JP2019167554A - アルミニウム箔の製造方法およびアルミニウム箔 - Google Patents
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Abstract
【課題】製箔初期の焼けやピンホールを抑制し、高品位のアルミニウム箔を高効率で製造可能な、アルミニウム箔の製造方法およびそれを用いたアルミニウム箔を提供する。【解決手段】めっき処理可能な温度に保持されためっき液に、陰極ドラムの電析領域の一部および陽極部材を浸漬した状態とし、電析領域と陽極部材との間に電流を印加しながら陰極ドラムを回転させることによって、電析領域にアルミニウムを電析させてアルミニウム被膜を形成し、めっき液からせり上がったアルミニウム被膜を、リード材を用いて剥離する製造方法において、電析領域を70℃以上140℃以下の温度に保持した後に、電流密度が80mA/cm2以上となるように、電析領域と陽極部材との間に電流を印加する。上記の製造方法を用いて、製品部分において、厚み方向に貫通するピンホールが、10個/25cm2以下である、アルミニウム箔を作製する。【選択図】図1
Description
本発明は、電気アルミニウムめっき法(電解析出法)を利用した、アルミニウム箔の製造方法およびアルミニウム箔(電解アルミニウム箔)に関する。
近年、大きなエネルギー密度を持つ蓄電デバイスを利用する、例えば、携帯電話やノートパソコンなどの小型モバイルツール、ハイブリッド自動車および太陽光発電などの製品や技術の進展が著しい。そのため、リチウムイオン二次電池やスーパーキャパシター(電気二重層キャパシター、レドックスキャパシター、リチウムイオンキャパシターなど)などの蓄電デバイスは、高エネルギー密度化(高容量化や高出力化)に加え、一層の小型化に伴う安全性や信頼性(寿命)の向上が求められている。こうした蓄電デバイスへの要求を満たすための一策として、蓄電デバイスの電極を構成するシート状の集電体の薄肉化が考えられる。例えば正極の場合、活物質を担持する集電体(正極集電体)には、一般的にアルミニウム箔が使用されている。
電気アルミニウムめっきによって基材の表面に形成したアルミニウム被膜を基材から剥離することでアルミニウム箔を製造する方法は、圧延法では製造することができない薄さのアルミニウム箔を製造することができるといった利点がある。しかし、アルミニウムが電解析出する電位は、水素発生の電位よりも卑であるため、銅やニッケルなどの他の金属と違って、水溶液からアルミニウムを電解析出させることは不可能である。従って、電気アルミニウムめっきは、非水溶媒を用いためっき液を用いて行われる。電気アルミニウムめっき液としては、例えば、ジメチルスルホンなどのジアルキルスルホンを非水溶媒として用い、アルミニウム源として塩化アルミニウムなどのハロゲン化アルミニウムと、ハロゲン化アンモニウム、第一アミンのハロゲン化水素塩、第二アミンのハロゲン化水素塩、第三アミンのハロゲン化水素塩、一般式:R1R2R3R4N・X(R1〜R4は同一または異なってアルキル基、Xは第四アンモニウムカチオンに対するカウンターアニオンを示す)で表される第四アンモニウム塩などの含窒素化合物を少なくとも含むものが知られている(例えば特許文献1)。
電解アルミニウム箔を工業的規模で製造する場合、基材の表面にアルミニウム被膜を形成する工程と当該被膜を基材から剥離する工程は、バッチ的に行うよりも、陰極ドラムを利用して連続的に行うことが望ましい。陰極ドラムを利用する電解アルミニウム箔の製造に関しては、例えば、めっき処理可能な温度に加温されためっき液に、陰極ドラムの外周の一部および陽極部材を浸漬し、陰極ドラムと陽極部材との間に電流を印加するとともに、陰極ドラムを回転させることで、陰極ドラムの外周の電析領域にアルミニウムを電解析出させてアルミニウム被膜を形成し、めっき液の液面からせり上がったアルミニウム被膜を陰極ドラムから剥離する、アルミニウム箔の製造方法および製造装置が知られている(例えば特許文献2)。
上記特許文献2に開示されるような陰極ドラムを用いて電解アルミニウム箔(以下、単に、アルミニウム箔という。)を工業的規模で製造する場合、アルミニウム箔の単位時間あたりの形成長さ(製箔長さ)を延長して生産効率向上を図ることが望まれる。そのための一策として、陰極ドラムの回転数を増やすことが考えられる。しかし、陰極ドラムの回転数を単に増やすと、アルミニウム箔の厚みが所定の厚みよりも薄くなる。そこで、アルミニウム箔の厚みを所定の厚みに形成しながら陰極ドラムの回転数を増やす一策として、陰極ドラムの周面に備わる電析領域のめっき液中に浸漬される部分の表面積に対する電流値(以下、電流密度という。)を大きくすることが考えられる。しかし、単に電流密度を大きくすると、剥離後のアルミニウム箔を牽引するリード材とアルミニウム箔との繋ぎ目の部分から、焼けと呼ばれる黒く変色した異常な電析形態が、アルミニウム箔のエッジ部分に連続的に発生することがある。こうした焼けの発生は、アルミニウム箔の品位低下とともに、アルミニウム被膜を剥離する際にアルミニウム箔が破断する原因になることが判明した。なお、アルミニウム箔に発生する焼けの防止には電流密度を小さくするのが有効であるが、電流密度を小さくすると、電流を印加してアルミニウム箔の製造を開始し(以下、製箔開始という。)、陰極ドラムが回転し始めてから1回転乃至2回転する間(以下、製箔初期という。)に、アルミニウム箔に多くのピンホールが発生することがある。この場合、ピンホールの発生形態(大きさや密集度など)および発生部位によっては、アルミニウム被膜を剥離する際にアルミニウム箔が破断することが判明した。
本発明の目的は、製箔初期のアルミニウム箔の焼けおよびピンホールを抑制することにより、高品位のアルミニウム箔を高効率で製造することが可能な、アルミニウム箔の製造方法およびその製造方法を用いて作製可能なアルミニウム箔を提供する。
本発明者らは、陰極ドラムを用いて電解アルミニウム箔を工業的規模で製造するための検討に際して、陰極ドラムの外周に備わる電析領域の表面性状(特に表面温度)と電流密度との間に適切な関係性があることを見出し、本発明に想到することができた。
すなわち、上記知見に基づいてなされた本発明のアルミニウム箔の製造方法では、めっき処理可能な温度に加温されたジアルキルスルホン、アルミニウムハロゲン化物および含窒素化合物を含む電気アルミニウムめっき液の中に、陰極ドラムの外周に備わる電析領域の一部および陽極部材を浸漬した状態で、前記電析領域と前記陽極部材との間に電流を印加しながら前記陰極ドラムを回転させることにより、前記電析領域にアルミニウムを電析させてアルミニウム被膜を形成し、前記電気アルミニウムめっき液の液面からせり上がったアルミニウム被膜を前記電析領域からリード材を用いて剥離することによる、アルミニウム箔の製造方法であって、前記電析領域を70℃以上140℃以下の温度に保持した後に、電流密度が80mA/cm2以上となるように、前記電析領域と前記陽極部材との間に電流を印加する。なお、前記電析領域と前記陽極部材との間に電流を印加する間、前記電気アルミニウムめっき液を、70℃以上140℃以下の温度に保持することが好ましい。
上記の本発明のアルミニウム箔の製造方法を用いて、厚み方向に貫通するピンホールが、10個/25cm2以下である、アルミニウム箔を作製することができる。
本発明によれば、製箔初期のアルミニウム箔の焼けおよびピンホールが抑制されるため、高品位のアルミニウム箔を高効率で製造することが可能になる。
本発明のアルミニウム箔の製造方法は、めっき処理可能な温度に加温されたジアルキルスルホン、アルミニウムハロゲン化物および含窒素化合物を含む電気アルミニウムめっき液の中に、陰極ドラムの外周に備わる電析領域の一部および陽極部材を浸漬した状態で、電析領域と陽極部材との間に電流を印加しながら陰極ドラムを回転させることにより、電析領域にアルミニウムを電析させてアルミニウム被膜を形成し、電気アルミニウムめっき液の液面からせり上がったアルミニウム被膜を電析領域からリード材を用いて剥離することによる、アルミニウム箔の製造方法であって、陰極ドラムの電析領域を70℃以上140℃以下の温度に保持した後に、電流密度が80mA/cm2以上となるように、電析領域と陽極部材との間に電流を印加する。なお、本発明では、電解析出法によるアルミニウムの析出を「電解析出」または「電析」と呼ぶ。
以下、本発明のアルミニウム箔の製造方法およびその製造方法を適用することによって作製される本発明のアルミニウム箔(電解アルミニウム箔)について、実施形態を挙げて説明するが、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
本発明における重要な特徴は、電析領域と陽極部材との間に電流を印加する前(以下、単に「製箔開始前」という。)に、陰極ドラムの電析領域を70℃以上140℃以下の温度に保持し、その後に、電流密度が80mA/cm2以上となるように、電析領域と陽極部材との間に電流を印加して製箔を開始する(以下、単に「製箔開始」という。)ことである。本発明の実施形態において、製箔開始前に、陰極ドラムの電析領域は加温され、70℃以上140℃以下の温度に達している。したがって、少なくとも製箔開始直前から製箔初期において、陰極ドラムの電析領域は70℃以上140℃以下の望ましい温度(表面温度)を有している。なお、アルミニウムが電析領域の表面上に電析し、成長し、そして、所定の厚みのアルミニウム被膜が形成される過程において、陰極ドラムの電析領域の温度(表面温度)が少なからず影響を及ぼしていることは確認しているので、後述する。
陰極ドラムの電析領域が70℃以上140℃以下の温度(表面温度)である場合、アルミニウムの電析、成長、そして、アルミニウム被膜の形成が順調に進むようになるため、エッジを含む全面において焼けやピンホールが認められない良質なアルミニウム箔を形成することができる。なお、陰極ドラムの電析領域が70℃未満(例えば69℃)温度(表面温度)であるとアルミニウム箔(特にエッジ部分)に焼けが発生し、電流密度が小さくなるにつれてアルミニウム箔にピンホールが発生するようになる。なお、温度(表面温度)の安定性を考慮すれば、好ましくは、製箔開始時の陰極ドラムの電析領域の温度(表面温度)は、75℃以上である。また、陰極ドラムの電析領域が140℃を超える温度(表面温度)であると、ジアルキルスルホン、アルミニウムハロゲン化物および含窒素化合物を含む電気アルミニウムめっき液を用いた電解析出法においては、良好なアルミニウムの電析、成長、そして、良好なアルミニウム被膜の形成が行われなくなるため、アルミニウム被膜の剥離が困難になり、良質なアルミニウム箔が得られなくなる。なお、陰極ドラムの電析領域が130℃以下の温度(表面温度)であると、アルミニウム被膜の柔軟性が高まるため、アルミニウム被膜を容易に剥離することができる。
したがって、アルミニウム箔として、特に集電体用途に好適なアルミニウム箔として、焼けが認められず、ピンホールが認められたとしても少量(個数)に抑制されている良質なアルミニウム箔を製造するためには、製箔開始前に、陰極ドラムの電析領域を、70℃以上、好ましくは75℃以上、より好ましくは80℃以上、かつ、140℃以下、好ましくは130℃以下、より好ましくは110℃以下の温度に保持することにより、少なくとも製箔開始から製箔初期において、陰極ドラムの電析領域の温度(表面温度)を、70℃以上、好ましくは75℃以上、より好ましくは80℃以上、かつ、140℃以下、好ましくは130℃以下、より好ましくは110℃以下の温度に保持するようにする。陰極ドラムの電析領域の温度(表面温度)が、より好ましい80℃以上の温度に保持されると、アルミニウム箔に発生しやすい焼けやピンホールの抑制効果がより安定になる。また、陰極ドラムの電析領域の温度(表面温度)が、より好ましい110℃以下の温度に保持されると、アルミニウム被膜の柔軟性が高まり、アルミニウム被膜の剥離がより安定になるため、剥離して得られるアルミニウム箔が好ましい柔軟性(可撓性)を有するものになる。
なお、例えば、めっき液の温度が、電解槽内の雰囲気ガス(陰極ドラムのめっき液に浸漬されていない部分の周囲に存在するガス)の温度よりも高い場合、上記の温度範囲に保持された状態にある陰極ドラムの電析領域の温度(表面温度)を周方向に見ると、陰極ドラムの回転により、めっき液に浸漬される一部の電析領域の温度は上昇し、めっき液に浸漬されない他部の電析領域の温度は下降する。そのため、陰極ドラムの電析領域は、ある程度の温度差をもって、昇温と降温とを繰り返すことになる。しかし、陰極ドラムの1回転目、2回転目、さらに3回転目以降についても、陰極ドラムの電析領域のいずれの部分も上記の温度範囲を逸脱することがなければ、製箔開始から製箔終了まで、上記の温度範囲に保持された状態にある陰極ドラムの電析領域の全部が熱的に平衡状態にあると考えられる。
上述した本発明のアルミニウム箔の製造方法を適用することによって作製される本発明のアルミニウム箔(電解アルミニウム箔)は、例えば、アルミニウムの含有比が98質量%以上で、厚みが1μm以上20μm以下のものであってよい。本発明のアルミニウム箔は、本発明のアルミニウム箔の製造方法を適用によって、焼けの発生が抑制され、かつ、ピンホールの発生が抑制されている。たとえ、陰極ドラムが回転し始めてから1回転乃至2回転する間(製箔初期)に作製されたアルミニウム箔に例えば20個/25cm2程度のピンホールが発生していたとしても、製箔初期を経てアルミニウムの電析および成長が安定する3回転目以降に作製される実質的な製品部分になるアルミニウム箔では、発生するピンホールが10個/25cm2以下、5個/25cm2以下、さらには2個/25cm2以下に抑制されているため、十分に実用可能である。
なお、本発明におけるピンホールは、ピンホールにおける貫通面積に基づいて換算された円相当径が、20μm以下のものを意図する。ピンホールにおける貫通面積とは、一般的な目視検査に用いられる蛍光灯の光がアルミニウム箔の一方面側から他方面側に透過する部分の面積を意図する。また、ピンホールの度合い(個数)は、アルミニウム箔の表面において任意に選んだ25cm2の面積を有する領域(一辺が5cmの正方形)内で、上記蛍光灯の光の通過によって確認されたピンホールの数をカウントし、その個数を上記領域の面積(25cm2)で序して取得することができる。
図1は、めっき液に進入する直前の、アルミニウム被膜が剥離された陰極ドラムの電析領域の陰極ドラム軸方向の全域を、めっき液Lによるめっき処理可能な温度に加温することができる加温手段を備えた電解アルミニウム箔製造装置の一例の内部構造を模式的に示す正面図である。図1に示す電解アルミニウム箔製造装置1は、蓋部1a、電解槽1b、陰極ドラム1c、陽極部材1d、ガイドロール1e、箔引出し口1f、ガス供給口1g、ヒータ電源1h、ヒータ1i、めっき液循環装置1j、天井部1k、撹拌流ガイド1m、撹拌羽根1n、図略の直流電源を備えている。陰極ドラム1cは、その外周にチタンから構成される電析領域を備えており、その電解領域の一部が電解槽1bに貯留されためっき液Lに浸漬するように配設されている。陽極部材1dは、アルミニウムから構成され、めっき液Lの液中において陰極ドラム1cの外周の電析領域に対向して配設されている(アルミニウムの純度は99.0%以上が望ましい)。陰極ドラム1cと陽極部材1dは、直流電源に接続されており、両者に通電しながら、陰極ドラム1cを一定速度で回転させることで、陰極ドラム1cのめっき液Lに浸漬した電析領域にアルミニウム被膜が形成される。
陰極ドラム1cをさらに回転させると、陰極ドラム1cの電析領域に形成されたアルミニウム被膜は、めっき液Lの液面からせり上がるとともに、陰極ドラム1cの新たにめっき液Lに浸漬した電析領域に新たなアルミニウム被膜が形成される。めっき液Lの液面からせり上がったアルミニウム被膜は、その端部がガイドロール1eに誘導されて陰極ドラム1cから剥離されることで、電解アルミニウム箔Fとして装置の側面に設けた箔引出し口1fから装置の外部に引き出される。この際、陰極ドラム1cの電析領域の表面に予めリード材が備え置かれていると、めっき液Lの液面から最初にせり上がったアルミニウム被膜がリード材の表面上に形成されるため、そのリード材の端部をガイドロール1eに誘導することにより、アルミニウム被膜を容易に剥離することができる。なお、アルミニウム被膜を剥離するためのリード材は、アルミニウム材質に限らない。例えば、陰極ドラム1cの電析領域に直接電析させることによって形成された銅被膜およびその銅被膜の端部が剥離されて繋がる銅箔から構成されるリード材などを用いることができる。
陰極ドラム1cの外周からガイドロール1eおよびその先の巻取機などまで誘導するために、上記のような銅被膜およびその銅被膜から繋がる銅箔をリード材として用いる場合、陰極ドラム1cの一部の電析領域から銅被膜が剥離され、チタンから構成される電析領域が露出することになる。こうして陰極ドラム1cの電析領域へのアルミニウム被膜の形成と当該被膜の陰極ドラム1cからの剥離を連続的に行い、装置の外部に引き出された電解アルミニウム箔Fは、箔の表面に付着しているめっき液Lを除去するためにすぐに水洗された後に乾燥され、例えば集電体(正極集電体)などの各種の用途に供される。
陰極ドラム1cと陽極部材1dとの間に電流を印加しているとき(通電中)、めっき液Lは、ヒータ電源1hに接続されたヒータ1iにより所定のめっき処理温度に加温されて保持される。また、めっき液Lは、撹拌羽根1nの回転により撹拌され、撹拌流ガイド1mによって、陰極ドラム1cと陽極部材1dとの間を通るように流れる。こうしためっき液Lの均質な流れを発生させることにより、アルミニウムイオンの供給が安定化するとともに、めっき液Lからの伝熱によって、陰極ドラム1cの電析領域の温度(表面温度)が保持され、電析領域に均質なアルミニウム被膜が形成されやすくなる。
また、電解アルミニウム箔製造装置1は、ガス供給口1gから特定のガスG(雰囲気ガス)を導入することにより、陰極ドラム1cの電析領域と陽極部材1dとの間に電流を印加する前に、陰極ドラム1cの電析領域を特定の雰囲気下に置くことができる。なお、ガスGは、例えば窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガスが望ましい。この際、予め加熱したガスGを導入する方法、あるいは、めっき液Lが貯留されている電解槽1bの壁面などにパネルヒータなどの加熱装置を設けるなどの手段を用いて導入されたガスGを加熱する方法などにより、陰極ドラム1cの回転によりめっき液Lに進入する電析領域の陰極ドラム軸方向の全域を加温することができる。
上述したように、製箔開始前に、めっき液Lを加温することによって、めっき液Lを所定の温度に保持することができるし、ガスGを加熱することによって、貯留層内のガスGを所定の温度に保持することができる。なお、上記のガスGの加熱の程度は、めっき液Lのめっき処理可能な温度に応じて、適宜設定すればよい。このような方法によって、所定の温度に保持されためっき液Lを用いて、さらには所定の温度に加熱されたガスGを用いて、製箔開始前に、陰極ドラム1cの回転によりめっき液Lに進入する電析領域の陰極ドラム軸方向の全域の温度(表面温度)を70℃以上140℃以下に容易に加温することができるし、さらに製箔初期から継続して、電析領域の温度(表面温度)を70℃以上140℃以下に容易に保温することができる。この際、陰極ドラム1cの電析領域に予めリード材を備えていると、例えば銅被膜およびその銅被膜から繋がる銅箔を備えていると、陰極ドラム1cの電析領域と接する銅被膜およびその銅被膜から繋がる胴箔の電析領域に近い部分や、その銅箔を得るための剥離によって露出している陰極ドラム1cの電析領域もまた、上記と同等の温度に保持することができる。
めっき液Lは、製箔開始前から、そして、電流が印加されて製箔が行われている間、70℃以上140℃以下の温度に保持し、陰極ドラムの電析領域にとって好適な温度(表面温度)と同等の温度(液温)にするのがよい。めっき液Lが、70℃未満あるいは140℃を超える温度に保持されていると、陰極ドラムの電析領域の温度(表面温度)が上記の温度範囲(70℃以上140℃以下)から逸脱しやすくなるし、アルミニウムの電析や成長が不安定になりやすいため、良質なアルミニウム被膜(アルミニウム箔)が形成されないおそれがある。また、めっき液Lの温度が70℃以上であると、めっき液からの伝熱や輻射熱により、陰極ドラム1cの軸部分などからの抜熱による電析領域の降温分を補償することができるため、陰極ドラム1cの電析領域の温度(表面温度)を70℃以上に保持することが容易になる。なお、陰極ドラム1cの電析領域の降温分の補償は、めっき液Lからの熱に限らず、上述したようなガスGからの熱の他、陰極ドラム1cの電析領域を直接照らす遠赤外線ランプなどを設けて熱源とする方法などによっても可能である。また、めっき液Lが、130℃以下の温度に保持されているとアルミニウム被膜(アルミニウム箔)の柔軟性(可撓性)が高まり、110℃以下の温度に保持されているとアルミニウム被膜(アルミニウム箔)の柔軟性(可撓性)がより高まる。このように、めっき液Lは、陰極ドラムの電析領域にとって好適な温度(表面温度)と同等の温度(液温)にするのがよい観点で、70℃以上、好ましくは75℃以上、より好ましくは80℃以上、かつ、140℃以下、好ましくは130℃以下、より好ましくは110℃以下の温度に保持するとよい。
めっき液Lは、めっき処理可能な所定の温度に保持されたジアルキルスルホン、アルミニウムハロゲン化物および含窒素化合物を含む電気アルミニウムめっき液である。めっき液Lにおいて、非水溶媒であるジアルキルスルホンは、ジメチルスルホンなどであってよい。めっき液Lにおいて、アルミニウム源(アルミニウムイオン源)であるアルミニウムハロゲン化物は、塩化アルミニウムなどのハロゲン化アルミニウムなどであってよい。めっき液Lにおいて、めっき処理の促進やめっき膜の安定化のための添加剤である含窒素化合物は、ハロゲン化アンモニウム、第一アミンのハロゲン化水素塩、第二アミンのハロゲン化水素塩、第三アミンのハロゲン化水素塩、一般式:R1R2R3R4N・X(R1〜R4は同一または異なってアルキル基、Xは第四アンモニウムカチオンに対するカウンターアニオンを示す)で表される第四アンモニウム塩などの含窒素化合物を少なくとも含むものが挙げられる。こうしためっき液Lは、60℃〜140℃の範囲内の温度であれば、めっき処理可能と考えられる。
陰極ドラム1cの電析領域を所定の温度に保持するに際して、陰極ドラム1cの電析領域の陰極ドラム軸方向の両端部は、陰極ドラム1cの回転軸や側面部分からの抜熱量が大きいと考えられる。したがって、陰極ドラム軸方向の両端部は、その中央部よりも冷却の程度が大きいと考えられるが、めっき液Lがめっき処理可能な温度に保持されていれば、陰極ドラム軸方向の両端部の温度がその中央部の温度よりも低くても構わない。しかし、より均質なアルミニウム箔を製造するためには、陰極ドラム軸方向の両端部の温度がその中央部の温度と同じであること、即ち、陰極ドラム1cの電析領域の陰極ドラム軸方向の全域が均一な温度に保持されることが望ましい。陰極ドラム1cの電析領域の陰極ドラム軸方向の全域を均一な温度に保持する方法としては、ガス供給口1gからの加熱されたガスGの導入量を、陰極ドラム軸方向の両端部がその中央部よりも多くする方法が挙げられる。陰極ドラム1cの回転軸や側面部分に断熱材を設置したり、陰極ドラム軸方向の寸法が短縮された陰極ドラム(例えば軸方向の寸法が1000mm以下のもの)を採用したりすることも効果的である。また、さらにより均質なアルミニウム箔を製造するためには、めっき液Lに進入する直前の、陰極ドラム1cの電析領域の陰極ドラム軸方向の全域の温度(表面温度)が、めっき液Lのめっき処理温度と同じ乃至略同じになるように保持されることが望ましい。
また、アルミニウム被膜が剥離した後、もしくは上記の銅被膜を伴うリード材を用いる場合はその銅被膜およびそれから繋がるアルミニウム被膜が剥離した後、露出した陰極ドラム1cの電析領域がめっき液Lに進入する際、電析領域の陰極ドラム軸方向の全域が、めっき液Lのめっき処理可能な温度に保持されている状態で進入することが望ましい。アルミニウム被膜(もしくはリード材を伴うアルミニウム被膜)の剥離によって露出した陰極ドラム1cの電析領域のうち、最も冷却されて温度が低下する箇所は、めっき液Lの液面から最も遠い箇所、すなわち、陰極ドラム1cにおいて鉛直方向の最上に位置する付近(頂部付近)である。従って、アルミニウム被膜(もしくはリード材を伴うアルミニウム被膜)の剥離によって露出した陰極ドラム1cの電析領域がめっき液Lに進入する際、電析領域の陰極ドラム軸方向の全域が、めっき液Lのめっき処理可能な温度に保持された状態で進入するようにするためには、陰極ドラム1cの電析領域の頂部付近を加温することが効果的である。
なお、陰極ドラム1cの露出した電析領域の陰極ドラム軸方向の全域が、めっき液Lのめっき処理可能な温度に加温された状態で進入するようにする方法は、空洞である陰極ドラム1cの内面にヒータ線などを貼付し、ドラム全体を内側から加温する方法や、装置上部の内壁にヒータ線などを貼付し、あるいは装置上部に加熱ランプなどを設置し、陰極ドラム1cの頂部付近を上方から加温する方法などであってもよい。こうした陰極ドラム1cの電析領域の頂部付近の加温によって、陰極ドラム1cの頂部付近に位置していた電析領域は、陰極ドラム1cの回転によってめっき液Lに近づくにつれて、めっき液Lからの輻射熱(あるいは伝熱)によりさらに加温され、好ましい温度範囲に保持された状態で、めっき液Lに進入することができる。
ガスGの雰囲気(例えば窒素ガス雰囲気)中に位置する陰極ドラム1cの電析領域が、めっき液Lのめっき処理可能な温度に保持されている状態で、めっき液Lに進入するようにするために、陰極ドラム1cの頂部付近を加温する程度は、陰極ドラム1cの材質や寸法(軸方向の寸法や周方向の寸法、ドラムの厚みなど)に加え、その表面にアルミニウム被膜を形成するためのめっき処理条件、例えば、印加する電流量(電流密度)や陰極ドラム1cの回転速度などに応じて適宜決定することができる。しかし、工業的規模で陰極ドラム1cの電析領域にアルミニウム被膜を形成することを想定した場合、具体的には、例えば、直径が300mm〜3000mmであって、熱伝導率が約17W/mKのチタンから構成される陰極ドラム1cを、0.02rpm〜0.3rpmの回転速度で回転させながら、50mA/cm2〜600mA/cm2の電流を印加することで、陰極ドラム1cの電析領域にアルミニウム被膜を形成することを想定した場合、陰極ドラム1cの頂部付近とめっき液Lとの間の温度差が40℃以内(より望ましくは30℃以内)になるように、陰極ドラム1cの頂部付近を加温することが望ましい。この場合、雰囲気を構成するガスGの温度を調整することによって、陰極ドラム1cの頂部付近の温度の低下分を補償することも可能である。
上述した図1に示すような陰極ドラムを用いる電解アルミニウム箔製造装置(製箔装置)により、アルミニウム箔(電解アルミニウム箔)を製造することができる。具体的には、めっき処理可能な温度に保持されたジアルキルスルホン、アルミニウムハロゲン化物および含窒素化合物を含む電気アルミニウムめっき液の中に、陰極ドラムの外周に備わる電析領域の一部および陽極部材を浸漬した状態で、電析領域と陽極部材との間に電流を印加しながら陰極ドラムを回転させることにより、電析領域にアルミニウムを電析させてアルミニウム被膜を形成し、電気アルミニウムめっき液の液面からせり上がったアルミニウム被膜を電析領域からリード材を用いて剥離することによる。
上記のアルミニウム箔の製造方法において、例えば、直径が330mmで軸方向の寸法が700mmのチタンから構成される外周を有し、その外周の表面に電析領域を備える陰極ドラムを用いることができる。電気アルミニウムめっき液は、例えば、ジメチルスルホン10molに対して、3.8molとなる無水塩化アルミニウムおよび0.1molとなる塩化アンモニウムを混合したものを用いることができる。めっき液は、製箔開始前に、所定の温度に保持することができる。陰極ドラムの電析領域は、その一部を所定の温度に保持しためっき液の中に浸漬することにより、加温することができる。また、陰極ドラムの電析領域は、例えば、電解槽に導入される窒素ガスなどの不活性ガスを予め加熱して導入する方法、あるいは、電解槽に導入された例えば室温程度の不活性ガスを電解槽の壁面にパネルヒータなどの加熱装置を配設して加熱する方法などにより、めっき液の中の浸漬部分を除く全域を加温することができるとともに、窒素ガス雰囲気などの不活性ガス雰囲気下に置くことができる。窒素ガスなどの不活性ガスは、必要に応じた温度に加熱可能であるが、陰極ドラムの電析領域の温度(表面温度)を補償することができるように、めっき液の温度との関係を考慮した上で、50℃以上、好ましくは60℃以上、より好ましくは80℃以上の温度に加熱するとよい。
めっき液の中に、陰極ドラムの電析領域の一部および陽極部材を浸漬した状態で、電析領域と陽極部材との間に所定の電流密度になるように電流を印加し、これと同期するように陰極ドラムを所定の回転速度で回転させることにより、アルミニウム箔の製造(製箔)を開始することができる。電流を印加することにより製箔が開始された後、陰極ドラムの電析領域にアルミニウムが電析し、成長することにより、所定の厚み(例えば約15μm)のアルミニウム被膜が形成される。なお、陰極ドラムの回転数と電流密度の組合せは、めっき液の温度や陰極ドラムの電析領域の温度などの条件を考慮し、所定の厚み(例えば約15μm)に形成されたアルミニウム被膜がめっき液の液面からせり上がるように設定することができる。めっき液の液面からせり上がるアルミニウム被膜を陰極ドラムの電析領域から連続的に剥離することにより、例えば、アルミニウムの含有比が98質量%以上で、厚みが1μm以上20μm以下(例えば約15μm)の厚みのアルミニウム箔を連続的に製造することができる。
上記の製箔過程において、例えば、製箔開始前(陰極ドラムは回転されず静止)から陰極ドラムが0.5周(半回転)回転する毎に、めっき液の温度と、陰極ドラムの電析領域の上方および下方の温度(表面温度)を測定することができる。なお、陰極ドラムの電析領域の上方とは、測定時点において、ガスGの雰囲気(例えば窒素ガス雰囲気)中に位置する陰極ドラムにおいて鉛直方向の最上に位置する頂部付近を意味する。陰極ドラムの電析領域の下方とは、測定時点において、液層中、つまり、めっき液の中(浸漬)に位置する陰極ドラムにおいて鉛直方向の最下に位置する付近(底部付近)を意味する。
以下、従来技術を比較形態として示し、次いで、本発明のアルミニウム箔の製造方法およびそれを用いて作製することができる本発明のアルミニウム箔(電解アルミニウム箔)についての実施形態を示す。
(比較形態1)
上述した本発明のアルミニウム箔の製造方法において、直径が330mmの外周に電析領域を備える陰極ドラムを用いて、アルミニウム箔の厚み(狙い)を約15μmとし、製箔開始後の製箔初期(陰極ドラムの回転開始から2回転目まで)および製箔中(陰極ドラムの3回転目以降)の陰極ドラムの回転数および電流密度を、それぞれ、表1に示すように設定し、製箔開始直前(陰極ドラムは回転されず静止)までに、電解槽内へ室温程度の窒素ガスを導入して窒素ガス雰囲気とし、めっき液の温度を約100℃に保持し、陰極ドラムの電析領域の上方の温度(表面温度)を69℃に保持する(従来技術では70℃以上に保持されず)ことにより、アルミニウム箔を製造した。なお、陰極ドラムの電析領域の表面温度は、アズワン製モールド型表面センサ(型番:MF−O−K)などを陰極ドラムの電析領域の表面上もしくは電析領域近傍の表面上に貼り付ける方法などにより測定することができる。
上述した本発明のアルミニウム箔の製造方法において、直径が330mmの外周に電析領域を備える陰極ドラムを用いて、アルミニウム箔の厚み(狙い)を約15μmとし、製箔開始後の製箔初期(陰極ドラムの回転開始から2回転目まで)および製箔中(陰極ドラムの3回転目以降)の陰極ドラムの回転数および電流密度を、それぞれ、表1に示すように設定し、製箔開始直前(陰極ドラムは回転されず静止)までに、電解槽内へ室温程度の窒素ガスを導入して窒素ガス雰囲気とし、めっき液の温度を約100℃に保持し、陰極ドラムの電析領域の上方の温度(表面温度)を69℃に保持する(従来技術では70℃以上に保持されず)ことにより、アルミニウム箔を製造した。なお、陰極ドラムの電析領域の表面温度は、アズワン製モールド型表面センサ(型番:MF−O−K)などを陰極ドラムの電析領域の表面上もしくは電析領域近傍の表面上に貼り付ける方法などにより測定することができる。
表1に示すように、製箔開始直後に陰極ドラムが回転し始めてからアルミニウムが電析し、成長し、そして、約15μmの厚みに形成されるアルミニウム被膜を剥離することによって得られる、陰極ドラムの1回転目に対応する長さが約1000mmのアルミニウム箔は、焼け(図4参照)および108個/25cm2のピンホール(図2、図3参照)が認められるため、品位が不良となり、良質なアルミニウム箔を形成することができない。また、1回転目に続いて得られる、陰極ドラムの2回転目に対応するアルミニウム箔にも45個/25cm2のピンホールが認められる(焼けは認められない)ため、品位が不良となり、良質なアルミニウム箔を形成することができない。さらに、2回転目に続いて得られる、陰極ドラムの3回転目に対応するアルミニウム箔(実質的な製品部分)にも、38個/25cm2のピンホールが認められる(焼けは認められない)ため、品位が不良となり、良質なアルミニウム箔を形成することができない。なお、アルミニウム箔に発生するピンホールの度合い(個/25cm2)は、陰極ドラムの周回数が1回転目、2回転目、さらに3回転目と増えるにつれて低減させることができる。
なお、表1において、「上部」として示す温度は、陰極ドラムの電析領域もしくは電析領域近傍に配設されている温度測定用センサが、窒素ガス雰囲気中にあって、陰極ドラムの頂部付近に位置するときに取得することができる値(温度)である。「下部」として示す温度は、上記温度測定用センサが、めっき液中にあって、陰極ドラムの底部付近に位置するときに取得することができる値(温度)である。「製箔初期」とは、電流の印加によってアルミニウム箔の製造が開始され(製箔開始)、陰極ドラムが回転し始めてから2回転する間をいう。また、アルミニウム箔として、例えば集電体用途に好適なアルミニウム箔として、特に問題なく実用可能な部分を製品部分という。これらは、後述する実施形態についても同様である。比較形態1では、表1に示すように、陰極ドラムの3回転目に対応するアルミニウム箔の品位が不良であったため、製品部分になるはずの3回転目に対応するアルミニウム箔が不良品となった。
(実施形態1)
上述した本発明のアルミニウム箔の製造方法に従って、直径が330mmの外周に電析領域を備える陰極ドラムを用いて、アルミニウム箔の厚み(狙い)を約15μmとし、製箔開始後の製箔初期(陰極ドラムの回転開始から2回転目まで)および製箔中(陰極ドラムの3回転目以降)の陰極ドラムの回転数および電流密度を、それぞれ、表2に示すように設定し、製箔開始直前(陰極ドラムは回転されず静止)までに、電解槽内へ室温程度の窒素ガスを導入して窒素ガス雰囲気とし、めっき液の温度を約100℃に保持し、陰極ドラムの電析領域の上方の温度(表面温度)を73℃に保持することにより、アルミニウム箔を製造した。このとき、電解槽内の窒素ガスを、電解槽の壁面にパネルヒータを配設するなどの方法によって、比較形態1の場合よりも高温の窒素ガス雰囲気に保持することができる。なお、陰極ドラムの電析領域の表面温度は、比較形態1の場合と同様に、測定することができる。
上述した本発明のアルミニウム箔の製造方法に従って、直径が330mmの外周に電析領域を備える陰極ドラムを用いて、アルミニウム箔の厚み(狙い)を約15μmとし、製箔開始後の製箔初期(陰極ドラムの回転開始から2回転目まで)および製箔中(陰極ドラムの3回転目以降)の陰極ドラムの回転数および電流密度を、それぞれ、表2に示すように設定し、製箔開始直前(陰極ドラムは回転されず静止)までに、電解槽内へ室温程度の窒素ガスを導入して窒素ガス雰囲気とし、めっき液の温度を約100℃に保持し、陰極ドラムの電析領域の上方の温度(表面温度)を73℃に保持することにより、アルミニウム箔を製造した。このとき、電解槽内の窒素ガスを、電解槽の壁面にパネルヒータを配設するなどの方法によって、比較形態1の場合よりも高温の窒素ガス雰囲気に保持することができる。なお、陰極ドラムの電析領域の表面温度は、比較形態1の場合と同様に、測定することができる。
表2に示すように、製箔開始直後に陰極ドラムが回転し始めてからアルミニウムが電析し、成長し、そして、約15μmの厚みに形成されるアルミニウム被膜を剥離することによって得られる、陰極ドラムの1回転目に対応する長さが約1000mmのアルミニウム箔は、18個/25cm2のピンホールが認められる(焼けは認められない)ため品位が不良となり、良質なアルミニウム箔を形成することができない。また、1回転目に続いて得られる、陰極ドラムの2回転目に対応するアルミニウム箔にも、2個/25cm2のピンホールが認められる(焼けは認められない)。しかし、このようなアルミニウム箔は、ピンホールの度合いが小さく(10個/25cm2以下)、製品部分として、例えば集電体用途に好適な製品部分として、特に問題なく使用可能であると考えられるため、品位は良とすることができる。さらに、2回転目に続いて得られる、陰極ドラムの3回転目に対応するアルミニウム箔には、ピンホールおよび焼けが認められないため、品位が良となり、良質なアルミニウム箔を形成することができる。したがって、製箔開始直前の陰極ドラムの電析領域の温度(表面温度)を73℃に保持することにより、製箔中(陰極ドラムの3回転目以降)の実質的に製品部分を、良質なアルミニウム箔に形成することができる。なお、アルミニウム箔に発生するピンホールの度合い(個/25cm2)は、発生の程度は異なるものの比較形態1と同様に、陰極ドラムの周回数が1回転目、2回転目、さらに3回転目と増えるにつれて低減するようになる。
表1に示す比較形態1および表2に示す実施形態1の結果から、陰極ドラムの1回転目に対応するアルミニウム箔にピンホールが発生すると、そのピンホールの発生箇所に対応する陰極ドラムの電析領域は、アルミニウムが電析しにくい表面性状に変化していると考えられる。アルミニウムが電析しにくくなる原因は、現時点で不明であるが、例えば電析領域を構成するチタンとめっき液に含まれる物質との反応などが考えられる。こうしたアルミニウムが電析しにくい状態にある電析領域では、陰極ドラムの2回転目にアルミニム箔にピンホールが発生しにくい条件に替える(例えば表1に示すように電流密度を60mA/cm2から80mA/cm2に大きくする)操作を行ったとしても直ちに改善されるとは限らず、徐々に改善されてピンホールが発生しにくくなると考えられる。
(実施形態2)
上記の本発明のアルミニウム箔の製造方法に従って、実施形態1と同様に、直径が330mmの外周に電析領域を備える陰極ドラムを用いて、アルミニウム箔の厚み(狙い)を約15μmとし、各種の条件を、それぞれ、表3に示すように設定し、製箔開始直前(陰極ドラムは回転されず静止)までに、電解槽内へ加熱後の窒素ガスを導入して窒素ガス雰囲気とし、めっき液の温度を約100℃に保持し、陰極ドラムの電析領域の上方の温度(表面温度)を80℃に保持することにより、アルミニウム箔を製造した。このとき、電解槽内に予め加熱された窒素ガスを導入することによって、比較形態1の場合よりも高温の窒素ガス雰囲気に保持することができる。なお、陰極ドラムの電析領域の表面温度は、比較形態1の場合と同様に、測定することができる。
上記の本発明のアルミニウム箔の製造方法に従って、実施形態1と同様に、直径が330mmの外周に電析領域を備える陰極ドラムを用いて、アルミニウム箔の厚み(狙い)を約15μmとし、各種の条件を、それぞれ、表3に示すように設定し、製箔開始直前(陰極ドラムは回転されず静止)までに、電解槽内へ加熱後の窒素ガスを導入して窒素ガス雰囲気とし、めっき液の温度を約100℃に保持し、陰極ドラムの電析領域の上方の温度(表面温度)を80℃に保持することにより、アルミニウム箔を製造した。このとき、電解槽内に予め加熱された窒素ガスを導入することによって、比較形態1の場合よりも高温の窒素ガス雰囲気に保持することができる。なお、陰極ドラムの電析領域の表面温度は、比較形態1の場合と同様に、測定することができる。
表3に示すように、製箔開始直後に陰極ドラムが回転し始めてからアルミニウムが電析し、成長し、そして、約15μmの厚みに形成されるアルミニウム被膜を剥離することによって得られる、陰極ドラムの1回転目に対応する長さが約1000mmのアルミニウム箔は、焼けおよびピンホールが認められないため、品位が良となり、良質なアルミニウム箔を形成することができる。また、1回転目に続いて得られる、陰極ドラムの2回転目に対応するアルミニウム箔にも、焼けおよびピンホールが認められないため、品位が良となり、良質なアルミニウム箔を形成することができる。さらに、2回転目に続いて得られる、陰極ドラムの3回転目に対応するアルミニウム箔にも、焼けおよびピンホールが認められないため、品位が良となり、良質なアルミニウム箔を形成することができる。したがって、製箔開始直前の陰極ドラムの電析領域の温度(表面温度)を80℃に保持することにより、製箔初期(陰極ドラムの2回転目まで)から継続して、良質なアルミニウム箔に形成することができる。
(実施形態3)
上記の本発明のアルミニウム箔の製造方法に従って、実施形態1と同様に、直径が330mmの外周に電析領域を備える陰極ドラムを用いて、アルミニウム箔の厚み(狙い)を約15μmとし、各種の条件を、それぞれ、表4に示すように設定し、製箔開始直前(陰極ドラムは回転されず静止)までに、電解槽内へ室温程度の窒素ガスを導入して窒素ガス雰囲気とし、めっき液の温度を約100℃に保持し、陰極ドラムの電析領域の上方の温度(表面温度)を80℃に保持することにより、アルミニウム箔を製造した。このとき、めっき液の温度を実施形態1よりも高温に保持することにより、製箔開始直前の陰極ドラムの電析領域の温度(表面温度)を高めることができる。また、電解槽内の窒素ガスを、電解槽の壁面にパネルヒータを配設するなどの方法によって、比較形態1の場合よりも高温の窒素ガス雰囲気に保持することができる。なお、陰極ドラムの電析領域の表面温度は、比較形態1の場合と同様に、測定することができる。
上記の本発明のアルミニウム箔の製造方法に従って、実施形態1と同様に、直径が330mmの外周に電析領域を備える陰極ドラムを用いて、アルミニウム箔の厚み(狙い)を約15μmとし、各種の条件を、それぞれ、表4に示すように設定し、製箔開始直前(陰極ドラムは回転されず静止)までに、電解槽内へ室温程度の窒素ガスを導入して窒素ガス雰囲気とし、めっき液の温度を約100℃に保持し、陰極ドラムの電析領域の上方の温度(表面温度)を80℃に保持することにより、アルミニウム箔を製造した。このとき、めっき液の温度を実施形態1よりも高温に保持することにより、製箔開始直前の陰極ドラムの電析領域の温度(表面温度)を高めることができる。また、電解槽内の窒素ガスを、電解槽の壁面にパネルヒータを配設するなどの方法によって、比較形態1の場合よりも高温の窒素ガス雰囲気に保持することができる。なお、陰極ドラムの電析領域の表面温度は、比較形態1の場合と同様に、測定することができる。
表4に示すように、製箔開始直後に陰極ドラムが回転し始めてからアルミニウムが電析し、成長し、そして、約15μmの厚みに形成されるアルミニウム被膜を剥離することによって得られる、陰極ドラムの1回転目に対応する長さが約1000mmのアルミニウム箔は、焼けおよびピンホールが認められないため、品位が良となり、良質なアルミニウム箔を形成することができる。また、1回転目に続いて得られる、陰極ドラムの2回転目に対応するアルミニウム箔にも、焼けおよびピンホールが認められないため、品位が良となり、良質なアルミニウム箔を形成することができる。さらに、2回転目に続いて得られる、陰極ドラムの3回転目に対応するアルミニウム箔にも、焼けおよびピンホールが認められないため、品位が良となり、良質なアルミニウム箔を形成することができる。したがって、製箔開始直前の陰極ドラムの電析領域の温度(表面温度)を90℃に保持することにより、製箔初期(陰極ドラムの2回転目まで)から継続して、良質なアルミニウム箔に形成することができる。
本発明は、製箔初期の焼けおよびピンホールの発生が抑制されることによって、高品位のアルミニウム箔を高効率で製造することが可能になる、アルミニウム箔の製造方法およびその製造方法を用いたアルミニウム箔を提供することができる点において、産業上の利用可能性を有する。
1 電解アルミニウム箔製造装置
1a 蓋部
1b 電解槽
1c 陰極ドラム
1d 陽極部材
1e ガイドロール
1f 箔引出し口
1g ガス供給口
1h ヒータ電源
1i ヒータ
1j めっき液循環装置
1k 天井部
1m 撹拌流ガイド
1n 撹拌羽根
F 電解アルミニウム箔
G ガス
L めっき液
1a 蓋部
1b 電解槽
1c 陰極ドラム
1d 陽極部材
1e ガイドロール
1f 箔引出し口
1g ガス供給口
1h ヒータ電源
1i ヒータ
1j めっき液循環装置
1k 天井部
1m 撹拌流ガイド
1n 撹拌羽根
F 電解アルミニウム箔
G ガス
L めっき液
Claims (3)
- めっき処理可能な温度に加温されたジアルキルスルホン、アルミニウムハロゲン化物および含窒素化合物を含む電気アルミニウムめっき液の中に、陰極ドラムの外周に備わる電析領域の一部および陽極部材を浸漬した状態で、前記電析領域と前記陽極部材との間に電流を印加しながら前記陰極ドラムを回転させることにより、前記電析領域にアルミニウムを電析させてアルミニウム被膜を形成し、前記電気アルミニウムめっき液の液面からせり上がったアルミニウム被膜を前記電析領域からリード材を用いて剥離することによる、アルミニウム箔の製造方法であって、
前記電析領域を70℃以上140℃以下の温度に保持した後に、電流密度が80mA/cm2以上となるように、前記電析領域と前記陽極部材との間に電流を印加する、アルミニウム箔の製造方法。 - 前記電析領域と前記陽極部材との間に電流を印加する間、前記電気アルミニウムめっき液を、70℃以上140℃以下の温度に保持する、請求項1に記載のアルミニウム箔の製造方法。
- 厚み方向に貫通するピンホールが、10個/25cm2以下である、アルミニウム箔。
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