JP2019079615A - 正極の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】熱分解による異相の生成を抑制しつつ、低温で正極を焼結可能とする。【解決手段】層状岩塩型結晶相を有するリチウム含有複合酸化物の粒子を酸溶液に接触させて前記粒子からリチウムを引き抜く、酸処理工程、リチウムが引き抜かれた前記粒子と前記リチウム含有複合酸化物よりも融点の低いリチウム化合物とを混合して混合物を得る、混合工程、リチウムが引き抜かれた前記粒子の分解温度よりも低い温度にて前記混合物を加熱する、仮焼工程、及び、前記仮焼工程の後で前記混合物を前記リチウム化合物の融点以上の温度で加熱して前記混合物を焼結させる、焼結工程、を備える、正極の製造方法とする。【選択図】図1

Description

本願は正極の製造方法を開示する。
電解質として固体の無機酸化物を用いた酸化物固体電池は、正極、酸化物固体電解質層及び負極を焼結によって接合することで、正極と酸化物固体電解質層との界面抵抗や酸化物固体電解質層と負極との界面抵抗等を低減することができるものと考えられる。一方、熱劣化を起こし易い硫化物固体電解質を用いた硫化物固体電池のように、焼結によって各層を接合することができない固体電池は、拘束部材を用いて電池を加圧することで電池材料の接触界面を増大させて、界面抵抗を低減させているのが現状である。すなわち、酸化物固体電池は、他の固体電池と比較して、正極、酸化物固体電解質層及び負極を拘束するための部材が不要であり、電池全体としてのエネルギー密度を容易に高めることができるという利点がある。
酸化物固体電池の正極活物質としては、層状岩塩型結晶相を有するリチウム含有複合酸化物を適用できる。このような複合酸化物の粒子を焼結させることで、酸化物固体電池の正極を構成できる。例えば、特許文献1には、層状岩塩型結晶相を有するLiCoOの粉末を型に充填し、型内を減圧し、800℃以上880℃以下の温度で加圧焼結する方法が開示されている。また、特許文献2には、層状岩塩型結晶相を有するリチウム含有複合酸化物と所定の添加物とを混合して成形体とし、当該成形体を750℃以上950℃以下の温度で焼結させることで、焼結正極体を製造することが開示されている。
国際公開第2011/086649号 特開2010−140664号公報
本発明者らは、酸化物固体電池を製造するにあたって、特許文献1、2に記載された技術を利用して、正極と酸化物固体電解質層とを焼結によって接合することを試みた。具体的には、層状岩塩型結晶相を有するリチウム含有複合酸化物粒子の層と酸化物固体電解質粒子の層とを積層して加圧しながら加熱することで、複合酸化物粒子同士、酸化物固体電解質粒子同士、及び、複合酸化物粒子と酸化物固体電解質粒子とを同時に焼結させることを試みた。
層状岩塩型結晶相を有するリチウム含有複合酸化物粒子を焼結させるためには、特許文献1、2に開示されているように高温で加熱することが必要である。本発明者らは、このような高温において複合酸化物粒子を焼結させようとすると、複合酸化物粒子が焼結する前に、複合酸化物粒子と酸化物固体電解質粒子とが化学的に反応して、粒子界面に高抵抗層が形成されてしまう場合があるという新たな課題に突き当たった。すなわち、正極と酸化物固体電解質層とを焼結させて酸化物固体電池を製造するためには、正極の焼結温度をできるだけ低下させる必要があることが分かった。正極の焼結温度を低下させることができれば、エネルギー効率の観点からも優位である。
本発明者らの新たな知見によれば、正極の焼結温度を低下させるためには、酸処理した正極活物質と当該正極活物質よりも融点の低いリチウム化合物とを混合することが有効である。しかしながら、本発明者らは、正極活物質を酸処理した後で熱処理した場合、正極を低温で焼結させることができるものの、正極活物質が熱分解する虞があるという新たな課題に突き当たった。
本願は、上記課題を解決するための手段の一つとして、層状岩塩型結晶相を有するリチウム含有複合酸化物の粒子を酸溶液に接触させて前記粒子からリチウムを引き抜く、酸処理工程、リチウムが引き抜かれた前記粒子と前記リチウム含有複合酸化物よりも融点の低いリチウム化合物とを混合して混合物を得る、混合工程、リチウムが引き抜かれた前記粒子の分解温度よりも低い温度にて前記混合物を加熱する、仮焼工程、及び、前記仮焼工程の後で前記混合物を前記リチウム化合物の融点以上の温度で加熱して前記混合物を焼結させる、焼結工程、を備える、正極の製造方法を開示する。
「層状岩塩型結晶相を有するリチウム含有複合酸化物の粒子」とは、層状岩塩型の結晶相を構成する元素としてリチウムを含む複合酸化物の粒子(粉末)であって、X線回折において層状岩塩型の結晶相に相当する回折ピークが確認されるものをいう。
「酸溶液」とは、粒子の表面からリチウムを引き抜くことが可能なものであればよく、溶液を構成する溶媒は水であっても有機溶媒であってもよく、溶液に含まれる酸は有機酸であっても無機酸であってもよい。
本開示の正極の製造方法においては、層状岩塩型結晶相を有するリチウム含有複合酸化物の粒子を酸処理した後で、低融点のリチウム化合物とともに加熱を行う。また、酸処理によって粒子の表面におけるリチウムの拡散性が増大すると考えられる。これにより、リチウム化合物から粒子へとリチウムが供給され、粒子の表面においてリチウムが効率的に拡散し、焼結が促進されるものと考えられる。以上のことから、本開示の正極の製造方法によれば、低融点のリチウム化合物を介して、或いは、当該リチウム化合物を融剤(フラックス)として、リチウム含有複合酸化物の粒子同士を低温で焼結させることができる。
ここで、本発明者らの知見によれば、層状岩塩型結晶相を有するリチウム含有複合酸化物の粒子は、酸処理によって、層状岩塩型結晶相を維持したままリチウムが引き抜かれる。すなわち、リチウム欠損を有する層状岩塩型結晶相となるものと考えられる。ここで、本発明者らの新たな知見によれば、一定以上のリチウム欠損を有する層状岩塩型結晶相を上記の焼結温度にて加熱した場合、熱分解によって、電気化学反応的に不活性であり電池の充放電反応に寄与しない異相が生成する場合がある。これに対し、本開示の正極の製造方法においては、仮焼工程を行って層状岩塩型結晶相の熱分解耐性を向上させたうえで、その後、焼結工程にて混合物の焼結を行うことから、上記のような熱分解の問題を抑制することができる。
正極の製造方法S10の流れを説明するための図である。 正極の製造方法S10の流れを説明するための図である。 酸化物固体電池の製造方法S100の流れを説明するための図である。 酸化物固体電池の製造方法S100の流れを説明するための図である。 負極の接合方法の一例を説明するための図である。 実施例及び比較例に係る電池の容量を測定した結果を示す図である。 酸処理したコバルト酸リチウム粒子のTG−DTA曲線を示す図である。
1.正極の製造方法
図1、2に正極の製造方法S10の流れを示す。図1、2に示すように、製造方法S10は、層状岩塩型結晶相を有するリチウム含有複合酸化物の粒子1を酸溶液11に接触させて粒子1からリチウムを引き抜く、酸処理工程S1(図2(A))、リチウムが引き抜かれた粒子1’と上記リチウム含有複合酸化物よりも融点の低いリチウム化合物2とを混合して混合物3を得る、混合工程S2(図2(B))、リチウムが引き抜かれた粒子1’の分解温度よりも低い温度にて混合物3を加熱する、仮焼工程S3(図2(C))、及び、仮焼工程S3の後で混合物3’をリチウム化合物2の融点以上の温度で加熱して混合物3’を焼結させる、焼結工程S4(図2(D))を備える。
1.1.酸処理工程S1
図2(A)に示すように、酸処理工程S1においては、層状岩塩型結晶相を有するリチウム含有複合酸化物の粒子1を酸溶液11に接触させて粒子1からリチウムを引き抜く。
層状岩塩型結晶相を有するリチウム含有複合酸化物は、酸化物固体電池の正極活物質として機能し得る。このような複合酸化物の具体例としては、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム等のような、リチウムとともにマンガン、コバルト、ニッケル、アルミニウムなどから選ばれる少なくとも1種の遷移金属が複合されている層状岩塩型複合酸化物が挙げられる。尚、層状岩塩型結晶相を有するリチウム含有複合酸化物は、低温焼結の効果を阻害しない範囲で、層状岩塩型の結晶相とは異なる結晶相が含まれていてもよい。例えば、スピネル型の結晶相等である。ただし、電池性能をより高める観点からは、結晶相として層状岩塩型の結晶相のみを含む単相のリチウム含有複合酸化物であることが好ましい。
粒子1(及び後述の粒子1’)の粒子径(一次粒子径)は特に限定されるものではない。焼結によって製造される正極10の形状にもよるが、通常0.1μm以上0.1mm以下の一次粒子径を有する。
粒子1を酸溶液11に接触させる形態は特に限定されるものではなく、粒子1の表面を酸によって変質させるものであればよい。例えば、図2(A)に示すように、酸溶液11に粒子1を浸漬することで、粒子1の表面からリチウムを引き抜くことができる。酸溶液に含まれる酸の種類は特に限定されない。塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸であってもよいし、酢酸、ギ酸、シュウ酸等の有機酸であってもよい。酸溶液を構成する溶媒についても特に限定されない。水や有機溶媒等の種々の溶媒を採用可能である。粒子1と酸溶液11とを接触させる時間についても特に限定されず、酸溶液との接触後の粒子1’が粒子状を維持し、且つ、粒子1からリチウムを一定量以上引き抜くことができるような時間であればよい。本発明者らの知見では、リチウム含有複合酸化物の粒子1を酸処理したとしても結晶構造として層状岩塩型構造は維持される。
本発明者らの知見では、粒子1’の層状岩塩型結晶相においてリチウム欠損量が多すぎる(酸処理によるリチウムの引き抜き量が多すぎる)と、相転移を起こして層状岩塩型結晶相が不安定になり易く、また、加熱によって層状岩塩型結晶相が壊れて異相となり易い。例えば、層状岩塩型結晶相を有するコバルト酸リチウムにおいて、リチウム欠損量が多すぎると、例えば250℃以上(特に約280℃)で熱分解して酸化コバルト(Co)が生成する場合がある(Li1−xCoO→(1−x)LiCoO+(x/3)Co+(4x/3)O)。このような熱分解生成物は、活物質の性能を劣化させる要因となる。そのため、熱分解を一層抑制する観点からは、層状岩塩型結晶相におけるリチウム欠損量をできるだけ少なくすることが好ましい。
この点、酸処理工程S1においては、酸溶液11に含まれる水素イオンの数(A1)と、酸溶液11への接触前に粒子1に含まれるリチウムの数(B1)との比(A1/B1)が、1/3以下であることが好ましい。本発明者らは、酸溶液11に含まれる水素イオンの数が多すぎると、粒子1と接触させた場合に粒子1からリチウムが過剰に引き抜かれ易いことを見出した。リチウムが過剰に引き抜かれると、上記した熱分解の問題が生じ易い。製造方法S10のように仮焼工程S3を行うことで、このような熱分解の問題を抑制することができるものの、A1/B1を1/3以下とすることで、熱分解の問題をより一層抑制することができる。
また、酸処理工程S1においては、酸溶液11への接触後に粒子1’に含まれるリチウムの数(B2)と、酸溶液への接触前に粒子1に含まれるリチウムの数(B1)との比(B2/B1)が0.9以上1.0未満であることが好ましい。B2/B1を0.9以上とすることで、粒子1’の層状岩塩型結晶相におけるリチウムの欠損量を一層適切な量とすることができ、上述の熱分解の問題をより一層抑制しつつ、より高容量の正極10を得ることができる。
尚、酸処理工程S1によって得られる粒子1’において、層状岩塩型結晶相におけるリチウムの欠損量(絶対値)は特に限定されるものではない。製造方法S10においては、粒子1’の層状岩塩型結晶相におけるリチウムの欠損量が多くても、後述の焼結工程S4を行う前に仮焼工程S3を経ることによって、当該層状岩塩型結晶相の熱分解を抑制することができる。
酸処理工程S1においては、粒子1を酸溶液11に接触させることで、粒子1の内部よりも先に表面部からリチウムが引き抜かれる。結果として、粒子の内部における層状岩塩型結晶相よりも、粒子の表面部における層状岩塩型結晶相のほうが、リチウムの欠損率が高い粒子1’が得られる。すなわち、焼結に寄与する粒子の表面部においてリチウム拡散性能が高く焼結を進行させ易い一方で、粒子の内部にはリチウムが十分に存在しており上記の熱分解の問題を抑制することができる。
1.2.混合工程S2
図2(B)に示すように、混合工程S2においては、リチウムが引き抜かれた粒子1’と上記リチウム含有複合酸化物よりも融点の低いリチウム化合物2とを混合して混合物3を得る。
リチウム化合物2は、正極活物質1よりも融点が低いものであればよい。好ましくは融点が600℃未満、より好ましくは融点が400℃以下、さらに好ましくは融点が300℃以下、特に好ましくは融点が250℃以下のリチウム化合物である。例えば、硝酸リチウム、ギ酸リチウム、酢酸リチウム及び水酸化リチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種のリチウム化合物が好ましい。
リチウム化合物2の形態は特に限定されるものではない。リチウム化合物2は、粒子状であってもよいし、図2(B)に示すように粒子1’の表面を被覆するように層状に存在していてもよい。
リチウム化合物2は、2種以上を混合することで融点が低下する。例えば、ギ酸リチウムと酢酸リチウムとの混合物の融点は、ギ酸リチウム単独の融点や酢酸リチウム単独の融点よりも低くなる。よって、混合物3の焼結温度を一層低下させる観点から、リチウム化合物2は2種以上のリチウム化合物の混合物であることが好ましい。この場合、混合物における異種のリチウム化合物の混合比は特に限定されず、できるだけ融点が低下する混合比とすればよい。例えば、リチウム化合物2としてギ酸リチウムと酢酸リチウムとの混合物を用いる場合、混合物におけるギ酸リチウムと酢酸リチウムとのモル比(ギ酸リチウム/酢酸リチウム)は1/3以上3以下とするとよい。このような場合、リチウム化合物2の融点は、例えば、250℃以下にまで低下する。
混合工程S2において、粒子1’とリチウム化合物2との混合は、固体同士の乾式混合であってもよいし、溶媒等を用いた湿式混合であってもよい。いずれの場合も公知の混合方法により粒子1’とリチウム化合物2とを混合できる。特に、粒子1’の周囲にリチウム化合物2をより均一に配置できることから、溶媒等を用いた湿式混合が好ましい。例えば、図2(B)に示すように、水にリチウム化合物を溶解させて水溶液12とし、当該水溶液12中に粒子1’を浸漬させたうえで、加熱によって水分を蒸発させることで、粒子1’の周囲にリチウム化合物2が配置された混合物3が得られる。
混合工程S2において、粒子1’とリチウム化合物2との混合比は特に限定されるものではない。焼結温度を低下させる観点からはリチウム化合物2の量をできるだけ増大させることが好ましい。一方、高いリチウムイオン伝導性や電子伝導性を確保する観点からは粒子1’の量をできるだけ増大させることが好ましい。目的とする正極の性能に応じて、粒子1’とリチウム化合物2との混合比を決定すればよい。おおよその目安としては、100質量部の粒子1’に対して、リチウム化合物2を1質量部以上100質量部以下とする。
尚、混合物3においては、少なくとも粒子1’とリチウム化合物2とが含まれていればよく、正極の焼結温度や正極の性能に悪影響を与えない範囲で、これらに加えて導電材等が任意に含まれていてもよい。導電材としては炭素材料や金属材料が例示できる。導電材により、正極の電子伝導性を向上させることができるものと考えられる。ただし、製造方法S10により製造される正極10は、焼結によって緻密体とすることができ、導電材を含まずとも高い電子伝導性を有する。すなわち、混合物3においては、粒子1’の比率を比較的高くすることができ、正極容量を増大させることができる。
また、本発明者らの新たな知見では、混合物3と後述する酸化物固体電解質層4とを焼結させる場合、副生成物として酸が生成する場合がある。この場合、生成した酸を中和すべく、混合物3中にアルカリ成分として水酸化物を含ませておくことが好ましい。水酸化物は、陰イオンとして水酸化物イオンを有する化合物である。酸をより確実に中和でき、電池性能を一層高めることができる観点から、水酸化物は、好ましくはアルカリ金属水酸化物であり、より好ましくは水酸化リチウムである。水酸化物の形状は特に限定されるものではないが、特に粒子状が好ましい。この場合、水酸化物の粒子の粒子径は特に限定されるものではない。通常0.1μm以上0.1mm以下の粒子径を有する。混合物3における水酸化物の含有量は特に限定されるものではない。生成した酸を確実に中和する観点からは水酸化物の量をできるだけ増大させることが好ましい。一方、高いリチウムイオン伝導性や電子伝導性を確保する観点からは粒子1’の量をできるだけ増大させることが好ましい。目的とする正極の性能に応じて、混合物3における水酸化物の含有量を決定すればよい。例えば、100質量部の粒子1’に対して、水酸化物を1質量部以上100質量部以下とすることができる。尚、水酸化リチウムはリチウム化合物2としても上記の水酸化物としても機能し得る。
さらに、混合物3中に、後述の酸化物固体電解質を含ませることも好ましい。これにより、後述の正極10と酸化物固体電解質層20とをより強固に接合することができるものと考えられる。混合物3における酸化物固体電解質の含有量は特に限定されるものではない。
1.3.仮焼工程S3
図2(C)に示すように、仮焼工程S3においては、リチウムが引き抜かれた粒子1’の分解温度よりも低い温度にて混合物3を加熱する。
上述したように、リチウムが過剰に欠損した層状岩塩型結晶相は、加熱によって分解する虞がある。例えば、上述したように、リチウムが過剰に欠損した層状岩塩型コバルト酸リチウムは、例えば250℃以上(特に約280℃)で熱分解し、酸素放出を伴って酸化コバルトが生成する。酸化コバルトは電気化学反応的に不活性であり電池の充放電反応に寄与しないことから、正極における酸化コバルトの量はできるだけ低減したほうがよい。このような観点から、製造方法S10では、仮焼工程S3において粒子1’の分解温度よりも低い温度にて混合物3の加熱を行うことで、リチウム化合物2等から粒子1’のリチウム欠損部へとリチウムを供給して(コバルト酸リチウムの場合、Li1−xCoO+xLi→LiCoO)、粒子1’中の層状岩塩型結晶相の熱分解耐性を高めたうえで、後述する焼結工程S4を行う。
粒子1’の分解温度(層状岩塩型結晶相の熱分解によって異相が生成する温度)は、粒子1’の組成によって変化するものの、いずれの組成においても経験的に求めることが可能である。仮焼工程S3においては、このように経験的に求められた粒子1’の分解温度を参考に、当該分解温度よりも低い温度で加熱を行えばよい。具体的には、仮焼工程S3における加熱温度と、粒子1’の分解温度との差を、好ましくは20℃以上、より好ましくは40℃以上、さらに好ましくは50℃以上とし、好ましくは150℃以下、より好ましくは120℃以下、さらに好ましくは100℃以下とする。
より具体的には、仮焼工程S3における加熱温度の上限は、好ましくは260℃以下、より好ましくは240℃以下、さらに好ましくは230℃以下である。一方、仮焼工程S3における加熱温度の下限は、特に限定されるものではない。加熱温度が低い場合は、加熱時間を長時間とすることで一定の効果が得られるものと考えられる。加熱時間を短縮する観点からは、仮焼工程S3における加熱温度の下限は、好ましくは130℃以上、より好ましくは165℃以上、さらに好ましくは180℃以上である。
仮焼工程S3における加熱時間は、特に限定されるものではなく、加熱によって粒子1’の層状岩塩型結晶相を安定化できるような時間であればよい。特に、仮焼工程S3においては、粒子1’の分解温度よりも低い一定の加熱温度にて一定時間保持することが好ましい。仮焼工程S3における加熱時間は、好ましくは30分以上、より好ましくは1時間以上、さらに好ましくは3時間以上、特に好ましくは5時間以上である。
仮焼工程S3における加熱雰囲気は、混合物3に対して不要な反応を生じさせずに、混合物3を仮焼可能な雰囲気であればよい。例えば、酸素含有雰囲気(空気雰囲気、大気雰囲気等)、不活性ガス雰囲気等、様々な雰囲気にて加熱可能である。仮焼工程S3は、公知の加熱手段を用いて実施可能である。
仮焼工程S3において、混合物3は加圧されたものであってもよい。これにより、混合物3の内部における空隙の発生を抑制して一層高密度な正極10を得ることができる。例えば、仮焼工程S3において、混合物3を加圧しながら加熱するか、又は、混合物3を加圧した後に加熱することが好ましい。特に、混合物3を加圧しながら加熱することが好ましい。仮焼工程S3において混合物3を加圧する場合、圧力の大きさは特に限定されないが、例えば、0.1MPa以上1000MPa以下の圧力とすることが好ましい。混合物3を加圧する手段は特に限定されない。例えば、混合物3と実質的に反応せず、且つ、仮焼工程S3における加熱に耐え得る材料からなる型(ダイス等)を用いることで、混合物3を加圧しながら加熱することができる。
尚、仮焼工程S3において粒子1’をリチウム化合物2とともに加熱することにより、上述の通り、粒子1’のリチウム欠損部にリチウムが供給されるものと考えられる。このとき、リチウムの供給と同時に、粒子1’同士(活物質同士)の接合が形成されるものと考えられ、その後の低温焼結に大きく寄与する。
1.4.焼結工程S4
図2(D)に示すように、焼結工程S4においては、混合物3’をリチウム化合物2の融点以上の温度で加熱して混合物3’を焼結させる。
焼結工程S4における加熱温度はできるだけ低いことが好ましい。焼結工程S4において混合物3’をより低温で焼結させるためには、リチウム化合物2としてできるだけ融点の低いものを用いるとよい。例えば、上述したように、リチウム化合物2として2種以上の混合物を用いることで、リチウム化合物2の低融点化が可能である。特に、ギ酸リチウムと酢酸リチウムとを混合した場合、融点が250℃未満となることから、好適である。
ただし、製造方法S10においては、上述した通り、粒子1’の熱分解が生じ難いことから、焼結工程S4における加熱温度を一定以上としても異相の生成を抑制でき、容量の大きな正極10を製造可能である。すなわち、焼結工程S4における加熱温度は250℃以上であってもよい。一方で、他の電池材料との接合時において化学反応を抑制する観点、及び、エネルギー効率の観点等からは、やはり、加熱温度はできるだけ低いことが好ましい。具体的には、好ましくは600℃未満、より好ましくは400℃以下、さらに好ましくは300℃以下で加熱する。
焼結工程S4は、公知の加熱手段を用いて実施可能である。焼結工程S4における加熱雰囲気は、混合物3’に対して不要な反応を生じさせずに、混合物3’を焼結可能な雰囲気であればよい。例えば、酸素含有雰囲気(空気雰囲気、大気雰囲気等)、不活性ガス雰囲気等、様々な雰囲気にて焼結可能である。
焼結工程S4において、混合物3’は焼結に伴い徐々に見かけの体積が小さくなる。ここで、焼結に際して内部の気泡等が外部へと抜け切らず、正極10の内部に空隙が残存する場合がある。当該空隙の発生を抑制して一層高密度な正極10を得るためには、焼結工程S4において、混合物3’を加圧しながら加熱するか、又は、混合物3’を加圧した後に加熱することが好ましい。特に、混合物3’を加圧しながら加熱することが好ましい。これにより所定の形状を有する緻密な正極10を得ることができる(図2(D))。焼結工程S4において混合物3’を加圧する場合、圧力の大きさは特に限定されないが、例えば、0.1MPa以上1000MPa以下の圧力とすることが好ましい。混合物3’を加圧する手段は特に限定されない。例えば、混合物3’と実質的に反応せず、且つ、焼結工程S4における加熱に耐え得る材料からなる型(ダイス等)を用いることで、混合物3’を加圧しながら加熱することができる。
焼結工程S4の後は、混合物3の焼結体に対して、適宜、アニール処理を施してもよい。
以上の通り、製造方法S10においては、層状岩塩型結晶層を有するリチウム含有複合酸化物の粒子1’の熱分解を抑制しつつ、混合物3’を低温で焼結させて正極10を得ることができる。
2.酸化物固体電池の製造方法
図3、4に酸化物固体電池の製造方法S100を示す。製造方法S100は、層状岩塩型結晶相を有するリチウム含有複合酸化物の粒子1を酸溶液11に接触させて粒子1からリチウムを引き抜く、酸処理工程S11(図4(A))、リチウムが引き抜かれた粒子1’と上記リチウム含有複合酸化物よりも融点の低いリチウム化合物2とを混合して混合物3を得る、混合工程S12(図4(B))、混合物3からなる層と酸化物固体電解質層4とを積層して積層体5を得る、積層工程S13(図4(C))、粒子1’の分解温度よりも低い温度にて積層体5を加熱する、仮焼工程S14(図4(D))、及び、仮焼工程S13の後で積層体5’をリチウム化合物2の融点以上、且つ、混合物3’と酸化物固体電解質との反応温度未満で加熱して、酸化物固体電解質層4の表面で混合物3’を焼結させる、焼結工程S15(図4(E))を備える。
2.1.酸処理工程S11及び混合工程S12
酸処理工程S11及び混合工程S12は、上述した酸処理工程S1及び混合工程S2と同様の工程である(図2(A)及び(B))。ここでは説明を省略する。
2.2.積層工程S13
積層工程S13においては、混合物3からなる層と酸化物固体電解質層4とを積層して積層体5を得る。
積層工程S13における酸化物固体電解質層4は、例えば、酸化物固体電解質の粒子の堆積層であってもよいし、酸化物固体電解質の焼結層であってもよい。好ましくは、図4(B)に示すように、酸化物固体電解質粒子の堆積層である。この場合の酸化物固体電解質粒子の大きさは特に限定されない。通常0.1μm以上0.1mm以下の粒子径を有する。層4を酸化物固体電解質粒子の堆積層とした場合、後述する焼結工程S15において、混合物3’の焼結と同時に、酸化物固体電解質粒子の焼結と混合物3’及び酸化物固体電解質粒子の焼結とが同時に進行する。これにより、焼結後、より強固に正極10と酸化物固体電解質層20とを接合できる。
酸化物固体電解質層4を酸化物固体電解質粒子の堆積層とする場合、酸化物固体電解質層3には、リチウム化合物2が含まれていることが好ましい。すなわち、酸化物固体電解質層4は、酸化物固体電解質とリチウム化合物2とを含む固体電解質合剤からなることが好ましい。これにより、酸化物固体電解質層4をより低温で焼結させることができる。酸化物固体電解質層4におけるリチウム化合物2の含有量は特に限定されるものではない。
酸化物固体電解質層4を構成する酸化物固体電解質としては、リチウムイオン伝導性を有し、酸化物固体電池の電解質として使用可能な固体酸化物をいずれも採用可能である。例えば、ランタンジルコン酸リチウム等のガーネット型酸化物、チタン酸リチウムランタン等のペロブスカイト型酸化物、Li1+yAlTi2−y(PO(0≦y≦1)等のNASICON型酸化物等が挙げられる。中でも、リチウムイオン伝導性が高く、且つ、本開示の方法による効果が一層顕著となる観点から、ガーネット型のランタンジルコン酸リチウムが好ましい。尚、酸化物固体電解質とリチウム化合物2とを含む固体電解質合剤により酸化物固体電解質層4を構成する場合は、酸化物固体電解質におけるリチウム拡散性を高めるべく、酸化物固体電解質の一部のリチウムを予め引き抜いておくことが好ましい(上述の混合物3において酸化物固体電解質を含ませる場合も同様である)。例えば、ガーネット型のランタンジルコン酸リチウムを水と接触させることで、ガーネット型のランタンジルコン酸リチウムから一部のリチウムを引き抜くことができる。
積層工程S13において、積層体5は、例えば、型内に酸化物固体電解質粒子を層状に配置して酸化物固体電解質層4とするとともに、その表面に、混合物3を層状に配置することで作製可能である。積層体5において、混合物3からなる層の厚みや、酸化物固体電解質層4の厚みは特に限定されない。目的とする電池の性能に応じて、適宜決定すればよい。また、後述するように積層体5は加圧成形されていてもよい。
2.3.仮焼工程S14
仮焼工程S14においては、粒子1’の分解温度よりも低い温度にて積層体5を加熱する。これにより混合物3’からなる層を備える積層体3’が得られる。仮焼工程S14における加熱温度、加熱時間及び加熱雰囲気等については、上述した仮焼工程S3と同様とすることができる。ここでは説明を省略する。
2.4.焼結工程S15
焼結工程S15においては、積層体5’をリチウム化合物2の融点以上、且つ、混合物3’と酸化物固体電解質との反応温度未満で加熱して、酸化物固体電解質層4の表面で混合物3’を焼結させる。これにより、正極10と酸化物固体電解質層20との接合体50が得られる。当該接合体50に負極30を設ける(後述するように、焼結工程S15において、混合物3’からなる層及び酸化物固体電解質層4の焼結と同時に負極材料を接合させる場合も含む)ことで、酸化物固体電池100を製造することができる。
焼結工程S15は公知の加熱手段を用いて実施可能である。焼結工程S15における加熱温度としては、上記したリチウム化合物2の融点以上、且つ、混合物3’と酸化物固体電解質との反応温度未満の温度であればよい。エネルギー効率の観点、及び、酸処理した粒子1の分解を抑制する観点から、加熱温度はできるだけ低いことが好ましい。具体的には、好ましくは600℃未満、より好ましくは400℃以下、さらに好ましくは300℃以下、特に好ましくは250℃以下で加熱する。
本発明者らの新たな知見によれば、酸化物固体電解質がガーネット型のランタンジルコン酸リチウムを含む場合、層状岩塩型のリチウム含有複合酸化物と酸化物固体電解質とが600℃以上で反応し、高抵抗層を形成する虞がある。そのため、この場合は、積層体5’を加熱する温度を、リチウム化合物2の融点以上、且つ、600℃未満とするとよい。より好ましくは400℃以下、さらに好ましくは300℃以下、特に好ましくは250℃以下で加熱する。
上述したように、混合物3’は焼結に伴い徐々に見かけの体積が小さくなる。ここで、焼結に際して内部の気泡等が外部へと抜け切らず、正極10の内部に空隙が残存する場合がある。そのため、焼結工程S15においては、積層体5’を加圧しながら加熱するか、又は、積層体5’を加圧した後に加熱することが好ましい。特に、焼結工程S15においては積層体5’を加圧しながら加熱することが好ましい。これにより所定の形状を有する緻密な接合体50を得ることができる(図4(E))。焼結工程S15において積層体5’を加圧する場合、圧力の大きさは特に限定されないが、例えば、0.1MPa以上1000MPa以下の圧力とすることが好ましい。積層体5’を加圧する手段は特に限定されない。例えば、上記の混合物3’及び酸化物固体電解質層4と実質的に反応せず、且つ、焼結工程S15における加熱に耐え得る材料からなる型(ダイス等)を用いることで、積層体5’を加圧しながら加熱することができる。
焼結工程S15の後は、接合体50に対して、適宜、アニール処理を施してもよい。
2.5.負極について
酸化物固体電池100に備えられる負極30は、負極活物質を含むものであればよい。負極活物質としては、例えば、ケイ素やリチウムを採用可能である。電池を高容量化できることから、ケイ素が好ましい。
製造方法S100において、負極30は接合体50の酸化物固体電解質層20の表面(正極10とは反対側の表面)に接合すればよい。負極30の接合方法は特に限定されない。例えば、負極材料を酸化物固体電解質層20の表面に蒸着させることで、酸化物固体電解質層20の表面に負極30を接合できる。或いは、酸化物固体電解質層4又は酸化物固体電解質層20の表面に負極材料を積層して加熱することで、酸化物固体電解質層20と負極30とを接合することも可能である。
負極30を加熱によって酸化物固体電解質層20に接合させる場合は、図5に示すように、上記工程S13において、酸化物固体電解質層4に負極材料6を接合させることが好ましい。すなわち、正極合剤3と酸化物固体電解質と負極材料6とを一体で焼成して、同時に焼結させることが好ましい。ただし、本発明者らの知見によれば、負極活物質としてケイ素を用い、且つ、酸化物固体電解質がガーネット型のランタンジルコン酸リチウムを含む場合、ケイ素と酸化物固体電解質とが600℃以上で反応し、高抵抗層を形成する虞がある。そのため、この場合は、工程S13における加熱温度を600℃未満とするとよい。より好ましくは400℃以下、さらに好ましくは300℃以下、特に好ましくは250℃以下で加熱する。
2.6.その他の構成について
酸化物固体電池100には、適宜、集電体や端子等が設けられる。これらは公知であり、ここでは説明を省略する。
以上の通り、製造方法S100においては、層状岩塩型結晶層を有するリチウム含有複合酸化物の粒子1’の熱分解を抑制しつつ混合物3’を低温で焼結させることができ、正極10と酸化物固体電解質層20とを低温で接合させることができる。また、正極10と酸化物固体電解質層20とともに負極30を同時に接合させる場合においても、酸化物固体電解質層20と負極30との反応を抑制することができる。
(1)実施例1に係る酸化物固体電池の製造
以下の実施例では、層状岩塩型構造を有するリチウム含有複合酸化物としてコバルト酸リチウム(LiCoO)を用い、リチウム化合物として硝酸リチウム(LiNO)及び水酸化リチウム(LiOH)を用い、酸化物固体電解質としてガーネット型のランタンジルコン酸リチウム(LiLaZr12)を用い、負極としてリチウム金属を用いた例について示すが、本開示の技術はこの形態に限定されるものではない。これら以外の材料を用いた場合でも、同様の効果が奏されることは自明である。
(1−1)固体電解質合剤の製造
純水により一部のリチウムを水素に置換した(リチウムを一部欠損させた)ランタンジルコン酸リチウム1gと、硝酸リチウム0.1gとを乳鉢で混合し、固体電解質合剤を得た。
(1−2)リチウム含有複合酸化物粒子の酸処理
ビーカーに、pH1に調整された塩酸(HCl)100mlを入れ、ここにコバルト酸リチウムの粒子3gを投入した。その後、スターラーを用いて回転数500rpmで、温度25℃にて16時間攪拌した。攪拌終了後、液を濾紙で濾過し、酸処理されたコバルト酸リチウム粒子を得た。
(1−3)酸処理後の粒子とリチウム化合物との混合
酸処理されたコバルト酸リチウム粒子0.5632gと、水酸化リチウム0.0248gと、上記の固体電解質合剤0.4120gとを乳鉢で混合し、1gの正極合剤(混合物)を得た。
(1−4)積層
φ11.28mm(1cm)のアルミナ(Al)製ペレット成形治具に上記の固体電解質合剤を450mg投入し、ステンレス鋼(SUS304)製のダイスで圧力100MPaで成形して酸化物固体電解質層を得た。
治具内の酸化物固体電解質層の表面に上記の混合物を31.0mg積層し、ステンレス鋼(SUS304)製のダイスで圧力100MPaで成形して積層体を得た。
(1−5)仮焼
得られた積層体に対し、アルゴン雰囲気、温度220℃、8時間の条件で100MPaで加圧しながら加熱し、積層体の仮焼を行った。
(1−6)焼結
引き続き、アルゴン雰囲気、温度400℃、8時間の条件で100MPaで加圧しながら加熱し、積層体を焼結させて、正極と酸化物固体電解質層との接合体を得た。得られた接合体に対し、アルゴン雰囲気、温度450℃、8時間の条件でアニール処理した。
(1−7)負極の接合
得られた接合体の酸化物固体電解質層の表面(正極と反対側の面)にリチウムを蒸着させて負極として接合させた。さらに、正極集電箔として金(Au)シートと、負極集電箔として銅(Cu)シートとで接合体を挟み込み、不活性雰囲気を保つガラスデシケータ内に保存して、評価用の酸化物固体電池を得た。
(2)比較例1に係る酸化物固体電池の製造
積層体の仮焼を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして評価用の酸化物固体電池を得た。
(3)比較例2に係る酸化物固体電池の製造
焼結における加熱時間を4時間に変更したこと以外は、比較例1と同様にして評価用の酸化物固体電池を得た。
(4)比較例3に係る酸化物固体電池の製造
コバルト酸リチウム粒子の酸処理を行わず、且つ、積層体の仮焼を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして評価用の酸化物固体電池を得た。
(5)充放電試験
実施例1及び比較例1〜3に係る電池に対し、60℃の温度環境下で0.01mAで4.05Vまで充電した後、0.01mAで3.00Vまで放電し、電池容量を測定した。結果を図6に示す。尚、図6においては、比較例1に係る電池の容量を100として規格化した。
図6に示すように、実施例1に係る電池は、比較例1〜3に係る電池よりも容量が大きく、優れた性能を有していた。具体的には、実施例1及び比較例1、2に係る電池は、比較例3に係る電池と比べて、電池容量が3〜5倍と顕著に増加した。コバルト酸リチウム粒子の酸処理を行い、これとともに低融点のリチウム化合物を混合して加熱することで、正極を低温で焼結できることが分かった。また、実施例1に係る電池は、比較例1、2に係る電池と比べて、電池容量が増加した。コバルト酸リチウム粒子の酸処理を行う場合、焼結の前に仮焼を行うことが有効であることが分かった。
(6)酸処理されたコバルト酸リチウム粒子のTG−DTA測定
図7に酸処理されたコバルト酸リチウム粒子のTG−DTA測定結果を示す。加熱雰囲気はアルゴン雰囲気、昇温速度は20℃/minとした。図7に示すように、酸処理されたコバルト酸リチウム粒子は、約280℃で重量が大きく減少している。これは、コバルト酸リチウム粒子の層状岩塩型結晶相が熱分解して、酸素を放出して酸化コバルト(Co)が生成したためである(X線回折測定によってTG−DTA測定後の粒子中に酸化コバルトが生成していることを確認した)。図7から明らかなように、上記の実施例1における仮焼温度(220℃)は、酸処理されたコバルト酸リチウム粒子の熱分解温度(280℃)よりも低い温度である。このように、酸処理された粒子の熱分解温度を事前に測定しておくことで、最適な仮焼温度を特定することができる。
(7)補足
尚、上記の実施例では、酸化物固体電解質層において、酸化物固体電解質と硝酸リチウム(低融点のリチウム化合物)との固体電解質合剤を用いた例について示したが、本開示の酸化物固体電解質層はこの形態に限定されるものではない。酸化物固体電解質層において、酸化物固体電解質のみを用いても、上記した正極合剤が低温焼結させながら、正極表面に酸化物固体電解質を接合させることができるものと考えられる。ただし、酸化物固体電解質層の焼結性を高める観点からは、酸化物固体電解質層において、低融点のリチウム化合物を含ませることが好ましい。また、同様の理由から、酸化物固体電解質としてリチウムの一部を水素に置換したものを用いることが好ましい。
また、上記の実施例では、正極合剤(混合物)において、固体電解質合剤(酸化物固体電解質とリチウム化合物との混合物)を含ませた例について示したが、本開示の正極合剤はこの形態に限定されるものではない。正極合剤において、酸化物固体電解質は、正極と酸化物固体電解質層との接合をより強固にするために含ませたもので、正極合剤そのものの焼結能力を左右するものではない。すなわち、本開示の正極合剤においては、酸化物固体電解質を含ませずに、単に酸処理したリチウム含有複合酸化物粒子と低融点のリチウム化合物とだけを含ませた場合でも、正極合剤を低温で焼結させることが可能である。
尚、上記の実施例において、水酸化リチウムは、正極合剤と固体電解質合剤との焼結時に酸が生成した場合に、当該酸の中和剤としても機能する。
本開示の製造方法により製造された正極は、焼結密度が高く、電子伝導性も高いため、種々の電池の正極として利用可能である。また、本開示の製造方法により製造される酸化物固体電池は高容量で、電池抵抗も小さく、さらに、界面抵抗を低下させるための拘束部材等も不要であることからエネルギー密度も高い。そのため、例えば、車搭載用の大型電源として利用可能である。
1 酸溶液への接触前の粒子
1’酸溶液への接触後の粒子
2 リチウム化合物
3 仮焼前の混合物
3’仮焼後の混合物
4 酸化物固体電解質層
5 積層体
6 負極材料
10 正極
20 酸化物固体電解質層
30 負極
100 酸化物固体電池

Claims (1)

  1. 層状岩塩型結晶相を有するリチウム含有複合酸化物の粒子を酸溶液に接触させて前記粒子からリチウムを引き抜く、酸処理工程、
    リチウムが引き抜かれた前記粒子と前記リチウム含有複合酸化物よりも融点の低いリチウム化合物とを混合して混合物を得る、混合工程、
    リチウムが引き抜かれた前記粒子の分解温度よりも低い温度にて前記混合物を加熱する、仮焼工程、及び
    前記仮焼工程の後で前記混合物を前記リチウム化合物の融点以上の温度で加熱して前記混合物を焼結させる、焼結工程、
    を備える、正極の製造方法。
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