JP2019102411A - 燃料電池の単セル及び燃料電池スタック - Google Patents

燃料電池の単セル及び燃料電池スタック Download PDF

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Abstract

【課題】高い発電性能と耐久性が得られる燃料電池の単セルを提供する。【解決手段】固体高分子電解質膜と、アノード触媒層およびカソード触媒層と、アノードガス拡散層およびカソードガス拡散層とを備え、カソードガス拡散層において、酸化剤ガスが供給される入口部を含む上流領域よりも、酸化剤ガスが排出される出口部を含む下流領域の方が、カソードガス拡散層の厚み方向における酸素と水蒸気の相互拡散係数、酸素と窒素の相互拡散係数、および窒素と水蒸気の相互拡散係数と、カソードガス拡散層の厚みとから求められる各相互拡散抵抗が小さくなっており、25℃および大気圧となる条件下において、上流領域における各相互拡散抵抗がそれぞれ26、29、26よりも大きく、下流領域における各相互拡散抵抗がそれぞれ167、182、167未満であり、上流領域の相互拡散抵抗と下流領域の相互拡散抵抗との比である相互拡散抵抗比は4以上であり17以下となる範囲の値となる。【選択図】 図3

Description

本発明は、燃料電池の単セルおよび該単セルから構成された燃料電池スタックに関する。
固体高分子形燃料電池は、供給された燃料ガスをアノード触媒層に拡散させるアノードガス拡散層と、供給された酸化剤ガスをカソード触媒層に拡散させるカソードガス拡散層とを備えている。アノードガス拡散層は、水素を含む燃料ガスをアノード触媒層全面に均一に行き渡らせる。一方、カソードガス拡散層は、酸素を含む酸化剤ガスをカソード触媒層全面に均一に行き渡らせる。
また、固体高分子形燃料電池の発電反応に伴い、カソード触媒層にて水が生成され、この生成された水(生成水)は、主にカソード側へ、一部は電解質膜を透過してアノード側へ移動する。そして、生成水は、アノード側ではアノードガス拡散層を通じてセパレータ流路に排出され、カソード側ではカソードガス拡散層を通じてセパレータ流路に排出される。
以上のように、アノードガス拡散層およびカソードガス拡散層は、供給された燃料ガスおよび酸化剤ガスを、アノード触媒層およびカソード触媒層において拡散させるとともに、電解質膜、アノード触媒層、およびカソード触媒層それぞれに含まれる水分量の調整を行う。
ところで、一般的なアノードガス拡散層およびカソードガス拡散層は、一様の物性、構造を有していたが、近年では、例えば、カソードガス拡散層のガス拡散性を、カソードガス拡散層の入口部から出口部へ向けて高くするものが提案されている(例えば、特許文献1〜7)。
すなわち、特許文献1には、アノードの集電体が炭素繊維を織り込んだカーボンクロスにより形成されており、カーボンクロスの網目が、酸化剤ガスが流入する入口側から出口側に向かって徐々に粗くなるように構成された燃料電池が提案されている。特許文献1に開示された燃料電池は、この構成により、燃料ガスのアノード内における拡散性は、入口側より出口側の方が優れたものとなる。このため、アノード表面での燃料ガスの消費によって出口側で燃料ガス中の反応成分の濃度が低くなったとしても、反応成分と触媒とが接する確率を大きくすることができるため反応の活性化を図ることができる。このため、アノード表面において面方向に反応の均一化を図ることができる。
また、特許文献2には、アノードおよび/またはカソードのガス透過層のガス供給口(入口)側に近い部分が、ガス排出口(出口)側に近い部分よりも小さい透過度を有する燃料電池が提案されている。特許文献2に開示された燃料電池では、燃料ガスまたは酸化剤ガスの供給口(入口)側では、ガス透過膜の透過度を低くして水蒸気の透過量を低下させるため、低い加湿量でも電極の電解質膜が乾燥しないようにすることができる。一方、酸化剤ガスの排出口(出口)側では、ガス透過層の透過度を高くするため、生成した水による電解質膜の透過阻害を防止することができる。
また、特許文献3には、カソード側のガス拡散層の前部(入口部)のフッ素樹脂含有量を後部(出口部)よりも多くすることで、電解質膜に湿潤性を維持する燃料電池が提案されている。この構成により、特許文献3に開示された燃料電池は、無加湿の酸化剤ガスを供給しても固体高分子電解質膜を全体にわたって湿潤状態に保つことができる。
また、特許文献4には、触媒層と拡散層との間にフッ素樹脂とカーボンブラックからなる混合層を備え、燃料ガスおよび酸化剤ガスの入口側部分の混合層の厚さを、出口側部分の厚さより大きくする、もしくは、入口側部分の気孔率を出口側部分の気孔率より小さくする燃料電池が提案されている。この構成により、特許文献4に開示された燃料電池は、反応ガスの拡散阻害や電解質膜の乾燥を防止することができる。
また、特許文献5には、カソードガス導入口(入口部)付近に対向するアノードガス拡散層の第一領域中の、ガス拡散層に撥水剤として塗布されるPTEF含有量を5wt%とし、第一領域以外の領域である第二領域のPTEF含有量を30wt%とすることによって、第一領域の水分透過性を第二領域よりも高くする燃料電池が提案されている。この構成により、特許文献5に開示された燃料電池は、カソード側の酸化剤ガス導入口(入口部)付近から電解質膜の水分が蒸発しても、アノード側から十分な量の水分が良好に透過して電解質膜に供給することができる。
また、特許文献6には、酸化剤ガス供給(入口)側の拡散層のガス拡散性が、酸化剤ガス排出(出口)側のガス拡散性よりも低くなるように構成した燃料電池が提案されている。この構成により、特許文献6に開示された燃料電池は、酸化剤ガス供給(入口)側の拡散層において空気中への水蒸気の蒸発量を抑制することができる。
また、特許文献7には、ガス拡散層の下流領域の透気度が、ガス拡散層の上流領域の透気度よりも相対的に大きくなるように設定された燃料電池が提案されている。この構成により、特許文献7に開示された燃料電池は、ガス拡散層の下流領域におけるガス拡散性のさらなる向上を図ることができる。
特開平8−124583号公報 特開平11−154523号公報 特開2001−6708号公報 特開2001−135326号公報 特開2001−236976号公報 特開2001−6698号公報 特開2004−273392号公報
しかし、従来は、高い発電性能と耐久性とを達成できる単セルおよび燃料電池スタックについて十分な検討がなされていなかった。
本開示は、一例として、高い発電性能と耐久性が得られる単セルおよび燃料電池スタックを提案する。
本発明の燃料電池の単セルの一態様(aspect)は、固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜の一方の面に接し、燃料ガスを反応させるアノード触媒層、および該固体高分子電解質膜の他方の面に接し、酸化剤ガスを反応させるカソード触媒層と、前記アノード触媒層に接し、供給された前記燃料ガスを該アノード触媒層に拡散させるアノードガス拡散層および、前記カソード触媒層に接し、供給された前記酸化剤ガスを該カソード触媒層に拡散させるカソードガス拡散層と、を備え、前記酸化剤ガスは空気であって、前記燃料ガスは水素であり、前記カソードガス拡散層において、前記酸化剤ガスが供給される入口部を含む上流領域よりも、該酸化剤ガスが排出される出口部を含む下流領域の方が、カソードガス拡散層の厚み方向における酸素と水蒸気の相互拡散係数、酸素と窒素の相互拡散係数、および窒素と水蒸気の相互拡散係数それぞれによって、カソードガス拡散層の厚みを除することで求められる各相互拡散抵抗が小さくなっており、25℃および大気圧となる条件下において、前記上流領域における酸素と水蒸気の相互拡散抵抗、酸素と窒素の相互拡散抵抗、および窒素と水蒸気の各相互拡散抵抗がそれぞれ26、29、26よりも大きく、前記下流領域における酸素と水蒸気の相互拡散抵抗、酸素と窒素の相互拡散抵抗、および窒素と水蒸気の各相互拡散抵抗がそれぞれ167、182、167未満であり、前記上流領域の相互拡散抵抗と前記下流領域の相互拡散抵抗との比である相互拡散抵抗比は4以上であり17以下となる範囲の値となる。
また、本発明の燃料電池スタックの一態様は、固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜の一方の面に接し、燃料ガスを反応させるアノード触媒層、および該固体高分子電解質膜の他方の面に接し、酸化剤ガスを反応させるカソード触媒層と、前記アノード触媒層に接し、供給された前記燃料ガスを該アノード触媒層に拡散させるアノードガス拡散層および、前記カソード触媒層に接し、供給された前記酸化剤ガスを該カソード触媒層に拡散させるカソードガス拡散層と、を備え、前記酸化剤ガスは空気であって、前記燃料ガスは水素であり、前記カソードガス拡散層において、前記酸化剤ガスが供給される入口部を含む上流領域よりも、該酸化剤ガスが排出される出口部を含む下流領域の方が、カソードガス拡散層の厚み方向における酸素と水蒸気の相互拡散係数、酸素と窒素の相互拡散係数、および窒素と水蒸気の相互拡散係数それぞれによって、カソードガス拡散層の厚みを除することで求められる各相互拡散抵抗が小さくなっており、25℃および大気圧となる条件下において、前記上流領域における酸素と水蒸気の相互拡散抵抗、酸素と窒素の相互拡散抵抗、および窒素と水蒸気の各相互拡散抵抗がそれぞれ26、29、26よりも大きく、前記下流領域における酸素と水蒸気の相互拡散抵抗、酸素と窒素の相互拡散抵抗、および窒素と水蒸気の各相互拡散抵抗がそれぞれ167、182、167未満であり、前記上流領域の相互拡散抵抗と前記下流領域の相互拡散抵抗との比である相互拡散抵抗比は4以上であり17以下となる範囲の値となる燃料電池の単セルを複数個積層して構成する。
本発明は、以上に説明した構成を有することで、高い発電性能と耐久性が得られるという効果を奏する。
本発明の実施形態に係る固体高分子形燃料電池の単セルを構成するMEAの概略構成を示す模式図である。 本発明の実施形態に係る固体高分子形燃料電池の単セルにおける、燃料ガスが供給される入口部および排出される出口部と、酸化剤ガスが供給される入口部および排出される出口部の位置関係の一例を示す模式図である。 本発明の実施形態に係るカソードガス拡散層における最上流領域の相互拡散抵抗と、最下流領域の相互拡散抵抗との関係において取り得る値の範囲を示すグラフである。 本発明の実施例に係る二成分ガスの相互拡散係数を実験的に導出する方法を示す模式図を示す。 本発明の実施例において温度25℃、大気圧(101.3kPa)の条件下にて数値シミュレーションを実施し得られた、単位空間内の二成分ガスの相互拡散係数の値を示す表である。 本発明の比較例2に係るカソードガス拡散層5の厚み方向の相互拡散係数D(O,HO)と電圧との関係の一例を示すグラフである。 本発明の実施例1に係る固体高分子形燃料電池が備えるカソードガス拡散層において、カソードガス拡散層の厚み方向の相互拡散抵抗の大きさの相違を模式的に示す図である。 本発明の実施例1に係る固体高分子形燃料電池における相互拡散抵抗比に対する最小カソード触媒層入口相対湿度とセル電圧との関係を示すグラフである。 本発明の実施例1の変形例に係る固体高分子形燃料電池が備えるカソードガス拡散層において、カソードガス拡散層の厚み方向の相互拡散抵抗の大きさの相違を模式的に示す図である。 本発明の実施例2に係る固体高分子形燃料電池が備えるカソードガス拡散層において、カソードガス拡散層の厚み方向の相互拡散抵抗の大きさの相違を模式的に示す図である。 本発明の実施例2に係る固体高分子形燃料電池における相互拡散抵抗比に対する最小カソード触媒層入口相対湿度とセル電圧との関係を示すグラフである。 本発明の実施例3に係る固体高分子形燃料電池が備えるカソードガス拡散層において、カソードガス拡散層の厚み方向の相互拡散抵抗の大きさの相違を模式的に示す図である。 実施例3に係る固体高分子形燃料電池における相互拡散抵抗比に対する最小カソード触媒層入口相対湿度とセル電圧との関係を示すグラフである。
(本発明の基礎となった知見)
固体高分子形燃料電池は、単セルを構成する膜−電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)として電解質膜と、電解質膜の厚み方向の片側に設けられた燃料ガスが供給されるアノード触媒層と、電解質膜の厚み方向の他方の片側に設けられ酸化剤ガスが供給されるカソード触媒層とを備えてなる構成である。なお、MEAにおいて電解質膜、アノード触媒層、およびカソード触媒層が積層される方向を厚み方向と称する。アノード触媒層の電解質膜と接する側とは反対側となる面にアノードガス拡散層が設けられ、カソード触媒層の電解質膜と接する側とは反対側となる面にカソードガス拡散層が設けられている。アノードガス拡散層およびカソードガス拡散層は、アノード触媒層およびカソード触媒層に向かってガスを拡散させるガス拡散性と共に導電性を有している。
従来の固体高分子形燃料電池では、酸化剤ガスを燃料電池の単セルへ供給する経路中に加湿器を設置し、この加湿器により加湿した、いわゆる高加湿な酸化剤ガスを単セルへ供給していた。近年では、燃料電池システムのコンパクト化が望まれるようになり、これに伴い酸化剤ガスの加湿にかかるシステム要素(加湿器)の削減が要求され、無加湿の状態で酸化剤ガスを燃料電池の単セルに供給可能な燃料電池システムが求められている。
しかしながら、本発明者らは、固体高分子形燃料電池において無加湿の状態で酸化剤ガスを燃料電池の単セルに供給すると、酸化剤ガスが流入する入口部に対応するカソード触媒層領域の相対湿度が、酸化剤ガスが排出される出口部に対応するカソード触媒層領域の相対湿度よりも低くなることに気が付いた。そして、酸化剤ガスの入口部に対応する電解質膜部分から比較的大量の水分が酸化剤ガス中に蒸発してしまい、この部分において燃料電池の発電効率が低下することを見出した。
具体的には、固体高分子形燃料電池に供給される燃料ガスおよび酸化剤ガスが低加湿または無加湿の状態である場合、特に、酸化剤ガスが流入するカソードガス拡散層の入口部に対応する電解質膜の領域が乾燥し、プロトン伝導性が低下する可能性がある。そこで、カソードガス拡散層の入口部の保水性を向上させることで、電解質膜の乾燥に起因する酸素のアノード側へのクロスリーク量を低減させた構成とすることが考えられる。なお、このクロスリークは、アノード触媒層で過酸化水素(H)を生成し、更にヒドロキシラジカル(OH・)またはハイドロペロキシルラジカル(HOO・)の生成を促進する為、電解質膜が化学的劣化する。すなわち、電解質膜を乾燥させないことは耐久性の向上において重要となる。
一方、酸化剤ガスが排出されるカソードガス拡散層の出口部では、入口部と比較して水蒸気分圧が高いため、カソードガス拡散層内において水が凝縮し、凝縮した水がガス拡散性を妨げるフラッディング現象が起こる傾向がある。つまり、固体高分子形燃料電池において、酸化剤ガスが排出される出口部では、凝縮した水がガス流路等を閉塞してガス拡散性が低下する可能性がある。
以上のように、固体高分子形燃料電池では、セル発電性能の低下または劣化を招来する可能性のある水管理にかかわる課題がある。
本発明者らは、上記した問題に対して鋭意検討をした結果、低加湿な酸化剤ガスが供給される燃料電池の単セルにおいて、酸化剤ガスが流入する入口部を含むカソードガス拡散層領域の保水性と、酸化剤ガスが排出される出口部を含むカソードガス拡散層領域のガス拡散性とが高くなるようにカソードガス拡散層を構成することで、高い発電性能と耐久性とを達成することができることを見出した。そして、本発明者らは、高い発電性能と耐久性とを達成することができる、入口部を含むカソードガス拡散層領域(上流領域)における相互拡散抵抗Rinと、出口部を含むカソードガス拡散層領域(下流領域)における相互拡散抵抗Routとの関係を見出した。
より具体的には、低加湿または無加湿な酸化剤ガス(空気)が供給されても高い発電性能と耐久性を達成することができるカソードガス拡散層を実現するための、25℃、大気圧(101.3kPa)条件下での入口部を含む上流領域のカソードガス拡散層の厚みtinと、厚み方向の酸素‐水蒸気、酸素‐窒素、および窒素‐水蒸気の相互拡散係数Din(m/sec)から求められる相互拡散抵抗Rin=tin/Dinと、出口部を含む下流領域のカソードガス拡散層の厚みtoutと、厚み方向の酸素‐水蒸気、酸素‐窒素、および窒素‐水蒸気の相互拡散係数Dout(m/sec)から求められる相互拡散抵抗Rout=tout/Doutとの関係を見出した。そして、本発明では具体的には以下に示す態様を提供する。
なお、本明細書における酸化剤ガスに対する拡散係数とは、ガス(i)‐ガス(j)2元系におけるカソードガス拡散層内を移動するガスの動き易さを表す。また、相互拡散抵抗とは、カソードガス拡散層の厚みを、酸化剤ガスに対する拡散係数によって除した値である。つまり、相互拡散抵抗はカソードガス拡散層の厚み方向におけるガスの拡散に、カソードガス拡散層の厚みの影響を考慮した値である。相互拡散抵抗が大きい場合、カソードガス拡散層を移動しカソード触媒に到達する酸素の流量が小さくなってしまう。一方、相互拡散抵抗が小さい場合、カソードガス拡散層を移動しカソード触媒に到達する酸素の流量が大きくなるが、発電時にカソード触媒層で生成される水蒸気(水)がカソードガス拡散層を移動し外部に排出されやすくなる。
なお、本明細書では、酸化剤ガスとして空気を想定しており、低加湿または無加湿な酸化剤ガスとは、加湿器等により意図的に加湿した空気ではなく、常態における空気(例えば、露点が10℃となる空気)を意味する。それゆえ、ガス(i)‐ガス(j)2元系における相互拡散係数および相互拡散抵抗は、酸素‐水蒸気、酸素‐窒素、および窒素‐水蒸気それぞれにおける相互拡散係数および相互拡散抵抗となる。
本発明の第1の態様に係る燃料電池の単セルは、固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜の一方の面に接し、燃料ガスを反応させるアノード触媒層、および該固体高分子電解質膜の他方の面に接し、酸化剤ガスを反応させるカソード触媒層と、前記アノード触媒層に接し、供給された前記燃料ガスを該アノード触媒層に拡散させるアノードガス拡散層および、前記カソード触媒層に接し、供給された前記酸化剤ガスを該カソード触媒層に拡散させるカソードガス拡散層と、を備え、前記酸化剤ガスは空気であって、前記燃料ガスは水素であり、前記カソードガス拡散層において、前記酸化剤ガスが供給される入口部を含む上流領域よりも、該酸化剤ガスが排出される出口部を含む下流領域の方が、カソードガス拡散層の厚み方向における酸素と水蒸気の相互拡散係数、酸素と窒素の相互拡散係数、および窒素と水蒸気の相互拡散係数それぞれによって、カソードガス拡散層の厚みを除することで求められる各相互拡散抵抗が小さくなっており、25℃および大気圧となる条件下において、前記上流領域における酸素と水蒸気の相互拡散抵抗、酸素と窒素の相互拡散抵抗、および窒素と水蒸気の各相互拡散抵抗がそれぞれ26、29、26よりも大きく、前記下流領域における酸素と水蒸気の相互拡散抵抗、酸素と窒素の相互拡散抵抗、および窒素と水蒸気の各相互拡散抵抗がそれぞれ167、182、167未満であり、前記上流領域の相互拡散抵抗と前記下流領域の相互拡散抵抗との比である相互拡散抵抗比は4以上であり17以下となる範囲の値となる。
上記構成によると、カソードガス拡散層の上流領域よりも下流領域の方が、カソードガス拡散層の厚み方向における酸素と水蒸気の相互拡散抵抗、酸素と窒素の相互拡散抵抗、および窒素と水蒸気の相互拡散抵抗それぞれが小さくなっている。また、25℃および大気圧となる条件下において、上流領域における酸素と水蒸気の相互拡散抵抗、酸素と窒素の相互拡散抵抗、および窒素と水蒸気の各相互拡散抵抗がそれぞれ26、29、26よりも大きく、下流領域における酸素と水蒸気の相互拡散抵抗、酸素と窒素の相互拡散抵抗、および窒素と水蒸気の各相互拡散抵抗がそれぞれ167、182、167未満であり、上流領域の相互拡散抵抗と下流領域の相互拡散抵抗との比である相互拡散抵抗比は4以上であり17以下となる範囲の値となる。
つまり、カソードガス拡散層の上流領域の相互拡散抵抗を、下流領域の相互拡散抵抗と比較して相対的に大きくすることで、発電反応により生成される生成水の含有量が小さい上流領域の保水性を高める一方、生成水が過剰になる下流領域のガス拡散性と排水性を高めることができる。
したがって、カソードガス拡散層の上流領域の保水性と下流領域のガス拡散性とを高くすることができるため、低加湿な酸化剤ガスが供給される場合であっても高い発電性能と耐久性を達成することが可能となる。
よって、本発明の第1の態様に係る燃料電池の単セルは、高い発電性能と耐久性が得られるという効果を奏する。
本発明の第2の態様に係る燃料電池の単セルは、上記した第1の態様において、前記カソードガス拡散層は、前記上流領域と前記下流領域とから構成されていてもよい。
上記構成によると、カソードガス拡散層の上流領域の保水性と下流領域のガス拡散性とを高くすることができるため、低加湿な酸化剤ガスが供給される場合であっても高い発電性能と耐久性を達成することが可能となる。
また、カソードガス拡散層は、異なる2種類の相互拡散抵抗を有する構成とすることができるため、2種類よりも多くの相互拡散抵抗を有した構成のカソードガス拡散層と比較して簡便に製造することができ、製造コストを削減できる。
本発明の第3の態様に係る燃料電池の単セルは、上記した第2の態様において、前記カソードガス拡散層は、前記上流領域の面積の方が前記下流領域の面積よりも小さくなるように構成されていてもよい。
ここで、発電により生成される生成水の含有量が小さく、低加湿の酸化剤ガスが供給されることで固体高分子電解質膜等が乾燥する可能性のある範囲は、カソードガス拡散層における上流側の半分よりも小さい範囲である。
上記構成によると、上流領域の面積の方が下流領域の面積よりも小さくなるように構成されている。このため、上流領域において低加湿で供給される酸化剤ガスに起因する固体高分子電解質膜等の乾燥を防ぎつつ、上流領域よりも広い範囲となる下流領域において生成水の増加によるガス拡散性低下を適切に抑制することができる。
本発明の第4の態様に係る燃料電池の単セルは、上記した第1の態様において、前記上流領域における前記入口部を含む端部領域である最上流領域側から、前記下流領域における前記出口部を含む端部領域である最下流領域側に向かう方向を酸化剤ガスの流れ方向としたとき、25℃、大気圧条件下での前記カソードガス拡散層の厚み方向の各相互拡散抵抗は、前記酸化剤ガスの流れ方向に沿って、前記最上流領域側から前記最下流領域側に向かって線形的に小さくなるように変化するように構成されていてもよい。
上記構成によると、25℃、大気圧条件下でのカソードガス拡散層の厚み方向の各相互拡散抵抗は、酸化剤ガスの流れ方向に沿って、最上流領域側から最下流領域側に向かって線形的に小さくなるため、カソードガス拡散層の最上流領域およびその近傍において保水性を高めるとともに、最上流領域側から最下流領域側に向かって徐々にガス拡散性および排水性を高めることができる。
したがって、本発明の第4の態様に係る燃料電池の単セルは、低加湿な酸化剤ガスが供給される場合であっても高い発電性能と耐久性を達成することが可能となる。
本発明の第5の態様に係る燃料電池の単セルは、上記した第1の態様において、前記上流領域における前記入口部を含む端部領域である最上流領域側から、前記下流領域における前記出口部を含む端部領域である最下流領域側に向かう方向を酸化剤ガスの流れ方向としたとき、25℃、大気圧条件下での前記カソードガス拡散層の厚み方向の各相互拡散抵抗は、前記酸化剤ガスの流れ方向に沿って、前記最上流領域側から前記最下流領域側に向かって二次関数的に小さくなるように変化するように構成されていてもよい。
本発明の第6の態様に係る燃料電池の単セルは、上記した第1の態様において、前記上流領域における前記入口部を含む端部領域である最上流領域側から、前記下流領域における前記出口部を含む端部領域である最下流領域側に向かう方向を酸化剤ガスの流れ方向としたとき、25℃、大気圧条件下での前記カソードガス拡散層の厚み方向の各相互拡散抵抗は、前記酸化剤ガスの流れ方向に沿って、前記最上流領域側から前記最下流領域側に向かって指数関数的に小さくなるように変化するように構成されていてもよい。
本発明の第7の態様に係る燃料電池の単セルは、上記した第1の態様において、前記上流領域における前記入口部を含む端部領域である最上流領域側から、前記下流領域における前記出口部を含む端部領域である最下流領域側に向かう方向を酸化剤ガスの流れ方向としたとき、25℃、大気圧条件下での前記カソードガス拡散層の厚み方向の各相互拡散抵抗は、前記酸化剤ガスの流れ方向に沿って、前記最上流領域から前記最下流領域に向かってシグモイド関数的に小さくなるように変化するように構成されていてもよい。
本発明の第8の態様に係る燃料電池の単セルは、上記した第1の態様において、前記上流領域における前記入口部を含む端部領域である最上流領域側から、前記下流領域における前記出口部を含む端部領域である最下流領域側に向かう方向を酸化剤ガスの流れ方向としたとき、25℃、大気圧条件下での前記カソードガス拡散層の厚み方向の各相互拡散抵抗は、前記上流領域では一定であり、該上流領域を除く残余の領域であって前記下流領域を含む領域では前記酸化剤ガスの流れ方向において最下流領域側に向かうほど小さくなるように変化するように構成されていてもよい。
上記構成によると、25℃、大気圧条件下でのカソードガス拡散層の厚み方向の各相互拡散抵抗は、上流領域では一定であり、下流領域を含む領域では最下流領域側に向かうほど小さくなるように変化するため、上流領域において保水性を高めるとともに、下流領域を含む領域では最下流領域側に向かって徐々にガス拡散性および排水性を高めることができる。
したがって、本発明の第8の態様に係る燃料電池の単セルは、低加湿な酸化剤ガスが供給される場合であっても高い発電性能と耐久性を達成することが可能となる。
本発明の第9の態様に係る燃料電池の単セルは、上記した第8の態様において、25℃、大気圧条件下での前記カソードガス拡散層の厚み方向の各相互拡散抵抗は、前記上流領域を除く残余の領域であって前記下流領域を含む領域では、前記酸化剤ガスの流れ方向において最下流領域側に向かうほど線形的に小さくなるように変化するように構成されていてもよい。
本発明の第10の態様に係る燃料電池の単セルは、上記した第8の態様において、25℃、大気圧条件下での前記カソードガス拡散層の厚み方向の各相互拡散抵抗は、前記上流領域を除く残余の領域であって前記下流領域を含む領域では、前記酸化剤ガスの流れ方向において最下流領域側に向かうほど二次関数的に小さくなるように変化するように構成されていてもよい。
本発明の第11の態様に係る燃料電池の単セルは、上記した第8の態様において、25℃、大気圧条件下での前記カソードガス拡散層の厚み方向の各相互拡散抵抗は、前記上流領域を除く残余の領域であって前記下流領域を含む領域では、前記酸化剤ガスの流れ方向において最下流領域側に向かうほど指数関数的に小さくなるように変化するように構成されていてもよい。
本発明の第12の態様に係る燃料電池の単セルは、上記した第8の態様において、25℃、大気圧条件下での前記カソードガス拡散層の厚み方向の各相互拡散抵抗は、前記上流領域を除く残余の領域であって前記下流領域を含む領域では、前記酸化剤ガスの流れ方向において最下流領域側に向かうほどシグモイド関数的に小さくなるように変化するように構成されていてもよい。
本発明の第13の態様に係る燃料電池の単セルは、上記した第1から第12の態様のうちいずれか1つの態様において、前記アノードガス拡散層に接しており、前記燃料ガスが流通する流路が形成されたアノードセパレータと、前記カソードガス拡散層に接しており、前記酸化剤ガスが流通する流路が形成されたカソードセパレータと、を備え、前記アノードセパレータの流路を流通する燃料ガスと、前記カソードセパレータを流通する酸化剤ガスとが互いに対向する方向に流通するように構成されていてもよい。
上記構成によると、燃料ガスと、酸化剤ガスとが互いに対向する方向に流通するように構成されている。ここで、発電反応によって生じた生成水により、酸化剤ガスの流れ方向において最上流領域側から最下流領域側に向かうほど酸化剤ガスの湿度は上昇する。
このため、酸化剤ガスの流れ方向における最下流領域と、この最下流領域と対応する位置にある、燃料ガスの流れ方向における最上流領域との間には湿度差が生じ、固体高分子電解質膜を介して湿度の高い方から低い方に水分が移動する。それゆえ、燃料ガスの流れ方向における最上流領域において、燃料ガスの湿度を高くすることができ、その結果、燃料ガスの流れ方向における最下流領域においても燃料ガスの湿度を高めることができる。
このようにして燃料ガスの流れ方向における最下流領域において、燃料ガスの湿度が高まるため、燃料ガスの流れ方向における最下流領域と、この最下流領域と対応する位置にある酸化剤ガスの最上流領域との間で湿度差が生じる。その結果、湿度が高い燃料ガスから固体高分子電解質膜を介して酸化剤ガスの方に水分が移動する。
このように、単セル内部において生成水を循環させることができるため、単セル全体としての保水性の向上による高湿度化を実現することができる。また、単セル全体での生成水の循環を促進させることによって、単セル内におけるアノードおよびカソードの電極面内の水分布を均一化させることができ、その結果、発電性能を向上させることができる。
本発明の第14の態様に係る燃料電池スタックは、固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜の一方の面に接し、燃料ガスを反応させるアノード触媒層、および該固体高分子電解質膜の他方の面に接し、酸化剤ガスを反応させるカソード触媒層と、前記アノード触媒層に接し、供給された前記燃料ガスを該アノード触媒層に拡散させるアノードガス拡散層および、前記カソード触媒層に接し、供給された前記酸化剤ガスを該カソード触媒層に拡散させるカソードガス拡散層と、を備え、前記酸化剤ガスは空気であって、前記燃料ガスは水素であり、前記カソードガス拡散層において、前記酸化剤ガスが供給される入口部を含む上流領域よりも、該酸化剤ガスが排出される出口部を含む下流領域の方が、カソードガス拡散層の厚み方向における酸素と水蒸気の相互拡散係数、酸素と窒素の相互拡散係数、および窒素と水蒸気の相互拡散係数それぞれによって、カソードガス拡散層の厚みを除することで求められる各相互拡散抵抗が小さくなっており、25℃および大気圧となる条件下において、前記上流領域における酸素と水蒸気の相互拡散抵抗、酸素と窒素の相互拡散抵抗、および窒素と水蒸気の各相互拡散抵抗がそれぞれ26、29、26よりも大きく、前記下流領域における酸素と水蒸気の相互拡散抵抗、酸素と窒素の相互拡散抵抗、および窒素と水蒸気の各相互拡散抵抗がそれぞれ167、182、167未満であり、前記上流領域の相互拡散抵抗と前記下流領域の相互拡散抵抗との比である相互拡散抵抗比は4以上であり17以下となる範囲の値となる燃料電池の単セルを複数個積層して構成する。
上記構成によると、燃料電池セルスタックを構成する燃料電池の単セルは、カソードガス拡散層の上流領域の相互拡散抵抗を、下流領域の相互拡散抵抗と比較して相対的に大きくすることで、発電反応により生成される生成水の含有量が小さい上流領域の保水性を高める一方、生成水が過剰になる下流領域のガス拡散性と排水性を高めることができる。
したがって、カソードガス拡散層の上流領域の保水性と下流領域のガス拡散性とを高くすることができるため、低加湿な酸化剤ガスが供給される場合であっても高い発電性能と耐久性を達成することが可能となる。
よって、本発明の第15の態様に係る燃料電池スタックは、高い発電性能と耐久性が得られるという効果を奏する。
[実施形態]
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は対応する構成部材には同一の参照符号を付して、その説明については省略する。
(固体高分子形燃料電池の単セルの構成)
図1を参照して実施形態に係る固体高分子形燃料電池の単セルの構成について説明する。図1は、本発明の実施形態に係る固体高分子形燃料電池の単セルを構成するMEA10の概略構成を示す模式図である。
固体高分子形燃料電池の単セルは、図1に示すようにMEA10を備え、MEA10は、固体高分子電解質膜1と、アノード触媒層2と、カソード触媒層3と、アノードガス拡散層4と、カソードガス拡散層5と、アノードセパレータ6と、カソードセパレータ7とを有している。
MEA10は、図1に示すように固体高分子電解質膜1の一方の面にアノード触媒層2が、他方の面にカソード触媒層3がそれぞれ形成されている。また、アノード触媒層2およびカソード触媒層3それぞれの固体高分子電解質膜1と接している側とは反対側となる面においてアノードガス拡散層4およびカソードガス拡散層5が形成されている。
また、アノードガス拡散層4、アノード触媒層2、固体高分子電解質膜1、カソード触媒層3、およびカソードガス拡散層5を挟持するように、アノードガス拡散層4のアノード触媒層2と接する側とは反対側となる面にアノードセパレータ6が形成され、カソードガス拡散層5のカソード触媒層3と接する側とは反対側となる面にカソードセパレータ7が形成されている。
固体高分子電解質膜1は、アノード触媒層2で触媒反応により生成したプロトンをカソード触媒層3まで伝導させる。固体高分子電解質膜1の材料としては、フッ素樹脂系高分子電解質膜または炭化水素系高分子電解質膜等の水素イオン交換膜を好適に用いることができる。
アノード触媒層2は、供給された燃料ガスに含まれる水素を反応させる触媒を含む。アノード触媒層2において、アノードガス拡散層4を介して供給された水素のイオン化反応によりプロトンと電子とが生成される。アノード触媒層2において生成されたプロトンは、固体高分子電解質膜1内を通ってカソード触媒層3へ移動する。
カソード触媒層3は、供給された酸化剤ガスに含まれる酸素を反応させる触媒を含む。カソード触媒層3において、カソードガス拡散層5を介して供給された酸素と、固体高分子電解質膜1内を通じて移動してきたプロトンとが反応して水が生成される。
アノード触媒層2およびカソード触媒層3は、一般的に担持体であるカーボンに触媒となる白金を担持させたカーボン担持白金触媒の微粉末に、固体高分子電解質膜1と同様の材料からなるアイオノマーを被覆したものを用いることができる。つまり、アノード触媒層2およびカソード触媒層3は、カーボン担持白金触媒の微粉末をアイオノマーと水または溶媒等とを混合、分散させた溶液を、固体高分子電解質膜1に、例えばスプレー、または転写若しくはダイコートすることにより多孔質層を形成することができる。
アノードガス拡散層4は、アノード触媒層2に接しており、供給された燃料ガスをアノード触媒層2に拡散させる。アノードガス拡散層4は、アノードセパレータ6とアノード触媒層2との電気的接続を確保しつつ、水素を含む燃料ガスをアノード触媒層2全面に均一に行き渡らせる。
一方、カソードガス拡散層5は、カソード触媒層3に接しており、供給された酸化剤ガスをカソード触媒層3に拡散させる。カソードガス拡散層5は、カソードセパレータ7とカソード触媒層3との電気的接続を確保しつつ、酸素を含む酸化剤ガスをカソード触媒層3全面に均一に行き渡らせる。
なお、アノードガス拡散層4およびカソードガス拡散層5の構成は特に限定されない。例えば、アノードガス拡散層4およびカソードガス拡散層5は、炭素等の導電性材料とフッ素系樹脂であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE;Polytetrafluoroethylene)等の疎水性材料を混合したものから構成されてもよい。さらには、アノードガス拡散層4およびカソードガス拡散層5それぞれにおいて、アノード触媒層2およびカソード触媒層3に接する面に、微細孔を持つ緻密な炭素を含む層が形成された構成であってもよい。
なお、カソードガス拡散層5は、酸化剤ガスが供給される入口部20(後述の図2参照)を含む上流領域の保水性が高くなり、かつ酸化剤ガスが排出される出口部21(後述の図2参照)を含む下流領域のガス拡散性が高くなるように、上流領域と下流領域とにおいて酸化剤ガスの相互拡散抵抗R(i,j)が異なるように構成されている。ここで、ガスiおよびガスjの組合せは、それぞれ酸素と水、酸素と窒素、および窒素と水となる。カソードガス拡散層5の構成の詳細については後述する。
アノードセパレータ6は燃料を流通させる流路を備えており、この流路に沿って水素を含む反応ガスを、アノードガス拡散層4を介してアノード触媒層2全面に行き渡らせることができる。カソードセパレータ7は酸化剤ガスを流通させる流路を備えており、この流路に沿って酸素を含む反応ガスを、カソードガス拡散層5を介してカソード触媒層3全面に行き渡らせることができる。アノードセパレータ6およびカソードセパレータ7は、例えば、燃料と酸化剤ガスとを分離する役割、反応ガスを各単セルに供給したり、反応使用されなかったガスを各単セルから排出したりするためのガスマニホールドの役割、または電極反応で生じた電気を集電する役割等、様々な役割を担うことができる。アノードセパレータ6およびカソードセパレータ7の材料としては、炭素や金属等の比較的電気伝導性が高い材料が好適に用いられる。
また、アノードセパレータ6およびカソードセパレータ7それぞれに形成される流路はサーペンタイン形状とし、MEA10において燃料ガスと酸化剤ガス(空気)とが主として対向する方向に流通するように構成されている。具体的には、図2に示すように、燃料ガスが供給される入口部30から、該燃料ガスが排出される出口部31に向かう方向と、酸化剤ガスが供給される入口部20から、該酸化剤ガスが排出される出口部21に向かう方向とが反対となるように構成されている。図2は、本発明の実施形態に係る固体高分子形燃料電池の単セルにおける、燃料ガスが供給される入口部30および排出される出口部31と、酸化剤ガスが供給される入口部20および排出される出口部21の位置関係の一例を示す模式図である。
(カソードガス拡散層)
ここで実施形態に係る固体高分子形燃料電池が備えるカソードガス拡散層5の詳細な構成について説明する。
まず、本明細書では、カソードガス拡散層5において、酸化剤ガス(空気)が供給される入口部20を含む端部領域(最上流領域)側から酸化剤ガス(空気)が排出される出口部21を含む端部領域(最下流領域)側に向かう方向を酸化剤ガスの流れ方向と称する。
なお、本実施形態に係る固体高分子形燃料電池では、カソードセパレータ7において酸化剤ガス(空気)が流通する流路はサーペンタイン形状に形成されている。このため、上記で定義した酸化剤ガスの流れ方向に実際の酸化剤ガス(空気)の流れは一致しない場合がある。ただし、カソードセパレータ7において酸化剤ガス(空気)が流通する流路が入口部20から出口部21に向かって直線状となるように形成された場合、この酸化剤ガスの流れ方向に実際の酸化剤ガス(空気)の流れは一致することとなる。
また、厚み方向にカソードガス拡散層5を平面視したときの形状において、酸化剤ガスの流れ方向において、入口部20を含む所定の範囲を上流領域と称し、上流領域における入口部20を含む端部領域を最上流領域Pinと称する。一方、酸化剤ガスの流れ方向において、出口部21を含む所定の範囲を下流領域と称し、下流領域における出口部21を含む端部領域を最下流領域Poutと称する。
実施形態に係るカソードガス拡散層5は、酸化剤ガスが供給される入口部20を含む上流領域の保水性が高くなり、かつ酸化剤ガスが排出される出口部21を含む下流領域のガス拡散性が高くなるように、上流領域と下流領域とにおいて酸化剤ガスの相互拡散抵抗R(i,j)が異なるように構成されている。つまり、カソードガス拡散層5では上流領域よりも下流領域の方が、酸化剤ガスの相互拡散抵抗R(i,j)が小さくなっており、図3に示すように以下(α)、(β)、および(γ)の条件を満たす構成を有する。図3は、本発明の実施形態に係るカソードガス拡散層5における最上流領域Pinの相互拡散抵抗Rin(i,j)と、最下流領域Poutの相互拡散抵抗Rout(i,j)との関係において取り得る値の範囲を示すグラフである。
(α)25℃および大気圧(101.3kPa)となる条件下において、最上流領域Pinにおける厚み方向の酸素‐水蒸気、酸素‐窒素、および窒素‐水蒸気の相互拡散係数Din(i,j)(i,jは酸素、窒素、空気のいずれか)それぞれによって、最上流領域Pinの厚みtinを除することで求められる相互拡散抵抗Rin(i,j)(=tin/Din(i,j))がそれぞれ26、29、26よりも大きくなる。
(β)25℃および大気圧となる条件下において、最下流領域Poutにおける厚み方向の酸素‐水蒸気、酸素‐窒素、および窒素‐水蒸気の相互拡散係数Dout(i,j)それぞれによって、最下流領域Poutの厚みtoutを除することで求められる相互拡散抵抗Rout(i,j)(=tout/Dout(i,j))がそれぞれ167、182、167未満となる。
(γ)相互拡散抵抗Rin(i,j)と相互拡散抵抗Rout(i,j)との比である相互拡散抵抗比Rin(i,j)/Rout(i,j)は、4≦Rin(i,j)/Rout(i,j)≦17の関係を満たす。より好ましくは、相互拡散抵抗比Rin(i,j)/Rout(i,j)は、4.2≦Rin(i,j)/Rout(i,j)≦17の関係を満たす。
カソードガス拡散層5において、上記(α)の条件を満たさない場合、カソードガス拡散層5を介してカソード触媒層3側に入ってくる低加湿な酸化剤ガス(空気)の流量が大きくなり、カソード触媒層3における酸化剤ガスの入口部20に対応する部分の相対湿度(入口相対湿度)が所望される相対湿度よりも低くなってしまう。
また、実施形態に係るカソードガス拡散層5は、上流領域と下流領域とにおいて酸化剤ガスの相互拡散抵抗R(i,j)が異なるように構成されている。このため、カソードガス拡散層5において、上記(β)の条件を満たさない場合は、カソードガス拡散層5全体に渡ってガス拡散性が低下してセル電圧が低下する。
カソードガス拡散層5において、上記(γ)の条件を満たさず、相互拡散抵抗比Rin(i,j)/Rout(i,j)が、4>Rin(i,j)/Rout(i,j)となる場合は、カソード触媒層3における酸化剤ガスの入口部20に対応する部分の保水性が十分ではなく、入口相対湿度が所望される相対湿度よりも低くなってしまう。一方、上記(γ)の条件を満たさず、相互拡散抵抗比Rin(i,j)/Rout(i,j)が、17<Rin(i,j)/Rout(i,j)となる場合は、カソードガス拡散層5における酸化剤ガスの入口部20のガス拡散性が大幅に低下し、この部分での電圧が低下する。
以上のように、実施形態に係る固体高分子形燃料電池では、カソードガス拡散層5が上記(α)、(β)、および(γ)の条件を満たすため、カソードガス拡散層5における、入口部20を含む上流領域の保水性と出口部21を含む下流領域のガス拡散性を高くすることができる。そのため、低加湿な酸化剤ガスが固体高分子形燃料電池に直接供給されても高い発電性能と耐久性を達成することができる。
[実施例]
上記した構成を有する固体高分子形燃料電池の単セルにおいて、カソードガス拡散層5における、酸化剤ガスの相互拡散抵抗R(i,j)の大小と、単セルの発電性能との関係を調べるため、以下の数値シミュレーションを実施した。なお、単セルの発電性能であるセル電圧とは、例えば、電流または単セル内における相対湿度などの発電に関わる指標によって表すことができる。
単セルの発電性能に関する数値シミュレーションでは、市販の数値解析ソフトANSYS Fluent(登標商録)を使用した。数値解析ソフトANSYS Fluent(登標商録)のプラットフォーム化と各種構成則モデルの作り込みとにより、精度よく数値シミュレーションできるように構成した。
(相互拡散係数および相互拡散抵抗の導出)
まず、カソードガス拡散層5における、酸化剤ガスの相互拡散係数および相互拡散抵抗の導出について図4を参照して説明する。図4は、本発明の実施例に係る二成分ガスの相互拡散係数D(i,j)を実験的に導出する方法を示す模式図を示す。図4に示すように相互拡散係数D(i,j)を実験的に導出するにあたり、一方のガス(i)を流通させる流路と、他方のガス(j)を流通させる流路とを形成し、これら流路の間にガス拡散層を設けた装置を準備した。なお、便宜上、一方のガス(i)を流通させる流路は、ガス拡散層の上側に配置され、他方のガス(j)を流通させる流路は、ガス拡散層の下側に配置されているものとして説明する。
そして、二成分ガス(i,j)における相互拡散係数D(i,j)を求めた。つまり、カソードガス拡散層5に酸化剤ガスとして供給される空気は、主として酸素と窒素を含む。また空気がカソードガス拡散層5を介して、カソード触媒層3側に移動する一方、カソード触媒層3側から生成された水(水蒸気)がカソードガス拡散層5を介して移動してくる。したがって、相互拡散係数D(i,j)を求める二成分ガス(i,j)の組合せは、酸素と水、酸素と窒素、および窒素と水となる。
図4に示すように、相互拡散係数D(i,j)を求める二成分ガスのうち、一方のガス(i)を、ガス拡散層の上側の流路を流通させ、他方のガス(j)をガス拡散層の下側の流路を流通させた。そして、ガス拡散層を透過したガスの流量Qと濃度Cとを測定することで、二成分ガス(i,j)の相互拡散係数D(i,j)を実験的に導出できる。
つまり、以下の数式(1)に示す二成分ガス(i,j)の相互拡散係数D(i,j)と透過流速Jiとの関係と、以下数式(2)に示すガスiの対数平均濃度差ΔCを導出する式と、以下数式(3)に示す透過流速Jを導出する式とから二成分ガスの相互拡散係数D(i,j)を求めることができる。
数式(1)は、ガス拡散層における相互拡散係数D(i,j)と、透過流速Jとの関係を示す式である。数式(1)においてJは、ガスiがガス拡散層を透過する流速である透過流速(m/sec)を示し、D(i,j)は、ガスiとガスjとの間の相互拡散係数(m/sec)を示し、ΔCはガスiの対数平均濃度差(%)を示し、tはガス拡散層の厚み(mm)を示す。
数式(2)は、ガスiの対数平均濃度差ΔCを求める式である。数式(2)においてΔCは、ガスiの対数平均濃度差を示し、Cはガスiが供給される上側流路の入口部におけるガスi濃度(%)、Cはガスiが排出される上側流路の出口部におけるガスi濃度(%)、Cはガスjが供給される下側流路の入口部におけるガスi濃度(%)、Cはガスjが排出される下側流路の出口部におけるガスi濃度(%)をそれぞれ示す。
数式(3)は、透過流速Jiを導出する式である。数式(3)においてJは、ガスiの透過流速(m/sec)を示し、Qは、ガスjが排出される下側流路の出口部において、ガス拡散層を透過したガスiが排出される流量(m/sec)を示し、Cは、ガスjが排出される下側流路の出口部において、ガス拡散層を透過したガスiの濃度を示す。さらに、Aは、ガスiが透過するガス拡散層の面積(m)を示す。
次に、上記した数式(1)〜(3)の関係を利用して二成分ガス(i,j)の相互拡散係数D(i,j)を求める相互拡散係数導出シミュレーションの一例について説明する。まず、ガス拡散層の所定の位置を収束イオンビーム(FIB;Focused Ion Beam)で切断し、切断した断面を走査型電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)等を使用して撮影し、切断面に構造体か存在するか、切断面が空隙であるかの判別により二値化を行う。このようにして得た、二値化データを、複数、積層させることにより三次元ボリュームレンダリング像を構築する。この三次元ボリュームレンダリング像から、相互拡散係数導出シミュレーションで用いるモデルを作成し、上記した数式(1)〜(3)の関係を利用して二成分ガスのシミュレーションを実施することにより、相互拡散係数D(i,j)を導出することができる。なお、相互拡散係数D(i,j)の導出方法はこの方法に限定されるものではない。
以上の相互拡散係数導出シミュレーションを実施することにより求めた相互拡散係数D(i,j)と、この相互拡散係数導出シミュレーションにおいて使用したカソードガス拡散層の厚みtとを用いて数式(4)により相互拡散抵抗R(i,j)を求める。
数式(4)は、相互拡散抵抗R(i,j)と、カソードガス拡散層の厚みtおよび相互拡散係数D(i,j)との関係を示す式である。数式(4)において、R(i,j)は相互拡散抵抗(sec/m)を示し、D(i,j)は相互拡散係数(m/sec)を示し、tはカソードガス拡散層の厚み(mm)を示す。また、nは酸化剤ガスの流れ方向における上流領域(in)または、下流領域(оut)を示す。
(数値シミュレーションの計算条件)
次にカソードガス拡散層5における相互拡散抵抗R(i,j)と、発電性能との関係を求める数値シミュレーションを実施する際に設定した計算条件について説明する。
アノード触媒層2およびカソード触媒層3において形成される電極面積を140×140(mm)とし、固体高分子電解質膜1、アノードガス拡散層4、およびカソードガス拡散層5についても同様の面積とした。
また、数値シミュレーションで使用するメッシュセルサイズとして、アノード触媒層2およびカソード触媒層3の最小の構成要素のサイズを0.3(mm)×0.3(mm)×3.0×10−3(mm)とした。アノードガス拡散層4およびカソードガス拡散層5の厚みtは、それぞれ200×10−3[mm]とした。このようなサイズのMEA10において、温度25℃、大気圧(101.3kPa)となる条件下にて数値シミュレーションを実施し得られた、単位空間内の二成分ガスの相互拡散係数D(i,j)を、図5に示す。図5は本発明の実施例において温度25℃、大気圧(101.3kPa)の条件下にて数値シミュレーションを実施し得られた、単位空間内の二成分ガスの相互拡散係数D(i,j)の値を示す表である。
なお、数値シミュレーションでは発電反応に要する単セルへ供給される燃料ガスとしては水素、酸化剤ガスとしては空気を用いた。また、固体高分子形燃料電池の発電時の単セル温度を70℃として、燃料ガスとして供給される水素の露点を70℃、酸化剤ガスとして供給される空気の露点は10℃とした。また、単セルに供給される水素の入口部における圧力を50kPa(gage)、供給される空気の入部口における圧力を50kPa(gage)とした。
また、固体高分子形燃料電池の単セルの発電時における電流密度を0.28A/cmとして、電池反応における理論上の燃料ガス消費量および酸化剤ガス消費量に対する燃料ガス供給量および酸化剤ガス供給量をストイキ比として表現すると、水素ストイキ比を2.5、空気ストイキ比を1.67とした。
数値シミュレーション結果において、固体高分子形燃料電池のセル電圧の値を求めた。また、カソード触媒層3を構成するメッシュセルのうち、空気の入口部に対応する領域でかつ相対湿度が最小となる部分を抽出した。そして、この抽出した部分における相対湿度を、最小となるカソード触媒層3の入口相対湿度(最小カソード触媒層入口相対湿度)とした。
以下において、上記した数値シミュレーションにより求めた実験結果を比較例1、2および実施例1〜3として示す。
(比較例1)
比較例1として、カソードガス拡散層5の厚み方向の相互拡散抵抗R(i,j)を、全体に渡って均一となる場合について上記した数値シミュレーションを実施した。この数値シミュレーションで使用した相互拡散係数D(i,j)は、D(O,HO)、D(O,N)、およびD(HO,N)がそれぞれ7.6×10−6、6.9×10−6、および7.6×10−6(m/s)であった。また、カソードガス拡散層5の厚みを200×10−3(mm)とした。
比較例1の発電中の数値シミュレーションの結果、カソードガス拡散層5の厚み方向の相互拡散抵抗R(i,j)は、R(O,HO)、R(O,N)、およびR(HO,N)がそれぞれ26、29,および26(sec/m)となった。そして、この数値シミュレーション結果では、セル電圧は大きいものの、最小カソード触媒層入口相対湿度は低い結果となった。特に、相互拡散抵抗R(O,HO)、R(O,N)、およびR(HO,N)がそれぞれ26、29、および26を超え、小さくなると最小カソード触媒層入口相対湿度は低くなっていき、プロトン伝導性の低下に伴う発電効率の低下を招くことがわかった。
(比較例2)
比較例2として、比較例1と同じくカソードガス拡散層5の厚み方向の相互拡散抵抗R(i,j)を、全体に渡って均一となる場合について上記した数値シミュレーションを実施した。この数値シミュレーションで使用した相互拡散係数D(i,j)は、D(O,HO)、D(O,N)、およびD(HO,N)がそれぞれ1.2×10−6、1.1×10−6、および1.2×10−6(m/sec)であった。また、カソードガス拡散層5の厚みを200×10−3(mm)とした。
比較例2の発電中の数値シミュレーションの結果、カソードガス拡散層5の厚み方向の相互拡散抵抗R(i,j)は、R(O,HO)、R(O,N)、およびR(HO,N)がそれぞれ167、182,および167(sec/m)となった。そして、この数値シミュレーション結果では、例えば、図6に示すように、セル電圧は小さくなる結果となった。図6は、本発明の比較例2に係るカソードガス拡散層5の厚み方向の相互拡散係数D(O,HO)と電圧との関係の一例を示すグラフである。特に、相互拡散抵抗R(O,HO)、R(O,N)、およびR(HO,N)がそれぞれ167、182,および167以上となると、換言すると相互拡散係数D(O,HO)、D(O,N)、およびD(HO,N)がそれぞれ1.2×10−6、1.1×10−6、および1.2×10−6以下となると、発電反応に要する空気中の酸素の拡散性が低下し、その結果、フラッディング現象が起こる傾向が大きくなりセル電圧の降下が顕著となった。
(実施例1)
実施例1に係る固体高分子形燃料電池は、カソードガス拡散層5の厚み方向の相互拡散抵抗R(i,j)が、カソードガス拡散層5における酸化剤ガスの入口部20を含む上流領域Sinの方が、酸化剤ガスの出口部21を含む下流領域Soutよりも大きくなる構成とした。そして、このような構成を有する固体高分子形燃料電池において上記した数値シミュレーションを実施した。
実施例1では、図7に示すように、厚み方向にカソードガス拡散層5を平面視したときの形状が略正方形であるとすると、酸化剤ガスの流れ方向における上流側であって、略正方形の1/2の面積となる矩形領域(上流領域Sin)の相互拡散抵抗Rin(i,j)を、その矩形領域を除く、下流側の残余の矩形領域(下流領域Sout)の相互拡散抵抗Rout(i,j)よりも大きくなる構成とした。図7は、本発明の実施例1に係る固体高分子形燃料電池が備えるカソードガス拡散層5において、カソードガス拡散層5の厚み方向の相互拡散抵抗R(i,j)の大きさの相違を模式的に示す図である。図7において、塗りつぶしの色が濃い範囲の方が薄い範囲よりも相互拡散抵抗R(i,j)が大きくなることを表す。また、一点鎖線によりカソードガス拡散層5における酸化剤ガスの流れを示す。
そして、この構成において、上記した数値シミュレーションを実施し、厚み方向において、カソードガス拡散層5の上流領域Sinに対応するカソード触媒層3の領域の中で、最小となる相対湿度の値を導出した。
まず、実施例1では、上記した比較例1または比較例2の結果に基づき、相互拡散抵抗Rin(O,HO)>26かつRout(O,HO)<167、Rin(O,N)>29かつRout(O,N)<182、およびRin(N,HO)>26かつRout(N,HO)<167の条件を満たす範囲で、相互拡散係数D(i,j)およびカソードガス拡散層5の厚みを設定するものとする。そして、相互拡散抵抗比Rin(i,j)/Rout(i,j)=1となる関係から出発して、相互拡散抵抗比Rin(i,j)/Rout(i,j)の関係を変化させた。具体的には、カソードガス拡散層5における、出口部21を含む下流領域Soutの相互拡散抵抗Rout(i,j)を固定させて、入口部20を含む上流領域Sinの相互拡散抵抗Rin(i,j)が大きくなるように変化させていき、最小カソード触媒層入口相対湿度とセル電圧との関係を調べた。その結果、図8に示す関係を得た。図8は、本発明の実施例1に係る固体高分子形燃料電池における相互拡散抵抗比Rin(i,j)/Rout(i,j)に対する最小カソード触媒層入口相対湿度とセル電圧との関係を示すグラフである。図8において、横軸に相互拡散抵抗比Rin(i,j)/Rout(i,j)を示す。また、左の縦軸にセル電圧を、右の縦軸に最小カソード触媒層入口相対湿度をそれぞれ示している。また、黒丸と破線とによって最小カソード触媒層入口相対湿度を、白丸と実線とによって電圧の変化を示す。
図8に示すように、相互拡散抵抗比Rin(i,j)/Rout(i,j)が大きくなるにつれ、最小カソード触媒層入口相対湿度が大きくなることが分かった。このことから、カソードガス拡散層5における上流領域Sinの相互拡散抵抗Rin(i,j)が大きくなって相互拡散抵抗比Rin(i,j)/Rout(i,j)が大きくなればなるほど、カソードガス拡散層5の上流領域Sinにおけるガス拡散性が小さくなる。このため、カソードガス拡散層5の上流領域Sinにおいて低加湿な空気が供給されることによって生じる固体高分子電解質膜1、アノード触媒層2、およびカソード触媒層3の乾燥を抑制し、発電反応によって生成された水の保水性を向上させることができることが分かった。
それ故、上記した保水性の向上により、固体高分子電解質膜1、アノード触媒層2、およびカソード触媒層3のプロトン伝導性は、高加湿な空気が供給される構成でのプロトン伝導性と比較しても同等の保水性を維持することが可能となった。また、カソードガス拡散層5の上流領域Sinの相互拡散抵抗Rin(i,j)が大きくなり、固体高分子電解質膜1の保水性が向上することで、酸素のアノード側へのクロスリーク量を低減させることが可能となる。上述したように、クロスリークはアノード触媒層2で過酸化水素(H)を生成し、更にヒドロキシラジカル(OH・)およびハイドロペロキシルラジカル(HOO・)の生成を促進する為、固体高分子電解質膜1が化学的劣化をする。すなわち、固体高分子電解質膜1を乾燥させないことによって耐久性を向上させることができる。
実施例1において実施した数値シミュレーションの結果、図8に示すように、特に相互拡散抵抗比Rin(i,j)/Rout(i,j)が4以上であり17以下となる範囲において、好ましくは、4.2以上であり17以下となる範囲において、最小カソード触媒層入口相対湿度を効果的な値とすることができることが分かった。
一方、固体高分子形燃料電池の発電性能を示すセル電圧は、図8に示すように、相互拡散抵抗比Rin(i,j)/Rout(i,j)が大きくなるにつれ緩やかではあるが徐々に低下する傾向にある。これはカソードガス拡散層5の上流領域Sinの相互拡散抵抗Rin(i,j)が、下流領域Soutの相互拡散抵抗Rout(i,j)に対して相対的に大きくなるにつれ、カソードガス拡散層5の上流領域Sinにおける酸素の拡散抵抗が大きくなる。そこで、この酸素の拡散抵抗の増大に起因してセル電圧が低下するためであると考えられる。しかしながら、図8に示すように、相互拡散抵抗比Rin(i,j)/Rout(i,j)が4以上であり17以下となる範囲において、発電中のセル電圧の低下は小さくなっている。
以上の結果から、カソードガス拡散層5の厚み方向の相互拡散抵抗R(i,j)を、上流領域Sinの方が、下流領域Soutよりも大きくなるように構成した場合、相互拡散抵抗比Rin(i,j)/Rout(i,j)が4以上であり17以下となる範囲において、好ましくは、4.2以上であり17以下となる範囲において、高い発電性能を得るとともに、固体高分子電解質膜1、アノード触媒層2、およびカソード触媒層3の化学的劣化を抑制し、高い耐久性を達成することが分かった。
なお、実施例1に係る固体高分子形燃料電池は、カソードガス拡散層5の厚み方向の相互拡散抵抗R(i,j)が相対的に大きくなるカソードガス拡散層5の上流領域Sinと、相対的に小さくなるカソードガス拡散層5の下流領域Soutとが同じ面積となる構成であった。しかしながら、必ずしもカソードガス拡散層5の上流領域Sinと下流領域Soutとが同じ面積になる構成に限定されない。例えば、図9に示すように、カソードガス拡散層5における厚み方向の相互拡散抵抗R(i,j)が、カソードガス拡散層5の上流領域Sinと下流領域Soutとで異なっており、上流領域Sinの面積が下流領域Soutの面積よりも小さくなる構成であってもよい。図9は、本発明の実施例1の変形例に係る固体高分子形燃料電池が備えるカソードガス拡散層5において、カソードガス拡散層5の厚み方向の相互拡散抵抗R(i,j)の大きさの相違を模式的に示す図である。図9において、塗りつぶしの色が濃い範囲の方が薄い範囲よりも相互拡散抵抗R(i,j)が大きくなることを表す。また、一点鎖線によりカソードガス拡散層5における酸化剤ガスの流れを示す。
図9のように上流領域Sinの面積が下流領域Soutの面積よりも小さくなる構成であっても、厚み方向において酸化剤ガス(空気)が供給される入口部20に対応する、固体高分子電解質膜1、アノード触媒層2、およびカソード触媒層3それぞれにおける部分での保水性を向上させることができる。つまり、相互拡散抵抗比Rin(i,j)/Rout(i,j)が4以上であり17以下となる範囲において、高い発電性能を得るとともに、固体高分子電解質膜1、アノード触媒層2、およびカソード触媒層3の化学的劣化を抑制し、高い耐久性を達成することができる。
なお、固体高分子形燃料電池は、上記したように上流領域Sinと下流領域Soutとの2つの領域において相互拡散抵抗R(i,j)が異なる構成に限定されるものではない。例えば、固体高分子形燃料電池は、相互拡散抵抗R(i,j)を、カソードガス拡散層5の上流領域では一定とし、上流領域を除く残余の領域であって下流領域を含む領域では、酸化剤ガスの流れ方向において下流になるほど小さくなるように変化する構成であってもよい。例えば、この上流領域を除く残余の領域であって下流領域を含む領域では、相互拡散抵抗R(i,j)は、酸化剤ガスの流れ方向において下流になるほど二次関数的に小さくなるように変化する構成であってもよい。また、この上流領域を除く残余の領域であって下流領域を含む領域では、相互拡散抵抗R(i,j)は、酸化剤ガスの流れ方向において下流になるほど指数関数的に小さくなるように変化する構成であってもよい。また、この上流領域を除く残余の領域であって下流領域を含む領域では、相互拡散抵抗R(i,j)は、酸化剤ガスの流れ方向において下流になるほどシグモイド関数的に小さくなるように変化する構成であってもよい。また、この上流領域を除く残余の領域であって下流領域を含む領域では、相互拡散抵抗R(i,j)は、酸化剤ガスの流れ方向において下流になるほど少なくとも2つの変曲点を有する関数的に小さくなるように変化する構成であってもよい。
上記したように下流領域を含む領域の相互拡散抵抗R(i,j)を酸化剤ガスの流れ方向において下流になるほど小さくなるように変化させる構成としても実施例1の固体高分子形燃料電池と同様な効果が得られる。
さらには、以下の実施例2、3に示すようにカソードガス拡散層5の、酸化剤ガスの入口部20を含む端部領域(最上流領域Pin)から、酸化剤ガスの出口部21を含む端部領域(最下流領域Pout)に向かって相互拡散抵抗R(i,j)が減少する構成としてもよい。
(実施例2)
実施例2に係る固体高分子形燃料電池は、カソードガス拡散層5の厚み方向の相互拡散抵抗R(i,j)が、カソードガス拡散層5における酸化剤ガスの入口部20を含む最上流領域Pin側から、酸化剤ガスの出口部21を含む最下流領域Pout側へ向かって、酸化剤ガス流れ方向に沿って、一次関数的(線形)に減少する構成とした。そして、このような構成を有する固体高分子形燃料電池において上記した数値シミュレーションを実施した。
より具体的には、実施例2では、図10に示すように、厚み方向にカソードガス拡散層5を平面視したときの形状が略正方形であるとすると、その略正方形となるカソードガス拡散層5の、酸化剤ガスの入口部20を含む端部領域(最上流領域Pin)から、酸化剤ガスの出口部21を含む端部領域(最下流領域Pout)に向かって一次関数的(線形)に相互拡散抵抗R(i,j)が減少する。換言すると、カソードガス拡散層5において、酸化剤ガス流れ方向において最上流領域Pin側から最下流領域Pout側に向かって一次関数的(線形)に相互拡散抵抗R(i,j)が減少する。図10は、本発明の実施例2に係る固体高分子形燃料電池が備えるカソードガス拡散層5において、カソードガス拡散層5の厚み方向の相互拡散抵抗R(i,j)の大きさの相違を模式的に示す図である。図10において、塗りつぶしの色が濃い範囲の方が薄い範囲よりも相互拡散抵抗R(i,j)が大きくなることを表す。また、一点鎖線によりカソードガス拡散層5における酸化剤ガスの流れを示す。
そして、この構成において、上記した数値シミュレーションを実施し、カソードガス拡散層5の最上流領域Pinにおいてカソード触媒層3の相対湿度が最小となる値を導出した。
まず、実施例2では、上記した比較例1または比較例2の結果に基づき、相互拡散抵抗Rin(O,HO)>26かつRout(O,HO)<167、Rin(O,N)>29かつRout(O,N)<182、およびRin(N,HO)>26かつRout(N,HO)<167の条件を満たす範囲で、相互拡散係数D(i,j)およびカソードガス拡散層5の厚みを設定するものとする。そして、相互拡散抵抗比Rin(i,j)/Rout(i,j)=1となる関係から出発して、相互拡散抵抗比Rin(i,j)/Rout(i,j)の関係を変化させた。具体的には、カソードガス拡散層5における最下流領域Poutの相互拡散抵抗Rout(i,j)を固定させて、最上流領域Pinに向かって一次関数的に相互拡散抵抗R(i,j)が大きくなるようにした。そして、この大きさの傾きを変化させて、最小カソード触媒層入口相対湿度とセル電圧との関係を調べた。その結果、図11に示す関係を得た。図11は、本発明の実施例2に係る固体高分子形燃料電池における相互拡散抵抗比Rin(i,j)/Rout(i,j)に対する最小カソード触媒層入口相対湿度とセル電圧との関係を示すグラフである。図11において、横軸に相互拡散抵抗比Rin(i,j)/Rout(i,j)を示す。また、左の縦軸にセル電圧を、右の縦軸に最小カソード触媒層入口相対湿度をそれぞれ示している。また、黒丸と破線とによって最小カソード触媒層入口相対湿度を、白丸と実線とによって電圧の変化を示す。
図11に示すように、相互拡散抵抗比Rin(i,j)/Rout(i,j)が大きくなるにつれ、最小カソード触媒層入口相対湿度が大きくなることが分かった。つまり、カソードガス拡散層5における最上流領域Pinの相互拡散抵抗Rin(i,j)が大きくなって相互拡散抵抗比Rin(i,j)/Rout(i,j)が大きくなればなるほど、カソードガス拡散層5の最上流領域Pinにおけるガス拡散性が小さくなる。このため、カソードガス拡散層5の最上流領域Pinにおいて低加湿な空気が供給されることによって生じる固体高分子電解質膜1、アノード触媒層2、およびカソード触媒層3の乾燥を抑制し、発電反応によって生成された水の保水性を向上させることができることが分かった。
それゆえ、実施例1と同様の理由により、相互拡散抵抗比Rin(i,j)/Rout(i,j)が4以上であり17以下となる範囲において、好ましくは、4.2以上であり17以下となる範囲において、固体高分子電解質膜1の化学的劣化を抑制することが可能となり、耐久性を向上させることができることが分かった。
一方、固体高分子形燃料電池の発電性能を示すセル電圧は、図11に示すように、相互拡散抵抗比Rin(i,j)/Rout(i,j)が大きくなるにつれ緩やかではあるが徐々に低下する傾向にある。これはカソードガス拡散層5の最上流領域Pinの相互拡散抵抗Rin(i,j)が、最下流領域Poutの相互拡散抵抗Rout(i,j)に対して相対的に大きくなるにつれ、カソードガス拡散層5の最上流領域Pinおよびその周囲における酸素の拡散抵抗が大きくなるからである。そして、この酸素の拡散抵抗の増大に起因してセル電圧が低下すると考えられる。しかしながら、図11に示すように、相互拡散抵抗比Rin(i,j)/Rout(i,j)が4以上であり17以下となる範囲において、好ましくは、4.2以上であり17以下となる範囲において、発電中のセル電圧の低下は小さくなっている。
以上の結果から、カソードガス拡散層5の厚み方向の相互拡散抵抗R(i,j)を最上流領域Pinの方が、最下流領域Poutよりも大きくなるようにする。さらに、酸化剤ガス流れ方向において最上流領域Pinから最下流領域Poutに向かって、一次関数的(線形)に相互拡散抵抗R(i,j)を減少させる構成とする。このように構成した場合、相互拡散抵抗比Rin(i,j)/Rout(i,j)が4以上であり17以下となる範囲において、好ましくは、4.2以上であり17以下となる範囲において、高い発電性能を得るとともに、固体高分子電解質膜1、アノード触媒層2、およびカソード触媒層3の化学的劣化を抑制し、高い耐久性を達成することが分かった。
また、実施例2に係る固体高分子形燃料電池は、実施例1に係る固体高分子形燃料電池と比較して、相互拡散抵抗比Rin(i,j)/Rout(i,j)が4以上であり17以下となる範囲において、好ましくは、4.2以上であり17以下となる範囲において、セル電圧の低下がより緩やかになり高い発電性能を維持できることが分かった。
(実施例3)
実施例3に係る固体高分子形燃料電池は、カソードガス拡散層5の厚み方向の相互拡散抵抗R(i,j)が、カソードガス拡散層5における酸化剤ガスの入口部20を含む最上流領域Pin側から、酸化剤ガスの出口部21を含む最下流領域Pout側へ向かって、酸化剤ガス流れ方向に沿って、二次関数的に減少する構成とした。そして、このような構成を有する固体高分子形燃料電池において上記した数値シミュレーションを実施した。
より具体的には、実施例3では、図12に示すように、厚み方向にカソードガス拡散層5を平面視したときの形状が略正方形であるとすると、その略正方形となるカソードガス拡散層5の、酸化剤ガスの入口部20を含む端部領域(最上流領域Pin)から、酸化剤ガスの出口部21を含む端部領域(最下流領域Pout)に向かって二次関数的に相互拡散抵抗R(i,j)が減少する。換言すると、カソードガス拡散層5において、酸化剤ガス流れ方向において最上流領域Pinから最下流領域Poutに向かって二次関数的に相互拡散抵抗R(i,j)が減少する。図12は、本発明の実施例3に係る固体高分子形燃料電池が備えるカソードガス拡散層5において、カソードガス拡散層5の厚み方向の相互拡散抵抗R(i,j)の大きさの相違を模式的に示す図である。図12において、塗りつぶしの色が濃い範囲の方が薄い範囲よりも相互拡散抵抗R(i,j)が大きくなることを表す。また、一点鎖線によりカソードガス拡散層5における酸化剤ガスの流れを示す。
そして、この構成において、上記した数値シミュレーションを実施し、カソードガス拡散層5の最上流領域Pinにおいてカソード触媒層3の相対湿度が最小となる値を導出した。
まず、実施例3では、上記した比較例1または比較例2の結果に基づき、相互拡散抵抗Rin(O,HO)>26かつRout(O,HO)<167、Rin(O,N)>29かつRout(O,N)<182、およびRin(N,HO)>26かつRout(N,HO)<167の条件を満たす範囲で、相互拡散係数D(i,j)およびカソードガス拡散層5の厚みを設定するものとする。そして、相互拡散抵抗比Rin(i,j)/Rout(i,j)=1となる関係から出発して、相互拡散抵抗比Rin(i,j)/Rout(i,j)の関係を変化させた。具体的には、カソードガス拡散層5における最下流領域Poutの相互拡散抵抗Rout(i,j)を固定させて、最上流領域Pinに向かって二次関数的に相互拡散抵抗R(i,j)が大きくなるようにした。そして、最下流領域Poutを始点とし、最上流領域Pinを終点とする二次関数の変化の割合を変えて、最小カソード触媒層入口相対湿度とセル電圧との関係を調べた。その結果、図13に示す関係を得た。図13は、実施例3に係る固体高分子形燃料電池における相互拡散抵抗比Rin(i,j)/Rout(i,j)に対する最小カソード触媒層入口相対湿度とセル電圧との関係を示すグラフである。図13において、横軸に相互拡散抵抗比Rin(i,j)/Rout(i,j)を示す。また、左の縦軸にセル電圧を、右の縦軸に最小カソード触媒層入口相対湿度をそれぞれ示している。また、黒丸と破線とによって最小カソード触媒層入口相対湿度を、白丸と実線とによって電圧の変化を示す。
図13に示すように、相互拡散抵抗比Rin(i,j)/Rout(i,j)が大きくなるにつれ、最小カソード触媒層入口相対湿度が大きくなることが分かった。つまり、カソードガス拡散層5における最上流領域Pinの相互拡散抵抗Rin(i,j)が大きくなって相互拡散抵抗比Rin(i,j)/Rout(i,j)が大きくなればなるほど、カソードガス拡散層5の最上流領域Pinにおけるガス拡散性が小さくなる。このため、カソードガス拡散層5の最上流領域Pinにおいて低加湿な空気が供給されることによって生じる固体高分子電解質膜1、アノード触媒層2、およびカソード触媒層3の乾燥を抑制し、発電反応によって生成された水の保水性を向上させることができることが分かった。
それゆえ、実施例1および実施例2と同様の理由により、特に相互拡散抵抗比Rin(i,j)/Rout(i,j)が4以上であり17以下となる範囲において、好ましくは、4.2以上であり17以下となる範囲において、固体高分子電解質膜1の化学的劣化を抑制することが可能となり、耐久性を向上させることができることが分かった。
一方、固体高分子形燃料電池の発電性能を示すセル電圧は、図13に示すように、相互拡散抵抗比Rin(i,j)/Rout(i,j)が大きくなるにつれ緩やかではあるが徐々に低下する傾向にある。これはカソードガス拡散層5の最上流領域Pinの相互拡散抵抗Rin(i,j)が、最下流領域Poutの相互拡散抵抗Rout(i,j)に対して相対的に大きくなるにつれ、カソードガス拡散層5の最上流領域Pinおよびその周囲における酸素の拡散抵抗が大きくなる。そこで、この酸素の拡散抵抗の増大に起因してセル電圧が低下するためであると考えられる。しかしながら、図13に示すように、相互拡散抵抗比Rin(i,j)/Rout(i,j)が4以上であり17以下となる範囲において、好ましくは、4.2以上であり17以下となる範囲において、発電中のセル電圧の低下は小さくなっている。
以上の結果から、カソードガス拡散層5の厚み方向の相互拡散抵抗R(i,j)を最上流領域Pinの方が、最下流領域Poutよりも大きくなるようにする。さらに、酸化剤ガス流れ方向において最上流領域Pinから最下流領域Poutに向かって、二次関数的に相互拡散抵抗R(i,j)を減少させる構成とする。このように構成した場合、相互拡散抵抗比Rin(i,j)/Rout(i,j)が4以上であり17以下となる範囲において、好ましくは、4.2以上であり17以下となる範囲において、高い発電性能を得るとともに、固体高分子電解質膜1、アノード触媒層2、およびカソード触媒層3の化学的劣化を抑制し、高い耐久性を達成することが分かった。
また、実施例3に係る固体高分子形燃料電池は、実施例1に係る固体高分子形燃料電池と比較して、相互拡散抵抗比Rin(i,j)/Rout(i,j)が4以上であり17以下となる範囲において、セル電圧の低下がより緩やかになり高い発電性能を維持できることが分かった。一方、実施例3に係る固体高分子形燃料電池は、実施例2に係る固体高分子形燃料電池と比較して、最小カソード触媒層入口相対湿度の上昇率はやや低く、またセル電圧の低下がやや大きくはなるが全体的には同様な結果が得られた。
実施例3に係る固体高分子形燃料電池のように、酸化剤ガス流れ方向において最上流領域Pinから最下流領域Poutに向かって、二次関数的に相互拡散抵抗R(i,j)を減少させる構成とした場合、カソードガス拡散層5の酸化剤ガス流れ方向における上流側の相互拡散抵抗R(i,j)は徐々に変化する。このため、カソードガス拡散層5の酸化剤ガス流れ方向における上流側の一定領域の相互拡散抵抗R(i,j)を高く維持したい場合に有効である。
なお、実施例3に係る固体高分子形燃料電池は、カソードガス拡散層5において、酸化剤ガス流れ方向に沿って、最上流領域Pinから最下流領域Poutに向かって、二次関数的に相互拡散抵抗R(i,j)を減少させる構成としたが、対数関数的に相互拡散抵抗R(i,j)を減少させる構成としてもよい。このように構成した場合であっても、相互拡散抵抗比Rin(i,j)/Rout(i,j)が4以上であり17以下となる範囲において、好ましくは、4.2以上であり17以下となる範囲において、高い発電性能を得るとともに、固体高分子電解質膜1、アノード触媒層2、およびカソード触媒層3の化学的劣化を抑制し、高い耐久性を達成することができる。
また、固体高分子形燃料電池は、カソードガス拡散層5において、酸化剤ガス流れ方向に沿って最上流領域Pinから最下流領域Poutに向かって、シグモイド関数的に、または少なくとも2つの変曲点を有する関数的に相互拡散抵抗R(i,j)を減少させる構成としても実施例3に係る固体高分子形燃料電池と同様な効果が得られる。
なお、カソードガス拡散層5の厚み方向における上記した相互拡散抵抗R(i,j)の変化は、上流領域Sinおよび下流領域Soutでカソードガス拡散層5の厚みを変える、または最上流領域Pinから最下流領域Poutに向かってカソードガス拡散層5の厚みを変えることで実現できる。もしくは、カソードガス拡散層5において、上流領域Sinおよび下流領域Soutで相互拡散係数を異ならせる、または最上流領域Pinから最下流領域Poutに向かって相互拡散係数を変化させることで実現できる。また、相互拡散係数の変化は、カソードガス拡散層5を構成する素材の密度を異ならせることで実現できる。さらには、カソードガス拡散層5を例えば、グラファイトから構成する場合、該グラファイトに形成する孔の割合(気孔率)を異ならせてもよい。
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。
本発明の燃料電池は、電解質膜、アノード触媒層、およびカソード触媒層において水管理が重要となる固体高分子形燃料電池に好適に利用される。
1 固体高分子電解質膜
2 アノード触媒層
3 カソード触媒層
4 アノードガス拡散層
5 カソードガス拡散層
6 アノードセパレータ
7 カソードセパレータ
10 MEA
20 入口部
21 出口部
30 入口部
31 出口部
D 相互拡散係数
in 最上流領域
out 最下流領域
R 相互拡散抵抗
in 上流領域
out 下流領域
t 厚み

Claims (14)

  1. 固体高分子電解質膜と、
    前記固体高分子電解質膜の一方の面に接し、燃料ガスを反応させるアノード触媒層、および該固体高分子電解質膜の他方の面に接し、酸化剤ガスを反応させるカソード触媒層と、
    前記アノード触媒層に接し、供給された前記燃料ガスを該アノード触媒層に拡散させるアノードガス拡散層および、前記カソード触媒層に接し、供給された前記酸化剤ガスを該カソード触媒層に拡散させるカソードガス拡散層と、を備え、
    前記酸化剤ガスは空気であって、前記燃料ガスは水素であり、
    前記カソードガス拡散層において、前記酸化剤ガスが供給される入口部を含む上流領域よりも、該酸化剤ガスが排出される出口部を含む下流領域の方が、カソードガス拡散層の厚み方向における酸素と水蒸気の相互拡散係数、酸素と窒素の相互拡散係数、および窒素と水蒸気の相互拡散係数それぞれによって、カソードガス拡散層の厚みを除することで求められる各相互拡散抵抗が小さくなっており、
    25℃および大気圧となる条件下において、前記上流領域における酸素と水蒸気の相互拡散抵抗、酸素と窒素の相互拡散抵抗、および窒素と水蒸気の各相互拡散抵抗がそれぞれ26、29、26よりも大きく、前記下流領域における酸素と水蒸気の相互拡散抵抗、酸素と窒素の相互拡散抵抗、および窒素と水蒸気の各相互拡散抵抗がそれぞれ167、182、167未満であり、
    前記上流領域の相互拡散抵抗と前記下流領域の相互拡散抵抗との比である相互拡散抵抗比は4以上であり17以下となる範囲の値となる、燃料電池の単セル。
  2. 前記カソードガス拡散層は、前記上流領域と前記下流領域とから構成されている請求項1に記載の燃料電池の単セル。
  3. 前記カソードガス拡散層は、前記上流領域の面積の方が前記下流領域の面積よりも小さくなる請求項2に記載の燃料電池の単セル。
  4. 前記上流領域における前記入口部を含む端部領域である最上流領域側から、前記下流領域における前記出口部を含む端部領域である最下流領域側に向かう方向を酸化剤ガスの流れ方向としたとき、
    25℃、大気圧条件下での前記カソードガス拡散層の厚み方向の各相互拡散抵抗は、前記酸化剤ガスの流れ方向に沿って、前記最上流領域側から前記最下流領域側に向かって線形的に小さくなるように変化する請求項1に記載の燃料電池の単セル。
  5. 前記上流領域における前記入口部を含む端部領域である最上流領域側から、前記下流領域における前記出口部を含む端部領域である最下流領域側に向かう方向を酸化剤ガスの流れ方向としたとき、
    25℃、大気圧条件下での前記カソードガス拡散層の厚み方向の各相互拡散抵抗は、前記酸化剤ガスの流れ方向に沿って、前記最上流領域側から前記最下流領域側に向かって二次関数的に小さくなるように変化する請求項1に記載の燃料電池の単セル。
  6. 前記上流領域における前記入口部を含む端部領域である最上流領域側から、前記下流領域における前記出口部を含む端部領域である最下流領域側に向かう方向を酸化剤ガスの流れ方向としたとき、
    25℃、大気圧条件下での前記カソードガス拡散層の厚み方向の各相互拡散抵抗は、前記酸化剤ガスの流れ方向に沿って、前記最上流領域側から前記最下流領域側に向かって指数関数的に小さくなるように変化する請求項1に記載の燃料電池の単セル。
  7. 前記上流領域における前記入口部を含む端部領域である最上流領域側から、前記下流領域における前記出口部を含む端部領域である最下流領域側に向かう方向を酸化剤ガスの流れ方向としたとき、
    25℃、大気圧条件下での前記カソードガス拡散層の厚み方向の各相互拡散抵抗は、前記酸化剤ガスの流れ方向に沿って、前記最上流領域から前記最下流領域に向かってシグモイド関数的に小さくなるように変化する請求項1に記載の燃料電池の単セル。
  8. 前記上流領域における前記入口部を含む端部領域である最上流領域側から、前記下流領域における前記出口部を含む端部領域である最下流領域側に向かう方向を酸化剤ガスの流れ方向としたとき、
    25℃、大気圧条件下での前記カソードガス拡散層の厚み方向の各相互拡散抵抗は、前記上流領域では一定であり、該上流領域を除く残余の領域であって前記下流領域を含む領域では前記酸化剤ガスの流れ方向において最下流領域側に向かうほど小さくなるように変化する請求項1に記載の燃料電池の単セル。
  9. 25℃、大気圧条件下での前記カソードガス拡散層の厚み方向の各相互拡散抵抗は、前記上流領域を除く残余の領域であって前記下流領域を含む領域では、前記酸化剤ガスの流れ方向において最下流領域側に向かうほど線形的に小さくなるように変化する請求項8に記載の燃料電池の単セル。
  10. 25℃、大気圧条件下での前記カソードガス拡散層の厚み方向の各相互拡散抵抗は、前記上流領域を除く残余の領域であって前記下流領域を含む領域では、前記酸化剤ガスの流れ方向において最下流領域側に向かうほど二次関数的に小さくなるように変化する請求項8に記載の燃料電池の単セル。
  11. 25℃、大気圧条件下での前記カソードガス拡散層の厚み方向の各相互拡散抵抗は、前記上流領域を除く残余の領域であって前記下流領域を含む領域では、前記酸化剤ガスの流れ方向において最下流領域側に向かうほど指数関数的に小さくなるように変化する請求項8に記載の燃料電池の単セル。
  12. 25℃、大気圧条件下での前記カソードガス拡散層の厚み方向の各相互拡散抵抗は、前記上流領域を除く残余の領域であって前記下流領域を含む領域では、前記酸化剤ガスの流れ方向において最下流領域側に向かうほどシグモイド関数的に小さくなるように変化する請求項8に記載の燃料電池の単セル。
  13. 前記アノードガス拡散層に接しており、前記燃料ガスが流通する流路が形成されたアノードセパレータと、
    前記カソードガス拡散層に接しており、前記酸化剤ガスが流通する流路が形成されたカソードセパレータと、を備え、
    前記アノードセパレータの流路を流通する燃料ガスと、前記カソードセパレータを流通する酸化剤ガスとが互いに対向する方向に流通する請求項1から12のいずれか1項に記載の燃料電池の単セル。
  14. 請求項1から13のいずれか1項に記載の燃料電池の単セルを複数個積層して構成することを特徴とする燃料電池スタック。
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JP2022065838A (ja) * 2020-10-16 2022-04-28 トヨタ自動車株式会社 燃料電池

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