図1は、本発明の静的原子炉格納容器除熱系の実施例1を備えた沸騰水型の原子プラントの概略構成を示すものである
図1に示す沸騰水型の原子プラントは、改良型沸騰水型原子炉に適用した例であり、以下のようなシステム構成を持っている。
即ち、本実施例の沸騰水型の原子力プラントは、原子炉格納容器1と、この原子炉格納容器1内に設置され、炉心2を内包する原子炉圧力容器3と、この原子炉圧力容器3に接続され、原子炉圧力容器3で発生した蒸気をタービン(図示せず)に送る主蒸気管4と、後述する静的原子炉格納容器除熱系とから概略構成され、その一部が地面26中に埋設されている。
原子炉格納容器1の内部は、鉄筋コンクリート製のダイヤフラムフロア12によってドライウェル5とウェットウェル7に区画されている。ウェットウェル7は、内部にプール水を貯めている領域のことを言う。このウェットウェル7内のプールのことをサプレッションプール8と呼ぶ。ドライウェル5とウェットウェル7は、ベント管11によって相互に連通されており、ベント管排気部11aは、ウェットウェル7内のサプレッションプール8の水面下に開口している。
万が一、配管類の一部が損傷し、原子炉格納容器1内に蒸気が放出される配管破断事故(一般的にLOCAの名称で知られ、配管が通るドライウェル5で発生する)が発生した場合、ドライウェル5の圧力が配管の破断口から流出する蒸気により上昇する。
静的原子炉格納容器除熱系を持たない原子炉では、その際、ドライウェル5内に放出された蒸気は、ドライウェル5とウェットウェル7の圧力差により、ベント管11を通ってウェットウェル7内のサプレッションプール8の水中に導かれる。
サプレッションプール8の水で蒸気を凝縮することで、原子炉格納容器1内の圧力上昇を抑制している。この際に、蒸気内に放射性物質が含まれていた場合、サプレッションプール8のプール水のスクラビング効果により大半の放射性物質が除去される。
サプレッションプール8で蒸気を凝縮し、サプレッションプール8内のプール水を残留熱除去系(図示せず)で冷却することで、原子炉格納容器1の温度上昇と圧力上昇を防止し、事故を収束させることができる。
しかし、非常に低い可能性ではあるが、残留熱除去系が機能を喪失した場合、サプレッションプール8のプール水の温度が上昇する。サプレッションプール8のプール水の温度が上昇するに伴い、原子炉格納容器1内の蒸気の分圧は、プール水の温度の飽和蒸気圧まで上昇するため、原子炉格納容器1の圧力が上昇する。
一方、静的原子炉格納容器冷却系を持つ原子炉では、ドライウェル5内に放出された蒸気は、配管破断事故の直後の蒸気発生量が多い極初期はベント管11を通してウェットウェル7内のサプレッションプール8の水中で蒸気を冷却、凝縮させるが、その後は、原子炉格納容器1の外部(本実施例では原子炉格納容器1の上部)に設置した熱交換器13で蒸気を冷却、凝縮させる。
本実施例での静的原子炉格納容器冷却系は、原子炉格納容器1の上部(外部)に設置された熱交換器13と、一端が熱交換器13に接続され、他端が原子炉格納容器1内のドライウェル5の内部に位置し、ドライウェル5内の蒸気を熱交換器13に引き込む蒸気引き込み配管16と、熱交換器13から原子炉格納容器1内のサプレッションプール8に繋がる凝縮水排出管17と、内部に蒸気冷却プール冷却水18が満たされ、熱交換器13が収納配置されている蒸気冷却プール14とから構成されている。
そして、本実施例では、ドライウェル5の内部の空間に蒸気引き込み管16を開口させ、そのドライウェル5側の蒸気引き込み管16の端部に非凝縮性ガス分離フィルタ15を設置し、蒸気引き込み管16の逆側を熱交換器13に接続している。この非凝縮性ガス分離フィルタ15により炉内の非凝縮性ガスが分離され、熱交換器13には蒸気のみが供給される。非凝縮性ガスが熱交換器13内に無いことにより除熱性能が向上するため、熱交換器13を小型化することができる。
また、熱交換器13は、蒸気冷却プール14に蓄えられて蒸気冷却プール冷却水18により外部から冷却されている。それにより、熱交換器13内の蒸気は、冷却され凝縮して水に戻り、重力により凝縮水排出管17を通って、ウェットウェル7内のサプレッションプール8に排出される。
また、熱交換器13を高所となる原子炉格納容器1の上部に配置することで、ヘッド差により凝縮した水が排出されやすくなるため、蒸気引き込み管16から蒸気を引き込む力が強くなり、冷却能力が向上する。
また、上記した戻り水は、熱交換器13により冷却されているため、サプレッションプール8や原子炉格納容器1の温度上昇を防止することができる。
また、熱交換器13によって加熱された蒸気冷却プール冷却水18は、やがて沸騰する可能性があるが、蒸気冷却プール14を外部に開放しておく(蒸気冷却プール14の上部に開口部14aが設けられている)ことで、外部に熱を逃がすことができる。その際、蒸気冷却プール冷却水18には放射性物質は含まれていないため、外部への放射性物質の放出は起きない。
なお、図1において、6は蒸気逃し安全弁、7aはウェットウェル気相部、9は蒸気逃し安全弁排気管、10はクエンチャである。
本実施例における蒸気引き込み管16の端部構造を図2に示す。
該図に示すように、本実施例の静的原子炉格納容器除熱系の熱交換器13に、ドライウェル5内の蒸気を引き込むための蒸気引き込み管16の一端が接続されているが、蒸気引き込み管16の他端に形成されている開口部22に設置された非凝縮性ガス分離フィルタ15は、原子炉格納容器上部壁面19より一定(所定)の距離(例えば0.5m)離して設置されている。
また、本実施例では、上記した蒸気引き込み管16の開口部22は、横方向(水平方向)に向けて開口している。なぜなら、非凝縮性ガス分離フィルタ15を蒸気が透過することで、非凝縮性ガス分離フィルタ15の近辺には、非凝縮性ガス分離フィルタ15を透過しない非凝縮性ガス(水素や窒素)が滞留する恐れがある。
非凝縮性ガス(水素や窒素)の滞留が起きた場合、非凝縮性ガス分離フィルタ15を透過する蒸気流量が低下する恐れがあるため、本実施例のように、蒸気引き込み管16の開口部22を原子炉格納容器上部壁面19から離して横方向に開口することで、非凝縮性ガスを非凝縮性ガス分離フィルタ15の近傍から密度差を利用し排除することができ、蒸気透過量を維持することができる。
例えば、窒素は、蒸気との混合物に比べて重いため、非凝縮性ガス分離フィルタ15を蒸気が透過した後は、密度差により下方に流れることで非凝縮性ガス分離フィルタ15の近傍に滞留することがない。
また、万が一、水素が発生した場合は、水素は蒸気との混合物に比べて軽いため、非凝縮性ガス分離フィルタ15を蒸気が透過した後は、密度差により上方に流れる。非凝縮性ガス分離フィルタ15と原子炉格納容器上部壁面19との間に一定の距離を持つことにより、水素が非凝縮性ガス分離フィルタ15の近傍に滞留することはない。
また、蒸気引き込み管16の開口部22が横方向(水平方向)に開口していることにより、ガスの種類によらず密度差に応じて適切にガスが滞留せずに流れるような構造となっている。
なお、原子炉格納容器1内の非凝縮性ガスの量は、窒素が殆どを占めるため、窒素を排除できる配置とすることが最も望ましい。
蒸気を透過させて熱交換器13に供給したい蒸気の分子は、透過させたくない非凝縮性ガスの分子に比べて小さい。そこで、非凝縮性ガス分離フィルタ15の材料としては、分子サイズの差を利用して選択的にガスを透過することができる分子ふるいの機構を持つフィルタを利用することで、蒸気を選択的に透過することができる。
このような用途に最適な分離膜(非凝縮性ガス分離フィルタ15)として、ポリイミドを主成分とした高分子膜、窒化ケイ素を主成分としたセラミック膜、炭素を主成分とした酸化グラフェン膜等の分子ふるいにより分離が可能な膜の使用が望ましい。また、その他、蒸気を透過し、主に窒素を透過しない膜であるならば、それらの使用でも構わない。
次に、本実施例の静的原子炉格納容器除熱系に用いられる上記した非凝縮性ガス分離フィルタ15について、図3、図4及び図5を用いて説明する。
本実施例の静的原子炉格納容器除熱系に用いられる非凝縮性ガス分離フィルタ15の形状としては、図3に示すような板状、図4及び図5に示すようなチューブ状及び中空糸状がある。
即ち、図3に示す板状の非凝縮性ガス分離フィルタ15Aは、複数の板状部材15A1が等間隔に配置されて複数の空間部15A2を形成し、この空間部15A2を間隔を置いて非凝縮性ガスを含む蒸気が通ることで蒸気と非凝縮性ガスが分離され、分離された非凝縮性ガスがフィルタ上流側空間20を通り下方へ排出され、蒸気がフィルタ下流側空間21を通り下方へと流れ熱交換器13へ導かれるものである。
また、図4に示すチューブ状の非凝縮性ガス分離フィルタ15Bは、縦方向に複数配置されたチューブ状部材15B1が、その上下端を支え板15B2及び15B3で支持されて形成され、チューブ状部材15B1の上部開口部から流入した非凝縮性ガスを含む蒸気が、チューブ状部材15B1を通ることで蒸気と非凝縮性ガスが分離され、分離された非凝縮性ガスがフィルタ上流側空間20(チューブ状部材15B1内)を通り下方へ排出され、蒸気がフィルタ下流側空間21(チューブ状部材15B1間)を通り水平方向へと流れ熱交換器13へ導かれるものである。
更に、図5に示す中空糸状の非凝縮性ガス分離フィルタ15Cは、横方向(水平方向)に複数配置された中空糸状部材15C1が、その左右端を支え板15C2及び15C3で支持されて形成され、非凝縮性ガス分離フィルタ15Cの上方から流入した非凝縮性ガスを含む蒸気は、複数の中空糸状部材15C1間を通ることで蒸気と非凝縮性ガスが分離され、分離された非凝縮性ガスがフィルタ上流側空間20(中空糸状部材15C1間)を通り下方へ排出され、蒸気がフィルタ下流側空間21(中空糸状部材15C1内)を通り水平方向へと流れ熱交換器13へ導かれるものである。
なお、上述した非凝縮性ガス分離フィルタ15A、15B及び15Cは、その形状に問わず、フィルタ上流側空間20とフィルタ下流側空間21を完全に仕切る構造(原子炉格納容器1内の空間と蒸気引き込み管16のラインが、非凝縮性ガス分離フィルタ15A、15B及び15Cで仕切られている構造)となっており、静的原子炉格納容器除熱系で冷却したい蒸気量に応じて非凝縮性ガス分離フィルタ15A、15B及び15Cの表面積の大きさを決定しても構わない。また、フィルタ上流側空間20は、原子炉格納容器1内の気体に晒されている空間であり、事故時に発生した蒸気を、非凝縮性ガス分離フィルタ15A、15B及び15Cを介してフィルタ下流側空間21へと放出可能である。
図3、図4及び図5に示すフィルタ上流側空間20でのガスは、非凝縮性ガス分離フィルタ15A、15B及び15Cの底部から上部への流れであっても、上部から底部への流れであっても、非凝縮性ガス分離フィルタ15A、15B及び15Cの分離性能に影響することはない。また、フィルタ下流側空間21は、蒸気引き込み管16と連結しており、透過した蒸気は熱交換器13へと流れる。
このような本実施例の構成とすることにより、静的原子炉格納容器除熱系において、原子炉格納容器1内に窒素や水素などの非凝縮性ガスが存在した場合でも、静的原子炉格納容器除熱系の除熱性能の低下を抑制することができる。それにより、熱交換器13を小型化することができ、コストを低減し、耐震性能を向上させることができる。
従って、本実施例によれば、コストの増大を招く熱交換器13の大型化や複数台設置することなしに、窒素や水素などの非凝縮性ガスが存在した場合でも静的原子炉格納容器冷却設備の除熱性能の低下を、動力などを用いず静的な力のみで抑制可能となる。
本発明の静的原子炉格納容器除熱系の実施例3について、図7を用いて説明する。
図7に示す実施例3においても、静的原子炉格納容器除熱系の配置構成は、実施例1若しくは実施例2と同様であり、ここでは実施例1若しくは実施例2との違いのみを説明する。
過酷事故が万が一発生した場合は、原子炉格納容器1内の気体はエアロゾル状の放射性物質を含む可能性が有る。
そこで、本実施例では、非凝縮性ガス分離フィルタ15の上流部にエアロゾル捕集装置23を設置し、極力大きなエアロゾル粒子を捕集する体系とするものである。
なお、エアロゾル捕集装置23には、繊維状の金属フィルタやヘパフィルターまたは吸着材などが有効である。
この構成により、エアロゾル粒子の非凝縮性ガス分離フィルタ15への吸着による目詰まりを防止することができ、かつ、強い放射線に晒されることによる非凝縮性ガス分離フィルタ15の劣化を防止することができる。
また、原子炉格納容器1内の非凝縮性ガスの主成分は窒素であり、これは蒸気との混合物に比べて重いため、非凝縮性ガス分離フィルタ15に蒸気が透過された後は、密度差によって受動的に下方に流れる。
そこで、本実施例でのエアロゾル捕集装置23は、例えば図3、図4及び図5のような、非凝縮性ガスを含む蒸気が上から下へ流れる構造とする場合、非凝縮性ガス分離フィルタ15A、15B、15Cの上部に設置することが望ましい。
このような本実施例によれば、実施例1と同様な効果が得られることは勿論、原子炉格納容器1内の非凝縮性ガスによる静的原子炉格納容器除熱系の性能が低下しないため、静的原子炉格納容器除熱系の熱交換器13を小型化できる。また、非凝縮性ガス分離フィルタ15の劣化の可能性を低減できる。
本発明の静的原子炉格納容器除熱系の実施例5について、図9を用いて説明する。
図9に示す本実施例は、図3に示した板状の非凝縮性ガス分離フィルタ15Aの変形例である。
図9に示す実施例5においても、静的原子炉格納容器除熱系の配置構成は、実施例1若しくは実施例2と同様であり、ここでは、図3に示す板状の非凝縮性ガス分離フィルタ15Aとの違いのみを説明する。
該図に示す本実施例では、非凝縮性ガス分離フィルタ15Aによって蒸気が透過された後の非凝縮性ガスが流れる流路を、チムニ25によって下方に延長するものである。即ち、本実施例での非凝縮性ガス分離フィルタ15Aは、その下流部に、非凝縮性ガス分離フィルタ15Aを蒸気が透過した後の非凝縮性ガスが流れる流路となるチムニ25を備えている。
非凝縮性ガスの主成分は窒素であるため、非凝縮性ガスを含む蒸気よりも重いため、密度差により下方に流れる。本実施例のチムニ25により流路を限定することにより、周囲との密度差で下降気流を生じる駆動力が強まることから、非凝縮性ガス分離フィルタ15Aにより多くの蒸気を供給できるようになる。
なお、本実施例のチムニ25は、実施例1の図3の変形例として記載したが、図4や図5のような形の非凝縮性ガス分離フィルタ15Bや15Cにおいても、下方に向かう流路にチムニ25を設置した場合と同様の機能が期待できる。
また、実施例3や実施例4と同様に、非凝縮性ガス分離フィルタ15の上部に、エアロゾル捕集装置23やよう素捕集装置24を設置してもよい。
このような本実施例によれば、実施例1と同様な効果が得られることは勿論、原子炉格納容器1内の非凝縮性ガスによる静的原子炉格納容器除熱系の性能が低下しないため、静的原子炉格納容器除熱系の熱交換器13を小型化できる。また、熱交換器13に供給できる蒸気流量が増加するため、より除熱性能が向上する。
なお、上記した実施例は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。