以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は本発明の一実施の形態におけるペースト塗布装置1を示している。ペースト塗布装置1は、塗布対象物である基板2上に設定された複数の塗布対象箇所2Pのそれぞれに接着剤等のペーストPstを塗布する装置である。本実施の形態では、説明の便宜上、作業者OPから見たペースト塗布装置1の左右方向をX軸方向、前後方向をY軸方向とする。また、上下方向をZ軸方向とする。
図1において、ペースト塗布装置1は、基板搬送部11、ヘッド移動機構12、塗布ヘッド13、カメラ14、捨打ちステージ15及びペースト廃棄部16を備えている。基板搬送部11は一対のコンベア機構11aから成る。基板搬送部11は、基板2をX軸方向に搬送して所定の作業位置に位置決めする。ヘッド移動機構12は固定テーブル12a、移動テーブル12b及び移動プレート12cを備えている。固定テーブル12aはY軸方向に延びており、移動テーブル12bはX軸方向に延びている。移動テーブル12bは固定テーブル12aにガイドされてY軸方向に移動する。移動プレート12cは移動テーブル12bにガイドされてX軸方向に移動する。
図1において、塗布ヘッド13は移動プレート12cにX軸方向に並んで2つ取り付けられている。2つの塗布ヘッド13は、固定テーブル12aに対する移動テーブル12bのY軸方向への移動と移動テーブル12bに対する移動プレート12cのX軸方向の移動とによって水平面内を移動する。ここでは塗布ヘッド13は2つであるが、これは一例であり、塗布ヘッド13の数は限定されない。
図1において、カメラ14は移動プレート12cに取り付けられており、ヘッド移動機構12によって2つの塗布ヘッド13とともに移動される。カメラ14は撮像光軸を下方に向けており、基板2上に設定された複数の塗布対象箇所2Pのそれぞれを上方から撮像する。
図1において、捨打ちステージ15とペースト廃棄部16はそれぞれ基板搬送部11の近傍の位置に設けられている。捨打ちステージ15は平板状の部材から成り、ペースト廃棄部16は上方に開口した箱状の部材から成る。
図1において、移動プレート12cには2つの塗布ヘッド13に対応した2つの昇降モータ12Mが設けられている(図2も参照)。昇降モータ12Mが作動するとZ軸方向に延びた送り螺子12S(図2)が回転し、これにより塗布ヘッド13が移動プレート12cに対して昇降する。2つの昇降モータ12Mは独立して作動し、2つの塗布ヘッド13をそれぞれ移動プレート12cに対して別個に昇降させる。
図2、図3及び図4において、各塗布ヘッド13は、ベース体21に備えられたポンプ保持部22にポンプ23を保持した構成を有している。ポンプ23はケーシングとしてのアウターシャフト24と、回転子としてのインナーシャフト25を備えている(図5も参照)。
図5において、アウターシャフト24は全体としてZ軸方向に延びた円筒状の部材であり、内部に上方に開口したシール部嵌入穴26とシール部嵌入穴26から下方に延びたペーストPstの貯留部27と、貯留部27から下方に延びて下方に開口した吐出路28を有している。インナーシャフト25は全体としてZ軸方向に延びた棒状の部材であり、下端部は外周面にブレード29Nがらせん状に形成されたスクリュー29となっている。
図5において、インナーシャフト25の中間部には、他の部分よりも外径が相対的に大きい径大部30aが形成されている。径大部30aの外周にはОリングから成るパッキン30bが嵌め込まれている。径大部30aとパッキン30bはインナーシャフト25のシール部30を構成している。インナーシャフト25のシール部30よりの上方の部分には円筒状のキャップ32が挿通されており、更にキャップ32の上方には連結部33が挿通されている。
図5において、ポンプ23を組み立てるときは、インナーシャフト25のスクリュー29をアウターシャフト24の上方から貯留部27内に挿入し、インナーシャフト25のシール部30をシール部嵌入穴26に上方から嵌入させる。そして、キャップ32をアウターシャフト24の上部24Jに結合する(図4)。このようにしてキャップ32とアウターシャフト24が結合された状態では、インナーシャフト25をアウターシャフト24に対してZ軸回りに相対回転させることができ、スクリュー29を貯留部27内でZ軸回りに回転させることができる。
図5において、インナーシャフト25の上部にはシリンジ接続部34が形成されている。シリンジ接続部34には、ペーストPstを収納したシリンジ35が接続される(図3)。図2、図3及び図4において、シリンジ35は、下端にペースト供給口35Kを有しており、ペースト供給口35Kがシリンジ接続部34に螺着されることによって、シリンジ35がシリンジ接続部34に取り付けられる。シリンジ35に収納されたペーストPstは、シリンジ35内に設けられたピストン35Pが図示しないアクチュエータによって駆動されることで加圧される。
図3、図4及び図5において、インナーシャフト25は内部にペーストPstの導入路36を有している。導入路36は上端がシリンジ接続部34の上面に開口している。導入路36の上端はシリンジ35から供給されるペーストPstの入口であるペースト入口37となっている。導入路36の下端は、スクリュー29のZ軸方向の中間部に開口している。導入路36の下端はシリンジ35から導入路36内に供給されたペーストPstの出口であるペースト出口38となっている。
図2、図3及び図4において、アウターシャフト24の下端にはノズル39が取り付けられている。ノズル39は下方に突出して延びた吐出口40を有している。吐出口40はアウターシャフト24に取り付けられた状態で吐出路28と連通する。本実施の形態では2つの吐出口40が並設されたタイプとなっているが、これは一例であり、吐出口40の数は限定されない。
図3、図4及び図6において、ポンプ保持部22はアウターシャフト24を保持する下部半体41とインナーシャフト25を保持する上部半体42を有している。下部半体41は下部ベアリング43を介してベース体21に取り付けられており、Z軸回りに回転自在となっている。上部半体42は上部ベアリング44を介して下部半体41の上方に取り付けられており、下部ベアリング43と同軸のZ軸回りに回転自在となっている。
図3、図4及び図6において、上部半体42の上方には、上部半体42から上方に延びて設けられた支持ロッド45によって支持されたリング状のシリンジ保持部46が設けられている。シリンジ保持部46は、上部半体42がZ軸回りに回転すると、上部半体42と一体となってZ軸回りに回転する。シリンジ保持部46は、インナーシャフト25のシリンジ接続部34に接続されたシリンジ35を保持する。
図2及び図3において、ベース体21にはポンプ駆動モータ51とノズル回転モータ52が取り付けられている。ポンプ駆動モータ51の駆動軸は下方に延びており、その駆動軸の下端には上方駆動ギヤ51Gが取り付けられている(図3、図4及び図6)。上方駆動ギヤ51Gは上部半体42の外周部に設けられた上部従動ギヤ42Gと噛合しており、ポンプ駆動モータ51が上方駆動ギヤ51Gを回転させると、上部半体42がZ軸回りに回転する。ノズル回転モータ52の駆動軸は下方に延びており、その駆動軸の下端には下方駆動ギヤ52Gが取り付けられている。下方駆動ギヤ52Gは下部半体41の外周部に設けられた下部従動ギヤ41Gと噛合しており、ノズル回転モータ52が下方駆動ギヤ52Gを回転させると、下部半体41がZ軸回りに回転する。
ポンプ23にシリンジ35取り付けるときは、リング状に形成されたロック部材53(図3及び図4)をインナーシャフト25に挿通させたうえで、ポンプ23とシリンジ35をそれぞれの天地を反対にし、シリンジ接続部34をペースト供給口35Kに螺着させたうえで、シリンジ35が取り付けられたポンプ23の天地をもとに戻す。シリンジ35がシリンジ接続部34に取り付けられると、インナーシャフト25の導入路36がシリンジ35の内部と連通する。
上記のようにしてシリンジ35を取り付けたポンプ23は、ポンプ保持部22に取り付けられる。ポンプ保持部22にポンプ23を取り付けるときは、ポンプ23をシリンジ保持部46の上方から(シリンジ保持部46を通して)ポンプ保持部22の上部半体42に上方から挿入し(図4)、アウターシャフト24を下部半体41に保持させる。
アウターシャフト24が下部半体41に保持されたら、ロック部材53を上部半体42の上端部に螺着する。これにより連結部33は上部半体42とロック部材53とによって挟まれて上部半体42に固定され、ポンプ23はポンプ保持部22に取り付けられた状態となる。また、ポンプ23に取り付けられたシリンジ35は、シリンジ保持部46によって保持される(図2及び図3)。このようにポンプ23がポンプ保持部22に取り付けられた状態では、インナーシャフト25は上部半体42と一体になってZ軸回りに回転するので、ポンプ駆動モータ51は上部半体42を介してインナーシャフト25を駆動することができる。
ノズル回転モータ52の作動を停止させた状態でポンプ駆動モータ51を作動させると、上部半体42がベース体21に対して(下部半体41に対して)Z軸回りに回転する。このため、ポンプ23がポンプ保持部22に取り付けられた状態では、インナーシャフト25が上部半体42とともにアウターシャフト24に対してZ軸回りに回転し、スクリュー29がアウターシャフト24の貯留部27の内壁に対して相対移動する。これによりアウターシャフト24内(貯留部27内)のペーストPstが吐出路28へ送出され、ノズル39(ノズルの吐出口40)からペーストPstが吐出される。
このように本実施の形態において、ポンプ23は、ペーストPstを収納したシリンジ35が接続された導入路36から導入されたペーストPstを貯留するケーシングとしてのアウターシャフト24と、アウターシャフト24内で回転することによりアウターシャフト24内(貯留部27)のペーストPstを吐出路28へ送出する回転子としてのスクリュー29とを有する構成となっている。
ポンプ駆動モータ51によって上部半体42が回転駆動されてインナーシャフト25がZ軸回りに回転すると、インナーシャフト25に連結されたシリンジ35もZ軸回りに回転する。このときシリンジ35は上部半体42と連結されたシリンジ保持部46によってZ軸回りに回転させられるので、インナーシャフト25がシリンジ35から捩じり荷重を受けることはない。
本実施の形態では、ノズル39は2つの吐出口40を備えており、塗布対象物に対して同時に2つのペーストPstを塗布することができる。塗布対象物に塗布される2つのペーストPstの並びの方向を変更したい場合には、ノズル回転モータ52を作動させて下部半体41を回転させる。これによりノズル39が回転し、塗布対象物に塗布される2つのペーストPstの並びの方向を変えることができる。
図2において、シリンジ35にはエア供給路61Lを通じて圧縮エア供給部61が接続されている。圧縮エア供給部61はエア供給路61Lを通じて圧縮エアを供給し、エア供給路61Lに介装された電空レギュレータ62が前述の図示しないアクチュエータを介してシリンジ35のピストン35Pを駆動する。エア供給路61Lはシリンジ35に設けられた回転ジョイント35Jを介してシリンジ35に接続されているため、シリンジ35がZ軸回りに回転してもエア供給路61Lは捩じられない。
電空レギュレータ62は、圧縮エア供給部61が供給する圧縮エアの圧力を調整することで、ピストン35Pがシリンジ35内のペーストPstに与える圧力を制御する。本実施の形態では電空レギュレータ62が、シリンジ35内を加圧することによりシリンジ35に収納されたペーストPstを加圧するペースト加圧部を構成する。
図2、図3及び図4において、ポンプ保持部22の下部半体41には加熱部としてのヒータ63と、温度検出部としての温度センサ64が取り付けられている。ヒータ63は、ポンプ保持部22を介してポンプ保持部22に保持されたポンプ23を加熱する。温度センサ64はヒータ63によって加熱されたポンプ23の温度を、ポンプ23内のペーストPstの温度として検出する。
図7において、ペースト塗布装置1の制御系統を司る制御部70は、塗布制御部70aと記憶部70bを備えている。塗布制御部70aは、基板搬送部11による基板2の作業位置への位置決め動作の制御、ヘッド移動機構12による塗布ヘッド13の移動動作の制御、昇降モータ12Mによる各塗布ヘッド13の昇降動作の制御を行う。また、塗布制御部70aは、各塗布ヘッド13が備えるポンプ駆動モータ51によるスクリュー29の回転動作(ポンプ23の作動)の制御と、ノズル回転モータ52によるノズル39の回転動作の制御を行う。
図7において、塗布制御部70aは、電空レギュレータ62を制御してシリンジ35内のペーストPstの圧力制御を行い、温度センサ64により検出されるポンプ23の温度(ポンプ23内のペーストPstの温度)に基づいてヒータ63の制御を行う。また、塗布制御部70aは、カメラ14の撮像制御を行うとともに、カメラ14の撮像により得られた画像データに基づく認識を行う。
図7において、記憶部70bは、基板2の種類ごとに、その基板2が備える各塗布対象箇所2Pの位置(座標)のデータと、各塗布対象箇所2Pに定められたペーストPstの塗布量(塗布径Dt)の目標値のデータを記憶している。ここで、ペーストPstの塗布径Dtとは、図8に示すように、基板2(或いは捨打ちステージ15)に塗布されたペーストPstを上方から見た場合に、円形に広がったペーストPstの直径をいう。
図7において、制御部70には、作業者OPが操作するタッチパネル71が接続されている。タッチパネル71は、作業者OPが制御部70に所要の入力を行う入力装置として機能するほか、制御部70がペースト塗布装置1の状態を作業者OPに表示したり作業者OPに作業指示を与えたりする出力装置として機能する。
ペースト塗布装置1により基板2に対してペーストPstの塗布作業を実行する場合には、初めに、塗布制御部70aに制御された基板搬送部11が作動し、外部から送られてきた基板2を搬入して作業位置に位置決めする。
基板搬送部11が作業位置に基板2を位置決めしたら、塗布制御部70aは、搬入した基板2の種類に応じた塗布対象箇所2Pの位置のデータと、塗布対象箇所2Pごとに定められたペーストPstの塗布量(塗布径)の目標値のデータを記憶部70bから読み出す。そして、ヘッド移動機構12が作動して塗布ヘッド13を基板2の上方に移動させ、塗布ヘッド13はノズル39よりペーストPstを吐出させて、塗布対象箇所2PにペーストPstを塗布する。このとき塗布制御部70aは、塗布対象箇所2Pに塗布されるペーストPstの塗布量(直接的には塗布径)が記憶部70bから読み出した目標値と合致する(又は目標値を多少超える)ようにペーストPstの吐出量を制御する。基板2上の全ての塗布対象箇所2PにペーストPstが塗布されたら、基板搬送部11が作動し、基板2をペースト塗布装置1の外部に搬出する。
ここで、塗布ヘッド13が吐出するペーストのPstの吐出量は、塗布ヘッド13が備えるスクリュー29の回転角度によって制御される。スクリュー29の回転角度の制御によってペーストPstが所望の吐出量で吐出されるようにするためには、ポンプ23内のペーストPstを適温に維持し、かつ、ペーストPstを十分に攪拌した状態で、ペーストPstを複数回捨打ちして塗布量を安定させている必要がある。しかし、新たに生産を開始する生産開始前(この場合、ポンプ23の吐出路28は通常、空の状態である)や、一旦開始した生産を中断した後に生産を再開させる生産再開前においては、ペーストPstが十分に温まっていなかったり、ペーストPstが硬いままであったであったりして、捨打ちを行ったとしても安定した塗布量が得られない場合がある。本実施の形態のペースト塗布装置1には、生産開始前や生産再開前でも安定した塗布量が得られるようになっており、以下にその説明を行う。
図7において、制御部70は、前述の塗布制御部70aと記憶部70bのほか、仮充填制御部70c、本充填制御部70d、捨打ち制御部70e、塗布量測定部70f及び判断部70g、ペースト入替え制御部70hを備えている。
仮充填制御部70cは、吐出路28が空の状態で電空レギュレータ62を作動させるとともにポンプ23を作動(詳細にはスクリュー29を回転)させて吐出路28にペーストPstを充填させる仮充填を行い、仮充填が終了したらポンプ23の作動を停止させる。本充填制御部70dは、仮充填で吐出路28に充填されたペーストPstがヒータ63により加熱されて所定時間が経過したところで電空レギュレータ62とポンプ23を作動させ、アウターシャフト24内(吐出路28内)に充填されたペーストPstをノズル39から排出させるとともに吐出路28に新たにペーストPstを充填させる本充填を行う。
捨打ち制御部70eは、本充填の後(又は後述のペースト入替えの後)、電空レギュレータ62とポンプ23を作動させて、吐出路28に充填されたペーストPstをノズル39から所定回数吐出させて捨打ちステージ15に塗布する捨打ちを行う。塗布量測定部70fは、捨打ちステージ15に塗布されたペーストPstの塗布量(直接的には塗布径Dt)を測定する。判断部70gは、塗布量測定部70fで測定された塗布径Dtが目標値Dm(図8)を超えているか否かを判断することによって、塗布量が不足しているか否かを判断する。具体的には、測定された塗布径Dtが目標値Dmを超えている場合には塗布量が不足していない(十分である)と判断し、測定された塗布径Dtが目標値Dmを超えていない場合には塗布量が不足していると判断する。
ペースト入替え制御部70hは、判断部70gにより塗布量が不足していると判断された場合に電空レギュレータ62とポンプ23を作動させてアウターシャフト24内のペーストPstをノズル39から排出させるとともにアウターシャフト24内に新たにペーストPstを充填させることによりペーストPstの入替えを行う。
図9、図10のフローチャートと図11(a),(b),(c)、図12(a),(b)の動作説明図を参照して、新たに生産を開始する生産開始前に行う前準備作業の手順を説明する。図9のフローチャートと図10のフローチャートにおける丸付きの符号「A」は、処理の流れが連続する箇所を示している。前準備作業は、生産開始前でまだ軟化していない状態のペーストPstを適切な粘度の状態にするとともに、発生したボイドを排出して塗布対象物である基板2に向けたペーストPstの塗布をスクリュー29の回転角度のみによって制御できるようにするための作業である。生産開始前には、吐出路28が空の状態のポンプ23がポンプ保持部22に取り付けられており、そのポンプ23のインナーシャフト25にシリンジ35が取り付けられた状態となっている。
前準備作業では、初めに、作業者OPがタッチパネル71から所定の操作を行って制御部70に動作開始の指令を行う。タッチパネル71から動作開始の指令を受けたら、制御部70の仮充填制御部70cはヘッド移動機構12を作動させて、塗布ヘッド13をペースト廃棄部16の上方に位置させる(図11(a))。
制御部70の仮充填制御部70cは、塗布ヘッド13をペースト廃棄部16の上方に位置させたら、ヒータ63を作動させてポンプ23の加熱を始めるとともに(ステップST1)、電空レギュレータ62とポンプ23を作動させる(ステップST2)。これにより貯留部27内のペーストPstが吐出路28に送られる(図11(b))。但し、ここで吐出路28に送られるペーストPstの温度は、適温に比べてまだ低い温度である。また、ポンプ23の主要な構成要素であるアウターシャフト24とインナーシャフト25の温度も適温に比べてまだ低い温度である。
制御部70の仮充填制御部70cは、ポンプ23の作動を開始したら、タイマ70k(図7)により所定時間T1が経過するか否かを監視し(ステップST3)、所定時間T1が経過したところでポンプ23を停止させる(ステップST4)。これにより吐出路28に、シリンジ35内のペーストPstが充填(仮充填)された状態となる。上記の所定時間T1は、吐出路28が空の状態のポンプ23にペーストPstを充填させることができる時間であり、計算等によって求められて設定されている。
ここで、制御部70の仮充填制御部70cは、シリンジ35内のペーストPstを吐出路28に充填(仮充填)させる際には、電空レギュレータ62を制御して、シリンジ35がペーストPstを加圧する圧力を、通常の塗布時(塗布対象物に向けたペーストPstの塗布時)よりも高くする。また、制御部70の仮充填制御部70cは、スクリュー29を回転させる速度を、通常の塗布時よりも遅くする。これにより、まだ適温に達しておらず、非常に高い粘度のペーストPstであっても貯留部27に強制的に充填させることができる。
このように前準備作業では、先ず、吐出路28が空の状態で電空レギュレータ62とポンプ23を作動させて吐出路28にペーストPstを充填させる仮充填を行い、仮充填が終了したらポンプ23の作動を停止させる仮充填工程が実行される。なお、仮充填では、温度が低い空の貯留部27に低温のペーストPstを充填するのでボイドVdを生じやすい(図11(c))。低温のペーストPstは粘度が高いのでスクリュー29の表面の凹凸部分で空気を巻き込みやすい。このため、仮充填されたペーストPstは巻き込まれた空気から生じた多くのボイドVdを含んでいる(図11(c))。
仮充填工程が終了したら、制御部70の本充填制御部70dは、所定の待機時間T2が経過するまで待機する。具体的には、タイマ70kにより待機時間T2が経過するか否かを監視する(ステップST5)。この待機時間T2は、ヒータ63によって加熱されたペーストPstが設定された温度(適温)になるまでに要する時間であり、計算等によって求められて設定されている。
このように吐出路28に仮充填されたペーストPstが一定時間(待機時間T2)放置されることにより、ヒータ63によりポンプ保持部22を介して加熱されたポンプ23が十分に温まり、ポンプ23内のペーストPstは設定された温度に達する。そして、ポンプ23内の温度が設定された温度に達した後は、制御部70は温度センサ64により検出される温度に基づいてヒータ63を制御し、ポンプ23内の温度が継続して設定された温度に保たれるようにする。
ステップST5で待機時間T2の経過を計測したら、制御部70の本充填制御部70dは、電空レギュレータ62とポンプ23を作動させる(ステップST6)。これにより吐出路28内のペーストPstがノズル39から排出される(図12(a))。ノズル39から排出されるペーストPstは、塗布ヘッド13の直下に位置しているペースト廃棄部16によって受容され、その後廃棄される。
制御部70の本充填制御部70dは、ステップST6でポンプ23の作動を開始したら、タイマ70kにより所定時間T3が経過するか否かを監視し(ステップST7)、所定時間T3が経過したところでポンプ23を停止させる(ステップST8)。これにより吐出路28に、シリンジ35内のペーストPstが充填(本充填)された状態となる。上記の所定時間T3は、吐出路28に充填されているペーストPstを押し出して排出させるとともに、シリンジ35から供給される新たなペーストPstを吐出路28に充填させる(すなわちペーストPstを入れ替える)のに要する時間であり、計算等によって求められて設定されている。
ここで、制御部70の本充填制御部70dは、シリンジ35内のペーストPstを吐出路28に充填(本充填)させる際には、電空レギュレータ62を制御して、電空レギュレータ62がシリンジ35内のペーストPstを加圧する圧力を、通常の塗布時よりも高くする。また、制御部70の本充填制御部70dは、スクリュー29を回転させる速度を、通常の塗布時よりも遅くする。好ましくは、本充填制御部70dは、スクリュー29を回転させる速度を、仮充填の時よりも遅くする。これにより、ボイドVdを含むペーストPstを貯留部27及び吐出路28から排出させることができる。また、シリンジ35内のペーストPstは適温に加熱されたインナーシャフト25の導入路36を通過する過程で適温になり、貯留部27に充填される。このため適温に加熱されたペーストPstが同じく適温に加熱されたスクリュー29に接触するのでスクリュー29の表面で空気を巻き込むことがなく、新たにボイドVdが発生することがない。よって、本充填の終了後は、貯留部27と吐出路28のペーストPstはボイドVdを含まないものに置換される。
このように前準備作業では、仮充填の後、仮充填で吐出路28に充填されたペーストPstがヒータ63により加熱されて所定時間T3が経過したところで電空レギュレータ62とポンプ23を作動させ、吐出路28に充填されたペーストPstをノズル39から排出させるとともに吐出路28に新たにペーストPstを充填させる本充填を行う本充填工程が実行される。この本充填工程では、ポンプ23を通じて適温に温められるとともに十分に攪拌されたペーストPstが吐出路28に充填される。また、仮充填の際に発生したボイドVdはペーストPstと一緒に排出される。
本充填工程が終了したら、制御部70の捨打ち制御部70eは、ヘッド移動機構12を作動させて、塗布ヘッド13を捨打ちステージ15の上方に位置させる。そして、電空レギュレータ62とポンプ23を作動させて、本充填で吐出路28に充填されたペーストPstをノズル39から吐出させて捨打ちする(ステップST9。図12(b))。この捨打ちは塗布されたペーストPstの直径が安定するまで所定回数行う。
このように前準備作業では、本充填の後、電空レギュレータ62とポンプ23を作動させて吐出路28に充填されたペーストPstをノズル39から所定回数吐出させて捨打ちステージ15に塗布する捨打ちを行う捨打ち工程が実行される。この捨打ちは、塗布対象物(ここでは基板2)に向けたペーストPstの塗布の前の試し打ちであるとともに、塗布量を安定させるために行うものである。従来はこの捨打ちにより、ペーストPstト内に発生したボイドVdを排出させるようにしていたが、本実施の形態では、捨打ちの前の本充填の段階でボイドVdを排出させているので、捨打ちの回数を従来に比べて大幅に少なくすることができる。なお、このペーストPstの捨打ち工程では、電空レギュレータ62がシリンジ35内のペーストPstを加圧する圧力は通常の塗布時の圧力と同じとし、スクリュー29を回転させる速度は通常の塗布時の速度と同じとする。
捨打ち工程が終了したら、制御部70の塗布量測定部70fは、捨打ちステージ15に塗布されたペーストPstの塗布量を測定する(塗布量測定工程。ステップST10)。そして、塗布量測定工程で測定された塗布量が不足しているか否かを、制御部70の判断部70gが判断する(判断工程。ステップST11)。この判断工程で、塗布量が不足していないと判断された場合には、一連の前準備作業を終了する。
一方、ステップST11の判断工程で、塗布量が不足していると判断された場合には、制御部70のペースト入替え制御部70hは、電空レギュレータ62とポンプ23を作動させて吐出路28内のペーストPstをノズル39から排出させるとともに、吐出路28に新たにペーストPstを充填させることによりペーストの入替えを行う(ペースト入替え工程)。
ペースト入替え工程では、制御部70のペースト入替え制御部70hは、塗布ヘッド13をペースト廃棄部16の上方に位置させたうえで(図12(a))、電空レギュレータ62とポンプ23を作動させる(ステップST12)。そして、タイマ70kにより所定時間T4が経過するか否かを監視し(ステップST13)、所定時間T4が経過したところでポンプ23を停止させる(ステップST14)。これにより吐出路28内のペーストPstがノズル39から排出されるとともにシリンジ35内のペーストPstが吐出路28内に送られ(図12(a))、吐出路28内のペーストPstが入れ替えられた状態となる。ノズル39から排出されるペーストPstは、塗布ヘッド13の直下に位置しているペースト廃棄部16によって受容され、その後廃棄される。
上記の所定時間T4は、吐出路28に充填されているペーストPstを押し出して排出させるとともに、電空レギュレータ62によってシリンジ35内のペーストPstを吐出路28に充填させる(すなわちペーストPstを入れ替える)のに要する時間であり、計算等によって求められて設定されている。なお、通常は、所定時間T4は所定時間T3と同じ時間とすることができる。
ペースト入替え工程では、制御部70のペースト入替え制御部70hは、電空レギュレータ62を制御して、電空レギュレータ62がシリンジ35内のペーストPstを加圧する圧力を、通常の塗布時よりも高くする。また、制御部70のペースト入替え制御部70hは、スクリュー29を回転させる速度を、通常の塗布時よりも遅くする。本充填の後、塗布量が不足する原因として、吐出路28や吐出口40内のペーストPstの粘度が何らかの要因で適切な粘度よりも高かったことが考えられる。このため、ペースト入替え工程で粘度の高いペーストPstを吐出路28から排出して適切な粘度のペーストPstを吐出路28と吐出口40に充填する。
ペースト入替え工程が終了したら、制御部70の捨打ち制御部70eは、本充填工程の後の場合と同様の捨打ち工程を実行したうえで(ステップST15。図12(b))、塗布量測定工程(ステップST16)と判断工程(ステップST17)を実行する。そして、このステップST17の判断工程で塗布量が不足していると判断された場合には、ステップST12に戻ってペースト入替え工程及びその後の捨打ち工程を行う。一方、ステップST17の判断工程で、塗布量が不足していないと判断された場合には、前準備作業を終了する。
このように、本実施の形態では、生産開始前、吐出路28が空の状態で電空レギュレータ62とポンプ23を作動させて吐出路28にペーストPstを充填させる仮充填を行い、その後、ポンプ23を加熱(これによりポンプ23内のペーストPstを加熱)しながら所定の時間(待機時間T2)を経過させたうえで吐出路28内のペーストPstをノズル39から排出させるとともに、シリンジ35内のペーストPstを吐出路28に新たに充填させる本充填を行ってから捨打ちする前準備作業を行うようになっている。仮充填から本充填までの間に吐出路28内にはポンプ23を通じて適温に温められるとともに十分に攪拌されたペーストPstが充填されるうえ、仮充填の際に発生したボイドVdは排出されるペーストPstと一緒に排出されるので、本充填が終了した時点で吐出路28内のペーストPstは塗布対象物に向けた塗布に適した状態になっている。このため生産開始前にペーストPstの状態を整える前準備作業を効率よく行うことができ、迅速に安定した塗布量を得ることができる。
次に、図13のフローチャートと図14(a),(b),(c)の動作説明図を参照して、一旦開始した生産を中断した後に生産を再開させる生産再開前に行う復旧作業の手順を説明する。復旧作業は、生産の中断により硬化した(或いは硬化し始めた)吐出路28内のペーストPstを元の状態に復旧させる作業である。
復旧作業では、初めに、作業者OPがタッチパネル71から所定の操作を行って制御部70に動作開始の指令を行う。タッチパネル71から動作開始の指令を受けたら、制御部70は、ヘッド移動機構12を作動させて、塗布ヘッド13をペースト廃棄部16の上方に位置させる。
塗布ヘッド13がペースト廃棄部16の上方に位置したら、制御部70の捨打ち制御部70eが、前述のステップST9等の捨打ち工程と同様の要領で捨打ちを行い(ステップST21)、次いで制御部70の塗布量測定部70fが、前述のステップST10等の塗布量測定工程と同様の要領で塗布量の測定を行う(ステップST22)。そして、ステップST22の塗布量測定工程で測定された塗布量が不足しているか否かを制御部70の判断部70gが判断する(判断工程。ステップST23)。そして、その結果、塗布量が不足していないと判断された場合には生産の中断による影響はなかったとして、復旧作業を終了する。
一方、ステップST23の判断工程で、塗布量が不足していると判断された場合には、制御部70の判断部70gは、生産の中断によってポンプ23の作動が停止してからの経過時間が、予め定めた所定の基準時間T5(例えば15分)を超えているがどうかを判断する(ステップST24)。ここで、生産の中断によってポンプ23の作動が停止してからの経過時間の計測は、制御部70が備えるタイマ70kが行う。
制御部70は、ステップST24の判断の結果、ポンプ23の作動が停止してからの経過時間が基準時間T5を超えていた場合には、制御部70のペースト入替え制御部70hは、電空レギュレータ62とポンプ23を作動させて吐出路28内のペーストPstをノズル39から排出させるとともに、吐出路28に新たにペーストPstを充填させることによりペーストの入替えを行う(ペースト入替え工程)。この工程は、ポンプ23の作動が停止してからの経過時間が一定の時間(基準時間T5)を超えると、吐出路28内のペーストPstが硬化する(或いは硬化し始める)ことから、その硬化した(硬化し始めた)ペーストPstを排出するとともに、シリンジ35から供給される新しいペーストPstを攪拌しながら吐出路28内に充填させる(すなわちペーストPstを入れ替える)工程である。
ペースト入替え工程では、具体的には、制御部70のペースト入替え制御部70hは、塗布ヘッド13をペースト廃棄部16の上方に位置させたうえで(図14(a))、電空レギュレータ62とポンプ23を作動させる(ステップST25)。これにより吐出路28内のペーストPstがノズル39から排出されるとともにシリンジ35内のペーストPstが吐出路28内に送られる(図14(b))。そして、タイマ70kにより所定時間T6が経過するか否かを監視し(ステップST26)、所定時間T6が経過したところでポンプ23を停止させる(ステップST27)。ノズル39から排出されるペーストPstは、塗布ヘッド13の直下に位置しているペースト廃棄部16によって受容され、その後廃棄される。
上記の所定時間T6は、吐出路28に充填されているペーストPstを押し出して排出させるとともに、シリンジ35から供給される新たなペーストPstを吐出路28に充填させる(すなわちペーストPstを入れ替える)のに要する時間であり、計算等によって求められて設定されている。なお、通常は、所定時間T6は、前述の所定時間T3又は所定時間T4と同じ時間とすることができる。
ペースト入替え工程では、制御部70は、電空レギュレータ62を制御して、電空レギュレータ62がシリンジ35内のペーストPstを加圧する圧力を、通常の塗布時(塗布対象物に向けたペーストPstの塗布時)に電空レギュレータ62がシリンジ35内のペーストPstを加圧する圧力よりも高くする。また、制御部70は、ペースト入替え工程では、スクリュー29を回転させる速度を、通常の塗布時にスクリュー29を回転させる速度よりも遅くする。生産を中断したことにより、吐出路28内のペーストPstが硬化している(硬化を始めている)と考えられ、そうすると通常時よりも大きな圧力でペーストPstが供給され、通常時よりも遅い回転でスクリュー29を回転させて吐出路28内にペーストPstを導入し、かつ吐出路28からペーストPstを排出させる必要があるからである。
ペースト入替え工程が終了したら、制御部70の捨打ち制御部70eは、ヘッド移動機構12を作動させて、塗布ヘッド13を捨打ちステージ15の上方に位置させる。そして、電空レギュレータ62とポンプ23を作動させて、ペースト入替え工程で吐出路28に充填されたペーストPstをノズル39から吐出させ、改めて捨打ちを実行する(ステップST28。図14(c))。この捨打ちは所定回数行う。
ステップST28の捨打ち工程が終了したら、制御部70の塗布量測定部70fは、ステップST22と同様の要領で塗布量測定工程を実行し(ステップST29)、次いで、ステップST23と同様の要領で判断部70g判断工程を実行する(ステップST30)。そして、このステップST30の判断工程で塗布量が不足していると判断された場合には、ステップST25に戻ってペースト入替え工程及びその後の捨打ち工程を行う。一方、ステップST30の判断工程で、塗布量が不足していないと判断された場合と、ステップST24でポンプ23の作動が停止してからの経過時間が基準時間T5を超えていないと判断された場合には、一連の復旧作業を終了する。
このように、本実施の形態では、生産再開前、電空レギュレータ62とポンプ23を作動させて吐出路28内のペーストPstをノズル39から排出させるとともに吐出路28に新たにペーストPstを充填させることにより吐出路28内のペーストPstを入れ替えてから捨打ちする復旧作業を行うようになっている。ペーストPstの入替えでは、吐出路28内のペーストPstが攪拌されるので、ペーストPstの入替えが終了した時点で吐出路28内のペーストPstは塗布対象物に向けた塗布に適した状態になっている。このため生産再開前にペーストPstの状態を整え直す復旧作業を効率よく行うことができ、迅速に安定した塗布量を得ることができる。
以上説明したように、本実施の形態におけるペースト塗布装置1(及びこのペースト塗布装置1によるペースト塗布方法)では、生産開始前、仮充填を行って所定の時間を経過させ、更に本充填を行ってから捨打ちする前準備作業を行うようになっている。仮充填から本充填までの間に吐出路28内にはポンプ23を通じて適温に温められるとともに十分に攪拌されたペーストPstが充填されるうえ、仮充填の際に発生したボイドVdはペーストPstと一緒に排出されるので、本充填が終了した時点で吐出路28内のペーストPstは塗布対象物に向けた塗布に適した状態になっている。このため本実施の形態によれば、生産開始前にペーストPstの状態を整える前準備作業を効率よく行うことができ、迅速に安定した塗布量を得ることができる。
これまで本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上述したものに限定されず、種々の変形が可能である。例えば、ポンプ23は、ケーシング内で回転子が回転作動することにより吐出路28にペーストPstを送出する構成であればよい。従って、前述の実施の形態に示したスクリュー型のポンプに限られず、ケーシング内で複数の歯車が噛合しながら回転するタイプの歯車型のポンプ等であってもよい。また、本実施の形態では2つの塗布ヘッド13を複数(2つ)備えた構成となっており、異なる種類のペーストPstを塗布する場合や異なる塗布量でペーストPstを塗布したい場合等に利点があるものであったが、これは一例であり、塗布ヘッド13は1つであっても勿論構わない。また、上述の実施の形態では、ペースト塗布装置1は塗布対象物に対してペーストPstを塗布する専用の装置であるとしていたが、部品実装装置等の他の装置の一部として構成されているのであってもよい。