずれ量(つまり負の値となった)Δfを減算したf−Δfの周波数の信号を出力する。
信号読出部205のディジタルアップコンバータは、時刻tが、人工衛星2が天頂を通過した時点から遠ざかるにつれ、このΔfをさらに低下させるが、その低下量(変化量)は時間の経過とともにゆるやかとなるよう制御する。そして人工衛星2の入まで、信号読出部205のディジタルアップコンバータは、数値制御発振器の出力する信号の周波数を、f−Δfとして、直交変調を行う。
このディジタルアップコンバータを含む信号読出部205によると、元のRF信号またはIF信号の中心周波数のずれと逆のずれに合わせて、直交変調時に用いる信号の周波数を変動させているため、直交変調後のI信号及びQ信号の中心周波数が、時間とともに変化することなく、予め定めた一定の周波数(予定されている周波数)となる。つまりこれにより、受信信号の中心周波数に対するドップラー効果の影響を補償できる。
次に、6.D/Aコンバータのサンプリングレートにより補償する方法について説明する。この例では、D/Aコンバータ206は、入力されたディジタル信号をアナログに変換するタイミング(サンプリングクロック)を、図9に例示したような、宇宙側送信局装置10と地上側受信局装置20との相対速度に基づく中心周波数の変動を反転させた変動量に応じて、時間とともに変化させる。
この例でも、D/Aコンバータ206は、人工衛星2の出から入までの時間をTとし、記録された波形情報の数が全体でNであるとして、記録された時刻の順に先頭からi番目の波形情報が記録された時刻tをt=T×i/Nとして得る。
そしてi番目の波形情報に対応する信号の入力を受けたD/Aコンバータ206は、例えば設定されたデータテーブルを参照して、時刻t=T×i/N(T,Nは設定されていて、既知であるものとする)におけるサンプリングクロック(次の信号を処理するタイミング)の周波数の値を読み出す。なお、対応する時刻に相当する情報がない場合は、当該時刻の前後の時刻に関連付けられた周波数の値を内挿して、現在の時刻におけるサンプリングクロックの周波数の値を推定してもよい。
これにより、人工衛星2の出から人工衛星2がアンテナの天頂を通過する時刻に対応する信号を処理している間は、D/Aコンバータ206は、本来のサンプリングクロック(周波数fc)に対して、入力されるRF信号またはIF信号の中心周波数のずれ量Δfに相当する、正の方向のずれ量(つまり正の値の)Δfcを減算した、fc−Δfcの周波数のサンプリングクロック(比較的低いサンプリングクロック)で、入力されるディジタル信号をアナログ信号に変換して出力する。
このときD/Aコンバータ206は、人工衛星2が天頂に近接する時刻に、時刻tが近づくにつれて、このΔfcを低下させ、時刻tが天頂を通過する時刻となったときにはΔfc=0となるよう制御する。
さらに時刻tが、天頂を通過した時刻より後となると、D/Aコンバータ206は、本来のサンプリングクロック(周波数fc)に対して、入力されるRF信号の中心周波数のずれ量Δfに相当する、負の方向のずれ量(つまり負の値となった)Δfcを減算したfc−Δfcの周波数のサンプリングクロック(比較的高いサンプリングクロック)で、入力されるディジタル信号をアナログ信号に変換して出力する。
D/Aコンバータ206は、人工衛星2が天頂を通過した時点から、時刻tが離れるにつれ、このΔfcをさらに低下させるが、その低下量(変化量)が時間の経過とともにゆるやかとなるよう制御する。
この例では、入力される信号がRF信号である場合、中心周波数のみならず、信号のサンプリングタイミングが、人工衛星2と地上側受信局装置20のアンテナとの相対速度に応じた、RF信号のシンボルレートのずれ量に応じても変化することとなるので、信号のシンボルレートについてもドップラー効果の影響が補償されることとなる。
また本実施の形態のある例では、7.アナログ直交変調の際に補償する方法を採用してもよい。図6に例示した構成の読み出しモジュール32が用いられる。この例では、アナログ直交変調器312が、一対のD/Aコンバータ311から入力されるアナログI信号及びアナログQ信号を直交変調する際、その搬送波となる信号を発振する発振器が、図8に例示した局部発振器411と同様の構成を備えることとなる。
ここでも、アナログ直交変調器312が、人工衛星2の出から入までの時間をTとし、記録された波形情報の数が全体でNであるとして、記録された時刻の順に先頭からi番目の波形情報が記録された時刻tはt=T×i/Nとして得る。
そこで、i番目の波形情報の入力を受けたアナログ直交変調器312は、例えば設定されたデータテーブルを参照して、時刻t=T×i/N(T,Nは設定されていて、既知であるものとする)において搬送波となる信号を発振する発振器が出力するべき信号の周波数の値を読み出す。なお、対応する時刻に相当する情報がない場合は、当該時刻の前後の時刻に関連付けられた周波数の値を内挿して、現在の時刻において発振器が出力するべき信号の周波数の値を推定してもよい。
すなわち、この例の発振器では、図8の局部発振器411の周波数指定部422に対応する周波数指定部が設けられ、時刻tが、人工衛星2の出から人工衛星2がアンテナの天頂を通過する時刻となるまでは、本来ここでの局部発振器が出力するべき信号の周波数fに対して、正の方向のずれ量(つまり正の値の)Δfを減算したf−Δfの周波数を指示する。この周波数指定部は、人工衛星2が天頂に近接する時刻に、時刻tが近づくにつれ、このΔfを低下させ、天頂に達したとき(天頂を通過する時刻)にはΔf=0となるよう制御する。
また時刻tが、天頂を通過した時刻より後となったときには、この周波数指定部は、本来出力するべき信号の周波数fに対して、負の方向のずれ量(つまり負の値となった)Δfを減算したf−Δfの周波数を指示する。周波数指定部は、人工衛星2が天頂を通過した時刻から時刻tが離れるにつれ、このΔfをさらに低下させるが、その低下量(変化量)は時間の経過とともにゆるやかとなるよう制御される。この間にアナログ直交変調器312の周波数指定部が指定し、発振器が出力する信号の周波数は、図9に例示したように時間とともに変化することとなる。
アナログ直交変調器312は、従って、このように周波数が時間変化する発振器が出力する信号を用いて、直交変調を行うこととなる。つまり元のRF信号またはIF信号の中心周波数のずれを反転させたずれ量に合わせて、直交変調時の搬送波の周波数を変動させるため、直交変調後の信号の中心周波数は、時間とともに変化することなく、予め定めた一定の周波数となる。つまりこれにより、受信信号の中心周波数に対するドップラー効果の影響を補償できる。
さらに8.アナログ信号のアップコンバート時に補償する方法について説明する。この例では、読み出しモジュール32が、図10に例示するように、信号読出部205と、D/Aコンバータ206と、アップコンバータ208と、受信機207とを含んで構成される。なお、既に説明したものと同様の構成をとるものについては同じ符号を付してその詳細な説明を省略する。
この例のアップコンバータ208は、図10に例示したように、局部発振器(LO)511と、混合器512と、フィルタ部513とを備える。さらに局部発振器511は、指定された周波数の信号を発振する信号発振器521と、周波数指定部522とを含む。
信号発振器521は例えば、DCO(ディジタルコントロールオシレータ)で構成され、周波数指定部522が指定する周波数の信号を出力する。周波数指定部522は、図9に例示したような、宇宙側送信局装置10と地上側受信局装置20との相対速度に応じて、時間とともに変化する周波数の指示を出力する。
この例においても、周波数指定部522は、人工衛星2の出から入までの時間をTとし、記録された波形情報の数が全体でNであるとして、記録された時刻の順に先頭からi番目の波形情報が記録された時刻tはt=T×i/Nとして得る。
そこで、i番目の波形情報の入力を受けたときに、周波数指定部522は、例えば設定されたデータテーブルを参照して、時刻t=T×i/N(T,Nは設定されていて、既知であるものとする)において指定するべき周波数の値を読み出す。なお、対応する時刻に相当する情報がない場合は、当該時刻の前後の時刻に関連付けられた周波数の値を内挿して、現在の時刻において指定するべき周波数の値を推定してもよい。
この例の周波数指定部522によると、時刻tが、人工衛星2の出から人工衛星2がアンテナの天頂を通過する時刻となるまでは、本来局部発振器511が出力するべき信号の周波数fに対して、正の方向のずれ量(つまり正の値の)Δfを減算したf−Δfの周波数を指示する。周波数指定部522は、人工衛星2が天頂に近接する時刻に、時刻tが近づくにつれ、このΔfを低下させ、天頂に達したとき(天頂を通過する時刻)にはΔf=0となるよう制御する。
また時刻tが天頂を通過した時刻より後となると、周波数指定部522は、本来出力するべき局部発振器の周波数fに対して、負の方向のずれ量(つまり負の値となった)Δfを減算したf−Δfの周波数を指示する。周波数指定部522は、人工衛星2が天頂を通過した時刻から時刻tが離れるにつれ、このΔfをさらに低下させるが、その低下量(変化量)は時間の経過とともにゆるやかとなるよう制御する。そして人工衛星2の入まで周波数指定部522は、f−Δfの指示を出力する。
混合器512は、従って、このように周波数が時間変化する、局部発振器511の出力する信号と、D/Aコンバータ206が出力する信号とを混合して中間周波(IF)の信号を生成して出力する。このとき、IF信号の中心周波数は、元のRF信号に混合される局部発振器511の出力する信号の周波数が、RF信号の中心周波数のずれを打ち消すように変動しているため、時間とともに変化することなく、予め定めた一定の周波数(予定されている周波数)fIFとなる。つまりこれにより、受信信号の中心周波数に対するドップラー効果の影響を補償できる。
このように本実施の形態では、記録モジュール31にてドップラー効果の影響を補償する際には、直交復調までの間で、RF信号またはIF信号の中心周波数のずれに応じて信号を処理することで、ドップラー効果の影響を補償した波形情報を記録することが可能となる。この場合は、当該ドップラー効果の影響を補償した波形情報に基づいて生成したIF信号が受信機207に出力される。
また、記録モジュール31にてドップラー効果の影響を補償せず、読み出しモジュール32にてドップラー効果の影響を補償する際には、直交変調からIF信号を生成して出力するまでの間で、受信したRF信号または受信した信号を変換したIF信号の中心周波数のずれを打ち消すように、変調時の周波数を制御したり、D/A変換のサンプリングタイミング等の処理タイミングを変化させることで、ドップラー効果の影響を補償した状態の信号を、受信機207に出力することが可能となる。
[シンボルレートの補償]
また既に述べたように、記録モジュール31にてドップラー効果の影響を補償する際には、IF信号に変換して処理しない場合(RF信号のまま処理する場合)は、3.A/Dコンバータのサンプリングレートにより補償する方法を採用することで、受信信号の中心周波数に対するドップラー効果の影響が補償されるとともに、シンボルレートに対するドップラー効果の影響も補償される。
同様に、読み出しモジュール32にてドップラー効果の影響を補償する際には、記憶部23にRF信号に対応する波形情報を記録している場合は、6.D/Aコンバータのサンプリングレートにより補償する方法を採用することで、受信信号の中心周波数に対するドップラー効果の影響が補償されるとともに、シンボルレートに対するドップラー効果の影響も補償される。
[組み合わせによる補償]
また、ここまでに説明したドップラー効果の影響の補償方法は、組み合わせて用いられてもよい。例えば、記録モジュール31にてIF信号に変換した後にA/Dコンバータ202のサンプリングレートを調整すること(変換タイミングの調整)によりシンボルレートに対するドップラー効果を補償し、併せて、アナログ信号のダウンコンバート時の局部発振器411の発振周波数を中心周波数のずれ量だけ補正するか、直交復調のための局部発振器の発振周波数を中心周波数のずれ量だけ補正するか、または、ディジタルダウンコンバータの数値制御発信器が出力する信号の周波数を中心周波数のずれ量だけ補正することで中心周波数に対するドップラー効果の影響を補償してもよい。
ここで、ディジタルダウンコンバータの数値制御発信器が出力する信号の周波数を中心周波数のずれ量だけ補正する場合や、アナログ信号をダウンコンバートするときに局部発振器411の発振周波数を中心周波数のずれ量だけ補正する場合には、IF信号をA/DコンバータによりA/D変換する際のサンプリングレートの調整による中心周波数の変動量も加算して、数値制御発信器が出力する信号の周波数や、局部発振器411の発振周波数を補正する。
同様に、読み出しモジュール32において、D/Aコンバータ206のサンプリングレートを調整すること(変換タイミングの調整)によりシンボルレートに対するドップラー効果を補償し、併せて、ディジタルアップコンバータの数値制御発信器が出力する信号の周波数を中心周波数のずれ量だけ補正するか、アナログ直交変調のための局部発振器の発振周波数を中心周波数のずれ量だけ補正するか、アナログ信号のアップコンバート時の局部発振器の発振周波数を中心周波数のずれ量だけ補正することで中心周波数に対するドップラー効果の影響を補償してもよい。
この例など、ディジタルアップコンバータの数値制御発信器が出力する信号の周波数を中心周波数のずれ量だけ補正して、中心周波数のずれ量を補正する場合など、中心周波数のずれ量が0HzであるようなI/Q信号をそれぞれD/A変換する場合を除き、D/Aコンバータ206におけるサンプリングレートを調整すること(変換タイミングの調整をすること)による中心周波数の変動量も考慮して、D/Aコンバータ206のサンプリングレートの調整量を決定してもよい。
[リサンプリングによるシンボルレートの補償]
もっとも、中心周波数に対するドップラー効果の影響を補償する必要がない場合は、A/Dコンバータ202またはA/Dコンバータ302が出力する信号を、所定のサンプリングタイミングごとにリサンプリングして出力することで、シンボルレートに対するドップラー効果の影響を補償してもよい。
この例では、リサンプリングのタイミング(サンプリングクロック)を、図7に例示したような宇宙側送信局装置10と地上側受信局装置20との相対速度に応じて、時間とともに変化させる。すなわちこの例においても、処理する信号を受信するアンテナから見た人工衛星2の出(地平線から上昇し、信号が受信可能となる時点)から入(地平線下に没し、信号が受信不能になる時点)までの間の各時刻ごとに、各時刻での人工衛星2と地上側受信局装置20のアンテナとの相対速度(人工衛星2の軌道は定まっているので、計算により求めることができる)に応じて予め周波数を設定しておく。この設定は例えば時刻の関数として数式により行われてもよいし、時刻ごとの周波数のずれ量Δfを記述したデータテーブルにより行われてもよい。以下の例では、データテーブルにより設定が行われるものとする。
具体的にリサンプリングを行うリサンプラは、図示しない計時部(クロックICなどで実現できる)を有し、宇宙側送信局装置10から信号が受信されてから(処理するべき信号が最初に入力されてから)の経過時間を計時する。そして例えば設定されたデータテーブルを参照して、当該経過時間に応じた時刻におけるサンプリングクロックの周波数の値を読み出す。なお、対応する時刻に相当する情報がない場合は、当該時刻の前後の時刻に関連付けられた周波数の値を内挿して、現在の時刻におけるサンプリングクロックの周波数の値を推定してもよい。
これによると、リサンプラは、人工衛星2の出から人工衛星2がアンテナの天頂を通過するまでは、所定のサンプリングクロック(例えばA/Dコンバータ202またはA/Dコンバータ302のサンプリングクロックと同じ周波数fc)に対して、入力されるRF信号またはIF信号のシンボルレートのずれ量Δfに相当する、正の方向のずれ量(つまり正の値の)Δfcを加算した、fc+Δfcの周波数のサンプリングクロック(比較的高いサンプリングクロック)で、A/Dコンバータ202またはA/Dコンバータ302が出力する信号をリサンプリングする。
このリサンプラは、人工衛星2が天頂に近接する(近接する時刻に近づく)につれて、このΔfcを低下させ、天頂に達したとき(天頂を通過する時刻)にはΔfc=0となるよう制御する。
また天頂を通過した後は、リサンプラは、所定のサンプリングクロック(周波数fc)に対して、入力されるRF信号またはIF信号のシンボルレートのずれ量Δfに相当する、負の方向のずれ量(つまり負の値となった)Δfcを加算したfc+Δfcの周波数のサンプリングクロック(比較的低いサンプリングクロック)で、A/Dコンバータ202またはA/Dコンバータ302が出力する信号をリサンプリングする。
このとき、リサンプラは、人工衛星2が天頂から離隔する(時刻が経過する)につれ、このΔfcをさらに低下させるが、その低下量(変化量)は時間の経過とともにゆるやかとなるよう制御する。
この例では、記録モジュール31にてシンボルレートに対するドップラー効果の影響が補償される。また、読み出しモジュール32にてシンボルレートに対するドップラー効果の影響を補償してもよい。
この場合は、読み出しモジュール32において、D/Aコンバータ206またはD/Aコンバータ311が出力する信号を、所定のサンプリングタイミングごとにリサンプリングして出力することで、シンボルレートに対するドップラー効果の影響を補償する。
この際、当該リサンプリングのタイミング(サンプリングクロック)を、図9に例示したような宇宙側送信局装置10と地上側受信局装置20との相対速度に応じて、時間とともに変化させる。すなわちこの例においても、処理する信号を受信するアンテナから見た人工衛星2の出(地平線から上昇し、信号が受信可能となる時点)から入(地平線下に没し、信号が受信不能になる時点)までの間の各時刻ごとに、各時刻での人工衛星2と地上側受信局装置20のアンテナとの相対速度(人工衛星2の軌道は定まっているので、計算により求めることができる)に応じて予め周波数を設定しておく。この設定は例えば時刻の関数として数式により行われてもよいし、時刻ごとの周波数のずれ量Δfを記述したデータテーブルにより行われてもよい。以下の例では、データテーブルにより設定が行われるものとする。
リサンプリングを行うリサンプラは、人工衛星2の出から入までの時間をTとし、記録された波形情報の数が全体でNであるとして、記録された時刻の順に先頭からi番目の波形情報が記録された時刻tをt=T×i/Nとして得る。
そしてi番目の波形情報に対応する信号の入力を受けたリサンプラは、例えば設定されたデータテーブルを参照して、時刻t=T×i/N(T,Nは設定されていて、既知であるものとする)におけるサンプリングクロック(次の信号を処理するタイミング)の周波数の値を読み出す。なお、対応する時刻に相当する情報がない場合は、当該時刻の前後の時刻に関連付けられた周波数の値を内挿して、現在の時刻におけるサンプリングクロックの周波数の値を推定してもよい。
これによると、リサンプラは、時刻tが、人工衛星2の出の時刻から人工衛星2がアンテナの天頂を通過する時刻である間は、所定のサンプリングクロック(例えばD/Aコンバータ206またはD/Aコンバータ311のサンプリングクロックと同じ周波数fc)に対して、入力されるRF信号またはIF信号のシンボルレートのずれ量Δfに相当する、正の方向のずれ量(つまり正の値の)Δfcを減算した、fc−Δfcの周波数のサンプリングクロック(比較的低いサンプリングクロック)で、D/Aコンバータ206またはD/Aコンバータ311が出力する信号をリサンプリングする。
このリサンプラは、人工衛星2が天頂に近接する(近接する時刻に近づく)につれて、このΔfcを低下させ、時刻tが天頂に通過する時刻となったときにはΔfc=0となるよう制御する。
また時刻tが、天頂を通過した後の時刻となると、リサンプラは、所定のサンプリングクロック(周波数fc)に対して、入力されるRF信号またはIF信号のシンボルレートのずれ量Δfに相当する、負の方向のずれ量(つまり負の値となった)Δfcを減算したfc−Δfcの周波数のサンプリングクロック(比較的高いサンプリングクロック)で、D/Aコンバータ206またはD/Aコンバータ311が出力する信号をリサンプリングする。
このとき、リサンプラは、人工衛星2が天頂を通過した時点から時刻が経過するにつれ、このΔfcをさらに低下させるが、その低下量(変化量)は時間の経過とともにゆるやかとなるよう制御する。
なお、深宇宙探査機についても、探査機自身の運動のほか、地球の公転・自転などによって相対速度が変化するので、上述と同様の補償を行うこととなる。
[複数の衛星に対する対応の例]
なお、記憶部23には複数の人工衛星2等から受信した信号に基づく波形情報が記録されてもよい。このとき、記憶部23が記録を行いつつ、読み出しが可能な程度に高速であれば、地上側受信局装置20は、複数の読み出しモジュール32を備えて、各読み出しモジュール32が、それぞれが担当する人工衛星2から受信した信号に基づく波形情報を、記憶部23から読み出して処理することとしてもよい。
あるいは、記憶部23が、複数のSSDやハードディスク等の記憶デバイスを備えて、それぞれの記憶デバイスが複数の人工衛星2のそれぞれが送出した信号に基づく波形情報を記録するように設定する。
すなわち、記録モジュール31の記録処理部204が、ディジタルダウンコンバータ203が出力する信号(I信号とQ信号との組)を、互いに関連付けて(同じタイミングで変換されたディジタル信号に基づくI信号とQ信号とを関連付けて)、当該信号の送信元となった人工衛星2に対応するものとして設定された記憶デバイスに蓄積して記録することとしてもよい。
この場合、地上側受信局装置20は、複数の読み出しモジュール32を備えて、各読み出しモジュール32が、それぞれが担当する人工衛星2から受信した信号に基づく波形情報を蓄積している記憶デバイスから、波形情報を読み出して処理する。