以下、添付図面を参照しながら本発明による位相変調層設計方法の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図1は、本発明の一実施形態に係る発光装置として、半導体発光素子1Aの構成を示す斜視図である。なお、半導体発光素子1Aの中心を通り半導体発光素子1Aの厚さ方向に延びる軸をZ軸とするXYZ直交座標系を定義する。半導体発光素子1Aは、XY面内方向において定在波を形成し、位相制御された平面波をZ軸方向に出力するS−iPMレーザであって、後述するように、半導体基板10の主面10aに垂直な方向(すなわちZ軸方向)またはこれに対して傾斜する方向、或いはその両方を含む二次元的な任意形状の光像を出力する。
図2は、半導体発光素子1Aの積層構造を模式的に示す図である。図1及び図2に示されるように、半導体発光素子1Aは、半導体基板10の主面10a上に設けられた発光部としての活性層12と、主面10a上に設けられて活性層12を挟む一対のクラッド層11及び13と、クラッド層13上に設けられたコンタクト層14と、を備える。これらの半導体基板10及び各層11〜14は、例えばGaAs系半導体、InP系半導体、もしくは窒化物系半導体といった化合物半導体によって構成される。クラッド層11のエネルギーバンドギャップ、及びクラッド層13のエネルギーバンドギャップは、活性層12のエネルギーバンドギャップよりも大きい。半導体基板10及び各層11〜14の厚さ方向は、Z軸方向と一致する。
半導体発光素子1Aは、活性層12と光学的に結合された位相変調層15を更に備える。本実施形態では、位相変調層15は活性層12とクラッド層13との間に設けられている。必要に応じて、活性層12とクラッド層13との間、及び活性層12とクラッド層11との間のうち少なくとも一方に、光ガイド層が設けられてもよい。光ガイド層が活性層12とクラッド層13との間に設けられる場合、位相変調層15は、クラッド層13と光ガイド層との間に設けられる。位相変調層15の厚さ方向は、Z軸方向と一致する。なお、光ガイド層は、キャリアを活性層12に効率的に閉じ込めるためのキャリア障壁層を含んでも良い。
図3に示されるように、位相変調層15は、クラッド層11と活性層12との間に設けられてもよい。光ガイド層が活性層12とクラッド層11との間に設けられる場合、位相変調層15は、クラッド層11と光ガイド層との間に設けられる。
位相変調層15は、第1屈折率媒質からなる基本層15aと、第1屈折率媒質とは屈折率の異なる第2屈折率媒質からなり、基本層15a内に存在する複数の異屈折率領域15bとを含んで構成されている。複数の異屈折率領域15bは、略周期構造を含んでいる。位相変調層15の実効屈折率をnとした場合、位相変調層15が選択する波長λ0(=a×n、aは格子間隔)は、活性層12の発光波長範囲内に含まれている。位相変調層15は、活性層12の発光波長のうちの波長λ0を選択して、外部に出力することができる。位相変調層15内に入射したレーザ光は、位相変調層15内において異屈折率領域15bの配置に応じた所定のモードを形成し、所望のパターンを有するレーザビームとして、半導体発光素子1Aから外部に出射される。
半導体発光素子1Aは、コンタクト層14上に設けられた電極16と、半導体基板10の裏面10b上に設けられた電極17とを更に備える。電極16はコンタクト層14とオーミック接触を成しており、電極17は半導体基板10とオーミック接触を成している。更に、電極17は開口17aを有する。電極16は、コンタクト層14の中央領域に設けられている。コンタクト層14上における電極16以外の部分は、保護膜18によって覆われている。なお、電極16と接触していないコンタクト層14は、取り除かれても良い。半導体基板10の裏面10bのうち電極17以外の部分(開口17a内を含む)は、反射防止膜19によって覆われている。開口17a以外の領域にある反射防止膜19は取り除かれてもよい。
電極16と電極17との間に駆動電流が供給されると、活性層12内において電子と正孔の再結合が生じ、活性層12が発光する。この発光に寄与する電子及び正孔、並びに発生した光は、クラッド層11及びクラッド層13の間に効率的に閉じ込められる。
活性層12から出射された光は、位相変調層15の内部に入射し、位相変調層15の内部の格子構造に応じた所定のモードを形成する。位相変調層15から出射したレーザ光は、直接に、裏面10bから開口17aを通って半導体発光素子1Aの外部へ出力されるか、または、電極16において反射したのち、裏面10bから開口17aを通って半導体発光素子1Aの外部へ出力される。このとき、レーザ光に含まれる0次光は、主面10aに垂直な方向へ出射する。これに対し、レーザ光に含まれる信号光(1次光及び−1次光)は、主面10aに垂直な方向及びこれに対して傾斜した方向を含む二次元的な任意方向へ出射する。所望の光像を形成するのは信号光である。
或る例では、半導体基板10はGaAs基板であり、クラッド層11、活性層12、クラッド層13、コンタクト層14、及び位相変調層15は、それぞれIII族元素およびV族元素により構成される化合物半導体層である。一実施例では、クラッド層11はAlGaAs層であり、活性層12は多重量子井戸構造(障壁層:AlGaAs/井戸層:InGaAs)を有し、位相変調層15の基本層15aはGaAsであり、異屈折率領域15bは空孔であり、クラッド層13はAlGaAs層であり、コンタクト層14はGaAs層である。
AlGaAsにおいては、Alの組成比を変更することで、容易にエネルギーバンドギャップと屈折率を変えることができる。AlxGa1-xAsにおいて、相対的に原子半径の小さなAlの組成比xを減少(増加)させると、これと正の相関にあるエネルギーバンドギャップは小さく(大きく)なり、GaAsに原子半径の大きなInを混入させてInGaAsとすると、エネルギーバンドギャップは小さくなる。すなわち、クラッド層11,13のAl組成比は、活性層12の障壁層(AlGaAs)のAl組成比よりも大きい。クラッド層11,13のAl組成比は例えば0.2〜1.0に設定され、一実施例では0.4である。活性層12の障壁層のAl組成比は例えば0〜0.3に設定され、一実施例では0.15である。
なお、半導体発光素子1Aから出射される、光像に相当するビームパターンには、網目状の暗部を有するノイズ光が重畳することがある。発明者の研究によれば、この網目状の暗部を有するノイズ光は、半導体発光素子1Aの内部での積層方向の高次モードに起因する。ここで、積層方向の基本モードとは、活性層12を含みクラッド層11とクラッド層13で挟まれた領域に亘って1つのピークが存在する強度分布を有するモードのことであり、高次モードとは、2以上のピークが存在する強度分布を有するモードのことである。基本モードの強度分布のピークが活性層12近傍に形成されるのに対し、高次モードの強度分布のピークはクラッド層11、クラッド層13、コンタクト層14などにも形成される。また、積層方向のモードとしては導波モードと漏れモードとが存在するが、漏れモードは安定して存在しないので、ここでは導波モードのみに着目する。また、導波モードには、層の面内方向に電界ベクトルが存在するTEモードと、層面の垂直方向に電界ベクトルが存在するTMモードとがあるが、ここではTEモードのみに着目する。活性層12とコンタクト層との間のクラッド層13の屈折率が、活性層12と半導体基板との間のクラッド層11の屈折率よりも大きい場合に、そのような高次モードが顕著に生じる。通常、活性層12およびコンタクト層14の屈折率は、各クラッド層11,13の屈折率よりも格段に大きい。したがって、クラッド層13の屈折率がクラッド層11の屈折率よりも大きい場合、クラッド層13にも光が閉じ込められ、導波モードが形成される。これによって高次モードが生じる。
本実施形態の半導体発光素子1Aでは、クラッド層13の屈折率が、クラッド層11の屈折率以下となっている。これにより、上述のような高次モードの発生が抑制され、ビームパターンに重畳される網目状の暗部を有するノイズ光が低減され得る。
また、光導波路層と、該光導波路層に隣接する2層とにより構成された3層スラブ導波路構造は、以下の条件を満たすのが好ましい。具体的には、当該3層スラブ導波路構造における光導波路層は、位相変調層15の屈折率がクラッド層11の屈折率よりも小さい場合に活性層12により構成される。一方、光導波路層は、位相変調層15の屈折率がクラッド層11の屈折率以上である場合に位相変調層15および活性層12により構成される。なお、何れの場合も、光導波路層は、クラッド層11,13は含まない。このような3層スラブ導波路構造において、TEモードでの規格化導波路幅V1を以下の式(1)および(2)によって規定し、非対称パラメータa’および規格化伝搬係数bを以下の式(3)および(4)をそれぞれ満たす実数とするとき、規格化導波路幅V1の解が1つのみ存在する範囲内に収まるよう、規格化導波路幅V1および規格化伝搬係数bが設定される。
ここで、TEモードは層厚方向の伝搬モード、n1は活性層12を含む光導波路層の屈折率、n2は光導波路層に隣接する層のうち屈折率の高い層の屈折率、N1はモード次数、ncladはクラッド層11の屈折率、n3は光導波路層に隣接する層のうち屈折率の低い層の屈折率、neffは3層スラブ導波路構造におけるTEモードの等価屈折率である。
発明者らの研究によれば、活性層12を含む光導波路層(高屈折率層)においても高次モードが発生することが分かった。そして、光導波路層の厚さおよび屈折率を適切に制御することにより、高次モードを抑制できることを見出した。すなわち、光導波路層の規格化導波路幅V1の値が上述の条件を満たすことにより、高次モードの発生が更に抑制され、ビームパターンに重畳される網目状の暗部を有するノイズ光のより一層低減が可能になる。
また、コンタクト層と、該コンタクト層に隣接する2層とにより構成された別の3層スラブ導波路構造は、以下の条件を満たすのが好ましい。具体的に、このような別の3層スラブ導波路構造において、コンタクト層14の規格化導波路幅V2を以下の式(5)および(6)によって規定し、非対称パラメータa’および規格化伝搬係数bを以下の式(7)および(8)をそれぞれ満たす実数とするとき、規格化導波路幅V2が解なしとなる範囲内に収まるよう、規格化導波路幅V2および規格化伝搬係数bが設定される。
ここで、n4はコンタクト層14の屈折率、n5はコンタクト層14に隣接する層のうち屈折率の高い層の屈折率、n6はコンタクト層14に隣接する層のうち屈折率の低い層の屈折率、N2はモード次数、neffは上記別の3層スラブ導波路構造におけるTEモードの等価屈折率である。
このように、コンタクト層14の厚さを適切に制御することにより、コンタクト層14に起因する導波モードの発生が抑制され、レーザ素子に生じる高次モードの発生が更に抑制され得る。
別の例では、半導体基板10はInP基板であり、クラッド層11、活性層12、位相変調層15、クラッド層13、及びコンタクト層14は、例えばInP系化合物半導体からなる。一実施例では、クラッド層11はInP層であり、活性層12は多重量子井戸構造(障壁層:GaInAsP/井戸層:GaInAsP)を有し、位相変調層15の基本層15aはGaInAsPであり、異屈折率領域15bは空孔であり、クラッド層13はInP層であり、コンタクト層14はGaInAsP層である。
また、更に別の例では、半導体基板10はGaN基板であり、クラッド層11、活性層12、位相変調層15、クラッド層13、及びコンタクト層14は、例えば窒化物系化合物半導体からなる。一実施例では、クラッド層11はAlGaN層であり、活性層12は多重量子井戸構造(障壁層:InGaN/井戸層:InGaN)を有し、位相変調層15の基本層15aはGaNであり、異屈折率領域15bは空孔であり、クラッド層13はAlGaN層であり、コンタクト層14はGaN層である。
クラッド層11には半導体基板10と同じ導電型が付与され、クラッド層13及びコンタクト層14には半導体基板10とは逆の導電型が付与される。一例では、半導体基板10及びクラッド層11はn型であり、クラッド層13及びコンタクト層14はp型である。位相変調層15は、活性層12とクラッド層11との間に設けられる場合には半導体基板10と同じ導電型を有し、活性層12とクラッド層13との間に設けられる場合には半導体基板10とは逆の導電型を有する。なお、不純物濃度は例えば1×1017〜1×1021/cm3である。活性層12は、いずれの不純物も意図的に添加されていない真性(i型)であり、その不純物濃度は1×1015/cm3以下である。なお、位相変調層15の不純物濃度については、不純物準位を介した光吸収による損失の影響を抑制する必要がある場合等には、真性(i型)としてもよい。
半導体基板10の厚さは例えば150μmである。クラッド層11の厚さは例えば2000nmである。活性層12の厚さは例えば175nmである。位相変調層15の厚さは例えば280nmである。異屈折率領域15bの深さは例えば200nmである。クラッド層13の厚さは例えば2000nmである。コンタクト層14の厚さは例えば150nmである。
上述の構造では、異屈折率領域15bが空孔となっているが、異屈折率領域15bは、基本層15aとは屈折率が異なる半導体が空孔内に埋め込まれて形成されてもよい。その場合、例えば基本層15aの空孔をエッチングにより形成し、有機金属気相成長法、スパッタ法又はエピタキシャル法を用いて半導体を空孔内に埋め込んでもよい。例えば、基本層15aがGaAsからなる場合、異屈折率領域15bはAlGaAsからなってもよい。また、基本層15aの空孔内に半導体を埋め込んで異屈折率領域15bを形成した後、更に、その上に異屈折率領域15bと同一の半導体を堆積してもよい。なお、異屈折率領域15bが空孔である場合、該空孔にアルゴン、窒素、水素といった不活性ガス又は空気が封入されてもよい。
反射防止膜19は、例えば、シリコン窒化物(例えばSiN)、シリコン酸化物(例えばSiO2)などの誘電体単層膜、或いは誘電体多層膜からなる。誘電体多層膜としては、例えば、酸化チタン(TiO2)、二酸化シリコン(SiO2)、一酸化シリコン(SiO)、酸化ニオブ(Nb2O5)、五酸化タンタル(Ta2O5)、フッ化マグネシウム(MgF2)、酸化チタン(TiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化セリウム(CeO2)、酸化インジウム(In2O3)、酸化ジルコニウム(ZrO2)などの誘電体層群から選択される2種類以上の誘電体層を積層した膜を用いることができる。例えば、波長λの光に対する光学膜厚で、λ/4の厚さの膜を積層する。また、保護膜18は、例えばシリコン窒化物(例えばSiN)、シリコン酸化物(例えばSiO2)などの絶縁膜である。半導体基板10及びコンタクト層14がGaAs系半導体からなる場合、電極16は、Cr、Ti、及びPtのうち少なくとも1つと、Auとを含む材料により構成されることができ、例えばCr層及びAu層の積層構造を有する。電極17は、AuGe及びNiのうち少なくとも1つと、Auとを含む材料により構成されることができ、例えばAuGe層及びAu層の積層構造を有する。なお、電極16,17の材料は、オーミック接合が実現できればよく、これらの範囲に限定されない。
なお、上述の構造において、活性層12および位相変調層15を含む構成であれば、材料系、膜厚、層の構成は様々に変更され得る。ここで、仮想的な正方格子からの摂動が0の場合のいわゆる正方格子フォトニック結晶レーザに関してはスケーリング則が成り立つ。すなわち、波長が定数α倍となった場合には、正方格子構造全体をα倍することによって同様の定在波状態を得ることが出来る。同様に、本実施形態においても、波長に応じたスケーリング則によって位相変調層15の構造を決定することが可能である。従って、青色、緑色、赤色などの光を発光する活性層12を用い、波長に応じたスケーリング則を適用することで、可視光を出力する半導体発光素子1Aを実現することも可能である。
半導体発光素子1Aを製造する際、各化合物半導体層の成長には、有機金属気相成長(MOCVD)法若しくは分子線エピタキシー(MBE)法を用いる。AlGaAsを用いた半導体発光素子1Aの製造においては、AlGaAsの成長温度は500℃〜850℃であって、実験では550〜700℃を採用し、成長時におけるAl原料としてTMA(トリメチルアルミニム)、ガリウム原料としてTMG(トリメチルガリウム)およびTEG(トリエチルガリウム)、As原料としてはAsH3(アルシン)、n型不純物用の原料としてSi2H6(ジシラン)、p型不純物用の原料としてDEZn(ジエチル亜鉛)を用いる。GaAsの成長においては、TMGとアルシンを用いるが、TMAを用いない。InGaAsは、TMGとTMI(トリメチルインジウム)とアルシンを用いて製造する。絶縁膜の形成は、その構成物質を原料としてターゲットをスパッタするか、またはPCVD(プラズマCVD)法により形成すればよい。
すなわち、半導体発光素子1Aを製造する際には、まず、n型の半導体基板10としてのGaAs基板上に、n型のクラッド層11としてのAlGaAs層、活性層12としてのInGaAs/AlGaAs多重量子井戸構造、位相変調層15の基本層15aとしてのGaAs層を、MOCVD法若しくはMBE法を用いて順次、エピタキシャル成長させる。
次に、基本層15aに別のレジストを塗布し、アライメントマークを基準とし、レジスト上に電子ビーム描画装置で2次元微細パターンを描画し、現像することでレジスト上に2次元微細パターンを形成する。その後、レジストをマスクとして、ドライエッチングにより2次元微細パターンを基本層15a上に転写し、孔(穴)を形成したのち、レジストを除去する。なお、レジスト形成前にSiN層やSiO2層をPCVD法で基本層15a上に形成し、その上にレジストマスクを形成し、反応性イオンエッチング(RIE)を使ってSiN層やSiO2層に微細パターンを転写し、レジストを除去してからドライエッチングしても良い。この場合、ドライエッチングの耐性を高めることができる。孔の深さは、例えば100nmである。これらの孔を異屈折率領域15bとするか、或いは、これらの孔の中に、異屈折率領域15bとなる化合物半導体(AlGaAs)を孔の深さ以上に再成長させる。孔を異屈折率領域15bとする場合、孔内に空気、窒素又はアルゴン等の気体を封入してもよい。こうして、位相変調層15が形成される。なお、位相変調層15を活性層12とクラッド層11との間に設ける場合には、活性層12の形成前に、クラッド層11上に位相変調層15を形成すればよい。
続いて、クラッド層13としてのAlGaAs層、コンタクト層14としてのGaAs層を順次MOCVD法若しくはMBE法で形成し、電極16,17を蒸着法又はスパッタ法により形成する。また、必要に応じて、保護膜18及び反射防止膜19をスパッタやPCVD法等により形成する。以上の工程を経て、本実施形態の半導体発光素子1Aが作製される。
図4は、位相変調層15の平面図である。前述したように、位相変調層15は、第1屈折率媒質からなる基本層15aと、第1屈折率媒質とは屈折率の異なる第2屈折率媒質からなる異屈折率領域15bとを含む。ここで、位相変調層15に、XY面内における仮想的な正方格子を設定する。正方格子の一辺はX軸と平行であり、他辺はY軸と平行であるものとする。このとき、正方格子の格子点Oを中心とする正方形状の単位構成領域Rが、X軸に沿った複数列及びY軸に沿った複数行にわたって二次元状に設定され得る。それぞれの単位構成領域RのXY座標をぞれぞれの単位構成領域Rの重心位置で与えられることとすると、この重心位置は仮想的な正方格子の格子点Oに一致する。複数の異屈折率領域15bは、各単位構成領域R内に1つずつ設けられる。異屈折率領域15bの平面形状は、例えば円形状である。格子点Oは、異屈折率領域15bの外部に位置しても良いし、異屈折率領域15bの内部に含まれていても良い。
1つの単位構成領域R内に占める異屈折率領域15bの面積Sの比率は、フィリングファクタ(FF)と称される。正方格子の格子間隔をaとすると、異屈折率領域15bのフィリングファクタFFはS/a2として与えられる。SはXY平面における異屈折率領域15bの面積であり、例えば真円形状の場合には、真円の直径dを用いてS=π(d/2)2として与えられる。また、正方形形状の場合には、正方形の一辺の長さLAを用いてS=LA2として与えられる。
図5は、位相変調層15における異屈折率領域15bの位置関係を示す図である。図5に示されるように、各異屈折率領域15bの重心Gは、直線D1(第1の直線)上に配置されている。直線D1は、各単位構成領域Rの対応する格子点Oを通り、正方格子の各辺に対して傾斜する。言い換えると、直線D1は、X軸及びY軸の双方に対して傾斜する。正方格子の一辺(X軸)に対する直線D1の傾斜角はθ1である。傾斜角θ1は、位相変調層15内において一定である。傾斜角θ1は、0°<θ1<90°を満たし、一例ではθ1=45°である。または、傾斜角θ1は、180°<θ1<270°を満たし、一例ではθ1=225°である。傾斜角θ1が0°<θ1<90°または180°<θ1<270°を満たす場合、直線D1は、X軸及びY軸によって規定される座標平面の第1象限から第3象限にわたって延びる。或いは、傾斜角θ1は、90°<θ1<180°を満たし、一例ではθ1=135°である。或いは、傾斜角θ1は、270°<θ1<360°を満たし、一例ではθ1=315°である。傾斜角θ1が90°<θ1<180°または270°<θ1<360°を満たす場合、直線D1は、X軸及びY軸によって規定される座標平面の第2象限から第4象限にわたって延びる。このように、傾斜角θ1は、0°、90°、180°及び270°を除く角度である。ここで、格子点Oと重心Gとの距離をr(x,y)とする。xはX軸におけるx番目の格子点の位置、yはY軸におけるy番目の格子点の位置を示す。距離r(x,y)が正の値である場合、重心Gは第1象限(または第2象限)に位置する。距離r(x,y)が負の値である場合、重心Gは第3象限(または第4象限)に位置する。距離r(x,y)が0である場合、格子点Oと重心Gとは互いに一致する。
図5に示される、各異屈折率領域15bの重心Gと、各単位構成領域Rの対応する格子点Oとの距離r(x,y)は、所望の光像に基づいて設定される位相に応じて、各異屈折率領域15b毎に個別に設定される。距離r(x,y)の分布は、x,yの値で決まる位置毎に特定の値を有するが、必ずしも特定の関数で表わされるとは限らない。距離r(x,y)の分布は、所望の光像をフーリエ変換して得られる複素振幅分布のうち位相分布を抽出したものから決定される。距離r(x,y)の最大値はR0であり、最小値は−R0である。正方格子の格子間隔をaとすると、r(x,y)の最大値R0は例えば
の範囲内である。なお、所望の光像から複素振幅分布を求める際には、ホログラム生成の計算時に一般的に用いられるGerchberg-Saxton(GS)法のような繰り返しアルゴリズムを適用することによって、ビームパターンの再現性が向上する。
図6〜図12は、位相変調層15を概念的に示す平面図である。本実施形態では、図6〜図12のいずれかに示されるように、位相変調層15を分割する2つの領域Fa及びFbを設定する。領域Faは本実施形態における第1領域であり、領域Fbは本実施形態における第2領域である。領域Fa,Fbは、位相変調層15の厚さ方向に垂直な面に沿った任意の方向に並んで設けられる。図6〜図11に示される例では、領域Fa,Fbは、位相変調層15の中心点Qを挟んで並んでいる。また、図12に示される例では、一方の領域Fbが位相変調層15の中心点Qを含んでいる。領域Fa及びFbは、境界線D2によって区画される。境界線D2は、図6〜図11に示されるように直線(第2の直線)であってもよいし、図12に示されるように曲線であってもよい。また、境界線D2は、図6〜図11に示されるように位相変調層15の中心点Q上を通ってもよいし、図12に示されるように中心点Qを避けてもよい。
以下、図6〜図11に示された領域Fa,Fbの形態を個別に説明する。なお、以下の説明において、XY直交座標系の原点が中心点Qと一致する場合、第1象限F1はX座標及びY座標が共に正となる象限であり、第3象限F3はX座標及びY座標が共に負となる象限である。また、第2象限F2はX座標が負となりY座標が正となる象限であり、第4象限F4はX座標が正となりY座標が負となる象限である。
図6及び図7に示される例では、領域Fa,Fbは、直線D1(図5を参照)に沿う方向に並んでいる。具体的には、直線D1の傾斜角θ1が0°<θ1<90°若しくは180°<θ1<270°を満たす場合、領域Faは座標原点に対して第1象限F1側に配置され、領域Fbは座標原点に対して第3象限F3側に配置される。この場合、境界線D2は、XY座標平面の第2象限F2から第4象限F4にわたって延びる。境界線D2が直線である場合、正方格子のX軸に対する境界線D2の傾斜角θ2は90°より大きく180°未満、若しくは270°より大きく360°未満である。図6に示される例では、傾斜角θ2は135°若しくは315°であり、境界線D2は正方形状の位相変調層15の対角線を構成する。図7に示される例では、傾斜角θ2は150°若しくは330°である。また、直線D1の傾斜角θ1が90°<θ1<180°若しくは270°<θ1<360°を満たす場合、領域Faは座標原点に対して第2象限F2側に配置され、領域Fbは座標原点に対して第4象限F4側に配置される。また、この場合、境界線D2は、XY座標平面の第1象限F1から第3象限F3にわたって延びる。言い換えると、境界線D2が直線である場合、正方格子のX軸に対する境界線D2の傾斜角θ2は0°より大きく90°未満、若しくは180°より大きく270°未満である。一例では、境界線D2は直線D1に対して直交する。
図8及び図9に示される例では、領域Fa,Fbは、直線D1(図5を参照)と交差する方向に並んでいる。具体的には、直線D1の傾斜角θ1が0°<θ1<90°若しくは180°<θ1<270°を満たす場合、領域Faは座標原点に対して第2象限F2側に配置され、領域Fbは座標原点に対して第4象限F4側に配置される。この場合、境界線D2は、XY座標平面の第1象限F1から第3象限F3にわたって延びる。境界線D2が直線である場合、正方格子のX軸に対する境界線D2の傾斜角θ2は0°より大きく90°未満、若しくは180°より大きく270°未満である。図8に示される例では、傾斜角θ2は45°若しくは225°であり、境界線D2は正方形状の位相変調層15の対角線を構成する。図9に示される例では、傾斜角θ2は30°若しくは210°である。また、直線D1の傾斜角θ1が90°<θ1<180°若しくは270°<θ1<360°を満たす場合、領域Faは座標原点に対して第1象限F1側に配置され、領域Fbは座標原点に対して第3象限F3側に配置される。また、この場合、境界線D2は、XY座標平面の第2象限F2から第4象限F4にわたって延びる。言い換えると、境界線D2が直線である場合、正方格子のX軸に対する境界線D2の傾斜角θ2は90°より大きく180°未満、若しくは270°より大きく360°未満である。一例では、境界線D2は直線D1に対して平行である。
図10に示される例では、領域Fa,Fbは、Y軸に沿う方向に並んでいる。この場合、境界線D2はX軸と平行であり、一例ではX軸と一致する。傾斜角θ2は0°若しくは180°である。また、図11に示される例では、領域Fa,Fbは、X軸に沿う方向に並んでいる。この場合、境界線D2はY軸と平行であり、一例ではY軸と一致する。傾斜角θ2は90°若しくは270°である。これらのように、境界線D2は、X軸またはY軸(すなわち仮想的な正方格子の配列方向)と平行であってもよい。
図13の(a)は、領域Faに含まれる単位構成領域Rを示す平面図である。図13の(b)は、領域Fbに含まれる単位構成領域Rを示す平面図である。図13の(a)に示されるように、領域Faでは、或る座標(x,y)における位相P(x,y)がP0である場合には距離r(x,y)を0と設定し、位相P(x,y)がπ+P0である場合には距離r(x,y)を最大値R0に設定し、位相P(x,y)が−π+P0である場合には距離r(x,y)を最小値−R0に設定する。そして、その中間の位相P(x,y)に対しては、r(x,y)={P(x,y)−P0}×R0/πとなるように距離r(x,y)をとる。一方、領域Fbでは、或る座標(x,y)における位相P(x,y)がP0である場合には距離r(x,y)を0と設定し、位相P(x,y)がπ+P0である場合には距離r(x,y)を最小値−R0に設定し、位相P(x,y)が−π+P0である場合には距離r(x,y)を最大値−R0に設定する。そして、その中間の位相P(x,y)に対しては、r(x,y)=−{P(x,y)−P0}×R0/πとなるように距離r(x,y)をとる。つまり、領域Fbにおける各異屈折率領域15bの重心Gの位置によって示される位相P(x,y)は、領域Faにおける各異屈折率領域15bの重心Gの位置によって示される位相P(x,y)に対してπ(rad)の位相差を有し、反転している。言い換えると、領域Fbに含まれる各異屈折率領域15bの位相P(x,y)に対応する重心Gの移動の向きが、領域Faに含まれる各異屈折率領域15bの位相P(x,y)に対応する重心Gの移動の向きに対して逆になっている。なお、初期位相P0は任意に設定することができる。
図14は、位相変調層の特定領域内にのみ図4の屈折率略周期構造を適用した例を示す平面図である。図14に示す例では、正方形の内側領域RIN1の内部に、目的となるビームパターンを出射するための略周期構造(例:図4の構造)が形成されている。一方、内側領域RIN1を囲む外側領域ROUT1には、正方格子の格子点位置と重心位置が一致する真円形の異屈折率領域が配置されている。内側領域RIN1及び外側領域ROUT1において、仮想的に設定される正方格子の格子間隔は互いに同一(=a)である。この構造の場合、外側領域ROUT1内にも光が分布することにより、内側領域RIN1の周辺部において光強度が急激に変化することで生じる高周波ノイズ(いわゆる窓関数ノイズ)の発生を抑制することができる。また、面内方向への光漏れを抑制することができ、閾値電流の低減が期待できる。
図15は、位相変調層の特定領域内にのみ異屈折率領域15bを配置した例を示す平面図である。図15に示す例では、正方形の内側領域RIN2の内部に、目的となるビームパターンを出射するための複数の異屈折率領域15bが形成されている。一方、内側領域RIN2を囲む外側領域ROUT2は、異屈折率領域15bを含んでおらず基本層15aのみによって構成されている。また、図15には、正方形の電極16が示されている。電極16の厚さ方向に垂直な断面における電極16の面積は、位相変調層の厚さ方向に垂直な断面における内側領域RIN2の面積よりも大きい。更に、同方向からみて内側領域RIN2は電極16に包含される。
図16は、半導体発光素子1Aの出力ビームパターンとして得られる光像と、位相変調層15における位相分布P(x,y)との関係を説明するための図である。なお、出力ビームパターンの中心点Qは半導体基板10の主面10aに対して垂直な軸線上に位置しており、図16には、中心点Qを原点とする4つの象限が示されている。図16では例として第1象限および第3象限に光像が得られる場合を示したが、第2象限および第4象限或いは全ての象限に像を得ることも可能である。本実施形態では、図16に示されるように、原点に関して点対称な光像が得られる。図16は、例として、第3象限に文字「A」が+1次回折光として、第1象限に文字「A」を180度回転したパターンが−1次回折光として、それぞれ得られる場合について示している。なお、中心Qを原点とする回転対称な光像(例えば、十字、丸、二重丸など)である場合には、重なって一つの光像として観察される。
半導体発光素子1Aの出力ビームパターンが結像して得られる光像は、スポット、直線、十字架、線画、格子パターン、写真、縞状パターン、CG(コンピュータグラフィクス)、及び文字のうち少なくとも1つを含んでいる。ここで、所望の光像を得るためには、以下の手順によって位相変調層15の異屈折率領域15bの距離r(x,y)の分布を決定する。
まず、第1の前提条件として、XYZ直交座標系において、XY平面上に、それぞれが正方形状を有するM1(1以上の整数)×N1(1以上の整数)個の単位構成領域Rにより構成される仮想的な正方格子が設定される。次に、第2の前提条件として、XYZ直交座標系における座標(x,y,z)は、図17に示されるように、動径の長さrと、Z軸からの傾き角θ1tiltと、XY平面上で特定されるX軸からの回転角θ1rotと、で規定される球面座標(r,θ1tilt,θ1rot)に対して、以下の式(10)〜式(12)で示される関係を満たしているものとする。なお、図17は、球面座標(r,θ1tilt,θ1rot)からXYZ直交座標系における座標(x,y,z)への座標変換を説明するための図であり、座標(x,y,z)により、実空間であるXYZ直交座標系において設定される所定平面上の設計上の光像が表現される。半導体発光素子から出力される光像に相当するビームパターンを角度θ1tiltおよびθ1rotで規定される方向に向かう輝点の集合とするとき、角度θ1tiltおよびθ1rotは、以下の式(13)で規定される規格化波数であってX軸に対応したKx軸上の座標値kxと、以下の式(14)で規定される規格化波数であってY軸に対応するとともにKx軸に直交するKy軸上の座標値kyに換算されるものとする。規格化波数は、仮想的な正方格子の格子間隔に相当する波数を1.0として規格化された波数を意味する。このとき、Kx軸およびKy軸により規定される波数空間において、光像に相当するビームパターンを含む特定の波数範囲が、それぞれが正方形状のM2(1以上の整数)×N2(1以上の整数)個の画像領域FRで構成される。なお、整数M2は、整数M1と一致する必要はない。同様に、整数N2は、整数N1と一致する必要もない。また、式(13)および式(14)は、例えば、Y. Kurosaka et al.," Effectsof non-lasing band in two-dimensional photonic-crystal lasers clarified usingomnidirectional band structure," Opt. Express 20, 21773-21783 (2012)に開示されている。
第3の前提条件として、波数空間において、Kx軸方向の座標成分kx(1以上M2以下の整数)とKy軸方向の座標成分ky(1以上N2以下の整数)とで特定される画像領域FR(kx,ky)それぞれを、X軸方向の座標成分x(1以上M1以下の整数)とY軸方向の座標成分y(1以上N1以下の整数)とで特定されるXY平面上の単位構成領域R(x,y)に二次元逆フーリエ変換することで得られる複素振幅F(x,y)が、jを虚数単位として、以下の式(15)で与えられる。また、この複素振幅F(x,y)は、振幅項をA(x,y)とするとともに位相項をP(x,y)とするとき、以下の式(16)により規定される。更に、第4の前提条件として、単位構成領域R(x,y)が、X軸およびY軸にそれぞれ平行であって単位構成領域R(x,y)の中心となる格子点O(x,y)において直交するs軸およびt軸で規定される。
上記第1〜第4の前提条件の下、位相変調層15の領域Faは、以下の条件を満たすよう構成される。すなわち、格子点O(x,y)から対応する異屈折率領域15bの重心Gまでの距離r(x,y)が、
r(x,y)=C×{P(x,y)−P0}
C:比例定数で例えばR0/π
P0:任意の定数であって例えば0
なる関係を満たすように、該対応する異屈折率領域15bが単位構成領域R(x,y)内に配置される。すなわち、距離r(x,y)は、或る座標(x,y)における位相P(x,y)がP0である場合には0に設定され、位相P(x,y)がπ+P0である場合には最大値R0に設定され、位相P(x,y)が−π+P0である場合には最小値−R0に設定される。
また、位相変調層15の領域Fbは、以下の条件を満たすよう構成される。すなわち、格子点O(x,y)から対応する異屈折率領域15bの重心Gまでの距離r(x,y)が、
r(x,y)=−C×P(x,y)+P0
なる関係を満たすように、該対応する異屈折率領域15bが単位構成領域R(x,y)内に配置される。すなわち、距離r(x,y)は、或る座標(x,y)における位相P(x,y)がP0である場合には0に設定され、位相P(x,y)がπ+P0である場合には最小値−R0に設定され、位相P(x,y)が−π+P0である場合には最大値R0に設定される。
所望の光像を得たい場合、該光像を逆フーリエ変換して、その複素振幅の位相P(x,y)に応じた距離r(x,y)の分布を、領域Fa,Fbそれぞれの複数の異屈折率領域15bに与えるとよい。位相P(x,y)と距離r(x,y)とは、互いに比例してもよい。
なお、レーザビームのフーリエ変換後の遠視野像は、単一若しくは複数のスポット形状、円環形状、直線形状、文字形状、二重円環形状、又は、ラゲールガウスビーム形状などの各種の形状をとることができる。ビーム方向を制御することもできるので、半導体発光素子1Aを1次元又は2次元にアレイ化することによって、例えば高速走査を電気的に行うレーザ加工機を実現できる。なお、ビームパターンは遠方界における角度情報で表わされるものであるので、目標とするビームパターンが2次元的な位置情報で表わされているビットマップ画像などの場合には、一旦角度情報に変換し、その後波数空間に変換した後に逆フーリエ変換を行うと良い。
逆フーリエ変換で得られた複素振幅分布から強度分布と位相分布を得る方法として、例えば強度分布I(x,y)については、MathWorks社の数値解析ソフトウェア「MATLAB」のabs関数を用いることにより計算することができ、位相分布P(x,y)については、MATLABのangle関数を用いることにより計算することができる。
ここで、光像の逆フーリエ変換結果から位相分布P(x,y)を求め、各異屈折率領域15bの距離r(x,y)を決める際に、一般的な離散フーリエ変換(或いは高速フーリエ変換)を用いて計算する場合の留意点を述べる。所望の光像である図18(a)の逆フーリエ変換で得られた複素振幅分布より計算される出力ビームパターンは図18(b)のようになる。図18(a)及び図18(b)のようにそれぞれA1,A2,A3,及びA4といった4つの象限に分割すると、図18(b)に示される出力ビームパターンの第1象限には、図18(a)の第1象限を180度回転したものと図18(a)の第3象限が重畳したパターンが現れ、ビームパターンの第2象限には図18(a)の第2象限を180度回転したものと図18(a)の第4象限が重畳したパターンが現れ、ビームパターンの第3象限には図18(a)の第3象限を180度回転したものと図18(a)の第1象限が重畳したパターンが現れ、ビームパターンの第4象限には図18(a)の第4象限を180度回転したものと図18(a)の第2象限が重畳したパターンが現れる。このとき、180度回転したパターンは−1次光成分によるものである。
ここで、図19(a)は、半導体発光素子1Aから出力されるビームパターン(光像)の例を示す。同図の中心は、半導体発光素子1Aの発光面と交差し発光面に垂直な軸線に対応する。また、図19(b)は、該軸線を含む断面における光強度分布を示すグラフである。図19(b)は、FFP光学系(浜松ホトニクス製A3267−12)、カメラ(浜松ホトニクス製ORCA−05G)、ビームプロファイラ(浜松ホトニクス製Lepas−12)を用いて取得した遠視野像で、1344ドット×1024ドットの画像データの縦方向のカウントを積算し、プロットしたものである。なお、図19(a)の最大カウント数を255で規格化しており、また、±1次光の強度比を明示するために、中央の0次光B0を飽和させている。図19(b)から、1次光及び−1次光の強度差が容易に理解される。また、図20(a)は、図19(a)に示されたビームパターンに対応する位相分布を示す図である。図20(b)は、図20(a)の部分拡大図である。図20(a)及び図20(b)においては、位相変調層15内の各箇所における位相が濃淡によって示されており、暗部ほど位相角0°に、明部ほど位相角360°に近づく。ただし、位相角の中心値は任意に設定することができるので、必ずしも位相角を0°〜360°の範囲内に設定しなくてもよい。図19(a)及び図19(b)に示されるように、半導体発光素子1Aは、該軸線に対して傾斜した第1方向に出力される第1光像部分B1を含む1次光と、該軸線に関して第1方向と対称である第2方向に出力され、該軸線に関して第1光像部分B1と回転対称である第2光像部分B2を含む−1次光とを出力する。典型的には、第1光像部分B1はXY平面内の第1象限に現れ、第2光像部分B2はXY平面内の第3象限に現れる。用途によっては、1次光及び−1次光の一方のみを用い、他方を用いない場合がある。そのような場合、他方の光の光量が一方の光と比較して小さく抑えられることが望ましい。従って、本実施形態では、図19(b)に示されるように、1次光及び−1次光に強度差が与えられる。
図21は、位相変調層15を概念的に示す平面図である。いま、位相変調層15の中心点Qを挟んで一方の格子点配列方向(X軸方向)に並ぶ第1領域T1及び第2領域T2、並びに、位相変調層15の中心点Qを挟んで他方の格子点配列方向(Y軸方向)に並ぶ第3領域T3及び第4領域T4を定義する。すなわち、XY直交座標系の原点を中心点Qと一致させた場合、第1領域T1はX座標が正の領域であり、第2領域T2はX座標が負の領域であり、第3領域T3はY座標が正の領域であり、第4領域T4はY座標が負の領域である。従って、第1領域T1及び第3領域T3は、第1象限F1において互いに重なる。第1領域T1及び第4領域T4は、第2象限F2において互いに重なる。第2領域T2及び第4領域T4は、第3象限F3において互いに重なる。第2領域T2及び第3領域T3は、第4象限F4において互いに重なる。
正方格子型のS−iPMレーザの位相変調層である位相変調層15では、図21に示されるように、XY平面に沿った基本的な進行波AU,AD,AR,及びALが生じる。進行波ARは、第2領域T2から第1領域T1への向き(X軸正方向)に進む第1進行波である。進行波ALは、第1領域T1から第2領域T2への向き(X軸負方向)に進む第2進行波である。進行波AUは、第4領域T4から第3領域T3への向き(Y軸正方向)に進む第3進行波である。進行波ADは、第3領域T3から第4領域T4への向き(Y軸負方向)に進む第4進行波である。
図22に示されるように、互いに逆向きに進む進行波からは、それぞれ180°回転対称なビームパターンが得られる。例えば、進行波AUからは第2光像部分B2のみを含むビームパターンBUが得られ、進行波ADからは第1光像部分B1のみを含むビームパターンBDが得られる。同様に、進行波ARからは第2光像部分B2のみを含むビームパターンBRが得られ、進行波ALからは第1光像部分B1のみを含むビームパターンBLが得られる。言い換えると、互いに逆向きに進む進行波同士では、同一の位相分布に対して位相P(x,y)が揃っている場合、互いに180°回転対称な像が得られる。これは1次光と−1次光の関係と同じである。半導体発光素子1Aから出力されるビームパターンは、これらのビームパターンBU,BD,BR,及びBLが重なり合ったものである。
ここで、図23〜図26は、位相変調層15の面内における進行波AU,AD,AR,及びALの強度分布の一例を示すグラフである。図23は進行波AUの強度分布を示し、図24は進行波ADの強度分布を示し、図25は進行波ARの強度分布を示し、図26は進行波ALの強度分布を示す。また、図23〜図26において、(a)は進行波AU,AD,AR,及びALの強度分布を等強度線によって表現したものであり、横軸はX軸方向位置を表し、縦軸はY軸方向位置を表す。(b)は、進行波AU,AD,AR,及びALの強度分布を三次元的に表現したものであり、X軸方向位置及びY軸方向位置に加えて、進行波の強度を表す軸が示されている。これらの図に示されるように、進行波AU,AD,AR,及びALの強度は、位相変調層15の面内において偏在している。
具体的には、Y軸正方向に進む進行波AUの強度は、Y座標が大きくなるほど強くなり、Y座標が小さくなるほど弱くなる。また、Y軸負方向に進む進行波ADの強度は、Y座標が小さくなるほど強くなり、Y座標が大きくなるほど弱くなる。同様に、X軸正方向に進む進行波ARの強度は、X座標が大きくなるほど強くなり、X座標が小さくなるほど弱くなる。また、X軸負方向に進む進行波ALの強度は、X座標が小さくなるほど強くなり、X座標が大きくなるほど弱くなる。言い換えると、第1象限F1においては進行波AU,ARが強く、第2象限F2においては進行波AD,ARが強く、第3象限F3においては進行波AD,ALが強く、第4象限F4においては進行波AU,ALが強い。なお、直線D1の傾斜角θ1が45°、135°、225°、または315°である場合に、進行波AU,AD,AR,及びALの最大強度は互いに等しくなる。また、直線D1の傾斜角θ1が0°<θ1<45°、135°<θ1<225°、または315°<θ1<360°である場合には、進行波AR,ALの最大強度が進行波AU,ADの最大強度よりも大きくなり、直線D1の傾斜角θ1が45°<θ1<135°または225°<θ1<315°である場合には、進行波AU,ADの最大強度が進行波AR,ALの最大強度よりも大きくなる。
本実施形態では、上述した進行波AU,AD,AR,及びALの強度分布を利用して、1次光及び−1次光の光量に差を与え、これらのうち一方を他方に対して低減する。図6に示された境界線D2に対して第1象限F1側に位置する領域Faにおいては、進行波AU及びARの光強度が、進行波AD及びALの光強度に対して相対的に大きい。一方、境界線D2に対して第3象限F3側に位置する領域Fbにおいては、進行波AD及びALの光強度が、進行波AU及びARの光強度に対して相対的に大きい。また、図6に示されるように直線D1が第1象限F1から第3象限F3にわたって延びている場合、位相P(x,y)が揃っていると仮定すると、進行波AU及びARは1次光となり、進行波AD及びALは−1次光となる。
しかしながら本実施形態では、前述したように、位相変調層15を領域Faと領域Fbとに分割し、領域Fbにおける各異屈折率領域15bの重心Gの位置によって示される位相P(x,y)を、領域Faにおける各異屈折率領域15bの重心Gの位置によって示される位相P(x,y)に対してπ(rad)の位相差を有するものとし、反転させている。すなわち、領域Fbに含まれる各異屈折率領域15bの位相P(x,y)に対応する重心Gの移動の向きを、領域Faに含まれる各異屈折率領域15bの位相P(x,y)に対応する重心Gの移動の向きに対して逆向きとしている。或る位相分布に対して全体的に位相π(rad)を加えると、出力される光像が180°回転する。従って、領域Fbにおける各進行波の1次光が−1次光に変化し、−1次光が1次光に変化する。すなわち、進行波AU及びARが−1次光となり、進行波AD及びALが1次光となる。上述したように、領域Fbでは進行波AD及びALの光強度が相対的に大きいので、その結果、領域Fbにおいて1次光の強度が増大し、−1次光の強度が低下する。一方、領域Faにおいては、進行波AU及びARの光強度が相対的に大きいので、1次光の強度が−1次光の強度よりも大きい。故に、位相変調層15の全体として1次光の強度が増大し、−1次光の強度が低下することとなる。なお、上記の説明は、1次光と−1次光とを相互に入れ替えても成り立つ。以上のことから、本実施形態の半導体発光素子1Aによれば、1次光及び−1次光のうち一方の光を、他方の光に対して減光することができる。
なお、格子間隔aの正方格子において、直交座標の単位ベクトルをx、yとすると、基本並進ベクトルa1=ax、a2=ayであり、並進ベクトルa1、a2に対する基本逆格子ベクトルb1=(2π/a)x、b2=(2π/a)yである。格子の中に存在する波の波数ベクトルがk=nb1+mb2(n、mは任意の整数)の場合に、波数kはΓ点に存在するが、なかでも波数ベクトルの大きさが基本逆格子ベクトルの大きさに等しい場合には、格子間隔aが波長λに等しい共振モード(XY平面内における定在波)が得られる。本実施形態では、このような共振モード(定在波状態)における発振が得られる。このとき、正方格子と平行な面内に電界が存在するようなTEモードを考えると、このように格子間隔と波長が等しい定在波状態は正方格子の対称性から4つのモードが存在する。本実施形態では、この4つの定在波状態のいずれのモードで発振した場合においても同様に所望のビームパターンが得られる。
半導体発光素子1Aでは、上述の位相変調層15内の定在波が異屈折率領域15bによって散乱され、面垂直方向に得られる波面が位相変調されていることによって所望のビームパターンが得られる。このため偏光板がなくとも所望のビームパターンが得られる。このビームパターンは、一対の単峰ビーム(スポット)であるばかりでなく、前述したように、文字形状、2以上の同一形状スポット群、或いは、位相、強度分布が空間的に不均一であるベクトルビームなどとすることも可能である。
基本層15aの屈折率は3.0〜3.5、異屈折率領域15bの屈折率は1.0〜3.4であることが好ましい。また、各異屈折率領域15bの平均半径は、940nm帯の場合、例えば20nm〜120nmである。各異屈折率領域15bの大きさが変化することによってZ軸方向への回折強度が変化する。この回折効率は、異屈折率領域15bの形状をフーリエ変換した際の一次の係数で表される光結合係数κ1に比例する。光結合係数については、例えばK. Sakai et al., “Coupled-WaveTheory for Square-Lattice Photonic Crystal Lasers With TE Polarization, IEEEJ.Q. E. 46, 788-795 (2010)”に記載されている。
以上に説明した、本実施形態による位相変調層15の設計方法によって得られる効果について説明する。本実施形態では、活性層12に光学的に結合した位相変調層15が、基本層15aと、基本層15aとは屈折率が異なる複数の異屈折率領域15bとを有し、仮想的な正方格子の格子点Oを通り該正方格子のX軸及びY軸に対して傾斜する直線D1上に、各異屈折率領域15bの重心Gが配置されている。そして、各異屈折率領域15bの重心Gと、対応する格子点Oとの距離r(x,y)は、所望の光像に基づいて規定される位相P(x,y)に応じて個別に設定されている。このような場合、格子点Oと重心Gとの距離r(x,y)に応じて、ビームの位相が変化する。故に、距離r(x,y)を変更するのみで、各異屈折率領域15bから出射されるビームの位相を制御することができ、全体として形成されるビームパターンを所望の形状とすることができる。すなわち、この半導体発光素子1AはS−iPMレーザであり、このような構造によれば、各異屈折率領域15bの重心Gが各格子点O周りに光像に応じた回転角度を有する従来の構造と同様に、半導体基板10の主面10aに垂直な方向または該方向に対して傾斜した方向、或いはその両方に任意形状の光像を出力することができる。
また、本実施形態では、位相変調層15の中心点Qを挟んで直線D1に沿う方向に並ぶ領域Fa及び領域Fbを設定した場合に、領域Fbにおける各異屈折率領域15bの重心Gの位置によって示される位相P(x,y)が、領域Faにおける各異屈折率領域15bの重心Gの位置によって示される位相P(x,y)に対してπ(rad)の位相差を有し、反転している。言い換えると、領域Fbに含まれる各異屈折率領域15bの位相P(x,y)に対応する重心Gの移動の向きが、領域Faに含まれる各異屈折率領域15bの位相P(x,y)に対応する重心Gの移動の向きに対して逆である。これにより、前述したように、1次光及び−1次光のうち一方の光を、他方の光に対して減光することができる。
なお、本発明者の検討によれば、異屈折率領域を格子点の周りで回転させる従来の半導体発光素子においては、異屈折率領域の配置の性質上、互いに逆向きに進む進行波の双方が必ず含まれる。すなわち、従来の方式では、定在波を形成する4つの進行波AU,AD,AR,及びALのいずれにおいても、1次光と−1次光とが同量現れ、更に回転円の半径(異屈折率領域の重心と格子点との距離)によっては0次光が生じてしまう。そのため、1次光及び−1次光の各光量に差を与えることは原理的に困難で、これらのうち一方を選択的に低減することは難しい。従って、1次光の光量に対して−1次光の光量を相対的に低下させることは困難である。
ここで、図27(a)に示される、異屈折率領域15bを格子点Oの周りで回転させる従来の方式において、1次光及び−1次光のいずれかを選択的に低減することが難しい理由を説明する。或る位置における設計位相φ(x,y)に対して、4つの進行波の1例として図27(b)に示されるY軸の正の向きの進行波AUを考える。このとき、幾何学的な関係から、進行波AUに対しては、格子点Oからのずれがr・sinφ(x,y)となるので、位相差は(2π/a)r・sinφ(x,y)なる関係となる。この結果、進行波AUに関する位相分布Φ(x,y)は、異屈折率領域15bの大きさの影響が小さいためその影響を無視できる場合には、Φ(x,y)=exp{j(2π/a)r・sinφ(x,y)}で与えられる。この位相分布Φ(x,y)の0次光および±1次光への寄与は、exp{jnΦ(x,y)}(n:整数)で展開した場合の、n=0およびn=±1の成分で与えられる。ところで、次数nの第1種ベッセル関数Jn(z)に関する数学公式
を用いると、位相分布Φ(x,y)を級数展開することができ、0次光及び±1次光の各光量を説明することができる。このとき、位相分布Φ(x,y)の0次光成分はJ0(2πr/a)、1次光成分はJ1(2πr/a)、−1次光成分はJ-1(2πr/a)と表される。ところで、±1次のベッセル関数に関しては、J1(x)=−J-1(x)の関係があるため、±1次光成分の大きさは等しくなる。ここでは、4つの進行波の1例としてY軸正方向の進行波AUについて考えたが、他の3波(進行波AD,AR,AL)についても同様の関係が成立し、±1次光成分の大きさが等しくなる。以上の議論から、異屈折率領域15bを格子点Oの周りで回転させる従来の方式では、±1次光成分の光量に差を与えることが原理的に困難となる。
これに対し、本実施形態の位相変調層15によれば、単一の進行波に対しては、1次光及び−1次光の各光量に差が生じ、例えば傾斜角θ1が45°、135°、225°または315°である場合には、シフト量R0が上述した数式(9)の上限値に近づくほど、理想的な位相分布が得られる。この結果、0次光が低減され、進行波AU,AD,AR,及びALのそれぞれにおいては、1次光及び−1次光の一方が選択的に低減される。そのため、互いに逆向きに進む進行波のいずれか一方において1次光を−1次光に変化させ、−1次光を1次光に変化させることで、1次光及び−1次光の光量に差を与えることが原理的に可能である。
ここで、図28(a)に示される、格子点Oを通り正方格子に対して傾斜した直線D1上を異屈折率領域15bが移動する本実施形態の方式において、1次光及び−1次光のいずれかを選択的に低減することが可能である理由を説明する。或る位置における設計位相φ(x,y)に対して、4つの進行波の一例として図28(b)に示されるY軸の正の向きの進行波AUを考える。このとき、幾何学的な関係から、進行波AUに対しては、格子点Oからのずれがr・sinθ1・{φ(x,y)−φ0}/πとなるため、位相差は(2π/a)r・sinθ1・{φ(x,y)−φ0}/πなる関係となる。ここでは簡単のため傾斜角θ1=45°、位相角φ0=0°とする。このとき、進行波AUに関する位相分布Φ(x,y)は、異屈折率領域15bの大きさの影響が小さいためその影響を無視できる場合には、
で与えられる。この位相分布Φ(x,y)の0次光および±1次光への寄与は、exp{nΦ(x,y)}(n:整数)で展開した場合の、n=0およびn=±1の成分で与えられる。ところで、下記の数式(21)によって表される関数f(z)
但し、
をLaurent級数展開すると、
なる数学公式が成り立つ。ここで、sinc(x)=x/sin(x)である。この数学公式を用いると、位相分布Φ(x,y)を級数展開することができ、0次光及び±1次光の各光量を説明することができる。このとき、数学公式(21)の指数項exp{jπ(c−n)}の絶対値が1である点に注意すると、位相分布Φ(x,y)の0次光成分の大きさは
と表され、1次光成分の大きさは
と表され、−1次光成分の大きさは
と表される。そして、数式(22)〜(24)においては、
の場合を除いて、1次光成分以外に0次光および−1次光成分が現れる。しかしながら、±1次光成分の大きさは互いに等しくならない。
以上の説明では、4つの進行波の一例としてY軸正方向の進行波AUについて考えたが、他の3波(進行波AD,AR,AL)についても同様の関係が成立し、±1次光成分の大きさに差が生じる。以上の議論から、格子点Oを通り正方格子から傾斜した直線D1上を異屈折率領域15bが移動する本実施形態の方式によれば、±1次光成分の光量に差を与えることが原理的に可能となる。従って、−1次光または1次光を低減して所望の光像(第1光像部分B1または第2光像部分B2)のみを選択的に取り出すことが原理的に可能になる。
また、本実施形態のように、正方格子に対する直線D1の傾斜角θ1は位相変調層15内において一定であってもよい。これにより、異屈折率領域15bの重心Gの配置の設計を容易に行うことができる。また、この場合、傾斜角は45°、135°、225°または315°であってもよい。これにより、正方格子に沿って進む4つの基本波(進行波AD,AR,AL)が、光像に均等に寄与することができる。さらに、傾斜角θ1が45°、135°、225°または315°である場合、適切なバンド端モードを選択することによって、直線D1上における電磁界の方向が一方向に揃うため、直線偏光を得ることができる。このようなモードの一例として非特許文献C. Peng, et al.,“Coupled-wave analysis for photonic-crystal surface-emitting laserson air holes with arbitrary sidewalls,” Optics Express Vol. 19, No. 24, pp. 24672-24686 (2011).のFig. 3に示されているモードA、Bがある。なお、傾斜角θ1が0°、90°、180°または270°である場合には、4つの進行波AU,AD,AR,及びALのうち、Y方向またはX方向に進む一対の進行波が1次光(信号光)に寄与しなくなるので、信号光を高効率化することは難しい。
また、本実施形態のように、領域Fa及び領域Fbは、直線D1と交差する境界線D2によって区画されてもよいし、これと直交する、直線D1と平行な境界線D2によって区画されても良い。上述したように、位相P(x,y)が揃っていると仮定する場合、直線D1と交差する境界線D2の一方側では1次光の強度が大きく、他方側では−1次光の強度が大きい。従って、直線D1と交差する境界線D2によって領域Fa及び領域Fbを区画することにより、1次光及び−1次光のうち一方の光を、他方の光に対して効果的に減光することができる。
また、この場合、境界線Dは位相変調層15の中心点Qを通ってもよい。上述したように、位相P(x,y)が揃っていると仮定する場合、中心点Qを挟んだ一方側では1次光の強度が大きく、他方側では−1次光の強度が大きい。従って、境界線Dが中心点Qを通ることにより、1次光及び−1次光のうち一方の光を、他方の光に対して効果的に減光することができる。
また、本実施形態のように、境界線D2が直線であり、正方格子に対する直線D1の傾斜角θ1が0°より大きく90°未満、若しくは180°より大きく270°未満である場合、正方格子に対する境界線D2の傾斜角θ2は90°より大きく180°未満、若しくは270°より大きく360°未満であってもよい。これにより、1次光及び−1次光のうち一方の光を、他方の光に対して効果的に減光することができる。特に、4つの進行波AU,AD,AR,及びALの光強度が略均等である場合には、正方格子に対する境界線D2の傾斜角θ2が135°若しくは315°であることによって、1次光及び−1次光のうち一方の光を、他方の光に対してより効果的に減光することができる。
或いは、境界線D2が直線であり、正方格子に対する直線D1の傾斜角θ1が90°より大きく180°未満、若しくは270°より大きく360°未満である場合、正方格子に対する境界線D2の傾斜角θ2は0°より大きく90°未満、若しくは180°より大きく270°未満であってもよい。これにより、1次光及び−1次光のうち一方の光を、他方の光に対して効果的に減光することができる。特に、4つの進行波AU,AD,AR,及びALの光強度が略均等である場合には、正方格子に対する境界線D2の傾斜角θ2が45°若しくは225°であることによって、1次光及び−1次光のうち一方の光を、他方の光に対してより効果的に減光することができる。
また、本実施形態のように、発光部は、半導体基板10上に設けられた活性層12であってもよい。これにより、発光部と位相変調層15とを容易に光結合させることができる。
また、図9に例示したように、内側領域RIN2の内部に複数の異屈折率領域15bを形成し、内側領域RIN2を囲む外側領域ROUT2は、異屈折率領域15bを含んでおらず基本層15aのみによって構成されてもよい。そして、位相変調層15の厚さ方向からみて内側領域RIN2は電極16に包含されてもよい。図23〜図26に示されたように、4つの進行波AU,AD,AR,及びALの光強度は、複数の異屈折率領域15bによる周期構造の端に近づくほど大きくなる。従って、位相変調層15の端面近傍に高い電界強度が存在することとなり、面内損失が大きくなってしまう。これに対し、図9に例示した構造では、複数の異屈折率領域15bを含む内側領域RIN2と比較して、電流が流れるゲイン領域の方が大きくなる。従って、位相変調層15の端面近傍における面内損失を低減することができる。
(第1変形例)
図29及び図30は、異屈折率領域15bのXY平面内の形状の例を示す平面図である。上記実施形態ではXY平面内における異屈折率領域15bの形状が円形である例が示されている。しかしながら、異屈折率領域15bは円形以外の形状を有してもよい。例えば、XY平面内における異屈折率領域15bの形状は、鏡像対称性(線対称性)を有してもよい。ここで、鏡像対称性(線対称性)とは、XY平面に沿った或る直線を挟んで、該直線の一方側に位置する異屈折率領域15bの平面形状と、該直線の他方側に位置する異屈折率領域15bの平面形状とが、互いに鏡像対称(線対称)となり得ることをいう。鏡像対称性(線対称性)を有する形状としては、例えば図29(a)に示された真円、図29(b)に示された正方形、図29(c)に示された正六角形、図29(d)に示された正八角形、図29(e)に示された正16角形、図29(f)に示された長方形、および図29(g)に示された楕円、などが挙げられる。このように、XY平面内における異屈折率領域15bの形状が鏡像対称性(線対称性)を有する。この場合、位相変調層15の仮想的な正方格子の単位構成領域Rそれぞれにおいて、シンプルな形状であるため、格子点Oから対応する異屈折率領域15bの重心Gの方向と位置を高精度に定めることができるので、高い精度でのパターニングが可能となる。
また、XY平面内における異屈折率領域15bの形状は、180°の回転対称性を有さない形状であってもよい。このような形状としては、例えば図30(a)に示された正三角形、図30(b)に示された直角二等辺三角形、図30(c)に示された2つの円または楕円の一部分が重なる形状、図30(d)に示された楕円の長軸に沿った一方の端部近傍の短軸方向の寸法が他方の端部近傍の短軸方向の寸法よりも小さくなるように変形した形状(卵形)、図30(e)に示された楕円の長軸に沿った一方の端部を長軸方向に沿って突き出る尖った端部に変形した形状(涙形)、図30(f)に示された二等辺三角形、図30(g)に示された矩形の一辺が三角形状に凹みその対向する一辺が三角形状に尖った形状(矢印形)、図30(h)に示された台形、図30(i)に示された5角形、図30(j)に示された2つの矩形の一部分同士が重なる形状、および図30(k)に示された2つの矩形の一部分同士が重なり且つ鏡像対称性を有さない形状、等が挙げられる。このように、XY平面内における異屈折率領域15bの形状が180°の回転対称性を有さないことにより、より高い光出力を得ることができる。
(第2変形例)
図31は、上記実施形態の第2変形例に係る位相変調層15Aの平面図である。本変形例の位相変調層15Aは、上記実施形態の位相変調層15の構成(図4)に加えて、複数の異屈折率領域15bとは別の複数の異屈折率領域15cを更に有する。各異屈折率領域15cは、基本層15aの第1屈折率媒質とは屈折率の異なる第2屈折率媒質からなる。異屈折率領域15cは、異屈折率領域15bと同様に、空孔であってもよく、空孔に化合物半導体が埋め込まれて構成されてもよい。図32に示されるように、本変形例においては、各異屈折率領域15bの重心と各異屈折率領域15cの重心とを合成した重心Gが、直線D1上に配置されている。なお、いずれの異屈折率領域15b、15cも仮想的な正方格子を構成する単位構成領域Rの範囲内に含まれる。単位構成領域Rは、仮想的な正方格子の格子点間を2等分する直線で囲まれる領域となる。この重心Gと、各単位構成領域Rの対応する格子点Oとの距離r(x,y)は、所望の光像に基づいて規定される位相P(x,y)に応じて各異屈折率領域15b毎に個別に設定される。距離r(x,y)の分布は、所望の光像をフーリエ変換して得られる複素振幅分布のうち位相分布を抽出したものから決定される。すなわち、位相変調層15の領域Fa(図6参照)においては、或る座標(x,y)における位相P(x,y)がP0である場合には距離r(x,y)を0と設定し、位相P(x,y)がπ+P0である場合には距離r(x,y)を最大値R0に設定し、位相P(x,y)が−π+P0である場合には距離r(x,y)を最小値−R0に設定する。そして、その中間の位相P(x,y)に対しては、r(x,y)={P(x,y)−P0}×R0/πとなるように距離r(x,y)をとる。また、位相変調層15の領域Fb(図6参照)においては、或る座標(x,y)における位相P(x,y)がP0である場合には距離r(x,y)を0と設定し、位相P(x,y)がπ+P0である場合には距離r(x,y)を最小値−R0に設定し、位相P(x,y)が−π+P0である場合には距離r(x,y)を最大値R0に設定する。そして、その中間の位相P(x,y)に対しては、r(x,y)=−{P(x,y)−P0}×R0/πとなるように距離r(x,y)をとる。なお、初期位相P0は任意に設定することができる。
異屈折率領域15cは、異屈折率領域15bにそれぞれ一対一で対応して設けられている。異屈折率領域15cの平面形状は例えば円形であるが、異屈折率領域15bと同様に、様々な形状を有し得る。図33(a)〜図33(k)には、異屈折率領域15b,15cのXY平面内における形状および相対関係の例が示されている。図33(a)および図33(b)は、異屈折率領域15b,15cが同じ形状の図形を有する形態を示す。図33(c)および図33(d)は、異屈折率領域15b,15cが同じ形状の図形を有し、互いの一部分同士が重なる形態を示す。図33(e)は、異屈折率領域15b,15cが同じ形状の図形を有し、格子点毎に異屈折率領域15b,15cの重心間の距離が任意に設定された形態を示す。図33(f)は、異屈折率領域15b,15cが互いに異なる形状の図形を有する形態を示す。図33(g)は、異屈折率領域15b,15cが互いに異なる形状の図形を有し、格子点毎に異屈折率領域15b,15cの重心間の距離が任意に設定された形態を示す。
また、図33(h)〜図33(k)に示されるように、異屈折率領域15bは、互いに離間した2つの領域15b1,15b2を含んで構成されてもよい。そして、領域15b1,15b2を合わせた重心(単一の異屈折率領域15bの重心に相当)と、異屈折率領域15cの重心との距離が格子点毎に任意に設定されてもよい。また、この場合、図33(h)に示されるように、領域15b1,15b2および異屈折率領域15cは、互いに同じ形状の図形を有してもよい。または、図33(i)に示されたように、領域15b1,15b2および異屈折率領域15cのうち2つの図形が他と異なっていてもよい。また、図33(j)に示されるように、領域15b1,15b2を結ぶ直線のX軸に対する角度に加えて、異屈折率領域15cのX軸に対する角度が各格子点毎に任意に設定されてもよい。また、図33(k)に示されるように、領域15b1,15b2および異屈折率領域15cが互いに同じ相対角度を維持したまま、領域15b1,15b2を結ぶ直線のX軸に対する角度が格子点毎に任意に設定されてもよい。
異屈折率領域のXY平面内の形状は、各格子点間で互いに同一であってもよい。すなわち、異屈折率領域が全ての格子点において同一図形を有しており、並進操作、または並進操作および回転操作により、格子点間で互いに重ね合わせることが可能であってもよい。その場合、ビームパターン内におけるノイズ光およびノイズとなる0次光の発生を抑制できる。または、異屈折率領域のXY平面内の形状は格子点間で必ずしも同一でなくともよく、例えば図34に示されたように、隣り合う格子点間で形状が互いに異なっていてもよい。なお、図29〜図34のいずれの場合も、各格子点を通る直線D1の中心は格子点Oに一致するように設定されるとよい。
例えば本変形例のような位相変調層の構成であっても、上記実施形態の効果を好適に奏することができる。
(第3変形例)
図35は、第3変形例による発光装置1Bの構成を示す図である。この発光装置1Bは、支持基板6と、支持基板6上に一次元又は二次元状に配列された複数の半導体発光素子1Aと、複数の半導体発光素子1Aを個別に駆動する駆動回路4とを備えている。各半導体発光素子1Aの構成は、上記実施形態と同様である。但し、複数の半導体発光素子1Aには、赤色波長域の光像を出力するレーザ素子と、青色波長域の光像を出力するレーザ素子と、緑色波長域の光像を出力するレーザ素子とが含まれても良い。赤色波長域の光像を出力するレーザ素子は、例えばGaAs系半導体によって構成される。青色波長域の光像を出力するレーザ素子、及び緑色波長域の光像を出力するレーザ素子は、例えば窒化物系半導体によって構成される。駆動回路4は、支持基板6の裏面又は内部に設けられ、各半導体発光素子1Aを個別に駆動する。駆動回路4は、制御回路7からの指示により、個々の半導体発光素子1Aに駆動電流を供給する。
本変形例のように、個別に駆動される複数の半導体発光素子1Aを設け、各半導体発光素子1Aから所望の光像を取り出すことによって、予め複数のパターンに対応した半導体発光素子を並べたモジュールについて、適宜必要な素子を駆動することによってヘッドアップディスプレイなどを好適に実現することができる。また、複数の半導体発光素子1Aに、赤色波長域の光像を出力するレーザ素子と、青色波長域の光像を出力するレーザ素子と、緑色波長域の光像を出力するレーザ素子とが含まれることにより、カラーヘッドアップディスプレイなどを好適に実現することができる。
(第2実施形態)
図36は、第2実施形態に係る半導体発光素子1Cの断面構造を示す図である。この半導体発光素子1Cは、XY面内方向において定在波を形成し、位相制御された平面波をZ方向に出力するレーザ光源であって、第1実施形態と同様に、半導体基板10の主面10aに垂直な方向及びこれに対して傾斜した方向をも含む2次元的な任意形状の光像を出力する。ただし、第1実施形態の半導体発光素子1Aは半導体基板10を透過した光像を裏面から出力するが、本実施形態の半導体発光素子1Cは、活性層12に対してクラッド層13側の表面から光像を出力する。
半導体発光素子1Cは、クラッド層11、活性層12、クラッド層13、コンタクト層14、位相変調層15、光反射層20、及び電流狭窄層21を備える。クラッド層11は、半導体基板10上に設けられている。活性層12は、クラッド層11上に設けられている。クラッド層13は、活性層12上に設けられている。コンタクト層14は、クラッド層13上に設けられている。位相変調層15は、活性層12とクラッド層13との間に設けられている。光反射層20は、活性層12とクラッド層11との間に設けられている。電流狭窄層21は、クラッド層13内に設けられている。各層11〜15の構成(好適な材料、バンドギャップ、屈折率等)は、第1実施形態と同様である。なお、光反射層20は、半導体基板10での光吸収が問題にならない場合には省いても良い。
位相変調層15の構造は、第1実施形態において説明された位相変調層15の構造(図4、図5を参照)と同様である。必要に応じて、活性層12とクラッド層13との間、及び活性層12とクラッド層11との間のうち少なくとも一方に、光ガイド層が設けられてもよい。図37に示されるように、位相変調層15が、クラッド層11と活性層12との間に設けられてもよい。なお、光ガイド層は、キャリアを活性層12に効率的に閉じ込めるためのキャリア障壁層を含んでも良い。
半導体発光素子1Cは、コンタクト層14上に設けられた電極23と、半導体基板10の裏面10b上に設けられた電極22とを更に備える。電極23はコンタクト層14とオーミック接触を成しており、電極22は半導体基板10とオーミック接触を成している。図38は、半導体発光素子1Cを電極23側(表面側)から見た平面図である。図38に示されるように、電極23は枠状(環状)といった平面形状を呈しており、開口23aを有する。なお、図38には正方形の枠状の電極23が例示されているが、電極23の平面形状は例えば円環状など様々な形状であることができる。また、図38に隠れ線によって示される電極22の形状は、電極23の開口23aの形状と相似しており、例えば正方形もしくは円形である。電極23の開口23aの内径(開口23aの形状が正方形である場合は1辺の長さ)は、例えば20μm〜50μmである。
再び図36を参照する。本実施形態のコンタクト層14は、電極23と同様の平面形状を有する。すなわち、コンタクト層14の中央部は、エッチングにより除去されて開口14aとなっており、コンタクト層14は枠状(環状)といった平面形状を呈している。半導体発光素子1Cから出射される光は、コンタクト層14の開口14a、及び電極23の開口23aを通過する。コンタクト層14の開口14aを光が通過することにより、コンタクト層14における光吸収を回避し、光出射効率を高めることができる。但し、コンタクト層14における光吸収を許容できる場合には、コンタクト層14は開口14aを有さずにクラッド層13上の全面を覆っていてもよい。電極23の開口23aを光が通過することにより、電極23に遮られることなく光を半導体発光素子1Cの表面側から好適に出射することができる。
コンタクト層14の開口14aから露出したクラッド層13の表面(若しくは、開口14aが設けられない場合にはコンタクト層14の表面)は、反射防止膜25によって覆われている。なお、コンタクト層14の外側にも反射防止膜25が設けられてもよい。また、半導体基板10の裏面10b上における電極22以外の部分は、保護膜24によって覆われている。保護膜24の材料は、第1実施形態の保護膜18と同様である。反射防止膜25の材料は、第1実施形態の反射防止膜19と同様である。
光反射層20は、活性層12において発生した光を、半導体発光素子1Cの表面側に向けて反射する。光反射層20は、例えば、互いに屈折率が異なる複数の層が交互に積層されたDBR(Disrtibuted Bragg Reflector)層によって構成される。なお、本実施形態の光反射層20は活性層12とクラッド層11との間に設けられているが、光反射層20はクラッド層11と半導体基板10との間に設けられてもよい。或いは、光反射層20はクラッド層11の内部に設けられてもよい。
クラッド層11及び光反射層20には半導体基板10と同じ導電型が付与され、クラッド層13及びコンタクト層14には半導体基板10とは逆の導電型が付与される。一例では、半導体基板10、クラッド層11及び光反射層20はn型であり、クラッド層13及びコンタクト層14はp型である。位相変調層15は、活性層12とクラッド層11との間に設けられる場合には半導体基板10と同じ導電型を有し、活性層12とクラッド層13との間に設けられる場合には半導体基板10とは逆の導電型を有する。なお、不純物濃度は例えば1×1017〜1×1021/cm3である。活性層12は、いずれの不純物も意図的に添加されていない真性(i型)であり、その不純物濃度は1×1015/cm3以下である。なお、位相変調層15の不純物濃度については、不純物準位を介した光吸収による損失の影響を抑制する必要がある場合等には、真性(i型)としてもよい。
電流狭窄層21は、電流を通過させにくい(あるいは通過させない)構造を有し、中央部に開口21aを有する。図38に示されるように、開口21aの平面形状は、電極23の開口23aの形状と相似しており、例えば正方形もしくは円形である。電流狭窄層21は、例えばAlを高い濃度で含む層が酸化されてなるAl酸化層である。或いは、電流狭窄層21は、クラッド層13内にプロトン(H+)が注入されることにより形成された層であってもよい。或いは、電流狭窄層21は、半導体基板10とは逆の導電型の半導体層と半導体基板10と同じ導電型の半導体層とが順に積層されてなる逆pn接合構造を有してもよい。
本実施形態の半導体発光素子1Cの寸法例を説明する。電極23の開口23aの内径(開口23aの形状が正方形である場合は1辺の長さ)Laは、5μm〜100μmの範囲内であり、例えば50μmである。また、位相変調層15の厚さtaは例えば100nm〜400nmの範囲内であり、例えば200nmである。電流狭窄層21とコンタクト層14との間隔tbは、2μm〜50μmの範囲内である。言い換えると、間隔tbは、0.02La〜10Laの範囲内(例えば0.1La)であり、5.0ta〜500taの範囲内(例えば25ta)である。また、クラッド層13の厚さtcは、間隔tbよりも大きく、2μm〜50μmの範囲内である。言い換えると、厚さtcは、0.02La〜10Laの範囲内(例えば0.1La)であり、5.0ta〜500taの範囲内(例えば25ta)である。クラッド層11の厚さtdは、1.0μm〜3.0μmの範囲内(例えば2.0μm)である。
電極22と電極23との間に駆動電流が供給されると、駆動電流は活性層12に達する。このとき、電極23と活性層12との間を流れる電流は、厚いクラッド層13において十分に拡散するとともに、電流狭窄層21の開口21aを通過することにより、活性層12における中央部付近に均一に拡散することができる。そして、活性層12内において電子と正孔の再結合が生じ、活性層12が発光する。この発光に寄与する電子及び正孔、並びに発生した光は、クラッド層11及びクラッド層13の間に効率的に閉じ込められる。活性層12から出射されたレーザ光は、位相変調層15の内部に入射し、位相変調層15の内部の格子構造に応じた所定のモードを形成する。位相変調層15内から出射したレーザ光は、光反射層20において反射し、クラッド層13から開口14a及び開口23aを通って外部へ出射される。
(第1実施形態の具体例1)
ここで、前述した第1実施形態に関し、1次光及び−1次光のうち不要な光を抑制する効果について見積りを行い、特に大きな効果が得られる形状範囲について検討する。簡単のため、面内進行波の分布は正方格子と同じと仮定し、4つの基本波(進行波AU,AD,AR,及びAL)の強度分布を3次元結合波理論を用いて計算を行った。なお、3次元結合波理論は、文献「Y. Liang et al., “Three-dimensional coupled-wave model forsquare-lattice photonic crystal lasers with transverse electric polarization: Ageneral approach”, Phys. Rev. B84, 195119 (2011).」及び文献「Y. Liang et al., “Three-dimensionalcoupled-wave analysis for square-lattice photonic crystal surface emittinglasers with transverse-electric polarization:finite-size effects”, Opt. Express20, 15945-15961 (2012).」に記載されている。180°回折、すなわち逆向きに進む波への結合に対応する光結合係数κは、下記の数式(26)を用いて算出した。
但し、k0=2π/λ0、λ0は発振波長、β0=2π/a、aは格子定数、ξ±2,0は孔形状のフーリエ係数のうち次数(±2,0)に対応するもの、θ0(z)は積層方向の電界分布であり、積分全体では層方向の電界強度分布のうち位相変調層15に存在する割合を表す。
また、図39は、本例において計算に用いた層構造を示す図表である。層番号1,2は上部クラッド層13、層番号3は位相変調層15、層番号4は光ガイド層、層番号5〜13は活性層12、層番号14は下部クラッド層11を示す。図40は、図39に示された層構造を備える半導体発光素子1Aの屈折率分布G11aおよびモード分布G11bを示す。なお横軸は積層方向位置を表す。
図41〜図52は、位相変調層15の平面形状が真円である場合の計算結果を示す。なお、FFを15%とし、簡単のためR0=0、すなわち正方格子構造を仮定して計算を行った。図41及び図42は共振器長L=1μm(κL=0.097)の場合を示す。図43及び図44は共振器長L=4μm(κL=0.389)の場合を示す。図45及び図46は共振器長L=10μm(κL=0.973)の場合を示す。図47及び図48は共振器長L=20μm(κL=1.945)の場合を示す。図49及び図50は共振器長L=50μm(κL=4.864)の場合を示す。図51及び図52は共振器長L=100μm(κL=9.727)の場合を示す。また、図41,図43,図45,図47,図49,及び図51の(a)は、進行波ARの光強度の面内分布を示すグラフである。図41,図43,図45,図47,図49,及び図51の(b)は、進行波ALの光強度の面内分布を示すグラフである。図42,図44,図46,図48,図50,及び図52の(a)は、進行波AUの光強度の面内分布を示すグラフである。図42,図44,図46,図48,図50,及び図52の(b)は、進行波ADの光強度の面内分布を示すグラフである。これらの図は、進行波の強度分布を等強度線によって表現したものであり、横軸はX軸方向位置を表し、縦軸はY軸方向位置を表す。また、図41,図43,図45,図47,図49,及び図51の(c)は、進行波ARの光強度と進行波ALの光強度との差分を積算した結果を示すグラフである。図42,図44,図46,図48,図50,及び図52の(c)は、進行波AUの光強度と進行波ADの光強度との差分を積算した結果を示すグラフである。これらの図において、横軸はX軸方向位置を表し、縦軸は差分値を表す。
図41〜図52を参照すると、共振器長Lが小さいほど、また、光結合係数κと共振器長Lとの積κLが小さいほど、進行波AU,AD,AR,及びALの光強度の面内分布の偏りが大きいことがわかる。特に、共振器長Lが100μmより小さく、κLが10より小さい範囲において、各進行波の光強度の分布の偏りが大きく、逆向きに進む進行波同士の差分の偏りが大きいことがわかる。
図53の(a)は、位相変調層15の平面形状が真円である場合における、−1次光の強度J-1と1次光の強度J1との比(J-1/J1)と、共振器長Lとの関係を示すグラフである。横軸は共振器長L(μm)を表し、縦軸は強度比(J-1/J1)を表す。図中のグラフG12aは、本実施形態の結果を示す。図中のグラフG12bは、比較のため、領域Fa,Fbを区分しない(π(rad)の位相差を与えない)場合の結果を示す。また、図53の(b)は、位相変調層15の平面形状が真円である場合における、強度比(J-1/J1)と、共振器長L及び光結合係数κの積κLとの関係を示すグラフである。横軸はκLを表し、縦軸は強度比(J-1/J1)を表す。図中のグラフG13aは、本実施形態の結果を示す。図中のグラフG13bは、比較のため、領域Fa,Fbを区分しない(π(rad)の位相差を与えない)場合の結果を示す。
図53の(a)及び(b)を参照すると、共振器長Lが短く、κLが小さいほど、強度比(J-1/J1)が小さいことがわかる。また、共振器長Lが短く、κLが小さいほど、π(rad)の位相差を与えない場合に対する強度比(J-1/J1)の差が拡大している(すなわち、上記実施形態の効果が得られている)ことがわかる。特に、共振器長Lが100μmより短く、κLが10より小さい場合に、強度比(J-1/J1)が顕著に小さくなり、また、π(rad)の位相差を与えない場合に対する強度比(J-1/J1)の差が顕著に拡大している。従って、上記実施形態においては共振器長Lが100μmより短いか、若しくはκLが10より小さいことが望ましい。
図54〜図59は、位相変調層15の平面形状が二等辺三角形である場合の計算結果を示す。なお、FF及び距離r(x,y)の最大値R0は、位相変調層15の平面形状が真円である場合と同様である。図54は共振器長L=1μm(κL=0.083)の場合を示す。図55は共振器長L=4μm(κL=0.333)の場合を示す。図56は共振器長L=10μm(κL=0.834)の場合を示す。図57は共振器長L=20μm(κL=1.667)の場合を示す。図58は共振器長L=50μm(κL=4.168)の場合を示す。図59は共振器長L=100μm(κL=8.337)の場合を示す。図54〜図59の(a)は、進行波ARの光強度と進行波ALの光強度との差分を積算した結果を示すグラフである。図54〜図59の(b)は、進行波AUの光強度と進行波ADの光強度との差分を積算した結果を示すグラフである。これらの図において、横軸はX軸方向位置を表し、縦軸は差分値を表す。
図54〜図59を参照すると、位相変調層15の平面形状が二等辺三角形である場合においても、共振器長Lが小さいほど、また、光結合係数κと共振器長Lとの積κLが小さいほど、進行波AU,AD,AR,及びALの光強度の面内分布の偏りが大きいことがわかる。特に、共振器長Lが100μmより小さく、κLが10より小さい範囲において、各進行波の光強度の分布の偏りが大きく、逆向きに進む進行波同士の差分の偏りが大きい。すなわち、このような傾向は、位相変調層15の平面形状とは無関係であると考えることができる。
図60の(a)は、位相変調層15の平面形状が二等辺三角形である場合における、共振器長Lと強度比(J-1/J1)との関係を示すグラフである。横軸は共振器長L(μm)を表し、縦軸は強度比(J-1/J1)を表す。図中のグラフG14aは、本実施形態の結果を示す。図中のグラフG14bは、比較のため、領域Fa,Fbを区分しない(π(rad)の位相差を与えない)場合の結果を示す。また、図60の(b)は、位相変調層15の平面形状が二等辺三角形である場合における、κLと強度比(J-1/J1)との関係を示すグラフである。横軸はκLを表し、縦軸は強度比(J-1/J1)を表す。図中のグラフG15aは、本実施形態の結果を示す。図中のグラフG15bは、比較のため、領域Fa,Fbを区分しない(π(rad)の位相差を与えない)場合の結果を示す。
図60の(a)及び(b)を参照すると、位相変調層15の平面形状が二等辺三角形である場合においても、共振器長Lが短く、κLが小さいほど、強度比(J-1/J1)が小さいことがわかる。また、共振器長Lが短く、κLが小さいほど、π(rad)の位相差を与えない場合に対する強度比(J-1/J1)の差が拡大している(すなわち、上記実施形態の効果が得られている)ことがわかる。特に、共振器長Lが100μmより短く、κLが10より小さい場合に、強度比(J-1/J1)が顕著に小さくなり、また、π(rad)の位相差を与えない場合に対する強度比(J-1/J1)の差が顕著に拡大している。従って、位相変調層15の平面形状に関係なく、共振器長Lが100μmより短いか、若しくはκLが10より小さいことが望ましい。
(第1実施形態の具体例2)
発明者らは、活性層を含む光導波路層の厚さと屈折率、コンタクト層の厚さと屈折率について、高次モードを生じない条件を検討した。その検討過程および結果を以下に説明する。
まず、本具体例において検討対象とした半導体発光素子1Aの具体的構造について説明する。図61は、半導体発光素子1AがGaAs系化合物半導体からなる場合(発光波長940nm帯)の層構造を示す表である。図61の表には、各層の導電型、組成、層厚さ、および屈折率が示されている。なお、層番号1はコンタクト層14、層番号2は上部クラッド層13、層番号3は位相変調層15、層番号4は光ガイド層および活性層12、層番号5は下部クラッド層11を示す。図62は、図61に示された層構造を備える半導体発光素子1Aの屈折率分布G21aおよびモード分布G21bを示す。なお横軸は積層方向位置(範囲は2.5μm)を表す。このとき、基本モードのみが生じており、高次モードが抑制されていることが分かる。
図63は、半導体発光素子1AがInP系化合物半導体からなる場合(発光波長1300nm帯)の層構造を示す表である。層番号1はコンタクト層14、層番号2は上部クラッド層13、層番号3は位相変調層15、層番号4は光ガイド層および活性層12、層番号5は下部クラッド層11を示す。図64は、図63に示された層構造を備える半導体発光素子1Aの屈折率分布G22aおよびモード分布G22bを示す。なお横軸は積層方向位置(範囲は2.5μm)を表す。このとき、基本モードのみが生じており、高次モードが抑制されていることが分かる。
図65は、半導体発光素子1Aが窒化物系化合物半導体からなる場合(発光波長405nm帯)の層構造を示す表である。層番号1はコンタクト層14、層番号2は上部クラッド層13、層番号3はキャリア障壁層、層番号4は活性層12、層番号5は光ガイド層、層番号6は位相変調層15、層番号7は下部クラッド層11を示す。図66は、図65に示された層構造を備える半導体発光素子1Aの屈折率分布G23aおよびモード分布G23bを示す。なお横軸は積層方向位置(範囲は2.5μm)を表す。このとき、基本モードのみが生じており、高次モードが抑制されていることが分かる。
なお、上記の各構造において、位相変調層15のフィリングファクタ(Filling Factor:FF)は15%である。フィリングファクタとは、1つの単位構成領域R内に占める異屈折率領域15bの面積の比率である。
次に、検討の前提条件について説明する。以下の検討では、TEモードを前提とした。すなわち、漏れモードおよびTMモードは考慮されていない。また、下部クラッド層11が十分に厚く、半導体基板10の影響は無視できるものである。また、上部クラッド層13の屈折率が、下部クラッド層11の屈折率以下である。そして、活性層12(MQW層)および光ガイド層は、特に分けて記載しない限り、平均誘電率と合計膜厚とを有する1つの光導波路層(コア層)と見なされる。更に、位相変調層15の誘電率は、フィリングファクタに基づく平均誘電率である。
活性層12および光ガイド層からなる光導波路層の平均屈折率および膜厚の計算式は以下の通りである。すなわち、εcoreは光導波路層の平均誘電率であり、以下の式(27)で規定される。εiは各層の誘電率であり、diは各層の厚さであり、niは各層の屈折率である。ncoreは光導波路層の平均屈折率であり、以下の式(28)で規定される。dcoreは光導波路層の膜厚であり、以下の式(29)で規定される。
また、位相変調層15の平均屈折率の計算式は以下の通りである。すなわち、nPMは位相変調層15の平均屈折率であり、以下の式(30)で規定される。εPMは位相変調層15の誘電率であり、n1は第1屈折率媒質の屈折率であり、n2は第2屈折率媒質の屈折率であり、FFはフィリングファクタである。
以下の検討では、5層もしくは6層のスラブ型導波路によって導波路構造の近似が行われた。図67(a)および図67(b)は、6層のスラブ型導波路によって導波路構造を近似する場合を説明するための断面図および屈折率分布である。図68(a)および図68(b)は、5層のスラブ型導波路によって導波路構造を近似する場合を説明するための断面図および屈折率分布である。図67(a)および図67(b)に示されたように、位相変調層15の屈折率が下部クラッド層11の屈折率より小さい場合には位相変調層15に導波機能がないので、6層のスラブ型導波路について近似が行われた。すなわち、光導波路層は、活性層12および光ガイド層を含む一方、下部クラッド層11、上部クラッド層13、および位相変調層15を含まない構造を有する。このような近似は、例えば図63および図65に示された構造(本具体例ではInP系化合物半導体、もしくは窒化物系化合物半導体)に適用されることができる。
また、図68(a)および図68(b)に示されたように、位相変調層15の屈折率が下部クラッド層11の屈折率以上の場合には位相変調層15に導波機能があるので、5層のスラブ型導波路について近似が行われた。すなわち、光導波路層は、位相変調層15および活性層12を含む一方、下部クラッド層11および上部クラッド層13を含まない構造を有する。このような近似は、例えば図25に示された構造(本実施例ではGaAs系化合物半導体)に適用されることができる。
更に、計算をより簡略化するために、半導体発光素子1Aの等価屈折率よりも屈折率が高い光導波路層およびコンタクト層それぞれの周辺部分に計算範囲が限定されている。すなわち、光導波路層および該光導波路層に隣接する上下の層によって、光導波路層に関する3層スラブ構造が規定され、コンタクト層14および隣接する上下の層によって、コンタクト層14に関する3層スラブ構造が規定される。
図69(a)および図69(b)は、6層のスラブ型導波路(図67(a)および図67(b)参照)における、光導波路層に関する3層スラブ構造を説明するための断面図および屈折率分布である。この場合、図69(b)の屈折率分布において実線で示された屈折率分布に基づいて、光導波路層の導波モードが計算される。また、図70(a)および図70(b)は、6層のスラブ型導波路(図67(a)および図67(b)参照)における、コンタクト層14に関する3層スラブ構造を説明するための断面図および屈折率分布である。この場合、図70(b)において実線で示された屈折率分布に基づいて、コンタクト層14の導波モードが計算される。
図71(a)および図71(b)は、5層のスラブ型導波路(図68参照)における、光導波路層に関する3層スラブ構造を説明するための断面図および屈折率分布である。この場合、図71(b)において実線で示された屈折率分布に基づいて、光導波路層の導波モードが計算される。また、図72(a)および図72(b)は、5層のスラブ型導波路(図68参照)における、コンタクト層14に関する3層スラブ構造を説明するための断面図および屈折率分布である。この場合、図72(b)において実線で示された屈折率分布に基づいて、コンタクト層14の導波モードが計算される。
なお、上述の3層スラブ構造による近似の際、下部クラッド層11を経て半導体基板10に導波モードが漏れないようにするために、下部クラッド層11の屈折率が半導体発光素子1Aの等価屈折率以下であることを要する。
ここで、3層スラブ構造の解析式について説明する。図73(a)および図73(b)は、下部クラッド層11、光導波路層31、および上部クラッド層13からなる3層スラブ構造30と、その屈折率分布とを示す。ここでは、下部クラッド層11の屈折率をn2とし、光導波路層31の屈折率をn1とし、上部クラッド層13の屈折率をn3とする。そして、光導波路層31の規格化導波路幅V1が上記式(1)によって規定されたとき、規格化導波路幅V1の解が1つのみとなる範囲内であれば、導波モードは基本モードのみとなる。ただし、3層スラブ構造の解析式で、上記の5層スラブ構造および6層スラブ構造の導波モードを調べるときには、下部クラッド層11に導波モードが漏れない必要があるので、上記式(2)に示す条件も同時に満たしている必要がある。
コンタクト層14に関しては、図73(a)および図73(b)において下部クラッド層11を上部クラッド層13に、光導波路層31をコンタクト層14に、上部クラッド層13を空気層に、それぞれ置き換えるとよい。そして、コンタクト層14の屈折率をn4とし、空気層の屈折率をn5とすると、コンタクト層14の規格化導波路幅V2に関する上記式(5)が得られる。そして、規格化導波路幅V2の解がない範囲内であれば、コンタクト層14に導波モードは存在しない。ただし、3層スラブ構造の解析式で、上記の5層スラブ構造および6層スラブ構造の導波モードを調べるときには、下部クラッド層11に導波モードが漏れない必要があるので、上記式(6)に示す条件も同時に満たしている必要がある。
なお、上部クラッド層13の膜厚を変化させて発生する導波モードを解析することで、上部クラッド層13の膜厚が導波モードに影響を与えないことが確認できた。
(半導体発光素子1AがGaAs系化合物半導体からなる場合)
図74は、半導体発光素子1AがGaAs系化合物半導体からなる場合の5層スラブ構造の例を示す表である。この5層スラブ構造における光導波路層(層番号4)およびコンタクト層(層番号2)の膜厚の範囲は、以下の計算によって求められる。
図75(a)は、計算に用いられた屈折率n1、n2、およびn3、非対称パラメータa’および下部クラッド層11の屈折率ncladを示す表である。この場合、上記式(1)および式(2)によって示される光導波路層の規格化導波路幅V1と、規格化伝搬係数bとの関係が、図76に示されている。図76中、グラフG31a〜G31fは、それぞれ、モード次数N=0〜5の場合を示す。このグラフにおいて、導波モードが基本モード(すなわちN=0)のみとなるのは、規格化導波路幅V1の解が1つとなる範囲であって、範囲H1の内側である。範囲H1は、規格化伝搬係数bが0であるときのN=0に対応する規格化導波路幅V1の値を下限値とし、規格化伝搬係数bが0であるときのN=1に対応する規格化導波路幅V1の値を上限値とする範囲である。図75(b)は、そのような下限値および上限値の計算結果を示す表である。
また、図77(a)は、計算に用いられた屈折率n4、n5、およびn6、非対称パラメータa’および下部クラッド層11の屈折率ncladを示す表である。この場合、上記式(5)および式(6)によって示されるコンタクト層14の規格化導波路幅V2と、規格化伝搬係数bとの関係が、図78に示されている。図78中、グラフG32a〜G32fは、それぞれモード次数N=0〜5の場合を示す。このグラフにおいて、コンタクト層14に起因する導波モードが生じず、半導体発光素子1Aの導波モードが光導波路層の基本モードのみとなるのは、規格化導波路幅V2の解が無い範囲であって、範囲H2の内側である。範囲H2は、0を下限値とし、規格化伝搬係数bが下部クラッド層11の屈折率に対応する値b1であるときのN=0に対応する規格化導波路幅V2の値を上限値とする範囲である。図77(b)は、そのような上限値の計算結果を示す表である。
図79は、図74に示された層構造を備える半導体発光素子1Aの屈折率分布G24aおよびモード分布G24bを示す。基本モードのみが顕著に生じており、高次モードが抑制されていることがわかる。
(半導体発光素子1AがInP系化合物半導体からなる場合)
図80は、半導体発光素子1AがInP系化合物半導体からなる場合の6層スラブ構造の例を示す表である。この6層スラブ構造における光導波路層(層番号5)およびコンタクト層(層番号2)の膜厚の範囲は、以下の計算によって求められる。
図81(a)は、計算に用いられた屈折率n1、n2、およびn3、非対称パラメータa’および下部クラッド層11の屈折率ncladを示す表である。この場合、上記式(1)および式(2)によって示される光導波路層の規格化導波路幅V1と、規格化伝搬係数bとの関係が、図82に示されている。図82中、グラフG33a〜G33fは、それぞれモード次数N=0〜5の場合を示す。このグラフにおいて、導波モードが基本モード(すなわちN=0)のみとなるのは、規格化導波路幅V1の解が1つとなる範囲であって、範囲H1の内側である。なお、範囲H1の定義は前述したGaAs系化合物半導体の場合と同様である。図81(b)は、下限値および上限値の計算結果を示す表である。
また、図83(a)は、計算に用いられた屈折率n4、n5、およびn6、非対称パラメータa’および下部クラッド層11の屈折率ncladを示す表である。この場合、上記式(5)および式(6)によって示されるコンタクト層14の規格化導波路幅V2と、規格化伝搬係数bとの関係は、図84に示すグラフのようになる。図84中、グラフG34a〜G34fは、それぞれモード次数N=0〜5の場合を示す。このグラフにおいて、コンタクト層14に起因する導波モードが生じず、半導体発光素子1Aの導波モードが光導波路層の基本モードのみとなるのは、規格化導波路幅V2の解が無い範囲であって、範囲H2の内側である。範囲H2の定義は前述したGaAs系化合物半導体の場合と同様である。図83(b)は、そのような上限値の計算結果を示す表である。
図85は、図80に示された層構造を備える半導体発光素子1Aの屈折率分布G25aおよびモード分布G25bを示す。基本モードのみが顕著に生じており、高次モードが抑制されていることが分かる。
(半導体発光素子1Aが窒化物系化合物半導体からなる場合)
図86は、半導体発光素子1Aが窒化物系化合物半導体からなる場合の6層スラブ構造の例を示す表である。この6層スラブ構造における光導波路層(層番号4)およびコンタクト層(層番号2)の膜厚の範囲は、以下の計算によって求められる。
図87(a)は、計算に用いられた屈折率n1、n2、およびn3、非対称パラメータa’および下部クラッド層11の屈折率ncladを示す表である。この場合、上記式(1)および式(2)によって示される光導波路層の規格化導波路幅V1と、規格化伝搬係数bとの関係が、図88に示されている。図88中、グラフG35a〜G35fは、それぞれモード次数N=0〜5の場合を示す。このグラフにおいて、導波モードが基本モード(すなわちN=0)のみとなるのは、規格化導波路幅V1の解が1つとなる範囲であって、範囲H1の内側である。範囲H1は、規格化伝搬係数bが値b1であるときのN=0に対応する規格化導波路幅V1の値を下限値とし、規格化伝搬係数bが値b1であるときのN=1に対応する規格化導波路幅V1の値を上限値とする範囲である。図87(b)は、下限値および上限値の計算結果を示す表である。
また、図89(a)は、計算に用いられた屈折率n4、n5、およびn6、非対称パラメータa’および下部クラッド層11の屈折率ncladを示す表である。この場合、上記式(5)および式(6)によって示されるコンタクト層14の規格化導波路幅V2と、規格化伝搬係数bとの関係が、図90に示されている。図90中、グラフG36a〜G36fは、それぞれモード次数N=0〜5の場合を示す。このグラフにおいて、コンタクト層14に起因する導波モードが生じず、半導体発光素子1Aの導波モードが光導波路層の基本モードのみとなるのは、規格化導波路幅V2の解が無い範囲であって、範囲H2の内側である。範囲H2の定義は前述したGaAs系化合物半導体の場合と同様である。図89(b)は、そのような上限値の計算結果を示す表である。
図91は、図86に示された層構造を備える半導体発光素子1Aの屈折率分布G26aおよびモード分布G26bを示す。基本モードのみが顕著に生じており、高次モードが抑制されていることが分かる。
本発明による発光装置は、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態ではGaAs系、InP系、及び窒化物系(特にGaN系)の化合物半導体からなるレーザ素子を例示したが、本発明は、これら以外の様々な半導体材料からなるレーザ素子に適用できる。
また、上記実施形態では位相変調層15と共通の半導体基板10上に設けられた活性層12を発光部とする例を説明したが、本発明においては、発光部は半導体基板10から分離して設けられてもよい。発光部が位相変調層と光学的に結合され、位相変調層に光を供給するものであれば、そのような構成であっても上記実施形態と同様の効果を好適に奏することができる。