本開示に係る自動販売機は、商品を収納する収納室と、当該収納室よりも下部に位置し、断熱壁により当該収納室から区画される機械室とを有し、当該機械室内には、前記収納室内を冷却する冷却装置が設けられ、当該冷却装置は、外部から吸入される空気に接触することにより、内部に流通する冷媒を冷却または加熱する熱交換器を備え、当該熱交換器は、前記空気の吸入方向に沿って配置される複数のフィンを備え、当該フィンにおいて、少なくとも前記空気の吸入方向の上流側となる端面に防汚被覆膜が形成されている構成である。
前記構成によれば、熱交換器に対して少なくとも空気導入面となるフィンの端面に防汚被覆膜が形成されている。そのため、熱交換器の空気導入面に乾性の汚れが付着することを有効に抑制または防止することが可能となる。また、防汚被覆膜は、汚れを付着し難くするものであるため、空気導入面に多少の汚れが付着しても容易に除去することができる。しかも、空気導入面に防汚被覆膜を形成するだけで良いので、熱交換器の製造に際して追加的な製造プロセスが必要になったり自動販売機そのものの設計を変更したりする必要が回避される。その結果、簡素な構成で製造コストの増大を抑制しつつ、熱交換器の効率の低下を有効に抑制することができ、冷却装置による良好な冷却を実現することができる。
前記構成の自動販売機においては、前記防汚被覆膜は、前記フィンにおける前記端面に加えて、当該端面に隣接する側面の一部に形成されている構成であってもよい。
前記構成によれば、空気導入面となるフィンの端面に加えて、この端面に隣接する側面の一部にも防汚被覆膜が形成されている。それゆえ、空気導入面とともに、当該空気導入面に隣接する側面においても塵埃の付着を抑制することができる。これにより、空気導入面に乾性の汚れが付着することを、より一層有効に抑制または防止することができる。
前記構成の自動販売機においては、前記防汚被覆膜は、少なくともナノ粒子により構成され、算術平均粗さRaが2.5〜100nmの範囲内の凹凸を有するものである構成であってもよい。
前記構成によれば、防汚被覆膜として、ナノ粒子により構成された微細な表面凹凸を有する構成のものが形成されている。これにより、少なくとも熱交換器の空気導入面に乾性の汚れが付着することを有効に抑制または防止することが可能となる。
前記構成の自動販売機においては、前記防汚被覆膜における前記ナノ粒子の平均粒径は5〜100nmの範囲内にある構成であってもよい。
前記構成によれば、ナノ粒子の平均粒径が前記の範囲内であれば、微細な表面凹凸をより良好に実現することができる。
また、前記構成の自動販売機においては、前記ナノ粒子が、金属ナノ粒子、無機酸化物ナノ粒子、無機窒化物ナノ粒子、無機カルコゲン化物ナノ粒子、(メタ)アクリル系樹脂ナノ粒子、フッ素樹脂ナノ粒子からなる群より選択される少なくとも1種である構成であってもよい。
前記構成によれば、ナノ粒子が前記群の少なくともいずれかの材質からなる粒子であれば、自動販売機の熱交換器に対して良好な防汚被覆膜を形成することができる。
また、前記構成の熱交換器においては、前記防汚被覆膜の膜厚は500nm以下である構成であってもよい。
前記構成によれば、防汚被覆膜の帯電性を良好に軽減させ、乾性の汚れの付着を良好に抑制または防止することができる。
また、前記構成の熱交換器においては、前記防汚被覆膜は、前記ナノ粒子に加えて、当該ナノ粒子との親和性を有する材料から少なくとも構成される接着成分を含有する構成であってもよい。
前記構成によれば、防汚被覆膜の強度または耐久性を向上することができるとともに、表面の微細な凹凸が維持されやすくなり、乾性の汚れの付着を抑制または防止する効果を向上することができる。
以下、本発明の代表的な実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
[自動販売機の構成例]
本開示に係る自動販売機の代表的な構成の一例について、図1および図2を参照して説明する。図1および図2に示すように、本実施の形態に係る自動販売機10は、筐体であるその本体(販売機本体)11内に、収納室12および機械室13を有している。収納室12は販売機本体11の上部に位置し、機械室13は販売機本体11の下部(収納室12の下方)に位置する。販売機本体11の前面は開口しており、この開口が外扉14および内扉15により閉止される。したがって、外扉14および内扉15は、販売機本体11の前面に開閉可能に設けられている。
収納室12および機械室13は販売機本体11内で内部断熱壁16により区画されている。収納室12の周囲はいずれも断熱壁により覆われている。すなわち収納室12の両側面、天面、および背面となる販売機本体11の壁部と、収納室12の底面となる内部断熱壁16と、収納室12の前面となる内扉15は、いずれも断熱材または断熱構造体により構成されている。また、図2に示すように、内扉15は、収納室12の前面のみを閉止するように構成されている。したがって、収納室12は、周囲を覆う断熱材または断熱構造体により半密閉構造になっている。
収納室12の内部には、収納棚20が設けられている。収納棚20の上部前面には、商品40を投入する商品投入口21が設けられている。商品投入口21から商品40を投入することで、例えば図1に示すように、収納棚20の内部に複数の商品40が収納される。後述するように、収納室12内は冷却器33により冷却されるので、商品40は、収納棚20に収納されることにより冷却保存される。商品投入口21は、図1および図2に示すように、収納棚20の上部前面において縦方向に複数設けられており、収納棚20は、販売機本体11の前後方向に並列している。これにより、複数種類の商品40を個別に収納することができる。
収納棚20の下部には、商品シュート22が設けられている。商品シュート22は、販売機本体11の後側から前側に向かって下方に傾斜する斜面状の構成を有している。また、商品シュート22の前側となる内扉15には、商品搬出口23が設けられ、商品搬出口23は、前後方向に揺動可能な搬出口扉24で閉止されている。
収納室12の下方の機械室13には、冷却装置30が設けられている。冷却装置30は、圧縮機31、凝縮器(熱交換器)32、図示しない減圧装置、冷却器33、および配管34等を備えている。圧縮機31、凝縮器32、減圧装置、および冷却器33は、この順で配管34により接続することにより冷凍サイクルの冷媒回路を構成している。したがって、冷却装置30は冷凍サイクルシステムを構成している。
凝縮器32の具体的な構成は特に限定されないが、本実施の形態では、フィンアンドチューブ型のものを用いることができる。フィンアンドチューブ型の凝縮器32は、平板状の複数のフィンと配管34に接続される冷媒管とを備えている。平板状のフィンは、複数積層され、冷媒管は、これらフィンを貫通するように複数の折り返し部分を有している。凝縮器32の他の具体的な構成としては、例えば、多孔管型のものも好適に用いることができる。多孔管型の凝縮器32は、内部に複数の流路を有する細い多孔管をつづら折り状に曲げ加工し、この曲げ加工した多孔管にフィン等を設けた構成を有している。これらフィンは、空気の流入方向に沿って配置されていればよい。
本実施の形態では、図1に模式的に示すように、凝縮器32において少なくともその前面(空気導入面)に防汚被覆膜37が形成されている。この防汚被覆膜37は、少なくとも乾性の汚れの付着を防止するものであれば特に限定されない。本実施の形態では、例えば、後述するように、少なくともナノ粒子により構成され、その表面の算術平均粗さRaが2.5〜100nmの範囲内の凹凸を有する膜を挙げることができる。
なお、図1においては、凝縮器32の前面に防汚被覆膜37が形成されていることを強調するために、防汚被覆膜37を模式的に図示している。しかしながら、実際の防汚被覆膜37は、後述するように非常に薄いものであり、図1に模式的に示す防汚被覆膜37のように厚みのある構成を有するものではない(それゆえ図2では模式的な防汚被覆膜37は図示していない)。
凝縮器32の前面に防汚被覆膜37が形成されている具体的な構成は特に限定されないが、代表的には、図3(A),(B)に示すように、凝縮器32が備えるフィン50の前側端面50a、すなわち、凝縮器32に対して空気が流れる方向(空気吸入方向)Fの上流側の端面に、防汚被覆膜37が形成されている構成を挙げることができる。図3(A)は、フィン50の構成例を示す模式的な斜視図であり、図3(B)は、図3(A)におけるI−I線の矢視方向の模式的断面図であるが、これらに示すように、防汚被覆膜37は、少なくとも、フィン50の前側端面(上流側端面)50aに形成されている。
また、図3(A)および図3(B)に示すように、防汚被覆膜37は、フィン50の前側端面50aだけでなく、側面50bにおける前側の一部に形成されてもよい。さらに、図3(A)に示すように、防汚被覆膜37は、フィン50の上面50cにおける前側の一部にも形成されてもよいし、図示しないが、フィン50の下面における前側の一部にも形成されてもよい。
なお、後述するが、本開示においては、防汚被覆膜37の具体的構成は特に限定されないものの、その代表的な一例として、少なくともナノ粒子により構成され、算術平均粗さRaが所定範囲内の凹凸を有するものが挙げられる。このような防汚被覆膜37は、形成方法にもよるが、前側端面50aにおける当該防汚被覆膜37を構成するナノ粒子の単位面積当たりの量(ナノ粒子の濃度)が最も多く(最も濃く)、当該前側端面50aに隣接する側面50b、上面50c、または図示しない下面においては、ナノ粒子の量(濃度)は、前側端面50aから離れると少なく(薄く)なる構成を挙げることができる。
そこで、模式的斜視図である図3(A)では、防汚被覆膜37におけるナノ粒子の濃度が、側面50bまたは上面50cにおいて、前側端面50aから離れると薄くなることを図示する便宜上、フィン50本体を黒で図示し、防汚被覆膜37を白で図示し、ナノ粒子の濃度が薄くなる状態を白から黒が濃くなるグラデーション状に図示している。もちろん、フィン50および防汚被覆膜37の構成は、図3(A)に模式的に示す構成例に限定されないことは言うまでもない。
さらに図示しないが、凝縮器32が前記の通り多孔管型であれば、曲げ加工した多孔管に複数のフィン50が設けられる構成である。多孔管に設けられるフィン50では、多孔管を挿入するための貫通孔が形成されており、この貫通孔には、多孔管を挿入した状態で支持かつ保護するために円筒状のカラー部が形成されている。したがって、凝集器32の前側では、フィン50の前側端面50aだけでなく、フィン50同士の間の奥側において、内部に多孔管を挿入しているカラー部の前側周面が見える。それゆえ、防汚被覆膜37は、このカラー部の前側周面に形成されてもよい。
ただし、一般的に用いられるフィン50の厚さは数十μm程度であり、後述するが、防汚被覆膜37の膜厚は20〜500nmの範囲内が好ましい。それゆえ、フィン50の厚さと防汚被覆膜37の膜厚とは、100〜1000倍程度異なる。そのため、フィン50の側面50bにも防汚被覆膜37が形成されるが、この防汚被覆膜37の形成により空気の流れが有意に妨げられることはない。例えば、図3(B)では、フィン50に対して防汚被覆膜37が形成されていることを模式的に示すために、フィン50の側面50bに、防汚被覆膜37による膨らみがあるように図示しているが、この図示は説明の便宜のためであり、実際の防汚被覆膜37はもっと薄く形成されている。
言い換えれば、凝縮器32等の熱交換器を前側から見たときに、少なくとも、空気吸入方向Fにおける最も上流側に位置する部位(最上流部位)の前面(図3(A),(B)に示す例では、フィン50の前側端面50a)に防汚被覆膜37が形成されていればよい。また、この差異上流部位の前面に隣接する「側面」の一部(図3(A)、(B)に示す例では、側面50b、上面50cおよび/または下面の前側の一部)に防汚被覆膜37が形成されてもよい。さらに、最上流部位以外の部位における前面(前述したフィン50におけるカラー部の前側周面等)にも防汚被覆膜37が形成されていればよい。なお、防汚被覆膜37の具体的構成については後述する。
また、本実施の形態では、自動販売機10が備える熱交換器としては、凝縮器32を例示しているが、熱交換器は凝縮器32に限定されず蒸発器であってもよい。凝縮器32は、暖かい(相対的に高温の)冷媒を冷却するため、凝縮器32を通過した空気流(外部からの風)は冷媒から熱を奪うことにより暖かくなる(空気流の温度が上昇する)。一方、蒸発器は、冷たい(相対的に低温の)冷媒を加熱するため、蒸発器を通過した空気流(外部からの風)は冷媒に熱を与えることにより冷たくなる(空気流の温度が上昇する)。また、本開示における熱交換器は、凝縮器32または蒸発器(または他の構成)であっても、空気吸入方向に沿って設けられるフィンを複数備える構成であればよい。
自動販売機10においては、圧縮機31および凝縮器32は機械室13の内部に設けられているが、冷却器33は、収納室12内を冷却するために収納室12の内部に設けられている。したがって、冷却装置30の大部分は、機械室13の内部に収容されているが、冷却器33およびその付随物(冷却器33に接続される配管34等)は、収納室12に収容されている。また、冷却装置30(冷媒回路)内には、公知の冷媒が封入されている。冷媒の具体的な種類は特に限定されない。
機械室13の内部には、圧縮機31および凝縮器32以外に、図1に示す凝縮器ファン35、図示しない蒸発皿、図2に示す電装箱36等が設けられている。凝縮器ファン35は、例えば図1に示すように凝縮器32の後側に位置している。また、図1および図2に示す例では、凝縮器ファン35の後側に圧縮機31が位置している。図示しない蒸発皿も凝縮器ファン35の後側に位置している。
機械室13の前側開口には内扉15は存在せず、外扉14のみにより閉止されている。そのため、機械室13は、収納室12のように半密閉構造になっておらず、機械室13の内部と外部とは通気可能である。また、図1に示すように、機械室13の内部では、前側から後側に向けて、凝縮器32、凝縮器ファン35および圧縮機31の順で位置している。そのため、凝縮器32は機械室13の最前面に位置している。凝縮器ファン35が動作することにより、販売機本体11の前面から凝縮器32に対して外気が導入される。電装箱36は、機械室13内に任意の位置に固定配置されており、その内部には、冷却装置30の運転等を制御する制御基板等が収容されている。
収納室12の内部には、前述した収納棚20および冷却器33以外に、庫内ファン25および庫内ダクト26が設けられている。庫内ファン25は、例えば、図1に示すように冷却器33の前側に位置している。また、冷却器33の後側には庫内ダクト26が設けられている。庫内ダクト26は、その上端が収納室12の内部に向いており、その下端が冷却器33の後側に面している。図1に示す例では、庫内ファン25、冷却器33、および庫内ダクト26は、収納室12内の下部後側となる位置に設けられ、これらの前側に商品シュート22が位置している。
収納室12は、前記の通り、半密閉構造となっているので、庫内ファン25が動作することにより、収納室12の内部空気(庫内空気)が庫内ダクト26を介して冷却器33に供給される。供給された庫内空気は冷却器33により冷却されて、庫内ファン25により収納室12内に供給される。これにより、収納室12の内部では、冷却された庫内空気が循環するため、収納棚20に収納される商品40が冷却される。
外扉14は、販売機本体11の前面開口全体を閉止する。前記の通り、収納室12の前面のみを閉止するので、内扉15および外扉14が閉止された状態では、図1に示すように、収納室12の前面には内扉15および外扉14が重なるように位置しており、機械室13の前面には外扉14のみが位置している。
外扉14の下部には、商品取出口41が設けられ、図1に示すように、この商品取出口41は取出口扉42によって開閉可能に閉止されている。なお、取出口扉42はなくてもよい。図1に示すように、外扉14および内扉15が閉止された状態では、外扉14における商品取出口41の位置は、内扉15の商品搬出口23の位置に対応している。外扉14の上部には、複数の商品見本43が設けられ、これら商品見本43に対応するように複数の商品選択ボタン44が設けられている。
本実施の形態では、商品40としては缶飲料を模式的に例示しているが、商品40はこれに限定されず、ペットボトル飲料または瓶飲料でもよいし、飲料以外の缶商品であってもよいし、紙パック商品であってもよいし、それ以外の商品であってもよい。また、図示しないが、外扉14には、硬貨投入口、紙幣挿入口、ICカードのカードリーダー、硬貨返却口、表示器等が設けられている。
なお、前記構成の自動販売機10のより具体的な構成は特に限定されない。例えば、販売機本体11、収納室12、機械室13、外扉14および内扉15等の具体的構成としては、公知のさまざまな構成を好適に用いることができる。同様に、外扉14における商品取出口41、商品見本43、商品選択ボタン44等の具体的構成についても公知のさまざまな構成を好適に用いることができる。内扉15における商品搬出口23等の構成も同様である。また、冷却装置30についても、公知の構成を好適に用いることができる。
このような構成の自動販売機10について、その動作の一例について具体的に説明する。まず、商品40の冷却動作について説明する。収納室12の内部では、冷却装置30の運転により、冷却器33により庫内空気が冷却される。図1において太点線矢印i1で示すように、冷却された庫内空気は、庫内ファン25により収納室12の下部後方から前方上側に向かって送風され、収納棚20に収容される商品40を冷却する。その後、商品40を冷却して収納室12の上部に達した庫内空気は、太点線矢印i2で示すように、後方の庫内ダクト26により冷却器33に導入される。これが繰り返されることにより、収納室12の内部で庫内空気が循環する。
冷却器33では、液体冷媒が蒸発(気化)してガス冷媒となり、このときの蒸発潜熱により庫内空気を冷却する。ガス冷媒は、配管34を介して圧縮機31において圧縮され、高温高圧ガス冷媒となる。高温高圧ガス冷媒は、凝縮器32において凝縮されて液化して液体冷媒となる。
図1において太点線矢印e1で示すように、凝縮器ファン35の動作により販売機本体11の前方から外気が凝縮器32に導入されることで、外気との熱交換により高温高圧ガス冷媒が凝縮される。導入された外気は、太点線矢印e2で示すように、機械室13の後方に位置する圧縮機31に達し、さらに、太点線矢印e3で示すように、最終的に機械室13の外部に排出される。
凝縮器32での凝縮により液化した液体冷媒は、さらに図示しない減圧装置で減圧される。減圧された液体冷媒は冷却器33において蒸発(気化)してガス冷媒になり、前記の通り庫内空気を冷却する。このように冷媒が気化および液化を繰り返して冷凍サイクル内を循環することで、収納室12内の内部を冷却する。
また、商品40の販売時の動作について説明する。購入者が、外扉14が備える商品見本43を見て商品選択ボタン44を操作すると、収納棚20内に収納されている商品40は、下部の商品シュート22に落下する。商品シュート22では落下した商品40が収納棚20の下部前面に向けて滑り落ち、内扉15に設けられる商品搬出口23に到達する。商品40は、商品搬出口23の搬出口扉24を前側に揺動させて、商品搬出口23を通過して外扉14の商品搬出口23に達する。商品40が通過した後には、搬出口扉24は後側に揺動して商品搬出口23を閉止する。購入者は、取出口扉42を開けて商品取出口41から商品40を取り出す。
なお、前述した動作例では、収納室12は商品40を冷却する構成であるが、収納室12はこれに限定されず、商品40を加温する構成であってもよい。したがって、収納室12は、冷却専用に構成されてもよいし、冷却または加温に切り替え可能に構成されてもよい。したがって、収納室12の内部には、冷却器33以外に公知のヒータ等の加温装置が設けられてもよいし、冷却装置30がヒートポンプ型であって、商品40の冷却により回収された熱を商品40の加温に用いてもよい。
ここで、凝縮器32は、前記の通り、販売機本体11の下部に設けられる機械室13の前面に位置しており、販売機本体11の前方から機械室13に外気が導入される。自動販売機10は、多くの場合、屋外であるか屋内であっても人の出入りが多い場所に設置される。それゆえ、自動販売機10が設置されている床面付近には、さまざまな汚れの原因が存在し、凝縮器32には、さまざまな汚れが付着する可能性が想定される。凝縮器32に汚れが付着すれば、凝縮器32による熱交換効率が低下し、冷凍サイクルシステム(冷却装置30)による収納室12の内部の冷却効率が低下するおそれがある。
物品の表面に付着する汚れとしては、「湿性」の汚れと「乾性」の汚れとが考えられる。「湿性」の汚れとしては、親水性の汚れ(ウェットな汚れ)、並びに、親油性の汚れ(オイリーな汚れ)が挙げられる。これらは、水または油等の「液体」を媒体(溶媒または分散媒等)とする汚れである。
一方、「乾性」の汚れ(ドライな汚れ)としては、相対的に比重が大きく硬いものと、相対的に比重が小さく柔らかいものとの2種類に区分することができる。説明の便宜上、前者の「乾性」の汚れを「大比重硬直型」と称し、後者の「乾性」の汚れを「小比重柔軟型」と称すれば、「大比重硬直型」の「乾性」の汚れとしては、代表的には、土壌、砂塵、カーボン等の無機系の粉塵が挙げられ、「小比重柔軟型」の汚れとしては、例えば、糸くずまたは綿埃のような繊維系塵埃、あるいは、小麦粉や片栗粉のような食品粉末系塵埃が挙げられる。
図1に示すように、自動販売機10においては、凝縮器32は、機械室13の内部に収容され、機械室13は外扉14により閉止されている。機械室13は半密閉構造ではないが、販売機本体11の外部に水または油等の液体(媒体)が存在しても、機械室13の内部には吸入され難い。言い換えれば、販売機本体11の外部に「湿性」の汚れが存在しても、外扉14により凝縮器32への付着はほとんど回避することが可能である。
これに対して、「乾性」の汚れについては、特許文献1に開示される綿埃のような「小比重柔軟型」の汚れだけでなく、「大比重硬直型」の汚れも存在する。「小比重柔軟型」の汚れは、凝縮器ファン35による外気の導入によって機械室13の内部に容易に吸入され、凝縮器32に付着する。また、「大比重硬直型」の汚れも、風で巻き上げられたりすることで、外気の導入に伴って機械室13の内部に吸入される可能性がある。それゆえ、凝縮器32に付着する汚れとしては、特に「乾性」のものに焦点を絞る必要がある。
本開示に係る自動販売機10は、凝縮器32の空気導入面、言い換えれば、空気の吸入方向の上流側の表面には、少なくとも乾性の汚れの付着を防止する防汚被覆膜が形成されている。これにより、凝縮器32の空気導入面に乾性の汚れが付着することを有効に抑制または防止することが可能となる。また、防汚被覆膜は、汚れを付着し難くするものであるため、空気導入面に多少の汚れが付着しても容易に除去することができる。しかも、空気導入面に防汚被覆膜を形成するだけで良いので、凝縮器32を製造する際に追加的な製造プロセスを実施したり自動販売機そのものの設計を変更したりする必要が回避される。これにより、既存の自動販売機10においても本開示を容易に適用することができる。
[防汚被覆膜の構成]
次に、本開示に係る自動販売機10の凝縮器(熱交換器)32に形成されている防汚被覆膜について説明する。本開示に係る防汚被覆膜は、防汚性を有する被膜、より具体的には、特に乾性の汚れの付着を抑制または防止する被膜であればよく、その具体的な構成は特に限定されない。このような防汚被覆膜としては、フッ素系被膜、シリコーン系被膜、アクリル系被膜、微細凹凸構造を有する被膜等を挙げることができる。
フッ素系被膜は、その表面エネルギーが相対的に低いので乾性の汚れ等の付着を抑制することができる。シリコーン系被膜またはアクリル系被膜は、その表面平滑性が相対的に高いことから乾性の汚れ等の付着を抑制することができる。微細凹凸構造を有する被膜は、その表面の微細な凹凸により乾性の汚れ等の付着を有効に抑制することができる。
本開示に係る防汚被覆膜の代表的な一例としては、微細凹凸構造を有する被膜を挙げることができる。具体的には、例えば、少なくともナノ粒子により構成され、その表面の算術平均粗さRaが2.5〜100nmの範囲内の凹凸を有する構成の防汚被覆膜を挙げることができる。防汚被覆膜を構成するナノ粒子は特に限定されないが、代表的には、金属ナノ粒子、無機酸化物ナノ粒子、無機窒化物ナノ粒子、無機カルコゲン化物ナノ粒子(無機酸化物ナノ粒子を除く)、(メタ)アクリル系樹脂ナノ粒子、フッ素樹脂ナノ粒子等を挙げることができる。
具体的には、例えば、金属ナノ粒子としては、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、鉄白金(FePt)等の周期表第11族元素またはその合金;ニッケル(Ni,第10族元素)、スズ(Sn,第14族元素)等の周期表第11族元素以外のメッキ用金属元素等を挙げることができる。また、無機酸化物ナノ粒子としては、シリカ(酸化ケイ素、SiO2 )、酸化イットリウム(Y2O3)、チタン酸バリウム(BaTiO3 )、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、酸化チタン(TiO2 )、酸化インジウム(In2O3)等を挙げることができる。無機窒化物ナノ粒子としては、窒化ガリウム(GaN)等を挙げることができる。無機カルコゲン化物ナノ粒子としては、セレン化カドミウム(CdSe)等を挙げることができる。(メタ)アクリル系樹脂ナノ粒子としては、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等を挙げることができる。フッ素樹脂ナノ粒子としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等を挙げることができる。
これらナノ粒子は、基本的には、1種類のみで防汚被覆膜を構成するが、複数種類が組み合わせられて防汚被覆膜を構成することもできる。これらの中でも、汎用性、コスト、平均粒径の調整のしやすさ等から、シリカナノ粒子が特に好ましく用いられる。また、防汚被覆膜は、基本的には、ナノ粒子のみで構成されるが、防汚被覆膜による防汚性能を妨げない限りでナノ粒子以外の成分を含んでもよい。例えば、防汚被覆膜は、ナノ粒子に加えて帯電防止剤を含んでもよい。
ナノ粒子の粒径は、ナノレベル(1μm未満)であれば特に限定されないが、本開示においては、100nm以下であることが好ましく、5〜100nmの範囲内であることがより好ましい。また、平均粒径のより好ましい範囲としては、15nm超100nm未満の範囲内、あるいは、20nm〜100nmの範囲内を挙げることもできる。
ナノ粒子の粒径が100nm以下であれば、防汚被覆膜の表面においてナノレベルの凹凸構造を実現しやすくなる。また、防汚被覆膜の具体的な構成にもよるが、ナノ粒子の粒径が5〜100nmの範囲内であれば、ナノレベルの凹凸構造をより好適な範囲内に調整しやすくすることができる。さらに、防汚被覆膜が後述するように接着成分を含む場合には、ナノ粒子の粒径が15nm超100nm未満の範囲内、もしくは、20〜100nmの範囲内に設定することで、ナノレベルの凹凸構造をより好適な範囲内に調整しやすくすることができる。
なお、防汚被覆膜の具体的な成分、防汚被覆膜の形成方法、被覆対象物である凝縮器(熱交換器)32の表面状態等の諸条件にもよるが、ナノ粒子の粒径は小さ過ぎない方がよい傾向にある。ナノ粒子の粒径を小さくし過ぎると、ナノ粒子同士が凝集して粗大化する傾向にある。これにより、得られる防汚被覆膜においては、その表面の凹凸が、所定の算術平均粗さRaの範囲内を超えて大きくなってしまう。この場合、乾性の汚れが、表面の大きな凹凸に引っかかりやすくなり、結果的に乾性の汚れが付着しやすくなる。
防汚被覆膜の表面の算術平均粗さRaは、2.5〜100nmの範囲内であればよい。算術平均粗さRaがこの範囲内であれば、このような防汚被覆膜を被覆対象物である凝縮器(熱交換器)32に形成することで、少なくとも乾性の汚れの付着を有効に抑制または防止することが可能になる。
また、防汚被覆膜は、前記の通り、少なくともナノ粒子により構成され、表面の算術平均粗さRaが前記の範囲内であればよく、それ以外の具体的構成は特に限定されない。例えば、防汚被覆膜の膜厚は特に限定されないが、一般的には、1μm(1,000nm)未満であればよく、500nm以下であることが好ましく、20〜500nmの範囲内であることがより好ましい。
防汚被覆膜の膜厚が1μm未満すなわちナノレベルであれば、相対的に膜厚が小さく(薄く)なるため防汚被覆膜の帯電性を良好に軽減させ、乾性の汚れの付着を良好に抑制または防止することができるとともに、防汚被覆膜の透明性を向上することができる。また、諸条件にもよるが、膜厚が500nm以下であれば、防汚被覆膜の帯電性をより一層良好に軽減させるとともに透明性をさらに向上することが可能となる。さらに、諸条件にもよるが、膜厚が20〜500nmの範囲内であれば、透明性の向上および帯電性のさらなる軽減を実現でき、乾性の汚れの付着をより一層良好に抑制または防止することができる。
特に、膜厚が500nm以下(もしくは20〜500nmの範囲内)であれば、被覆対象物である凝縮器(熱交換器)32は基本的に金属で構成されているため、防汚被覆膜が帯電しても凝縮器32の導電性によりアース(接地)されることができるため、実質的な帯電を回避することが可能になる。これにより、乾性の汚れの付着をより一層有効に抑制または防止することができる。また、防汚被覆膜の膜厚が大きく(厚く)なると、当該防汚被覆膜がナノ粒子を主成分とするためクラックが生じやすくなるが、膜厚が500nm以下であればクラックの発生を実質的に回避することができる。
防汚被覆膜の表面特性も特に限定されないが、表面抵抗率は1013Ω/□以下であればよい。これにより、防汚被覆膜の帯電性を良好に軽減させることができるので、乾性の汚れの付着を良好に抑制または防止することができる。また、防汚被覆膜の水接触角は15°未満であればよく、諸条件にもよるが10°以下であってもよい。このように防汚被覆膜の水接触角が小さければ、その表面の親水性が向上する。そのため、乾性の汚れが防汚被覆膜の表面に堆積しても、水洗することで堆積した乾性の汚れを容易に除去することができる。
なお、ナノ粒子の粒径の測定方法は特に限定されず、公知の方法(拡散法、慣性法、沈降法、顕微鏡法、光散乱回折法等)を好適に用いることができる。本実施の計値では、公知の方法で測定された粒径がナノレベルにあればよい。また、防汚被覆膜の算術平均粗さRaの測定(評価)方法は特に限定されず、例えば、レーザ顕微鏡または原子間力顕微鏡(AFM)を用いて算術平均粗さRaを測定(評価)し、JIS B0601に基づいて算出すればよい。さらに、防汚被覆膜の膜厚の測定方法も特に限定されないが、本実施の形態では、後述する実施例で説明するように、電子顕微鏡により被覆断面を観察し、複数の観察画像から測定した膜厚の平均値を算出している。また、防汚被覆膜の水接触角の測定(評価)方法も特に限定されず、例えば、協和界面科学(株)製接触角計、製品名:DMo−501を用いて測定(評価)すればよい。
防汚被覆膜の具体的な形成方法(製造方法)は特に限定されず、ナノ粒子による微細な凹凸を形成することが可能であれば、公知のさまざまな方法を用いることができる。代表的な形成方法としては、ナノ粒子を含む塗工液(コーティング剤)を調製してこれを塗工する公知の塗工方法、ゾルゲル法、ナノインプリント、陽極酸化金型を用いた転写、サンドブラスト、セラミックスの自己組織化等を挙げることができる。
防汚被覆膜は、前記の通り、少なくともナノ粒子で構成されていればよいが、さらに、このナノ粒子との親和性を有する材料から少なくとも構成される接着成分を含有してもよい。接着成分の機能としては、ナノ粒子同士を接着させる機能とともに、ナノ粒子を被覆対象物である凝縮器(熱交換器)32の表面に接着させる機能とを有していればよい。それゆえ、少なくともナノ粒子に対して親和性を有する材料が主成分となっていればよい。
防汚被覆膜が接着成分を含有することで、ナノ粒子で構成される防汚被覆膜の強度または耐久性を向上することができる。また、ナノ粒子が防汚被覆膜の表面で良好に維持されることから、表面の微細な凹凸が維持されやすくなり、乾性の汚れの付着を抑制または防止する効果を向上することができる。
具体的な接着成分の組成については特に限定されず、ナノ粒子に対して親和性を有していればよい。例えば、ナノ粒子がシリカナノ粒子であれば、シリカとの親和性を有する材料を接着成分として用いることができる。シリカとの親和性を有する材料としては、テトラメトキシシランまたはテトラエトキシシラン等のシラン化合物、アクリル樹脂、フッ素樹脂等を挙げることができる。また、接着成分には、これら材料に加えて公知の添加剤が含まれてもよい。したがって、本開示に係る熱交換器では、防汚被覆膜は、少なくともナノ粒子で構成されていればよいが、ナノ粒子に加えて接着成分を含有する構成であってもよく、ナノ粒子および接着成分に加えて公知の添加剤を含有する構成であってもよい。
防汚被覆膜が接着成分を含有する場合、その含有量(含有率)は特に限定されないが、例えば、防汚被覆膜の全重量を100重量%としたときに、好ましい範囲として5〜60重量%の範囲内を挙げることができ、より好ましい範囲として10〜50重量%の範囲内を挙げることができる。諸条件にもよるが、接着成分が60重量%を超えれば、ナノ粒子に対して接着成分の量が多くなりすぎて、防汚被覆膜の表面の算術平均粗さRaが所定の範囲から外れるおそれがある。また接着成分が5重量%未満であれば、接着成分の含有量に見合った強度または耐久性の向上等の効果が十分に得られないおそれがある。
本開示においては、凝縮器(熱交換器)32の製造時(言い換えれば、自動販売機10の製造時)に防汚被覆膜を形成すればよいが、既存の自動販売機10が備える凝縮器32に対して防汚被覆膜を形成することもできる。防汚被覆膜を凝縮器32に形成する方法は特に限定されず、凝縮器32の製造時であれば、前述した各方法等の公知の方法のうち好適なものを適宜選択して用いることができる。既存の自動販売機10の凝縮器32に対して防汚被覆膜を形成する場合には、代表的には塗工方法を用いることができる。すなわち、ナノ粒子を含む塗工液(コーティング剤)を準備しておき、既存の自動販売機10の凝縮器32に塗工液を塗工すればよい。これにより、容易に防汚被覆膜を形成することができる。
本実施の形態では、図3(A),(B)に示すように、防汚被覆膜37は、凝縮器32(熱交換器)が備えるフィン50における前側端面50aに少なくとも形成される構成を例示している。このような構成では、凝縮器32におけるフィン50の前側端面50aに対して公知の方法(ローラー、スプレー、含浸部材(例えばスポンジ)等)で塗工液を塗工すればよい。この場合、図3(A),(B)に示すように、フィン50において、前側端面50aに隣接する各面(側面50b等)の一部にも防汚被覆膜37が形成されてもよい。
後述する比較例でも説明するように、凝縮器32の前面に防汚被覆膜37を形成しない場合には多量の塵埃が付着するが、防汚被覆膜37を形成すれば、塵埃の付着を有効に抑制することができる。ここで、多量の塵埃が付着している状態では、前側端面に塵埃が積もったような状態(後述する図4(B)参照)となるので、塵埃は、前側端面だけでなく隣接する側面等の一部にも付着し得る。
したがって、熱交換器が備えるフィンの前側の部位のうち、少なくとも、空気吸入方向における最上流部位である、前側端面に防汚被覆膜が形成されていれば、塵埃の付着を抑制することができる。さらに、図3(A),(B)に例示するように、前側端面に隣接する側面の一部にも防汚被覆膜が形成されていれば、側面の前側付近においても塵埃の付着を抑制することができるので、空気導入面に乾性の汚れが付着することをより一層有効に抑制または防止することができる。
あるいは、本開示においては、熱交換器が備えるフィンの前側端面および当該前側端面に隣接する側面の一部以外にも、熱交換器における前側に面する部位または前側に面する構造であって前側端面以外となる部位または構造における前面にも防汚被覆膜が形成されてもよい。これにより、熱交換器におけるフィン以外の部位または構造において、前側に面する領域に乾性の汚れが付着することを有効に抑制または防止することができる。
ここで、本開示に係る自動販売機においては、熱交換器の全体に防汚被覆膜が形成されることは好ましくない。熱交換器の表面全体に防汚被覆膜を形成しようとすると、自動販売機を製造する前に熱交換器の表面全体に防汚被覆膜を形成する工程を追加したり、設置済の自動販売機であれば、熱交換器を取り外して表面全体に防汚被覆膜を形成する作業を追加したりする必要がある。
これに対して、本開示においては、熱交換器において実質的に前面(およびその隣接する面の一部)のみに防汚被覆膜を形成するだけでよいので、熱交換器の空気導入面に防汚被覆膜を形成するだけで済む。それゆえ、前記の通り、製造時の追加的なプロセス、あるいは、熱交換器の取外し等の追加的な作業は実質的に不要となるので、簡素な構成で製造コストの増大を抑制しつつ、熱交換器の効率の低下を有効に抑制することができる。
したがって、本開示に係る自動販売機においては、防汚被覆膜は、少なくとも、熱交換器の前側の部位であって、空気吸入方向における最上流部位の前面に形成されおり、当該熱交換器の表面全体には防汚被覆膜は形成されていない構成であればよい。また、本開示においては、防汚被覆膜は、熱交換器の表面全体でなくても後面に形成されていない構成であってもよい。例えば、設置済の自動販売機において防汚被覆膜を熱交換器の後面に形成するためには、熱交換器を取り外す作業が必要になる。同様に理由で、熱交換器の側面全体に防汚被覆膜が形成されていない構成であってもよい。側面のうち防汚被覆膜が形成されてもよいのは、前面に隣接する一部のみを挙げることができる。
[防汚被覆膜の塵埃付着率]
前記構成の防汚被覆膜は、その塵埃付着率が15%以下となっている。ここで、本開示における塵埃付着率とは、防汚被覆膜が形成されない凝縮器(熱交換器)32の表面(被覆前表面)における模擬塵埃の付着量に対する、防汚被覆膜が形成された凝縮器32の表面(防汚被覆膜により構成される被覆表面)における模擬塵埃の付着量として算出される。
前述した通り、「乾性」の汚れには、相対的に比重が大きく硬い「大比重硬直型」のものと、相対的に比重が小さく柔らかい「小比重柔軟型」のものとが存在する。本開示においては、塵埃付着率の算出に用いられる模擬塵埃は、「大比重硬直型」の模擬塵埃および「小比重柔軟型」の模擬塵埃を混合した混合模擬塵埃が好適に用いられる。一般に、「大比重硬直型」の模擬塵埃は、無機系材料で構成される塵埃であり、「小比重柔軟型」の模擬塵埃は、有機系材料で構成される模擬塵埃である。
「大比重硬直型」の模擬塵埃および「小比重柔軟型」の模擬塵埃の具体的な種類は特に限定されないが、JIS(日本工業規格)等のような各種規格で定められる試験用粉体等のうち、「大比重硬直型」または「小比重柔軟型」に該当するものを適宜選択して用いることができる。本開示では、後述する実施例に示すように、「大比重硬直型」の模擬塵埃として、無機系材料であるであるフライアッシュを用いるとともに、「小比重柔軟型」の模擬塵埃として、有機材材料であるコットンリンタを用いている。また、「大比重硬直型」の模擬塵埃および「小比重柔軟型」の模擬塵埃は、いずれも1種類であってもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
コットンリンタとしては、公益社団法人日本空気清浄協会(JACA)により試験用粉体の1種として販売されるものが用いられる。コーンスターチは市販のものである。けい砂は「大比重硬直型」の付着を評価するために用いられ、コットンリンタは「小比重柔軟型」のうち繊維系塵埃の付着を評価するために用いられ、コーンスターチは「小比重柔軟型」のうち食品粉末系塵埃の付着を評価するために用いられる。したがって、「大比重硬直型」の模擬塵埃および「小比重柔軟型」の模擬塵埃の混合塵埃の好適な一例としては、有機系の模擬塵埃および無機系の模擬塵埃を混合した混合模擬塵埃を挙げることができる。
塵埃付着率は、前述したように、凝縮器(熱交換器)32における防汚被覆膜の被覆前表面における混合模擬塵埃の付着量に対する、防汚被覆膜による構成される被覆表面における混合模擬塵埃の付着量の比率として定義される。本開示では、被覆前表面または被覆表面における混合模擬塵埃の付着量は、光学顕微鏡で撮影した画像を二値化処理することにより算出される、残存する混合模擬塵埃の面積比率として算出される。なお、この面積比率を塵埃付着面積とする。被覆前表面での塵埃付着面積をA0 とし、被覆表面での塵埃付着面積をA1 としたときに、塵埃付着率AR は、次式(1)で算出することができる。
防汚被覆膜の塵埃付着率は15%以下であればよいが、10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、2%以下であることが特に好ましい。塵埃付着率が15%以下であれば、目視による塵埃の付着が目立たないため、十分な防汚性能が得られていると判断することができる。
塵埃付着率を算出する際には、例えば、凝縮器32の表面の一部もしくは凝縮器32の一部を断片化したものに防汚被覆膜を形成することで、これを評価用サンプルとして用いることができる。評価用サンプルにおいて、防汚被覆膜が形成された表面を「被覆表面」としたときに、混合模擬塵埃は、この被覆表面に付着させることになるが、混合模擬塵埃を付着させる前に、評価用サンプルを除電することが好ましい。
また、評価用サンプルに混合模擬塵埃を付着させる方法、並びに、付着した混合模擬塵埃をふるい落す方法も特に限定されず、種々の方法を好適に用いることができる。例えば、後述する実施例では、混合模擬塵埃を被覆表面に所定量堆積させてから、評価用サンプルを垂直に傾けて落下させることにより、混合模擬塵埃をふるい落している。また、光学顕微鏡による被覆表面の画像撮影についても特に限定されず、混合模擬塵埃を観察可能な倍率で複数の画像を撮影すればよい。撮影した画像の二値化処理についても特に限定されず、公知の画像処理ソフトウェア等を用いればよい。
ここで、本開示においては、防汚被覆膜は、少なくとも熱交換器における空気導入面(空気の吸入方向の上流側となる表面)に形成されていればよいが、熱交換器において、空気導入面以外の表面にも防汚被覆膜が形成されてもよい。例えば、熱交換器が備える管(冷媒管または多孔管等)の表面にも防汚被覆膜が形成されてもよいし、熱交換器の側面にも防汚被覆膜が形成されてもよいし、熱交換器の表面全体に防汚被覆膜が形成されてもよい。したがって、本開示においては、凝縮器32等の熱交換器は、少なくとも空気導入面に防汚被覆膜が形成される構成であればよく、空気導入面以外の表面にも防汚被覆膜が形成される構成であってもよい。
本発明について、実施例および比較例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。
(混合模擬塵埃)
「小比重柔軟型」の模擬塵埃として、公益社団法人日本空気清浄協会(JACA)により試験用粉体に販売されるコットンリンタと、JACAにより試験用粉体に販売されるフライアッシュとを用いた。コットンリンタとフライアッシュとをそれぞれ重量比で1対2となるように(コットンリンタ:フライアッシュ=1:2)秤量して、十分に混合して混合模擬塵埃とした。
(実施例・比較例)
平均粒径20nmのシリカ粒子を、分散媒であるエタノールにpH調整等により十分に分散させた塗工液を公知の方法で調製した。この塗工液を、自動販売機が備える凝縮器(熱交換器)の前面(空気導入面)の約半分の領域にスプレーを用いて塗工し、その膜厚が500nm以下となるように防汚被覆膜を形成した。防汚被覆膜が形成された凝縮器の前面の約半分を実施例とし、防汚被覆膜が形成されなかった残りの約半分を比較例とした。
自動販売機の冷却運転(通常)を開始するとともに、当該自動販売機における凝縮器(機械室)の前側において、約50gの混合模擬塵埃をミキサーで攪拌し、これにより、混合模擬塵埃を凝縮器に吸引させた。この混合模擬塵埃の攪拌および吸引を10分程度継続することにより、約5年に相当すると見込まれる運転時間を模擬的に再現した。冷却運転の終了後、凝縮器の前面を目視で観察した。実施例の結果(二値化写真)を図4(A)に示し、比較例の結果(二値化写真)を図4(B)に示す。
図4(A)および(B)の結果から明らかなように、本開示に係る防汚被覆膜を形成した凝縮器の前面半分には、ほとんど混合模擬塵埃は付着していなかった。一方、防汚被覆膜を形成しなかった凝縮器の前面半分には、多量の混合模擬塵埃が付着していた。
なお、本発明は前記実施の形態の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態や複数の変形例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。