この発明の実施形態における車両の一例を図1および図2を参照して説明する。図1は、前輪1R,1Lを駆動するための第1駆動装置2を示し、図2は、後輪3R,3Lを駆動するための第2駆動装置4を示している。第1駆動装置2は、エンジン5と二つのモータ6,7とを駆動力源として備えたいわゆる2モータタイプの駆動装置であって、第1モータ6は発電機能のあるモータ(すなわちモータ・ジェネレータ:MG1)によって構成され、エンジン5の回転数を第1モータ6によって制御するとともに、第1モータ6で発電された電力により第2モータ7を駆動し、その第2モータ7が出力する駆動力を走行のための駆動力に加えるように構成されている。なお、第2モータ7は発電機能のあるモータ(すなわちモータ・ジェネレータ:MG2)によって構成することができる。
エンジン5には、この発明の実施形態における差動機構に相当する動力分割機構8が連結されている。この動力分割機構8は、エンジン5から出力されたトルクを第1モータ6側と出力側とに分割する機能を主とする分割部9と、そのトルクの分割率を変更する機能を主とする変速部10とにより構成されている。
分割部9は、三つの回転要素によって差動作用を行う構成であればよく、遊星歯車機構を採用することができる。図1に示す例では、シングルピニオン型の遊星歯車機構によって構成されている。図1に示す分割部9は、サンギヤ11と、サンギヤ11に対して同心円上に配置された、内歯歯車であるリングギヤ12と、これらサンギヤ11とリングギヤ12との間に配置されてサンギヤ11とリングギヤ12とに噛み合っているピニオンギヤ13と、ピニオンギヤ13を自転および公転可能に保持するキャリヤ14とにより構成されている。そのサンギヤ11が主に反力要素として機能し、リングギヤ12が主に出力要素として機能し、キャリヤ14が主に入力要素として機能する。
エンジン5が出力した動力が前記キャリヤ14に入力されるように構成されている。具体的には、エンジン5の出力軸15に、動力分割機構8の入力軸16が連結され、その入力軸16がキャリヤ14に連結されている。なお、キャリヤ14と入力軸16とを直接連結する構成に替えて、歯車機構などの伝動機構を介してキャリヤ14と入力軸16とを連結してもよい。また、その出力軸15と入力軸16との間にダンパ機構やトルクコンバータなどの機構を配置してもよい。
サンギヤ11に第1モータ6が連結されている。図1に示す例では、分割部9および第1モータ6は、エンジン5の回転中心軸線と同一の軸線上に配置され、第1モータ6は分割部9を挟んでエンジン5とは反対側に配置されている。この分割部9とエンジン5との間で、これら分割部9およびエンジン5と同一の軸線上に、その軸線の方向に並んで変速部10が配置されている。
変速部10は、シングルピニオン型の遊星歯車機構によって構成されており、サンギヤ17と、サンギヤ17に対して同心円上に配置された内歯歯車であるリングギヤ18と、これらサンギヤ17とリングギヤ18との間に配置されてこれらサンギヤ17およびリングギヤ18に噛み合っているピニオンギヤ19と、ピニオンギヤ19を自転および公転可能に保持しているキャリヤ20とを有し、サンギヤ17、リングギヤ18、およびキャリヤ20の三つの回転要素によって差動作用を行う差動機構である。この変速部10におけるサンギヤ17に分割部9におけるリングギヤ12が連結されている。また、変速部10におけるリングギヤ18に、出力ギヤ21が連結されている。
上記の分割部9と変速部10とが複合遊星歯車機構を構成するように第1クラッチ機構CL1が設けられている。第1クラッチ機構CL1は、変速部10におけるキャリヤ20を、分割部9におけるキャリヤ14に選択的に連結するように構成されている。具体的には、入力軸16に回転盤14aが設けられ、その回転盤14aと変速部10におけるキャリヤ20とを係合するように第1クラッチ機構CL1が設けられている。この第1クラッチ機構CL1は、湿式多板クラッチなどの摩擦式のクラッチ機構であってもよく、あるいはドグクラッチなどの噛み合い式のクラッチ機構であってもよい。この第1クラッチ機構CL1を係合させることにより分割部9におけるキャリヤ14と変速部10におけるキャリヤ20とが連結されてこれらが入力要素となり、また分割部9におけるサンギヤ11が反力要素となり、さらに変速部10におけるリングギヤ18が出力要素となった複合遊星歯車機構が形成される。すなわち、入力軸16と第1モータ6の出力軸6aと、後述するドリブンギヤ23とが差動回転できるように複合遊星歯車機構が構成されている。
さらに、変速部10の全体を一体化させるための第2クラッチ機構CL2が設けられている。この第2クラッチ機構CL2は、変速部10におけるキャリヤ20とリングギヤ18もしくはサンギヤ17、あるいはサンギヤ17とリングギヤ18とを連結するなどの少なくともいずれか二つの回転要素を連結するためのものであって、摩擦式あるいは噛み合い式のクラッチ機構によって構成することができる。図1に示す例では、第2クラッチ機構CL2は、変速部10におけるキャリヤ20とリングギヤ18とを連結するように構成されている。具体的には、キャリヤ20と一体に回転する回転盤20aが設けられ、その回転盤20aと変速部10におけるリングギヤ18とを係合するように第2クラッチ機構CL2が設けられている。
そして、第1クラッチ機構CL1および第2クラッチ機構CL2は、エンジン5および分割部9ならびに変速部10と同一の軸線上に配置され、かつ変速部10を挟んで分割部9とは反対側に配置されている。なお、各クラッチ機構CL1,CL2同士は、図1に示すように、半径方向で内周側と外周側とに並んだ状態に配置されていてもよく、あるいは軸線方向に並んで配置されていてもよい。図1に示すように半径方向に並べて配置した場合には、第1駆動装置2の全体としての軸長を短くすることができる。また、軸線方向に並べて配置した場合には、各クラッチ機構CL1,CL2の外径の制約が少なくなるので、摩擦式のクラッチ機構を採用した場合には、摩擦板の枚数を少なくすることができる。
上記のエンジン5や分割部9あるいは変速部10の回転中心軸線と平行にカウンタシャフト22が配置されている。前記出力ギヤ21に噛み合っているドリブンギヤ23がこのカウンタシャフト22に取り付けられている。また、カウンタシャフト22にはドライブギヤ24が取り付けられており、このドライブギヤ24が終減速機であるデファレンシャルギヤユニット25におけるリングギヤ26に噛み合っている。さらに、前記ドリブンギヤ23には、第2モータ7におけるロータシャフト27に取り付けられたドライブギヤ28が噛み合っている。したがって、前記出力ギヤ21から出力された動力もしくはトルクに、第2モータ7が出力した動力もしくはトルクを、上記のドリブンギヤ23の部分で加えるように構成されている。このようにして合成された動力もしくはトルクをデファレンシャルギヤユニット25から左右のドライブシャフト29に出力し、その動力やトルクが前輪1R,1Lに伝達されるように構成されている。
さらに、第1駆動装置2は、第1モータ6から出力された駆動トルクを、前輪1R,1Lに伝達することができるように、出力軸15または入力軸16を選択的に固定可能に構成された、摩擦式あるいは噛み合い式の第1ブレーキ機構B1が設けられている。すなわち、第1ブレーキ機構B1により出力軸15または入力軸16を固定することで、分割部9におけるキャリヤ14や、変速部10におけるキャリヤ20を反力要素として機能させ、分割部9におけるサンギヤ11を入力要素として機能させることができるように構成されている。なお、第1ブレーキ機構B1は、第1モータ6が駆動トルクを出力した場合に、反力トルクを発生させることができればよく、出力軸15または入力軸16を完全に固定する構成に限らず、要求される反力トルクを出力軸15または入力軸16に作用させることができればよい。または、出力軸15や入力軸16が、エンジン5の駆動時に回転する方向とは逆方向に回転することを禁止するワンウェイクラッチを第1ブレーキ機構B1に代えて設けてもよい。
第2駆動装置4は、リアモータ30の動力もしくはトルクを後輪3R,3Lに伝達するように構成されている。なお、便宜上、左側の後輪3Lは図示していない。このリアモータ30は、第1モータ6および第2モータ7と同様に、発電機能のあるモータ(すなわちモータ・ジェネレータ:MGR)によって構成されている。リアモータ30には、リアモータ30のトルクを増幅する減速段と、リアモータ30のトルクを変化させずにそのまま出力する固定段とを選択的に切り替えることができるように構成された変速機構31が連結されている。
図2に示す変速機構31は、サンギヤ32と、サンギヤ32に対して同心円上に配置された内歯歯車であるリングギヤ33と、これらサンギヤ32とリングギヤ33との間に配置されてサンギヤ32とリングギヤ33とに噛み合うピニオンギヤ34と、ピニオンギヤ34を自転および公転可能に保持しているキャリヤ35とを有する、シングルピニオン型の遊星歯車機構により構成されている。
変速機構31のサンギヤ32は、リアモータ30に連結されており、入力要素として機能する。キャリヤ35は、出力軸36に連結されており、反力要素として機能する。そして、変速機構31を固定段として機能させるための第3クラッチ機構CL3が設けられている。この第3クラッチ機構CL3は、変速機構31におけるサンギヤ32とリングギヤ33もしくはキャリヤ35、あるいはリングギヤ33とキャリヤ35とを連結するなどの少なくともいずれか二つの回転要素を連結するためのものであって、摩擦式あるいは噛み合い式のクラッチ機構によって構成することができる。図2に示す例では、第3クラッチ機構CL3は、変速機構31におけるリングギヤ33とキャリヤ35とを連結するように構成されている。
さらに、変速機構31を減速段として機能させるための第2ブレーキ機構B2が設けられている。この第2ブレーキ機構B2は、変速機構31におけるリングギヤ33を選択的に固定するように構成された、摩擦式あるいは噛み合い式の係合機構によって構成することができる。図2に示す第2ブレーキ機構B2は、第2駆動装置4を収容するケースなどの固定部Cとリングギヤ33とを係合することにより、リングギヤ33を固定するように構成されている。このように第2ブレーキ機構B2によりリングギヤ33が固定されることでリングギヤ33が反力要素として機能する。なお、第2ブレーキ機構B2は、上記第1ブレーキ機構B1と同様に、リングギヤ33を完全に固定するものに限らない。
変速機構31の出力軸36には、ドライブギヤ37が取り付けられている。出力軸36と平行にカウンタシャフト38が配置されており、そのカウンタシャフト38の一方の端部に、ドライブギヤ37と噛み合うドリブンギヤ39が取り付けられている。このドリブンギヤ39は、ドライブギヤ37よりも大径に形成されており、変速機構31の出力トルクを増幅するように構成されている。カウンタシャフト38の他方の端部には、ドライブギヤ40が取り付けられており、このドライブギヤ40が終減速機であるデファレンシャルギヤユニット41におけるリングギヤ42に噛み合っている。デファレンシャルギヤユニット41には、ドライブシャフト43が連結されており、そのドライブシャフト43を介して後輪3R,3Lに、リアモータ30から出力された動力が伝達されるように構成されている。
第1モータ6にインバータやコンバータなどを備えた第1電力制御装置44が連結され、第2モータ7にインバータやコンバータなどを備えた第2電力制御装置45が連結され、リアモータ30にインバータやコンバータなどを備えた第3電力制御装置46が連結され、それらの各電力制御装置44,45,46が、リチウムイオン電池やキャパシタなどから構成された蓄電装置47に連結されている。また、上記第1電力制御装置44と第2電力制御装置45および第3電力制御装置46とが相互に電力を供給できるように構成されている。具体的には、第1モータ6が反力トルクを出力することに伴って発電機として機能する場合には、第1モータ6で発電された電力を蓄電装置47を介することなく、第2モータ7やリアモータ30に電力を供給することができるように構成されている。
上記の各電力制御装置44,45,46におけるインバータやコンバータ、エンジン5、各クラッチ機構CL1,CL2,CL3、および各ブレーキ機構B1,B2を制御するための電子制御装置(ECU)48が設けられている。このECU48は、この発明の実施形態における「コントローラ」に相当するものであり、マイクロコンピュータを主体にして構成されている。図3は、ECU48の構成の一例を説明するためのブロック図である。図3に示す例では、統合ECU49、MG-ECU50、エンジンECU51、およびクラッチECU52によりECU48が構成されている。
統合ECU49は、車両に搭載された種々のセンサからデータが入力され、その入力されたデータと、予め記憶されているマップや演算式などとに基づいて、MG-ECU50、エンジンECU51、およびクラッチECU52に指令信号を出力するように構成されている。統合ECU49に入力されるデータの一例を図3に示してあり、車速、アクセル開度、第1モータ(MG1)2の回転数、第2モータ(MG2)7の回転数、リアモータ(MGR)30の回転数、エンジン5の出力軸15の回転数(エンジン回転数)、変速部10におけるリングギヤ18またはカウンタシャフト22の回転数である出力回転数、各クラッチ機構CL1,CL2,CL3や各ブレーキ機構B1,B2に設けられたピストンのストローク量、蓄電装置47の温度、各電力制御装置44,45,46の温度、第1モータ6の温度、第2モータ7の温度、リアモータ30の温度、分割部9や変速部10あるいは変速機構31などを潤滑するオイル(ATF)の温度、蓄電装置47の充電残量(SOC)などのデータが、統合ECU49に入力される。
そして、統合ECU49に入力されたデータなどに基づいて第1モータ6の運転状態(出力トルクや回転数)、第2モータ7の運転状態(出力トルクや回転数)、リアモータ30の運転状態(出力トルクや回転数)を求めて、それらの求められたデータを指令信号としてMG-ECU50に出力する。同様に、統合ECU49に入力されたデータなどに基づいてエンジン5の運転状態(出力トルクや回転数)を求めて、その求められたデータを指令信号としてエンジンECU51に出力する。さらに、統合ECU49に入力されたデータなどに基づいて各クラッチ機構CL1,CL2,CL3、および各ブレーキ機構B1,B2の伝達トルク容量(「0」を含む)を求めて、それらの求められたデータを指令信号としてクラッチECU52に出力する。
MG-ECU50は、上記のように統合ECU49から入力されたデータに基づいて各モータ6,7,30に通電するべき電流値を求めて、各モータ6,7,30に指令信号を出力する。各モータ6,7,30は、交流式のモータであるから、上記の指令信号は、インバータで生成するべき電流の周波数や、コンバータで昇圧するべき電圧値などが含まれる。
エンジンECU51は、上記のように統合ECU49から入力されたデータに基づいて電子スロットルバルブの開度を定めるための電流、点火装置で燃料を着火するための電流、EGR(Exhaust Gas Recirculation)バルブの開度を定めるための電流、吸気バルブや排気バルブの開度を定めるための電流値などを求め、それぞれのバルブや装置に指令信号を出力する。すなわち、エンジン5の出力(パワー)や、エンジン5の出力トルク、もしくはエンジン回転数を制御するための指示信号を、エンジンECU51から出力する。
クラッチECU52は、上記のように統合ECU49から入力されたデータに基づいて各クラッチ機構CL1,CL2,CL3、および各ブレーキ機構B1,B2の係合圧を定めるアクチュエータに通電するべき電流値を求めて、それぞれのアクチュエータに指令信号を出力する。
上記の第1駆動装置2は、エンジン5から駆動トルクを出力して走行するHV走行モードと、エンジン5から駆動トルクを出力することなく、第1モータ6や第2モータ7から駆動トルクを出力して走行するEV走行モードとを設定することが可能である。さらに、HV走行モードは、第1モータ6を低回転数で回転させた場合(「0」回転を含む)に、変速部10におけるリングギヤ18の回転数よりもエンジン5(または入力軸16)の回転数が高回転数となるHV-Loモードと、変速部10におけるリングギヤ18の回転数よりもエンジン5(または入力軸16)の回転数が低回転数となるHV-Hiモードと、変速部10におけるリングギヤ18の回転数とエンジン5(または入力軸16)の回転数が同一である直結モードとを設定することが可能である。
またさらに、EV走行モードは、第1モータ6および第2モータ7から駆動トルクを出力するデュアルモードと、第1モータ6から駆動トルクを出力せずに第2モータ7のみから駆動トルクを出力するシングルモードとを設定することが可能である。更にデュアルモードは、第1モータ6から出力されたトルクの増幅率が比較的大きいEV-Loモードと、第1モータ6から出力されたトルクの増幅率が比較的小さいEV-Hiモードとを設定することが可能である。なお、シングルモードでは、第1クラッチ機構CL1を係合した状態で第2モータ7のみから駆動トルクを出力して走行することや、第2クラッチ機構CL2を係合した状態で第2モータ7のみから駆動トルクを出力して走行すること、あるいは各クラッチ機構CL1,CL2を解放した状態で第2モータ7のみから駆動トルクを出力して走行することが可能である。
それらの各走行モードは、第1クラッチ機構CL1、第2クラッチ機構CL2、第1ブレーキ機構B1、およびエンジン5、各モータ6,7を制御することにより設定される。図4に、これらの走行モードと、各走行モード毎における、第1クラッチ機構CL1、第2クラッチ機構CL2、第1ブレーキ機構B1の係合および解放の状態、第1モータ6および第2モータ7の運転状態、エンジン5からの駆動トルクの出力の有無の一例を図表として示してある。図中における「●」のシンボルは係合している状態を示し、「−」のシンボルは解放している状態を示し、「G」のシンボルは主にジェネレータとして運転することを意味し、「M」のシンボルは主にモータとして運転することを意味し、空欄はモータおよびジェネレータとして機能していない、または第1モータ6や第2モータ7が駆動のために関与していない状態を意味し、「ON」はエンジン5から駆動トルクを出力している状態を示し、「OFF」はエンジン5から駆動トルクを出力していない状態を示している。
各走行モードを設定した場合における動力分割機構8の各回転要素の回転数、およびエンジン5、各モータ6,7のトルクの向きを説明するための共線図を図5ないし図10に示している。共線図は、動力分割機構8における各回転要素を示す直線をギヤ比の間隔をあけて互いに平行に引き、これらの直線に直交する基線からの距離をそれぞれの回転要素の回転数とした示す図であり、それぞれの回転要素を示す直線にトルクの向きを矢印で示すとともに、その大きさを矢印の長さで示している。
図5に示すようにHV-Hiモードでは、エンジン5から駆動トルクを出力し、第2クラッチ機構CL2を係合するとともに、第1モータ6から反力トルクを出力する。また、図6に示すようにHV-Loモードでは、エンジン5から駆動トルクを出力し、第1クラッチ機構CL1を係合するとともに、第1モータ6から反力トルクを出力する。上記HV-HiモードやHV-Loモードが設定されている場合の第1モータ6の回転数は、エンジン5の燃費や第1モータ6の駆動効率などを考慮した第1駆動装置2全体としての効率(消費エネルギー量を前輪1R,1Lのエネルギー量で除算した値)が最も良好となるように制御される。上記の第1モータ6の回転数は連続的に変化させることができ、その第1モータ6の回転数と車速とに基づいてエンジン回転数が定まる。したがって、動力分割機構8は、無段変速機として機能できる。
上記のように第1モータ6から反力トルクを出力することにより、第1モータ6が発電機として機能する場合には、エンジン5の動力の一部が第1モータ6により電気エネルギーに変換される。そして、エンジン5の動力から第1モータ6により電気エネルギーに変換された動力分を除いた動力が変速部10におけるリングギヤ18に伝達される。その第1モータ6から出力する反力トルクは、動力分割機構8を介してエンジン5から第1モータ6側に伝達されるトルクの分割率に応じて定められる。この動力分割機構8を介してエンジン5から第1モータ6側に伝達されるトルクと、リングギヤ18側に伝達されるトルクとの比、すなわち動力分割機構8におけるトルクの分割率は、HV-LoモードとHV-Hiモードとで異なる。
具体的には、第1モータ6側に伝達されるトルクを「1」とした場合、HV-Loモードではリングギヤ18側に伝達されるトルクの割合であるトルク分割率は、「1/(ρ1×ρ2)」となり、HV-Hiモードではそのトルク分割率は、「1/ρ1」となる。すなわち、エンジン5から出力されたトルクのうちリングギヤ18に伝達されるトルクの割合は、HV-Loモードでは、「1/((ρ1×ρ2)+1)」となり、HV-Hiモードでは、「1/(ρ1+1)」となる。ここで、「ρ1」は分割部9のギヤ比(リングギヤ12の歯数とサンギヤ11の歯数との比率)であり、「ρ2」は変速部10のギヤ比(リングギヤ18の歯数とサンギヤ17の歯数との比率)である。なお、ρ1およびρ2は、「1」よりも小さい値に設定されている。したがって、HV-Loモードが設定されている場合には、HV-Hiモードが設定されている場合と比較して、リングギヤ18に伝達されるトルクの割合が大きくなる。なお、上記のHV-Loモードが、この発明の実施形態における「第1走行モード」に相当し、HV-Hiモードが、この発明の実施形態における「第2走行モード」に相当する。そして、エンジン5で発生させるトルクによりエンジン5の回転数を増大させている場合には、エンジン5で発生させたトルクからエンジン5の回転数を増大させるために要するトルクを減算したトルクが、エンジン5から出力されるトルクとなる。
そして、第1モータ6により発電された電力が第2モータ7に供給される。その場合、必要に応じて蓄電装置47に充電されている電力も第2モータ7に供給される。なお、第2モータ7とリアモータ30とは、エンジン5から伝達される駆動力に、さらに駆動力を加算するように機能するものであって、車両全体としての駆動力を制御する上では、第2モータ7とリアモータ30とを同一のものとみなすことができるため、第2モータ7に代えて、または第2モータ7に加えてリアモータ30に電力を供給するように構成してもよい。以下では、加算するための駆動力を第2モータ7のみから出力する例を挙げて説明している。
直結モードでは、各クラッチ機構CL1,CL2が係合されることにより、図7に示すように動力分割機構8における各回転要素が同一回転数で回転する。すなわち、エンジン5の動力の全てが動力分割機構8から出力される。言い換えると、エンジン5の動力の一部が、第1モータ6や第2モータ7により電気エネルギーに変換されることがない。したがって、電気エネルギーに変換する際に生じる電気抵抗などを要因とした損失がないため、動力の伝達効率を向上させることができる。
さらに、図8および図9に示すようにEV-LoモードとEV-Hiモードとでは、第1ブレーキ機構B1を係合するとともに各モータ6,7から駆動トルクを出力して走行する。図8および図9に示すように、第1モータ6の回転数に対する変速部10におけるリングギヤ18の回転数である回転数比は、EV-Loモードの方がEV-Hiモードよりも小さくなる。すなわち、EV-Loモードの方が、EV-Hiモードよりも減速比が大きい。そのため、EV-Loモードを設定することにより大きな駆動力を得ることができる。なお、シングルモードでは、図10に示すように第2モータ7のみから駆動トルクを出力しており、かつ各クラッチ機構CL1,CL2が解放されていることにより、動力分割機構8の各回転要素は停止した状態になる。したがって、エンジン5や第1モータ6を連れ回すことによる動力損失を低減することができる。
蓄電装置47の充電残量(SOC)、車速、要求駆動力などに基づいて上記の各走行モードを定めるように構成されている。この実施形態では、蓄電装置47の充電残量を維持するように各走行モードを設定するCS(Charge Sustain)モードと、蓄電装置に充電された電力を積極的に使用するCD(Charge Depleting)モードとを、蓄電装置47の充電残量に応じて選択するように構成されている。具体的には、蓄電装置47の充電残量が低下している場合などに、CSモードを選択し、蓄電装置47の充電残量が比較的多い場合などにCDモードを選択するように構成されている。
図11には、CSモードが選択されている際に各走行モードを定めるためのマップの一例を示している。このマップの横軸は車速を示し、縦軸は要求駆動力を示している。なお、車速は車速センサにより検出されたデータから求めることができ、要求駆動力はアクセル開度センサにより検出されたデータから求めることができる。
図11に示す例では、後進走行している場合には、要求駆動力の大きさに関わらずシングルモードを設定し、また前進走行しており、要求駆動力が比較的小さい場合(減速要求を含む)に、シングルモードを設定するように構成されている。このシングルモードを設定する領域は、第2モータ7やリアモータ30の特性に基づいて定められている。なお、シングルモードを設定する領域にハッチングを付してある。
また、前進走行しており、かつ要求駆動力が比較的大きい場合には、HV走行モードが設定される。なお、HV走行モードは、低車速域から高車速域に亘って駆動力を出力できるため、蓄電装置47の充電残量が下限値近傍となった場合などには、シングルモードが設定されるべき領域であっても、HV走行モードを設定することがある。
さらに、HV走行モードを設定する場合においては、車速と要求駆動力に応じてHV-LoモードやHV-Hiモード、あるいは直結モードのいずれかのモードを選択するように構成されている。具体的には、比較的低車速の場合や要求駆動力が比較的大きい場合に、HV-Loモードが選択され、比較的高車速でかつ要求駆動力が比較的小さい場合に、HV-Hiモードが選択され、車両の運転状態がHV-LoモードとHV-Hiモードとを設定する領域の間の運転点(車速と要求駆動力とに基づいた値)の場合に、直結モードが選択されるように構成されている。
また、上記のHV-Loモード、直結モード、HV-Hiモードは、図11に示す各ラインを運転点が横切ることにより切り替えるように構成されている。具体的には、図11における「Lo←Fix」のラインを運転点が右側から左側に向けて横切った場合や、下側から上側に向けて横切った場合に、直結モードからHV-Loモードに切り替えるように構成され、「Lo→Fix」のラインを運転点が左側から右側に向けて横切った場合や、上側から下側に向けて横切った場合に、HV-Loモードから直結モードに切り替えるように構成されている。同様に、図11における「Fix←Hi」のラインを運転点が右側から左側に向けて横切った場合や、下側から上側に向けて横切った場合に、HV-Hiモードから直結モードに切り替えるように構成され、「Fix→Hi」のラインを運転点が左側から右側に向けて横切った場合や、上側から下側に向けて横切った場合に、直結モードからHV-Hiモードに切り替えるように構成されている。
図12には、CDモードが選択されている際に各走行モードを定めるためのマップの一例を示している。このマップの横軸は車速を示し、縦軸は要求駆動力を示している。なお、車速は車速センサにより検出されたデータから求めることができ、要求駆動力はアクセル開度センサにより検出されたデータから求めることができる。
図12に示す例では、後進走行している場合には、要求駆動力の大きさに関わらずシングルモードを設定し、また前進走行しており、要求駆動力が第1駆動力F1よりも小さい場合(減速要求を含む)に、シングルモードを設定するように構成されている。このシングルモードを設定する領域は、第2モータ7やリアモータ30の特性などに基づいて定められている。なお、シングルモードを設定する領域にハッチングを付してある。
また、前進走行しており、かつ要求駆動力が第1駆動力F1よりも大きい場合には、デュアルモードが設定される。さらに、第1車速V1よりも高車速である場合や、第2車速V2よりも高車速でありかつ要求駆動力が第2駆動力F2よりも大きい場合には、HV走行モードが設定される。なお、HV走行モードは、低車速域から高車速域に亘って駆動力を出力できるため、蓄電装置47の充電残量が下限値近傍となった場合などには、シングルモードやデュアルモードが設定されるべき領域であっても、HV走行モードを設定することがある。
さらに、HV走行モードを設定する場合においては、車速と要求駆動力に応じてHV-LoモードやHV-Hiモード、あるいは直結モードのいずれかの走行モードを選択するように構成されている。具体的には、比較的低車速の場合や要求駆動力が比較的大きい場合に、HV-Loモードが選択され、比較的高車速でかつ要求駆動力が比較的小さい場合に、HV-Hiモードが選択され、車両の走行状態がHV-LoモードとHV-Hiモードとを設定する領域の間の運転点(車速と要求駆動力とに基づいた値)の場合に、直結モードが選択されるように構成されている。
また、上記のHV-Loモード、直結モード、HV-Hiモードは、図12に示す各ラインを運転点が横切ることにより切り替えるように構成されている。具体的には、図12における「Lo←Fix」のラインや「Lo→Fix」のラインを運転点が横切った場合に、直結モードとHV-Loモードとが相互に切り替えられるように構成されている。同様に、図12における「Fix←Hi」のラインや「Fix→Hi」のラインを運転点が横切った場合に、HV-Hiモードと直結モードとが相互に切り替えられるように構成されている。
なお、図11や図12に示す走行モードを設定する領域や、HV走行モードを設定する条件下におけるモードの切り替えを行うためのラインは、第1駆動装置2を構成する各部材の温度や、蓄電装置47あるいは電力制御装置44,45,46の温度、もしくは蓄電装置47の充電残量などに応じて変動するように構成してもよい。
上述した第1クラッチ機構CL1および第2クラッチ機構CL2が、ノーマルオープン型のクラッチ機構である場合や、ノーマルクローズ型のクラッチ機構である場合、あるいは一方のクラッチ機構CL1(CL2)がノーマルオープン型のクラッチ機構でありかつ他方のクラッチ機構CL2(CL1)がノーマルクローズ型のクラッチ機構である場合には、クラッチ機構を制御するためのアクチュエータの油圧や電力などが意図せずに低下するフェールが生じると、意図しない走行モードの切り替えが生じてエンジン5から前輪1R,1Lに伝達されるトルクの増幅率が変化するなどして、ショックが生じる可能性がある。
なお、ノーマルオープン型のクラッチ機構とは、油圧や電力などの制御量が所定値以上になることによりトルク伝達可能に係合し、制御量が所定値未満になることによりトルクの伝達を遮断するように構成されたクラッチ機構である。言い換えると、係合するための制御信号が入力されることにより解放状態から連結状態に切り替えるとともに、その制御信号が入力されなくなると解放状態に切り替わるように構成されたクラッチ機構である。また、ノーマルクローズ型のクラッチ機構とは、制御量が所定値未満になることによりトルク伝達可能に係合し、制御量が所定値以上になることによりトルクの伝達を遮断するように構成されたクラッチ機構である。言い換えると、解放するための制御信号が入力されることにより連結状態から解放状態に切り替えるとともに、その制御信号が入力されなくなると連結状態に切り替わるように構成されたクラッチ機構である。
上記の意図しない走行モードの切り替えの例を挙げて説明すると、第1クラッチ機構CL1および第2クラッチ機構CL2がノーマルオープン型のクラッチ機構の場合には、HV-Hiモードを設定している際に第2クラッチ機構CL2を制御するアクチュエータに何らかのフェールが生じて連結状態を維持するために要する制御量を出力できなくなると、第2クラッチ機構CL2が意図せずに解放され、HV-Hiモードからニュートラルに切り替えられる。その結果、駆動力が急激に変化することにより、ショックが生じる可能性がある。
または、第1クラッチ機構CL1および第2クラッチ機構CL2がノーマルクローズ型のクラッチ機構の場合には、HV-Hiモードを設定している際に第1クラッチ機構CL1を制御するアクチュエータに何らかのフェールが生じて解放状態を維持するために要する制御量を出力できなくなると、第1クラッチ機構CL1が意図せずに係合し、HV-Hiモードから直結モードに切り替えられる。その結果、駆動力が急激に変化することにより、ショックが生じる可能性がある。
すなわち、ノーマルクローズ型のクラッチ機構が解放している場合、あるいはノーマルオープン型のクラッチ機構が係合している場合に、何らのフェールが生じて現状を維持するために要する制御量を出力できなくなると、意図せずに走行モードが切り替わってショックが生じる可能性がある。
そのため、第1クラッチ機構CL1と第2クラッチ機構CL2との少なくともいずれか一方のクラッチ機構は、いわゆるノーマルステイ型のクラッチ機構により構成されている。なお、ノーマルステイ型のクラッチ機構とは、解放状態から連結状態に切り替えるための係合信号が入力されることにより、それに応じた制御量をアクチュエータから出力して解放状態から前記連結状態に切り替え、かつ連結状態から解放状態に切り替えるための解放信号が入力されることにより、それに応じた制御量をアクチュエータから出力して連結状態から解放状態に切り替えるとともに、連結状態で係合信号および解放信号が入力されなくなった場合にアクチュエータからの出力を停止したとしても連結状態を維持し、かつ解放状態で係合信号および解放信号が入力されなくなった場合にアクチュエータからの出力を停止したとしても解放状態を維持するように構成されたクラッチ機構である。すなわち、制御信号が入力されることにより連結状態と解放状態とを切り替え、かつ制御信号が入力されていない場合に、制御信号が入力されなくなる直前の状態(連結状態または解放状態)を維持するように構成されたクラッチ機構である。したがって、クラッチ機構を制御するためのアクチュエータから制御信号を出力することができないフェールが生じた時点でクラッチ機構が係合している場合には、そのまま連結状態を維持し、その時点でクラッチ機構が解放している場合には、そのまま解放状態を維持するように構成されている。
ノーマルステイ型のクラッチ機構の構成の一例を図13に模式的に示してある。図13に示す例は、第1クラッチ機構CL1および第2クラッチ機構CL2のいずれも同様に構成することができる。したがって、以下の説明では、クラッチ機構の構成についての説明では、同一の名称および同一の参照符号を付して説明する。図13に示すクラッチ機構CLは、互いに対向する二つの回転部材53,54にそれぞれドグ歯55,56が形成され、そのドグ歯55,56を噛み合わせることによりトルクが伝達されるドグクラッチ(噛み合い係合機構)により構成されている。なお、このクラッチ機構CLを第1クラッチ機構CL1に採用した場合には、一方の回転部材53(54)が回転盤14aに相当し、他方の回転部材54(53)がキャリヤ20に相当する。また、このクラッチ機構CLを第2クラッチ機構CL2に採用した場合には、一方の回転部材53(54)が回転盤20aに相当し、他方の回転部材54(53)がリングギヤ18に相当する。また、このクラッチ機構CLを第1クラッチ機構CL1に採用した場合には、第1クラッチ機構CL1が、この発明の実施形態における「第1係合機構」に相当し、第2クラッチ機構CL2が、この発明の実施形態における「第2係合機構」に相当する。
それらの回転部材53,54のうちの一方の回転部材(以下、第1回転部材と記す)53に他方の回転部材(以下、第2回転部材と記す)54に向けた押圧力、および第2回転部材54から離隔する荷重を作用させるアクチュエータ57が設けられている。図13に示す例では、図示しないモータと、そのモータからトルクが伝達されることにより回動するプレート58と、そのプレート58が回動することにより、第1回転部材53を第2回転部材54に接近または離隔させるロッド59とによりアクチュエータ57が構成されている。
図13に示すプレート58には、モータの出力トルクを伝達するシャフト60が差し込まれる貫通孔61と、プレート58の回転中心軸から半径方向に所定距離離れた位置に形成されかつロッド59の一方の端部が差し込まれる貫通孔62と、プレート58の回転方向で貫通孔62と離れた位置に形成されかつ回転中心軸側に窪んだ第1凹部63と第2凹部64とが形成されている。
上記貫通孔61は、シャフト60と一体に回転するように、例えば、シャフト60にキーが形成され、そのキーに係合するキー溝が貫通孔61に形成されている。また貫通孔62は、ロッド59の一方の端部と相対回転できるように形成されており、その貫通孔62に差し込まれたロッド59の先端などに図示しない抜け止め部が形成されている。
第1凹部63および第2凹部64は、ケースなどの固定部Cに形成された係合部65に係合することでプレート58の回動を抑制するものである。第1凹部63は、第1ドグ歯55が第2ドグ歯56から最も離隔したときに、係合部65が係合する位置に形成され、第2凹部64は、第1ドグ歯55が第2ドグ歯56に噛み合ってトルク伝達する位置まで移動したときに、係合部65が係合する位置に形成されている。なお、プレート58の回転方向における第1凹部63と第2凹部64との側面63a,64aは、モータから所定のトルクが入力されることにより係合部65が第1凹部63や第2凹部64から離脱し、かつ車両が振動した場合などの外乱が生じたときには、係合部65が第1凹部63や第2凹部64から離脱しない程度の傾斜角に形成されている。また、係合部65は、プレート58に比較的大きなトルクが作用した場合に、傾斜面63a,64aに沿って弾性変形するように構成されている。すなわち、モータからプレート58にトルクが入力された場合には、プレート58の半径方向に傾斜面63a,64aから係合部65が荷重を受けて、係合部65が傾斜面63a,64aに沿って弾性変形する。
したがって、係合信号または解放信号に応じたトルクをモータからプレート58に入力することにより第1凹部63と係合部65との連結状態が解消されて、第2凹部64と係合部65とが係合し、または第2凹部64と係合部65との連結状態が解消されて、第1凹部63と係合部65とが係合する。一方、振動などのいわゆる外乱が生じた場合などモータからトルクを入力していない場合には、第1凹部63と係合部65との連結状態、または第2凹部64と係合部65との連結状態が維持される。
図13に示す例では、ロッド59の一方の端部は、プレート58側(図13における上側)に屈曲して形成され、更にその先端を貫通孔62に挿入するように(図13における奥行側に)屈曲して形成されている。また、ロッド59の中央部は、ケースなどに形成されたガイド溝(またはガイド孔)Gによって軸線方向に移動可能に保持されている。さらに、ロッド59の他端は、スラストベアリング66を介して上記第1回転部材53に当接している。なお、スラストベアリング66は、ロッド59と第1回転部材53とが相対回転できるように設けられ、プレート58のトルクに基づいたロッド59の軸力を、スラストベアリング66を介して第1回転部材53に伝達できるように構成されている。
上述したようにクラッチ機構CLを構成することにより、モータやモータに通電するための電気回路がフェールして、プレート58にトルクを伝達することができなくなった場合、すなわちクラッチ機構CLを制御することができなくなった場合には、フェールが生じる直前の状態を維持することができる。したがって、第1クラッチ機構CL1と第2クラッチ機構CL2との少なくともいずれか一方のクラッチ機構を、上記のように構成されたノーマルステイ型のクラッチ機構とすることにより、一方のクラッチ機構(ノーマルステイ型のクラッチ機構)がフェールしたとしても、意図せずに連結状態と解放状態とが切り替わることを抑制できるため、走行モードが切り替わることを抑制できる。そのため、フェールが生じたことを要因として、エンジン5から前輪1R,1Lに伝達されるトルクの増幅率などが変化することを抑制でき、その結果、フェールを要因としたショックが生じることを抑制でき、またはショックが生じる可能性を低減することができる。
特に、第1クラッチ機構CL1と第2クラッチ機構CL2とをノーマルステイ型のクラッチ機構とした場合には、いずれのクラッチ機構がフェールしたとしても、走行モードが切り替わることを抑制できるため、ショックが発生することを抑制できる。
なお、ノーマルステイ型のクラッチ機構CLは、図13に示す構成に限定されず、例えば、ロッド59に凹部を形成し、その凹部にピンを差し込んで、クラッチ機構CLの連結状態または解放状態を維持するように構成してもよい。その場合には、連結状態と解放状態との切り替え時にピンを凹部から離脱させるためのアクチュエータなどを更に設ければよい。また、アクチュエータ57は、電動式のアクチュエータに限らず、油圧式のアクチュエータであってもよく、その場合、油圧室に供給する油圧回路にポペット型のバルブを設けるなど、制御信号が入力されていないときに、油圧室の油圧の変動を抑制できる構成を備えていればよい。
このように構成されたクラッチ機構は、例えば第1クラッチ機構CL1に上記のドグクラッチを採用した場合、HV-LoモードからHV-Hiモードに切り替える際に、図4の図表で示したように、第1クラッチ機構CL1を解放、かつ第2クラッチ機構CL2を係合する。そして、そのように、クラッチ機構の係合状態を切り替えて走行モードを変更する際は、その走行モードの切り替えにおけるラグを短縮することが好ましい。そこで、この発明の実施形態では、走行モードを切り替える際の、ラグを効果的に短縮できるように構成されている。
具体的には、HV-LoモードからHV-Hiモードに切り替える際に、解放される第1クラッチ機構CL1がトルク伝達している状態で、その第1クラッチ機構CL1に解放力(推力)を付与するように構成されている。図14は、その制御の一例を説明する図である。以下に説明する。なお、図14に示す例では、第1クラッチ機構CL1は、特に説明する場合を除いてノーマルステイ型のクラッチ機構として説明する。また、以下に示すルーチンは所定の短時間ごとに繰り返し実行される。
先ず、第1クラッチ機構CL1が係合状態であるか否かを判断する(ステップS1)。これは、上述したようにHV-LoモードからHV-Hiモードに走行モードを切り替えるから、先ず第1クラッチ機構CL1を解放する。つまり、このステップS1では、第1クラッチ機構CL1の制御状態が係合状態あるいは既に第1クラッチ機構CL1の解放制御(走行モードの切替制御)を実行中かを判断する。したがって、このステップS1で肯定的に判断された場合、すなわち第1クラッチ機構CL1が係合中であると判断された場合には、その係合状態を維持するための推力を算出する(ステップS2)。これは、例えば第1クラッチ機構CL1がノーマルオープン型のクラッチ機構の場合には、第1クラッチ機構CL1が解放される、あるいは、第1クラッチ機構CL1の係合力が低下するおそれがあるから、そのような場合には、係合状態を維持するための推力をアクチュエータ57で制御する。一方、上述したように、第1クラッチ機構CL1がノーマルステイ型のクラッチ機構の場合には、係合状態は維持されるので、このステップS2はスキップして、そのままリターンする。
これとは反対に、このステップS1で否定的に判断された場合、すなわち第1クラッチ機構CL1が解放制御を実行中であると判断された場合には、ついでその第1クラッチ機構CL1の係合力が予め定められた閾値α未満か否かを判断する(ステップS3)。
上述したように、HV-Hiモードに走行モードを切り替えるには第1クラッチ機構CL1を解放させる。つまり、第1クラッチ機構CL1にトルクが作用しているとドグ歯55,56の接触面における摩擦力(あるいは摩擦抵抗)が大きくなるから、その第1クラッチ機構CL1に作用するトルクを低減させる。そして、その低減させた第1クラッチ機構CL1の係合力が予め定められた閾値α未満か否かを判断する(係合力<α)。なお、この閾値αは、第1クラッチ機構CL1に作用するトルクが所定値まで低下したことを判断する値である。
したがって、このステップS3で肯定的に判断された場合、すなわち第1クラッチ機構CL1の係合力が閾値α未満であると判断された場合には、第1クラッチ機構CL1を解放させるための推力(以下、単に解放推力と記す)をその第1クラッチ機構CL1に付与し、またその解放推力を付与するステップが初回か否かを判断する(ステップS4)。上述したように、この図14に示すフローチャートは、走行モードを切り替える際のラグを短縮する制御であり、第1クラッチ機構CL1に伝達トルクが作用している状態で、第1クラッチ機構CL1に解放推力を付与する。また、このステップS4では、その解放推力を付与するステップが初回であるか否かを判断する。したがって、このステップS4で肯定的に判断された場合、すなわち第1クラッチ機構CL1に付与する解放推力が初回である場合には、その解放推力の初期値を算出する(ステップS5)。
解放推力を付与するステップが初回である場合には、初期値として所定の解放推力(すなわちドグ歯55,56を離隔させる推力)を発生させる。図15は、その解放推力の初期値の一例を説明するマップであって、縦軸に解放推力の初期値を示し、横軸に第1クラッチ機構CL1の係合力を示している。図15に示す実線、破線、ならびに、一点鎖線のそれぞれのパターンは、応答性の優先度によってそれぞれ選択(制御)され、通常は、急に解放されることを防ぐため、あるいは、ショックの発生を抑制するために一点鎖線のパターンを選択する。なお、より早く第1クラッチ機構CL1を解放させる場合には、実線のパターンを選択する。したがって、このステップS5で解放推力の初期値を算出したら、その算出した解放推力で指示(制御)する(ステップS6)。なお、この解放推力は、上述したアクチュエータ57によって制御される。また、上記の初期値が、この発明の実施形態における「所定の解放推力」に相当する。
一方、上述したステップS4で否定的に判断された場合、すなわち第1クラッチ機構CL1に付与する解放推力が初回でない場合には、ついで、実際に第1クラッチ機構CL1が解放中であるか否かを判断する(ステップS7)。つまり、ドグ歯55,56がストローク中か否かを判断する。したがって、このステップS5で肯定的に判断された場合、すなわちドグ歯55,56がストローク中であって、第1クラッチ機構CL1が解放中である場合には、解放推力を増加させる増加量を算出する(ステップS8)。
上述したように、第1クラッチ機構CL1は解放中であるから、所定の解放推力が第1クラッチ機構CL1に作用している。つまり、ステップS5で算出した解放推力の初期値が少なくとも作用している。したがって、このステップS8では、その解放推力を増加させる増加量を算出する。この増加量は、例えば図16に示すマップから算出することができ、アクセル開度に応じてその増加量が決定される。図16に示す例では、縦軸に解放推力の増加量を示し、横軸にアクセル開度を示している。したがって、例えば、そのアクセル開度が小さい場合には、変速(すなわち走行モードの切り替え)の応答性は比較的低いので、その増加量はほぼ0であり、解放推力は初期値のままを維持する。これとは反対に、例えばアクセル開度が大きい場合には、上記の変速の応答性は比較的高いので、より早く第1クラッチ機構CL1を解放させるべく、その解放推力を増大させるために、その増加量を大きくする。そして、そのように増加量を算出したらその増加量を加算した解放推力を指示する(ステップS6)。
一方、上記のステップS7で否定的に判断された場合、すなわち第1クラッチ機構CL1が解放中でないと判断された場合には、ついで、その解放状態における解放推力を算出する(ステップS9)。これは、例えば第1クラッチ機構CL1の解放完了の判定をドグ歯55,56が軸線方向で離れたことをもって解放完了と判断する場合、各ドグ歯55,56を原点位置に戻すために上記の解放推力を付与する。つまり、このステップS9では、第1クラッチ機構CL1の解放動作は完了しており、ドグ歯55,56を元の位置に戻すための推力を付与する。したがって、第1クラッチ機構CL1が解放完了と判断された場合には、ドグ歯55,56を原点位置に戻すための推力を算出して指示する(ステップS6)。なお、このステップS9で既にドグ歯55,56が原点位置にあるような場合には、現在の状態を維持するための推力を発生させるステップとしてもよい。あるいは、このステップS9は省略してリターンしてもよい。
つぎに、上記の第1クラッチ機構CL1を解放する際に、第1モータ6が出力すべきトルクについて説明する、上述したように第1クラッチ機構CL1を解放する際には、第1クラッチ機構CL1に作用する伝達トルクを低減させる。つまり、ドグ歯55,56の接触面における摩擦力を低減させる。また、その伝達トルクは第1モータ6によって制御されており、以下に、ドグ歯55,56がストローク中か否かに応じて指示すべきトルクについて説明する。
図17は、その制御例を説明するフローチャートであって、先ず、第1クラッチ機構CL1が解放制御中か否かを判断する(ステップS100)。これは、上述したように走行モードを、HV-LoモードからHV-Hiモードに切り替える際における制御であって、第1クラッチ機構CL1の制御状態を判断する。したがって、このステップS100で否定的に判断された場合、すなわち第1クラッチ機構CL1が係合状態である場合には、その係合状態を維持する第1モータ6のトルクを算出し(ステップS110)、その算出したトルクを指示する(ステップS120)。
これとは反対に、このステップS100で肯定的に判断された場合、すなわち第1クラッチ機構CL1が解放制御中である場合には、ついでドグ歯55,56がストローク中か否かを判断する(ステップS130)。これは、例えばドグ歯55,56がストローク中か否かに応じて第1モータ6の出力すべきトルクを変更するものであって、例えばドグ歯55,56が既にストローク中であれば、ストローク量に応じて第1モータ6のトルクを低下させる。つまり、このステップS130で肯定的に判断された場合には、ドグ歯55,56がストローク中における第1モータ6のトルクを算出する(ステップS140)。
また、そのドグ歯55,56がストローク中における第1モータ6のトルクは、例えば図18に示すマップから算出でき、これに示すように所定のストローク量に応じて、第1モータ6のトルクを低下させ、ドグ歯55,56が解放完了付近で第1モータ6のトルクが0になる。したがって、ドグ歯55,56がストローク中であると判断された場合には、例えばこの図18のマップから指示すべきトルクを算出して制御する(ステップS120)。
一方、上記のステップS130で否定的に判断された場合、すなわちドグ歯55,56が未だストロークしていないと判断された場合には、ストロークしていない場合の第1モータ6のトルクを算出する(ステップS150)。このトルクは、例えば図19に示すようなマップから算出でき、アクセル開度に応じて第1モータのトルクを決定する。つまり、第1クラッチ機構CL1を解放させるためのトルクであるから、解放制御を開始して、所定量、第1モータ6のトルクが低下している状態から、どの程度(あるいはどのレンジで)第1モータ6のトルクを低下させるかを算出する。図19は、その低下量(減少量)をアクセル開度との関係で決定している。具体的には、そのアクセル開度が大きい程、トルクの低下量を増大させる。言い換えればその第1モータ6のトルクをより早く減少させる。すなわち、アクセル開度が大きい場合には、変速の応答性をより早くするために、第1モータ6のトルクの減少量を増大させる。そして、そのように算出した第1モータ6のトルクを指示する(ステップS120)。
ここで、上述した図14および図17に示す制御例を実行した場合におけるクラッチ機構CLの制御状態、第1モータ6の回転数、第1モータ6のトルク、第1クラッチ機構CL1に作用する推力、ドグ歯55,56のストロークの変化を図20に示すタイムチャートを参照して説明する。図20に示す例は、走行モードをHV-LoモードからHV-Hiモードに切り替える場合の例である。
先ず、t0時点では、第1クラッチ機構CL1が係合状態であって、HV-Loモードが設定されている。したがって、この時点では、ドグ歯55,56は係合状態であって、またその係合状態に応じた係合力とされている。
ついで、t1時点で、第1クラッチ機構CL1の解放制御が開始される。つまり、走行モードの切り替える制御が開始され、この時点で変速開始と判断できる。また、第1クラッチ機構CL1を解放する際に、その第1クラッチ機構CL1にトルクが作用しているど、ドグ歯55,56が抜けない(離隔)ため、その第1クラッチ機構CL1に作用するトルクを低減させる。つまり、第1モータ6のトルクを低下させる。この第1モータ6のトルクを低下させるレンジ(傾き)は、例えば上述した図17の制御例におけるステップS150で説明したように図19のマップを用いる。また、そのように第1モータ6のトルクを低下させることに伴って、第1クラッチ機構CL1の係合力(すなわちドグ歯の係合力)も低下し始める。
ついで、そのように、第1クラッチ機構CL1に作用するトルクが所定値αまで低下すると、第1クラッチ機構CL1に、上述した解放推力が付与される(t2時点)。これは、上述したように、この発明の実施形態では、変速(走行モードの切り替え)の際の応答性を向上させる、すなわち変速のラグを短縮する制御であるから、第1クラッチ機構CL1にトルクが作用している状態で、第1クラッチ機構CL1を解放させる解放推力を第1クラッチ機構CL1に作用させる。したがって、このt2時点で、その解放推力が第1クラッチ機構CL1に付与される。すなわち、図14の制御例のステップS5で説明した解放推力の初期値が付与される。なお、この解放推力は、図15に示したように、変速の応答性に応じて決定されるものの、この発明の実施形態では、このt2時点における第1クラッチ機構CL1の係合力より小さい力が初期値として付与される。
そして、その付与された解放推力は図20に示すように漸次的(徐々)に増大され、その増大された解放推力と、第1モータ6のトルクの低下に伴って低下している第1クラッチ機構CL1の係合力とが交差した時点(すなわち第1クラッチ機構CL1の係合力と解放推力とが釣り合う点)で、ドグ歯55,56のストロークが開始される(t3時点)。つまり、実際に第1クラッチ機構CL1が解放し始める。言い換えれば、解放推力がドグ歯55,56の接触面の摩擦力より大きくなった時点で、ドグ歯55,56がストロークし始める。
また、このようにドグ歯55,56がストロークし始めると、ドグ歯55,56に作用するトルクが小さくなっている状態で外乱等により大きなトルクが作用すると歯欠けなど耐久性が低下するおそれがあるので、可及的に第1モータ6のトルクを低下させる。そして、そのように低下した第1モータ6のトルクは0になり、併せて第1クラッチ機構CL1の係合力も0になる(t4時点)。なお、この状態において、上述した解放推力は徐々に増大されており、その勾配は、例えば図14のステップS8で説明したように図16のマップから算出される。また、図20に示す例では、第1クラッチ機構CL1の係合力が0になったt4時点で、第1クラッチ機構CL1の解放完了と判断する。
そして、ドグ歯55,56が原点位置に戻るように解放推力を付与し続け(t5時点)、その状態を所定時間維持したら、その解放推力を0にする(t6時点)。また、そのように第1クラッチ機構CL1が解放されたら、HV-Hiモードへ移行するために第2クラッチ機構CL2の制御を実行し、併せて図20に示す例では、エンジン5の運転点を最適燃費点にするように第1モータ6を制御する。つまり、図20に示すように第1モータ6の回転数を低下させるように第1モータ6のトルクを低下させる。
つぎに、この発明の実施形態における作用について説明する。上述したように、この発明の実施形態では、走行モードを切り替える際に、第1クラッチ機構CL1がトルク伝達している状態で、その第1クラッチ機構CL1に解放推力を付与するように構成されている。したがって、第1モータ6のトルクを制御して第1クラッチ機構CL1の伝達トルク容量が0になる前に、第1クラッチ機構CL1の解放動作を開始できる。そのため、従来知られている制御のように、上記の伝達トルクが0になった後に第1クラッチ機構CL1に解放力を作用させる場合に比べて、走行モードの切り替え、すなわち変速の応答性を向上させることができる。つまり、変速におけるラグを短縮することができる。
また、この発明の実施形態では、第1クラッチ機構CL1に解放推力を付与する際に、図20のタイムチャートで説明したように、漸次的(徐々)にその解放推力を増大させている。したがって、例えば前掲した特許文献1の構成のように、その解放推力を固定値にした場合に比べて、より早く第1クラッチ機構CL1を解放でき、その結果、変速の応答性を向上させ、つまり変速におけるラグを短縮できる。言い換えれば、ドグ歯55,56の歯面が経年劣化等により摩耗していた場合など、各種推定値に誤差がある場合であっても、解放推力を増大させている間に、第1クラッチ機構CL1の係合力と釣り合うことで解放動作が開始されるため、より安定した解放動作が可能となる。
つぎに、この発明の実施形態における他の例について説明する。図21は、その例を説明するタイムチャートである。この図21に示す例では、図20のタイムチャートで説明した例と基本的な制御あるいは構成は同様であって、第1クラッチ機構CL1の係合力を低下させる程度(勾配)が異なる。以下に、具体的に説明する。なお、上述したように、基本的な制御や構成については図20と例と同様であるから、同様の制御や構成については、その説明を省略あるいは簡略化する。
先ず、t0時点ではHV-Loモードが設定されており、t1時点で第1クラッチ機構CL1の解放制御が開始される。また、それに伴って、第1クラッチ機構CL1を解放させるために第1モータ6のトルクを低下させる。そして、そのように第1モータ6のトルクを低下させることにより、ドグ歯55,56の接触面における摩擦力が低減し、第1クラッチ機構CL1の係合力も低下する。そして、その第1クラッチ機構CL1の係合力が閾値αまで低下したら、その状態で第1クラッチ機構CL1に解放推力(初期値)を付与する(t2時点)。ついで、その解放推力が徐々に増大され、低下している第1クラッチ機構CL1の係合力と釣り合うことにより、ドグ歯55,56のストロークが開始される(t3時点)。つまり、実際に第1クラッチ機構CL1が解放し始める。
上述した図20の例では、ドグ歯55,56のストロークが開始されてt3時点からt4時点に亘って所定の傾き(勾配)で、第1モータ6のトルクおよび第1クラッチ機構CL1の係合力を0まで低下するように構成されている。一方、この図21に示す例では、第1モータ6のトルクを、t3時点からt5時点に亘って0にし、また第1クラッチ機構CL1の係合力はt3時点からt4時点に亘って所定値まで下げて0にするように構成されている。これは、第1モータ6に加えて図示しないエンジントルクを制御することにより、第1クラッチ機構CL1の係合力を所定値まで低下させる。そして、t4時点で第1クラッチ機構CL1が解放完了となるものの、このように解放完了直前に第1クラッチ機構CL1の係合力を所定値まで低下させることにより、ドグ歯55,56における歯面の面圧が上昇することを抑制でき、つまり耐久性を向上させることができる。なお、図21に示す例では、上述したように、エンジントルクを制御することにより、一時的に第1モータ6の回転数が上昇する。t5時点以降については、図20と同様であるため、ここでは省略する。
つぎに、この発明の実施形態における更に他の例について説明する。図22は、その例を示すタイムチャートである。上述したように図21の例では、図示しないエンジントルクを制御することにより、第1クラッチ機構CL1の係合力を、解放完了直前の歯面における面圧の上昇を抑制するために所定値まで低下するように構成されていた。一方、このように制御すると、上述したように、第1モータ6の回転数が一時的に増大される。つまり、その後第1モータ6の回転数を低下させるのに対して、一時的に第1モータ6が逆方向に回動する。したがって、そのような逆方向への回動を抑制するために、図22に示す例では、ドグ歯55,56のストロークが開始される前に、すなわち第1クラッチ機構CL1の解放が開始される前に、第1クラッチ機構CL1の係合力を低下させるように構成されている。つまり、その係合力を低下させる傾き(勾配)を変更するように構成されている。
具体的には、図22に示す例では、解放が開始されるt3時点より前に(すなわちt2時点)、係合力をより低下させるように傾きを変更している。そして、そのように制御することにより、図22に示す第1モータ6の回転数の変化は、図21に示す例に比べて小さくなり、つまり回転数が増大する方向への変化が小さい。そのため、図21の例のようにドグ歯55,56がストローク開始したことを検知してから、第1モータ6のトルクを低下させる場合に比べて、その回転数を変化(低下)させる変化量が小さくなる。したがって、その分、走行モードの切り替え、すなわち変速の応答性を向上させることができる。なお、その他の構成や制御の内容については、上述した図21の例と同様であるため、その説明は省略する。
具体的には、第1モータ6側に伝達されるトルクを「1」とした場合、HV-Loモードではリングギヤ18側に伝達されるトルクの割合であるトルク分割率は、「1/(ρ1×ρ2)」となり、HV-Hiモードではそのトルク分割率は、「1/ρ1」となる。すなわち、エンジン5から出力されたトルクのうちリングギヤ18に伝達されるトルクの割合は、HV-Loモードでは、「1/(1−(ρ1×ρ2))」となり、HV-Hiモードでは、「1/(ρ1+1)」となる。ここで、「ρ1」は分割部9のギヤ比(リングギヤ12の歯数とサンギヤ11の歯数との比率)であり、「ρ2」は変速部10のギヤ比(リングギヤ18の歯数とサンギヤ17の歯数との比率)である。なお、ρ1およびρ2は、「1」よりも小さい値に設定されている。したがって、HV-Loモードが設定されている場合には、HV-Hiモードが設定されている場合と比較して、リングギヤ18に伝達されるトルクの割合が大きくなる。なお、上記のHV-Loモードが、この発明の実施形態における「第1走行モード」に相当し、HV-Hiモードが、この発明の実施形態における「第2走行モード」に相当する。そして、エンジン5で発生させるトルクによりエンジン5の回転数を増大させている場合には、エンジン5で発生させたトルクからエンジン5の回転数を増大させるために要するトルクを減算したトルクが、エンジン5から出力されるトルクとなる。
そして、第1モータ6により発電された電力が第2モータ7に供給される。その場合、必要に応じて蓄電装置47に充電されている電力も第2モータ7に供給される。なお、第2モータ7とリアモータ30とは、エンジン5から伝達される駆動トルクに、さらに駆動トルクを加算するように機能するものであって、車両全体としての駆動力を制御する上では、第2モータ7とリアモータ30とを同一のものとみなすことができるため、第2モータ7に代えて、または第2モータ7に加えてリアモータ30に電力を供給するように構成してもよい。以下では、加算するための駆動トルクを第2モータ7のみから出力する例を挙げて説明している。
また、上記のHV-Loモード、直結モード、HV-Hiモードは、図12に示す各ラインを運転点が横切ることにより切り替えるように構成されている。具体的には、図12における「Lo⇔Fix」のラインを運転点が横切った場合に、直結モードとHV-Loモードとが相互に切り替えられるように構成されている。同様に、図12における「Fix⇔Hi」のラインを運転点が横切った場合に、HV-Hiモードと直結モードとが相互に切り替えられるように構成されている。
ついで、t1時点で、第1クラッチ機構CL1の解放制御が開始される。つまり、走行モードの切り替える制御が開始され、この時点で変速開始と判断できる。また、第1クラッチ機構CL1を解放する際に、その第1クラッチ機構CL1にトルクが作用していると、ドグ歯55,56が抜けない(離隔)ため、その第1クラッチ機構CL1に作用するトルクを低減させる。つまり、第1モータ6のトルクを低下させる。この第1モータ6のトルクを低下させるレンジ(傾き)は、例えば上述した図17の制御例におけるステップS150で説明したように図19のマップを用いる。また、そのように第1モータ6のトルクを低下させることに伴って、第1クラッチ機構CL1の係合力(すなわちドグ歯の係合力)も低下し始める。
具体的には、図22に示す例では、解放が開始されるt3時点より前に(すなわちt2時点)、係合力をより低下させるように傾きを変更している。そして、そのように制御することにより、図22に示す第1モータ6の回転数の変化は、図21に示す例に比べて小さくなり、つまり回転数が増大する方向への変化が小さい。そのため、図21の例のようにドグ歯55,56がストロークを開始したことを検知してから、第1モータ6のトルクを低下させる場合に比べて、その回転数を変化(低下)させる変化量が小さくなる。したがって、その分、走行モードの切り替え、すなわち変速の応答性を向上させることができる。なお、その他の構成や制御の内容については、上述した図21の例と同様であるため、その説明は省略する。