以下、本発明に係る燃料電池車両の一実施形態を図面に基づき詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る燃料電池車両の概念図であり、図2は、図1に示す燃料電池車両で用いる燃料電池システムのシステム構成図である。図3は、図1、図2に示す燃料電池車両の一実施形態の主要部分の側面を示す要部模式図であり、図4は、図3の底面を示す要部模式図であり、図5は、図3、図4の要部展開斜視図である。
先ず、本発明に係る燃料電池車両について、図1を参照して説明する。図1において、燃料電池車両1は乗用車等の車両であり、車両前方においてフロントルームRが形成されている。フロントルームRには、燃料電池スタック10と、補機の一部として、コンプレッサ22、気液分離器37、および水素ポンプなどの燃料ガスポンプ38が収容されている。コンプレッサ22は、燃料電池スタック10に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給系20の一部を構成している。気液分離器37および燃料ガスポンプ38は、燃料電池スタック10から排出された燃料オフガスを燃料電池スタック10に循環させる循環流路36を構成している(図2参照)。
燃料電池車両1は、車両前方において、フロントルームRと、搭乗者が搭乗するキャビンCとの間に、これらを区画するダッシュパネル40を備えている。ダッシュパネル40は、鋼またはアルミニウム合金などの金属製のパネルであり、気液分離器37に比べて剛性が高い。ダッシュパネル40は、キャビンCの床面を構成するフロアボード41とこのフロアボード41から傾斜して上方に延在するトーボード42とを備えている。ダッシュパネル40は、キャビンCの空間を確保するための図示していない補強材を備えている。前記補強材は燃料ガスポンプ38に比べて剛性が高い。
図3に示すように、燃料電池スタック10は、スタックフレーム2の上部に載置され、スタックフレーム2は、フロントルームRに固定されている。コンプレッサ22は、コンプレッサブラケット3を介してスタックフレーム2の下部に吊下げた状態で取付け固定されている。燃料ガスポンプ38は、スタックフレーム2からダッシュパネル40側に突出した状態でかつブラケット4を介して吊下げられた状態で、スタックフレーム2の下部に取付けられている。
また、気液分離器37は、スタックフレーム2および燃料ガスポンプ38からダッシュパネル40側に突出した状態で、燃料ガスポンプ38の下部に取付けられている。燃料ガスポンプ38は、たとえば、鉄系、アルミニウム系などの金属材料からなる金属製の機器であり、気液分離器37は、たとえば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアミド(PA)などの樹脂製の機器である。そして、燃料電池車両1のリア部分には、燃料電池スタック10に水素ガスを供給する燃料ガス供給系30を構成する燃料ガス供給源31が搭載されている。
つぎに、本発明に係る燃料電池車両1で用いる燃料電池システムのシステム構成について、図2を参照して説明する。図2に示される燃料電池システムは、例えば、単位セルである燃料電池セルを複数個積層させて構成された燃料電池(燃料電池スタック)10と、燃料電池10に空気等の酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給系20と、燃料電池10に水素等の燃料ガスを供給する燃料ガス供給系30とを備えている。
例えば、固体高分子型燃料電池10の燃料電池セルは、イオン透過性の電解質膜と、該電解質膜を挟持するアノード側触媒層(アノード電極)およびカソード側触媒層(カソード電極)とからなる膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)を備えている。MEAの両側には、燃料ガスもしくは酸化剤ガスを供給するとともに電気化学反応によって生じた電気を集電するためのガス拡散層(GDL:Gas Diffusion Layer)が形成されている。GDLが両側に配置された膜電極接合体は、MEGA(Membrane Electrode & Gas Diffusion Layer Assembly)と称され、MEGAは、一対のセパレータにより挟持されている。ここで、MEGAが燃料電池の発電部であり、ガス拡散層がない場合には、MEAが燃料電池の発電部となる。
酸化剤ガス供給系20は、例えば、燃料電池10(のカソード電極)に酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス供給流路25と、燃料電池10に供給され、各燃料電池セルで電気化学反応に供された後の酸化剤オフガスを燃料電池10から排出する酸化剤ガス排出流路29と、を備えている。さらに、酸化剤ガス供給流路25を介して供給される酸化剤ガスを燃料電池10を介さずに酸化剤ガス排出流路29へと流通させるバイパス流路26とを有する。酸化剤ガス供給系20の各流路は、例えば、ゴムホースや金属製のパイプ等の配管によって構成することができる。
酸化剤ガス供給流路25には、上流側から、エアクリーナ21、コンプレッサ22、インタクーラ23等が備えられ、酸化剤ガス排出流路29には、マフラ28等が備えられている。なお、酸化剤ガス供給流路25(のエアクリーナ21)には、例えば、図示を省略する大気圧センサ、エアフローメータ等が設けられる。
酸化剤ガス供給流路25において、エアクリーナ21は、大気中から取り込む酸化剤ガス(空気等)中の塵埃を除去する。コンプレッサ22は、前記エアクリーナ21を介して導入された酸化剤ガスを圧縮し、圧縮された酸化剤ガスをインタクーラ23へ圧送する。インタクーラ23は、コンプレッサ22から圧送されて導入された酸化剤ガスを通過させるときに、例えば冷媒との熱交換によって冷却し、燃料電池10(のカソード電極)に供給する。酸化剤ガス供給流路25には、インタクーラ23と燃料電池10との間の酸化剤ガスの流れを遮断するための入口弁25Vが設けられている。
バイパス流路26は、一端が酸化剤ガス供給流路25(のインタクーラ23もしくはその下流側)に接続され、他端が酸化剤ガス排出流路29に接続されている。バイパス流路26には、コンプレッサ22によって圧送され、インタクーラ23によって冷却されて排出された酸化剤ガスが、燃料電池10をバイパスして酸化剤ガス排出流路29へ向けて流れる。このバイパス流路26には、酸化剤ガス排出流路29へ向けて流れる酸化剤ガスを遮断して当該バイパス流路26を流れる酸化剤ガスの流量を調整するためのバイパス弁26Vが設けられている。
酸化剤ガス排出流路29において、マフラ28は、酸化剤ガス排出流路29に流れる酸化剤オフガス(排出ガス)を、例えば、気相と液相とに分離して外部に排出する。また、酸化剤ガス排出流路29には、燃料電池10に供給される酸化剤ガスの背圧を調整するための調圧弁29Vが設けられる。調圧弁29Vの下流側に、前記したバイパス流路26が接続されている。
一方、燃料ガス供給系30は、例えば、水素等の高圧の燃料ガスを貯留する水素タンク等の燃料ガス供給源31と、燃料ガス供給源31からの燃料ガスを燃料電池10(のアノード電極)へ供給する燃料ガス供給流路35と、燃料電池10から排出された燃料オフガス(未消費の燃料ガス)を燃料ガス供給流路35に還流させる循環流路36と、循環流路36に分岐接続されて循環流路36内の燃料オフガスを外部へ排出(大気放出)する燃料ガス排出流路39とを有する。燃料ガス供給系30の各流路は、例えば、ゴムホースや金属製のパイプ等の配管によって構成することができる。
燃料ガス供給流路35には、燃料ガス供給流路35を開閉して燃料電池10へ向けて流れる燃料ガスを遮断するための遮断弁35Vと、燃料ガス供給流路35を流れる燃料ガスの圧力を調整(減圧)するためのレギュレータ34と、調圧された燃料ガスを燃料電池10へ向けて供給するためのインジェクタ33とが設けられる。遮断弁35Vを開くと、燃料ガス供給源31に貯留された高圧の燃料ガスが燃料ガス供給源31から燃料ガス供給流路35に流出し、レギュレータ34やインジェクタ33により調圧(減圧)されて、燃料電池10(のアノード電極)に供給される。
循環流路36には、上流側(燃料電池10側)から、気液分離器37、循環ポンプ(水素ポンプともいう)38等が備えられている。気液分離器37は、循環流路36に流れる燃料ガス(水素等)に含まれる生成水を気液分離して貯留する。この気液分離器37から分岐して、燃料ガス排出流路39が設けられている。循環ポンプ38は、気液分離器37で気液分離した燃料オフガスを圧送して燃料ガス供給流路35へ循環させる。
燃料ガス排出流路39には、燃料ガス排出流路39を開閉して、気液分離器37で分離した生成水と燃料電池10から排出された燃料オフガスの一部を排出するためのパージ弁39Vが設けられる。燃料ガス排出流路39のパージ弁39Vの開閉調整を経て排出される燃料オフガスは、酸化剤ガス排出流路29を流れる酸化剤オフガスと混合され、マフラ28を介して外部に大気放出される。
上記構成を有する燃料電池システムは、酸化剤ガス供給系20によって燃料電池10(のカソード電極)に供給された空気等の酸化剤ガスと、燃料ガス供給系30によって燃料電池10(のアノード電極)に供給された水素等の燃料ガスとの電気化学反応によって発電を行う。
つぎに、本実施液体に係る燃料電池車両1の特徴構成について、図3〜6を参照して以下に詳細に説明する。本実施形態の燃料電池車両1は、燃料電池スタック10に供給される酸化剤ガスを圧縮して吐出するコンプレッサ22と、燃料電池スタック10から排出された燃料オフガスより気液を分離する気液分離器37と、気液分離器37で液体分を分離された燃料オフガスを燃料電池スタック10へ循環させる水素ポンプ等の燃料ガスポンプ38と、をフロントルームR内に備えている。
より具体的には、燃料電池スタック10は、スタックフレーム2の上部に搭載されており、コンプレッサ22は、燃料ガスポンプ38よりも車両前方側において、スタックフレーム2の下部に、コンプレッサブラケット3を介して取付けられている。
燃料ガスポンプ38は、コンプレッサ22よりも車両の後方側において、スタックフレーム2からダッシュパネル40側に突出した状態で、ブラケット4を介してスタックフレーム2の下部に取付けられている。さらに、燃料ガスポンプ38は、L型ブラケット5を介して、燃料電池スタック10(具体的にはスタックケース)に固定されている。
気液分離器37は、スタックフレーム2および燃料ガスポンプ38からダッシュパネル40側に突出した状態で、燃料ガスポンプ38の下部に、ボルトナット等の締結部材37aを貫通孔37bに挿通させて取付けられている。
このような取付け状態により、燃料ガスポンプ38の車両後方の端面は、燃料電池スタック10の車両後方の端面より後方に突出しており、気液分離器37の車両後方の端面は、燃料ガスポンプ38の車両後方の端面より後方に突出している。
具体的には、ダッシュパネル40に対する、気液分離器37、燃料ガスポンプ38、および、スタックフレーム2の、燃料電池車両1の前後方向の間隔S1〜S3は、以下に示す関係を満たす。これらの間隔S1〜S3のうち、ダッシュパネル40と気液分離器37との間隔S1が最も小さく、次に、燃料ガスポンプ38との間隔S2が間隔S1よりも大きく、スタックフレーム2との間隔S3が間隔S2よりもさらに大きくなる。
ダッシュパネル40に一番接近している気液分離器37は、本質的には樹脂製であり、燃料ガスポンプ38に比べて剛性が低い。さらに、燃料ガスポンプ38は、本質的には金属製であり、気液分離器37に比べて剛性が高い。
また、燃料電池車両1では、図4および図5に示すように、燃料ガスポンプ38は、燃料電池車両の平面視において、燃料ガスポンプ38を駆動するモータMの回転軸線L1が、燃料電池車両1の前後方向に沿った基準線L2に対して、傾斜するように、ブラケット4を介してスタックフレーム2に固定されている。
このため、燃料ガスポンプ38は燃料電池車両1の進行方向に対して、斜めに配置固定され、燃料ガスポンプ38の後方の角部がダッシュパネル40の前面に対向し、この角部がダッシュパネル40に接近している。また、気液分離器37の後方の角部も、ダッシュパネル40の前面に対向し、この角部がダッシュパネル40にさらに接近している。
燃料ガスポンプ38をスタックフレーム2に取付け固定するための鉄製のブラケット4は、水平方向に延在する取付け部4aを有している。さらに、このブラケット4は、取付け部4aの両側から下方に延在し、燃料ガスポンプ38を挟み込む挟持部4b、4bを有し、さらに、挟持部4b、4bから外側に向けて延在する取付け部4c、4cを有しており、概略鞍形に形成されている。そして、取付け部4c、4cには、燃料ガスポンプ38を固定するための溶接ナット4dがそれぞれに2個、合計4個固着されている。
さらに、ブラケット4の取付け部4aには、このブラケット4をスタックフレーム2に固定する(支持する)ための支持孔4eが貫通して形成されている。この支持孔4eにボルト等の締結部材4fを挿通して、スタックフレーム2の下面に開口している雌ねじ穴にねじ込んでブラケット4をスタックフレーム2の下方に固定することができる構成となっている。この支持孔4eにより、燃料ガスポンプ38は、ブラケット4の支持孔4eを中心として水平方向に回動可能に固定される(支持される)ことになる。
燃料ガスポンプ38は、両側面から突出して水平方向に延在するつば状部38a、38aが形成され、つば状部38a、38aにはブラケット4の取付け部4c、4cに固着された4個の溶接ナット4dに対応して4個の貫通孔38bが形成されている。この4個の貫通孔38bにボルト38c等を挿通し、スタックフレーム2の下方に締結部材4fで固定したブラケット4に燃料ガスポンプ38を取付けることができる。
さらに、図5、図6に示すように、燃料ガスポンプ38は、スタックフレーム2の下方に固定されたブラケット4に取付けられることで、燃料ガスポンプ38の上部が、L型ブラケット5により固定されている。すなわち、L型ブラケット5は、L字状の下部アーム5aがボルト等で燃料ガスポンプ38の上面に固定され、L字状の上部アーム5bが燃料電池スタック10のスタックケースに固定されており、燃料ガスポンプ38はブラケット4と、L型ブラケット5で燃料電池スタック10に取付けられている。燃料ガスポンプ38を、ブラケット4と、L型ブラケット5で燃料電池スタック10に取付けることで、取付け状態が安定する。
気液分離器37は、樹脂で軽量に形成され、燃料ポンプ38の下面に形成された2つの雌ねじ穴にボルト等の締結部材37aをねじ込んで取付けるようになっている。気液分離器37は、燃料電池スタック10から排出された燃料オフガスより気液を分離する機能を有しており、分離された液体部分は燃料電池スタック10から排出された酸化剤オフガスと合流され、燃料電池車両1の外部に排出されるようになっている。
前記の如く構成された本実施形態の燃料電池車両の作用について、図7、図8を参照して以下に説明する。燃料電池車両1が例えば障害物等に衝突すると、車両のフロントルームRが押し潰されて変形し、燃料電池スタック10やこれに付随する補機類は障害物によって後方に移動する。スタックフレーム2に取付けられた燃料電池スタック10、コンプレッサ22、燃料ガスポンプ38および気液分離器37は後方に移動し、ダッシュパネル40に接近する。
衝突の衝撃が小さい場合は、図7に示すように、燃料電池スタック10や補機類はダッシュパネル40に接近するだけですむ。気液分離器37とダッシュパネル40とが当接したときには、燃料ガスポンプ38とダッシュパネル40との間隔は(S2−S1)となり、スタックフレーム2とダッシュパネル40との間隔は(S3−S1)となる。
衝突の衝撃が大きい場合には、1番後方に位置する気液分離器37が金属製のダッシュパネル40に衝突して破壊される。気液分離器37は、樹脂製であるので、これが容易に破壊され衝撃を吸収する。衝撃がさらに大きい場合には、燃料ガスポンプ38がダッシュパネル40と衝突する。
燃料ガスポンプ38がダッシュパネル40と衝突すると、図8に示すように、燃料ガスポンプ38の後方の角部がダッシュパネル40と当接し、その後方の角部に反力が発生する。ここで、燃料ガスポンプ38は、ブラケット4およびL型ブラケット5でスタックフレーム2に取付けられており、下方に位置するブラケット4は、取付け部4aの1つの支持孔4eにボルト等の締結部材4fが挿通されてスタックフレーム2に固定されている。さらに、燃料ガスポンプ38は、燃料ガスポンプ38を駆動するモータMの回転軸線L1が、燃料電池車両1の前後方向に沿った基準線L2に対して、傾斜するように、ブラケット4を介してスタックフレーム2に固定されている。このため、締結部材4fを中心にして燃料ガスポンプ38がダッシュパネル40から離れる方向に回転力が発生する。具体的には、支持孔4eに挿通された締結部材4fを中心として、燃料ガスポンプ38の回転軸線L1が図8において反時計方向(車両外側に向かう方向)に回動する。
燃料ガスポンプ38が反時計方向に回動すると、燃料ガスポンプ38はダッシュパネル40を押圧しなくなるため、燃料ガスポンプ38のダッシュパネル40への押圧を回避することができる。これにより、燃料ガスポンプ38およびダッシュパネル40の損傷を回避することができる。なお、燃料ガスポンプ38の回動により、上方に位置するL型ブラケット5はねじられて変形し、衝撃を吸収する。燃料ガスポンプ38の回動によりスタックフレーム2とダッシュパネル40との間隔はS4となる。
このように、衝突等でフロントルームRが潰され、燃料電池スタック10やコンプレッサ22、燃料ガスポンプ38、気液分離器37等の補機類がスタックフレーム2とともに後退しても、燃料ガスポンプ38が回動して逃げることで燃料ガスポンプ38の損傷を抑えることができる。燃料ガスポンプ38に電源を供給する高圧ケーブル(図示せず)や、循環流路36(図6参照)を構成する低圧配管の損傷も防ぐことができる。
以上、本発明の一実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。例えば、燃料ガスポンプの基準線として、ポンプを駆動するモータの駆動軸の回転軸線の例を示したが、これに限られるものでなく、燃料ガスポンプの重心を通る長手方向の中心線を用いてもよい。
また、衝突時に燃料ガスポンプをダッシュパネルから逃げるように回動させる回転中心として、締結ボルトの例を示したが、ピン等の軸材を用いて回動させるように構成してもよい。