JP2019049189A - 木舞構造および塗壁 - Google Patents

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Abstract

【課題】気候や環境の変化による劣化、および地震等の外的衝撃に対する優れた耐性を有するばかりでなく、従来、土塗壁等に用いられている材料に適応させることができる木舞構造およびそれを備えた塗壁を提供する。【解決手段】長繊維の強化繊維が束ねられてなる強化繊維束と固化材からなる繊維強化複合材料20を有する木舞構造10。【選択図】図1

Description

本発明は、木舞構造および塗壁に関する。
従来の建築工法、例えば、塗壁工法は、塗壁の内部に設けられた木舞構造が強度を担っている。木舞構造の主材料としては、竹が用いられている。なお、木舞は、小舞とも記載される。
近年、文化財等の歴史的建築物の保護にあたり、高い耐久性が求められている。しかしながら、現代工法では、土塗壁に替わって、下地であるラス網にモルタルを塗布した塗壁が主流となっている。モルタルは、材質や、文化財の景観保存という観点から、塗壁の材料としては不適格である。また、ラス網は、塗壁が吸収する湿気等の水分を吸収して、錆を発生する可能性がある。さらに、従来の塗壁工法で用いられている竹は、塗壁が吸収する湿気等の水分を吸収して、腐敗する可能性がある。ラス網に錆が発生したり、竹が腐敗したりすると、ラス網や竹の強度が低下するため、塗壁の内部構造の強度が著しく低下するという課題がある。また、塗壁は、ラス網や竹の上に、土やモルタルが塗られた構造を有していることから、内部構造の異常を発見することが難しいという課題がある。
このような課題を解決する方法として、例えば、塗壁の内部構造に、炭素繊維ロープを用いる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この方法は、ラス網の耐衝撃性を補強することを目的とした方法である。この方法は、塗壁自体の強度を主要材料であるラス網に依存している。この方法は、塗壁の表層をモルタルで形成するため、歴史的建築物への使用に適していない。
また、塗壁の1種である土塗壁を、現代建築に利用する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、この方法では、塗壁用下地構造の腐食等に対する耐性が改善されていない。
文化財等の保護では、文化財等を良好な状態で保存することを目的としている。そのため、保存状態に応じて、文化財等の補修工事が行われる。文化財等の補修工事では、できる限り長い期間に渡り形状や性能を維持することができる材料を用いることにより、補修回数を少なくすることが望まれている。従って、錆を発生する可能性があるラス網や、腐敗する可能性がある竹は、補修回数を少なくするという観点においても好ましくない。
以上のことから、従来の建築工法に適用しても、建築物の外観を損ねることなく、かつ強度や保存状態を長期間維持することができる木舞構造用の材料が求められている。
特開2017−40045号公報 特開2003−97010号公報
塗壁の下地となるラス網や竹は、塗壁が設けられている場所の気候や環境の変化によって、錆が発生したり、腐敗したりすると考えられる。また、このようにラス網や竹が劣化すると、地震等による外的衝撃に対する耐性が劣化するばかりでなく、塗壁の外観を損ねることがある。さらに、塗壁の補修回数が多くなる。また、下地としてラス網を用いた場合には、塗壁の表層を土で形成することができないため、歴史的建築物に提供することができない。
本発明は、このような従来の事情に鑑みて提案されたものであり、気候や環境の変化による劣化、および地震等による外的衝撃に対する優れた耐性を有するばかりでなく、従来、塗壁に用いられている土等の材料に適応させることができる木舞構造およびそれを備えた塗壁を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を有する。
[1]長繊維の強化繊維が束ねられてなる強化繊維束と固化材からなる繊維強化複合材料を有する木舞構造。
[2]前記繊維強化複合材料は、前記強化繊維束を含む強化繊維線材が複数本撚り合わされた、ストランド構造体である前記[1]に記載の木舞構造。
[3]前記強化繊維線材は、前記強化繊維束が、繊維によって組織された外層に覆われてなる前記[2]に記載の木舞構造。
[4]前記繊維強化複合材料が複数本格子状に配置され、該格子状をなす繊維強化複合材料に、前記強化繊維束を含む木舞縄が巻き付けられた前記[1]〜前記[3]のいずれかに記載の木舞構造。
[5]前記固化材は、熱可塑性樹脂である前記[1]〜前記[4]いずれかに記載の木舞構造。
[6]前記熱可塑性樹脂は、熱可塑性エポキシ樹脂である前記[5]に記載の木舞構造。
[7]前記[1]〜前記[6]のいずれかに記載の木舞構造を備えた塗壁。
[8]壁倍率が2.0以上である[7]に記載の塗壁。
本発明によれば、気候や環境の変化による劣化、および地震等による外的衝撃に対する優れた耐性を有するばかりでなく、従来、塗壁に用いられている土等の材料に適応させることができる木舞構造およびそれを備えた塗壁を提供することができる。
本発明の一実施形態の木舞構造の一例の概略構成を示す正面図である。 本発明の一実施形態の木舞構造の他の例の概略構成を示す正面図である。 本発明の一実施形態の木舞構造における繊維強化複合材料の概略構成を示す斜視図である。 本発明の一実施形態の木舞構造における強化繊維線材の概略構成を示し、(a)は平面図、(b)は断面図である。 枠組壁工法の試験方法評価方法で提案されている塗壁(土塗壁)の終局耐力等を算出する手順を示す図である。
本発明の木舞構造および塗壁の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
[木舞構造]
本実施形態の木舞構造は、長繊維の強化繊維が束ねられてなる強化繊維束と固化材からなる繊維強化複合材料を有する。
以下、図面を参照して、本実施形態の木舞構造を具体的に説明する。
図1は、本実施形態の木舞構造の一例の概略構成を示す正面図である。図2は、本実施形態の木舞構造の他の例の概略構成を示す正面図である。
図1に示すように、本実施形態の木舞構造10は、長繊維の強化繊維が束ねられてなる繊維強化複合材料20を有する。具体的には、本実施形態の木舞構造10は、2本の縦柱部110,110と2本の横柱部120,120を組み合わせてなり、平面視長方形状の枠状の部材(以下、「枠材」という。)100の内側の領域に、格子状に配置された複数本の繊維強化複合材料20を有する。
なお、枠材100の横方向、すなわち、2本の縦柱部110,110の間には、縦柱部110の長手方向に対して垂直に横木(貫ともいう)130が固定されている。
より詳細には、間隔を置いて配置された2本の縦柱部110,110の間に、複数本の繊維強化複合材料20A(枠材100の横方向に配置される繊維強化複合材料20)が並列かつ縦柱部110の長手方向に対して垂直に配置されている。また、間隔を置いて配置された2本の横柱部120,120の間に、複数本の繊維強化複合材料20B(枠材100の縦方向に配置される繊維強化複合材料20)が並列かつ横柱部120の長手方向に対して垂直に配置されている。枠材100の内側の領域にて、これら繊維強化複合材料20Aと繊維強化複合材料20Bが垂直に交わることにより、繊維強化複合材料20が格子を形成している。
なお、縦柱部110と横柱部120は、建築物における塗壁が形成される部分(建築物の柱)の一部である。また、本実施形態の木舞構造10を、枠材100に相当する枠組みの内側の領域に設けて、その木舞構造10が設けられた枠組みを建物に嵌め込んでもよい。
複数本の繊維強化複合材料20A,20Bを配置する間隔は、2cm〜20cmであることが好ましく、4cm〜15cmであることがより好ましい。複数本の繊維強化複合材料20A,20Bを配置する間隔が、前記の下限値以上であれば、繊維強化複合材料20A,20Bに、後述する木舞縄を巻き付け、その木舞縄によって、繊維強化複合材料20Aと繊維強化複合材料20Bを結び付けて、これらを固定することができる。一方、複数本の繊維強化複合材料20A,20Bを配置する間隔が、前記の上限値以下であれば、木舞構造10の強度保持性能が充分となる。
繊維強化複合材料20Aの両端部は、数本に1本の頻度で、縦柱部110に嵌合され、固定されている。繊維強化複合材料20Aの両端部を、縦柱部110に嵌合し、固定する頻度は、2本に1本の頻度から8本に1本の頻度であることが好ましく、3本に1本の頻度から6本に1本の頻度であることがより好ましい。これにより、縦柱部110に対する繊維強化複合材料20Aの位置を固定することができるとともに、繊維強化複合材料20Aの強度を保持することができる。繊維強化複合材料20Aの両端部を、縦柱部110に嵌合し、固定する頻度が、上記の下限以上であれば、木舞構造10の強度保持性能が充分となる。一方、繊維強化複合材料20Aの両端部を、縦柱部110に嵌合し、固定する頻度が、上記の上限以下であれば、木舞構造10の生産性と保持強度のバランスを保つことができる。縦柱部110に嵌合された繊維強化複合材料20Aの両端部は、塗壁材料で縦柱部110に固定されてもよく、接着剤で縦柱部110に固定されてもよい。
また、繊維強化複合材料20Aのうち、両端部が縦柱部110に嵌合されず、かつ固定されないものは、後述する木舞縄140により、繊維強化複合材料20Bに結び付けられていることが好ましい。木舞縄140によって、繊維強化複合材料20Aのうち両端部が縦柱部110に固定されていないものと結び付けられる、繊維強化複合材料20Bは、その両端部が横柱部120に固定されていてもよく、固定されていなくてもよい。繊維強化複合材料20Aのうち両端部が縦柱部110に固定されていないものを強固に固定するためには、繊維強化複合材料20Bは、その両端部が横柱部120に固定されているものであることが好ましい。
繊維強化複合材料20Bの両端部は、数本に1本の頻度で、横柱部120に嵌合され、固定されている。繊維強化複合材料20Bの両端部を、横柱部120に嵌合し、固定する頻度は、2本に1本の頻度から8本に1本の頻度であることが好ましく、3本に1本の頻度から6本に1本の頻度であることがより好ましい。これにより、横柱部120に対する繊維強化複合材料20Bの位置を固定することができるとともに、繊維強化複合材料20Bの強度を保持することができる。繊維強化複合材料20Bの両端部を、横柱部120に嵌合し、固定する頻度が、上記の下限以上であれば、木舞構造10の強度保持性能が充分となる。一方、繊維強化複合材料20Bの両端部を、横柱部120に嵌合し、固定する頻度が、上記の上限以下であれば、木舞構造10の生産性と保持強度のバランスを保つことができる。横柱部120に嵌合された繊維強化複合材料20Bの両端部は、塗壁材料で横柱部120に固定されてもよく、接着剤で横柱部120に固定されてもよい。
また、繊維強化複合材料20Bのうち、両端部が横柱部120に嵌合されず、かつ固定されないものは、後述する木舞縄140により、繊維強化複合材料20Aに結び付けられていることが好ましい。木舞縄140によって、繊維強化複合材料20Bのうち両端部が横柱部120に固定されていないものと結び付けられ、繊維強化複合材料20Aは、その両端部が縦柱部110に固定されていてもよく、固定されていなくてもよい。繊維強化複合材料20Bのうち両端部が横柱部120に固定されていないものを強固に固定するためには、繊維強化複合材料20Aは、その両端部が縦柱部110に固定されているものであることが好ましい。
縦柱部110に繊維強化複合材料20Aを接着するためと、横柱部120に繊維強化複合材料20Bを接着するために用いられる接着剤としては、特に限定されず、一般的な木材接着用の接着剤が挙げられる。
また、本実施形態の木舞構造10は、図2に示すように、格子状に配置された繊維強化複合材料20A,20Bに、強化繊維束を含む木舞縄140が巻き付けられていることが好ましい。
木舞縄140を、繊維強化複合材料20Aと繊維強化複合材料20Bの交差部分に巻き付けて、その木舞縄140によって、繊維強化複合材料20Aと繊維強化複合材料20Bを結び付けることにより、繊維強化複合材料20Aと繊維強化複合材料20Bを固定し、繊維強化複合材料20A,20Bからなる格子を安定に形成することができる。
木舞縄140の巻き付け方法としては、特に限定されず、例えば、千鳥掛け、螺旋巻き等が挙げられる。木舞縄140の巻き付け方法は、いずれの方法を用いてもよい。
「繊維強化複合材料」
図3は、本実施形態の木舞構造10における繊維強化複合材料の概略構成を示す斜視図である。図4は、本実施形態の木舞構造10における強化繊維線材の概略構成を示し、(a)は平面図、(b)は断面図である。
本実施形態の木舞構造10における繊維強化複合材料20は、図3に示すように、長繊維の強化繊維が束ねられてなる強化繊維束を含む強化繊維線材が複数本撚り合わされた、ストランド構造を有するストランド構造体であることが好ましい。
繊維強化複合材料20は、図3に示すように、複数本の強化繊維線材30が束ねられ、かつ撚られてなるものである。
強化繊維線材30は、図4に示すように、長繊維の強化繊維31が束ねられてなる芯線32と、芯線32を被覆する外層33と、芯線32および外層33に含浸された固化材34とを備える。
繊維強化複合材料20を構成する強化繊維線材30の本数は、1本以上であれば特に限定されず、本実施形態の木舞構造10の目的とする性能等に応じて適宜決定される。強化繊維線材30の本数は、通常、2本〜40本であり、7本〜37本であることが好ましい。
芯線32の外周には、芯線32がバラバラにならないように、芯線32の外周に繊維によって組織された外層33が設けられている。また、外層33に含浸された固化材34が芯線32を形成する強化繊維31の間、すなわち、芯線32の内部まで浸透していることが好ましい。これにより、強化繊維線材30では、固化材34によって、芯線32をなす強化繊維束と外層33を構成する繊維が接着結合し一体化していることが好ましい。芯線32と外層33を構成する繊維が一体化することにより、強化繊維線材30の強度がより向上する。
芯線32は、複数本(通常、数千本から数万本)の強化繊維31が束ねられた強化繊維束からなり、断面が円形状または扁平状の糸状体である。
強化繊維31としては、スーパー繊維とも称される繊維が用いられる。このような繊維としては、例えば、炭素繊維、バサルト繊維、パラ系アラミド繊維、メタ系アラミド繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、ポリアリレート繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール(PBO)繊維、ポリフェニレンサルファイド(PPS)繊維、ポリイミド繊維、フッ素繊維、ポリビニルアルコール(PVA繊維)等が挙げられる。強化繊維束では、上記の繊維を1種類で用いてもよく、2種類以上を混繊して用いてもよい。また、強化繊維束では、上記の繊維と、上記以外の有機繊維および無機繊維の少なくとも一方とを、その強度や曲げ性が損なわれない範囲で混繊して用いてもよい。
炭素繊維としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系の炭素繊維や、ピッチ系の炭素繊維が用いられる。炭素繊維を含む成形品の強度と弾性率のバランスの観点から、PAN系炭素繊維を用いることが好ましい。
炭素繊維が束ねられてなる炭素繊維束(芯線32)としては、炭素繊維メーカーから供給される炭素繊維6000本(6K)、12000本(12K)、24000本(24K)等を、得られる塗壁において必要とされる強度に応じて、1本、または複数本束ねたものが用いられる。
芯線32は所定の回数の撚りがかけられた状態で外層33と共に固化材34により固化されている。芯線32の撚り数は、得られる強化繊維線材30の曲げ応力に対する耐性、強化繊維31のバラケ防止性、強化繊維31の撚りに対する強度(撚りにより強化繊維が切れない)や、後述する固化材を付与する前の外層で被覆された状態のときに外層の間から強化繊維束が飛び出す(目むき)ことがないようにすることを考慮して決定される。芯線32の撚り数は、2回/m〜50回/mであることが好ましく、5回/m〜40回/mであることがより好ましく、10回/m〜30回/mであることがさらに好ましい。芯線32の撚り方向は、特に限定されず、S(右)撚りであってもよく、Z(左)撚りであってもよい。
なお、強化繊維束は、強化繊維束を構成する強化繊維31が纏まりやすいように、強化繊維31にサイジング剤や集束剤を含浸させて、強化繊維31を束ねたものであってもよい。
サイジング剤や集束剤としては、後述する固化材と親和性の高いものを用いることが好ましい。
複数本の強化繊維31を一方向に配列させることで得られる芯線32は、強化繊維31の単繊維を1000本以上束ねたものであることが好ましく、1万本以上束ねたものであることがより好ましい。
強化繊維31の単繊維の本数の上限は、特に限定されない。強化繊維31の束が開繊されていないものの場合には、強化繊維31の単繊維の本数の上限は、50万本程度である。なお、強化繊維31の束を開繊して用いる場合には、強化繊維31の単繊維の本数はさらに多くてもよい。
外層33は、筒状の構造を有する。筒状の構造としては、例えば、繊維を編み上げた丸編み構造や、繊維を筒状に組み上げた組紐構造等が挙げられる。外層33としての硬さ、強度、形態安定性等の観点から、外層33は組紐構造であることが好ましい。外層33を組紐構造とすることにより、芯線32をなす強化繊維束の表面を目視にて確認できない程度にまで被覆できる。これにより、外層33は、強化繊維束を結束するとともに、外層33の内部の強化繊維束を構成する強化繊維31を保護する保護層としても機能する。また、別途、繊維強化複合材料20に保護層を設ける必要がないため、繊維強化複合材料20をより細くすることができ、製造コストを削減することができ、さらに繊維強化複合材料20の表面の凹凸が大きく(ストランド構造であればより大きく)、得られる塗壁の強度が高くなる。
組紐構造としては、丸打構造、角打構造、平打構造が挙げられるが、形状と安定性の観点から、丸打構造とすることが好ましい。また、打ち数としては、金剛打、8打、16打、24打等が挙げられるが、目的とする強化繊維線材30の太さ、幅に応じて、適宜好ましい打ち数を選択すればよい。
外層33に用いられる繊維としては、柔軟なものが好ましい。このような繊維としては、例えば、ポリアミド(ナイロン等)、ビニロン、ポリアクリル、ポリプロピレン、塩化ビニル、アラミド、セルロース、ポリアミド、ポリエステル、ポリアセタール等からなる合成繊維や、レーヨン等の再生繊維、アセテート等の半合成繊維、絹、羊毛、麻、綿等の天然繊維等が挙げられる。
また、外層33に用いられる繊維としては、固化材34の耐熱性や固化の状態にもよるが、強化繊維線材30の製造工程あるいは使用環境において熱が加わる場合には、熱安定性に優れる繊維が好ましい。熱安定性に優れる繊維としては、ポリエステル繊維、ガラス繊維、炭素繊維、バサルト繊維が好ましく、ガラス繊維がより好ましい。熱安定性に優れる繊維を用いることにより、熱が加わったときに、芯線32と外層33とのずれの発生を抑制し、繊維強化複合材料20は安定した引張強さを発現することができる。
外層33に用いられる繊維は、撚りがかかっていてもよく、撚りがかかっていなくてもよい。
外層33を有する芯線32は、固化材34が塗布されることにより、芯線32と外層33が接着して一体化した強化繊維線材30となってより強度が向上する。強度の観点から、塗布される固化材34は強化繊維線材30の内部まで含浸し、外層33を構成する繊維と、強化繊維線材30の内部の強化繊維束とが、さらには強化繊維束の内部に存在する強化繊維の単繊維もが接着結合し一体化していることが好ましい。
固化材34は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれも用いることができるが、熱可塑性樹脂であることが好ましい。
熱可塑性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリブチレンテレフタレート、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、芳香族ポリエステル、6−ナイロン、6,6−ナイロン等が挙げられる。熱可塑性樹脂は、硬化した後も熱可塑性を有するものである。これらの熱可塑性樹脂は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を配合して用いてもよい。
このような熱可塑性樹脂を用いて得られた繊維強化複合材料20は、成形後も加熱することにより容易に変形させることができ、また、リサイクルも容易である。
熱可塑性樹脂としては、後反応型の熱可塑性樹脂が好ましい。後反応型の熱可塑性樹脂とは、架橋剤や触媒、重合開始剤、重合促進剤等の添加剤を添加したり、加熱したりすることにより、反応が開始または反応が促進等されて硬化する反応型樹脂であり、硬化した後も熱可塑性を有するものである。
後反応型の熱可塑性樹脂は、外層33で覆われた強化繊維束に付与し、強化繊維束の内部まで含浸させた後に、反応させて硬化させるため、破壊靱性、曲げ強度、耐衝撃性等の強度向上や、強度や成形性等の各種性能の安定性の観点から好ましい。
破壊靱性、曲げ強度、耐衝撃性等の強度、耐酸、耐アルカリ等に対する耐薬品性も含めた耐久性の観点から、後反応型の熱可塑性樹脂としては、後反応型の熱可塑性エポキシ樹脂が特に好ましい。また、強化繊維として炭素繊維を用いる場合には、炭素繊維との親和性の観点からも後反応型の熱可塑性エポキシ樹脂が好ましく、繊維強化複合材料20を有する木舞構造10の強度およびその耐久性、安定性がより向上する。
また、生産性の観点からは、160℃程度で反応を完結できる6,6−ナイロンが好ましい。
後反応型の熱可塑性樹脂は、硬化剤で硬化させる前は、常温で液状、または、溶剤に溶解または分散させることができる。そのため、加熱溶融させて使用する未反応型の熱可塑性樹脂に比べ、反応前の熱可塑性樹脂の分子量を小さいものとして流動性を高め、反応後に高分子化させ、例えば、数平均分子量で1万以上ないし3万以上と高分子化することや、架橋の状態も調整することが可能であり、強化繊維束の内部まで熱可塑性樹脂を含浸させることができる。従って、強化繊維束の内部まで熱可塑性樹脂を存在させることができるため、強化繊維束と熱可塑性樹脂が充分に絡み合う(接触し合う)。さらに、繊維強化複合材料20は、優れた強度を有し、また、ばらつきを抑制した安定した強度を有するものとなる。また、繊維強化複合材料20は、可撓性、熱変形性の調整も可能である。
熱可塑性樹脂のガラス転移点は、80℃〜200℃であることが好ましい。
繊維強化複合材料20の熱安定性の観点からは、熱可塑性樹脂のガラス転移点は95℃以上であることがより好ましい。また、繊維強化複合材料20の成形性の観点からは、熱可塑性樹脂のガラス転移点は170℃以下であることがより好ましく、150℃以下であることがさらに好ましい。
なお、熱可塑性樹脂のガラス転移点は、硬化後の熱可塑性樹脂を用いて、示差走査熱量測定法(DSC)にて測定したものである。
繊維強化複合材料20における強化繊維の含有率、すなわち、繊維体積含有率(Vf値)は20%〜80%であることが好ましく、30%〜70%であることがより好ましく、40%〜60%であることがさらに好ましい。
繊維強化複合材料20における繊維体積含有率が下限値以上であれば、繊維強化複合材料20は充分な機械的強度(引張強さ)を確保することができる。一方、繊維強化複合材料20における繊維体積含有率が上限値以下であれば、繊維強化複合材料20を安定に製造することができる。また、繊維強化複合材料20内部の強化繊維束が切断されたりすることがなく、強化繊維束本来の機械的強度を保持することができる。
繊維強化複合材料20における繊維体積含有率(Vf値)は、下記の式(1)によって算出することができる。
Vf値(%)=(W−ρ3×V)/[(ρ2−ρ3)×V]×100・・・(1)
上記の式(1)において、Wは繊維強化複合材料20の質量(g)、Vは繊維強化複合材料20の体積(cm)、ρ2は強化繊維の密度(g/cm)、ρ3は繊維強化複合材料20に用いられる樹脂の密度(g/cm)を表す。
繊維強化複合材料20の引張強さ、すなわち、繊維強化複合材料20の長手方向における引張強さ(耐力や破断荷重とも言われる。)は、1kN〜220kNであることが好ましく、5kN〜200kNであることがより好ましい。繊維強化複合材料20の引張強さが1kN以上であれば、木舞構造10が充分な機械的強度を有する。一方、繊維強化複合材料20の引張強さが220kN以下であれば、繊維強化複合材料20の生産性と強度のバランスを保つことができる。
繊維強化複合材料20の引張強さは、インストロンジャパンカンパニリミテッドから供給されている万能材料試験機250kN容量(インストロン5985型)を使用し、2mm/minの条件で測定する(測定環境は室温(約25℃))。試料が破断したときの荷重(kN)を引張強さとする。
繊維強化複合材料20を形成する方法としては、例えば、必要な本数の強化繊維線材30を束ねて、束ねられた強化繊維線材30全体に撚りをかける方法、芯となる強化繊維線材30を、一本または複数本の他の強化繊維線材30で取り囲む構造となるように、芯となる強化繊維線材30と他の強化繊維線材30を撚り合わせる方法等が挙げられる。
繊維強化複合材料20の撚り数は、1回/m〜50回/mであることが好ましい。
なお、上記実施形態においては、強化繊維線材30が芯線32の外周に外層33を有するものである場合を例示したが、強化繊維線材30は外層33を有さないものであってもよい。
「木舞縄」
本実施形態の木舞構造10における木舞縄140は、長繊維の強化繊維束からなる芯線と、その芯線を被覆してなる外層とを備える。木舞縄140の外層は、筒状の構造を有する。筒状の構造としては、例えば、繊維を編み上げた丸編み構造や、繊維を筒状に組み上げた組紐構造が挙げられ、外層33と同様、組紐構造であることが好ましい。
木舞縄140を構成する外層に用いられる繊維としては、柔軟なものが好ましい。このような繊維としては、例えば、ポリアミド(ナイロン等)、ビニロン、ポリアクリル、ポリプロピレン、塩化ビニル、アラミド、セルロース、ポリエステル、ポリアセタール等からなる合成繊維や、レーヨン等の再生繊維、アセテート等の半合成繊維、絹、羊毛、麻、綿等の天然繊維等が挙げられる。これらのなかでも、木舞縄140を構成する外層に用いられる繊維としては、熱安定性に優れることからポリエステル繊維が好ましい。
なお、木舞縄140は、上記の芯線と、その芯線を被覆してなる外層とを備えるものに限定されず、目的とする塗壁の物性や使用環境等に応じ、上記の素材、構造等に制限されることなく任意に選択すればよい。
本実施形態の木舞構造10は、長繊維の強化繊維が束ねられてなる強化繊維束と固化材からなる繊維強化複合材料20を有する。そのため、本実施形態の木舞構造10は、気候や環境の変化による劣化、および地震等の外的衝撃に対する優れた耐性を有する。また、本実施形態の木舞構造10は、土塗壁等の伝統的な塗壁に適用することができる上に、従来の塗壁工法によって外観を損なうことなく塗壁を形成することができる上に、塗壁の強度を向上させることができる。加えて、本実施形態の木舞構造10は、従来の塗壁工法で用いられている竹等の天然素材のように腐敗しない上に、ラス網のように錆が発生することもないため、従来、土塗壁等に用いられている材料を用いて塗壁の表層を形成することができる上に、内部構造の劣化による塗壁の強度低下を防ぐことができる。さらに、本実施形態の木舞構造10は、塗壁の取り換え回数を大幅に減らして、塗壁のメンテナンス性を高めることもできる。
[木舞構造の製造方法]
次に、本実施形態の木舞構造の製造方法について説明する。なお、本実施形態の木舞構造の製造方法は、以下の方法に限定されるものではない。
「繊維強化複合材料の製造方法」
長繊維の強化繊維を束ねて、強化繊維束を形成する。
次いで、強化繊維束に、繊維を巻き回し、筒状の組紐構造を作ることで、組紐構造体を得る。または、強化繊維束の外周に沿って、繊維を編み上げて、筒状の組紐構造を作ることで、組紐構造体を得る。得られた組紐構造体は、強化繊維束からなる芯線が、外層で被覆されたものである。
強化繊維や、外層を構成する繊維は、上述の本実施形態の木舞構造における繊維強化複合材料と同様のものが用いられる。
また、組紐構造としては、上述の本実施形態の木舞構造における繊維強化複合材料と同様の構造が挙げられる。
次いで、組紐構造体に固化材を付与する。具体的には、熱可塑性樹脂溶液を用いて、組紐構造体を構成する強化繊維束に、熱可塑性樹脂を含浸させるか、または、熱硬化性樹脂溶液を用いて、組紐構造体を構成する強化繊維束に、熱硬化性樹脂を含浸させる。
熱可塑性樹脂溶液は、後反応型の熱可塑性樹脂と、その熱可塑性樹脂を溶解または分散するための溶媒と、硬化剤と、を少なくとも含む。なお、本実施形態における熱可塑性樹脂溶液は、溶媒に溶質が完全に溶解した溶液に限定されず、エマルジョンやディスパージョンであってもよい。
熱可塑性樹脂溶液に含まれる溶媒としては、例えば、水、ジメチルホルムアミド、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、メチルセロソルブ、セロソルブ、アノン等が挙げられる。
熱可塑性樹脂溶液に含まれる硬化剤としては、例えば、脂肪族ポリアミン、ポリアミノアミド、ケチミン、脂肪族ジアミン、芳香族ジアミン、イミダゾール、3級アミン等のアミン系化合物、リン酸化合物、酸無水系化合物、メルカプタン系化合物、フェノール樹脂、アミノ樹脂、ジシアンジアミド、ルイス酸錯化合物等が挙げられる。
熱可塑性樹脂溶液は、本発明の目的を逸脱しない範囲で、触媒、重合開始剤、重合促進剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、増粘剤、乳化剤、分散剤等の添加剤を含んでいてもよい。
熱可塑性樹脂溶液の粘度は、5mPa・s〜1000mPa・sであることが好ましい。また、熱可塑性樹脂溶液の粘度は、組紐構造体への熱可塑性樹脂の付与量の観点から、10mPa・s以上であることがより好ましく、50mPa・s以上であることがさらに好ましい。また、熱可塑性樹脂溶液の粘度は、500mPa・s以下であることがより好ましく、200mPa・s以下であることがさらに好ましい。
熱可塑性樹脂溶液の粘度が5mPa・s以上であれば、組紐構造体に充分な量の熱可塑性樹脂を容易に付与することができる。一方、熱可塑性樹脂溶液の粘度が1000mPa・s以下であれば、組紐構造体に含まれる強化繊維束の内部まで熱可塑性樹脂を容易に浸透させることができる。
組紐構造体への熱可塑性樹脂の付与方法としては、例えば、熱可塑性樹脂溶液に組紐構造体を浸漬させるディップ法、熱可塑性樹脂溶液に組紐構造体を浸漬した後にマングル等で絞るディップニップ法、熱可塑性樹脂溶液をキスロールやグラビアロール等に付着させて、そのキスロール等から組紐構造体に熱可塑性樹脂を転写する転写法、組紐構造体に霧状の熱可塑性樹脂溶液を付与するスプレー法等が挙げられる。
ディップ法、転写法、スプレー法等では、熱可塑性樹脂溶液が付着した組紐構造体を、ダイスロール等と接触させることにより、組紐構造体に含まれる強化繊維束の内部まで熱可塑性樹脂を押し込んだり、余分な熱可塑性樹脂を除去したりして、組紐構造体への熱可塑性樹脂の付与量を調整できる。
また、最終的に得られる繊維強化複合材料におけるVf値が上述の好適な範囲となるように、組紐構造体への熱可塑性樹脂溶液の付与量を調整したり、溶媒の配合比によって熱可塑性樹脂溶液における熱可塑性樹脂の含有量を調整したりすることが好ましい。
本実施形態では、熱可塑性樹脂溶液の粘度が低いため、組紐構造体に含まれる強化繊維束の内部まで熱可塑性樹脂を浸透させることができる。
組紐構造体に熱可塑性樹脂を付与した後、乾燥および熱処理の少なくとも一方を行うことが好ましい。乾燥と熱処理は同時に行ってもよく、別々に行ってもよい。熱可塑性樹脂を付与した組紐構造体に、乾燥および熱処理の少なくとも一方を施すことにより、強化繊維線材が得られる。
乾燥温度および乾燥時間は、熱可塑性樹脂、硬化剤または溶媒の種類に応じて適宜調整される。
乾燥温度は、40℃〜120℃であることが好ましく、50℃〜100℃であることがより好ましい。乾燥時間は、1分〜1時間であることが好ましく、10分〜30分であることがより好ましい。
熱処理温度および熱処理時間は、熱可塑性樹脂、硬化剤または溶媒の種類に応じて適宜調整される。
熱処理温度は、熱硬化性樹脂や後反応型の熱可塑性樹脂が反応する温度で行い、120℃〜250℃であることが好ましく、120℃〜180℃であることがより好ましい。熱処理時間は、1分〜1時間であることが好ましく、3分〜40分であることがより好ましい。
上記の乾燥温度、乾燥時間、熱処理温度および熱処理時間の範囲は、強化繊維線材の品位および生産性の観点から好ましい。
次いで、強化繊維線材を複数本束ねて撚り機にセットし、加熱しながら束ねられた強化繊維線材全体に撚りをかけ、ストランド構造体を形成する。
束ねられた強化繊維線材の加熱温度は、80℃〜200℃であることが好ましく、加熱時間は3分〜40分であることが好ましい。
ストランド構造体の撚り方向は、特に限定されず、S(右)撚りであってもよく、Z(左)撚りであってもよい。
このようにして、長繊維の強化繊維が束ねられてなる芯線、芯線を被覆(結束)する外層、および外層に含浸された固化材を備えた強化繊維線材が、複数本束ねられてなる繊維強化複合材料が得られる。
「木舞縄の製造方法」
長繊維の強化繊維を束ねて、強化繊維束を形成する。
強化繊維束に、他の繊維を巻き回し、強化繊維の束の外周を筒状の組紐構造で覆う(筒状物の筒の内部に強化繊維の束が通っている)ことで、木舞縄を得る。得られた木舞縄は、強化繊維束からなる芯線が、外層で被覆された組紐構造体である。
強化繊維や、外層を構成する他の繊維は、上述の本実施形態の木舞構造における木舞縄と同様のものが用いられる。
また、組紐構造としては、上述の本実施形態の木舞構造における強化繊維複合材と同様の構造が挙げられる。
このようにして得られた繊維強化複合材料および組紐構造体(木舞縄)を用いて、図1に示すように、縦柱部110,110と横柱部120,120を組み合わせてなる枠材100の内側の領域に、複数本の繊維強化複合材料20を、間隔を置いて縦横に配置することにより、複数本の繊維強化複合材料20からなる格子を形成し、木舞構造10を得る。さらに、木舞縄を用いて、図2に示すように、木舞縄140を、繊維強化複合材料20Aと繊維強化複合材料20Bの交差部分に巻き付けて、その木舞縄140によって、繊維強化複合材料20Aと繊維強化複合材料20Bを結び付けることにより、格子状に配置された繊維強化複合材料20A,20Bに木舞縄140が巻き付けられた木舞構造10を得る。
[塗壁]
本実施形態の塗壁(土塗壁ともいう)は、本実施形態の木舞構造を備える。
具体的には、本実施形態の塗壁は、下地となる本実施形態の木舞構造と、本実施形態の木舞構造上に塗布された左官材料からなる表層(荒壁、大直し、中壁、仕上げ壁等)と、を備える。土塗壁としては、土壁、砂壁、漆喰壁等が挙げられ、仕上げ壁の材料は特に限定されない。
また、本実施形態の塗壁の壁倍率は、2.0以上であることが好ましく、3.0以上であることがより好ましく、3.5以上であることがさらに好ましい。また、本実施形態の塗壁の壁倍率の上限は5.0である。
壁倍率とは、建築基準法で定められた耐力壁の強さを表す数値のことである。壁倍率は、壁の剛性、降伏強度、最大強度、靭性を総合的に考慮して定められた指標である。壁倍率の値が大きい程、しっかりした壁となり、耐震性が増す。
昭和56年6月1日建設省告示第1100号および建築基準法施行令第46条第4項表1(1)項から(7)項までに掲げる軸組と同等以上の耐力を有する軸組及び当該軸組に係る倍率の数値を定める件 最終改正 平成28年6月1日 国土交通省告示796号に定められた別表第4(1)(は)では、一般的な竹で造られた木舞構造を有する、塗厚が8cmの土塗壁の壁倍率が1.5である。したがって、本実施形態の塗壁の壁倍率は、塗壁の塗厚が8cmでも、2.0以上とすれば、従来の土塗壁よりも耐震性に優れる。
塗壁の壁倍率は、木造軸組工法住宅の許容応力度設計1(2017年度版)(企画発行 公益財団法人 日本住宅・木材技術センター)に記載の方法にて、塗壁の面内せん断試験を行い求められる。
面内せん断試験の方法は、以下の通りである。
(1)加力方法
(1−1)加力は正負交番繰り返し加力とする。
(1−2)繰り返し履歴は、試験方法によって異なる。
柱脚固定式の場合:見かけのせん断変形角が1/450rad、1/300rad、1/200rad、1/150rad、1/100rad、1/75rad、1/50radの正負変形時とする(壁の場合は上記に1/30radを追加することが望ましい)。
タイロッド式の場合:真のせん断変形角が1/600rad、1/450rad、1/300rad、1/200rad、1/150rad、1/100rad、1/75rad、1/50radの正負変形時とする(壁の場合は上記に1/30radを追加することが望ましい)。
(1−3)繰り返し回数は、履歴の同一変形段階で3回を原則とする(但し、1/30radを追加する場合は繰り返し回数を1回とする。また、床の面内せん断試験の場合は全ての繰り返し回数を1回とする。)。
(1−4)加力が最大荷重に達した後、最大荷重の80%の荷重に低下するまで加力するか、木造軸組工法住宅の許容応力度設計1(2017年度版)(企画発行 公益財団法人 日本住宅・木材技術センター)の表4.3.31 試験体の作製・設置方法の例に記載の試験体の2に示す変形角が1/15rad以上に達するまで加力する。
(1−5)筋かいを引張側で破壊させる試験の場合、筋かいの座屈破壊の危険性がある場合は1/120radまでとしも良い。また、火打ち構面の最終的な破壊については、下側の火打ちを引張側で破壊させるもとする。
(2)変位測定
変位測定は、木造軸組工法住宅の許容応力度設計1(2017年度版)(企画発行 公益財団法人 日本住宅・木材技術センター)の図4.3.32〜図4.3.36に示すように変位計H1で梁材又は桁材の水平方向変位、変位計H2で土台又は桁材の水平方向変位を、変位計V3、V4で柱又は梁の脚部の鉛直方向変位をそれぞれ測定する。変位計はなるべく部材の軸心に取り付ける。
なお、タイロッド式については、タイロッドの浮き上がり拘束力を測定することが望ましい。
なお、以下に記載した実施例では、上記の方法に準じて試験を行う。昭和56年6月1日建設省告示第1100号別表および建築基準法施行令第46条第4項表1に仕様が定められた耐力壁は、木造軸組工法住宅の許容応力度設計1(2017年度版)(企画発行 公益財団法人 日本住宅・木材技術センター)の図24.1.5及び図24.1.6に示すような面内せん断試験の結果にもとづき、図24.1.7(本明細書においては図5)及び(24.1.4)〜(24.1.6)式(本明細書においては式(1)〜(3))の評価方法によって壁倍率が与えられている。
短期基準せん断耐力P=min{(a)降伏耐力P、(b)終局耐力P×0.2(2μ−1)1/2、(c)最大耐力Pmax×2/3、(d)特定変形角時の耐力P} (1)
短期許容せん断耐力P=P×α (2)
(α:耐久性、使用環境、施工性の影響等を勘案して定める低減係数)
壁倍率=P/(壁長×1.96[kN/m]) (3)
本実施形態の塗壁では、上記の式(2)において、α=1とする。
また、短期基準せん断耐力Pは、上記の(a)〜(d)の値に、それぞれのばらつき係数を乗じて算出した値のうち最も小さい値とする。
上記の(a)〜(d)の値を算出するためには以下のとおり完全弾塑性モデルを作成する必要がある。
これは、木造軸組工法住宅の許容応力度設計1(2017年度版)(企画発行 公益財団法人 日本住宅・木材技術センター)に記載されている枠組壁工法の試験方法評価方法で提案されている図43.5.2(本明細書においては図5)に準じて下記の(1)〜(13)の手順で行う。
図5において、Y軸は許容せん断耐力、X軸はせん断試験における変位を示す。
包絡線は、測定した荷重−変位曲線の終局加力を行った側の最初の荷重−変位曲線より求める。
なお、壁耐力、水平構面等の面内せん断試験では、変位を変位角と読み替える。
(1)包絡線上の0.1Pmaxと0.4Pmaxを結ぶ第I直線を引く。
(2)包絡線上の0.4Pmaxと0.9Pmaxを結ぶ第II直線を引く。
(3)包絡線に接するまで第II直線を平行移動し、これを第III直線とする。
(4)第I直線と第III直線との交点の荷重を降伏耐力Pとし、この点からX軸に平行に第IV直線を引く。
(5)第IV直線と包絡線との交点の変位を降伏変位δとする。
(6)原点と(δ、P)を結ぶ直線を第V直線とし、その勾配を初期剛性Kと定める。
(7)最大荷重後の0.8Pmax荷重低下域の包絡線上の変位、又は1/15radのいずれか小さい変位を終局変位δと定める。
(8)包絡線とX軸及びx=δの直線で囲まれる面積をSとする。
(9)第V直線とx=δの直線とX軸及びX軸に平行な直線で囲まれる台形の面積がSと等しくなるようにX軸に平行な第VI直線を引く。
(10)第V直線と第VI直線との交点の荷重を完全弾塑性モデルの終局耐力Pと定め、その時の変位を完全弾塑性モデルの降伏点変位δとする。
(11)塑性率μ=δ/δとする。
(12)構造特性係数Dは、塑性率μを用い、D=1/(2μ−1)1/2とする。
(13)変形角が1/15radを超えても最大荷重に達しない場合には、1/15rad時の荷重を最大荷重Pmaxとする。
なお、完全弾塑性モデルの作成方法は、他の試験であっても同様である。
左官材料としては、従来の塗壁工法で用いられる一般的な土、珪藻土、漆喰、モルタル、プラスター(石灰または石膏)等が挙げられる。
本実施形態の木舞構造上に左官材料を塗布する方法としては、左官材料に種類に応じて、従来の塗壁工法が用いられる。
本実施形態の塗壁は、本実施形態の木舞構造を備えるため、気候や環境の変化による劣化、および地震等の外的衝撃に対する優れた耐性を有する。また、本実施形態の塗壁は、下地となる本実施形態の木舞構造が、従来の塗壁工法で用いられている竹等の天然素材のように腐敗しない上に、ラス網のように錆が発生することもないため、従来、土塗壁等に用いられている材料を用いて表層を形成することができる上に、内部構造の劣化による強度低下を防ぐことができる。さらに、本実施形態の塗壁は、本実施形態の木舞構造を備えるため、表層の取り換え回数を大幅に減らすことができ、メンテナンス性に優れる。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例)
図1に示す木舞構造に比べて、横木が1本多く、繊維強化複合材料の本数が縦方向と横方向の合計で18本多い、図1に示す木舞構造に準ずる木舞構造を製造した。
具体的な製造方法を、下記の通りとした。
断面寸法120mm角の角材(縦柱部110、横柱部120)を用いて、横柱部120の芯と横柱部120の芯の間隔(木枠の高さ方向において、2本の横柱部120の中心線間の距離)が1820mm、縦柱部110の芯と縦柱部110の芯の間隔(木枠の幅において、2本の縦柱部110の中心線間の距離)が910mmの木枠を仮組みした。
その仮組みした木枠のうち、2本の縦柱部110間に、断面寸法15mm×105mmの板材からなる、3本の横木130を等間隔に固定した。
木枠の上部側の横柱部120と木枠の上部側の横木130の間に、これらと平行に3本の繊維強化複合材料20Aを等間隔に配置し、木枠の下部側の横柱部120と木枠の下部側の横木130の間に、これらと平行に3本の繊維強化複合材料20Aを等間隔に配置した。
また、木枠の上部側の横木130と木枠の中央の横木130の間に、これらと平行に15本の繊維強化複合材料20Aを等間隔に配置し、木枠の下部側の横木130と木枠の中央の横木130の間に、これらと平行に15本の繊維強化複合材料20Aを等間隔に配置した。
縦柱部110と縦柱部110の間に、これらと平行に21本の繊維強化複合材料20Bを等間隔に配置した。
垂直に交わっている繊維強化複合材料20Aと繊維強化複合材料20Bを木舞縄140で結束し、垂直に交わっている繊維強化複合材料20Bと横木130を木舞縄140で結束した。詳細には、木枠の上部側の横木130の長さ方向に平行な下方、および木枠の下部側の横木130の長さ方向に平行な上方において、横木130から2本目の繊維強化複合材料20Aに沿って、繊維強化複合材料20Aと繊維強化複合材料20Bを木舞縄140で結束した。
木枠の上部側の横木130と木枠の中央の横木130の中間に配置され、木枠の上部側の横木130の長手方向および木枠の中央の横木130の長手方向と平行な繊維強化複合材料20A(8本目)に沿って、繊維強化複合材料20Aと繊維強化複合材料20Bを木舞縄140で結束した。
2つの縦柱部110と平行に配置されている繊維強化複合材料20Bであって、2つの縦柱部110のそれぞれから2本目の繊維強化複合材料20Bに沿って、垂直に交わっている繊維強化複合材料20Aと繊維強化複合材料20Bを木舞縄140で結束した。
2つの縦柱部110と平行に配置されている繊維強化複合材料20Bであって、2つの縦柱部110の中間(2つの縦柱部110のそれぞれから11本目)の繊維強化複合材料20Bに沿って、垂直に交わっている繊維強化複合材料20Aと繊維強化複合材料20Bを木舞縄140で結束した。
これらの木舞構造140に対して、土を用いて、荒壁、中壁、仕上げ壁を塗り、塗厚が8cmの塗壁(土塗壁)を造った。この土塗壁をおおよそ10か月乾燥し、壁せん断試験を実施し、土塗壁を完成した。得られた土塗壁の壁倍率を求めたところ、3.96であった。一般的な竹で造られた木舞構造を有する、塗厚が8cmの土塗壁の壁倍率は、昭和56年6月1日建設省告示第1100号および建築基準法施行令第46条第4項表1(1)項から(7)項までに掲げる軸組と同等以上の耐力を有する軸組及び当該軸組に係る倍率の数値を定める件 最終改正 平成28年6月1日 国土交通省告示796号に定められた別表第4(1)(は)では、1.5である。したがって、実施例の土塗壁は、大幅に耐震性が向上することが確認された。なお、昭和56年6月1日建設省告示第1100号および建築基準法施行令第46条第4項表1(1)項から(7)項までに掲げる軸組と同等以上の耐力を有する軸組及び当該軸組に係る倍率の数値を定める件 最終改正 平成28年6月1日 国土交通省告示796号に定められた別表第4では、両面塗で、土塗壁の塗厚が7cm以上は(1)(は)となっており、実施例では、両面塗で、土塗壁の塗厚が8cmであるため、別表第4(1)(は)を、実施例の対照とした。
本発明の木舞構造は、文化財等の歴史的建築物のような、ラス網とモルタルによる現代工法をそのまま使用することができない木造建築物の塗壁に対しても適用することができる。すなわち、本発明の木舞構造は、木造建築物の土塗壁の下地として用いることができる上に、木造建築物の外観を損ねることがない。さらに、本発明の木舞構造は、錆が発生したり、腐敗したりすることがないため、木造建築物に高い強度を付与することができる。従って、本発明の木舞構造は、その産業利用可能性は大である。
10・・・木舞構造、20,20A,20B・・・繊維強化複合材料、30・・・強化繊維線材、31・・・強化繊維、32・・・芯線、33・・・外層、34・・・固化材、100・・・枠材、110・・・縦柱部、120・・・横柱部、130・・・横木、140・・・木舞縄。

Claims (8)

  1. 長繊維の強化繊維が束ねられてなる強化繊維束と固化材からなる繊維強化複合材料を有する木舞構造。
  2. 前記繊維強化複合材料は、前記強化繊維束を含む強化繊維線材が複数本撚り合わされた、ストランド構造体である請求項1に記載の木舞構造。
  3. 前記強化繊維線材は、前記強化繊維束が、繊維によって組織された外層に覆われてなる請求項2に記載の木舞構造。
  4. 前記繊維強化複合材料が複数本格子状に配置され、該格子状をなす繊維強化複合材料に、前記強化繊維束を含む木舞縄が巻き付けられた請求項1〜3のいずれか1項に記載の木舞構造。
  5. 前記固化材は、熱可塑性樹脂である請求項1〜4いずれか1項に記載の木舞構造。
  6. 前記熱可塑性樹脂は、熱可塑性エポキシ樹脂である請求項5に記載の木舞構造。
  7. 請求項1〜6のいずれか1項に記載の木舞構造を備えた塗壁。
  8. 壁倍率が2.0以上である請求項7に記載の塗壁。
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