(第1実施形態)
第1実施形態の車両用シート装置1について、図1〜図4を参照して説明する。車両用シート装置1は、着座者の背部を支持する背もたれ部10aと、着座者の臀部および大腿部を支持する着座部10bとを備える。車両用シート装置1は、車両の車室内において着座者である乗員が着座する座席を提供する。背もたれ部10aおよび着座部10bには、それぞれ送風装置50a、50bが設けられている。車両用シート装置1は、送風装置50a、50bの駆動によって着座者の周囲に空気の流れを形成する。車両用シート装置1は、所謂シートベンチレーションシステムを構成する車両用シートである。第1実施形態においては、車両用シート装置1を、表面から着座者に対して空気を吹き出すシートベンチレーションシステムとして説明する。
背もたれ部10aは、シートパッド20aと、表皮部材30aと、送風装置50aとを有する。背もたれ部10aおよび着座部10bは、それぞれ全体の形状を維持する金属製の骨格部材を有する。背もたれ部10aの上部には着座者の頭部を支持する図示しないヘッドレストが装着されている。ヘッドレストは下部から下方に延びる棒状のステーが設けられている。ヘッドレストは、ステーが背もたれ部10aに挿通されることで背もたれ部10aと連結されている。またはヘッドレストは背もたれ部10aと一体不可分に形成されていてもよい。
シートパッド20aは、弾性変形可能な材料、例えば連続気泡型の発泡ポリウレタンによって構成される。シートパッド20aは、表皮部材30aに対して十分大きな厚み寸法を有する。シートパッド20aは、着座した乗員の荷重を弾性変形によって吸収し、乗員の身体の背部を支持するクッション部材である。シートパッド20aは、「背もたれ側シートパッド」の一例である。
表皮部材30aは、皮革やファブリック等によって提供される。表皮部材30aは、通気可能となるように複数の孔部やスリット等が形成された素材や、直接空気が通気可能な素材等によって提供される、通気性を有する部材である。表皮部材30aは、特に後述の第1連通表面溝22a、第2連通表面溝24a、吊り溝23a、幅方向吊り溝25aおよび表面溝26aを覆う部分が通気可能になっていればよい。表皮部材30aは、シートパッド20aを覆い、着座者と直接接触する部材である。表皮部材30aは、吊り溝23aを含む複数部位でシートパッド20aに対して固定されている。表皮部材30aは、背もたれ部10aにおける背もたれ面31aを提供する。背もたれ面31aは、着座した乗員の背中が接触し得る面である。
送風装置50aは、電動モータによって回転駆動するファンと、ファンを収容するケーシングとを含んで構成されている。ファンは、遠心式ファン、軸流式ファン等の多様なファンによって提供することができる。送風装置50aは、ファンの回転によって空気を駆動し、シートパッド20aの空気通路内に強制的に空気の流れを形成する。送風装置50aは、例えばシートパッド20aの背面に配置され、背もたれ部10aの骨格部材に取り付けられている。送風装置50aは、後背部28aを介して車室内の空気を吸い込み、孔部21aに対して送風する。送風装置50aは、背もたれ部10aの背面から空気を吸い込み、背もたれ面31aから空気を吹き出す空気流れを形成する。
シートパッド20aに形成された空気通路の詳細を図1、図2を参照しながら説明する。空気通路は、孔部21a、第1連通表面溝22a、第2連通表面溝24a、吊り溝23a、幅方向吊り溝25a、表面溝26aを含む。空気通路のうち、第1連通表面溝22a、第2連通表面溝24a、吊り溝23a、幅方向吊り溝25aおよび表面溝26aは、それぞれ表皮部材30aを介して車室内との間で空気が流通可能である。すなわち第1実施形態のように空気を吹き出すシートベンチレーションシステムの場合には、上述の複数の溝22a、24a、23a、25a、26aから表皮部材30aを通過して車室内へと空気が吹き出す。
孔部21aは、シートパッド20aの厚さ方向に延びるように形成されている。孔部21aは、シートパッド20aの裏面から、シートパッド20aの表面付近まで延びるように形成されている。ここで表面は、シートパッド20aにおける着座者が着座する側の面であり、裏面は、表面の反対側の面である。孔部21aは、シートパッド20aの表面まで貫通していないが、貫通している構造であってもよい。孔部21aは、幅方向において一対の吊り溝23aの間、例えばシートパッド20aの中央に位置する。孔部21aは、シートパッド20aの表面で第1連通表面溝22aおよび第2連通表面溝24aと連通している。孔部21aは、送風装置50aの吹き出した空気をシートパッド20aの表面へと導入するための空気通路である。
孔部21aは、縦方向において例えば中央よりも上方に位置するように形成されている。孔部21aは、幅方向吊り溝25aよりも上方に位置する。孔部21aは、シートパッド20aの背面で送風装置50aと接続され、送風装置50aから吹き出された空気が流入可能となっている。
第1連通表面溝22aは、シートパッド20aの表面に形成された溝である。第1連通表面溝22aは、孔部21aと一対の吊り溝23aとを連通する幅方向に延びる溝である。第1連通表面溝22aは、孔部21aと吊り溝23aとの間の空気の流通を確保する空気通路である。
吊り溝23aは、シートパッド20aの表面で幅方向に交差する方向に延びるように形成されている溝である。吊り溝23aは、例えば幅方向に直交する方向、すなわち縦方向に延びるように形成されている。吊り溝23aは、幅方向におけるシートパッド20aの中央から側端部29aまでの間で、中央よりも側端部29aに近い位置に設けられている。吊り溝23aは、平均的な体格の着座者が着座した際に身体が重なることのない位置に設けられていることが望ましい。
吊り溝23aは、図4に示すように、一対の側壁23a1、23a3と、底部23a2と、突出部23a4とを有する。一対の側壁のうち、シートパッド20aの幅方向中央側に位置する側壁を内側壁23a3、シートパッド20aの幅方向外側に位置する側壁を外側壁23a1と表記する。吊り溝23aの内部には、表皮部材30aが入り込んでいる。表皮部材30aは、シートパッド20aにおける吊り溝23aを挟んで一方側の領域を覆う部分の端部と、他方側を覆う部分の端部とが縫い合わされた状態で吊り溝23aの内部へと入り込んでいる。
底部23a2には、ワイヤ41が埋設されている。ワイヤ41は、金属材料や樹脂材料等の表皮部材30aを固定するために十分な強度を有する素材で形成されている。ワイヤ41は、表皮部材30aを係止する係止部材の一例である。ワイヤ41は、複数の部分が吊り溝23aの内部に露出している。より具体的には、底部23a2には周囲よりも凹むように形成された部分が複数設けられ、この凹むように形成されて部分にワイヤ41が露出している。
吊り溝23a内部には、固定具42が設けられている。固定具42は、例えば金属等で形成されたCリングである。固定具42は、表皮部材30aとワイヤ41とを固定する。固定具42によって、表皮部材30aは吊り溝23aに入り込んだ状態でシートパッド20aに対して固定される。すなわち、表皮部材30aは固定具42によってシートパッド20aの表面から吊り溝23aの内部に引っ張られて落ち込んだ状態で固定されている。換言すれば、表皮部材30aはシートパッド20aの表面から吊り溝23aの内部へと吊り下げられた状態で固定されている。これにより、車両用シート装置1の表面に表皮部材30aによる意匠を提供する。
突出部23a4は、内側壁23a3から突出するように設けられた部分である。突出部23a4は複数設けられている。突出部23a4は、例えば内側壁23a3と連続した材料で、内側壁23a3と一体に形成されている。突出部23a4は、例えば厚さ方向において内側壁23a3の上端から下端、すなわち底部23a2までの全体にわたって形成されている。突出部23a4は、例えば突出部23a4は、吊り溝23aの内部に入り込んだ表皮部材30aと接触している。突出部23a4は、表皮部材30aを幅方向外側、すなわち外側壁23a1側に押し出すことで、表皮部材30aと内側壁23a3との間に空間を形成している。換言すれば、突出部23a4は、表皮部材30aを内側壁23a3から離間した状態に支持する。突出部は、「支持部」の一例である。
幅方向吊り溝25aは、吊り溝23aと同様に、表皮部材30aを内部に引き込んだ状態で固定するシートパッド20aの表面に形成された溝である。幅方向吊り溝25aは、例えばシートパッド20aの縦方向において中央よりも上方に設けられている。幅方向吊り溝25aは、例えば孔部21aよりも縦方向において下方に位置する。幅方向吊り溝25aは、幅方向に延びて一対の吊り溝23aを連通している。幅方向吊り溝25aは、第2連通表面溝24aによって孔部21aと連通している。
表面溝26aは、シートパッド20aの表面に形成された複数の溝である。表面溝26aは、吊り溝23aと連通する溝である。表面溝26aは、吊り溝23aよりも小さい幅寸法に形成されている。表面溝26aは、吊り溝23aからシートパッド20aの幅方向中央に向かって延びるように形成されている。表面溝26aは、第1連通表面溝22aから吊り溝23aの延び方向にずれた位置に形成されている。表面溝26aは、シートパッド20aの幅方向中央を避けて設けられている。すなわち、表面溝26aは、シートパッド20aの幅方向中央を横断しない。1つの表面溝26aは、一対の吊り溝23aの片方のみと連通している。表面溝26aは、特に幅方向吊り溝25aよりも下方に多く設けられている。表面溝26aは、縦方向に複数並んで設けられている。表面溝26aは、吊り溝23aより幅方向中央側で車室内との間の空気の流通を行う。
次に着座部10bについて説明する。着座部10bは、着座者が着座する部分であり、乗員の臀部および大腿部を支持する部分である。以下の説明において、背もたれ部10aの各部構成と同一名称の構成に関しては、背もたれ部10aにおける構成と異なる点を説明し、共通する点については背もたれ部10aでの説明を援用する。
着座部10bは、背もたれ部10aと同様に、シートパッド20bと、表皮部材30bと、送風装置50bとを有する。シートパッド20bは、乗員の身体の臀部および大腿部を支持するクッション部材である。シートパッド20bは、「着座側シートパッド」の一例である。表皮部材30bは、着座部10bにおける着座面31bを提供する。着座面31bは、着座した乗員の臀部および大腿部が接触し得る面である。
送風装置50bは、例えばシートパッド20bの下部にて骨格部材に取り付けられている。送風装置50bのファンは、その回転軸が上下方向を向くようにケーシングに収容されている。吸込口は、例えば下方に向かって開口し、着座部10bの下方の空気を吸い込む。送風装置50bは、着座部10bの下方から空気を吸い込み、着座面31bから空気を吹き出す空気流れを形成する。
シートパッド20bに形成された空気通路の詳細を図1、図3を参照しながら説明する。空気通路は、孔部21b、第1連通表面溝22b、第2連通表面溝24b、吊り溝23b、幅方向吊り溝25b、表面溝26b、前後方向表面溝27bを含む。
孔部21bは、例えば幅方向においてシートパッド20bの中央で、かつ前後方向においてシートパッド20bの中央よりも前方に形成されている。すなわち孔部21bは、着座した乗員の大腿部および臀部と重なりにくい位置に形成されている。換言すれば、孔部21bは、着座した乗員が孔部21bによる違和感を覚えにくい位置に設けられている。孔部21bは、幅方向吊り溝25bよりも前方に位置する。孔部21bは、シートパッド20bの下部で送風装置50bと接続され、送風装置50bから吹き出された空気が流入可能となっている。
第1連通表面溝22bは、孔部21bと吊り溝23bとを連通する幅方向に延びる溝である。第1連通表面溝22bは、孔部21bと吊り溝23bとの間の空気の流通を確保する空気通路である。
吊り溝23bは、シートパッド20aの吊り溝23aと同様に、図4に示す一対の側壁(内側壁23b3および外側壁23b1)と、底部23b2と、突出部23b4とを有する。外側壁23b1、内側壁23b3、底部23b2、突出部23b4の構成は、それぞれ外側壁23a1、内側壁23a3、底部23a2、突出部23a4の構成と同様であるため説明を省略する。吊り溝23bは、着座した乗員の下半身の幅方向外側に位置するように設けられている。
幅方向吊り溝25bは、例えばシートパッド20bの前後方向において中央よりも前方に設けられている。幅方向吊り溝25aは、例えば孔部21aよりも前後方向において後方に位置する。幅方向吊り溝25bは、幅方向に延びて一対の吊り溝23bを連通している。幅方向吊り溝25bは、第2連通表面溝24bによって孔部21bと連通している。
表面溝26bは、表面溝26aは、特に幅方向吊り溝25aよりも後方に多く設けられている。表面溝26aは、前後方向に複数並んで設けられている。
前後方向表面溝27bは、シートパッド20bの表面で、幅方向吊り溝25bから分岐するように設けられた溝である。前後方向表面溝27bは、幅方向吊り溝25bから前後方向に延びるように形成されている。前後方向表面溝27bは、例えば幅方向吊り溝25bから直線状に延びている。前後方向表面溝27bは、例えば幅方向吊り溝25bから後方に延びる溝と、幅方向吊り溝25bから前方に延びる溝の両方を含む。前後方向表面溝27bは、特に幅方向において乗員の大腿部と対応する位置に設けられていることが望ましい。
次に、車両用シート装置1の作動および車両用シート装置1が形成する空気流れについて説明する。車両用シート装置1は、例えばインストルメントパネル等に設けられた車両用シート装置1の作動スイッチを乗員が投入することで作動を開始する。
作動を開始すると、車両用シート装置1は、制御装置によって送風装置50a、50bを回転駆動し、空気の送風を開始する。背もたれ部10aでは、送風装置50aによって車室内の空気が背もたれ部10aの後方から送風装置50aへと吸い込まれ、孔部21aに対して吹き出される。孔部21aを流通した空気は、第1連通表面溝22aおよび第2連通表面溝24aのそれぞれに流入する。第1連通表面溝22aに流入した空気は、一部が表皮部材30aを通過して車室内へと吹き出され、残りが吊り溝23aへと向かって流れる。すなわち、孔部21aを流通した空気は、第1連通表面溝22aによってシートパッド20aの表面付近でシートパッド20aの幅方向中央から幅方向両外側に向けて流れる。また、第2連通表面溝24aに流入した空気は、幅方向吊り溝25aに一旦流入した後、幅方向吊り溝25aから吊り溝23aへと向かって流れる。この空気も、第2連通表面溝24aおよび幅方向吊り溝25aを通過する過程で、一部が表皮部材30aを介して車室内へと吹き出される。
第1連通溝22aおよび幅方向吊り溝25aを流通して吊り溝23aへと流入した空気は、吊り溝23a内を流通してシートパッド20aの縦方向に広がるように流れる。吊り溝23a内を流通する過程で、空気の一部は表皮部材30aを通過して車室内へと吹き出され、着座者の上半身の側方部位である脇部や腕部等の付近に、背もたれ面31aから車両前方へと向かう空気の流れを形成する。
吊り溝23aから車室内へと吹き出さなかった残りの空気は、表面溝26aへと流入する。すなわち、シートパッド20aの幅方向中央から幅方向両外側へと流れて縦方向に広がって流れた空気は、表面溝26aによって幅方向両外側から幅方向中央に向かって流れる。表面溝26aを流通する空気は、幅方向中央に向かいつつ、表皮部材30aから車室内に対して吹き出される。表面溝26aから車室内に吹き出された空気は、吊り溝23aと同様に着座者の上半身の側方部位付近に背もたれ面31aから前方へと向かう空気流れを形成する。または、特に表面溝26aの幅方向中央に近い側から吹き出された空気は、着座者の背部に直接吹き付ける空気流れを形成する。
着座部10bでは、送風装置50bによって車室内の空気が着座部10bの下方から送風装置50bへと吸い込まれ、孔部21bに対して吹き出される。着座部10bにて幅方向吊り溝25bを流通する空気の一部は、前後方向表面溝27bに流入する。前後方向表面溝27bに流入した空気は、吊り溝23bの内側で前後方向に広がるようにしてシートパッド20bの表面を流通しつつ表皮部材30bを介して車室内へと吹き出される。
着座部10bの吊り溝23b内を流通する空気の一部は、流通の過程で表皮部材30bを通過して車室内へと吹き出され、着座者の大腿部や臀部の側方付近に、着座面31bから車両上方へと向かう空気の流れを形成する。
吊り溝23bから車室内へと吹き出さなかった残りの空気は、表面溝26bへと流入する。表面溝26bから車室内に吹き出された空気は、吊り溝23bと同様に着座者の大腿部や臀部の側方付近に着座面31bから車両上方へと向かう空気の流れを形成する。または、特に表面溝26bの幅方向中央に近い側から吹き出された空気は、着座者の臀部または大腿部に直接吹き付ける空気流れを形成する。
次に第1実施形態の車両用シート装置1がもたらす作用効果について説明する。第1実施形態の車両用シート装置1は、着座者の身体を支持するシートパッド20a、20bと、通気性を有してシートパッド20a、20bの表面を覆う表皮部材30a、30bと、を備える。シートパッド20a、20bは、シートパッド20a、20bの厚さ方向に延びるように形成され、内部に空気流が流通する孔部21a、21bを有する。車両用シート装置1は、シートパッド20a、20bの表面に形成されて、孔部21a、21bの両側においてシートパッド20a、20bの幅方向と交差する方向に延び、表皮部材30a、30bの端部を内部に引き込んだ状態で収容する一対の吊り溝23a、23bを有する。車両用シート装置1は、シートパッド20a、20bに埋設されて、吊り溝23a、23bの内部に引き込まれた状態の表皮部材30a、30bの端部が係止されるワイヤ41を有する。車両用シート装置1は、シートパッド20a、20bの表面に形成されて孔部と吊り溝とを連通する第1連通表面溝22a、22bとを有する。車両用シート装置1は、シートパッド20a、20bの表面において第1連通表面溝22a、22bから吊り溝の延び方向にずれた位置に形成されて、吊り溝から幅方向中央に向かって延びる表面溝26a、26bを有する。
これによれば、車両用シート装置1の表面から空気を吹き出す場合、空気は第1連通表面溝22a、22bを通って吊り溝23a、23bに流入する。空気はその後吊り溝23a、23bによってシートパッド20a、20bの幅方向に交差する方向に流通し、表面溝26a、26bへと流入する。空気は上述の流れの過程で第1連通表面溝22a、22b、吊り溝23a、23bおよび表面溝26a、26bから表皮部材30a、30bを介して車室内へと吹き出す。すなわち、孔部21aから導入された空気が孔部21aから幅方向の外側へと広がる流れ、幅方向に交差する方向に広がって流れおよび再びシートパッド20a、20bの幅方向中央に向かう流れをシートパッド20a、20bの表面において形成することができる。これにより、シートパッド20a、20bの表面において幅方向および幅方向に交差する方向に対する空気の流通を確保することができる。
また、シートパッド20a、20bには表皮部材30a、30bの端部を吊り溝23a、23bの内部に引き込まれた状態で係止するためのワイヤ41が埋設されている。このため、シートパッド20a、20bに荷重が付与された場合に、ワイヤ41が埋設されていない溝よりも荷重による変形が抑制される。これにより、吊り溝23a、23bにおける空気の流通が、吊り溝23a、23bの変形によって阻害されてしまうことを抑制できる。以上により、シートパッド20a、20bの表面における空気の流通が阻害されることを抑制可能な車両用シート装置1を提供することが可能となる。
また、特に第1実施形態の車両用シート装置1は、表皮部材30a、30bをシートパッド20a、20bに固定する吊り溝23a、23bを、シートパッド20a、20bの幅方向に交差する方向に流通させる溝として利用する。このため、孔部21a、21bから導入された空気を各表面溝26a、26bに配風するために新たに溝を形成する必要がない。したがって、溝の形成によるシートパッド20a、20bの強度の低下を抑制することができる。以上により、シートパッド20a、20bの表面における空気の流通を確保しつつシートパッド20a、20bの強度の低下を抑制することも可能となる。
吊り溝23a、23bは、幅方向におけるシートパッド20a、20bの中央から側端部29a、29bまでの間で、中央よりも側端部29a、29bに近い位置に設けられている。これによれば、吊り溝23a、23bの位置が着座者の身体部位と重なる位置になることを回避しやすくなる。これにより、吊り溝23a、23bが着座者の荷重によって変形することを抑制でき、吊り溝23a、23bにおける空気の流通が阻害されることを抑制しやすくなる。
シートパッド20a、20bは、幅方向に延びて一対の吊り溝23a、23bのそれぞれと連通する幅方向吊り溝25a、25bを有する。シートパッド20a、20bは、シートパッド20a、20bの表面に形成されて孔部21a、21bと幅方向吊り溝25a、25bとを連通する第2連通表面溝24a、24bをさらに有する。
これによれば、孔部21a、21bと一対の吊り溝23a、23bとを、第1連通表面溝22a、22bに加えて、第2連通表面溝24a、24bおよび幅方向吊り溝25a、25bを介して連通することができる。これにより、孔部21a、21bと一対の吊り溝23a、23bとの間を流通する空気量を増加させることができる。したがって、例えば乗員に対して空気を吹き出す場合には、孔部21a、21bから一対の吊り溝23a、23bへと流通する空気の流量が増加し、乗員に対してより多くの空気を送風することが可能となる。
表面溝26a、26bは、シートパッド20a、20bの幅方向中央を避けて設けられている。これによれば、表面溝26a、26bは、幅方向において中央ではなく、より吊り溝23a、23bに近い側で、表皮部材30a、30bを介した空気の流通を提供する。したがって、例えば乗員に対して空気を吹き出す場合には、幅方向中央よりも吊り溝23a、23bに近い側で空気が吹き出される。これにより、乗員の脇部を通過して乗員の前方へと吹き抜ける空気の流量を増加させることができる。乗員の脇部は、冷却効果が大きいため、乗員の快適性を向上させることができる。また、表面溝26a、26bが幅方向中央を避けて設けられていると、シートパッド20a、20bの幅方向中央付近が着座者の体重によって過度に沈み込むことを抑制できる。これにより、乗員の座り心地を向上させることも可能となる。
着座部10b側のシートパッド20bは、幅方向吊り溝25bから前後方向に延びる前後方向表面溝27bを有する。これによれば、幅方向において吊り溝23a、23bよりも着座者の大腿部に近い位置で、大腿部の長さ方向に沿う方向に空気を配風しやすくなる。これにより、着座者の快適性をより向上させることができる。
表面溝26a、26bの幅寸法は、吊り溝23a、23bの幅寸法よりも小さい。吊り溝23a、23bよりも幅方向内側に形成された表面溝26a、26bには、着座者による荷重が吊り溝23a、23bに比較して大きくなりやすい。したがって、表面溝26a、26bの幅寸法を吊り溝23a、23bの幅寸法よりも小さく形成することで、シートパッド20a、20bの沈み込みを抑制できる。これにより、着座者の快適性を向上することができる。また、着座者の身体が表面溝26a、26bと重なり合う場合でも、表皮部材30a、30bを介して表面溝26a、26bと接触する違和感を軽減することができ、この点においても着座者の快適性を向上することができる。
吊り溝23a、23bの内部に入り込んだ表皮部材30a、30bを吊り溝23a、23bにおける内側壁23a3、23b3から離間した状態に支持する突出部23a4、23b4を有する。これによれば、突出部23a4、23b4によって、吊り溝23a、23bにおける表面溝26a、26bと連通する壁部である内側壁23a3、23b3と、表皮部材30a、30bとの間に、空間を確保することができる。これによって、内側壁23a3、23b3と表皮部材30a、30bとの間に空気が流通しやすくなり、これに伴い吊り溝23a、23bと表面溝26a、26bとの間にも空気を流通させやすくなる。
(第2実施形態)
第2実施形態では、第1実施形態における車両用シート装置1の変形例について説明する。図5および図6において第1実施形態の図面中と同一符号を付した構成要素は、同様の構成要素であり、同様の作用効果を奏するものである。
第2実施形態の車両用シート装置1の背もたれ部10aにおいて、幅方向吊り溝225aは、孔部21aと吊り溝23aとを直接連通するように設けられている。すなわち、第1実施形態における第1連通表面溝22aの代わりに幅方向吊り溝225aが孔部21aと吊り溝23aとの間の空気の流通を確保している。換言すれば、第1連通表面溝が幅方向吊り溝225aによって提供されている。また、着座部10bにおいても同様に、幅方向吊り溝225bが孔部21bと吊り溝23bを連通している。
次に第2実施形態の車両用シート装置1がもたらす作用効果について説明する。孔部21a、21bと吊り溝23a、23bとを連通する連通表面溝が幅方向吊り溝225a、225bである。これによれば、幅方向吊り溝225a、225bによって孔部21a、21bと吊り溝23a、23bとを連通する分だけシートパッド20a、20bの表面に新たに溝を形成する必要がなくなるため、シートパッド20a、20bの強度の低下を抑制できる。したがって、着座者の荷重によるシートパッド20a、20bの過度の沈み込みを抑制でき、快適性のより向上された車両用シート装置1を提供することができる。
なお図5および図6では、幅方向吊り溝225a、225bのみが吊り溝23a、23bと孔部21a、21bとを連通している。これにより、吊り溝23a、23bと孔部21a、21bとを連通するために幅方向吊り溝225a、225b以外の溝を形成する必要がなく、シートパッド20a、20bの強度を保つことができる。しかし、追加的にシートパッド20a、20bの表面に形成された溝も吊り溝23a、23bと孔部21a、21bとを連通する構成であってもよい。この場合であっても、孔部21a、21bと吊り溝23a、23bとを連通する複数の溝に幅方向吊り溝225a、225bが含まれている分、新たに形成する表面溝を削減できるので、シートパッド20a、20bの強度低下を抑制できる。
(他の実施形態)
この明細書における開示は、例示された実施形態に制限されない。開示は、例示された実施形態と、それらに基づく当業者による変形態様を包含する。例えば、開示は、実施形態において示された部品および/または要素の組み合わせに限定されない。開示は、多様な組み合わせによって実施可能である。開示は、実施形態に追加可能な追加的な部分をもつことができる。開示は、実施形態の部品および/または要素が省略されたものを包含する。開示は、ひとつの実施形態と他の実施形態との間における部品および/または要素の置き換え、または組み合わせを包含する。開示される技術的範囲は、実施形態の記載に限定されない。開示されるいくつかの技術的範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むものと解されるべきである。
上述の実施形態において、シートパッド20a、20bには吊り溝23a、23bから幅方向中央に対して延びる表面溝26a、26bが設けられていることを説明した。この構成に加えて、吊り溝23a、23bから幅方向外側に向かって延びる表面溝が設けられていてもよい。
上述の実施形態において、車両用シート装置1は、送風装置50a、50bによってシートの背もたれ面31aおよび着座面31bから空気を吹き出す構成であるとした。これに代えて、背もたれ面31aおよび着座面31bから送風装置50a、50bによって空気を吸い込む構成であってもよい。
上述の実施形態において、送風装置がシートに設けられている構成を開示したが、送風装置は必ずしもシートに設けられていなくてよい。例えば、車両用空調装置とシートとがダクト等によって接続されることで、車両用空調装置の空調風がシートから吹き出す構成であってもよい。
上述の実施形態において、背もたれ部10aおよび着座部10b両方のシートパッド20a、20bが空気通路を有するとしたが、いずれか一方のシートパッドのみがこれらの空気通路を有する構成であってもよい。
上述の実施形態において、吊り溝23a、23bには突出部23a4が設けられているとしたが、突出部23a4が設けられていなくてもよい。突出部23a4が設けられていない構成であっても、吊り溝23a、23bの内部には表皮部材30a、30bとの間に空間がある程度形成されるため、空気の流通が可能である。
上述の実施形態において、幅方向吊り溝25a、25bは、各シートパッド20a、20bにそれぞれ1つずつ設けられているとしたが、複数設けられていてもよい。なお幅方向吊り溝25a、25bおよび表面溝26a、26bの総数は、シートパッド20a、20bの強度や着座者が感じる着座感触等を考慮して決定すればよい。
上述の実施形態において、吊り溝23a、23bには内側壁23a3から突出する突出部23a4、23b4が支持部として設けられているとしたが、支持部の構成はこれに限定されない。例えば支持部は、表皮部材30aを外側壁23a1に固定する構成であってもよい。換言すれば、支持部は表皮部材30aを外側壁23a1側に引っ張ることで内側壁23a3から離間させる構成であってもよい。より具体的には、支持部は表皮部材30aを外側壁23a1に縫合する縫合具、外側壁23a1に接着させる接着材等により提供されてもよい。
上述の実施形態において、車両用シート装置1は送風装置による空気の送風を乗員に提供するとしたが、これに加えて、送風する空気を温度調整する構成を有していてもよい。