JP2019062742A - L−アミノ酸の製造法 - Google Patents

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Abstract

【課題】L−リジン等の塩基性アミノ酸の製造法を提供する。【解決手段】(A)塩基性アミノ酸生産能を有する微生物を培地で培養し、塩基性アミノ酸を含有する培養液を得る工程、および(B)前記培養液を、該培養液からの炭酸ガスの発生を防止できる圧力下で加熱処理する工程を含む方法であって、前記工程Aが、重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンが塩基性アミノ酸のカウンタイオンとなるように実施される方法により、塩基性アミノ酸またはそれを含有する発酵生産物を製造する。【選択図】図6

Description

本発明は、微生物を用いたL−アミノ酸、具体的にはL−リジンやL−アルギニン等の塩基性アミノ酸、の発酵生産法に関する。L−アミノ酸は、動物飼料用の添加物、調味料や飲食品の成分、又はアミノ酸輸液等として、産業上有用である。
塩基性アミノ酸等のL−アミノ酸は、例えば、L−アミノ酸生産能を有する微生物を用いた発酵法により工業生産されている。発酵法による塩基性アミノ酸の製造法では、塩基性アミノ酸生産能を有する微生物を培養し、培養液中に塩基性アミノ酸を生成、蓄積させ、培養液から基性アミノ酸を採取する。その際、培養は、回分方式、流加方式、又は連続方式で行われる。
従来、塩基性アミノ酸の発酵生産においては、培地のpHを中性に保つために、塩基性アミノ酸のカウンタアニオンとして硫酸イオン又は塩化物イオンが利用されてきた(特許文献1、2)。しかしながら、硫酸イオン又は塩化物イオンを利用する方法は、精製コストや発酵槽の腐食等の点で改善の余地があった。
培養液からの塩基性アミノ酸の採取は、精製を必要とする場合は、イオン交換によって行われることが多い。例えば、L−リジンの場合では、発酵液を弱酸性に調整し、L−リジンをイオン交換樹脂に吸着させた後、アンモニウムイオンで樹脂から脱離させ、リジンベースとしてそのまま用いるか、あるいは塩酸を用いてL−リジン塩酸塩として結晶化する。
一方、精製しない場合は、発酵液をそのまま濃縮するか、あるいは、発酵液を塩酸又は硫酸で弱酸性に調整した後、噴霧造粒することも一般的に行われる。この場合は、培地に含まれる残留成分によって、得られる発酵生産物中の塩基性アミノ酸の含有率が制限されるため、培地に添加されるカウンタアニオンは無視できない。したがって、製造経費の点のみならず、製品の品質の点からも、カウンタアニオンの使用量を低減することは、重要な意味を持つ。
カウンタアニオンの使用量を低減する方法として、重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンを塩基性アミノ酸のカウンタイオンとして利用して塩基性アミノ酸を発酵生産する方法も知られている(炭酸塩発酵ともいう;特許文献3、4)。炭酸塩発酵によれば、硫酸イオン及び/又は塩化物イオンの使用量を削減しつつ、塩基性アミノ酸を発酵生産することができる。
特開平5-30985号公報 特開平5-24969号公報 US2002-025564A WO2006/038695
発酵液は、殺菌を目的として加熱処理に供される場合が多い。炭酸塩発酵液を加熱する場合、硫酸イオンをカウンタイオンとして利用するよりも高pHの発酵液が得られるが、
加熱することでカウンタイオンとして利用した重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンが炭酸ガスとして脱離し、さらにpHが上昇する。しかしながら、高pHの発酵液中の塩基性アミノ酸は、特に高温条件で、時間経過により分解が進行するという問題がある。塩酸や硫酸で発酵液のpHを低下させることにより塩基性アミノ酸の分解を防止できるが、その場合、硫酸イオン及び/又は塩化物イオンの使用量を削減できるという炭酸塩発酵の利点を精製段階において相殺することになる。そこで、本発明は、炭酸塩発酵により得られる発酵液中の塩基性アミノ酸の分解を防止する新規な手段を開発し、効率的な塩基性アミノ酸またはそれを含有する発酵生産物の製造法を提供することを課題とする。
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、炭酸塩発酵により得られる発酵液を加熱処理する際に、該加熱処理を該培養液からの炭酸ガスの発生を防止できる圧力下で実施することにより、発酵液中の塩基性アミノ酸の分解を防止できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下の通り例示できる。
[1]
塩基性アミノ酸またはそれを含有する発酵生産物の製造法であって、
(A)塩基性アミノ酸生産能を有する微生物を重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンが塩基性アミノ酸のカウンタイオンとなるように培地で培養し、塩基性アミノ酸を含有する培養液を得る工程、および
(B)前記培養液を、該培養液からの炭酸ガスの発生を防止できる圧力下で加熱処理する工程、を含む方法。
[2]
前記圧力が、ゲージ圧で、前記加熱処理の温度における前記培養液の炭酸分圧と水蒸気分圧の合計値以上の圧力であり、
前記炭酸分圧は、前記培養液中の塩基性アミノ酸、CO2、NH3、K、Mg、Cl、SO4、酢酸、及びコハク酸の濃度、並びに前記加熱処理の温度を変数として算出される値であり、
前記水蒸気分圧は、Wagnerの式を用いて算出される値である、前記方法。
[3]
前記圧力が、ゲージ圧で、下記式で示される圧力以上の圧力である、前記方法:
圧力(kPa) = 1.99 x 10-3 x 温度2.54
(式中、「温度」は、前記加熱処理の温度(℃)を示す)。
[4]
前記圧力が、ゲージ圧で、前記培養液を装置空隙率が6%v/vとなるように密閉容器に入れ、前記加熱処理の温度に調整した際の、密閉容器内の気相の圧力以上の圧力である、前記方法。
[5]
前記圧力が、ゲージ圧で400kPa以上である、前記方法。
[6]
前記圧力が、ゲージ圧で1000kPa以上である、前記方法。
[7]
前記加熱処理の温度が、60℃〜130℃である、前記方法。
[8]
前記加熱処理の温度が、100℃〜130℃である、前記方法。
[9]
前記工程Bが、圧力容器内に実質的に気相が存在しない条件で、圧力容器内で実施される、前記方法。
[10]
圧力容器内に実質的に気相が存在しない条件が、圧力容器内に含まれる気相の容積が、
前記加熱処理時に、圧力容器の内容積の1%v/v以下である条件である、前記方法。
[11]
さらに、前記加熱処理された培養液を脱炭酸処理に供する工程を含む、前記方法。
[12]
前記工程Aが、培養の少なくとも一部の期間において、培地のpHを7.2〜9.0に制御して実施される、前記方法。
[13]
前記工程Aが、培養終了時の培地のpHが7.2以上となるように実施される、前記方法。
[14]
前記工程Aが、培養の少なくとも一部の期間において、発酵槽内圧力が正となるように制御すること、及び/又は、炭酸ガスを培地に供給することにより、重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンが培地中に20mM以上存在するようにして実施される、前記方法。
[15]
前記工程Aが、培地中の重炭酸イオン及び/又は炭酸イオン以外のアニオンの濃度が900mM以下になるように実施される、前記方法。
[16]
前記発酵槽内圧力が、ゲージ圧で0.03〜0.2MPaである、前記方法。
[17]
前記工程Aが、培養の少なくとも一部の期間において、培地中の総アンモニア濃度を300mM以下に制御して実施される、前記方法。
[18]
前記塩基性アミノ酸が、L−リジンである、前記方法。
[19]
前記微生物が、コリネ型細菌またはエシェリヒア・コリである、前記方法。
[20]
前記発酵生産物が、発酵液、発酵液の上清、それらの脱炭酸物、それらの濃縮物、それらの乾燥物、それらの加工品から選択される、前記方法。
本発明によれば、炭酸塩発酵により得られる発酵液中の塩基性アミノ酸の分解を防止することができ、塩基性アミノ酸またはそれを含有する発酵生産物を効率よく製造することができる。
Newton法による繰り返し計算を実施した際のCH+の変化を示す図。 pHの実測値とシミュレーション値を示す図。 38℃及び120℃でのLys解離曲線を示す図。 38℃及び120℃でのイオンバランスのイメージを示す図。 120℃におけるLys解離状態を示す図。 培養液からの炭酸ガスの発生を防止するために必要な圧力の計算値と実験値を示す図。 モデルリジン培養液(リジン濃度11 g/dl, pH9.0)について得られた、培養液からの炭酸ガスの発生を防止するために必要な圧力の近似式を示す図。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の方法は、(A)塩基性アミノ酸生産能を有する微生物を培地で培養し、塩基性アミノ酸を含有する培養液を得る工程、および(B)前記培養液を、該培養液からの炭酸
ガスの発生を防止できる圧力下で加熱処理する工程を含む、塩基性アミノ酸またはそれを含有する発酵生産物の製造方法であって、前記工程Aが、重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンが塩基性アミノ酸のカウンタイオンとなるように実施される方法である。工程Aを「発酵工程」、工程Bを「加圧加熱処理工程」ともいう。工程Aで得られる塩基性アミノ酸を含有する培養液を「発酵液」ともいう。塩基性アミノ酸生産能を有する微生物を「塩基性アミノ酸生産菌」ともいう。
塩基性アミノ酸としては、L−リジン、L−アルギニン、およびL−ヒスチジンが挙げられる。これらの中では、L−リジンが好ましい。本発明においては、1種の塩基性アミノ酸が製造されてもよく、2種またはそれ以上の塩基性アミノ酸が製造されてもよい。また、発酵生産物は、1種の塩基性アミノ酸を含有していてもよく、2種またはそれ以上の塩基性アミノ酸を含有していてもよい。本発明において、塩基性アミノ酸は、特記しない限り、いずれもL−アミノ酸である。
<1>塩基性アミノ酸生産能を有する微生物
<1−1>塩基性アミノ酸生産能を有する微生物
「塩基性アミノ酸生産能を有する微生物(塩基性アミノ酸生産菌)」とは、培地で培養したときに、目的とする塩基性アミノ酸を生成し、回収できる程度に培地中に蓄積する能力を有する微生物をいう。塩基性アミノ酸生産能を有する微生物は、好ましくは0.5g/L以上、より好ましくは1.0g/L以上の量の目的とする塩基性アミノ酸を培地に蓄積することができる微生物であってもよい。塩基性アミノ酸生産能を有する微生物は、1種の塩基性アミノ酸の生産能のみを有していてもよく、2種またはそれ以上の塩基性アミノ酸の生産能を有していてもよい。
塩基性アミノ酸生産能を有する微生物は、炭酸塩発酵により塩基性物質を生産することが可能である限り、特に制限されない。微生物としては、細菌や酵母が挙げられる。これらの中では、細菌が好ましい。細菌としては、コリネ型細菌、エシェリヒア属細菌、セラチア属細菌、バチルス属細菌が挙げられる。
コリネ型細菌としては、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、およびミクロバクテリウム(Microbacterium)属等の属に属する細菌が挙げられる。
コリネ型細菌としては、具体的には、下記のような種が挙げられる。
コリネバクテリウム・アセトアシドフィラム(Corynebacterium acetoacidophilum)
コリネバクテリウム・アセトグルタミカム(Corynebacterium acetoglutamicum)
コリネバクテリウム・アルカノリティカム(Corynebacterium alkanolyticum)
コリネバクテリウム・カルナエ(Corynebacterium callunae)
コリネバクテリウム・クレナタム(Corynebacterium crenatum)
コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)
コリネバクテリウム・リリウム(Corynebacterium lilium)
コリネバクテリウム・メラセコーラ(Corynebacterium melassecola)
コリネバクテリウム・サーモアミノゲネス(コリネバクテリウム・エフィシエンス)(Corynebacterium thermoaminogenes (Corynebacterium efficiens))
コリネバクテリウム・ハーキュリス(Corynebacterium herculis)
ブレビバクテリウム・ディバリカタム(コリネバクテリウム・グルタミカム)(Brevibacterium divaricatum (Corynebacterium glutamicum))
ブレビバクテリウム・フラバム(コリネバクテリウム・グルタミカム)(Brevibacterium
flavum (Corynebacterium glutamicum))
ブレビバクテリウム・イマリオフィラム(Brevibacterium immariophilum)
ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(コリネバクテリウム・グルタミカム)(Brevibacterium lactofermentum (Corynebacterium glutamicum))
ブレビバクテリウム・ロゼウム(Brevibacterium roseum)
ブレビバクテリウム・サッカロリティカム(Brevibacterium saccharolyticum)
ブレビバクテリウム・チオゲニタリス(Brevibacterium thiogenitalis)
コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(コリネバクテリウム・スタティオニス)(Corynebacterium ammoniagenes (Corynebacterium stationis))
ブレビバクテリウム・アルバム(Brevibacterium album)
ブレビバクテリウム・セリナム(Brevibacterium cerinum)
ミクロバクテリウム・アンモニアフィラム(Microbacterium ammoniaphilum)
コリネ型細菌としては、具体的には、下記のような菌株が挙げられる。
Corynebacterium acetoacidophilum ATCC 13870
Corynebacterium acetoglutamicum ATCC 15806
Corynebacterium alkanolyticum ATCC 21511
Corynebacterium callunae ATCC 15991
Corynebacterium crenatum AS1.542
Corynebacterium glutamicum ATCC 13020, ATCC 13032, ATCC 13060, ATCC 13869, FERM BP-734
Corynebacterium lilium ATCC 15990
Corynebacterium melassecola ATCC 17965
Corynebacterium efficiens (Corynebacterium thermoaminogenes) AJ12340 (FERM BP-1539)
Corynebacterium herculis ATCC 13868
Brevibacterium divaricatum (Corynebacterium glutamicum) ATCC 14020
Brevibacterium flavum (Corynebacterium glutamicum) ATCC 13826, ATCC 14067, AJ12418 (FERM BP-2205)
Brevibacterium immariophilum ATCC 14068
Brevibacterium lactofermentum (Corynebacterium glutamicum) ATCC 13869
Brevibacterium roseum ATCC 13825
Brevibacterium saccharolyticum ATCC 14066
Brevibacterium thiogenitalis ATCC 19240
Corynebacterium ammoniagenes (Corynebacterium stationis) ATCC 6871, ATCC 6872
Brevibacterium album ATCC 15111
Brevibacterium cerinum ATCC 15112
Microbacterium ammoniaphilum ATCC 15354
なお、コリネバクテリウム属細菌には、従来ブレビバクテリウム属に分類されていたが、現在コリネバクテリウム属に統合された細菌(Int. J. Syst. Bacteriol., 41, 255(1991))も含まれる。また、コリネバクテリウム・スタティオニスには、従来コリネバクテリウム・アンモニアゲネスに分類されていたが、16S rRNAの塩基配列解析等によりコリネバクテリウム・スタティオニスに再分類された細菌も含まれる(Int. J. Syst. Evol. Microbiol., 60, 874-879(2010))。
エシェリヒア属細菌としては、特に制限されないが、微生物学の専門家に知られている分類によりエシェリヒア属に分類されている細菌が挙げられる。エシェリヒア属細菌としては、例えば、Neidhardtらの著書(Backmann, B. J. 1996. Derivations and Genotypes
of some mutant derivatives of Escherichia coli K-12, p. 2460-2488. Table 1. In F. D. Neidhardt (ed.), Escherichia coli and Salmonella Cellular and Molecular Biology/Second Edition, American Society for Microbiology Press, Washington, D.C.
)に記載されたものが挙げられる。エシェリヒア属細菌としては、例えば、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)が挙げられる。エシェリヒア・コリとしては、例えば、W3110株(ATCC 27325)やMG1655株(ATCC 47076)等のエシェリヒア・コリK-12株;エシェリヒア・コリK5株(ATCC 23506);BL21(DE3)株等のエシェリヒア・コリB株;およびそれらの派生株が挙げられる。
これらの菌株は、例えば、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(住所12301 Parklawn Drive, Rockville, Maryland 20852 P.O. Box 1549, Manassas, VA 20108, United States of America)より分譲を受けることが出来る。すなわち各菌株に対応する登録番号が付与されており、この登録番号を利用して分譲を受けることが出来る(http://www.atcc.org/参照)。各菌株に対応する登録番号は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションのカタログに記載されている。また、これらの菌株は、例えば、各菌株が寄託された寄託機関から入手することができる。
塩基性アミノ酸生産能を有する微生物は、本来的に塩基性アミノ酸生産能を有するものであってもよく、塩基性アミノ酸生産能を有するように改変されたものであってもよい。塩基性アミノ酸生産能を有する微生物は、例えば、上記のような微生物に塩基性アミノ酸生産能を付与することにより、または、上記のような微生物の塩基性アミノ酸生産能を増強することにより、取得できる。
塩基性アミノ酸生産能の付与または増強は、従来、コリネ型細菌又はエシェリヒア属細菌等のアミノ酸生産菌の育種に採用されてきた方法により行うことができる(アミノ酸発酵、(株)学会出版センター、1986年5月30日初版発行、第77〜100頁参照)。そのような方法としては、例えば、栄養要求性変異株の取得、塩基性アミノ酸のアナログ耐性株の取得、代謝制御変異株の取得、塩基性アミノ酸の生合成系酵素の活性が増強された組換え株の創製が挙げられる。塩基性アミノ酸生産菌の育種において、付与される栄養要求性、アナログ耐性、代謝制御変異等の性質は、単独であってもよく、2種又は3種以上であってもよい。また、塩基性アミノ酸生産菌の育種において、活性が増強される塩基性アミノ酸生合成系酵素も、単独であってもよく、2種又は3種以上であってもよい。さらに、栄養要求性、アナログ耐性、代謝制御変異等の性質の付与と、生合成系酵素の活性の増強が組み合わされてもよい。
塩基性アミノ酸生産能を有する栄養要求性変異株、アナログ耐性株、又は代謝制御変異株は、親株又は野生株を通常の変異処理に供し、得られた変異株の中から、栄養要求性、アナログ耐性、又は代謝制御変異を示し、且つ塩基性アミノ酸生産能を有するものを選択することによって取得できる。通常の変異処理としては、X線や紫外線の照射、N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(MNNG)、エチルメタンスルフォネート(EMS)、メチルメタンスルフォネート(MMS)等の変異剤による処理が挙げられる。
塩基性アミノ酸生産能の付与又は増強は、目的の塩基性アミノ酸の生合成系酵素の活性を増強することによって行うことができる。酵素活性の増強は、例えば、同酵素をコードする遺伝子の発現を増強することにより行うことができる。遺伝子の発現を増強する方法は、WO00/18935号パンフレット、欧州特許出願公開1010755号明細書等に記載されている。酵素活性を増強する詳細な手法については後述する。
また、塩基性アミノ酸生産能の付与又は増強は、目的の塩基性アミノ酸の生合成経路から分岐して目的の塩基性アミノ酸以外の化合物を生成する反応を触媒する酵素の活性を低下させることによっても行うことができる。なお、ここでいう「目的の塩基性アミノ酸の生合成経路から分岐して目的の塩基性アミノ酸以外の化合物を生成する反応を触媒する酵
素」には、目的のアミノ酸の分解に関与する酵素も含まれる。酵素活性の低下は、例えば、同酵素をコードする遺伝子を破壊することにより行うことができる。酵素活性を低下させる詳細な手法については後述する。
以下、塩基性アミノ酸生産菌、および塩基性アミノ酸生産能を付与または増強する方法について具体的に例示する。なお、以下に例示するような塩基性アミノ酸生産菌が有する性質および塩基性アミノ酸生産能を付与または増強するための改変は、いずれも、単独で用いてもよく、適宜組み合わせて用いてもよい。
<L−リジン生産菌>
L−リジン生産能を付与又は増強するための方法としては、例えば、L−リジン生合成系酵素から選択される1またはそれ以上の酵素の活性が増大するように細菌を改変する方法が挙げられる。そのような酵素としては、特に制限されないが、ジヒドロジピコリン酸シンターゼ(dihydrodipicolinate synthase)(dapA)、アスパルトキナーゼIII(aspartokinase III)(lysC)、ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ(dihydrodipicolinate reductase)(dapB)、ジアミノピメリン酸デカルボキシラーゼ(diaminopimelate decarboxylase)(lysA)、ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼ(diaminopimelate dehydrogenase)(ddh)(米国特許第6,040,160号)、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(phosphoenolpyruvate carboxylase)(ppc)、アスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ(aspartate semialdehyde dehydrogenase)(asd)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(aspartate aminotransferase)(アスパラギン酸トランスアミナーゼ(aspartate transaminase))(aspC)、ジアミノピメリン酸エピメラーゼ(diaminopimelate epimerase)(dapF)、テトラヒドロジピコリン酸スクシニラーゼ(tetrahydrodipicolinate succinylase)(dapD)、スクシニルジアミノピメリン酸デアシラーゼ(succinyl-diaminopimelate deacylase)(dapE)、及びアスパルターゼ(aspartase)(aspA)(EP 1253195 A)が挙げられる。なお、カッコ内は、その酵素をコードする遺伝子の一例である(以下の記載においても同様)。これらの酵素の中では、例えば、ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ、ジアミノピメリン酸デカルボキシラーゼ、ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼ、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、ジアミノピメリン酸エピメラーゼ、アスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ、テトラヒドロジピコリン酸スクシニラーゼ、及びスクシニルジアミノピメリン酸デアシラーゼから選択される1またはそれ以上の酵素の活性を増強するのが好ましい。また、L−リジン生産菌又はそれを誘導するための親株では、エネルギー効率に関与する遺伝子(cyo)(EP 1170376 A)、ニコチンアミドヌクレオチドトランスヒドロゲナーゼ(nicotinamide nucleotide transhydrogenase)をコードする遺伝子(pntAB)(米国特許第5,830,716号)、ybjE遺伝子(WO2005/073390)、またはこれらの組み合わせの発現レベルが増大していてもよい。アスパルトキナーゼIII(lysC)はL−リジンによるフィードバック阻害を受けるので、同酵素の活性を増強するには、L−リジンによるフィードバック阻害が解除されたアスパルトキナーゼIIIをコードする変異型lysC遺伝子を利用してもよい。L−リジンによるフィードバック阻害が解除されたアスパルトキナーゼIIIとしては、318位のメチオニン残基がイソロイシン残基に置換される変異、323位のグリシン残基がアスパラギン酸残基に置換される変異、352位のスレオニン残基がイソロイシン残基に置換される変異の1またはそれ以上の変異を有するエシェリヒア・コリ由来のアスパルトキナーゼIIIが挙げられる(米国特許第5,661,012号、米国特許第6,040,160号)。また、ジヒドロジピコリン酸合成酵素(dapA)はL−リジンによるフィードバック阻害を受けるので、同酵素の活性を増強するには、L−リジンによるフィードバック阻害が解除されたジヒドロジピコリン酸合成酵素をコードする変異型dapA遺伝子を利用してもよい。L−リジンによるフィードバック阻害が解除されたジヒドロジピコリン酸合成酵素としては、118位のヒスチジン残基がチロシン残基に置換される変異を有するエシェリヒア・コリ由来のジヒドロジピコリン酸合成酵素が挙げられる(米国特許第6,040,160号)。
また、L−リジン生産能を付与又は増強するための方法としては、例えば、L−リジンの生合成経路から分岐してL−リジン以外の化合物を生成する反応を触媒する酵素から選択される1またはそれ以上の酵素の活性が低下するように細菌を改変する方法も挙げられる。そのような酵素としては、特に制限されないが、ホモセリンデヒドロゲナーゼ(homoserine dehydrogenase)、リジンデカルボキシラーゼ(lysine decarboxylase)(米国特許第5,827,698号)、及びリンゴ酸酵素(malic enzyme)(WO2005/010175)が挙げられる。
また、コリネ型細菌について、L−リジン生産能を付与又は増強するための方法としては、例えば、リジン排出系(lysE)の活性が増大するように細菌を改変する方法が挙げられる(WO97/23597)。Corynebacterium glutamicum ATCC 13032のlysE遺伝子は、NCBIデータベースにGenBank accession NC_006958 (VERSION NC_006958.1 GI:62388892)として登録されているゲノム配列中、1329712〜1330413位の配列の相補配列に相当する。Corynebacterium glutamicum ATCC13032のLysEタンパク質は、GenBank accession YP_225551 (YP_225551.1 GI:62390149)として登録されている。
また、L−リジン生産菌又はそれを誘導するための親株としては、L−リジンアナログに耐性を有する変異株が挙げられる。L−リジンアナログは腸内細菌科の細菌やコリネ型細菌等の細菌の生育を阻害するが、この阻害は、L−リジンが培地に共存するときには完全にまたは部分的に解除される。L−リジンアナログとしては、特に制限されないが、オキサリジン、リジンヒドロキサメート、S−(2−アミノエチル)−L−システイン(AEC)、γ−メチルリジン、α−クロロカプロラクタムが挙げられる。これらのリジンアナログに対して耐性を有する変異株は、細菌を通常の人工変異処理に付すことによって得ることができる。
L−リジン生産菌又はそれを誘導するための親株として、具体的には、例えば、E. coli AJ11442(FERM BP-1543, NRRL B-12185; 米国特許第4,346,170号参照)及びE. coli VL611が挙げられる。これらの株では、アスパルトキナーゼのL−リジンによるフィードバック阻害が解除されている。
L−リジン生産菌又はそれを誘導するための親株として、具体的には、E. coli WC196株も挙げられる。WC196株は、E. coli K-12に由来するW3110株にAEC耐性を付与することにより育種された(米国特許第5,827,698号)。WC196株は、E. coli AJ13069と命名され、1994年12月6日に、工業技術院生命工学工業技術研究所(現、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター、郵便番号:292-0818、住所:日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)に受託番号FERM P-14690として寄託され、1995年9月29日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP-5252が付与されている(米国特許第5,827,698号)。
好ましいL−リジン生産菌として、E. coli WC196ΔcadAΔldcやE. coli WC196ΔcadAΔldc/pCABD2が挙げられる(WO2010/061890)。WC196ΔcadAΔldcは、WC196株より、リジンデカルボキシラーゼをコードするcadA及びldcC遺伝子を破壊することにより構築した株である。WC196ΔcadAΔldc/pCABD2は、WC196ΔcadAΔldcに、リジン生合成系遺伝子を含むプラスミドpCABD2(米国特許第6,040,160号)を導入することにより構築した株である。WC196ΔcadAΔldcは、AJ110692と命名され、2008年10月7日に、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(現、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター、郵便番号:292-0818、住所:日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)に受託番号FERM BP-11027として国際寄託された。pCABD2は、L−リジンによるフィードバック阻害が解除される変異(H118Y)を有するエシェリヒア・コリ由来のジヒド
ロジピコリン酸合成酵素(DDPS)をコードする変異型dapA遺伝子と、L−リジンによるフィードバック阻害が解除される変異(T352I)を有するエシェリヒア・コリ由来のアスパルトキナーゼIIIをコードする変異型lysC遺伝子と、エシェリヒア・コリ由来のジヒドロジピコリン酸レダクターゼをコードするdapB遺伝子と、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム由来ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼをコードするddh遺伝子を含んでいる。
好ましいL−リジン生産菌として、E. coli AJIK01株(NITE BP-01520)も挙げられる。AJIK01株は、E. coli AJ111046と命名され、2013年1月29日に、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(郵便番号:292-0818、住所:日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に寄託され、2014年5月15日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号NITE BP-01520が付与されている。
また、L−リジン生産能を有するコリネ型細菌としては、例えば、AEC耐性変異株(Corynebacterium glutamicum (Brevibacterium lactofermentum) AJ11082(NRRL B-11470)株など;特公昭56-1914号公報、特公昭56-1915号公報、特公昭57-14157号公報、特公昭57-14158号公報、特公昭57-30474号公報、特公昭58-10075号公報、特公昭59-4993号公報、特公昭61-35840号公報、特公昭62-24074号公報、特公昭62-36673号公報、特公平5-11958号公報、特公平7-112437号公報、特公平7-112438号公報参照);その生育にL−ホモセリン等のアミノ酸を必要とする変異株(特公昭48-28078号公報、特公昭56-6499号公報参照);AECに耐性を示し、更にL−ロイシン、L−ホモセリン、L−プロリン、L−セリン、L−アルギニン、L−アラニン、L−バリン等のアミノ酸を要求する変異株(米国特許第3708395号及び第3825472号明細書参照);DL−α−アミノ−ε−カプロラクタム、α−アミノ−ラウリルラクタム、アスパラギン酸アナログ、スルファ剤、キノイド、N−ラウロイルロイシンに耐性を示す変異株;オキザロ酢酸デカルボキシラーゼ阻害剤または呼吸系酵素阻害剤に対する耐性を示す変異株(特開昭50-53588号公報、特開昭50-31093号公報、特開昭52-102498号公報、特開昭53-9394号公報、特開昭53-86089号公報、特開昭55-9783号公報、特開昭55-9759号公報、特開昭56-32995号公報、特開昭56-39778号公報、特公昭53-43591号公報、特公昭53-1833号公報);イノシトールまたは酢酸を要求する変異株(特開昭55-9784号公報、特開昭56-8692号公報);フルオロピルビン酸または34℃以上の温度に対して感受性を示す変異株(特開昭55-9783号公報、特開昭53-86090号公報);エチレングリコールに耐性を示す変異株(米国特許第4411997号明細書)が挙げられる。
<L−アルギニン生産菌>
L−アルギニン生産能を付与又は増強するための方法としては、例えば、L−アルギニン生合成系酵素から選択される1またはそれ以上の酵素の活性が増大するように細菌を改変する方法が挙げられる。そのような酵素としては、特に制限されないが、N−アセチルグルタミン酸シンターゼ(argA)、N−アセチルグルタミルリン酸レダクターゼ(argC)、オルニチンアセチルトランスフェラーゼ(argJ)、N−アセチルグルタミン酸キナーゼ(argB)、アセチルオルニチントランスアミナーゼ(argD)、アセチルオルニチンデアセチラーゼ(argE)オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ(argF)、アルギニノコハク酸シンターゼ(argG)、アルギニノコハク酸リアーゼ(argH)、カルバモイルリン酸シンターゼ(carAB)が挙げられる。N−アセチルグルタミン酸シンターゼ(argA)遺伝子としては、例えば、野生型の15位〜19位に相当するアミノ酸残基が置換され、L−アルギニンによるフィードバック阻害が解除された変異型N−アセチルグルタミン酸シンターゼをコードする遺伝子を用いると好適である(欧州出願公開1170361号明細書)。
L−アルギニン生産菌又はそれを誘導するための親株として、具体的には、例えば、E.
coli 237株 (VKPM B-7925) (米国特許出願公開2002/058315 A1)、変異型N−アセチルグルタミン酸シンターゼをコードするargA遺伝子が導入されたその誘導株 (ロシア特許出願
第2001112869号, EP1170361A1)、237株由来の酢酸資化能が向上した株であるE. coli 382株 (VKPM B-7926) (EP1170358A1)、及び382株にE. coli K-12株由来の野生型ilvA遺伝子が導入された株であるE. coli 382ilvA+株が挙げられる。E. coli 237株は、2000年4月10日にルシアン・ナショナル・コレクション・オブ・インダストリアル・マイクロオルガニズムズ (VKPM) (FGUP GosNII Genetika, 1 Dorozhny proezd., 1 Moscow 117545, Russia) にVKPM B-7925の受託番号で寄託され、2001年5月18日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管された。E. coli 382株は、2000年4月10日にルシアン・ナショナル・コレクション・オブ・インダストリアル・マイクロオルガニズムズ (VKPM) (FGUP GosNII Genetika,
1 Dorozhny proezd., 1 Moscow 117545, Russia) にVKPM B-7926の受託番号で寄託されている。
また、L−アルギニン生産菌又はそれを誘導するための親株としては、アミノ酸アナログ等への耐性を有する株も挙げられる。そのような株としては、例えば、α−メチルメチオニン、p−フルオロフェニルアラニン、D−アルギニン、アルギニンヒドロキサム酸、S−(2−アミノエチル)−システイン、α−メチルセリン、β−2−チエニルアラニン、またはスルファグアニジンに耐性を有するエシェリヒア・コリ変異株(特開昭56-106598号公報参照)が挙げられる。
また、L−アルギニン生産菌又はそれを誘導するための親株としては、アルギニンリプレッサーであるArgRを欠損した株(米国特許出願公開2002-0045223号)や細胞内のグルタミンシンテターゼ活性を上昇させた株(米国特許出願公開2005-0014236号公報)等のコリネ型細菌も挙げられる。
また、L−アルギニン生産菌又はそれを誘導するための親株としては、アミノ酸アナログなどへの耐性を有するコリネ型細菌の変異株も挙げられる。そのような株としては、例えば、2−チアゾールアラニン耐性に加えて、L−ヒスチジン、L−プロリン、L−スレオニン、L−イソロイシン、L−メチオニン、またはL−トリプトファン要求性を有する株(特開昭54-44096号公報);ケトマロン酸、フルオロマロン酸、又はモノフルオロ酢酸に耐性を有する株(特開昭57-18989号公報);アルギニノールに耐性を有する株(特公昭62-24075号公報);X−グアニジン(Xは脂肪鎖又はその誘導体)に耐性を有する株(特開平2-186995号公報);アルギニンヒドロキサメート及び6−アザウラシルに耐性を有する株(特開昭57-150381号公報)が挙げられる。L−アルギニン生産能を有するコリネ型細菌の具体例としては、下記のような菌株が挙げられる。
Corynebacterium glutamicum (Brevibacterium flavum) AJ11169(FERM BP-6892)
Corynebacterium glutamicum (Brevibacterium lactofermentum) AJ12092(FERM BP-6906)
Corynebacterium glutamicum (Brevibacterium flavum) AJ11336(FERM BP-6893)
Corynebacterium glutamicum (Brevibacterium flavum) AJ11345(FERM BP-6894)
Corynebacterium glutamicum (Brevibacterium lactofermentum) AJ12430(FERM BP-2228)
<L−ヒスチジン生産菌>
L−ヒスチジン生産能を付与又は増強するための方法としては、例えば、L−ヒスチジン生合成系酵素から選択される1またはそれ以上の酵素の活性が増大するように細菌を改変する方法が挙げられる。そのような酵素としては、特に制限されないが、ATPホスホリボシルトランスフェラーゼ(hisG)、ホスホリボシル−AMPサイクロヒドロラーゼ(hisI)、ホスホリボシル−ATPピロホスホヒドロラーゼ(hisI)、ホスホリボシルフォルミミノ−5−アミノイミダゾールカルボキサミドリボタイドイソメラーゼ(hisA)、アミドトランスフェラーゼ(hisH)、ヒスチジノールフォスフェイトアミノトランスフェラーゼ(hisC)、ヒスチジノールフォスファターゼ(hisB)、ヒスチジノールデヒドロゲナ
ーゼ(hisD)が挙げられる。
これらの内、hisG及びhisBHAFIにコードされるL−ヒスチジン生合成系酵素は、L−ヒスチジンにより阻害されることが知られている。従って、L−ヒスチジン生産能は、例えば、ATPホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子(hisG)にフィードバック阻害への耐性を付与する変異を導入することにより、付与または増強させることができる(ロシア特許第2003677号及び第2119536号)。
L−ヒスチジン生産菌又はそれを誘導するための親株として、具体的には、例えば、E.
coli 24株 (VKPM B-5945, RU2003677)、E. coli NRRL B-12116〜B-12121 (米国特許第4,388,405号)、E. coli H-9342 (FERM BP-6675)及びH-9343 (FERM BP-6676) (米国特許第6,344,347号)、E. coli H-9341 (FERM BP-6674) (EP1085087)、E. coli AI80/pFM201 (米国特許第6,258,554号)、L−ヒスチジン生合成系酵素をコードするDNAを保持するベクターを導入したE. coli FERM P-5038及び5048 (特開昭56-005099号)、アミノ酸輸送の遺伝子を導入したE. coli株(EP1016710A)、スルファグアニジン、DL−1,2,4−トリアゾール−3−アラニン、及びストレプトマイシンに対する耐性を付与したE. coli 80株(VKPM B-7270, ロシア特許第2119536号)などのエシェリヒア属に属する株が挙げられる。
また、塩基性アミノ酸生産能を付与または増強する方法としては、例えば、糖代謝に関与するタンパク質やエネルギー代謝に関与するタンパク質の活性が増大するように細菌を改変する方法が挙げられる。
糖代謝に関与するタンパク質としては、糖の取り込みに関与するタンパク質や解糖系酵素が挙げられる。糖代謝に関与するタンパク質をコードする遺伝子としては、グルコース6−リン酸イソメラーゼ遺伝子(pgi;国際公開第01/02542号パンフレット)、ピルビン酸カルボキシラーゼ遺伝子(pyc;国際公開99/18228号パンフレット、欧州出願公開1092776号明細書)、ホスホグルコムターゼ遺伝子(pgm;国際公開03/04598号パンフレット)、フルクトース二リン酸アルドラーゼ遺伝子(pfkB, fbp;国際公開03/04664号パンフレット)、トランスアルドラーゼ遺伝子(talB;国際公開03/008611号パンフレット)、フマラーゼ遺伝子(fum;国際公開01/02545号パンフレット)、non-PTSスクロース取り込み遺伝子(csc;欧州出願公開1149911号パンフレット)、スクロース資化性遺伝子(scrABオペロン;米国特許7,179,623号明細書)が挙げられる。
エネルギー代謝に関与するタンパク質をコードする遺伝子としては、トランスヒドロゲナーゼ遺伝子(pntAB;米国特許 5,830,716号明細書)、チトクロムbo型オキシダーゼ(cytochromoe bo type oxidase)遺伝子(cyoB;欧州特許出願公開1070376号明細書)が挙げられる。
塩基性アミノ酸生産菌の育種に使用される遺伝子およびタンパク質は、それぞれ、例えば、上記例示した遺伝子およびタンパク質の公知の塩基配列およびアミノ酸配列(以下、単に「公知の塩基配列およびアミノ酸配列」ともいう)を有していてよい。なお、「(アミノ酸または塩基)配列を有する」という表現は、当該「(アミノ酸または塩基)配列を含む」場合および当該「(アミノ酸または塩基)配列からなる」場合を包含する。また、塩基性アミノ酸生産菌の育種に使用される遺伝子およびタンパク質は、それぞれ、公知の塩基配列およびアミノ酸配列を有する遺伝子およびタンパク質の保存的バリアントであってもよい。「保存的バリアント」とは、元の機能が維持されたバリアントをいう。保存的バリアントとしては、例えば、公知の塩基配列およびアミノ酸配列を有する遺伝子およびタンパク質のホモログや人為的な改変体が挙げられる。
「元の機能が維持されている」とは、遺伝子またはタンパク質のバリアントが、元の遺
伝子またはタンパク質の機能(活性や性質)に対応する機能(活性や性質)を有することをいう。遺伝子についての「元の機能が維持されている」とは、遺伝子のバリアントが、元の機能が維持されたタンパク質をコードすることをいう。例えば、ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ遺伝子についての「元の機能が維持されている」とは、遺伝子のバリアントがジヒドロジピコリン酸レダクターゼ活性を有するタンパク質をコードすることをいう。また、ジヒドロジピコリン酸レダクターゼについての「元の機能が維持されている」とは、タンパク質のバリアントがジヒドロジピコリン酸レダクターゼ活性を有することをいう。
以下、保存的バリアントについて例示する。
塩基性アミノ酸生産菌の育種に使用される遺伝子またはタンパク質のホモログは、例えば、公知の塩基配列またはアミノ酸配列を問い合わせ配列として用いたBLAST検索やFASTA検索によって公開データベースから容易に取得することができる。また、塩基性アミノ酸生産菌の育種に使用される遺伝子のホモログは、例えば、コリネ型細菌等の生物の染色体を鋳型にして、公知の塩基配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRにより取得することができる。
塩基性アミノ酸生産菌の育種に使用される遺伝子は、元の機能が維持されている限り、それぞれ、公知のアミノ酸配列において、1若しくは数個の位置での1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするものであってもよい。例えば、コードされるタンパク質は、そのN末端および/またはC末端が、延長または短縮されていてもよい。なお上記「1又は数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によっても異なるが、具体的には、例えば、1〜50個、1〜40個、1〜30個、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個、特に好ましくは1〜3個を意味する。
上記の1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、または付加は、タンパク質の機能が正常に維持される保存的変異である。保存的変異の代表的なものは、保存的置換である。保存的置換とは、置換部位が芳香族アミノ酸である場合には、Phe、Trp、Tyr間で、置換部位が疎水性アミノ酸である場合には、Leu、Ile、Val間で、極性アミノ酸である場合には、Gln、Asn間で、塩基性アミノ酸である場合には、Lys、Arg、His間で、酸性アミノ酸である場合には、Asp、Glu間で、ヒドロキシル基を持つアミノ酸である場合には、Ser、Thr間でお互いに置換する変異である。保存的置換とみなされる置換としては、具体的には、AlaからSer又はThrへの置換、ArgからGln、His又はLysへの置換、AsnからGlu、Gln、Lys、His又はAspへの置換、AspからAsn、Glu又はGlnへの置換、CysからSer又はAlaへの置換、GlnからAsn、Glu、Lys、His、Asp又はArgへの置換、GluからGly、Asn、Gln、Lys又はAspへの置換、GlyからProへの置換、HisからAsn、Lys、Gln、Arg又はTyrへの置換、IleからLeu、Met、Val又はPheへの置換、LeuからIle、Met、Val又はPheへの置換、LysからAsn、Glu、Gln、His又はArgへの置換、MetからIle、Leu、Val又はPheへの置換、PheからTrp、Tyr、Met、Ile又はLeuへの置換、SerからThr又はAlaへの置換、ThrからSer又はAlaへの置換、TrpからPhe又はTyrへの置換、TyrからHis、Phe又はTrpへの置換、及び、ValからMet、Ile又はLeuへの置換が挙げられる。また、上記のようなアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、または逆位等には、遺伝子が由来する生物の個体差、種の違いに基づく場合などの天然に生じる変異(mutant又はvariant)によって生じるものも含まれる。
また、塩基性アミノ酸生産菌の育種に使用される遺伝子は、元の機能が維持されている限り、それぞれ、公知のアミノ酸配列全体に対して、例えば、50%以上、65%以上、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の相同性を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。尚、本
明細書において、「相同性」(homology)は、「同一性」(identity)を意味する。
また、塩基性アミノ酸生産菌の育種に使用される遺伝子は、元の機能が維持されている限り、それぞれ、公知の塩基配列から調製され得るプローブ、例えば公知の塩基配列の全体または一部に対する相補配列、とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであってもよい。「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。一例を示せば、相同性が高いDNA同士、例えば、50%以上、65%以上、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC、0.1% SDS、好ましくは60℃、0.1×SSC、0.1% SDS、より好ましくは68℃、0.1×SSC、0.1% SDSに相当する塩濃度および温度で、1回、好ましくは2〜3回洗浄する条件を挙げることができる。
上述の通り、上記ハイブリダイゼーションに用いるプローブは、遺伝子の相補配列の一部であってもよい。そのようなプローブは、公知の塩基配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとし、上述の遺伝子を含むDNA断片を鋳型とするPCRによって作製することができる。例えば、プローブとしては、300 bp程度の長さのDNA断片を用いることができる。プローブとして300 bp程度の長さのDNA断片を用いる場合には、ハイブリダイゼーションの洗いの条件としては、50℃、2×SSC、0.1% SDSが挙げられる。
また、宿主によってコドンの縮重性が異なるので、塩基性アミノ酸生産菌の育種に使用される遺伝子は、任意のコドンをそれと等価のコドンに置換したものであってもよい。
2つの配列間の配列同一性のパーセンテージは、例えば、数学的アルゴリズムを用いて決定できる。このような数学的アルゴリズムの限定されない例としては、Myers 及び Miller (1988) CABIOS 4:11 17のアルゴリズム、Smith et al (1981) Adv. Appl. Math. 2:482の局所ホモロジーアルゴリズム、Needleman及びWunsch (1970) J. Mol. Biol. 48:443 453のホモロジーアライメントアルゴリズム、Pearson及びLipman (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. 85:2444 2448の類似性を検索する方法、Karlin 及びAltschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873 5877に記載されているような、改良された、Karlin及びAltschul (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 872264のアルゴリズムが挙げられる。
これらの数学的アルゴリズムに基づくプログラムを利用して、配列同一性を決定するための配列比較(アラインメント)を行うことができる。プログラムは、適宜、コンピュータにより実行することができる。このようなプログラムとしては、特に限定されないが、PC/GeneプログラムのCLUSTAL(Intelligenetics, Mountain View, Calif.から入手可能)、ALIGNプログラム(Version 2.0)、並びにWisconsin Genetics Software Package, Version 8(Genetics Computer Group (GCG), 575 Science Drive, Madison, Wis., USAから入手可能)のGAP、BESTFIT、BLAST、FASTA、及びTFASTAが挙げられる。これらのプログラムを用いたアライメントは、例えば、初期パラメーターを用いて行うことができる。CLUSTALプログラムについては、HigGlns et al. (1988) Gene 73:237 244 (1988)、HigGlns et al. (1989) CABIOS 5:151 153、Corpet et al. (1988) Nucleic Acids Res. 16:10881 90、Huang et al. (1992) CABIOS 8:155 65、及びPearson et al. (1994) Meth. Mol. Biol. 24:307 331によく記載されている。
対象のタンパク質をコードするヌクレオチド配列と相同性があるヌクレオチド配列を得るために、具体的には、例えば、BLASTヌクレオチド検索を、BLASTNプログラム、スコア=100、ワード長=12にて行うことができる。対象のタンパク質と相同性があるアミノ酸配列を得るために、具体的には、例えば、BLASTタンパク質検索を、BLASTXプログラム、
スコア=50、ワード長=3にて行うことができる。BLASTヌクレオチド検索やBLASTタンパク質検索については、http://www.ncbi.nlm.nih.govを参照されたい。また、比較を目的としてギャップを加えたアライメントを得るために、Gapped BLAST(BLAST 2.0)を利用できる。また、PSI-BLAST (BLAST 2.0)を、配列間の離間した関係を検出する反復検索を行うのに利用できる。Gapped BLASTおよびPSI-BLASTについては、Altschul et al. (1997) Nucleic Acids Res. 25:3389を参照されたい。BLAST、Gapped BLAST、またはPSI-BLASTを利用する場合、例えば、各プログラム(例えば、ヌクレオチド配列に対してBLASTN、アミノ酸配列に対してBLASTX)の初期パラメーターが用いられ得る。アライメントは、手動にて行われてもよい。
2つの配列間の配列同一性は、2つの配列を最大一致となるように整列したときに2つの配列間で一致する残基の比率として算出される。
<1−2>タンパク質の活性を増大させる手法
以下に、タンパク質の活性を増大させる手法について説明する。
「タンパク質の活性が増大する」とは、同タンパク質の細胞当たりの活性が野生株や親株等の非改変株に対して増大していることを意味する。ここでいう「非改変株」とは、標的のタンパク質の活性が増大するように改変されていない対照株を意味する。非改変株としては、野生株や親株が挙げられる。なお、「タンパク質の活性が増大する」ことを、「タンパク質の活性が増強される」ともいう。「タンパク質の活性が増大する」とは、具体的には、非改変株と比較して、同タンパク質の細胞当たりの分子数が増加していること、および/または、同タンパク質の分子当たりの機能が増大していることをいう。すなわち、「タンパク質の活性が増大する」という場合の「活性」とは、タンパク質の触媒活性に限られず、タンパク質をコードする遺伝子の転写量(mRNA量)または翻訳量(タンパク質の量)を意味してもよい。また、「タンパク質の活性が増大する」とは、もともと標的のタンパク質の活性を有する菌株において同タンパク質の活性を増大させることだけでなく、もともと標的のタンパク質の活性が存在しない菌株に同タンパク質の活性を付与することを含む。また、結果としてタンパク質の活性が増大する限り、宿主が本来有する標的のタンパク質の活性を低下または消失させた上で、好適な標的のタンパク質の活性を付与してもよい。
タンパク質の活性の増大の程度は、タンパク質の活性が非改変株と比較して増大していれば特に制限されない。タンパク質の活性は、例えば、非改変株と比較して、1.5倍以上、2倍以上、または3倍以上に上昇してよい。また、非改変株が標的のタンパク質の活性を有していない場合は、同タンパク質をコードする遺伝子を導入することにより同タンパク質が生成されていればよいが、例えば、同タンパク質はその酵素活性が測定できる程度に生産されていてよい。
タンパク質の活性が増大するような改変は、例えば、同タンパク質をコードする遺伝子の発現を上昇させることによって達成される。「遺伝子の発現が上昇する」とは、同遺伝子の細胞当たりの発現量が野生株や親株等の非改変株と比較して増大することを意味する。「遺伝子の発現が上昇する」とは、具体的には、遺伝子の転写量(mRNA量)が増大すること、および/または、遺伝子の翻訳量(タンパク質の量)が増大することを意味してよい。なお、「遺伝子の発現が上昇する」ことを、「遺伝子の発現が増強される」ともいう。遺伝子の発現は、例えば、非改変株と比較して、1.5倍以上、2倍以上、または3倍以上に上昇してよい。また、「遺伝子の発現が上昇する」とは、もともと標的の遺伝子が発現している菌株において同遺伝子の発現量を上昇させることだけでなく、もともと標的の遺伝子が発現していない菌株において、同遺伝子を発現させることを含む。すなわち、「遺伝子の発現が上昇する」とは、例えば、標的の遺伝子を保持しない菌株に同遺伝
子を導入し、同遺伝子を発現させることを含む。
遺伝子の発現の上昇は、例えば、遺伝子のコピー数を増加させることにより達成できる。
遺伝子のコピー数の増加は、宿主の染色体へ同遺伝子を導入することにより達成できる。染色体への遺伝子の導入は、例えば、相同組み換えを利用して行うことができる(MillerI, J. H. Experiments in Molecular Genetics, 1972, Cold Spring Harbor Laboratory)。相同組み換えを利用する遺伝子導入法としては、例えば、Redドリブンインテグレーション(Red-driven integration)法(Datsenko, K. A, and Wanner, B. L. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. 97:6640-6645 (2000))等の直鎖状DNAを用いる方法、温度感受性複製起点を含むプラスミドを用いる方法、接合伝達可能なプラスミドを用いる方法、宿主内で機能する複製起点を持たないスイサイドベクターを用いる方法、ファージを用いたtransduction法が挙げられる。遺伝子は、1コピーのみ導入されてもよく、2コピーまたはそれ以上導入されてもよい。例えば、染色体上に多数のコピーが存在する配列を標的として相同組み換えを行うことで、染色体へ遺伝子の多数のコピーを導入することができる。染色体上に多数のコピーが存在する配列としては、反復DNA配列(repetitive DNA)、トランスポゾンの両端に存在するインバーテッド・リピートが挙げられる。また、目的物質の生産に不要な遺伝子等の染色体上の適当な配列を標的として相同組み換えを行ってもよい。また、遺伝子は、トランスポゾンやMini-Muを用いて染色体上にランダムに導入することもできる(特開平2-109985号公報、US5,882,888、EP805867B1)。
染色体上に標的遺伝子が導入されたことの確認は、同遺伝子の全部又は一部と相補的な配列を持つプローブを用いたサザンハイブリダイゼーション、又は同遺伝子の配列に基づいて作成したプライマーを用いたPCR等によって確認できる。
また、遺伝子のコピー数の増加は、同遺伝子を含むベクターを宿主に導入することによっても達成できる。例えば、標的遺伝子を含むDNA断片を、宿主で機能するベクターと連結して同遺伝子の発現ベクターを構築し、当該発現ベクターで宿主を形質転換することにより、同遺伝子のコピー数を増加させることができる。標的遺伝子を含むDNA断片は、例えば、標的遺伝子を有する微生物のゲノムDNAを鋳型とするPCRにより取得できる。ベクターとしては、宿主の細胞内において自律複製可能なベクターを用いることができる。ベクターは、マルチコピーベクターであるのが好ましい。また、形質転換体を選択するために、ベクターは抗生物質耐性遺伝子などのマーカーを有することが好ましい。また、ベクターは、挿入された遺伝子を発現するためのプロモーターやターミネーターを備えていてもよい。ベクターは、例えば、細菌プラスミド由来のベクター、酵母プラスミド由来のベクター、バクテリオファージ由来のベクター、コスミド、またはファージミド等であってよい。エシェリヒア・コリ等の腸内細菌科の細菌において自律複製可能なベクターとして、具体的には、例えば、pUC19、pUC18、pHSG299、pHSG399、pHSG398、pBR322、pSTV29(いずれもタカラバイオ社より入手可)、pACYC184、pMW219(ニッポンジーン社)、pTrc99A(ファルマシア社)、pPROK系ベクター(クロンテック社)、pKK233‐2(クロンテック社製)、pET系ベクター(ノバジェン社)、pQE系ベクター(キアゲン社)、pACYC系ベクター、広宿主域ベクターRSF1010が挙げられる。コリネ型細菌で自律複製可能なベクターとして、具体的には、例えば、pHM1519(Agric, Biol. Chem., 48, 2901-2903(1984));pAM330(Agric. Biol. Chem., 48, 2901-2903(1984));これらを改良した薬剤耐性遺伝子を有するプラスミド;特開平3-210184号公報に記載のプラスミドpCRY30;特開平2-72876号公報及び米国特許5,185,262号明細書公報に記載のプラスミドpCRY21、pCRY2KE、pCRY2KX、pCRY31、pCRY3KE及びpCRY3KX;特開平1-191686号公報に記載のプラスミドpCRY2およびpCRY3;特開昭58-192900号公報に記載のpAJ655、pAJ611及びpAJ1844;特開昭57-134500号公報に記載のpCG1;特開昭58-35197号公報に記載のpCG2;特開昭57-183799号公報
に記載のpCG4およびpCG11;特開平10-215883号公報に記載のpVK7;特開平9-070291号公報に記載のpVC7が挙げられる。
遺伝子を導入する場合、遺伝子は、発現可能に本発明の細菌に保持されていればよい。具体的には、遺伝子は、本発明の細菌で機能するプロモーター配列による制御を受けて発現するように導入されていればよい。プロモーターは、宿主由来のプロモーターであってもよく、異種由来のプロモーターであってもよい。プロモーターは、導入する遺伝子の固有のプロモーターであってもよく、他の遺伝子のプロモーターであってもよい。プロモーターとしては、例えば、後述するような、より強力なプロモーターを利用してもよい。
遺伝子の下流には、転写終結用のターミネーターを配置することができる。ターミネーターは、本発明の細菌において機能するものであれば特に制限されない。ターミネーターは、宿主由来のターミネーターであってもよく、異種由来のターミネーターであってもよい。ターミネーターは、導入する遺伝子の固有のターミネーターであってもよく、他の遺伝子のターミネーターであってもよい。ターミネーターとして、具体的には、例えば、T7ターミネーター、T4ターミネーター、fdファージターミネーター、tetターミネーター、およびtrpAターミネーターが挙げられる。
各種微生物において利用可能なベクター、プロモーター、ターミネーターに関しては、例えば「微生物学基礎講座8 遺伝子工学、共立出版、1987年」に詳細に記載されており、それらを利用することが可能である。
また、2またはそれ以上の遺伝子を導入する場合、各遺伝子が、発現可能に本発明の細菌に保持されていればよい。例えば、各遺伝子は、全てが単一の発現ベクター上に保持されていてもよく、全てが染色体上に保持されていてもよい。また、各遺伝子は、複数の発現ベクター上に別々に保持されていてもよく、単一または複数の発現ベクター上と染色体上とに別々に保持されていてもよい。また、2またはそれ以上の遺伝子でオペロンを構成して導入してもよい。「2またはそれ以上の遺伝子を導入する場合」としては、例えば、2またはそれ以上の酵素をそれぞれコードする遺伝子を導入する場合、単一の酵素を構成する2またはそれ以上のサブユニットをそれぞれコードする遺伝子を導入する場合、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
導入される遺伝子は、宿主で機能するタンパク質をコードするものであれば特に制限されない。導入される遺伝子は、宿主由来の遺伝子であってもよく、異種由来の遺伝子であってもよい。導入される遺伝子は、例えば、同遺伝子の塩基配列に基づいて設計したプライマーを用い、同遺伝子を有する生物のゲノムDNAや同遺伝子を搭載するプラスミド等を鋳型として、PCRにより取得することができる。また、導入される遺伝子は、例えば、同遺伝子の塩基配列に基づいて全合成してもよい(Gene, 60(1), 115-127 (1987))。取得した遺伝子は、そのまま、あるいは適宜改変して、利用することができる。
なお、タンパク質が複数のサブユニットからなる複合体として機能する場合、結果としてタンパク質の活性が増大する限り、それら複数のサブユニットの全てを改変してもよく、一部のみを改変してもよい。すなわち、例えば、遺伝子の発現を上昇させることによりタンパク質の活性を増大させる場合、それらのサブユニットをコードする複数の遺伝子の全ての発現を増強してもよく、一部の発現のみを増強してもよい。通常は、それらのサブユニットをコードする複数の遺伝子の全ての発現を増強するのが好ましい。また、複合体を構成する各サブユニットは、複合体が目的のタンパク質の機能を有する限り、1種の生物由来であってもよく、2種またはそれ以上の異なる生物由来であってもよい。すなわち、例えば、複数のサブユニットをコードする、同一の生物由来の遺伝子を宿主に導入してもよく、それぞれ異なる生物由来の遺伝子を宿主に導入してもよい。
また、遺伝子の発現の上昇は、遺伝子の転写効率を向上させることにより達成できる。また、遺伝子の発現の上昇は、遺伝子の翻訳効率を向上させることにより達成できる。遺伝子の転写効率や翻訳効率の向上は、例えば、発現調節配列の改変により達成できる。「発現調節配列」とは、遺伝子の発現に影響する部位の総称である。発現調節配列としては、例えば、プロモーター、シャインダルガノ(SD)配列(リボソーム結合部位(RBS)ともいう)、およびRBSと開始コドンとの間のスペーサー領域が挙げられる。発現調節配列は、プロモーター検索ベクターやGENETYX等の遺伝子解析ソフトを用いて決定することができる。これら発現調節配列の改変は、例えば、温度感受性ベクターを用いた方法や、Redドリブンインテグレーション法(WO2005/010175)により行うことができる。
遺伝子の転写効率の向上は、例えば、染色体上の遺伝子のプロモーターをより強力なプロモーターに置換することにより達成できる。「より強力なプロモーター」とは、遺伝子の転写が、もともと存在している野生型のプロモーターよりも向上するプロモーターを意味する。より強力なプロモーターとしては、例えば、公知の高発現プロモーターであるT7プロモーター、trpプロモーター、lacプロモーター、thrプロモーター、tacプロモーター、trcプロモーター、tetプロモーター、araBADプロモーター、rpoHプロモーター、PRプロモーター、およびPLプロモーターが挙げられる。また、コリネ型細菌で利用できるより強力なプロモーターとしては、人為的に設計変更されたP54-6プロモーター(Appl.Microbiol.Biotechnolo., 53, 674-679(2000))、コリネ型細菌内で酢酸、エタノール、ピルビン酸等で誘導できるpta、aceA、aceB、adh、amyEプロモーター、コリネ型細菌内で発現量が多い強力なプロモーターであるcspB、SOD、tuf(EF-Tu)プロモーター(Journal of Biotechnology 104 (2003) 311-323, Appl Environ Microbiol. 2005 Dec;71(12):8587-96.)、lacプロモーター、tacプロモーター、trcプロモーターが挙げられる。また、より強力なプロモーターとしては、各種レポーター遺伝子を用いることにより、在来のプロモーターの高活性型のものを取得してもよい。例えば、プロモーター領域内の-35、-10領域をコンセンサス配列に近づけることにより、プロモーターの活性を高めることができる(国際公開第00/18935号)。高活性型プロモーターとしては、各種tac様プロモーター(Katashkina JI et al. Russian Federation Patent application 2006134574)やpnlp8プロモーター(WO2010/027045)が挙げられる。プロモーターの強度の評価法および強力なプロモーターの例は、Goldsteinらの論文(Prokaryotic promoters in biotechnology. Biotechnol. Annu. Rev., 1, 105-128 (1995))等に記載されている。
遺伝子の翻訳効率の向上は、例えば、染色体上の遺伝子のシャインダルガノ(SD)配列(リボソーム結合部位(RBS)ともいう)をより強力なSD配列に置換することにより達成できる。「より強力なSD配列」とは、mRNAの翻訳が、もともと存在している野生型のSD配列よりも向上するSD配列を意味する。より強力なSD配列としては、例えば、ファージT7由来の遺伝子10のRBSが挙げられる(Olins P. O. et al, Gene, 1988, 73, 227-235)。さらに、RBSと開始コドンとの間のスペーサー領域、特に開始コドンのすぐ上流の配列(5'-UTR)における数個のヌクレオチドの置換、あるいは挿入、あるいは欠失がmRNAの安定性および翻訳効率に非常に影響を及ぼすことが知られており、これらを改変することによっても遺伝子の翻訳効率を向上させることができる。
遺伝子の翻訳効率の向上は、例えば、コドンの改変によっても達成できる。エシェリヒア・コリ等において、mRNA分子の集団内に見出される61種のアミノ酸コドン間には明らかなコドンの偏りが存在し、あるtRNAの存在量は、対応するコドンの使用頻度と直接比例するようである(Kane, J.F., Curr. Opin. Biotechnol., 6(5), 494-500 (1995))。すなわち、過剰のレアコドンを含むmRNAが大量に存在すると翻訳の問題が生じうる。近年の研究によれば、特に、AGG/AGA、CUA、AUA、CGA、又はCC
Cコドンのクラスターが、合成されたタンパク質の量および質の両方を低下させ得ることが示唆されている。このような問題は、特に異種遺伝子の発現の際に生じうる。よって、遺伝子の異種発現を行う場合等には、遺伝子中に存在するレアコドンを、より高頻度で利用される同義コドンに置き換えることにより、遺伝子の翻訳効率を向上させることができる。すなわち、導入される遺伝子は、例えば、使用する宿主のコドン使用頻度に応じて最適なコドンを有するように改変されてよい。コドンの置換は、例えば、DNAの目的の部位に目的の変異を導入する部位特異的変異法により行うことができる。部位特異的変異法としては、PCRを用いる方法(Higuchi, R., 61, in PCR technology, Erlich, H. A. Eds., Stockton press (1989);Carter, P., Meth. in Enzymol., 154, 382 (1987))や、ファージを用いる方法(Kramer,W. and Frits, H. J., Meth. in Enzymol., 154, 350 (1987);Kunkel, T. A. et al., Meth. in Enzymol., 154, 367 (1987))が挙げられる。また、コドンが置換された遺伝子断片を全合成してもよい。種々の生物におけるコドンの使用頻度は、「コドン使用データベース」(http://www.kazusa.or.jp/codon; Nakamura, Y. et al, Nucl. Acids Res., 28, 292 (2000))に開示されている。
また、遺伝子の発現の上昇は、遺伝子の発現を上昇させるようなレギュレーターを増幅すること、または、遺伝子の発現を低下させるようなレギュレーターを欠失または弱化させることによっても達成できる。
上記のような遺伝子の発現を上昇させる手法は、単独で用いてもよく、任意の組み合わせで用いてもよい。
また、タンパク質の活性が増大するような改変は、例えば、タンパク質の比活性を増強することによっても達成できる。比活性の増強には、フィードバック阻害の低減および解除も含まれる。比活性が増強されたタンパク質は、例えば、種々の生物を探索し取得することができる。また、在来のタンパク質に変異を導入することで高活性型のものを取得してもよい。導入される変異は、例えば、タンパク質の1若しくは数個の位置での1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、又は付加されるものであってよい。変異の導入は、例えば、上述したような部位特異的変異法により行うことができる。また、変異の導入は、例えば、突然変異処理により行ってもよい。突然変異処理としては、X線の照射、紫外線の照射、ならびにN−メチル−N'−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(MNNG)、エチルメタンスルフォネート(EMS)、およびメチルメタンスルフォネート(MMS)等の変異剤による処理が挙げられる。また、in vitroでDNAを直接ヒドロキシルアミンで処理し、ランダム変異を誘発してもよい。比活性の増強は、単独で用いてもよく、上記のような遺伝子の発現を増強する手法と任意に組み合わせて用いてもよい。
形質転換の方法は特に限定されず、従来知られた方法を用いることができる。例えば、エシェリヒア・コリ K-12について報告されているような、受容菌細胞を塩化カルシウムで処理してDNAの透過性を増す方法(Mandel, M. and Higa, A.,J. Mol. Biol. 1970, 53,
159-162)や、バチルス・ズブチリスについて報告されているような、増殖段階の細胞からコンピテントセルを調製してDNAを導入する方法(Duncan, C. H., Wilson, G. A. and Young, F. E.., 1997. Gene 1: 153-167)を用いることができる。あるいは、バチルス・ズブチリス、放線菌類、及び酵母について知られているような、DNA受容菌の細胞を、組換えDNAを容易に取り込むプロトプラストまたはスフェロプラストの状態にして組換えDNAをDNA受容菌に導入する方法(Chang, S.and Choen, S.N., 1979.Mol. Gen. Genet. 168: 111-115; Bibb, M. J., Ward, J. M. and Hopwood, O. A. 1978.Nature 274: 398-400; Hinnen, A., Hicks, J. B. and Fink, G. R. 1978. Proc. Natl.Acad. Sci. USA 75: 1929-1933)も応用できる。あるいは、コリネ型細菌について報告されているような、電気パルス法(特開平2-207791)を利用することもできる。
タンパク質の活性が増大したことは、同タンパク質の活性を測定することで確認できる。
タンパク質の活性が増大したことは、同タンパク質をコードする遺伝子の発現が上昇したことを確認することによっても、確認できる。遺伝子の発現が上昇したことは、同遺伝子の転写量が上昇したことを確認することや、同遺伝子から発現するタンパク質の量が上昇したことを確認することにより確認できる。
遺伝子の転写量が上昇したことの確認は、同遺伝子から転写されるmRNAの量を野生株または親株等の非改変株と比較することによって行うことができる。mRNAの量を評価する方法としてはノーザンハイブリダイゼーション、RT-PCR等が挙げられる(Sambrook, J., et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual/Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor (USA), 2001)。mRNAの量は、非改変株と比較して、例えば、1.5倍以上、2倍以上、または3倍以上に上昇してよい。
タンパク質の量が上昇したことの確認は、抗体を用いてウェスタンブロットによって行うことができる(Molecular Cloning(Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor (USA), 2001))。タンパク質の量は、非改変株と比較して、例えば、1.5倍以上、2倍以上、または3倍以上に上昇してよい。
上記したタンパク質の活性を増大させる手法は、任意のタンパク質、例えば塩基性アミノ酸生合成系酵素やリジン排出系、の活性増強や、任意の遺伝子、例えば塩基性アミノ酸生合成系酵素やリジン排出系をコードする遺伝子、の発現増強に利用できる。
<1−3>タンパク質の活性を低下させる手法
以下に、タンパク質の活性を低下させる手法について説明する。
「タンパク質の活性が低下する」とは、同タンパク質の細胞当たりの活性が野性株や親株等の非改変株と比較して減少していることを意味し、活性が完全に消失している場合を含む。ここでいう「非改変株」とは、標的のタンパク質の活性が低下するように改変されていない対照株を意味する。非改変株としては、野生株や親株が挙げられる。「タンパク質の活性が低下する」とは、具体的には、非改変株と比較して、同タンパク質の細胞当たりの分子数が低下していること、および/または、同タンパク質の分子当たりの機能が低下していることをいう。すなわち、「タンパク質の活性が低下する」という場合の「活性」とは、タンパク質の触媒活性に限られず、タンパク質をコードする遺伝子の転写量(mRNA量)または翻訳量(タンパク質の量)を意味してもよい。なお、「タンパク質の細胞当たりの分子数が低下している」ことには、同タンパク質が全く存在していない場合が含まれる。また、「タンパク質の分子当たりの機能が低下している」ことには、同タンパク質の分子当たりの機能が完全に消失している場合が含まれる。タンパク質の活性の低下の程度は、タンパク質の活性が非改変株と比較して低下していれば特に制限されない。タンパク質の活性は、例えば、非改変株の、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下してよい。
タンパク質の活性が低下するような改変は、例えば、同タンパク質をコードする遺伝子の発現を低下させることにより達成できる。「遺伝子の発現が低下する」とは、同遺伝子の細胞当たりの発現量が野生株や親株等の非改変株と比較して減少することを意味する。「遺伝子の発現が低下する」とは、具体的には、遺伝子の転写量(mRNA量)が低下すること、および/または、遺伝子の翻訳量(タンパク質の量)が低下することを意味してよい。「遺伝子の発現が低下する」ことには、同遺伝子が全く発現していない場合が含まれる。なお、「遺伝子の発現が低下する」ことを、「遺伝子の発現が弱化される」ともい
う。遺伝子の発現は、例えば、非改変株の、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下してよい。
遺伝子の発現の低下は、例えば、転写効率の低下によるものであってもよく、翻訳効率の低下によるものであってもよく、それらの組み合わせによるものであってもよい。遺伝子の発現の低下は、例えば、遺伝子のプロモーター、シャインダルガノ(SD)配列(リボソーム結合部位(RBS)ともいう)、RBSと開始コドンとの間のスペーサー領域等の発現調節配列を改変することにより達成できる。発現調節配列を改変する場合には、発現調節配列は、好ましくは1塩基以上、より好ましくは2塩基以上、特に好ましくは3塩基以上が改変される。また、発現調節配列の一部または全部を欠失させてもよい。また、遺伝子の発現の低下は、例えば、発現制御に関わる因子を操作することによっても達成できる。発現制御に関わる因子としては、転写や翻訳制御に関わる低分子(誘導物質、阻害物質など)、タンパク質(転写因子など)、核酸(siRNAなど)等が挙げられる。また、遺伝子の発現の低下は、例えば、遺伝子のコード領域に遺伝子の発現が低下するような変異を導入することによっても達成できる。例えば、遺伝子のコード領域のコドンを、宿主においてより低頻度で利用される同義コドンに置き換えることによって、遺伝子の発現を低下させることができる。また、例えば、後述するような遺伝子の破壊により、遺伝子の発現自体が低下し得る。
また、タンパク質の活性が低下するような改変は、例えば、同タンパク質をコードする遺伝子を破壊することにより達成できる。「遺伝子が破壊される」とは、正常に機能するタンパク質を産生しないように同遺伝子が改変されることを意味する。「正常に機能するタンパク質を産生しない」ことには、同遺伝子からタンパク質が全く産生されない場合や、同遺伝子から分子当たりの機能(活性や性質)が低下又は消失したタンパク質が産生される場合が含まれる。
遺伝子の破壊は、例えば、染色体上の遺伝子のコード領域の一部又は全部を欠損させることにより達成できる。さらには、染色体上の遺伝子の前後の配列を含めて、遺伝子全体を欠失させてもよい。タンパク質の活性の低下が達成できる限り、欠失させる領域は、N末端領域、内部領域、C末端領域等のいずれの領域であってもよい。通常、欠失させる領域は長い方が確実に遺伝子を不活化することができる。また、欠失させる領域の前後の配列は、リーディングフレームが一致しないことが好ましい。
また、遺伝子の破壊は、例えば、染色体上の遺伝子のコード領域にアミノ酸置換(ミスセンス変異)を導入すること、終止コドンを導入すること(ナンセンス変異)、あるいは1〜2塩基を付加または欠失するフレームシフト変異を導入すること等によっても達成できる(Journal of Biological Chemistry 272:8611-8617(1997), Proceedings of the National Academy of Sciences, USA 95 5511-5515(1998), Journal of Biological Chemistry 26 116, 20833-20839(1991))。
また、遺伝子の破壊は、例えば、染色体上の遺伝子のコード領域に他の配列を挿入することによっても達成できる。挿入部位は遺伝子のいずれの領域であってもよいが、挿入する配列は長い方が確実に遺伝子を不活化することができる。また、挿入部位の前後の配列は、リーディングフレームが一致しないことが好ましい。他の配列としては、コードされるタンパク質の活性を低下又は消失させるものであれば特に制限されないが、例えば、抗生物質耐性遺伝子等のマーカー遺伝子や目的物質の生産に有用な遺伝子が挙げられる。
染色体上の遺伝子を上記のように改変することは、例えば、正常に機能するタンパク質を産生しないように改変した欠失型遺伝子を作製し、該欠失型遺伝子を含む組換えDNAで宿主を形質転換して、欠失型遺伝子と染色体上の野生型遺伝子とで相同組換えを起こさ
せることにより、染色体上の野生型遺伝子を欠失型遺伝子に置換することによって達成できる。その際、組換えDNAには、宿主の栄養要求性等の形質にしたがって、マーカー遺伝子を含ませておくと操作がしやすい。欠失型遺伝子としては、遺伝子の全領域あるいは一部の領域を欠失した遺伝子、ミスセンス変異を導入した遺伝子、ナンセンス変異を導入した遺伝子、フレームシフト変異を導入した遺伝子、トランスポゾンやマーカー遺伝子等の挿入配列を導入した遺伝子が挙げられる。欠失型遺伝子によってコードされるタンパク質は、生成したとしても、野生型タンパク質とは異なる立体構造を有し、機能が低下又は消失する。このような相同組換えを利用した遺伝子置換による遺伝子破壊は既に確立しており、「Redドリブンインテグレーション(Red-driven integration)」と呼ばれる方法(Datsenko, K. A, and Wanner, B. L. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. 97:6640-6645 (2000))、Redドリブンインテグレーション法とλファージ由来の切り出しシステム(Cho, E.
H., Gumport, R. I., Gardner, J. F. J. Bacteriol. 184: 5200-5203 (2002))とを組み合わせた方法(WO2005/010175号参照)等の直鎖状DNAを用いる方法や、温度感受性複製起点を含むプラスミドを用いる方法、接合伝達可能なプラスミドを用いる方法、宿主内で機能する複製起点を持たないスイサイドベクターを用いる方法などがある(米国特許第6303383号、特開平05-007491号)。
また、タンパク質の活性が低下するような改変は、例えば、突然変異処理により行ってもよい。突然変異処理としては、X線の照射、紫外線の照射、ならびにN−メチル−N'−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(MNNG)、エチルメタンスルフォネート(EMS)、およびメチルメタンスルフォネート(MMS)等の変異剤による処理が挙げられる。
なお、タンパク質が複数のサブユニットからなる複合体として機能する場合、結果としてタンパク質の活性が低下する限り、それら複数のサブユニットの全てを改変してもよく、一部のみを改変してもよい。すなわち、例えば、それらのサブユニットをコードする複数の遺伝子の全てを破壊等してもよく、一部のみを破壊等してもよい。また、タンパク質に複数のアイソザイムが存在する場合、結果としてタンパク質の活性が低下する限り、複数のアイソザイムの全ての活性を低下させてもよく、一部のみの活性を低下させてもよい。すなわち、例えば、それらのアイソザイムをコードする複数の遺伝子の全てを破壊等してもよく、一部のみを破壊等してもよい。
タンパク質の活性が低下したことは、同タンパク質の活性を測定することで確認できる。
タンパク質の活性が低下したことは、同タンパク質をコードする遺伝子の発現が低下したことを確認することによっても、確認できる。遺伝子の発現が低下したことは、同遺伝子の転写量が低下したことを確認することや、同遺伝子から発現するタンパク質の量が低下したことを確認することにより確認できる。
遺伝子の転写量が低下したことの確認は、同遺伝子から転写されるmRNAの量を非改変株と比較することによって行うことが出来る。mRNAの量を評価する方法としては、ノーザンハイブリダイゼーション、RT−PCR等が挙げられる(Molecular Cloning(Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor (USA), 2001))。mRNAの量は、非改変株と比較して、例えば、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下してよい。
タンパク質の量が低下したことの確認は、抗体を用いてウェスタンブロットによって行うことが出来る(Molecular Cloning(Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor (USA), 2001))。タンパク質の量は、非改変株と比較して、例えば、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下してよい。
遺伝子が破壊されたことは、破壊に用いた手段に応じて、同遺伝子の一部または全部の塩基配列、制限酵素地図、または全長等を決定することで確認できる。
上記したタンパク質の活性を低下させる手法は、任意のタンパク質、例えば目的の塩基性アミノ酸の生合成経路から分岐して目的の塩基性アミノ酸以外の化合物を生成する反応を触媒する酵素、の活性低下や、任意の遺伝子、例えば目的の塩基性アミノ酸の生合成経路から分岐して目的の塩基性アミノ酸以外の化合物を生成する反応を触媒する酵素をコードする遺伝子、の発現低下に利用できる。
<2>発酵工程
発酵工程は、塩基性アミノ酸生産能を有する微生物を培地で培養し、塩基性アミノ酸を含有する培養液(発酵液)を得る工程である。発酵工程は、重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンが塩基性アミノ酸のカウンタイオンとなるように実施される。そのような発酵形態を「炭酸塩発酵」ともいう。炭酸塩発酵によれば、塩基性アミノ酸のカウンタイオンとして従来利用されていた硫酸イオン及び/又は塩化物イオンの使用量を削減しつつ、塩基性アミノ酸を発酵生産することができる。
炭酸塩発酵は、例えば、US2002-025564A、EP1813677A、特開2002-65287に記載されているように実施することができる。
炭酸塩発酵は、具体的には、例えば、重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンが培地中に20mM以上、好ましくは30mM以上、より好ましくは40mM以上存在する培養期があるようにして実施することができる。なお、上記例示した濃度は、重炭酸イオンの濃度及び炭酸イオンの濃度の合計である。「重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンが培地中に所定の濃度で存在する培養期がある」とは、重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンが、培養の少なくとも一部の期間において当該濃度で培地中に存在していることをいう。すなわち、重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンは、培養の全期間において上記例示した濃度で培地中に存在していてもよく、培養の一部の期間において上記例示した濃度で培地中に存在していてもよい。「一部の期間」は、所望の塩基性アミノ酸の生産性が得られる限り、特に制限されない。「一部の期間」とは、例えば、培養の全期間の10%以上、20%以上、30%以上、50%以上、70%以上、または90%以上の期間であってよい。なお、「培養の全期間」とは、培養が種培養と本培養とに分けて行われる場合には、本培養の全期間を意味する。重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンは、塩基性アミノ酸が生産されている期間に上記例示した濃度で培地中に存在するのが好ましい。すなわち、例えば、発酵工程が、塩基性アミノ酸生産菌を増殖させる段階(増殖期)と塩基性アミノ酸を産生させる段階(生産期)を含む場合、重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンは、少なくとも物質生産期に上記例示した濃度で培地中に存在するのが好ましい。「増殖期」とは、炭素源が主に菌体生育に使用されている時期を意味し、具体的には、培養開始から3時間、6時間、または10時間までの期間を意味してもよい。「生産期」とは、炭素源が主に物質生産に用いられている時期を意味し、具体的には、培養開始の3時間後以降、6時間後以降、または10時間後以降の期間を意味してもよい。
重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンを培地中に存在させることは、発酵槽内圧力を正となるように制御すること、炭酸ガスを培地に供給すること、またはその組み合わせにより実施することができる。発酵槽内圧力を正となるように制御することは、例えば、給気圧を排気圧より高くすることにより実施できる。発酵槽内圧力を正となるように制御することによって、発酵により生成する炭酸ガスが培地に溶解して重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンを生じ、重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンが塩基性アミノ酸のカウンタイオンとなり得る。発酵槽内圧力は、具体的には、例えば、ゲージ圧(大気圧に対する差圧)で、
0.03〜0.2MPa、好ましくは0.05〜0.15MPa、より好ましくは0.1〜0.3MPaであってよい。また、炭酸ガスを培地に供給することは、例えば、純炭酸ガス又は炭酸ガスを含有する混合ガスを培地に吹き込むことにより実施できる。炭酸ガスを含有する混合ガスとしては、炭酸ガスを5%v/v以上含有する混合ガスが挙げられる。発酵槽内圧力、炭酸ガスの供給量、および制限された給気量は、例えば、培地のpH、培地中の重炭酸イオン及び/又は炭酸イオン濃度、および培地中のアンモニア濃度等の諸条件に応じて適宜設定できる。
従来の塩基性アミノ酸の製造方法においては、塩基牲アミノ酸のカウンタイオン源として十分量の硫酸アンモニウム及び/又は塩化アンモニウムが、また、栄養成分としてタンパク質等の硫酸分解物及び/又は塩酸分解物が培地に添加されていた。そのため、培地中には硫酸イオン及び/又は塩化物イオンが多量に存在し、弱酸性である炭酸イオン濃度はppmオーダーと極めて低かった。
一方、炭酸塩発酵は、硫酸イオン及び/又は塩化物イオンの使用量を削減し、微生物が発酵時に放出する炭酸ガス及び/又は外部から供給される炭酸ガスを培地中に溶解せしめ、塩基牲アミノ酸のカウンタイオンとして利用することに特徴がある。すなわち、炭酸塩発酵においては、硫酸イオン及び/又は塩化物イオンの使用量を削減することが目的の一つであるため、硫酸イオン及び/又は塩化物イオンを塩基性アミノ酸生産菌の生育に必要な量以上に培地に添加する必要はない。好ましくは、培養当初は生育に必要な量の硫酸アンモニウム等を培地にフィードし、培養途中でフィードを止める。あるいは、培地中の炭酸イオン及び/又は重炭酸イオンの溶存量とのバランスを保ちつつ、硫酸アンモニウム等をフィードしてもよい。硫酸イオン及び/又は塩化物イオンの使用量を削減することにより、培地中の硫酸イオン及び/又は塩化物イオン濃度を低減することができる。硫酸イオン及び/又は塩化物イオン濃度を低減することにより、重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンをより容易に培地中に存在させることができる。よって、炭酸塩発酵においては、従来法に比べて、塩基性アミノ酸のカウンタイオンとして必要な量の重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンを培地中に存在させるための培地のpHを低く抑えることが可能となる。培地に含まれる硫酸イオンおよび塩化物イオンのモル濃度の合計は、具体的には、例えば、900mM以下、好ましくは700mM以下、より好ましくは500mM以下、さらに好ましくは300mM以下、さらに好ましくは200mM以下、特に好ましくは100mM以下であってよい。
炭酸塩発酵において、培地のpHは、重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンを所定の濃度で培地中に存在させることができ、且つ、所望の塩基性アミノ酸の生産性が得られる限り、特に制限されない。培地のpHは、用いる微生物の種類、培地中の重炭酸イオン及び/又は炭酸イオン濃度、および培地中のアンモニア濃度等の諸条件に応じて適宜設定できる。培地のpHは、培養中、例えば、6.5〜9.0、好ましくは7.2〜9.0に制御されてよい。培地のpHは、培養の少なくとも一部の期間において上記例示した値に制御されてよい。すなわち、培地のpHは、培養の全期間において上記例示した値に制御されてもよく、培養の一部の期間において上記例示した値に制御されてもよい。培地のpHが制御される「一部の期間」については、重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンが培地中に存在する培養期についての記載を準用できる。すなわち、培地のpHは、例えば、塩基性アミノ酸が生産されている期間に上記例示した値に制御されてよい。また、培地のpHは、培養終了時に、例えば、7.2以上、好ましくは7.2〜9.0であってよい。すなわち、培地のpHは、上記例示した培養終了時のpHの値が得られるように、制御されてもよい。培地のpHは、例えば、pH自体を指標として直接的に制御されてもよく、総アンモニア濃度を制御することによって間接的に制御されてもよい(WO2006/038695)。
また、培地には、重炭酸イオン及び/又は炭酸イオン以外のアニオン(他のアニオンと
もいう)が含まれ得る。培地中の他のアニオンの濃度は、塩基性アミノ酸生産菌の生育に必要な量が含まれてさえいれば、低いことが好ましい。他のアニオンとしては、塩化物イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、有機酸イオン、水酸化物イオンが挙げられる。培地に含まれる他のアニオンのモル濃度の合計は、具体的には、例えば、900mM以下、好ましくは700mM以下、より好ましくは500mM以下、さらに好ましくは300mM以下、特に好ましくは200mM以下、100mM以下、50mM以下、または20mM以下であってよい。
また、培地には、塩基性アミノ酸以外のカチオン(他のカチオンともいう)が含まれ得る。他のカチオンとしては、培地成分由来のKイオン、Naイオン、Mgイオン、Caイオンが挙げられる。培地に含まれる他のカチオンのモル濃度の合計は、具体的には、例えば、総カチオンのモル濃度の、50%以下、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下、特に好ましくは2%以下であってよい。
また、炭酸塩発酵においては、培地中の総アンモニア濃度を、塩基性アミノ酸の生産を阻害しない濃度に制御するのが好ましい(WO2006/038695、WO2015/050234)。「総アンモニア濃度」とは、解離していないアンモニア(NH3)の濃度およびアンモニウムイオン(NH4 +)の濃度の合計をいう。「塩基性アミノ酸の生産を阻害しない」総アンモニア濃度としては、例えば、最適な条件において塩基性アミノ酸を生産する場合の収率及び/又は生産性に比べて、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、特に好ましくは90%以上の収率及び/又は生産性が得られる総アンモニア濃度が挙げられる。培地中の総アンモニア濃度は、具体的には、例えば、300mM以下、250mM以下、200mM以下、100mM以下、または50mM以下であってよい。アンモニアの解離度はpHが高くなると低下する。解離していないアンモニアは、アンモニウムイオンよりも菌に対して毒性が強い。そのため、総アンモニア濃度の上限は、培養液のpHにも依存する。すなわち、培養液のpHが高いほど、許容される総アンモニア濃度は低くなる。したがって、「塩基性アミノ酸の生産を阻害しない」総アンモニア濃度は、pH毎に設定することが好ましい。しかし、培養中の最も高いpHにおいて許容される総アンモニア濃度範囲を、培養期間を通じての総アンモニア濃度範囲として用いてもよい。培地中の総アンモニア濃度は、培養の少なくとも一部の期間において上記例示した濃度に制御されてよい。すなわち、培地中の総アンモニア濃度は、培養の全期間において上記例示した濃度に制御されてもよく、培養の一部の期間において上記例示した濃度に制御されてもよい。培地中の総アンモニア濃度が制御される「一部の期間」については、重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンが培地中に存在する培養期についての記載を準用できる。すなわち、培地中の総アンモニア濃度は、例えば、塩基性アミノ酸が生産されている期間に上記例示した濃度に制御されてよい。また、培地中の総アンモニア濃度が制御される「一部の期間」として、具体的には、塩基性アミノ酸の蓄積に対して、硫酸イオン及び塩化物イオン等のカウンタイオンが不足することにより培地のpHが上昇する期間が挙げられる。
一方、塩基性アミノ酸生産菌の生育及び塩基性アミノ酸の生産に必要な窒素源としての総アンモニア濃度は、培養中にアンモニアが枯渇した状態が継続せず、且つ、窒素源が不足することによる塩基性アミノ酸の生産性の低下が起こらない限り、特に制限されず、適宜設定することができる。例えば、培養中にアンモニア濃度を経時的に測定し、培地中のアンモニアが枯渇したら少量のアンモニアを培地に添加してもよい。アンモニアを添加したときのアンモニア濃度は、具体的には、例えば、総アンモニア濃度として、好ましくは1mM以上、より好ましくは10mM以上、特に好ましくは20mM以上であってよい。
培地中の総アンモニア濃度は、例えば、WO2015/050234に記載のアンモニア制御装置およびアンモニア制御方法を利用して制御することができる。
使用する培地は、炭酸塩発酵により塩基性アミノ酸が生産される限り、特に制限されない。培地は、炭素源、窒素源、微量栄養素等の各種有機成分や無機成分を適宜含有してよい。培地成分の種類や濃度は、塩基性アミノ酸生産菌の種類や製造する塩基性アミノ酸の種類等の諸条件に応じて適宜設定してよい。
炭素源は、塩基性アミノ酸生産菌が資化して塩基性アミノ酸を生成し得るものであれば、特に限定されない。炭素源として、具体的には、例えば、グルコース、フルクトース、スクロース、ラクトース、ガラクトース、アラビノース、廃糖蜜、澱粉加水分解物、バイオマスの加水分解物等の糖類、酢酸、フマル酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸等の有機酸類、エタノール、グリセロール、粗グリセロール等のアルコール類、メタン等の炭化水素類、脂肪酸類が挙げられる。炭素源としては、1種の炭素源を用いてもよく、2種またはそれ以上の炭素源を組み合わせて用いてもよい。
窒素源として、具体的には、例えば、アンモニウム塩、アンモニア、ウレア等の無機窒素源や、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、大豆タンパク質分解物等の有機窒素源が挙げられる。窒素源としては、1種の窒素源を用いてもよく、2種またはそれ以上の窒素源を組み合わせて用いてもよい。
微量栄養素として、具体的には、例えば、アミノ酸類、ビタミン類、微量金属元素が挙げられる。微量栄養素としては、1種の成分を用いてもよく、2種またはそれ以上の成分を組み合わせて用いてもよい。
生育にアミノ酸などを要求する栄養要求性変異株を使用する場合には、培地に要求される栄養素を補添することが好ましい。例えば、L−リジン生産菌は、L−リジン生合成経路が強化され、L−リジン分解能が弱化されている場合が多い。そのようなL−リジン生産菌を培養する場合には、例えば、L−スレオニン、L−ホモセリン、L−イソロイシン、L−メチオニンから選ばれる1またはそれ以上のアミノ酸を培地に補添するのが好ましい。
培養条件は、炭酸塩発酵により塩基性アミノ酸が生産される限り、特に制限されない。培養条件は、塩基性アミノ酸生産菌の種類等の諸条件に応じて適宜設定してよい。培養は、例えば、液体培地を用いて、通気培養または振盪培養により、好気的に行うことができる。培養温度は、例えば、20〜45℃、好ましくは25℃〜37℃であってよい。培養期間は、例えば、10時間〜120時間であってよい。培養は、回分培養(batch culture)、流加培養(Fed-batch culture)、連続培養(continuous culture)、またはそれらの組み合わせにより実施することができる。また、培養液から菌体を回収し再利用することもできる(フランス特許2669935号明細書)。培養は、前培養と本培養とに分けて行われてもよい。
上記のようにして塩基性アミノ酸生産菌を培養することにより、培地中に塩基性アミノ酸が蓄積し、塩基性アミノ酸を含有する培養液(発酵液)が得られる。培養液は、さらに、重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンを含有する。培養液に含有される重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンは、塩基性アミノ酸のカウンタイオンとして機能してよい。すなわち、「発酵工程が、重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンが塩基性アミノ酸のカウンタイオンとなるように実施される」とは、具体的には、発酵工程により重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンを含有する培養液が得られることを意味してよい。培養液に含有される重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンの濃度は、特に制限されない。培養液に含有される重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンの濃度は、例えば、20mM以上、好ましくは30mM以上、より好ましくは40mM以上であってよい。なお、上記例示した濃度は、重炭酸イオンの濃度及び炭酸イオンの濃度の合計である。また、培養液に含有される重炭酸イオン及び/又は
炭酸イオンの濃度は、例えば、下記式で示す規定度比率が、5以上、10以上、または20以上となる濃度であってもよく、100以下、90以下、または80以下となる濃度であってもよく、それらの組み合わせとなる濃度であってもよい。
規定度比率=(重炭酸イオン及び炭酸イオンの規定度/総カチオンの規定度)×100
塩基性アミノ酸が生成したことは、化合物の検出または同定に用いられる公知の手法により確認することができる。そのような手法としては、例えば、HPLC、LC/MS、GC/MS、NMRが挙げられる。これらの手法は、単独で、あるいは適宜組み合わせて用いることができる。
<3>加圧加熱処理工程
加圧加熱処理工程は、発酵工程により得られた培養液(発酵液)を、該培養液からの炭酸ガスの発生を防止できる圧力下で加熱処理する工程である。同処理を「加圧加熱処理」ともいう。加圧加熱処理工程は、言い換えると、発酵工程により得られた培養液(発酵液)に該培養液からの炭酸ガスの発生を防止できる圧力を加圧しながら、該培養液を加熱する工程である。加圧加熱処理工程においては、加熱による培養液からの炭酸ガスの発生を加圧により防止することができる。「培養液からの炭酸ガスの発生」とは、培養液中に溶存している炭酸物質がガス化して培養液から脱離することをいう。「炭酸物質」とは、二酸化炭素分子、炭酸分子、炭酸イオン、および重炭酸イオンの総称である。なお、培養液からの炭酸ガスの発生を「脱炭酸」ともいう。
培養液からの炭酸ガスの発生を防止するのに必要な最低限の圧力を、「必要圧力」ともいう。すなわち、加圧加熱処理の圧力は、必要圧力以上である。加圧加熱処理の圧力は、必要圧力以上であれば特に制限されない。加圧加熱処理の圧力は、炭酸ガスの発生を十分に防止するため、例えば、必要圧力の、101%以上、103%以上、105%以上、110%以上、115%以上、120%以上、または130%以上の圧力であってもよい。本発明において、「圧力」とは、特記しない限り、ゲージ圧(大気圧に対する差圧)を示す。
必要圧力は、培養液組成、培養液のpH、加圧加熱処理の温度等の諸条件に応じて適宜決定できる。
必要圧力は、具体的には、例えば、培養液中の塩基性アミノ酸、CO2、NH3、K、Mg、Cl、SO4、酢酸、及びコハク酸の濃度、並びに温度を変数として、算出できる。すなわち、まず、培養液中の塩基性アミノ酸、CO2、NH3、K、Mg、Cl、SO4、酢酸、及びコハク酸の濃度、並びに温度を変数として、所定の温度における培養液のpHを算出できる。次いで、pH及び温度を変数として、塩基性アミノ酸の解離状態を決定できる。加圧加熱処理の温度において塩基性アミノ酸をカウンタイオンとして持てなくなるHCO3イオン(加熱によりカウンタイオンを失ったHCO3イオン)が気化すると仮定し、塩基性アミノ酸の解離状態、塩基性アミノ酸の濃度、及びCO2の濃度に基づいて、加圧加熱処理の温度において塩基性アミノ酸をカウンタイオンとして持てなくなるHCO3イオン存在比率を算出し、Henryの法則により炭酸分圧を算出できる。すなわち、炭酸分圧は、培養液中の塩基性アミノ酸、CO2、NH3、K、Mg、Cl、SO4、酢酸、及びコハク酸の濃度、並びに温度を変数として、算出できる。また、Wagnerの式を用いて水蒸気分圧を算出できる。炭酸分圧と水蒸気分圧の合計値を必要圧力とすることができる。具体的には、例えば、塩基性アミノ酸がL−リジンである場合、必要圧力は実施例2に記載の手順により算出することができる。また、L−リジン以外の塩基性アミノ酸の場合も、必要圧力は実施例2に記載の手順を適宜改変して算出することができる。各成分の濃度は、例えば、上述したような、化合物の検出または同定に用いられる公知の手法により決定することができる。また、特に、イオンの濃度は、例えば、イオンクロマトグラフィーにより決定することができる。
また、上記手順を利用して、特定の培養液組成での必要圧力を近似式で求めることもできる。具体的には、例えば、後述する表5に示すリジン培養液についての必要圧力は、下記式で表すことができる(実施例4)。式中、「温度」は、加圧加熱処理の温度(℃)を示す。
必要圧力(kPa) = 1.99 x 10-3 x 温度2.54
また、必要圧力は実測することができる。すなわち、加圧加熱処理の圧力は、例えば、実測される必要圧力以上であってよい。必要圧力は、具体的には、培養液(発酵液)を密閉容器に入れ、加圧加熱処理の温度に調整(加熱)した際の、密閉容器内の気相の圧力として測定することができる。すなわち、「実測される必要圧力」とは、具体的には、培養液(発酵液)を密閉容器に入れ、加圧加熱処理の温度に調整(加熱)した際の、密閉容器内の気相の圧力を意味してよい。そのような密閉容器としては、TEM-V型反応装置(耐圧硝子工業)が挙げられる。密閉容器に入れる培養液の量は、所望の精度で必要圧力を測定できる限り特に制限されない。培養液は、例えば、装置空隙率が下記のような値となるように密閉容器に入れてよい。「装置空隙率」とは、密閉容器の内容積に対する密閉容器内の気相容積の比率である。装置空隙率は、小さいのが好ましいが、例えば、2%v/v〜10%v/vとすることができ、具体的には6%v/vとすることができる。上記実測法における初期気相(加熱前の気相)は空気とする。
必要圧力は、毎回(発酵工程を実施する度に)決定してもよいし、予め決定してもよい。必要圧力を予め決定する場合は、例えば、同様の条件で得られた培養液や同様の組成に調製したモデル培養液を用いて必要圧力を決定することができる。本発明の方法は、必要圧力を決定する工程(「圧力決定工程」ともいう)を含んでいてもよく、いなくてもよい。圧力決定工程は、工程Bの前に実施することができる。なお、「加圧加熱処理の圧力が、或る手段により決定される必要圧力以上である」という表現は、加圧加熱処理の圧力が仮に当該手段を用いたとすれば得られるであろう必要圧力以上であることで足り、実際に当該手段が実施されたかは問わない。
加圧加熱処理の圧力は、具体的には、例えば、100kPa以上、200kPa以上、300kPa以上、400kPa以上、500kPa以上、600kPa以上、700kPa以上、800kPa以上、900kPa以上、1000kPa以上、1100kPa以上、または1200kPa以上であってよい。加圧加熱処理の圧力の上限は特に制限されず、用いる装置で運用可能な最大圧力以下とすればよい。加圧加熱処理の圧力は、具体的には、例えば、3000kPa以下、2000kPa以下、または1500kPa以下であってもよい。加圧加熱処理の圧力は、上記例示した値の組み合わせの範囲内であってもよい。
加圧加熱処理が培養液からの炭酸ガスの発生を防止できる圧力で実施されたか、すなわち、加圧加熱処理の圧力が培養液からの炭酸ガスの発生を防止できる圧力であったかどうかは、例えば、加圧加熱処理前後での培養液のpHの変動に基づいて判断することができる。すなわち、培養液から炭酸ガスが発生した場合、培養液のpHが上昇する。よって、例えば、或る圧力で加圧加熱処理した際の培養液のpHの上昇量が、0.3以下、0.2以下、0.1以下、または0.05以下である場合に、当該圧力は培養液からの炭酸ガスの発生を防止できる圧力であると判断できる。また、加圧加熱処理が培養液からの炭酸ガスの発生を防止できる圧力で実施されたか、すなわち、加圧加熱処理の圧力が培養液からの炭酸ガスの発生を防止できる圧力であるかどうかは、例えば、加圧加熱処理時の培養液からの炭酸ガスの発泡の有無を確認することにより、確認できる。すなわち、或る圧力で加圧加熱処理した際に培養液からの炭酸ガスの発泡が認められない場合に、当該圧力は培養液からの炭酸ガスの発生を防止できる圧力であると判断できる。
加圧加熱処理の温度は、発酵工程により得られた培養液(発酵液)の温度より高い温度、すなわち培養温度よりも高い温度、であれば特に制限されない。加圧加熱処理の温度は、例えば、培養液中の塩基性アミノ酸生産菌を殺菌できる温度であってよい。すなわち、加圧加熱処理は殺菌処理を兼ねていてよい。加圧加熱処理の温度は、例えば、60℃以上、80℃以上、100℃以上、105℃以上、110℃以上、115℃以上、120℃以上、125℃以上であってもよく、150℃以下、140℃以下、135℃以下、130℃以下であってよく、それらの組み合わせであってもよい。加圧加熱処理の温度は、例えば、60℃〜130℃、80℃〜130℃、100℃〜130℃、110℃〜130℃、115℃〜125℃であってもよい。
加圧加熱処理の手段は特に制限されない。加圧加熱処理は、加熱と加圧が可能な適当な容器内で実施することができる。そのような容器を「圧力容器」ともいう。加圧加熱処理は、圧力容器内に実質的に気相が存在しない条件で実施される。すなわち、言い換えると、加圧加熱処理は、圧力容器内が実質的に培養液で満たされた条件で実施される。「圧力容器内に実質的に気相が存在しない」とは、圧力容器内に含まれる気相の容積が、加圧加熱処理時に、圧力容器の内容積の1%v/v以下、0.5%v/v以下、0.1%v/v以下、または0であることをいう。加圧加熱処理は、例えば、培養液を圧力容器内に加圧送液することや、圧力容器内に満たされた培養液をピストン等により加圧することにより、実施できる。その際、圧力容器内の培養液を加熱する。例えば、圧力容器に備わる加熱機能により培養液を加熱してもよいし、外部加熱装置により圧力容器の外から圧力容器ごと培養液を加熱してもよい。圧力容器の形状や種類は、特に制限されない。圧力容器としては、滞留管やタンクが挙げられる。すなわち、例えば、必要圧力以上の送液圧力で培養液を滞留管等の圧力容器に送液すればよい。圧力容器内への培養液の導入および圧力容器内からの培養液の排出は、所定の滞留時間(処理時間)が得られるよう、連続的に、あるいは間欠的に、実施できる。すなわち、加圧加熱処理は、例えば、連続式で実施されてもよく、バッチ式で実施されてもよい。必要圧力以上の圧力で加圧加熱処理することにより、圧力容器内での炭酸ガスの発生を防止することができる。加圧加熱処理が連続式で実施される場合、圧力容器内での炭酸ガスの発生が防止されることにより、流速を一定に保てるという副次的効果も得られる。
加圧加熱処理の時間は、塩基性アミノ酸の分解を防止する効果が得られる限り、特に制限されない。時間は、加圧加熱処理の温度や圧力等の諸条件に応じて適宜設定できる。加圧加熱処理の時間は、例えば、培養液中の塩基性アミノ酸生産菌を殺菌できる時間であってもよい。加圧加熱処理の時間は、例えば、30秒以上、1分以上、2分以上、3分以上、5分以上、10分以上であってもよく、120分以下、90分以下、60分以下、30分以下、15分以下であってもよく、それらの組み合わせであってもよい。加圧加熱処理の時間は、例えば、30秒〜60分、1分〜30分、2分〜15分であってもよい。加圧加熱処理が連続式で実施される場合、所定の処理時間が得られるように流速を設定すればよい。
加圧加熱処理により、塩基性アミノ酸の分解を防止することができる。「塩基性アミノ酸の分解の防止」としては、加圧加熱処理時および加圧加熱処理後における塩基性アミノ酸の分解の防止が挙げられる。「塩基性アミノ酸の分解の防止」として、具体的には、加圧加熱処理時および加圧加熱処理後における、加熱時の塩基性アミノ酸の分解の防止が挙げられる。「加圧加熱処理後における塩基性アミノ酸の分解の防止」として、具体的には、加圧加熱処理後の、脱炭酸等の処理を実施する際の塩基性アミノ酸の分解の防止が挙げられる。加圧加熱処理後における塩基性アミノ酸の分解の防止は、加圧加熱処理時に培養液中の塩基性アミノ酸生産菌が殺菌されたことに依るものであってもよい。
加圧加熱処理により、加圧加熱処理された発酵液が得られる。
<4>その他の処理
加圧加熱処理された発酵液は、さらに、他の処理に供することができる。他の処理としては、脱炭酸、除菌、精製、濃縮、乾燥が挙げられる。これらの処理は、単独で、あるいは適宜組み合わせて実施することができる。なお、「加圧加熱処理された発酵液を他の処理に供する」という表現は、加圧加熱処理された発酵液そのものを他の処理に供する場合に限られず、加圧加熱処理された発酵液のさらなる処理物を他の処理に供する場合も含む。すなわち、例えば、「加圧加熱処理された発酵液を脱炭酸処理に供する」という表現は、加圧加熱処理された発酵液そのものを脱炭酸処理に供する場合に限られず、加圧加熱処理された発酵液を除菌等の脱炭酸処理以外の処理に供してから脱炭酸処理に供する場合も含む。本発明において、「発酵生産物」という用語には、加圧加熱処理された発酵液そのもの、および、それから得られる、塩基性アミノ酸を含有するあらゆるプロダクトが包含される。「発酵生産物」として、具体的には、発酵液(ここでは加圧加熱処理された発酵液のこと)、発酵液の上清、それらの脱炭酸物、それらの濃縮物、それらの乾燥物、それらの加工品が挙げられる。そのような乾燥物あるいは加工品として、具体的には、塩基性アミノ酸を含有する造粒乾燥物が挙げられる。
脱炭酸処理は、例えば、加熱、濃縮、減圧、pHの低下、またはそれらの組み合わせにより実施できる。脱炭酸処理の手段は、例えば、製造するプロダクトの種類等の諸条件に応じて適宜選択できる。脱炭酸処理の手段としては、中でも、加熱が好ましい。減圧以外の手段により脱炭酸処理を行う場合、脱炭酸処理は、例えば、大気圧下(開放系)で実施することができる。加熱により脱炭酸処理を行う場合、加熱の温度は、特に制限されないが、例えば、40℃〜100℃、好ましくは60℃〜90℃であってよい。減圧により脱炭酸処理を行う場合、減圧時の気相の圧力は、特に制限されないが、例えば、絶対圧で、600kPa以下、好ましくは40kPa〜200kPaであってよい。pHの低下は、塩酸等の強酸の添加により実施できる。脱炭酸処理により、発酵液から重炭酸イオン及び炭酸イオン等の炭酸物質を除去することができる。すなわち、「脱炭酸物」とは、重炭酸イオン及び炭酸イオン等の炭酸物質が除去されたプロダクトをいう。なお、pHの低下以外の手段により脱炭酸処理を行う場合、脱炭酸によりpHが上昇するが、加圧加熱処理後の発酵液においては、pHが上昇しても塩基性アミノ酸の分解は十分に防止されると期待される。
除菌処理は、例えば、遠心分離、濾過、またはそれらの組み合わせにより実施できる。
塩基性アミノ酸の回収(精製)は、化合物の分離精製に用いられる公知の手法により行うことができる。そのような手法としては、例えば、イオン交換樹脂法、膜処理法、沈殿法、および晶析法が挙げられる。これらの手法は、単独で、あるいは適宜組み合わせて用いることができる。なお、菌体内にも塩基性アミノ酸が蓄積する場合には、例えば、菌体を超音波などにより破砕し、遠心分離によって菌体を除去して得られる上清から、イオン交換樹脂法などによって塩基性アミノ酸を回収することができる。また、塩基性アミノ酸が培地中に析出する場合は、遠心分離又は濾過等により回収することができる。また、培地中に析出した塩基性アミノ酸は、培地中に溶解している塩基性アミノ酸を晶析した後に、併せて回収してもよい。回収される塩基性アミノ酸は、フリー体、その塩、またはそれらの混合物であってよい。すなわち、本発明における「塩基性アミノ酸」という用語は、フリー体のアミノ酸、その塩、またはそれらの混合物を意味してよい。塩としては、例えば、炭酸塩、重炭酸塩、塩酸塩、硫酸塩が挙げられる。
尚、回収される塩基性アミノ酸は、塩基性アミノ酸以外に、例えば、微生物菌体、培地成分、水分、及び微生物の代謝副産物等の成分を含んでいてもよい。塩基性アミノ酸は、
所望の程度に精製されていてもよい。回収された塩基性アミノ酸の純度は、例えば、30%(w/w)以上、50%(w/w)以上、70%(w/w)以上、80%(w/w)以上、90%(w/w)以上、または95%(w/w)以上であってよい。
塩基性アミノ酸は、例えば、塩基性アミノ酸を含有する造粒乾燥物として提供されてよい。例えば、L−リジンは、L−リジンを含有する造粒乾燥物として提供されてよい。
L−リジンを含有する造粒乾燥物を製造する方法としては、US7416740に記載の方法が挙げられる。具体的には、陰イオン/L−リジン当量比が、0.68〜0.95、好ましくは0.68〜0.90、より好ましくは0.68〜0.86のL−リジン発酵液を原料として、L−リジンを含有する造粒乾燥物を製造することができる。「陰イオン/L−リジン当量比」とは、L−リジン(L-Lys)含量、硫酸イオン含量、塩素イオン含量、アンモニウムイオン含量、ナトリウムイオン含量、カリウムイオン含量、マグネシウムイオン含量、カルシウムイオン含量より、下記式に基づき算出される値である。式中、[]はモル濃度を示す。
陰イオン/L−リジン当量比=(2×[SO4 2-]+[Cl-]−[NH4 +]−[Na+]−[K+]−2×[Mg2+]−2×[Ca2+])/[L-Lys]
すなわち、加圧加熱処理されたL−リジン発酵液の陰イオン/L−リジン当量比を必要により上記例示した範囲に調整し、L−リジンを含有する造粒乾燥物を製造することができる。陰イオン/L−リジン当量比を上昇させることは、例えば、塩酸もしくは硫酸の添加、陰イオン/L−リジン当量比が高い(例えば0.95より高い)L−リジン水溶液の添加、またはそれらの組み合わせにより実施できる。陰イオン/L−リジン当量比が0.95より高いL−リジン水溶液としては、炭酸塩発酵以外の発酵法で得られるL−リジン発酵液等の、pHが中性から酸性のL−リジン水溶液が挙げられる。陰イオン/L−リジン当量比を低下させることは、例えば、陰イオン/L−リジン当量比が低い(例えば0.68より低い)L−リジン水溶液の添加により実施できる。陰イオン/L−リジン当量比が0.68より低いL−リジン水溶液としては、L−リジンベース(フリー体のL−リジン)の水溶液が挙げられる。また、加圧加熱処理されたL−リジン発酵液は、脱炭酸や濃縮等の処理に供してから、造粒乾燥物の製造に用いてもよい。同方法により、陰イオン/L−リジン当量比が、0.68〜0.95、好ましくは0.68〜0.90、より好ましくは0.68〜0.86の、L−リジンを含有する造粒乾燥物が得られる。同造粒乾燥物のL−リジン含量は、造粒乾燥物中の全固形分に対して、例えば、40〜85重量%、好ましくは50〜85重量%、より好ましくは60〜85重量%であってよい。また、同造粒乾燥物の水分含量は、造粒乾燥物の全量に対して、例えば、5重量%以下であってよい。加圧加熱処理されたL−リジン発酵液からの造粒乾燥物の製造は、L−アミノ酸を含む造粒乾燥物の製造に用いられる公知の手法により行うことができる。そのような手法としては、例えば、発酵液を固形化してから固形化物を造粒する方法や、シードを用いて直接造粒乾燥する方法が挙げられる(US7416740)。
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
参考例1:リジン培養液中のリジン分解の温度依存性
US2002-025564Aに記載の方法に従って炭酸塩発酵を行い、リジンを含有するpH8.3の培養液(「リジン培養液」ともいう)を得た。リジン培養液を反応装置に移して、20℃、40℃、60℃でそれぞれ撹拌し、リジン濃度の推移を確認した。その結果を表1に示す。表中、リジン濃度は、初期リジン濃度に対する相対値(=リジン濃度/初期リジン濃度)として示す。温度が高いほどリジン濃度の低減は速く進行し、時間経過とともに低減速度は遅くなった。尚、リジン濃度はHPLCを用いて測定した(以下、同じ)。
参考例2:リジン培養液中のリジン分解のpH依存性
参考例1で得られたリジン培養液(pH8.3)に塩酸を添加し、pH4.5、5.5、7.0のリジン培養液をそれぞれ調製した。リジン培養液(pH8.3)とpHを調整したリジン培養液(pH4.5、5.5、7.0)を60℃でそれぞれ撹拌し、リジン濃度の推移を確認した。その結果を表2に示す。表中、リジン濃度は、初期リジン濃度に対する相対値(=リジン濃度/初期リジン濃度)として示す。pHが高いほどリジン濃度の低減は速く進行し、pH5.5以下ではリジン低減が進行しなかった。
実施例1:高圧条件下におけるリジン分解抑制
参考例1で得られたリジン培養液(pH8.3)を、温度60℃・圧力0.1MPa、温度120℃・圧力0.2MPa、温度120℃・圧力1.5MPaの条件にてそれぞれ滞留管内で加圧加熱処理し、処理前後のリジン濃度の変化を確認した。その結果を表3に示す。表中、リジン濃度は、初期リジン濃度に対する相対値(=リジン濃度/初期リジン濃度)として示す。温度60℃・圧力0.1MPaの条件(実験条件1, 2)および温度120℃・圧力0.2MPaの条件(実験条件2, 3, 4, 5, 6, 7)においては、リジンの分解が進行した。一方、温度120℃・圧力1.5MPaの条件(実験条件8, 9)においては、リジンの分解は抑制された。温度60℃・圧力0.1MPaの条件(実験条件1, 2)および温度120℃・圧力0.2MPaの条件(実験条件2, 3, 4, 5, 6, 7)においては、pHの上昇が認められたことから、リジン培養液から炭酸ガスが発生したと分かる。一方、温度120℃・圧力1.5MPaの条件(実験条件8, 9)においては、pHの上昇が認められないことから、リジン培養液からの炭酸ガスの発生が防止されたと分かる。以上より、炭酸塩発酵により得られる塩基性アミノ酸を含有する培養液を、該培養液からの炭酸ガスの発生を防止できる圧力下で加熱処理することにより、加熱処理中の該培養液中の塩基性アミノ酸の分解を防止できることが明らかとなった。
実施例2:リジン培養液からの炭酸ガスの発生を防止するために必要な圧力の計算
以下の手順により、リジン培養液からの炭酸ガスの発生を防止するために必要な圧力を計算式により算出した。
<1>pHシミュレーション
培養液からの炭酸ガスの発生を防止するために必要な圧力は、培養液に含有される各イオンの解離状態に依存する。培養液に含有される各イオンの解離状態は、培養液のpHに依存する。そこで、培養液からの炭酸ガスの発生を防止するために必要な圧力を算出するためには、培養液に含有される各イオンの解離状態を特定するために、培養液のpHを特定する必要がある。培養液のpHは、培養液の温度に依存し得る。しかしながら、100℃を越えた条件におけるpH測定は耐圧性の密閉装置が必要であるため、そのような高温条件において培養液のpHを直接測定することは難しい。そこで、まず、各温度における培養液のpHを算出するための関係式を導出した。
<1−1>酸解離定数Kと温度の関係
ギブスの自由エネルギーと平衡定数(酸解離定数K)には下記式(1)に示す関係が成立する。
また、ギブスの自由エネルギーとエンタルピーの変化には下記式(2)に示す関係が成立する。
式(1)および式(2)より、下記式(3)を得た。式(3)より、酸解離定数Kは温
度の関数であることがわかる。
そこで、リジン培養液に含有されるイオンの内、中性〜弱アルカリ性領域で温度による解離平衡が変化した際に必要圧力の計算に大きな影響を及ぼすと想定されるLys及びCO2について、温度因子を含むpK値として、下記式(4−1)〜(4−5)に示すpK値(L. N. Plummer and E. Busenberg. Geochim. Cosmochim. Acta 46, 1011-1040 (1982))を使用した。式(4−1)〜(4−5)を変形することにより、酸解離定数Kが温度の関数として得られる。
<1−2>pHシミュレーション
上記で得られたLys及びCO2の酸解離定数Kを利用して、pHをシミュレーションした。本シミュレーションには、Lys及びCO2に加えて、リジン培養液に多く含有され得るNH3, K, Mg, Cl, SO4, 酢酸, 及びコハク酸の濃度も用いた。尚、NH3及び有機酸の酸解離定数Kも温度の関数であると想定されるが、本シミュレーションでは、NH3はpKNH3 =9.24(一定値)として、有機酸は1価の強酸として、それぞれ扱った。
溶液中の総イオン濃度は電気的に中性であるため、下記式(5)が成立する。式中、各「C」はモル濃度を示す(以下、同じ)。
式(5)中の各リジンイオン濃度は、下記式(6−1)〜(6−3)から算出される。式中、KLys,1, 2, 3は、式(4−1)〜(4−3)から得られる温度の関数である。式中、「CLys」は、リジンの総モル濃度、すなわち、リジン分子(イオン化していないリジン)とリジンイオンの総モル濃度を示す。
式(5)中の炭酸イオン及び重炭酸イオン濃度は、下記式(7−1)〜(7−2)から算出される。式中、KCO2,1, 2は、式(4−4)〜(4−5)から得られる温度の関数である。式中、「CCO2」は、炭酸物質の総モル濃度、すなわち、二酸化炭素分子、炭酸分子、炭酸イオン、および重炭酸イオンの総モル濃度を示す。
Newton法を用いて式(5)の解(CH+)を求めた。具体的には、式(5)を微分し、ExcelにてCH+の算出を繰り返すことにより定常化したCH+を算出した。
すなわち、式(5)を微分することにより、下記式(8)が得られる。
式(8)の各パラメータは、下記式(9−1)〜(9−8)から算出される。
式(5)および式(8)の解より、下記式(10)にてCH+が一定になるまで上記計算を繰り返した。定常化したCH+の算出は、培養液の組成および温度ごとに実施される。すなわち、ここでは、参考例1で得られたリジン培養液(組成は表4(後述)に示す)について、各温度での定常化したCH+を算出した。同リジン培養液について、35℃での繰り返し計算を実施した際のCH+の変化を図1に示す。
最後に定常化を確認したCH+値を用いて下記式(11)にてpHを算出した。すなわち、
ここでは、参考例1で得られたリジン培養液(組成は表4(後述)に示す)について、各温度でのpHを算出した。
<1−3>pHシミュレーション結果の検証
120℃のオイルバスを用いて参考例1で得られたリジン培養液(組成は表4(後述)に示す)の温度を調整し、所定の温度(25、35、42、53、60、70℃)に到達した時点でのpHを測定した。なお、培養液中に含まれるHCO3が加熱により気化した場合、培養液の組成が変化すると考えられるため、pHの測定は発泡が生じない温度の範囲で行った。具体的には、本実験では70℃以上の条件で明確な発泡が生じたため、70℃を測定上限とした。実測値とシミュレーション値を図2に示す。実測値とシミュレーション値のpHの振れ幅は0.1以下であり、高い相関が認められた。以上より、本pHシミュレーションの精度は十分高く、本pHシミュレーションにて各温度におけるリジン培養液のpHを概算できると判断した。
<2>必要圧力シミュレーターの構築
<2−1>必要圧力シミュレーションモデルの構築のための仮定
上記<1>にて培養液組成よりpHを概算できる方法を確立した。この結果、温度の関数であるpK値及び想定した温度におけるpHシミュレーションより、当該温度におけるLysの解離状態を計算することができる。一例として、38℃及び120℃でのLys解離曲線を図3に示す。例えば、pH8の場合、38℃ではLysの約80%はLys+ に荷電しているが、120℃ではLys+及びLys± はほぼ1:1の存在比率に変化する。
本解離状態解析結果より、下記仮定1及び2を得た。
<仮定1>
リジン培養液中にはLysが高濃度で含まれているため、38℃、pH8の場合、HCO3イオンはLysイオンのカウンタイオンとして培養液に溶解している。一方、リジン培養液を120℃に加熱することにより、Lysの約半分は荷電を失いLys±として存在するため、Lysをカウンタイオンとして持たないHCO3イオンが発生する。このLysをカウンタイオンとして持たないHCO3イオンが気化すると仮定した。38℃及び120℃でのイオンバランスのイメージを図4に示す。
<仮定2>
Henryの法則は揮発性の溶質を含む希薄溶液に対し成立することが知られているが、リジン培養液に対してもHenryの法則が成立すると仮定した。
<2−2>必要圧力シミュレーションモデルの構築
仮定1及び2より、加熱によりカウンタイオンを失ったHCO3イオンに対しHenryの法則が成り立つと仮定して、このHCO3イオンが気化しないために必要な圧力を算出するためのシミュレーションモデルを構築した。シミュレーションモデルは、120℃について構築した。
<2−2−1>120℃におけるLys解離状態の算出
120℃におけるLys解離状態を図5に示す。シミュレーションに用いたリジン発酵液の120℃におけるpHは7〜7.5であるため(図2)、pH7〜7.5までの解離曲線は直線近似できると仮定し、pH7におけるLys解離状態を基準として、下記式にてpH7〜7.5までの所定のpHに
おけるLys+存在比率を算出した。「Lys+存在比率」とは、リジンの総量に対する、Lys+の量の比率(モル比)を示す。
<2−2−2>カウンタイオンを持たないHCO3イオン存在比率の算出
下記式にて、120℃に加熱したリジン培養液における、カウンタイオンを持たないHCO3イオン存在比率を算出した。式中、「HCO3濃度」は、HCO3イオンの総濃度、すなわち、カウンタイオンを持つHCO3イオンと持たないHCO3イオンの総濃度を示す。「HCO3濃度」は、例えば、イオンクロマトグラフィーにより測定できる。また、式中、「Lys濃度」は、リジンの総濃度(イオン化しているものもイオン化していないものも含む)を示す。「カウンタイオンを持たないHCO3イオン存在比率」とは、HCO3イオンの総量に対する、カウンタイオンを持たないHCO3イオンの量の比率(モル比)を示す。ここでいう「カウンタイオンを持たないHCO3イオン」とは、加熱によりカウンタイオンを失ったHCO3イオンである。
<2−2−3>炭酸分圧PCO2の算出
120℃におけるHenry定数( Aleksander Dhima, Jean-Charles de Hemptinne, and Jacques Jose, Ind. Eng. Chem. Res. 1999, 38, 3144-3161)を用いて、下記式を用いて炭酸分圧PCO2を算出した。
<2−2−4>水蒸気分圧の算出
Wagnerの式を用いて、下記式より水蒸気分圧PH2Oを算出した。
<2−2−5>必要圧力の算出
必要圧力Pを下記式より算出した。
実施例3:リジン培養液からの炭酸ガスの発生を防止するために必要な圧力の実験値と計算値の比較検証
<1>計算値の算出
実施例2で示した計算式を用いて、参考例1で得られたリジン培養液(pH8.3)について、培養液からの炭酸ガスの発生を防止するために必要な圧力を60℃から130℃の範囲で計算した。同リジン培養液の組成を表4に示す。
<2>実験値の測定
参考例1で得られたリジン培養液(pH8.3)を高温高圧反応装置(TEM-V;耐圧硝子工業)に装置空隙率(気相の比率)が6%v/vとなるように張り込んで密閉し、60℃、80℃、100℃、105℃、110℃、115℃、120℃、125℃、130℃に加温した。上記各温度において気相の圧力を測定し、当該温度における培養液からの炭酸ガスの発生を防止するために必要な圧力とした。
<3>実験値と計算値の比較
計算値と実験値を図6に示す。計算値と実験値はよく一致しており、実施例2で示した計算式が、培養液からの炭酸ガスの発生を防止するために必要な圧力を算出するために使用できることが示された。
実施例4:リジン培養液からの炭酸ガスの発生を防止するために必要な圧力の計算例
実施例2で示した計算式を用いて、表5に記載の組成のモデルリジン培養液(リジン濃度11 g/dl, pH9.0)について、培養液からの炭酸ガスの発生を防止するために必要な圧力を25℃から130℃の範囲で計算した。計算結果を近似式に変換し、得られた近似式を図7に示す。本実施例で用いたモデルリジン培養液(リジン濃度11 g/dl, pH9.0)は、実施例3で用いたリジン培養液(リジン濃度13.93 g/dl, pH8.3)と比較すると、pHが高く、リジン濃度が低いことから、必要なCO2濃度が低いため、リジン培養液からの炭酸ガスの発生を防止するために必要な圧力も低く算出された。また、この近似式によれば、必要圧力
= 1.99 x 10-3 x 温度2.54 で表すことができた。
実施例5:加圧加熱処理後の脱炭酸時のLys分解の抑制
参考例1で得られたリジン培養液(pH8.3)を反応装置に移して、120℃、0.1MPaにて滞留管内で加圧加熱処理を行い、その後、大気圧下60℃にて24時間加熱した。対照として、参考例1で得られたリジン培養液(pH8.3)を加圧加熱処理せずに大気圧下60℃にて24時間加熱した。それぞれの条件でリジン濃度の推移を確認した。表6にその結果を示す。発酵液を加圧加熱処理することで、その後の精製プロセスでのLys分解を抑制することができることが示された。

Claims (20)

  1. 塩基性アミノ酸またはそれを含有する発酵生産物の製造法であって、
    (A)塩基性アミノ酸生産能を有する微生物を重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンが塩基性アミノ酸のカウンタイオンとなるように培地で培養し、塩基性アミノ酸を含有する培養液を得る工程、および
    (B)前記培養液を、該培養液からの炭酸ガスの発生を防止できる圧力下で加熱処理する工程、を含む方法。
  2. 前記圧力が、ゲージ圧で、前記加熱処理の温度における前記培養液の炭酸分圧と水蒸気分圧の合計値以上の圧力であり、
    前記炭酸分圧は、前記培養液中の塩基性アミノ酸、CO2、NH3、K、Mg、Cl、SO4、酢酸、及びコハク酸の濃度、並びに前記加熱処理の温度を変数として算出される値であり、
    前記水蒸気分圧は、Wagnerの式を用いて算出される値である、請求項1に記載の方法。
  3. 前記圧力が、ゲージ圧で、下記式で示される圧力以上の圧力である、請求項1または2に記載の方法:
    圧力(kPa) = 1.99 x 10-3 x 温度2.54
    (式中、「温度」は、前記加熱処理の温度(℃)を示す)。
  4. 前記圧力が、ゲージ圧で、前記培養液を装置空隙率が6%v/vとなるように密閉容器に入れ、前記加熱処理の温度に調整した際の、密閉容器内の気相の圧力以上の圧力である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
  5. 前記圧力が、ゲージ圧で400kPa以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
  6. 前記圧力が、ゲージ圧で1000kPa以上である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
  7. 前記加熱処理の温度が、60℃〜130℃である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
  8. 前記加熱処理の温度が、100℃〜130℃である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
  9. 前記工程Bが、圧力容器内に実質的に気相が存在しない条件で、圧力容器内で実施される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
  10. 圧力容器内に実質的に気相が存在しない条件が、圧力容器内に含まれる気相の容積が、前記加熱処理時に、圧力容器の内容積の1%v/v以下である条件である、請求項9に記載の方法。
  11. さらに、前記加熱処理された培養液を脱炭酸処理に供する工程を含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
  12. 前記工程Aが、培養の少なくとも一部の期間において、培地のpHを7.2〜9.0に制御して実施される、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
  13. 前記工程Aが、培養終了時の培地のpHが7.2以上となるように実施される、請求項
    1〜12のいずれか1項に記載の方法。
  14. 前記工程Aが、培養の少なくとも一部の期間において、発酵槽内圧力が正となるように制御すること、及び/又は、炭酸ガスを培地に供給することにより、重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンが培地中に20mM以上存在するようにして実施される、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
  15. 前記工程Aが、培地中の重炭酸イオン及び/又は炭酸イオン以外のアニオンの濃度が900mM以下になるように実施される、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
  16. 前記発酵槽内圧力が、ゲージ圧で0.03〜0.2MPaである、請求項14または15に記載の方法。
  17. 前記工程Aが、培養の少なくとも一部の期間において、培地中の総アンモニア濃度を300mM以下に制御して実施される、請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
  18. 前記塩基性アミノ酸が、L−リジンである、請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法。
  19. 前記微生物が、コリネ型細菌またはエシェリヒア・コリである、請求項1〜18に記載の方法。
  20. 前記発酵生産物が、発酵液、発酵液の上清、それらの脱炭酸物、それらの濃縮物、それらの乾燥物、それらの加工品から選択される、請求項1〜19のいずれか1項に記載の方法。
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