JP2019149344A - 高温超電導線材及び高温超電導コイル - Google Patents

高温超電導線材及び高温超電導コイル Download PDF

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Abstract

【課題】交流損失(ヒステリシス損失)の低減及びクエンチ耐性の強化を図ることが可能な高温超電導線材及びそれを用いた高温超電導コイルを提供する。【解決手段】テープ形状の基板11と、基板11上に形成された高温超電導層13と、高温超電導層13を被覆する金属層15をそれぞれ備える2本の部分線材10、10を互いに電気的に絶縁されない状態で線材の厚さ方向に高温超電導層13同士が対向する向きに金属層15同士を面接触させて重ね合わせて形成された高温超電導線材1、2であって、2本の部分線材10、10の高温超電導層13、13には、当該高温超電導層13、13の長手方向に伸び、当該高温超電導層13、13を幅方向に分断する溝16、16がそれぞれ設けられており、溝16、16により高温超電導層13、13に電流流路17、17がそれぞれ形成されている。【選択図】図1

Description

本発明は、高温超電導線材及び高温超電導コイルに関する。
モーターや変圧器等に用いられる超電導コイル等の超電導線材を用いた超電導機器では、主に次の2つの理由により、交流損失が深刻な問題となっている。
第一の理由は、交流損失により失われた電力が熱に変換されてしまい、極低温に冷却されなければならない超電導機器の温度を上げてしまうことである。システムの消費電力全体に占める交流損失による電力の損失の割合は大きくないとしても、それが熱になりシステムに必要な冷却機構の能力を引き上げなければならなくなると、必要とされる冷却機構の導入コストやランニングコストが高くなってしまう。これは実用上の観点から深刻な問題になる。
第二の理由は、金属などの常電導体を用いた機器と比べて、超電導機器では発生する交流損失が大きくなることである。常電導体を用いたモーター等の機器でもヒステリシス損失(いわゆる鉄損)や渦電流損失(いわゆる銅損)といった交流損失は存在している。
しかし、超電導機器の場合、超電導体自身がヒステリシス損失等の交流損失をもたらす。また、超電導機器では、機器の周辺部材も含めて極低温まで冷却された結果、その電気伝導度が文字通り桁違いに増大し、渦電流損失はそれに比例して増大してしまう。そして、それらの事情により、超電導機器では、交流損失の量が常電導体の機器と比べて大きくなる。
超電導線材の中でも高温超電導線材(特にREBCO線材)では、交流損失のうち、特にヒステリシス損失を生じやすいという問題がある。
その主な理由は、高温超電導線材の高温超電導層が曲げる力に弱い酸化物で形成されているため、通常、高温超電導層が、厚さがμmオーダーであるのに対して幅がmmオーダーとなるような扁平な断面形状に形成されるためである。
以下、高温超電導線材を用いて例えばダブルパンケーキコイルDPを形成した場合を例示して、簡単に説明する。
図13は、ダブルパンケーキコイルDPのあるターンにおける従来の高温超電導線材100の高温超電導層101をコイルの径方向(高温超電導線材や高温超電導層の厚さ方向)から見た図である。
なお、高温超電導線材でコイル(ダブルパンケーキコイル、ソレノイドコイルやレイヤー巻きコイル等)を形成した場合、線材や高温超電導層等の「厚さ方向」はコイルの径方向(図13では紙面に直交する方向)と同じ方向になり、線材や高温超電導層等の「幅方向」はコイルの厚さ方向(図13では図中上下方向)と同じ方向になる(コイルの厚さ方向と線材等の厚さ方向は向きが異なるため注意を要する。)。
また、以下、コイルの厚さ方向の両端側(図13では上側の高温超電導線材100や高温超電導層101における上側や下側の高温超電導線材100や高温超電導層101における下側)を、コイル及びそれを構成する高温超電導線材や高温超電導層の「外側」といい、コイルの厚さ方向の中央側(図13では上側の高温超電導線材100や高温超電導層101における下側や下側の高温超電導線材100や高温超電導層101における上側)を、コイル及びそれを構成する高温超電導線材や高温超電導層の「内側」という。
また、シングルパンケーキコイルのように高温超電導線材がコイルの厚さ方向に1本しか巻かれていない場合は、高温超電導線材の幅方向(コイルの厚さ方向)の両端側が「外側」になり、幅方向(コイルの厚さ方向)の中央側が「内側」になる。
マクスウェル方程式によると、コイルの内側に流れる電流が増加すると、その外側に同じ方向の電流を誘起する電場が形成される。
そのため、図13に示すように、ダブルパンケーキコイルDPを構成する高温超電導線材100の高温超電導層101に電流Iを流す場合、流れる電流Iが増加すると、2本の高温超電導線材100の各高温超電導層101のそれぞれ外側に、電流Iと同じ方向に流れる遮蔽電流Isが誘起される。
そのため、2本の高温超電導線材100の各高温超電導層101のそれぞれ外側半分の領域(図中の上側の高温超電導層101の上側半分及び図中の下側の高温超電導層101の下側半分)に電流が流れるようになり、その領域(すなわち外側の領域)に遮蔽電流帯ができる。なお、2本の高温超電導線材100の各高温超電導層101のそれぞれ内側半分の領域にはほとんど電流が流れなくなる。
そして、このように各高温超電導層101内で電流の偏りすなわち遮蔽電流Isが生じている所に外部磁場が変化すると、遮蔽電流Isによって磁気モーメントが発生し、その仕事によって熱が生じる。この熱による損失がヒステリシス損失と呼ばれている。
そして、高温超電導線材では、上記のように、高温超電導層が扁平な断面形状に形成され、その幅方向がコイルの厚さ方向を向くように配置せざるを得ない。そのため、高温超電導線材では、高温超電導層の外側に遮蔽電流帯が生じやすくなり、ヒステリシス損失が発生しやすくなる。
そこで、従来から、高温超電導層内でのヒステリシス損失の発生を抑制することを目的として、高温超電導層の位置替え(いわゆる転位。Roebelケーブル等ともいう。)を行うように構成された高温超電導線材が種々開発されている(例えば特許文献1〜4等参照)。
これらは、主に、2本の高温超電導線材の位置を物理的に入れ替えて高温超電導層の蛇行状態を作ることで、高温超電導層内に上記のような遮蔽電流帯を形成されにくくして、交流損失(ヒステリシス損失)の低減が図られている。
特許第4657921号公報 特開2004−63225号公報 特開2005−85612号公報 特許第5597711号公報
しかしながら、上記の各特許文献に記載された高温超電導線材には、以下のような問題がある。
特許文献1や特許文献2に記載されているように、高温超電導線材を転位させるために高温超電導線材や高温超電導層の一部を蛇行させるように形成する場合、高温超電導線材をその幅方向に曲げることは困難であり、無理に曲げると高温超電導層が破壊されてしまう可能性もある。そのため、通常、基板上に形成した高温超電導層を基板等とともに切り抜いて蛇行線を形成する。
しかし、このような切り抜き加工を行わなければならなくなると高温超電導線材やコイルの製造工程が煩雑になる上、切り抜かれた部分が無駄になり歩留まりが悪くなる等の問題が生じ得る。
また、特許文献3や特許文献4に記載されている技術は、高温超電導層(電流流路)を高温超電導線材の中でいわばジグザグに蛇行させるように構成することで上記の転位と同じ効果を導き出そうという発明である。
しかし、これらの方法では、電流流路は進行方向が替わるごとに電流が常電導体の領域を通過しなければならなくなるが、これでは大きなジュール損失が発生してしまう等の問題が生じ得る。
一方、よく知られているように、高温超電導線材を巻回して形成された超電導コイル(本願では高温超電導線材で形成されているため、以下、高温超電導コイルという。)に、事故等で大電流が流れるなどすると高温超電導線材の一部にクエンチ(quench)が発生して抵抗状態になる場合がある。
そして、その部分での発熱により高温超電導線材の温度が上昇して抵抗部分が広がっていき、高温超電導コイルが焼損する等の大きな事故につながってしまう場合がある。
そのため、高温超電導線材や高温超電導コイルには、クエンチが生じにくいものであることが望まれている。
本発明は、上記の問題点を鑑みてなされたものであり、交流損失(ヒステリシス損失)の低減及びクエンチ耐性の強化を図ることが可能な高温超電導線材及びそれを用いた高温超電導コイルを提供することを目的とする。
前記の問題を解決するために、請求項1に記載の発明は、
テープ形状の基板と、前記基板上に形成された高温超電導層と、前記高温超電導層を被覆する金属層をそれぞれ備える2本の部分線材を互いに電気的に絶縁されない状態で線材の厚さ方向に前記高温超電導層同士が対向する向きに前記金属層同士を面接触させて重ね合わせて形成された高温超電導線材であって、
2本の前記部分線材の前記高温超電導層には、当該高温超電導層の長手方向に伸び、当該高温超電導層を幅方向に分断する溝がそれぞれ設けられており、前記溝により前記高温超電導層に電流流路がそれぞれ形成されていることを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の高温超電導線材において、
前記高温超電導層の前記電流流路は、前記溝により当該高温超電導層の幅方向に蛇行するように形成されており、
2本の前記部分線材は、前記高温超電導層の前記電流流路が互いに前記幅方向の反対側に位置するようにそれぞれ蛇行する状態で重ね合わされていることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の高温超電導線材において、前記部分線材の前記高温超電導層には、前記電流流路がそれぞれ複数本ずつ形成されていることを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、請求項2又は請求項3に記載の高温超電導線材において、2本の前記部分線材で前記電流流路の本数が同数であることを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、請求項2から請求項4のいずれか一項に記載の高温超電導線材において、前記溝は、前記高温超電導層の長手方向に対して平行な部分と斜めの部分とを有し、前記平行な部分の長さが1m以下とされていることを特徴とする。
請求項6に記載の発明は、請求項1に記載の高温超電導線材において、
前記高温超電導層の前記電流流路は、前記溝により複数の直線状に形成されており、かつ、2本の前記部分線材で前記電流流路の本数が同数とされており、
前記溝により、前記高温超電導層とともに、当該高温超電導層を被覆する金属層も分断されて金属条とされていることを特徴とする。
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の高温超電導線材において、2本の前記部分線材は、一方の前記部分線材の前記金属条と他方の前記部分線材の前記金属条とが1対1で電気的に接触する位置関係になるように前記金属層同士が面接触する状態で重ね合わされていることを特徴とする。
請求項8に記載の発明は、請求項6又は請求項7に記載の高温超電導線材において、前記電流流路の1本分の幅の、前記電流流路の長手方向における平均値が1mm以下とされていることを特徴とする。
請求項9に記載の発明は、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の高温超電導線材において、重ね合わされた2本の前記部分線材が、その周囲を絶縁テープで被覆されて一体化されていることを特徴とする。
請求項10に記載の発明は、高温超電導コイルにおいて、請求項1から請求項9のいずれか一項に記載された高温超電導線材を巻回して形成されていることを特徴とする。
請求項11に記載の発明は、請求項10に記載の高温超電導コイルにおいて、絶縁部材を介して前記高温超電導線材と導線とが共巻きされていることを特徴とする。
本発明によれば、交流損失(ヒステリシス損失)の低減及びクエンチ耐性の強化を図ることが可能となる。
(A)第1の実施形態に係る高温超電導線材の構成を表す断面図であり、(B)高温超電導層の構成を表す図である。 第1の実施形態の部分線材1本のみで形成されたダブルパンケーキコイル等を表す図である。 第1の実施形態に係る高温超電導線材で形成されたダブルパンケーキコイル等を表す図である。 高温超電導層の電流流路から溢れた電流が各バイパス部に流れ出す状態を表すイメージ図である。 図1に示した高温超電導線材で形成されたシングルパンケーキコイル等を表す図である。 高温超電導層に電流流路を複数本ずつ設けた高温超電導線材の構成例を表す図である。 図5に示した高温超電導線材で形成されたシングルパンケーキコイル等を表す図である。 図6に示した構成例の変形例を表す図である。 (A)、(B)第2の実施形態に係る高温超電導線材の形成過程を表す断面図であり、(C)第2の実施形態に係る高温超電導線材の構成を表す断面図である。 (A)〜(C)第2の実施形態に係る高温超電導線材の変形例を表す断面図である。 各実施形態に係る高温超電導線材で形成されたダブルパンケーキコイルを表す図である。 高温超電導線材、導線及びそれらを共巻きして形成された高温超電導コイル等を表す図である。 従来の高温超電導線材で形成されたダブルパンケーキコイル等を表す図である。
以下、図面を参照して、本発明に係る高温超電導線材及び高温超電導コイルについて説明する。ただし、以下に述べる各実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲を以下の各実施形態や図示例に限定するものではない。
[高温超電導線材]
[第1の実施の形態]
以下、本発明の第1の実施形態に係る高温超電導線材の構成について説明する。図1(A)は、本実施形態に係る高温超電導線材の構成を表す断面図である。
本実施形態では、高温超電導線材1は、基板11と、基板11上に形成された高温超電導層13とをそれぞれ備える2本の部分線材10、10を、互いに電気的に絶縁されない状態で線材の厚さ方向(図1(A)では図中上下方向)に重ね合わせて形成されている。
具体的には、各部分線材10、10はそれぞれ、基板11の一方側の面に、中間層12と、高温超電導層13と、保護層14が積層されて構成されており、さらに、その積層体を安定化層15で被覆して形成されている。
なお、以下では、便宜的に、図1(A)における図中下側の部分線材10や各部材を符号にAを付して表し、図中上側の部分線材10や各部材を符号にBを付して表す場合がある。
基板11は、ハステロイ(登録商標)に代表されるニッケル基合金やステンレス鋼等が用いられており、テープ形状に形成されている。
中間層12は、高温超電導層13の下地となる層であり、熱膨張率や格子定数等の物理的な特性値が基板11と高温超電導層13を構成する超電導体との中間的な値を示す材料(例えばLaMnO(LMO)等)が用いられる。
高温超電導層13は、例えば液体窒素温度(77K)以上の臨界温度を有するイットリウム系超電導体(化学式はYBa2Cu37-y(yは酸素不定比量)で表される。)等の高温超電導体で構成されている。
保護層14は、高温超電導層13の表面を覆う金属層であり、例えば銀が用いられている。
安定化層15は、高温超電導層13を含む積層体を被覆する金属層であり、例えば銅が用いられている。
そして、本実施形態では、以上のように構成された部分線材10が2本すなわち部分線材10A、10Bが、高温超電導層13A、13Bが形成された基板11A、11Bの面同士が対向する向きで重ね合わされている。
また、本実施形態では、2本の部分線材10A、10Bは、安定化層15A、15B同士が面接触する状態で重ね合わされている。
安定化層15A、15Bは、互いに電気的に絶縁されない状態であればよく、貼り合わされていてもよく、貼り合わされていなくてもよい。
例えば、本実施形態の高温超電導線材1でコイルを形成する場合に、2本の部分線材10、10を共巻きするようにして(ただし後述するように高温超電導層13A、13Bの蛇行する電流流路17A、17Bが互いに幅方向の反対側に位置するようにして)コイル巻枠に巻回すれば、2本の部分線材10A、10Bを積極的に貼り合わさなくても、部分線材10A、10Bの安定化層15A、15B同士が面接触する状態を形成することができ、部分線材10A、10Bを互いに電気的に絶縁されない状態で重ね合わせることができる。
逆に、安定化層15A、15Bを例えば半田付けする等して電気的に接続するようにして貼り合わせると、安定化層15A、15B同士の間の界面抵抗が非常に小さい状態で両者を貼り合わせることが可能となる。
また、これ以外にも、例えば、重ね合わせた部分線材10A、10Bの外側を絶縁材で被覆するように構成することが可能である。また、例えば、高温超電導線材1でコイルを形成する際に、高温超電導線材1と絶縁テープとを共巻きするようにしてコイル巻枠に巻回して、隣接する高温超電導線材1のターン間に絶縁層が介在させるように構成することも可能である。
図1(B)は、高温超電導層の構成を表す図である。
なお、図1(B)以下の各図では、高温超電導線材のうち高温超電導層の部分のみが示されており、高温超電導層を線材(部分線材)の厚さ方向から見た状態が示されている。また、本実施形態に係る高温超電導線材1を線材の厚さ方向から見た場合、本来は、高温超電導層13A、13Bが重なって見えるはずであるが、その状態では見づらくなるため、図1(B)では、高温超電導層13A、13Bの図中の位置を左右にずらして記載されている(高温超電導層13A、13Bが重なった状態は例えば後述する図3における2本の高温超電導線材1のうちのいずれか1本を参照されたい。)。
本実施形態では、図1(B)に示すように、部分線材10の高温超電導層13には、高温超電導層13の長手方向に伸び、高温超電導層13を幅方向に分断する溝16がそれぞれ設けられている。
そして、この溝16により、高温超電導層13にそれぞれ電流流路17が形成されている。本実施形態では、電流流路17と分断された残りの部分(以下、バイパス部18という。)とが溝16の部分で完全には電気的に絶縁されない状態とされる。この点については後で説明する。
また、本実施形態では、図1(B)に示すように、高温超電導層13の電流流路17は、溝16により当該高温超電導層13の幅方向に蛇行するように形成されている。
そして、2本の部分線材10A、10Bは、高温超電導層13A、13Bの電流流路17A、17Bが互いに幅方向の反対側に位置するようにそれぞれ蛇行する状態で重ね合わされている。
すなわち、本実施形態では、図1(B)に示すように、部分線材10Aの高温超電導層13Aの電流流路17Aが高温超電導層13Aの幅方向の図中左側(又は図中右側)に蛇行している部分に対応する部分線材10Bの高温超電導層13Bの部分では、電流流路17Bは高温超電導層13Bの幅方向の図中右側(又は図中左側)に蛇行している。
別の言い方をすれば、高温超電導層13A、13Bの電流流路17A、17Bが交差する部分(電流流路17A、17Bが幅方向の反対側に移行する部分)を除き、部分線材10Aの高温超電導層13Aの電流流路17Aは部分線材10Bの高温超電導層13Bのバイパス部18Bと対向し、部分線材10Bの高温超電導層13Bの電流流路17Bは部分線材10Aの高温超電導層13Aのバイパス部18Aと対向するように配置される。
このように、本実施形態では、部分線材10A、10Bの高温超電導層13A、13Bには、電流流路17A、17Bがそれぞれ1本ずつ形成されている。なお、これに対する変形例については後で説明する。
また、本実施形態では、上記のように溝16A、16Bは高温超電導層13A、13Bの長手方向に対して平行な部分16aと斜めの部分16bとを有している(図1(B)参照)。そして、長手方向に平行な部分16aの長さが1m以下とされている。なお、図1(B)や後述する各図では高温超電導層13の幅に比べて長手方向に平行な部分16aの長さが相対的に非常に短く表されている。
[作用]
[ヒステリシス損失の低減について]
次に、本実施形態に係る高温超電導線材1の作用としてのヒステリシス損失の低減作用について説明する。
まず、高温超電導層に溝が形成されていない従来の高温超電導線材100(部分線材の重ね合わせではない。)でダブルパンケーキコイルDPを形成した場合について考察する。ここで、ダブルパンケーキコイルDPは絶縁素材などによってターン間が電気的に絶縁、もしくは高い電気抵抗によって隔てられていることを想定する。
図13に示したように、従来の高温超電導線材100でダブルパンケーキコイルDPを形成した場合、2本の高温超電導線材100に同方向に電流Iを流す際に流れる電流Iが増加すると、2本の高温超電導線材100の各高温超電導層101のそれぞれ外側に、電流Iと同じ方向に流れる遮蔽電流Isが誘起される。そのため、前述したように、各高温超電導層101の外側に遮蔽電流帯が形成され、結果的に流れる電流Iがそれぞれ高温超電導層101の外側に集中する。そして、この性質により、コイルの電流Iもしくはコイルに印加される外部磁場が時間的に変化した時、ヒステリシス損失が発生した。
また、図2は、本実施形態の部分線材10と同様に、高温超電導線材10を、高温超電導層13に溝16を形成して電流流路17を蛇行させるように形成するが、本実施形態とは異なり線材の厚さ方向に重ね合わせない状態の高温超電導線材10(すなわち本実施形態の部分線材1本のみ)でダブルパンケーキコイルDPを形成した場合の、ダブルパンケーキコイルDPのあるターンにおける高温超電導層13をコイルの径方向から見た図である。
高温超電導線材10は本実施形態に係る高温超電導線材1の部分線材10と構造上は同じであるが、他の高温超電導線材10と重ね合わされていない点で本実施形態に係る部分線材10とは異なるため、図2では、高温超電導線材10及びそれを構成する各部材の符号に、本実施形態と区別するために*を付して表す。
この場合も、2本の高温超電導線材10に同方向に電流Iを流す際、流れる電流Iが増加すると、2本の高温超電導線材10の各高温超電導層13のそれぞれ外側に遮蔽電流Isが流れる。この場合は、図2に示すように、各高温超電導層13の電流流路17の外側にバイパス部18が形成されているため、外側のバイパス部18の部分に環をなすように流れる遮蔽電流Isが誘起される。
このように、高温超電導線材10を本実施形態に係る部分線材10と同じ構造に形成しても、それらが重ね合わされていなければ(すなわち本実施形態の部分線材1本だけでは)、やはり高温超電導層13の外側に遮蔽電流Isが誘起され、それによってヒステリシス損失が生じてしまう。
それに対し、本実施形態に係る高温超電導線材1は、図1(A)、(B)に示したように、高温超電導層13に幅方向に蛇行する電流流路17がそれぞれ形成された2本の部分線材10、10が線材の厚さ方向に重ね合わされて形成されている。
しかも、高温超電導層13A、13Bの電流流路17A、17Bが互いに幅方向の反対側に位置するようにそれぞれ蛇行する状態で2本の部分線材10A、10Bが重ね合わされている。
そのため、本実施形態に係る高温超電導線材1を用いてダブルパンケーキコイルDPを形成した場合、図3に示すように、図中上下のいずれの高温超電導線材1においても、一方の部分線材10A(図中の破線参照。図3では奥側にある。)で高温超電導層13Aの内側の電流流路17Aに電流Iが流れる際には、他方の部分線材10B(図中の実線参照。図3では手前側にある。)では高温超電導層13Bの外側の電流流路17Bに電流Iが流れる状態になる。
また、逆に、他方の部分線材10Bで高温超電導層13Bの内側の電流流路17Bに電流Iが流れる際には、一方の部分線材10Aでは高温超電導層13Aの外側の電流流路17Aに電流Iが流れる状態になる。
前述したように、マクスウェル方程式によれば、コイルの内側に流れる電流が増加すると、その外側に同じ方向の電流を誘起する電場が形成される。すなわち1本の部分線材10だけに着目した場合、当該部分線材10の高温超電導層13の内側の電流流路17に流れる電流が増加すると、その外側のバイパス部18に同じ方向の電流を流そうとする電場が形成される(これは、電流流路17に流れる電流がその外側のバイパス部18に作る磁場を打ち消すようにバイパス部18に遮蔽電流Isが誘起される、と解釈することもできる。)。
しかし、本実施形態に係る高温超電導線材1(図3参照)では、上記のように、一方の高温超電導層13で内側の電流流路17に電流が流れる際、他方の高温超電導層13で外側の電流流路17に電流が流れる。
そのため、一方の高温超電導層13で内側の電流流路17に流れる電流が増加すると、その外側のバイパス部18に電流を誘起する電場が形成されたとしても、他方の高温超電導層13で外側の電流流路17に電流が流れていることによってこの電場が緩和される。
そのため、一方の高温超電導層13で内側の電流流路17に電流が増加しても、その外側のバイパス部18で遮蔽電流Isが誘起されることが抑制され、遮蔽電流Isが発生しなくなる。あるいは遮蔽電流Isが発生してもその量が非常に小さく抑制される。
また、あるターンの高温超電導線材1で形成される上記の電場に対しては、他のターンの高温超電導線材1で外側の電流流路17に流れる電流からもそれを緩和する作用が働く。
そのため、本実施形態では、高温超電導層13の外側のバイパス部18での遮蔽電流Isが抑制される。そして、高温超電導層13での電流流路17が内側や外側に蛇行しているため、高温超電導層13内で遮蔽電流帯が形成されにくくなり、ヒステリシス損失の発生が抑制される。
このように、本実施形態に係る高温超電導線材1によれば、ヒステリシス損失(交流損失)の低減を図ることが可能となる。
[クエンチ耐性の強化について]
次に、本実施形態に係る高温超電導線材1の作用として、クエンチ耐性を強化することが可能となる点について説明する。
本実施形態では、図1(B)等に示したように、高温超電導層13が溝16で分断(2分割)されているため、例えば図13に示した従来の高温超電導線材100のように高温超電導層101に溝が設けられていない場合に比べて、高温超電導層の臨界電流値が半分になる。
しかし、本実施形態に係る高温超電導線材1は、そのような高温超電導層13を備える部分線材10を2本重ね合わせて形成されているため、高温超電導線材1全体で見た場合には、高温超電導層13の臨界電流値(合計値)は、溝16が設けられていない高温超電導層101の臨界電流値と同じ電流値になる。
すなわち、1本の高温超電導線材として見た場合、本実施形態に係る高温超電導線材1の臨界電流値は、従来の高温超電導線材100の臨界電流値と同じ電流値になる。
一方、従来の高温超電導線材100では、高温超電導層101に臨界電流値を上回る電流Iが流れると、それまで電圧値が0であった高温超電導層101にその電流Iに対応する電圧Vが発生する。そのため、電流Iと電圧Vの積に相当する熱が発生して温度が上昇する。そして、温度が上がると高温超電導層101の臨界電流が下がりクエンチが発生して抵抗状態になり、電流Iに対応する電圧Vが大きくなって発熱がさらに大きくなる。
このようにして、従来の高温超電導線材100では、高温超電導層101に臨界電流を超える電流が流れると加速度的に発熱が発生する。そして、高温超電導層101が高温になると、最終的には焼損に至る場合もある。
それに対し、本実施形態に係る高温超電導線材1は、図1(B)や図3に示したように、高温超電導層13A、13Bの電流流路17A、17Bが互いに幅方向の反対側に位置するようにそれぞれ蛇行する状態で2本の部分線材10A、10Bが重ね合わされている。
そのため、図3に示したように、2本の部分線材10A、10Bの高温超電導層13A、13Bにおいて、一方の部分線材10の高温超電導層13の内側に電流流路17がある所では他方の部分線材10の高温超電導層13の内側にはバイパス部18がある。また、一方の部分線材10の高温超電導層13の外側に電流流路17がある所では他方の部分線材10の高温超電導層13の外側にはバイパス部18がある。
また、部分線材10の高温超電導層13の内側に電流流路17がある場合には同じ高温超電導層13の外側にバイパス部18があり、高温超電導層13の外側に電流流路17がある場合には同じ高温超電導層13の内側にバイパス部18がある。
そのため、本実施形態では、図4にイメージ的に示すように、高温超電導層13の電流流路17(図中のα参照)に臨界電流値を上回る電流Iが流れると、電流流路17から溢れた電流が、同じ高温超電導層13の隣接するバイパス部18(図中のβ参照)やもう一方の部分線材10の高温超電導層13のバイパス部18(図中のγ参照)に流れ出す。
なお、本実施形態では、部分線材10の基板11や保護層14、安定化層15は金属製であり導電性であるが、超電導体(高温超電導層13)で形成されているバイパス部18に比べると電気抵抗が高いため、電流流路17から溢れた電流はバイパス部18に流れ出すようになる。
また、電流流路17から溢れた電流がいずれのバイパス部18に流れ出すかは、電流流路17とバイパス部18との間の電気抵抗による。電流流路17と同じ高温超電導層13の隣接するバイパス部18との間の電気抵抗は、それらの間の溝16における電気抵抗であり、電流流路17ともう一方の部分線材10の高温超電導層13のバイパス部18との間の電気抵抗は、それらの間に介在する安定化層15等の電気抵抗である。そして、電流流路17から溢れた電流は電気抵抗に応じてそれぞれのバイパス部18に配分される。なお、電気抵抗があるため、電流が電流流路17からバイパス部18に流れ出す際にジュール損失は生じるが、クエンチに至るような急激な発熱にはならない。
このように、本実施形態では、高温超電導層13の電流流路17に臨界電流値を上回る電流Iが流れても、電流流路17から溢れた電流が電流流路17に隣接するバイパス部18やもう一方の部分線材10の高温超電導層13のバイパス部18に流れ出す。
そのため、本実施形態に係る高温超電導線材1では、クエンチが生じにくくなり、クエンチ耐性の強化を図ることが可能となる。
[効果]
以上のように、本実施形態に係る高温超電導線材1によれば、高温超電導層13に、その長手方向に伸び当該高温超電導層13を分断する溝16が設けられており、溝16により高温超電導層13に電流流路17が形成されている2本の部分線材10、10を互いに電気的に絶縁されない状態で線材の厚さ方向に重ね合わせて形成されている。
そして、高温超電導層13の電流流路17が、溝16により高温超電導層13の幅方向に蛇行するように形成されており、2本の部分線材10、10が、高温超電導層13、13の電流流路17、17が互いに幅方向の反対側に位置するようにそれぞれ蛇行する状態で重ね合わされるように構成した。
そのため、各部分線材10、10の高温超電導層13、13の外側のバイパス部18での遮蔽電流Isの発生が抑制されるとともに、電流が高温超電導層13の内側や外側に分散されて流れるようになる。
そのため、本実施形態に係る高温超電導線材1では、高温超電導層13内で遮蔽電流帯が形成されにくくなり、ヒステリシス損失の発生が抑制されるため、ヒステリシス損失(交流損失)の低減を図ることが可能となる。
また、高温超電導層13の電流流路17に臨界電流値を上回る電流Iが流れても、電流流路17から溢れた電流が電流流路17に隣接するバイパス部18やもう一方の部分線材10の高温超電導層13のバイパス部18に流れ出す。
そのため、本実施形態に係る高温超電導線材1では、クエンチが生じにくくなり、クエンチ耐性の強化を図ることが可能となる。
なお、例えば、従来の高温超電導線材100(図13参照)では、高温超電導層101に欠陥が存在し、その欠陥のために高温超電導層101に電流が流れない場合や電流がほとんど流れないような場合、その高温超電導線材100は実用上使い物にならないため廃棄せざるを得ない。
それに対し、本実施形態に係る高温超電導線材1では、一方の部分線材10の高温超電導層13の電流流路17にこのような欠陥が存在しても、当該電流流路17を流れてきた電流が他方の部分線材10の高温超電導層13のバイパス部18(あるいは当該電流流路17に近接する同じ部分線材10のバイパス部18)に流れ出して電流をバイパスさせることができる。
このように、本実施形態に係る高温超電導線材1では、従来の高温超電導線材100では線材を廃棄せざるを得なくなるような欠陥が仮に一方の部分線材10の高温超電導層13に存在していても、高温超電導層13を流れる電流が適切にバイパスされるため、通電を継続することが可能となる。すなわち、本実施形態に係る高温超電導線材1は、一方の部分線材10の高温超電導層13に欠陥があっても高温超電導線材1として使用することが可能である。
なお、本実施形態のように(図1(A)参照)、2本の部分線材10、10を、高温超電導層13、13が形成された基板11、11の面同士が対向する向きで金属層(安定化層15、15)同士を面接触させて重ね合わせるように構成すれば、2本の部分線材10、10の高温超電導層13、13の間には保護層14や安定化層15のみが介在する状態になり、比較的厚い基板11等が介在しない状態になる。
そのため、上記のように、電流流路17から電流が溢れた際に、溢れた電流がもう一方の部分線材10の高温超電導層13のバイパス部18に流れ出しやすくなり、的確にクエンチを生じにくくすることが可能となる。
また、本実施形態では(図1(B)等参照)、部分線材10の高温超電導層13に設けられた溝16の長手方向に平行な部分16aの長さが1m以下とされている。本実施形態では、上記のように、高温超電導層13の電流流路17から溢れた電流が溝16を介して隣接するバイパス部18に流れ出す場合がある。
しかし、これは、電流流路17に臨界電流値を超える電流が流れた場合(あるいは欠陥がある場合)であり、通常の状態では、電流Iは切れ目のない高温超電導層で構成される電流流路17のみを流れ、バイパス部18には流れ出さない。
そして、上記の状態を形成するためには、溝16がある程度の電気抵抗を有していることが必要であるが、溝16の長さ、特にその長手方向に平行な部分16aの長さが長くなればなるほど溝16の電気抵抗は小さくなるため、溝16を長く形成する場合は溝16の電気絶縁度を高めるように構成しなければならなくなる。
しかし、溝16の電気絶縁度を高め過ぎると、今度は、電流流路17から溢れた電流が溝16を介して隣接するバイパス部18に流れ出すことができなくなってしまう。
本実施形態に係る高温超電導線材1を用いてダブルパンケーキコイルDP等を形成するような場合を考えた場合、溝16の長手方向に平行な部分16aの長さが1mまでであれば、実用上、溝16の電気絶縁度を高める特別な処理をしなくても上記のように通常の状態では電流Iが電流流路17のみを流れる状態を形成することが可能となり、また、電流Iが電流流路17から溢れた場合には溢れた電流が溝16を介して隣接するバイパス部18に流れ出すことが可能な状態を形成することが可能となる。
[高温超電導層に電流流路を複数本形成することについて]
ところで、本実施形態では、高温超電導線材1を用いてダブルパンケーキコイルDPを形成する場合について説明した。そして、上記の高温超電導線材1(図1(A)、(B)等参照)は、それを用いてソレノイドコイルやレイヤー巻きコイル等を形成する場合も、前述したダブルパンケーキコイルDPを形成する場合と同様に機能して、上記のような有益な作用効果を発揮し得る。
しかし、上記の高温超電導線材1を用いてシングルパンケーキコイルSPを形成する場合は、上記のような有益な作用効果を発揮させることが難しくなる。
上記の高温超電導線材1を用いてシングルパンケーキコイルSPを形成すると、前述したように、高温超電導線材1の幅方向(コイルの厚さ方向)の両端側が外側になり、高温超電導線材1の幅方向(コイルの厚さ方向)の中央側が内側になる(図5参照)。そして、この状態で各部分線材10A、10Bの高温超電導層13A、13Bの電流流路17A、17Bに流れる電流Iが増加すると、前述したようにマクスウェル方程式によるとコイルの内側に流れる電流が増加するとその外側に同じ方向の電流を誘起する電場が形成される。
そのため、図5に示すように、高温超電導層13A、13Bの外側に、電流Iと同じ方向に流れる遮蔽電流Isが誘起される。そのため、高温超電導層13A、13Bの外側に遮蔽電流帯が形成され、流れる電流Iがそれぞれ高温超電導層13A、13Bの外側に集中するためヒステリシス損失が発生してしまう。
そこで、このように本実施形態に係る高温超電導線材1を用いてシングルパンケーキコイルSPを形成する場合、部分線材10A、10Bの高温超電導層13A、13Bに設ける電流流路17A、17Bを複数本ずつ(なお部分線材10A、10Bで電流流路17A、17Bの本数は同数)とするように構成すれば、上記の問題を解消することが可能となる。
この場合、高温超電導線材1は、図1(A)に示した上記の高温超電導線材1と同様に部分線材10A、10Bを重ね合わせて構成されるが、例えば図6に示すように、高温超電導層13A、13Bを長手方向に伸びる溝19A、19Bで幅方向に複数の領域(図6では2つの領域)に分断する。そして、各領域に前述した溝16A、16Bをそれぞれ設けて幅方向に蛇行する電流流路17A、17Bやバイパス部18A、18Bを形成する。
例えばこのように構成することで、部分線材10A、10Bの高温超電導層13A、13Bに電流流路17A、17Bを複数本ずつ設けることができる。
そして、このように構成した高温超電導線材1を用いてシングルパンケーキコイルSPを形成すると、図7に示すように、高温超電導線材1の部分線材10A、10Bの各高温超電導層13A、13Bの外側だけでなく内側にも電流Iが流れる状態を形成することができる。
そのため、各高温超電導層13A、13Bの内側や外側に電流Iが拡散して流れるようになり、電流Iが増加しても各高温超電導層13A、13Bの外側に遮蔽電流帯が形成されにくくなるため、ヒステリシス損失の発生が抑制される。そのため、ヒステリシス損失(交流損失)の低減を図ることが可能となる。
また、図6や図7に示した構成においても、高温超電導層13の電流流路17に臨界電流値を上回る電流Iが流れた場合には、電流流路17から溢れた電流が電流流路17に隣接するバイパス部18やもう一方の部分線材10の高温超電導層13のバイパス部18に流れ出す。そのため、本実施形態に係る高温超電導線材1では、クエンチが生じにくくなり、クエンチ耐性の強化を図ることが可能となる。
なお、仮に一方の部分線材10の高温超電導層13に欠陥が存在していても、高温超電導層13を流れる電流が上記のように適切にバイパスされ、通電を継続することが可能となるため、高温超電導線材1として使用することが可能となる。
なお、図6等では、溝19A、19Bで高温超電導層13A、13Bを2つの領域に分断する場合を示したが、さらに多くの領域に分断するように構成することも可能である。
また、図6等では、溝19で高温超電導層13を分断して形成される複数の領域(図6では2つの領域)で、電流流路17が互いに幅方向の同じ側に蛇行するように構成した場合を示したが、必ずしもこのように構成する必要はなく、例えば図8に示すように、複数の領域(図8では2つの領域)で、電流流路17が互いに幅方向の反対側に蛇行するように構成することも可能である。この場合、図8に示すように、高温超電導層13に溝19を設ける必要はない。
さらに、図6や図8等では、複数の領域で電流流路17が線材の長手方向で互いに同じ周期で蛇行するように構成する場合を示したが、必ずしもこのように構成する必要はない。
ただし、高温超電導層13A、13Bの対応する領域(重なり合う領域)では、電流流路17A、17Bは互いに線材の幅方向の反対側に位置するようにそれぞれ蛇行するように構成される。
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施形態に係る高温超電導線材の構成について説明する。
なお、以下では、第1の実施形態に係る高温超電導線材1と同じ機能を有する部材に関しては第1の実施形態で用いた符号と同じ符号を用いて説明する。また、本実施形態においても、便宜的に、一方の部分線材10や各部材を符号にAを付して表し、他方の部分線材10や各部材を符号にBを付して表す場合がある。
本実施形態に係る高温超電導線材2も、各部分線材10はそれぞれ、基板11の一方側の面に、中間層12と、高温超電導層13と、保護層14が積層されて構成されており、さらに、その積層体を安定化層15で被覆して形成される。各部材の詳しい内容は第1の実施形態と同様であり、説明を省略する。
本実施形態では、第1の実施形態とは異なり、各部分線材10の高温超電導層13の長手方向に伸びる電流流路17は、溝16により複数本(なお部分線材10A、10Bで電流流路17A、17Bの本数は同数)で、かつ直線状に形成されている。
そして、溝16により、高温超電導層13とともに、高温超電導層13を被覆する安定化層15(金属層)も分断されて金属条20とされている。
具体的には、図9(A)に示すように、上記と同様にして部分線材10を形成し(なお高温超電導層13はまだ溝16で分断されていない。)、図9(B)に示すように、安定化層15の一面側からレーザーを照射する等して溝16を形成して、安定化層15と保護層14、高温超電導層13、中間層12をともに分断する。なお、基板11は分断されない。
上記の一面側の安定化層15は、分断されて複数の金属条20になる。このようにして、部分線材10に複数本の直線状の電流流路17(すなわち分断された高温超電導層13)が形成される。
そして、図9(C)に示すように、このように形成された部分線材10、10が互いに電気的に絶縁されない状態で線材の厚さ方向に重ね合わせて高温超電導線材2が形成される。
その際、本実施形態においても、図9(C)に示すように、部分線材10A、10Bが、高温超電導層13A、13Bが形成された基板11A、11Bの面同士が対向する向きで重ね合わされており、また、2本の部分線材10A、10Bは、分断された側の安定化層15A、15B同士が面接触する状態で重ね合わされていることが望ましい。これらの作用効果は第1の実施形態で説明した通りである。
また、本実施形態では、図9(C)に示すように、2本の部分線材10A、10Bは、一方の部分線材10Aの金属条20Aと他方の部分線材10Bの金属条20Bとが1対1で電気的に接触する位置関係になるように安定化層15A、15B(金属条20A、20B)同士が面接触する状態で重ね合わされている。
[作用]
[ヒステリシス損失の低減について]
次に、本実施形態に係る高温超電導線材2の作用としてのヒステリシス損失の低減作用について説明する。
本実施形態では、上記のように、溝16、16により各部分線材10、10の高温超電導層13、13が線材の幅方向に分断されて複数本の直線状の電流流路17、17がそれぞれ形成されている。
このような高温超電導線材2を用いて超電導コイルを形成した場合、直線状の電流流路17が隣接する電流流路17と電気的に絶縁されており、かつ各々の電流流路17に生じる誘導電圧の積算値が一様であるとき、電流Iは各々の電流流路17の幅に応じて均等に配分されて流れる。
そのため、各高温超電導層13A、13Bの幅方向の内側や外側に電流Iが拡散して流れるようになり、電流Iが増加しても各高温超電導層13A、13Bの幅方向の外側に遮蔽電流帯が形成されにくくなるため、ヒステリシス損失の発生が抑制される。そのため、ヒステリシス損失(交流損失)の低減を図ることが可能となる。
このような条件が満たされているとき、高温超電導層13を溝16で幅方向にN本に等分割(細線化)すると、理論上、高温超電導層13全体で生じるヒステリシス損失は1/Nに減少する。しかし、各電流流路17同士が電気的に接続されていると、結局、高温超電導層13の幅方向の外側に位置する電流流路17に電流Iの多くが流れる状態になり、結果的に高温超電導層13の外側に遮蔽電流帯が形成されたのと同じような状況となってヒステリシス損失が発生してしまう。
そのため、各電流流路17間ができるだけ電気的に絶縁されるように構成することが望ましい。
また、上記のように電流流路17間の電気的な絶縁を図るために、図9(B)、(C)では、安定化層15を分断して金属条20を形成する際に、部分線材10の幅方向(図中の左右方向)の両端の金属条20と、金属条20とされなかった残りの安定化層15との間にも溝16を形成する場合を示した。
しかし、このように形成せず、例えば図10(A)に示すように、幅方向の両端の金属条20と残りの安定化層15との間に溝16を形成しない場合、残りの安定化層15の部分を介して両端の金属条20が電気的に接続されるため、両端の金属条20の部分の各電流流路17が電気的に絶縁されない状態(あるいは絶縁の程度が低い状態)が形成されてしまう可能性がある。
そのため、このような場合は、図10(B)に示すように、残りの安定化層15の部分に溝21を形成して残りの安定化層15を線材の幅方向に分断するように構成することが可能である。また、図示を省略するが、各安定化層15の幅方向の両端部分をそれぞれ切断して除去するように構成すれば、両端の金属条20の部分の各電流流路17間の電気的な絶縁を図ることが可能となる。
また、この状態で、分断された残りの安定化層15に他の導電体が接触すると、導電体を介して残りの安定化層15が導通してしまい、両端の金属条20の部分の各電流流路17間の電気的な絶縁が図れなくなる可能性がある。そのため、この場合は、図10(C)に示すように、重ね合わされた2本の部分線材10、10の周囲を絶縁テープ22で被覆してそれらを一体化するように構成することが望ましい。この点は、図9(C)に示した高温超電導線材2の場合も同様であり、前述した第1の実施形態に係る高温超電導線材1の場合も同様である。
[クエンチ耐性の強化について]
また、本実施形態に係る高温超電導線材2においても、クエンチ耐性を強化することが可能となる。
前述したように、従来の高温超電導線材100(図13参照)では、高温超電導層101に臨界電流値を上回る電流が流れた場合に、大きな電流が高温超電導層101を流れることになるためクエンチが発生し、高温超電導層101が加速度的に発熱して、焼損に至る場合があった。
そして、上記の第1の実施形態では、一方の部分線材10の電流流路17に臨界電流値を上回る電流が流れると、当該電流流路17から溢れた電流が、電流流路17に隣接するバイパス部18や他方の部分線材10のバイパス部18に流れ出すことができる。
このように、第1の実施形態では、電流流路17に臨界電流値を上回る電流が流れた場合に、電流が当該電流流路17から溢れること(バイパス部18に流れ出すこと)ができるため、各電流流路17でクエンチが生じにくくなり、クエンチ耐性を強化することができた。
本実施形態においても同様に、一方の部分線材10の電流流路17に臨界電流値を上回る電流が流れると、電流が、当該電流流路17から、金属条20同士が接触しているもう一方の部分線材10の電流流路17(図9(C)や図10(B)、(C)において電流流路17の図中上下方向の位置にある他の部分線材10の電流流路17)に流れ出すことができる。
そのため、本実施形態においても、電流流路17に臨界電流値を上回る電流が流れた場合には、電流が当該電流流路17から溢れることができるため、各電流流路17でクエンチが生じにくくなり、クエンチ耐性を強化することが可能となる。
しかし、第1の実施形態では、電流流路17から溢れた電流が流れ込むバイパス部18には、通常時には電流が流れていないため、バイパス部18にはいわば電流を受け入れる余力が十分にあったが、本実施形態の場合には、電流流路17から溢れた電流が流れ込むもう一方の部分線材10の電流流路17にも既に電流が流れている。
そのため、もう一方の部分線材10の電流流路17の電流を受け入れる余力について、以下、考察する。
高温超電導線材の臨界電流値がその長手方向の各所において一定であったとしても、高温超電導線材を用いてコイルを形成すると、高温超電導線材は、コイルの径方向の内部では径方向の外部より強い磁場にさらされるため、コイルの径方向内部の方が臨界電流値が小さくなる。
そのため、コイルを形成する高温超電導線材に流す定格電流を決める際には、臨界電流値が最も小さくなる部分(すなわち径方向内部)での臨界電流値を基準とし、そこから例えば4割程度の余裕を見て決められる。最も小さくなる部分の臨界電流値が130Aであるとき、定格電流は80A等に設定される。
そして、コイルの径方向の外部の高温超電導線材では臨界電流値がより大きな値になるため、ある境界よりも径方向の外部で臨界電流値は定格電流の2倍を超える状態になっている。
そのため、本実施形態の場合に、上記のように電流流路17から溢れた電流が流れ込むもう一方の部分線材10の電流流路17にも電流(定格電流)が流れていても、その電流流路17には電流を受け入れる余力がある。
そのため、本実施形態においても、電流流路17に臨界電流値を上回る電流が流れた場合には、電流が当該電流流路17から溢れて、もう一方の部分線材10の電流流路17に流れ出すことができる。
そのため、各電流流路17でクエンチが生じにくくなり、クエンチ耐性を強化することが可能となる。
なお、本実施形態では、電流流路17から溢れた電流Iが同じ部分線材10の隣接する電流流路17には流れ出さないように構成される。
電流流路17から溢れた電流Iが同じ部分線材10の隣接する電流流路17に流れ出すことが許容されるように構成されていると、電流流路17を流れる電流Iが隣接する外側の電流流路17に移動していき、結局、高温超電導層13の幅方向の外側に遮蔽電流帯が形成されてしまい、ヒステリシス損失が発生するおそれがあるためである。
また、本実施形態では、図9(C)や図10(B)、(C)に示したように、2本の部分線材10A、10Bは、一方の部分線材10Aの金属条20Aと他方の部分線材10Bの金属条20Bとが1対1で電気的に接触する位置関係になるように安定化層15A、15B(金属条20A、20B)同士が面接触する状態で重ね合わされている。
上記のクエンチ耐性の強化を考える場合、1本の金属条20がもう一方の部分線材10の複数の金属条20と電気的に接触するように(すなわち1対多又は多対多)構成した方が、電流流路17から溢れた電流が他の複数の電流流路17に流れ出すようになるため、クエンチ耐性の強化の点ではよい。
しかし、このように構成すると、電流流路17を流れる電流Iが金属条20を介して幅方向のより外側の電流流路17に移動していき、結局、高温超電導層13の幅方向の外側に遮蔽電流帯が形成されてしまい、ヒステリシス損失が発生するおそれがある。
そのため、本実施形態のように、一方の部分線材10Aの金属条20Aと他方の部分線材10Bの金属条20Bとが1対1で電気的に接触する位置関係になるように面接触させるように構成することが望ましい。
[効果]
以上のように、本実施形態に係る高温超電導線材2によれば、高温超電導層13に、その長手方向に伸び当該高温超電導層13を分断する溝16が設けられており、溝16により高温超電導層13に電流流路17が形成されている2本の部分線材10、10を互いに電気的に絶縁されない状態で線材の厚さ方向に重ね合わせて形成されている。
そして、電流流路17は、溝16により複数本(なお部分線材10A、10Bで電流流路17A、17Bの本数は同数)で、かつ直線状に形成されている。そして、溝16により、安定化層15(金属層)も分断されて金属条20とされている。
そのため、本実施形態に係る高温超電導線材2を用いてコイルを形成し、高温超電導線材2の部分線材10A、10Bの各電流流路17A、17Bにそれぞれ電流Iを流すと、高温超電導層13A、13Bの幅方向の外側だけでなく幅方向の内側にも電流Iが流れる状態になり、幅方向の内側や外側に電流Iが拡散して流れるようになるため、電流Iが増加しても各高温超電導層13A、13Bの幅方向の外側に遮蔽電流帯が形成されにくくなる。そのため、ヒステリシス損失の発生が抑制され、ヒステリシス損失(交流損失)の低減を図ることが可能となる。
また、電流流路17に欠陥があった場合、本実施形態に係る高温超電導線材2は非常に優れた作用効果を発揮し得る。
特許文献1や特許第4777749号公報には、前述した図9(B)に示した構成に近い構成が記載されているが、これらの高温超電導線材では、本実施形態のように、それらと似た構成を有する上記の部分線材10、10を線材の厚さ方向に重ね合わせて高温超電導線材2を形成するようにはなっていない。
いま、例えば、高温超電導層13を構成する超電導体に大きさが0.5mmの欠陥がある場合を考える。高温超電導層13の幅が例えば4mmであれば、このような欠陥があっても大きな問題にはならない。
しかし、上記のように高温超電導層13を溝16で分断して、電流流路17の幅が1mm程度になると深刻な影響を与えるようになり、その電流流路17に電流を流せなくなる場合がある。そして、そのような欠陥が高温超電導層13に一定確率であるとすると、高温超電導線材2の長さが長くなればなるほど電流を流せなくなる電流流路17の数が増える。
特許文献1等に記載された高温超電導線材では、このように電流を流せなくなる電流流路の数が増えると、最悪の場合、全ての電流流路に電流が流せなくなり、高温超電導線材を使用することができなくなる。
また、そこまで至らないとしても、少なくとも電流を流せない電流流路の数が増えるほど、高温超電導層の臨界電流値が小さくなる。そのため、例えばそのような高温超電導線材を用いてコイルを形成すると、前述したように特にコイルの径方向の内部で臨界電流値が定格電流より小さくなってしまい、コイルに使えない線材になってしまう等の問題が生じ得る。
それに対し、本実施形態に係る高温超電導線材2では、電流流路17に欠陥があり、電流流路17の当該部分に電流が流れない場合、その部分では電流が電流流路17から溢れてもう一方の部分線材10の電流流路17を流れるようになる。
前述したように、コイルの径方向の最も内部の高温超電導線材2の電流流路17に上記のような欠陥があると、電流流路17から溢れた電流がもう一方の部分線材10の電流流路17に流れ出すと、その電流流路17を流れる電流が臨界電流値を超えてしまう可能性がある。
しかし、前述したように、コイルの径方向のある境界より外部では電流流路17の臨界電流値が定格電流の2倍を超える状態になっている。そのため、その部分に欠陥があり、電流流路17から溢れた電流がもう一方の部分線材10の電流流路17に流れ出しても、その電流流路17を流れる電流は臨界電流値を超えない。
そのため、本実施形態に係る高温超電導線材2では、高温超電導層13(電流流路17)に欠陥があっても、コイルに使えなくなる割合が、特許文献1等に記載された高温超電導線材等に比べて格段に低くなる。
このように、本実施形態に係る高温超電導線材2は、特許文献1等に記載された高温超電導線材等に比べてコイルに使用することができる割合が非常に高くなるといった、実用上、非常に優れた作用効果を有している。
そして、上記のようにこの優れた作用効果は、電流流路17の1本分の幅の、電流流路17の長手方向における平均値(すなわち電流流路17の長手方向の任意の各点における幅の平均値)が1mm以下とされているような場合に顕著に現れる。すなわち、電流流路17の1本分の幅の平均値が1mm以下になると上記のように欠陥の影響が強く現れるようになるが、本実施形態に係る高温超電導線材2では、そのような欠陥がある場合でも、非常に高い割合でコイルに使用することが可能となる。
なお、電流流路17の幅あるいはその平均値は、全ての電流流路17において必ずしも同じである必要はない(すなわち例えば図9(C)等に記載されているように溝16によって等分割されている必要はない)。
すなわち、等分割以外の分割の仕方であってもよく、電流流路17の幅あるいはその平均値に違いがあってもよい。
[高温超電導線材で形成されたコイルについて]
次に、本実施形態に係る高温超電導線材1、2を用いて形成される高温超電導コイルについて説明する。
第1の実施形態や第2の実施形態に係る高温超電導線材1、2を渦巻き状に巻回して高温超電導コイル30を形成することができる。
なお、以下、高温超電導線材1、2と記載する場合、第1の実施形態に係る高温超電導線材1又は第2の実施形態に係る高温超電導線材2であることを意味し、高温超電導線材1と高温超電導線材2のいずれでもよいことを表す。
また、以下では、高温超電導コイル30を上下に並べてダブルパンケーキコイル50として形成する場合について説明するが、本発明は、高温超電導コイル30がダブルパンケーキコイルとして構成される場合に限定されず、ソレノイドコイルやレイヤー巻きコイル、シングルパンケーキコイル等として形成される場合にも適用される。
高温超電導線材1、2を用いてダブルパンケーキコイル50を形成する場合、例えば図11に示すように、コイル巻枠51の上部に、同一平面内に高温超電導線材1、2を巻回して高温超電導コイル30を形成し(上部パンケーキコイル52)、コイル巻枠51の下部に、同一平面内に高温超電導線材1、2を巻回して高温超電導コイル30を形成する(下部パンケーキコイル53)。
また、コイル巻枠51に高温超電導線材1、2を巻回する際、最も内部のターンで上部パンケーキコイル52の高温超電導線材1、2と下部パンケーキコイル53の高温超電導線材1、2とを電気的に接続する橋渡し部54が設けられる。また、上部パンケーキコイル52と下部パンケーキコイル53とで、高温超電導線材1、2に同じ方向に電流が流れるように巻回される。
例えば、以上のようにして高温超電導線材1、2を用いて高温超電導コイル30やダブルパンケーキコイル50を形成することができる。
ところで、前述した高温超電導線材1、2の高温超電導層13や電流流路17の欠陥は、経時的に(すなわち高温超電導線材1、2を用いた高温超電導コイル30を使用するごとに)増えていく場合がある。そして、上記の各実施形態に係る高温超電導線材1、2を用いても、高温超電導層13や電流流路17の欠陥が増え過ぎるなど異常な状態になるとクエンチが発生したり高温超電導コイル30が焼損したりする事態が生じる可能性がある。
そして、高温超電導コイル30でクエンチが生じる前にクエンチに至る兆候を検出することができれば、実際にクエンチが発生したり高温超電導コイル30の焼損が発生する前に高温超電導線材1、2を交換する等の措置を取ることができる。
一方、高温超電導コイル30では、高温超電導線材1、2で欠陥が増加するなどクエンチが発生しやすい状態になると、高温超電導線材1、2の両端間(例えばダブルパンケーキコイル50の場合は上部パンケーキコイル52と下部パンケーキコイル53からそれぞれ取り出された端部間)の抵抗電圧Vが上昇することが分かっている。
また、本発明者らの研究では、上記の抵抗電圧Vには分水嶺のような値があり、その値以下の状態では、高温超電導コイル3を使用し続けてもそれを形成する高温超電導線材1、2の温度が上昇してもある温度で安定し、温度はそれ以上上昇しない。しかし、上記の抵抗電圧Vがその値を超えた状態で高温超電導コイル3を使用すると、高温超電導線材1、2の温度が加速度的に上昇してクエンチに至ることが分かっている。
そのため、高温超電導コイル30でクエンチが生じる前にクエンチに至る兆候を検出するためには、高温超電導コイル30を形成する高温超電導線材1、2の両端間の抵抗電圧Vを検出するように構成し、抵抗電圧Vが、設定された基準値Vlimit(例えば上記の分水嶺の値)に達したか否かによって、クエンチに至る兆候が生じたか否かを判断するように構成することが可能である。
そして、抵抗電圧Vが、設定された基準値Vlimitに達した場合には、高温超電導コイル30の使用を中止し、高温超電導線材1、2を交換する等の措置を取れば、高温超電導コイル30でクエンチや焼損が生じることを的確に防止することができる。
しかし、上記のように単に高温超電導コイル30の高温超電導線材1、2の両端間の電圧vを検出すると、検出される電圧vには、上記の抵抗電圧Vのほかに、外部磁場の変動によって発生する誘導電圧や自己磁界変動に伴う誘導電圧等が重畳されている。
そして、誘導電圧は一般的に上記の抵抗電圧よりも一桁から数桁大きいため、検出された電圧vのみから抵抗電圧Vを識別することは容易ではない。
そこで、高温超電導コイル30を形成する際に、絶縁部材を介して高温超電導線材1、2と導線とが共巻きされるように構成することが可能である。
具体的には、例えば、図12に示すように、導線としての銅条31に絶縁部材としての絶縁テープ32(例えばポリイミドテープ等)を銅条31の面が露出しない状態に巻き付けたもの(以下、絶縁被覆銅条33という。)を、高温超電導線材1、2と共巻きして高温超電導コイル30を形成する。
そして、クエンチの兆候検出時には、上記のように高温超電導線材1、2の両端間の電圧v1,2を検出するととともに、それと共巻きした絶縁被覆銅条33(銅条31)の両端間の電圧v33も検出する。
上記のように構成すると、高温超電導線材1、2で形成されたコイルと共巻きコイル(絶縁被覆銅条33で形成されたコイル)が同じ空間を占めているため、2つのコイルの外部磁場の変動による誘導電圧や自己磁界変動に伴う誘導電圧等が高い精度で一致する。
そのため、高温超電導線材1、2について検出された電圧v1,2と絶縁被覆銅条33について検出された電圧v33との差を算出することで、誘導電圧等が重畳されていない抵抗電圧Vのみを検出することが可能となる。
また、上記のように差の算出処理を行って抵抗電圧Vを検出する代わりに、例えば、図12の上部パンケーキコイル52で共巻きした高温超電導線材1、2と絶縁被覆銅条33の端部をそれぞれ露出させ、高温超電導線材1、2の高温超電導層13(電流流路17)と絶縁被覆銅条33の銅条31とを電気的に接続する(図示省略)。すなわちそれらを直列につなぐ。
このように構成すると、共巻きされ直列につながれた高温超電導線材1、2と絶縁被覆銅条33によって形成される経路はいわゆる無誘導巻き状態になり、この経路では、コイルを貫く磁束に時間変化が生じても誘導電圧は発生しない。
そのため、この経路の電圧、すなわち上記の場合は下部パンケーキコイル53の高温超電導線材1、2と絶縁被覆銅条33の両端間の電圧が、すなわち上記の抵抗電圧Vということになる。
そのため、上記の経路の電圧を検出することで、誘導電圧等が重畳されていない抵抗電圧Vのみを検出することが可能となる。
そして、以上のように、高温超電導コイル30を形成する際に、絶縁部材(絶縁テープ32)を介して高温超電導線材1、2と導線(銅条31)とを共巻きするように構成して、上記のようにして抵抗電圧Vを検出することで、検出した抵抗電圧Vの値に基づいて高温超電導コイル30でクエンチに至る兆候が生じたか否かを的確に判断することが可能となる。
そして、抵抗電圧Vに基づいて高温超電導コイル30でクエンチに至る兆候が生じたと判断される場合(すなわち抵抗電圧が基準値Vlimitに達した場合)に、高温超電導コイル30の使用を中止し、高温超電導線材1、2を交換する等の措置を取れば、高温超電導コイル30でクエンチや焼損が生じることを的確に防止することが可能となる。
なお、本発明が上記の実施形態等に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜変更可能であることは言うまでもない。
1、2 高温超電導線材
10 部分線材
11 基板
13 高温超電導層
15 安定化層(金属層)
16、19、21 溝
16a 平行な部分
16b 斜めの部分
17 電流流路
20 金属条
22 絶縁テープ
30 高温超電導コイル
31 銅条(導線)
32 絶縁テープ(絶縁部材)

Claims (11)

  1. テープ形状の基板と、前記基板上に形成された高温超電導層と、前記高温超電導層を被覆する金属層をそれぞれ備える2本の部分線材を互いに電気的に絶縁されない状態で線材の厚さ方向に前記高温超電導層同士が対向する向きに前記金属層同士を面接触させて重ね合わせて形成された高温超電導線材であって、
    2本の前記部分線材の前記高温超電導層には、当該高温超電導層の長手方向に伸び、当該高温超電導層を幅方向に分断する溝がそれぞれ設けられており、前記溝により前記高温超電導層に電流流路がそれぞれ形成されていることを特徴とする高温超電導線材。
  2. 前記高温超電導層の前記電流流路は、前記溝により当該高温超電導層の幅方向に蛇行するように形成されており、
    2本の前記部分線材は、前記高温超電導層の前記電流流路が互いに前記幅方向の反対側に位置するようにそれぞれ蛇行する状態で重ね合わされていることを特徴とする請求項1に記載の高温超電導線材。
  3. 前記部分線材の前記高温超電導層には、前記電流流路がそれぞれ複数本ずつ形成されていることを特徴とする請求項2に記載の高温超電導線材。
  4. 2本の前記部分線材で前記電流流路の本数が同数であることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の高温超電導線材。
  5. 前記溝は、前記高温超電導層の長手方向に対して平行な部分と斜めの部分とを有し、前記平行な部分の長さが1m以下とされていることを特徴とする請求項2から請求項4のいずれか一項に記載の高温超電導線材。
  6. 前記高温超電導層の前記電流流路は、前記溝により複数の直線状に形成されており、かつ、2本の前記部分線材で前記電流流路の本数が同数とされており、
    前記溝により、前記高温超電導層とともに、当該高温超電導層を被覆する金属層も分断されて金属条とされていることを特徴とする請求項1に記載の高温超電導線材。
  7. 2本の前記部分線材は、一方の前記部分線材の前記金属条と他方の前記部分線材の前記金属条とが1対1で電気的に接触する位置関係になるように前記金属層同士が面接触する状態で重ね合わされていることを特徴とする請求項6に記載の高温超電導線材。
  8. 前記電流流路の1本分の幅の、前記電流流路の長手方向における平均値が1mm以下とされていることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の高温超電導線材。
  9. 重ね合わされた2本の前記部分線材が、その周囲を絶縁テープで被覆されて一体化されていることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の高温超電導線材。
  10. 請求項1から請求項9のいずれか一項に記載された高温超電導線材を巻回して形成されていることを特徴とする高温超電導コイル。
  11. 絶縁部材を介して前記高温超電導線材と導線とが共巻きされていることを特徴とする請求項10に記載の高温超電導コイル。
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