JP2019157296A - 嵩高構造糸、中綿、及びそれを用いた繊維詰め物体および繊維製品 - Google Patents
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Abstract
【課題】繊維詰め物体に使用した際に断熱効果のみならず、高い吸放湿性も有し、保温素材として一般な衣料用途のみならず、スポーツ運動やインナーダウンなど幅広い分野で好適に使用し得る嵩高構造糸、中綿、及びそれを用いた繊維詰め物体および繊維製品の提供。【解決手段】ループを形成する鞘糸1と鞘糸2と絡合することで実質的に鞘糸を固定する芯糸2から構成され、吸放湿性が1.0%以上である嵩高構造糸である。また、嵩高構造糸は、連続的な捲縮構造を有するループを形成する鞘糸と芯糸2から構成され、芯糸2と鞘糸の絡合点が繊維軸方向に、1〜30個/mm存在し、且つループが3次元的な捲縮構造を呈し、曲率半径が2.0〜30.0mmであることが好ましい。また、嵩高構造糸は、鞘糸全体に対し親水性繊維を10〜90質量%含むことが好ましい。【選択図】図1
Description
本発明は、嵩高構造糸、中綿、それを用いた繊維詰め物体および繊維製品に関する。
天然素材である羽毛、また合成繊維から成る詰め綿は一般的に、保温性衣料の充填物として広く使用されている。特に天然羽毛は、一般に水鳥の胸部から少量採取されるダウンボール(粒綿状)とフェザー(羽状)を混合して使用するものである。天然羽毛は、そのケラチン繊維からなる特異的な構造形態に由来し、しなやかな風合いに富み、体に沿いやすく優れた軽量感・保温性を発現する。このため、天然羽毛を詰め綿として用いた製品は一般ユーザーまでもがその機能を認知しており、寝装具やジャケット等の衣料品など幅広く適用されている。
しかしながら、自然保護の観点から水鳥の捕獲は制限があり、天然羽毛の総生産量には制約がある。更には、昨今の異常気象や疫病の発生によって、その供給量が大きく変動し、価格の高騰に加えて、不安定な供給量が問題視されつつある。また、天然羽毛の使用には、採毛、選別、消毒、脱脂等多くの工程を経るにも関わらず特有の臭い、動物アレルギーがしばしば問題になるなど、また動物愛護の観点から欧州等では天然羽毛の使用を排除する動きも出ている。このため、安定供給等が可能な合成繊維による詰め綿に注目が集まっている。
また、天然羽毛を使用した詰め綿は、乾燥時に保温力があるが、雨や雪によるだけでなく、汗や湿気など行動時にも発生する「濡れ」が、保温力を大きく落とすことや、天然羽毛は速乾性に欠けているため、保温力の回復が非常に悪いことは古くから知られている。このため、湿潤の時においてもある程度の保温力を発揮でき、かつ、濡れた後に優れた速乾性を有することで、保温性が低下する「濡れ」からいち早く回復させることを可能にする合繊繊維からなる詰め綿は、市場から要求されている。
合成繊維からなる詰め綿も検討され、特許文献1、2には、ループを形成する鞘糸と該鞘糸とを交錯することで実質的に鞘糸を固定する芯糸からなる特定の嵩高構造糸により嵩高構造糸間での絡み合い等が抑制され、高次加工における取扱性が良好で、軽量・保温性等に優れた嵩高構造糸が得られることが開示されている。
特許文献3には、芯糸がポリエステル系の高収縮性糸,鞘糸が単糸繊度1デニール以下のポリアミドからなる低収縮性糸で構成された芯鞘構造の混繊交絡糸条で、ループ毛羽を有する特定の高収縮嵩高加工糸がソフトなスパンタッチと高発色性を有することが開示されている。特許文献4には、仮撚加工マルチフィラメントからなる芯糸に浮糸、鞘糸が固定された、ソフトな風合いと適度なコシとを有し、継続使用した場合であっても嵩高性が維持されるタスラン加工糸が開示されている。
また、合成繊維からなる中綿は、多数のものが提案されている。特許文献5、6には、花糸を芯糸で一体化した、嵩高で耐洗濯性に優れた長繊維詰め物体が開示され、鞘糸を芯糸で一体化した長繊維中綿と側地とが縫製され、一体化している中綿製品が開示されている。
しかしながら、これら天然羽毛や合繊繊維からなる中綿を使用した保温製品には、保温性以外の訴求点が乏しく、例えば、スポーツやインナーダウンに必要となる吸湿発熱などの機能性に関する提案が、残念ながら、まだ非常に少ないのが現状である。特許文献1、2、4に具体的に開示された嵩高構造糸はポリエチレンテレフタレート繊維で構成されており、吸放湿性の点では改良の余地があった。また、特許文献3に開示の芯鞘構造糸は、混繊交絡糸中の高収縮糸を収縮させることにより芯鞘構造を形成するものであり、芯糸は鞘糸を実質的に固定するような絡合が生じるものではなかった。
また、特許文献5,6記載に具体的に開示された長繊維詰め綿は、吸放湿性に劣るものしか得られず、結果として吸湿発熱効果を発揮できる機能性中綿は開示されていない。
そこで本発明は、繊維詰め物体に使用した際に断熱効果のみならず、高い吸放湿性も有し、保温素材として一般な衣料用途のみならず、スポーツ運動やインナーダウンなど幅広い分野で好適に使用し得る嵩高構造糸、中綿、及びそれを用いた繊維詰め物体および繊維製品を提供することを課題とする。
上記課題は、以下の手段により達成される。
(1)ループを形成する鞘糸と該鞘糸と絡合することで実質的に鞘糸を固定する芯糸から構成され、吸放湿性が1.0%以上である嵩高構造糸。
(2)連続的な捲縮構造を有するループを形成する鞘糸と芯糸から構成され、芯糸と鞘糸の絡合点が繊維軸方向に、1〜30個/mm存在し、且つループが3次元的な捲縮構造を呈し、曲率半径が2.0〜30.0mmである(1)記載の嵩高構造糸。
(3)鞘糸全体に対し親水性繊維を10〜90質量%含む(1)または(2)に記載の嵩高構造糸。
(4)芯糸が弾性繊維から構成され、10%伸長時の伸長回復率が50%以上ある(1)〜(3)いずれかに記載の嵩高構造糸。
(5)(1)〜(4)いずれかに記載の嵩高構造糸で構成された、中綿。
(6)乾燥状態の嵩高性が7000cm3/30g以上であり、かつ圧縮率は70%以上であり、回復率は50%以上である(5)記載の中綿。
(7)湿潤時の嵩高低下性として、下記(1)式および下記(2)式を満足する(5)または(6)記載の中綿。
(A−B)/A≦0.3 ・・・(1)
(A−C)/A≦0.2 ・・・(2)
A:乾燥状態の嵩高性(cm3/30g)
B:湿潤状態(水分率50%)の嵩高性(cm3/30g)
C:湿潤状態(水分率35%)の嵩高性(cm3/30g)
(8)上記(1)〜(4)のいずれか記載の嵩高構造糸または(5)〜(7)いずれか記載の中綿を含む繊維詰め物体。
(9)前記嵩高構造糸を複数含み、糸束、シート状から選択された形態を有する中綿が、側地とキルト縫いされている(8)記載の繊維詰め物体。
(10)吸湿発熱性が1℃以上である(8)または(9)記載の繊維詰め物体。
(11)50%水分率から25%水分率に到達する際の乾燥時間が50分以下である(8)〜(10)何れか記載の繊維詰め物体。
(12)側地が、通気度が0.8cc/cm2・秒以上、200cc/cm2・秒以下である織編物からなる、(8)〜(11)いずれかに記載の繊維詰め物体。
(13)発塵性が100個/分以下である(8)〜(12)のいずれかに記載の繊維詰め物体。
(14)上記(1)〜(13)のいずれかに記載の繊維詰め物体が少なくとも1部に使用された繊維製品。
(1)ループを形成する鞘糸と該鞘糸と絡合することで実質的に鞘糸を固定する芯糸から構成され、吸放湿性が1.0%以上である嵩高構造糸。
(2)連続的な捲縮構造を有するループを形成する鞘糸と芯糸から構成され、芯糸と鞘糸の絡合点が繊維軸方向に、1〜30個/mm存在し、且つループが3次元的な捲縮構造を呈し、曲率半径が2.0〜30.0mmである(1)記載の嵩高構造糸。
(3)鞘糸全体に対し親水性繊維を10〜90質量%含む(1)または(2)に記載の嵩高構造糸。
(4)芯糸が弾性繊維から構成され、10%伸長時の伸長回復率が50%以上ある(1)〜(3)いずれかに記載の嵩高構造糸。
(5)(1)〜(4)いずれかに記載の嵩高構造糸で構成された、中綿。
(6)乾燥状態の嵩高性が7000cm3/30g以上であり、かつ圧縮率は70%以上であり、回復率は50%以上である(5)記載の中綿。
(7)湿潤時の嵩高低下性として、下記(1)式および下記(2)式を満足する(5)または(6)記載の中綿。
(A−B)/A≦0.3 ・・・(1)
(A−C)/A≦0.2 ・・・(2)
A:乾燥状態の嵩高性(cm3/30g)
B:湿潤状態(水分率50%)の嵩高性(cm3/30g)
C:湿潤状態(水分率35%)の嵩高性(cm3/30g)
(8)上記(1)〜(4)のいずれか記載の嵩高構造糸または(5)〜(7)いずれか記載の中綿を含む繊維詰め物体。
(9)前記嵩高構造糸を複数含み、糸束、シート状から選択された形態を有する中綿が、側地とキルト縫いされている(8)記載の繊維詰め物体。
(10)吸湿発熱性が1℃以上である(8)または(9)記載の繊維詰め物体。
(11)50%水分率から25%水分率に到達する際の乾燥時間が50分以下である(8)〜(10)何れか記載の繊維詰め物体。
(12)側地が、通気度が0.8cc/cm2・秒以上、200cc/cm2・秒以下である織編物からなる、(8)〜(11)いずれかに記載の繊維詰め物体。
(13)発塵性が100個/分以下である(8)〜(12)のいずれかに記載の繊維詰め物体。
(14)上記(1)〜(13)のいずれかに記載の繊維詰め物体が少なくとも1部に使用された繊維製品。
本発明の嵩高構造糸は、吸放湿性が1.0%以上を有することで、繊維詰め物体に使用した際に断熱効果のみならず、高い吸放湿性も有し、保温素材として一般な衣料用途のみならず、スポーツ運動やインナーダウンなど幅広い分野での適用が可能となる。
さらに、芯糸を構成する繊維として弾性繊維を使用することで、体への追随性が一層に高まり、衣料のみならず、登山など過度な運動や、寝袋などストレッチに要する用途にも適用可能となる。
以下、本発明の嵩高構造糸、中綿、それを用いた繊維詰め物体および繊維製品について説明する。
以下、本発明について、望ましい実施形態と共に詳述する。
本発明の嵩高構造糸は、ループを形成する鞘糸と該鞘糸と絡合することで実質的に鞘糸を固定する芯糸から構成され、吸放湿性が1.0%以上であることが特徴である。
ここで言う、吸放湿性とは、嵩高構造糸を約1g採取し40℃×90%RHの環境雰囲気にて、24時間放置した後の質量(W1)を求め、次に20℃×65%RHの環境雰囲気にて、24時間放置した後の質量(W2)を求め、次に105℃の乾燥機にて、2時間放置し、試料の絶乾質量(W3)を求め、以下の式を用いて吸放湿性を求める。
MR1(吸湿)=(W1−W3)/W3×100
MR2(放湿)=(W2−W3)/W3×100
吸放湿性=MR1(吸湿)― MR2(放湿)
MR1(吸湿)=(W1−W3)/W3×100
MR2(放湿)=(W2−W3)/W3×100
吸放湿性=MR1(吸湿)― MR2(放湿)
本発明において上記吸放湿性が1.0%以上であることで、後述する吸湿発熱性が1℃以上に達することが可能となる。吸放湿性の上限は特に設けていないが、10%以下とすることで、吸湿率が放湿率より大きく上回ることがなく、中綿製品として着用(使用)する場合、ムレ感などを感じることがなく好ましい。より好ましいのは、2〜9%である。
芯糸、鞘糸に用いられる繊維としては、嵩高加工糸としたときに吸放湿性が本発明で規定する範囲をみたす限り特に制限はないが、合成繊維、半合成繊維。再生繊維等を用いることができる。
ここで言う合成繊維とは、合成ポリマーからなる繊維のことを言い、溶融紡糸や溶液紡糸などで製造した合成繊維を指す。このポリマーのうち、溶融成形が可能な熱可塑性ポリマーは溶融紡糸法により繊維化することができ、生産性高く繊維を製造することができるため、本発明に好適に用いられる。
ここで言う熱可塑性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレートあるいはその含有体、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル、ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステル等のポリエステル、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリアミド、熱可塑性ポリウレタンなどの溶融成形可能なポリマーが挙げられる。これ等の熱可塑性ポリマーのうち、ポリエステルやポリアミドに代表される重縮合系ポリマーは結晶性ポリマーであり、融点が高いため後工程、成形加工及び実使用の際に比較的高い温度で加熱された場合でも劣化やヘタリがなく好適である。この耐熱性という観点では、ポリマーの融点が165℃以上であると良好であり好ましい。
上記半合成繊維としては、アセテート、トリアセテート等が挙げられる。
上記再生繊維としては、レーヨン、キュプラ、ポリノジックなどセルロース系繊維等が挙げられる。
本発明に用いるポリマーには、酸化チタン、シリカ、酸化バリウムなどの無機質、カーボンブラック、染料や顔料などの着色剤、難燃剤、蛍光増白剤、酸化防止剤、あるいは紫外線吸収剤などの各種添加剤をポリマー中に含んでいても良い。
嵩高構造糸の吸放湿性は、その構成繊維の少なくとも1部に親水性繊維を用いることで調整することが可能である。親水性繊維とは、分子構造中に水と親和性(なじみ)の高い水酸基などの親水性基を持ち、吸湿・吸水・拡散性に富んだ繊維を指す。このように親水基を持つ親水性繊維は、一般的に雰囲気の湿度変化により、吸湿、放湿することができ、いわゆる吸放湿性を有する。このような親水性繊維として、具体的には吸放湿性が1%以上の繊維を通常使用することができ、好ましくは2%以上、より好ましくは3%以上である。上限としては通常8%程度である。嵩高構造糸の吸放湿性を本発明で規定する範囲とするために、その繊維が有する吸放湿性を鑑み、用いる繊維の種類と含有量を調整する。この親水性繊維は鞘糸、もしくは、鞘糸の一部に用いることが好ましい。
ここで言う親水性繊維としては、水酸基を含むアセテートのような半合成繊維や、レーヨン、キュプラのような再生繊維や、アミノ基を有するポリアミド繊維で、1.0%以上の吸放湿性をもつことが好ましい。あるいは、繊維それ自体の性質として1.0%以上の吸放湿性を持つなら、そのような繊維を使用してもかまわない。親水性繊維の具体例としては、ポリアミドなど親水性のアミノ基をもつ合成繊維や、レーヨン、キュプラなどセルロース系の再生繊維や、アセテートなど半合成繊維が挙げられ、これらは1種又は2種以上で用いることができる。中でも、製造の容易さや安価で入手が容易な観点からは、ポリアミド繊維が好ましい。ポリアミド繊維としては、嵩高構造糸の吸放湿性を1.0%以上とすることができれば、特に限定しないが、ナイロン6、ナイロン66を主成分とするポリアミド繊維が好ましく挙げられる。さらに吸湿性を高めるために、吸湿性の高いポリビニルビロリドン(PVP)やポリエチレングリコール(PEG)あるいはこれらの誘導体等を共重合したり、含有させたりすることは、より好ましい。
上記親水性繊維の含有量は鞘糸全体に対し、吸放湿性を1.0%以上に達成するとの観点から10質量%以上であることが好ましい。嵩高構造糸が優れた吸放湿性を有し、かつ嵩高性にも優れる点から、鞘糸には他の繊維を併用することが好ましい。他の繊維を併用する場合、親水性繊維の上限としては90質量%以下とすることが好ましい。なかでも、10〜90質量%であることが好ましく、20〜80質量%であることがより好ましい。
鞘糸を占める親水性繊維の含有量が上記範囲にあることで、優れた吸放湿性を確保でき、また、90質量%以下とすることで、吸湿率が放湿率より大きくなりすぎず、中綿製品として着用(使用)してもムレ感などを感じにくくなり、かつ嵩高性にも優れるので好ましい。
本発明の嵩高構造糸は、連続的な捲縮構造を有するループを形成する鞘糸と芯糸から構成され、芯糸と鞘糸の絡合点が1〜30個/mmであることが好ましい。これにより、空気を閉じ込めやすい3次元構造になり、繊維本来の吸湿効果をいっそう高めることができる。
さらに、鞘糸は、ループが3次元的な捲縮構造を有する繊維を含むことが好ましい。捲縮形状による繊維の単糸が立体構造となり、空気に触れやすくなるため、放湿効果を高めることができる。この3次元的な捲縮構造としては、スパイラル構造を有することが好ましい。
上記のようなループが3次元的な捲縮構造を呈する繊維を用いる場合、捲縮構造を有するループの曲率半径が2.0〜30.0mmであることが適度な立体構造を有する点で好ましい。ここで言うスパイラル構造のようの3次元的な捲縮構造を呈する繊維の曲率半径とは、デジタルマイクロスコープ等によって2次元的に観察される画像において、図2においてスパイラル構造等の3次元的な捲縮構造を有した繊維が形成する3次元的な捲縮3に2箇所以上で最も多く内接する真円の半径に相当する。加工糸から無作為に選出した10箇所において、各々10本以上の単糸を採取し、それぞれの単糸をデジタルマイクロスコープ等で捲縮形態が確認できる倍率で観察することで、計100本の単糸をミリメートル単位で小数点第2位までを測定する。これ等の測定値の単純平均を算出し、小数点第2位以下を四捨五入した値を本発明の3次元的な捲縮構造の曲率半径とした。
該曲率半径においては、2.0mmから20.0mmであることがより好ましく、係る範囲であれば鞘糸からなる大ループがバネのような捲縮を有していることを意味する。このため、嵩高糸の断面方向の圧縮に対して、適度な反発感を有しつつも、鞘糸が点で接触することになり、非常に心地のよい嵩高性を奏でることとなる。更に、本発明の効果を良好に発揮する範囲としては、3.0mmから15.0mmであることが特に好ましい。係る範囲においては、長期的な耐久性についても問題なく、繰り返し圧縮回復が加わる衣料用途、特に過酷な環境下で使用されるスポーツ衣料に適用すると、本発明の効果が有効に作用する。
このような曲率半径を有する鞘糸は鞘糸全体に対し90〜10質量%を含むことが好ましく、ポリエステル繊維を含むことが、ループの曲率半径2.0mm〜30.0mmを維持する点から好ましい。
なかでも鞘糸として、親水性繊維を鞘糸全体の10〜90質量%含み、かつループが3次元捲縮形態を呈し、曲率半径が2.0〜30.0mmである繊維が鞘糸全体の10〜90質量%を含むことが嵩高加工糸の吸放湿性や、嵩高構造糸を中綿に用いたとき、中綿が濡れた時でも優れた嵩高性を維持する特性を高レベルでバランスできる点から特に好ましい。
特に上記ループが3次元捲縮形態を呈し、曲率半径が2.0〜30.0mmである繊維としてポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系繊維を用いることが上記効果をいっそう顕著に発揮し得る点から好ましい。
つまり、嵩高構造糸の吸放湿性は、上記のように用いる繊維の種類の選択と含有量、絡合点の数で代表される絡合頻度、鞘糸の構造等を適宜制御することにより、所望の範囲に調整することが可能である。
本発明の嵩高構造糸は、図1に例示される通り、ループを形成する鞘糸1(図1の1−1)、親水性繊維である鞘糸2(図1の1−2)と絡合することで実質的に糸を固定する芯糸3から構成されている。鞘糸1、2と芯糸2の絡合する点を絡合点といい、該絡合点は、本発明の特徴である糸からなるループの自立を支えるという役割があり、ある程度の周期で存在した方が好適である。
上記のように芯糸に鞘糸を絡合させる方法としては、本発明の嵩高構造糸が得られる限り特に制限はないが、ノズルを用いて絡合させることが好ましい。特にノズルの種類については、限定されない。例えば、後述するサンクションノズルを用い、ノズル内で糸条を走行させ、さらにサクションノズルにより吸引された糸条をノズル外で旋回させることにより、鞘糸が芯糸の周りに巻き付くように絡合形態を形成することが好ましい。一般的なインターレースノズルやタスランノズルを使用する場合、ノズル内で糸条の撹拌、開繊および交絡効果が付与され、絡合数の制御をしにくくなる傾向にある。
また、このようにノズル外で糸条を旋回させることにより、過剰に供給された側の糸(鞘糸)が外層に大ループを形成した嵩高糸を形成することができる。
嵩高糸の製造プロセスにおいては、後述する流体加工においては、いわゆるストレートな繊維であるものの、鞘糸による大ループを形成した後に、熱処理を施すことによって3次元的な捲縮が発現する繊維、いわゆる潜在捲縮繊維を3次元的な捲縮を有する鞘糸として好ましく用いることができる。流体加工時に繊維がストレートであると、ノズルなどで糸詰まりなどを起こすことなく、糸条が安定的に走行しやすい。さらに、流体加工時に繊維がストレートであると、本発明の大ループを形成させることにおいても、芯糸と鞘糸の旋回が効率的に行われることとなり、加工糸の繊維軸方向において、大ループが非常に均質に形成される。加工糸を使用したポリマーの結晶化温度を目安に、この大ループが外層に形成された加工糸を熱処理することで、加工糸は3次元的な捲縮を発現し、本発明において特に好ましい態様の嵩高構造糸となる。この糸の3次元的な捲縮は、加工糸の円周方向及び断面方向のいずれにも良好な嵩高性を発現するものであり、求める特性に応じて、適度に制御することが好適である。
上記潜在捲縮繊維は、熱処理前にストレートの形態であり、熱処理後に、捲縮が発現する。例えば、糸が紡糸口金から吐出後、過剰な冷却風などで強制的に片側を冷却することや、あるいは延伸時に加熱ローラ等で過剰に片側を熱処理することは、繊維の断面方向で結晶の構造差が生まれるため、熱処理により捲縮が生じやすいので好ましい。かかる紡糸時の冷却風の速度は、30m/min以上であれば、本発明の流体加工糸のループを形成する鞘糸の曲率半径30mm以下となるので、紡糸時の冷却風の速度が30m/min以上であることは好ましい。一方、紡糸時の冷却風の速度は100m/minを超えると、糸揺れが発生し、糸切れなど操業性悪化の一因となるため、紡糸時の冷却風の速度が100m/minを超えることは好ましくない。
本発明の嵩高構造糸のループに使用する親水性繊維が、上記の3次元的な捲縮構造を有する場合、有さない場合でも、同様に本発明の効果を発揮することができるため、特に限定しない。
また、本発明の嵩高構造糸の芯糸として、ポリウレタン系合成繊維や、サイドバイサイド複合繊維のような弾性繊維を用いることにより、嵩高構造糸にストレッチ性を付与することができる。
上記弾性繊維としては、嵩高構造糸の10%伸長時の伸長回復率として、50%以上を達成し得るものを選択することが好ましい。ここで言う伸長回復率とは、オリエンテック社製引張試験機テンシロンUCT−100型を用い、評価することができる。すなわち、引っ張り試験機を用い、嵩高構造糸の試料長20cm、引張速度100%/分の条件で10%伸長させたあと、1分間放置し、同速度で元の試料長の位置まで回復させる。この操作を10回繰り返し、この際の応力−ひずみ曲線を記録しておき、10%伸長時の長さ(S0)、応力が0となったときの長さ(S1)を求め、下記式により伸長回復率を求める。同操作を水準毎に5サンプルについて評価し、得られた結果の単純平均値を求め、小数点第一位を四捨五入した値である。
伸長回復率(%)=(S0−S1)/S0×100
(S0:10%伸長時の長さ、S1:応力が0となった時の長さ)
伸長回復率(%)=(S0−S1)/S0×100
(S0:10%伸長時の長さ、S1:応力が0となった時の長さ)
ここで言う伸長回復率が高ければゴム弾性変形に近くなり、優れたストレッチ性を示す素材ということになる。本発明の嵩高構造糸を用いた中綿は、特にスポーツや、インナーダウンなど体の動きに追随するストレッチ用途で、その効果を存分に発揮することができる。該伸長回復率が55%以上にあれば、あらゆる体の動きに対応できることでき、より好ましい。伸長回復率の上限は特に設けてないが、100%を超えると、加工糸製造時の糸切れが増え、ロス増になるため本発明における実質的な上限は100%である。
本発明の嵩高構造糸において、10%伸長時の伸長回復率が50%以上のストレッチ性を発現させるためには、芯糸が伸長回復に優れる弾性繊維を用いることが好ましい。
ここでいう弾性繊維としては、10%伸長時の伸張回復率が50%以上であれば、特に限定しないが、ポリトリメチレンテレフタレート(PPT長繊維)、または主成分として少なくともポリトリメチレンテレフタレート(PPT長繊維)、ポリブチレンテレフタレート共重合体(例えばポリブチレンテレフタレートとポリアルキレングリコールとのブロック共重合体)などのポリエステルエラストマーおよび熱可塑性ポリウレタンを含む繊維が挙げられる。特に、伸長状態で着用した場合において、着用快適性のために締め付け感が極力少なくして柔らかい触感が得られる観点では、熱可塑性ポリウレタンや、取扱性までを考慮するとポリエステルエラストマーからなる繊維であることがより好ましい。ストレッチ性を発現し易い観点からはポリウレタン合成繊維が特に好ましい。
本発明の嵩高構造糸においてこれを構成する繊維の単糸繊度は、本発明の目的効果を鑑みると、芯糸、鞘糸とも3.0dtex以上であることが好ましい。上限は特に設けないが、15dtexを超えると中綿としては風合いが硬い傾向があり、好ましくない。4.0dtexから14dtexであることが好ましい。
かくして得られる嵩高構造糸は、優れた嵩高性を有することから詰め物体等に用いる中綿等に好適に用いることができる。このような中綿は、詰め綿としたときにそこに含まれる嵩高構造糸が互いに適度な反発性を有する。この反発性は繊維同士に空間をもたらす、つまり沢山な微細の空気層を作ることができるので、反発性は軽量感、引いては保温性にも寄与する。
更に、3次元的な捲縮構造を有する嵩高構造糸は、詰め綿の内部にさらに沢山の微細な空間を作ることができる。それは、特にループを形成する鞘糸に曲率半径が2〜30mmである3次元的な捲縮構造を有する繊維を用いた嵩高構造糸を中綿に用いると、初期の嵩高性はもとより、嵩高構造糸断面方向において放射状に鞘糸が開繊した状態を経時的に維持できる(図1)。放射状に開繊した鞘糸のバネのような挙動は、ストレートなフィラメントを用いる場合に比較して特に顕著である。加えて、本発明の放射状に開繊した鞘糸のバネのような挙動は、鞘糸同士がお互いに反発することにより生まれるものであり、3次元的な捲縮を有した鞘糸同士がお互いに支え合うことによって鞘糸のヘタリを大幅に抑制できる。また、雨や汗など、水に濡れた際にも、その3次元的な捲縮構造が、適正なヤング率も有しているため、バネのような剛性挙動を表すことで、濡れても顕著に嵩高性が低下しにくい効果を奏する。つまり、水に濡れても詰め綿としては嵩高性が高度に維持されるため、微細な空間を沢山含むことで、保温性も維持される。さらにその3次元的な捲縮構造は、詰め綿の中の水滴が流動しやすいので、水切り性にも良い。後述の通り湿潤時の嵩高性や乾燥速度に非常に優れるものであり、詰め物体として様々な用途において使用する際には非常に優れた特性を有する。
ヤング率は、糸のしなやかさを表すものであるため、該嵩高糸からなる詰め綿のしなやかさ、つまり圧縮弾性を表すものとなる。ヤング率が8Gpa以上であると、糸が柔らかすぎることがなく、顕著に優れた嵩高性を発揮する。ヤング率が13Gpa以下であると、嵩高構造糸が適度な柔軟性を有し、中綿としての圧縮弾性も適切で、しなやかさを有するので好ましい。さらに、ヤング率が8〜12Gpaであることが好ましい。
このような嵩高構造糸は、繊維の高付加価値化などを目的として加工された加工糸を応用することでも得られるが、前述する3次元的な捲縮構造をもつ繊維と親水性繊維を流体加工ノズルなどにより混繊させることで、嵩高性を有した芯鞘構造をもつ嵩高糸を製造する手法で得られた嵩高糸を用いることが特に好ましい。
本発明の嵩高構造糸を用いた中綿は、好ましい態様において後述する測定法で測った嵩高性が、7000cm3/30g以上、かつ圧縮率70%以上、回復率50%以上を達成することも可能である。さらに好ましい態様においては7500cm/30g、圧縮率75%以上、回複率55%を達成することも可能である。これにより、より優れた軽量感、よりしなやかな風合いを達成することができる。また、嵩高糸の生産性および詰め綿の充填効率を考慮すると、嵩高性は13120cm3/30g以下が特に好ましい。また、圧縮率の上限は実用面の点から98%以下であることが好ましい。さらに回復率も同様に実用面の点からから95%以下であることが好ましい。
本発明に用いる中綿の形態は、短繊維を主体とした球状或いは放射状の粒綿、繊維ウェブ、シート状の綿、長繊維を主体とした嵩高構造糸の形態を採用することができる。これ等の中綿のなかでも、前述した基本特性に加え、長時間の使用や実使用において想定される湿潤時での使用などに有効な特性を有することから長繊維を主体とした嵩高糸が好ましい。
本発明の嵩高構造糸からなる中綿は、沢山の水分を含有しても、つまり雨に濡れた時やスポーツなどで汗がかいたりすることで水分が中綿に浸透した場合においても、嵩高が低下しない点で好ましい特性を有する。好ましい態様においては、嵩高低下性は下記(1)式および下記(2)式を満たすことができる。
(A−B)/A≦0.3 ・・・(1)
(A−C)/A≦0.2 ・・・(2)
A:乾燥状態の嵩高性(cm3/30g)
B:湿潤状態(水分率50%)の嵩高性(cm3/30g)
C:湿潤状態(水分率35%)の嵩高性(cm3/30g)
(A−B)/A≦0.3 ・・・(1)
(A−C)/A≦0.2 ・・・(2)
A:乾燥状態の嵩高性(cm3/30g)
B:湿潤状態(水分率50%)の嵩高性(cm3/30g)
C:湿潤状態(水分率35%)の嵩高性(cm3/30g)
ここで言う乾燥状態は、絶乾状態ではなく、繊維の公定水分率に達した時の状態を指す。一般的に、温度20℃、湿度65%の環境に48時間を放置すれば、繊維の公定水分率に到達することができる。ポリエステルの場合は、公定水分率は0.3%である。
さらに好ましい態様においては、繰り返し5回洗濯後の中綿を評価したときの乾燥状態の嵩高性が6500cm3/30g以上を達成することも可能であり、さらには湿潤時の嵩高低下性が下記を満足することも可能である。
(A−B)/A≦0.3 ・・・(1)
(A−C)/A≦0.2 ・・・(2)
A:繰り返し5回洗濯後の乾燥状態の嵩高性(cm3/30g)
B:湿潤状態(水分率50%)の嵩高性(cm3/30g)
C:湿潤状態(水分率35%)の嵩高性(cm3/30g)
ここで水分率(%)は以下の式で表される。
水分率(%)=(W1−W0)/W0×100%
W1:湿潤時の重さ(g)
W0:乾燥時の重さ(g)
(A−B)/A≦0.3 ・・・(1)
(A−C)/A≦0.2 ・・・(2)
A:繰り返し5回洗濯後の乾燥状態の嵩高性(cm3/30g)
B:湿潤状態(水分率50%)の嵩高性(cm3/30g)
C:湿潤状態(水分率35%)の嵩高性(cm3/30g)
ここで水分率(%)は以下の式で表される。
水分率(%)=(W1−W0)/W0×100%
W1:湿潤時の重さ(g)
W0:乾燥時の重さ(g)
洗濯法は後に示す方法で行う。
なお、実使用時においては、中綿を含む製品を洗濯する際に、細かいメッシュ状のネットを使用することや、織編み物からなる側地を使用することは好適である。洗濯、特に脱水の際に詰め綿が外に露出しないような組織のものであれば特に限定しないが、詰め綿が露出しにくい観点からは、織編み物からなる側地の使用はより好適である。
本発明の中綿は、乾燥状態に比べ、湿潤の状態でも、嵩高糸の3次元構造が維持され、嵩高性の低下率が少ないことを見出した。登山など、過酷なスポーツで濡れても、嵩高性が低下しにくい。ここで言う嵩高性は保温性と正比例する。つまり、嵩高性が高いことは、詰め物体中のデッドエアー(動かない空気)が多く、空気の熱伝導率が低いため、保温性も高いことを意味する。
ここで言う乾燥状態は、本発明の詰め物体を温度20度、湿度65%の環境に48時間放置した後の状態を指す。
本発明では、50%水分率の嵩高低下性が0.3未満であることが好ましい。より好ましいのが0.28未満である。嵩高低下性の下限は特に設定していないが、嵩高性をつかさどる鞘糸の3次元構造に水分が全て行き届くことがないことを考えると、嵩高低下性が0.05以上であることが好ましい。
一方、35%水分率の嵩高低下性が0.2未満であることが好ましい。嵩高低下性の下限は特に設定していないが、嵩高性をつかさどる鞘糸の3次元構造に水分が全て行き届くことがないことを考えると、嵩高低下性が0.05以上であることが好ましい。
中綿の嵩高性は保温性と大きく関係していることは周知の事実であるが、本発明では、中綿が湿潤の状態でも、嵩高性の低下を軽減し、つまり濡れた時でも保温性を発揮できる。
嵩高性をつかさどる鞘糸は芯糸に絡合し、ループ形状を形成し、さらに好ましい態様においては3次元的な捲縮構造を有する繊維を鞘糸に用いており、前述したように、鞘糸のループが放射状に開繊することにより、好ましい態様においては3次元的な捲縮構造における捲縮のサイズが、ミリオーダー(10−3m)であることにより、水分の出入りがしやすく、湿潤状態、例えば50%水分率、35%水分率の状態でも、水分を含まない微細な空間が残り、保温性の維持に大きく貢献することができる。
嵩高性をつかさどる鞘糸は3次元的な捲縮構造を有しており、部分的に破断することなく、連続的なループを形成していることが好ましい。本発明における3次元的な捲縮構造とは、図2に例示されるようなフィラメントの単糸のスパイラルな構造であり、3次元的な捲縮3を有していることを意味する。
この3次元的な捲縮の評価は、加工糸から無作為に選出した10箇所において、各々10本以上の単糸を採取し、それぞれの単糸をデジタルマイクロスコープ等で捲縮形態が確認できる倍率で観察することで評価できる。この画像において、観察される単糸がらせん状に旋回した形態を有している場合には、3次元的な捲縮構造を有していると判定し、ストレートな形態の場合には捲縮構造を有していないと判定する。なお、曲率半径等の評価は、観察されたうち、3次元的な捲縮構造を有する鞘糸を選択し、評価する。
本発明をより効果的にするには、この3次元的な捲縮構造を有する繊維として従来のサイドバイサイド複合繊維や中空繊維のような一般的な製法で採取された潜在捲縮糸を用いることが好適である。
上記嵩高構造糸または、それを用いた中綿は、側地に詰めるなどして、繊維詰め物体とすることが好適である。
該嵩高構造糸からなる中綿は、1本1本を側地に挿入することも可能であるが、充填形態として、数本から数十本の糸束とする形態や横並びにしてシート状物とすることが好ましい。このシート状物とした際には、側地への充填が簡易であり、充填量を用途に応じて調整しやすいため、薄地の軽量・保温素材になり、さらに側地から抜けることがなく、不必要に縫製を施す必要がない。このため、繊維製品の形態に制約がなく、複雑なデザインなども可能となり、本発明を実施するにあたり、特に好ましい形態として挙げることができる。
本発明の嵩高構造糸は、中綿としては使用する前までにシリコーン系油剤を均一に付着させることが好ましい。ここで付着させるシリコーンは、熱処理するなどして適度に架橋をさせることで、鞘糸及び芯糸にシリコーンの皮膜を形成させると良い。
ここで言うシリコーン系油剤とは、ジメチルポリシロキサン、ハイドロジエンメチルポリシロキサン、アミノポリシロキサン、エポキシポリシロキサン等が該当し、これ等を単独あるいは混合することで使用すると良い。また、嵩高糸に均一に皮膜を形成するという観点から、シリコーン付着の目的を損なわない範囲で、分散剤、粘度調整剤、架橋促進剤、酸化防止剤、防燃剤及び静電防止剤を含有させることができる。
このシリコーン系油剤はストレートであっても、水性エマルジョンとして使用することもできるが、油剤の均一付着という観点では、水性エマルジョンとして使用することが好適である。シリコーン系油剤は、油剤ガイド、オイリングローラーまたはスプレーによる散布を利用して、質量比で嵩高糸に対して0.1〜5.0質量%付着できるように処理することが好適である。その後任意の温度及び時間で乾燥し、架橋反応させることが好ましい。
このシリコーン系油剤は、複数回に分けて付着させることも可能であり、同じ種類のシリコーンあるいは種類の異なるシリコーンを分けて付着させることで強固なシリコーン皮膜を積層させることも好適である。前述した処理により、嵩高糸にシリコーンの皮膜を形成させることで、嵩高糸の滑り性、触感が増し、本発明の効果を更に引き立たせることができる。
本発明の繊維詰め物体に使用された側地は、特に限定しないが、織物でもよいし、編み物でもよい。側地は片面が織物で、片面が編み物の組合せでも良い。側地には本発明の目的の一つである保温性を達成するために、密度の高い織物を使用すると好ましい。織物密度の限定は特にないが、ヨコ糸密度とタテ糸密度の合計であるカバーファクターが1500以上であれば、空気を遮断する効果がより発揮でき、より好ましい。上限としては、特に制限はないが、嵩高構造糸の吸放湿性が顕著に活かされることから3000以下であることが好ましい。さらに、より好ましい範囲は1700〜2700であること。
本発明では、側地と中綿がキルト縫いされていることを特徴とする繊維詰め物体であることが好ましい。キルト縫いの方式には特に限定しない。詰め綿の長手方向がキルト内に平行に並べてもよいし、キルト縫いの方向に対し垂直に並べても良く、この場合には並べた詰め綿をキルト縫いの縫い目で固定することができ、詰め物体中での嵩高構造糸の偏在を防ぐことができる。また、詰め綿の両端、またその中間の任意の部分をキルト縫いで縫われることも好ましい。このようにすると、濡れた時や、洗濯時に詰め綿の偏りがさらに改善される。
本発明の繊維詰め物体は、その好ましい態様において、吸湿発熱性が1℃以上を達成することが可能である・前述したように、芯糸と絡合して鞘糸がループを形成することにより、さらにはループを構成する鞘糸の一部には3次元的な捲縮構造をもつことにより、該ループに閉じ込められた空気層、いわゆるデッドエアーによって、断熱効果を発揮することにより保温性が得られることとなる。また、鞘糸の一部に親水性繊維を含ませることで、空気に含まれる水分子が親水性繊維に吸着された後、気体状態時の運動エネルギーが熱エネルギーに変化する際に、その熱エネルギーが周りのループに閉じ込められ、吸湿発熱性を1℃以上とすることが可能である。より好ましい態様に置いては吸湿発熱性を2.0以上とすることが可能である。上限としては特に限定はないが、温度が上昇しすぎで、逆に蒸れ感などを感じ、着心地が悪い点から5.0℃以下が好ましいである。
また、本発明の中綿および側地から構成された繊維詰め物体の50%水分率から25%水分率に到達する際の乾燥時間が50分以下であることが好ましい。本発明の中綿に使う嵩高構造糸の3次元的な捲縮構造を有する繊維を用いる場合、そのサイズをミリオーダー(10−3m)とすることにより、水分の出入りがしやすいため、乾燥速度も非常に早いものとなる。優れた速乾性は保温性が低下する激しい濡れからいち早く回復させることが可能にする。
ここで言う乾燥速度は、本発明の繊維詰め物体が50%水分率から25%水分率に到達した時の時間である。
上記中綿に使う嵩高構造糸が、ミリオーダー(10−3m)サイズの3次元的な捲縮サイズを持つことで、乾燥速度が特に大きく改善されるが、具体的に、50%水分率から5%水分率に到達するのに、45分以下かかることが好ましい、つまり、1.0%(水分率)/分以上であることが好ましい。
上記中綿に使用する高嵩構造糸として長繊維を用いる場合には、天然羽毛のように微細な粉塵を出さないため、織物や編み物など幅広い密度の側地を使用することが可能である。特に、好ましい側地は通気度が0.8cc/cm2・秒以上であることが好ましく、より好ましくは1.0cc/cm2・秒以上である生地である。
上記中綿および通気度0.8cc/cm2・秒以上であることが好ましく、より好ましくは1.0cc/cm2・秒以上である側地から構成された繊維詰め物体であることは、発塵性が非常に少ない点で好ましい。上限としては200cc/cm2・秒以下であることが好ましい。このような通気度を有することにより後述する測定方法で、発塵性が100個/分以下を達成し得ることから好ましい。
本発明の繊維詰め物体は、それを少なくとも1部に使用された繊維製品であることが好ましい。ここで言う繊維製品は、一般衣料から、スポーツ衣料、衣料資材、カーペット、ソファー、カーテンなどのインテリア製品、カーシートなどの車輌内装品、化粧品、化粧品マスク、ワイピングクロス、健康用品などの生活用途やフィルター、有害物質除去製品などの環境・産業資材用途に使用することができる。
特に本発明の繊維詰め物体は、湿潤時の保温性が優れているため、衣料であればジャケット、パンツ、防寒服に好適である。さらに速乾性が優れているため、スポーツ用途には好適である。
以下に本発明の製造方法の一例を詳述する。
本発明に用いられる芯糸及び鞘糸は熱可塑性ポリマーを溶融紡糸方法によって繊維化した合成繊維を用いればよい。
本発明に用いる合成繊維を紡糸する際の紡糸温度は、該ポリマーの融点が目安となり、融点+60℃以下で設定すればよい。これ以下であれば、紡糸口金或いは紡糸パック内でポリマーが熱分解等することなく、分子量低下が抑制されるため、好ましい。また、吐出量は、安定して吐出できる範囲として、吐出孔当たり0.1g/min/hole〜20.0g/min/holeを挙げることができる。
このように吐出された溶融ポリマーは、冷却固化されて、油剤を付与されて周速が規定されたローラによって引き取られることで合成繊維となる。ここで、この引取速度は、吐出量および目的とする繊維径から決定すればよいが、安定に製造するには、100〜7000m/minの範囲とすることが好ましい。この合成繊維は、高配向とした力学特性を向上させるという観点から、一旦巻き取られた後で延伸を行うことも良いし、一旦、巻き取ることなく、引き続き延伸を行うことも良い。この延伸条件としては、例えば、一対以上のローラからなる延伸機において、一般に溶融紡糸可能な合成繊維を示すポリマーからなる繊維であれば、ガラス転移温度以上融点以下温度に設定された第1ローラと結晶化温度相当とした第2ローラの周速比によって、繊維軸方向に無理なく引き伸ばされ、且つ熱セットされて巻き取られる。また、ガラス転移を示さないポリマーの場合には、複合繊維の動的粘弾性測定(tanδ)を行い、得られるtanδの高温側のピーク温度以上の温度を予備加熱温度として、選択すればよい。ここで、延伸倍率を高め、力学物性を向上させるという観点から、この延伸工程を多段で施すことも好適な手段である。
本発明の合成繊維の断面形状に関しては、特に限定される必要もなく、紡糸口金における吐出孔の形状を変更することで、一般的な丸断面、三角断面、Y型、八葉型、偏平型などや多葉型や中空型、不定形なものにすることができる。また、単独のポリマーなからなる必要もなく、2種類以上のポリマーからなる複合繊維であってもよい。但し、好ましい態様である鞘糸の3次元的な捲縮構造を発現するという観点では、上記のうち、中空断面や2種類のポリマーが貼り合わされたサイドバイサイド型の複合繊維などの潜在捲縮性能を有する繊維を用いるのが適当である。
本発明の親水性繊維は鞘糸として使用されることが好ましいが、3次元的な捲縮構造を有さなくても、所謂フラットヤーンでもかまわない。
本発明の嵩高構造糸は、ニップローラなどを有した供給ローラ(図3の7)により前述した合成繊維(図3の8)、と親水性繊維をそれぞれ規定量供給し、圧空の噴射が可能なサクションノズル(図3の9)によって芯糸及び鞘糸を吸引することが第1の工程になる。このサクションノズル(図3の9)において、ノズルから噴射する圧空の流量は、供給ローラからノズルに挿入する糸条が必要最低限の張力を有して供給ローラ−ノズル間及びノズル内で糸揺れ等を起こさず安定的に走行する流量を噴射すればよい。この圧空の流量は、使用するサクションノズルの孔径により最適量が変化する。糸張力を付与でき、後述する大ループの形成が円滑にできる範囲としては、ノズル内での気流速度が100m/s以上であることが目安となる。この気流速度の上限値の目安は、700m/s以下とすることであり、係る範囲であれば、過剰に噴射された圧空により、走行糸条が糸揺れ等を起こすことなく、安定的にノズル内を走行することになる。
また、このノズル内での撹乱、開繊を予防するという観点から、圧空の噴射角度(図4の16)は、走行糸条に対して60°未満で噴射する推進ジェット流とすることが好ましく、高い生産性で、糸による大ループ形成を均質に行うという点から好適である。当然、走行糸条に対して90°に流体を噴射する垂直ジェット流による加工も本発明の嵩高糸を製造することは不可能ではないが、垂直方向からジェット流の噴射による走行糸条の開繊、及びノズル内の狭い空間で単糸同士の絡み合いを抑制するという観点から推進ジェット流による加工が好ましい。この推進ジェット流による加工は、垂直ジェット流の場合には形成しやすいアーチ型の小ループが短周期で形成することも抑制できる。
本発明の嵩高構造糸に必要となる鞘糸からなる3次元的な捲縮構造を持つループの形成には、サクションノズル内で撹乱や開繊を施さないことが好適である。数本から数十本の糸からなるマルチフィラメントをノズル内では開繊させずに走行させるという観点では、圧空の噴射角度(図4の16)が、走行糸条に対して45°以下であることがより好ましい。更に、後述するノズル外での大ループを形成させるには、ノズル直後の噴射気流の安定性及び推進力が高いことが好適であり、この観点では、噴射角度が走行糸条に対して20°以下であることが特に好ましい。
次にサクションノズルにより吸引された糸条をノズル外で旋回させ、糸による大ループを形成させる工程が本発明の第2の工程になる。
このサクションノズルに導く糸条は、2フィードで行う場合と3フィードで行う場合があるが、本発明の嵩高構造糸を製造するには、2フィードによる加工を行うことが好適である。ここで言う2フィードとは、2本以上の糸に予め供給ローラなどで供給速度(量)に差をつけて、ノズルに供給する手法を意味し、後述する気流による旋回力を利用することで過剰に供給された側の糸(鞘糸)が外層に大ループを形成した嵩高糸を形成することになる。鞘糸には捲縮構造を持つループを形成した合成繊維と親水性繊維のような2種類の糸からなる場合は、該合成繊維と親水性繊維が供給クリールにて合糸してから、同一のローラによるノズルへの供給をしても良い。この2フィードを活用する場合には、ノズル内で走行糸条に撹乱、開繊及び交絡の効果を付与するインターレス加工ノズルやタスラン加工ノズルでループを有した加工糸を製造することも不可能ではない。
但し、これ等の加工ノズルで加工される糸では、ループが短周期で形成されることに加えて、そのサイズも小さくなる。このため、本発明の目的を満足する嵩高構造糸を製造するには、多数存在するパラメータを緻密に制御する必要が生じ、非常に困難なことである。また、多錘化した場合に、錘毎に加工糸の嵩高性が異なるものになるという可能性があるため、品質の安定性という観点からも後述するノズル外の気流制御を活用した手法を採用することが好適である。この点に関して、ノズル内での撹乱、開繊処理は付与せず、ノズルから離れた位置で供給された2本の糸を旋回させることで大ループが形成可能になるというコンセプトに着想し、ノズルから噴射された気流の制御という観点から鋭意検討した結果、気流速度と糸速度の比(気流速度/糸速度)が100から3000にある場合に鞘糸が開繊しながら旋回するという特異的な現象を発見した。
ここで言う気流速度とは、サクションノズルの下流から走行糸条に随伴して噴射された気流の速度を言い、ノズルの吐出径と圧空の流量により制御可能である。また、糸速度は流体加工ノズル後に加工糸を引き取るローラの周回速度等により制御することが可能である。この走行糸条の旋回力は気流と糸との速度比に依存して増減するため、目的とする嵩高糸の絡合点を強固にする場合には、該速度比を3000に近づければよいし、絡合点を緩慢にしたい場合には逆に100に近づければよい。この速度比は、例えば、圧空の流量を間歇的に変化させ、あるいは引取ローラの速度を変動させることで、絡合点の度合いに変化を持たせることも可能である。一方、本発明の嵩高構造糸を詰め物などの繰り返しの圧縮回復の変形が付与される用途に使用する場合には、気流速度/糸速度を200から2000にすることが好ましい。特に、高頻度で変形が加わるジャケット等の衣料用に用いる嵩高構造糸を製造する場合には、適度な拘束と柔軟性を付与するという観点から、気流速度/糸速度が400から1500とすることが特に好ましい。
この旋回力が発現する基点となる旋回点(図3の10)は、随伴していた気流から走行糸条を離脱させることにより開始される。具体的には、バーガイド等で糸道を変更することで良く、走行糸条の進行方向にある引取ローラ(図3の12)により、走行糸条を規定の速度で引き取ることにより芯糸の周りを鞘糸が旋回し、大ループを形成する。この旋回を起こすためのスペースとノズルから噴射された気流の拡散を利用した糸の振動によるほぐれを得るという観点から、走行糸条の旋回点は、ノズル吐出口から離れた位置にあることが好適である。但し、本発明の嵩高糸を製造するために適したノズル−旋回点間の距離は噴出した気流速度により変化するものであり、噴出気流が1.0×10−5から1.0×10−3秒間走行する間に旋回点(図3の10)が存在することが好ましい。気流の拡散とのバランスで適度な周期で芯糸と糸の絡合点を形成させるためには、ノズル−旋回点間の距離は噴出気流が2.0×10−5から5.0×10−4秒間走行する間に存在することがより好ましい。
この旋回点を調整することで、本発明の嵩高糸の絡合点の周期を制御することもできる。該絡合点は、本発明の特徴である鞘糸からなるループの自立を支えるという役割があり、ある程度の周期で存在した方が好適である。この観点から嵩高糸における芯糸と鞘糸の絡合点を1から30個/mmで存在するように旋回点を調整することが好ましい。係る範囲であれば、鞘糸の3次元捲縮を発現させた後でも、適度な間隔を有してループが存在することとなるため、好ましい。この観点を推し進めると、該絡合点は5から15個/mmで存在するように旋回点を調整することがより好ましい。
鞘糸からなる大ループが形成された嵩高加工糸(図3の11)は、形態固定や3次元的な捲縮を発現させるために、一旦巻き取った後あるいは嵩高加工に引き続いて熱処理を施すことが好ましい。図3においては、大ループ形成工程に引き続き熱処理を行う加工工程を例示している。
この熱処理は、ヒータ(図3の13)等によって嵩高加工糸(図3の11)を加熱することにより処理するものであり、加工温度は使用するポリマーの結晶化温度±30℃がその目安となる。この温度範囲での処理であれば、ポリマーの融点から処理温度が離れているため、糸間で融着して硬化した箇所がなく、異物感がなく本発明の嵩高糸の良好な触感を損ねることはない。この熱処理工程に用いるヒータは一般的な接触式あるいは非接触式のヒータを採用することができるが、熱処理前の嵩高性や糸の劣化抑制という観点では、非接触式のヒータが好適に採用される。ここで言う非接触式のヒータとは、スリット型ヒータやチューブ型ヒータ等の空気加熱式ヒータ、高温蒸気により加熱するスチームヒータ、輻射加熱を利用したハロゲンヒータやカーボンヒータ、マイクロ波ヒータ等が該当する。
ここで加熱効率という観点では、輻射加熱を利用したヒータが好ましい。加熱時間に関しては、例えば、結晶化が進み加工糸を構成する繊維の繊維構造の固定、加工糸の形態固定及び糸の捲縮発現が完了する等の時間が目安となり、処理温度及び時間にて求める特性に応じて調整することが好適である。熱処理工程が完了した加工糸はデリバリローラ(図3の14)を介して速度を規制し、張力制御機能を具備したワインダー(図3の15)等で巻き取ればよい。この巻き形状に関しては、特に限定されるものではなく、いわゆるチーズ巻きやボビン巻きとすることが可能である。また、最終的な製品への加工を考慮して、複数本を予め合糸し、トウとすることやそのままシート化することも可能である。
本発明の嵩高構造糸は、熱処理工程前後でシリコーン系油剤を均一に付着させることが好ましい。ここで付着させるシリコーンは、熱処理するなどして適度に架橋をさせることで、鞘糸及び芯糸にシリコーンの皮膜を形成させると良い。ここで言うシリコーン系油剤とは、ジメチルポリシロキサン、ハイドロジエンメチルポリシロキサン、アミノポリシロキサン、エポキシポリシロキサン等が該当し、これ等を単独あるいは混合することで使用すると良い。また、嵩高糸に均一に皮膜を形成するという観点から、シリコーン付着の目的を損なわない範囲で、分散剤、粘度調整剤、架橋促進剤、酸化防止剤、防燃剤及び静電防止剤を含有させることができる。
このシリコーン系油剤はストレートであっても、水性エマルジョンとして使用することもできるが、油剤の均一付着という観点では、水性エマルジョンとして使用することが好適である。シリコーン系油剤は、油剤ガイド、オイリングローラーまたはスプレーによる散布を利用して、質量比で嵩高糸に対して0.1〜5.0質量%付着できるように処理することが好適である。
その後任意の温度及び時間で乾燥し、架橋反応させることが好ましい。このシリコーン系油剤は、複数回に分けて付着させることも可能であり、同じ種類のシリコーンあるいは種類の異なるシリコーンを分けて付着させることで強固なシリコーン皮膜を積層させることも好適である。前述した処理により、嵩高糸にシリコーンの皮膜を形成させることで、嵩高糸の滑り性、触感が増し、本発明の効果を更に引き立たせることができる。
以下実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
各物性の測定方法について説明する。
(1)繊度
繊維の100mの重量を測定し、100倍することで繊度を算出した。これを10回繰り返し、その単純平均値の小数点第2位を四捨五入した値をその繊維の繊度とした。単糸繊度とは、その繊維を構成するフィラメント数により前述した繊度を除することにより、算出した。この場合も、小数点第2位を四捨五入した値を単糸繊度とした。
繊維の100mの重量を測定し、100倍することで繊度を算出した。これを10回繰り返し、その単純平均値の小数点第2位を四捨五入した値をその繊維の繊度とした。単糸繊度とは、その繊維を構成するフィラメント数により前述した繊度を除することにより、算出した。この場合も、小数点第2位を四捨五入した値を単糸繊度とした。
(2)絡合数
ここで言う絡合数は、芯糸の単糸間に入り込んでいる鞘糸の単糸本数をカウントする。嵩高糸から無作為に選出した10箇所において、下記のように絡合数を測定し、10回の平均を求める。
・絡合数の数え方:
(a)サンプルを1cmの長さで採取する
(b)黒用紙に、0.1cN/dtexの荷重をかけて芯糸を張った状態で両端を貼り付ける
(c)観察倍率(×100)条件で、糸長さ方向に連続で撮影する
(d)1画像の芯糸長さを測る
(e)1画像の絡合数をカウントする
(f)サンプルの絡合数=1画像内の絡合数/芯糸長さを計算する。1mm当たりの絡合数で算出する。
ここで言う絡合数は、芯糸の単糸間に入り込んでいる鞘糸の単糸本数をカウントする。嵩高糸から無作為に選出した10箇所において、下記のように絡合数を測定し、10回の平均を求める。
・絡合数の数え方:
(a)サンプルを1cmの長さで採取する
(b)黒用紙に、0.1cN/dtexの荷重をかけて芯糸を張った状態で両端を貼り付ける
(c)観察倍率(×100)条件で、糸長さ方向に連続で撮影する
(d)1画像の芯糸長さを測る
(e)1画像の絡合数をカウントする
(f)サンプルの絡合数=1画像内の絡合数/芯糸長さを計算する。1mm当たりの絡合数で算出する。
(3)捲縮形態評価(3次元捲縮、曲率半径)
嵩高糸から無作為に選出した10箇所において、各々10本以上の単糸を採取し、それぞれの単糸を(株)キーエンス社製マイクロスコープVHX−2000にて捲縮形態が確認できる倍率で観察した。この画像において、観察される単糸がらせん状に旋回した形態を有している場合には、3次元的な捲縮構造有り(評価:あり)と判定し、ストレートな形態の場合には捲縮構造無し(評価:なし)と判定した。また、同じ画像から、画像処理ソフト(WINROOF)を用いて、図2に示したような、3次元的な捲縮3に2箇所以上で最も多く内接する真円の半径を評価した。前述の通り無作為に抽出した中から3次元捲縮構造を有する計100本の単糸をミリメートル単位で小数点第2位までを測定し、この単純平均の小数点第2位を四捨五入した値を本発明の3次元的な捲縮構造の曲率半径とした。
嵩高糸から無作為に選出した10箇所において、各々10本以上の単糸を採取し、それぞれの単糸を(株)キーエンス社製マイクロスコープVHX−2000にて捲縮形態が確認できる倍率で観察した。この画像において、観察される単糸がらせん状に旋回した形態を有している場合には、3次元的な捲縮構造有り(評価:あり)と判定し、ストレートな形態の場合には捲縮構造無し(評価:なし)と判定した。また、同じ画像から、画像処理ソフト(WINROOF)を用いて、図2に示したような、3次元的な捲縮3に2箇所以上で最も多く内接する真円の半径を評価した。前述の通り無作為に抽出した中から3次元捲縮構造を有する計100本の単糸をミリメートル単位で小数点第2位までを測定し、この単純平均の小数点第2位を四捨五入した値を本発明の3次元的な捲縮構造の曲率半径とした。
(4)嵩高性、圧縮率、回復率
・嵩高性の評価方法は、規定重量あたりの膨らみ度合い(空気層を含む体積)で表すのが、一般的である。嵩高性はフィルパワーとも呼ばれている。
・嵩高性の評価方法は、規定重量あたりの膨らみ度合い(空気層を含む体積)で表すのが、一般的である。嵩高性はフィルパワーとも呼ばれている。
・前処理:本発明の詰め綿35gを温度20℃、湿度65%の環境に48時間放置して乾燥状態にする。
・投入:前処理後の詰め綿30gを内径d28.8cm×高さ50cmのシリンダー容器に入れる。その際に、詰め綿の膨らみを保って塊にならないように試料をゆっくりとシリンダーに入れる。このシリンダー容器における、高さhcmの詰め綿の体積Vは、以下の式のように表される。
詰め綿の体積V=π・d2・h/4=651×h(cm3)
詰め綿の体積V=π・d2・h/4=651×h(cm3)
・測定:下記荷重をそれぞれに詰め綿に載せた際の高さを読み取り、嵩高性、圧縮率、回復率を以下の式で求める。
嵩高性用の荷重:0.15g/cm2を載せた時の試料の高さ:h0(cm)
圧縮高さ用の荷重:6.00g/cm2を載せた時の試料の高さ:h1(cm)
回復高さ用の荷重:0.15g/cm2を載せた時の試料の高さ:h2(cm)
式A:嵩高性(cm3/30g)=651×h0
式B:圧縮率(%)=(h0−h1)/h0×100%
式C:回復率(%)=(h2−h1)/(h0−h1)×100%
嵩高性用の荷重:0.15g/cm2を載せた時の試料の高さ:h0(cm)
圧縮高さ用の荷重:6.00g/cm2を載せた時の試料の高さ:h1(cm)
回復高さ用の荷重:0.15g/cm2を載せた時の試料の高さ:h2(cm)
式A:嵩高性(cm3/30g)=651×h0
式B:圧縮率(%)=(h0−h1)/h0×100%
式C:回復率(%)=(h2−h1)/(h0−h1)×100%
嵩高性を測定する際には、シリンダーに詰め綿を入れた後に、撹拌棒でまわりから5回撹拌する。その後、0.15g/cm2の荷重円盤(円盤の直径(d:28.6cm)をゆっくりかけて、円盤のなかへ落下させ、円盤は詰め綿と接触する時に手を離して、タイマーで1分間カウントダウンする。1分間後、目盛りを見て数値(0.1cm単位まで)を記録する(h0)。測定後、円盤蓋を外して、シリンダー中の試料を撹拌棒で5回撹拌し、膨らみを回復させる。上記手順で3回繰り返して、3回の平均値のh0を求め、上記式Aにより、30g詰め綿の体積、つまり詰め綿の嵩高性を求める。
圧縮率と回復率を測定する際には、シリンダーに詰め綿を入れた後に、撹拌棒でまわりから5回撹拌する。その後、6.00g/cm2の荷重円盤をかけて、空気がシリンダーの中に残らないように円盤をゆっくり落下させ、円盤は詰め綿と接触する時に手を離して、タイマーで5分間カウントダウンする。5分間後、目盛りを見て数値(0.1cmまで)を記録し、圧縮高さとする(h1)。その後、0.15g/cm2の荷重円盤を切替て、5分後の高さ(h2)を測定し、回復高さとする。測定後、円盤蓋を外して、シリンダー中の試料を撹拌棒で5回撹拌し、膨らみを回復させる。上記手順で3回繰り返して、3回の平均値のh1,h2でそれぞれ、圧縮高さ(mm)、回復高さ(mm)を求め、上記式B、式Cにより、圧縮率と回復率を求める。
嵩高性については、5回洗濯後の乾燥状態の嵩高性[A]、50%水分率時の嵩高性[B]、35%水分率時の嵩高性[C]、50%水分率嵩高低下性[(A−B)/A]、35%水分率の嵩高低下性[(A−C)/A]を評価した。50%および35%水分率の調整方法について詳述する。中綿を純水に5分間ほど漬けた後、脱水機で脱水し、所定水分率になるまでに自然乾燥し、測定する。
(5)触感
・座布団サンプル作成:
側地としてナイロン6の20dtexのウーリ加工糸からなる平織物を使用する(タテ密度80本/2.54cm、ヨコ密度113本/2.54cm)。座布団サンプルとして21cm×21cmの側地に、本発明の詰め綿を5g充填した。
・座布団サンプル作成:
側地としてナイロン6の20dtexのウーリ加工糸からなる平織物を使用する(タテ密度80本/2.54cm、ヨコ密度113本/2.54cm)。座布団サンプルとして21cm×21cmの側地に、本発明の詰め綿を5g充填した。
・評価
該座布団サンプルを押さえた触感を下記の4段階で評価した。
S:嵩高性及び柔軟性に優れ、異物感を感じない優れた風合い。
A:嵩高性及び柔軟性を有した良好な風合い。
B:嵩高性を有し、かつ異物感を感じない程度の良好な風合い。
C:嵩高性がなく、異物感を感じる不良な風合い。
該座布団サンプルを押さえた触感を下記の4段階で評価した。
S:嵩高性及び柔軟性に優れ、異物感を感じない優れた風合い。
A:嵩高性及び柔軟性を有した良好な風合い。
B:嵩高性を有し、かつ異物感を感じない程度の良好な風合い。
C:嵩高性がなく、異物感を感じる不良な風合い。
(6)繰り返し洗濯
洗濯法は、JIS L0217 105法に準ずるものである。座布団サンプルは上記(5)と同様である。
・洗剤:中性洗剤(使用量:20g)
・水温:30℃
・洗濯浴比: 生地:水=1:60
・洗濯時間(分):25(5回)
・すすぎ浴比:生地:水=1:65
・すすぎ時間(分):20(5回)
・脱水時間(分):10(5回)
洗濯法は、JIS L0217 105法に準ずるものである。座布団サンプルは上記(5)と同様である。
・洗剤:中性洗剤(使用量:20g)
・水温:30℃
・洗濯浴比: 生地:水=1:60
・洗濯時間(分):25(5回)
・すすぎ浴比:生地:水=1:65
・すすぎ時間(分):20(5回)
・脱水時間(分):10(5回)
(7)消費熱量(保温性)の測定方法
JISL1096 保温性 A法(恒温法)に沿って、測定する。具体的には、35℃の熱板の上に所定の水分率のサンプルをおいて、その熱板の消費熱量を測定する。
A.測定器:KES-F7、精密迅速熱物性測定装置サーモラボ IIB)
B.保温率測定時の熱板温度:36℃
C.試料作成:上記(5)と同様に座布団サンプルを作成。
D.乾燥状態:温度20℃、湿度65%の環境に48時間を放置した状態という。
E.湿潤条件:純水に5分間ほど漬けた後、サンプルの水分率を50%になるように、脱水機で脱水し自然乾燥した後に、測定を開始する。測定は、水分率が5%に成る段階で終了する。50%水分率時の消費熱量、35%水分率時の消費熱量、5%水分率時の消費熱量、50%水分率時から35%水分率時の消費熱量の積分積、50%水分率時から5%水分率時の消費熱量の積分積を評価した。水分率は下式の通りである。
水分率(%)=(W1−W0)/W0×100%
W1:湿潤時の重さ(g)
W0:乾燥時の重さ(g)
JISL1096 保温性 A法(恒温法)に沿って、測定する。具体的には、35℃の熱板の上に所定の水分率のサンプルをおいて、その熱板の消費熱量を測定する。
A.測定器:KES-F7、精密迅速熱物性測定装置サーモラボ IIB)
B.保温率測定時の熱板温度:36℃
C.試料作成:上記(5)と同様に座布団サンプルを作成。
D.乾燥状態:温度20℃、湿度65%の環境に48時間を放置した状態という。
E.湿潤条件:純水に5分間ほど漬けた後、サンプルの水分率を50%になるように、脱水機で脱水し自然乾燥した後に、測定を開始する。測定は、水分率が5%に成る段階で終了する。50%水分率時の消費熱量、35%水分率時の消費熱量、5%水分率時の消費熱量、50%水分率時から35%水分率時の消費熱量の積分積、50%水分率時から5%水分率時の消費熱量の積分積を評価した。水分率は下式の通りである。
水分率(%)=(W1−W0)/W0×100%
W1:湿潤時の重さ(g)
W0:乾燥時の重さ(g)
(8)乾燥速度
上記(5)と同様な座布団サンプルを使用する。サンプルを純水に5分間、十分に浸した後、水分率を50%になるように、脱水機で脱水し、自然乾燥した後、測定を開始する。測定は、5分毎にデータ取りを行い、水分率が25%に成る段階で終了する。
上記(5)と同様な座布団サンプルを使用する。サンプルを純水に5分間、十分に浸した後、水分率を50%になるように、脱水機で脱水し、自然乾燥した後、測定を開始する。測定は、5分毎にデータ取りを行い、水分率が25%に成る段階で終了する。
(9)通気度
上記(5)と同様な座布団サンプルを使用する。側地の通気度は、JIS L1096(A法)に準じて測定した。
上記(5)と同様な座布団サンプルを使用する。側地の通気度は、JIS L1096(A法)に準じて測定した。
(10)発塵性
JISB9923タンブリング法に準じて測定する。上記(5)と同様な座布団サンプルを使用する。粒径0.3μm以上の粒子の数(個/分)を捕集し、カウントする。
JISB9923タンブリング法に準じて測定する。上記(5)と同様な座布団サンプルを使用する。粒径0.3μm以上の粒子の数(個/分)を捕集し、カウントする。
(11)吸湿発熱性(日本化学繊維協会「吸湿発熱法A法」を使用)
A.試料作成:上記(5)と同様に座布団サンプルを作成。
B.測定器:KES-F7、精密迅速熱物性測定装置サーモラボ IIB)
C.評価時の熱板温度:20℃
D.状態:座布団を熱板の上に置き、20℃×10%RHの環境から、温度20℃×90%RHへと、15分かけて変化させ、座布団側地と熱板間の温度変化を経時に測定し、開始温度(20℃)と最高到達温度の差を上昇温度として評価する。
A.試料作成:上記(5)と同様に座布団サンプルを作成。
B.測定器:KES-F7、精密迅速熱物性測定装置サーモラボ IIB)
C.評価時の熱板温度:20℃
D.状態:座布団を熱板の上に置き、20℃×10%RHの環境から、温度20℃×90%RHへと、15分かけて変化させ、座布団側地と熱板間の温度変化を経時に測定し、開始温度(20℃)と最高到達温度の差を上昇温度として評価する。
(12)吸放湿性
試料を約1g採取し、40℃×90%RHの環境雰囲気にて、24時間放置した後の質量(W1)を求め、次に20℃×65%RHの環境雰囲気にて、24時間放置した後の質量(W2)を求め、次に105℃の乾燥機にて、2時間放置し、試料の絶乾質量(W3)を求め、以下の式を用いて吸放湿性を求めた。
MR1(吸湿)=(W1−W3)/W3×100
MR2(放湿)=(W2−W3)/W3×100
吸放湿性=MR1(吸湿)― MR2(放湿)
試料を約1g採取し、40℃×90%RHの環境雰囲気にて、24時間放置した後の質量(W1)を求め、次に20℃×65%RHの環境雰囲気にて、24時間放置した後の質量(W2)を求め、次に105℃の乾燥機にて、2時間放置し、試料の絶乾質量(W3)を求め、以下の式を用いて吸放湿性を求めた。
MR1(吸湿)=(W1−W3)/W3×100
MR2(放湿)=(W2−W3)/W3×100
吸放湿性=MR1(吸湿)― MR2(放湿)
実施例1
ポリエチレンテレフタレート(PET:IV=0.65dl/g)を290℃で溶融後、計量し、紡糸パックに流入させ、図5に例示されるような3つのスリット17(スリット幅0.1mm)が同心円状に配置された中空断面用吐出孔から、中空率30%となるように吐出した。吐出された糸条に20℃の冷却風を60m/minの流れで片側から吹き付けて冷却固化後、非イオン系の紡糸油剤付与し、紡糸速度1500m/minで未延伸糸を巻き取った。引き続き、巻き取った未延伸糸を90℃と140℃に加熱したローラ間で延伸速度800m/minで3.0倍延伸し、繊度80dtex、フィラメント数12、の延伸糸(吸放湿性:0%)(以下80T−12)とした。該糸は芯糸と鞘糸1に使用した。
ポリエチレンテレフタレート(PET:IV=0.65dl/g)を290℃で溶融後、計量し、紡糸パックに流入させ、図5に例示されるような3つのスリット17(スリット幅0.1mm)が同心円状に配置された中空断面用吐出孔から、中空率30%となるように吐出した。吐出された糸条に20℃の冷却風を60m/minの流れで片側から吹き付けて冷却固化後、非イオン系の紡糸油剤付与し、紡糸速度1500m/minで未延伸糸を巻き取った。引き続き、巻き取った未延伸糸を90℃と140℃に加熱したローラ間で延伸速度800m/minで3.0倍延伸し、繊度80dtex、フィラメント数12、の延伸糸(吸放湿性:0%)(以下80T−12)とした。該糸は芯糸と鞘糸1に使用した。
一方、親水性繊維はPVP(ポリビニルピロリドン)を含有したポリアミドマルチフィラメントを使用する。その製造方法を詳述する。
PVPとして、イソプロピルアルコールを溶媒として通常の方法で合成されたK値が30のPVP(BASF社製“ルビスコール”K30スペシャルグレード:以下K30SPと略記する)を用いた。このPVP(K30SP)中のピロリドン含有量は0.02質量%であった。このPVPをエクストルーダー(φ40mm、2条、2軸)を用いて、98%硫酸相対粘度ηr が2.72のナイロン6に練り混み、ガット状に押し出し、冷却後にペレタイズすることで、PVP濃度30質量%のマスタポリマチップとした。この際、ホッパー、シリンダーに窒素を流すことで、酸素濃度を8%以下とした。
回転式真空乾燥機中で、ナイロン6チップと上記マスタポリマチップとを所定の割合でブレンドしながら通常の方法で乾燥した。乾燥して得られたブレンドチップにおけるナイロン6に対するPVPの含有率は、6質量%とした。
それぞれのブレンドチップを270℃で溶融し、52ホールのY型孔口金より吐出して、紡糸速度1300m/分、延伸倍率2.3倍、巻き取り速度3000m/分の直接紡糸延伸法により製糸して、丸断面で、78dtex、34フィラメントのPVP含有ポリアミドマルチフィラメント延伸糸(吸放湿性:3.6%)を得、鞘糸2に使用した。
得られた延伸糸(合成繊維)を図3に例示される工程にて、2個の供給ローラにそれぞれ1本ずつを供給し、一方の供給ローラを、流体加工条件の供給速度の芯糸供給速度として速度30m/min、他方の供給ローラを、流体加工条件の供給速度の鞘糸供給速度として速度600m/minとして、鞘糸1と鞘糸2を同時にサクションノズルで吸引した。流体加工条件の絡合条件として、サクションノズルのノズル供給圧は0.25Mpaとし、流量は74L/分とした。続いて、引き取りローラで30m/minで引き取った。引き続き、ローラを介して該加工糸をチューブヒータに導き、150℃の加熱空気で10秒間熱処理し、嵩高糸の形態をセットするとともに、糸に3次元的な捲縮を発現させた。該嵩高糸は、チューブヒータ後に設置された張力制御式巻取り機(ワインダー)により、30m/minでドラムに巻き取った。
続いて、ポリシロキサンが濃度8質量%で含まれたシリコーン系油剤を最終的なポリシロキサン付着量が嵩高糸に対して1質量%になるように、パッティング法で均一に塗布し、170℃の温度で5分間熱処理して加工糸を採取した。
実施例1で採取した嵩高糸は、芯糸と鞘糸の絡合点は13個/mm、鞘糸の曲率半径が6.5mmであるミリメートルオーダーの3次元的な捲縮構造を有している。
引き続き、該嵩高糸を30g採取し、詰め綿特性を測定した結果、嵩高性、圧縮率、回復率がそれぞれ、7500cm3/30g、94%、83%であり、触感評価では、嵩高性及び柔軟性に優れ、異物感を感じない優れた風合い(S)が得られた。なお、湿潤時の嵩高低下性、および吸湿発熱性、乾燥速度、発塵性いずれも良好な結果が得られた。結果を表1に示す。
実施例2、3
鞘糸2は実施例1と同様なPVP含有のナイロン糸を使用するが、繊度とf数を変更して44dtex、13フィラメント(44T−13)(実施例2)、156dtex、68フィラメント(156T−68)(実施例3)の糸を製造した。他の製造方法はすべて実施例1と同様に行った。実施例2においては、吸湿発熱性が若干劣るものの、ナイロンの比率が若干低いため、中綿での嵩高性、圧縮高さ、回復高さが若干優位にあり、触感評価でも嵩高性及び柔軟性を有した良好な風合い(S)が得られた。湿潤時の嵩高低下性や、乾燥速度、発塵性は問題なかった。結果を表1に示す。実施例3においては、ナイロン糸の比率が多いため、吸湿発熱性が実施例1より優位にあったものの、中綿での嵩高性、圧縮高さ、回復高さが若干劣った結果となったが、触感評価では良好な風合い(A)が得られた。結果を表1に示す。
鞘糸2は実施例1と同様なPVP含有のナイロン糸を使用するが、繊度とf数を変更して44dtex、13フィラメント(44T−13)(実施例2)、156dtex、68フィラメント(156T−68)(実施例3)の糸を製造した。他の製造方法はすべて実施例1と同様に行った。実施例2においては、吸湿発熱性が若干劣るものの、ナイロンの比率が若干低いため、中綿での嵩高性、圧縮高さ、回復高さが若干優位にあり、触感評価でも嵩高性及び柔軟性を有した良好な風合い(S)が得られた。湿潤時の嵩高低下性や、乾燥速度、発塵性は問題なかった。結果を表1に示す。実施例3においては、ナイロン糸の比率が多いため、吸湿発熱性が実施例1より優位にあったものの、中綿での嵩高性、圧縮高さ、回復高さが若干劣った結果となったが、触感評価では良好な風合い(A)が得られた。結果を表1に示す。
実施例4
鞘糸2は市販のレーヨンフィラメント(84dtex、13フィラメント(84T−13))(吸放湿性:4.0%)を使用する以外には、すべて実施例1に従い実施した。レーヨン糸は上記PVP含有ナイロンより親水基が多いため、嵩高構造糸の吸放湿性が2.0%と高く、吸湿発熱性も3.0℃と高い数値を得られた。しかし、レーヨンのヤング率がナイロン糸より高いため、中綿の触診評価では、やや風合いが硬くて、Bとした。結果を表1に示す。
鞘糸2は市販のレーヨンフィラメント(84dtex、13フィラメント(84T−13))(吸放湿性:4.0%)を使用する以外には、すべて実施例1に従い実施した。レーヨン糸は上記PVP含有ナイロンより親水基が多いため、嵩高構造糸の吸放湿性が2.0%と高く、吸湿発熱性も3.0℃と高い数値を得られた。しかし、レーヨンのヤング率がナイロン糸より高いため、中綿の触診評価では、やや風合いが硬くて、Bとした。結果を表1に示す。
実施例5
鞘糸2はPEG共重合のナイロン6(吸放湿性:6.0%)を使用する以外には、実施例1と同様に実施した。鞘糸2の製造方法を詳述する。鞘糸2は芯鞘複合糸で、鞘部はナイロン6、芯部は高い吸湿性能を有するポリエーテルエステルアミド重合体(主成分:分子量1500のポリエチレンエステルグリコール(PEG))を別々に溶融しギアポンプにて計量・輸送し、同心円芯鞘複合用紡糸口金から芯/鞘比率(重量部)=30/70、総繊度、フィラメント数をそれぞれ56T、24fになるように紡糸した。該鞘糸2はPEGを含有しているため、嵩高構造糸の吸放湿性が2.5%と高く、吸湿発熱性も2.7℃と高い数値を得られた。そのほかに、中綿での嵩高性、圧縮高さ、回復高さも良好で、触感評価では良好な風合い(A)が得られた。結果を表1に示す。
鞘糸2はPEG共重合のナイロン6(吸放湿性:6.0%)を使用する以外には、実施例1と同様に実施した。鞘糸2の製造方法を詳述する。鞘糸2は芯鞘複合糸で、鞘部はナイロン6、芯部は高い吸湿性能を有するポリエーテルエステルアミド重合体(主成分:分子量1500のポリエチレンエステルグリコール(PEG))を別々に溶融しギアポンプにて計量・輸送し、同心円芯鞘複合用紡糸口金から芯/鞘比率(重量部)=30/70、総繊度、フィラメント数をそれぞれ56T、24fになるように紡糸した。該鞘糸2はPEGを含有しているため、嵩高構造糸の吸放湿性が2.5%と高く、吸湿発熱性も2.7℃と高い数値を得られた。そのほかに、中綿での嵩高性、圧縮高さ、回復高さも良好で、触感評価では良好な風合い(A)が得られた。結果を表1に示す。
実施例6
芯糸は市販のポリウレタン繊維33T−1を使用、鞘糸1と鞘2は実施例1と同様な糸を使い、実施例1の方法に従い、嵩高構造糸を製造した。嵩高構造糸を10%伸長時の伸長回復率が90%があり、優れているストレッチバック性を有している。一方、親水性繊維としてPVP共重合ナイロンを使用したため、吸湿発熱性については2.7℃を得られた。触感評価では、嵩高性及び柔軟性に優れ、異物感を感じない優れた風合い(A)が得られた。なお、湿潤時の嵩高低下性、および吸湿発熱性、乾燥速度、発塵性いずれも良好な結果が得られた。結果を表1に示す。
芯糸は市販のポリウレタン繊維33T−1を使用、鞘糸1と鞘2は実施例1と同様な糸を使い、実施例1の方法に従い、嵩高構造糸を製造した。嵩高構造糸を10%伸長時の伸長回復率が90%があり、優れているストレッチバック性を有している。一方、親水性繊維としてPVP共重合ナイロンを使用したため、吸湿発熱性については2.7℃を得られた。触感評価では、嵩高性及び柔軟性に優れ、異物感を感じない優れた風合い(A)が得られた。なお、湿潤時の嵩高低下性、および吸湿発熱性、乾燥速度、発塵性いずれも良好な結果が得られた。結果を表1に示す。
実施例7
芯糸は実施例5で用いたポリウレタン繊維33T−1を用い、それ以外はすべて実施例1に従い実施した。嵩高構造糸を10%伸長時の伸長回復率が85%があり、優れているストレッチバック性を有している。一方、親水性繊維としてPVP含有ナイロンを使用したため、吸湿発熱性も2℃があった。触感評価では、嵩高性及び柔軟性に優れ、異物感を感じない優れた風合い(A)が得られた。なお、湿潤時の嵩高低下性、および乾燥速度、発塵性いずれも良好な結果が得られた。結果を表1に示す。
芯糸は実施例5で用いたポリウレタン繊維33T−1を用い、それ以外はすべて実施例1に従い実施した。嵩高構造糸を10%伸長時の伸長回復率が85%があり、優れているストレッチバック性を有している。一方、親水性繊維としてPVP含有ナイロンを使用したため、吸湿発熱性も2℃があった。触感評価では、嵩高性及び柔軟性に優れ、異物感を感じない優れた風合い(A)が得られた。なお、湿潤時の嵩高低下性、および乾燥速度、発塵性いずれも良好な結果が得られた。結果を表1に示す。
実施例8
鞘糸1の紡糸は実施例1の紡糸条件において、冷却風の風速を20m/minに変更した以外は実施例1と同様に、実施した。実施例8においては、嵩高構造糸としては、PVP含有ナイロンを使用したため、吸放湿性は1.8%であったが、3次元的な捲縮構造を有してないため、吸湿発熱性が0.8℃とやや劣る結果であった。触感評価では、捲縮構造がないため、嵩高性および柔軟性がやや劣り、風合い(B)が得られた。評価を表1に示す。
鞘糸1の紡糸は実施例1の紡糸条件において、冷却風の風速を20m/minに変更した以外は実施例1と同様に、実施した。実施例8においては、嵩高構造糸としては、PVP含有ナイロンを使用したため、吸放湿性は1.8%であったが、3次元的な捲縮構造を有してないため、吸湿発熱性が0.8℃とやや劣る結果であった。触感評価では、捲縮構造がないため、嵩高性および柔軟性がやや劣り、風合い(B)が得られた。評価を表1に示す。
比較例1
鞘糸2を用いず、芯糸、鞘糸1共に実施例1に用いた80T−12を用い、それ以外はすべて実施例1に従い実施した。嵩高構造糸としては、ポリエステル素材100%使いのために、吸放湿性は0.2%と僅かがあったため、吸湿発熱性は0.5℃と実用レベルに到達できなかった。ストレッチバック性も得られなかったが、触感評価では、嵩高性及び柔軟性に優れ、異物感を感じない優れた風合い(A)が得られた。なお、湿潤時の嵩高低下性、および乾燥速度、発塵性いずれも良好な結果が得られた。結果を表1に示す。
鞘糸2を用いず、芯糸、鞘糸1共に実施例1に用いた80T−12を用い、それ以外はすべて実施例1に従い実施した。嵩高構造糸としては、ポリエステル素材100%使いのために、吸放湿性は0.2%と僅かがあったため、吸湿発熱性は0.5℃と実用レベルに到達できなかった。ストレッチバック性も得られなかったが、触感評価では、嵩高性及び柔軟性に優れ、異物感を感じない優れた風合い(A)が得られた。なお、湿潤時の嵩高低下性、および乾燥速度、発塵性いずれも良好な結果が得られた。結果を表1に示す。
比較例2
鞘糸2を使用せず、鞘糸1の紡糸は実施例1の紡糸条件において、冷却風の風速を20m/minに変更した以外は実施例1と同様に、実施した。比較例2においては、比較例1同様、吸放湿性は0.2%と僅かなため、吸湿発熱性は0.5℃と体感出来るレベルではなかった。一方、3次元的な捲縮形態を有していないため、嵩高性、圧縮高さ、回復高さが劣り、触感評価でも嵩高性がなく、異物感を感じる不良な風合い(C)となった。結果を表1に示す。
鞘糸2を使用せず、鞘糸1の紡糸は実施例1の紡糸条件において、冷却風の風速を20m/minに変更した以外は実施例1と同様に、実施した。比較例2においては、比較例1同様、吸放湿性は0.2%と僅かなため、吸湿発熱性は0.5℃と体感出来るレベルではなかった。一方、3次元的な捲縮形態を有していないため、嵩高性、圧縮高さ、回復高さが劣り、触感評価でも嵩高性がなく、異物感を感じる不良な風合い(C)となった。結果を表1に示す。
参考例
一般市販のダウンジャケットから、天然羽毛30gを採集し、詰め綿の特性を実施例1同様に評価した。触感評価では、嵩高性及び柔軟性に優れ、異物感を感じない優れた風合い(S)が得られた。しかし、湿潤時の嵩高性の低下が大きく、消費熱量、乾燥速度、発塵性いずれも実施例1〜3に及ばない結果であった。結果を表1に示す。
一般市販のダウンジャケットから、天然羽毛30gを採集し、詰め綿の特性を実施例1同様に評価した。触感評価では、嵩高性及び柔軟性に優れ、異物感を感じない優れた風合い(S)が得られた。しかし、湿潤時の嵩高性の低下が大きく、消費熱量、乾燥速度、発塵性いずれも実施例1〜3に及ばない結果であった。結果を表1に示す。
1−1 鞘糸1
1−2 鞘糸2
2 芯糸
3 3次元的な捲縮
7 供給ローラ
8 芯糸
9 サクションノズル
10 旋回点
11 嵩高構造糸
12 引き取りローラ
13 ヒータ
14 デリバリローラ
15 ワインダー
16 圧空の噴射角度
17 スリット
1−2 鞘糸2
2 芯糸
3 3次元的な捲縮
7 供給ローラ
8 芯糸
9 サクションノズル
10 旋回点
11 嵩高構造糸
12 引き取りローラ
13 ヒータ
14 デリバリローラ
15 ワインダー
16 圧空の噴射角度
17 スリット
Claims (14)
- ループを形成する鞘糸と該鞘糸と絡合することで実質的に鞘糸を固定する芯糸から構成され、吸放湿性が1.0%以上である嵩高構造糸。
- 連続的な捲縮構造を有するループを形成する鞘糸と芯糸から構成され、芯糸と鞘糸の絡合点が繊維軸方向に、1〜30個/mm存在し、且つループが3次元的な捲縮構造を呈し、曲率半径が2.0〜30.0mmである請求項1記載の嵩高構造糸。
- 鞘糸全体に対し親水性繊維を10〜90質量%含む請求項1または2に記載の嵩高構造糸。
- 芯糸が弾性繊維から構成され、10%伸長時の伸長回復率が50%以上ある請求項1〜3いずれかに記載の嵩高構造糸。
- 請求項1〜4いずれかに記載の嵩高構造糸で構成された、中綿。
- 乾燥状態の嵩高性が7000cm3/30g以上であり、かつ圧縮率は70%以上であり、回復率は50%以上である請求項5記載の中綿。
- 湿潤時の嵩高低下性として、下記(1)式および下記(2)式を満足する請求項5または6記載の中綿。
(A−B)/A≦0.3 ・・・(1)
(A−C)/A≦0.2 ・・・(2)
A:乾燥状態の嵩高性(cm3/30g)
B:湿潤状態(水分率50%)の嵩高性(cm3/30g)
C:湿潤状態(水分率35%)の嵩高性(cm3/30g) - 上記請求項1〜4のいずれか記載の嵩高構造糸または請求項5〜7いずれか記載の中綿を含む繊維詰め物体
- 前記嵩高構造糸を複数含み、糸束、シート状から選択された形態を有する中綿が、側地とキルト縫いされている請求項8記載の繊維詰め物体。
- 吸湿発熱性が1℃以上である請求項8または9記載の繊維詰め物体。
- 50%水分率から25%水分率に到達する際の乾燥時間が50分以下である請求項8〜10何れか記載の繊維詰め物体。
- 側地が、通気度が0.8cc/cm2・秒以上、200cc/cm2・秒以下である織編物からなる、請求項8〜11のいずれかに記載の繊維詰め物体。
- 発塵性が100個/分以下である請求項8〜12のいずれかに記載の繊維詰め物体。
- 上記請求項1〜13のいずれかに記載の繊維詰め物体が少なくとも1部に使用された繊維製品。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2018045214A JP2019157296A (ja) | 2018-03-13 | 2018-03-13 | 嵩高構造糸、中綿、及びそれを用いた繊維詰め物体および繊維製品 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2018045214A JP2019157296A (ja) | 2018-03-13 | 2018-03-13 | 嵩高構造糸、中綿、及びそれを用いた繊維詰め物体および繊維製品 |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2019157296A true JP2019157296A (ja) | 2019-09-19 |
Family
ID=67995819
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2018045214A Pending JP2019157296A (ja) | 2018-03-13 | 2018-03-13 | 嵩高構造糸、中綿、及びそれを用いた繊維詰め物体および繊維製品 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP2019157296A (ja) |
Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP7473957B2 (ja) | 2020-06-18 | 2024-04-24 | フレックスジャパン株式会社 | マスク |
-
2018
- 2018-03-13 JP JP2018045214A patent/JP2019157296A/ja active Pending
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