以下、本発明の弁装置の実施の形態を、油圧ショベルに搭載された方向制御弁(スプール弁)に適用した場合を例に挙げ、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1ないし図5は、第1の実施の形態を示している。図1において、建設機械の代表例である油圧ショベル1は、自走可能なクローラ式の下部走行体2と、下部走行体2上に設けられた旋回装置3と、下部走行体2上に旋回装置3を介して旋回可能に搭載された上部旋回体4と、上部旋回体4の前側に設けられ掘削作業等を行う多関節構造の作業装置5とを含んで構成されている。この場合、下部走行体2と上部旋回体4は、油圧ショベル1の車体を構成している。
下部走行体2は、例えば、履帯2Aと、該履帯2Aを周回駆動させることにより油圧ショベル1を走行させる左,右の走行用油圧モータ(図示せず)とを含んで構成されている。下部走行体2は、後述のメイン油圧ポンプ13(図2参照)からの圧油の供給に基づいて、油圧モータ(油圧アクチュエータ)である走行用油圧モータが回転することにより、上部旋回体4および作業装置5と共に走行する。
作業機またはフロントとも呼ばれる作業装置5は、例えば、ブーム5A、アーム5B、作業具としてのバケット5Cと、これらを駆動する油圧アクチュエータ(液圧アクチュエータ)としてのブームシリンダ5D、アームシリンダ5E、バケットシリンダ(作業具シリンダ)5Fとを含んで構成されている。作業装置5は、メイン油圧ポンプ13(図2参照)からの圧油の供給に基づいて、油圧シリンダであるシリンダ5D,5E,5Fが伸長または縮小することにより、俯仰の動作をする。なお、後述の図2の油圧回路図では、図面が複雑になることを避けるために、主としてブームシリンダ5Dに関する油圧回路を示しており、アームシリンダ5E、バケットシリンダ5F、前述の左,右の走行用油圧モータ、後述の旋回用油圧モータに関する油圧回路を省略している。
上部旋回体4は、旋回軸受、旋回用油圧モータ、減速機構等を含んで構成される旋回装置3を介して、下部走行体2上に搭載されている。上部旋回体4は、メイン油圧ポンプ13(図2参照)からの圧油の供給に基づいて、油圧モータ(油圧アクチュエータ)である旋回用油圧モータが回転することにより、下部走行体2上で作業装置5と共に旋回する。上部旋回体4は、上部旋回体4の支持構造体(ベースフレーム)となる旋回フレーム6と、旋回フレーム6上に搭載されたキャブ7、カウンタウエイト8等とを含んで構成されている。この場合、旋回フレーム6上には、エンジン12に加えて、図2に示す油圧ポンプ13,19、作動油タンク14等が搭載されている。
旋回フレーム6は、旋回装置3を介して下部走行体2に取付けられている。旋回フレーム6の前部左側には、内部が運転室となったキャブ7が設けられている。旋回フレーム6の後端側には、作業装置5との重量バランスをとるためのカウンタウエイト8が設けられている。キャブ7とカウンタウエイト8との間は、エンジン12、油圧ポンプ13,19(図2参照)等が収容される機械室9となっている。さらに、上部旋回体4(旋回フレーム6)のほぼ中央(中心)には、後述の制御弁装置21が設置されている。
ここで、キャブ7内には、オペレータが着席する運転席(図示せず)が設けられている。運転席の周囲には、油圧ショベル1を操作するための操作装置(図2にブーム用レバー操作装置22のみ図示)が設けられている。操作装置は、例えば、運転席の前側に設けられた左,右の走行用レバー・ペダル操作装置と、運転席の左右両側にそれぞれ設けられた左,右の作業用レバー操作装置とを含んで構成されている。
左,右の走行用レバー・ペダル操作装置は、下部走行体2を走行させるときにオペレータにより操作される。左,右の作業用レバー操作装置は、作業装置5を動作させるとき、および、上部旋回体4を旋回させるときにオペレータにより操作される。なお、後述の図2の油圧回路図では、各種の操作装置(走行用操作装置および作業用操作装置)のうち作業装置5のブーム5Aを操作(揺動)するためのブーム用レバー操作装置22のみを示している(左右の走行用レバー・ペダル操作装置、旋回用レバー操作装置、アーム用レバー操作装置、バケット用レバー操作装置等を省略している)。ブーム用レバー操作装置22は、例えば、右側の作業用レバー操作装置の前後方向の操作に対応するものである。
操作装置は、オペレータの操作(レバー操作、ペダル操作)に応じたパイロット信号(パイロット圧)を、複数の方向制御弁(図2にブーム用方向制御弁31のみ図示)からなる制御弁装置21に出力する。これにより、オペレータは、走行用油圧モータ、作業装置5のシリンダ5D,5E,5F、旋回装置3の旋回用油圧モータを動作(駆動)させることができる。なお、後述の図2の油圧回路図では、制御弁装置21を構成する複数の方向制御弁のうち、ブーム用方向制御弁31のみを示している(例えば、左走行用方向制御弁、右走行用方向制御弁、旋回用方向制御弁、アーム用方向制御弁、バケット用方向制御弁等を省略している)。
次に、油圧ショベル1を駆動するための油圧駆動装置(油圧システム)について、図1に加え、図2も参照しつつ説明する。
図2に示すように、油圧ショベル1は、メイン油圧ポンプ13から供給される圧油に基づいて油圧ショベル1を動作(駆動)させる油圧回路11を備えている。油圧回路11は、油圧アクチュエータ(以下、単にシリンダ5Dともいう)を含むメイン油圧回路11Aと、シリンダ5Dを操作するためのパイロット油圧回路11Bとを含んで構成されている。
即ち、油圧回路11は、シリンダ5Dと、エンジン12(図1参照)と、メイン油圧ポンプ13と、タンクとしての作動油タンク14と、パイロット油圧ポンプ19と、制御弁装置21(ブーム用方向制御弁31)と、操作装置(以下、単にレバー操作装置22ともいう)とを含んで構成されている。そして、油圧回路11のメイン油圧回路11Aは、シリンダ5Dに加え、エンジン12と、メイン油圧ポンプ13と、作動油タンク14と、制御弁装置21(ブーム用方向制御弁31)と、ポンプ管路としてのメイン吐出管路15と、タンク管路としての戻り管路16と、一側アクチュエータ管路としてのボトム側管路17と、他側アクチュエータ管路としてのロッド側管路18とを備えている。一方、油圧回路11のパイロット油圧回路11Bは、エンジン12と、パイロット油圧ポンプ19と、作動油タンク14と、レバー操作装置22と、パイロット吐出管路20と、一側パイロット管路としての伸長側パイロット管路23と、他側パイロット管路としての縮小側パイロット管路24とを備えている。
エンジン12(図1参照)は、旋回フレーム6に搭載されている。エンジン12は、例えばディーゼルエンジン等の内燃機関によって構成されている。エンジン12の出力側には、メイン油圧ポンプ13、および、パイロット油圧ポンプ19が取付けられている。これら油圧ポンプ13,19は、エンジン12によって回転駆動される。なお、油圧ポンプ13,19を駆動するための駆動源(動力源)は、内燃機関となるエンジン12単体で構成できる他、例えば、エンジンと電動モータ、または、電動モータ単体により構成してもよい。
メイン油圧ポンプ13は、エンジン12に機械的に(即ち、動力伝達可能に)接続されている。メイン油圧ポンプ13は、シリンダ5Dを含むメイン油圧回路11Aに圧油を供給する。メイン油圧ポンプ13は、例えば、可変容量型の油圧ポンプ、より具体的には、可変容量型の斜板式、斜軸式またはラジアルピストン式油圧ポンプによって構成されている。なお、図2では、メイン油圧ポンプ13を1台の油圧ポンプで示しているが、例えば、2台以上の複数の油圧ポンプにより構成することができる。
メイン油圧ポンプ13は、制御弁装置21(ブーム用方向制御弁31)を介してシリンダ5Dに接続されている。メイン油圧ポンプ13は、シリンダ5Dに圧油を供給する。なお、図示は省略するが、メイン油圧ポンプ13は、例えば、ブームシリンダ5Dの他、走行用油圧モータ、旋回用油圧モータ、アームシリンダ5E、バケットシリンダ5Fにも圧油を供給する。
メイン油圧ポンプ13は、作動油タンク14に貯溜された作動油を圧油としてメイン吐出管路15に吐出する。メイン吐出管路15に吐出された圧油は、制御弁装置21(ブーム用方向制御弁31)を介してブームシリンダ5D(のボトム側油室またはロッド側油室)に供給され、ブームシリンダ5D(のロッド側油室またはボトム側油室)の圧油は、制御弁装置21(ブーム用方向制御弁31)および戻り管路16を介して作動油タンク14に戻る。このように、メイン油圧ポンプ13は、作動油を貯留する作動油タンク14と共に、メインの油圧源を構成している。
パイロット油圧ポンプ19は、メイン油圧ポンプ13と同様に、エンジン12に機械的に接続されている。パイロット油圧ポンプ19は、シリンダ5Dを操作するためのパイロット油圧回路11Bに圧油を供給する。パイロット油圧ポンプ19は、例えば、固定容量型の歯車ポンプまたは斜板式油圧ポンプによって構成されている。パイロット油圧ポンプ19は、作動油タンク14に貯溜された作動油を圧油としてパイロット吐出管路20に吐出する。即ち、パイロット油圧ポンプ19は、作動油タンク14と共にパイロット油圧源を構成している。
パイロット油圧ポンプ19は、レバー操作装置22と接続されている。パイロット油圧ポンプ19は、レバー操作装置22に圧油(1次圧)を供給する。この場合、パイロット油圧ポンプ19の圧油は、レバー操作装置22を介して、制御弁装置21(ブーム用方向制御弁31の油圧パイロット部31A,31B)に供給される。
制御弁装置21は、ブーム用方向制御弁31を含む複数の方向制御弁からなる制御弁群である。制御弁装置21は、メイン油圧ポンプ13から吐出された圧油を、ブーム用レバー操作装置22を含む各種の操作装置の操作に応じて、ブームシリンダ5D、アームシリンダ5E、バケットシリンダ5F、走行用油圧モータ、および、旋回用油圧モータに分配する。なお、以下の説明は、ブーム用方向制御弁31(以下、単に方向制御弁31ともいう)を制御弁装置21の代表例として説明する。
方向制御弁31は、キャブ7内に配置されたレバー操作装置22の操作による切換信号(パイロット圧)に応じて、メイン油圧ポンプ13からシリンダ5Dに供給される圧油の方向を制御する。これにより、シリンダ5Dは、メイン油圧ポンプ13から供給(吐出)される圧油(作動油)によって駆動(伸長、縮小)される。方向制御弁31は、パイロット操作式の方向制御弁、例えば、5ポート3位置(または、6ポート3位置、4ポート3位置)の油圧パイロット式方向制御弁により構成されている。
方向制御弁31は、メイン油圧ポンプ13とシリンダ5Dとの間でシリンダ5Dに対する圧油の供給と排出を切換えることにより、シリンダ5Dを伸長または縮小させる。方向制御弁31の油圧パイロット部31A,31Bには、レバー操作装置22の操作に基づく切換信号(パイロット圧)が供給される。これにより、方向制御弁31は、中立位置(A)から切換位置(B),(C)に切換操作される。
レバー操作装置22は、上部旋回体4のキャブ7内に配置されている。レバー操作装置22は、例えば、レバー式の減圧弁型パイロット弁により構成されている。レバー操作装置22には、パイロット油圧ポンプ19からの圧油(1次圧)がパイロット吐出管路20を通じて供給される。レバー操作装置22は、オペレータのレバー操作に応じたパイロット圧(2次圧)を、伸長側パイロット管路23または縮小側パイロット管路24を介して方向制御弁31に出力する。
即ち、レバー操作装置22は、オペレータによって操作されることにより、その操作量に比例したパイロット圧を方向制御弁31の油圧パイロット部31A,31Bに供給(出力)する。例えば、レバー操作装置22がシリンダ5Dを伸長させる方向に操作されると(即ち、ブーム5Aを上げるための上げ操作がされると)、この操作により発生したパイロット圧は、伸長側パイロット管路23を介して方向制御弁31の油圧パイロット部31Aに供給される。これにより、方向制御弁31は、中立位置(A)から切換位置(B)に切換わり、メイン油圧ポンプ13からの圧油がボトム側管路17を介してシリンダ5Dのボトム側油室に供給され、シリンダ5Dのロッド側油室の圧油がロッド側管路18、戻り管路16を介して作動油タンク14に戻る。
これに対して、例えば、レバー操作装置22がシリンダ5Dを縮小させる方向に操作されると(即ち、ブーム5Aを下げるための下げ操作がされると)、この操作により発生したパイロット圧は、縮小側パイロット管路24を介して方向制御弁31の油圧パイロット部31Bに供給される。これにより、方向制御弁31は、中立位置(A)から切換位置(C)に切換わり、メイン油圧ポンプ13からの圧油がロッド側管路18を介してシリンダ5Dのロッド側油室に供給され、シリンダ5Dのボトム側油室の圧油がボトム側管路17、戻り管路16を介して作動油タンク14に戻る。
次に、弁装置としての方向制御弁31について、図1および図2に加え、図3も参照しつつ説明する。
スプール弁またはスプール弁装置とも呼ばれる方向制御弁31は、油圧源(メイン油圧ポンプ13および作動油タンク14)と油圧アクチュエータ(シリンダ5D)との間に設けられている。方向制御弁31は、スプール39を図2の(A)に示す中立位置から例えば(B)または(C)に示す切換位置に摺動変位させることにより、シリンダ5Dに供給、排出する圧油の方向および流量を制御する。図3に示すように、方向制御弁31は、弁ハウジング32と、弁体としてのスプール39とを含んで構成されている。
弁ハウジング32は、筒状に形成されており、弁ハウジング32の内周側は、スプール摺動穴33となっている。即ち、弁ハウジング32は、軸方向(図3の上,下方向)に延びる弁収容穴としてのスプール摺動穴33を有している。弁ハウジング32の一側(例えば、図3の下側)には、スプール摺動穴33の一側開口に対面するように一側キャップ(図示せず)が取付けられており、弁ハウジング32の他側(例えば、図3の上側)には、スプール摺動穴33の他側開口に対面するように他側キャップ(図示せず)が取付けられている。両方のキャップ内または片方のキャップ内には、スプールを中立位置(A)に保持するためのセンタリングスプリング31C,31D(図2参照)が設けられている。
図3に示すように、スプール摺動穴33には、複数の凹溝34,35が設けられている。この場合、スプール摺動穴33には、例えば5個の凹溝34,35、具体的には、軸方向中央部に位置する中央凹溝(図示せず)、中央凹溝よりも軸方向一側(図3の下側)に位置する一側凹溝34、一側凹溝34よりも軸方向一側(スプール摺動穴33の一端側)に位置する一端側凹溝35、中央凹溝よりも軸方向他側(図3の上側)に位置する他側凹溝(図示せず)、他側凹溝よりも軸方向他側(スプール摺動穴33の他端側)に位置する他端側凹溝(図示せず)が設けられている。なお、図3では、5個の凹溝34,35のうち、中央凹溝よりも軸方向一側に設けられた一側凹溝34と一端側凹溝35との2つの凹溝34,35を示している。
複数の凹溝34,35は、いずれもスプール摺動穴33の全周にわたって環状に形成されている。また、各凹溝34,35は、スプール摺動穴33の軸方向にわたってそれぞれ離間して設けられている。この場合、各凹溝34,35の間は、それぞれスプール摺動穴33の内径側に向けて全周にわたって突出する切換部36,36となっている。さらに、弁ハウジング32には、スプール摺動穴33の軸方向にそれぞれ離間して複数のポート37,38が設けられている。ポート37,38は、圧油の流通する通路(油路)となるものである。この場合、弁ハウジング32には、例えば5個のポート37,38、具体的には、ポンプポート(図示せず)、一対のアクチュエータポート37、および、一対のタンクポート38が設けられている。なお、図3では、5個のポート37,38のうち、一方のアクチュエータポート37と一方のタンクポート38との2つのポート37,38を示している。
ポンプポートは、スプール摺動穴33の中央凹溝に対応して設けられている。ポンプポートは、弁ハウジング32の外面に開口する一側がメイン吐出管路15に接続され、スプール摺動穴33に開口する他側が中央凹溝に連通している。一対のアクチュエータポート37のうち一方のアクチュエータポート37は、スプール摺動穴33の一側凹溝34に対応して設けられている。一方のアクチュエータポート37は、例えば、弁ハウジング32の外面に開口する一側がボトム側管路17に接続され、スプール摺動穴33に開口する他側が一側凹溝34に連通している。これに対して、他方のアクチュエータポートは、スプール摺動穴33の他側凹溝に対応して設けられている。他方のアクチュエータポートは、例えば、弁ハウジング32の外面に開口する一側がロッド側管路18に接続され、スプール摺動穴33に開口する他側が他側凹溝に連通している。
一対のタンクポート38のうち一方のタンクポート38は、スプール摺動穴33の一端側凹溝35に対応して設けられている。一方のタンクポート38は、弁ハウジング32の外面に開口する一側が戻り管路16に接続され、スプール摺動穴33に開口する他側が一端側凹溝35に連通している。これに対して、他方のタンクポートは、スプール摺動穴33の他端側凹溝に対応して設けられている。他方のタンクポートは、弁ハウジング32の外面に開口する一側が戻り管路16に接続され、スプール摺動穴33に開口する他側が他端側凹溝に連通している。これにより、弁ハウジング32には、切換部36,36を挟んでスプール摺動穴33の軸方向に複数のポート37,38が設けられている。
スプール39は、弁ハウジング32のスプール摺動穴33に移動可能(摺動可能)に挿嵌されている。スプール39は、油圧パイロット部31A,31Bに供給されるパイロット圧に応じて、スプール摺動穴33内を軸方向に摺動変位する。これにより、スプール39は、複数のポート37,38を互いに連通または遮断する。このために、スプール39の軸方向中間部には、径方向寸法が大きい外周面を有する中央ランド40が設けられている。また、スプール39の軸方向両端側には、それぞれ中央ランド40と同じ外径寸法の外周面を有する一側ランド41と他側ランド(図示せず)とが設けられている。これら各ランド40,41は、スプール摺動穴33に対して軸方向に摺動する。この場合、各ランド40,41の間は、スプール39の内径側に向けて全周にわたって凹入する油溝42となっている。即ち、スプール39には、各ポート間37,38を連通または遮断させるため、軸方向に離間してくびれ部となる油溝42と摺動部となるランド40,41とが設けられている。
ここで、例えば、スプール39が、図2に示す中立位置から左方向に変位すると、図3に示すように、一側凹溝34と一端側凹溝35との間が、中央ランド40と一側ランド41との間の油溝42を介して連通される。これと共に、中央凹溝と他側凹溝との間が、中央ランド40と他側ランドとの間の油溝を介して連通される。この場合、シリンダ5Dのボトム側油室の圧油は、図3に二点鎖線の矢印で示すように、ボトム側管路17、一方のアクチュエータポート37、一側凹溝34、切換部36とスプール39の油溝42との間、および、一端側凹溝35を介して一方のタンクポート38へと導かれ、戻り管路16を介して作動油タンク14に戻される。一方、メイン油圧ポンプ13から吐出された圧油は、メイン吐出管路15、図示しないポンプポート、中央凹溝、切換部と油溝との間、および、他側凹溝を介して他方のアクチュエータポートへと導かれ、ロッド側管路18を介してシリンダ5Dのロッド側油室に供給される。これにより、シリンダ5Dを縮小させることができる。
図3に示すように、弁ハウジング32のスプール摺動穴33とスプール39とにより構成される油路のうち、タンクポート38側の油路43は、スプール39の直近の油室44とタンクラインとなる戻り管路16とを接続している。この場合、戻り管路16と弁ハウジング32のタンクポート38は、接続継手45によって接続され、その接続部(接合部)、即ち、接続継手45と弁ハウジング32との当接部(接触部)は、シールリング、Oリング等のシール部材46によって封止されている。
ところで、図15は、比較例を示している。この図15に示す比較例と第1の実施の形態とを比較すると、第1の実施の形態では油路43に後述の孔48が設けられているのに対して、図15に示す比較例では油路101に孔が設けられていない。なお、図15中の二点鎖線の矢印は、圧油の流通方向を示している。図3、図5等のその他の図でも、二点鎖線の矢印は、圧油の流通方向を示している。
図15に示すように、スプール摺動穴33の切換部36とスプール39の一側ランド41との開口部を圧油が通過するとき、この開口部の開口量が小さいと、即ち、開口部の流路面積が小さいと、この開口部が絞り部102となり、液体中(作動油中)に気泡103が発生して膨張するキャビテーションが発生する可能性がある。そして、絞り部102で発生した気泡103は、高速流体噴流であるキャビテーション噴流104に乗って絞り部102の下流側へと流される。
このとき、絞り部102よりも下流部の圧力が高くなるため、気泡103の周囲の圧力は徐々に回復し、やがて気泡103はこの回復してきた圧力によって押し潰される。そして、この気泡103が押し潰されて崩壊した瞬間、局所的に高い衝撃圧が発生し、機器部材表面、即ち、タンクポート38の内周面にエロージョン105が発生する可能性がある。また、絞り部で発生した気泡103が、弁ハウジング32(タンクポート38)と接続継手45との接合部まで流れた場合には、この接合部でエロージョンが発生する可能性もある。
いずれにしても、図15に示すように、キャビテーション噴流104は、圧力脈動を生じさせるため、油路101には気泡103と共に圧力波106が伝播している。この圧力波106は、油路面積拡大部での圧力、流速の変化によって拡大部直前で急激に増幅され、気泡103を圧潰させる。このため、油路面積拡大部の上流側、即ち、流路面積が小さい方の油路101にエロージョン105が発生する傾向となる。図15では、弁ハウジング32(タンクポート38)と接続継手45との接合部が油路面積拡大部となり、タンクポート38が油路面積拡大部の上流側の油路101に相当する。このため、図15に示すように、タンクポート38の内周面、より具体的には、接続継手45が接続される開口側の内周面に、エロージョン105が発生する可能性がある。
これに対して、図3ないし図5に示すように、第1の実施の形態では、キャビテーションによる気泡103が通過する油路43において、油路面積拡大部の近傍、即ち、接続継手45よりも上流側となるタンクポート38の内周面に複数の孔48を設けている。そして、この複数の孔48(より具体的には、それぞれの孔48から反射する圧力波)によって、気泡103の圧潰に寄与する油路43内の圧力脈動を減衰することにより、エロージョンの発生を抑制できるようにしている。これにより、第1の実施の形態では、耐壊食性の高い材料(材質)を用いることによるコストの増大を招くことなく、エロージョンに対する信頼性の向上および寿命の向上を図ることができる。なお、図面では、気泡103、孔48等を誇張して示している。
即ち、第1の実施の形態では、図3ないし図5に示すように、方向制御弁31は、弁体としてのスプール39よりも圧油の流通方向の下流側に位置してこの圧油が流通する油路43(タンクポート38)が形成された油路形成体47を備えている。第1の実施形態では、油路形成体47は、方向制御弁31の弁ハウジング32の一部として弁ハウジング32内に形成されている。即ち、油路形成体57は、弁ハウジング32の一部として構成されている。そして、油路形成体47の下流側(タンクポート38の開口側)には、当該油路形成体47の油路43の流路断面積よりも大きな流路断面積の管路である戻り管路16が接続されている。この場合、油路形成体47の油路43の内周面には、油路43に直交する方向(油路43の径方向)に延びた有底状の孔48が複数設けられている。
即ち、第1の実施形態では、複数の孔48は、弁ハウジング32の油路43の内周面、換言すれば、タンクポート38の内周面に設けられている。孔48は、油路43(タンクポート38)の軸方向(中心軸線)に対して直交する方向に延びている。そして、孔48は、タンクポート38の内周面(油路壁面)に開口している。この場合、孔48は、弁ハウジング32の外面と弁ハウジング32の油路43の内周面との間を油路43と直交する方向(油路43の径方向)に貫通する貫通孔48Aと、弁ハウジング32とは別部材からなり貫通孔48Aを封止するプラグ48Bとにより構成されている。
プラグ48Bは、例えば、貫通孔48Aに螺合により取付けられている。貫通孔48Aの内周面とプラグ48Bの外周面との間には、例えば、シールリング、Oリング等のシール部材を設けることにより、これらの間を封止することができる。プラグ48Bは、例えば、弁ハウジング32と同じ材質(素材)により構成してもよいし、弁ハウジング32とは異なる材質(素材)により構成してもよい。
図3に示すように、孔48の内径Dは、少なくとも孔48の断面積が油路43の断面積より小さくなるように設定している。また、孔48の長さ(深さ)Lは、減衰対象であるキャビテーションによって生じた圧力波106(図5参照)の波長λを用いて、下記の数1式により定義される。即ち、減衰対象の圧力波93の波長をλとした場合に、孔48の長さLは、下記の数1式の関係となるように設定している。
なお、実施の形態では、孔48を複数設けているが、1個(単数)の孔を設ける構成としてもよい。また、図4に示すように、第1の実施の形態では、複数の孔48(例えば、16個の孔48)を等間隔に、かつ、全体として矩形(四角形)の陣形となるように配置しているが、これに限らず、円形、楕円形、三角形、または、五角形以上の多角形等、他の形状の陣形となるように配置してもよい。即ち、孔48の径寸法D、深さ寸法L、孔48を設ける位置、範囲、孔48の配置、陣形は、エロージョンを抑制することができるように(換言すれば、キャビテーションによる圧力波106を減衰できるように)、設計者の意図や方向制御弁31の仕様等に応じて適宜設定することができる。
第1の実施の形態による油圧ショベル1および方向制御弁31は、上述の如き構成を有するもので、次に、その動作について説明する。
キャブ7に搭乗したオペレータがエンジン12を始動させると、エンジン12によって油圧ポンプ13,19が駆動される。これにより、油圧ポンプ13,19から吐出した圧油は、キャブ7内に設けられた走行用操作装置および作業用操作装置(レバー操作装置22)のレバー操作、ペダル操作に応じて、走行油圧モータ、旋回油圧モータ、作業装置5のブームシリンダ5D、アームシリンダ5E、バケットシリンダ5Fに向けて吐出する。これにより、油圧ショベル1は、下部走行体2による走行動作、上部旋回体4の旋回動作、作業装置5による掘削作業等を行うことができる。
ここで、レバー操作装置22が操作されると、この操作に応じてレバー操作装置22から方向制御弁31の一方の油圧パイロット部31Aまたは他方の油圧パイロット部31Bにパイロット圧が供給される。これにより、方向制御弁31は、中立位置(A)から切換位置(B)または切換位置(C)に切換わる。このとき、メイン吐出管路15は、方向制御弁31を介して、ボトム側管路17とロッド側管路18とのうちの一方の管路17(18)に接続され、メイン油圧ポンプ13からの圧油がシリンダ5Dのボトム側油室とロッド側油室とのうちの一方の油室に供給される。これと共に、ボトム側管路17とロッド側管路18とのうちの他方の管路18(17)は、方向制御弁31を介して戻り管路16に接続され、シリンダ5Dのボトム側油室とロッド側油室とのうちの他方の油室の圧油が作動油タンク14へと導かれる。
このとき、図3に示すように、方向制御弁31の内部では、スプール39の軸方向の変位に伴って、アクチュエータポート37とタンクポート38とが連通する。この場合に、図5に示すように、スプール摺動穴33の切換部36とスプール39の一側ランド41との開口部の断面積が他の部分の流路断面積よりも小さいと、この開口部が絞り部102となる。そして、絞り部102で流速の増加および圧力の低下が発生し、これによりキャビテーションが発生する。絞り部102で発生したキャビテーションは、キャビテーション噴流104となって油室44内に噴射され、このとき気泡103と圧力波106とが発生する。
気泡103と圧力波106は、戻り管路16へと通じる油路43を通過し、戻り管路16と弁ハウジング32との接続部へと到達する。このとき、油路43に設けられた孔48内にも圧力波106が伝播し、孔48内部で反射する。そして、孔48内で生じた反射波が、油路43の圧力波106と干渉し、圧力波106が減衰される。即ち、第1の実施の形態では、キャビテーションによって発生した気泡103と圧力波106が通過する油路43に設けられた孔48が、圧力波106を反射させることにより、管路接合部(油路断面積の急拡大部)の直前での圧力波106の増幅による気泡103の崩壊を抑制することができる。これにより、当該箇所でのエロージョンを抑制することができる。
このように、第1の実施の形態では、油路形成体47の油路43の内周面(即ち、弁ハウジング32のタンクポート38の内周面)に、油路43に直交する方向(油路43の径方向)に延びた有底状の孔48が開口している。このため、図5に示すように、油路形成体47の上流側となる弁収容穴(即ち、スプール摺動穴33)と弁体(即ち、スプール39)との開口部で、キャビテーションによる気泡103と圧力波106が発生しても、圧力波106は、油路形成体47の油路43を通過するときに、孔48内から油路43側に向けて反射する圧力波(反射波)と干渉することにより減衰される。即ち、キャビテーションによる気泡103と圧力波106は、油路形成体47と管路(即ち、戻り管路16)との接合部(即ち、流路面積が大きくなる部分)を通過する前に、油路形成体47の油路43内で減衰する。これにより、圧力波106による気泡の消滅、および、この消滅に伴う衝撃圧を抑制できる。この結果、エロージョンの発生が抑制され、エロージョンに対する寿命を向上できる。しかも、耐壊食性の高い高価な材料を必要としないため、コストの上昇を抑えつつ寿命を向上できる。
第1の実施の形態では、油路形成体47は、弁ハウジング32の一部として弁ハウジング32内に形成されており、孔48は、弁ハウジング32の油路43の内周面に設けられている。このため、弁ハウジング32の油路43の上流側となる弁収容穴(スプール摺動穴33)と弁体(スプール摺動穴33)との開口部で、キャビテーションによる気泡103と圧力波106が発生しても、圧力波106は、弁ハウジング32の油路43を通過するときに、孔48内から油路43側に向けて反射する圧力波(反射波)と干渉することにより減衰される。これにより、弁ハウジング32の油路43内、即ち、弁ハウジング32と管路(戻り管路16)との接合部(即ち、流路面積が大きくなる部分)よりも上流側で圧力波106を減衰することができる。この結果、弁ハウジング32と管路(戻り管路16)との接合部(の近傍)のエロージョンを抑制することができる。
第1の実施の形態では、孔48は、弁ハウジング32の外面と弁ハウジング32の油路43(タンクポート38)の内周面との間を貫通する貫通孔48Aと、この貫通孔48Aを封止するプラグ48Bとにより構成されている。このため、「穿孔」と「プラグ48Bによる封止」との2つの工程により、有底状の孔48を弁ハウジング32に形成することができる。これにより、孔48を形成する作業を容易に行うことができ、この面からも、コストの上昇を抑えることができる。
次に、図6は、第2の実施の形態を示している。第2の実施の形態の特徴は、複数の孔のそれぞれの深さ寸法(径方向の長さ寸法)が異なる構成としたことにある。なお、第2の実施の形態では、上述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
第2の実施の形態も、第1の実施の形態と同様に、油路形成体47の油路43の内周面、即ち、弁ハウジング32のタンクポート38の内周面に、油路43(の中心軸線)に対して直交する方向に延びた有底状の孔51が複数設けられている。第2の実施の形態では、複数の孔51は、それぞれ深さ寸法L1,L2,L3,L4が異なる。即ち、第2の実施の形態の孔51は、第1の実施の形態と同様に、弁ハウジング32の外面と弁ハウジング32の油路43の内周面との間を貫通する貫通孔51Aと、この貫通孔51Aを封止するプラグ51Bとにより構成されている。この場合、それぞれのプラグ51Bの軸方向寸法を異ならすことにより、それぞれの孔51の深さ寸法L1,L2,L3,L4を異ならせている。
このような第2の実施の形態では、深さ寸法L1,L2,L3,L4が異なる複数の孔51から反射する圧力波(反射波)が、それぞれの孔51の深さ寸法L1,L2,L3,L4に対応した周波数の圧力波と干渉することにより、幅広い周波数帯を有する圧力波を減衰することができる。即ち、スプール摺動穴33の切換部36とスプール39の一側ランド41との開口部が絞り部102となって発生するキャビテーションによる圧力波106(図5参照)が幅広い周波数帯を有していても、深さ寸法L1,L2,L3,L4が異なる複数の孔51からの反射波が、それぞれの深さ寸法L1,L2,L3,L4に対応した周波数の圧力波106と干渉することにより、この圧力波106を減衰させることができる。これにより、エロージョンを抑制することができる。
第2の実施の形態は、上述のような深さ寸法L1,L2,L3,L4が異なる複数の孔51によりキャビテーションの圧力波を減衰するもので、その基本的作用については、上述した第1の実施の形態によるものと格別差異はない。特に、第2の実施の形態では、各孔51が異なる周波数に対応した深さ(長さ)L1,L2,L3,L4を有することにより、キャビテーションによる圧力波が広範囲の周波数帯を有していたとしても、この圧力波を効果的に減衰させることができる。これにより、気泡の消滅およびエロージョンの発生を抑制でき、エロージョンに対する方向制御弁31の寿命を向上できる。
次に、図7および図8は、第3の実施の形態を示している。第3の実施の形態の特徴は、ハウジングに対して着脱が可能なプラグの端面(壁面)に複数の有底状の孔を設ける構成としたことにある。なお、第3の実施の形態では、上述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
弁ハウジング32には、油路形成体47の油路43(即ち、弁ハウジング32のタンクポート38)の軸方向(中心軸線)と直交する方向に延びる大径貫通孔61が設けられている。大径貫通孔61は、油路43(タンクポート38)よりも大径、即ち、油路43の内径寸法よりも大きな内径寸法を有し、油路形成体47の油路43に開口している。大径貫通孔61は、油路43と直交する方向(径方向)に延びると共に、弁ハウジング32の外面と弁ハウジング32の油路43の内周面との間を貫通している。そして、弁ハウジング32の大径貫通孔61には、弁ハウジング32とは別部材からなり大径貫通孔61を封止する大径プラグ62が設けられている。
大径プラグ62は、例えば、大径貫通孔61に螺合により取付けられている。そして、大径プラグ62の先端側の端面62Aには、複数の有底状の孔63が設けられている。孔63は、大径プラグ62の軸方向に貫通しない有底孔として穿孔により形成されている。この場合、大径プラグ62の先端側の端面62Aは、油路43(タンクポート38)の内周面と同一面となるように形成することが好ましい。即ち、大径プラグ62を大径貫通孔61に取付けたときに、大径プラグ62の端面62Aが油路43(タンクポート38)の内周面と同一面となるように、大径プラグ62の寸法、形状を設定することが好ましい。換言すれば、大径プラグ62の端面62Aと油路43(タンクポート38)の内周面とを、滑らかに連続する周面とすることが好ましい。
さらに、大径貫通孔61の内周面と大径プラグ62の外周面との間には、例えば、シールリング(オーリング)とも呼ばれるシール部材(図示せず)を設けることにより、これらの間を封止することができる。大径プラグ62は、例えば、弁ハウジング32と同じ材質(素材)により構成してもよいし、弁ハウジング32とは異なる材質(素材)により構成してもよい。例えば、大径プラグ62は、弁ハウジング32よりもエロージョンに対する耐久性の高い材質(例えば、高硬度の材料)を用いてもよいし、大径プラグ62の表面(端面62A)に熱処理、表面処理等の硬化処理を施してもよい。
第3の実施の形態は、上述のような大径プラグ62に複数の有底状の孔63を設ける構成としたもので、その基本的作用については、上述した第1の実施の形態によるものと格別差異はない。特に、第3の実施の形態では、弁ハウジング32に大径貫通孔61を設けると共に、この大径貫通孔61を封止する大径プラグ62に孔63を設けている。このため、弁ハウジング(の油路壁面)に孔を直接形成する構成と比較して、孔63の加工を容易(簡単)に行うことができる。また、複数の孔63を設ける場合に、それぞれの孔63をプラグで封止する必要もなくなる。これにより、孔63を容易に設けることができ、コストを抑えつつ寿命を長くすることができる。即ち、「低コスト化」と「長寿命化」とを高い次元で両立することができる。なお、大径プラグ62に設ける孔63の深さ寸法は互いに異ならせてもよい。
次に、図9ないし図12は、第4の実施の形態を示している。第4の実施の形態の特徴は、油路形成体となる管継手の内周面に孔を設ける構成としたことにある。なお、第4の実施の形態では、上述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
上述した第1〜第3の実施の形態では、弁ハウジング32の油路43の内周面に孔48,51,63を設ける構成としている。これに対して、第4の実施の形態では、弁ハウジング32の油路101には孔を設けていない。第4の実施の形態では、管継手71の油路72の内周面に孔73を設ける構成としている。即ち、第4の実施の形態では、キャビテーションによる気泡103が通過する油路101,72において、弁ハウジング32と管継手71の接合部での急激な油路面積の拡大が生じないような油路形状としている。これと共に、管継手71の油路72に孔73を設け、この孔73(より具体的には、孔73から反射する圧力波)によって、気泡103の圧潰に寄与する油路72内の圧力脈動を減衰する。これにより、エロージョンの発生を抑制できるようにしている。このため、第4の実施の形態でも、第1〜第3の実施の形態と同様に、耐壊食性の高い材料(材質)に変更することによるコストの増大を招くことなく、エロージョンに対する信頼性の向上および寿命の向上を図ることができる。
即ち、第4の実施の形態では、方向制御弁31は、管継手71を備えている。管継手71は、スプール39よりも圧油の流通方向の下流側に位置している。管継手71は、圧油が流通する油路72が形成された油路形成体となるものである。即ち、第4の実施の形態では、油路形成体は、弁ハウジング32の油路101(タンクポート38)と戻り管路16との間を接続する管継手71として形成(構成)されている。
この場合、戻り管路16は、弁ハウジング32の油路101および管継手71の油路72の流路断面積よりも大きな流路断面積の管路となっている。即ち、油路形成体としての管継手71の下流側には、管継手71の油路72の流路断面積よりも大きな流路断面積の管路である戻り管路16が接続されている。そして、管継手71の油路72の内周面には、油路72に直交する方向(油路72の径方向)に延びた有底状の孔73が複数設けられている。
即ち、第4の実施形態では、複数の孔73が、管継手71の油路72の内周面に設けられている。このために、管継手71は、筒状の外側筒部材74と、筒状の減衰スリーブ75と、筒状の抑えプラグ76とを含んで構成されている。外側筒部材74は、内径寸法が大きい大径部74Aと、大径部74Aの軸方向一側(図10の左,右方向の右側)に位置して大径部74Aよりも内径寸法が小さい小径部74Bとを備えている。大径部74A内には、減衰スリーブ75が挿通される。小径部74Bは、弁ハウジング32に接続される。このため、小径部74Bの側面と弁ハウジング32の外面との間には、シールリング、Oリング等のシール部材77が設けられている。
減衰スリーブ75には、内周面と外周面との間を貫通する径方向貫通孔、即ち、孔73が、周方向および軸方向にそれぞれ離間して複数設けられている。減衰スリーブ75は、外側筒部材74の大径部74A内に挿通される。第4の実施形態では、孔73は、減衰スリーブ75の径方向貫通孔の外側開口が外側筒部材74の内周面によって塞がれることにより有底状に構成されている。
抑えプラグ76は、外側筒部材74の軸方向他側(図10の左,右方向の左側)に位置して設けられている。抑えプラグ76は、外側筒部材74の大径部74A内に挿通された減衰スリーブ75を外側筒部材74の小径部74B側に向けて抑えるものである。この場合、抑えプラグ76は、外側筒部材74の大径部74Aの開口端側に、例えば、螺合等により取付けられる。このため、抑えプラグ76の外周面と外側筒部材74の大径部74Aの内周面との間には、シールリング、Oリング等のシール部材78が設けられている。
そして、弁ハウジング32の油路101の内径寸法をD1とし、外側筒部材74の小径部74Bの内径寸法をD2とし、減衰スリーブ75の内径寸法D3とし、抑えプラグ76の内径寸法D4とした場合に、これら内径寸法D1,D2,D3,D4を同じ寸法としている。なお、「同じ寸法」とは、完全に同じ寸法だけでなく、ほぼ同じ、または、多少のずれがある場合も含むものである。即ち、完全に同じ寸法であること(完全に一致させること)が最も好ましいが、例えば、製造誤差やコストの面等から限界がある。このため、必要とする性能(エロージョンの抑制、圧力波の減衰等)を得られるのであれば、それを得られる範囲で多少のずれは許容されるものである(完全に同じ寸法でなくてもよい)。
また、図11に示すように、孔73の内径Dは、少なくとも油路72の内径(即ち、減衰スリーブ72の内径D3)よりも小さくなるように設定している(孔73の断面積<油路72の断面積)。また、孔73の長さ(深さ)をLとし、減衰対象であるキャビテーションによって生じた圧力波の波長をλとした場合に、孔73の長さLは、前述の数1式となるように設定されている。
このような第4の実施の形態では、図12に示すように、キャビテーションによる気泡103と圧力波106は、弁ハウジング32の油路101を通過し、管継手71の油路72へ到達する。このとき、弁ハウジング32の油路101の内径寸法D1と管継手71の油路72の入口の内径寸法D2は同じであるため、油路断面積の急激な拡大がない。このため、気泡103は、圧潰することなく管継手71の油路72内へと流入する。そして、管継手71の減衰スリーブ75内を圧力波106が通過するときに、孔73内にも圧力波106が伝播し、孔73内で反射する。そして、孔73内で生じた反射波が、油路72の圧力波106と干渉し、圧力波106が減衰される。
即ち、第4の実施の形態では、スプール摺動穴33の切換部36とスプール39の一側ランド41との開口部が絞り部102となることによりキャビテーションが発生すると、このキャビテーションによる気泡103を圧潰させずに管継手71内へと導くことができる。さらに、気泡103と同時に発生する圧力波106が管継手71の減衰スリーブ75内を通過するときに、減衰スリーブ75に設けられた孔73が、圧力波106を反射させることで、油路72の圧力波を減衰する。これにより、管路接合部(油路断面積の急拡大部)の直前での圧力波106の増幅による気泡103の崩壊を抑制することができる。この結果、気泡103が通過する弁ハウジング32の油路101、管継手71、および、戻り管路16でのエロージョンを抑制することができる。
第4の実施の形態は、上述のような管継手71内に孔73を設ける構成としたもので、その基本的作用については、上述した第1の実施の形態によるものと格別差異はない。特に、第4の実施の形態によれば、スプール39よりも圧油の流通方向の下流側の油路形成体は、弁ハウジング32の油路101と戻り管路16との間を接続する管継手71として形成(構成)されている。そして、孔73は、管継手71の油路72の内周面に設けられている。
このため、管継手71の油路72の上流側、即ち、弁ハウジング32の弁収容穴(スプール摺動穴33)と弁体(スプール39)との開口部で、キャビテーションによる気泡103と圧力波106が発生しても、圧力波106は、管継手71の油路72を通過するときに、孔73内から油路72側に向けて反射する圧力波(反射波)と干渉することにより減衰される。これにより、管継手71の油路72内、即ち、管継手71と戻り管路16との接合部(即ち、流路面積が大きくなる部分)よりも上流側で圧力波106を減衰することができる。この結果、管継手71と戻り管路16との接合部(の近傍)のエロージョンを抑制することができる。
第4の実施の形態によれば、管継手71は、外側筒部材74と、外側筒部材74の大径部74Aに挿通され孔73となる径方向貫通孔が設けられた減衰スリーブ75と、減衰スリーブ75を外側筒部材74の小径部74B側に向けて抑える抑えプラグ76と備えている。このため、孔73が設けられた管継手71を、外側筒部材74と、減衰スリーブ75と、抑えプラグ76との3つの部材を用いて簡素に構成することができる。
第4の実施の形態によれば、弁ハウジング32の油路101の内径寸法D1と、管継手71の外側筒部材74の小径部74Bの内径寸法D2と、減衰スリーブ75の内径寸法D3と、抑えプラグ76の内径寸法D4とは、同じ寸法となっている。このため、弁ハウジング32の弁収容穴(スプール摺動穴33)と弁体(スプール39)との開口部で発生したキャビテーションによる気泡103を、弁ハウジング32の油路101内で圧潰させることなく管継手71の油路72内へ流入させることができる。これと共に、キャビテーションによる圧力波106は、管継手71の減衰スリーブ75の孔73である径方向貫通孔内から油路72側に向けて反射する圧力波(反射波)との干渉により減衰させることができる。これにより、気泡103の消滅およびエロージョンの発生を抑制でき、エロージョンに対する油圧機器(方向制御弁31)や管路(戻り管路16)の寿命を向上できる。
次に、図13は、第5の実施の形態を示している。第5の実施の形態の特徴は、減衰スリーブを外径の異なる複数の減衰スリーブ体により構成すると共に、減衰スリーブ体と外側筒部材との間にスペーサを設ける構成としたことにある。なお、第5の実施の形態では、上述した第4の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
第5の実施の形態では、減衰スリーブ81は、軸方向に並んで配置されそれぞれ径方向の厚みが異なる複数の減衰スリーブ体82A,82B,82Cにより構成されている。即ち、減衰スリーブ81は、それぞれ内径が同じで、かつ、外径寸法が異なる3つの減衰スリーブ体82A,82B,82Cを備えている。減衰スリーブ体82A,82B,82Cは、いずれも、筒状に形成されている。減衰スリーブ体82A,82B,82Cには、内周面と外周面との間を貫通する径方向貫通孔、即ち、孔83が、周方向および軸方向にそれぞれ離間して複数設けられている。
この場合、各減衰スリーブ体82A,82B,82Cは、外径寸法が異なるため、径方向貫通孔の長さ寸法は、減衰スリーブ体82A,82B,82C毎に異なる。そして、減衰スリーブ体82A,82B,82Cは、外側筒部材74の大径部74Aに挿通されている。この場合、外側筒部材74の大径部74Aの内径寸法よりも小さい外径寸法の減衰スリーブ体82A,82Bは、筒状のスペーサ84A,84Bと共に外側筒部材74の大径部74A内に挿通されている。即ち、減衰スリーブ体82A,82Bの外周面と外側筒部材74の大径部74Aの内周面との間には、複数の減衰スリーブ体82A,82B,82Cの内周面の位置が互いに一致するように、減衰スリーブ体82A,82Bの外周面と大径部74Aの内周面との間を満たす筒状のスペーサ84A,84Bが設けられている。
このような第5の実施の形態では、外側筒部材74の大径部74Aの内径寸法よりも小さい外径寸法の減衰スリーブ体82A,82Bの孔83は、減衰スリーブ体82A,82Bの径方向貫通孔の外側開口がスペーサ84A,84Bの内周面によって塞がれることにより有底状に構成されている。外側筒部材74の大径部74Aの内径寸法と同じ外径寸法の減衰スリーブ体82Cの孔83は、減衰スリーブ体82Cの径方向貫通孔の外側開口が外側筒部材74の大径部74Aの内周面によって塞がれることにより有底状に構成されている。これにより、複数の孔83の深さ寸法を、減衰スリーブ体82A,82B,82C毎に異ならせている。
このような第5の実施の形態では、深さ寸法が異なる複数の孔83から反射する圧力波(反射波)が、それぞれの孔83の深さ寸法に対応した周波数の圧力波と干渉することにより、幅広い周波数帯を有する圧力波を減衰することができる。即ち、キャビテーションによる圧力波が幅広い周波数帯を有していても、深さ寸法が異なる複数の孔83からの反射波が、それぞれの深さ寸法に対応した周波数の圧力波と干渉することにより、この圧力波を減衰させることができる。これにより、エロージョンを抑制することができる。
第5の実施の形態は、上述のような減衰スリーブ体82A,82B,82Cとスペーサ84A,84Bとを用いるもので、その基本的作用については、上述した第4の実施の形態によるものと格別差異はない。特に、第5の実施の形態では、減衰スリーブ81は、径方向の厚みがそれぞれ異なる複数の減衰スリーブ体82A,82B,82Cにより構成されており、かつ、減衰スリーブ体82A,82Bの外周面と外側筒部材74の大径部74Aの内周面との間に筒状のスペーサ84A,84Bが設けられている。このため、孔83となる径方向貫通孔の長さ寸法を、それぞれの減衰スリーブ体82A,82B,82C毎に異ならせることができる。即ち、孔83となる各径方向貫通孔が異なる周波数に対応した長さを有することにより、キャビテーションによる圧力波が広範囲の周波数帯を有していたとしても、圧力波を効果的に減衰させることができる。これにより、気泡の消滅およびエロージョンの発生を抑制でき、エロージョンに対する弁装置(方向制御弁31)、管継手71の寿命を向上できる。
次に、図14は、第6の実施の形態を示している。第6の実施の形態の特徴は、弁ハウジングの油路の開口と減衰スリーブとの間に接続スリーブを設ける構成としたことにある。なお、第6の実施の形態では、上述した第4の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
第6の実施の形態も、第4および第5の実施の形態と同様に、管継手91の油路92の内周面に、孔93が設けられている。第6の実施の形態では、管継手91は、外側筒部材94、減衰スリーブ95、抑えプラグ96に加え、筒状の接続スリーブ97を備えている。外側筒部材94は、内径寸法が大きい大径部94Aと、大径部94Aよりも内径寸法が小さい小径部94Bとにより構成されている。外側筒部材94内には、接続スリーブ97および減衰スリーブ95が挿通されている。減衰スリーブ95には、内周面と外周面との間を貫通する径方向貫通孔、即ち、孔93が設けられている。抑えプラグ96は、外側筒部材94の大径部94A内に挿通された減衰スリーブ95および接続スリーブ97を外側筒部材94の小径部94B側に向けて抑えるものである。
接続スリーブ97は、外側筒部材94の内周側で、かつ、弁ハウジング32の油路101の開口と減衰スリーブ95との間に、小径部94Bと大径部94Aとにわたって挿通されている。接続スリーブ97の内周面は、弁ハウジング32の油路101の開口と減衰スリーブ95の内周面とを滑らかに接続するテーパ面となっている。即ち、第6の実施の形態では、弁ハウジング32の油路101の内径寸法に対して、減衰スリーブ95の内径寸法が大きくなっている。そして、弁ハウジング32の油路101の内周面と減衰スリーブ95の内周面との間を、接続スリーブ97のテーパ状の内周面により滑らかに連続させている。
このように、第6の実施の形態では、管継手91の外側筒部材94内に接続スリーブ97と減衰スリーブ95とが挿入される。接続スリーブ97の内径は、一端側が接続先の弁ハウジング32の油路101の内径と同じ寸法であり、他端側が減衰スリーブ95の内径と同じ寸法である。そして、接続スリーブ97の内周面は、異なる内径寸法の両端に向かって比例的に変化するように形成されている。このため、キャビテーションによる気泡は、弁ハウジング32の油路101から接続スリーブ97を介して減衰スリーブ95に流入する。このとき、キャビテーションに伴って発生する圧力波も同様に弁ハウジング32の油路101から減衰スリーブ95に伝播するが、接続スリーブ97によって油路断面積が徐々に変化するため、圧力波が増幅されずに減衰スリーブ95へと伝播する。従って、弁ハウジング32の油路101の内径寸法が管継手91の内径寸法および戻り管路16の内径寸法と異なる場合でも、接続スリーブ97の形状を変更、交換するだけで、油路断面積の急拡大部をなくすことができる。この結果、油路断面積の急拡大部での圧力波の増幅による気泡の崩壊を抑制することができる。
第6の実施の形態は、上述のような接続スリーブ97を用いるもので、その基本的作用については、上述した第4の実施の形態によるものと格別差異はない。特に、第6の実施の形態では、外側筒部材94の内周側で、かつ、弁ハウジング32の油路101の開口と減衰スリーブ95との間に接続スリーブ97が挿通されている。そして、接続スリーブ97の内周面は、弁ハウジング32の油路101の開口と減衰スリーブ95の内周面とを滑らかに接続するテーパ面となっている。このため、管継手91の内径(減衰スリーブ95の内径)が接続先の油路の内径(弁ハウジング32の油路101の内径)と異なる場合でも、接続スリーブ97によって緩やかに油路92の内径を拡大することができる。
即ち、弁ハウジング32の油路101と管継手91の減衰スリーブ95との間の急激な油路断面積の変化を抑制できる。これにより、弁ハウジング32の油路101と管継手91の減衰スリーブ95との間の油路断面積の変化に基づく気泡の圧潰を抑制することができ、弁ハウジング32の油路101および接続スリーブ97の内周面でエロージョンが発生することを抑制できる。しかも、接続先となる弁ハウジング32の油路101の内径寸法が異なる場合でも、その内径に応じた接続スリーブ97に変更するだけで、弁ハウジング32の油路101と管継手91の減衰スリーブ95の内周面とを滑らかに連続させることができる。このため、接続先の油路101の内径に合せて複数の種類の管継手を用意する場合と比較して、コストを低減することができる。
なお、各実施の形態では、弁装置として、ブームシリンダ5Dに対する圧油の供給と排出を切換える方向制御弁31を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、アームシリンダ5E、バケットシリンダ5F、走行用油圧モータ、旋回用油圧モータ等に用いる方向制御弁に適用してもよい。また、これ以外にも、例えば、圧力制御弁、流量制御弁、リリーフ弁、絞り弁等、弁体と弁体収容穴との開口部の流路面積が他の部分よりも小さい絞り部となることによりキャビテーション(気泡および圧力波)が発生する可能性のある各種の弁装置に適用することができる。
各実施の形態では、建設機械として、エンジン12により駆動されるエンジン式の油圧ショベル1を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、エンジンと電動モータとにより駆動されるハイブリッド式の油圧ショベル、電動モータにより駆動される電動式の油圧ショベルに適用することができる。また、油圧ショベルに限らず、ホイールローダ、油圧クレーン、ブルドーザ等、各種の建設機械に広く適用することができる。さらに、各実施の形態は例示であり、異なる実施の形態で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。