図1は、本実施形態の電力安定化システム10の構成例を示している。電力安定化システム10は、電力貯蔵装置11、電力変換器12及び制御装置13を有しており、変圧器14を介して電力系統15に接続される。以下の説明において、電力安定化システム10は、再生可能エネルギーを利用した変動電源の出力変動補償を行う場合を想定している。図1では、変動電源の一例となる風力発電機16が変圧器17を介して電力系統15に接続されている。なお、電力系統15に連系された変動電源であれば、風力発電機16に限らず、例えば太陽光発電機であってもよいし、また再生可能エネルギーに限定されない。また、変動電源は、複数の発電機からなる発電所であっても良いし、複数の発電所の集合であっても良い。
電力貯蔵装置11は、例えば、フライホイール、二次電池又はキャパシタ等からなる。電力貯蔵装置11がフライホイールである場合は、フライホイール側の交流電力と電力系統15側の交流電力を双方向に変換する。電力貯蔵装置11が二次電池又はキャパシタである場合は、二次電池又はキャパシタ側の直流電力と電力系統15側の交流電力を双方向に変換する。
電力変換器12は、制御装置13からの電力変換器出力指令値PO(電力貯蔵装置11から電力を放出する方向を“正”とする)に基づいて、電力系統15と電力貯蔵装置11との間で電力PSの授受(すなわち電力貯蔵装置11の充放電)を行う。
制御装置13は、図示を省略したCPU及びメモリ(ハードディスク等の記憶装置)を有しており、以下に説明する各種の演算処理及び制御処理等を実行する。制御装置13による各種の演算処理及び制御処理等は、ハードウェアによって実現してもよいし、CPUが記憶装置に記憶されている所定のアプリケーションプログラムを読出して実行することにより実現してもよい。またハードウェアによって実現する場合、プログラマブルコントローラ等のディジタル回路を用いて制御してもよいし、オペアンプ等によるアナログ制御回路で実現してもよい。
制御装置13は、電力貯蔵装置11の出力と風力発電機(変動電源)16の出力の合成出力を制御する。制御装置13は、有効電力検出部21と、貯蔵電力量検出部22と、最大必要充電電力演算部23と、見込み発電電力演算部24と、差分電力演算部25と、補償電力補正演算部26と、平滑化フィルタ27と、リミッタ回路28と、電力変換器制御部29とを有している。
有効電力検出部21は、風力発電機16の出力端の電圧及び電流値に基づいて、変動電源の出力となる風力発電機16の有効電力PGを検出する。なお、変動電源が複数の発電機・発電所を含む場合、有効電力検出部21は各フィーダで検出した各有効電力の総和を用いて有効電力PGを検出しても良い。
貯蔵電力量検出部22は、電力貯蔵装置11の貯蔵電力量ESを直接的あるいは間接的に検出(算出)する。例えば、電力貯蔵装置11がフライホイールで構成される場合は、フライホイールの回転数に基づいて貯蔵電力量ESを検出(算出)する。また、電力貯蔵装置11が二次電池又はキャパシタで構成される場合は、端子電圧及び/又は端子電流を検出して、その検出結果に基づいて貯蔵電力量ESを検出(算出)する。
最大必要充電電力演算部23は、風力発電機16の運転(出力)が停止したと仮定した場合に、その停止時点から所定時間が経過するまでの間において、電力貯蔵装置11と風力発電機16の合成出力を目標合成出力に追従させるための最大必要充電電力ESmaxを演算する。風力発電機16の運転(出力)が停止した場合、理論的には、風力発電機16の発電電力がゼロまでステップ状に急激に低下するので、その損失分を電力貯蔵装置11の放電により埋め合わせなければならない。最大必要充電電力ESmaxは、風力発電機16の発電電力がゼロまでステップ状に急激に低下するという理論上の最悪条件(最も過酷な条件)を想定して、当該最悪条件であっても、所定時間は風力発電機16の運転を保証できるような値に設定されている。最大必要充電電力演算部23による最大必要充電電力ESmaxの演算については、後に詳細に説明する。
見込み発電電力演算部24は、風力発電機16の運転(出力)が停止したと仮定した場合に、その停止時点から所定時間が経過するまでの間における風力発電機16の見込み発電電力ESestを演算する。風力発電機16の運転(出力)が停止した場合であっても、実際には、風力発電機16の発電電力がゼロまでステップ状に急激に低下することはなく、気象条件や発電設備の特性(風力発電機16の場合は回転機の慣性)によって、風力発電機16の発電電力がある程度緩やかに低下する。見込み発電電力ESestは、所定時間において風力発電機16の発電電力がある程度緩やかに低下した場合に発生する発電電力を見積もったものである。見込み発電電力演算部24による見込み発電電力ESestの演算については、後に詳細に説明する。
差分電力演算部25は、まず最大必要充電電力演算部23が演算した最大必要充電電力ESmaxと見込み発電電力演算部24が演算した見込み発電電力ESestの差分である必要充電電力(ESmax−ESest)を演算する。その必要充電電力は、電力貯蔵装置11の貯蔵電力目標値ESrefと一致する。さらに、差分電力演算部25は、貯蔵電力目標値ESrefから現在の貯蔵電力量ESを減算して、補正貯蔵電力量ES´を算出する。
補償電力補正演算部26は、補正貯蔵電力量ES´がゼロになるような補償電力補正信号PCを計算する。例えば補正貯蔵電力量ES´にマイナスのゲインを乗算して補償電力補正信号PCを演算する。貯蔵電力目標値ESrefが現在の貯蔵電力量ESを上回るならば、補正貯蔵電力量ES´がプラスの値を取る。その値にマイナスのゲインを乗算すると補償電力補正信号PCがマイナスの値になる。そして、後述する平滑化フィルタ27の入力信号、合成出力目標値PAおよび電力変換器出力指令値POがより小さくなり、電力貯蔵装置11が電力変換器12を介して電力系統15から電力を充電することが促される。その結果、電力貯蔵装置11の貯蔵電力量ESが増加し、貯蔵電力量ESが貯蔵電力目標値ESrefに近づき、補正貯蔵電力量ES´がゼロに近づく。
一方、貯蔵電力目標値ESrefが現在の貯蔵電力量ESを下回るならば、補正貯蔵電力量ES´がマイナスの値を取る。その値にマイナスのゲインを乗算すると補償電力補正信号PCがプラスの値になる。そして、後述する平滑化フィルタ27の入力信号、合成出力目標値PAおよび電力変換器出力指令値POがより大きくなり、電力貯蔵装置11が電力変換器12を介して電力系統15へ電力を放電することが促される。その結果、電力貯蔵装置11の貯蔵電力量ESが減少し、貯蔵電力量ESが貯蔵電力目標値ESrefに近づき、補正貯蔵電力量ES´がゼロに近づく。
補正貯蔵電力量ES´がゼロになれば貯蔵電力量ESが貯蔵電力目標値ESrefと一致するため、必要充電電力を電力貯蔵装置11に確保することができる。なお必要充電電力を貯蔵電力目標値ESrefと等しいとし、貯蔵電力量ESに一致させるような制御を実現する方法について説明したが、貯蔵電力量ESが必要充電電力(ESmax−ESest)を下回らない様に制御方法でも良い。また図1に示す構成例では、補償電力補正信号PCは平滑化フィルタ27の前段で有効電力PGと加えているが、平滑フィルタ27の後段で加える構成としてもよい。
平滑化フィルタ27は、風力発電機16からの有効電力PGと補償電力補正演算部26からの補償電力補正信号PCの加算出力から高周波成分を除去して平滑化するフィルタである。図1では平滑化フィルタ27を一次遅れフィルタで構成したが、その他の手法を適用して平滑化フィルタを構成してもよい。例えば、移動平均フィルタを用いた手法、ハイパスフィルタと組み合せて再合成する手法などを適用できる。
リミッタ回路28は、短周期的変動に対して当該合成出力の変化率を所定幅に収めるように動作する短周期リミッタを構成する第1リミッタ41と、長周期的変動に対して当該合成出力の変化率を所定幅に収めるように動作する長周期リミッタを構成する第2リミッタ42とを有する。リミッタ回路28は、変動電源である風力発電機16の出力を入力として制御する構成又は合成出力を入力として制御する構成のいずれの構成でもよい。本実施の形態では、風力発電機16の出力を入力として制御する構成について説明する。
風力発電機16の出力または風力発電機16と電力貯蔵装置11の合成出力が有する変動成分には、長周期的変動と長周期的変動に重畳する短周期的変動とが含まれる。風力発電機16の出力または合成出力に含まれる長周期的変動は、例えば数十分から数時間単位の出力変動成分であり、短周期的変動は数十分単位までの出力変動成分である。但し、長周期的変動に短周期的変動が重畳する関係があるならば、長周期的変動と短周期的変動の変動周期は特に限定されない。実際に風力発電機16の出力または合成出力に含まれる長周期的変動と長周期的変動に重畳する短周期的変動の分析結果(周期特性)、電力会社による管理の仕方、電力会社から求められる要求仕様、その他の条件、のいずれか1つ又は任意の組み合せに応じて、抑制すべき長期的変動及び短期的変動の想定周期を決めればよい。例えば、長周期的変動が10分から5時間であり、短周期的変動が10秒から5分であるとする。あるいは、長周期的変動が30分から10時間であり、短周期的変動が1分から20分であるとする。また長周期的変動と短周期的変動の変動周期は一定である必要はない。
第1リミッタ41、第2リミッタ42は、合成出力目標値、或いは合成出力を、合成出力の短周期的変動及び長周期的変動を評価するサンプル時間Δt1、Δt2だけサンプルホールドする。本実施の形態では、合成出力目標値をサンプルホールドして制御する構成について説明するが、合成出力値をサンプルホールドする構成にも適用可能である。第1リミッタ41は、短周期的変動に対応した期間Δt1だけ前の合成出力目標値をサンプルホールドする第1サンプルホールド回路43から前回の合成出力目標値PA(S)が与えられる。サンプルホールド期間Δt1は、短周期的変動を評価するのに適したサンプル時間(例えば、10秒)とする。なお、短周期的変動を評価するためのサンプル時間は抑制したい変動成分の周期よりも小さければよく、例えば秒単位また分単位で適宜設定される。第2リミッタ42は、長周期的変動に対応した期間Δt2だけ前回の合成出力目標値をサンプルホールドする第2サンプルホールド回路44から前回の合成出力目標値PA(L)が与えられる。サンプルホールド期間Δt2は、長周期的変動を評価するのに適したサンプル時間(例えば、10分)とする。なお、長周期的変動を評価するためのサンプル時間は抑制したい変動成分の周期よりも小さければよく、例えば分単位または数十分単位で適宜設定される。また、サンプルホールド期間Δt1とΔt2を同じ時間に設定することもできる。
第1リミッタ41は、Δt1だけ前の合成出力目標値PA(S)に上限側の係数A1にサンプルホールド時間Δt1を乗算した乗算値を加算した値(=PA(S)+A1Δt1)を上限レベルに設定し、前回の合成出力目標値PA(S)に下限側の係数B1にサンプルホールド時間Δt1を乗算した乗算値を加算した値(=PA(S)+B1Δt1)を下限レベルに設定する。係数A1,B1により短周期的変動に対応した合成出力の変化率を所定幅に収めることができる。
第2リミッタ42は、Δt2だけ前の合成出力目標値PA(L)に上限側の係数A2にサンプルホールド時間Δt2を乗算した乗算値を加えた値(=PA(L)+A2Δt2)を上限レベルに設定し、前回の合成出力目標値PA(L)と下限側の係数B2にサンプルホールド時間Δt2を乗算した乗算値を加算した値(=PA(L)+B2Δt2)を下限レベルに設定する。係数A2,B2により長周期的変動に対応した合成出力の変化率を所定幅に収めることができる。
制御装置13は、電力需要が大きく増加あるいは減少する時間帯に、風力発電機16と電力安定化システム10の連系点における合成出力が電力需要の増減と逆方向に変化することを禁止する。電力需要が所定変化率以上で増加する傾向を「大幅増加」と呼ぶこととする。電力需要が大幅増加する時間帯に対して、合成出力(合成出力変化率)が電力需要と逆方向となる減少方向に変化することを禁止する「減少禁止時間」に設定する。また、電力需要が所定変化率以上の減少する傾向を「大幅減少」と呼ぶこととする。電力需要が大幅減少する時間帯に対して、合成出力(合成出力変化率)が電力需要と逆方向となる増加方向に変化することを禁止する「増加禁止時間」に設定する。また、電力需要が所定変化率以上に増加及び減少する傾向を「大幅増減変化」と呼ぶこととする。大幅増減変化する時間帯を、合成出力(合成出力変化率が)減少方向及び増加方向へ変化することを禁止する「増加/減少禁止時間」に設定する。「減少禁止時間」、「増加禁止時間」及び「増加/減少禁止時間」に設定される時間帯は、固定のスケジュール(例えば7:00〜10:00に固定)だけでなく、電力会社等からの外部指令に応じて決定してもよいし、需要予測結果に応じて決定しても良い。その他、各種仕様や要求に応じて適宜決定する方式としてもよい。
第2リミッタ42は、合成出力の減少禁止時間には今回の合成出力を前回の合成出力から下回らせない下限に設定され、合成出力の増加禁止時間には今回の合成出力を前回の合成出力から上回らせない上限に設定される。なお、第2リミッタ42は、下限または上限のいずれか一方だけを設定してもよい。本例では、減少禁止時間には、第2リミッタ42の下限を計算する係数B2を0に制御する。これにより、第2リミッタ42において合成出力の下限が、前回の合成出力から下回らない下限レベルに制限されるので、合成出力目標値が減少禁止時間の直前の合成出力に維持される。また、増加禁止時間には、第2リミッタ42の上限を計算する係数A2を0に制御する。これにより、第2リミッタ42において合成出力の上限が、今回の合成出力を前回の合成出力から上回らない上限レベルに制限されるので、合成出力目標値が増加禁止時間の直前の合成出力に維持される。さらに、増加/減少禁止時間には、第2リミッタ42の上限を計算する係数A2及び下限を計算する係数B2を0に制御する。これにより、第2リミッタ42において合成出力の上限及び下限が制限されるので、合成出力目標値が増加/減少禁止時間の直前の合成出力に維持される。
電力変換器制御部29は、リミッタ回路28から出力される合成出力目標値と有効電力PGとの差分である補正補償電力ΔPGの大きさに応じて電力変換器出力指令値POを生成し、電力変換器出力指令値POに基づいて電力変換器12を制御し、電力貯蔵装置11に電力PSを充放電させる。
図2A〜図2Cを参照して、電力需要が増加あるいは減少する時間帯に、風力発電機16と電力安定化システム10の連系点における合成出力が電力需要の増減方向と逆方向に変化することを禁止する動作について具体的に説明する。
図2Aは長周期リミッタとなる第2リミッタ42に設定される上限(長周期上限値)及び下限(長周期下限値)と出力変化率の関係を示す図である。同図に示す例では、時刻T11から時刻T12が、電力需要が増加する時間帯(合成出力の低下が規制される時間帯)に対応しており減少禁止時間として設定されている。第1リミッタ41は、合成出力の出力変化率を前回値(Δt1前)から±1%以内に収めるように係数A1,B1が制御され、第2リミッタ42は、減少禁止時間(及び増加/減少禁止時間)以外では、出力変化率を前回値(Δt2前)から±2%以内に収めるように係数A2,B2が制御される場合が例示されている。第2リミッタ42の下限(長周期下限値)は、減少禁止時間(及び増加/減少禁止時間)では、合成出力の出力変化率が0になるように係数B2が計算され(合成出力を前回値よりも小さくさせない制御に相当)、第2リミッタ42の上限(長周期上限値)は、減少禁止時間(及び増加/減少禁止時間)であっても前回値(Δt2前)から+2%以内に収めるように係数A2が制御される。具体的には、第2サンプルホールド回路44でサンプルホールドされているΔt2前の前回値PA(L)と今回の係数B2にサンプルホールド期間Δt2を乗算した乗算値を加算した値(=PA(L)+B2Δt2)を下限(長周期下限値)に設定するが、減少禁止時間(及び増加/減少禁止時間)は強制的に係数B2=0に設定する。これにより、図2Aに示すように、減少禁止時間(及び増加/減少禁止時間)は、第2リミッタ42の下限(長周期下限値)が前回値に固定されるので、合成出力はΔt2前の前回値PA(L)よりも小さくならないように制御される。
図2Bは増加禁止時間において第2リミッタ42に設定される上限(長周期上限値)及び下限(長周期下限値)と出力変化率の関係を示す図である。同図に示す例では、時刻T21から時刻T22が、電力需要が減少する時間帯(合成出力の増加が規制される時間帯)に対応しており増加禁止時間として設定されている。第1リミッタ41は、出力変化率を前回値(Δt1前)から±1%以内に収めるように係数A1,B1が計算され、第2リミッタ42は、増加禁止時間(及び増加/減少禁止時間)以外では、出力変化率を前回値(Δt2前)から±2%以内に収めるように係数A2,B2が制御される場合が例示されている。第2リミッタ42の上限(長周期上限値)は、増加禁止時間(及び増加/減少禁止時間)では、合成出力の変化率が0になるように係数A2が計算され(合成出力を前回値よりも大きくさせない制御)、第2リミッタ42の下限(長周期下限値)は、増加禁止時間であっても、前回値(Δt2前)から−2%以内に収めるように係数B2が制御される。具体的には、第2サンプルホールド回路44でサンプルホールドされているΔt2前の前回値PA(L)と今回の係数A2にサンプルホールド期間Δt2を乗算した乗算値を加算した値(=PA(L)+A2Δt2)を上限(長周期上限値)に設定するが、増加禁止時間(及び増加/減少禁止時間)は強制的に係数A2=0に設定する。これにより、図2Bに示すように、増加禁止時間(及び増加/減少禁止時間)は、第2リミッタ42の上限(長周期上限値)が前回値に固定されるので、合成出力はΔt2前の前回値PA(L)よりも大きくならないように制御される。
図2Cは第2リミッタ42に設定される上限(長周期上限値)及び下限(長周期下限値)と出力変化率の関係を示す図であり、同図に示す例では、時刻T31から時刻T32が、電力需要が大幅に上下変動(増加及び減少)する時間帯(合成出力の減少及び増加の双方が規制される時間帯)に対応しており増加/減少禁止時間として設定されている。第2リミッタ42は、増加/減少禁止時間以外では、出力変化率を前回値(Δt2前)から±2%以内に収めるように係数A2,B2が制御される場合が例示されている。第2リミッタ42の下限(長周期下限値)及び上限(長周期上限値)は、図2Aと図2Bと組み合わせた制御になっている。すなわち、増加/減少禁止時間では、第2リミッタ42の下限(長周期下限値)が前回値に固定されるので、合成出力はΔt2前の前回値PA(L)よりも小さくならないように制御され、しかも第2リミッタ42の上限(長周期上限値)が前回値に固定されるので、合成出力はΔt2前の前回値PA(L)よりも大きくならないように制御される。
なお、第1リミッタ41では、第1サンプルホールド回路43から前回の合成出力目標値PA(S)が与えられ、出力変化率を前回値(Δt1前)から±1%以内に収めるように係数A1,B1が制御される場合が例示されている。
図3は、シミュレーションで設定した各運転時間帯と出力変化率及び係数A2,B2の対応関係を示している。時刻7時00分から時刻10時00分の期間は減少禁止時間に設定され、時刻11時30分から時刻13時30分までの期間は増加/減少禁止時間に設定されている。また、時刻16時00分から時刻19時00分の期間は再び減少禁止時間に設定され、時刻20時00分から時刻23時00分までの期間は増加禁止時間に設定されている。長周期変動に対応した第2リミッタ42では上記禁止時間以外の出力変化率は±2%以内に収めるように係数A2,B2が制御される。
図4〜図9を参照して、最大必要充電電力演算部23による最大必要充電電力ESmaxの演算について詳細に説明する。
図4は、減少禁止時間の開始時に風力発電機16の運転(出力)が停止した場合における最大必要充電電力ESmaxの演算の一例を示す概念図である。風力発電機16の発電電力がゼロまでステップ状に急激に低下した場合において、電力貯蔵装置11の放電電力量を最小限に制御するためには、電力貯蔵装置11と風力発電機16の合成出力をなるべく早く低下させることが好ましい。ところが、減少禁止時間には電力貯蔵装置11と風力発電機16の合成出力を低下させることができないので、減少禁止時間における必要電力(図4の一点鎖線で囲まれた長方形のグレー領域)を電力貯蔵装置11の放電電力で賄わなければならない。また、減少禁止時間が終了して減少許容時間に移行しても、所定の出力変化速度(例えば1%/min以内)でしか合成出力を低下させることができないので、減少許容時間における必要電力(図4の一点鎖線で囲まれた三角形のグレー領域)を電力貯蔵装置11の放電電力で賄わなければならない。従って、図4において一点鎖線で囲まれた長方形と三角形を合わせた台形のグレー領域の面積が、最大必要充電電力ESmaxに相当する。この最大必要充電電力ESmaxを電力貯蔵装置11に充電させることにより、風力発電機16の発電電力がゼロまでステップ状に急激に低下するという理論上の最悪条件(最も過酷な条件)であっても、所定時間は風力発電機16の運転を保証することができる。
ところで、最大必要充電電力ESmaxは、風力発電機16の運転(出力)が停止した時点及びその後に所定時間が経過するまでに、合成出力の減少許容時間と減少禁止時間がどのような割合で含まれているかに応じて変動し得る。以下では、「合成出力の減少許容時間」が「減少禁止準備時間(減少禁止時間の開始前の時間)」及び「減少禁止開放時間(減少禁止時間の終了後の時間)」を含むものとして説明する(いずれも合成出力の減少を許容するという意味で共通している)。制御装置13は、合成出力の減少許容時間(減少禁止準備時間、減少禁止開放時間)と減少禁止時間の滞在時間に基づいて、最大必要充電電力ESmaxを演算する。本明細書において、合成出力の減少許容時間(減少禁止準備時間、減少禁止開放時間)と減少禁止時間の「滞在時間」は、文言通りの各時間の純粋な滞在時間の他、各時間の開始時間(開始時刻)と終了時間(終了時刻)、及び、各時間に滞在している場合の残り時間などを含む広い概念で使用する。
制御装置13は、合成出力の減少許容時間(減少禁止準備時間、減少禁止開放時間)と減少禁止時間で異なる関数を用いて、最大必要充電電力ESmaxを演算する。図5は、合成出力の減少許容時間と減少禁止時間で用いる最大必要充電電力ESmaxを演算するための異なる関数の一例を示している。図5に示すように、減少許容時間に対応する関数(実線)と減少禁止時間に対応する関数(破線)は、時間によって変化する傾きの異なる一次関数となっている(減少許容時間に対応する関数よりも減少禁止時間に対応する関数の方が傾きの大きい直線となっている)。なお、図5に示した関数は一例であり、一次関数でなく二次関数を用いてもよく、当該関数の具体的態様には種々の設計変更が可能である。
図6は、減少許容時間(減少禁止準備時間)に風力発電機16の運転(出力)が停止し且つ減少禁止時間の開始前に合成出力をゼロにできる場合の最大必要充電電力ESmaxを示している。合成出力は、短周期変動基準(例えば出力変化速度が1%/min以内)及び長周期変動基準(減少禁止時間では減少禁止)を満足するように変化させなければならないので、最大必要充電電力ESmaxをゼロにすることはできない。図6の例では、所定の出力変化速度で低下させたときの合成出力である必要電力(減少禁止準備時間の三角形のグレー領域)が最大必要充電電力ESmaxに相当する。なお、風力発電機16の運転停止時の出力が大きければ大きいほど図6の三角形が相似形で大きくなるので、最大必要充電電力ESmaxが累乗的に増大する。
図7は、減少許容時間(減少禁止準備時間)に風力発電機16の運転(出力)が停止し且つ減少禁止時間の開始前に合成出力をゼロにできない場合の最大必要充電電力ESmaxを示している。この場合、減少禁止準備時間を利用して所定の出力変化速度で合成出力が低下した後、減少禁止時間では合成出力を一定にする必要があり、減少禁止時間の終了後の減少禁止開放時間を利用して、さらに所定の出力変化速度で合成出力が低下していく。図7の例では、所定の出力変化速度で低下させたときの必要電力(減少禁止準備時間の台形のグレー領域と減少禁止開放時間の三角形のグレー領域)及び合成出力を一定に維持したときの必要電力(減少禁止時間の長方形のグレー領域)の総和が最大必要充電電力ESmaxに相当する。
図6、図7において、制御装置13は、減少許容時間(減少禁止準備時間)から減少禁止時間への移行時における合成出力がゼロより大きいか否かを判定する。合成出力がゼロより小さい場合、移行時点での合成出力をゼロに補正してその後の処理を継続し(図6)、合成出力がゼロより大きい場合、移行時点での合成出力をそのまま使用してその後の処理を継続することができる(図7)。
図8は、減少禁止時間に風力発電機16の運転(出力)が停止した場合の最大必要充電電力ESmaxを示している。この場合、減少禁止時間では合成出力を一定にする必要があり、減少禁止時間の終了後の減少禁止開放時間を利用して、所定の出力変化速度で合成出力が低下していく。図8の例では、合成出力を一定に維持したときの必要電力(減少禁止時間の長方形のグレー領域)と所定の出力変化速度で低下させたときの必要電力(減少禁止開放時間の三角形のグレー領域)の総和が最大必要充電電力ESmaxに相当する。また、減少禁止時間の開始時に風力発電機16の運転(出力)が停止した場合が上述した図4に相当し、最大必要充電電力ESmaxが最も大きくなる。
図9は、減少禁止時間の終了時(減少禁止開放時間の開始時)に風力発電機16の運転(出力)が停止した場合の最大必要充電電力ESmaxを示している。この場合、減少禁止時間の終了後の減少禁止開放時間を利用して、所定の出力変化速度で合成出力が低下していく。図9の例では、所定の出力変化速度で低下させたときの必要電力(減少禁止開放時間の三角形のグレー領域)が最大必要充電電力ESmaxに相当する。図6と図9は、風力発電機16の運転(出力)が停止した後の所定時間に減少禁止時間を含まないので、合成出力を最も早くゼロに近付けることができる(つまり最大必要充電電力ESmaxが最も小さくなる)。
このように、風力発電機16と電力貯蔵装置11の合成出力には、短周期変動と長周期変動の制約が課せられるので、その変化率や変動方向に制限がある。短周期変動と長周期変動の制約を満たしつつ且つ最も短時間で合成出力をゼロに近付けるケースを想定して、制御装置13(最大必要充電電力演算部23)が最大必要充電電力ESmaxを演算する。
最大必要充電電力ESmaxの具体的な算出は、例えば、数式(1)によって実行することができる。なお、最大必要充電電力ESmaxを算出する際に、さらに電力貯蔵装置11の効率(放電時の効率)を考慮しても良いし、充電電力運用下限値に相当する充電電力量を考慮しても良い。すなわち、最大必要充電電力ESmaxの算出式は数式(1)に限定されず、種々の設計変更が可能である。
減少許容時間(減少禁止準備時間)において現在の風力発電機16の出力Pg≦rTpのときは、たとえ風力発電機16の発電電力がゼロまでステップ状に急激に低下しても、減少禁止時間の開始前に合成出力をゼロまで低下させることができる。そのため、長周期変動基準の減少禁止に関係なく、最大必要充電電力ESmaxは、図6又は図9のように、減少禁止時間の開始前又は開始後の三角形の面積を計算すればよい。但し、電力貯蔵装置11の充電電力を放電するとき、連系点に至るまでに損失が生じることから、その放電時の効率で除算した電力量を確保してもよい。また充電電力運用下限値以下の充電電力は原則として制御に利用しないことから、充電電力運用下限値に相当する充電電力量を加算してもよい。
一方、減少許容時間(減少禁止準備時間)において現在の風力発電機16の出力Pg>rTpのときは、風力発電機16の発電電力がゼロまでステップ状に急激に低下しても、減少禁止時間の開始時までに合成出力をPg−rTp(>0)までしか低下させることができない。このため、減少禁止時間の残り時間(滞在時間)をその出力(減少禁止時間の開始時の出力)で一定に維持する。
減少許容時間(減少禁止準備時間)においては、残り時間Tpの間は合成出力をPgで維持しなければならない。しかし、残り時間Tp=0とすれば、上述した通り、現在の風力発電機16の出力Pg>rTpのときと同様に、数式(1)を用いて最大必要充電電力ESmaxを演算することができる。
図10〜図13を参照して、見込み発電電力演算部24による見込み発電電力ESestの演算について詳細に説明する。
図10は、減少禁止時間の開始時に風力発電機16の運転(出力)が停止した場合における見込み発電電力ESestの演算の一例を示す概念図である。風力発電機16の運転(出力)が停止した場合であっても、実際には、風力発電機16の発電電力がゼロまでステップ状に急激に低下することはなく、気象条件や発電設備の特性(風力発電機16の場合は回転機の慣性)によって、風力発電機16の発電電力がある程度緩やかに低下する。見込み発電電力ESestは、所定時間において風力発電機16の発電電力がある程度緩やかに低下した場合に発生する発電電力を見積もったものである。図10では、見込み発電電力ESestを、減少禁止時間において破線で囲まれた部分の面積として描いている。本実施形態では、最大必要充電電力ESmaxから見込み発電電力ESestを減算した差分電力(最大必要充電電力ESmax−見込み発電電力ESest)を「必要充電電力」として確保している。これにより、電力貯蔵装置11(例えば蓄電池)の容量を必要最低限のレベルに抑えて電力貯蔵装置11の規模増大に伴うコストアップを回避しつつ(経済性を向上させつつ)、電力安定化システム1を良好に運転することができる。
図11は、見込み発電電力演算部24の内部構成の一例を示している。見込み発電電力演算部24は、減算部24Aと、乗算部24Bと、減算部24Cと、最大値選択部24Dとを有している。減算部24Aは、風力発電機16の出力Pg(単位はMW)から風力発電機16の出力補正項α(単位はMW)を減算する(Pg−α)。乗算部24Bは、減算部24Aの減算結果(Pg−α)に減少禁止時間の滞在時間KT(単位はh)を乗算することで第1候補電力A(単位はMWh)を取得する。減算部24Cは、発電量予測値Ef(単位はMWh)から発電量予測補正項β(単位はMWh)を減算する(Ef−β)ことで第2候補電力Bを取得する。最大値選択部24Dは、第1候補電力Aと第2候補電力Bのいずれか大きい方を見込み発電電力ESestとして選択する。
第1候補電力Aは、風力発電機16の現在の出力Pgに基づいた実測値としての意味を持つ。第1候補電力Aは、A(MWh)=(Pg−α)×KTで表すことができる。この式は、減少禁止時間における発電量の時間平均値と減少禁止時間の開始時点における風力発電機16の出力Pgの間に強い相関があることを活用したものである。
図12は、減少禁止時間の開始時点における風力発電機16の出力(x)と減少禁止時間における風力発電機16の発電量(y)の時間平均値との関係を示す概念図である。図12は発電所の定格出力が100MWの場合を例示している。図12の各プロットは、過去の所定期間における風力発電機16の出力(x)と発電量(y)の時間平均値の実測値を示している。風力発電機16の出力(x)はあまり変化せずに所定時間は同じレベルを保つことが多い。従って、風力発電機16の出力(x)と発電量(y)の時間平均値は近い値になることが多く、直線y=xの近傍にプロットが集中する。それでも全プロットは、直線y=xを中心としてある程度のばらつきを持って分布する。直線y=xより上側にあるプロットは、減少禁止時間の開始時点における風力発電機16の出力xに比べて、減少禁止時間における風力発電機16の発電量yの時間平均値の方が大きい。一方、直線y=xより下側にあるプロットは、減少禁止時間の開始時点における風力発電機16の出力xに比べて、減少禁止時間における風力発電機16の発電量yの時間平均値の方が小さい。
本実施形態では、風力発電機16の出力が最も低下した場合であっても確実に見込める発電量を見込み発電電力ESestに演算する。図12の例では、全プロットのうち直線y=xに対して最も下方に離れているプロット(x、y)=(80、30)が直線y=x−50より上方にあることから、直線y=x−50に基づいて見込み発電電力ESestを演算することができる。出力補正項αは、例えば50MWに設定することができるが、風力発電機16やその環境等(例えば風況データ等の実績値)に応じて適宜変更することができる。
以上の演算方法で得られた第1候補電力Aを見込み発電電力ESestとすれば、仮に風力発電機16の出力が急減した場合であっても、電力貯蔵装置11によって合成出力を保証することが可能である。しかし、第1候補電力Aは風力発電機16の出力Pgという限られた情報から計算されているので、減少禁止時間における風力発電機16の発電量を過小評価または過大評価しているおそれがある。
そこで、例えば、電力安定化システム10に気象予報データを用いた発電量予測技術を搭載して、発電量予測値Efを用いて第2候補電力Bを演算して、これを見込み発電電力ESestとすることも可能である。気象予報データは電力発電機16の設置地点だけではない広域空間の気象モデルを用いて予想されたものであり、且つ、発電量予測技術は気象予報データを用いて統計的学習を行っており季節性を一定程度考慮できることから、減少禁止時間における風力発電機16の発電量(見込み発電量)を精度よく予測することが期待できる。
一方、入手可能な気象予報データは数時間の周期で更新されるので、発電量予測値Efは演算のタイミングによっては精度が低くなるおそれがある。そこで、発電量予測値Efから予測誤差によるばらつきを補正するための発電量予測補正項βを減算して、予測誤差のばらつきがあっても確実に見込める第2候補電力Bを計算する。第2候補電力Bは、B(MWh)=Ef−βで表すことができる。
発電量予測補正項βは、例えば、以下の第1段階〜第4段階の処理方法により設定することができる。
第1段階:風力発電機16の設置地点の気象予報データ及び風況データに基づいて発電量予測値xを算出する。
第2段階:風力発電機16の設置地点の風況データを風車パワーカーブ等で発電量に換算して実績値yを算出する。
第3段階:算出した発電量予測値xと実績値yの中から過酷条件の組み合わせを抽出する。
第4段階:過酷条件に従って発電量予測補正項βを決定する。
図13は、減少禁止時間における風力発電機16の発電量予測値(x)とこれに対応する発電量実績値(y)の関係を示す概念図である。図13は、発電所の定格出力が100MW、減少禁止時間が3時間、減少禁止時間における最大発電量が300MWhの場合を例示している。図13において、風力発電機16の発電量予測値(x)と発電量実績値(y)は近い値になることが多く、直線y=xの近傍にプロットが集中する。それでも全プロットは、直線y=xを中心としてある程度のばらつきを持って分布する。直線y=xより上側にあるプロットは、風力発電機16の発電量予測値(x)と比べて、発電量実績値(y)の方が大きいので、電力貯蔵装置11の貯蔵電力が不足し難い傾向にある。一方、直線y=xより下側にあるプロットは、風力発電機16の発電量予測値(x)と比べて、発電量実績値(y)の方が小さいので、電力貯蔵装置11の貯蔵電力が不足し易い傾向にある。
本実施形態では、風力発電機16の発電量予測値(x)が発電量実績値(y)より小さい場合であっても確実に見込める発電量を見込み発電電力ESestに演算する。図13の例では、全プロットのうち直線y=xに対して最も下方に離れているプロット(x、y)=(200、80)が直線y=x−120より上方にあることから、直線y=x−120に基づいて見込み発電電力ESestを演算することができる。出力補正項βは、例えば120MWhに設定することができるが、風況データや気象予報データ等に基づいて適宜変動し得る。
以上のようにして算出された第1候補電力Aと第2候補電力Bのいずれか大きい方の値を見込み発電電力ESestとして採用する。第1候補電力Aと第2候補電力Bのいずれが採用されても、実績データに基づく過酷条件が考慮されているので、風力発電機16の出力急減時の見込み発電電力ESestを正確に把握することが可能になる。
図14は、制御装置13(最大必要充電電力演算部23と見込み発電電力演算部24と差分電力演算部25)による演算内容を示すブロック図である。
最大必要充電電力演算部23は、風力発電機16の運転(出力)が停止すると、その停止時刻tに基づいて、減少禁止時間の残り時間Tlong及び減少禁止準備時間の残り時間Tprepを算出する。最大必要充電電力演算部23は、減少禁止時間及び減少禁止準備時間に対応する充電電力補正関数(図5)を用いて、減少禁止時間の残り時間Tlong及び減少禁止準備時間の残り時間Tprep並びに風力発電機16の現在出力値Pgに基づいて、最大必要充電電力ESmaxを演算する。見込み発電電力演算部24は、風力発電機16の運転(出力)が停止したと仮定した場合に、その停止時点から所定時間が経過するまでの間における風力発電機16の見込み発電電力ESestを演算する。差分電力演算部25は、最大必要充電電力ESmaxから見込み発電電力ESestを減算した差分電力(ESmax−ESest)を必要充電電力として求める。その必要充電電力は、電力貯蔵装置11の貯蔵電力目標値ESrefと一致する。差分電力演算部25は、必要充電電力(貯蔵電力目標値)ESrefと現在の充電電力ESの差分である補正貯蔵電力量ES´を算出する。この補正貯蔵電力量ES´に基づいて電力貯蔵装置11の充放電が制御される。
このように、本実施形態では、制御装置13が、風力発電機(変動電源)16の出力が停止した時点から所定時間が経過するまでの間、合成出力を目標合成出力に追従させるための最大必要充電電力ESmaxを演算して、最大必要充電電力ESmaxに基づいて、電力貯蔵装置11の充放電を制御する。また、制御装置13は、風力発電機16の出力が停止した時点から所定時間が経過するまでの間における風力発電機16の見込み発電電力ESestを演算して、最大必要充電電力ESmaxと見込み発電電力ESestの差分電力(ESmax−ESest)に基づいて、電力貯蔵装置11の充放電を制御する。これにより、風力発電機16の出力が停止した場合でも、風力発電機16と電力貯蔵装置11の合成出力を目標合成出力に追従させることができる。
上記の実施形態では、最大必要充電電力演算部23が、減少禁止準備時間の残り時間Tpと減少禁止時間の残り時間TLの両方を用いて、最大必要充電電力ESmaxを演算する場合を例示して説明した。しかし、最大必要充電電力演算部23は、減少禁止準備時間の残り時間Tpと減少禁止時間の残り時間TLのいずれか一方だけを用いて、最大必要充電電力ESmaxを演算することが可能である。すなわち、最大必要充電電力演算部23は、減少禁止準備時間又は減少禁止時間の滞在時間に基づいて、最大必要充電電力ESmaxを演算することができる。
上記の実施形態では、最大必要充電電力ESmaxの計算において、風力発電機16の発電電力がゼロまでステップ状に急激に低下するという理論上の最悪条件に対して最小限の放電電力量となる合成出力制御を想定している。そのために、減少禁止準備時間の残り時間Tpと減少禁止時間の残り時間TLを使用して、減少禁止時間の開始時刻までに合成出力をどこまで低下させることができるかを計算している。
仮に減少禁止準備時間の残り時間Tpが不明な場合、どの程度まで合成出力を低下させることができるか把握できない。そのため、短周期変動・長周期変動の制約の両方を満足するために必要な放電電力量が大きくなる。ここで、「減少禁止準備時間の残り時間Tpが不明な場合」は、「減少禁止時間の開始時間(開始時刻)が不明な場合」と言い換えることができ、次の2つの場合に類型化される。
・減少禁止時間の長さは分かっているが、減少禁止時間の開始時間(開始時刻)が不明である場合。
・減少禁止時間の終了時間(終了時刻)は分かっているが、減少禁止時間の開始時間(開始時刻)が不明である場合。
一方、減少禁止時間の残り時間TLが不明な場合は、例えば、減少禁止時間の開始時間(開始時刻)は分かっているが、減少禁止時間の終了時間(終了時刻)が不明なケースが当てはまる。以下、これら各ケースについての制御方法(最大必要充電電力ESmaxの演算方法)について説明していく。
<減少禁止時間の長さは分かっているが、減少禁止時間の開始時間(開始時刻)が不明である場合>
これは、上述した数式(1)において、減少禁止準備時間の残り時間Tpが不明な場合に相当する。風力発電機16の発電電力がゼロまでステップ状に急激に低下するという理論上の最悪条件を想定するならば、最大必要充電電力ESmaxが最も大きくなるのは、減少禁止準備時間の残り時間Tp=0の場合、すなわち、減少禁止時間の開始時間(開始時刻)が現在となる場合である。すなわち、最大必要充電電力ESmaxは、上述した数式(1)において、Tp=0とした次の数式(2)により計算することができる。なお、最大必要充電電力ESmaxを算出する際に、さらに電力貯蔵装置11の効率(放電時の効率)を考慮しても良いし、充電電力運用下限値に相当する充電電力量を考慮しても良い。
<減少禁止時間の終了時間(終了時刻)は分かっているが、減少禁止時間の開始時間(開始時刻)が不明である場合>
これは、減少禁止準備時間の残り時間Tpと減少禁止時間の残り時間TLとの合計時間(これをTL’と定義する)は決まっているが、それらの内訳が不明な場合に相当する。風力発電機16の発電電力がゼロまでステップ状に急激に低下するという理論上の最悪条件を想定するならば、最大必要充電電力ESmaxが最も大きくなるのは、Tp=0かつTL=TL’の場合、すなわち、減少禁止時間の開始時間(開始時刻)が現在となる場合である。すなわち、最大必要充電電力ESmaxは、上述した数式(1)において、Tp=0かつTL=TL’とした次の数式(3)により計算することができる。なお、最大必要充電電力ESmaxを算出する際に、さらに電力貯蔵装置11の効率(放電時の効率)を考慮しても良いし、充電電力運用下限値に相当する充電電力量を考慮しても良い。
図15A、図15B、図15Cは、減少禁止時間の開始時間(開始時刻)が現在よりも遅い第1の場合(減少禁止時間までの時間が相対的に長い)、現在よりも遅い第2の場合(減少禁止時間までの時間が相対的に短い)、現在の場合における最大必要充電電力ESmaxの一例を示している。図15A〜図15Cの中において、最大必要充電電力ESmaxが最も大きくなるのは図15Cである。何故なら、現在から減少禁止時間の開始時間(開始時刻)までの放電電力量(図15Aと図15Bの左側の台形部分)と、減少禁止時間終了後の放電電力量(図15A〜図15Cの右側の三角形部分)との合計面積は同じなので、減少禁止時間の放電電力量(図15A〜図15Cの真ん中の長方形部分)の面積の比較になるからである。
<減少禁止時間の開始時間(開始時刻)は分かっているが、減少禁止時間の終了時間(終了時刻)が不明な場合>
これは、減少禁止準備時間の残り時間Tpは決まっているが、減少禁止時間の残り時間TLがゼロより大きいことしか分からない場合に相当する。この場合における最悪条件は、減少禁止時間の残り時間TL=∞となることである。減少禁止時間において放電を長時間継続すると、やがて充電電力が不足するので、減少禁止時間の開始時間(開始時刻)までに合成出力をゼロにする必要がある。上述した数式(1)において、TL=∞とすると、最大必要充電電力ESmaxは、次の数式(4)により計算することができる。しかし、最大必要充電電力ESmax=∞にすることは実際には不可能であるため、数式(4)において、Pg2/2rで算出される最大必要充電電力ESmaxの上限値を採用する。
以上の実施形態では、制御装置13が、最大必要充電電力ESmaxを用いて電力貯蔵装置11の充放電を制御する場合を例示して説明したが、最大必要充電電力ESmaxに代えて、最大必要充電率(最大必要SOC)を用いて電力貯蔵装置11の充放電を制御してもよい。この場合、「見込み発電電力」に代えて「見込みSOC」を用いることになる。特許請求の範囲における「最大必要充電電力」と「見込み発電電力」は、文言通りの絶対量の場合の他、満充電に対する充電パーセンテージである「最大必要充電率(最大必要SOC)」と「見込みSOC」を含む概念で使用する。
また、以上の実施形態で演算に用いた変動電源(例えば風力発電機16)の出力値は、合成出力値でもよいし、合成出力目標値でもよい。変動電源の出力値は変動が激しいため、均等化した出力値として、合成出力値を用いるほうがよい場合もある。
また、最大必要充電電力ESmaxから見込み発電電力ESestを減算せずに、最大必要充電電力ESmaxのみを用いて、貯蔵電力目標値ESrefとしてもよい(ESmax=ESref)。
本実施形態の電力安定化システムは、充放電が可能な電力貯蔵装置と、前記電力貯蔵装置の出力と変動電源の出力の合成出力を制御する制御装置と、を有し、前記制御装置は、前記変動電源の出力が停止した時点から所定時間が経過するまでの間、前記合成出力を目標合成出力に追従させるための最大必要充電電力を演算して、前記最大必要充電電力に基づいて、前記電力貯蔵装置の充放電を制御し、前記制御装置は、前記変動電源の現在出力と、出力変化速度設定値と、前記所定時間に含まれる前記合成出力の減少許容時間の残り時間と、前記所定時間に含まれる前記合成出力の減少禁止時間の残り時間とに基づいて、前記最大必要充電電力を演算する、ことを特徴としている。
本実施形態の制御装置は、電力貯蔵装置の出力と変動電源の出力の合成出力を制御する制御装置であって、前記変動電源の出力が停止した時点から所定時間が経過するまでの間、前記合成出力を目標合成出力に追従させるための最大必要充電電力を演算して、前記最大必要充電電力に基づいて、前記電力貯蔵装置の充放電を制御し、前記変動電源の現在出力と、出力変化速度設定値と、前記所定時間に含まれる前記合成出力の減少許容時間の残り時間と、前記所定時間に含まれる前記合成出力の減少禁止時間の残り時間とに基づいて、前記最大必要充電電力を演算する、ことを特徴としている。