JP2019056147A - 耐摩耗鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
靭性の確保について、特許文献3には、鋼組成および製造条件それぞれを特定することにより、得られる鋼板の靱性を高める発明が開示され、特許文献4には、耐遅れ破壊性と靭性に優れる耐摩耗鋼板およびその製造方法が開示されている。
本発明は、鉱山用などの大型産業機械の構成部材として使用される耐摩耗鋼板に関し、表面硬度および耐遅れ破壊性に優れ、さらに低温靭性およびHAZ靭性にも優れる耐摩耗鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
[2]複合介在物の周長に占めるMnSの割合が10%以上である。
[3]粒径0.5〜5.0μmの複合介在物の個数密度が10〜40個/mm2である。
(1)化学組成が、C:0.15〜0.28%、Si:0.10〜0.8%、Mn:0.8〜1.5%、P:0.015%以下、S:0.001〜0.004%、Nb:0.005〜0.035%、Al:0.003%以下、Ti:0.005〜0.03%、B:0.0005〜0.0025%、N:0.0020〜0.0050%、O:0.0005〜0.0050%をそれぞれ含み、さらに、Cu:0.05〜0.5%、Cr:0.05〜1.30%、Ni:0.1〜1.0%、Mo:0.05〜1.0%およびV:0.02〜0.10%のうち1種以上を含有し、残部がFeおよび不純物であり、
以下の式(1)により定義される炭素当量Ceqが0.40〜0.75であり、
式(2)により定義されるCNBが6〜32であり、さらに
鋼中にTi酸化物の周囲にMnSが存在する複合介在物を含み、前記複合介在物の断面における前記MnSの面積率が10〜50%であり、前記複合介在物の周長に占めるMnSの割合が10%以上であるとともに、粒径0.5〜5.0umの前記複合介在物の個数密度が10〜40個/mm2である、低温靭性およびHAZ靭性に優れる耐摩耗鋼板。
Ceq=[C%]+[Si%]/24+[Mn%]/6+[Ni%]/40+[Cr%]/5+[Mo%]/4+[V%]/14・・・(1)
CNB=[C%]/[Nb%] ・・・(2)
ただし、式(1)および式(2)における[ ]付元素は、各元素の含有量を示す。
2 裏板
3 溶接ビード
4 2mmVノッチシャルピー試験片
1.化学組成
まず、本発明に係る低温靭性およびHAZ靭性に優れる耐摩耗鋼板の化学組成を上述したように、限定する理由を説明する。はじめに、必須元素を説明する。
Cは、耐摩耗鋼板の表面硬度の向上に最も有効である。C含有量が0.15%未満であると、要求される表面硬度の確保が難しく、また硬度低下を補うために別の合金元素を含有する必要が生じ、製造コストが増加する。したがって、C含有量は、0.15%以上であり、好ましくは0.16%以上であり、さらに好ましくは0.17%以上である。
Siは、溶鋼の予備脱酸に有効な元素であり、また耐摩耗鋼板の表面硬度の向上にも寄与する。Si含有量が0.10%未満ではこれらの効果が不十分である。したがって、Si含有量は、0.10%以上であり、好ましくは0.14%以上であり、さらに好ましくは0.15%以上である。
Mnは、焼入れ性の向上を通じて耐摩耗鋼板の表面硬度を向上させるとともに、HAZ靭性の向上に好適な介在物の形態を得るために必要である。これらの効果を得るために、Mn含有量は、0.8%以上であり、好ましくは0.82%以上であり、さらに好ましくは0.84%以上である。
Pは、結晶粒界に偏析して耐摩耗鋼板の靱性を劣化させるため、P含有量はできるだけ低いことが望ましい。P含有量が0.015%を超えると耐摩耗鋼板の靭性の劣化が著しいため、P含有量は、0.015%以下であり、好ましくは0.012%以下であり、さらに好ましくは0.008%以下である。
Sは、酸化物の表面にMnSを析出させ、MnSと母材のマトリクス界面にMn欠乏領域を形成する。このため、母材を溶接した場合、このMn欠乏領域から粒内フェライトが優先的に成長するので、HAZの低温靭性を確保することができる。そのため、S含有量は0.001%以上である。
Nbは、未再結晶域を拡大し、その領域で圧延を行うことにより高密度の転位を導入し、変態核生成サイトを増加させる。これにより、組織微細化を図ることができ、耐摩耗鋼板の表面硬さと低温靭性を向上することができる。したがって、Nb含有量は、0.005%以上であり、好ましくは0.008%以上であり、さらに好ましくは0.010%以上である。
Alは、溶鋼の清浄度を得るために含有する。Alは、他の元素よりも優先的に酸化物を形成するため、低温靭性およびHAZ靭性の向上に寄与するTi系酸化物が得られなくなる。したがって、Al含有量は、0.003%以下であり、好ましくは0.002%以下であり、さらに好ましくは0.001%以下である。
Tiは、窒化物を生成して結晶粒の粗大化を抑制するとともに、粒内変態核となる複合介在物の生成に必要である。Ti含有量が0.005%未満ではこの作用が奏されない。したがって、Ti含有量は、0.005%以上であり、好ましくは0.010%であり、さらに好ましくは0.011%である。
Bは、焼入れ性を著しく向上させる元素であり、耐摩耗鋼板の硬さを確保するために必要である。したがって、B含有量は、0.0005%以上であり、好ましくは0.0007%以上であり、さらに好ましくは0.0008%以上である。
Nは、窒化物を形成することにより加熱時の組織粗大化を抑制し、耐摩耗鋼板の靭性の向上に寄与する。したがって、N含有量は、0.0020%以上であり、好ましくは0.0021%以上であり、さらに好ましくは0.0025%以上である。
O(酸素)は、粒内変態核となる複合酸化物の生成に必須である。したがって、O含有量は、0.0005%以上であり、好ましくは0.0007%以上であり、さらに好ましくは0.0008%以上である。
本発明に係る耐摩耗鋼板は、さらに要求される表面硬度や靭性の程度に応じて、Cu、Cr、Ni、Mo、Vの1種以上を含有する。これらの元素を説明する。
Cuは、0.05%以上含有することにより耐摩耗鋼板の焼入れ性を高め、硬度を向上させることができる。したがって、Cu含有量は、0.05%以上であり、好ましくは0.10%以上であり、さらに好ましくは0.15%以上である。
Crは、耐摩耗鋼板の焼入れ性を高めて硬度を向上させることができる。したがって、Cr含有量は、0.05%以上であり、好ましくは0.22%以上であり、さらに好ましくは0.24%以上である。
Niは、耐摩耗鋼板の焼入れ性および靭性をいずれも向上させる。したがって、Ni含有量は、0.1%以上であり、好ましくは0.14%以上であり、さらに好ましくは0.15%以上である。
Moは、耐摩耗鋼板の焼入れ性を高め、硬さの向上に寄与する。したがって、Mo含有量は、0.05%以上であり、好ましくは0.12%以上であり、さらに好ましくは0.15%以上である。
Vは、耐摩耗鋼板の焼入れ性を高め、硬さの向上に寄与する。したがって、V含有量は、0.02%以上であり、好ましくは0.03%以上であり、さらに好ましくは0.04%以上である。
次に、任意元素を説明する。本発明に係る耐摩耗鋼板は、上記の必須元素に加えて、鋼板の清浄度を向上するため、必要に応じてCa、Mg、REMの1種以上を任意元素として含有してもよい。
Caは、酸素を低減することに加えて硫化物系非金属介在物の形態を制御することにより耐摩耗鋼板の靭性を改善する。しかし、Ca含有量が0.008%を超えると、粗大な酸化物が形成されるとともにTi系複合介在物が減少するため、靭性が劣化する。したがって、Ca含有量は、0.008%以下である。
Mgは、酸素を低減することにより耐摩耗鋼板の靭性を改善する。しかし、Mg含有量が0.005%を超えると、粗大な酸化物を形成し、耐摩耗鋼板の靭性が劣化する。したがって、Mg含有量は、0.005%以下である。
REMは、酸素を低減し、耐摩耗鋼板の靭性を改善する。しかし、REM含有量が0.010%を超えると耐摩耗鋼板の靭性が劣化する。したがって、REM含有量は、0.010%以下であり、好ましくは0.003%以下である。
上記以外の残部は、Feおよび不純物である。不純物としては、鉱石やスクラップ等の原材料に含まれるものや、製造工程において含まれるものが例示される。
本発明に係る耐摩耗鋼板が所用の表面硬度を有するために、下記式(1)のように日本溶接協会規格(WES)で定義される焼入れ硬さの指標である炭素当量Ceqを0.40〜0.75%とする。式(1)における[ ]付元素は、各元素の含有量を示す。
Ceq=[C%]+[Si%]/24+[Mn%]/6+[Ni%]/40+[Cr%]/5+[Mo%]/4+[V%]/14・・・(1)
本発明に係る耐摩耗鋼板において所用の低温靭性およびHAZ靭性を確保するため、式(2)により定義されるCNBを6〜32とする。ただし、式(2)における[ ]付元素は、各元素の含有量を示す。
CNB=[C%]/[Nb%] ・・・(2)
本発明は、HAZ組織微細化に寄与する複合介在物として、鋼中にTi酸化物の周囲にMnSが存在する複合介在物を含む。そして、複合介在物の断面におけるMnSの面積率、界面におけるMnSの割合、その介在物の粒径および個数密度について下記の範囲に限定する。
本発明では、任意の切断面に現出した複合介在物を分析し、その複合介在物の断面積におけるMnSの面積率を測定することにより、複合介在物中のMnS量を規定する。
したがって、複合介在物の断面におけるMnSの面積率は10〜50%である。
複合介在物中のMnSは、Ti系酸化物の周囲に形成される。複合介在物の周長に占めるMnSの割合が10%未満であると、MnSとマトリクスとの界面に形成される初期Mn欠乏領域が小さい。このため、溶接しても粒内フェライトの形成量が十分でないので、良好な低温HAZ靭性を得ることができない。したがって、複合介在物のマトリクスとの周長に占めるMnSの割合は10%以上である。
次に、本発明に係る耐摩耗鋼板は、上記のような化学組成を有していても、上記のような複合介在物を有することにより所用のHAZ靭性を確保するために、製造方法が適切でなければならない。
本発明に係る耐摩耗鋼板の素材である鋳片の製造では、鋼中介在物の制御のために、RH(Ruhrstahl-Hausen)真空脱ガス処理前にArガスを上部より溶鋼内に吹き込み、溶鋼表面のスラグと溶鋼とを反応させる。これにより、スラグ内のトータルFe量を調整し、溶鋼内の酸素ポテンシャルを10〜30ppmに制御する。
次に、鋳片に、以下の工程II〜工程IVを順次に行う。
工程II:1000〜1200℃の温度域へ加熱および均熱化
工程III:所望の板厚まで熱間圧延
工程IV:室温まで冷却後、Ac3点以上まで加熱して焼入れ
工程IVでは、熱間圧延後の鋼板を室温相当まで冷却した後、オーステナイト化するためにAc3点以上に加熱し、その温度域から焼入れを行って所望の硬さを得る。
さらに必要に応じて工程(IV)の後に工程(V)を行ってAc1点以下で焼戻すことにより、耐摩耗鋼板の靭性をさらに向上させることができる。
このようにして、本発明に係る低温靭性およびHAZ靭性に優れる耐摩耗鋼板を製造することができる。
本発明では、転炉で溶製し、表1,2に示す化学組成(残部はFeおよび不純物)を有する300mm厚の鋳片を連続鋳造法により作製した。
・ブリネル表面硬さ:400以上を合格とした。
・−40℃吸収エネルギー:27J以上を合格とした。
・低歪引張応力:1000MPa以上で破断しなかったものを合格とした。
・HAZ部−40℃吸収エネルギー:27J以上を合格とした。
表1,3における記号A01〜A35は、本発明の規定を全て満足する本発明例であり、表2,4における記号B01〜B31は、本発明の規定を満足しない比較例である。
記号B02は、C含有量が本発明の範囲の上限を上回るため、鋼板の靭性が不足した。
記号B04は、Si含有量が本発明の範囲の上限を上回るため、鋼板の靭性が不足した。
記号B06は、Mn含有量が本発明の範囲の上限を上回るため、鋼板の靭性が不足した。
記号B07は、Nb含有量が本発明の範囲の下限を下回るため、表面硬さが不足した。
記号B09は、Al含有量が本発明の範囲の上限を上回るため、HAZ靭性が不足した。
記号B11は、Ti含有量が本発明の範囲の上限を上回るため、鋼板の靭性が不足した。
記号B12は、B含有量が本発明の範囲の下限を下回るため、表面硬さが不足した。
記号B14は、N含有量が本発明の範囲の下限を下回るため、鋼板の靭性が不足した。
記号B15は、N含有量が本発明の範囲の上限を上回るため、鋼板の靭性が不足した。
記号B19は、炭素当量Ceqが本発明の範囲の上限を上回るため、鋼板の靭性が不足した。
記号B21は、CNBが本発明の範囲の上限を上回るため、鋼板の靭性が不足した。
記号B22は、Cuが本発明の範囲の上限を上回るため、鋼板の靭性が不足した。
記号B24は、Mo含有量が本発明の範囲の上限を上回るため、鋼板の靭性が不足した。
記号B25は、V含有量が本発明の範囲の上限を上回るため、鋼板の靭性が不足した。
記号B27は、Mg含有量が本発明の範囲の上限を上回るため、HAZ靭性が不足した。
記号B28は、REM含有量が本発明の範囲の上限を上回るため、鋼板の靭性が不足した。
さらに、記号B31は、S含有量が本発明の範囲の下限を下回るため、MnS面積率およびMnS周長割合が不十分となり、HAZ靭性が不足した。
Claims (4)
- 化学組成が、質量%で、
C :0.15〜0.28%、
Si:0.10〜0.8%、
Mn:0.8〜1.5%、
P :0.015%以下、
S :0.001〜0.004%、
Nb:0.005〜0.035%、
Al:0.003%以下、
Ti:0.005〜0.03%、
B :0.0005〜0.0025%、
N :0.0020〜0.0050%、
O :0.0005〜0.0050%をそれぞれ含み、さらに、
Cu:0.05〜0.5%、
Cr:0.05〜1.30%、
Ni:0.1〜1.0%、
Mo:0.05〜1.0%および
V:0.02〜0.10%のうち1種以上を含有し、
残部がFeおよび不純物であり、
以下の式(1)により定義される炭素当量Ceqが0.40〜0.75であり、
式(2)により定義されるCNBが6〜32であり、さらに
鋼中にTi酸化物の周囲にMnSが存在する複合介在物を含み、
前記複合介在物の断面における前記MnSの面積率が10〜50%であり、
前記複合介在物の周長に占めるMnSの割合が10%以上であるとともに、
粒径0.5〜5.0umの前記複合介在物の個数密度が10〜40個/mm2である、耐摩耗鋼板。
Ceq=[C%]+[Si%]/24+[Mn%]/6+[Ni%]/40+[Cr%]/5+[Mo%]/4+[V%]/14・・・(1)
CNB=[C%]/[Nb%] ・・・(2)
ただし、式(1)および式(2)における[ ]付元素は、各元素の含有量を示す。 - さらに、質量%で、
Ca:0.008%以下、
Mg:0.005%以下、および
REM:0.010%以下
のうちの1種以上を含有する、請求項1に記載の耐摩耗鋼板。 - RH真空脱ガス処理前において、溶鋼中の酸素ポテンシャルを10〜30ppmとし、
RH真空脱ガス処理において化学組成を調整して溶鋼を製造し、
溶鋼を用いて連続鋳造法により鋳片を製造し、
鋳片を1000〜1200℃に加熱および均熱してから熱間圧延を行って室温まで冷却し、
次いで加熱してAc3点以上から焼入れる、請求項1または2に記載の耐摩耗鋼板の製造方法。 - さらに、Ac1点以下の温度で焼戻す、請求項3に記載の耐摩耗鋼板の製造方法。
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