以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、各図面は、便宜的に実際とは異なる縮尺で描かれている場合がある。また、各図面において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明を省略する。本実施形態において、「光学面」とは屈折面や反射面のことを指し、「光軸」とは光学系における各光学面の中心(面頂点)を通る軸を指し、「間隔」とは光軸上での面間隔のことを指すものとする。
図1(a)は、本発明の実施形態に係る光学系100の光軸Aを含むYZ断面(垂直断面)における要部概略図であり、図1(b)は、光学系100をY方向(垂直方向)から見たときの要部概略図である。図1(b)では、Y方向における中心像高に向かう光束を示している。なお、図1では、左側(−Z側)が拡大側であり、右側(+Z側)が縮小側である。本実施形態に係る光学系100は、不図示の物体(被写体)からの光束を集光して物体の像を形成するための結像光学系であり、撮像装置や投影装置に適用可能なものである。
光学系100が撮像光学系として撮像装置に適用される場合は、光学系100の縮小面が像面となり、その位置にCCDセンサやCMOSセンサ等の撮像素子の撮像面(受光面)が配置される。また、光学系100が投影光学系として投影装置に適用される場合は、縮小面が物体面となり、その位置に液晶パネル(空間変調器)等の表示素子の表示面が配置される。すなわち、撮像光学系と投影光学系とでは、物体側と像側とが反転し、光路が逆向きになる。なお、以下の説明では、光学系100が撮像装置に適用される場合を想定している。
本実施形態に係る光学系100は、拡大側(物体側)に向かって凸形状の第1反射領域G1Mを含む第1光学素子G1と、拡大側に向かって凸形状の縮小側面を含む第2光学素子G2とを備える反射屈折光学系である。拡大側からの光は、第2反射領域G2M、第1反射領域G1M、第2光学素子G2の屈折領域G2Tを順に介して縮小側(像側)へ向かい、像面IMGを形成する。
ここで、本実施形態に係る第1反射領域G1Mは、光軸Aを含むYZ断面(第1の断面)において、光軸Aに対して一方の側(+Y側)にのみ配置されている。ただし、本実施形態における第1反射領域G1Mは、第1光学素子G1における結像に寄与する有効光束を反射させる有効領域のことを指している。すなわち、仮に第1光学素子G1の有効領域外に反射面が形成されていたとしても、それは第1反射領域G1Mには含まれない。
このように、YZ断面において第1反射領域G1Mを+Y側にのみ配置することで、光軸Aに対して第1反射領域G1Mとは反対側(−Y側)から光学系100に入射する光のみが、撮像素子の撮像面に到達するように構成することができる。この構成によれば、YZ断面において光路を折り畳んで光軸Aに対して非対称にすることで、光路同士の干渉を回避しつつ全系を小型化することができる。
さらに、光学系100は、正のパワーの反射面(凹反射面)である第1反射領域G1Mと負のパワーの反射面(凸反射面)である第2反射領域G2Mとによって光路を折り畳んでいる。これにより、全系の小型化を実現しつつ、収差の発生を抑制することができる。このとき、第1反射領域G1M及び第2反射領域G2Mの配置は、シュバルツシルト光学系と同様になるため、絞り値(F値)が小さく明るい光学系を実現することが可能になる。
また、本実施形態に係る第2反射領域G2Mは、拡大側からの光の一部を反射する反射部と、拡大側からの光の一部を遮光する遮光部とを含んでいる。反射部によって結像に寄与する有効光を反射し、遮光部によってそれ以外の光を遮光するように構成することで、第2反射領域G2Mに開口絞りの役割を持たせることができる。なお、反射部は反射膜(蒸着膜)などで構成され、遮光部は吸光部材で構成される。
そして、本実施形態に係る反射部について、YZ断面に垂直なX方向(第1の方向)における径は、光軸A及びX方向に垂直なY方向(第2の方向)における径よりも大きくなっている。すなわち、本実施形態に係る光学系100の絞り値は、YZ断面よりもZX断面(水平断面)の方が小さく(明るく)なるように設定されている。ただし、ここでの径とは、光軸Aに垂直かつ光軸Aを通る軸の上における長さのことを指している。
これにより、反射部のX方向での径がY方向での径以下である場合と比較して、ZX断面における絞り値を十分に小さくしつつ、YZ断面において光束幅を狭めて光路同士の干渉を回避し易くすることができる。よって、光路が光軸Aに対して非対称であるYZ断面においては、各光学面の設計自由度を向上させて更なる小型化を実現しつつ、ZX断面においては明るさ及び解像度を十分に確保することが可能になる。
第2反射領域G2Mの反射部は、X方向における径がY方向における径よりも大きいものであれば、どのような形状であってもよい。図2に、第2反射領域G2Mの反射部の例を示す。図2では、Z方向における−Z側から見たときの反射部を破線で示している。第2反射領域G2Mの反射部の形状としては、例えば図2(a)に示すような楕円、図2(b)や図2(c)に示すような矩形、図2(d)に示すような多角形などを採用することができる。
ただし、ここでの楕円とは、数学的に定義される厳密な楕円に限らず、略楕円を含むものとする。また、ここでの矩形とは、図2(b)に示すような厳密な矩形に限らず、図2(c)に示すような各辺のうちの少なくとも1辺を曲線にしたものや、各頂点をなくしたようなもの等(略矩形)を含むものとする。
以上、本実施形態に係る光学系100によれば、全系の小型化と十分な明るさ及び解像度の確保を両立することができる。
[実施例1]
以下、本発明の実施例1に係る光学系100について説明する。本実施例に係る光学系100は、上述した実施形態に係る光学系100と同様の構成を採っているため、重複する説明を省略する。
本実施例に係る光学系100は、正のパワーの屈折領域G1Tを含む第1光学素子G1と、負のパワーの屈折領域G2Tを含む第2光学素子G2と、正のパワーの屈折領域G3Tを含む第3光学素子G3とを備えている。また、第2光学素子G2の縮小側面に設けられた第2反射領域G2Mが開口絞りの役割を果たしている。この構成により、開口絞りの前後における各屈折領域のパワー配置の対称性を確保し、倍率色収差などの諸収差を良好に補正することができる。
具体的に、本実施例に係る第1光学素子G1は、拡大側面及び縮小側面の両方が拡大側に向かって凸形状である正メニスカスレンズであって、屈折領域G1T及び第1反射領域G1Mを有する反射屈折素子(反射屈折レンズ)である。本実施例に係る第1反射領域G1Mは、第1光学素子G1の縮小側面に設けられた表面鏡であるが、第1光学素子G1の拡大側面に設けられた裏面鏡であってもよい。ただし、倍率色収差等の諸収差の補正のために、後述する開口絞りの前後での光の屈折回数の対称性を持たせるには、第1反射領域G1Mを表面鏡とすることが望ましい。
本実施例に係る第2光学素子G2は、拡大側面及び縮小側面の両方が拡大側に向かって凸形状である負メニスカスレンズであって、屈折領域G2T及び第2反射領域G2Mを有する反射屈折素子である。また、本実施例に係る第3光学素子G3は、正のパワーの両凸レンズであって、反射領域を持たない屈折素子(屈折レンズ)である。なお、第1光学素子G1、第2光学素子G2、及び第3光学素子G3の夫々の形状は、図1に示したものに限られず、必要に応じて適宜変更可能である。
なお、第2光学素子G2の縮小側面ではなく、第3光学素子G3の拡大側面に第2反射領域G2Mを設けてもよい。その場合は第2光学素子G2が屈折素子となり、第3光学素子G3が反射屈折素子となる。ただし、第3光学素子G3の拡大側面に第2反射領域G2Mを設けた場合、第2光学素子G2の縮小側面から光が出射する際に収差が発生してしまう可能性が生じる。よって、本実施例のように、第2光学素子G2の縮小側面に第2反射領域G2Mを設けることが好ましい。また、第3光学素子G3の拡大側面に第2反射領域G2Mを設ける場合は、第2光学素子G2の縮小側面と第3光学素子G3の拡大側面とを接合するか、あるいは各面を非球面とすることで、上述した収差の発生を抑制することが望ましい。
不図示の物体からの光は、第1光学素子G1の拡大側面に入射し、第1光学素子G1の縮小側面における屈折領域G1T及び第2光学素子G2の拡大側面における屈折領域G2Tを透過して、第2反射領域G2Mにおける反射部で反射される。このとき、光の一部は第2反射領域G2Mの遮光部により遮光される。
第2反射領域G2Mの反射部で反射された光は、第2光学素子G2の拡大側面を透過して、第1光学素子G1の縮小側面における第1反射領域G1Mで反射される。第1反射領域G1Mで反射された光は、再び第2光学素子G2の拡大側面に入射して、第2光学素子G2の屈折領域G2T及び第3光学素子G3の屈折領域G3Tを透過し、光学ブロックCGを介して平面形状の像面IMGを形成する。なお、光学ブロックCGは、カバーガラスや光学フィルター等に相当するパワーを持たない光学素子である。
図1(b)に示すように、X方向(水平方向)において、光学系100は光軸Aに対して対称な形状であり、拡大側からの光は光軸Aに対して両側から第1光学素子G1に入射する。すなわち、Y方向の各位置でのZX断面において、光学系100は光軸Aに対して対称な形状である。一方、図1(a)に示す垂直断面においても、光学系100は光軸Aに対して対称な形状であるが、拡大側からの光は光軸Aに対して下側(−Y側)のみから第1光学素子G1に入射し、光軸Aに対して上側(+Y側)に像面が形成される。このように、光学系100は、垂直断面において光が各光学面に斜入射する構成を採っている。
このとき、撮像装置では、撮像面を光軸Aに対してY方向に偏心させ、撮像面が光軸Aに対して撮像面とは反対側から光学系100に入射する光束のみを受光するように構成することができる。また、投影装置では、表示面を光軸Aに対してY方向に偏心させ、表示面からの光束が光軸Aに対して表示面とは反対側から光学系100の外部に出射するように構成することができる。これにより、光路を折り畳んで小型化を図りつつ、撮像素子や表示素子を各光学素子や各光路と干渉しないように配置することができる。
本実施例に係る光学系100の光軸Aを含む水平断面(第2の断面)での画角(水平画角)は50°である。光軸Aを基準(0°)として+X側を正、−X側を負とするとき、水平画角内の角度θxの範囲は−25°≦θx≦+25°である。また、光学系100の光軸Aを含む垂直断面での画角(垂直画角)は29°である。第1光学素子G1の拡大側面に入射する光線のうち中心像高に到達する光線(中心光線)を基準(0°)として+Y側を正、−Y側を負とするとき、垂直画角内の角度θyの範囲は−14.5°≦θy≦+14.5°である。なお、この中心光線と光軸Aとのなす角度は40°である。
本実施例に係る光学系100では、水平画角が光軸Aの両側に対称に設定されているのに対して、垂直画角は光軸Aに対して−Y側にのみ設定されている。そして、光学系100では、光軸を含む水平断面での画角よりも、光軸を含み水平断面に垂直な垂直断面での画角の方が小さくなっている。また、本実施例に係る光学系100は、全ての光学面の面頂点及び曲率中心が光軸Aの上に存在する共軸系であり、かつ全ての光学面が光軸Aに対して回転対称な形状である回転対称系である。このように、光学系100を共軸系かつ回転対称系とすることで、水平断面及び垂直断面の夫々で諸収差を良好に補正することができる。
本実施例では、第1光学素子G1と第2光学素子G2との間の媒質を、第2光学素子G2よりも小さい屈折率の材料としている。これにより、第2光学素子G2の拡大側面における、光軸Aに対して下側で屈折する光の屈折角と上側で屈折する光の屈折角とを同等にすることができ、コマ収差、倍率色収差、及び歪曲収差を良好に補正することが可能になる。
第2光学素子G2の拡大側面における光軸Aに対して下側の領域は、拡大側から入射する光に向かって凸形状であるため、光軸Aの近傍を通過する光よりも、光軸Aから離れた位置を通過する光の方を大きく屈折させる。よって、第2光学素子G2の拡大側面における下側の領域に入射する各光の角度は不均一になり、コマ収差、倍率色収差、及び歪曲収差が発生してしまう。一方、第2光学素子G2の拡大側面における光軸Aに対して上側の領域は、第1光学素子G1の方へ出射する光に向かって凹形状であるため、光軸Aの近傍を通過する光よりも、光軸Aから離れた位置を通過する光の方を大きく屈折させる。
ここで、第2光学素子G2の拡大側面における下側の領域と上側の領域との間の光路には第2反射領域G2Mが配置されているため、光束内の各光線の配置(光軸Aからの距離の長短)は、下側の領域に入射する時と上側の領域から出射する時とで反対になる。よって本実施例に係る光学系100は、第2光学素子G2の拡大側面における下側の領域で発生したコマ収差、倍率色収差、及び歪曲収差を、第2光学素子G2の拡大側面における上側の領域によってキャンセルすることができる。
このとき、第1光学素子G1と第2光学素子G2との間の媒質と第2光学素子G2とに十分な屈折率差を生じさせるためには、その媒質の屈折率をできるだけ小さくすることが望ましく、特に本実施例のように空気とすることがより好ましい。なお、必要に応じて、第1光学素子G1と第2光学素子G2との間に他の光学素子を配置してもよい。ただし、その場合は、第1光学素子G1とそれに隣接する光学素子との間に、空気などの屈折率が小さい媒質を配置することが望ましい。
本実施例に係る第2反射領域G2Mは、上述したように凸形状の反射面であり、かつ開口絞りの機能を備えている。このように、負のパワーの第2反射領域G2Mを開口絞りとすることにより、像面湾曲や非点収差への影響を抑えつつ、球面収差を良好に補正することができる。また、第2反射領域G2Mに負のパワーを持たせることによって、第1反射領域G1Mと像面IMGとの間隔を適切に確保することができ、光学系100と撮像素子や表示素子との干渉を回避することが容易になる。なお、本実施例では、第2反射領域G2Mを、光軸Aから離れるに従ってパワーが小さくなる非球面とすることによって、球面収差をより良好に補正することを可能にしている。
また、本実施例に係る第2反射領域G2Mの反射部の形状は、図2(a)に示した楕円であり、その長軸は水平方向(X方向)に平行、短軸は垂直方向(Y方向)となっている。言い換えると、第2反射領域G2Mの反射部の水平方向での径は、垂直方向での径よりも大きくなっている。具体的に、本実施例に係る光学系100の絞り値は、水平方向においてはF=1.17、垂直方向においてはF=2.8である。
すなわち、本実施例に係る光学系100の絞り値は、光学系100の画角が光軸Aに対して対称である水平断面よりも、光学系100の画角が光軸Aに対して非対称である垂直断面の方が大きく(暗く)なるように設定されている。これにより、水平断面において明るさと解像度を十分に確保しつつ、垂直断面において全系の更なる小型化を実現することが可能になる。
本実施例に係る第1反射領域G1Mは、主に像面湾曲を補正する役割を果たしている。一般的に、光学系において像面湾曲を補正するためには、正のパワーと負のパワーとの打ち消し合いによって各光学面のペッツバール和を小さくし、ペッツバール像面が平面に近づくように光学設計が行われる。それに対して、本実施例に係る光学系100では、第1光学素子G1の第1反射領域G1Mのサグ量を適切に設定することで像面湾曲を補正している。これについて、以下で詳細に説明する。
本実施例に係る光学系100は、全体として正のパワーを有しているため、像面近傍に結像した際のペッツバール像面は、光軸Aから周辺部へ向かうに従って拡大側に変位した湾曲形状となる傾向がある。一方、第1反射領域G1Mは、凹形状、すなわち光軸Aから周辺部へ向かうに従って縮小側に変位した形状であるため、第1反射領域G1Mと像面IMGとの間隔は光軸Aから周辺部へ向かうに従って短くなる。
よって、第1反射領域G1Mが生じさせた像高毎の光路差により、光学系100の像面湾曲を良好に補正することができる。さらに、第1反射領域G1Mを非球面とすることで、第1反射領域G1Mが球面である場合に補正しきれない像面湾曲を、第1反射領域G1Mの非球面成分によって補正することができる。これにより、第1反射領域G1Mのサグ量の設計自由度を向上させることができ、像面湾曲をより良好に補正することが可能になる。
なお、光学系の像面湾曲を補正するためには、光軸上と比較して周辺部の方でパワーが小さくなるように非球面を構成することが一般的である。一方、本実施例では、一般的な光学系とは異なり第1反射領域G1Mのサグ量により像面湾曲を補正しているため、第1反射領域G1Mの非球面量は光軸A上と比較して周辺部でパワーが大きくなるように設定されている。
本実施例では、第1光学素子G1における屈折領域G1T及び第1反射領域G1Mによって、上述したような良好な収差補正を可能にしている。このとき、屈折領域G1T及び第1反射領域G1Mを一つの光学素子に設けることで、これらを互いに異なる光学素子に設ける場合と比較して、光学素子の枚数の増大や各光学素子の相対的な配置誤差の発生を抑制することができる。そして、第1光学素子G1を拡大側に凸面を向けた正メニスカスレンズとすることで、光学系100を広角化した場合にも、屈折領域G1Tによって倍率色収差を良好に補正することができる。
上述したように、本実施例に係る第3光学素子G3は、正パワーを有することで、凸反射面である第2反射領域G2Mを有する第2光学素子G2の縮小側面における屈折領域G2Tで発生するコマ収差等の諸収差を良好に補正している。このとき、本実施例のように第3光学素子G3の縮小側面を拡大側に向かって凹形状とすることが望ましい。光学系100における最も縮小側に配置された光学面(最終面)を拡大側に向かって凹形状の屈折面とすることで、他の光学面で補正しきれなかった像面湾曲や非点収差を良好に補正することができる。ただし、必要に応じて第3光学素子G3の縮小側面を拡大側に向かって凸形状としてもよいが、この場合は第3光学素子G3よりも縮小側に、拡大側に向かって凹形状の屈折面を更に配置することが望ましい。
表1に、本実施例に係る光学系100の諸元値を示す。表1において、rは曲率半径(mm)、dは面間隔(mm)、Ndはd線に対する屈折率、νdはd線に対するアッベ数、を表す。ただし、面間隔dは、光路に沿って縮小側に向かうときに正、物体側に向かうときに負としている。また、「E±N」は「×10±N」を意味する。
本実施例において、非球面形状の各光学面は、光軸Oを中心とした回転対称形状であり、以下の非球面式で表現される。
ただし、zは非球面形状の光軸方向のサグ量(mm)、cは光軸O上における曲率(1/mm)、kは円錐定数(コーニック定数)、rは光軸Oからの半径方向の距離(mm)、A〜Gの夫々は4次項〜14次項の非球面係数である。上記の非球面式において、第1項は参照球面のサグ量を示しており、この参照球面の曲率半径はR=1/cである。また、第2項以降の項は、参照球面上に付与される非球面成分のサグ量(非球面量)を示している。
なお、本実施例では4次項〜10次項の非球面係数を用いており、後述する実施例2では4次項〜14次項の非球面係数を用いているが、夫々16次以上の項の非球面係数を用いてもよい。また、本実施例においては、光学面が非球面形状である場合、参照球面の曲率半径をその光学面の曲率半径としており、その曲率半径が上述した各条件式を満足している。
ここで、第1反射領域G1Mを含む光学面と第2反射領域G2Mを含む光学面との間隔をL1、第2反射領域G2Mを含む光学面と像面IMGとの間隔をL2とするとき、以下の条件式(1)を満足することが望ましい。
1.5≦L2/L1≦6.5 ・・・(1)
条件式(1)を満足することにより、光学系100を撮像装置に適用した場合に、光学系100の全長の増大を抑制しつつ、ゴーストの発生を抑制することが可能になる。なお、ここでのゴーストとは、不要光が各反射面を介さずに撮像素子の撮像面に入射することで、取得される画像に生じる高輝度成分のことである。
条件式(1)の下限値を下回ると、第2反射領域G2Mを含む光学面と像面IMGとの間隔が小さくなり過ぎてしまい、不要光が撮像素子の撮像面に到達し易くなってしまう。また、条件式(1)の上限値を上回ると、第2反射領域G2Mを含む光学面と像面IMGとの間隔が大きくなり過ぎてしまい、光学系100の全長を短くすることが難しくなる。更に、以下の条件式(1a)を満足することがより好ましい。
1.6≦L2/L1≦4.0 ・・・(1a)
また、第1反射領域G1Mを含む光学面の曲率半径をR1とするとき、以下の条件式(2)を満足することが望ましい。
1.3≦|R1/L1|≦4.0 ・・・(2)
条件式(2)を満足することにより、像面IMGに配置される撮像素子や表示素子と各光路との干渉を回避しつつ、像面湾曲を良好に補正することが可能になる。条件式(2)の下限値を下回ると、撮像素子や表示素子が各光路と干渉してしまう可能性が生じる。また、条件式(2)の上限値を上回ると、像面湾曲の補正が不十分になり良好な結像性能を得ることが難しくなる。更に、以下の条件式(2a)を満足することがより好ましい。
1.5≦|R1/L1|≦3.0 ・・・(2a)
また、光学系100の全長をLa、全系の焦点距離をfとするとき、以下の条件式(3)を満足することが望ましい。ただし、本実施例に係る光学系100の全長とは、光軸方向(Z方向)において像面IMGから最も離れた光学面と像面IMGとの間隔を指している。すなわち、本実施例においては、第1光学素子G1の拡大側面と像面IMGとの間隔が光学系100の全長である。
La/f≦3.0 ・・・(3)
条件式(3)を満足するように、光学系100の焦点距離で正規化した全長を小さくすることで、全系の小型化を実現することが可能になる。更に、以下の条件式(3a)を満足することがより好ましい。
La/f≦2.7 ・・・(3a)
表2に、本実施例に係る光学系100についての各条件式の値を示す。ただし、光学系100の焦点距離はf=10.8であり、L1、L2、R1、及びLaの値は表1から求められる。表2に示すように、光学系100は上述した条件式の全てを満足している。
図3は、本実施例に係る光学系100の横収差図である。図3では、光学系100の5つの画角におけるC線(波長656.3nm)、d線(波長587.6nm)、F線(波長486.1nm)、及びg線(波長435.8nm)の夫々に対する横収差を示しており、数値の単位はmmである。図3を見て分かる通り、コマ収差や倍率色収差が良好に補正されている。また、光学系100の開口率(ビネッティング)は全画角において100%であるため、第2反射領域G2Mによるケラレが生じておらず、軸上から軸外にかけて明るい光学系が実現できている。
[実施例2]
以下、本発明の実施例2に係る光学系200について説明する。本実施例に係る光学系200において、上述した実施例1に係る光学系100と同等の構成については説明を省略する。
図4(a)は、本実施例に係る光学系200の光軸Aを含むYZ断面における要部概略図であり、図4(b)は、光学系200をY方向から見たときの要部概略図である。本実施例に係る光学系200と実施例1に係る光学系100との違いは、各光学素子の形状及び材料である。
表3に、本実施例に係る光学系200の諸元値を示す。
本実施例に係る光学系200について、ZX断面での画角は35°、YZ断面での画角は20°、焦点距離はf=11.2mm、絞り値はX方向において1.17、Y方向において2.8である。そして、以下の表4に示すように、本実施例に係る光学系200は上述した各条件式を満足している。
図5は、本実施例に係る光学系200の横収差図である。図5を見て分かる通り、コマ収差や倍率色収差が良好に補正されている。また、光学系200の開口率は全画角において100%であり、軸上から軸外にかけて明るい光学系が実現できている。
[車載カメラシステム]
図6は、本実施形態に係る車載カメラ10及びそれを備える車載カメラシステム(運転支援装置)600の構成図である。車載カメラシステム600は、自動車等の車両に設置され、車載カメラ10により取得した車両の周囲の画像情報に基づいて、車両の運転を支援するための装置である。図7は、車載カメラシステム600を備える車両700の概略図である。図7においては、車載カメラ10の撮像範囲50を車両700の前方に設定した場合を示しているが、撮像範囲50を車両700の後方に設定してもよい。
図6に示すように、車載カメラシステム600は、車載カメラ10と、車両情報取得装置20と、制御装置(ECU:エレクトロニックコントロールユニット)30と、警報装置40と、を備える。また、車載カメラ10は、撮像部1と、画像処理部2と、視差算出部3と、距離算出部4と、衝突判定部5と、を備えている。画像処理部2、視差算出部3、距離算出部4、及び衝突判定部5で、処理部が構成されている。撮像部1は、上述した何れかの実施例に係る光学系と、撮像面位相差センサ等の測距用撮像素子と、を有する。
図8は、本実施形態に係る車載カメラシステム600の動作例を示すフローチャートである。以下、このフローチャートに沿って、車載カメラシステム600の動作を説明する。
まず、ステップS1では、撮像部1を用いて車両の周囲の対象物(被写体)を撮像し、複数の画像データ(視差画像データ)を取得する。
また、ステップS2では、車両情報取得装置20から車両情報の取得を行う。車両情報とは、車両の車速、ヨーレート、舵角などを含む情報である。
ステップS3では、撮像部1により取得された複数の画像データに対して、画像処理部2により画像処理を行う。具体的には、画像データにおけるエッジの量や方向、濃度値などの特徴量を解析する画像特徴解析を行う。ここで、画像特徴解析は、複数の画像データの夫々に対して行ってもよいし、複数の画像データのうち一部の画像データのみに対して行ってもよい。
ステップS4では、撮像部1により取得された複数の画像データ間の視差(像ズレ)情報を、視差算出部3によって算出する。視差情報の算出方法としては、SSDA法や面積相関法などの既知の方法を用いることができるため、本実施形態では説明を省略する。なお、ステップS2,S3,S4は、上記の順番に処理を行ってもよいし、互いに並列して処理を行ってもよい。
ステップS5では、撮像部1により撮像した対象物との間隔情報を、距離算出部4によって算出する。距離情報は、視差算出部3により算出された視差情報と、撮像部1の内部パラメータ及び外部パラメータと、に基づいて算出することができる。なお、ここでの距離情報とは、対象物との間隔、デフォーカス量、像ズレ量、などの対象物との相対位置に関する情報のことであり、画像内における対象物の距離値を直接的に表すものでも、距離値に対応する情報を間接的に表すものでもよい。
そして、ステップS6では、距離算出部4により算出された距離情報が予め設定された設定距離の範囲内に含まれるか否かの判定を、衝突判定部5によって行う。これにより、車両の周囲の設定距離内に障害物が存在するか否かを判定し、車両と障害物との衝突可能性を判定することができる。衝突判定部5は、設定距離内に障害物が存在する場合は衝突可能性ありと判定し(ステップS7)、設定距離内に障害物が存在しない場合は衝突可能性なしと判定する(ステップS8)。
次に、衝突判定部5は、衝突可能性ありと判定した場合(ステップS7)、その判定結果を制御装置30や警報装置40に対して通知する。このとき、制御装置30は、衝突判定部5での判定結果に基づいて車両を制御し、警報装置40は、衝突判定部5での判定結果に基づいて警報を発する。
例えば、制御装置30は、車両に対して、ブレーキをかける、アクセルを戻す、各輪に制動力を発生させる制御信号を生成してエンジンやモータの出力を抑制する、などの制御を行う。また、警報装置40は、車両のユーザ(運転者)に対して、音等の警報を鳴らす、カーナビゲーションシステムなどの画面に警報情報を表示する、シートベルトやステアリングに振動を与える、などの警告を行う。
以上、本実施形態に係る車載カメラシステム600によれば、上記の処理により、効果的に障害物の検知を行うことができ、車両と障害物との衝突を回避することが可能になる。特に、上述した各実施例に係る光学系を車載カメラシステム600に適用することで、車載カメラ10の全体を小型化して配置自由度を高めつつ、広画角にわたって障害物の検知及び衝突判定を行うことが可能になる。
ここで、本実施形態では、車載カメラ10が撮像面位相差センサを有する撮像部1を一つのみ備える構成について説明したが、これに限られず、車載カメラ10として撮像部を二つ備えるステレオカメラを採用してもよい。この場合、撮像面位相差センサを用いなくても、同期させた二つの撮像部の夫々によって画像データを同時に取得し、その二つの画像データを用いることで、上述したものと同様の処理を行うことができる。ただし、二つの撮像部による撮像時間の差異が既知であれば、二つの撮像部を同期させなくてもよい。
また、距離情報の算出については、様々な実施形態が考えられる。一例として、撮像部1が有する撮像素子として、二次元アレイ状に規則的に配列された複数の画素部を有する瞳分割型の撮像素子を採用した場合について説明する。瞳分割型の撮像素子において、一つの画素部は、マイクロレンズと複数の光電変換部とから構成され、光学系の瞳における異なる領域を通過する一対の光束を受光し、対をなす画像データを各光電変換部から出力することができる。
そして、対をなす画像データ間の相関演算によって各領域の像ずれ量が算出され、距離算出部4により像ずれ量の分布を表す像ずれマップデータが算出される。あるいは、距離算出部4は、その像ずれ量をさらにデフォーカス量に換算し、デフォーカス量の分布(撮像画像の2次元平面上の分布)を表すデフォーカスマップデータを生成してもよい。また、距離算出部4は、デフォーカス量から変換される対象物との間隔の距離マップデータを取得してもよい。
なお、本実施形態では、車載カメラシステム600を運転支援(衝突被害軽減)に適用したが、これに限られず、車載カメラシステム600をクルーズコントロール(全車速追従機能付を含む)や自動運転などに適用してもよい。また、車載カメラシステム600は、自車両等の車両に限らず、例えば、船舶、航空機あるいは産業用ロボットなどの移動体(移動装置)に適用することができる。また、本実施形態に係る車載カメラ10、移動体に限らず、高度道路交通システム(ITS)等、広く物体認識を利用する機器に適用することができる。
[測距装置]
以下、上述した各実施例に係る光学系を測距光学系として車載カメラなどの測距装置に適用する場合について詳細に説明する。測距装置は、後述する測距光学系及び測距用撮像素子と、上述した処理部とによって構成される。
上述したように、各実施例に係る光学系の垂直画角は、光軸Aに対して片側にのみ設定されている。よって、光学系を車載カメラ10に適用し、その車載カメラ10を車両に設置する場合は、被写体の位置に応じて光学系の光軸Aが水平方向に対して非平行となるように配置することが望ましい。例えば、上述した各実施例に係る光学系を測距光学系として採用する場合、光軸Aを水平方向に対して上側に傾け、垂直画角の中心が水平方向に近づくように配置すればよい。なお、各光学系をX軸周りに180°回転(上下反転)させてから、光軸Aが水平方向に対して下側に傾くように配置してもよい。これにより、車載カメラ10の撮像範囲を適切に設定することができる。
ただし、各実施例に係る光学系においては、軸上での結像性能が最も高く、それに対して周辺画角での結像性能は低下するため、注目する被写体からの光束が光学系における軸上付近を通過するように配置することがより好ましい。例えば、車載カメラ10によって道路上の標識や障害物などに注目する必要がある場合は、水平方向に対して上側(空側)よりも下側(地面側)の画角での結像性能を高めることが好ましい。このとき、各実施例に係る光学系を採用する場合、上述したように各光学系を一旦上下反転させてから、光軸Aを水平方向に対して下側に傾け、光軸Aの近傍の画角が下側を向くように配置すればよい。
図9(a)及び(b)の夫々は、実施例1及び2に係る光学系100,200を測距光学系として採用した場合の第2反射領域G2Mを、Z方向における−Z側から見たときの要部概略図である。図9(a)及び(b)において、破線は実施例1及び2に係る光学系100,200の第2反射領域G2Mにおける反射部を示し、実線は光学系100,200を測距光学系として採用したときの結像に寄与する有効光束が反射される領域(有効領域)を示している。なお、各測距光学系における有効領域201,202の夫々の絞り値は、X方向及びY方向において共に2.8である。
図9(a)及び(b)に示すように、測距光学系における第2反射領域G2Mには、光軸Aに対してX方向に偏心した二つの有効領域201,202が存在している。この二つの有効領域201,202は、像面IMGに配置される測距用撮像素子の光電変換部によって決定されるものである。
なお、ここでの測距用撮像素子とは、二つの有効領域201,202(第1及び第2の有効領域)で反射された光束が形成する像の夫々を区別して光電変換することができるものであり、例えば上述したような撮像面位相差センサ(瞳分割型の撮像素子)である。具体的に、測距用撮像素子は、有効領域201で反射された光束が形成する被写体の像を光電変換する第1の光電変換部と、有効領域202で反射された光束が形成する被写体の像を光電変換する第2の光電変換部を含んでいる。すなわち、測距用撮像素子を用いることで、測距光学系の瞳が二分割されることになる。
被写体が測距光学系の前側焦点面上にあるときは、測距光学系の像面において、有効領域201,202で反射された二つの光束による像に位置ずれは発生しない。しかし、被写体が測距光学系の前側焦点面以外の位置にあるときは、有効領域201,202で反射された二つの光束による像に位置ずれが発生する。このとき、各光束が形成する像の位置ずれは被写体の前側焦点面からの変位量に対応しているので、各光束による像の位置ずれ量及び位置ずれの方向を取得することで、被写体までの距離を測定することができる。
上述したように、各実施例に係る光学系100,200において、光軸Aに対して非対称であるY方向における絞り値よりも、光軸Aに対して対称であるX方向における絞り値の方が小さい。そのため、図9に示すように二つの有効領域201,202を光軸Aに対してX方向に偏心させることで、夫々を互いに離間させて基線長を十分に確保することができる。よって、各実施例に係る光学系100,200を測距光学系として採用することで、明るさ及び光学性能を確保しつつ全画角において高い測距精度を実現することが可能になる。
なお、図9(a)及び(b)に示した測距光学系の反射部における有効領域201,202は、何れも円形であるが、必要に応じて図9(c)に示すような楕円などの円以外の形状としてもよい。ただし、測定装置の測距精度を確保するためには、有効領域201,202のX方向において最も離れた端部同士の距離を、有効領域201,202のY方向における最大径よりも大きくすることが望ましい。
[投影装置]
上述した各実施例に係る光学系を投影光学系として投影装置に適用する場合、光学系の縮小面の位置に液晶パネル(空間変調器)等の表示素子の表示面が配置される。ただし、光学系が投影装置に適用される場合は、物体側と像側とが反転して光路が逆向きになる。すなわち、物体側に配置された表示素子の表示面(縮小面)に表示される画像を、光学系により像側に配置されたスクリーン等の投影面(拡大面)に投影(結像)させる構成を採ることができる。この場合にも、光学系を撮像装置に適用した場合と同様に、各実施例における各条件式を満足することが望ましい。
[変形例]
以上、本発明の好ましい実施形態及び実施例について説明したが、本発明はこれらの実施形態及び実施例に限定されず、その要旨の範囲内で種々の組合せ、変形及び変更が可能である。
例えば、各実施例では第1光学素子G1として第1反射領域G1M及び屈折領域G1Tの両方を含む反射屈折素子を採用しているが、第1光学素子G1として第1反射領域G1Mのみを含む反射素子(ミラー)を採用してもよい。また、各実施例に係る光学系は、第3光学素子G3を備えているが、第1光学素子G1及び第2光学素子G2から成る構成を採用してもよい。この場合、第2光学素子G2として、拡大側面及び縮小側面の夫々が曲率半径の異なる複数の光学面で構成されたプリズムを採用してもよい。これにより、各実施例に係る光学系と比較して光学素子の数を減らしつつ、良好な結像性能を得ることが可能になる。