従来のサーマルヘッドでは、発熱部により生じた熱が保護膜を熱伝導し、電極から放熱されることを抑えるために、第1間隙を設けていた。しかしながら、発熱部により生じた熱は、第1間隙に到達した後、第1間隙に沿って基板の厚み方向に保護層を熱伝導し、未だ放熱される可能性がある。
本開示のサーマルヘッドは、第1間隙に到達した熱が、第2間隙の存在により、第1間
隙を基板の厚み方向に沿って熱伝導しにくくなり、サーマルヘッドの熱効率を向上できる。以下、本開示のサーマルヘッドおよびそれを用いたサーマルプリンタについて、詳細に説明する。
<第1の実施形態>
以下、サーマルヘッドX1について図1〜5を参照して説明する。図1は、サーマルヘッドX1の構成を概略的に示している。図2は、保護層25、被覆層27、および封止部材12を一点鎖線にて示しており、被覆部材29を破線にて示している。図3は、図2のIII−III線断面図である。図4は、サーマルヘッドX1の保護層25の近傍を拡大して示している。図5は、第1間隙16の近傍を拡大して示している。
サーマルヘッドX1は、ヘッド基体3と、コネクタ31と、封止部材12と、放熱板1と、接着部材14とを備えている。なお、コネクタ31、封止部材12、放熱板1、および接着部材14は、必ずしも備えていなくてもよい。
放熱板1は、ヘッド基体3の余剰の熱を放熱する。ヘッド基体3は、接着部材14を介して放熱板1上に載置されている。ヘッド基体3は、外部から電圧が印加されることにより、記録媒体P(図5参照)に印画を行う。接着部材14は、ヘッド基体3と放熱板1とを接着している。コネクタ31は、ヘッド基体3を外部に電気的に接続する。コネクタ31は、コネクタピン8とハウジング10とを有している。封止部材12は、コネクタ31とヘッド基体3とを接合している。
放熱板1は、直方体形状である。放熱板1は、例えば、銅、鉄またはアルミニウム等の金属材料で形成されており、ヘッド基体3の発熱部9で発生した熱のうち、印画に寄与しない熱を放熱する機能を有している。
ヘッド基体3は、平面視して、長方形状であり、基板7上にサーマルヘッドX1を構成する各部材が配置されている。ヘッド基体3は、外部より供給された電気信号に従い、記録媒体Pに印字を行う機能を有する。
図1〜3を用いて、ヘッド基体3を構成する各部材、封止部材12、接着部材14およびコネクタ31について説明する。
ヘッド基体3は、基板7と、蓄熱層13と、電気抵抗層15と、共通電極17と、個別電極19と、第1接続電極21と、接続端子2と、導電部材23と、駆動IC11と、被覆部材29と、保護層25と、被覆層27とを有している。なお、これらの部材は、必ずしもすべて備えていなくてもよい。また、ヘッド基体3は、これら以外の部材を備えていてもよい。
基板7は、放熱板1上に配置されており、平面視して、矩形状である。基板7は、第1面7fと、第2面7gと、側面7eとを有している。第1面7fは、第1長辺7aと、第2長辺7bと、第1短辺7cと、第2短辺7dとを有している。第1面7f上にヘッド基体3を構成する各部材が配置されている。第2面7gは、第1面7fと反対側に位置している。第2面7gは、放熱板1側に位置しており、接着部材14を介して放熱板1に接合されている。側面7eは、第1面7fと第2面7gとを接続しており、第2長辺7b側に位置している。
基板7は、例えば、アルミナセラミックス等の電気絶縁性材料あるいは単結晶シリコン等の半導体材料等によって形成されている。
蓄熱層13は、基板7の第1面7f上に位置している。蓄熱層13は、下地部13aと、隆起部13bとを有している。下地部13aは、基板7の第1面7fの全面にわたって形成されている。隆起部13bは、下地部13aから基板7の厚み方向に隆起している。言い換えると、隆起部13bは、基板7の第1面7fから遠ざかる方向に突出している。
隆起部13bは、基板7の第1長辺7aに隣り合うように配置され、主走査方向に沿って延びている。蓄熱層13の断面が略半楕円形状であることにより、発熱部9上に形成された保護層25が、印画する記録媒体Pに良好に接触する。下地部13aおよび隆起部13bを含めた蓄熱層13の基板7の第1面7fからの高さは30〜60μmとすることができる。
蓄熱層13は、熱伝導性の低いガラスで形成されており、発熱部9で発生する熱の一部を一時的に蓄積する。そのため、発熱部9の温度を上昇させるのに要する時間を短くすることができ、サーマルヘッドX1の熱応答特性を高めることができる。
蓄熱層13は、例えば、ガラス粉末に適当な有機溶剤を混合して得た所定のガラスペーストをスクリーン印刷等によって基板7の第1面7fに塗布し、これを焼成することで形成される。
電気抵抗層15は、蓄熱層13の上面に位置しており、電気抵抗層15上には、共通電極17、個別電極19、第1接続電極21および第2接続電極26が形成されている。共通電極17と個別電極19との間には、電気抵抗層15が露出した露出領域が形成されている。電気抵抗層15の露出領域は、図2に示すように、蓄熱層13の隆起部13b上に列状に配置されており、各露出領域が発熱部9を構成している。
なお、電気抵抗層15は、各種電極と蓄熱層13との間に必ずしも位置する必要はなく、共通電極17と個別電極19とを電気的に接続するように、例えば、共通電極17と個別電極19との間のみに位置していてもよい。
複数の発熱部9は、説明の便宜上、図2では簡略化して記載しているが、例えば、100dpi〜2400dpi(dot per inch)等の密度で配置される。電気抵抗層15は、例えば、TaN系、TaSiO系、TaSiNO系、TiSiO系、TiSiCO系またはNbSiO系等の電気抵抗の比較的高い材料によって形成されている。そのため、発熱部9に電圧が印加されたときに、ジュール発熱によって発熱部9が発熱する。
共通電極17は、主配線部17a,17dと、副配線部17bと、リード部17cとを備えている。共通電極17は、複数の発熱部9と、コネクタ31とを電気的に接続している。主配線部17aは、基板7の第1長辺7aに沿って延びている。副配線部17bは、基板7の第1短辺7cおよび第2短辺7dのそれぞれに沿って延びている。リード部17cは、主配線部17aから各発熱部9に向かって個別に延びている。主配線部17dは、基板7の第2長辺7bに沿って延びている。
複数の個別電極19は、発熱部9と駆動IC11との間を電気的に接続している。また、複数の発熱部9は、複数の群に分かれており、各群の発熱部9と各群に対応して配置された駆動IC11とが、個別電極19によって電気的に接続されている。
複数の第1接続電極21は、駆動IC11とコネクタ31との間を電気的に接続している。各駆動IC11に接続された複数の第1接続電極21は、異なる機能を有する複数の配線で構成されている。
複数の第2接続電極26は、隣り合う駆動IC11を電気的に接続している。複数の第2接続電極26は、異なる機能を有する複数の配線で構成されている。
これらの共通電極17、個別電極19、第1接続電極21、および第2接続電極26は、導電性を有する材料で形成されており、例えば、アルミニウム、金、銀および銅のうちのいずれか一種の金属またはこれらの合金によって形成されている。
複数の接続端子2は、共通電極17および第1接続電極21をFPC5に接続するために、第1面7fの第2長辺7b側に配置されている。接続端子2は、後述するコネクタ31のコネクタピン8に対応して配置されている。
各接続端子2上には、導電部材23が設けられている。導電部材23としては、例えば、はんだ、あるいはACP(Anisotropic Conductive Paste)等を例示することができる。なお、導電部材23と接続端子2との間にNi、Au、あるいはPdによるめっき層を配置してもよい。
上記のヘッド基体3を構成する各種電極は、各々を構成するAl、Au、あるいはNi等の金属の材料層を蓄熱層13上に、スパッタリング法等の薄膜成形技術によって順次積層した後、積層体をフォトエッチング等を用いて所定のパターンに加工することにより形成することができる。なお、ヘッド基体3を構成する各種電極は、同じ工程によって同時に形成することができる。
駆動IC11は、図2に示すように、複数の発熱部9の各群に対応して配置されている。また、駆動IC11は、個別電極19と第1接続電極21とに接続されている。駆動IC11は、各発熱部9の通電状態を制御する機能を有している。駆動IC11としては、内部に複数のスイッチング素子を有するスイッチングICを用いることができる。
保護層25は、発熱部9、共通電極17および個別電極19の一部を被覆している。保護層25は、被覆した領域を、大気中に含まれている水分等の付着による腐食、あるいは印画する記録媒体Pとの接触による摩耗から保護する。
被覆層27は、共通電極17、個別電極19、第1接続電極21および第2接続電極26を部分的に被覆するように基板7上に配置されている。被覆層27は、被覆した領域を、大気との接触による酸化、あるいは大気中に含まれている水分等の付着による腐食から保護するためのものである。被覆層27は、エポキシ系樹脂、ポリイミド系樹脂、あるいはシリコーン系樹脂等の樹脂材料により形成することができる。
駆動IC11は、個別電極19、第1接続電極21および第2接続電極26に接続された状態で、エポキシ樹脂、あるいはシリコーン樹脂等の樹脂からなる被覆部材29によって封止されている。被覆部材29は、主走査方向に延びるように配置されており、複数の駆動IC11を一体的に封止している。
コネクタ31は、複数のコネクタピン8と、複数のコネクタピン8を収納するハウジング10とを有している。複数のコネクタピン8は、第1端と第2端とを有している。第1端がハウジング10の外部に露出しており、第2端がハウジング10の内部に収容され、外部に引き出されている。コネクタピン8の第1端は、ヘッド基体3の接続端子2に電気的に接続されている。それにより、コネクタ31は、ヘッド基体3の各種電極と電気的に接続されている。
封止部材12は、第1封止部材12aと第2封止部材12bとを有している。第1封止
部材12aは、基板7の第1面7f上に位置している。第1封止部材12aは、コネクタピン8と各種電極とを封止している。第2封止部材12bは、基板7の第2面7g上に位置している。第2封止部材12bは、コネクタピン8と基板7との接触部を封止するように配置されている。
封止部材12は、接続端子2、およびコネクタピン8の第1端が外部に露出しないように配置されており、例えば、エポキシ系の熱硬化性の樹脂、紫外線硬化性の樹脂、あるいは可視光硬化性の樹脂により形成することができる。なお、第1封止部材12aと第2封止部材12bとが同じ材料により形成されていてもよい。また、第1封止部材12aと第2封止部材12bとが別の材料により形成されていてもよい。
接着部材14は、放熱板1上に配置されており、ヘッド基体3の第2面7gと放熱板1とを接合している。接着部材14としては、両面テープ、あるいは樹脂性の接着剤を例示することができる。
図4,5を用いて、保護層25について詳細に説明する。
保護層25は、例えば、SiN、SiON、SiO2、SiAlON、TiN、TiON、TiCrN、TiAlON等により形成することができる。保護層25として、TiNを用いた場合、例えば、Tiを40〜60原子%、Nを40〜60原子%含有するように設定できる。
保護層25の厚みは、5〜30μmと設定することができる。保護層25の厚みを5μm以上とすることにより、サーマルヘッドX1の走行距離を向上できる。また、保護層25の厚みを30μm以下とすることにより、発熱部9の熱を記録媒体Pに伝達しやすくなり、サーマルヘッドX1の熱効率を向上できる。
保護層25は、第1間隙16と、第2間隙18とを有している。第1間隙16は、断面視して、基板7の厚み方向に延びている。より詳細には、第1間隙16は、下地部13aと隆起部13bとにより形成された段差22から上方に向けて延びている。
第1間隙16は、例えば、幅W1が0.1〜1μm、基板7の厚み方向における長さL1が1〜15μmとすることができる。第1間隙16は、切断面から奥に向かって面状に広がっている。なお、第1間隙16が面状に広がっていなくてもよい。
第1間隙16は、保護層25の表面と離間して設けられており、それゆえ、第1間隙16は外部とは連通せずに、保護層25の内部に閉じた構成となっている。それにより、第1間隙16は、保護層25に比べて熱伝導率が低い構成となっており、保護層25の内部で断熱部として機能している。
そのため、発熱部9により生じた熱の一部が、第1間隙16により断熱されることとなり、保護層25を介して放熱され難くなる。それにより、発熱部9により生じた熱の一部が、個別電極19により放熱され難くなり、熱効率の向上したサーマルヘッドX1とすることができる。
特に、第1間隙16が、下地部13aと隆起部13bとにより形成された段差22から、基板7の厚み方向に延びていることから、隆起部13bに蓄積された熱も、副操作方向に伝熱しにくくなり、さらにサーマルヘッドX1の熱効率を向上させることができる。
第2間隙18は、断面視して、第1間隙16の発熱部9側の部位と連通している。第2
間隙18は、断面視して、第1間隙16から基板7の表面に沿った方向に延びている。そのため、断面視して、第2間隙18は、第1間隙16に対して交差する方向に延びている。
第2間隙18は、例えば、幅W2が0.1〜2.0μm、基板7の厚み方向における長さL2が0.1〜0.5μmとすることができる。第2間隙18は、切断面から奥に向かって面状に広がっている。なお、第2間隙18が面状に広がっていなくてもよい。
第2間隙18は、保護層25の表面と離間して設けられており、それゆえ、第2間隙18は外部とは連通せずに、保護層25の内部に閉じた構成となっている。それにより、第2間隙18は、保護層25に比べて熱伝導率が低い構成となっており、保護層25の内部で断熱部として機能している。
ここで、発熱部9により生じた熱は、保護層25の上方へ伝わるとともに、一部が保護層25を介して、図4,5の左右方向である副走査方向に伝熱される。副走査方向へ伝熱した熱は、第1間隙16によって断熱されるため、第1間隙16に到達した後に、図5の矢印に示すように、副走査方向へ伝熱した熱の一部は、第1間隙16に沿って伝熱することとなる。
これに対して、本実施形態に係るサーマルヘッドX1は、保護層25が、第1間隙16の発熱部9側に連通し、第1間隙16に交差する方向に延びる第2間隙18を有している。それにより、第2間隙18が断熱部として機能することとなり、第1間隙16に到達した熱の一部が、第2間隙18によって断熱され、第1間隙16に沿って伝熱しにくくなる。その結果、発熱部9からの熱が放熱しにくくなり、熱効率の向上したサーマルヘッドX1とすることができる。
また、発熱部9により生じた熱の一部が、第1間隙16および第2間隙18により断熱されることにより、発熱部9により生じた熱が副走査方向に放熱され難くなる。その結果、発熱部9により生じた熱は、基板7の厚み方向に伝熱することとなり、記録媒体Pに効率よく伝熱することができる。その結果、サーマルヘッドX1の熱効率を向上させることができる。
また、第1間隙16および第2間隙18が、保護層25の内部に閉じた状態で存在していることから、第1間隙16および第2間隙18に外部から水分等が侵入し難くなり、第1間隙16および第2間隙18の断熱性を保つことができる。また、第1間隙16および第2間隙18に外部から水分等が侵入する可能性を低減することができることから、保護層25の封止性を保つことができ、共通電極17および個別電極19に腐食が生じ難くなる。
また、断面視して、第1間隙16が、保護層25のうち下地部13aと隆起部13bとにより形成された段差に位置する部位から、基板7の厚み方向に延びていてもよい。このような構成を有することにより、隆起部13bに蓄熱された熱が、副走査方向に伝わりにくくなり、サーマルヘッドX1の熱効率を向上させることができる。
なお、基板7の厚み方向に延びる第1間隙16および第1間隙16の発熱部側と連通し、第1間隙16に交差する方向に延びる第2間隙18は、例えば、以下の方法で確認できる。
まず、サーマルヘッドX1を副走査方向に切断する。その切断面において、一方向に長い間隙のうち、その長さ方向と基板7の第1面7fとのなす角が45°〜135°の範囲
にある間隙を、基板7の厚み方向に延びる第1間隙16とする。そして、第1間隙16の発熱部側で第1間隙16と連通しており、第1間隙16と異なる方向に長い間隙を第2間隙18とする。特に、第1間隙16の一方向と第2間隙18の一方向との交差角度θが、80°〜120°であると、第1間隙16に到達した熱が、第1間隙16に沿って伝熱し難くなる。なお、交差角度θとは、第1仮想線と第2仮想線との交差する角度であり、第1間隙16の基板7側の端部から第2間隙18に向けて傾きを正とする角度である。
また、第2間隙18の幅W2は、第1間隙16の幅W1よりも短い。それにより、第2間隙18が、隆起部13b上に位置しにくくなる。その結果、隆起部13bに蓄熱された熱は、基板7の厚み方向に伝熱しやすくなり、記録媒体に効率よく熱を伝えることができる。
なお、第2間隙18が、第1間隙16のうち、基板7の厚み方向における基板7と反対側に位置する部位にて連通した例を示したがこれに限定されるものではない。第2間隙18が、第1間隙16のうち、基板7の厚み方向における基板7側に位置する部位にて連通していてもよい。このような構成を有することにより、保護層25から個別電極19に伝熱し難くなり、サーマルヘッドX1の熱効率をさらに高めることができる。
保護層25は、例えば、以下の方法により形成することができる。
各種電極がパターニングされた基板7に、保護層25をスパッタリング法により形成する。まず、ノンバイアススパッタリング法により成膜速度を通常よりも速めて保護層25を成膜する。その際、下地部13aと隆起部13bとにより形成された段差22および保護層25の成膜速度により、個別電極19の端部付近に、第1間隙16を形成することができる。
続いて、第1間隙16が形成された保護層25に、イオンプレーティング法により保護層25を製膜する。この際に、アーク電流あるいはバイアス電圧を付加することにより、第2間隙18を形成することができる。
次に、バイアススパッタリング法により、ノンバイアススパッタリング法により成膜された保護層25に、通常の成膜速度で保護層25を積層する。バイアススパッタリング法により保護層25を形成すると、第1間隙16および第2間隙18上に緻密な保護層25を形成することができる。それにより、内部に閉じた第1間隙16および第2間隙18を形成することができる。
次に、サーマルヘッドX1を有するサーマルプリンタZ1について、図6を参照しつつ説明する。
本実施形態のサーマルプリンタZ1は、上述のサーマルヘッドX1と、搬送機構40と、プラテンローラ50と、電源装置60と、制御装置70とを備えている。サーマルヘッドX1は、サーマルプリンタZ1の筐体(不図示)に配置された取付部材80の取付面80aに取り付けられている。なお、サーマルヘッドX1は、搬送方向Sに直交する方向である主走査方向に沿うようにして、取付部材80に取り付けられている。
搬送機構40は、駆動部(不図示)と、搬送ローラ43,45,47,49とを有している。搬送機構40は、感熱紙、インクが転写される受像紙等の記録媒体Pを図6の矢印S方向に搬送して、サーマルヘッドX1の複数の発熱部9上に位置する保護層25上に搬送するためのものである。駆動部は、搬送ローラ43,45,47,49を駆動させる機能を有しており、例えば、モータを用いることができる。搬送ローラ43,45,47,
49は、例えば、ステンレス等の金属からなる円柱状の軸体43a,45a,47a,49aを、ブタジエンゴム等からなる弾性部材43b,45b,47b,49bにより被覆して構成することができる。なお、記録媒体Pが、インクが転写される受像紙等の場合は、記録媒体PとサーマルヘッドX1の発熱部9との間に、記録媒体Pとともにインクフィルム(不図示)を搬送する。
プラテンローラ50は、記録媒体PをサーマルヘッドX1の発熱部9上に位置する保護層25上に押圧する機能を有する。プラテンローラ50は、搬送方向Sに直交する方向に沿って延びるように配置され、記録媒体Pを発熱部9上に押圧した状態で回転可能となるように両端部が支持固定されている。プラテンローラ50は、例えば、ステンレス等の金属からなる円柱状の軸体50aを、ブタジエンゴム等からなる弾性部材50bにより被覆して構成することができる。
電源装置60は、上記のようにサーマルヘッドX1の発熱部9を発熱させるための電流および駆動IC11を動作させるための電流を供給する機能を有している。制御装置70は、上記のようにサーマルヘッドX1の発熱部9を選択的に発熱させるために、駆動IC11の動作を制御する制御信号を駆動IC11に供給する機能を有している。
サーマルプリンタZ1は、プラテンローラ50によって記録媒体PをサーマルヘッドX1の発熱部9上に押圧しつつ、搬送機構40によって記録媒体Pを発熱部9上に搬送しながら、電源装置60および制御装置70によって発熱部9を選択的に発熱させることにより、記録媒体Pに所定の印画を行う。なお、記録媒体Pが受像紙等の場合は、記録媒体Pとともに搬送されるインクフィルム(不図示)のインクを記録媒体Pに熱転写することによって、記録媒体Pへの印画を行う。
<第2の実施形態>
以下、図7を用いて、第2の実施形態に係るサーマルヘッドX2について説明する。サーマルヘッドX2は、保護層225の構成がサーマルヘッドX1と異なっている。なお、サーマルヘッドX1と同一の部材については、同一の符号を付しており、説明を省略する。
保護層225は、第1間隙16と、第2間隙218と、第3間隙220とを有している。第2間隙218は、複数設けられており、それぞれ発熱部9側にて第1間隙16と連通している。複数の第2間隙218は、基板7の厚み方向にそれぞれ離間した状態で位置している。
第3間隙220は、複数設けられており、断面視して、それぞれ第1間隙16の発熱部9と反対側に位置する部位と連通している。第3間隙220は、断面視して、第1間隙16から基板7の表面に沿った方向に延びている。そのため、断面視して、第3間隙220は、第1間隙16に対して交差している。
第3間隙220は、第2間隙218と同様に、例えば、幅が0.1〜2.0μm、基板7の厚み方向における長さが0.1〜0.5μmとすることができる。また、第3間隙220は、第2間隙218と同様に、第1間隙16に対して交差する方向に延びている。第3間隙220は、切断面から奥に向かって面状に広がっている。なお、第3間隙220が面状に広がっていなくてもよい。
第3間隙220は、保護層225の表面と離間して設けられており、それゆえ、第3間隙220は外部とは連通せずに、保護層225の内部に閉じた構成となっている。それにより、第3間隙220は、保護層225に比べて熱伝導率が低い構成となっており、保護
層225の内部で断熱部として機能している。
本実施形態に係るサーマルヘッドX2は、第2間隙218が複数設けられている。このような構成を有することにより、第1間隙16の近傍に、複数の断熱部を有する構造となり、第1間隙16に到達した熱が、第1間隙16に沿ってさらに伝熱しにくくなる。その結果、熱効率の向上したサーマルヘッドX1とすることができる。
また、本実施形態においては、第1間隙16の発熱部9と反対側にて連通し、第1間隙16に交差する方向に延びる第3間隙220を有していてもよい。それにより、第1間隙16に到達した熱が、第1間隙16よりも発熱部9と反対側にまで回り込んだ場合においても、第3間隙220により、第1間隙16に沿って伝熱し難くなり、第1間隙16を回り込んだ熱が、個別電極19に到達しにくくなる。その結果、サーマルヘッドX1の熱効率を向上することができる。
なお、第3間隙220は、第2間隙218と同様に、イオンプレーティング法により形成することができる。
<第3の実施形態>
図8を用いてサーマルヘッドX3について説明する。
保護層325は、第1層325aと第2層325bとにより構成されており、第1間隙316と、第2間隙318と、第3間隙320と、を有している。
第1層325aは、発熱部9近傍の共通電極17(図1参照)、発熱部9近傍の個別電極19、および発熱部9を覆うように設けられている。第1層325aを構成する材料としては、例えば、SiN、SiON、SiO2、SiAlON等を例示することができる。
第2層325bは、第1層325a上に設けられている。第2層325bは、第1層325aよりも熱伝導が高い。第2層325bを構成する材料としては、SiC、SiCN、TiN、TiON、TiCrN、TiAlON等を例示することができる。第2層325bは、第1層325aよりも熱伝導率が高い材料によって形成されている。
第1間隙316は、基板7の厚み方向に延びるように設けられており、第1層325aを貫通し、第2層325bの途中まで設けられている。そのため、第1間隙316は、保護層325の内部に形成されており、断熱部として機能する。
第2間隙318は、第2層325bに位置しており、発熱部9側から第1間隙316と連通している。第3間隙320は、第2層325bに位置しており、発熱部9と反対側から第1間隙316と連通している。第2間隙318および第3間隙320は、第2層325bのみに設けられており、第1層325aには設けられていない。
本実施形態のサーマルヘッドX3においては、保護層325が、第1層325aと、第1層325a上に設けられ、第1層325aよりも熱伝導率が高い第2層325bと、を有し、第1間隙316が第1層325aから第2層325bにわたって設けられており、第2間隙318が、第2層325bに設けられている。
このような構成を有することにより、第1間隙316に到達した熱は、第1層325aよりも第2層325bによって熱伝導されやすいこととなるが、第2層325bに第2間隙318が設けられていることから、第1間隙316に沿って熱伝導し難くなる。その結
果、サーマルヘッドX3の熱効率を向上させることができる。
また、本実施形態においては、第3間隙320が、第2層325bに設けられていてもよい。このような場合においては、熱伝導しやすい第2層325bにおいて、第1間隙316に沿って熱伝導し難くなる。その結果、サーマルヘッドX3の熱効率を向上させることができる。
なお、第1層325aおよび第2層325bの熱伝導率は、例えば、以下の方法によって測定することができる。まず、第1層325aおよび第2層325bの断面が露出するようにサーマルヘッドX1を切断する。次に、切断面をEPMA(Electron Probe Micro
Analyzer)により分析し、第1層325aおよび第2層325bに含まれる元素の分布
を確認する。
そして、含有された元素の分布から第1層325aおよび第2層325bの組成を類推して、第1層325aおよび第2層325bの物性値から熱伝導率を求めることができる。例えば、EPMA分析の結果、第1層325aに、Siが40%、Nが60%検出され、第2層325bから、Tiが50%、Nが50%検出された場合に、第1層325aはSiN、第2層325bはTiNと類推し、物性値から熱伝導率を求めればよい。
サーマルヘッドX3は、例えば、以下の方法により作成することができる。
各種電極がパターニングされた基板7に、第1層325aをスパッタリング法により形成する。まず、ノンバイアススパッタリング法により成膜速度を通常よりも速めて保護層25を成膜する。その際、下地部13aと隆起部13bとにより形成された段差22および成膜速度により、個別電極19の端部付近に、第1間隙16を形成することができる。
続いて、第1層325a上に第2層325bを製膜する。第2層325bは、イオンプレーティング法により製膜する。第1層325aの第1間隙316上には第2層325bが形成されず、第2層325b内に第1間隙316を形成することができる。そして、イオンプレーティングの際に、アーク電流あるいはバイアス電圧を付加することにより、第2間隙318および第3間隙320を形成することができる。
<第4の実施形態>
図9を用いて、サーマルヘッドX4について説明する。
基板407は、凹部407aを有している。凹部407aは、周囲に比べて凹んだ部位である。凹部407aは、例えば、10〜30μmとすることができる。
保護層425は、基板7上に設けられており、凹部407a上にも形成されている。保護層425は、第1間隙416と、第2間隙418と、第3間隙420とを有している。
第1間隙416は、凹部407aの上方に形成されており、基板7の厚み方向に延びるように設けられている。第1間隙416は、凹部407aと離間した状態で配置されている。そして、第1間隙416は、断面視して、凹部407aの内部から基板7の厚み方向に延びている。
第2間隙418は、発熱部9(図3参照)側にて第1間隙416と連通し、第1間隙416の延びる方向である基板407の厚み方向に対して交差する方向に延びている。第2間隙418は、保護層425の内部に配置されており、凹部407aの内部には位置せず、凹部407aの上方に位置している。
第3間隙420は、発熱部9の反対側にて第1間隙416と連通し、第1間隙416の延びる方向である基板407の厚み方向に対して交差する方向に延びている。第3間隙420は、第2間隙418とも交差する方向に延びている。第3間隙420は、保護層425の内部に配置されており、凹部407aの内部には位置せず、凹部407aの上方に位置している。
本実施形態のサーマルヘッドX4においては、断面視して、第1間隙416が凹部407a内から基板407の厚み方向に延びている。このような構成を有することにより、凹部407aの内部に位置する保護層425の応力を緩和することができる。
すなわち、凹部407aを有する基板407に保護層425を製膜すると、凹部407aにより形成された段差によって、凹部407aの内部に製膜された保護層425は周囲の保護層425に比べて応力が高い状態となる。本実施形態においては、第1間隙416が、凹部407aの内部から基板407の厚み方向に延びているため、保護層425の応力を緩和することができる。
以上、本開示のサーマルヘッドは、上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。例えば、電気抵抗層15を薄膜によって形成した、発熱部9の薄い薄膜ヘッドを例示して示したが、これに限定されるものではない。各種電極をパターニングした後に、電気抵抗層15を厚膜によって形成した、発熱部9の厚い厚膜ヘッドであってもよい。
また、発熱部9が基板7の第1面7f上に形成された平面ヘッドを例示して説明したが、発熱部9が基板7の端面に位置する端面ヘッドでもよい。
また蓄熱層13上に共通電極17および個別電極19を形成し、共通電極17と個別電極19との間の領域のみに電気抵抗層15を形成することにより、発熱部9を形成してもよい。
また、封止部材12を、駆動IC11を被覆するハードコート29と同じ材料により形成してもよい。その場合、ハードコート29を印刷する際に、封止部材12が形成される領域にも印刷して、ハードコート29と封止部材12とを同時に形成してもよい。
また、基板7に直接コネクタ31を接続した例を示したが、基板7にフレキシブル配線基板(FPC:Flexible printed circuits)を接続してもよい。