JP2019118279A - 細胞凝集促進剤 - Google Patents

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Abstract

【課題】浮遊培養において培地に添加することにより細胞の凝集を抑制又は促進することのできる成分を開発し、それを用いて細胞凝集を制御することにより細胞の大量生産を可能にする方法を提供する。【解決手段】細胞内のミオシンシグナル伝達経路に関与するシグナル伝達因子の活性を阻害又は抑制する薬剤、又は同因子の活性を促進又は増幅する薬剤を培地中に投与して浮遊培養し、細胞凝集の促進及び抑制を制御する。また、それによって所望の大きさの細胞凝集塊を製造する。【選択図】なし

Description

本発明は、細胞凝集促進剤、細胞凝集塊製造方法、及びそれにより製造された細胞凝集塊、並びに細胞凝集調節方法、及び細胞凝集調節キットに関する。
ES細胞やiPS細胞等の多能性幹細胞は、無限に増殖できる能力と、様々な細胞に分化する能力を有している。多能性幹細胞のこのような性質を利用した再生医療における難治性疾患や生活習慣病等に対する根本的治療法は、以前から期待されていたが、近年の研究により、その実用化の可能性が高まっている。
例えば、多能性幹細胞から神経細胞、心筋細胞、血液細胞、及び網膜細胞等の様々な細胞をインビトロ(in vitro)の実験で分化誘導することは既に可能になっている(非特許文献1)。
一方で、多能性幹細胞を用いた各種臓器の再生に関しては、実用化に向けてまだ課題が残されている。その一つが細胞生産の問題である。一般に、臓器再生では大量の細胞が必要となる。例えば肝臓の再生には、約2×1011個の細胞を要する。そのため、細胞を効率的かつ大量に生産しなければならないが、一般的な平面基板上での接着培養では、前記細胞数を培養するのに10cm以上の基板が必要となる。これは10cmディッシュで約2万枚分に相当する。平面基板表面上での接着培養のような二次元的培養では、得られる細胞数が培養面積に依存するためスケールアップが困難であり、再生医療における細胞供給方法として現実的ではない。
この問題を解決するために、近年では、細胞を液体培地中で浮遊させながら三次元的に培養する浮遊培養が開発されており、面積レベルではなく容積レベルでの培養が可能なことからスケールアップが容易であることから、様々なバリュエーションの浮遊培養が報告されている。
例えば、非特許文献2は、浮遊培養の細胞培養容器としてスピナーフラスコを用い、強い撹拌力により液体培地を撹拌しながらヒト多能性幹細胞の浮遊培養を行い均一な大きさのスフェロイドを製造する方法が開示されている。
また、非特許文献3は、微小なマイクロウェルが形成された基板を用い、各マイクロウェル中で均一な大きさのスフェロイドを作製する方法が開示されている。
また、非特許文献4は、粘性や比重の調製された培地を用い、多能性幹細胞の浮遊状態を保持するとともに細胞同士の衝突を抑制しながら培養を行う方法が開示されている。
また、特許文献1は、細胞を液体培地中で旋回培養しながら培養して、細胞の凝集塊を作製する技術が開示されている。
また、特許文献2は、細胞塊同士の接着を防ぐための手段として培地に水溶性高分子を添加して粘性を高めて多能性幹細胞を細胞塊の平均直径が約200以上、300μm以下となるまで浮遊培養する方法が開示されている。
特開2003-304866号公報 国際公開WO2013/077423号パンフレット
Vuoristo S. et al.,PLoS One,2013 8(10):e76205 Olmer R.et al.,2012,Tissue Engineering:Part C,18(10):772-784 Ungrin MD et al.,PLoS ONE,2008,3(2):e1565 Otsuji GT et al.,2014,Stem Cell Reports,2:734−745
本発明者らは、膜タンパク質や細胞膜の細胞間での非特異的な吸着、細胞表面のカドヘリンを介した細胞間の接着が多能性幹細胞等の接着性細胞を浮遊培養する上で重要な機構であることを見出した。つまり、浮遊培養の技術に求められることは、細胞の膜タンパクや細胞表面のカドヘリンなどの結合に障害を与えることなく、適度な大きさの細胞凝集塊を作製しなければならないという課題が存在する。しかしながら、非特許文献2〜4、特許文献1又は2に開示された浮遊培養の技術には、以下の問題があった。
非特許文献2の方法では剪断応力により細胞死が生じやすいという問題があった。
非特許文献3の方法は大規模化が困難であることや、培地の交換が困難である等の問題があった。
非特許文献4の方法では培養時の培地の移動が少ないため酸素や栄養成分が細胞凝集塊に供給され難いという問題があった。
特許文献1では細胞塊の大きさを適度な大きさに制御するための手段が開示されていないという問題があった。
特許文献2では細胞塊同士の接着を防ぐための手段として培地に水溶性高分子を添加して粘性を高めることが記載されている。このため非特許文献3と同様に、酸素や栄養成分が細胞凝集塊に供給され難いという問題があった。
そこで、本発明者らは、上記課題を解決するために、国際公開WO2016/121737号パンフレットに開示の方法を開発した。この方法は、リゾホスファチジン酸(LPA)、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)等のリゾリン脂質を含む培地中で細胞を浮遊培養することを特徴としている。この発明によれば、浮遊培養での細胞凝集を抑制できることから、細胞の膜タンパクや細胞表面のカドヘリンに障害を与えることなく適度な大きさの細胞凝集塊を生産することが可能になる。
ところで、国際公開WO2016/121737号パンフレットには、細胞凝集を抑制する成分としてリゾリン脂質のみを開示している。もしも、リゾリン脂質以外で、浮遊培養において培地中に添加することで細胞の凝集を抑制又は促進することのできる他の成分を提供できれば、細胞凝集塊の大きさを、機械学的/物理学的な手段に依らずに、より適切な制御が可能となり得る。
上記課題を解決するために本発明者らが鋭意研究を行った結果、浮遊培養において、細胞内のミオシンシグナル伝達経路に関与するシグナル伝達因子の活性を阻害又は抑制する薬剤を培地中に投与することによって、浮遊培養細胞の凝集が促進される現象を見出した。逆に同因子の活性を促進又は増幅する薬剤で処理した場合、浮遊培養中の細胞凝集が抑制され得る。これらの作用を利用することで浮遊培養細胞の凝集の促進及び抑制を制御することができ、また、それにより所望の大きさの細胞凝集塊を製造することも可能となる。本発明は、これらの知見に基づいて完成に至ったものであり、以下を提供する。
(1)細胞の浮遊培養に用いるための細胞凝集促進剤であって、ミオシンシグナル伝達経路におけるシグナル伝達因子の活性を阻害又は抑制する薬剤を含む、前記細胞凝集促進剤。
(2)前記薬剤の濃度が0.1μg/mL以上30.0mg/mL以下である、(1)に記載の細胞凝集促進剤。
(3)前記薬剤がミオシン阻害剤である、(1)又は(2)に記載の細胞凝集促進剤。
(4)前記ミオシン阻害剤がブレビスタチンである、(3)に記載の細胞凝集促進剤。
(5)前記細胞が幹細胞である、(1)から(4)のいずれかに記載の細胞凝集促進剤。
(6)細胞凝集塊の製造方法であって、培地中で細胞を浮遊培養する工程を含み、前記培地がミオシンシグナル伝達経路におけるシグナル伝達因子の活性を阻害又は抑制する薬剤を含む、前記製造方法。
(7)前記薬剤の培地中における濃度が2.9ng/mL以上3.0mg/mL以下である、(6)に記載の製造方法。
(8)前記薬剤がミオシン阻害剤である、(6)又は(7)に記載の製造方法。
(9)前記ミオシン阻害剤がブレビスタチンである、(8)に記載の製造方法。
(10)前記細胞が幹細胞である、(6)から(9)のいずれかに記載の製造方法。
(11)(6)から(10)のいずれかに記載の製造方法により得られた細胞凝集塊。
(12)細胞の凝集を調節する方法であって、ミオシンシグナル伝達経路におけるシグナル伝達因子の活性を阻害又は抑制する薬剤を含む培地中で細胞を浮遊させながら培養する工程と、ミオシンシグナル伝達経路におけるシグナル伝達因子の活性を促進又は増幅する薬剤を含む培地中で細胞を浮遊させながら培養する工程と、を含む前記方法。
(13)前記ミオシンシグナル伝達経路におけるシグナル伝達因子の活性を阻害又は抑制する薬剤がミオシン阻害剤である、(12)に記載の方法。
(14)前記ミオシンシグナル伝達経路におけるシグナル伝達因子の活性を促進又は増幅する薬剤がミオシン活性化剤である、(12)又は(13)に記載の方法。
(15)前記細胞が幹細胞である、(12)から(14)のいずれかに記載の方法。
(16)ミオシンシグナル伝達経路におけるシグナル伝達因子の活性を阻害又は抑制する薬剤と、ミオシンシグナル伝達経路におけるシグナル伝達因子の活性を促進又は増幅する薬剤とを含む、細胞凝集調節キット。
(17)前記ミオシンシグナル伝達経路におけるシグナル伝達因子の活性を阻害又は抑制する薬剤がミオシン阻害剤である、(16)に記載の細胞凝集調節キット。
(18)前記ミオシンシグナル伝達経路におけるシグナル伝達因子の活性を促進又は増幅する薬剤が、ミオシン活性化剤である、(16)又は(17)に記載の細胞凝集調節キット。
(19)さらに培地を含む、(16)から(18)のいずれかに記載の細胞凝集調節キット。
(20)培地と、ミオシンシグナル伝達経路におけるシグナル伝達因子の活性を阻害又は抑制する薬剤とを含む、細胞培養培地。
(21)前記薬剤の濃度が2.9ng/mL以上3.0mg/mL以下である、(20)に記載の細胞培養培地。
(22)前記薬剤がミオシン阻害剤である、(20)又は(21)に記載の細胞培養培地。
(23)さらに増殖因子を含む、(20)から(22)のいずれかに記載の細胞培養培地。
(24)幹細胞の培養に用いるための、(20)から(23)のいずれかに記載の細胞培養培地。
(25)細胞凝集塊を作製するための、(20)から(24)のいずれかに記載の細胞培養培地。
(26)培地と、ミオシンシグナル伝達経路におけるシグナル伝達因子の活性を促進又は増幅する薬剤とを含む、細胞培養培地。
(27)前記薬剤の濃度が2.9ng/mL以上3.0mg/mL以下である、(26)に記載の細胞培養培地。
(28)前記薬剤がミオシン活性化剤である、(26)又は(27)に記載の細胞培養培地。
(29)さらに増殖因子を含む、(26)から(28)のいずれかに記載の細胞培養培地。
(30)幹細胞の培養に用いるための、(26)から(29)のいずれかに記載の細胞培養培地。
(31)細胞凝集塊を作製するための、(26)から(30)のいずれかに記載の細胞培養培地。
(32)細胞の凝集を促進する方法であって、培地中で細胞を浮遊培養する工程を含み、
前記培地がミオシンシグナル伝達経路におけるシグナル伝達因子の活性を阻害又は抑制する薬剤を含む、前記方法。
(33)前記薬剤の培地中における濃度が2.9ng/mL以上3.0mg/mL以下である、(32)に記載の方法。
(34)前記薬剤がミオシン阻害剤である、(32)又は(33)に記載の方法。
(35)前記ミオシン阻害剤がブレビスタチンである、(34)に記載の方法。
(36)前記細胞が幹細胞である、(32)から(35)のいずれかに記載の方法。
(37)細胞の浮遊培養に用いるための細胞凝集抑制剤であって、ミオシンシグナル伝達経路におけるシグナル伝達因子の活性を促進又は増幅する薬剤を含む、前記細胞凝集抑制剤。
(38)前記薬剤の濃度が0.2μg/mL以上30.0mg/mL以下である、(37)に記載の細胞凝集抑制剤。
(39)前記薬剤がミオシン活性化剤である、(37)又は(38)に記載の細胞凝集抑制剤。
(40)前記ミオシン活性化剤がオメカンチブ・メカルビルである、(39)に記載の細胞凝集抑制剤。
(41)前記細胞が幹細胞である、(37)から(40)のいずれかに記載の細胞凝集抑制剤。
(42)細胞の凝集を抑制する方法であって、培地中で細胞を浮遊培養する工程を含み、前記培地がミオシンシグナル伝達経路におけるシグナル伝達因子の活性を促進又は増幅する薬剤を含む、前記方法。
(43)前記薬剤の培地中における濃度が2.9ng/mL以上3.0mg/mL以下である、(42)に記載の方法。
(44)前記薬剤がミオシン活性化剤である、(42)又は(43)に記載の方法。
(45)前記ミオシン活性化剤がオメカンチブ・メカルビルである、(44)に記載の方法。
(46)前記細胞が幹細胞である、(42)から(45)のいずれかに記載の方法。
(47)細胞と、培地と、ミオシンシグナル伝達経路におけるシグナル伝達因子の活性を促進又は増幅する薬剤とを含む、細胞培養組成物。
(48)前記薬剤の濃度が2.9ng/mL以上3.0mg/mL以下である、(47)に記載の細胞培養組成物。
(49)前記薬剤がミオシン活性化剤である、(47)又は(48)に記載の細胞培養組成物。
(50)前記ミオシン活性化剤がオメカンチブ・メカルビルである、(49)に記載の細胞培養組成物。
(51)さらに増殖因子を含む、(47)から(50)のいずれかに記載の細胞培養組成物。
(52)前記細胞が幹細胞である、(47)から(51)のいずれかに記載の細胞培養組成物。
(53)前記細胞の形態が細胞凝集塊である、(47)から(52)のいずれかに記載の細胞培養組成物。
(54)細胞と、培地と、ミオシンシグナル伝達経路におけるシグナル伝達因子の活性を阻害又は抑制する薬剤とを含む、細胞培養組成物。
(55)前記薬剤の濃度が2.9ng/mL以上3.0mg/mL以下である、(54)に記載の細胞培養組成物。
(56)前記薬剤がミオシン阻害剤である、(54)又は(55)に記載の細胞培養組成物。
(57)さらに増殖因子を含む、(54)から(56)のいずれかに記載の細胞培養組成物。
(58)前記細胞が幹細胞である、(54)から(57)のいずれかに記載の細胞培養組成物。
(59)前記細胞の形態が細胞凝集塊である、(54)から(58)のいずれかに記載の細胞培養組成物。
本発明の細胞凝集促進剤によれば、培地に配合することで浮遊培養細胞の凝集を促進することができる。
本発明の細胞凝集塊製造方法によれば、浮遊培養で効率的に細胞凝集塊を製造することができる。
本発明の細胞凝集調節方法によれば、浮遊培養中の細胞凝集の促進及び抑制を制御して、細胞凝集塊を所望の大きさに調製することができる。
本発明の細胞凝集調節キットによれば、それを使用することで、浮遊培養中の細胞の凝集を制御し、所望の大きさの細胞凝集塊を容易に調製することができる。
ブレビスタチンの添加による細胞の凝集促進効果を示す図である。図中、0μMはブレビスタチン無添加の対照用培地における浮遊培養1日目の顕微鏡観察像を、また10μMは10μMのブレビスタチンを添加した培地における浮遊培養1日目の顕微鏡観察像を、それぞれ示す。 図1で示した、0μMと10μMのブレビスタチンの各試料における浮遊培養1日目の死細胞数を示す図である。 ブレビスタチン存在下又は非存在下でヒトiPS細胞を浮遊培養して細胞凝集塊を作製し、その後継続して浮遊培養したときの、培養1日目から5日目までの細胞の顕微鏡写真である。 ブレビスタチン存在下又は非存在下でヒトiPS細胞を浮遊培養して細胞凝集塊を作製し、その後継続して浮遊培養したときの、培養1日目から5日目までのグルコース消費量を示す図である。 ブレビスタチン存在下又は非存在下でヒトiPS細胞を浮遊培養して細胞凝集塊を作製し、その後継続して浮遊培養したときの、培養5日目の細胞収量を示す図である。 ブレビスタチン存在下でヒトiPS細胞を浮遊培養して細胞凝集塊を作製し、その後継続して浮遊培養したときの、培養5日目の細胞の、未分化マーカー(SOX2、OCT4及びNanog)陽性率の測定結果を示す。
1.細胞凝集促進剤
1−1.概要
本発明の第一の態様は、細胞凝集促進剤である。本態様の細胞凝集促進剤は、浮遊培養用の薬剤であって、細胞内のミオシンシグナル伝達経路におけるシグナル伝達因子の活性を阻害又は抑制する薬剤を有効成分として含むことを特徴とする。本態様の細胞凝集促進剤により、浮遊培養中の細胞における凝集を促進させ、細胞凝集塊を容易に製造することができる。
1−2.用語の定義
本明細書で使用する以下の用語について定義する。なお、特に断りのない限り、本項に記載の以下の定義は、本発明の他の態様においても共通する。
≪細胞≫
本明細書において発明の対象となる「細胞」は、浮遊培養が可能な接着性細胞である。「接着性細胞」とは、細胞間接着、又は細胞−基質間接着が可能な細胞をいい、この接着性細胞が細胞又は基質と接着することを「細胞接着」という。本明細書では、特に断りのない限り、細胞接着とは細胞間接着を指すものとする。
本明細書における細胞は、多細胞生物に由来する細胞であればよい。好ましくは動物由来細胞、より好ましくは哺乳動物由来細胞である。例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類、イヌ、ネコ、ウサギ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ等の家畜又は愛玩動物、そしてヒト、アカゲザル、ゴリラ、チンパンジー等の霊長類が挙げられる。特に好ましくは、ヒト由来細胞である。
本明細書における細胞の種類は限定しない。例えば、生体組織に由来する細胞、生体組織に由来する細胞から派生した細胞、幹細胞、又は幹細胞から分化した細胞が挙げられる。
本明細書において「生体組織」とは、生物の生体を構成する各種組織をいう。例えば、上皮組織、結合組織、筋組織、及び神経組織等が挙げられる。
「幹細胞(stem cell)」とは、様々な細胞への分化能、及び自己複製能を持つ細胞をいう。例えば、成体幹細胞、及び多能性幹細胞等が挙げられる。
「成体幹細胞(adult stem cell)」とは、成体の各組織中に存在し、最終分化が未完了で、ある程度の多分化能を有する幹細胞であって、体性幹細胞(somatic stem cell)又は組織性幹細胞(tissue stem cell)とも呼ばれる。例えば、間葉系幹細胞、神経幹細胞、腸管上皮幹細胞、造血幹細胞、毛包幹細胞、色素幹細胞等が挙げられる。「間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cells;MSCs)」とは、主に骨芽細胞、脂肪細胞、筋細胞、軟骨細胞等の間葉系に属する細胞への分化能を有する細胞である。「神経幹細胞」とは、主に神経細胞、及びグリア細胞への分化能を有する細胞である。「腸管上皮幹細胞」とは、主に小腸や大腸等の消化管内壁を構成する上皮細胞への分化能を有する細胞である。「造血幹細胞」とは、主に赤血球、白血球、血小板等の血液細胞への分化能を有する細胞である。「毛包幹細胞」とは、毛幹細胞及び毛根鞘細胞等の毛包上皮性細胞の他、脂腺細胞、基底細胞への分化能を有する細胞である。そして、「色素幹細胞」とは、主に色素細胞への分化能を有する細胞である。
「多能性幹細胞」とは、生体を構成する全ての種類の細胞に分化することができる多分化能(多能性)を有し、適切な条件下のインビトロ(in vitro)での培養において多能性を維持したまま無限に増殖を続けることができる細胞をいう。例えば、胚性幹細胞(ES細胞:embryonic stem cell)、胚性生殖幹細胞(EG細胞:embryonic germ cell)、生殖系幹細胞(GS細胞:Germline stem cell)、そして人工多能性幹細胞(iPS細胞:induced pluripotent stem cells)等が挙げられる。「ES細胞」とは、初期胚より調製された多能性幹細胞である。「EG細胞」とは、胎児の始原生殖細胞より調製された多能性幹細胞である(Shamblott M.J.et al.,1998, Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,95:13726−13731)。「GS細胞」とは、細胞精巣より調製された多能性幹細胞である(Conrad S.,2008,Nature,456:344−349)。また、「iPS細胞」とは、分化済みの体細胞に少数の初期化因子をコードする遺伝子を導入することによって体細胞を未分化状態にするリプログラミングが可能となった多能性幹細胞をいう。
本明細書で使用する多能性幹細胞は、市販の細胞又は分譲を受けた細胞を用いてもよいし、新たに作製した細胞を用いてもよい。なお、限定はしないが、本明細書の各発明に用いる場合、多能性幹細胞は、iPS細胞又はES細胞が好ましい。
本明細書で使用するiPS細胞が市販品の場合、限定はしないが、例えば253G1株、201B6株、201B7株、409B2株、454E2株、HiPS−RIKEN−1A株、HiPS−RIKEN−2A株、HiPS−RIKEN−12A株、Nips−B2株、TkDN4−M株、TkDA3−1株、TkDA3−2株、TkDA3−4株、TkDA3−5株、TkDA3−9株、TkDA3−20株、hiPSC 38−2株、MSC−iPSC1株、BJ−iPSC1株等を使用することができる。
また、本明細書で使用するiPS細胞が新たに調製された細胞の場合、導入される初期化因子の遺伝子の組み合わせは、限定はしないが、例えばOCT3/4遺伝子、KLF4遺伝子、SOX2遺伝子及びc−Myc遺伝子の組み合わせ(Yu J,et al.2007,Science,318:1917−20.)、OCT3/4遺伝子、SOX2遺伝子、LIN28遺伝子及びNanog遺伝子の組み合わせ(Takahashi K,et al.2007,Cell,131:861‐72.)を使用することができる。これらの因子の細胞への導入形態は特に限定されないが、例えば、プラスミドを用いた遺伝子導入、合成RNAの導入、タンパク質として直接導入などが挙げられる。また、microRNAやRNA、低分子化合物等を用いた方法で作製されたiPS細胞を用いてもよい。さらに、新たに作製された臨床グレードのiPS細胞を用いてもよい。
本明細書で使用するES細胞が市販品の場合、限定はしないが、例えばKhES−1株、KhEs−2株、KhEs−3株、KhEs−4株、KhEs−5株、SEES1株、SEES2株、SEES3株、SEES−4株、SEEs−5株、SEEs−6株、SEEs−7株、HUES8株、CyT49株、H1株、H9株、HS−181株等を使用することができる。
≪細胞凝集≫
本明細書において「細胞凝集」とは、複数の細胞が三次元的に集合して、集塊を形成することをいう。異なる細胞による凝集と同一細胞による凝集があるが、本明細書ではいずれの凝集も包含する。同一細胞による凝集は、1つの細胞の増殖によって集塊が形成される場合も含む。細胞凝集の機構としては、限定はしないが、膜タンパク質や細胞膜の細胞間での非特異的な吸着、細胞表面のカドヘリンを介した細胞間の接着等が挙げられる。
本明細書において「細胞凝集塊」とは、細胞凝集によって形成される塊状の細胞集団であって、スフェロイドとも呼ばれる。細胞凝集塊は、通常、略球状を呈する。細胞凝集塊を構成する細胞は、1種類以上の前記細胞であれば特に限定されない。例えば、ヒト多能性幹細胞又はヒト胚性幹細胞等の多能性幹細胞で構成された細胞凝集塊は、多能性幹細胞マーカーを発現している及び/又は多能性幹細胞マーカーが陽性を呈する細胞を含む。
多能性幹細胞マーカーは、多能性幹細胞で特異的に又は過剰に発現している遺伝子マーカーで、例えば、Alkaline Phosphatase、NANOG、OCT4、SOX2、TRA−1−60、c−Myc、KLF4、LIN28、SSEA−4、SSEA−1等が例示できる。
多能性幹細胞マーカーは、当該技術分野において任意の検出方法により検出することができる。細胞マーカーを検出する方法としては、限定はしないが、例えばフローサイトメトリーが挙げられる。フローサイトメトリーにおいて、検出試薬として蛍光標識抗体を用いる場合、ネガティブコントロール(アイソタイプコントロール)と比較してより強い蛍光を発する細胞が検出されたときに、当該細胞は当該マーカーについて「陽性」と判定される。フローサイトメトリーによって解析した蛍光標識抗体について陽性を呈する細胞の比率は、「陽性率」と記載されることがある。また、蛍光標識抗体は、当該技術分野において公知の任意の抗体を使用することができ、例えば、イソチオシアン酸フルオレセイン(FITC)、フィコエリスリン(PE)、アロフィコシアニン(APC)等により標識された抗体が挙げられるが、これらに限定されない。
細胞凝集塊を構成する細胞が多能性幹細胞である場合、多能性幹細胞マーカーの陽性率は、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは91%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは93%以上、より好ましくは94%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは96%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、より好ましくは100%以下とすることができる。多能性幹細胞マーカーを発現する及び/又は多能性幹細胞マーカーが陽性を呈する細胞の割合が前記範囲内である細胞凝集塊は、未分化性が高く、より均質な細胞集団である。
本明細書において「細胞(の)凝集(を)促進(する)」とは、細胞凝集作用を促進し、それにより細胞凝集塊の形成又は増大を促進することをいう。本明細書において「細胞凝集促進剤」とは、細胞凝集を促進する効果を有する薬剤をいう。
本明細書において「細胞(の)凝集(を)抑制(する)」とは、細胞凝集作用を抑制し、それにより細胞凝集塊の形成又は増大を抑制することをいう。本明細書において「細胞凝集抑制剤」とは、細胞凝集を抑制する効果を有する薬剤をいう。
本明細書において「細胞凝集(の)凝集(を)調節(する)」とは、細胞凝集作用を促進又は抑制し、それにより細胞凝集塊の形成又は大きさを調節することをいう。
≪培養及び培地≫
本明細書において「浮遊培養」とは、細胞培養方法の一つで、培地中で細胞を浮遊状態で増殖させることをいう。「浮遊培養法」は、細胞を浮遊培養する方法であって、この方法での細胞は、培養液中で凝集した細胞塊で存在する。限定はしないが、本明細書では、細胞を三次元的に培養して大量生産するため方法として使用される。浮遊培養法に対する他の培養方法として、接着培養法がある。「接着培養法」は、細胞を接着培養する方法である。「接着培養」とは、細胞を培養容器等の外部マトリクス等に接着させて、原則単層で増殖させることをいう。本発明で細胞凝集塊を製造し、またその大きさを調節するために、対象となる培養法は、浮遊培養法である。ただし、維持培養で使用される培養法は、この限りではない。なお、前述の接着性細胞は、通常、接着培養のみならず、浮遊培養での培養も可能である。
本明細書において「培地」とは、細胞を培養するために調製された液状又は固形状の物質をいう。原則として、細胞の増殖及び/又は維持に不可欠の成分を必要最小限以上包含する。本明細書の培地は、特に断りがない限り、動物由来細胞の培養に使用する動物細胞用の液体培地が該当する。
本明細書において「基礎培地」とは、様々な動物細胞用培地の基礎となる培地をいう。単体でも培養は可能であり、また様々な培養添加物を加えて、目的に応じた各種細胞に特異的な培地に調製することもできる。本明細書で使用する基礎培地としては、BME培地、BGJb培地、CMRL1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地(Iscove’S Modified Dulbecco’S Medium)、Medium 199培地、Eagle MEM培地、αMEM培地、DMEM培地(Dulbecco’S Modified Eagle’S Medium)、ハムF10培地、ハムF12培地、RPMI 1640培地、Fischer’S培地、及びこれらの混合培地(例えば、DMEM/F12培地(Dulbecco’S Modified Eagle’S Medium/Nutrient Mixture F−12 Ham))等の培地を使用することができるが、特に限定されない。DMEM/F12培地としては特に、DMEM培地とハムF12培地の重量比を好ましくは60/40以上40/60以下の範囲、例えば58/42、55/45、52/48、50/50、48/52、45/55、又は42/58等で混合した培地を用いる。その他、ヒトiPS細胞やヒトES細胞の培養に使用されている培地も好適に使用することができる。
本発明で用いる培地は、好ましくは血清を含まない培地、すなわち無血清培地である。
本明細書において「培養添加物」とは、培養目的で培地に添加される血清以外の物質である。細胞凝集の促進又は抑制の目的で添加される物質は、培養添加物には含まない。培養添加物の具体例として、限定はしないが、L−アスコルビン酸、インスリン、トランスフェリン、セレン、炭酸水素ナトリウム、増殖因子、脂肪酸又は脂質、アミノ酸(例えば、非必須アミノ酸)、ビタミン、サイトカイン、抗酸化剤、2−メルカプトエタノール、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類、抗生剤等が挙げられる。インスリン、トランスフェリン、及びサイトカインは、動物(好ましくは、ヒト、マウス、ラット、ウシ、ウマ、ヤギ等)の組織又は血清等から分離した天然由来のものであってもよいし、遺伝子工学的に作製した組換えタンパク質であってもよい。また、増殖因子は、限定するものではないが、例えば、FGF2(Basic fibroblast growth factor−2)、TGF−β1(Transforming growth factor−β1)、Activin A、IGF−1、MCP−1、IL−6、PAI、PEDF、IGFBP−2、LIF及びIGFBP−7を使用することができる。抗生剤は、限定するものではないが、例えば、ペニシリン、ストレプトマイシン、アンホテリシンB等を使用することができる。本発明で用いる培地の培養添加物として、特に好ましい増殖因子は、FGF2及び/又はTGF−β1である。
本発明で用いる培地は、前記培養添加物を1種以上含むことができる。前記培養添加物を添加する培地は、限定はしないが、前記基礎培地が一般的である。
培養添加物は、溶液、誘導体、塩又は混合試薬等の形態で培地に添加することができる。例えば、L−アスコルビン酸は、2−リン酸アスコルビン酸マグネシウム等の誘導体の形態で培地に添加してもよく、セレンは亜セレン酸塩(亜セレン酸ナトリウム等)の形態で培地に添加してもよい。また、インスリン、トランスフェリン、及びセレンに関しては、ITS試薬(インスリン-トランスフェリン-セレン)の形態で培地に添加することもできる。また、L−アスコルビン酸、インスリン、トランスフェリン、セレン及び炭酸水素ナトリウムから選択される少なくとも1つが既に添加された市販の培地を使用することもできる。インスリン及びトランスフェリンを添加した市販の培地としては、CHO−S−SFM II(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)、Hybridoma−SFM(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)、eRDF Dry Powdered Media(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)、UltraCULTURETM(BioWhittaker社)、UltraDOMATM(BioWhittaker社)、UltraCHOTM(BioWhittaker社)、UltraMDCKTM(BioWhittaker社)、STEMPRO(登録商標)hESC SFM(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)、mTeSR1(Veritas社)、及びTeSR2(Veritas社)等が挙げられる。
なお、本発明で用いる培地として最も好ましいものは、L−アスコルビン酸、インスリン、トランスフェリン、セレン及び炭酸水素ナトリウム、並びに、少なくとも1つの増殖因子を含む無血清培地である。特に好ましくは、L−アスコルビン酸、インスリン、トランスフェリン、セレン及び炭酸水素ナトリウム、並びに、少なくとも1つの増殖因子(好ましくはFGF2及びTGF−β1)を含み、血清を含まないDMEM/F12培地である。
≪ミオシンシグナル伝達経路及びミオシンシグナル伝達因子≫
本明細書において「ミオシンシグナル伝達経路」とは、ミオシンを起点として細胞間接着の抑制に機能するシグナル伝達経路をいう。
本明細書において「ミオシンシグナル伝達因子」とは、ミオシンシグナル伝達経路を構成し、それを制御する働きを有する因子であって、原則としてタンパク質である。例えば、ミオシン(重鎖及び軽鎖を含む)が挙げられる。
「ミオシン」は、アクチンフィラメント上を移動して、アクチンを制御するモータータンパク質であり、ATPの加水分解によってエネルギーを得て、アクチンとの相互作業による運動に変換することが知られている。ミオシンはスーパーファミリーを形成しており、様々なクラスが知られている。例えばRichards, T.A.and Cavalier−Smith,T.(2005,Nature,436:1113−1118)によると、構造ドメイン発生系統に基づき、37種類のミオシンタイプが報告されている。本明細書におけるミオシンタイプは、この文献で報告されているタイプ(クラス)であれば特に限定しない。例えば、タイプ1、タイプ2、タイプ3、タイプ4、タイプ5、タイプ6、タイプ7(クラスIII)、タイプ8、タイプ9(クラスXVII)、タイプ10(クラスI)、タイプ11、タイプ12、タイプ13、タイプ14、タイプ15、タイプ16(クラスVII)、タイプ17(クラスXV)、タイプ18(クラスXII)、タイプ19、タイプ20(クラスX)、タイプ21、タイプ22、タイプ23、タイプ24、タイプ25、タイプ26、タイプ27、タイプ28、タイプ29(クラスII)、タイプ30(クラスV/XI)、タイプ31、タイプ32、タイプ33、タイプ34(クラスIX)、タイプ35(クラスXVI)、タイプ36(クラスXVIII)、タイプ37(クラスIV)などが挙げられる。また、その他クラスVI、クラスVIII、クラスXIII、クラスXIVでもよい。タイプ7(クラスIII)、タイプ10(クラスI)、タイプ12、タイプ16(クラスVII)、タイプ17(クラスXV)、タイプ20(クラスX)、タイプ27、タイプ29(クラスII)、タイプ30(クラスV/XI)、タイプ34(クラスIX)、タイプ35(クラスXVI)、タイプ36(クラスXVIII)はヒトで発現していることが報告されており、特に重要である。
各ミオシンをコードする遺伝子も特に限定しないが、例えば、MYO1A、MYO1B、MYO1C、MYO1D、MYO1E、MYO1F、MYO1G、MYO1H、MYH1、MYH2、MYHIII、MYH4、MYH6、MYH7、MYH7B、MYH8、MYH9、MYH10、MYH11、MYH13、MYH14、MYH15、MYH16、MYOIIIA、MYOIIIB、MYO5A、MYO5B、MYO5C、MYO6、MYO7A、MYO7B、MYO9A、MYO9B、MYO10、MYO15A、MYO18A、MYO18Bなどが挙げられる。本明細書においてミオシンファミリーのクラスは特に限定はしないが、重要なクラスとして二量体を形成し、骨格筋の収縮等に関与するミオシンIIが挙げられる。ミオシンIIには、さらに非筋肉系と筋肉系があるが、特に限定はしない。非筋肉系のミオシンII(non−muscle myosin II;非筋細胞ミオシンII)は筋細胞を含めた全ての細胞に存在する。また、非筋細胞ミオシンIIにはミオシンII重鎖アイソフォーム(MHC−IIA、MHC−IIB、MHC−IIC)が存在し、それぞれがホモダイマーを形成してミオシンIIA、IIB、IICとなる。後述するブレビスタチンは非筋細胞ミオシンII(IIAとIIB)に作用することが知られている。なお、本明細書では、特に断りのない限り、「シグナル伝達因子」と表記した場合には、ミオシンシグナル伝達因子及び/又は前記ミオシンタイプを指すものとする。
1−3.構成
本態様の細胞凝集促進剤は、ミオシンシグナル伝達因子の活性を阻害又は抑制する薬剤を有効成分として含むことを特徴とする。
「ミオシンシグナル伝達因子の活性を阻害又は抑制する薬剤」(本明細書では、しばしば「ミオシンシグナル伝達因子阻害剤」と略称する)とは、前記ミオシンシグナル伝達因子の活性を阻害又は抑制する作用を有する薬剤であって、細胞凝集促進剤における有効成分である。すなわち、ミオシンシグナル伝達因子阻害剤の活性によって、浮遊培養における細胞の凝集を促進することができる。
本態様のミオシンシグナル伝達因子は、シグナル伝達促進因子である。一般に、シグナル伝達経路を制御するシグナル伝達因子には、シグナル伝達促進因子とシグナル伝達抑制因子が存在する。「シグナル伝達促進因子」とは、シグナル伝達をONにするアクセル作用を有する制御因子である。また「シグナル伝達抑制因子」とは、シグナル伝達をOFFにするブレーキ作用を有する制御因子である。本発明は、ミオシンシグナル伝達経路を阻害又は抑制する薬剤で処理すると、細胞の凝集が促進されるという新たな知見に基づく。つまり、ミオシンシグナル伝達因子阻害剤がこの効果を奏するためには、阻害剤の標的であるミオシンシグナル伝達因子がミオシンシグナル伝達のシグナル伝達促進因子でなければならない。
ミオシンシグナル伝達因子阻害剤は、ミオシンシグナル伝達経路のシグナル伝達促進因子を阻害又は抑制できる薬剤であれば特に限定はしない。例えば、シグナル伝達促進因子がミオシンの場合、ミオシンシグナル伝達因子阻害剤は、ミオシンの活性を阻害又は抑制するミオシン阻害剤であればよい。ミオシン阻害剤の具体例として、限定はしないが、ブレビスタチン(Blebbistatin)、CK1122534、Omecamtiv mecarbil、Ammosamides A&B、CTK2018448、Manassantin B、N−benzyl−P−toluene sulphonamide(BTS)、2,3−Butanedione monoxime(BDM)、Pentachloropseudilin(PCIP)、Pentabromopseudilin(PBP)、MyoVin―1、2,4,6−Triiodophenol(TIP)及びそれらの誘導体、並びにミオシンに対するアンチセンス核酸、RNA干渉誘導性核酸(例えば、siRNA)、ドミナントネガティブ変異体、及びそれらの発現ベクターが挙げられる。また、ミオシンの活性を阻害又は抑制する化合物であれば、その阻害又は抑制機構は特に限定されない。例えば、ATP(アデノシン三リン酸)のミオシンへの結合を阻害する機構、ミオシンに結合したATPの加水分解を阻害する機構、ミオシンからの無機リン酸の遊離を阻害する機構、ミオシンからのADP(アデノシン二リン酸)の遊離を阻害する機構などが挙げられる(Lisa,M.Bond et al.,2013,Future Med. Chem.,5(1):41−52)。特にブレビスタチンは、ミオシンからの無機リン酸の遊離を阻害する機構が知られており、また非筋肉性ミオシンIIの選択的かつ強力な可逆性阻害剤で、脊椎動物細胞の向伸性、運動性を即座に阻害する作用を有するので便利である。なお、ブレビスタチンには光学異性体(対掌体)が存在するが、本明細書のブレビスタチンは、特に断りのない限り、ミオシン阻害活性を有する光学異性体を意味する。例えば、(−)−ブレビスタチン又は(S)−ブレビスタチンが該当する。以下に(−)−ブレビスタチンの構造式を例示する。
Figure 2019118279
本態様の細胞凝集促進剤に含まれるミオシンシグナル伝達因子阻害剤は、1種、又は異なる2種以上の組み合わせであってもよい。
本態様の細胞凝集促進剤は、ミオシンシグナル伝達因子阻害剤と他の成分を組み合わせた組成物であることが好ましい。使用時に希釈液で適当な濃度に希釈して使用してもよい。
細胞凝集促進剤が組成物の場合、細胞凝集促進剤の含まれるミオシンシグナル伝達因子阻害剤の濃度の下限は、細胞凝集促進剤としての効果を奏すれば特に限定されない。例えば、ミオシンシグナル伝達因子阻害剤がブレビスタチンであれば、好ましくは0.10μg/mL(0.36μM)以上、0.15μg/mL(0.5μM)以上、0.29μg/mL(1.0μM)以上、1.46μg/mL(5.0μM)以上、2.92μg/mL(10.0μM)以上、14.62μg/mL(50.0μM)以上、又は29.23μg/mL(0.1mM)以上であればよい。上限は、細胞が死滅しない濃度で、かつ溶媒に溶解可能であれば特に限定されない。例えば、ミオシンシグナル伝達因子阻害剤がブレビスタチンであれば、好ましくは0.10mg/mL(0.36mM)以下、0.15mg/mL(0.5mM)以下、0.29mg/mL(1.0mM)以下、1.46mg/mL(5.0mM)以下、2.92mg/mL(10.0mM)以下、14.62mg/mL(50.0mM)以下、又は30.0mg/mL(0.1M)以下であればよい。
本態様の細胞凝集促進剤が、組成物の場合、有効成分であるミオシンシグナル伝達因子阻害剤と組み合わされる他の成分として、担体が挙げられる。担体には、溶媒及び/又は賦形剤が含まれる。
本態様の細胞凝集促進剤は、溶媒として、水、バッファ(PBSを含む)、生食、有機溶媒(DMSO、DMF、キシレン、低級アルコール)等が挙げられる。
本態様の細胞凝集促進剤は、賦形剤として、抗生剤、緩衝剤、増粘剤、着色剤、安定化剤、界面活性剤、乳化剤、防腐剤、保存剤、抗酸化剤等も含有していてもよい。抗生剤は特に限定されないが、例えばペニシリン、ストレプトマイシン、アンホテリシンB等を使用することができる。緩衝剤としては、リン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液、グリシン緩衝液などが挙げられる。増粘剤としては、ゼラチン、多糖類などが挙げられる。着色剤としては、フェノールレッドなどが挙げられる。安定化剤としては、アルブミン、デキストラン、メチルセルロース、ゼラチンなどが挙げられる。界面活性剤としては、コレステロール、アルキルグリコシド、アルキルポリグルコシド、アルキルモノグリセリルエーテル、グルコシド、マルトシド、ネオペンチルグリコール系、ポリオキシエチレングリコール系、チオグルコシド、チオマルトシド、ペプチド、サポニン、リン脂質、脂肪酸ソルビタンエステル、脂肪酸ジエタノールアミドなどが挙げられる。乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルなどが挙げられる。防腐剤としては、アミノエチルスルホン酸、安息香酸、安息香酸ナトリウム、エタノール、エデト酸ナトリウム、カンテン、dl−カンフル、クエン酸、クエン酸ナトリウム、サリチル酸、サリチル酸ナトリウム、サリチル酸フェニル、ジブチルヒドロキシトルエン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、窒素、デヒドロ酢酸、デヒドロ酢酸ナトリウム、2−ナフトール、白糖、ハチミツ、パラオキシ安息香酸イソブチル、パラオキシ安息香酸イソプロピル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸メチル、l−メントール、ユーカリ油などが挙げられる。保存剤としては、安息香酸、安息香酸ナトリウム、エタノール、エデト酸ナトリウム、乾燥亜硫酸ナトリウム、クエン酸、グリセリン、サリチル酸、サリチル酸ナトリウム、ジブチルヒドロキシトルエン、D−ソルビトール、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸イソブチル、パラオキシ安息香酸イソプロピル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸メチル、プロピレングリコール、リン酸などが挙げられる。抗酸化剤としては、クエン酸、クエン酸誘導体、ビタミンC及びその誘導体、リコペン、ビタミンA、カロテノイド類、ビタミンB及びその誘導体、フラボノイド類、ポリフェノール類、グルタチオン、セレン、チオ硫酸ナトリウム、ビタミンE及びその誘導体、αリポ酸及びその誘導体、ピクノジェノール、フラバンジェノール、スーパーオキサイドディスムターゼ(SOD)、グルタチオンペルオキシダーゼ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、グルタチオン還元酵素、カタラーゼ、アスコルビン酸ペルオキシダーゼ、及びこれらの混合物などが挙げられる。
本態様の細胞凝集促進剤は、上記の他にも1種以上の増殖因子を含有してもよい。増殖因子には、例えば、FGF2及びTGF−β1が挙げられる。
細胞凝集促進剤の形態は、液剤、又は固形剤(顆粒剤、散剤、粉剤を含む)のいずれであってもよい。
細胞凝集促進剤の適用形態は特に限定されない。例えば、浮遊培養に用いる培地の形態であってもよいし、浮遊培養用の培地の調製時に配合される添加物の形態であってもよい。
細胞凝集促進剤の適用対象は、浮遊培養法により培養する細胞である。
1−4.効果
本発明の細胞凝集促進剤によれば、浮遊培養系において細胞の凝集を促進し、また略均一な大きさの細胞凝集塊を形成させることができる。それによって、限られた空間の中で、大量の細胞を効率的に生産することが可能となる。また、本発明の細胞凝集促進剤を用いた幹細胞の浮遊培養では、幹細胞の未分化性を維持することができる。
2.細胞凝集促進方法
2−1.概要
本発明の第二の態様は細胞凝集促進方法である。本発明の細胞凝集促進方法は、第一態様の細胞凝集促進剤又はその有効成分を含む培地で細胞を浮遊培養することによって、培養液中の細胞の凝集を促進させる方法である。本発明の細胞凝集促進方法によれば、浮遊培養系において細胞の凝集を適度に促進することにより、細胞凝集塊の生産に利用することができる。
2−2.方法
本態様の方法は、浮遊培養工程を必須の工程として、また、維持培養工程並びに回収工程を選択工程として含む。以下、それぞれの工程について、説明をする。
2−2−1.維持培養工程
「維持培養工程」は、浮遊培養工程前の細胞集団、又は浮遊培養工程後、若しくはその後の回収工程後に得られる細胞凝集塊を、未分化性を維持した状態で細胞を増殖させるために培養する工程である。維持培養は、当該分野で既知の動物細胞培養法を利用することができる。例えば、細胞を容器、担体等培養基材に接着させながら培養する接着培養であってもよいし、細胞を培地中で浮遊させながら培養する浮遊培養であってもよい。
以下、限定はしないが、本工程をはじめ、後述する浮遊培養工程で用いる動物細胞培養法について例示し、説明をする。
(細胞)
本工程で使用する細胞は、浮遊培養において細胞凝集が可能な細胞である。前述の「1−2.用語の定義」における「培養及び培地」の項で記載したように、動物細胞が好ましく、ヒト細胞はより好ましい。また、細胞の種類は、幹細胞が好ましく、iPS細胞やES細胞のような多能性幹細胞は特に好ましい。
(培養容器)
培養に用いる培養容器は、容器内面への細胞の接着性が低い容器が好ましい。容器内面への細胞の接着性が低い容器としては、例えば生体適合性がある物質で親水性表面処理されているようなプレートが挙げられる。例えば、NunclonTM Sphera(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)を培養容器として使用できる。
培養容器の形状は特に限定されないが、例えば、ディッシュ状、フラスコ状、ウェル状、バッグ状、スピナーフラスコ状等の形状の培養容器が挙げられる。
使用する培養容器の容量は適宜選択することができ特に限定されないが、培地を収容する部分の底面を平面視したときの面積の下限が、0.32cm以上、0.65cm以上、0.65cm以上、1.9cm以上、3.0cm以上、3.5cm以上、9.0cm以上、又は9.6cm以上で、上限が、1000cm以下、500cm以下、300cm以下、150cm以下、75cm以下、55cm以下、25cm以下、21cm以下、9.6cm以下、又は3.5cm以下であることが好ましい。
(培地)
本工程で使用する培地は、ミオシンシグナル伝達経路に影響を及ぼし得る薬剤を含まない培地である。原則として液体培地を使用する。
培地や培養液の量は、使用する培養容器によって適宜調整すればよい。例えば12ウェルプレート(平面視でのウェル底面の面積が1ウェルあたり3.5cm)を使用する場合は、1ウェルあたりの量を0.5mL以上、1.5mL以下、好ましくは1.3mLとすることができる。また、6ウェルプレート(平面視でのウェル底面の面積が1ウェルあたり9.6cm)を使用する場合には、1ウェルあたりの量を下限は1.5mL以上、2mL以上、又は3mL以上とすることができ、また上限は6.0mL以下、5mL以下、4mL以下とすることができる。さらに、125mL三角フラスコ(容量が125mLの三角フラスコ)を使用する場合は、容器当たりの量を下限は10mL以上、15mL以上、20mL以上、25mL以上、20mL以上、25mL以上、又は30mL以上とすることができ、また上限は50mL以下、45mL以下、又は40mL以下とすることができる。また、容量が500mLの三角フラスコを使用する場合は、容器当たりの量を下限は100mL以上、105mL以上、110mL以上、115mL以上、又は120mL以上とすることができ、また上限は150mL以下、145mL以下、140mL以下、135mL以下、130mL以下、又は125mL以下とすることができる。さらに、容量が1000mLの三角フラスコを使用する場合は、容器当たりの量を下限は250mL以上、260mL以上、270mL以上、280mL以上、又は290mL以上とすることができ、また上限は350mL以下、340mL以下、330mL以下、320mL以下、又は310mL以下とすることができる。さらに、例えば容量が2Lのディスポーザブル培養バッグを使用する場合は、1バッグ当たりの量を下限は100ML以上、200mL以上、300mL以上、400mL以上、500mL以上、600mL以上、700mL以上、800mL以上、900mL以上、又は1000mL以上とすることができ、上限は2000mL以下、1900mL以下、1800mL以下、1700mL以下、1600mL以下、1500mL以下、1400mL以下、1300mL以下、1200mL以下、又は1100mL以下とすることができる。また、容量が10Lのディスポーザブル培養バッグを使用する場合は、1バッグ当たりの量を下限は500mL以上、1L以上、2L以上、3L以上、4L以上、又は5L以上とすることができ、上限は10L以下、9L以下、8L以下、7L以下、又は6L以下とすることができる。後述する第三態様の細胞凝集塊製造方法等では、培地又は培養液量を前記範囲とすることで、適切なサイズの細胞凝集塊を製造することが容易となるため好ましい。
(播種密度)
培養に際して、新たな培地に播種する細胞の密度(播種密度)は、培養時間や培養後の細胞状態、培養後に必要な細胞数を勘案して適宜調整することができる。限定はしないが、通常、下限は0.01×10cells/mL以上、0.1×10 cells/mL以上、又は1×10 cells/mL以上、そして、上限は20×10 cells/mL以下、又は10×10 cells/mL以下の範囲にあればよい。後述する第三態様の細胞凝集塊製造方法等では、播種密度をこの範囲にしたときに、適切な大きさの細胞凝集塊が形成され易いため好ましい。例えば、0.1×10個細胞/mL、0.2×10個細胞/mL、0.3×10個細胞/mL、0.4×10個細胞/mL、0.5×10個細胞/mL、0.6×10個細胞/mL、0.7×10個細胞/mL、0.8×10個細胞/mL、0.9×10個細胞/mL、1×10個細胞/mL、1.5×10個細胞/mL、2×10個細胞/mL、3×10個細胞/mL、4×10個細胞/mL、5×10個細胞/mL、6×10個細胞/ml、7×10個細胞/mL、8×10個細胞/mL、9×10個細胞/mL、10×10個細胞/mLでもよい。
(培養条件)
培養温度、時間、CO濃度等の培養条件は特に限定しない。当該分野における常法の範囲で行えばよい。例えば培養温度は下限が20℃以上、又は35℃以上、そして上限が45℃以下、又は40℃以下であればよいが、好ましくは37℃である。また、培養時間は下限が0.5時間以上又は6時間以上、そして上限が7日間以下、72時間以下、又は48時間以下であればよいが、好ましくは12時間以上24時間以下である。培養時のCO濃度は、下限が4%以上、又は4.5%以上、そして上限が10%以下、又は5.5%以下であればよいが、好ましくは5%である。また、適当な頻度で培地交換を行うことができる。培地交換の頻度は培養する細胞種によって異なるが、例えば、5日に1回以上、4日に1回以上、3日に1回以上、2日に1回以上、1日に1回以上で行えばよい。培地交換は、回収工程と同様の方法で細胞を回収した後、新鮮な培地を添加し、穏やかに細胞凝集塊を分散させた後、再度培養すればよい。
(培養方法)
培養中の培地の流動状態は問わない。静置培養でもよいし、流動培養でもよいが、好ましくは流動培養である。
「静置培養」とは、培養容器内で培地を静置した状態で培養することをいう。接着培養では、通常、この静置培養が採用される。
「流動培養」とは、培地を流動させる条件下で培養することをいう。流動培養の場合、細胞の凝集を促進するように培地を流動させる方法が好ましい。そのような培養方法として、例えば、旋回培養法、揺動培養法、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
「旋回培養法」(振盪培養法を含む)とは、旋回流による応力(遠心力、求心力)により細胞が一点に集まるように培地が流動する条件で培養する方法をいう。具体的には、細胞を含む培地を収容した培養容器を概ね水平面に沿って円、楕円、扁平した円、扁平した楕円等の閉じた軌道を描くように旋回させたり、培養容器は静置させたままでスターラ―バーや撹拌翼のような撹拌子を用いて容器内の培地を旋回させたりすることにより行う。後者は、例えば、撹拌翼の付いたスピナーフラスコ状の培養容器を用いることで達成し得る。そのような培養容器は市販されており、それらを利用することもできる。その場合、培地や培養液の量等は培養容器メーカー推奨の量で使用すればよい。
旋回速度は特に限定されないが、下限は1rpm以上、10rpm以上、50rpm以上、60rpm以上、70rpm以上、80rpm以上、85rpm以上、又は90rpm以上とすることができる。一方、上限は200rpm以下、150rpm以下、120rpm以下、115rpm以下、110rpm以下、105rpm以下、100rpm以下、95rpm以下、又は90rpm以下とすることができる。旋回培養の際の旋回幅は特に限定されないが、下限は、例えば1mm以上、10mm以上、20mm以上、又は25mm以上とすることができる。一方、上限は、例えば200mm以下、100mm以下、50mm以下、30mm以下、又は25mm以下とすることができる。旋回培養の際の回転半径も特に限定されないが、好ましくは旋回幅が前記の範囲となるように設定される。回転半径の下限は例えば5mm以上又は10mm以上であり、上限は例えば100mm以下又は50mm以下とすることができる。特に、後述する第三態様の細胞凝集塊製造方法等では、旋回条件を前記範囲にすることで、適切なサイズの細胞凝集塊を製造することが容易となるため好ましい。
「揺動培養法」とは、揺動(ロッキング)撹拌のような直線的な往復運動により培地に揺動流を付与する条件で培養する方法をいう。具体的には、細胞を含む培地を収容した培養容器を概ね水平面に垂直な平面内で揺動させることにより行う。揺動速度は特に限定されないが、例えば1往復を1回とした場合、下限は1分間に2回以上、4回以上、6回以上、8回以上、又は10回以上、一方、上限は1分間に15回以下、20回以下、25回以下、又は50回以下で揺動すればよい。揺動の際、垂直面に対して若干の角度、すなわち誘導角度を培養容器につけることが好ましい。揺動角度は特に限定されないが、例えば、下限は0.1°以上、2°以上、4°以上、6°以上、又は8°以上、一方、上限は10°以下、12°以下、15°以下、18°以下又は20°以下とすることができる。後述する第三態様の細胞凝集塊製造方法等では、揺動条件を前記範囲とすることで、適切なサイズの細胞凝集塊を製造することが容易となるため好ましい。
さらに、上記旋回と揺動とを組み合わせた運動により撹拌しながら培養することもできる。
本工程で細胞の数をどこまで増やすか、また細胞の状態をどこに合わせるかについては、培養する細胞の種類、細胞凝集の目的、培地の種類や培養条件に応じて適宜定めればよい。
(工程後処理)
本工程後は、常法により培養液を廃棄し、細胞を回収する。この時、細胞は、剥離又は分散処理によって単一の細胞として回収することが好ましい。具体的な方法については、後述の回収工程で詳述する。回収した細胞は、そのまま、又は必要に応じてバッファ(PBSバッファを含む)、生食、又は培地(次の工程で使用する培地か基礎培地が好ましい)で洗浄後、次の工程に供すればよい。
2−2−2.浮遊培養工程
「浮遊培養工程」は、第一態様に記載の細胞凝集促進剤又はその有効成分であるミオシンシグナル伝達因子阻害剤を含む培地中で細胞を浮遊培養する、本発明で必須の工程である。
本工程での細胞培養方法は、基本的に前述の「2−2−1.維持培養工程」に記載の培養方法に準ずる。したがって、ここでは維持培養工程に既述の方法と共通する説明については省略し、本工程に特徴的な点についてのみ詳述する。
(細胞)
本工程で使用する細胞は、限定はしないが、維持培養工程後に調製された細胞が好ましい。細胞の種類も、維持培養工程に記載のように、幹細胞が好ましく、iPS細胞やES細胞のような多能性幹細胞は特に好ましい。また培地に播種する際の細胞の状態は、単一細胞の状態であることが好ましい。
(培地)
本工程は、ミオシンシグナル伝達因子阻害剤を含む培地で培養することを最大の特徴とし、この点において、維持培養工程で使用する培地と相違する。培地の種類は、ミオシンシグナル伝達因子阻害剤を含み、かつ細胞を増殖及び/又は維持できる培地であれば、限定はしない。
本工程で培地中に含まれるミオシンシグナル伝達因子阻害剤の濃度は、細胞凝集を促進することができ、かつ細胞に対する毒性がない又は低い濃度であれば、特に限定はされない。細胞の種類、播種した細胞数、培地の種類等の諸条件に応じて適宜調整すればよい。例えば、ミオシンシグナル伝達因子阻害剤がミオシン阻害剤であるブレビスタチンの場合、下限は、細胞凝集促進剤としての効果を奏すれば特に限定されないが、好ましくは2.9ng/mL(10.0nM)以上、14.6ng/mL(50.0nM)以上、29.2ng/mL(0.1μM)以上、0.15μg/mL(0.5μM)以上、0.29μg/mL(1.0μM)以上、1.46μg/mL(5.0μM)以上、又は2.92μg/mL(10.0μM)以上である。一方、上限は、細胞が死滅しない濃度であれば特に限定されないが、好ましくは0.10mg/mL(0.36mM)以下、0.15mg/mL(0.5mM)以下、0.29mg/mL(1.0mM)以下、1.46mg/mL(5.0mM)以下、2.92mg/mL(10.0mM)以下、14.62mg/mL(50.0mM)以下、30.0mg/mL(0.1M)以下である。
本工程開始時における培地中のミオシンシグナル伝達因子阻害剤の濃度が前記範囲内にあればミオシンシグナル伝達因子阻害剤の添加方法については特に限定はしない。例えば、培地に1種以上のミオシンシグナル伝達因子阻害剤を総量で前記濃度範囲となるように直接投与して調製してもよいし、第一態様の細胞凝集促進剤を培地中の最終濃度が前記濃度範囲となるように添加してもよい。ただし、前述のようにミオシンシグナル伝達因子阻害剤は高濃度であれば細胞に対して有害であり、また、DMSO等の希釈剤も高濃度になると細胞に対して毒性を示す。さらに、培地中に添加する薬剤濃度が高すぎると、培地中の他の成分が逆に希釈されてしまうことから、ミオシンシグナル伝達因子阻害剤は、第1態様の細胞凝集促進剤として添加することが好ましい。
(培養方法)
本工程では、浮遊培養を行う。したがって、培養方法は、培地を流動する流動培養が好ましい。ミオシンシグナル伝達因子阻害剤を含む培地で目的の細胞を浮遊培養することによって、その細胞の凝集を促進することができる。
2−2−3.回収工程
「回収工程」は、維持培養工程又は浮遊培養工程後の培養液から培養した細胞を回収する工程で、本発明の方法における選択工程である。
本明細書において「(細胞の)回収」とは、培養液と細胞とを分離して細胞を取得することをいう。細胞の回収方法は、当該分野の細胞培養法で使用される常法に従えばよく、特に限定はしない。細胞培養方法は、一般に浮遊培養法と接着培養法に大別できる。以下、それぞれの培養方法後の細胞の回収方法について説明をする。
(浮遊培養方法後の回収方法)
浮遊培養法で培養した場合、細胞は培養液中に浮遊した状態で存在する。したがって、細胞の回収は、静置状態又は遠心分離により上清の液体成分を除去することで達成できる。また、濾過フィルターや中空糸分離膜等を用いて回収することもできる。静置状態で液体成分を除去する場合、培養液の入った容器を静置状態5分程度置き、沈降した細胞や細胞凝集塊を残して上清を除去すればよい。また遠心分離は、遠心力によって細胞がダメージを受けない回転速度と処理時間で行えばよい。例えば、回転速度の下限は、細胞を沈降できれば特に限定はされないが、例えば500rpm以上、800rpm以上、又は1000rpm以上であればよい。一方、上限は細胞が遠心力によるダメージを受けない、又は受けにくい速度であればよく、例えば1400rpm以下、1500rpm以下、又は1600rpm以下であればよい。また処理時間の下限は、上記回転速度により細胞を沈降できる時間であれば特に限定はされないが、例えば30秒以上、1分以上、3分以上、又は5分以上であればよい。また、上限は、上記回転により細胞がダメージを受けない、又は受けにくい時間であればよく、例えば30秒以下、6分以下、8分以下、又は10分以下であればよい。濾過フィルターで液体成分を除去する場合、例えば、メッシュフィルター、不織布や市販のセルストレーナーに培養液を通して濾液を除去し、フィルターに残った細胞凝集塊を回収すればよい。また、中空糸分離膜で液体成分を除去する場合、例えば、細胞濃縮洗浄システム(カネカ社)のような中空糸分離膜を備えた装置を用いて培養液と細胞を分離し、回収すればよい。
回収した細胞は、必要に応じて洗浄することができる。洗浄方法は、限定しない。例えば前述の維持培養工程における「工程後処理」に記載の洗浄方法と同様に行えばよい。洗浄液には、バッファ(PBSバッファを含む)、生食、又は培地(基礎培地が好ましい)を使用すればよい。
(接着培養方法後の回収方法)
接着培養法で培養した場合、培養後、多くの細胞は培養容器や培養担体等の外部マトリクスに接着した状態で存在する。したがって、培養容器から培養液を除去するには、培養後の容器を静かに傾けて液体成分を流し出せばよい。外部マトリクスに接着した細胞が培養容器内に残るため、培養液と細胞を容易に分離することができる。
その後、必要に応じて外部マトリクスに接着した細胞表面を洗浄することもできる。洗浄液には、バッファ(PBSバッファを含む)、生食、又は培地(基礎培地が好ましい)を使用すればよい。ただし、これらに限定はされない。洗浄後の洗浄液は、培養液と同様の操作で除去すればよい。この洗浄ステップは、複数回繰り返してもよい。
続いて、外部マトリクスに接着した細胞集団を外部マトリクスから剥離する。剥離方法は、当該分野で公知の方法で行えばよい。通常は、スクレ―ピング、タンパク質分解酵素を有効成分とする剥離剤、EDTA等のキレート剤、又は剥離剤とキレート剤の混合物等が使用される。
スクレ―ピングは、スクレーパー等を用いて外部マトリクスに付着した細胞を機械的手段によって剥ぎ取る方法である。ただし機械的操作により細胞が損傷を受けやすいため、回収後の細胞をさらなる培養に供する場合には、外部マトリクスに固着している細胞の足場部分を化学的に破壊又は分解し、外部マトリクスとの接着を解除する剥離方法が好ましい。
剥離方法では、剥離剤及び/又はキレート剤を使用する。剥離剤は限定しないが、例えば、トリプシン、コラゲナーゼ、プロナーゼ、ヒアルロニダーゼ、エラスターゼの他、市販のAccutase(商標登録)、TrypLETM Express Enzyme(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)、TrypLETM Select Enzyme(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)、ディスパーゼ(商標登録)等を利用することができる。各剥離剤の濃度及び処理時間は、細胞の剥離又は分散で用いられる常法の範囲で使用すればよい。例えば、トリプシンの場合、溶液中の濃度の下限は、細胞を剥離できる濃度であれば特に限定はされないが、例えば0.01%以上、0.02%以上、0.03%以上、0.04%以上、0.05%以上、0.08%以上、又は0.10%以上であればよい。一方、溶液中の濃度の上限は、トリプシンの作用によって細胞そのものが溶解される等の影響を受けない濃度であれば特に限定はされないが、例えば0.15%以下、0.20%以下、0.25%以下、又は0.30%以下であればよい。また処理時間は、トリプシンの濃度によって左右されるものの、その下限はトリプシンの作用によって外部マトリクスから細胞が十分に剥離される時間であれば特に限定はされず、例えば1分以上、2分以上、3分以上、4分以上又は5分以上であればよい。一方、処理時間の上限は、トリプシンの作用によって細胞そのものが溶解される等の影響を受けない時間であれば特に限定はされず、例えば8分以下、10分以下、12分以下、15分以下、18分以下、又は20分以下であればよい。他の剥離剤又はキレート剤の場合も、概ね同様に行えばよい。なお、市販の剥離剤を使用する場合には、添付のプロトコルに記載の濃度及び処理時間で行うことができる。
外部マトリクスから剥離した細胞は、遠心分離により剥離剤を含む上清を除去する。遠心条件は、上記「浮遊培養方法後の回収方法」と同様でよい。回収した細胞は、必要に応じて洗浄することができる。洗浄方法も上記「浮遊培養方法後の回収方法」と同様に行えばよい。
本工程後に得られた細胞は、単層細胞片や細胞凝集塊等の細胞集合体を一部に包含し得る。一方、回収した細胞は、必要に応じて単一細胞化することもできる。
(単一細胞化)
本明細書において「単一細胞化」とは、単層細胞片や細胞凝集塊等のように複数の細胞が互いに接着又は凝集した細胞集合体を分散させて、単一の遊離した細胞状態にすることをいう。
単一細胞化は、上記の剥離方法で使用する剥離剤及び/又はキレート剤の濃度を高めにする、及び/又は剥離剤及び/又はキレート剤での処理時間を長くすればよい。例えば、トリプシンの場合、溶液中の濃度の下限は、細胞集合体を分散できる濃度であれば特に限定はされないが、例えば0.15%以上、0.18%以上、0.20%以上、又は0.24%以上であればよい。一方、溶液中の濃度の上限は、細胞そのものが溶解される等の影響を受けない濃度であれば特に限定はされないが、0.25%以下、0.28%以下、又は0.30%以下であればよい。また処理時間は、トリプシンの濃度によって左右されるものの、その下限は、トリプシンの作用によって細胞集合体が十分に分散される時間であれば特に限定はされず、例えば5分以上、8分以上、10分以上、12分以上、又は15分以上であればよい。一方、処理時間の上限は、トリプシンの作用によって細胞そのものが溶解される等の影響を受けない時間であれば特に限定はされず、例えば18分以下、20分以下、22分以下、25分以下、28分以下、又は30分以下であればよい。なお、市販の剥離剤を使用する場合には、添付のプロトコルに記載の、細胞を分散させて単一状態にできる濃度で使用すればよい。前記剥離剤及び/又はキレート剤による処理後に物理的に軽く処理することで、単一細胞化を促進できる。この物理的処理は限定しないが、例えば、細胞を溶液ごと複数回ピペッティングする方法が挙げられる。さらに、必要に応じて、細胞をストレーナーやメッシュに通過させてもよい。
単一細胞化した細胞は、静置又は遠心分離により剥離剤を含む上清を除去して回収することができる。回収した細胞は、必要に応じて洗浄してもよい。遠心分離の条件や洗浄方法については上記「浮遊培養方法後の回収方法」と同様に行えばよい。
3.細胞凝集塊製造方法及びその方法で得られる細胞凝集塊
3−1.概要
本発明の第三の態様は、細胞凝集塊製造方法、及びその方法で得られる細胞凝集塊である。本発明の細胞凝集塊製造方法は、第二態様の細胞凝集促進方法を用いて、生産物として細胞凝集塊を得る方法である。本製造方法によれば、効率的に細胞凝集塊を製造することができる。
3−2.細胞凝集塊製造方法
本態様の細胞凝集塊製造方法における基本工程は、第二態様の細胞凝集促進方法に準ずる。すなわち、必須の工程として浮遊培養工程を、また選択工程として維持培養工程、回収工程、及び維持培養工程を含む。各工程の説明は、前述の通りである。
3−3.細胞凝集塊
本態様の細胞凝集塊製造方法により、細胞凝集塊を製造することができる。
本態様の細胞凝集塊製造方法により製造される個々の細胞凝集塊のサイズは、特に限定されないが、顕微鏡で観察したとき、観察像での最大幅のサイズの下限が50μm以上、60μm以上、70μm以上、80μm以上、90μm以上、又は100μm以上であればよい。一方、その上限は300μm以下、400μm以下、500μm以下、600μm以下、700μm以下、800μm以下、900μm以下、又は1000μm以下であればよい。この範囲の細胞凝集塊は、内部の細胞にも酸素や栄養成分が供給され易く細胞の増殖環境として好ましいからである。本態様の細胞凝集塊製造方法により製造される細胞凝集塊の集団のうち、重量基準で下限が30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、98%以上、又は100%が上記のサイズ範囲内の細胞凝集塊であることが好ましい。
細胞凝集塊を構成する細胞が多能性幹細胞の場合、多能性幹細胞マーカーを発現している及び/又は多能性幹細胞マーカーが陽性を呈する細胞の割合の下限が、80%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上、そして100%以下とすることができる。
本発明において、細胞凝集塊を構成する細胞は、単一種、又は2種以上の細胞で構成されていてもよい。例えば、iPS細胞のみで構成される細胞凝集塊であってもよいし、iPS細胞とES細胞で構成された細胞凝集塊であってもよい。
3−4.効果
本態様の細胞凝集塊製造方法によれば、浮遊培養において、細胞凝集塊を効率的に製造し、また死細胞を減少することができる。
4.細胞凝集抑制剤
4−1.概要
本発明の第四の態様は、細胞凝集抑制剤である。本態様の細胞凝集抑制剤は、浮遊培養用の薬剤であって、第一態様の細胞凝集促進剤とは逆に、細胞内のミオシンシグナル伝達経路におけるシグナル伝達因子の活性を促進又は増幅する薬剤を有効成分として含むことを特徴とする。本態様の細胞凝集抑制剤により、浮遊培養中の細胞における凝集を抑制し、細胞凝集塊の形成を阻害又は抑制することができる。
4−2.構成
本態様の細胞凝集抑制剤の基本構成は、有効成分を除いて、そのほとんどが第一態様の細胞凝集促進剤と同じである。したがって、ここでは本態様の細胞凝集抑制剤に特異的な構成についてのみ詳述し、他の重複する構成の説明については省略する。
本態様の細胞凝集抑制剤は、有効成分としてミオシンシグナル伝達因子の活性を促進又は増幅する薬剤を有効成分として含み、この点において、第一態様の細胞凝集促進剤と異なる。
「ミオシンシグナル伝達因子の活性を促進又は増幅する薬剤」(本明細書では、しばしば「ミオシンシグナル伝達因子促進剤」と略称する)とは、ミオシンシグナル伝達因子の活性を促進又は増幅する作用を有し、浮遊培養における細胞の凝集を抑制することができる。
本態様でいうミオシンシグナルシグナル伝達因子は、第一態様と同様にシグナル伝達促進因子である。前述のように、本発明はミオシンシグナル伝達経路を阻害することによって浮遊培養における細胞凝集を促進できるという新規知見に基づく。一般に、シグナル伝達経路では、ON/OFFが逆のシグナルを付与した場合、結果として反対の作用効果が得られることが知られている。例えば、ミオシンシグナル伝達因子経路を阻害することによって浮遊培養における細胞凝集を促進できる場合、逆にミオシンシグナル伝達因子経路を促進又は増幅すれば浮遊培養における細胞凝集を抑制することができる。したがって、本態様の有効成分であるミオシンシグナル伝達因子促進剤の場合、シグナル伝達促進因子のいずれかを促進又は増幅することでミオシンシグナル伝達因子経路を促進又は増幅して、細胞凝集を抑制することができる。
ミオシンシグナル伝達因子促進剤は、ミオシンシグナル伝達因子のシグナル伝達促進因子のいずれかを促進又は増幅できる薬剤であれば、特に限定はしない。例えば、ミオシンシグナル伝達因子がミオシンの場合、ミオシンの活性を促進又は増幅するミオシン活性化剤であればよい。ミオシン活性化剤の具体例として、限定はしないが、オメカンチブ・メカルビル(omecamtiv mecarbil:OM又はCK―1827452)が挙げられる。オメカンチブ・メカルビルはミオシンに結合し、アクチン-ミオシン結合の割合を増加させる低分子化合物である。なお、オメカンチブ・メカルビルの構造式は以下の通りである。
Figure 2019118279
本態様の細胞凝集抑制剤に含まれるミオシンシグナル伝達因子促進剤は、1種、又は異なる2種以上の組み合わせであってもよい。
また、本態様の細胞凝集抑制剤は、限定はしないが、ミオシンシグナル伝達因子促進剤と一以上の他の成分を組み合わせた組成物であることが好ましい。他の成分の種類は特に限定はしない。溶媒、賦形剤、及び/又は他の薬理効果や作用効果を有する化合物が挙げられる。これらは天然物、又は非天然物を問わない。また、前記組み合わせの結果得られる組成物は、自然界に存在する天然組成物であってもよいし、非存在の人工組成物であってもよい。人工組成物は、構成成分のうち少なくとも1つが非天然物であればよい。非天然物の例として合成化合物が挙げられる。細胞凝集抑制剤に含まれ得る合成化合物の具体例としては、後述の実施例でアポトーシス抑制用に使用したROCK阻害剤であるY−27632、H−1152等が挙げられる。
細胞凝集抑制剤が組成物の場合、細胞凝集抑制剤に含まれるミオシンシグナル伝達因子促進剤の濃度の下限は、細胞凝集の抑制できる濃度であればよく、例えば0.2μg/mL(0.5μM)以上、0.4μg/mL(1.0μM)以上、0.8μg/mL(2.0μM)以上、1.0μg/mL(2.5μM)以上、2.0μg/mL(5.0μM)以上、4.0μg/mL(10.0μM)以上、8.0μg/mL(20.0μM)以上、又は10.0μg/mL(25.0μM)以上であればよい。一方、上限は、細胞が過度のダメージを受けたり、死滅しない濃度であればよく、例えば2.0mg/mL(5.0mM)以下、4.0mg/mL(10.0mM)以下、8.0mg/mL(20.0mM)以下、10.0mg/mL(25.0mM)以下、12.0mg/mL(30.0mM)以下、16.0mg/mL(40.0mM)以下、20.0mg/mL(50.0mM)以下、24.0mg/mL(60.0mM)以下、28.0mg/mL(70.0mM)以下、又は30.0mg/mL(75.0mM)以下であればよい。
4−3.効果
本態様の細胞凝集抑制剤によれば、浮遊培養系において細胞間の接着を抑制することができ、細胞同士の過度な凝集を抑制することで細胞凝集塊作製後の成長を妨げないようにすることができる。また、本発明の細胞凝集抑制剤を用いた幹細胞の浮遊培養では、幹細胞の未分化性を維持することができる。
5.細胞凝集抑制方法
5−1.概要
本発明の第五の態様は細胞凝集抑制方法である。本発明の細胞凝集抑制方法は、第四態様の細胞凝集抑制剤又はその有効成分を含む培地で細胞を浮遊培養することによって、培養液中の細胞の凝集を抑制する方法である。本発明の細胞凝集抑制方法によれば、浮遊培養系において細胞の凝集を抑制することができる。
5−2.方法
本態様の方法の基本工程は、第二態様の細胞凝集促進方法に準ずる。すなわち浮遊培養工程を必須の工程として、また前培養工程、回収工程、及び維持培養工程を選択工程として含む。ただし、本態様の細胞凝集抑制方法と第二態様の細胞凝集促進方法とでは、浮遊培養工程が異なる。したがって、ここでは浮遊培養工程についてのみ詳述し、他の工程の説明ついては省略する。
5−2−1.浮遊培養工程
本態様の「浮遊培養工程」に関しても使用する細胞、培養方法、及び細胞単一化については、第二態様の細胞凝集促進方法における浮遊培養工程と同様に行えばよい。一方、本工程で使用する培地は、第二態様の浮遊培養工程で使用する培地と異なる。つまり、本態様の浮遊培養工程では、第四態様に記載の細胞凝集抑制剤又はその有効成分であるミオシンシグナル伝達因子促進剤を含む培地を使用する。したがって、ここでは本態様の浮遊培養工程に特異的な培地の組成についてのみ詳述し、第二態様の浮遊培養工程と重複する部分の説明については省略する。
(培地)
第四態様に細胞凝集抑制方法では、第四態様に記載の細胞凝集抑制剤又はその有効成分であるミオシンシグナル伝達因子促進剤を含む培地中で細胞を浮遊培養することを特徴とする。培地の種類は、ミオシンシグナル伝達因子促進剤を含み、かつ細胞を増殖及び/又は維持できる培地であれば、限定はしない。
本工程で培地中に含まれるミオシンシグナル伝達因子促進剤の濃度は、細胞凝集を抑制することができ、かつ細胞に対する毒性がない又は低い濃度であれば、特に限定はされない。細胞の種類、播種した細胞数、培地の種類等の諸条件に応じて適宜調整すればよい。例えば、ミオシンシグナル伝達因子促進剤がミオシン活性化剤であるオメカンチブ・メカルビルの場合、濃度の下限は細胞凝集を抑制可能な濃度であればよく、例えば2.0ng/mL(5.0nM)以上、4.0ng/mL(10.0nM)以上、10.0ng/mL(25.0nM)以上、20.0ng/mL(50.0nM)以上、40.0ng/mL(0.1μM)以上、0.1μg/mL(0.25μM)以上、又は0.2μg/mL(0.5μM)以上であればよい。一方、上限は、細胞が過度のダメージを受けたり、死滅しない濃度であれば特に限定はされず、例えば2.0μg/mL(5.0μM)以上、4.0μg/mL(10.0μM)以上、10.0μg/mL(25.0μM)以上、20.0μg/mL(50.0μM)以上、40.0μg/mL(100.0μM)以上、又は0.2mg/mL(0.5mM)以上であればよい。
5−3.効果
本態様の細胞凝集抑制方法によれば、浮遊培養系において細胞の凝集を適度に抑制することにより、細胞凝集塊の過度な成長を抑制することができる。
6.細胞凝集調節方法
6−1.概要
本発明の第六の態様は細胞凝集調節方法である。本発明の細胞凝集調節方法は、ミオシンシグナル伝達因子阻害剤及びミオシンシグナル伝達因子促進剤を含む培地で細胞を浮遊培養し、その細胞のミオシンシグナル伝達経路における活性を阻害又は抑制、又は促進又は増幅することによって、培地中で形成される細胞凝集を制御し、またそれにより細胞凝集塊を適切な又は所望のサイズに調節することができる。
6−2.方法
本態様の細胞凝集調節方法は、必須の工程としてシグナル伝達因子阻害工程及びシグナル伝達因子促進工程を、また選択工程として維持培養工程、及び回収工程を含む。このうち選択工程は、第二態様と同様である。したがって、ここでは本態様の細胞凝集調節方法に特異的な工程であるシグナル伝達因子阻害工程及びシグナル伝達因子促進工程についてのみ詳述し、第二態様と重複する工程の説明については省略する。
6−2−1.シグナル伝達因子阻害工程
「シグナル伝達因子阻害工程」は、ミオシンシグナル伝達因子阻害剤を含む培地中で細胞を浮遊させながら培養する工程である。本工程では、ミオシンシグナル伝達因子阻害剤によってミオシンシグナル伝達因子の活性が阻害又は抑制され、それによりミオシンシグナル伝達経路が阻害される。その結果、細胞凝集が促進される。
本工程は、第二態様に記載の「浮遊培養工程」と同じ目的で行われる工程である。したがって、本工程で使用する細胞、培地、及び培養方法については、原則として第二態様に記載の「浮遊培養工程」に準ずる。
本工程で使用する培地には、有効成分としてミオシンシグナル伝達因子阻害剤が含まれる。培地中におけるこの薬剤の含有量は、第二態様の浮遊培養工程に記載の「培地」の項に記載の範囲内であればよい。
6−2−2.シグナル伝達因子促進工程
「シグナル伝達因子促進工程」は、ミオシンシグナル伝達因子促進剤を含む培地中で細胞を浮遊させながら培養する工程である。本工程では、ミオシンシグナル伝達因子促進剤によってミオシンシグナル伝達因子の活性が促進又は増幅され、それによりミオシンシグナル伝達経路が促進される。その結果、細胞凝集が抑制される。
本工程は、第四態様に記載の「浮遊培養工程」と同じ目的で行われる工程である。したがって、本工程で使用する細胞、培地、及び培養方法については、原則として第四態様に記載の「浮遊培養工程」に準ずる。
本工程で使用する培地には、有効成分としてミオシンシグナル伝達因子促進剤が含まれる。培地中におけるこの薬剤の含有量は、第四態様の浮遊培養工程に記載の「培地」の項に記載の範囲内であればよい。
ただし、細胞凝集を調節するためには、前記シグナル伝達因子抑制工程で使用する培地中に含まれる有効成分のミオシンシグナル伝達因子抑制剤の含有量を勘案して適宜定めればよい。例えば、一つの細胞凝集調節方法で使用されるミオシンシグナル伝達因子阻害剤とミオシンシグナル伝達因子促進剤の量が質量比で20:80、25:75、30:70、35:35、40:60、45:65、50:50、55:45、60:60、65:35、70:30、75:25、又は80:10とすることができる。この質量比によって、細胞凝集を促進又は阻害して細胞凝集塊の大きさを制御することができる。
6−2−3.工程順序
本態様の細胞凝集調節方法では、維持培養工程が最先で行われ、シグナル伝達因子阻害工程又はシグナル伝達因子促進工程がそれに続く。シグナル伝達因子阻害工程又はシグナル伝達因子促進工程は、いずれか一方を先に行うこともできるし、2つの工程を同時に行うこともできる。限定はしないが、シグナル伝達因子阻害工程を先に行うか、2つの工程を同時に行うのが好ましい。また、シグナル伝達因子阻害工程後、及び/又はシグナル伝達因子促進工程後には、回収工程及び/又は維持培養工程を行うこともできる。
シグナル伝達因子阻害工程及びシグナル伝達因子促進工程を別個に行う場合、先に行った工程の後に培養液の一部を採取し、形成された細胞凝集塊の形成及びそのサイズを確認することができる。測定した細胞凝集塊のサイズが、所望のサイズよりも小さい又は大きい場合、それに合わせて次の工程におけるミオシンシグナル伝達因子抑制剤又はミオシンシグナル伝達因子促進剤の培地中の量を適宜勘案することができる。
シグナル伝達因子阻害工程とシグナル伝達因子促進工程を同時に行う場合には、一の培地にミオシンシグナル伝達因子抑制剤とミオシンシグナル伝達因子促進剤を混合して添加すればよい。それぞれの薬剤の質量比は、形成する細胞凝集塊のサイズを勘案して、例えば上記質量比のいずれかで行うことができる。
6−3.効果
本態様の細胞凝集調節方法によれば、細胞凝集を促進又は抑制することで、細胞凝集を制御し、それによって細胞凝集塊のサイズを適切なサイズに調節することができる。
7.細胞培養培地
7−1.概要
本発明の第七の態様は、細胞培養培地である。本態様の細胞培養培地を使用すれば、培地中で細胞凝集塊の形成又は解除を制御することができる。
7−2.構成
本態様の細胞培養培地には、細胞凝集促進用培地、及び細胞凝集阻害培地が含まれる。目的に応じてそれぞれの培地を使用すればよい。以下、各培地の構成について説明をする。
7−2−1.細胞凝集促進培地
「細胞凝集促進培地」は、細胞凝集を促進する浮遊培養用の細胞培養培地である。本培地は、第一態様に記載の細胞凝集促進剤又はその有効成分であるミオシンシグナル伝達因子阻害剤を含む増殖用培地で構成される。
増殖用培地の組成は、第一態様の「1-2.用語の定義」における「培養及び培地」の項に詳述していることからここでの説明は省略する。
また、細胞凝集促進剤、及びミオシンシグナル伝達因子阻害剤の構成については、第一態様の「1-3.構成」において詳述していることからここでの説明は省略する。
さらに、増殖用培地中の有効成分の含有濃度、すなわちミオシンシグナル伝達因子阻害剤の濃度については、第二態様の細胞凝集促進方法における「2−2.方法」、「2−2−2.浮遊培養工程」の「培地」の項に記載している。
細胞凝集促進培地を用いて細胞を浮遊培養すれば、細胞の凝集を容易に促進することができる。
7−2−2.細胞凝集阻害培地
「細胞凝集阻害培地」は、細胞凝集を阻害する浮遊培養用の細胞培養培地である。本培地は、第一態様に記載の細胞凝集阻害剤又はその有効成分であるミオシンシグナル伝達因子促進剤を含む増殖用培地で構成される。
増殖用培地の組成は、第一態様の「1−2.用語の定義」における「培養及び培地」の項に詳述していることからここでの説明は省略する。
また、細胞凝集阻害剤、及びミオシンシグナル伝達因子促進剤の構成については、第四態様の「4−2.構成」において詳述していることからここでの説明は省略する。
さらに、増殖用培地中の有効成分の含有濃度、すなわちミオシンシグナル伝達因子阻害剤の濃度については、第二態様の細胞凝集促進方法における「2−2.方法」、「2−2−2.浮遊培養工程」の「培地」の項に記載している。
細胞凝集阻害培地を用いて細胞を浮遊培養すれば、細胞の凝集を容易に阻害することができる。
8.細胞凝集調節キット
8−1.概要
本発明の第八の態様は、細胞凝集調節キットである。本態様の細胞凝集調節キットは、細胞凝集に関与するミオシンシグナル伝達経路において、その経路を正に制御するミオシンシグナル伝達因子の活性を阻害若しくは抑制、又は促進若しくは増幅することのできる薬剤や培地を包含する。本態様の細胞凝集調節キットを用いることで、細胞の凝集を容易かつ適度なサイズに調節することが可能となる。
8−2.構成
本態様の細胞凝集調節キットは、必須の構成要素としてミオシンシグナル伝達因子阻害剤及びミオシンシグナル伝達因子促進剤を、また選択的構成要素として培地、及び/又はプロトコルを包含する。
ミオシンシグナル伝達因子阻害剤の構成は、第一態様の「1−3.構成」において詳述しているので、ここでの説明は省略する。細胞凝集調節キットにおいて、ミオシンシグナル伝達因子阻害剤は、細胞凝集促進剤として、例えばミオシン阻害剤のようなミオシンシグナル伝達因子阻害剤を有効成分とする組成物の状態で包含されていてもよい。
ミオシンシグナル伝達因子促進剤の構成は、第四態様の「4−2.構成」において詳述しているので、ここでの説明は省略する。細胞凝集調節キットにおいて、ミオシンシグナル伝達因子促進剤は、細胞凝集阻害剤として、例えばミオシン活性化剤のようなミオシンシグナル伝達因子促進剤を有効成分とする組成物の状態で包含されていてもよい。
培地の構成は、第一態様の「1−2.用語の定義」における「培養及び培地」の項に詳述しているので、ここでの説明は省略する。液体培地、固体培地のいずれでもよいが、液体培地が好ましい。
プロトコルには、本態様の細胞凝集調節キットの使用方法が記載されている。具体的には、細胞凝集調節キットに添付のミオシンシグナル伝達因子阻害剤やミオシンシグナル伝達因子促進剤の培地への添加量や所望のサイズの細胞凝集塊を生産する上で好適な浮遊培養方法等が記載されている。
<実施例1.細胞凝集促進剤による浮遊培養でのヒトiPS細胞の凝集促進効果の確認>
(目的)
ミオシン阻害剤ブレビスタチンの添加による細胞の凝集促進効果について検討した。
(方法)
1.ヒトiPS細胞の維持培養
ヒトiPS細胞は、TkDN4−M株(東京大学医科学研究所)を使用した。Vitronectin(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)をコートした細胞培養用ディッシュ上にヒトiPS細胞を播種した。培地はEssential 8TM(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)を使用して、維持培養を行った。継代時の細胞剥離剤には、Accutase(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)を用いた。また、細胞播種時のみ、10μMの濃度でROCK阻害剤であるY−27632(和光純薬工業株式会社)を全ての培地に添加した。これは、RHO−ROCKシグナル伝達経路の活性により、その下流で作用するアポトーシス活性を抑制するためである。培地交換は毎日実施した。実験には継代数50回までのヒトiPS細胞を使用した。
2.細胞凝集アッセイ
上記維持培養で培養したヒトiPS細胞をAccutaseで3分から5分ほど処理して剥離し、単細胞まで分散した。
細胞を最終濃度5mg/mLのBSA(和光純薬工業株式会社)を含むEssential 8TM培地で懸濁した後、その一部を採取してトリパンブルー染色し、細胞数を測定した。測定値に基づき、1mL当たり2×10個の細胞を含むように細胞懸濁液をEssential 8TM培地で調整した。別途ブレビスタチン(Cat.No.13013;Cayman社)を最終濃度5.85mg/mL(20mM)になるように細胞凝集促進剤を調整し、前記調整した細胞凝集促進剤を前記細胞懸濁液にブレビスタチンの最終濃度が10μMとなるように添加した上で、浮遊培養用12ウェルプレート(住友ベークライト株式会社)に1.3mL/ウェルの割合で播種した。続いてプレートをロータリーシェーカー(株式会社オプティマ)上で90 rpmのスピードで水平面に沿って旋回幅(直径)が25mmの円を描くように旋回培養しながら、5% CO、37℃の環境下で浮遊培養を行った。
培養を開始して翌日の培養1日目に位相差顕微鏡にて培養下の細胞画像を取得した。また、Cytotoxicity LDH Assay Kit−WST(株式会社同仁化学研究所)を用いて、死細胞数を算出した。対照試験は、ブレビスタチンを添加しない点を除いて、他は上記と同様に調製した細胞懸濁液を用いた条件で行った。
(結果)
上記浮遊培養を開始した翌日、すなわち浮遊培養1日目の顕微鏡観察像を図1に示す。観察の結果、ブレビスタチン無添加の対照試験(0μM)では細胞凝集塊は形成されず、単一細胞のままであった。一方、ブレビスタチンを添加した細胞懸濁液(10μM)では、いずれも細胞凝集塊が形成された。
また、死細胞数の結果を図2に示す。対照試験(0μM)では多くの細胞が死滅していたが、ブレビスタチンを添加した場合(10μM)では、死細胞数は有意に減少していた。
<実施例2.ブレビスタチン存在条件での凝集塊形成後の細胞増殖能、未分化能への影響>
(目的)
ヒトiPS細胞の浮遊培養を行いグルコース消費量、細胞収量、未分化マーカーの陽性率を測定し、ブレビスタチンが与える細胞への影響を解析した。
(方法)
実施例1と同様に細胞懸濁液(細胞濃度:2×10個/mL)を調製し、別途ブレビスタチンを最終濃度5.85mg/mL(20mM)になるように細胞凝集促進剤を調整し、前記調整した細胞凝集促進剤を前記細胞懸濁液にブレビスタチンの最終濃度が10μMとなるように添加した上で、浮遊培養用6ウェルプレート(住友ベークライト株式会社)に4mL/ウェルで播種した。培地は、ロータリーシェーカー(株式会社オプティマ)上で90 rpmのスピードで水平面に沿って旋回幅(直径)が25mmの円を描くように旋回培養し、5% CO、37℃の環境下で浮遊培養を行った。培養翌日(培養1日目)以降、毎日新鮮な培地(最終濃度5mg/mLのBSA(和光純薬工業株式会社)を含むEssential 8TM培地)に培地交換し、培養5日後まで培養を続けた。培養中、毎日位相差顕微鏡により画像を取得とした。培地交換時に回収した培養上清に含まれるグルコースの濃度を、バイオセンサーBF−5iD(王子計測機器株式会社)で測定し、グルコース消費量を計算した。
また、培養5日目に細胞凝集塊を回収し、Accutaseにより分散後、5mg/mLのBSAを含むEssential 8TM培地で懸濁した。この細胞懸濁液の一部をトリパンブルー染色して細胞数を調べた。上記細胞懸濁液を300gで3分間遠心分離後、上清を取り除き、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)で細胞を洗浄した。その後、4%パラホルムアルデヒド(和光純薬工業株式会社)により室温で20分間固定後、PBSで3回洗浄し、300μLのPBSで細胞を再懸濁後、ボルテックスで攪拌しながら冷メタノール3mLを添加し、−20℃で一晩以上透過処理を行った。3% FBS(ウシ胎仔血清)/PBSで3回洗浄後、3% FBS(ウシ胎仔血清)/PBSにより細胞を再懸濁して室温で30分から1時間ほどブロッキングした。その後、蛍光標識済抗SOX2抗体(Cat.No.656110;Biolegend社)及び蛍光標識抗OCT4抗体(Cat.No.653703;Biolegend社)及び蛍光標識抗Nanog抗体(Cat.No.674010;Biolegend社)により4℃で30分から1時間ほど染色した。3% FBS(ウシ胎仔血清)/PBSで1回洗浄後、セルストレーナーに通過させた細胞をFACSVerseにて解析した。コントロール試験として、上記3種の抗体(蛍光標識済抗SOX2抗体、蛍光標識抗OCT4抗体、蛍光標識抗Nanog抗体)の代わりに上記3種の各抗体に対応した3種の蛍光標識済アイソタイプコントロール抗体(Cat.No.400129、Cat.No.400314、Cat.No.400136;Biolegend社)を反応させた以外は同様に処理した細胞を用いた。
また、培養5日目に細胞収量を測定した。細胞収量の測定は次の手順で行った。すなわち、形成した細胞凝集塊をAccutase で5分から10分ほど処理し、ブルーチップでのピペッティングによって細胞を単分散させ、トリパンブルー染色した後、血球計算盤を用いて細胞数を係数し、細胞収量を測定した。
(結果)
図3は、細胞を播種した(0日目)から培養1日目から5日目を観察した顕微鏡写真である。ブレビスタチンを添加した条件では、播種後から培養1日目にかけて細胞凝集塊が形成されており、培養を継続することで徐々に細胞が増殖し、細胞凝集塊が大きくなった。
また、その時のグルコース消費量を図4に、培養5日目の細胞収量を図5にそれぞれ示す。図4からグルコース消費量は、培養期間中、ブレビスタチン添加なしの条件ではグルコースの消費量はほぼ0であるのに対して、ブレビスタチンを添加した条件ではグルコース消費量が日々増加しており、この結果から、細胞が日々増殖していることが示唆された。実際に、培養5日目には播種細胞数(8×10個/ウェル)のおよそ7倍に増殖していることが明らかになった。
図6には、未分化マーカーの陽性率の測定結果を示す。最終濃度10μMのブレビスタチンを含む培地で細胞凝集塊を作製し、その後も浮遊培養にて増殖した細胞において、未分化マーカーであるSOX2陽性細胞が99%以上、OCT4陽性細胞が97%以上、Nanog陽性細胞が99%以上であり、ブレビスタチン添加によって形成されたヒトiPS細胞の凝集塊は未分化性を維持していることが確認された。

Claims (19)

  1. 細胞の浮遊培養に用いるための細胞凝集促進剤であって、
    ミオシンシグナル伝達経路におけるシグナル伝達因子の活性を阻害又は抑制する薬剤を含む、前記細胞凝集促進剤。
  2. 前記薬剤の濃度が0.1μg/mL以上30.0mg/mL以下である、請求項1に記載の細胞凝集促進剤。
  3. 前記薬剤がミオシン阻害剤である、請求項1又は2に記載の細胞凝集促進剤。
  4. 前記ミオシン阻害剤がブレビスタチンである、請求項3に記載の細胞凝集促進剤。
  5. 前記細胞が幹細胞である、請求項1から4のいずれか1項に記載の細胞凝集促進剤。
  6. 細胞凝集塊の製造方法であって、
    培地中で細胞を浮遊培養する工程を含み、
    前記培地がミオシンシグナル伝達経路におけるシグナル伝達因子の活性を阻害又は抑制する薬剤を含む、前記製造方法。
  7. 前記薬剤の培地中における濃度が2.9ng/mL以上3.0mg/mL以下である、請求項6に記載の製造方法。
  8. 前記薬剤がミオシン阻害剤である、請求項6又は7に記載の製造方法。
  9. 前記ミオシン阻害剤がブレビスタチンである、請求項8に記載の製造方法。
  10. 前記細胞が幹細胞である、請求項6から9のいずれか1項に記載の製造方法。
  11. 請求項6から10のいずれか1項に記載の製造方法により得られた細胞凝集塊。
  12. 細胞の凝集を調節する方法であって、
    ミオシンシグナル伝達経路におけるシグナル伝達因子の活性を阻害又は抑制する薬剤を含む培地中で細胞を浮遊させながら培養する工程と、
    ミオシンシグナル伝達経路におけるシグナル伝達因子の活性を促進又は増幅する薬剤を含む培地中で細胞を浮遊させながら培養する工程と、を含む前記方法。
  13. 前記ミオシンシグナル伝達経路におけるシグナル伝達因子の活性を阻害又は抑制する薬剤がミオシン阻害剤である、請求項12に記載の方法。
  14. 前記ミオシンシグナル伝達経路におけるシグナル伝達因子の活性を促進又は増幅する薬剤がミオシン活性化剤である、請求項12又は13に記載の方法。
  15. 前記細胞が幹細胞である、請求項12から14のいずれか1項に記載の方法。
  16. ミオシンシグナル伝達経路におけるシグナル伝達因子の活性を阻害又は抑制する薬剤と、ミオシンシグナル伝達経路におけるシグナル伝達因子の活性を促進又は増幅する薬剤とを含む、細胞凝集調節キット。
  17. 前記ミオシンシグナル伝達経路におけるシグナル伝達因子の活性を阻害又は抑制する薬剤がミオシン阻害剤である、請求項16に記載の細胞凝集調節キット。
  18. 前記ミオシンシグナル伝達経路におけるシグナル伝達因子の活性を促進又は増幅する薬剤が、ミオシン活性化剤である、請求項16又は17に記載の細胞凝集調節キット。
  19. さらに培地を含む、請求項16から18のいずれか1項に記載の細胞凝集調節キット。
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