JP2019137752A - 熱可塑性樹脂組成物およびその成形品 - Google Patents
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Abstract
Description
しかしながら、このASA樹脂でも、耐衝撃性の改良効果は十分ではなく、要求される耐衝撃性を発現させるためには、ゴム成分の配合割合を増やす必要があり、ゴム成分の配合割合を増やすことで剛性が低下してしまい、近年の厳しいニーズに十分応え得るものではなかった。
すなわち、本発明は以下を要旨とする。
成分(B):(メタ)アクリル酸エステルと、架橋剤と、炭素数12以上のアルキル基、アルケニル基およびシクロアルキル基から選ばれる炭化水素基を有する疎水性物質とを含む原料混合物の重合反応物であって、アセトン膨潤度が500〜1500%であり、体積平均粒子径が200〜800nmであるゴム質重合体(A)に、芳香族ビニル、(メタ)アクリル酸エステルおよびシアン化ビニルから選ばれる少なくとも1種がグラフト重合されたグラフト共重合体(B)
成分(D):体積平均粒子径が50〜190nmの、シリコーン系ゴム質重合体(S)および/またはシリコーン系−アクリル系ゴム質重合体(SA)であるゴム質重合体(C)に、芳香族ビニル、(メタ)アクリル酸エステルおよびシアン化ビニルから選ばれる少なくとも1種がグラフト重合されたグラフト共重合体(D)
成分(E):グラフト共重合体(B)およびグラフト共重合体(D)以外の熱可塑性樹脂(E)
(1)体積平均粒子径(X)が200≦X<300nmであり、頻度上限10%体積粒子径(Y)がY≦1.6X、頻度下限10%体積粒子径(Z)がZ≧0.5Xである。
(2)体積平均粒子径(X)がX=300〜800nmであり、頻度上限10%体積粒子径(Y)がY≦1.8X、頻度下限10%体積粒子径(Z)がZ≧0.4Xである。
本明細書において、「(メタ)アクリル酸エステル」は「アクリル酸エステル」と「メタクリル酸エステル」の一方又は双方を意味する。また、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」と「メタクリレート」の一方または双方を意味する。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、下記成分(B)、成分(D)、および成分(E)を含むことを特徴とする。
成分(B):(メタ)アクリル酸エステルと、架橋剤と、炭素数12以上のアルキル基、アルケニル基およびシクロアルキル基から選ばれる炭化水素基を有する疎水性物質とを含む原料混合物の重合反応物であって、アセトン膨潤度が500〜1500%であり、体積平均粒子径が200〜800nmであるゴム質重合体(A)(以下、「本発明のゴム質重合体(A)と称す場合がある。)に、芳香族ビニル、(メタ)アクリル酸エステルおよびシアン化ビニルから選ばれる少なくとも1種がグラフト重合されたグラフト共重合体(B)(以下、「本発明のグラフト共重合体(B)と称す場合がある。)
成分(D):体積平均粒子径が50〜190nmの、シリコーン系ゴム質重合体(S)および/またはシリコーン系−アクリル系ゴム質重合体(SA)であるゴム質重合体(C)(以下、「本発明のゴム質重合体(C)と称す場合がある。)に、芳香族ビニル、(メタ)アクリル酸エステル、シアン化ビニルから選ばれる少なくとも1種がグラフト重合されたグラフト共重合体(D)(以下、「本発明のグラフト共重合体(D)と称す場合がある。)
成分(E):グラフト共重合体(B)およびグラフト共重合体(D)以外の熱可塑性樹脂(E)(以下、「本発明の熱可塑性樹脂(E)と称す場合がある。)
[1−1−1] ゴム質重合体(A)
以下に、成分(B)である本発明のグラフト共重合体(B)を構成する本発明のゴム質重合体(A)について、その好適な製造方法に従って説明する。
上記の通り、本発明のゴム質重合体を製造するミニエマルション重合は、これに限定されるものではないが、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、架橋剤、必要に応じて用いられるその他のビニル化合物、乳化剤、特定の疎水性物質、および水、好ましくは更にラジカル重合開始剤を混合する工程、得られた混合物(a)に超音波ホモジナイザーや圧力式ホモジナイザーにより剪断力を付与してミニエマルション(プレエマルション)を作製する工程、並びにこの混合物(a)を重合開始温度まで加熱して重合させる工程を含む。ミニエマルション重合では、重合用モノマーと乳化剤とを混合した後、例えば、圧力式ホモジナイザーによる剪断工程を実施することにより、前記剪断力によりモノマーが引きちぎられ、乳化剤に覆われたモノマー微小油滴が形成される。その後、ラジカル重合開始剤の重合開始温度まで加熱することにより、モノマー微小油滴をそのまま重合し、高分子微粒子が得られる。
より具体的には、超音波ホモジナイザーとして、例えば、Fisher Scient製「ソニックディスメンブレーター」や(株)日本精機製作所製「ULTRASONIC HOMOGENIZER」等が、圧力ホモジナイザーとして、(株)パウレック製「マイクロフルイダイザー」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」、(株)スギノマシン製「スターバースト」、SPX Corporation APV社製「圧力式ホモジナイザー」、三和エンジニアリング(株)製「ホモゲナイザー」、三丸機械工業(株)製「高圧式ホモジナイザー」、イズミフードマシナリー(株)製「ホモゲナイザー」等が、高速攪拌機として、エム・テクニック(株)製「クレアミックス」等が挙げられる。
本発明のゴム質重合体(A)を構成する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ベンジル等のアルキル基の炭素数が1〜22のアクリル酸エステル;メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸n−ドデシル等のアルキル基の炭素数1〜22のメタクリル酸エステルが挙げられる。熱可塑性樹脂組成物から得られる成形品の耐衝撃性および光沢が向上することから、(メタ)アクリル酸エステルの中でも、アクリル酸n−ブチルが好ましい。これらの(メタ)アクリル酸エステルは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明のゴム質重合体(A)の製造に際しては、前述の(メタ)アクリル酸エステルから得られる(メタ)アクリル酸エステル成分に架橋構造を導入するために、(メタ)アクリル酸エステルと共に架橋剤を用いる。架橋剤を用いて得られる架橋ゴム質重合体(A)であれば、その架橋部分が本発明のグラフト共重合体(B)の製造の際に用いる後述の(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル、およびシアン化ビニルから選ばれる少なくとも1種のビニル単量体とグラフト結合するためのグラフト交叉点としても機能する。
架橋剤の割合が上記範囲内であれば、得られるゴム質重合体(A)を用いたグラフト共重合体(B)を配合してなる熱可塑性樹脂組成物が耐衝撃性および耐候性に優れたものとなる。
必要に応じて用いられるその他のビニル化合物としては、(メタ)アクリル酸エステル、架橋剤と共重合可能であれば特に限定されない。例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−,m−またはp−メチルスチレン、ビニルキシレン、p−t−ブチルスチレン、エチルスチレン等の芳香族ビニル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル;N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミドなどのマレイミド類や、無水マレイン酸などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
本発明では、ミニエマルションを形成させる際に、炭素数12以上のアルキル基、アルケニル基およびシクロアルキル基から選ばれる炭化水素基を有する疎水性物質を用いる。この特定の疎水性炭化水素基を有する疎水性物質を用いることで、ミニエマルションの製造安定性を向上させることができる。
分配係数〔P〕の対数〔logP〕値が6以上ある疎水性物質としては、重合不可能な疎水性化合物として、例えば炭素数12以上の炭化水素類、炭素数12以上のアルコール類、疎水性モノマーとして、例えば、炭素数14〜30のアルコールのビニルエステル、炭素数14〜30のアルコールのビニルエーテル、炭素数15〜30(好ましくは炭素数15〜22)のカルボン酸ビニルエステル、炭素数20〜40のp−アルキルスチレン、疎水性の連鎖移動剤等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
これらの疎水性物質を用いることにより、オストワルド熟成による粒径の不均一性の増大を抑制し、単分散なゴム質重合体(A)を合成することが可能となる。
本発明のゴム質重合体(A)を製造する際に用いる乳化剤としては、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ロジン酸のアルカリ金属塩、アルケニルコハク酸のアルカリ金属塩等で例示されるカルボン酸系の乳化剤、アルキル硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウムなどの中から選ばれたアニオン系乳化剤等、公知の乳化剤を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。また、乳化剤の一部は、ラテックスを安定化させるために、ミニエマルション化後および/または重合反応中に適宜添加することができる。
開始剤とは、上述の(メタ)アクリル酸エステルと架橋剤と必要に応じて用いられるその他のビニル化合物とがラジカル重合するためのラジカル重合開始剤であり、例えば、アゾ重合開始剤、光重合開始剤、無機過酸化物、有機過酸化物、有機過酸化物と遷移金属と還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤等が挙げられる。これらのうち、加熱により重合を開始できるアゾ重合開始剤、無機過酸化物、有機過酸化物、レドックス系開始剤が好ましい。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明において、ミニエマルション化の際の水溶媒の使用量は、作業性、安定性、製造性等の観点から、重合後の反応系の固形分濃度が5〜58質量%程度となるように、水以外の混合物(a)100質量部に対して75〜1900質量部程度とすることが好ましい。より好ましくは、80〜1000質量部程度、さらに好ましくはである90〜500質量部程度である。
本発明のゴム質重合体(A)の製造に際して、プレエマルションを作製する工程に他のゴム成分が存在してもよい。この場合、他のゴム成分としては、ポリブタジエン等のジエン系ゴム、ポリオルガノシロキサンなどが挙げられる。これらのゴム成分の存在下で(メタ)アクリル酸エステルと架橋剤をミニエマルション重合することでアクリル酸ブチルゴム等の(メタ)アクリル酸エステル系ゴムとを複合してなるジエン/(メタ)アクリル酸エステル系複合ゴムや、ポリオルガノシロキシサン/(メタ)アクリル酸エステル系複合ゴムをゴム成分とする複合ゴム質重合体(A)が得られる。尚、本発明に係る複合ゴム質重合体(A)はこれらに限定されるものではなく、また、複合させるゴム成分は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明のゴム質重合体(A)の製造に際して、プレエマルションを作製する工程に、必要に応じて添加剤を含有していてもよい。この場合、添加剤としては、例えばポリスチレンやポリ(メタ)アクリル酸エステル、無機物質(シリカ、ジルコニア、マイカ、ワラストナイト、タルク等)、フィラー(ガラス繊維、炭素繊維等)、滑材、顔料(カーボンブラック、酸化チタン等)、染料、耐熱剤、酸化劣化防止剤、耐候剤、離型剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤等が挙げられ、樹脂組成物や成形品の物性を損なわない範囲において配合することができる。
上記のプレエマルションを調製する工程は通常常温(10〜50℃程度)で5〜600分程度行われ、ミニエマルション重合の工程は40〜100℃で30〜600分程度行われる。
本発明のゴム質重合体(A)は、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90〜100%のゲル含有率を有する。ここで、ゲル含有率とは、次のようにして求められる値である。
ゲル含有率(%)=Wd/W0×100
ここで、Wdは乾燥したポリマーの重量であり、W0はアセトンに浸漬する前のポリマーの重量である。
本発明のゴム質重合体(A)の粒子径は、体積平均粒子径で200〜800nmであり、好ましくは250〜600nm、より好ましくは300〜500nmである。体積平均粒子径が200nmを下回ると、得られるグラフト共重合体(B)と後述のグラフト共重合体(D)を配合した本発明の熱可塑性樹脂組成物の流動性、得られる成形品の耐衝撃性が劣るものとなり、800nmを上回ると、本発明のグラフト共重合体(B)の製造安定性に劣るものとなり、また、このグラフト共重合体(B)とグラフト共重合体(D)を配合した本発明の熱可塑性樹脂組成物より得られる成形品の成形外観に劣るものとなる。
(1) 体積平均粒子径(X)がX≦300nmであり、頻度上限10%体積粒子径(Y)がY≦1.60X、頻度下限10%体積粒子径(Z)がZ≧0.50Xである。より好ましくは、Y≦1.50X、Z≧0.60Xであり、さらに好ましくは、Y≦1.40X、Z≧0.65Xである。
(2) 体積平均粒子径(X)がX=300〜1000nmであり、頻度上限10%体積粒子径(Y)がY≦1.8X、頻度下限10%体積粒子径(Z)がZ≧0.4Xである。より好ましくは、Y≦1.75X、Z≧0.55Xであり、さらに好ましくは、Y≦1.60X、Z≧0.60Xである。
標準偏差(SD)=(Y−Z)÷2
本発明のゴム質重合体(A)は、500〜1500%、好ましくは500〜1200%、より好ましくは600〜1000%、さらに好ましくは700〜900%の範囲のアセトンによる膨潤度を有する。
膨潤度(%)=(WS−Wd)/Wd×100
ここで、WSは膨潤したポリマーの重量であり、Wdは乾燥したポリマーの重量である。
本発明のグラフト共重合体(B)は、本発明のゴム質重合体(A)に、芳香族ビニル、(メタ)アクリル酸エステルおよびシアン化ビニルから選ばれる少なくとも1種の単量体(以下、「グラフト単量体成分」と称す場合がある。)をグラフト重合させてグラフト層を形成したものである。
なお、グラフト単量体成分は、芳香族ビニル、(メタ)アクリル酸エステル、シアン化ビニル以外のその他のビニル化合物を含んでいてもよい。
グラフト共重合体(B)2.5gにアセトン80mLを加え65℃の湯浴で3時間還流し、アセトン可溶分の抽出を行う。残留したアセトン不溶物を遠心分離により分離し、乾燥した後質量を測定する。得られたグラフト共重合体(B)中のアセトン不溶物の質量と、該グラフト共重合体(B)の製造に用いたゴム質重合体(A)の質量から、次の式を用いて、グラフト率を算出する。
グラフト共重合体(B)のラテックスを、凝固剤を溶解させた熱水中に投入し、グラフト共重合体(B)を固化させる。次いで、固化したグラフト共重合体(B)を、水または温水中に再分散させてスラリーとし、グラフト共重合体(B)中に残存する乳化剤残渣を水中に溶出させ、洗浄する。次いで、スラリーを脱水機等で脱水し、得られた固体を気流乾燥機等で乾燥することによって、グラフト共重合体(B)を粉体または粒子として回収する。
(3) 体積平均粒子径(X)がX≦350nmであり、頻度上限10%体積粒子径(Y)がY≦1.3X、頻度下限10%体積粒子径(Z)がZ≧0.55Xである。さらに好ましくは、Y≦1.25X、Z≧0.70Xである。
(4) 体積平均粒子径(X)がX=350〜1100nmであり、頻度上限10%体積粒子径(Y)がY≦1.60X、頻度下限10%体積粒子径(Z)がZ≧0.50Xである。さらに好ましくは、Y≦1.50X、Z≧0.55Xである。
標準偏差(SD)=(Y−Z)÷2
[1−2−1] ゴム質重合体(C)
以下に、成分(D)である本発明のグラフト共重合体(D)を構成するゴム質重合体(C)について説明する。
なお、ゴム質重合体(C)としては、シリコーン系ゴム質重合体(S)および/またはシリコーン系−アクリル系ゴム質重合体(SA)の他、上記のその他のゴム質重合体の1種または2種以上を併用してもよい。
シリコーン系ゴム質重合体(S)としては特に制限はないが、ビニル重合性官能基を有するポリオルガノシロキサンが好ましい。特に、ビニル重合性官能基を含有するシロキサン単位0.3〜3モル%と、ジメチルシロキサン単位97〜99.7モル%とからなり、3個以上のシロキサン結合を有するケイ素原子がポリジメチルシロキサン中の全ケイ素原子に対し1モル%以下であるポリオルガノシロキサンがより好ましい。
シロキサン系架橋剤としては、3官能性または4官能性のシラン系架橋剤、例えばトリメトキシメチルシラン、トリエトキシフェニルシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン等が挙げられる。
まず、ジメチルシロキサンとビニル重合性官能基を有するシロキサンとからなるシロキサン混合物に、必要に応じてシロキサン系架橋剤を添加し、次いで、乳化剤および水によって乳化させてシロキサン混合物水性分散体を得る。次いで、高速回転による剪断力で微粒子化するホモミキサーや、高圧発生機による噴出力で微粒子化するホモジナイザー等を使用して、シロキサン混合物水性分散体を微粒子化させる。ここで、ホモジナイザー等の高圧乳化装置を使用すると、シリコーン系ゴム質重合体(S)の粒子径の分布が小さくなるので好ましい。次いで、微粒子化したシロキサン混合物水性分散体を、酸触媒を含む酸水溶液中に添加して高温下で重合させる。そして、反応液を冷却し、さらに苛性ソーダ、苛性カリ、炭酸ナトリウム等のアルカリ性物質で中和することで重合を停止させて、水性分散体に分散したシリコーン系ゴム質重合体(S)を得る。
なお、シリコーン系ゴム質重合体(S)の体積平均粒子径を制御する方法としては、例えば、特開平5−279434号公報に記載された方法を採用できる。
シリコーン系−アクリル系複合ゴム質重合体(SA)は、上記のシリコーン系ゴム質重合体(S)およびアクリル系ゴム質重合体(Ca)からなるものである。
(メタ)アクリル酸エステルとしては、上述のゴム質重合体(A)の製造に用いる(メタ)アクリル酸エステルとして例示したものと同様のものが挙げられ、得られる成形品の耐衝撃性の点から、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸エチルが好ましい。(メタ)アクリル酸エステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
乳化剤としては、熱可塑性樹脂組成物の成形時のガス発生をより抑制できる点から、一分子中に官能基を二つ以上有する酸型乳化剤またはその塩が好ましく、中でも、アルケニルコハク酸ジカリウム又はアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムが好ましい。
本発明のゴム質重合体(C)は、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上、さらに好ましくは30〜100%のゲル含有率を有する。
ゲル含有率が10%以上のゴム質重合体(C)であれば、このゴム質重合体(C)を用いたグラフト共重合体(D)と前述のグラフト共重合体(B)を配合した熱可塑性樹脂組成物により得られる成形品の耐衝撃性が優れたものとなる。
ゴム質重合体(C)のゲル含有率は、前述のゴム質重合体(A)と同様の方法で求められる。
本発明のゴム質重合体(C)は、好ましくは800〜2000%、より好ましくは1000〜1800%、さらに好ましくは1300〜1700%の範囲のアセトンによる膨潤度を有する。
ゴム質重合体(C)の膨潤度が上記範囲内であれば、前述のグラフト共重合体(B)とこのゴム質重合体(C)を用いたグラフト共重合体(D)とを配合した熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、成形外観、成形外観の速度依存性のバランスに優れたものとなる。
ゴム質重合体(C)のアセトン膨潤度は、前述のゴム質重合体(A)と同様の方法で求められる。
本発明のゴム質重合体(C)の粒子径は、体積平均粒子径で50〜190nmであり、好ましくは90〜130nmである。体積平均粒子径が50nmを下回ると、前述のグラフト共重合体(B)とこのゴム質重合体(C)を用いたグラフト共重合体(D)を配合した熱可塑性樹脂の流動性、耐衝撃性に劣るものとなり、190nmを上回ると、成形外観、成形外観の速度依存性が劣るものとなる。
本発明のグラフト共重合体(D)は、本発明のゴム質重合体(C)に、芳香族ビニル、(メタ)アクリル酸エステルおよびシアン化ビニルから選ばれる少なくとも1種の単量体(以下、「グラフト単量体成分」と称す場合がある。)をグラフト重合させてグラフト層を形成したものである。
なお、グラフト単量体成分は、芳香族ビニル、(メタ)アクリル酸エステル、シアン化ビニル以外のその他のビニル化合物を含んでいてもよい。
本発明のグラフト共重合体(D)のグラフト率は10〜90%、特に20〜50%が好ましい。グラフト共重合体(D)のグラフト率が上記範囲内であれば、良好な耐衝撃性、成形外観の成形品を得ることができる。
また、乳化重合で得られたグラフト共重合体(D)のラテックスから、グラフト共重合体(D)を回収する方法も、上述のグラフト共重合体(B)と同様に行うことができる。
成分(E)である本発明の熱可塑性樹脂(E)は、本発明のグラフト共重合体(B)および本発明のグラフト共重合体(D)以外の熱可塑性樹脂であり、例えばポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、スチレン−アクリロニトリル−N−フェニルマレイミド共重合体、α−メチルスチレン−アクリロニトリル共重合体、ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体、メタクリル酸メチル−スチレン−アクリロニトリル共重合体、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリフェニレンエーテル−ポリスチレン複合体などの1種又は2種以上が挙げられる。これらのうち、耐衝撃性と流動性の観点から、アクリロニトリル−スチレン共重合体が好ましい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、成分(B)のグラフト共重合体(B)と成分(D)のグラフト共重合体(D)とは、熱可塑性樹脂組成物中のゴム質重合体(A)とゴム質重合体(C)との合計100質量%に対するゴム質重合体(A)の割合が10〜95質量%、ゴム質重合体(C)の割合が5〜90質量%となるように含有されることが好ましい。
特に、ゴム質重合体(A)の割合が30〜80質量%でゴム質重合体(C)の割合が20〜70質量%となるように含有されることが好ましい。
ゴム質重合体(A)の割合およびゴム質重合体(C)の割合が上記範囲内であれば、少ないゴム含有量で耐衝撃性を発現することができ、さらに、成形外観、成形外観の成形速度依存性にも優れたものとなる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、上述の樹脂成分の他、熱可塑性樹脂組成物に通常配合される各種添加剤が配合されてもよい。
添加剤としては、例えば顔料、染料等の着色剤、充填剤(カーボンブラック、シリカ、酸化チタン等)、難燃剤、安定剤、補強剤、加工助剤、耐熱剤、酸化防止剤、耐候剤、離型剤、可塑剤、帯電防止剤等が挙げられる。
これらの添加剤は、前述の通り、本発明のゴム質重合体(A)の製造に際して、プレエマルションを作製する工程に添加してもよい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、グラフト共重合体(B)と、グラフト共重合体(D)と、熱可塑性樹脂(E)と、必要に応じて添加剤とをV型ブレンダやヘンシェルミキサー等により混合分散させ、これにより得られた混合物を押出機、バンバリーミキサ、加圧ニーダ、ロール等の混練機等を用いて溶融混練することにより製造される。
本発明の成形品は、本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形してなるものであり、耐衝撃性、低温耐衝撃性、成形外観、成形外観の速度依存性、耐候性および発色性、光沢等に優れる。
なお、以下において、「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を意味する。
合成例および比較合成例で製造したゴム質重合体(A−1)〜(A−24)、グラフト共重合体(B−1)〜(B−23)、ゴム質重合体(C−1)〜(C−9)、およびグラフト共重合体(D−1)〜(D−9)の体積平均粒子径(X)は、日機装社製のNanotrac UPA−EX150を用いて動的光散乱法より求めた。
また、上記と同様の方法で粒子径分布を求め、頻度上限10%の粒子径を頻度上限10%体積粒子径(Y)とし、頻度下限10%の粒子径を頻度下限10%体積粒子径(Z)とし、それぞれ体積平均粒子径(X)に対する比を算出した。
また、粒子径分布の目安として、下記式を用いて標準偏差(nm)を算出した。
標準偏差(SD)=(Y−Z)÷2
合成例および比較合成例で製造したゴム質重合体(A−1)〜(A−23)、グラフト共重合体(B−1)〜(B−23)、ゴム質重合体(C−1)〜(C−9)、グラフト共重合体(D−1)〜(D−9)の各ラテックスを100メッシュの金網で濾過し、100メッシュの金網に残った凝塊物を乾燥させて秤量し、各々、ゴム質重合体(A−1)〜(A−23)、グラフト共重合体(B−1)〜(B−23)、ゴム質重合体(C−1)〜(C−9)、グラフト共重合体(D−1)〜(D−9)に対する割合(質量%)を求めた。凝塊物量が少ないほど、ゴム質重合体(A−1)〜(A−23)、グラフト共重合体(B−1)〜(B−23)、ゴム質重合体(C−1)〜(C−9)、グラフト共重合体(D−1)〜(D−9)のラテックスの製造安定性が良好である。
<合成例I−1:ゴム質重合体(A−1)の製造>
以下の配合でゴム質重合体(A−1)を製造した。
アクリル酸n−ブチル(BA) 94.5部
メタクリル酸アリル(AMA) 0.5部
1,3−ブタンジオールジメタクリレート(1,3−BDMA) 5.0部
流動パラフィン(LP) 2.0部
アルケニルコハク酸ジカリウム(ASK) 0.2部
ジラウロイルペルオキシド(LPO) 0.6部
蒸留水 400部
(メタ)アクリル酸エステル、架橋剤、乳化剤を表1,2に示す通り変更したこと以外は、合成例I−1と同様にして、それぞれゴム質重合体(A−2)〜(A−21)のラテックスを得た。
表1,2にゴム質重合体(A−1)〜(A−21)の評価結果をまとめて示す。
以下の配合でゴム質重合体(A−22)を製造した。
アクリル酸n−ブチル(BA) 98.5部
メタクリル酸アリル(AMA) 0.5部
1,3−ブタンジオールジメタクリレート(1,3−BDMA) 1.0部
t−ブチルハイドロペルオキシド 0.25部
硫酸第一鉄 0.0002部
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.33部
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム 0.0004部
アルケニルコハク酸ジカリウム(ASK) 1.0部
蒸留水 400部
得られた複合ゴム質重合体(A−22)のラテックスのゲル含有率は85%、アセトン膨潤度は660%であった。
以下の手順でゴム質重合体(A−23)を製造した。
まず、以下の配合で酸基含有共重合体ラテックス(K)を製造した。
蒸留水 200部
オレイン酸カリウム 2.0部
ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム 4.0部
硫酸第一鉄七水塩 0.003部
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム 0.009部
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.3部
アクリル酸n−ブチル 82部
メタクリル酸 18部
クメンヒドロペルオキシド 0.5部
得られた酸基含有共重合体ラテックス(K)を用い、以下の配合でゴム質重合体(A−23)を製造した。
アクリル酸n−ブチル(BA) 98.5部
メタクリル酸アリル(AMA) 0.5部
1,3−ブタンジオールジメタクリレート(1,3−BDMA) 1.0部
t−ブチルハイドロペルオキシド 0.2部
アルケニルコハク酸ジカリウム(ASK) 1.3部
蒸留水 390部
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.3部
硫酸第一鉄七水塩 0.0002部
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム 0.0004部
蒸留水 10部
得られた複合ゴム質重合体(A−23)のラテックスのゲル含有率は86%、アセトン膨潤度は1070%であった。
疎水性物質を0部に変更したこと以外は、合成例I−1と同様にしてゴム質重合体(A−24)を製造した。
プレエマルションの体積平均粒子径は1600nmであり、ラジカル重合中に固結した。
<合成例II−1:グラフト共重合体(B−1)の製造>
試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機および攪拌装置を備えた反応器に、以下の配合で原料を仕込み、反応器内を十分に窒素置換した後、攪拌しながら内温を75℃まで昇温した。
水(ゴム質重合体(A−1)ラテックス中の水を含む) 230部
ゴム質重合体(A−1)ラテックス 50部(固形分として)
アルケニルコハク酸ジカリウム(ASK) 0.5部
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.3部
硫酸第一鉄七水塩 0.001部
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム 0.003部
アクリロニトリル(AN) 12.5部
スチレン(ST) 37.5部
t−ブチルハイドロペルオキシド 0.2部
次いで、1.5%硫酸水溶液100部を80℃に加熱し、該水溶液を撹拌しながら、該水溶液にグラフト共重合体(B−1)ラテックス100部を徐々に滴下し、グラフト共重合体(B−1)を固化させ、さらに95℃に昇温して10分間保持した。
次いで、固化物を脱水、洗浄、乾燥し、粉末状のグラフト共重合体(B−1)を得た。
ゴム質重合体(A−1)のラテックスの代りに、ゴム質重合体(A−2)〜(A−23)のラテックスをそれぞれ用いたこと以外は、合成例II−1と同様にして、それぞれグラフト共重合体(B−2)〜(B−23)を得た。
<合成例III−1:シリコーン系ゴム質重合体(S−1)の製造>
オクタメチルテトラシクロシロキサン96部、γ−メタクリルオキシプロピルジメトキシメチルシラン2部およびエチルオルソシリケート2部を混合してシロキサン系混合物100部を得た。これにドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.9部を溶解した蒸留水300部を添加し、ホモミキサーにて10000回転で2分間撹拌した後、ホモジナイザーに30MPaの圧力で1回通し、安定な予備混合オルガノシロキサンラテックスを得た。
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの量を表5に示す通り変更したこと以外は、合成例III−1と同様にして、それぞれシリコーン系ゴム質重合体(S−2)、(S−3)のラテックスを得た。
シリコーン系ゴム質重合体(S−1)〜(S−3)の体積平均粒子径の測定結果を表5に示す。
以下の配合でシリコーン系−アクリル系ゴム質重合体(SA−1)を製造した。
〔配合〕
水(シリコーン系ゴム質重合体(S−1)ラテックス中の水を含む) 230部
シリコーン系ゴム質重合体(S−1)ラテックス(固形分として) 7.0部
アルケルコハク酸ジカリウム(ASK) 0.5部
硫酸第一鉄七水塩 0.0001部
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム 0.0003部
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.24部
アクリル酸n−ブチル(BA) 92.0部
アリルメタクリレート 0.5部
1,3−ブチレングリコールジメタクリレート(1,3−BDMA)
0.5部
t−ブチルヒドロペルオキシド 0.088部
シリコーン系ゴム質重合体(S)の種類と乳化剤の使用量、滴下時間を表6に示す通り変更したこと以外は、合成例III−4と同様にして、それぞれシリコーン系−アクリル系ゴム質重合体(SA−2)〜(SA−9)のラテックスを得た。
シリコーン系−アクリル系ゴム質重合体(SA−1)〜(SA−9)の体積平均粒子径と凝塊物量を表6にまとめて示す。
ゴム質重合体(A−1)のラテックスの代りに、シリコーン系−アクリル系ゴム質重合体(SA−1)〜(SA−9)のラテックスをそれぞれ用いたこと以外は、合成例II−1と同様にして、それぞれグラフト共重合体(D−1)〜(D−9)を得た。
<実施例1〜33、比較例1〜9:熱可塑性樹脂組成物の製造>
グラフト共重合体(B−1)〜(B−23)と、グラフト共重合体(D−1)〜(D−9)と、懸濁重合法によって製造したアクリロニトリル(AN)−スチレン(ST)共重合体(ユーエムジー・エービーエス(株)製「UMG AXS レジン S102N」)とを表8〜11の配合割合でヘンシェルミキサーを用いて混合し、この混合物を240℃に加熱した押出機に供給し、混練してペレット1を得た。
またペレット1の100部とカーボンブラック0.8部とをヘンシェルミキサーを用いて混合し、この混合物を240℃に加熱した押出機に供給し、混練して黒色ペレット2を得た。
上記熱可塑性樹脂組成物のペレット1を用い、各々、4オンス射出成形機(日本製鋼所(株)製)にて、シリンダー温度240℃、金型温度60℃、射出率20g/秒の条件で成形して、長さ80mm、幅10mm、厚み4mmの棒状の成形体1を得た。
また、同様にして、熱可塑性樹脂組成物の黒色ペレット2をシリンダー温度240℃、金型温度60℃、射出率20g/秒の条件で射出成形して、長さ100mm、幅100mm、厚み3mmの板状の成形体2を得た。
また、熱可塑性樹脂組成物の黒色ペレット2をシリンダー温度240℃、金型温度60℃、射出率150g/秒の条件で射出成形して、長さ100mm、幅100mm、厚み3mmの板状の成形体3を得た。
<シャルピー衝撃値の測定>
ISO 179−1:2013年度版に準拠し、試験温度23℃及び−20℃の条件で、それぞれの成形体1(タイプB1、ノッチ有:形状A シングルノッチ)のシャルピー衝撃強度(打撃方向:エッジワイズ)を測定した。シャルピー衝撃強度が高いほど、耐衝撃性に優れることを意味する。
ISO 1133規格に従い、220℃−98Nの条件でペレット1のMVRを測定した。なお、MVRは熱可塑性樹脂組成物の成形性の目安となる。
成形体2について、分光測色計(コニカミノルタオプティプス社製「CM−3500d」)を用いて、SCE方式にて明度L*を測定した。測定されたL*を「L*(ma)」とする。L*が低いほど黒色となり、発色性が良好と判定した。
「明度L*」とは、JIS Z 8729において採用されているL*a*b*表色系における色彩値のうちの明度の値(L*)を意味する。
「SCE方式」とは、JIS Z 8722に準拠した分光測色計を用い、光トラップによって正反射光を除去して色を測る方法を意味する。
スガ試験機株式会社製の「デジタル変角光沢計UGV−5D」を用い、JIS K 7105に準拠して、入射角60°、反射角60°における成形体2の表面の反射率(%)を測定した。反射率が高いほど表面外観に優れることを意味する。
成形体2と成形体3を、分光測色計(コニカミノルタオプティプス社製「CM−3500d」)を用いて、SCE方式にて明度L*の差を測定した。
成形外観の速度依存性=成形体2のL*−成形体3のL*の絶対値
明度差が小さいほど、成形外観の速度依存性が良好と判断した。
サンシャインウェザーメーター(スガ試験機(株)製)を用いて、成形体2をブラックパネル温度63℃、サイクル条件60分(降雨12分)の条件で1000時間処理した。そして、その処理前後の変色の度合い(ΔE)を色差計で測定して下記基準で評価した。
ΔEが小さいほど耐候性が良好であり、○以上を耐候性があると判定した。
◎:0以上3未満。変色しておらず、成形品の意匠性を損なわない。
○:3以上5未満。ほとんど変色しておらず、成形品の意匠性を損なわない。
△:5以上10未満。わずかに変色しており、成形品の意匠性を損なう。
×:10以上。大きく変色しており、成形品の意匠性を損なう。
ペレット1を用いて、図1のように、射出された溶融樹脂が、スプルー11からランナー12,13を2方向に流動した後、サイドゲート14,15から射出され、型内で会合してウエルド面を形成する金型10に射出成形を行った。その際、金型10内の中央部で、溶融樹脂20がウエルド面を形成せずに未融合の状態になるように、ショートショットとし、金型10内にガス溜りを形成するようにして、100ショット射出成形した。射出成形後、その未融合部の露出した金型10a部分に付着した脂状の堆積物をガス付着量として計量した。
成形時に発生するガスが金型に脂状に堆積すると、この堆積物が成形品側に移行して、成形品の外観を悪化させるため、定期的に金型に付着した脂状の堆積物をクリーニング除去する必要があり、連続成形性に劣るものとなる。ガス付着量が少ないものほど連続成形性に優れる。
なお、ガス付着物をクロロホルムに溶解し、0.1gの臭化カリウムに加え、湿気を吸わないように注意しながら速やかによくすり混ぜた後、錠剤成型器に入れて加圧製錠した。得られた錠剤を(株)堀場製作所製フーリエ変換赤外分光光度計「FT−720」にて測定したところ、乳化剤の分解物、疎水性物質のピークが観測された。
本発明のゴム質重合体(A−1)〜(A−17)を用いたグラフト共重合体(B−1)〜(B−17)、本発明のシリコーン系−アクリル系ゴム質重合体(SA−1)〜(SA−7)を用いたグラフト共重合体(D−1〜(D−7)は、凝塊物が少なく、このグラフト共重合体(B−1)〜(B−17)およびグラフト共重合体(D−1)〜(D−7)を用いた実施例1〜33の熱可塑性樹脂組成物は耐衝撃性、低温耐衝撃性、流動性(成形性)、発色性、光沢、成形外観、成形外観の速度依存性、耐候性に優れるものである。
グラフト共重合体(B−20),(B−21)は、用いたゴム質重合体(A−20),(A−21)の粒子径が本発明の範囲外となるため、このグラフト共重合体(B−20),(B−21)を用いた比較例3,4の熱可塑性樹脂組成物は、耐衝撃性、低温耐衝撃性、流動性(成形性)、発色性、光沢、成形外観、成形外観の速度依存性のいずれかに劣った。
シード重合で作製されたゴム質重合体(A−22)を用いたグラフト共重合体(B−22)は、製造に時間がかかり、製造安定性に劣り、新粒子生成も見られ粒子径分布が広くなり、このグラフト共重合体(B−22)を用いた比較例5の熱可塑性樹脂組成物は、耐衝撃性、流動性に劣る。
肥大化によるゴム質重合体(A−23)を用いたグラフト共重合体(B−23)は、ゴムの凝集により作製されたため、凝集しなかった小粒子もあることから粒子径分布が広くなり、このグラフト共重合体(B−23)を用いた比較例6の熱可塑性樹脂組成物は、耐衝撃性、流動性に劣るものであった。
グラフト共重合体(D−8),(D−9)は、用いたシリコーン系−アクリル系ゴム質重合体(SA−8),(SA−9)の粒子径が本発明の範囲外となるため、このグラフト共重合体(D−8),(D−9)を用いた比較例7,8の熱可塑性樹脂組成物は耐衝撃性、低温耐衝撃性、流動性(成形性)、発色性、成形外観、成形外観の速度依存性のいずれかに劣った。
比較例9のように、グラフト共重合体(B−4)のみを用いグラフト共重合体(D)を用いていない場合には、ゴムの変形が大きく、成形外観、成形外観の速度依存性に劣った。
以下の配合でゴム質重合体(A)とゴム質重合体(C)を同時に製造した。
水(複合ゴム質重合体ラテックス中の水を含む) 230部
複合ゴム質重合体ラテックス 50部(固形分として)
アルケニルコハク酸ジカリウム 0.5部
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.3部
硫酸第一鉄七水塩 0.001部
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム 0.003部
〔配合〕
アクリロニトリル(AN) 12.5部
スチレン(ST) 37.5部
t−ブチルハイドロペルオキシド 0.2部
次いで、1.5%硫酸水溶液100部を80℃に加熱し、該水溶液を撹拌しながら、該水溶液にグラフト共重合体ラテックス100部を徐々に滴下し、グラフト共重合体を固化させ、さらに95℃に昇温して10分間保持した。
次いで、固化物を脱水、洗浄、乾燥し、粉末状のグラフト共重合体を得た。
11 スプルー
12,13 ランナー
14,15 サイドゲート
20 溶融樹脂
Claims (8)
- 下記成分(B)、成分(D)、および成分(E)を含む熱可塑性組成物。
成分(B):(メタ)アクリル酸エステルと、架橋剤と、炭素数12以上のアルキル基、アルケニル基およびシクロアルキル基から選ばれる炭化水素基を有する疎水性物質とを含む原料混合物の重合反応物であって、アセトン膨潤度が500〜1500%であり、体積平均粒子径が200〜800nmであるゴム質重合体(A)に、芳香族ビニル、(メタ)アクリル酸エステルおよびシアン化ビニルから選ばれる少なくとも1種がグラフト重合されたグラフト共重合体(B)
成分(D):体積平均粒子径が50〜190nmの、シリコーン系ゴム質重合体(S)および/またはシリコーン系−アクリル系ゴム質重合体(SA)であるゴム質重合体(C)に、芳香族ビニル、(メタ)アクリル酸エステルおよびシアン化ビニルから選ばれる少なくとも1種がグラフト重合されたグラフト共重合体(D)
成分(E):グラフト共重合体(B)およびグラフト共重合体(D)以外の熱可塑性樹脂(E) - 請求項1において、前記疎水性物質が、1−オクタノールに対する濃度〔c1〕と水に対する濃度〔c2〕の比〔c1/c2〕で表される分配係数〔P〕の対数〔logP〕値が6以上の疎水性物質である熱可塑性樹脂組成物。
- 請求項1又は2において、前記成分(B)と成分(D)とを、前記成分(B)中のゴム質重合体(A)と成分(D)中のゴム質重合体(C)との合計100質量%のうち、ゴム質重合体(A)の割合が10〜95質量%となるように含む熱可塑性樹脂組成物。
- 請求項1〜3のいずれか1項において、前記ゴム質重合体(A)の体積平均粒子径(X)をXで表し、粒子径分布曲線における上限からの頻度の累積値が10%になったところの粒子径を頻度上限10%体積粒子径(Y)としてYで表し、粒子径分布曲線における下限からの頻度の累積値が10%になったところの粒子径を頻度下限10%体積粒子径(Z)としてZで表したとき、該ゴム質重合体(A)の体積平均粒子径(X)、頻度上限10%体積粒子径(Y)および頻度下限10%体積粒子径(Z)が、以下の(1)または(2)を満たす熱可塑性樹脂組成物。
(1)体積平均粒子径(X)が200≦X<300nmであり、頻度上限10%体積粒子径(Y)がY≦1.6X、頻度下限10%体積粒子径(Z)がZ≧0.5Xである。
(2)体積平均粒子径(X)がX=300〜800nmであり、頻度上限10%体積粒子径(Y)がY≦1.8X、頻度下限10%体積粒子径(Z)がZ≧0.4Xである。 - 請求項1〜4のいずれか1項において、前記グラフト共重合体(B)中のゴム質重合体(A)および前記グラフト共重合体(D)中のゴム質重合体(C)の合計の含有量が、グラフト共重合体(B)、グラフト共重合体(D)、および熱可塑性樹脂樹脂(E)の合計100質量%中0.1〜90質量%であり、グラフト共重合体(B)およびグラフト共重合体(D)の合計の含有量が、グラフト共重合体(B)、グラフト共重合体(D)、および熱可塑性樹脂樹脂(E)の合計100質量%中0.2〜99質量%である熱可塑性樹脂組成物。
- 請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、
(メタ)アクリル酸エステル、架橋剤、炭素数12以上のアルキル基、アルケニル基およびシクロアルキル基から選ばれる炭化水素基を有する疎水性物質、乳化剤、並びに水を混合する混合工程と、該混合工程で得られた混合物(a)をミニエマルション化するミニエマルション化工程と、該ミニエマルション化工程で得られたミニエマルションを重合する重合工程とを経て前記ゴム質重合体(A)を製造し、
得られたゴム質重合体(A)に、芳香族ビニル、(メタ)アクリル酸エステルおよびシアン化ビニルから選ばれる少なくとも1種をグラフト重合させて前記グラフト共重合体(B)を製造する工程を含む熱可塑性樹脂組成物の製造方法。 - 請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品。
- 請求項6に記載の製造方法で得られた熱可塑性樹脂組成物を成形する成形品の製造方法。
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