JP2019167462A - エポキシ樹脂組成物、プリプレグ、およびその硬化物 - Google Patents

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Abstract

【課題】シアナミドを含有するエポキシ樹脂組成物において、冷蔵または冷凍条件においても硬化特性に影響を与えるような結晶を析出することなく、安定的に貯蔵するための技術を提供する。【解決手段】エポキシ樹脂(A)、シアナミド(B)及び体積平均粒子径が2μm以下であって、シアナミドの結晶化を防止又は抑制する防止剤粒子(C)を必須成分とするエポキシ樹脂組成物であって、防止剤粒子(C)がエポキシ樹脂に溶解せず、樹脂組成物全体に対して1〜50重量%の範囲で含有されていることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。【選択図】なし

Description

本発明は、エポキシ樹脂組成物に関し、詳しくはエポキシ樹脂に特定の硬化剤等の成分を配合して得られるエポキシ樹脂組成物、これをガラス、炭素、アラミドなどの繊維、クロス、あるいは不織布に含浸してなるプリプレグ、およびこれらの硬化物に関する。
エポキシ樹脂は、一分子中に平均して約2個以上エポキシ基を有する化合物を指す。エポキシ樹脂はそれ単体で材料としての機能を発現せず、エポキシ樹脂、硬化剤を必須成分としてなるエポキシ樹脂組成物を硬化して得られるエポキシ樹脂硬化物が材料としての機能を有する。そのため、エポキシ樹脂は一般的には熱硬化性樹脂に分類される樹脂である。
エポキシ樹脂を硬化する際に選択される硬化剤や硬化促進剤は、非特許文献1に代表される多くの文献にまとめられている。エポキシ樹脂硬化物を使用する環境に合わせてエポキシ樹脂組成物の設計がなされる。すなわち、エポキシ樹脂や硬化剤、硬化促進剤や添加剤が選択される。具体的には反応性に優れる硬化剤を選定した場合、室温硬化性を有する樹脂組成物を得ることができ、一方で反応性に乏しい硬化剤を選定した場合には、あらかじめ工場にて混合することにより使用時の計量や混合を必要としない潜在硬化性に優れる樹脂組成物を得ることができる。
しかしながら、反応性に優れる硬化剤を選択した場合は混合後速やかに使用する必要があるため歩留まりが悪くなりやすく、潜在性に優れる樹脂組成物は硬化に際して高温で長時間を要するため、生産性に課題がある。すなわち、この問題は重要なトレードオフの関係にあり、高度に両立することが望まれている。
このトレードオフを解決するための代表的な手段として、ジシアンジアミドを用いたエポキシ樹脂組成物が広く知られている。ジシアンジアミドは熱分解温度が200℃以上である結晶性の化合物であり、エポキシ樹脂と混合しても溶解することなく、粒子として存在している。エポキシ樹脂中のエポキシ基と反応しうるジシアンジアミドの活性基は、ジシアンジアミドの結晶中に閉じ込められていることから、これらはジシアンジアミド表面以外において反応することはなく、高い潜在硬化性を発現する。また、硬化促進剤の設計によるところが大きいが、120℃以上に加熱するとジシアンジアミドは急速に溶解し、ただちにエポキシ樹脂との反応を開始するため、高い潜在硬化性を有する材料でありながら硬化性にも優れる材料として知られている。
しかしながら、ジシアンジアミドを含有する樹脂組成物を繊維強化複合材料に用いる場合、粉末成分であるジシアンジアミドが強化繊維によって濾しとられてしまい、ジシアンジアミド粒子の分布に不均衡が生じる可能性があることや、溶解したのちに十分に拡散する時間を与えなければ、エポキシ樹脂とジシアンジアミドの当量比が一定にならず、均質な硬化物が得られないことが問題点としてある。特に、繊維径が細く、樹脂含有率が低い場合にこの問題点が顕著に現れる。
シアナミドは融点が45℃前後の結晶性化合物であるが、エポキシ樹脂と混和することが可能であるため、強化繊維があっても当量比は一定で、硬化促進剤存在下において均質な硬化物を得ることができる。しかしながら、常温で保管した場合、エポキシ樹脂組成物中で徐々に反応して粘度が増加するといった問題や、シアナミドが再結晶化する問題がある。これらの問題に関して特許文献1から特許文献3において、特定の構造を有するウレア化合物と有機酸または無機酸を溶融添加することにより、シアナミドの結晶性を低減し、室温付近での貯蔵安定性を改善することができると開示されている。これらの技術によれば、最大で室温2週間程度の貯蔵が可能になり、しかも硬化物の物性に著しい変化を与えないため、RTM工法に好適なエポキシ樹脂組成物を提供することが可能となる。しかしながら、ウレアを配合する場合、硬化促進剤としても機能するため、エポキシ樹脂と混合した後の長期にわたる貯蔵には依然として問題がある。
本発明者らはシアナミドを用いたエポキシ樹脂組成物を、長い貯蔵期間を要求されるプリプレグ用途へ適用することを検討したが、冷蔵保管または冷凍保管をした際に、シアナミドの結晶が析出する問題があること、また、この析出した結晶を再溶解させるためシアナミドが溶解する40℃〜50℃にエポキシ樹脂中で加温すると、シアナミドが反応して樹脂組成物の粘度が上昇するため、使用する直前に加熱して溶解する方法は好ましくないことを確認した。
特表2014−506622号公報 特表2014−506621号公報 特表2015−524865号公報
総説エポキシ樹脂 エポキシ樹脂技術協会発行(2003年11月)
本発明は、シアナミドを含有するエポキシ樹脂組成物において、冷蔵または冷凍条件においても硬化特性に影響を与えるような結晶を析出することなく、安定的に貯蔵でき、トレードオフの関係にある使用条件の自由度と高い生産性とを両立し得る繊維強化プラスチックのプリプレグ用として優れるエポキシ樹脂組成物を提供する。
上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、2μm以下、好ましくは1μm以下の粒子を、添加することにより、シアナミドの結晶成長を抑制できることを見いだした。
すなわち、本発明は、エポキシ樹脂(A)、シアナミド(B)及び体積平均粒子径が2μm以下の防止剤粒子(C)を必須成分とするエポキシ樹脂組成物であって、防止剤粒子(C)がエポキシ樹脂に溶解せず、樹脂組成物全体に対して1〜50重量%の範囲で含有されていることを特徴とするエポキシ樹脂組成物である。
上記防止剤粒子(C)としては、ゴム粒子またはシリカ粒子が挙げられる。
上記エポキシ樹脂組成物には、上記必須成分の他に、硬化促進剤(D)又は安定剤(E)を含むことができる。ここで、安定剤(E)は酸性物質またはそのエステル化合物から選ばれる。
エポキシ樹脂(A)、シアナミド(B)及び防止剤粒子(C)の合計に対する硬化促進剤(D)の含有割合は0.05〜5重量%であることがよく、安定剤(E)の含有割合は0.005〜0.5重量%であることがよい。
また、本発明は、上記エポキシ樹脂組成物に強化繊維を配合してなることを特徴とするプリプレグ、又は上記エポキシ樹脂組成物を強化繊維に含浸してなることを特徴とするプリプレグである。ここで、強化繊維としては、炭素繊維が挙げられる。
更に、本発明は上記プリプレグを硬化して得られる繊維強化プラスチックである。
本発明のエポキシ樹脂組成物は硬化反応性に優れると同時に、貯蔵安定性を有し、低温での保管時においても結晶の析出を抑制できる。このエポキシ樹脂組成物は、プリプレグおよび繊維強化プラスチックの生産性を向上させることができる。
硬化反応性評価の示差熱分析グラフである。
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)、シアナミド(B)、および防止剤粒子(C)を必須成分とする。以下、エポキシ樹脂(A)、シアナミド(B)、1μm以下の粒子(C)を、それぞれ(A)成分、(B)成分及び(C)成分ともいう。
本発明にて使用されるエポキシ樹脂(A)には特に制約がなく、一種類のものを用いてもよいし、二種以上のエポキシ樹脂を混合してもよい。また、エポキシ樹脂を公知の手法により変性した変性エポキシ樹脂を用いてもよい。繊維強化プラスチックの前駆体にあたるプリプレグとして使用するためには、液状であることが好ましいが、構成成分のひとつとして固形のエポキシ樹脂を含有することが否定されるものではない。
エポキシ樹脂としては、1分子中に2つのエポキシ基を有するビスフェノールA型エポキシ樹脂(新日鉄住金化学株式会社製YD−128、YD−8125など)、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(新日鉄住金化学株式会社製YDF−170、YDF−8170など)、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂、イソホロンビスフェノール型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂や、これらビスフェノール型エポキシ樹脂のハロゲン、アルキル置換体、水素化物、複数の繰り返し単位を有する高分子量体、アルキレンオキサイド付加物のグリシジルエーテルや、フェノールノボラック型エポキシ樹脂(新日鉄住金化学株式会社製YDPN−638など)、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(新日鉄住金化学株式会社製YDCN−700−3など)、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂や、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレ−ト、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、1−エポキシエチル−3,4−エポキシシクロヘキサン等の脂環式エポキシ樹脂や、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ポリオキシアルキレンジグリシジルエーテル等の脂肪族エポキシ樹脂や、フタル酸ジグリシジルエステルや、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステルや、ダイマー酸グリシジルエステル等のグリシジルエステルや、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジルジアミノジフェニルスルホン、トリグリシジルアミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾール、テトラグリシジルキシリレンジアミン等のグリシジルアミン類等を用いることができる。また、公知の手法により変性した変性エポキシ樹脂として、リン変性エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、CTBN変性エポキシ樹脂などが挙げられる。
これらのエポキシ樹脂中、粘度増加率の観点から1分子中に2つのエポキシ基を有するエポキシ樹脂が好ましく、それよりエポキシ基が多い多官能のエポキシ樹脂は好ましくない。その中でビスフェノールAまたはF型エポキシ樹脂が最も好ましい。これらは1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
エポキシ樹脂(A)は、25℃におけるE型粘度計(コーンプレートタイプ)を使用して測定した粘度が1〜300Pa・sの範囲が好ましく、さらに好ましくは5〜250Pa・s、より好ましくは7〜200Pa・sである。これにより良好な強化繊維への含浸性を有し、含浸後にも繊維から樹脂の液垂れが起きにくいものとなる。また、エポキシ樹脂(A)は数種類の混合物でも良く、その混合物の粘度が上記範囲であることが好ましい。
シアナミド(B)は硬化剤として使用される。シアナミドの特性、特に潜在性を損なわない範囲でそれ以外の硬化剤を併用することができる。シアナミドは融点が45℃程度の結晶性化合物であり、エポキシ樹脂と混和する場合はいったん融点以上に加熱する必要がある。また、シアナミドは不安定な化合物であり、融点以上の温度ではジシアンジアミドを徐々に生成することが知られている。この反応は発熱反応であるため、環境によっては暴走し、爆発に至るおそれもある。したがって、シアナミドは管理された環境で加熱溶解し、使用されなければならない。このためには、シアナミドをエポキシ樹脂であらかじめ希釈しておくことは安全上きわめて有用であり、シアナミドのマスターバッチとして使用することができる。シアナミドの使用量は、エポキシ樹脂(A)のエポキシ基1当量に対して0.2当量から1.2当量の活性水素となるように配合することが好ましく、より好ましくは0.3〜0.8当量である。0.2当量未満では、硬化剤が不足するために十分な硬化度が得られない場合があり、硬化物の架橋密度が低下し、破壊靱性が低くなりやすくなる傾向がある。1.2当量を超えると保冷時にシアナミドを十分に溶解することができず、全体が固化して液状とならない場合がある他、未反応のシアナミドが残るため、機械物性が悪くなる傾向にある。しかし、シアナミドをエポキシ樹脂で希釈したマスターバッチとして使用する場合に関してはこの限りではない。また、活性水素が0.2当量未満であってもシアナミド以外の硬化剤を配合することによりこれを補うことはできる。シアナミド含有量が組成物全体に対して10重量%以下であれば、反応に伴う発熱が希釈されるため、安全上より好ましいと言える。
次に、防止剤粒子(C)について説明する。防止剤粒子は、シアナミドの結晶成長を防止又は抑制するものである。防止剤粒子は、粒径2μm以下の粒子であるほか、エポキシ樹脂組成物とした時も溶解せず、粒子の形状を維持している必要がある。粒径は、好ましくは1μm以下である。下限は制限されないが10nm以上が好ましい。好ましくは10nm以上1μm以下、特に好ましくは20nm以上800nm以下であり、20nm以上500nm以下が最も好ましい。2μmを越えると、防止剤粒子自体が成形性に影響を及ぼす場合があり好ましくない。また10nm未満であると組成物自体の粘度が上昇する恐れがある。
粒径は体積平均粒子径が用いられる。体積平均粒子径は例えばナノトラック粒度分布測定装置(日機装(株)製)を用いて測定することができる。また、一次粒子と二次粒子がある場合の粒径は、一次粒子の粒径である。
上記防止剤粒子は上記粒径、形状維持性の要件を満足する限り有機粒子、無機粒子のいずれであってもよい。有機粒子としてはゴム成分が好ましく使用され、例えばコアシェル型のゴム、架橋アクリルゴム、架橋NBR、架橋MBS及び架橋SBRから選ばれる少なくとも1つの重合体を含むことが好ましい。具体例として、JSR株式会社製のXER−91−MEKが挙げられる。これは、平均一次粒子径0.07μmのカルボキシル基を有する架橋ゴム(NBR)である。その他、JSR株式会社製のXER−32、XER−92、XSK−500等が挙げられ、非架橋スチレン・アクリル樹脂微粒子の具体例として、日本ペイント・インダストリアルコーティングス株式会社製のFS−201(平均一次粒子径0.5μm)が挙げられる。架橋スチレン・アクリル樹脂微粒子の具体例として、日本ペイント・インダストリアルコーティングス株式会社製の、MG−351(平均一次粒子径1.0μm)、及び品番BGK−001(平均一次粒子径1.0μm)が挙げられる。また、総研化学社製の真球状ポリスチレンラテックス粒子「DYNOSPHERES」、日本触媒社製架橋ポリメタクリル酸メチル粒子「エポスターMX」、積水化成品社製アクリル系のサブミクロン微粒子「テクポリマー」などあり、多くの会社から販売されており、これらを用いることができる。
また、無機粒子の具体例としては、触媒化成工業社製シリカ粒子「スフェリカスラリー」や日本触媒社製シリカ粒子「シーホスター」などを挙げることができ、これらを用いることができる。
有機粒子としてはコアシェルゴムが好適であり、無機粒子としてはヒュームドシリカなどが挙げられる。いずれも粉末のものが販売されているが、粒径が小さく飛散しやすいために、マスターバッチ化されているものが取り扱いやすい。たとえば、有機粒子としてはコアシェルゴム(たとえばカネカ社製)などが挙げられ、無機粒子としてはヒュームドシリカ(たとえば日本アエロジル社製AerosilRY200、キャボット社製Cab−O−Sil ULTRABONDなど)などが挙げられる。
防止剤粒子の含有量は、エポキシ樹脂組成物中に1重量%以上、50重量%以下であり、好ましくは2〜35重量%である。1重量%未満であると結晶成長を十分に抑制できない恐れがあり、50重量%を超える場合にはハンドリング性が著しく低下する。なお、防止剤粒子としてがエポキシ樹脂(A)で希釈されたマスターバッチを用いることもでき、この場合には、それに含まれる防止剤粒子の重量で計算される。
なお、ウレアやイミダゾールは、粒子径が2μm以下となる場合があるが、これらはシアナミドの結晶成長を防止又は抑制する効果がなく、むしろエポキシ樹脂組成物の貯蔵安定性を悪化させるため、防止剤粒子には含まれない。
本発明のエポキシ樹脂組成物は、上記必須成分に加えて硬化促進剤(D)、安定剤(E)等の他の成分を含むこともできる。
硬化促進剤(D)を含む場合、例えば本発明のエポキシ樹脂組成物をプリプレグやトウプリプレグとして応用する場合、含浸は厚み方向であるため、樹脂組成物の移動距離が1mmを超えることは多くないので、硬化促進剤が粉末であり、分布に多少の偏りがあったとしても、硬化反応の均質性は十分に担保される。したがって、硬化促進剤について特に制限されるものではないが、ウレア化合物またはイミダゾール化合物が好ましい。また、潜在性を担保するために、結晶性またはゲル状の硬化促進剤であることが好ましい。さらに、繊維の空隙に進入しやすくするために、その粒径は5um以下であることが好ましい。硬化反応性の観点から、さらに好ましくは結晶性イミダゾール化合物またはその塩である。具体的には、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニルー4−メチルイミダゾール、アジン変性物(四国化成工業株式会社製2MZA,2E4MZ−A,C11Z−1など)、シアヌル酸付加物(四国化成工業株式会社製2MA−OK、2PZ−OKなど)、その他結晶性イミダゾール(四国化成工業株式会社製2PHZ−PW,2P4MHZ−PWなど)などである。ここで挙げられたものを単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよく、また、ここで具体的に挙げられたものに限られるものではない。
硬化促進剤(D)の含有量は、上記必須成分の合計(A+B+C)に対し、0.05〜5重量%であることがよく、好ましくは0.1〜5重量%、より好ましくは0.1〜3重量%である。
別の観点からは、硬化促進剤の添加量としては、エポキシ樹脂組成物に対して0.1重量%以上10重量%以下が好ましく、0.1重量%以上5重量%以下がさらに好ましく、0.1重量%以上3重量%以下が望ましい。0.1重量%未満である場合は硬化不良が発生する恐れがあり、10重量%を超えて添加すると、炭素繊維の間隙に入り込み、硬化の際にボイドが発生しやすくなる恐れがある。
本発明のエポキシ樹脂組成物は、酸性物質またはそのエステル化合物を安定剤(E)として含むことができる。
酸性物質としては無機酸、有機酸を問わず使用でき、たとえばサリチル酸、フタル酸、トルエンスルホン酸、硫酸、リン酸、ホウ酸もしくはこれらの無水物などが挙げられるが、金属と接合する場合もあるため、これら酸のエステル化合物が好ましく、特にホウ酸エステル類が好ましい。具体的にはホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリブチルなどが挙げられる。
安定剤(E)の含有量は、上記必須成分の合計(A+B+C)に対し、0.005〜5重量%であることがよく、好ましくは0.01〜1重量%である。
別の観点からは含有量は、エポキシ樹脂組成物全体に対して10000ppm以下であることが好ましい。10000ppmを超えて含有すると、硬化促進剤を失活させるおそれがある。
本発明のエポキシ樹脂組成物はさらに上記以外の成分を組成物の特性を改善するために、公知の任意成分を添加することができる。具体的には消泡剤、レベリング剤、チキソトロピー調整剤、フィラー、ゴム、顔料、難燃剤などを添加することができる。
本発明のエポキシ樹脂組成物は、溶剤を含有しない無溶剤型とすることができる。防止剤粒子を含有しながら、溶剤を配合しなくても、繊維強化複合材料に適用でき、RTM法、ウェットレイアップ成形法、引き抜き成形法又はフィラメントワインディング成形法において強化繊維に塗布又は含浸できる低粘度の樹脂組成物となる。
本発明のエポキシ樹脂組成物粘度は、好ましくは0.3〜3Pa・s、より好ましくは0.5〜2Pa・sである。特に、本発明の樹脂組成物は、一液での保存安定性に優れることから、プリプレグとして適用されるウェットレイアップ成形法、引き抜き成形法又はフィラメントワインディング成形法において有用である。
本発明のエポキシ樹脂組成物の製造は、様々な公知の方法で製造することができる。例えば、各成分をニーダーにて混練する方法がある。また、二軸の押出機を用いて混練してもよい。シアナミド(B)は、室温で固体状態であるために各成分中に分散する前にあらかじめ加熱し溶融させた後、他の成分と混練する方法が好ましい。エポキシ樹脂と混合した後、加熱し溶解させる方法もあるが一部反応が進行するため好ましくない。よって、シアナミドはエポキシ樹脂の一部等を使用して予備混練を行い、マスターバッチとして使用することが好ましい。
また、硬化促進剤(D)は、固体状態のまま各成分中に分散されることがあるため、他の成分と同時に混練した場合、硬化促進剤が凝集して分散不良となる場合がある。分散不良のエポキシ樹脂組成物は、硬化物中に物性ムラが生じたり、硬化不良を生じたりするため好ましくないため、そのため硬化促進剤はエポキシ樹脂の一部を使用し、三本ロールにて予備混練しておくことが好ましい。
本発明のエポキシ樹脂組成物は、繊維強化複合材料特に組成物を繊維に予め含浸させたプリプレグ、その中でもトウプリプレグに好適に用いられる。
本発明のエポキシ樹脂組成物を用いるプリプレグまたはトウプリプレグを製造する方法は、特に限定されないが、1)エポキシ樹脂組成物をメチルエチルケトンやメタノールなどの有機溶媒に溶解させて低粘度化し、強化繊維束を浸漬させながら含浸させた後、オーブンなどを用いて有機溶媒を蒸発させてトウプリプレグとする方法、2)有機溶媒を用いずに加熱して低粘度化したエポキシ樹脂組成物をロールや離型紙上にフィルム化し、次いで強化繊維束の片面、あるいは両面に転写したあと、屈曲ロールあるいは圧力ロールを通すことで加圧して含浸させる方法、3)エポキシ樹脂組成物を、加熱により低粘度化し、強化繊維束を浸漬させながら含浸させる方法などが挙げられる。中でも、トウプリプレグ中に残留する有機溶媒が実質的に皆無であり、生産性が高く高品位なトウプリプレグが製造できることから、上記3)に記載の方法を好ましく用いることができる。このような製造法を用いることで樹脂含浸されたトウプリプレグを得ることができる。
本発明のプリプレグに使用される強化繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維などが挙げられるが、好ましくは炭素繊維である。繊維材料の形態としては、単繊維、トウ、クロス、不織布などが挙げられ、さらに繊維の太さや束の本数、織り方などにより特性が変化するが、公知慣用のものであれば特に制限されるものではない。
本発明のプリプレグを硬化することにより、本発明の繊維強化プラスチック又は成形体が得られる。
本発明の繊維強化プラスチック又は成形体において、強化繊維の体積含有率は、好ましくは30〜75%、より好ましくは45〜75%であり、この範囲であると空隙が少なく、かつ強化繊維の体積含有率が高い成形体が得られるため、優れた強度の成形材料が得られる。
硬化は、80〜180℃、好ましくは135℃以上の温度の任意温度で、0.5〜10時間の範囲の任意時間で加熱することで架橋反応を進行させて行うことができる。加熱条件は1段階でも良く、複数の加熱条件を組み合わせた多段階条件でも良い。特に、燃料電池に使用されるような水素ガスなどを充填する高圧力容器を想定した場合は、80〜150℃の温度の範囲の任意温度で、0.1〜5時間の範囲の任意時間で加熱硬化することにより、所望する硬化物の物性を得ることができる。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例において、特に断りのない限り各種測定、評価は下記によるものである。なお、エポキシ当量、水酸基当量等の当量の単位はg/eqである。
実施例で使用した材料の略号を以下に示す。記載のないものは一般に試薬として購入できるものを用いた。
(A)エポキシ樹脂
YD−128:BPA型エポキシ樹脂(新日鉄住金化学株式会社製YD−128、エポキシ当量188、アルコール性水酸基当量1800)
YD−8125:BPA型エポキシ樹脂・分子蒸留タイプ(エポキシ当量173)
YDF−170;BPF型エポキシ樹脂(新日鉄住金化学株式会社製YDF−170、エポキシ当量169、アルコール性水酸基当量2400),
YDF−8170C:BPF型エポキシ樹脂・分子蒸留タイプ(エポキシ当量159)
(B)シアナミド:
CY−100;日本カーバイド工業株式会社製CY−100、
F1000;アルツケムアクチエンゲルシャフト社製F1000
(C)防止剤粒子
MX−154;コアシェルゴム(株式会社カネカ製MX−154、C成分40重量%、A成分60重量%のマスターバッチ、エポキシ当量300、平均1次粒径100nm)
MX−153;同上(C成分33重量%、A成分67重量%のマスターバッチ、エポキシ当量270、平均1次粒径100nm)
RY−200:ヒュームドシリカ(Aerosil RY−200、平均1次粒径12nm)
(D)硬化促進剤
2MAOK−PW、2MZA−PW、2E4MZ−CN:イミダゾール化合物(四国化成工業株式会社製)
PN−50J:エポキシアミンアダクト(味の素ファインテクノ株式会社製 PN−50J)
その他
DICYANEX1400F:ジシアンジアミド(硬化剤)
TBB:ホウ酸トリブチル(東京化成工業株式会社製 試薬)
P2000;ポリプロピレングリコール(株式会社ADEKA製)
コスモネートPH:ジフェニルメタンジイソシアネート(三井化学株式会社製)
TSA−720:シリコーン消泡剤(モメンティブ社製)
合成例1
セパラブルフラスコにYD−128(891.7g)をはかりとり、窒素気流中120℃に加熱した。昇温後1時間保持したのち、コスモネートPH(96.0g)を加え、溶解したら直ちにジブチルスズジラウレート(0.02g)を加えた。120℃を維持したまま1時間反応したのち、1,4−ブタンジオール(12.3g)を加えた。冷却してポリウレタン変性エポキシ樹脂(PUE1)を得た。
合成例2
セパラブルフラスコにYDF−170(982.3g)とP2000(53.4g)をはかりとり、窒素気流中120℃に加熱した。昇温後1時間保持したのち、コスモネートPH(64.2g)を加え、溶解したら直ちにジブチルスズジラウレート(0.02g)を加えた。120℃を維持したまま1時間反応したのち、1,4−ブタンジオール(2.4g)を加えた。冷却してポリウレタン変性エポキシ樹脂(PUE2)を得た。
実施例1
容器にYD−128(94.0g)をはかりとり、ディスパーにて高速で攪拌しながらTSA−720(0.1g)、RY−200(2.0g)を順に加え、外観と粒ゲージでの評価により均一を確認したところで20℃まで冷却した。ここに、あらかじめ50℃で溶融しておいたCY−100(5.15g)を加えて均一になるまで攪拌して実施例1のエポキシ樹脂組成物(1)を得た。
実施例2〜4
実施例1と同様の手順で表中の処方に従いエポキシ樹脂組成物(2〜4)を得た。
比較例1〜4
実施例1〜4と同様の手順で表中の処方に従いエポキシ樹脂組成物(H1〜H4)を得た。
実施例5
容器にMX−153(75g、粒子成分として30g)をはかりとり、高速で攪拌しながらTSA−720(0.1g)を加えた後、あらかじめ50℃で溶融しておいたCY−100(15g)を加えて均一になるまで攪拌してエポキシ樹脂組成物(5)を得た。
実施例6〜10、比較例5
実施例5と同様の手順で表中の処方に従いエポキシ樹脂組成物(6〜10及びH5)を得た。
比較例6
CY−100(100g)を50℃で溶解・保持し、高速で攪拌しながらTSA−720(0.1g)を加えた後、少量ずつRY200(2g)を加えて均一になるまで攪拌して組成物(H6)を得た。これを23℃に戻したところ、24時間以内に固化した。
実施例11
容器にMX−153(25g、粒子成分として8.3g)をはかりとり、高速で攪拌しながらTSA−720(0.1g)を加えた後、あらかじめ50℃で溶融しておいたCY−100(5g)を加えて均一になるまで攪拌して、混合液を得て、これに予め硬化促進剤(30g)とYD−128(650g)を三本ロールで混合したマスターバッチを(68g)混合し、エポキシ樹脂組成物(11)を得た。
実施例12〜14、比較例7〜10
実施例11と同様の手順で表中の処方に従いエポキシ樹脂組成物(12〜14及びH7〜H10)を得た。
エポキシ樹脂組成物の評価は、下記による。
外観;
50mLのガラス製バイアル瓶にエポキシ樹脂組成物50gを入れて、目視にて評価した。評価の記号の意味は次のとおり。
A;無色透明、B;無色微濁、C;白色微濁、D;結晶析出、J:結晶化、
E;白色液状、F;一部透明、G;乳白色、H;凝集
ここで、H;凝集は、コアシェルゴムが一次粒子として分散しておらず、凝集している状態を表す。
粘度;
機産業社製RE85H型粘度計を用いて25℃での粘度を測定した。粘度の単位はPa・sであり、測定不可はNDで表す。
粒ゲージによる評価;
コーティングテスター株式会社製グラインドメーターNO.402Wを使用し、JIS−K−5600−2−5に準じて測定を行い、線状痕が発生したスケールをμm単位で記載した。測定不可はNDで表す。
濾過残渣の評価;
#150メッシュを備えた加圧濾過器をもちいて、エポキシ樹脂組成物の濾過をおこない、メッシュオンしたシアナミド粒子の有無を光学顕微鏡にて、次の基準で評価した。
N;固形物なし、Y;固形物あり、X:固形化(濾過不可)
測定不可はNDで表す。
硬化反応性の評価;
サンプルをアルミパンに封入し、日立ハイテクノロジーズ社製DSC7000Xを用いて、室温より320℃まで、10℃/minの速度で昇温した。エポキシ樹脂の硬化反応にともなう発熱ピークについて、図1に示す初期温度1、ピーク温度2及び終点温度3を求めた。初期温度1及び終点温度3はそれぞれ点線の交点とした。
狭小空間硬化性;
2枚の金型に離形剤を塗布し、塗布面を向かい合わせにして万力で固定した。毛細管現象でサンプルを浸透させ、150℃のオーブンで2時間保持した。得られた金型をはがし、浸透した樹脂の硬化状態を観察した。タックがないものを○、タックがあり硬化していない部分があるものを×とした。
配合割合、評価結果を表1〜3に示す。配合割合における配合量は重量部である。評価結果における5℃・7日は、5℃保管7日後、5℃・14日は5℃保管14日後、23℃・7日は23℃保管7日後、23℃・14日は23℃保管14日後の状態での評価結果を示す。
表3において、*1は幕張りがあったことを示し、*2は硬化残があったことを示す。
実施例1〜実施例4、および比較例1〜比較例4について説明する。
シアナミドを含有するエポキシ樹脂組成物における貯蔵安定性は、1)シアナミドの反応による増粘、2)結晶成長の2つによって阻害される。通常、エポキシ樹脂とシアナミドを混合し、室温で保管すると、7日目には結晶が析出し、14日を待たずに著しく増粘して硬化する。7日の時点で析出している結晶はシアナミドである。エポキシ樹脂の粘度が高いほど、析出する粒子が細かくなる傾向があった。比較例2と比較例4は、大きな結晶が析出していたが、それを除けば無色透明であり、サンプリング評価である粒ゲージ試験では結晶が検出されなかった。また、5℃で保管した場合にはいずれのサンプルも14日の経過により硬化することはなかったが、比較例1〜比較例4については結晶の析出が確認され、実施例1〜実施例4については結晶の析出が確認できなかった。以上のことから、防止剤粒子であるRY−200を添加することにより、結晶の成長を抑制できることが明らかになった。
実施例5と実施例6は防止剤粒子としてコアシェルゴムを含有するため、白色不透明な液体で、内部を目視にて見通すことができないが、5℃保管で14日経過した後にも粒ゲージによる評価、および全量メッシュろ過によりシアナミド再結晶体の生成は認められなかった。
実施例7と実施例8はウレタン変性エポキシ樹脂を含有し、ヒュームドシリカを添加したエポキシ樹脂組成物である。室温保管および5℃保管で14日経過した後にも粒ゲージによる評価、および全量メッシュ濾過によりシアナミド再結晶体の生成は認められなかった。
実施例11以降は硬化促進剤を含有する硬化性エポキシ樹脂組成物に関する。いずれの場合でもシアナミドの再結晶体が生成することはなく所望の特性を有する硬化物を得ることができた。
比較例7は液状の硬化促進剤を使用した場合であるが、比較的貯蔵安定性が悪い硬化促進剤であることもあって、若干の粘度上昇が見られるが、5℃で7日間保持したところでシアナミドの結晶が認められる。比較例8は硬化剤にジシアンジアミドを使用しているために、高い貯蔵安定性を有する。
比較例8は硬化剤としてジシアンジアミドを使用したものであり、高い潜在性と高い硬化反応性を両立する材料である。しかしながら、硬化剤が粉末であるがために金型の隙間などの狭小空間において拡散が不十分となり、硬化不良箇所が発生する結果を得た。つまり、炭素繊維間隙やガラス繊維間隙などでジシアンジアミドの拡散不良にともなう硬化不良が発生するおそれがあることを示している。一方で実施例11〜14においては、硬化促進剤がいずれも粉末成分であるが、硬化不良は見られなかった。比較例8のように硬化剤が固体であり、狭小空間での拡散が不十分となった場合には、主剤と硬化剤の比率が狂うために硬化不良に直結するが、硬化剤が液状で混和している実施例11〜14では硬化不良が発生しなかった。実施例11〜14に含まれる硬化促進剤はいずれも粉末のものであるが、多少のずれがあってもきちんと硬化することを表している。
比較例9は硬化剤としてカルボン酸無水物を使用したものであり、こちらも高い潜在性と高い硬化反応性を両立できる材料である。しかしながら、保管後、液面付近で幕張りが生じた。これはカルボン酸無水物が加水分解したために起こる現象であるが、実施例11〜14についてはそのような現象は起こらなかった。
比較例14は硬化剤として芳香族アミンを使用したものである。芳香族アミン系硬化剤は貯蔵安定性、硬化反応性がともに低く、所定のDSCのプログラム条件において硬化が完了しなかったが、実施例11〜14はいずれも貯蔵安定性に優れ、かつ硬化反応も速やかに起こる。
本発明のエポキシ樹脂組成物はエポキシ樹脂と硬化剤が良好に混和しているため、モル比が場所により変化することなく、本質的に硬化不良は起こらない。
Figure 2019167462
Figure 2019167462
Figure 2019167462

Claims (8)

  1. エポキシ樹脂(A)、シアナミド(B)及び体積平均粒子径が2μm以下の防止剤粒子(C)を必須成分とするエポキシ樹脂組成物であって、防止剤粒子(C)がエポキシ樹脂に溶解せず、樹脂組成物全体に対して1〜50重量%の範囲で含有されていることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
  2. 防止剤粒子(C)がゴム粒子またはシリカ粒子であることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
  3. エポキシ樹脂(A)、シアナミド(B)及び防止剤粒子(C)の合計に対し、硬化促進剤(D)が、0.05〜5重量%含有されてなる請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂組成物。
  4. エポキシ樹脂(A)、シアナミド(B)及び防止剤粒子(C)の合計に対し、酸性物質またはそのエステル化合物から選ばれる安定剤(E)が、0.005〜0.5重量%含有されてなる請求項1〜3のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物。
  5. 請求項1〜4のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物に強化繊維を配合してなることを特徴とするプリプレグ。
  6. 請求項1〜4のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物を強化繊維に含浸してなることを特徴とするプリプレグ。
  7. 強化繊維が炭素繊維である請求項5又は6に記載のプリプレグ。
  8. 請求項5〜7のいずれか一項に記載のプリプレグを硬化して得られる繊維強化プラスチック。
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