以下、図面を用いて、本発明の第1~第4の実施形態による原子炉格納容器ベントシステムの構成及び動作について説明する。なお、各図において、同一符号は同一部分を示す。
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る原子炉格納容器ベントシステム100(以下、ベントシステム100という)の構成と当該システムを用いる原子炉格納容器1の構成とを示した模式図である。
本発明の第1の実施形態に係るベントシステム100を備える原子炉格納容器1は、改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)の原子炉格納容器である。
原子炉格納容器1は、図示しない原子炉建屋によって覆われ、炉心2を内包する原子炉圧力容器3を格納し、放射性物質の放出を抑制する。原子炉圧力容器3には主蒸気管4が接続され、原子炉圧力容器3内で発生した水蒸気(以下、蒸気という)は主蒸気管4により図示しないタービンに送られ、タービンを回転させる。
原子炉格納容器1の内部にはペデスタル5とダイヤフラムフロア6が設けられている。ペデスタル5は、原子炉圧力容器3を格納容器本体10の底部から支える筒状の構造物である。ダイヤフラムフロア6は、ペデスタル5の上端からペデスタル5の外径方向に伸び、格納容器本体10の周壁に接続する環状の構造物である。ペデスタル5とダイヤフラムフロア6により原子炉格納容器1の内部はドライウェル11とウェットウェル12に区画されている。
ドライウェル11は、格納容器本体10の天井面と底面と内周面と、ペデスタル5の内面とダイヤフラムフロア6の上面とにより囲まれたスペースで、原子炉圧力容器3と各種配管が配置される。
ウェットウェル12は、格納容器本体10の底面と内周面と、ペデスタル5の外周面とダイヤフラムフロア6の下面により囲まれたスペースである。ウェットウェル12には、冷却水を貯留するサプレッションプール13(液相部)とサプレッションプール13の上方に形成された気相部14が設けられている。
ドライウェル11とウェットウェル12とは、ベント管15を介して相互に連通している。ベント管15は、冷却材喪失事故(LOCA)等の発生によりドライウェル11内に放出された蒸気を含む気体をサプレッションプール13へ導く配管である。
原子炉格納容器1には、原子炉圧力容器3または主蒸気管4内の圧力が異常に上昇した場合に当該圧力を減少させる減圧機構が設けられている。減圧機構は、主蒸気逃し安全弁7と、蒸気逃し安全弁排気管8と、クエンチャ9とを有している。
主蒸気逃し安全弁7は、主蒸気管4に設けられ、弁を開けることにより主蒸気管4から蒸気の一部を逃がすものである。主蒸気逃し安全弁排気管8は、主蒸気管4内を流れる蒸気を主蒸気逃し安全弁7を介してサプレッションプール13中に導くものである。
主蒸気逃し安全弁排気管8は、一方の端部が主蒸気逃し安全弁7に接続し、他方の端部がサプレッションプール13内(プール水の水面下)に位置する。クエンチャ9は、主蒸気逃し安全弁排気管8の他方側端部に設けられ、主蒸気逃し安全弁排気管8内を流れる蒸気をサプレッションプール13中に拡散させるものである。
主蒸気管4などの配管類の一部が損傷し、原子炉格納容器1のドライウェル11内に蒸気や水素ガスなどの気体が流出した場合、ドライウェル11内の圧力は配管から流入した気体によって上昇する。
ドライウェル11内の圧力上昇によりドライウェル11内の気体は、ベント管15を通ってウェットウェル12内のサプレッションプール13中に導かれる。サプレッションプール13中に導かれた蒸気は、サプレッションプール13のプール水によって凝縮する。これにより、原子炉格納容器1は圧力上昇がその分抑制される。
また、原子炉圧力容器3や主蒸気管4の圧力が異常に上昇した場合、主蒸気逃し安全弁7を開き、主蒸気管4を流れる蒸気の一部を主蒸気逃し安全弁排気管8を介してクエンチャ9からサプレッションプール13中に放出する。
主蒸気管4からサプレッションプール13中へ放出された蒸気は、サプレッションプール13のプール水によってその多くが凝縮される。それにより、原子炉圧力容器3や主蒸気管4はその分減圧される。このようにして、原子炉圧力容器3や主蒸気管4などの損傷が防止されている。
このように、配管破断事故(例えば、LOCA)や原子炉圧力容器3の圧力の異常上昇が発生した場合には、ドライウェル11や主蒸気管4の蒸気をサプレッションプール13のプール水によって凝縮させる。
また、サプレッションプール13のプール水は残留熱除去系(図示せず)によって冷却されている。したがって、ベントシステム100は、主蒸気管4などからドライウェル11への蒸気の流出事故が発生しても、原子炉格納容器1内の圧力及び温度の上昇が防止され、当該事故を収束できるようになっている。
しかしながら、残留熱除去系の機能が喪失した場合、サプレッションプール13のプール水の温度が上昇してしまう。プール水の温度上昇に伴って、原子炉格納容器1内の蒸気の分圧はプール水の温度の飽和蒸気圧まで上昇する。したがって、上記のような設備を備えていても原子炉格納容器1内の圧力が上昇してしまう場合がある。
このように原子炉格納容器1の圧力上昇が生じた場合、スプレイ冷却系(図示せず)によって原子炉格納容器1内に冷却水を散布し、原子炉格納容器1内の圧力上昇を抑制できるようになっている。なお、スプレイ冷却系は、消防ポンプなどを接続して外部から作動させることで、冷却水の散布を行うことも可能である。
しかし、スプレイによる注水によりプール水位が真空破壊弁の高さまで上昇した場合、スプレイによる注水を停止させなければならない。この場合、原子炉格納容器1内の圧力は継続して上昇してしまう。
このように原子炉格納容器1内の圧力上昇が続くようになった場合には、原子炉格納容器1の損傷を防ぐため、原子炉格納容器1内の気体を外部へ排出させ、原子炉格納容器1を減圧させなければならない。この操作をベント操作と呼ぶ。
原子力プラントには、原子炉格納容器1からベントガスを排出させ原子炉格納容器1を減圧させるベント操作を行うためのシステムとしてベントシステム100が設けられている。
本実施形態に係るベントシステム100は、原子炉格納容器1内のベントガスをウェットウェル12のサプレッションプール13を介して気相部14内に流入させてから外部へ排出させる。
具体的には、原子炉格納容器1内のベントガスは、ベント管15や主蒸気逃し安全弁7及び安全弁排気管8を介してサプレッションプール13中へ放出され、ウェットウェル12の気相部14に流入される。このとき、ベントガス中に含まれている放射性物質の多くは、サプレッションプール13のプール水に備わるスクラビング効果によりベントガスから除去される。
上記の原子炉格納容器1に備わるベントシステム100の構成について図1を用いて以下に説明する。
本実施形態に係るベントシステム100は、原子炉格納容器1内のベントガスを外部へ排出させるベントライン20と、ベントライン20上に配置され希ガスを捕集する希ガス捕集ユニット30と、希ガス捕集ユニット30で捕集された希ガスを原子炉格納容器1のドライウェル11に戻す戻りライン40とを備えている。
ベントライン20は、原子炉格納容器1からベントガスが流入する流入ライン21と、流入ライン21から希ガス捕集ユニット30にベントガスを放出する放出ライン22と、希ガス捕集ユニット30からベントガスを排気塔50を介して排出する排気ライン23とを備える。
希ガス捕集ユニット30は、異なる希ガスフィルタが設けられた第1中間容器31と第2中間容器32とを備える。第1中間容器31と第2中間容器32とは、ベントライン20上に並列に配置されている。
流入ライン21は、原子炉格納容器1内のベントガスが流入する配管である。流入ライン21の気体流通方向における上流側は、原子炉格納容器1のウェットウェル12の気相部14と連通する第1流入ライン21aと、原子炉格納容器1のドライウェル11と連通する第2流入ライン21bとに分岐している。
第1流入ライン21aには、遠隔または静的に開動作可能な常時閉の第1隔離弁21cが設けられ、第2流入ライン21bには、遠隔または静的に開動作可能な常時閉の第2隔離弁21dが設けられている。なお、第1隔離弁21cと第2隔離弁21dは、バッテリや圧力源の高圧気体により開弁操作が可能であり、外部電源が不要である。
また、第1流入ライン21aと第2流入ライン21bは、それぞれの下流側で第1継手(結合部)21eにおいて第3流入ライン21fと結合されている。第3流入ライン21fの気体流通方向における下流側には切替弁22cが接続されている。
放出ライン22は、第3流入ライン21fから導入されたベントガスを希ガス捕集ユニット30に放出する配管であり、切替弁22cと第1中間容器31(第1上流空間31b)とを接続する第1放出ライン22aと、切替弁22cと第2中間容器32(第2上流空間32b)とを接続する第2放出ライン22bとを備える。
切替弁22cは、第1放出ライン22a及び第2放出ライン22bのいずれか一方と流入ライン21(第3流入ライン21f)との連通を切り替え可能な弁であり、例えば2位置方向切替弁が利用できる。
第1放出ライン22aは、第1中間容器31の後述する第1上流空間31bと連通し、第3流入ライン21fから導入されたベントガスを、切替弁22cを介して第1上流空間31b内に放出する配管である。
第2放出ライン22bは、第2中間容器32の後述する第2上流空間32bと連通し、第3流入ライン21fから導入されたベントガスを、切替弁22cを介して第2上流空間32b内に放出する配管である。
切替弁22cは、第3流入ライン21fと第1放出ライン22aと第2放出ライン22bとの結合部に設けられており、第1放出ライン22aと第2放出ライン22bのいずれか一方と第3流入ライン21fとの連通を切り替え可能な弁である。
切替弁22cを操作することで、第3流入ライン21fに導かれたベントガスは、第1放出ライン22aと第2放出ライン22bのいずれか一方に導かれる。なお、切替弁22cは、第1隔離弁21c及び第2隔離弁21dと同様に外部電源不要で開閉可能とすることが好ましく、例えばバッテリや圧力源の高圧気体により開弁操作が可能となる。
第1中間容器31は、放射性希ガスのキセノンとクリプトンを捕集する容器である。第1中間容器31は、第1希ガスフィルタ31aにより第1上流空間31bと第1下流空間31cに区画されている。
第1希ガスフィルタ31aは分子径により透過させる物質をふるい分けるフィルタで、分子径が0.289nmの蒸気と分子径が0.265nmの水素ガスを透過させる一方、分子径が0.360nmのクリプトンと分子径が0.396nmのキセノンを透過させにくい特性を備えている。
第1希ガスフィルタ31aには、窒化ケイ素、酸化ケイ素または炭素を主成分とするセラミック膜や、ポリイミドを主成分とする高分子膜が用いられている。セラミック膜には、例えば、外径が10mm、厚みが1mmのシリカ膜を用いることができる。高分子膜には、例えば、外径が480~485μm、厚みが70μmのポリイミド膜を用いることができる。
なお、第1希ガスフィルタ31aを透過するキセノンとクリプトンの体積流量が、第1希ガスフィルタ31aを透過する蒸気と水素ガスの体積流量に対して1/10以下であれば、大気中に放出されるキセノンとクリプトンによる放射線量は、被ばく防護上問題とはならないと考えられる。
そこで、第1希ガスフィルタ31aは、出口側(第1下流空間31c側)を大気に開放した状態で、入り口側(第1上流空間31b側)に一定の圧力をかけ、クリプトン及びキセノンの体積流量が、蒸気及び水素ガスの体積流量と比べて1/10以下となるように構成することが好ましい。
第1上流空間31bは、第1中間容器31のベントライン20における第1希ガスフィルタ31aより上流側の空間である。第1上流空間31bには、第1放出ライン22aと後述する第1戻りライン41とが連通する。また、第1上流空間31b内には、第1線量計31dと第1圧力計31eが設置されている。
第1線量計31dは、シンチレーション検出器やゲルマニウム検出器などの放射線のエネルギー選別が可能な測定装置で、放射性希ガスであるクリプトンの存在量を算出するための基礎となる放射線量(クリプトンが有する特有のエネルギーの放射線の量)を計測する。
第1圧力計31eは、第1上流空間31b内の圧力を測定する測定器である。第1圧力計31eは、測定する第1上流空間31b内の圧力値の変化により、第1希ガスフィルタ31aの破損を検知することに用いられる。
第1下流空間31cは、第1中間容器31のベントライン20における第1希ガスフィルタ31aより下流側の空間である。第1下流空間31cには、後述する第1排気ライン23aが連通する。
第2中間容器32は、放射性希ガスのキセノンを捕集する容器である。第2中間容器32は、第2希ガスフィルタ32aにより第2上流空間32bと第2下流空間32cに区画されている。
第2希ガスフィルタ32aは、第1希ガスフィルタ31aと同じように、分子径により透過させる物質をふるい分けるフィルタで、分子径が0.289nmの蒸気と、分子径が0.265nmの水素ガスと、分子径が0.346nmの酸素ガスを透過させる一方、分子径が0.396nmのキセノンを透過させにくい特性を備えている。
第2希ガスフィルタ32aには、第1希ガスフィルタ31aと同じように、窒化ケイ素、酸化ケイ素または炭素を主成分とするセラミック膜や、ポリイミドを主成分とする高分子膜が用いられている。セラミック膜には、例えば、外径が10mm、厚みが1mmのシリカ膜を用いることができる。高分子膜には、例えば、外径が480~485μm、厚みが70μmのポリイミド膜を用いることができる。
なお、第2希ガスフィルタ32aを透過するキセノンの体積流量が、第2希ガスフィルタ32aを透過する蒸気と水素ガスと酸素ガスの体積流量に対して1/10以下であれば、大気中に排出されるキセノンによる放射線量は、被ばく防護上問題とはならないと考えられる。
そこで、第2希ガスフィルタ32aは、出口側(第2下流空間32c側)を大気に開放した状態で、入り口側(第2上流空間32b側)に一定の圧力をかけ、キセノンの体積流量が、蒸気及び水素ガスと酸素ガスの体積流量と比べて1/10以下となるように構成することが好ましい。
第2上流空間32bは、第2中間容器32のベントライン20における第2希ガスフィルタ32aより上流側の空間である。第2上流空間32bには、第2放出ライン22bと後述する第2戻りライン42とが連通する。また、第2上流空間32b内には、第2線量計32dと第2圧力計32eが設置されている。
第2線量計32dは、シンチレーション検出器やゲルマニウム検出器などの放射線のエネルギー選別が可能な測定装置で、放射性希ガスであるクリプトンの存在量を算出するための基礎となる放射線量(クリプトンが有する特有のエネルギーの放射線の量)を計測する。
第2圧力計32eは、第2上流空間32b内の圧力を測定する測定器である。第2圧力計32eは、測定する第2上流空間32b内の圧力値の変化により、第2希ガスフィルタ32aの破損を検知することに用いられる。
第2下流空間32cは、第2中間容器32のベントライン20における第2希ガスフィルタ32aより下流側の空間である。第2下流空間32cには、後述する第2排気ライン23bが連通する。
排気ライン23は、第1希ガスフィルタ31a又は第2希ガスフィルタ32aを透過したベントガスを、排気塔50を介して排出する配管である。排気ライン23は、第1中間容器31の第1下流空間31cと第2継手23dとを接続する第1排気ライン23aと、第2中間容器32の第2下流空間32cと第2継手23dとを接続する第2排気ライン23bと、第2継手23dと排気塔50とを接続する第3排気ライン23cとを備える。
第1排気ライン23aと第2排気ライン23bとは、下流に設けられた第2継手23dにより合流する。また、第1排気ライン23a上には、第2排気ライン23bから排気されるベントガスが第1下流空間31c内に逆流することを防止する第1逆止弁23eが設けられている。また、第2排気ライン23b上には、第1排気ライン23aから排気されるベントガスが第2下流空間32c内に逆流することを防止する第2逆止弁23fが設けられている。
戻りライン40は、希ガス捕集ユニット30で第1希ガスフィルタ31aまたは第2希ガスフィルタ32aを透過できなかったベントガスを原子炉格納容器1に戻す配管である。戻りライン40は、第1中間容器31の第1上流空間31bと第3継手44とを接続する第1戻りライン41と、第2中間容器32の第2上流空間32bと第3継手44とを接続する第2戻りライン42と、第3継手44とドライウェル11とを接続する第3戻りライン43とを備える。
第1戻りライン41上には、遠隔または静的に開動作可能な常時閉の第3隔離弁41aが設けられている。第3隔離弁41aは、第3継手44側のベントガスが第1上流空間31b内に逆流することを防止する逆止弁であってもよい。
また、第2戻りライン42上には、遠隔または静的に開動作可能な常時閉の第4隔離弁42aが設けられている。第4隔離弁42aは、第3継手44側のベントガスが第2上流空間32b内に逆流することを防止する逆止弁であってもよい。
第3戻りライン43上には、ドライウェル11内の気体が第3戻りライン43に逆流することを防止する第3逆止弁43aが設けられている。
また、第3戻りライン43上における第3継手44と第3逆止弁43aとの間には送出ポンプ43bが設けられている。送出ポンプ43bは、第1中間容器31の第1上流空間31bまたは第2中間容器32の第2上流空間32bに滞留しているベントガスをドライウェル11へ強制的に送出するポンプ(例えば、ロータリーポンプ)である。送出ポンプ43bには電源(図示せず)から電力が供給されている。
また、第3戻りライン43には、第3戻りライン43の上流側と下流側を接続して送出ポンプ43bを迂回するバイパスライン43cが設けられている。バイパスライン43c上には、逃し弁43dが設置されている。
逃し弁43dは、バイパスライン43cの上流側と下流側の圧力差により開閉する弁である。バイパスライン43cの上流側と下流側の圧力差が第1設定圧P1を超えると逃し弁43dは開きベントガスを流す。一方、バイパスライン43cの上流側と下流側の圧力差が第2設定圧P2(ただし、P2<P1)以下だと逃し弁43dは閉じベントガスを流さない。逃し弁43dには、例えば、ダイアフラム方式の弁が用いられる。
[動作]
次に、本実施形態に係るベントシステム100の動作について図1を用いて説明する。図1中、白抜き矢印はベントガスの流れの方向を、丸囲みの数字はベントガスを構成する気体のおおよその種類を示している。
炉心2が溶融するような過酷事故において、原子炉格納容器1の冷却を十分に行うことができなくなった場合、蒸気及び水素ガスの生成が継続するので、原子炉格納容器1内の圧力が異常に上昇する。原子炉格納容器1内の圧力が異常に上昇した場合、原子炉格納容器1の損傷を防ぐため、本実施形態に係るベントシステム100を用いてベント操作を行う。
まず、第1隔離弁21cを開き、ウェットウェル12の気相部14内のベントガスを第1流入ライン21aに流入させる。これにより、ウェットウェル12の気相部14の圧力が下がるため、ドライウェル11に充満する高温高圧の蒸気及び水素ガスを含む気体は、ベント管15を介してサプレッションプール13に放出された後、ウェットウェル12の気相部14へ導入される。
このとき、気体中に含まれている放射性物質の多くは、サプレッションプール13のプール水に備わるスクラビング効果により気体から除去される。しかし、非凝縮性の放射性希ガスはプール水のスクラビング効果により除去できず、凝縮しなかった蒸気及び水素ガスと共にウェットウェル12の気相部14に流入する。
ウェットウェル12の気相部14内のベントガスは、第1流入ライン21aから、解放された第1隔離弁21cと、第1継手21eと、第3流入ライン21fとを通過して、切替弁22cへと導かれる。
事故直後における切替弁22cは、第3流入ライン21fと第1放出ライン22aとを連通させる。これにより、切替弁22cへと導かれたベントガスは、第1放出ライン22aを介して第1中間容器31の第1上流空間31bに導かれる。
第1上流空間31bに導かれたベントガスは、第1希ガスフィルタ31aに導入される。第1希ガスフィルタ31aでは、蒸気と水素ガスが透過する一方、放射性希ガスのクリプトン及びキセノンの大部分が透過できずに捕集される。
第1希ガスフィルタ31aを透過した蒸気及び水素ガス等からなるベントガスは第1下流空間31cに流入する。第1下流空間31cに流入した蒸気及び水素ガス等からなるベントガスは、排気ライン23により外部へ排出される。
具体的には、第1下流空間31cに流入した蒸気及び水素ガス等からなるベントガスは、第1排気ライン23aに流入し、第1逆止弁23eと第2継手23dを通過し、第3排気ライン23cを介して排気塔50から外部へ排出される。
第1希ガスフィルタ31aにより捕集されたクリプトンとキセノン等からなるベントガスは、戻りライン40により原子炉格納容器1に戻される。
具体的には、まず、第3隔離弁41aを開放し、捕集されたクリプトンとキセノン等からなるベントガスが第1戻りライン41を流れるようにする。なお、第4隔離弁42aは、第1戻りライン41を流れるクリプトンとキセノン等からなるベントガスが第3継手44から第2戻りライン42へ逆流しないように閉鎖が維持される。
そして、捕集されたクリプトンとキセノン等からなるベントガスは、電源から電力が供給され駆動する送出ポンプ43bにより強制的に、第1戻りライン41と第3継手44と第3戻りライン43と第3逆止弁43aとを通過し、ドライウェル11内に戻される。
なお、送出ポンプ43bが電源の消失により駆動しない場合、第1希ガスフィルタ31aを透過できなかったクリプトンとキセノン等からなるベントガスが第1中間容器31の第1上流空間31bに滞留し、第1上流空間31b内のクリプトンとキセノン等からなるベントガスの分圧が徐々に上昇する。
クリプトンとキセノン等からなるベントガスの分圧が過度に上昇すると蒸気と水素ガスの分圧が下がって、第1希ガスフィルタ31aを透過する蒸気及び水素ガスの流量が低下する場合がある。
この場合、逃し弁43dにより閉じられたバイパスライン43cの上流側と下流側の圧力差Pが上昇する。そして、圧力差Pが第1設定圧P1を超えると逃し弁43dが開き、ベントガスは逃し弁43dの上流側から下流側に流れる。
これにより、第1上流空間31b内に滞留していたベントガスは、第1戻りライン41と第3継手44と第3戻りライン43とバイパスライン43cと第3逆止弁43aとを通過し、ドライウェル11内に流入する。これにより、第1上流空間31b内の圧力上昇は抑制される。
一方、圧力差Pが第2設定圧P2を下回ると逃し弁43dは閉じられ、バイパスライン43cをベントガスが流れないようにされる。
また、第1圧力計31eの測定値が急激に低下した場合、第1希ガスフィルタ31aの破損が疑われる。この場合には、直ちに切替弁22cを操作し、第3流入ライン21fとする連通する配管を第1放出ライン22aから第2放出ライン22bに切り替える。同時に、第3隔離弁41aを閉鎖しベントガスが第1戻りライン41から第1中間容器31に逆流することを防止する。また、第4隔離弁42aを開放し、ベントガスが第2中間容器32から第2戻りライン42に流れるようにする。
一方、事故後所定時間(例えば、クリプトン(88Kr)の半減期(2.8時間)より十分長い時間)経過後、第1線量計31dの測定値によりクリプトンの放射性希ガスの量を算出する。そして、クリプトンの放射性希ガスの量の減少が確認できた場合には、切替弁22cを操作し、第3流入ライン21fと連通する配管を第1放出ライン22aから第2放出ライン22bに切り替える。これにより、切替弁22cへと導かれたベントガスは、第2放出ライン22bを介して第2中間容器32の第2上流空間32bに導かれる。
なお、事故後所定時間(例えば、クリプトン(88Kr)の半減期(2.8時間)より十分長い時間)が経過し、放射線量の低下したクリプトンを外部に排出することは、被ばく防護上問題とはならない。
しかし、キセノン(133Xe)の半減期(5.27日)は、クリプトン(88Kr)の半減期(2.8時間)より長い。そのため、クリプトンが十分減衰した後でもキセノンが十分減衰する前に、キセノンを含むベントガスを外部に排出することは被ばく防護上望ましくない。
一方、酸素ガスは、原子炉格納容器内は冷却水の放射線分解によって継続的に発生している。そのため、酸素ガスが原子炉格納容器内に蓄積されないよう排出することが好ましい。しかし、酸素の分子サイズがクリプトンとほぼ同じであるため、酸素ガスを透過するフィルタはクリプトンも透過させてしまう。そのため、事故直後に酸素ガスを外部に排出させると放射線量の高いクリプトンも外部に排出され、被ばく防護上望ましくない。しかし、事故後所定時間が経過し、クリプトンの放射線量が低下すれば、酸素ガスとともにクリプトンが外部に排出されても被ばく防護上問題とならない。
そこで、本実施形態に係るベントシステム100では、事故後所定時間経過後に切替弁22cを操作することで、ベントガスに含まれる希ガスを捕集する希ガス捕集ユニット30のフィルタを第1希ガスフィルタ31aから第2希ガスフィルタ32aに切り替える。
第2上流空間32bに導かれたベントガスは、第2希ガスフィルタ32aに導入される。第2希ガスフィルタ32aでは、放射性希ガスのキセノンの大部分が透過できずに捕集される。一方、原子炉格納容器1の圧力上昇の原因である蒸気及び水素ガスに加えて、水の放射線分解で生じる酸素ガスと放射線量の低下したクリプトンとが第2希ガスフィルタ32aを透過する。
第2希ガスフィルタ32aを透過した蒸気と水素ガスと酸素ガス等からなるベントガスは第2下流空間32cに流入する。第2下流空間32cに流入した蒸気と水素ガスと酸素ガス等からなるベントガスは、排気ライン23により外部へ排出される。
具体的には、第2下流空間32cに流入した蒸気と水素ガスと酸素ガス等からなるベントガスは、第2排気ライン23bに流入し、第2逆止弁23fと第2継手23dを通過し、第3排気ライン23cを介して排気塔50から外部へ排出される。
第2希ガスフィルタ32aに捕集されたキセノン等からなるベントガスは、戻りライン40により原子炉格納容器1に戻される。具体的には、まず、第4隔離弁42aを開放し、捕集されたキセノン等からなるベントガスが第2戻りライン42を流れるようにする。なお、第3隔離弁41aは、第2戻りライン42を流れるキセノン等からなるベントガスが第3継手44から第1戻りライン41へ逆流しないように閉鎖される。
そして、捕集されたキセノン等からなるベントガスは、電源から電力が供給され駆動する送出ポンプ43bにより強制的に、第2戻りライン42と第3継手44と第3戻りライン43と第3逆止弁43aとを通過し、ドライウェル11内に戻される。
なお、送出ポンプ43bが電源の消失により駆動できない場合、第2希ガスフィルタ32aを透過できなかったキセノン等からなるベントガスが第2中間容器32の第2上流空間32bに滞留し、第2上流空間32b内のキセノン等からなるベントガスの分圧が徐々に上昇する。
キセノン等からなるベントガスの分圧が過度に上昇すると蒸気と水素ガスと酸素ガスの分圧が下がって、第2希ガスフィルタ32aを透過する蒸気と水素ガスと酸素ガス等の流量が低下する場合がある。この場合、逃し弁43dにより閉じられたバイパスライン43cの上流側と下流側の圧力差Pが上昇する。そして、圧力差Pが第1設定圧P1を超えると逃し弁43dが開き、逃し弁43dの上流側のベントガスが下流側に流れる。
これにより、第2上流空間32b内に滞留していたベントガスは、第2戻りライン42と第3継手44と第3戻りライン43とバイパスライン43cと第3逆止弁43aとを通過し、ドライウェル11内に流入する。そのため、第2上流空間32b内の圧力上昇が抑制される。
一方、圧力差Pが第2設定圧P2を下回ると逃し弁43dは閉じられ、バイパスライン43cをベントガスが流れないようにされる。
また、第2圧力計32eの値が急激に低下した場合、第2希ガスフィルタ32aの破損が疑われる。この場合には、直ちに切替弁22cを操作し、第3流入ライン21fとする連通する配管を第2放出ライン22bからに第1放出ライン22a切り替える。同時に、第4隔離弁42aを閉鎖しベントガスが第2戻りライン42から第2中間容器32の第2上流空間32b内に逆流することを防止する。また、第3隔離弁41aを開放し、ベントガスが第1中間容器31の第1上流空間31bから第1戻りライン41に流れるようにする。
また、第2線量計32dでクリプトンの放射性希ガスの量の増加が確認された場合、切替弁22cを操作し、第3流入ライン21fと連通する配管を第2放出ライン22bから第1放出ライン22aに切り替える。これにより、ベントガスは第1中間容器31の第1上流空間31bに導入され、第1希ガスフィルタ31aによりクリプトンの放射性希ガスが捕集される。
一方、ドライウェル11内の圧力が急速に異常上昇し、早急にベントガスを排出させなければ原子炉格納容器1が損傷してしまうことが想定される場合がある。また、上記のベント操作によるベントガスの排出だけではベントガスの排出が不十分でドライウェル11内の圧力上昇が継続し、このまま圧力上昇すると原子炉格納容器1が損傷してしまうことが想定される場合もある。
これらの場合には、第2隔離弁21dを開き、ドライウェル11内のベントガスを、サプレッションプール13を介することなく直接ベントライン20の第2流入ライン21bに流入させる。
なお、分子径がクリプトン(0.360nm)より大きい窒素ガス(0.378nm)は第1希ガスフィルタ31a及び第2希ガスフィルタ32aを透過しない可能性がある。
しかし、原子炉格納容器1内の圧力上昇は、継続的に生成される蒸気や水素ガスに起因する。そのため、原子炉格納容器1内のドライウェル11やウェットウェル12に窒素ガスが充満することになっても、原子炉格納容器1の圧力は上昇しない。
したがって、第1希ガスフィルタ31a及び第2希ガスフィルタ32aが、窒素ガスを透過させないことは問題とならない。
[効果]
本実施形態によるベントシステム100は、原子炉格納容器1と排気塔50とを接続し、原子炉格納容器1の内部の気体(ベントガス)を排気塔50を介して外部に排出するベントライン20と、ベントライン20上に並列に配置された第1中間容器31及び第2中間容器32と、キセノンとクリプトンを捕集し蒸気と水素ガスを透過し得る第1希ガスフィルタ31aであって、第1中間容器31内を原子炉格納容器1側の第1上流空間31bと排気塔50側の第1下流空間31cに区画する第1希ガスフィルタ31aと、キセノンを捕集し蒸気と水素ガスと酸素ガスを透過し得る第2希ガスフィルタ32aであって、第2中間容器32内を原子炉格納容器1側の第2上流空間32bと排気塔50側の第2下流空間32cに区画する第2希ガスフィルタ32aと、第1上流空間31b及び第2上流空間32bを原子炉格納容器1と接続し、第1上流空間31b及び第2上流空間32b内の気体を原子炉格納容器1に戻す戻りライン40とを備え、原子炉格納容器1からの気体に含まれるクリプトンの放射線量に応じて、原子炉格納容器1からベントライン20を流通する気体は第1上流空間31bと第2上流空間32bのいずれか一方に放出される。
具体的には、原子炉格納容器1からの気体に含まれるクリプトンの放射線量が所定値を超えるときには原子炉格納容器1からの気体がベントライン20を介して第1上流空間31bに放出され、原子炉格納容器1からの気体に含まれるクリプトンの放射線量が所定値以下のときには原子炉格納容器1からの気体がベントライン20を介して第2上流空間32bに放出される。
そのため、本実施形態によるベントシステム100は、クリプトンの放射線量が所定値を超えるときには、放射性希ガスのキセノンとクリプトンを捕集して蒸気と水素ガスを外部に排出でき、クリプトンの放射線量が所定値以下のときには、放射性希ガスのキセノンを捕集し蒸気と水素ガスと酸素ガス等を外部に排出できる。
これにより、ベント操作時に、放射性希ガスの排出を抑えつつ水蒸気と水素ガスを外部に排出できるだけでなく、酸素ガスも排出できる。
また、本実施形態によるベントシステム100においてベントライン20は、原子炉格納容器1と切替弁22cとを接続する流入ライン21と、切替弁22cと第1上流空間31bとを接続し原子炉格納容器1の内部の気体を第1上流空間31b内に放出する第1放出ライン22aと、切替弁22cと第2上流空間32bとを接続し原子炉格納容器1の内部の気体を第2上流空間32b内に放出する第2放出ライン22bとを備え、切替弁22cは第1放出ライン22a及び第2放出ライン22bのいずれか一方と流入ライン21との連通を切り替え可能である。
そのため、本実施形態によるベントシステム100は、切替弁22cにより、原子炉格納容器1からベントガスが流入する流入ライン21と連通する放出ライン22を、ベントガスを第1上流空間31b内に放出する第1放出ライン22aと、ベントガスを第2上流空間32b内に放出する第2放出ライン22bのいずれか一方に切り替えることができる。
これにより、ベント操作時に切替弁22cを操作することにより、クリプトンの放射線量が所定値を超えるときには、放射性希ガスのキセノンとクリプトンを捕集して蒸気と水素ガスを外部に排出でき、クリプトンの放射線量が所定値以下のときには、放射性希ガスのキセノンを捕集し蒸気と水素ガスと酸素ガス等を外部に排出できる。
したがって、ベント操作時に、放射性希ガスの排出を抑えつつ水蒸気と水素ガスを外部に排出できるだけでなく、酸素ガスも排出できる。
また、本実施形態によるベントシステム100において流入ライン21における上流側は、原子炉格納容器1のウェットウェル12の気相部14と連通する第1流入ライン21aと、原子炉格納容器1のドライウェル11と連通する第2流入ライン21bとに分岐しており、第1流入ライン21aと第2流入ライン21bの各々には開閉可能な隔離弁21c,21dが設けられている。
そのため、本実施形態によるベントシステム100は、ベント操作時に、第2隔離弁21dを閉じたまま第1隔離弁21cを開き、ドライウェル11のベントガスをサプレッションプール13内に導きスクラビング効果によって放射性物質の多くを除去した後に、ベントライン20に流入させることができる。
一方、緊急時には、第2隔離弁21dを開き、ドライウェル11内のベントガスを、サプレッションプール13を介することなく直接ベントライン20の第2流入ライン21bに流入させ、原子炉格納容器1内の圧力上昇をただちに抑制することもできる。
また、本実施形態によるベントシステム100において切替弁22cは、原子炉格納容器1の内部の気体のベントライン20を介した外部への排出を開始してから所定時間が経過するまで、第1放出ライン22aと流入ライン21を連通させ、原子炉格納容器1からの気体を第1上流空間31bに流し、前記所定時間経過後は、第2放出ライン22bと流入ライン21を連通させ、原子炉格納容器1からの気体を第2上流空間32bに流す。
これにより、クリプトンの放射性希ガスの量が少なくなった後に、酸素ガスとともに外部に排出されるクリプトンの放射性希ガスの量を抑制することができる。
また、本実施形態によるベントシステム100において第1希ガスフィルタ31aは、第1希ガスフィルタ31aを所定条件下(出口側を大気に開放した状態で、入り口側に一定の圧力をかけた状態)で透過するクリプトンとキセノンの体積流量が、第1希ガスフィルタ31aを同一条件下で透過する水蒸気と水素ガスの体積流量に対して10分の1以下になるように構成することが好ましい。
また、本実施形態によるベントシステム100において第2希ガスフィルタ32aは、第2希ガスフィルタ32aを所定条件下(出口側を大気に開放した状態で、入り口側に一定の圧力をかけた状態)で透過するキセノンの体積流量が、前記第2希ガスフィルタを同一条件下で透過する水蒸気と水素ガスと酸素ガスの体積流量に対して10分の1以下になるように構成することが好ましい。
第1希ガスフィルタ31aを透過する放射性希ガス(キセノンとクリプトン)の体積流量が、第1希ガスフィルタ31aを透過する蒸気と水素ガスの体積流量に対して1/10以下であれば、外部に排出される放射性希ガス(キセノンとクリプトン)による放射線量は、被ばく防護上問題とはならないと考えられる。
また、第2希ガスフィルタ32aを透過する放射性希ガス(キセノン)の体積流量が、第2希ガスフィルタ32aを透過する蒸気と水素ガスと酸素ガスの体積流量に対して1/10以下であれば、外部に排出される放射性希ガス(キセノン)による放射線量は、被ばく防護上問題とはならないと考えられる。
このようなフィルタはすでに開発されている。そのため、コストを抑制できる。
また、本実施形態によるベントシステム100は、ベントライン20における第1希ガスフィルタ31aの上流にクリプトンの放射線量を測定する線量計31dが設けられ、切替弁22cは、線量計31dの測定値が閾値より大きいときには、第1放出ライン22aと流入ライン21とを連通させ、原子炉格納容器1からの気体を第1中間容器31に流し、線量計31dの測定値が閾値以下のときには、第2放出ライン22bと流入ライン21とを連通させ、原子炉格納容器1からの気体を第2中間容器32に流す。
これにより、ベントライン20における第1希ガスフィルタ31aの上流のベントガスに含有するクリプトンの放射性希ガスの量の測定値に基づいて、原子炉格納容器1からベントガスが流入する流入ライン21と連通する放出ライン22(第1放出ライン22aと第2放出ライン22b)を選択することができる。
したがって、外部に排出される放射性希ガス(クリプトン)の量を抑制して酸素ガスを外部に排出できる。
なお、原子炉格納容器1内や流入ライン21内は、半減期の短い様々な放射性物質によるバックグラウンドが多いため、第1線量計31dは第1上流空間31b内のできるだけ原子炉格納容器1や流入ライン21から離れた位置に設置することが好ましい。
また、本実施形態によるベントシステム100は、第1上流空間31bにクリプトンの放射線量を測定する第1線量計31dが設けられ、第2上流空間32bにクリプトンの放射線量を測定する第2線量計32dが設けられ、切替弁22cは、第1線量計31dの測定値が閾値を下回ると、第2放出ライン22bと流入ライン21を連通させ、原子炉格納容器1からの気体を第2上流空間32bに流し、第2線量計32dの測定値が閾値を上回ると、第1放出ライン22aと流入ライン21を連通させ、原子炉格納容器1からの気体を第1上流空間31bに流す。
これにより、第1上流空間31b内と第2上流空間32b内のベントガスに含まれるクリプトンの放射性希ガスの量の測定値により、原子炉格納容器1からベントガスが流入する流入ライン21と連通する放出ライン22(第1放出ライン22aと第2放出ライン22b)を選択できる。
そのため、ベントガスに含まれるクリプトンの放射性希ガスの量が少なくなり、第2放出ライン22bと流入ライン21を連通させ、原子炉格納容器1からの気体を第2上流空間32bに流した後に、クリプトンの放射性希ガスの量が多くなった場合でも、第1放出ライン22aと流入ライン21を連通させ、原子炉格納容器1からの気体を第1上流空間31bに流すことができる。
したがって、外部に排出される放射性希ガス(クリプトン)の量をさらに抑制することができる。
また、本実施形態によるベントシステム100における第1希ガスフィルタ31a及び第2希ガスフィルタ32aは、セラミック膜及び高分子膜のいずれかに一方によって形成されている。
ここで、セラミック膜は強度と耐熱性に優れる。一方、高分子膜は柔軟性と延性に優れる。したがって、用途に適した材料を選択し用いることができる。
また、本実施形態によるベントシステム100おいて第1希ガスフィルタ31a及び第2希ガスフィルタ32aを形成するセラミック膜は、窒化ケイ素、酸化ケイ素または炭素を主成分とする。そのため、容易に作製できコストを抑制できる。
また、本実施形態によるベントシステム100おいて第1希ガスフィルタ31a及び第2希ガスフィルタ32aを形成する高分子膜は、ポリイミドを主成分とする。ポリイミドを主成分とした高分子膜は極性分子が透過しやすいという特性がある。
水蒸気はH-O結合間に電子的な偏りが大きく。即ち、水蒸気の水素結合は、まっすぐに分子が並んでおらず極性が大きくなっている。そのため、水蒸気は、ポリイミドを主成分とした高分子膜を積極的に透過する。しかし、希ガスは単原子分子のため極性がないため、ポリイミドを主成分とした高分子膜を透過しにくい。
したがって、ポリイミドを主成分とした高分子膜によって形成された第1希ガスフィルタ31a及び第2希ガスフィルタ32aは、気体中から希ガスを分離させ、水蒸気を透過することができる。
また、本実施形態によるベントシステム100は、戻りライン40上に設けられ第1上流空間31b内及び第2上流空間32b内の気体を原子炉格納容器1内に送出する送出ポンプ43bと、戻りライン40の送出ポンプ43bにおける上流側と下流側を接続し送出ポンプ43bを迂回するバイパスライン43cと、バイパスライン43c上に設けられ、バイパスライン43cの上流側と下流側の圧力差Pが、第1設定圧P1を超えると開き、第2設定圧P2を下回ると閉る逃し弁43dとを備えている。
そのため、送出ポンプ43bを駆動させることにより、第1中間容器31の第1上流空間31bまたは第2中間容器32の第2上流空間32bに滞留しているベントガスをドライウェル11へ強制的に送出することができる。
一方、外部電源の消失等により送出ポンプ43bが駆動しない場合でも、バイパスライン43cの上流側と下流側の圧力差Pが第1設定圧P1を超えると逃し弁43dが開き、バイパスライン43cを介して、第1中間容器31の第1上流空間31bまたは第2中間容器32の第2上流空間32bに滞留しているベントガスをドライウェル11へ流すことができる。これにより、第1上流空間31b内と第2上流空間32b内の放射性希ガスの分圧の上昇を抑制し、蒸気及び水素ガス等の透過流量の低下を抑制できる。
(第2の実施形態)
図2は、本発明の第2の実施形態による原子炉格納容器ベントシステム200の構成と当該システムを用いる原子炉格納容器1の構成とを示した模式図である。
本実施形態に係る原子炉格納容器ベントシステム200が第1実施形態に係る原子炉格納容器ベントシステム100と異なる点は、第3流入ライン21f上にフィルタベント装置60を備える点である。
フィルタベント装置60は、エアロゾル状の放射性物質、及び、放射性ヨウ素を含むガス状の放射性物質を捕集するための装置で、第3流入ライン21fの下流側ライン21faと上流側ライン21fbとに連通される。
具体的には、フィルタベント装置60は、エアロゾル状の放射性物質を捕集するスクラビング水61と、スクラビング水61を貯留したフィルタベント容器62と、金属フィルタ63と、ヨウ素フィルタ64とを備えている。
金属フィルタ63は、スクラビング水61では捕集しきれなかったエアロゾル状の放射性物質を捕集するフィルタで、フィルタベント容器62内におけるスクラビング水61の上部に形成された気相部62a内に配置され、上流側ライン21fbの端部に取り付けられている。
ヨウ素フィルタ64は、化学反応や吸着作用によってガス状の放射性物質を捕集するフィルタで、フィルタベント容器62の外部に配置されている。
フィルタベント容器62(金属フィルタ63を含む)と、ヨウ素フィルタ64とは、遮蔽壁65によって覆われている。遮蔽壁65は、スクラビング水61、金属フィルタ63、ヨウ素フィルタ64に蓄積した放射性物質による放射線の周辺環境への影響を軽減するための構造物である。
第3流入ライン21fの下流側ライン21faの端部21fcは、遮蔽壁65を貫通してフィルタベント容器62内のスクラビング水61中に開口している。第3流入ライン21fの上流側ライン21fbは、金属フィルタ63が取り付けられた端部から、遮蔽壁65を貫通して遮蔽壁65外へ延びて、切替弁22cに接続している。
[効果]
本実施形態に係る原子炉格納容器ベントシステム200は、フィルタベント装置60により、第1希ガスフィルタ31aと第2希ガスフィルタ32a汚染する物質が取り除かれるため、第1希ガスフィルタ31aと第2希ガスフィルタ32aの透過性能や寿命の向上が期待できる。
(第3の実施形態)
図3は、本発明の第3の実施形態による原子炉格納容器ベントシステム300の構成と当該システムを用いる原子炉格納容器1の構成とを示した模式図である。
本実施形態に係る原子炉格納容器ベントシステム300が第1実施形態に係る原子炉格納容器ベントシステム100と異なる点は、第1中間容器31内の第1下流空間31cを第1上流空間31b側と排気塔50側に区画する第2希ガスフィルタ32aが設けられている点である。
[効果]
上記のとおり第1の実施形態に係るベントシステム100(図1参照)は、第1圧力計31eの測定値の急激な低下により第1希ガスフィルタ31aの破損を検出し、第1希ガスフィルタ31aの破損を検出した場合、切替弁22cを操作し、第3流入ライン21fとする連通する配管を第1放出ライン22aから第2放出ライン22bに切り替え、ベントガスの透過するフィルタを第1希ガスフィルタ31aから第2希ガスフィルタ32aへと切り替える。
しかし、切り替え操作をしている間、破損した第1希ガスフィルタ31aをキセノンが通過して外部に排出されてしまう。また、第1希ガスフィルタ31aに微小な破損が生じ、第1圧力計31eの測定値により第1希ガスフィルタ31aの破損を検出できない場合も、破損した第1希ガスフィルタ31aをキセノンが通過して外部に排出されてしまう。
そこで、本実施形態に係る原子炉格納容器ベントシステム300は、第1中間容器31内の第1下流空間31cを第1上流空間31b側と排気塔50側とに区画する第2希ガスフィルタ32aを更に設け、万が一、第1希ガスフィルタ31aが破損した場合でも、第2希ガスフィルタ32aによりキセノンの外部への放出を抑制する。
(第4の実施形態)
図4は、本発明の第4の実施形態による原子炉格納容器ベントシステム400の構成と当該システムを用いる原子炉格納容器1の構成とを示した模式図である。
本実施形態に係る原子炉格納容器ベントシステム400が第1実施形態に係る原子炉格納容器ベントシステム100と異なる点は、第3流入ライン21fに冷却器70が設けられている点である。
図5は、本発明の第4の実施形態による原子炉格納容器ベントシステム400の冷却器70の構造を示した模式図である。
冷却器70は、第3流入ライン21fを通過するベントガスを、電源などの外部動力を用いずに冷却する部品で、例えば、自然対流により流れる空気や水を用いてベントガスが流れる配管を冷却する部品である。
具体的には、冷却器70は、図5に示すように、第3流入ライン21fにおいて上下方向に延在する縦配管21fdの外周を、所定の間隔をあけて囲う筒状のカバー71を備えている。
縦配管21fdとカバー71との間には空気が流通可能な環状の冷却流路Pが形成される。また、縦配管21fdの下部には、冷却器70による凝縮水Wを回収するための回収ライン72が設けられている。
[作用]
次に、実施形態に係る原子炉格納容器ベントシステム400における冷却器の作用を図4及び図5を用いて説明する。なお、図4、5の中の、白抜き矢印はベントガスの流れの方向を、丸囲みの数字はベントガスを構成する気体のおおよその種類を示している。また、図5の中の矢印Cは空気の流れの方向を示している。
図4に示すように、高温の蒸気を含むベントガスはベントライン20の第3流入ライン21fを流れる。このとき、図5に示すように、冷却流路Pにある空気は、ベントガスの蒸気により熱せられた縦配管21fdにより温められ、カバー71を煙突とする煙突効果により、冷却流路Pの下部の冷たい空気を冷却流路Pに引き入れながら上昇する。
これにより、縦配管21fdは冷却され、ベントガスを冷却することができる。なお、カバー71をより長くすることにより煙突効果は高まり、冷却性能を向上させることができる。
冷却流路Pを流れる上昇気流の空気Cによって、縦配管21fdを流れる蒸気を含むベントガスは冷却される。このとき、ベントガスの温度が蒸気の露点以下にまで降下した場合、ベントガス中に含まれている蒸気が凝縮する。
蒸気の凝縮により生じた凝縮水Wは、自重によって縦配管21fdの下方の回収ライン72に流下する。なお、凝縮水Wは図示しない箇所の回収ライン72により、サプレッションプール13や復水貯蔵タンク(図示せず)等へ回収される。
このように本実施形態に係る原子炉格納容器ベントシステム400では、冷却器70によりベントガス中の蒸気が凝縮するので、冷却器70を通過したベントガスは、主に、水素ガスや酸素ガス、窒素ガス、放射性希ガスなどの非凝縮性ガスで占められている。したがって、中間容器31、32には、冷却された非凝縮性ガスが流入する。
[効果]
第1希ガスフィルタ31a及び第2希ガスフィルタ32aは種類によって耐熱性能が異なり、中間容器31、32に流入するベントガスが高温だと寿命が低下するものがある。
そこで、本実施形態に係る原子炉格納容器ベントシステム400は、第3流入ライン21fに冷却器70を設け、ベントガスを第1希ガスフィルタ31aと第2希ガスフィルタ32aに導入される前に冷却する。
これにより、第1希ガスフィルタ31aと第2希ガスフィルタ32aの寿命の低下を抑制することができる。
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上述した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
なお、本発明の実施形態は、以下の態様でもよい。即ち、第1希ガスフィルタ31aは、蒸気と水素ガスが透過する一方、放射性希ガスのクリプトン及びキセノンの大部分が透過せず、捕集できるフィルタであれば、どのようなフィルタでもよい。
また、第2希ガスフィルタ32aは、蒸気と水素ガスと酸素ガスが透過する一方、放射性希ガスのキセノンの大部分が透過せず、捕集できるフィルタであれば、どのようなフィルタでもよい。