JP2023133869A - 卵巣がん患者の予後予測用バイオマーカー - Google Patents

卵巣がん患者の予後予測用バイオマーカー Download PDF

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Abstract

【課題】卵巣がんの検出及び/若しくは予後予測に有用な新たなバイオマーカー並びに/又はそれを特異的に認識し得る手段を提供することを課題とする。【解決手段】スポンジン1(SPON1)タンパク質若しくはそのペプチド断片、又はSPON1遺伝子の転写産物若しくはその核酸断片からなるバイオマーカーを提供する。また、抗SPON1抗体又はその断片を提供する。【選択図】なし

Description

特許法第30条第2項適用申請有り (公開1)電気通信回線発表日:令和3年3月15日 掲載アドレス:・日本病理学会会員専用ページ https://pathology.or.jp/kankoubutu/jour-pjsp.html ・日本病理学会会員システム https://member.pathology.or.jp/product/Cmn/WapCmn01P01.aspx (公開2)電気通信回線発表日:令和3年7月14日 掲載アドレス:・日本電気泳動学会第72回総会ウェブページ https://www.2021jelectrophoresis.com/ (公開3)電気通信回線発表日:令和4年3月14日 掲載アドレス:・第111回日本病理学会総会ウェブページ https://site2.convention.co.jp/111jsp/ ・日本病理学会会員システム: https://pathology.or.jp/kankoubutu/jour-pjsp.html
本発明は、卵巣がん患者の予後を予測するための及び/又は卵巣がんを検出するための、バイオマーカー、抗SPON1抗体又はその断片、及びキット等、並びに卵巣がん治療剤に関する。
わが国において、がんは死亡原因全体の中で最も多く、約3割を占めている。卵巣がんは、その年間罹患人数が日本国内及び世界においてそれぞれ1.1万人及び24万人に及び、婦人科がんの中で罹患率が高いがんの1つである。
卵巣がんは早期発見が困難であり、早期診断法が確立されていない。そのため、卵巣がんの70%強が進行がんとして発見され、5年生存率は約60%と低いのが現状である。卵巣がんの早期診断が困難である理由として、卵巣がんに特異的かつ感度の高いバイオマーカーや、それを特異的かつ高感度で認識し得る手段がこれまで見出されていないことが挙げられる。
非特許文献1~3には、代表的な卵巣がんマーカーとして知られているCancer antigen 125(CA125)が開示されている。CA125は、卵巣がん以外に膵がんや肺がん等でも陽性となることが知られている。また、CA125は子宮内膜症や子宮筋腫等の良性疾患においても上昇し得る。それ故、CA125の卵巣がんに対する特異性は十分ではない。非特許文献4~5では、過去の大規模臨床治験においてCA125と経腟エコー検査による卵巣がん診断が生存期間延長に貢献しないことが開示されている。非特許文献6には、別の卵巣がんマーカーであるHuman epididymis protein 4(HE4)が開示されている。HE4は、CA125と比べて特異度は高いものの、検出感度が約50%に留まる。したがって、特異的かつ高感度な卵巣がんマーカーや、それを特異的かつ高感度で認識し得る手段の開発が必要とされている。
卵巣がんはまた、婦人科がんの中で最も予後不良であることも知られている。現在の卵巣がんに対する標準治療では外科手術と化学療法が併用されるが、治療を受けた患者の半数以上が再発する。再発例では5年生存率が約20%と非常に低いため、卵巣がん患者の予後を向上させることが大きな課題となっている。しかしながら、早期診断の場合と同様に、予後判定に利用できる良好なバイオマーカーは見出されていない。特に、卵巣がんでは保険収載された予後予測用バイオマーカーは存在しない。卵巣がん患者の予後を向上させるために、予後判定に資するバイオマーカー及びそれを特異的かつ高感度で認識し得る手段の開発が必要とされている。
したがって、卵巣がんの早期診断を実現し、さらに卵巣がん患者の予後を飛躍的に向上させるために、卵巣がんの特異的かつ高感度な新たなバイオマーカー及びそれを特異的かつ高感度で認識し得る手段が必要とされている。
Bast R.C.Jr., et al., N Engl J Med, 1983, 309(15):883-887. Cwik G., et al., Arch Surg, 2006, 141(10):968-973. Fahrmann J.F., et al., JAMA Oncol, 2022, in press. (DOI: 10.1200/JCO.21.01460) Jacobs I.J., et al., Lancet, 2016, 387(10022):945-956. Menon U., et al., Lancet, 2021, 397(10290):2182-2193. Hellstroem I., et al., Cancer Res, 2003, 63(13):3695-3700.
本発明の目的は、卵巣がんの検出及び/若しくは予後予測に有用な新たなバイオマーカー及び/又はそれを特異的に認識し得る手段を提供することである。
本発明者らは、上記課題を解決するために、卵巣がんの新たなバイオマーカーを求めて卵巣がん細胞株の細胞表面タンパク質を網羅的に解析した。その結果、スポンジン1(SPON1)タンパク質が複数の卵巣がん細胞株の細胞表面に特異的に発現していることを見出した。SPON1の発現は、卵巣がん以外のがん組織や、正常な卵巣組織を含む正常組織では検出されず、それ故SPON1は極めて特異性の高いバイオマーカーである。本発明者はさらに、SPON1タンパク質を特異的に検出することができる抗体(抗SPON1抗体)の開発を試みた。本発明者は、ELISAを用いた一次スクリーニングにより得られた32種類の抗体クローンから、細胞が発現するSPON1タンパク質を免疫染色によって検出し得る3つの抗体クローンを同定し、このうち最も高いS/N比を示すクローン#4を選抜した。得られた抗体クローン#4は、卵巣がん組織や腹水中のがん細胞においてSPON1タンパク質を特異的かつ高感度で検出できることが明らかとなり、バイオマーカー検出において極めて有用な手段となり得ることを見出した。本発明は、上記知見に基づくものであって以下を提供する。
(1)スポンジン1(SPON1)タンパク質若しくはそのペプチド断片、又はSPON1遺伝子の転写産物若しくはその核酸断片からなる、卵巣がん患者の予後を予測するためのバイオマーカー。
(2)卵巣がん患者の予後を予測するための抗SPON1抗体又はその断片。
(3)前記抗SPON1抗体又はその断片が、
配列番号1で示すアミノ酸配列からなるCDR1、
配列番号2で示すアミノ酸配列からなるCDR2、及び
配列番号3で示すアミノ酸配列からなるCDR3
を含む重鎖可変領域と
配列番号4で示すアミノ酸配列からなるCDR1、
配列番号5で示すアミノ酸配列からなるCDR2、及び
配列番号6で示すアミノ酸配列からなるCDR3
を含む軽鎖可変領域を含む、(2)に記載の抗SPON1抗体又はその断片。
(4)前記抗SPON1抗体又はその断片が、
配列番号7で示すアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び
配列番号8で示すアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域
を含む、(3)に記載の抗SPON1抗体又はその断片。
(5)(1)に記載のバイオマーカーを検出するための、(2)~(4)のいずれかに記載の抗SPON1抗体又はその断片を含む、卵巣がん患者の予後予測用キット。
(6)卵巣がん患者の予後を予測するための、(1)に記載のバイオマーカーの使用。
(7)卵巣がんを検出するための抗SPON1モノクローナル抗体又はその断片。
(8)前記抗SPON1モノクローナル抗体又はその断片が、
配列番号1で示すアミノ酸配列からなるCDR1、
配列番号2で示すアミノ酸配列からなるCDR2、及び
配列番号3で示すアミノ酸配列からなるCDR3
を含む重鎖可変領域と
配列番号4で示すアミノ酸配列からなるCDR1、
配列番号5で示すアミノ酸配列からなるCDR2、及び
配列番号6で示すアミノ酸配列からなるCDR3
を含む軽鎖可変領域を含む、(7)に記載の抗SPON1モノクローナル抗体又はその断片。
(9)前記抗SPON1モノクローナル抗体又はその断片が、
配列番号7で示すアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び
配列番号8で示すアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域
を含む、(8)に記載の抗SPON1モノクローナル抗体又はその断片。
(10)(7)~(9)のいずれかに記載の抗SPON1モノクローナル抗体又はその断片を含む、卵巣がん検出用キット。
(11)卵巣がん患者の予後を予測するための方法であって、
卵巣がん患者に由来する試料において、(1)に記載のバイオマーカーを検出する検出工程
を含み、前記試料が前記バイオマーカーについて陽性である場合、前記卵巣がん患者の予後が悪いことを示す、前記方法。
(12)前記バイオマーカーが(2)~(4)のいずれかに記載の抗SPON1抗体又はその断片を用いて検出される、(11)に記載の方法。
(13)卵巣がんを検出するための方法であって、
被験者に由来する体液等の試料において、SPON1タンパク質若しくはそのペプチド断片からなるバイオマーカーを検出する検出工程
を含み、前記試料が前記バイオマーカーについて陽性である場合、前記被験者は卵巣がんに罹患している可能性が高いことを示し、かつ前記バイオマーカーが(7)~(9)のいずれかに記載の抗SPON1モノクローナル抗体又はその断片を用いて検出される、前記方法。
(14)抗SPON1抗体又はその断片を有効成分として含む、卵巣がん治療剤。
(15)前記抗SPON1抗体又はその断片が、
配列番号1で示すアミノ酸配列からなるCDR1、
配列番号2で示すアミノ酸配列からなるCDR2、及び
配列番号3で示すアミノ酸配列からなるCDR3
を含む重鎖可変領域と
配列番号4で示すアミノ酸配列からなるCDR1、
配列番号5で示すアミノ酸配列からなるCDR2、及び
配列番号6で示すアミノ酸配列からなるCDR3
を含む軽鎖可変領域を含む、(14)に記載の卵巣がん治療剤。
(16)前記抗SPON1抗体又はその断片が
配列番号7で示すアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び
配列番号8で示すアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域
を含む、(15)に記載の卵巣がん治療剤。
本発明によれば、卵巣がんの特異的かつ感度の良い新たなバイオマーカーが提供される。
ヒト卵巣がん細胞株の細胞表面タンパク質を同定する方法を示す図である。図に示す方法において、細胞表面タンパク質はビオチンタグで標識され、質量分析により同定される。 様々なヒトがん組織及び正常組織におけるSPON1遺伝子の発現量を示す図である。図2Aは、様々ながん組織におけるSPON1遺伝子の発現量を示す。図2Bは、様々な正常組織におけるSPON1遺伝子の発現量を示す。 抗SPON1モノクローナル抗体クローン#4と抗原ペプチドとの濃度依存性反応を示す図である。図は、3回の測定結果の平均値を示す。 抗SPON1モノクローナル抗体クローン#4の抗原特異性を示す図である。図は、SPON1タンパク質発現用のベクターが導入されていないHEK293T細胞(左側)、SPON1タンパク質発現用のベクターが導入されたHEK293T細胞(中央)、及び卵巣がん細胞株(OVCAR3細胞株)における、抗SPON1モノクローナル抗体クローン#4を用いた免疫染色の結果を示す。スケールバーは50 μmを示す。 抗SPON1モノクローナル抗体クローン#1、#4、及び#11の抗原特異性を示す図である。図は、SPON1タンパク質発現用のベクターが導入されていないHEK293T細胞(上側、HEK293T)、及びSPON1タンパク質発現用のベクターが導入されたHEK293T細胞(下側、HEK293T+SPON1)における抗SPON1モノクローナル抗体の各クローン(#1、#4、及び#11)を用いた免疫染色の結果を示す。クローン#4は、クローン#1及び#11と比較して著しく高いS/N比を示した。スケールバーは50 μmを示す。 正常卵巣組織及び卵巣がん組織(SPON1陰性例、SPON1中等度陽性例、及びSPON1強陽性例)における免疫組織化学染色の結果を示す図である。スケールバーは50 μmを示す。 低SPON1群の卵巣がん患者(210症例)及び高SPON1群(36症例)の卵巣がん患者における無再発生存率のカプランマイヤー曲線を示すグラフである。 卵巣がん患者における臨床病理学的因子とSPON1発現(低SPON1発現/高SPON1発現)との関連性を示す図である。 臨床病理学的解析による卵巣がん患者の予後(DFS)に関する単変量解析の結果を示す図である。 卵巣がん患者(症例1及び症例2)から採取された腹水中の細胞塊において、抗SPON1モノクローナル抗体クローン#4を用いてSPON1タンパク質を検出した結果を示す図である。スケールバーはいずれも50 μmを示す。
(卵巣がん患者の予後を予測するための及び/又は卵巣がんを検出するためのバイオマーカー)
一態様において、本発明は、卵巣がん患者の予後予測用バイオマーカーを提供する。本発明はまた、卵巣がんを検出するためのバイオマーカーを提供する。本発明のバイオマーカーは、スポンジン1(SPON1)タンパク質若しくはそのペプチド断片、又はSPON1遺伝子の転写産物若しくはその核酸断片からなる。卵巣がんにおいて発現し得るスポンジン1(SPON1)タンパク質若しくはそのペプチド断片、又はSPON1遺伝子の転写産物若しくはその核酸断片をバイオマーカーとして使用することで、卵巣がんの悪性度の判定や予後の予測、卵巣がんの検出を行うことが可能となる。
本明細書において、「卵巣がん」は、卵巣に発生するがんを指す。卵巣がんは様々な起源細胞に基づいて分類することができる。例えば表層上皮、卵巣間質、性索間質、又は胚細胞を起源とする卵巣がんが知られている。本明細書では、卵巣がんの起源細胞は特に限定しない。また、卵巣がんの病期(ステージ)は、I期(腫瘍が卵巣に限局している)、II期(腫瘍が片側又は両側の卵巣に存在し、骨盤内への広がりを示す)、III期(腫瘍が片側又は両側の卵巣に存在し、腹膜播種やリンパ節転移を示す)、及びIV期(腹膜播種を除き、遠隔転移を示す)に分類することができる。
本明細書において、「予後」は、卵巣がん等を対象とするがん治療(例えば、手術、化学療法(薬物療法)、又は放射線治療等)後の、腫瘍量の低減、腫瘍増殖の抑制、又は疾患の経過(例えば、再発の有無、転移の有無、治療後の生存期間の長さ、生死等)をいう。「予後の予測」は、再発リスク(例えば無再発生存率)、転移リスク、生存期間、手術から一定期間後(例えば、1年、2年、3年、4年、5年、10年、15年若しくは20年後又はそれ以降の時点)の生存率、無再発生存率(Relapse-free survival、RFS)、又は疾患特異的生存率(Disease-free survival、DFS)の予測であってもよい。一実施形態において、予後の予測は、再発リスク(例えば無再発生存率)の予測又は転移リスクの予測を含む。なお、本明細書において無再発生存率は、初発がんと関連付けられるがん等の再発がん発症のない患者の割合であり、疾患特異的生存率は、初発がんと関連する死亡のない患者の割合を意味する。予後の予測は、予後の判定、評価、診断、又はこれらの補助ということもできる。
本明細書において「判定」とは、卵巣がん等のがんの悪性度を判定することをいう。特に卵巣がん等のがんに罹患している被検体(がん患者)において、がんの悪性度を判定することをいう。
本明細書において、「がん患者」は、例えば哺乳動物、好ましくは霊長類、より好ましくはヒトである。「卵巣がん患者」もまた、例えば哺乳動物、好ましくは霊長類、より好ましくはヒトである。
本明細書において「悪性度」とは、卵巣がん等のがんの周囲組織への浸潤、他臓器への転移、及び/又は再発能の程度等をいう。より具体的には、がん細胞の増殖能及び/又は遊走能を意味する。卵巣がん等のがんの悪性度を判定することによって、予後を予測し、浸潤、転移、及び再発能の高い予後不良例を選別することが可能となる。本明細書において、悪性度の判定には予後の予測も含まれる。
本明細書において「卵巣がん患者の予後を予測するためのバイオマーカー(卵巣がん患者の予後予測用バイオマーカー)」とは、卵巣がんの予後を予測する、又は卵巣がんの予後を示すことができるバイオマーカーをいう。
本発明では、原則として、スポンジン1(SPON1)タンパク質若しくはそのペプチド断片、又はSPON1遺伝子の転写産物若しくはその核酸断片(本明細書において「SPON1タンパク質等」という)がバイオマーカーとなり得る。例えば、前記患者がヒトであれば、ヒトSPON1遺伝子に由来するヒトSPON1タンパク質及びヒトSPON1遺伝子の転写産物(mRNA)が本発明のバイオマーカーとなり得る。
「スポンジン1(Spondin-1;SPON1)」は、F-spondinとも呼ばれ、6つのトロンボスポンジンドメイン、1つのリーリンドメイン、及び1つのスポンジンドメインから構成されるタンパク質である。SPON1タンパク質は、発生期の神経系において底板で発現し、細胞外に分泌されて、脊椎や末梢神経系において軸索の成長やガイダンスに寄与し得ることが過去に報告されている(Klar A, et al., Cell, 1992, 69(1):95-110.)。SPON1タンパク質の具体例として、配列番号9で示すアミノ酸配列からなるヒトSPON1タンパク質が挙げられる。本明細書においてSPON1タンパク質は原則としてヒト由来のSPON1タンパク質を示すが、配列番号9で示すアミノ酸配列に対して80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上の同一性を有するか、又は配列番号9で示すアミノ酸配列に対して1又は複数個のアミノ酸が付加、欠失、若しくは置換された変異型SPON1タンパク質も含まれるものとする。また、配列番号9で示すアミノ酸配列からなるヒトSPON1タンパク質と同等の活性を有する他生物種のSPON1オルソログも包含される。後述する本明細書の実施例において、SPON1タンパク質をコードするSPON1遺伝子が、成体の正常組織及びがん組織のうち卵巣がんに特異的に発現し得ることが見出された。
本明細書において「アミノ酸同一性」とは、比較する2つのアミノ酸配列の全アミノ酸残基数における一致したアミノ酸残基数の割合(%)をいう。具体的には、2つのアミノ酸配列を整列(アラインメント)し、必要に応じ、一方又は双方に適宜ギャップを挿入する。このとき、1ギャップは、1アミノ酸残基として全アミノ酸残基数にカウントする。アミノ酸配列の整列化は、例えば、Blast、FASTA、ClustalW等の既知プログラムを用いて行うことができる(Karlin,S.et al., 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 5873-5877;Altschul,S.F.et al., 1990, J. Mol. Biol., 215: 403-410;Pearson,W.R.et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85: 2444-2448)。比較する2つのアミノ酸配列間で全アミノ酸残基数が異なる場合には、長い方を全アミノ酸残基数とする。比較する2つのアミノ酸配列においてアミノ酸一致度が最も高くなるようにしたときの同一アミノ酸残基数を全アミノ酸残基数で除して算出される。
本明細書において「複数個」とは、例えば、2~50個、2~40個、2~30個、2~20個、2~18個、2~16個、2~14個、2~12個、2~10個、2~8個、2~7個、2~6個、2~5個、2~4個又は2~3個をいう。
「SPON1遺伝子」は、前記SPON1タンパク質をコードする遺伝子である。SPON1遺伝子の具体例として、配列番号9で示されるアミノ酸配列からなるヒトSPON1タンパク質をコードするヒトSPON1遺伝子が挙げられる。より具体的には、SPON1遺伝子は、配列番号10で示される塩基配列からなる遺伝子である。
また、SPON1遺伝子には、配列番号10で示されるSPON1遺伝子がコードするSPON1タンパク質と機能的に同等の活性を有するSPON1バリアントや他生物種のSPON1オルソログをコードするSPON1遺伝子も包含される。具体的には、配列番号10で示される塩基配列において1若しくは複数個の塩基が欠失、置換又は付加された塩基配列、或いは配列番号10で示される塩基配列に対して90%以上、95%以上、97%以上、98%以上又は99%以上の塩基同一性を有するSPON1遺伝子が包含される。さらに、配列番号10で示される塩基配列に対して相補的な塩基配列の一部からなる核酸断片と高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなり、かつSPON1タンパク質と機能的に同等の活性を有するタンパク質をコードする遺伝子が包含される。
本明細書において「塩基同一性」とは、2つの塩基配列を整列(アラインメント)し、必要に応じてギャップを導入して、両者の塩基一致度が最も高くなるようにしたときに、配列番号10で示される塩基配列からなるSPON1遺伝子の全塩基に対する2つの塩基配列間で同一塩基の割合(%)をいう。
SPON1遺伝子の塩基配列情報は、公共のデータベース(GenBank、EMBL、DDBJ)より検索可能である。例えば、配列番号10で示されるSPON1遺伝子の既知塩基配列情報に基づいて、塩基同一性の高い遺伝子をデータベースから検索し、入手することができる。
「SPON1遺伝子の転写産物」とは、SPON1 mRNAを意味する。mRNAは、mRNA前駆体(pre-mRNA)及び成熟mRNA(mature mRNA)を問わない。通常、mRNA前駆体は、核内において直ちにスプライシングされて、成熟mRNA成熟体となることから、実質的に本発明のバイオマーカーとなるSPON1遺伝子の転写産物は、SPON1成熟mRNAである。
本明細書において「ペプチド断片」とは、SPON1タンパク質を構成するアミノ酸配列の一部からなるペプチド断片であって、その断片を構成するアミノ酸配列からSPON1タンパク質の断片であることを同定することができるものをいう。通常は、SPON1タンパク質の全長アミノ酸配列のうちの20個以上800個以下、20個以上700個以下、20個以上600個以下、20個以上500個以下、20個以上400個以下、20個以上300個以下、20個以上200個以下、30個以上150個以下、40個以上100個以下、又は50個以上80個以下の連続するアミノ酸残基からなるペプチドであればよい。例えば、後述する本発明の抗SPON1抗体によって認識される抗原エピトープを含むペプチド断片、例えば配列番号11又は20で示されるアミノ酸配列を含む、又はそれに含まれるペプチド断片が好ましい。
本明細書において「核酸断片」とは、SPON1 mRNAを構成する塩基配列の一部からなる核酸断片であって、その断片を構成する塩基配列からSPON1 mRNAの断片であることを同定することができるものをいう。通常は、SPON1 mRNAの全長塩基配列のうちの40個以上2400個以下、40個以上2100個以下、40個以上1800個以下、40個以上1500個以下、40個以上1200個以下、40個以上900個以下、40個以上600個以下、50個以上450個以下、60個以上300個以下、又は70個以上200個以下の連続する塩基からなる核酸であればよい。
本明細書において「被検体」とは、試料を提供し、検査に供されるヒト個体をいう。原則として個体であるが、本明細書では、時としてヒト由来の組織や細胞も包含し得る。また、個体は、健常体のみならず、何らかの疾患(例えば悪性腫瘍)を有する患者、又は疾患(例えば悪性腫瘍)の罹患可能性のある個体のいずれであってもよい。
本明細書において「健常体」とは、卵巣がん等の特定のがんに罹患していないヒト個体、好ましくはいかなるがんにも罹患していないヒト個体、より好ましくはいずれの疾患にも罹患していない健常状態にあるヒト個体をいう。ただし、本明細書では健常ヒト細胞も広義の健常体に含むものとする。したがって、個体レベルのみならず、例えば、がん患者から採取した組織のうちの正常部分のように、細胞レベルで健常状態にあれば健常体と称することとする。
本明細書において「(アミノ酸の)置換」とは、天然のタンパク質を構成する20種類のアミノ酸間において、電荷、側鎖、極性、芳香族性等の性質の類似する保存的アミノ酸群内での置換をいう。例えば、低極性側鎖を有する無電荷極性アミノ酸群(Gly, Asn, Gln, Ser, Thr, Cys, Tyr)、分枝鎖アミノ酸群(Leu, Val, Ile)、中性アミノ酸群(Gly, Ile, Val, Leu, Ala, Met, Pro)、親水性側鎖を有する中性アミノ酸群(Asn, Gln, Thr, Ser, Tyr, Cys)、酸性アミノ酸群(Asp, Glu)、塩基性アミノ酸群(Arg, Lys, His)、芳香族アミノ酸群(Phe, Tyr, Trp)内での置換が挙げられる。これらの群内でのアミノ酸置換であれば、ペプチドの性質に変化を生じにくいことが知られているため好ましい。
本明細書において「高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」とは、低塩濃度及び/又は高温の条件下でハイブリダイゼーションと洗浄を行うことをいう。例えば、6×SSC、5×Denhardt試薬、0.5%SDS、100μg/mL変性断片化サケ精子DNA中で65℃~68℃にてプローブと共にインキュベートし、その後、2×SSC、0.1%SDSの洗浄液中で室温から開始して、洗浄液中の塩濃度を0.1×SSCまで下げ、かつ温度を68℃まで上げて、バックグラウンドシグナルが検出されなくなるまで洗浄することが例示される。高ストリンジェントなハイブリダイゼーションの条件については、Green, M.R. and Sambrook, J., 2012, Molecular Cloning: A Laboratory Manual Fourth Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New Yorkに記載されているので参考にすることができる。
本発明の卵巣がん患者の予後予測用バイオマーカーによれば、卵巣がん患者の予後を高い精度で予測することができる。例えば、卵巣がん患者の再発リスク、及び/又は転移リスクを判定することができる。このことによって、卵巣がんの中から浸潤、転移、及び/又は再発能の高い予後不良例を選別することが可能となる。
また、本発明の卵巣がん患者の予後予測用バイオマーカーによれば、スポンジン1(SPON1)タンパク質若しくはそのペプチド断片、又はSPON1遺伝子の転写産物若しくはその核酸断片の、卵巣がん患者の予後予測用バイオマーカーとしての使用が提供される。
本発明の卵巣がんを検出するためのバイオマーカーによれば、卵巣がんを高い精度で検出することができる。例えば、卵巣がんの早期診断や早期発見が可能となる。
また、本発明の卵巣がんを検出するためのバイオマーカーによれば、スポンジン1(SPON1)タンパク質若しくはそのペプチド断片、又はSPON1遺伝子の転写産物若しくはその核酸断片の、卵巣がんを検出するためのバイオマーカーとしての使用も提供される。
(卵巣がん患者の予後を予測するための及び/又は卵巣がんを検出するための抗SPON1抗体又はその断片)
一態様において、本発明によれば卵巣がん患者の予後を予測するための抗SPON1抗体又はその断片が提供される。また、卵巣がんを検出するための抗SPON1抗体又はその断片も提供される。本発明の抗SPON1抗体又はその断片は、悪性度の高い卵巣がんにおいて発現し得るSPON1タンパク質又はそのペプチド断片を検出することによって、被検体における卵巣がんの予後を予測することができる。また、本発明の抗SPON1抗体又はその断片は、卵巣がんにおいて発現し得るSPON1タンパク質又はそのペプチド断片を検出することによって、卵巣がんの検出を行うことができる。
(1)抗SPON1抗体
「抗SPON1抗体」とは、SPON1タンパク質又はそのペプチド断片に対して免疫応答性を示す抗体をいう。
本発明の抗SPON1抗体の由来生物種は、特に限定しない。好ましくは鳥類及び哺乳動物由来の抗体である。例えば、ニワトリ、ダチョウ、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ヤギ、ロバ、ヒツジ、ラクダ、ウマ、又はヒト等が挙げられる。
本発明の抗SPON1抗体は、SPON1タンパク質又はそのペプチド断片を認識し、免疫応答性を示す抗体である限り、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体のいずれであってもよい。好ましくは抗体価が安定しているモノクローナル抗体である。
本明細書において「ポリクローナル抗体」とは、抗原に特異的に結合し、かつそれを認識することのできる異なる複数種の免疫グロブリン群をいう。
また、本明細書において「モノクローナル抗体」とは、フレームワーク領域(Framework region:以下、「FR」と表記する)及び相補性決定領域(Complementarity determining region:以下、「CDR」と表記する)を含み、抗原に特異的に結合し、かつそれを認識することのできる単一種の免疫グロブリン、又は免疫グロブリンに含まれる少なくとも1組の軽鎖可変領域(VL領域)及び重鎖可変領域(VH領域)を包含する組換え抗体又は合成抗体をいう。
抗SPON1抗体が免疫グロブリン分子で構成される場合、免疫グロブリンは任意のクラス(例えば、IgG、IgE、IgM、IgA、IgD、及びIgY)、又は任意のサブクラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2)とすることができる。
本発明の抗SPON1抗体が認識するSPON1タンパク質又はそのペプチド断片のエピトープの位置は特に限定しない。本発明の抗SPON1抗体が認識するエピトープの一例として、配列番号11又は20で示すアミノ酸配列に含まれるペプチド配列が挙げられる。
上記エピトープを認識する抗SPON1抗体の具体例として、後述する実施例のラット抗SPON1モノクローナル抗体クローン#4が挙げられる。この抗体クローン#4は、重鎖可変領域が配列番号7で示すアミノ酸配列からなり、また軽鎖可変領域が配列番号8で示すアミノ酸配列からなる。Kabatのルール(Kabat E.A., et al., 1991, Sequences of proteins of immunological interest, Vol.1, eds. 5, NIH publication)によれば、抗体クローン#4の重鎖可変領域において、CDR1は配列番号1で示すアミノ酸配列からなり、CDR2は配列番号2で示すアミノ酸配列からなり、CDR3は配列番号3で示すアミノ酸配列からなる。また、抗体クローン#4の軽鎖可変領域において、CDR1は配列番号4で示すアミノ酸配列からなり、CDR2は配列番号5で示すアミノ酸配列からなり、CDR3は配列番号6で示すアミノ酸配列からなる。配列番号1~8のアミノ酸配列を以下に示す。
重鎖可変領域のアミノ酸配列:EVQLVETGGDLVQPGKSLKLTCATSGFTFTAAWMHWLRQSPDKRLEWIARIKDKSNNYATDYVESVKGRFTISRDDSKSCVYLQMNSLKEEDTATYYCTSGGFAYWGQGTLVTVSSAQTT(配列番号7)
軽鎖可変領域のアミノ酸配列:DVVMTQTPPSLSVAIGQSVSISCKSSQSLVYRDGKTYLHWLLQSPDRSPKRLIYQVSNLGSGVPDRFSGTGSQKDFTLKISRVEAEDLGVYYCAQTTHLYTFGAGTKLELKRADAAPTNH(配列番号8)
重鎖CDR1のアミノ酸配列:ATSGFTFTAAWMH(配列番号1)
重鎖CDR2のアミノ酸配列:RIKDKSNNYATD(配列番号2)
重鎖CDR3のアミノ酸配列:TSGGFAY(配列番号3)
軽鎖CDR1のアミノ酸配列:KSSQSLVYRDGKTYLH(配列番号4)
軽鎖CDR2のアミノ酸配列:YQVSNLGS(配列番号5)
軽鎖CDR3のアミノ酸配列:AQTTHLYT(配列番号6)
なお、クローン#4の重鎖可変領域に相当する配列番号7で示すアミノ酸配列をコードする核酸(ヌクレオチド)として、例えば、配列番号18で示す塩基配列からなる核酸が挙げられる。また、抗体クローン#4の軽鎖可変領域に相当する配列番号8で示すアミノ酸配列をコードする核酸として、例えば、配列番号19で示す塩基配列からなる核酸が挙げられる。さらに、上記抗体クローン#4における重鎖可変領域のCDR1、CDR2、及びCDR3をコードする塩基配列として、例えば、それぞれ配列番号12、13、及び14で示す塩基配列からなる核酸が挙げられる。また、上記抗体クローン#4における軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、及びCDR3をコードする塩基配列として、例えば、それぞれ配列番号15、16、及び17で示す塩基配列からなる核酸が挙げられる。
「組換え抗体」とは、キメラ抗体、又はヒト化抗体をいう。「キメラ抗体」とは、異なる動物由来の抗体のアミノ酸配列を組み合わせて作製される抗体で、ある抗体の定常領域(C領域)を他の抗体のC領域で置換した抗体である。例えば、ラットモノクローナル抗体のC領域をヒト抗体のC領域と置き換えた抗体が該当する。具体的な例を挙げると、任意の抗原に対するヒト抗体の重鎖可変領域を前述の抗体クローン#4における配列番号7で示すアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と置換し、またヒト抗体の軽鎖可変領域を配列番号8で示すアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と置換してなる抗体が挙げられる。これによりヒト体内における当該抗体に対する免疫反応を軽減し得る。「ヒト化抗体」とは、ヒト抗体におけるCDRをヒト以外の哺乳動物由来の抗体におけるCDRと置換したモザイク抗体である。免疫グロブリン分子の可変領域(V領域)は、4つのFR(FR1、FR2、FR3及びFR4)と3つのCDR(CDR1、CDR2及びCDR3)がN末端側からFR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4の順序で連結されて構成されている。このうちFRは可変領域の骨格を構成する相対的に保存された領域であり、CDRが抗体の抗原結合特異性に直接寄与する。ヒト化抗体は、例えば、ラット由来の抗体クローン#4の軽鎖又は重鎖における一組のCDR1、CDR2及びCDR3を任意の抗原に対するヒト抗体の軽鎖又は重鎖における一組のCDR1、CDR2、及びCDR3とそれぞれ置換することによって、ラット抗体クローン#4の抗原結合特異性を受け継いだヒト抗体として構築することができる。具体的な例を挙げると、前述の抗体クローン#4における重鎖由来の配列番号1で示すアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号2で示すアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号3で示すアミノ酸配列からなるCDR3をヒト抗体の重鎖CDR1、CDR2、及びCDR3とそれぞれ置換し、また前述の抗体クローン#4における軽鎖由来の配列番号4で示すアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号5で示すアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号6で示すアミノ酸配列からなるCDR3をヒト抗体の軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3とそれぞれ置換してなる抗体が挙げられる。このようなヒト化抗体は、CDR以外はヒト抗体由来であることからヒト体内における当該抗体に対する免疫反応をキメラ抗体以上に軽減し得る。
「合成抗体」とは、化学的に又は組換えDNA法を用いることによって合成した抗体をいう。例えば、組換えDNA法を用いて新たに合成された抗体が挙げられる。具体的には、例えば、scFv(single chain Fragment of variable region:単鎖抗体)、ダイアボディ(diabody)、トリアボディ(triabody)又はテトラボディ(tetrabody)等が挙げられる。免疫グロブリン分子において、機能的な抗原結合部位を形成する一組の可変領域(軽鎖可変領域VL及び重鎖可変領域VH)は、軽鎖と重鎖という別々のポリペプチド鎖上に位置する。scFvは、免疫グロブリン分子において、VL及びVHを十分な長さの柔軟性リンカーによって連結し、1本のポリペプチド鎖に包含した構造を有する分子量約35 kDa以下の合成抗体である。scFv内において1組の可変領域は、互いに自己集合して1つの機能的な抗原結合部位を形成することができる。scFvは、それをコードする組換えDNAを、公知技術を用いてベクターに組み込み、発現させることで得ることができる。ダイアボディは、scFvの二量体構造を基礎とした構造を有する分子である(Holliger et al., 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6444-6448)。例えば、上記リンカーの長さが約12アミノ酸残基よりも短い場合、scFv内の2つの可変領域は自己集合できないが、2つのscFvを相互作用させてダイアボディを形成させることにより、一方のscFvのVLが他方のscFvのVHと集合可能となり、2つの機能的な抗原結合部位を形成することができる。さらに、scFvのC末端にシステイン残基を付加させることにより、2本のscFv同士のジスルフィド結合が可能となり、安定的なダイアボディを形成させることもできる。このようにダイアボディは二価の抗体断片である。トリアボディ、及びテトラボディは、ダイアボディと同様にscFv構造を基本とした、その三量体、及び四量体構造を有する、それぞれ、三価、及び四価の抗体である。ダイアボディ、トリアボディ、及びテトラボディは、多重特異性抗体であってもよい。「多重特異性抗体」とは、多価抗体、すなわち抗原結合部位を一分子内に複数有する抗体において、それぞれの抗原結合部位が異なるエピトープと結合する抗体をいう。例えば、ダイアボディにおいて、それぞれの抗原結合部位が異なるエピトープと結合する二重特異性抗体(Bispecific抗体)が挙げられる。具体的には、例えば、本発明の抗SPON1抗体であれば、一方の抗原結合部位が配列番号11又は20で示すアミノ酸配列に含まれるエピトープと結合し、他方の抗原結合部位が上記エピトープ以外のエピトープと結合するダイアボディが該当する。
本発明の抗SPON1抗体は、修飾することもできる。ここでいう「修飾」とは、グリコシル化のような抗原特異的結合活性に必要な機能上の修飾や抗体検出に必要な標識上の修飾を含む。
抗SPON1抗体上のグリコシル化修飾は、標的であるSPON1タンパク質又はそのペプチド断片に対する抗SPON1抗体の親和性を調整するために行われる。具体的には、例えば、抗SPON1抗体のFRにおいて、グリコシル化を構成するアミノ酸残基に置換を導入してグリコシル化部位を除去することで、その部位のグリコシル化を喪失させる改変等が挙げられる。
抗SPON1抗体の標識には、例えば、蛍光色素(FITC、ローダミン、テキサスレッド、Cy3、Cy5)、蛍光タンパク質(例えば、PE、APC、GFP)、酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、グルコースオキシダーゼ)、放射性同位元素(例えば、3H、14C、35S)又はビオチン若しくは(ストレプト)アビジンによる標識が挙げられる。
本発明の抗SPON1抗体は、SPON1タンパク質との解離定数が、10-7 M以下であることが好ましく、例えば10-8 M以下の高い親和性を有することが好ましく、より好ましくは10-9 M以下、特に好ましくは10-10 M以下である。上記解離定数は、当該分野で公知の技術を用いて測定することができる。例えば、Biacoreシステム(GE Healthcare社)により速度評価キットソフトウェアを用いて測定してもよい。
(2)その断片
本明細書において「その断片」とは、抗SPON1抗体の一部からなり、かつ抗SPON1抗体と同様にSPON1タンパク質又はその断片に対して免疫応答性を示す抗体断片をいう。例えば、Fab、F(ab')2、Fab'等が該当する。
Fabは、IgG分子がパパインによってヒンジ部のジスルフィド結合よりもN末端側で切断されて生じる抗体断片であって、H鎖定常領域(重鎖定常領域:以下CHと表記する)を構成する3つのドメイン(CH1、CH2、CH3)のうちVHに隣接するCH1とVH、及び完全長のL鎖から構成される。
F(ab')2は、IgG分子がペプシンによってヒンジ部のジスルフィド結合よりもC末端側で切断されて生じるFab'の二量体である。Fab'は、Fabよりもヒンジ部を含む分だけH鎖が若干長いが実質的にはFabと同等の構造を有する。Fab'は、F(ab')2をマイルドな条件下で還元し、ヒンジ領域のジスルフィド連結を切断することによって得ることができる。これらの抗体断片は、いずれも抗原結合部位を包含していることから、抗原エピトープと特異的に結合する能力を有している。
(3)抗SPON1抗体の作製
本発明の抗SPON1抗体は、当該分野の常法によって得ることができる。また、モノクローナル抗体のアミノ酸配列が明らかであれば、そのアミノ酸配列に基づいて、化学的合成法や組換えDNA技術を用いることによって調製することもできる。さらに、モノクローナル抗体は、その抗体を産生するハイブリドーマから得ることもできる。
本発明の抗SPON1抗体の免疫原として使用可能な抗原ペプチドは、SPON1タンパク質の中の任意の一部(以下、「SPON1抗原ペプチド」と表記する)である。例えば、本発明の抗SPON1抗体の免疫原として使用可能な抗原ペプチドの一例として、配列番号11又は20で示すアミノ酸配列からなるペプチドが挙げられる。SPON1抗原ペプチドは、例えば、化学合成法又はDNA組換え技術を用いて調製することができる。
(卵巣がん患者の予後予測用及び/又は卵巣がん検出用キット)
一態様において、本発明は卵巣がん患者の予後予測用キットを提供する。本発明の卵巣がん患者の予後予測用キットは、上述の卵巣がん患者の予後を予測するための抗SPON1抗体又はその免疫応答性を有する断片を必須の構成要素として含み、上述の卵巣がん患者の予後を予測するためのバイオマーカーを検出することができる。本発明の卵巣がん患者の予後予測用キットは、SPON1タンパク質又はそのペプチド断片以外の卵巣がん患者の予後予測用バイオマーカー(以下、「他の予後予測用バイオマーカー」と称する)に対する抗体(以下、「他の予後予測用抗体」と称する)又は免疫応答性を有するその断片を選択構成物として含む。
また、本発明によれば卵巣がん検出用キットも提供される。本発明の卵巣がん検出用キットは、上述の卵巣がんを検出するための抗SPON1抗体又はその免疫応答性を有する断片を必須の構成要素として含み、上述の卵巣がんを検出するためのバイオマーカーを検出することができる。本発明の卵巣がん検出用キットは、SPON1タンパク質又はそのペプチド断片以外の卵巣がん検出用バイオマーカー(以下、「他の検出用バイオマーカー」と称する)に対する抗体(以下、「他の検出用抗体」と称する)又は免疫応答性を有するその断片を選択構成物として含む。
(1)必須構成物
本発明の卵巣がん患者の予後予測用キット又は卵巣がん検出用キットは、上述の抗SPON1抗体又はその断片を必須の構成要素として含む。本発明の卵巣がん患者の予後予測用キット又は卵巣がん検出用キットに含まれる抗SPON1抗体は単一種であってもよいし、複数種であってもよい。
(2)選択構成物
本発明の卵巣がん患者の予後予測用キット又は卵巣がん検出用キットは、選択構成物として、1種類又は複数種類の他の予後予測用抗体若しくは他の検出用抗体又は免疫応答性を有するその断片をさらに含んでもよい。ここで、他の予後予測用抗体若しくは他の検出用抗体は、上記の抗SPON1抗体と組み合わせて用いた場合に卵巣がんの予後予測や卵巣がんの検出の精度を向上し得るものであれば任意の抗体でよく、卵巣がんの任意の予後予測用バイオマーカー又は卵巣がんの任意の検出用バイオマーカーに対する抗体を使用することができる。このようなバイオマーカーは、公知の卵巣がんマーカーから選択することができる。公知の卵巣がんマーカーの例として、Cancer antigen 125(CA125)及びHuman epididymis protein 4(HE4)が挙げられる。また、CA125に対する抗体の例として、CA125(ライカバイオシステムズ、PA0539)が挙げられる。HE4に対する抗体の例としては、Recombinant Anti-HE4 antibody(アブカム、ab200828)が挙げられる。
本発明のがん患者の予後予測用キット又は卵巣がん検出用キットは、上述の必須の構成要素の他に、卵巣がんの予後予測又は卵巣がんの検出に必要な他の試薬、例えば、バッファーや二次抗体、検出及び結果の判定に用いる説明書を含んでいてもよい。
(卵巣がん患者の予後予測方法)
一態様において、本発明は卵巣がん患者の予後予測方法を提供する。本発明の卵巣がん患者の予後予測方法は、卵巣がん患者由来の試料中のスポンジン1(SPON1)タンパク質若しくはそのペプチド断片、又はSPON1遺伝子の転写産物若しくはその核酸断片からなるバイオマーカー(以下、「SPON1タンパク質等のバイオマーカー」という)を検出する検出工程を含み、バイオマーカーの陽性/陰性の決定結果に基づいて卵巣がん患者の予後が示される。検出工程はインビトロで行うことができる。
本態様において「検出工程」とは、卵巣がんに罹患している被検体に由来する試料において、卵巣がん患者の予後予測用バイオマーカーの量を測定し、その測定値に基づいて、当該バイオマーカーが陽性であるか又は陰性であるかを決定(以下、「陽性/陰性の決定」と表記する)する工程である。
本明細書において、「検出」という用語には、測定、定性、定量、及び半定量のいずれもが包含される。
本態様の予後予測方法において「試料」とは、被検体若しくは被検体群又は健常体若しくは健常体群から採取され、本態様のがん患者の予後予測方法に供されるものであって、例えば、組織又は細胞が該当する。本発明の予後予測方法に供される「組織」及び「細胞」は、例えば被検体の卵巣がんに罹患している組織及び細胞、並びに健常体における対応する組織及び細胞が該当する。本発明の予後予測方法に供される試料は、特に限定されないが、卵巣がんに罹患している被検体から生検により採取された、又は手術により切除された検体である。好ましくは、生検により採取された、又は手術により切除された卵巣がんの一部(例えば、組織又は細胞)、例えば浸潤先進部である。本発明の方法の対象となる患者が患う卵巣がんのステージは限定しない。
本発明の予後予測方法において必要となる試料の量は、特に限定するものではない。組織又は細胞であれば少なくとも10 μg、好ましくは少なくとも0.1 mgあれば望ましく、生検材料も同様とする。試料は、卵巣がん患者の予後予測用バイオマーカーを検出可能なように、必要に応じて調製、処理することができる。例えば、免疫組織化学染色法でバイオマーカーを検出する場合は、患者由来の試料からパラフィン包埋切片を調製してもよい。また、例えば、ウエスタンブロット法又はRT-PCR法によってバイオマーカーを検出する場合は、患者由来の試料からタンパク質抽出液又はmRNA抽出液を調製してもよい。このような調製は、ホモジナイズ処理や細胞溶解処理、遠心や濾過による夾雑物除去、プロテアーゼインヒビターの添加等を適宜含むことができる。これらの処理の詳細についてはGreen & Sambrook, Molecular Cloning, 2012, Fourth Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Pressに詳しく記載されており、参考にすればよい。
本明細書において「卵巣がん患者の予後予測用バイオマーカーの測定値」とは、具体的には、試料中のSPON1タンパク質等のバイオマーカーの量の測定値である。
本明細書において「測定値」とは、バイオマーカーの測定によって得られた測定値である。測定値は、試料中のタンパク質量をng(ナノグラム)やμg(マイクログラム)等の単位で表した絶対値であってもよいし、又は対照値に対する吸光度や標識分子による蛍光強度等で表した相対値であってもよく、或いは、試料中におけるバイオマーカーの空間分布(例えば、染色パターン)から一定の計算式により算出されるスコア(点数)であってもよい。ここで対照値は、SPON1タンパク質若しくはそのペプチド断片、又はSPON1遺伝子の転写産物若しくはその核酸断片以外の任意のバイオマーカーの測定値、であってもよい。
以下、本態様の検出工程を構成する、(1)SPON1タンパク質等のバイオマーカーの測定、及び(2)SPON1タンパク質等のバイオマーカーの陽性/陰性の決定について説明する。
(1)SPON1タンパク質等のバイオマーカーの測定
本方法で測定すべきバイオマーカーは、SPON1タンパク質若しくはそのペプチド断片、又はSPON1遺伝子の転写産物若しくはその核酸断片のいずれであってもよい。量(発現量)の測定は、発現の有無、又は発現量若しくは発現濃度の大小等を測定することを包含する。本明細書において、「測定」という用語には、検出、定性、定量及び半定量のいずれもが包含される。
測定すべきバイオマーカーがSPON1タンパク質若しくはそのペプチド断片の場合、その測定方法は、公知のタンパク質定量方法であればよく、特に限定はしないが、例えば、免疫学的検出法、アプタマー解析法、及び質量分析法が挙げられる。
「免疫学的検出法」とは、標的分子と特異的に結合する抗体又はその結合断片を用いて、その標的分子を定量する方法である。免疫学的検出法には、例えば、酵素免疫測定法(ELISA法、EIA法を含む)、蛍光免疫測定法、放射免疫測定法(RIA)、発光免疫測定法、表面プラズモン共鳴法(SPR法)、水晶振動子マイクロバランス(QCM)法、免疫比濁法、ラテックス凝集免疫測定法、ラテックス比濁法、赤血球凝集反応、粒子凝集反応法、金コロイド法、キャピラリー電気泳動法、ウエスタンブロット法又は免疫組織化学法(免疫染色法)等が知られているが、本方法ではいずれの検出法を用いてもよい。限定はしないが、免疫組織化学法が好適である。
免疫組織化学法を用いる場合には、SPON1タンパク質若しくはそのペプチド断片の定量方法は、限定しない。例えば、組織切片の染色パターンの観察に基づいて、一定の計算式を用いて算出されるスコアとして定量してもよい。
本工程の免疫学的検出に使用する抗体は、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体のいずれであってもよく、抗体を構成する免疫グロブリンは任意のクラス又は任意のサブクラスであってもよく、哺乳動物及び鳥を含めたいずれの動物由来でもよく、人為的に作製した抗体、例えば、組換え抗体、合成抗体、又は抗体断片であってもよい。これらの抗体の形態については上述の通りであり、ここでの詳細な説明は省略する。一実施形態において、本工程の免疫学的検出に使用する抗体は、上述の抗SPON1抗体又はその断片である。
「アプタマー解析法」は、立体構造によって標的物質と強固、かつ特異的に結合するアプタマーを用いて、標的分子である卵巣がん患者の予後予測用バイオマーカータンパク質を定量する方法である。アプタマーは、その分子の種類により、核酸アプタマーとペプチドアプタマーに大別することができるが、いずれのアプタマーであってもよい。
「核酸アプタマー」とは、核酸で構成されるアプタマーをいう。核酸アプタマーを構成する核酸は、DNA、RNA又はそれらの組合せのいずれであってもよい。必要に応じて、PNA、LNA/BNA、メチルホスホネート型DNA、ホスホロチオエート型DNA、2'-O-メチル型RNA等の化学修飾核酸を含むこともできる。本発明であれば、抗SPON1 RNAアプタマー又は抗SPON1 DNAアプタマー等が挙げられる。
核酸アプタマーは、SPON1タンパク質又はその一部を標的分子として、当該分野で公知の方法、例えば、SELEX(systematic evolution of ligands by exponential enrichment)法を用いて作製することができる。SELEX法は、公知の方法であり、具体的な方法は、例えば、Panら(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 1995, 92: 11509-11513)に準じて行えばよい。
ペプチドアプタマーとは、アミノ酸で構成されるアプタマーで、抗体と同様に、特定の標的分子の表面構造を認識して、特異的に結合する1~6 kDaのペプチド分子である。本発明であれば、抗SPON1ペプチドアプタマー等が挙げられる。ペプチドアプタマーは、当該分野で公知製造の方法に基づいて作製すればよい。例えば、Whaley, S. R., et al., Nature, 2000, 405, 665-668を参照することができる。通常は、ファージディスプレイ法や細胞表層ディスプレイ法を用いて作製することができる。
上記抗体又はアプタマーは、必要に応じて標識されていてもよい。標識は、当該分野で公知の標識物質を利用すればよい。抗体及びペプチドアプタマーの場合、例えば、蛍光色素(フルオレセイン、FITC、ローダミン、テキサスレッド、Cy3、Cy5)、蛍光タンパク質(例えば、PE、APC、GFP)、酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、グルコースオキシダーゼ)、放射性同位元素(例えば、3H、14C、35S)又はビオチン若しくは(ストレプト)アビジンにより標識することができる。また、核酸アプタマーの場合、例えば、放射性同位元素(例えば、32P、3H、14C)、DIG、ビオチン、蛍光色素(例えば、FITC、Texas、Cy3、Cy5、Cy7、FAM、HEX、VIC、JOE、Rox、TET、Bodipy493、NBD、TAMRA)、又は発光物質(例えば、アクリジニウムエスター)が挙げられる。標識物質で標識された抗体やアプタマーは、標的タンパク質と結合したアプタマーを検出する際に有用なツールとなり得る。
「質量分析法」には、高速液体クロマトグラフ質量分析法(LC-MS)、高速液体クロマトグラフタンデム質量分析法(LC-MS/MS)、ガスクロマトグラフ質量分析法(GC-MS)、ガスクロマトグラフタンデム質量分析法(GC-MS/MS)、キャピラリー電気泳動質量分析法(CE-MS)及びICP質量分析法(ICP-MS)が挙げられる。
上記免疫学的検出法、アプタマー解析法、及び質量分析法は、いずれも当該分野に公知の技術であって、それらの方法に準じて行えばよい。例えば、Green, M.R. and Sambrook, J., 2012, Molecular Cloning: A Laboratory Manual Fourth Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York;Christopher J., et al., 2005, Chemical Review,105:1103-1169;Iijima Y. et al., 2008,.The Plant Journal, 54,949-962;Hirai M. et al.,2004, Proc Natl Acad Sci USA, 101(27) 10205-10210;Sato S, et al., 2004,,The Plant Journal, 40(1)151-163; Shimizu M. et al., 2005, Proteomics, 5,3919-3931に記載の方法に準じて行うことができる。また、各メーカーからペプチド定量キットが市販されており、それらを利用することもできる。
また、測定すべきバイオマーカーがSPON1遺伝子転写産物若しくはその核酸断片の場合、その測定方法は、公知の核酸定量方法であればよく、特に限定はしないが、例えば、プライマーを用いる核酸増幅法又はプローブを用いるハイブリダイゼーション法が挙げられる。
「核酸増幅法」は、フォワード/リバースプライマーセット用いて、標的核酸の特定の領域を核酸ポリメラーゼによって増幅させる方法をいう。核酸増幅法としては、例えば、RT-PCR(逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)法等のPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法が挙げられる。
「ハイブリダイゼーション法」は、検出すべき標的核酸の塩基配列の全部又は一部に相補的な塩基配列を有する核酸断片をプローブとして用い、その核酸と該プローブ間の塩基対合を利用して、標的核酸若しくはその断片を検出、定量する方法である。ハイブリダイゼーション法には、検出手段の異なるいくつかの方法が知られているが、例えば、ノザンハイブリダイゼーション法(ノザンブロットハイブリダイゼーション法)、in situハイブリダイゼーション法、又はマイクロアレイ法が挙げられる。
プライマー及びプローブ等の核酸鎖は、公知のバイオマーカー配列情報を基に当業者に公知の方法により適宜設計し、化学合成等の公知の作製方法により得ることができる。
上述の各測定法は、いずれも当該分野に公知の技術である。したがって、具体的な測定方法については、公知の方法に準じて行えばよい。例えば、Green, M.R. and Sambrook, J., 2012(前述)に記載の方法を参考にすることができる。
(2)SPON1タンパク質等のバイオマーカーの陽性/陰性の決定
次に、(1)で得られた測定値に基づいて、試料中におけるSPON1タンパク質等のバイオマーカーの陽性/陰性を決定する。
測定値に基づいた陽性/陰性の決定方法は、限定はしない。例えば、SPON1タンパク質等のバイオマーカーの測定値に対するカットオフ値を定め、そのカットオフ値に基づいて陽性/陰性を決定する方法が挙げられる。すなわち、所定の値をカットオフ値と定め、測定値がその値以上であれば、SPON1タンパク質等のバイオマーカーは陽性であり、逆にカットオフ値未満であれば陰性と決定することができる。
カットオフ値は、測定値を陽性、陰性に分類するための境界値をいう。カットオフ値は、通常、疾患の罹患率とROC曲線(receiver operating characteristic curve)より算出された感度及び特異度に基づき算出することができる。カットオフ値の設定法は特に限定しない。
例えば、卵巣がんに罹患していない健常体に由来する試料の測定値、若しくは健常体群に由来する試料の測定値の平均値をカットオフ値として、被検体の測定値がカットオフ値よりも高いときに、陽性と決定することができる。
或いは、卵巣がんに罹患していない健常体に由来する試料の測定値、又は健常体群に由来する試料の測定値の平均値の1.5倍以上、2.0倍以上、3.0倍以上、4倍以上、5倍以上、又は6倍以上をカットオフ値として、被検体の測定値がカットオフ値よりも高いときに、陽性と決定することもできる。
また、対照群から得られた測定値をパーセンタイルで分類し、その分類に用いたパーセンタイル値をカットオフ値とすることもできる。例えば、対照者から得られた測定値の95パーセンタイルをカットオフ値とし、その値以上を陽性、値未満を陰性とした場合、被検体の測定値が95パーセンタイル以上であれば、陽性と決定することができる。
なお、対照とする健常体の測定値は、被検体の測定値と異なり、必ずしもその都度測定する必要はない。例えば、測定に用いる試料の量、卵巣がん患者の予後予測用バイオマーカーの測定方法、測定条件を一定にしておけば、以前に測定した対照健常体の測定値を再利用することができる。
免疫組織化学染色法を用いる場合、例えば、腫瘍細胞総数に対して染色された腫瘍細胞数が一定割合(例えば10%、15%又は20%)を超える場合、陽性と判定し、腫瘍細胞総数に対して染色された腫瘍細胞数が前記一定割合以下の場合、陰性と判定してもよい。
本発明の予後予測方法では、上記検出工程で得られたSPON1タンパク質等のバイオマーカーの検出結果に基づいて、卵巣がん患者の予後を予測する、又は予後が示される。具体的には、卵巣がん患者に由来する試料がSPON1タンパク質等のバイオマーカーについて陽性である場合、卵巣がん患者の予後が悪いこと、又は卵巣がん患者の予後が悪い可能性が高いことが示される。反対に、卵巣がん患者に由来する試料がSPON1タンパク質等のバイオマーカーについて陰性である場合、卵巣がん患者の予後が良好であること、又は卵巣がん患者の予後が良好である可能性が高いことが示される。
本明細書において、「予後が悪い」とは、(例えば外科的手術による切除後の)臨床転帰が不良である(例えば、がんの再発リスク又は再発率が高い、がんの転移リスク又は転移率が高い、無再発生存率が低い、疾患(がん)特異的生存率が低い、又は全生存率が低い)ことをいう。予後が悪い場合、5年後の無再発生存率又は疾患特異的生存率は95%以下、90%以下、85%以下、80%以下、75%以下、70%以下、65%以下、60%以下、55%以下、50%以下、又は45%以下であってよい。なお、本発明では、生存率は累積生存率を意味する。
本明細書において、「予後が良い」とは、臨床転帰が良好であることをいう。予後が良い場合、がんの切除手術後の5年後の無再発生存率又は生存率は50%以上、55%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、又は100%であってよい。
一実施形態において、がん患者に由来する試料において、SPON1タンパク質等のバイオマーカー以外の他の卵巣がん患者の予後予測用バイオマーカーを検出し、その検出結果とSPON1タンパク質等のバイオマーカーの検出結果に基づいて、卵巣がん患者の予後を予測してもよい。ここでSPON1タンパク質等のバイオマーカー以外の他のがん患者の予後予測用バイオマーカーや、それを検出するための抗体の例は、上述の通りである。
また、本態様の予後予測方法では、卵巣がん患者に由来する試料において、細胞異型、構造異型、浸潤、及び転移のうちいずれか1つ以上を検出し、その検出結果とSPON1タンパク質等のバイオマーカーの検出結果とに基づいて、がん患者の予後を予測してもよい。ここで、「細胞異型」とは、正常の細胞構造からの隔たりであり、具体的には核胞体比の増大、細胞や核の大小不同、核形の不整、核クロマチンの増量、核小体の増大や増加、核分裂像の増加、及び/又は異常核分裂像の出現を指す。また、「構造異型」とは、正常の組織構造からの隔たり、即ち組織構造の不規則化である。本態様において細胞異型又は構造異型の検出方法は限定しない。例えば、ヘマトキシリン・エオジン染色を用いて可視化することができる。「浸潤」とは、悪性腫瘍が周囲の正常組織や臓器を破壊しながら連続性に進展することであり、周囲組織との境界が不明瞭になることで判定できる。「転移」とは、悪性腫瘍が原発巣から離れた臓器に非連続性に進展することである。
本発明の予後予測方法によれば、生検や手術により摘出した生体試料を調べることで、その検体を提供した被検体の予後を正確に予測することができる。正診率の高い本態様の予後予測方法によって、再発リスクや転移リスクを判定し、その結果に基づき、治療方針(例えば、抗がん剤の種類、投与量、投与間隔等)を決定し、又はがんの再発及び転移の検査の間隔を決定することができる。本発明により、卵巣がん患者の予後が悪いことが示された場合、卵巣がんの再発を防止し、予後を改善し、又は生存率を改善するために、患者に外科手術や抗がん剤療法(例として、パクリタキセルやカルボプラチン等の抗がん剤を投与することを含む治療方法が挙げられる)を行っても良い。したがって、本発明の方法により予後が悪いことが示された卵巣がん患者に上記の少なくとも一つを行うことを含む、卵巣がんの再発を防止し、予後を改善し、又は生存率を改善する方法もまた提供される。また、卵巣がん患者の予後が悪いと予測された場合、卵巣がんの再発を早期発見するために、検査頻度を上げることもできる。
本発明の予後予測方法によれば、卵巣がんの予後予測を補助する方法も提供される。また、被検体の卵巣がんの悪性度を判定する方法や、被検体の卵巣がんの悪性度判定を補助する方法もまた提供される。
本発明の方法は、他の方法(例えば、レントゲン撮影;経膣超音波検査等の超音波(エコー)検査;内視鏡検査;マンモグラフィー;触診;内診;直腸診;CT検査;骨盤MRI検査等のMRI検査;PET-CT検査等の画像検査;血液検査;細胞診や組織診等の病理検査;腫瘍マーカー検査;及び/又は遺伝子診断)や他の因子(例えば、ステージによる分類、腫瘍径、リンパ節転移の有無、組織学的グレード等)と組み合わせて用いることができる。他の方法と組み合わせることで、本発明の予後予測方法の精度を高めることができる。
さらに、本発明の方法で卵巣がん患者の予後を予測する工程を含む、卵巣がんを治療する方法や、卵巣がん患者の予後を改善する方法も提供される。
(卵巣がん検出方法)
一態様において、本発明は卵巣がん検出方法を提供する。本発明の卵巣がん検出方法は、被験者由来の体液等の試料中のスポンジン1(SPON1)タンパク質若しくはそのペプチド断片、又はSPON1遺伝子の転写産物若しくはその核酸断片からなるバイオマーカー(以下、「SPON1タンパク質等のバイオマーカー」という)を検出する検出工程を含み、バイオマーカーの陽性/陰性の決定結果に基づいて被験者は卵巣がんに罹患している可能性が示される。検出工程はインビトロで行うことができる。本発明の卵巣がん検出方法により、卵巣がんの早期診断が可能となる。
本態様において「検出工程」とは、被験者に由来する試料において、卵巣がんの検出用バイオマーカーの量を測定し、その測定値に基づいて、当該バイオマーカーが陽性であるか又は陰性であるかを決定(以下、「陽性/陰性の決定」と表記する)する工程である。
本発明の卵巣がん検出方法において「試料」とは、被検体若しくは被検体群又は健常体若しくは健常体群から採取され、本態様の卵巣がん検出方法に供されるものであって、例えば、体液が該当する。体液の例として、血液(血清、血漿及び間質液を含む)、リンパ液、各組織もしくは細胞の抽出液、腹水、胸水、唾液、及び尿等が挙げられる。血液は血液から調製された血清又は血漿であってもよい。SPON1タンパク質は細胞外に分泌されるため、SPON1タンパク質又はそのペプチド断片は腹水や血清等の体液中において検出することができる。それ故、卵巣がんの血清診断マーカーとしても有望である。
本明細書において「卵巣がんの検出用バイオマーカーの測定値」とは、具体的には、体液等の試料中のSPON1タンパク質等のバイオマーカーの量の測定値である。
以下、本態様の検出工程を構成する、(1)SPON1タンパク質等のバイオマーカーの測定、及び(2)SPON1タンパク質等のバイオマーカーの陽性/陰性の決定について説明する。
(1)SPON1タンパク質等のバイオマーカーの測定
本方法で測定すべきバイオマーカーは、SPON1タンパク質若しくはそのペプチド断片、又はSPON1遺伝子の転写産物若しくはその核酸断片のいずれであってもよい。量(発現量)の測定は、発現の有無、又は発現量若しくは発現濃度の大小等を測定することを包含する。
測定すべきバイオマーカーがSPON1タンパク質若しくはそのペプチド断片の場合、その測定方法は、公知のタンパク質定量方法であればよく、特に限定はしないが、例えば、上述した、免疫学的検出法、アプタマー解析法、及び質量分析法が挙げられる。
また、測定すべきバイオマーカーがSPON1遺伝子転写産物若しくはその核酸断片の場合、その測定方法は、公知の核酸定量方法であればよく、特に限定はしないが、例えば、上述した、プライマーを用いる核酸増幅法又はプローブを用いるハイブリダイゼーション法が挙げられる。
(2)SPON1タンパク質等のバイオマーカーの陽性/陰性の決定
次に、(1)で得られた測定値に基づいて、体液等の試料中におけるSPON1タンパク質等のバイオマーカーの陽性/陰性を決定する。本方法における陽性/陰性の決定は、上述の予後予測方法について述べた「(2)SPON1タンパク質等のバイオマーカーの陽性/陰性の決定」に準じるものとし、ここでの説明は省略する。
本発明の卵巣がん検出方法では、上記検出工程で得られたSPON1タンパク質等のバイオマーカーの検出結果に基づいて、体液等の試料が当該バイオマーカーについて陽性である場合、その被験者は卵巣がんに罹患している可能性が高いことが示される。反対に、被験者に由来する試料がSPON1タンパク質等のバイオマーカーについて陰性である場合、その被験者は卵巣がんに罹患している可能性が低いことが示される。
一実施形態において、被験者に由来する試料において、SPON1タンパク質等のバイオマーカー以外の他の卵巣がん検出用バイオマーカーを検出し、その検出結果とSPON1タンパク質等のバイオマーカーの検出結果に基づいて、卵巣がんを検出してもよい。ここでSPON1タンパク質等のバイオマーカー以外の他の卵巣がん検出用バイオマーカーや、それを検出するための抗体の例は、上述の通りである。
本発明の卵巣がん検出方法によれば、被験者から単離された体液等(腹水や血清等)の試料を調べることで、その被検体の卵巣がん罹患可能性の有無を決定することができる。本発明の卵巣がん検出方法の結果に基づき卵巣がんの早期診断が可能となり、早いステージで治療を開始することが可能となる。本発明の卵巣がん検出方法の結果に基づいて卵巣がん罹患可能性が高いことが示された場合、卵巣がんを治療するために、患者に薬物療法及び/又は放射線療法を行っても良い。したがって、本発明の方法により卵巣がん罹患の可能性が高いことが示された卵巣がん患者に薬物療法及び放射線療法の少なくとも一つを行うことを含む、卵巣がんを治療する方法もまた提供される。
本発明の卵巣がん検出方法によれば、卵巣がんの検出を補助する方法も提供される。
本発明の卵巣がん検出方法は、他の方法(例えば、レントゲン撮影;経膣超音波検査等の超音波(エコー)検査;内視鏡検査;マンモグラフィー;触診;内診;直腸診;CT検査;骨盤MRI検査等のMRI検査、PET-CT検査等の画像検査;血液検査;細胞診や組織診等の病理検査;腫瘍マーカー検査;及び/又は遺伝子診断)や他の因子(例えば、ステージによる分類、腫瘍径、リンパ節転移の有無、組織学的グレード等)と組み合わせて用いることができる。他の方法と組み合わせることで、本発明の卵巣がん検出方法の精度を高めることができる。
(卵巣がん治療剤)
一態様において、本発明は卵巣がん治療剤を提供する。本発明の卵巣がん治療剤は、抗SPON1抗体又はその断片を有効成分として含み、卵巣がん患者において卵巣がんを治療することができる。本態様の抗SPON1抗体又はその断片は上述の「(1)抗SPON1抗体」及び「(2)その断片」の記載に準じるものとし、ここでの詳細な説明は省略する。
本態様において、抗SPON1抗体又はその断片は、好ましくは、細胞障害活性を有しており、これによって抗腫瘍効果を発揮することができる。
また、本態様において、抗SPON1抗体又はその断片は、抗腫瘍剤とコンジュゲートすることができる。抗体と抗腫瘍剤との結合は、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、チオール基等と反応性の基(例えば、コハク酸イミジル基、ホルミル基、2-ピリジルジチオ基、マレイイミジル基、アルコキシカルボニル基、ヒドロキシ基等)をもつスペーサーを介して行うことができる。
抗腫瘍剤は、公知の抗腫瘍剤、及びそれらの薬学的に許容可能な塩又は誘導体を包含する。公知の抗腫瘍剤の例として、パクリタキセル、ドキソルビシン、ダウノルビシン、シクロホスファミド、メトトレキサート、5-フルオロウラシル、チオテパ、ブスルファン、インプロスルファン、ピポスルファン、ベンゾドーパ(benzodopa)、カルボコン、メツレドーパ(meturedopa)、ウレドーパ(uredopa)、アルトレートアミン(altretamine)、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミド、トリエチレンチオホスホラミド(triethilenethiophosphoramide)、トリメチローロメラミン(trimethylolomelamine)、ブラタシン、ブラタシノン、カンプトセシン、ブリオスタチン、カリスタチン(callystatin)、クリプトフィシン1、クリプトフィシン8、ドラスタチン、ズオカルマイシン、エレウテロビン、パンクラチスタチン、サルコジクチン(sarcodictyin)、スポンジスタチン、クロランブシル、クロロナファジン(chloRNAphazine)、コロホスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキシドヒドロクロリド、メルファラン、ノベンビチン(novembichin)、フェネステリン(phenesterine)、プレドニムスチン(prednimustine)、トロフォスファミド(trofosfamide)、ウラシルマスタード、カルムスチン、クロロゾトシン(chlorozotocin)、フォテムスチン(fotemustine)、ロムスチン、ニムスチン、ラニムスチン、カリケアマイシン(calicheamicin)、ダイネマイシン、クロドロネート、エスペラマイシン、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、オースラマイシン(authramycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン(cactinomycin)、カラビシン(carabicin)、カルミノマイシン、カルジノフィリン(carzinophilin)、クロモマイシン、ダクチノマイシン、デトルビシン(detorbicin)、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、アドリアマイシン(adriamycin)、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マーセロマイシン(marcellomycin)、マイトマイシンC、マイコフェノール酸(mycophenolic acid)、ノガラマイシン(nogalamycin)、オリボマイシン(olivomycins)、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピューロマイシン、ケラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン(tubercidin)、ウベニメクス、ジノスタチン(zinostatin)、ゾルビシン(zorubicin)、デノプテリン(denopterin)、プテロプテリン(pteropterin)、トリメトレキセート(trimetrexate)、フルダラビン(fludarabine)、6-メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニン、アンシタビン、アザシチジン(azacitidine)、6-アザウリジン(azauridine)、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン(enocitabine)、フロキシウリジン(floxuridine)、アンドロゲン類、カルステロン(calusterone)、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトン(testolactone)、アミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタン、フロリン酸(frolinic acid)、アセグラトン、アルドホスファミドグリコシド、アミノレブリン酸、エニルウラシル、アムサクリン(amsacrine)、ベストラブシル(bestrabucil)、ビサントレン(bisantrene)、エダトラキセート(edatraxate)、デフォファミン(defofamine)、デメコルシン(demecolcine)、ジアジコン(diaziquone)、エルフォルニチン(elfornithine)、酢酸エリプチニウム(elliptinium)、エポチロン(epothilone)、エトグルシド(etoglucid)、レンチナン、ロニダミン(lonidamine)、メイタンシン(maytansine)、アンサミトシン(ansamitocine)、ミトグアゾン(mitoguazone)、ミトキサントロン、モピダンモール(mopidanmol)、ニトラエリン(nitraerine)、ペントスタチン、フェナメット(phenamet)、ピラルビシン、ロソキサントロン(losoxantrone)、ポドフィリン酸(podophyllinic acid)、2-エチルヒドラジド、プロカルバジン、ラゾキサン(razoxane)、リゾキシン、シゾフィラン、スピロゲルマニウム(spirogermanium)、テニュアゾン酸(tenuazonic acid)、トリアジコン(triaziquone)、ロリジン(roridine)A、アングイジン(anguidine)、ウレタン、ビンデシン、ダカーバジン、マンノムスチン(mannomustine)、ミトブロニトール、ミトラクトール(mitolactol)、ピポブロマン(pipobroman)、ガシトシン(gacytosine)、ドキセタキセル、クロランブシル、ゲムシタビン(gemcitabine)、6-チオグアニン、メルカプトプリン、シスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチン、ビンブラスチン、エトポシド、イホスファミド、マイトキサントロン、ビンクリスチン、ビノレルビン、ノバントロン(novantrone)、テニポシド、エダトレキセート(edatrexate)、ダウノマイシン、アミノプテリン、キセローダ(xeloda)、イバンドロナート(ibandronate)、イリノテカン、トポイソメラーゼインヒビター、ジフルオロメチロールニチン(DMFO)、レチノイン酸、及びカペシタビン(capecitabine)等を挙げることができる。
本発明により、上記の卵巣がん治療剤に加えて他の卵巣がん治療剤や薬学的に許容可能な担体を含む、卵巣がん治療用組成物も提供される。
「薬学的に許容可能な担体」とは、製剤技術分野において通常使用する添加剤をいう。例えば、溶媒、植物性油、基剤、乳化剤、懸濁化剤、界面活性剤、pH調整剤、安定化剤、賦形剤、ビヒクル、防腐剤、結合剤、希釈剤、等張化剤、鎮静剤、増量剤、崩壊剤、緩衝剤、コーティング剤、滑沢剤、着色剤、甘味剤、増粘剤、矯味剤、溶解助剤、及び他の添加剤が挙げられる。
溶媒には、例えば、水若しくはそれ以外の薬学的に許容し得る水溶液、又は薬学的に許容される有機溶剤のいずれであってもよい。水溶液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助剤を含む等張液、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液が挙げられる。補助剤としては、例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム、その他にも低濃度の非イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等が挙げられる。
上記担体は、有効成分である抗SPON1抗体又はその断片の生体内での酵素等による分解を回避又は抑制する他、製剤化や投与方法を容易にし、剤形及び薬効を維持するために用いられるものであり、必要に応じて適宜使用すればよい。
本発明の卵巣がん治療剤又は卵巣がん治療用組成物を投与する対象は、哺乳動物であり、例えば霊長類、ペット動物、家畜類、競技用動物等を含む哺乳動物であり、特にヒトが好ましい。
本発明の卵巣がん治療剤又は卵巣がん治療用組成物の好ましい投与形態には特定の限定はない。例えば、経口投与又は非経口投与であればよい。非経口投与の具体例として、静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与、皮下投与、皮内投与、筋肉内投与、及び輸血による投与が挙げられる。投与形態は、患者の年齢、体重、性別、症状等により適宜選択することができる。
抗体又はその断片の投与量としては、例えば、1回につき体重1kg当たり0.0001mgから1000mgの範囲、又は患者当たり0.001~100000mg/bodyの範囲で投与量を選ぶことができるが、これらの数値に必ずしも制限されるものではない。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、この実施例は単なる一例示に過ぎず、本発明は実施例に記載の範囲に限定されるものではない。
<実施例1:卵巣がん細胞表面に特異的に発現しているタンパク質の同定>
(目的)
卵巣がんの新たなバイオマーカーを見出すために、卵巣がん細胞株の細胞表面とそれ以外の細胞部位に発現しているタンパク質について網羅的解析を行い、細胞表面においてのみ検出されるタンパク質をバイオマーカーの候補として同定する。
(方法と結果)
卵巣がん細胞株であるOVCAR3細胞株及びSKOV3細胞株を対象として、細胞表面とそれ以外の細胞部位に発現しているタンパク質を同定した。解析には卵巣漿液性がん由来の細胞株であるOVCAR3(理化学研究所 バイオリソース研究センター、RCB2135)とSKOV3(American Type Culture Collection、HTB-77)の2つを供した。細胞表面タンパク質の同定は、文献(Taguchi A. et al., Cancer Cell, 2011, 20(3), 289-299)に記載の方法に従って行った(図1)。具体的には、まず細胞表面タンパク質をリン酸緩衝液(PBS)で0.25 mg/mLに希釈したEZ-Link(登録商標)Sulfo-NHS-SS-Biotin(サーモフィッシャーサイエンティフィック)によりビオチン標識した。次に3%のn-Octyl-β-D-glucoside(同人化学研究所)を含むPBS(3% OG溶液)に懸濁し、超音波破砕後、4℃、15,000回転/分にて30分間の遠心によりタンパク質を抽出した。続いて得られたタンパク質にストレプトアビジンが結合したセファロースビーズ(Cytiva)を懸濁し、4℃で4時間緩やかに攪拌しながらインキュベートした。次いで4℃、2,000回転/分にて遠心後に沈殿したセファロースビーズを3% OG溶液で2回洗浄した。その後、1 mLの還元溶液(100 mM トリス塩酸pH 8.0及び7 mM ジチオトレイトールを含む3%OG溶液)を加えて再度4℃で一昼夜穏やかに混和してビオチン標識タンパク質を精製した(以下、「細胞表面タンパク質」という)。一方、卵巣がん細胞株に抽出液(4M尿素と3% OGを含むPBS)を加えて超音波破砕を行い、4℃、15,000回転/分にて30分間の遠心により卵巣がん細胞株に含まれる全てのタンパク質を抽出した(以下、「全細胞タンパク質」という)。それぞれに含まれるタンパク質は、ジスルフィド結合を切断し、トリプシンを用いて数十アミノ酸からなるペプチドに消化した後、質量分析装置を用いて網羅的に同定した。
質量分析の結果を以下の表1に示す。表1は、OVCAR3細胞株及びSKOV3細胞株の各々から同定された全細胞タンパク質と細胞表面タンパク質の種類の総数を示す。
Figure 2023133869000001
OVCAR3細胞株の細胞表面タンパク質5762種類とSKOV3細胞株の細胞表面タンパク質5494種類との間に共通するタンパク質であって、いずれの細胞株においても全細胞タンパク質として同定されなかったタンパク質として、スポンジン1(SPONDIN-1;SPON1)タンパク質を見出した。
上記質量分析の結果におけるSPON1タンパク質の結果を以下の表2に示す。OVCAR3細胞株及びSKOV3細胞株のいずれにおいても、SPON1タンパク質は細胞表面タンパク質において特異的に検出された。一方、全細胞タンパク質は細胞表面タンパク質を包含し得るにもかかわらず、全細胞タンパク質からはSPON1タンパク質が検出されなかった。この結果から、全細胞タンパク質においては微量タンパク質の検出が困難であり、SPON1タンパク質の検出は細胞表面タンパク質の濃縮及び精製により初めて達成されることが示唆された。
Figure 2023133869000002
以上の結果から、SPON1タンパク質が卵巣がんの新たなバイオマーカーの候補として同定された。
<実施例2:SPON1遺伝子のがん組織及び正常組織における発現の検討>
(目的)
SPON1タンパク質が卵巣がんに特異的なバイオマーカーとなり得ることを検証するために、様々ながん組織と正常組織におけるSPON1遺伝子の発現の有無を検討する。
(方法と結果)
様々ながん組織と正常組織におけるSPON1遺伝子の発現量は、The Cancer Genome AtlasデータベースとThe Genotype-Tissue Expressionデータベースに基づいて発現データを収集した。
図2Aは、様々ながん組織(卵巣がん、腎細胞がん、膵臓がん、胃がん、乳がん、肺腺がん、直腸がん、肺扁平上皮がん、大腸がん、食道がん、前立腺がん、膀胱がん、頭頚部がん、精巣がん、メラノーマ、胆管がん、甲状腺がん、副腎がん、ぶどう膜黒色腫、肝細胞がん、B細胞性リンパ腫、及び急性骨髄性白血病)におけるSPON1遺伝子の発現量を示す。SPON1遺伝子は、卵巣がんにおいて強い発現が検出される一方、卵巣がん以外のがんではその発現がほとんど検出されなかった。よって、様々ながんの種類の中で卵巣がんにおいて特異的に発現が検出され得ることが判明した。
図2Bは、成体の様々な正常組織(肺、膀胱、卵巣、子宮内膜、子宮体部、子宮頸部、乳腺、小腸、前立腺、食道、大腸、胃、副腎、脳、心臓、脾臓、唾液腺、甲状腺、腎臓、精巣、及び肝臓)におけるSPON1遺伝子の発現量を示す。SPON1遺伝子は、正常な卵巣を含む様々な正常組織のいずれにおいても発現が検出されなかった。
以上の結果から、SPON1遺伝子の発現が、様々ながん組織と正常組織の中で卵巣がんを特異的かつ高感度で検出し得るマーカーとなり得ることが示された。
<実施例3:抗SPON1モノクローナル抗体の作製>
(目的)
SPON1タンパク質を特異的かつ高感度で検出可能なモノクローナル抗体(抗SPON1モノクローナル抗体)を開発する。
(方法と結果)
モノクローナル抗体の作製は、Kishiro Y, et al., 1995, Cell Struct Funct, 20(2):151-6に記載の方法に基づき、以下の手順で行った。
(1)抗原ペプチドの調製
抗原ペプチドとして、配列番号9で示すヒトSPON1タンパク質の217~234位(開始メチオニンを1位とする)に相当するアミノ酸配列(EKTHPKDYPRRANHWSAI、配列番号11)のN末端側にシステインを付加したアミノ酸配列(CEKTHPKDYPRRANHWSAI、配列番号20)からなるペプチドを使用した。Imject(商標) Maleimide Activated mcKLH(Thermo Fisher Scientific)2 mgを200 μLの超純水に溶解して10 mg/mLのKLH溶液を調製した。抗原ペプチドを超純水で溶解して、5 mg/mLの抗原ペプチド溶液とした。各々200 μLのKLH溶液と抗原ペプチド溶液を混合し、室温で2時間静置した。混合液からKLH溶液由来のEDTAを除去するため、煮沸した透析膜に移して、PBSを外液として透析を行った。得られた溶液を抗原溶液とした。2 mLルアーロック式ガラス注射器を用いて、500 μLの抗原溶液と1 mLのフロイント完全アジュバント(Sigma-Aldrich)を混和して乳化し、抗原エマルジョンを調製した。
(2)免疫
麻酔した8週齢の雌ラット(Wistar系)の両後肢に100 μLの抗原エマルジョンを注射し、免疫した。
(3)ポリエチレングリコール(PEG)溶液の調製
5 gのPEG(P2906, Sigma-Aldrich)を70℃に加温し溶解した。8 mLのダルベッコ改変イーグル培地(高グルコース; DMEM; D5796, Sigma-Aldrich)に0.4 mLのジメチルスルホキシド(D2650, Sigma-Aldrich)を加え、50℃に加温した。これを溶解したPEGに加え、素早く混和してPEG溶液を調製した。
(4)細胞融合と細胞培養
免疫14日後のラットより腸骨リンパ節を摘出し、1 mLのDMEMと共に滅菌シャーレに置いた。リンパ節を鋏で細断した後、100 μmのセルストレーナー(BD Falcon)で濾過した。前記シャーレに約107個のマウス多発性骨髄腫細胞株SP2を加えて、ピペットでよく混和した後、1,200 rpm/minで5分間遠心分離し、上清を吸引除去した。37℃のPEG溶液を約1分間かけて緩徐に滴下した後、2分間放置し、その後、5分間かけて9 mLのDMEM培地を緩徐に滴下した。900 rpm/minで5分間遠心分離し、上清を吸引除去した。ハイブリドーマ培地(78% GIT培地[和光富士フィルム工業株式会社], 2% HAT Supplement [Thermo Fisher Scientific], 10% BM Condimmed H1 Hybridoma Cloning Supplement [Roche], 10%ウシ胎児血清)を40 mL加えて、100 μLずつ96穴培養皿4枚に播種した後、37℃のCO2インキュベーターで培養した。
(5)スクリーニング
培養7日後に100 μLのハイブリドーマ培地で培地交換を行った。交換2日後の培養上清50 μLを用いてELISA法により陽性のクローンをスクリーニングした。スクリーニングは以下の手順で行った。
まず、前述の抗原ペプチド溶液を含むペプチド溶液を3 μg/mLに調製し、96穴ELISAプレートのウェルに50 μLずつ加えて、4℃で一晩静置した。その後、各ウェルから抗原ペプチド溶液を除去して、200 μLの0.1% Tween20加トリス塩酸緩衝液(TBS-T)で1回洗浄した後、ブロッキング液(1%ウシ血清アルブミン/TBS)200 μLを加えて37℃で1時間静置した。その後、各ウェルからブロッキング液を除去して、200 μLのTBS-Tで1回洗浄した後、50 μLの培養上清を加えて、37℃で1時間反応させた。各ウェルから培養上清を除去した後、200 μLのTBS-Tで3回洗浄した。続いて、各ウェルにブロッキング液で2,000倍希釈したECL(商標) Rat IgG, HRP-linked whole antibody(Cytiva)を二次抗体として50 μL加え、37℃で1時間反応をさせた。その後、各ウェルから二次抗体液を除去して、TBS-Tで3回洗浄した後、TMB Substrate Set(BioLegend)によりメーカーが推奨する方法で発色させて、その490 nmの波長における吸光度(OD490)を測定した。
陽性クローンは6穴培養皿で継代培養した後、コンフルエンシーが概ね50%に達した時点で10 cm培養皿に移して、さらに増殖させた。
スクリーニングの結果から選択された32種類の陽性クローンのうち、免疫染色に利用できるクローンは、実施例4で後述するようにクローン#1、#4、及び#11の3つのクローンだけであった。これらの3つのクローンでは、クローン#4がクローン#1及び#11と比較して著しく高いS/N比を示した(図4、図5)。
さらに、クローン#4についてウェスタンブロッティングでの利用可能性を検討した。クローン#4、及び他の2種類のクローン(クローン#10及び#19)を用いてウェスタンブロッティングを行ったところ、クローン#4のみがSPON1タンパク質を特異的に検出した。
以上の検討結果から、ELISAでの反応性が高く、かつ免疫染色及びウェスタンブロッティングにおいてSPON1タンパク質を特異的かつ高感度で検出することができる複数の利点を同時に達成し得る顕著な効果を有するクローンとして、クローン#4を以降の実施例における主な解析対象として選択した。
(6)抗原ペプチドとの濃度依存性反応
精製された抗SPON1モノクローナル抗体クローン#4と抗原ペプチドとの反応について、濃度依存性を検討した結果を図3に示す。抗SPON1モノクローナル抗体クローン#4は、SPON1抗原ペプチドと濃度依存的に反応した(図3、37倍希釈(729倍希釈)~1倍希釈)。一方、ペプチドの希釈に使用したトリス塩酸緩衝液のみを用いた場合には、抗体反応は全く検出されなかった(図3、「なし」)。
<実施例4:抗SPON1モノクローナル抗体クローン#4の抗原特異性の検証>
(目的)
実施例3で得られた抗SPON1モノクローナル抗体クローン#4について、免疫組織化学染色により抗原特異性を検証する。また、クローン#4の性能をクローン#1及び#11と比較する。
(方法と結果)
配列番号9で示すアミノ酸配列からなるヒト野生型SPON1タンパク質を発現するベクターをHEK293T細胞にポリエチレンイミン“MAX”(24765-1, コスモバイオ)で一過性導入し、2日後に擦過により細胞を回収した。10%中性ホルマリンで4℃、16時間固定し、1 mLのPBSで1回洗浄した。1%アルギン酸ナトリウム溶液1 mLを加え細胞塊を1 mL用チップの先端を切った先太チップでゆるやかに懸濁後、2,000 rpmで5分間遠心して細胞をペレット化した。その後、上清を除去し、1 Mの塩化カルシウム水溶液を1 mL加え、細胞のペレットをゲル化した。その後ゲル化したペレットのみをカセットに入れ、自動固定包埋装置(Tissue-Tek VIP(登録商標) 5 Jr, サクラファインテックジャパン)とパラフィン包埋ブロック作製装置(Tissue-Tek(登録商標) TEC(商標), サクラファインテックジャパン)を用いてホルマリン固定パラフィン包埋ブロックを作製した。ブロックは滑走型ミクロトームを用いて3 μmの厚さに薄切し、剥離防止コートスライドガラス(CRE-12, 松波硝子工業株式会社)に乗せ、室温にて乾燥させた。
標本はキシレン中で10分間脱パラフィンを行い、続いて100%エタノール中で脱キシレンを行った。0.3%過酸化水素/メタノールで10分間処理し、内因性ペルオキシダーゼを失活させた後、トリス塩酸緩衝液(TBS)で5分間洗浄した。10 mMトリス・1 mM エチレンジアミン四酢酸溶液pH9.0に入れ、電子レンジを用いて10分間抗原賦活化を行った。標本は室温に戻したのちにTBSで5分間標本を洗浄し、内因性アビジン・ビオチンブロッキングキット(415041、ニチレイバイオサイエンス)とTBSで0.5 %に希釈したカゼイン(C3400、EMD Millipore)溶液を用いて一次抗体の非特異的反応を防止した。反応時間は前者は10分間を2回、後者は10分間、全て室温で反応させた。その後、標本を抗SPON1モノクローナル抗体クローン#4を一次抗体として4℃で一昼夜反応させた。0.1% Tween20を添加した改変トリス塩酸緩衝液(TBS2T; 11.6 mM トリズマベース、38 mMトリズマ塩酸塩、及び300 mM 塩化ナトリウム)で5分間3回洗浄し、チラミド増幅液(20%デキストラン硫酸ナトリウム5000、0.2Mトリス塩酸pH8.8)にて400倍に希釈したビオチン標識チラミドを室温で15分間反応させた。TBS2Tで5分間3回洗浄した後、改変トリス塩酸緩衝(TBS2)で500倍に希釈した西洋わさびペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジン(P0397,アジレントテクノロジー)と室温で15分間反応させた。TBS2Tで5分間3回洗浄した後、発色溶液[0.13 mg/mL 3,3'-ジアミノベンジジン(同人化学研究所), 0.011%過酸化水素水溶液]中で適当な染色像が得られるまで反応させた。核染色はティシュー・テック(登録商標)ヘマトキシリン3G(サクラファインテックジャパン株式会社)溶液中で5秒間振り洗いを行い、流水で10分間洗浄した。次に0.5%塩酸/70%エタノール溶液中で5秒間振り洗いを行い、余分なヘマトキシリンを除いた。100%エタノールを用いて標本の脱水、キシレンにより透徹処理を行い、プレパラート自動封入機(白井松器械株式会社)を用いてプレパラートを作製した。
同様の方法により、SPON1タンパク質発現用のベクターを導入していないHEK293T細胞、及び卵巣がん細胞株(OVCAR3細胞株)についても免疫染色を行った。
抗SPON1モノクローナル抗体クローン#4による免疫染色の結果を図4に示す。SPON1タンパク質発現用のベクターが導入されていないHEK293T細胞ではSPON1陽性シグナルが全く認められなかった(図4、左側)。これに対して、SPON1タンパク質発現用のベクターが導入されたHEK293T細胞では強いSPON1陽性シグナルが認められた(図4、中央)。また、OVCAR3細胞株においても、強いSPON1陽性シグナルが細胞質及び細胞膜に認められた(図4、右側)。
また、比較対照としたクローン#1及び#11による免疫染色の結果を図5に示す。クローン#1及び#11ではクローン#4と比較してSPON1タンパク質を十分なS/N比で検出することができなかった。この結果から、クローン#4が免疫染色においてSPON1タンパク質を特異的かつ高感度で検出することができる、極めて有用な抗体であることが明らかになった。それ故、次の実施例5では、配列決定の対象としてクローン#4を選択した。
<実施例5:抗SPON1モノクローナル抗体クローン#4のCDR配列決定>
(目的)
抗SPON1モノクローナル抗体クローン#4のCDR配列を決定する。
(方法と結果)
抗SPON1モノクローナル抗体クローン#4の重鎖及び軽鎖の各可変領域及び各CDRの配列を決定した。具体的には、まずハイブリドーマに1 mLのTRIzol(登録商標)試薬(サーモフィッシャーサイエンティフィック)と200 μLのクロロホルムを混和し、4℃、15,000回転/分にて15分間遠心した。次にmRNAが含まれる水相と等量のイソプロパノールを混和し、4℃、15,000回転/分にて15分間遠心しmRNAを抽出した。最後に1 mLの70%エタノールを加えてmRNAの脱塩を行い50 μLの水に溶解し、NanoDrop(登録商標)2000によりmRNAの濃度を定量した。
CDRの決定には5'-Full RACE Core Set(タカラバイオ株式会社)を用いた。実験は全て取扱説明書及び添付の試薬を用いて行い、得られたDNA断片をpGEM(登録商標)-T Easy Vector(プロメガ)にクローニングした後に、DNAシークエンスを行った。DNAシークエンスはマクロジェンジャパン株式会社で行い、CDRの同定はKabatの抗体ナンバリングシステムに従った。
抗SPON1モノクローナル抗体クローン#4の重鎖及び軽鎖の各可変領域及び各CDRの配列を決定した結果を以下に示す。
重鎖可変領域のアミノ酸配列:EVQLVETGGDLVQPGKSLKLTCATSGFTFTAAWMHWLRQSPDKRLEWIARIKDKSNNYATDYVESVKGRFTISRDDSKSCVYLQMNSLKEEDTATYYCTSGGFAYWGQGTLVTVSSAQTT(配列番号7)
軽鎖可変領域のアミノ酸配列:DVVMTQTPPSLSVAIGQSVSISCKSSQSLVYRDGKTYLHWLLQSPDRSPKRLIYQVSNLGSGVPDRFSGTGSQKDFTLKISRVEAEDLGVYYCAQTTHLYTFGAGTKLELKRADAAPTNH(配列番号8)
重鎖CDR1のアミノ酸配列:ATSGFTFTAAWMH(配列番号1)
重鎖CDR2のアミノ酸配列:RIKDKSNNYATD(配列番号2)
重鎖CDR3のアミノ酸配列:TSGGFAY(配列番号3)
軽鎖CDR1のアミノ酸配列:KSSQSLVYRDGKTYLH(配列番号4)
軽鎖CDR2のアミノ酸配列:YQVSNLGS(配列番号5)
軽鎖CDR3のアミノ酸配列:AQTTHLYT(配列番号6)
<実施例6:卵巣がん組織における免疫組織化学、及びそれに基づく無再発生存率解析及び臨床病理学的解析>
(目的)
抗SPON1モノクローナル抗体クローン#4を用いて、卵巣がん組織におけるSPON1タンパク質を検出し、SPON1の発現と予後との関係を明らかにする。
(方法と結果)
(1)組織標本の収集
福島県立医科大学附属病院にて2003年から2015年までの間に卵巣がんの診断で手術を受けた患者171人、いわき市医療センターにて2010年から2015年までに卵巣がんの診断で手術を受けた患者75人を対象として組織標本を収集し、SPON1発現を評価した。対象症例は診断から3~5年間の生存情報が判明している患者に限り、原疾患に依らない死亡症例については対象から除外した。組織材料の収集にあたっては、福島県立医科大学倫理委員会の承認(承認番号2019-0311)を受け、臨床研究に関わる倫理指針を遵守して実施した。
(2)免疫組織化学染色及びSPON1発現量の評価
採取された卵巣がん組織は全て10%ホルマリン固定後にパラフィン包埋し、ヘマトリシリン・エオシン(Hematoxylin eosin:HE)染色と免疫組織化学染色を行った。免疫組織化学染色は実施例4と同様に実施した。
転帰等の患者背景をマスキングした上で、2名の病理医がImmunoreactive score (IRS;Remmele et al., 1986, Virchows Arch, 409: 127-147)を一部改変した方法を用いて染色性を半定量評価した。具体的には、陽性細胞の割合(%)に基づいて、Proportion Score (PS)=0(1%未満)、PS=1(1%~10%)、PS=2(11%~30%)、PS=3(31%~50%)、及びPS=4(51%以上)に分類した。次に、染色強度に基づいて、Intensity Score (IS)=0(なし)、IS=1(弱)、IS=2(中程度)、及びIS=3(強)に分類した。PS及びISの乗じた値をIRSスコアとした。さらにIRSスコアに基づいて、スコア0/1/2/3/4/6を低SPON1群、スコア8/9/12を高SPON1群として評価した。
正常卵巣組織、及び卵巣がん組織(陰性、中等度陽性、及び強陽性)におけるSPON1染色結果の一例を図6に示す。
(3)無再発生存率の解析
次に、低SPON1群(210症例)及び高SPON1群(36症例)の各々についてカプラン-マイヤー(Kaplan-Meier)法により術後経過年数に対する無再発生存率(Relapse-free survival rate)を計算した。さらに2群間の生存率をログランク検定により比較した。全ての統計分析は両側(two-sided)であり、Graphpad Prism及びSPSS Statisticsを用いて行った。全てのP値は両側であり、0.05未満のP値を統計学的に有意であるとした。
無再発生存率を解析した結果を図7に示す。低SPON1群の卵巣がん患者と比較して、高SPON1群は有意に低い無再発生存率を示した(図7;P=0.0264)。この結果から、低SPON1群の卵巣がん患者は、卵巣がん切除手術後の予後が良いのに対し、高SPON1群の卵巣がん患は、卵巣がん切除手術後の予後が悪い傾向があることが示された。
(4)臨床病理学的解析
246症例の卵巣がん患者について、臨床病理学的解析を実施した。SPON1は、上記(2)と同様にIRSスコアに基づき評価を行い、解析にはStatFlex Ver.7.0.11(アーテック、大阪)を用いた。
まず、各臨床病理学的因子とSPON1発現(低SPON1発現又は高SPON1発現)との関連性を解析した結果を図8に示す。図8では、高SPON1発現は、組織型、ステージ、腹水細胞診、手術完遂度、及び再発と有意な相関を示した一方で、従来の代表的な卵巣がんマーカーとして知られるCancer antigen 125(CA-125)とは有意な相関を示さなかった(図8)。
次に、無再発生存期間(DFS)に関する単変量解析をロジスティック回帰モデルを用いて行い、SPON1が有意に卵巣がんの再発に相関することを示した(図9)。
<実施例7:腹水中の卵巣がん細胞塊におけるSPON1タンパク質の検出>
(目的)
卵巣がん患者の腹水中の細胞塊においてSPON1タンパク質を検出する。
(方法と結果)
2名の卵巣がん患者から採取された腹水を2,000回転/分、室温で15分間遠心し、腹水に含まれる細胞を回収した。溶血溶液(1 mM 重炭酸アンモニウム、110 mM 塩化アンモニウム)を用いて赤血球を除去した後に得られた細胞に対して実施例4と同様の方法により抗SPON1抗体クローン#4を用いて免疫組織化学染色を行った。
結果を図10に示す。症例1と症例2のいずれにおいても、細胞塊における細胞表面でSPON1シグナルが検出された。この結果から、卵巣がん患者の体液においてSPON1を検出し得ることが実証された。

Claims (15)

  1. スポンジン1(SPON1)タンパク質若しくはそのペプチド断片、又はSPON1遺伝子の転写産物若しくはその核酸断片からなる、卵巣がん患者の予後を予測するためのバイオマーカー。
  2. 卵巣がん患者の予後を予測するための抗SPON1抗体又はその断片。
  3. 前記抗SPON1抗体又はその断片が、
    配列番号1で示すアミノ酸配列からなるCDR1、
    配列番号2で示すアミノ酸配列からなるCDR2、及び
    配列番号3で示すアミノ酸配列からなるCDR3
    を含む重鎖可変領域と
    配列番号4で示すアミノ酸配列からなるCDR1、
    配列番号5で示すアミノ酸配列からなるCDR2、及び
    配列番号6で示すアミノ酸配列からなるCDR3
    を含む軽鎖可変領域を含む、請求項2に記載の抗SPON1抗体又はその断片。
  4. 前記抗SPON1抗体又はその断片が、
    配列番号7で示すアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び
    配列番号8で示すアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域
    を含む、請求項3に記載の抗SPON1抗体又はその断片。
  5. 請求項1に記載のバイオマーカーを検出するための、請求項2~4のいずれか一項に記載の抗SPON1抗体又はその断片を含む、卵巣がん患者の予後予測用キット。
  6. 卵巣がん患者の予後を予測するための、請求項1に記載のバイオマーカーの使用。
  7. 卵巣がんを検出するための抗SPON1モノクローナル抗体又はその断片。
  8. 前記抗SPON1モノクローナル抗体又はその断片が、
    配列番号1で示すアミノ酸配列からなるCDR1、
    配列番号2で示すアミノ酸配列からなるCDR2、及び
    配列番号3で示すアミノ酸配列からなるCDR3
    を含む重鎖可変領域と
    配列番号4で示すアミノ酸配列からなるCDR1、
    配列番号5で示すアミノ酸配列からなるCDR2、及び
    配列番号6で示すアミノ酸配列からなるCDR3
    を含む軽鎖可変領域を含む、請求項7に記載の抗SPON1モノクローナル抗体又はその断片。
  9. 前記抗SPON1モノクローナル抗体又はその断片が、
    配列番号7で示すアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び
    配列番号8で示すアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域
    を含む、請求項8に記載の抗SPON1モノクローナル抗体又はその断片。
  10. 請求項7~9のいずれか一項に記載の抗SPON1モノクローナル抗体又はその断片を含む、卵巣がん検出用キット。
  11. 卵巣がん患者の予後を予測するための方法であって、
    卵巣がん患者に由来する試料において、請求項1に記載のバイオマーカーを検出する検出工程
    を含み、前記試料が前記バイオマーカーについて陽性である場合、前記卵巣がん患者の予後が悪いことを示す、前記方法。
  12. 前記バイオマーカーが請求項2~4のいずれか一項に記載の抗SPON1抗体又はその断片を用いて検出される、請求項11に記載の方法。
  13. 卵巣がんを検出するための方法であって、
    被験者に由来する体液において、SPON1タンパク質若しくはそのペプチド断片からなるバイオマーカーを検出する検出工程
    を含み、
    前記試料が前記バイオマーカーについて陽性である場合、前記被験者は卵巣がんに罹患している可能性が高いことを示し、かつ
    前記バイオマーカーが請求項7~9のいずれか一項に記載の抗SPON1モノクローナル抗体又はその断片を用いて検出される、前記方法。
  14. 抗SPON1抗体又はその断片を有効成分として含む、卵巣がん治療剤。
  15. 前記抗SPON1抗体又はその断片が、
    配列番号1で示すアミノ酸配列からなるCDR1、
    配列番号2で示すアミノ酸配列からなるCDR2、及び
    配列番号3で示すアミノ酸配列からなるCDR3
    を含む重鎖可変領域と
    配列番号4で示すアミノ酸配列からなるCDR1、
    配列番号5で示すアミノ酸配列からなるCDR2、及び
    配列番号6で示すアミノ酸配列からなるCDR3
    を含む軽鎖可変領域を含む、請求項14に記載の卵巣がん治療剤。
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