JP2019156807A - 抗ヒトcd26モノクローナル抗体 - Google Patents

抗ヒトcd26モノクローナル抗体 Download PDF

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Abstract

【課題】免疫組織染色に適した抗ヒトCD26モノクローナル抗体の提供。【解決手段】免疫染色用に処理されたがん組織のヒトCD26及び免疫染色用に処理された正常組織のヒトCD26の両者に結合する抗ヒトCD26モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片。【選択図】なし

Description

本発明は、変性ヒトCD26への結合親和性が極めて高い性質を有する、免疫染色に有用な抗ヒトCD26モノクローナル抗体に関する。
CD26はヒト末梢血リンパ球ではメモリーT細胞上に強く発現している。静止期にあるヒトT細胞上のCD26の発現をフローサイトメトリーで検討すると、その発現強度は3相性のパターンを示し、CD26を高発現する集団(CD26high又はCD26brightという)と、CD26を中程度に発現する集団(CD26int又はCD26intermediateという)と、CD26を発現しない集団(CD26negativeという)との3つの集団に分けることができる。ここで、CD26highの集団が免疫応答において特に重要な役割を果たしていると考えられている。CD26highの集団はCD45ROを発現するメモリーT細胞に属し、破傷風トキソイドのようなメモリー抗原に反応するほか、B細胞の抗体産性を誘導し、MHCクラスI特異的なキラーT細胞の誘導活性をも有する。CD26陽性T細胞はIL−2、IFN−γ等のサイトカインを分泌するTH1型の細胞である。この細胞は血管内皮細胞間の遊走能を有し、炎症部位への移動、集積を起こし、炎症局所で重要な役割を果たしていると考えられている。
また、本発明者らは、CD8陽性T細胞においても、CD26共刺激によって細胞障害活性が制御されていることを発見した。さらに、本発明者らは、ヒト末梢血単核球をNOD/Shi−scid−IL2Rγnullマウス(NOGマウス)に移植して異種GVHD(移植片対宿主病)を発症するモデルを用いて、抗ヒトCD26ヒト化抗体によるT細胞の活性化制御が、GVHDの予防や治療に極めて有効であることを発見した(非特許文献1)。CD26は、様々ながん、例えば、悪性中皮腫、腎がん、大腸がん、肺がん、前立腺がん、甲状腺がん、消化管間質腫瘍(GIST)、T細胞性悪性リンパ腫、グリオーマ等にも発現している(非特許文献2)。CD26陽性の消化管間質腫瘍(GIST)、大腸がん、甲状腺がん、尿路上皮がん患者では予後が非常に悪いことも報告されている(非特許文献3)。また、CD26は、悪性中皮腫、大腸がん、慢性骨髄性白血病等ではがん幹細胞のマーカーとも報告されている(非特許文献3)。
本発明者らは、悪性中皮腫、腎がん、悪性リンパ腫等においてCD26抗体が極めて有効な抗腫瘍効果を発揮することを報告し、抗ヒトCD26ヒト化抗体YS110を開発して、フランスにて、CD26陽性悪性中皮腫及びその他のCD26陽性腫瘍をターゲットとした第I相臨床試験を行い、安全性が確認された(抗ヒトCD26ヒト化抗体療法)(特許文献1、非特許文献4)。その結果を踏まえ、現在、日本国内でもCD26陽性悪性中皮腫をターゲットとした第I/II相臨床試験を行っている。
近年、治療薬の有効性や副作用を予測するために、治療薬とセットで使われる診断薬(いわゆる「コンパニオン診断薬」ともいう)を、治療薬とともに早期から開発する動きが活発化している。コンパニオン診断薬は、標的分子の発現や変異の有無、薬剤代謝酵素の遺伝子多型等の診断に利用することができる。抗ヒトCD26ヒト化抗体を用いた治療に関しても、例えば、治療適用患者の選択や治療効果の追跡等のために、がん組織や免疫組織等におけるヒトCD26の発現の解析等を行うことが望ましい。かかる解析等を可能にする、免疫染色に用いることも可能な、抗ヒトCD26抗体の開発の必要性が存在する。
しかしながら、本発明者らがこれまでに開発したマウス抗ヒトCD26モノクローナル抗体4G8、1F7、5F8、2F9、16D4B、9C11は、免疫染色に用いることはできない。
また、研究用試薬として市販されている抗ヒトCD26モノクローナル抗体23クローンを用いて免疫染色を検討したところ、ほとんどがホルマリン固定パラフィン包埋された病理組織中のヒトCD26を検出することができず、MBL社のマウス抗ヒトCD26モノクローナル抗体クローン44−4(カタログ番号D068−1)で免疫染色を行っても、明瞭な染色性は示さず、染色される箇所のバラツキが大きいことから、信頼できるものではなかった。
一方、市販されている抗ヒトCD26ポリクローナル抗体5製品を用いて免疫染色を検討した結果、R&D Systems社のヤギ抗ヒトCD26ポリクローナル抗体(カタログ番号AF1180; http://www.rndsystems.com/Products/AF1180)及びNovus社のウサギ抗ヒトCD26ポリクローナル抗体(カタログ番号NB100−59021;http://www.novusbio.com/CD26-Antibody_NB100-59021.html)は、病理組織の臨床診断に耐え得る明瞭な染色性を示すことが判明した。しかしながら、これらの抗ヒトCD26抗体はポリクローナル抗体であるため、ロット差と安定供給性が一番の問題となる。すなわち、ポリクローナル抗体では、異なるロットの抗体で染色すると、染色強度や染色パターンに違いが生じるおそれがあることから、例えば安定した結果が常に必要とされる臨床診断薬に、ポリクローナル抗体を用いることは適切ではない。また、市販のポリクローナル抗体は突然製造中止になることがよくあり、その点からもポリクローナル抗体を臨床診断薬に用いることは適切ではない。
本発明者らは、免疫染色に使用可能な抗ヒトCD26モノクローナル抗体としてクローン19(NITE BP−01642)、クローン18(NITE BP−01643)、クローン16(NITE BP−01644)の作製に成功し、特許出願した(特許文献2)。
国際公開第2008/114876号 国際公開第2015/016267号
Hatano R, Ohnuma K, Yamamoto J, Dang NH, Yamada T, Morimoto C (2013) Prevention of acute graft-versus-host disease by humanized anti-CD26 monoclonal antibody. Br J Haematol. 2013; 162: 263-277 Havre PA, Abe M, Urasaki Y, Ohnuma K, Morimoto C, Dang NH (2008) The role of CD26/dipeptidyl peptidase IV in cancer. Front Biosci. 2008; 13: 1634-1645. Hatano R, Ohnuma K, Yamada T, Okamoto T, Komiya E, Otsuka H, Itoh T, Yamazaki H, Iwao N, Kaneko Y, Dang NH, Morimoto C. The use of the humanized anti-CD26 monoclonal antibody YS110 as a novel targeted therapy for refractory cancers and immune disorders. Advances in Medicine and Biology. 2018; Volume 129: Chapter 1: 1-44. Angevin E, Isambert N, Trillet-Lenoir V, You B, Alexandre J, Zalcman G, Vielh P, Farace F, Valleix F, Podoll T, Kuramochi Y, Miyashita I, Hosono O, Dang NH, Ohnuma K, Yamada T, Kaneko Y, Morimoto C. First-in-Human phase 1 of YS110, a monoclonal antibody directed against CD26 in advanced CD26-expressing cancers. Br J Cancer. 2017; 116: 1126-1134.
前記特許文献2記載のモノクローナル抗体を使用して免疫染色を行うべく、正常組織及びがん組織の固定組織標本を作製して免疫染色してきたところ、正常組織では十分な染色性が得られた一方で、がん組織ではがん細胞に非特異的な染色が見られることがあり、がん組織におけるヒトCD26発現の正確な臨床診断を行うには、さらに良好な染色性を示すモノクローナル抗体が必要であることが判明した。
従って、本発明の課題は、がんの病理組織の臨床診断に耐え得る明瞭な染色性を示す新たな抗ヒトCD26モノクローナル抗体を提供することにある。
そこで本発明者らは、さらに新たな抗ヒトCD26モノクローナル抗体を見出すべく、種々検討したところ、免疫染色用に処理されたがん組織のヒトCD26及び免疫染色用に処理された正常組織のヒトCD26の両者を明瞭に染色することができる抗ヒトCD26モノクローナル抗体の作製に成功し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、次の〔1〕〜〔6〕を提供するものである。
〔1〕免疫染色用に処理されたがん組織のヒトCD26及び免疫染色用に処理された正常組織のヒトCD26の両者に結合する抗ヒトCD26モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片。
〔2〕重鎖CDR1が配列番号1で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、重鎖CDR2が配列番号2で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、重鎖CDR3が配列番号3で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、軽鎖CDR1が配列番号4若しくは配列番号7で示されるアミノ酸配列又はこれらのアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、軽鎖CDR2が配列番号5若しくは配列番号8で示されるアミノ酸配列又はこれらのアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、軽鎖CDR3が配列番号6若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列又はこれらのアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる〔1〕記載の抗ヒトCD26モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片。
〔3〕重鎖CDR1が配列番号1で示されるアミノ酸配列からなり、重鎖CDR2が配列番号2で示されるアミノ酸配列からなり、重鎖CDR3が配列番号3で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列からなり、軽鎖CDR1が配列番号4又は配列番号7で示されるアミノ酸配列からなり、軽鎖CDR2が配列番号5又は配列番号8で示されるアミノ酸配列からなり、軽鎖CDR3が配列番号6又は配列番号9で示されるアミノ酸配列からなる〔1〕記載の抗ヒトCD26モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片。
〔4〕受託番号NITE P−02618として寄託されたハイブリドーマ又は受託番号NITE P−02619として寄託されたハイブリドーマによって産生される〔1〕又は〔3〕記載の抗ヒトCD26モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片。
〔5〕〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の抗ヒトCD26モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片を含有するヒトCD26免疫染色用組成物。
〔6〕〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の抗ヒトCD26モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片を使用することを特徴とする、固定組織標本中のヒトCD26免疫染色方法。
本発明の抗ヒトCD26モノクローナル抗体又はその抗原性断片を用いれば、免疫染色用に処理されたがん組織のヒトCD26及び免疫染色用に処理された正常組織のヒトCD26の両者が明瞭に免疫染色でき、実際の病理組織(ホルマリン処理や、パラフィン包埋された固定組織標本)を臨床診断することができる。従って、本発明の抗ヒトCD26モノクローナル抗体又はその抗原性断片を用いれば、ヒトCD26関連疾患の治療用抗体の投与の適合性を判定することができる。
本発明に用いたヒトCD26陽性/陰性がん細胞株の、ヒトCD26mRNA発現量を示す図である。CD26を発現していない(CD26陰性の)ヒト悪性胸膜中皮腫株MSTO(MSTO parent)に、CD26を遺伝子導入したMSTO−CD26、及び、CD26を発現している(CD26陽性の)ヒト悪性胸膜中皮腫株JMNに、shRNAを導入してCD26の発現をノックダウンしたJMN CD26−shRNAと、CD26の発現には影響しない対照shRNAを導入したJMN ctrl−shRNA、CD26陰性のヒト肺がん株A549、CD26陰性のヒトT細胞性白血病細胞株Jurkat(Jurkat parent)に、CD26を遺伝子導入したJurkat−CD26をそれぞれ溶解し、Total RNAを抽出した後、逆転写酵素を用いて相補的DNA(cDNA)を合成した。その後、CD26の遺伝子配列に特異的なプライマーとSYBR Green色素の存在下でPCR反応を行い、蛍光強度から細胞ごとのCD26mRNA量の定量をした。図はそれぞれの細胞の、ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)1に対するCD26の相対発現量の結果を示した。 本発明に用いたヒトCD26陽性/陰性細胞株の、細胞膜上のヒトCD26タンパク質の発現を示す図である。ヒトCD26を発現している(CD26陽性の)がん細胞株(MSTO−CD26、JMN ctrl−shRNA、Jurkat−CD26)、及び、ヒトCD26を発現していない(CD26陰性の)がん細胞株(MSTO parent、JMN CD26−shRNA、A549、Jurkat parent)を市販のPE標識抗ヒトCD26マウスIgG抗体、または、PE標識アイソタイプコントロール(マウスIgG)抗体で染色し、フローサイトメーターで解析した。横軸が各細胞のPEの蛍光強度を示しており、蛍光強度が高いほど、一つの細胞あたりにヒトCD26抗体がたくさん結合していることを意味する。縦軸はいずれも染色していない色素の蛍光強度を示している。 各ハイブリドーマクローンの培養上清から精製したIgG画分、又はR&D Systems社の精製抗ヒトCD26ポリクローナル抗体を用いた、細胞ブロックの免疫染色の結果を示す図である。ホルマリン固定パラフィン包埋した、ヒトCD26を発現しているがん細胞株(MSTO−CD26、JMN ctrl−sh)、及び、ヒトCD26を発現していないがん細胞株(MSTO parent、JMN CD26−sh、A549)の各細胞ブロック標本に対して、精製抗体を用いて免疫染色を行った結果である。 各ハイブリドーマクローンの培養上清から精製したIgG画分を用いた、細胞ブロックの免疫染色(吸収試験)の結果を示す図である。ホルマリン固定パラフィン包埋した、ヒトCD26を発現しているがん細胞株(MSTO−CD26、JMN ctrl−sh)の各細胞ブロック標本に対して、過剰量のヒトCD26タンパク質と一晩反応させた精製抗体を用いて免疫染色を行った結果である。 各ハイブリドーマクローンの培養上清から精製したIgG画分、又はR&D Systems社の精製抗ヒトCD26ポリクローナル抗体を用いた、病理組織の免疫染色の結果を示す図である。ホルマリン固定パラフィン包埋した、ヒトCD26を発現しているヒト正常組織(肝臓、腎臓、前立腺)、及び、悪性中皮腫の各組織標本に対して、精製抗体を用いて免疫染色を行った結果である。 各ハイブリドーマクローンの培養上清から精製したIgG画分、又はR&D Systems社の精製抗ヒトCD26ポリクローナル抗体を用いた、病理組織の免疫染色の結果を示す図である。ホルマリン固定パラフィン包埋した、ヒトCD26を発現している肝細胞がん、腎細胞がん、前立腺がん、大腸腺がん、肺腺がんの各組織標本に対して、精製抗体を用いて免疫染色を行った結果である。 各ハイブリドーマクローンの培養上清から精製したIgG画分、又はR&D Systems社の精製抗ヒトCD26ポリクローナル抗体を用いた、病理組織の免疫染色の結果を示す図である。ホルマリン固定後に脱灰操作を行い、パラフィン包埋した、ヒトCD26を発現しているヒト正常骨および骨髄の組織標本に対して、精製抗体を用いて免疫染色を行った結果である。 各ハイブリドーマクローンの培養上清から精製したIgG画分、又はR&D Systems社の精製抗ヒトCD26ポリクローナル抗体を用いた、ウェスタンブロットの結果を示す図である。ヒトCD26を発現しているがん細胞株(MSTO−CD26、JMN ctrl−shRNA、Jurkat−CD26)、及び、ヒトCD26を発現していないがん細胞株(MSTO parent、JMN CD26−shRNA、A549、Jurkat parent)をそれぞれ氷上でRIPA bufferで溶解し、還元剤(DTT)を含むSDS sample bufferを添加して、煮沸処理を行った各サンプルに対して、精製抗体を用いてウェスタンブロットを行った結果である。各サンプル等量のタンパク質が泳動・転写されていることの確認として、CD26の検出を行った後、同じメンブレンを用いてβ−actinで再ブロットを行った。 各ハイブリドーマクローンの培養上清から精製したIgG画分、又はR&D Systems社の精製抗ヒトCD26ポリクローナル抗体を用いた、フローサイトメトリーの結果を示す図である。ヒトCD26を発現しているがん細胞株(MSTO−CD26、JMN ctrl−shRNA、Jurkat−CD26)、及び、ヒトCD26を発現していないがん細胞株(MSTO parent、JMN CD26−shRNA、A549、Jurkat parent)を市販のPE標識抗ヒトCD26マウスIgG抗体、または、PE標識アイソタイプコントロール(マウスIgG)抗体で染色、若しくは未標識の抗ヒトCD26精製抗体を添加して結合させ、次いで、二次抗体(PE標識抗マウスIgG抗体、又は抗ヤギIgG抗体)で染色し、フローサイトメーターで解析した。図は、各種抗ヒトCD26抗体のヒトCD26への結合をヒストグラムで示したもので、横軸が各細胞のPEの蛍光強度を示しており、蛍光強度が高いほど、一つの細胞あたりにヒトCD26抗体がたくさん結合していることを意味する。縦軸は細胞数を示している。なお、MFIは平均蛍光強度の略語であり、データとして取り込んだ全細胞それぞれの蛍光強度の総和を全細胞数で割った値(=平均値)を示しており、値が高いほど一つの細胞に抗体がたくさん結合していること、すなわち発現が高いことを意味する。 各ハイブリドーマクローンの培養上清から精製したIgG画分、又はR&D Systems社の精製抗ヒトCD26ポリクローナル抗体を用いた、Enzyme−Linked Immuno Sorbent Assay(ELISA)の結果を示す図である。非変性の可溶性ヒトCD26(「sCD26」ともいう)、及び、煮沸処理を施した変性可溶性ヒトCD26を、ELISA用プレートにそれぞれ濃度をふって固相化し、各種抗ヒトCD26精製抗体を添加して結合させた。次いで、二次抗体(西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合抗マウスIgG抗体、又は抗ヤギIgG抗体)を反応させ、プレートリーダーで、450nmにおける吸光値(吸収波長)を測定した。
本発明のモノクローナル抗体は、抗ヒトCD26モノクローナル抗体であり、免疫染色用に処理されたがん組織のヒトCD26、及び免疫染色用に処理された正常組織のヒトCD26の両者に結合する抗体である。
本発明において、モノクローナル抗体は、実質的に均一な抗体のポピュレーションから得られる抗体を意味する。すなわち、そのポピュレーションに含まれる個々の抗体は、若干存在し得る可能性のある天然の突然変異体を除いて同一である。モノクローナル抗体は、単一抗原部位に対するものであり、非常に特異的である。さらに、異なる抗原や異なるエピトープを標的とする典型的なポリクローナル抗体とは対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原の単一のエピトープを標的とするものである。修飾語「モノクローナル」は、実質的に均一な抗体ポピュレーションから得られる抗体の特性を示し、特定の方法による抗体の生産を必要とするものとして限定的に解されるべきではない。
抗原結合性断片は、当該抗体の機能的、構造的断片であって、当該抗体が結合可能な抗原に対する結合性を保持しているものであれば特に限定されない。抗原結合性断片の例としては、限定はされないが、Fab、Fab’、F(ab’)、Fv、1本鎖(ScFv)、それらの変異体、抗体部分を含む融合タンパク質、及び、抗原認識部位を含む免疫グロブリン分子の他の修飾構造体等が挙げられる。抗体は、IgG、IgA又はIgM(又はこれらのサブクラス)等の任意のクラスであってよく、特定のクラスに限定されない。重鎖の定常ドメインの抗体アミノ酸配列により、免疫グロブリンは、異なるクラスに分類される。5つの主な免疫グロブリンのクラス:IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMがあり、これらの幾つかは、例えば、IgG、IgG、IgG、IgG、IgA及びIgAというサブクラス(アイソタイプ)にさらに細分化され得る。異なるクラスの免疫グロブリンの対応する重鎖の定常ドメインは、それぞれ、α、δ、ε、γ及びμと呼ばれている。
一態様において、本発明の抗ヒトCD26モノクローナル抗体は、IgG抗体であり、例えば、IgG抗体又はIgG抗体等であってよい。
抗体の可変領域は、抗体軽鎖の可変領域及び/又は抗体重鎖の可変領域を意味してよい。重鎖及び軽鎖の可変領域は、それぞれ、超可変領域としても知られる3つの相補性決定領域(CDR)により連結される4つのフレームワーク領域(FR)からなる。各鎖におけるCDRは、FRにより、近傍に保持されており、他方の鎖におけるCDRと共に、抗体の抗原結合部位の形成に寄与している。CDRを決定するための技術としては、限定はされないが、例えば、(1)異種間配列可変性に基づくアプローチ(例えば、Kabat et al, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., 1991, National Institutes of Health, Bethesda MD);及び(2)抗原−抗体複合体の結晶構造学的研究に基づくアプローチ(Al-lazikani et al., 1997 J. Molec. Biol. 273:927-948)が挙げられる。これらの2つのアプローチを組合せて用いてもよい。
抗体の定常領域は、抗体軽鎖の定常領域及び/又は抗体重鎖の定常領域を意味してよい。
「特異的に結合する」という用語は、当該技術分野において当業者に周知の用語であり、抗体等の、抗原やエピトープに対する特異的な結合を決定するための方法も周知である。例えば、特異的にCD26のエピトープに結合する抗体又はその抗原結合性断片は、他のエピトープ又は非エピトープ部分に結合するよりも、より大きな親和性、結合活性で、より迅速に、及び/又は、より長時間持続して、このCD26エピトープに結合可能であると理解される。しかしながら、第1の標的に特異的に結合する抗体又はその抗原結合性断片は、第2の標的に特異的に結合することを排除しない。
免疫染色(Immunostaining)とは、抗体又はその断片を用いて、組織標本中の抗原を検出する組織学(組織化学)的手法を指し、特定の抗原を認識する抗体を用いて可視化し、その局在を光学顕微鏡又は電子顕微鏡等を用いて観察する染色法である。本明細書において、用語「免疫染色」は、免疫組織染色又は免疫組織化学(IHC)と互換的に用いられてもよい。
本発明の抗ヒトCD26モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片は、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、非ヒト哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ウシ、ウマ、ヤギ等)の抗体、又は、それらの抗原結合性断片であってよく、一態様においては、非ヒト哺乳動物の抗体であるのが好ましい。キメラ抗体は、非ヒト(例えば、マウス)抗体の可変領域だけを取ってきて、ヒト抗体の定常領域に導入した抗体であって、可変領域は非ヒト由来、定常領域はヒト由来の抗体を指してよい。ヒト化抗体は、抗原と直接結合する部分である超可変領域(相補性決定領域ともいう)だけを非ヒト(例えば、マウス)型にした抗体を指してよい。ヒト抗体は、非ヒト(例えば、マウス)免疫グロブリン遺伝子をノックアウトした非ヒト動物(例えば、マウス)と、ヒト免疫グロブリン遺伝子を導入した非ヒト動物どうしを交配させて、ヒト免疫グロブリンだけを産生する非ヒト動物を作製し、かかるヒト免疫グロブリンを産生する非ヒト動物から調製した抗体を指してよい。
本発明の抗ヒトCD26モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片は、場合により、単量体、二量体又は多量体の形態であってよい。
本発明の抗ヒトCD26モノクローナル抗体は、免疫染色用に処理されたがん組織のヒトCD26及び免疫染色用に処理された正常組織のヒトCD26の両者に特異的に結合し、明瞭な免疫染色像が得られる点に特徴がある。
本発明の抗ヒトCD26モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片の好ましい具体例は、可変鎖域中のCDRがそれぞれ配列番号1〜9のアミノ酸配列又はそのアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有する抗体又はその抗原結合性断片である。具体的には、重鎖CDR1が配列番号1で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり;重鎖CDR2が配列番号2で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり;重鎖CDR3が配列番号3で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり;軽鎖CDR1が配列番号4若しくは配列番号7で示されるアミノ酸配列又はこれらのアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり;軽鎖CDR2が配列番号5若しくは配列番号8で示されるアミノ酸配列又はこれらのアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり;軽鎖CDR3が配列番号6若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列又はこれらのアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるものである抗ヒトCD26モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片である。
またさらに、重鎖CDR1が配列番号1で示されるアミノ酸配列からなり;重鎖CDR2が配列番号2で示されるアミノ酸配列からなり;重鎖CDR3が配列番号3で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列からなり;軽鎖CDR1が配列番号4又は配列番号7で示されるアミノ酸配列からなり;軽鎖CDR2が配列番号5又は配列番号8で示されるアミノ酸配列からなり;軽鎖CDR3が配列番号6又は配列番号9で示されるアミノ酸配列からなるものである抗ヒトCD26モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片がさらに好ましい。
本発明の抗ヒトCD26モノクローナル抗体の具体例としては、受託番号NITE P−02618として寄託されたハイブリドーマ(U38−8)又は受託番号NITE P−02619として寄託されたハイブリドーマ(U16−3)によって産生されるモノクローナル抗体が好ましい。これらのハイブリドーマは、日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託されている。
本発明の抗ヒトCD26モノクローナル抗体は、種々の方法で製造することができる。モノクローナル抗体の製造方法は当該技術分野で当業者に周知である(例えばSambrook, J et al., Molecular Cloning, Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)を参照)。
本発明の抗ヒトCD26モノクローナル抗体は、当業者に周知の、例えば、「Kohler and Milstein, 1975, Nature 256:495」に記載されるようなハイブリドーマ法を使用して製造してよい。ハイブリドーマ法においては、例えば、マウス、ハムスター又は他の適切な宿主動物を、抗原である(ヒト)CD26又はその断片等で免疫する(感作する)ことにより、当該宿主動物に、当該抗原に特異的に結合する抗体を産生する細胞(抗体産生細胞)を作らせてよい。抗体力価を高めるために、例えば、完全フロイントアジュバント(CFA)、脂質系アジュバント、グルカン多糖系アジュバント、水酸化アルミニウムアジュバント、又は、合成コポリマー系アジュバント等を添加してもよい。抗体産生細胞は脾臓に多く存在するため、一般的には、脾臓から脾細胞を取り出した後に、脾細胞を腫瘍細胞(例えば、HGPRT(ヒポキサンチン−グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ)酵素を欠損した9−アザグアニン耐性株であるミエローマ細胞)と細胞融合させることで不死化させて、ハイブリドーマを作製する。細胞融合は、センダイウイルス、ポリエチレングリコール又は電気刺激等により行ってよい。ハイブリドーマを作製後、例えば、HAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)培地で培養することにより、脾細胞と腫瘍細胞のハイブリドーマを選択できる。選択したハイブリドーマを1個/ウェルで播種し直すことで、抗ヒトCD26モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得ることができる。培養上清は、さらに、硫安塩析法、ゲル濾過法、イオン交換クロマトグラフィー法、又は、プロテインA/Gクロマト法等を用いて精製することで、例えば、IgG画分(IgG抗体)へと精製してもよい。
免疫に用いる抗原(CD26又はその断片等)に関して、ヒトCD26は766のアミノ酸よりなり、N末端の6つのアミノ酸残基のみが細胞質内に存在することから、かかる細胞質内に存在するアミノ酸残基を少なくとも全て削除した変異タンパク質(例えば、ヒトCD26のN末端側3番目から9番目のアミノ酸残基を削除したもの)を作製することで、ヒトCD26を可溶性としてもよい。当該変異タンパク質(可溶性ヒトCD26)は、当該変異タンパク質をコードするDNAを適当な発現ベクターに組み込んで、大腸菌細胞、サルCOS細胞、又は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞等に遺伝子導入することで、培養上清中に分泌させた後に、適宜、クロマトグラフィー等で精製することができる。
一態様において、精製した可溶性ヒトCD26は、例えばウレアバッファー(例えば、8M ウレア、20mM HEPES、50mM DTT)、グアニジン塩(例えば、6M 塩酸グアニジン)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)(例えば、1%SDS)等の変性剤で、5〜8時間、例えば、4℃〜37℃で変性処理させた後に、免疫に用いてもよい。当業者は、変性に必要な時間、条件等を適宜設定することができる。ウレアバッファーによる抗原の変性処理に関しては、例えば、「Torigoe T. at al., (2012) Establishment of a monoclonal anti-pan HLA class I antibody suitable for immunostaining of formalin-fixed tissue: usually high frequency of down-regulation in breast cancer tissue. Pathology International 62; 303-308」を参照してもよい。
あるいは、本発明の抗ヒトCD26モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片は、例えば、米国特許第4,816,567号に記載されるような、遺伝子組換え技術により作製されてもよい。あるいは、ファージディスプレイ技術を用いて作製してもよい(例えば、米国特許第5,565,332号;第5,580,717号;第5,733,743号及び第6,265,150号)。本発明の抗ヒトCD26モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片をコードするDNAは、モノクローナル抗体の重鎖又は軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブの使用といった、従来的な方法を使用することで、単離し、配列決定することができる。当該DNAを単離後に発現ベクターに組み込んで、大腸菌細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、又は、当該発現ベクターが導入されない限り免疫グロブリンタンパク質を産生しないミエローマ細胞等の宿主細胞に遺伝子導入することにより、本発明の抗ヒトCD26モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片を産生させてもよい。
本発明の抗ヒトCD26モノクローナル抗体の抗原結合性断片は、当該抗体の機能的、構造的断片であって、当該抗体が結合可能な抗原に対する結合性を保持しているものであれば特に限定されない。抗原結合性断片の例としては、Fab、Fab’、F(ab’)、Fv、1本鎖(ScFv)、それらの変異体、抗体部分を含む融合タンパク質、二重特異性抗体、及び、抗原認識部位を含む免疫グロブリン分子の他の修飾構造体等が挙げられる。これらは、当業者に公知の製造方法に基づいて、遺伝子組換え技術又は化学合成技術等により製造してもよい。
例えば、抗原結合性断片は、完全体の抗体のタンパク質消化を介して得ることができ(例えば、Morimoto et al., 1992, J. Biochem. Biophys. Methods 24:107-117等)、又は組換え宿主細胞(例えば、酵母細胞、植物細胞、昆虫細胞もしくは哺乳動物細胞等の真核生物、又は、大腸菌等の原核生物)により直接産生させてもよい。例えば、Fab’−SH断片を大腸菌から直接回収し、化学的に結合させることによってF(ab’)2断片を形成させてもよい(Carter et al., 1992, Bio/Technology 10:163-167)。また、F(ab’)2は、F(ab’)2分子の組み立てを促進するロイシンジッパーGCN4を使用して形成させてもよい。また、scFvを化学合成技術で生産する場合には、自動合成機を使用することができる。scFvを遺伝子組換え技術で生産する場合には、scFvをコードするポリヌクレオチドを含む適切なプラスミドを、適切な宿主細胞(例えば、酵母細胞、植物細胞、昆虫細胞もしくは哺乳動物細胞等の真核生物、又は、大腸菌等の原核生物)に導入することができる。目的のscFvをコードするポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチドのライゲーション等の周知の操作により作製してもよい。その結果生じるscFvは、当該技術分野で公知の標準的なタンパク質精製技術を使用して単離してもよい。
一実施態様において、本発明の抗ヒトCD26モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片は、その他の抗体、好ましくは抗CD26抗体とセットで(すなわち、同時又は異時に組み合わせて)用いてよい。
また、競合的アッセイを用いて、2つの抗体(抗体の一方は、本発明の抗ヒトCD26モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片を用い、抗体の他方は、比較しようとしている抗体を用いてよい。)が同一又は立体的に重複するエピトープを認識することにより同じエピトープに結合するかどうかを決定することができる。例えば、抗原であるCD26をマルチウェルプレート上に固定し、非標識抗体が標識抗体の結合を遮断する性能を測定してもよい。そのような競合的アッセイのための一般的な標識は、放射性標識、蛍光色素標識又は酵素標識であってよい。さらに、当業者に周知のエピトープマッピング技術を用いることにより、抗体が結合するエピトープを決定することができる。
本発明の抗ヒトCD26モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片は、当業者に公知の方法に従って、精製又は単離されてよい。精製又は単離の方法の例としては、電気泳動的、分子生物学的、免疫学的又はクロマトグラフィー的手法等が挙げられ、具体的には、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、又は、逆相HPLCクロマトグラフィー、あるいは、等電点電気泳動等が挙げられる。
本発明の抗ヒトCD26モノクローナル抗体もしくはその抗原結合性断片、又は、それを含む本発明のヒトCD26を検出するための組成物を適用する(例えば、接触させる)対象は、限定はされないが、哺乳動物(ヒト、非ヒト哺乳動物(例えば、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ等);非哺乳動物(例えば、魚類、爬虫類、両生類又は鳥類))、植物、昆虫、細菌、又はそれらに由来する(生物)試料(すなわち、細胞(培養細胞を含む)、組織、器官、臓器、それらの断片又はそれらを含む物質)であってよい。あるいは、当該対象は、人工的な環境(例えばin vitro反応系等)であってもよい。本発明における対象は、哺乳動物、特にはヒト、に由来する試料であるのが好ましい。一態様において、かかる試料は、CD26を発現している腫瘍細胞又は免疫細胞等の組織を含むか、含んでいたか、又は、含む疑いを有することが好ましい。
本発明のヒトCD26を検出するための組成物は、本発明の抗ヒトCD26モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片を含み、かつ、CD26を検出し得る組成物であれば、特に限定されない。本明細書において、CD26(の発現)を検出するとは、定性的にCD26を検出してもよいし、又は、定量的にCD26を検出する(すなわち、CD26の発現量を測定する)ことを意味してもよい。
一態様において、本発明の抗ヒトCD26モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片はCD26の過剰発現を検出できるのが望ましい。CD26の過剰発現とは、CD26を通常は発現している細胞又は組織に関して、それらの細胞又は組織内での通常のCD26の発現量と比較してCD26の発現量が増加していること、及び、CD26を通常は発現していない組織又は細胞内でCD26が発現していることの両方が含まれると理解される。
本発明の抗ヒトCD26モノクローナル抗体もしくはその抗原結合性断片、又は、それを含むヒトCD26を検出するための組成物は、一態様において、
CD26の対象内の動態(分布)、発現、局在性等の検出又は解析;
CD26の発現量の変化又は異常(例えば、対照群である正常組織と比較しての、CD26の発現量の増加又は減少)の検出又は解析;
ヒトCD26関連疾患を同定する指標となる情報の検出又はそれに基づく診断;
治療用抗体である抗ヒトCD26抗体(抗ヒトCD26ヒト化抗体であるのが好ましく、抗ヒトCD26ヒト化抗体YS110であるのがさらに好ましい。)を用いたヒトCD26関連疾患の治療に適し得る患者(好ましくはヒト)の選択;又は、
治療用抗体である抗ヒトCD26抗体(抗ヒトCD26ヒト化抗体であるのが好ましく、抗ヒトCD26ヒト化抗体YS110であるのがさらに好ましい。)を用いたヒトCD26関連疾患の治療中又は治療後の治療効果(例えば、経過観察、治療有効性の確認、又は、患者(例えば再発例や抗体治療無効例)におけるヒトCD26の発現評価)の追跡;
等に利用できる。
例えば、対照群である正常組織におけるCD26の発現量に比べて、試料においてCD26が高発現している場合、当該試料の由来となる対象(好ましくはヒト)がヒトCD26関連疾患に罹患しているか、又は、ヒトCD26関連疾患への罹患リスクが高いと決定、診断され得る。また、例えば治療用抗体を用いてヒトCD26関連疾患に罹患する患者を治療中又は治療後に、治療の対象となる病変部位を採取して、CD26の発現量の推移を測定、観察することにより、当該ヒトCD26関連疾患の進行度や悪性度を判定する、もしくは当該治療抗体による治療の有効性の指標とすることができる。
本発明の抗ヒトCD26モノクローナル抗体もしくはその抗原結合性断片、又は、それを含む本発明のヒトCD26を検出するための組成物は、CD26を標的とした治療方針や治療結果ヘの影響に関して安定した結果が求められる、臨床診断薬又は患者層別マーカーとして有利に用いることができる。
本発明のヒトCD26を検出するための組成物を調製するために、必要に応じて、例えば、薬理学的に許容し得る担体、賦形剤、希釈剤、添加剤、崩壊剤、結合剤、被覆剤、潤滑剤、滑走剤、滑沢剤、可溶化剤、溶剤、ゲル化剤、防腐剤等を添加してよい。これらの添加剤は、本発明の抗ヒトCD26モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片の活性を阻害せず、検出対象となる抗原CD26と非反応性であるのが好ましい。添加剤は、当業者に標準的なものを用いてよく、限定はされないが、例えば、生理的食塩水、トリス緩衝生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水グルコース液、水、又は、アルブミン製剤、油/水エマルジョン等のエマルジョン等であってよい。
また、本発明の抗ヒトCD26モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片は、ヒトCD26の検出方法に用いることができ、具体的には、上述のようなCD26の検出、発現量の解析又は追跡、患者の選択等に用いることができる。例えば、本発明のヒトCD26の検出方法は、本発明の抗ヒトCD26モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片を、対象由来の試料に接触させるステップ、及び、前記試料に含まれ得るヒトCD26を、免疫染色によって検出するステップを含んでよい。
本発明の抗ヒトCD26モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片は、ヒトCD26関連疾患の治療用抗体である抗ヒトCD26抗体(抗ヒトCD26ヒト化抗体であるのが好ましく、抗ヒトCD26ヒト化抗体YS110であるのがさらに好ましい。)の投与前又は投与開始後に、対象由来の試料に接触させることで、CD26の発現を検出してもよい。例えば、当該治療用抗体を複数回投与することを意図している場合には、治療用抗体の投与間隔、投与回数を適宜調整してよく、治療の合間に、1回又は複数回、ヒトCD26関連疾患を罹患しているか、又は、その疑いのある患者の対象由来の試料におけるヒトCD26の発現を検出してもよい。本発明の抗ヒトCD26モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片が認識(結合)するエピトープが、当該治療用抗体が認識(結合)するエピトープと異なる場合には、結合の競合を示さない(交叉反応が生じない)ことから、当該治療用抗体の投与開始後にも、本発明の抗ヒトCD26モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片を用いて、CD26を正確に検出、評価し得るので有利である。
本発明の抗ヒトCD26モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片の必要量や濃度、検出する対象由来の試料の調製の条件、当該試料と抗体との接触条件、検出条件等は、目的に応じて、当業者が適宜、選択しかつ決定することができる。
また、本発明の抗ヒトCD26モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片は、ヒトCD26関連疾患を罹患しているか、又は、その疑いのある患者への、ヒトCD26関連疾患の治療用抗体の投与の適合性の判定方法に用いることができる。例えば、当該判定方法は、本発明の抗ヒトCD26モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片を、対象由来の試料に接触させるステップ、及び、当該試料に含まれ得るヒトCD26を、免疫染色によって検出するステップを含んでよく、場合により、当該免疫染色におけるヒトCD26の検出の程度に応じて、ヒトCD26関連疾患の治療用抗体の投与の適合性を判定するステップをさらに含んでよい。「ヒトCD26の検出の程度に応じて」という用語は、治療用抗体の投与の適合性の判定基準と関係し、その判定基準を、当業者は目的に応じて任意に設定することができる。例えば、試料においてCD26が検出された場合にヒトCD26関連疾患の治療用抗体の適用を肯定的に判断し、一方、検出されなかった場合には否定的に判断するという判定基準を設けてもよい。ヒトCD26関連疾患を罹患しているか、又は、その疑いのある患者とは、好ましくはヒト患者であって、ヒトCD26関連疾患を現在罹患しているか、過去に罹患していたか、又は、現在もしくは将来、ヒトCD26関連疾患に罹患する可能性がある患者を意味してよい。ヒトCD26関連疾患の治療用抗体は、抗ヒトCD26抗体であってよく、好ましくは抗ヒトCD26ヒト化抗体であってよく、さらに好ましくは抗ヒトCD26ヒト化抗体YS110であってよい。
本発明において、ヒトCD26関連疾患とは、CD26の発現が関連する疾患又は状態を指してよく、CD26が発現している細胞の増殖が関連する疾患又は状態であってもよい。ヒトCD26関連疾患は、限定はされないが、例えば、がん、免疫病、ウイルス性疾患、代謝疾患、又は、炎症性疾患であってよい。
当該がんとしては、限定はされないが、良性腫瘍、あるいは、原発性又は転移性の、かつ、浸潤性又は非浸潤性の、癌、肉腫、中皮腫等が挙げられる。当該がんは、例えば、悪性中皮腫、肝臓がん、腎がん、前立腺がん、大腸がん、肺がん、甲状腺がん、尿路上皮がん、T細胞性悪性リンパ腫、消化管間質腫瘍(GIST)、グリオーマ、又は、CD26の発現を伴うその他の悪性腫瘍であってよい。
当該免疫病は、例えば、自己免疫疾患(例えば、関節リウマチ、多発性硬化症、又は、バセドー病)、移植片対宿主疾患(GVHD)、又は、CD26の発現を伴うその他の免疫病であってよい。なお、自己免疫疾患とは、限定はされないが、異物を認識し排除するための役割を持つ免疫系が、自分自身の正常な細胞や組織に対しても過剰に反応し攻撃を加えることで生じる疾患又は状態を意味してよい。
当該ウイルス性疾患は、例えば、コロナウイルスに起因する疾患であってよい。
当該代謝疾患は、例えば、糖尿病、又は、メタボリックシンドロームであってよい。
本発明の抗ヒトCD26モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片を用いてヒトCD26を検出するのに用いる対象由来の試料とは、CD26を発現する、上述のヒトCD26関連疾患を有するか、有していたか、有する可能性のある細胞、組織、器官、臓器、それらの断片又はそれらを含む物質であるのが好ましい。
抗体又はその抗原結合性断片の、CD26への結合親和性を決定する方法は、当該技術分野において当業者に公知の方法を用いてよい。例えば、結合親和性は、Biacore(登録商標)バイオセンサー、KinExAバイオセンサー、シンチレーション近接アッセイ、ELISA、ORIGEN免疫測定法(IGEN社)、フローサイトメトリー、蛍光消光、蛍光転移、酵母ディスプレイ、及び/又は、免疫染色を使用して決定してよい。さらに、結合親和性は、適切なバイオアッセイを用いてスクリーニングしてもよい。CD26への結合親和性が高い抗ヒトCD26モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片を選択するために、これらの方法を単独又は組み合わせて、検出量(CD26の発現量)が高いものをスクリーニングし、絞り込んでもよい。
好ましい一実施態様において、本発明の抗ヒトCD26モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片は、CD26(有利には、ヒトCD26)を検出するのに用いることができ、免疫染色に適しているのが特に好ましい。
本発明のモノクローナル抗体を用いれば、ウエスタンブロッティングにより、細胞または臓器のヒトCD26タンパク質発現量を評価することができる。
一実施態様において、本発明の抗ヒトCD26モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片を用いたCD26の免疫染色は、評価の対象とする標本を固定して作製した、固定組織標本に対して行われるのが好ましい。「固定」とは、標本を、自己融解や腐敗による劣化から保護するための化学処理を意味してよい。かかる固定により、生化学反応が停止し、場合により物理的強度や化学的安定性が向上することも期待される。
固定は、主には、研究、検査を目的として、生物試料の変性、劣化等を防いで、できるだけその形態を天然の状態に近いまま維持することを目的として行われてよい。固定により、生物試料中の内在性の生体分子、特にタンパク質分解酵素を不活化させ;外来性の損傷から保護し;場合により、細菌等の微生物に対して毒性を示すか、又は、生物試料を微生物が栄養にしにくい形態に化学的に修飾し;及び/又は、生物組織自体の強度や安定性を向上させることが好ましい。
固定の種類(固定剤の選択等)や条件(固定する標本の大きさ、標本の切片作製手段、標本の変形防止手段、固定剤の量、固定時間、固定に使用する容器、固定の温度、時間、pH等)を、目的に応じて当業者は適宜選択することができる。生物試料中の内在性の生体分子の不活化の手段として、例えば、それらの生体分子を変性させてもよい。また、ゲルやゾルの状態にある生物試料を完全に固体とすることで形態を固定化して安定化させてもよい。このような固定には、温度や圧力による物理的な変性(例えば、煮沸やマイクロウェーブ照射による熱凝固、又は、凍結等)を利用してもよいが、固定剤による化学的な処理が好ましい。固定剤(固定液)は、単独で、又は、組み合わせて用いてもよく、適宜、pH変化を和らげる緩衝剤、浸透圧又は粘性を調節する塩や糖などと組み合わせて用いてよい。
固定液は、限定はされないが、例えば、アルデヒド系固定液、酸を含む固定液、金属塩を含む固定液、又は、脱水剤・有機溶媒系固定液等が挙げられる。アルデヒド系固定液としては、限定はされないが、10〜25%ホルマリン(ホルムアルデヒド飽和水溶液)固定液を用いてよく、場合により、例えば、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、酢酸ナトリウム、臭化アンモニウム、塩化カルシウム又は硫酸亜鉛等を添加物として加えてもよい。あるいは、10%リン酸緩衝ホルマリン固定液、4%パラホルムアルデヒド固定液、又は、1〜5%グルタルアルデヒド固定液等を用いてもよい。酸を含む固定液としては、限定はされないが、例えば、ブアン固定液(例えば、ピクリン酸飽和水溶液:ホルマリン:氷酢酸=15:5:1で含む)、ザンボニ固定液、又は、2%オスミウム液固定液(四酸化オスミウムを用いる)等が挙げられる。金属塩を含む固定液としては、限定はされないが、例えば、亜鉛固定液又はHollande固定液等が挙げられる。脱水剤・有機溶媒系固定液としては、限定はされないが、例えば、アルコール(エタノール等)固定液、アルコール・ホルマリン混合液、FAA固定液(例えば、ホルマリン:氷酢酸:50%エタノール=1:1:18で含む)、又は、アセトン固定液等が挙げられる。好ましい固定液としては、10〜25%ホルマリン固定液、2〜5%パラホルム固定液、80〜100%エタノール、80〜100%メタノール又は100%アセトン等が挙げられる。
固定する標本の大きさとしては、組織片は薄く、小さい方が、固定剤(固定液)が浸透しやすいので一般には好ましく、標本の表面積が大きい方が好ましい。一態様において、標本の厚さは、1.5cm以下が好ましく、5mm以下であることがより好ましい。固定剤の量としては、特に限定はされないが、標本に対して十分量があればよく、例えば、5倍〜10倍以上あればよい。固定時間は、固定剤の種類、標本の大きさや性質により異なり得る。固定が不十分な場合、組織収縮、細部構造の崩壊が生じ得、一方、固定が過剰な場合、組織片の脆弱化による組織収縮や膨化が生じ得る。当業者は、適宜、固定の最適な時間を決定でき、例えばそれは、6時間〜48時間であってよい。固定の温度は、例えば、4℃又は室温であってよい。高温である場合、固定時間は短くなり得るが、温度が高すぎると標本が硬化するおそれが生じ得る。
固定するための手法としては、生物試料を固定液に浸けておく浸漬法の他に、十分量の固定液を心臓等に注入し血流に乗せる灌流法が挙げられ、後者は、例えば、マウス等を用いたin vivo病態モデル実験で用いてもよい。
一実施態様において、本発明の抗ヒトCD26モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片を用いたCD26の免疫染色は、評価の対象とする組織片に骨あるいは石灰化組織が含まれている場合は、固定組織に脱灰操作を行って作製した、脱灰組織標本に対して行われるのが好ましい。「脱灰」とは、組織片に石灰が含まれる骨、歯、石灰化した病変などから石灰を除去する操作を意味してよい。かかる脱灰操作により、組織内の石灰(炭酸カルシウム)を酸などでカルシウム塩にし、組織の薄切を容易にすることが期待される。
脱灰は、石灰が含まれる骨や歯などの組織片や、石灰化した病変から組織の薄切を可能にするために、石灰の物理的強度を軟らかくすることを目的として行われてよい。脱灰操作により、生物試料中の石灰(炭酸カルシウム)を酸などでカルシウム塩にし、物理的強度を低下させることで、組織の薄切を容易にすることが期待される。
脱灰液の種類や条件(脱灰する標本の大きさ、標本の切片作製手段、標本の変形防止手段、脱灰液の量、脱灰操作時間、脱灰操作の温度、時間等)を、目的に応じて当業者は適宜選択することができる。脱灰液は、単独で、又は、組み合わせて用いてもよい。
脱灰液は、限定はされないが、例えば、塩酸・硝酸などの無機酸、蟻酸・三塩化酢酸などの有機酸を希釈して単独で用いる方法(酸性脱灰液)と、無機酸と有機酸を混合したプランク・リュクロ液を用いる方法(酸性脱灰液)、又は、エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤を用いる方法(中性脱灰液)が一般的である。
脱灰する標本の大きさとしては、組織片は薄く、小さい方が、脱灰液が浸透しやすいので一般には好ましく、標本の表面積が大きい方が好ましい。一態様において、標本の厚さは、1.5cm以下が好ましく、5mm以下であることがより好ましい。脱灰液の量としては、特に限定はされないが、標本に対して十分量があればよく、例えば、5倍〜10倍以上あればよい。脱灰時間は、脱灰液の種類、標本の大きさや性質により異なり得る。脱灰操作が不十分な場合、組織を薄切することが難しく、一方、脱灰操作が過剰な場合、脱灰による組織の膨化、収縮、溶解などの組織障害や、組織の染色性の低下が生じ得る。当業者は、適宜、脱灰操作の最適な時間を決定でき、例えばそれは、蟻酸液中に室温で24時間〜72時間、又は、エチレンジアミン四酢酸液中に室温で3日〜7日であってよい。
脱灰操作により、抗原の変性も加わるため、脱灰操作を行う必要のない固定組織標本と比較して、脱灰操作を行う脱灰組織標本の方が、発現評価に十分な染色性を得ることが一般的に難しいと言える。
固定された生物試料は標本として保存することができ、あるいは、さらに、例えば、切り出し、脱水、包埋、薄切、及び/又は染色等を行った後に、例えば光学顕微鏡等で観察することができる。
切り出しは、標本のサイズが大きい場合に顕微鏡で観察できるサイズに標本を小さくし、あるいは、標本中の病変部や正常部が観察しやすくなるように行ってよく、適宜、標本を切断してよい。
顕微鏡で標本を観察できるように、又は、標本中に存在する中空部位を埋めて標本の変形を防ぐために、適当な包埋剤(例えば、パラフィン、セロイジン等)中に標本を包埋して標本に強度を与えてよい。包埋の手法としては、限定はされないが、例えば、パラフィン包埋法、セロイジン包埋法、OCTコンパウンド包埋法、ゼラチン包埋法、又は、合成樹脂包埋法等が挙げられ、これらのすべてが当業者に公知である。一態様において、パラフィン包埋法が好ましい。包埋を行う際に、水分が標本中に存在すると、その部分に包埋剤が浸透しないので、アルコール(エタノール等)を用いて当該水分を除去してもよい。
例えば、パラフィン包埋法を用いる場合には、脱水過程で標本中に浸透したアルコールを除去するために、キシレン又はクロロホルム等による透徹を行うことが好ましい。次いで、パラフィンを標本中に浸透させてパラフィンのみが含まれるようにしたら、冷却して標本を硬化させ、パラフィンブロックを作製してよい。
標本を薄切にするためにはミクロトームを用いてもよい。
顕微鏡下での標本の観察を容易にするために、薄い組織切片にした標本を染色する(抗原CD26を認識する抗体を用いた抗原抗体反応を可視化する。)ことが好ましい(以下、可視化に関して、当該抗体は、場合により、抗原結合性断片であってもよいことが当業者には理解される。)。
また、例えば、パラフィン包埋法を用いてパラフィンブロックを作製した場合には、例えば、キシレン、アルコール(エタノール等)を用いて脱パラフィンを行った後、場合により、標本中の目的抗原(CD26)を賦活化することで、染色を強化してよい。
例えば、ホルマリンで固定しパラフィンに包埋させた標本では、その標本作製過程において組織や細胞中に存在する抗原をマスキングする架橋結合が生じ、抗原の免疫原性が失われ、これによって、抗体による抗原認識が阻害され得る。したがって、かかる免疫原性の低下を防ぐために、抗原賦活化処理を行ってよい。抗原賦活化の方法としては、特に限定はされないが、例えば、ペプシン、トリプシン、プロナーゼ又はプロテインキナーゼK等のタンパク質分解酵素処理;マイクロウェーブ、オートクレーブ又は煮沸等による加熱処理;アルカリや酸(例えば塩酸又はギ酸)による処理等が挙げられる。賦活化の方法、抗原賦活溶液の種類、pH、濃度、賦活時間、賦活温度等を、目的に応じて、当業者は適宜選択し決定することができる。例えば、加熱処理により抗原を賦活化する場合には、限定はされないが、pH6.0〜7.0のクエン酸緩衝液、pH9.0〜11.0のトリス塩酸緩衝液、トリスEDTA緩衝液、EDTA溶液、尿素、又は、市販の種々の抗原賦活溶液を使用することができ、例えば、90℃〜130℃で10分間〜1時間加熱してよい。タンパク質分解酵素処理により抗原を賦活化する場合には、タンパク質分解酵素の濃度を当業者は適宜決定してよく、例えば、4℃〜37℃で、5分間〜数時間程度、酵素処理してもよい。
抗原抗体反応を可視化する方法(染色方法)としては、抗体に特定の酵素を標識しておき、後で、基質を反応させて形成された色素生成物の呈色を光学顕微鏡等で観察する酵素抗体法を用いてよい。光学顕微鏡で観察する場合、例えば、染色される部分(シグナル部分)と染色されない部分(ノイズ部分)のコントラスト(シグナル/ノイズ比)を、目視で観察してもよい。また、バーチャルスライドを作成し、染色部位の定量的解析を行う事で、染色部分を評価してもよい。
酵素抗体法は、大まかには、抗原に直接反応する抗体(一次抗体)を標識し、抗原抗体反応を1度しか行わない直接法と、標識していない一次抗体を用いて1度目の抗原抗体反応を行い、一次抗体自体を抗原とする別の抗体(二次抗体)を標識して、さらに反応させて2回以上(多くは2回、場合により3回)抗原抗体反応を行う間接法とが挙げられる。また、間接法の変法として、ペルオキシダーゼ・抗ペルオキシダーゼ抗体の可溶性免疫複合体(PAP)を用いるPAP法(Sternberger LA et al. (1970).“The unlabeled antibody enzyme method of immunohistochemistry: preparation and properties of soluble antigen-antibody complex (horseradish peroxidase-antihorseradish peroxidase) and its use in identification of spirochetes”. J Histochem Cytochem 18 (5): 315-33. PMID 4192899.)、LAB(Linked Avidin-Biotin)法、アビジン・ビオチン複合体を用いるABC法(Hsu SM, Raine L, Fanger H (1981). “Use of avidin-biotin-peroxidase complex (ABC) in immunoperoxidase techniques: a comparison between ABC and unlabeled antibody (PAP) procedures”. J Histochem Cytochem 29 (4): 577-80.)、ストレプトアビジンを用いるLSAB(Linked Streptavidin-Biotin)法、TSA(tyramide signal amplification)法、又は、CARD(catalyzed reporter deposition)法等を用いてもよい。
酵素抗体法での発色方法としては、限定はされないが、例えば、標識酵素としてペルオキシダーゼ(西洋ワサビパーオキシダーゼ等)を発色基質のジアミノベンジジン(DAB)と反応させるDAB法(褐色に染色)(Graham RC Jr, Karnovsky MJ. (1966). “The early stages of absorption of injected horseradish peroxidase in the proximal tubules of mouse kidney: ultrastructural cytochemistry by a new technique”. J Histochem Cytochem 14 (4): 291-302);ニッケルイオン存在下でDAB法を行う、より高感度の、ニッケルDAB法;ペルオキシダーゼを発色基質のアミノエチルカルバゾール(AEC)と反応させる方法(赤色に染色);あるいは、標識酵素としてアルカリホスファターゼを、発色基質のBCIP/NBTと反応させる方法(青紫色に染色)、発色基質のFast Redと反応させる方法(赤色に染色)、又は、発色基質のFast Blueと反応させる方法(青色に染色)等を挙げてもよい。
一実施態様において、染色方法がDAB法である場合、染色前に、抗原賦活化した標本を、例えば過酸化水素水含有メタノール等に浸すことで、標本中の内在性ペルオキシダーゼの不活化を行なうことが好ましい。
染色の手法、温度、染色時間等の各種条件を、当業者は目的に応じて、適宜、選択し、決定することができる。染色は、例えば、一次抗体として、本発明の抗ヒトCD26モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片を標本に添加して、例えば、4℃〜室温で1時間から一晩反応させた後に当該一次抗体を洗浄し、次いで、二次抗体として、ペルオキシダーゼ標識抗体又はアルカリホスファターゼ標識抗体を添加して、例えば、4℃〜室温で30分間から一晩反応させた後に当該二次抗体を洗浄してから、発色させてもよい。あるいは、検出感度を高めるために、ABC法を利用してもよい。あるいは、検出感度を高めるために、標識していない一次抗体(本発明の抗ヒトCD26モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片)を用いて1度目の抗原抗体反応を行い、次いで、一次抗体自体を抗原とする標識していない二次抗体を用いて2度目の抗原抗体反応を行い、次いで、二次抗体自体を抗原とする、ペルオキシダーゼ又はアルカリホスファターゼで標識した三次抗体を添加し、例えば、4℃〜室温で1時間から一晩反応させた後に、当該三次抗体を洗浄してから発色させてもよい。
あるいは、抗原抗体反応を可視化する方法としては、上述の抗原抗体反応の他に、抗体に放射性同位元素を結合(「標識」という)しておき、後で印画紙に感光させるオートラジオグラフィー法;金粒子等の可視物質に抗体を結合させておき、電子顕微鏡等で観察する金コロイド法;又は、抗体に蛍光色素を標識しておき、抗原抗体反応の後で励起波長を当てて蛍光発色させ蛍光顕微鏡で観察する蛍光抗体法を用いてもよい。
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
1.実験方法
(1)細胞
ヒト悪性中皮腫細胞株MSTO−211H(MSTO parent)、ヒト肺がん細胞株A549、ヒトT細胞性白血病細胞株Jurkat(Jurkat parent)はAmerican Type Culture Collection(Rockville, MD,USA)より購入した。MSTO parent細胞にヒトCD26完全長を安定的に遺伝子導入したMSTO−CD26は、本発明者らが以前作製した(Yamamoto J et al., 2014 Br. J. Cancer. 110: 2232-45)。ヒト悪性中皮腫細胞株JMNは、Dr.Brenda Gerwin(National Institutes of Health,Brethesda,MD,USA)の好意により提供された。JMN細胞にshRNA発現レンチウイルスを安定的に形質導入してヒトCD26の発現をノックダウンしたJMN CD26−shRNAと、CD26の発現には影響しない対照shRNAを導入したJMN ctrl−shRNAは、本発明者らが以前作製した(Yamazaki H et al., 2012 Biochem. Biophys. Res. Commun. 419: 529-536)。Jurkat parent細胞にヒトCD26完全長を安定的に遺伝子導入したJurkat−CD26は、本発明者らが以前作製した(Tanaka T et al., 1992 J. Immunol. 149: 481-6)。全ての細胞株の培養は、10% FBS(ウシ胎児血清)(Nichirei Biosciences,Tokyo,Japan)を添加したRPMI−1640培地(Wako,Osaka,Japan)を用いて、5% CO、37℃の環境で行った。
(2)実験に用いた抗体
新たに樹立した抗ヒトCD26モノクローナル抗体の比較対照として、本発明者らがこれまでに開発したマウス抗ヒトCD26モノクローナル抗体である、
(i)ヒトCD26の1〜247アミノ酸に結合する19−32、
(ii)ヒトCD26の248〜358アミノ酸に結合する1F7、
(iii)ヒトCD26の358アミノ酸周辺に結合する5F8、
及び、市販されているBD Biosciences社(San Jose, CA, USA)のPE標識マウス抗ヒトCD26モノクローナル抗体(クローン:M−A261, カタログ番号:555437)、R&D Systems社(Minneapolis,MN,USA)のヤギ抗ヒトCD26ポリクローナル抗体(カタログ番号:AF1180)を用いた。
19−32に関しては、本発明者らが免疫染色用モノクローナル抗体として開発した抗体で、フローサイトメトリー、ELISA、正常組織の免疫染色が可能である(Hatano R et al., 2014 Diagn. Pathol. 9: 30)。詳細は、例えば、特許文献2を参照されたい(特許文献2中、クローン19は19−32を意味する)。
1F7、5F8に関しては、細胞膜上のCD26や血清中の可溶性CD26など立体構造が維持されたnativeなCD26への結合性に優れた抗体で、これまでに本発明者らがフローサイトメトリーやELISAに多く用いてきたモノクローナル抗体である(Morimoto C et al., 1989 J. Immunol. 143: 3430-9., Torimoto Y et al., 1992 Mol. Immunol. 29: 183-92., Ohnuma K et al., 2015 J. Clin. Lab. Anal. 29: 106-11.)。ホルマリン固定パラフィン包埋した組織の免疫染色、及び、ウェスタンブロットのような変性CD26の検出には適していない。
BD Biosciences社のモノクローナル抗体(クローン:M−A261)は、フローサイトメトリーによる細胞膜上のCD26の検出に優れた抗体で、発明者らもこれまでに多く用いてきた抗体である(Hatano R et al., 2013 Immunology. 138: 165-72., Ohnuma K et al., 2015 J. Immunol. 194: 3697-712.)この抗体は、ヒトCD26の248〜358アミノ酸に結合する1F7と同様の部位に結合する抗ヒトCD26ヒト化抗体YS110と、CD26への結合がフローサイトメトリーで完全に競合することから、1F7やYS110と類似した部位に結合すると考えられる(Hatano R et al., 2013 Br. J. Haematol. 162: 263-77.)。この抗体も、ホルマリン固定パラフィン包埋した組織の免疫染色、及び、ウェスタンブロットのような変性CD26の検出には適していない。
R&D Systems社のヤギ抗ヒトCD26ポリクローナル抗体は、本発明者らがこれまでに検討した市販されている抗ヒトCD26抗体のなかで、免疫染色、及び、ウェスタンブロットに最も適していると考えている抗体で、これまでの本発明者らのCD26研究にも用いてきた(Okamoto T et al., 2014 PLoS One. 9: e86671., Hatano R et al., 2014 Diagn. Pathol. 9: 30., Yamamoto J et al., 2014 Br. J. Cancer. 110: 2232-45., Komiya E et al., 2014 Biochem. Biophys. Res. Commun. 447: 609-15., Angevin E et al., 2017 Br. J. Cancer. 116: 1126-1134.)。
アイソタイプ対照抗体として、BD Biosciences社のPE標識マウスIgG1,κモノクローナル抗体(クローン:MOPC−21, カタログ番号:555749)、未標識マウスIgG1,κモノクローナル抗体(クローン:MOPC−21, カタログ番号:554121)、及び、R&D Systems社の未標識正常ヤギIgGポリクローナル抗体(カタログ番号:AB−108−C)を用いた。
(3)マウス
BALB/cマウス、♀は日本クレア(Tokyo,Japan)から購入した。すべてのマウスは特定病原体除去施設においてマイクロアイソレーターケージ内で飼育した。マウスへの免疫は6週齢から開始した。動物実験は施設内動物管理使用委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)で承認されたプロトコルに従って行った。
(4)免疫抗原(ヒトCD26タンパク質)の調製
本発明者らが作製した可溶性ヒトCD26(ヒトCD26のN末端側3番目から9番目のアミノ酸残基を削除したもの)を発現するプラスミドをCHO細胞株に遺伝子導入し、ヒトCD26を安定して分泌するCHO細胞株をクローン化した(Tanaka T et al., 1994 Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 91: 3082-6)。可溶性ヒトCD26が分泌された培養上清を、アデノシンデアミナーゼ(ADA)を固定化したセファロースカラムに通すことで、可溶性ヒトCD26のアフィニティー精製を行った(同上文献)。精製した可溶性ヒトCD26をウレアバッファー(8M ウレア、20mM HEPES、50mM DTT)中で5〜8時間、室温で緩やかに撹拌することにより、変性化したヒトCD26タンパク質を調製した。
(5)マウスへの免疫とハイブリドーマの作製
ウレアで変性化した可溶性ヒトCD26の溶媒をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で置換した後、100μg/50μLの濃度に調整し、合成コポリマー系アジュバントであるTiterMax Gold(TiterMax USA, Norcross, GA, USA)50μLと混合して、1匹あたり100μL/doseでBALB/cマウスに皮下注射した。2週間ごとに合計7回皮下注射を行い、最後に尾静脈に上記の半量である50μLを静脈注射した。3日後にマウスを解剖して得た粗精製脾細胞と、P3U1ミエローマ細胞とを、1:1で混合し、ポリエチレングリコールで細胞融合してハイブリドーマを作製した。細胞を洗浄した後、5% BriClone(NICB, Dublin, Ireland, カタログ番号:BRBR001)、HAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)(Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)含有、無血清GIT培地(Wako Pure Chemicals, Osaka, Japan)に当該細胞を懸濁してから、96ウェル平底プレートに播種した。生育したハイブリドーマの培養上清を回収し、1次スクリーニングとしてELISAによって、マウスIgGの産生量が多いハイブリドーマのスクリーニングを行い、陽性であったハイブリドーマを選出した後、免疫染色の検討を行った。免疫染色可能であったハイブリドーマを96ウェル平底プレートに1個/ウェルで播種し直し、複数の単クローンを選出した。目的の抗体を含む細胞培養上清から、Protein A IgG Purification Kit(Pierce, Rockford, IL, USA)を用いてIgG画分を精製した。
(6)1次スクリーニング(マウスIgGのELISA)
HAT含有培地中で生育してきたハイブリドーマの中から、マウスIgGの産生量が多いものをスクリーニングするために、Mouse IgG total Ready−SET−Go!(eBioscience, San Diego, CA, USA, カタログ番号:88−50400)を用いて、ELISAによる1次スクリーニングを行った。PBSで抗マウスIgGモノクローナル抗体を希釈し、イムノプレート(NUNC, Roskilde, Denmark)に50μL/ウェルで添加して4℃で一晩静置した。0.05% Tween−20含有PBS(PBS−T)で洗浄後、2×Assay Buffer Aを125μL/ウェルで添加して、室温で2時間静置することでプレートをブロッキングした。PBS−Tで洗浄後、一次抗体として1×Assay Buffer Aで10倍に希釈したハイブリドーマ培養上清を50μL/ウェルで添加し、続いて、1×Assay Buffer Aで希釈したHRP結合抗マウスIgGポリクローナル抗体を25μL/ウェルで添加して、よく混合した後、穏やかに振盪しながら室温で3時間恒温放置した。PBS−Tで洗浄後、TMB基質溶液を50μL/ウェルで添加して発色させた後、2N H2SO4を50μL/ウェルで添加して反応を停止させ、マイクロプレートリーダー(Bio−Rad, Hercules, CA, USA)で450nmの吸収波長と570nmのレファレンス波長とを測定した。得られたデータをMicroplate Manager 6(Bio−Rad)で解析した。
(7)リアルタイムRT−PCR
本発明に用いた細胞株のヒトCD26のmRNAの発現量を解析するために、RNeasy Mini Kit(Qiagen, Valencia, CA, USA)を用いて、各種細胞株からTotal RNAの抽出を行った。その後、PrimeScript II first strand cDNA synthesis kit(TaKaRa Bio, Shiga, Japan)とoligo(dT)プライマーを用いて、cDNAの合成を行った。mRNAの定量には、SYBR Select Master Mixと7500 real−time PCR System(Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)を用いた。得られたデータを7500 System SDS software(Applied Biosystems)で解析した。ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ1(HPRT1)を不変対照として用い、各種細胞株のヒトHPRT1 mRNA量に対するヒトCD26 mRNAの相対量を算出した。リアルタイムRT−PCRに使用したプライマーの配列を下記に示す。
Human CD26: Forward primer 5’-GTACACAGAACGTTACATGGGTCTC-3’(配列番号13)
Reverse primer 5’-TCAGCTCTGCTCATGACTGTTG-3’(配列番号14)
Human HPRT1: Forward primer 5’-CAGTCAACAGGGGACATAAAAG-3’(配列番号15)
Reverse primer 5’-CCTGACCAAGGAAAGCAAAG-3’(配列番号16)
(8)2次スクリーニング(細胞ブロックの免疫染色)
1次スクリーニングで選別したマウスIgG産生量が高いハイブリドーマの培養上清を用いて、ヒトCD26陽性がん細胞株、及び、ヒトCD26陰性がん細胞株の免疫染色の検討(2次スクリーニング)を行った。各種細胞株の細胞ペレットを、10〜25% ホルマリン固定液、又は、アルコール系固定液等で固定し、パラフィンに包埋させた切片から5μm厚の標本を準備し、パラフィンを溶かした後、抗原の賦活化処理を行った。抗原賦活化処理は、
(1)pH6.0 10mM クエン酸緩衝液中で、120℃で20分間オートクレーブ、
(2)pH6.0 10mM クエン酸緩衝液中で、100℃で10分間煮沸、
(3)0.01〜0.1% トリプシンで、室温又は37℃で5〜60分間処理、
又は、
(4)0.01〜0.04% プロテイナーゼKで、室温又は37℃で5〜30分間処理、
のいずれかの方法で行った。図2A及び図2Bの結果は、(1)の賦活化の方法で行った。
その後、賦活化した標本を0.3% 過酸化水素水含有メタノールに室温で10分間浸して、内在性ペルオキシダーゼの不活化を行い、2.5%ウマ血清(Vector Laboratories, Burlingame, CA, USA)に室温で10分間浸して、ブロッキングを行った。その後、当該標本に、一次抗体として各ハイブリドーマの培養上清を100μL/サンプル、あるいは、ハイブリドーマの培養上清から精製したIgG抗体又はR&D Systems社のヤギ抗ヒトCD26ポリクローナル抗体を0.2% BSA(ウシ血清アルブミン)含有PBSで最適濃度に希釈した溶液を100μL/サンプルで添加し、4℃又は室温で1時間から一晩反応させた。PBSで洗浄後、二次抗体としてHRP結合ウマ抗マウスIgGポリクローナル抗体、又は、HRP結合ウマ抗ヤギIgGポリクローナル抗体(Vector Laboratories)を100μL/サンプルで添加し、4℃又は室温で30分から一晩反応させた。PBSで洗浄後、DAB(ジアミノベンジジン)(Dojindo Laboratories, Kumamoto, Japan)と過酸化水素で発色させた。ヘマトキシリンで核の対比染色を行い、Axio Scope.A1光学顕微鏡(Carl Zeiss, Oberkochen, Germany)で観察、写真撮影を行った。
CD26陽性がん細胞株、CD26陰性がん細胞株を明瞭に染め分けることができた抗体に関しては、ヒトCD26への結合の特異性を確認するために、吸収試験を行った。PBS100μL中に、新たに樹立した抗ヒトCD26モノクローナル抗体を終濃度10μg/mL、可溶性ヒトCD26タンパク質を終濃度1mg/mLとなるように調整し、穏やかに回転させながら4℃で一晩反応させた。遠心後の上清を一次抗体として用い、以降の実験は上記と同様に行った。
ヒトCD26の染色結果に関する評価は、病理専門医2名で行い、R&D Systems社のヤギ抗ヒトCD26ポリクローナル抗体で染色した場合とそれぞれ比較することで、CD26抗原に対する特異性の評価を行った。
(9)3次スクリーニング(ヒト正常組織、がん組織、及び、脱灰標本の免疫染色)
1次スクリーニング、2次スクリーニングにより、がん細胞株上のヒトCD26を明瞭に染色することができ、非特異的な結合も見られないマウスIgG抗体を産生し、且つ、その産生量も高いハイブリドーマを選別した。選別したハイブリドーマの培養情上清、及び、培養上清から精製したIgG抗体を用いて、ヒト正常組織とがん組織の免疫染色を行った。また、固定したヒト正常骨および骨髄組織を10%蟻酸で脱灰して作製した脱灰組織標本の免疫染色も検討した。上記(8)に記載した方法と同様に組織を固定し、パラフィンに包埋させた切片から5μm厚の標本を準備し、パラフィンを溶かした後、抗原の賦活化処理を行った。抗原賦活化処理は、上記(8)に記載した(1)〜(4)のいずれかの方法で行った。図2C及び図2Dの結果は、(1)の賦活化の方法で行った。その後の染色と観察も(8)に記載した方法と同様に行った。
ヒトCD26の染色結果に関する評価は、病理専門医2名で行い、ヒトCD26を発現
しているヒト正常組織(肝臓、腎臓、前立腺、骨および骨髄)、及び、ヒトがん組織(悪性中皮腫、肝細胞がん、腎細胞がん、前立腺がん、大腸腺がん、肺腺がん)の染色パターンを、R&D Systems社のヤギ抗ヒトCD26ポリクローナル抗体で染色した場合とそれぞれ比較することで、CD26抗原に対する特異性の評価を行った。
(10)ウェスタンブロット法
新たに樹立した抗ヒトCD26モノクローナル抗体が、CD26に対して特異的な抗体であることを確認するために、各種細胞株の細胞ペレットに、2%プロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma−Aldrich,St.Louis,MO,USA)含有RIPA bufferを添加し、氷上で溶解した。細胞全体を溶解した液に、還元剤(DTT)含有SDS sample bufferを添加し、95℃で5分間煮沸処理を行った。各種細胞株の溶解物をそれぞれ20μgずつ調製し、4−20% Mini−PROTEAN TGX precast Gels(Bio−Rad)を用いて、還元条件下でSDS−PAGEによってタンパク質を分子量ごとに分離した。その後、アクリルアミドゲルからPVDF膜へタンパク質を転写し、5%スキムミルクに浸して穏やかに振盪しながら室温で45分間恒温放置することでメンブレンをブロッキングした。0.1% Tween−20含有トリス緩衝生理食塩水(TBS−T)で洗浄後、本発明者らが開発したマウス抗ヒトCD26モノクローナル抗体(19−32:5.0μg/mL,U16−3:0.2μg/mL,U38−8:0.5μg/mL)、及び、R&D Systems社のヤギ抗ヒトCD26ポリクローナル抗体(1.0μg/mL)を5%スキムミルクで上記の濃度に希釈した一次抗体液に浸し、穏やかに振盪しながら4℃で一晩反応させた。TBS−Tで洗浄後、HRP結合ヒツジ抗マウスIgG抗体(GE Healthcare, Buckinghamshire, UK, カタログ番号:NA931−1ML)、及び、HRP結合ロバ抗ヤギIgG抗体(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA, USA, カタログ番号:sc−2020)を5%スキムミルクで5000倍に希釈した二次抗体液に浸し、穏やかに振盪しながら室温で1時間恒温放置した。TBS−T及びPBSで洗浄後、化学発光基質Western Lightning Plus−ECL(PerkinElmer,Waltham,MA,USA,カタログ番号:NEL104001EA)をメンブレンに添加して、画像を撮影した。画像撮影後、Stripping Solutionにメンブレンを浸して抗体を剥がし、上記と同様に再度ブロッキングをした後、マウス抗ヒトβ−actinモノクローナル抗体(クローン:AC−15)(Sigma−Aldrich,カタログ番号:A5441)を5%スキムミルクで5000倍に希釈した一次抗体液に浸し、穏やかに振盪しながら4℃で一晩反応させ、再プローブした。TBS−Tで洗浄後、上記と同様に、HRP結合ヒツジ抗マウスIgG抗体を結合させ、化学発光基質を添加して反応させた。画像は、luminescent image analyzer LAS 4000(GE Healthcare)で撮影し、得られたデータをimage reader LAS 4000、及び、Multi Gauge software(GE Healthcare)で解析した。
(11)フローサイトメトリー
各種細胞株を用いて、生細胞膜上のヒトCD26への樹立した抗ヒトCD26モノクローナル抗体の結合を検討した。染色できることが既に確認されている方法として、蛍光色素が抗体に直接標識されたBD Biosciences社のPE標識マウス抗ヒトCD26モノクローナル抗体(クローン:M−A261)、または、PE標識アイソタイプコントロール(マウスIgG)抗体を1% FBS、0.1% アジ化ナトリウム(Wako)含有PBS(FCMバッファー)で40倍に希釈した溶液(濃度は製品に記載なし)を50μL/サンプルで添加し、4℃で30分間静置した。若しくは、一次抗体として未標識のマウス抗ヒトCD26モノクローナル抗体(クローン19−32、U16−3、U38−8)、及び、R&D Systems社のヤギ抗ヒトCD26ポリクローナル抗体、未標識のアイソタイプコントロール(マウスIgG、及び、ヤギIgG)抗体をそれぞれFCMバッファーで10μg/mLに希釈した溶液を50μL/サンプルで添加し、4℃で30分間静置した。細胞を氷冷FCMバッファー1mLで2回洗浄した後、二次抗体としてPE標識ヤギ抗マウスIg抗体(BD Biosciences,カタログ番号:550589)をFCMバッファーで400ng/mLに希釈した溶液、又は、PE標識ロバ抗ヤギIgG抗体(Santa Cruz Biotechnology,カタログ番号:sc−3743)をFCMバッファーで2μg/mLに希釈した溶液を50μL/サンプルで添加し、4℃で30分間静置した。細胞を氷冷FCMバッファー1mLで1回洗浄した後、フローサイトメーターであるFACSCalibur(BD Biosciences)で測定を行い、得られたデータをFlowJo(Tree Star,Ashland,OR,USA)で解析した。
(12)非変性、及び、変性ヒトCD26に対するELISA
精製した可溶性ヒトCD26(非変性ヒトCD26)又はPBS中で95℃で10分間煮沸処理を行った可溶性ヒトCD26(変性ヒトCD26)を炭酸塩/重炭酸塩バッファー(CBB)で4.0,2.0,1.0,0.5,0.25μg/mLに希釈し、イムノプレート(NUNC)に50μL/ウェルで添加して4℃で一晩静置した。陰性コントロールとしてCBBのみを添加し、可溶性ヒトCD26をコートしない群を用意した。0.05% Tween−20含有PBS(PBS−T)で洗浄後、2%BlockAce(DS Pharma Biomedical,Osaka,Japan)を100μL/ウェルで添加して室温で1時間静置することでプレートをブロッキングした。PBS−Tで洗浄後、一次抗体としてマウス抗ヒトCD26モノクローナル抗体(クローン5F8、1F7、19−32、U16−3、U38−8)、及び、R&D Systems社のヤギ抗ヒトCD26ポリクローナル抗体をそれぞれ1% BlockAceで2μg/mLに希釈した溶液を50μL/ウェルで添加し、室温で1時間静置した。PBS−Tで洗浄後、二次抗体としてHRP結合ヤギ抗マウスIg抗体(BD Biosciences,カタログ番号:554002)を1% BlockAceで500倍希釈した溶液(濃度は製品に記載なし)、又は、HRP結合ロバ抗ヤギIgG抗体(Santa Cruz Biotechnology, カタログ番号:sc−2020)を1% BlockAceで160ng/mLに希釈した溶液を50μL/ウェルで添加し、室温で1時間静置した。PBS−Tで洗浄後、TMBペルオキシダーゼ基質(KPL,Gaithersburg,MD,USA)を50μL/ウェルで添加して発色させた後、2N H2SO4を25μL/ウェルで添加して反応を停止させた。測定及びデータ解析は、(6)に記載した方法と同様に行った。
2.結果
(1)本発明に用いたヒトCD26陽性/陰性がん細胞株のCD26の発現解析
本発明で新たに樹立した抗ヒトCD26モノクローナル抗体が、ヒトCD26に特異的に結合し、CD26以外のタンパク質に対して非特異的に結合しないことを示すために、CD26陰性のヒト悪性中皮腫細胞株MSTO、及び、ヒトT細胞性白血病細胞株JurkatにヒトCD26完全長を安定的に遺伝子導入した細胞株を作製した。また、CD26陽性のヒト悪性中皮腫細胞株JMNにshRNAを安定的に形質導入してヒトCD26の発現をノックダウンした細胞株を作製した。まず、これらのヒトCD26陽性がん細胞株、及び、ヒトCD26陰性がん細胞株のmRNAレベルでのCD26発現を解析した。図1Aに示すように、ヒトCD26のmRNA発現は、Jurkat−CD26が最も高く、次いで、MSTO−CD26、JMN ctrl−shRNAの順に発現レベルは高かった。MSTO parent、JMN CD26−shRNA、Jurkat parent、並びに、CD26陰性のヒト肺がん細胞株A549は、いずれもヒトCD26のmRNA発現が極わずかに検出されたが、JMN ctrl−shRNAと比較しても遥かに低い発現量であることが示された(図1A)。
次に、生細胞膜上のヒトCD26のタンパク質発現についても解析を行った。図1AのmRNAレベルと強く相関して、細胞膜上のヒトCD26のタンパク質発現も、Jurkat−CD26、MSTO−CD26、JMN ctrl−shRNAの順に高かった(図1B)。MSTO parent、JMN CD26−shRNA、A549、Jurkat parentに関しては、細胞全体の約99%はCD26陰性だが、1%程度の極わずかな細胞集団に、非常に弱い発現強度ながら発現が見られた(図1B)。これらのヒトCD26陽性/陰性がん細胞株を用いて、以降の解析を行った。
(2)ハイブリドーマ培養上清及び精製IgG抗体による細胞ブロックの免疫染色
上述の通り、ウレアバッファーで変性処理を行った可溶性ヒトCD26を免疫したマウスの粗精製脾細胞とP3U1ミエローマ細胞とを細胞融合させ、生育したハイブリドーマの培養上清を回収して、一次スクリーニングを行った。本発明者らは以前、免疫染色に使用可能な抗ヒトCD26モノクローナル抗体の作製に成功し、特許出願したが、その際はヒトCD26陽性/陰性細胞を用いたフローサイトメトリーによる1次スクリーニングと、可溶性ヒトCD26に対するELISAによる2次スクリーニングを行うことで、抗ヒトCD26モノクローナル抗体を産生しているハイブリドーマの絞り込みを行った後、3次スクリーニングとして組織の免疫染色を選択した(特許文献2参照)。しかしながら、フローサイトメトリーで検出する生細胞膜上のヒトCD26ならびにELISAで検出する可溶性ヒトCD26は、立体構造が維持されたnativeなCD26であることが予想されるが、それらのスクリーニング方法ではnativeなCD26に対する結合親和性は低いながら、変性ヒトCD26に対する結合親和性は高い抗体を除外してしまう可能性があることを考慮し、本発明では1次スクリーニングとしてマウスIgGのELISAを行い、マウスIgG抗体を高産生しているハイブリドーマクローンの選択を行うことにした。
ヒトがん組織上のCD26の発現を免疫染色で正確に評価するためには、CD26陽性がん細胞を明瞭に染色できること、CD26陰性がん細胞に対して非特異的な染色が全く見られないこと、の両方が求められる。そこで、1次スクリーニングで得られた429のハイブリドーマクローンの培養上清を用いて、上述のヒトCD26陽性/陰性がん細胞株の免疫染色を検討した。本発明者らが以前作製した、免疫染色に使用可能な抗ヒトCD26モノクローナル抗体19−32は、ヒト正常組織のCD26の染色を行えること、また、がん組織においても全ての症例でがん細胞が染まるわけではなくCD26陰性症例もあることを確認していたが、図2Aに示すように、ヒトCD26をほとんど発現していないMSTO parent、JMN CD26−shRNA、A549のいずれも、ヒトCD26を発現しているMSTO−CD26、JMN ctrl−shRNAと同様に褐色に染色され、非特異的な結合が観察された。新たな429クローンを検討した結果、CD26陽性/陰性がん細胞株を染め分けられる5クローンを得た。中でも特に優れた染色性を示した2クローン(U16−3、U38−8)の免疫染色の結果を図2Aに示す。R&D Systems社のヤギ抗ヒトCD26ポリクローナル抗体と比較しても、MSTO−CD26、JMN ctrl−shRNAの両細胞株で明瞭な染色が観察され、一方で、MSTO parent、JMN CD26−shRNA、A549のいずれもバックグラウンドが非常に低く、非特異的な染色は見られなかった。このことから、この2クローンはヒトCD26陽性/陰性がん細胞株の細胞ブロックの染め分けをすることができ、シグナル・ノイズ比が極めて優れていることが示された。さらに、この2クローンの培養上清から精製したIgG抗体を用いて、免疫染色の最適濃度を検討した結果、R&D Systems社のヤギ抗ヒトCD26ポリクローナル抗体が1〜2μg/mLであったのに対し、U16−3は0.1〜0.2μg/mL、U38−8は0.5μg/mLとR&D Systems社のポリクローナル抗体よりもさらに低濃度の抗体量で染色が可能であった(データ未掲載)。
この2クローンがヒトCD26タンパク質に対して特異的に結合することをさらに確認するために、吸収試験を行った。過剰量の可溶性ヒトCD26タンパク質と4℃で一晩反応させたこの2クローンの精製抗体を、一次抗体として用いた結果、図2Bに示すように、U16−3、U38−8のどちらもMSTO−CD26、JMN ctrl−shRNA両細胞株に対する明瞭な染色が、可溶性CD26によって完全に阻害された。
(3)新規精製IgG抗体によるヒト正常組織、がん組織、及び、脱灰標本の免疫染色
2次スクリーニングで得られた、がん細胞株の細胞ブロックでヒトCD26を明瞭に染色できる2クローンの精製IgG抗体を用いて、ヒト正常組織、及び、がん組織の免疫染色を検討した。図2Cに示すように、R&D Systems社のヤギ抗ヒトCD26ポリクローナル抗体と同様に、U16−3、U38−8のどちらも肝臓の毛細胆管、近位尿細管の刷子縁、前立腺の管腔側等に、ヒトCD26の明瞭な染色が認められ、R&D Systems社のヤギ抗ヒトCD26ポリクローナル抗体と比較しても、染色パターン、染色の明瞭性、バックグラウンドの低さ、いずれも極めて優秀であることが示された。さらに、ヒトCD26陽性腫瘍である悪性中皮腫、肝細胞がん、腎細胞がん、前立腺がん、大腸腺がん、肺腺がんの免疫染色を検討した結果、いずれのがん組織に対しても、U16−3、U38−8のどちらもR&D Systems社のヤギ抗ヒトCD26ポリクローナル抗体と同様、若しくは、それ以上の明瞭な染色性を示すことが観察された(図2C、図2D)。これらの結果から、本発明で新たに樹立した抗ヒトCD26モノクローナル抗体U16−3とU38−8は、ホルマリン固定パラフィン包埋処理によって変性したヒトCD26に対する結合特異性・結合親和性が非常に高い抗体であることが示された。
そのうえ、ヒト正常骨および骨髄組織を脱灰して作製した脱灰標本の免疫染色も検討した結果、U16−3、U38−8はどちらもR&D Systems社のヤギ抗ヒトCD26ポリクローナル抗体では描出できない細線維構造に対しても明瞭な染色性を示すことが観察された(図2E)。脱灰標本に対しても明瞭な染色性を示す抗体は非常に貴重であり、今後、脱灰操作が必要な骨、骨髄、歯、石灰化をともなう全ての正常組織あるいは病変組織におけるヒトCD26の発現局在の同定や、骨転移、骨髄転移、石灰化をともなう全ての腫瘍や炎症・変性疾患におけるヒトCD26の発現評価にも、これらの新規抗ヒトCD26モノクローナル抗体は極めて有用であることが示された。
(4)ウェスタンブロットによるヒトCD26に対する結合特異性の解析
本発明で新たに樹立した抗ヒトCD26モノクローナル抗体U16−3とU38−8のヒトCD26に対する結合特異性をさらに解析するために、上述のヒトCD26陽性/陰性がん細胞株を用いてウェスタンブロットを行った。ウェスタンブロットのサンプルを調製する際、RIPA bufferで細胞全体を溶解した細胞溶解液に、SDS sample bufferを添加し、95℃で5分間煮沸処理を行うことで、ヒトCD26タンパク質の立体構造が変性する。これまでに本発明者らが検討した結果、免疫染色と同様に、変性ヒトCD26に結合する必要があるウェスタンブロットに適した市販されている抗ヒトCD26モノクローナル抗体はなく、CD26研究ではウェスタンブロットにもR&D Systems社のヤギ抗ヒトCD26ポリクローナル抗体を用いてきた。図3に示すように、19−32ではヒトCD26の発現が一番高いJurkat−CD26のみ分子量110kDaの位置にCD26のバンドが検出されるが、MSTO−CD26ではCD26のバンドが弱く検出され、また、ヒトCD26をほとんど発現していないMSTO parent、JMN CD26−shRNA、A549、Jurkat parentでも同様に、様々な分子量のタンパク質に対する非特異的な結合が弱いながら観察された。このことから、19−32は少なくともがん細胞株のウェスタンブロットには適していないことが示された。一方で、U16−3とU38−8はどちらもJurkat−CD26が最も発現が高く、次いで、MSTO−CD26、JMN ctrl−shRNAの順に、分子量110kDaの位置にCD26のバンドが検出され、且つ、分子量110kDa以外に非特異的なバンドも検出されないことが示された(図3)。さらに、R&D Systems社のヤギ抗ヒトCD26ポリクローナル抗体と比較しても、同じ化学発光基質を用い、同じ露出時間で画像撮影を行った結果、U16−3とU38−8はR&D Systems社のポリクローナル抗体よりも低い抗体濃度でも、検出感度が遥かに高いことが示された(図3)。このことから、U16−3とU38−8はウェスタンブロットにおいても変性ヒトCD26への結合特異性・結合親和性が極めて高い抗体であることが示された。
(5)フローサイトメトリーによる生細胞膜上のnativeヒトCD26の検出
本発明者らはこれまでに、ヒトCD26完全長やヒトCD26部分欠損変異体、ヒト・ラットswap変異体を遺伝子導入した細胞を用いて、開発した抗ヒトCD26モノクローナル抗体のエピトープの同定を、フローサイトメトリーにより行ってきた(Dong RP et al., 1998 Mol. Immunol. 35: 13-21., Hatano R et al., 2014 Diagn. Pathol. 9: 30.)。そこで、新たに樹立したU16−3とU38−8についても同様に、エピトープを同定するためにフローサイトメトリーを行った。図4に示すように、BD Biosciences社のPE標識マウス抗ヒトCD26モノクローナル抗体(クローン:M−A261)、19−32、及び、R&D Systems社のヤギ抗ヒトCD26ポリクローナル抗体では、Jurkat−CD26が細胞膜上のヒトCD26の発現が最も高く、次いで、MSTO−CD26、JMN ctrl−shRNAの順に検出され、MSTO parent、JMN CD26−shRNA、A549、Jurkat parentではいずれも発現がほとんど検出されなかった。これらの結果は、図1AのmRNA発現レベル、図3のウェスタンブロットでのタンパク質発現レベルの解析結果と完全に相関していた。しかしながら一方で、U16−3とU38−8を用いた場合では、MSTO parent、JMN CD26−shRNA、A549、Jurkat parentと同様に、Jurkat−CD26、MSTO−CD26、JMN ctrl−shRNAのいずれも細胞膜上のヒトCD26が検出されなかった(図4)。これらの結果から、U16−3とU38−8は、生細胞膜上の立体構造が維持されたnativeなヒトCD26タンパク質には結合できないことが強く示唆された。
(6)ELISAによる可溶性ヒトCD26の検出
新たに樹立したU16−3とU38−8がフローサイトメトリーによるnativeなヒトCD26タンパク質の検出に使用できなかったため、sandwich ELISAにてエピトープが既にわかっている各種抗ヒトCD26モノクローナル抗体との競合阻害実験を行うことで、U16−3とU38−8のエピトープの同定を試みた。これまでに本発明者らが開発したエピトープが異なる抗ヒトCD26モノクローナル抗体6クローンを、ELISAプレートに固相化し、可溶性ヒトCD26タンパク質を結合させた後、U16−3またはU38−8を検出抗体として用いた結果、U16−3もU38−8もいずれの固相化抗体との組み合わせでも可溶性ヒトCD26を全く検出できなかった。U16−3またはU38−8をELISAプレートに固相化し、エピトープが異なる抗ヒトCD26モノクローナル抗体6クローンを検出抗体として用いた場合でも同様に、いずれの組み合わせでも可溶性ヒトCD26を全く検出できなかった(データ未掲載)。これらの結果から、U16−3もU38−8もsandwich ELISAではnativeなヒトCD26タンパク質に結合できないことが示された。
しかしながら、驚いたことに、可溶性ヒトCD26タンパク質をELISAプレートに固相化した場合では、U16−3もU38−8も可溶性ヒトCD26量依存的に高感度で検出することが可能であった(図5)。さらに、興味深いことに、煮沸処理を行った変性可溶性ヒトCD26タンパク質を固相化した場合では、本発明者らが以前開発した抗ヒトCD26モノクローナル抗体5F8、1F7、19−32はいずれも、非変性可溶性ヒトCD26と比較して結合性が著しく低下した。一方、R&D Systems社のヤギ抗ヒトCD26ポリクローナル抗体は、変性可溶性ヒトCD26に対しても非変性可溶性ヒトCD26と同等の結合性を示し、U16−3とU38−8は非変性可溶性ヒトCD26よりもむしろ変性可溶性ヒトCD26への結合性の方が高く、少量のヒトCD26を固相化した際に著明な差が認められた(図5)。
以上の免疫染色、ウェスタンブロット、フローサイトメトリー、ELISAの検討から、本発明者らが新たに樹立したU16−3とU38−8は、ヒトCD26を発現していないがん細胞中のタンパク質に対して非特異的に結合することなく、変性ヒトCD26への結合親和性が極めて高い性質を有する抗ヒトCD26モノクローナル抗体であり、がんの病理組織の臨床診断(免疫染色によるヒトCD26の発現評価)に耐え得る明瞭な染色性を示す新たな抗ヒトCD26モノクローナル抗体であることが強く期待される。さらに、今後のヒトCD26の基礎研究分野においても適用がおおいに期待できる。
(7)U16−3及びU38−8のCDR配列解析
ハイブリドーマU16−3及びU38−8を溶解し、DNaseI処理を行った後、全RNAの精製を行った。調製した全RNAを鋳型として、マウス抗体(IgG)重鎖に特異的なPrimerと逆転写酵素を用いてcDNAを合成した。同様に、調製した全RNAを鋳型として、マウス抗体の軽鎖に特異的なPrimerと逆転写酵素を用いてcDNAを合成した。
重鎖に特異的なPrimerにより合成したcDNAを鋳型として、マウス抗体(IgG)重鎖定常領域に特異的なPrimerと、逆転写反応でcDNAの5′端に付加されたオリゴヌクレオチドに対するPrimer、DNAポリメラーゼを用いて、RACE−PCR反応を行った。同様に、軽鎖に特異的なPrimerにより合成したcDNAを鋳型として、軽鎖定常領域に特異的なPrimerと、逆転写反応でcDNAの5′端に付加されたオリゴヌクレオチドに対するPrimer、DNAポリメラーゼを用いて、RACE−PCR反応を行った。
得られたPCR産物をアガロースゲルで電気泳動し、想定の大きさのPCR産物をゲルから切り出し、精製を行った。制限酵素を用いてプラスミドベクターにPCR産物をLigationし、得られたベクターを用いて常法により形質転換を行った。ベクターが遺伝子導入されたコロニーをクローニングし、塩基配列解析用Primerを用いてSequence反応を行い、プラスミド領域の片側から目的遺伝子配列を含む塩基配列の解析を行った。得られた塩基配列情報からアミノ酸配列を取得した。
得られたU16−3及びU38−8のVHアミノ酸配列を配列番号10に示す(両者のアミノ酸配列は同じであった)。U16−3のVLアミノ酸配列を配列番号11に示す。U38−8のVLアミノ酸配列を配列番号12に示す。また、U16−3及びU38−8の重鎖CDR1、重鎖CDR2及び重鎖CDR3を配列番号1〜3にそれぞれ示す。U16−3の軽鎖CDR1、軽鎖CDR2及び軽鎖CDR3を配列番号4〜6にそれぞれ示す。U38−8の軽鎖CDR1、軽鎖CDR2及び軽鎖CDR3を配列番号7〜9にそれぞれ示す。

Claims (6)

  1. 免疫染色用に処理されたがん組織のヒトCD26及び免疫染色用に処理された正常組織のヒトCD26の両者に結合する抗ヒトCD26モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片。
  2. 重鎖CDR1が配列番号1で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、重鎖CDR2が配列番号2で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、重鎖CDR3が配列番号3で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、軽鎖CDR1が配列番号4若しくは配列番号7で示されるアミノ酸配列又はこれらのアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、軽鎖CDR2が配列番号5若しくは配列番号8で示されるアミノ酸配列又はこれらのアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、軽鎖CDR3が配列番号6若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列又はこれらのアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる請求項1記載の抗ヒトCD26モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片。
  3. 重鎖CDR1が配列番号1で示されるアミノ酸配列からなり、重鎖CDR2が配列番号2で示されるアミノ酸配列からなり、重鎖CDR3が配列番号3で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列からなり、軽鎖CDR1が配列番号4又は配列番号7で示されるアミノ酸配列からなり、軽鎖CDR2が配列番号5又は配列番号8で示されるアミノ酸配列からなり、軽鎖CDR3が配列番号6又は配列番号9で示されるアミノ酸配列からなる請求項1記載の抗ヒトCD26モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片。
  4. 受託番号NITE P−02618として寄託されたハイブリドーマ又は受託番号NITE P−02619として寄託されたハイブリドーマによって産生される請求項1又は3記載の抗ヒトCD26モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項記載の抗ヒトCD26モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片を含有するヒトCD26免疫染色用組成物。
  6. 請求項1〜4のいずれか1項記載の抗ヒトCD26モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片を使用することを特徴とする、固定組織標本中のヒトCD26免疫染色方法。
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