本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
〔実施形態1〕
実施形態1に係るレーザ加工方法及びレーザ加工装置について説明する。レーザ加工方法は、被加工物Wの被加工面Waにレーザ光としてのパルスレーザ光LBを照射して被加工面Waを加工する方法である。レーザ加工方法は、凹凸を有する被加工面Waにパルスレーザ光LBを照射し被加工面Waの凸部Pを加工して平坦(平滑)化した加工平坦面W2(図12参照)を形成する。ここで、被加工物Wは、例えば、プラスチック成型用の金型鋼等の金属素材等から形成される。以下、レーザ加工方法及びレーザ加工装置について詳細に説明する。
なお、以下の説明では、第一方向(X方向)と第二方向(Y方向)と第三方向(Z方向)とは、それぞれ直交する方向である。第一方向と第二方向とは、後述する被加工物Wを載置する載置面81b上で直交する方向である。第三方向は、載置面81bに直交する方向である。なお、第一方向と第二方向とは、典型的には、被加工物Wの厚み方向に直交する面を仮想平面とした場合、当該仮想平面上で直交する方向となり、第三方向は、仮想平面に直交する方向となる。
レーザ加工装置1は、レーザ加工方法を実施するための装置であり、パルスレーザ光LBを被加工物Wに照射して当該被加工物Wを加工する。レーザ加工装置1は、例えば、パルスレーザ光LBの焦点を固定し当該パルスレーザ光LBを被加工物Wの被加工面Waに集光して加工する。レーザ加工装置1は、図1に示すように、レーザ光照射部10と、シャッター20と、アッテネータ30と、ビームエキスパンダ40と、ビーム伝送光学系50と、落射光学系60と、対物レンズ70と、駆動部80と、ランプ照明90と、カメラ100と、制御部110とを備える。
レーザ光照射部10は、パルス状の出力(パルスレーザ光)を一定の繰り返し周波数で発振するレーザ光発振器である。例えば、レーザ光照射部10は、パルス幅可変光源をシード光源に用いた主発振器出力増幅器(MOPA;Master Oscillator Power Amplifier)である。レーザ光照射部10は、MOPAを用いた場合、パルスレーザ光LBの出力特性の一例は次の通りである。すなわち、パルスレーザ光LBの動作波長は、1030nm±1nm程度であり、繰り返し周波数は、30kHz〜1MHz程度であり、パルス幅は、50ps〜8ns程度である。また、出力パワーは、10W程度以上であり、パルスエネルギーは、10μJ〜100μJであり、偏波は、直線であり、ビーム品質であるスクエア(M2)は、1.4未満であり、真円度は、80%超である。レーザ光照射部10は、パルスレーザ光LBをシャッター20に出力(出射)する。なお、パルス幅とは、パルスレーザ光LBのピークパワーの半分の地点におけるパルスの立ち上がりと立ち下がりとの時間間隔である。
シャッター20は、パルスレーザ光LBの透過と遮断とを切り替えるものである。シャッター20は、レーザ光照射部10とアッテネータ30との間に設置され、レーザ光照射部10から出力されたパルスレーザ光LBを透過又は遮断する。シャッター20は、透過したパルスレーザ光LBをアッテネータ30に出力する。
アッテネータ30は、パルスレーザ光LBの強度を調整する減衰器である。アッテネータ30は、シャッター20とビームエキスパンダ40との間に設置され、シャッター20から出力されたパルスレーザ光LBの強度を調整してビームエキスパンダ40に出力する。
ビームエキスパンダ40は、パルスレーザ光LBのビーム径を広げるものである。ビームエキスパンダ40は、アッテネータ30とビーム伝送光学系50との間に設置され、アッテネータ30から出力されたパルスレーザ光LBのビーム径を広げてビーム伝送光学系50に出力する。
ビーム伝送光学系50は、パルスレーザ光LBを導光する導光ミラー等から構成される光学系である。ビーム伝送光学系50は、ビームエキスパンダ40と落射光学系60との間に設置され、ビームエキスパンダ40から出力されたパルスレーザ光LBを導光して落射光学系60に出力する。
落射光学系60は、パルスレーザ光LBが進行する方向を変更する方向変更ミラー等から構成される光学系である。落射光学系60は、ビーム伝送光学系50と対物レンズ70との間に設置され、ビーム伝送光学系50から出力されたパルスレーザ光LBの進行方向を変更して対物レンズ70に出力する。
対物レンズ70は、パルスレーザ光LBを集光して被加工物Wの被加工面Waにパルスレーザ光LBを照射するものである。対物レンズ70は、落射光学系60と駆動部80との間に設置され、落射光学系60から出力されたパルスレーザ光LBを集光し、駆動部80に載置された被加工物Wの被加工面Waにパルスレーザ光LBを照射する。
駆動部80は、被加工物Wを保持すると共に対物レンズ70に対して被加工物Wを相対移動させるものである。駆動部80は、XY軸駆動部81と、Z軸駆動部82とを備える。XY軸駆動部81は、載置部としての平板状の載置台81aと、図示しない固定部と、ボールネジ等から構成される図示しないXY軸駆動機構とを備える。XY軸駆動部81は、固定部により被加工物Wを載置台81aの載置面81bに固定し、XY軸駆動機構により対物レンズ70に対して被加工物WをX方向又はY方向に相対移動させる。Z軸駆動部82は、ボールネジ等から構成される図示しないZ軸駆動機構を備え、Z軸駆動機構により対物レンズ70に対して被加工物WをZ方向に相対移動させる。
ランプ照明90は、被加工物Wを照明により照らすものである。ランプ照明90は、例えば、駆動部80の載置面81bに対向して設置され、載置面81bに載置された被加工物Wに照明を照らす。
カメラ100は、被加工物Wを撮像するものである。カメラ100は、駆動部80の載置面81bに対向して設置され、載置面81bに載置された被加工物Wの被加工面Waの凹凸を撮像する。カメラ100は、撮像した画像を制御部110に出力する。
制御部110は、レーザ加工装置1を制御するものである。制御部110は、CPU、記憶部を構成するROM、RAM及びインターフェースを含む周知のマイクロコンピュータを主体とする電子回路を含んで構成される。制御部110は、レーザ光照射部10及びシャッター20等の光学系を制御し、パルスレーザ光LBの出力を調整する。
次に、図2〜図11を参照してレーザ加工装置1により照射するパルスレーザ光LBのエネルギー球Eについて説明する。エネルギー球Eは、レーザ光除去領域であり、被加工面Waの凸部Pをアブレーション加工可能なパルスレーザ光LBの領域である(図2参照)。つまり、エネルギー球Eは、被加工面Waの凸部Pに照射されたパルスレーザ光LBにおいて実際に凸部Pを切削することが可能な部分である。ここで、被加工面Waの凸部Pは、被加工面Waの最も深い部分(凹部Qの底)を基準にしてZ方向に突出している部分である(図5参照)。エネルギー球Eは、被加工面Waに沿って走査する走査方向に直交する直交方向(Z方向)に平行である。つまり、エネルギー球Eは、被加工物Wの厚み方向に対して平行である。エネルギー球Eは、少なくとも当該エネルギー球Eのレーザ光照射方向(Z方向)における上端部Hから下端部Lまでの長さが、平坦化前の被加工面Waの凸部Pの最大の高さhaと同等以下である(図5参照)。なお、エネルギー球Eのレーザ光照射方向(Z方向)における上端部Hから下端部Lまでの長さは、エネルギー球Eのサイズともいう。エネルギー球Eのサイズは、対物レンズ70等の光学系の設定や、レーザ光照射部10から照射する分布エネルギー密度の設定により変更可能である。エネルギー球Eは、図2に示すように、パルスレーザ光LBの焦点位置Kからレーザ光照射方向の一方側と他方側とにそれぞれ同程度延在して形成されている。なお、図2の左側図は、縦軸がレーザ光照射方向(Z方向)の座標であり、横軸がX方向の座標である。また、図2の右側図は、分布エネルギー密度を示している。エネルギー球Eは、図2、図3に示すように、焦点位置Kが最も分布エネルギー密度が高く焦点位置Kから離れるに従って分布エネルギー密度が低くなる。
次に、エネルギー球Eのサイズを対物レンズ70等の光学系により調整する例について説明する。エネルギー球Eの高さhは、以下の(式1)により求められる。(式1)におけるλは、波長であり、fは、焦点距離であり、M2は、ビーム品質であり、Dは、レンズ集光前のビーム径である。
エネルギー球Eは、例えば、焦点距離fを変更することにより、エネルギー球Eのサイズが調整される。エネルギー球Eは、例えば、焦点距離fが5mm〜30mm程度である。この場合、エネルギー球Eは、上述の(式1)により、パルスレーザ光LBのビーム径がパルスレーザ光LBの焦点位置Kのビーム径Dの√2倍になる焦点位置Kからの高さh2が2μm〜72μm程度である(図4参照)。好ましくは、エネルギー球Eは、焦点距離fが20mmである。この場合、エネルギー球Eは、上述の(式1)により、パルスレーザ光LBのビーム径がパルスレーザ光LBの焦点位置Kのビーム径Dの√2倍になる焦点位置Kからの高さh2が32μmである。この場合、エネルギー球Eは、図5に示すように、被加工面Waの凸部Pの最大の高さが50μm程度であるのに対しエネルギー球Eのサイズが20μm程度であり、エネルギー球Eのサイズが被加工面Waの凸部Pの最大の高さ(50μm)よりも小さい。これにより、エネルギー球Eは、被加工面Waの凸部Pの高さ方向(Z方向)に対する選択性を有し、凸部Pを選択的に切削(アブレーション加工)することができる。ここで、アブレーション加工とは、パルスレーザ光LBが照射された部分が瞬時に蒸発、飛散することで行われる除去加工である。アブレーション加工は、加工部が瞬時に蒸発、飛散し除去されるため、加工部周辺への熱影響が少なく熱損傷の少ない加工である。また、エネルギー球Eは、被加工面Waの凸部Pを切削する場合、エネルギー球Eのサイズが凸部Pに対して小さいため、エネルギー球Eを凸部Pに容易に位置合わせすることができる。また、エネルギー球Eは、エネルギー球Eのサイズが小さいので分布エネルギー密度が相対的に高くなり切削の精度が向上する。
次に、エネルギー球Eのサイズをレーザ光照射部10が照射する分布エネルギー密度により調整する例について説明する。エネルギー球Eは、パルスレーザ光LBの分布エネルギー密度が相対的に増加するとエネルギー球Eのサイズが相対的に大きくなる。例えば、エネルギー球Eは、図6に示すように、設定エネルギー密度が1.0J/cm2である場合、被加工面Waの凸部Pを切削する切削量が7μm程度である。エネルギー球Eは、例えば、焦点位置Kが平坦化前の被加工面Waの凸部Pの先端位置と同等の位置に設定されている。なお、図6は、縦軸が被加工面Waの凸部Pの高さ(μm)であり、横軸が平面方向の距離(mm)である。
また、エネルギー球Eは、図7に示すように、設定エネルギー密度が3.8J/cm2である場合、図6のエネルギー球Eのサイズよりも大きくなり、被加工面Waの凸部Pを切削する切削量が12μm程度である。また、エネルギー球Eは、図8に示すように、設定エネルギー密度が7.5J/cm2である場合、図7のエネルギー球Eのサイズよりも大きくなり、被加工面Waの凸部Pを切削する切削量が18μm程度である。また、エネルギー球Eは、図9に示すように、設定エネルギー密度が10.5J/cm2である場合、図8のエネルギー球Eのサイズよりも大きくなり、被加工面Waの凸部Pを切削する切削量が22μm程度である。このように、エネルギー球Eは、設定エネルギー密度を変更することにより、エネルギー球Eのサイズを変更することができる。なお、図7〜図9は、縦軸が被加工面Waの凸部Pの高さ(μm)であり、横軸が平面方向の距離(mm)である。
次に、図11〜図13を参照して、アブレーション加工及び周期構造としてのナノ周期構造(微細周期構造)Vの形成を同時に実施する例について説明する。ここで、ナノ周期構造Vは、パルスレーザ光LBの波長に基づいて形成される周期構造である(図12参照)。ナノ周期構造Vは、例えば、隣接する凸部P1の間隔Gがパルスレーザ光LBの波長と同等の間隔である周期構造である。エネルギー球E1は、被加工面Waの凸部Pを除去可能に調整され、且つ、被加工面Waにナノ周期構造Vを形成可能に調整されたパルスレーザ光LBの領域である。つまり、エネルギー球E1は、レーザ光除去領域e1及びレーザ光周期構造形成領域e2(以下、「レーザ光周期領域」ともいう。)を含んで構成される(図11参照)。
レーザ光除去領域e1は、被加工面Waの凸部Pをアブレーション加工可能なレーザ光の領域である。つまり、レーザ光除去領域e1は、被加工面Waの凸部Pに照射されたパルスレーザ光LBにおいて実際に凸部Pを切削することが可能な部分である。レーザ光周期領域e2は、被加工面Waにナノ周期構造Vを形成可能なレーザ光の領域である。レーザ光周期領域e2は、レーザ光除去領域e1の外側の領域であり、レーザ光除去領域e1より分布する分布エネルギー密度が小さい。レーザ光周期領域e2は、例えば、被加工物Wの加工閾値近傍の分布エネルギー密度に設定される。ここで、レーザ光除去領域e1及びレーザ光周期領域e2を形成するためのパルスレーザ光LBの出力特性(エネルギー球E1の出力特性)の一例は、次の通りである。すなわち、パルスレーザ光LBの動作波長は、1030nmであり、繰り返し周波数は、100kHzであり、パルス幅は、50psである。また、設定エネルギー密度は、0.15J/cm2であり、スポット径は、6×7(楕円形)μmであり、焦点位置Kは、凸部Pに位置合わせされ(デフォーカス量が0μm)、繰り返し数は、15回であり、雰囲気は、大気である。ここで、デフォーカス量とは、焦点位置Kと被加工面Waの凸部Pとの間の距離である。
エネルギー球E1は、被加工面Waに沿って走査する走査方向に直交する直交方向(Z方向)に平行である。エネルギー球E1は、少なくとも当該エネルギー球E1のレーザ光照射方向(Z方向)における上端部Hから下端部Lまでの長さ(エネルギー球E1のサイズ)が、加工前の被加工面Waの凸部Pの最大の高さhaよりも大きい(図11参照)。エネルギー球E1は、レーザ光照射方向における下端部Lが被加工面Waにおいて加工平坦面W2を形成するための位置に位置合わせされる。つまり、エネルギー球E1は、レーザ光周期領域e2のレーザ光照射方向における下端部Lが被加工面Waにおいて加工平坦面W2を形成するための位置に位置合わせされる。エネルギー球E1は、被加工面Waの凸部Pを切削すると共に被加工面Waにナノ周期構造Vを形成する(図13参照)。なお、図13において、ナノ周期構造Vのサイズを示すために2μmの長さを示す指標を図示している。
次に、図14を参照して実施形態1に係るレーザ加工装置1の動作例について説明する。実施形態1では、先ず、エネルギー球Eにより被加工物Waの凸部Pをアブレーション加工により切削し、次に、エネルギー球E1により被加工物Waの或る程度切削された凸部Pをアブレーション加工すると共に被加工物Waにナノ周期構造Vを形成する例について説明する。レーザ加工装置1は、作業者により予め加工条件が設定される(ステップS1)。ここで、加工条件は、例えば、パルスレーザ光LBの設定エネルギー密度、走査時のスポット径の重なり、繰り返し照射数、加工時間等である。これらの加工条件は、被加工物Wの材質や被加工面Waの凹凸の粗さ等に基づいて、予め実験で求めておく。加工条件は、レーザ光照射部10から照射するパルスレーザ光LBの設定エネルギー密度が設定されることにより、上述したように設定エネルギー密度に応じてエネルギー球Eのサイズが設定されると共にエネルギー球Eによる切削量が設定される。エネルギー球Eは、被加工面Waの凸部Pを除去可能に調整され、且つ、パルスレーザ光LBの波長に基づくナノ周期構造Vを形成不可能に調整される。
レーザ加工装置1は、加工条件が設定された後、第一平坦化工程を実施する(ステップS2)。第一平坦化工程は、被加工面Waの凸部Pを或る程度の高さまで切削する工程である。つまり、第一平坦化工程は、ナノ周期構造Vを形成する前までの工程である。第一平坦化工程において、レーザ加工装置1は、最初に、駆動部80の載置台81aに載置された被加工物Wを駆動部80により駆動し被加工物Wを加工開始位置に移動する。そして、レーザ加工装置1は、カメラ100により被加工物Wの被加工面Waの凹凸を撮像し、撮像した画像に基づいてXY軸駆動部81によりX方向又はY方向に被加工物Wを移動させ、被加工面Waの凸部Pに対してパルスレーザ光LBのエネルギー球Eを照射し走査しながら当該凸部Pの高さ方向における一部を被加工面Waの全域に渡って切削する(切削工程)。次に、レーザ加工装置1は、被加工面Waの全域に渡って切削加工が終了し加工面W1(図10参照)を形成する第一平坦化工程が終了したか否かを判定する(ステップS3)。レーザ加工装置1は、加工面W1を形成する第一平坦化工程が終了していないと判定すると(ステップS3;No)、上述のステップS2に戻り、レーザ加工装置1は、カメラ100により被加工物Wの被加工面Waの凹凸を撮像し、撮像した画像に基づいてZ軸駆動部82によりZ方向に被加工物Wを移動させて被加工面Waの切削量に応じて被加工物Wを所望の高さに設定する。そして、レーザ加工装置1は、上述の切削工程を再度実施する。レーザ加工装置1は、最終の切削工程では、エネルギー球Eのレーザ光照射方向における下端部Lを被加工面Waにおいて加工面W1を形成するための位置に位置合わせを行い、加工面W1を形成する。レーザ加工装置1は、加工面W1を形成する第一平坦化工程が終了したと判定すると(ステップS3;Yes)、第二平坦化工程に移行する。
第二平坦化工程は、被加工面Waの凸部Pを切削すると共に被加工面Waにナノ周期構造Vを形成する工程である(ステップS4)。第二平坦化工程において、加工条件は、例えば、上述のエネルギー球E1の出力特性に設定される。エネルギー球E1は、被加工面Waの凸部Pを除去可能に調整され、且つ、パルスレーザ光の波長に基づくナノ周期構造Vを形成可能に調整される。レーザ加工装置1は、駆動部80の載置台81aに載置された被加工物Wを駆動部80により駆動し被加工物Wを加工開始位置に移動する。そして、レーザ加工装置1は、カメラ100により被加工物Wの被加工面Waの凹凸を撮像し、撮像した画像に基づいてXY軸駆動部81によりX方向又はY方向に被加工物Wを移動させ、被加工面Waの凸部Pに対してパルスレーザ光LBのエネルギー球E1を照射し走査しながら当該凸部Pを切削すると共に被加工面Waにナノ周期構造Vを形成する。レーザ加工装置1は、被加工面Waの全域に渡ってナノ周期構造Vが形成された加工平坦面W2を形成すると、第二平坦化工程を終了し処理を終了する。
以上のように、実施形態1に係るレーザ加工方法は、凹凸を有する被加工面Waにパルスレーザ光LBを照射して走査し、被加工面Waの凸部Pを加工して平坦化した加工平坦面W2を形成する第二平坦化工程を有する。第二平坦化工程は、加工平坦面W2を形成するパルスレーザ光LBの最終走査において、被加工面Waの凸部Pを除去可能に調整され、且つ、パルスレーザ光LBの波長に基づくナノ周期構造Vを形成可能に調整されたパルスレーザ光LBで被加工面Waを加工して加工平坦面W2を形成する。レーザ加工装置1は、第二平坦化工程を実施する装置である。
この構成により、レーザ加工方法及びレーザ加工装置1は、被加工面Waの凸部Pを除去すると共に被加工面Waにナノ周期構造Vを形成することができる。この形成方法により、レーザ加工方法及びレーザ加工装置1は、例えば、被加工面Waの凸部Pを除去する処理と被加工面Waにナノ周期構造Vを形成する処理とを別々に実施する場合と比較して、処理工程を短縮することができる。従って、レーザ加工方法及びレーザ加工装置1は、平坦化された被加工面Waに周期構造を適正に形成することができる。また、レーザ加工方法及びレーザ加工装置1は、加工平坦面W2において、離型性の向上、親水性の向上、撥水性の向上、摩擦の低減、摩耗の低減、光の反射性の向上、光の回折性の向上等の特性を実現できる。レーザ加工方法及びレーザ加工装置1は、例えば、プラスチック成型用の金型鋼にナノ周期構造Vを形成した場合、当該金型鋼により成形されたプラスチック材料の表面にホログラムを形成することができる。レーザ加工方法及びレーザ加工装置1は、ピコ秒のパルスレーザLBを使用することで、例えばフェムト秒のレーザを使用する場合と比較してコストを抑制できる。また、レーザ加工方法及びレーザ加工装置1は、設定エネルギー密度、デフォーカス量、繰り返し周波数を変更することにより、ミクロン単位で凸部Pを除去する量を調整することができる。また、レーザ加工方法及びレーザ加工装置1は、従来のようなフライス盤を用いた機械加工と比較して、接触抵抗等を考慮する必要がないため被加工物Wへの熱影響を低減させることが可能となり、被加工物Wの変形、うねりなどの悪影響がない加工形状を得ることができる。また、レーザ加工方法及びレーザ加工装置1は、機械加工に比べてより小さい面積の選択的加工や、より複雑な形状の加工が可能となる。また、レーザ加工方法及びレーザ加工装置1は、機械加工に比べて被加工物Wの硬さに依存しない加工が可能となり、さらに定期的に交換する消耗品を少なくできる。また、レーザ加工方法及びレーザ加工装置1は、図示しないヒュームコレクタにより加工屑を吸引することにより、加工装置内のクリーン度を保った状態で加工することができる。
上記レーザ加工方法において、第二平坦化工程は、レーザ光除去領域e1、及び、レーザ光周期領域e2を含むように調整されたパルスレーザ光LBで被加工面Waを加工して加工平坦面W2を形成する。ここで、レーザ光除去領域e1は、被加工面Waの凸部Pをアブレーション加工可能なパルスレーザ光LBの領域である。レーザ光周期領域e2は、レーザ光除去領域e1の外側の領域でありレーザ光除去領域e1より分布する分布エネルギー密度が小さくナノ周期構造Vを形成可能なパルスレーザ光LBの領域である。この構成により、レーザ加工方法は、被加工面Waの凸部Pを除去すると共に被加工面Waにナノ周期構造Vを形成することができる。
上記レーザ加工方法において、平坦化工程は、第一平坦化工程と、第二平坦化工程とを有する。第一平坦化工程はパルスレーザ光LBの最終走査よりも前の走査において、被加工面Waの凸部Pを除去可能に調整され、且つ、パルスレーザ光LBの波長に基づくナノ周期構造Vを形成不可能に調整されたパルスレーザ光LBで被加工面Waを加工する。第二平坦化工程は、パルスレーザ光LBの最終走査において、被加工面Waの凸部Pを除去可能に調整され、且つ、パルスレーザ光LBの波長に基づくナノ周期構造Vを形成可能に調整されたパルスレーザ光LBで被加工面Waを加工して加工平坦面W2を形成する。
つまり、第一平坦化工程は、パルスレーザ光LBの最終走査よりも前の走査において、レーザ光周期領域e2を含まずにレーザ光除去領域e1を含むように調整されたパルスレーザ光LBで被加工面Waを加工する。第二平坦化工程は、パルスレーザ光LBの最終走査において、レーザ光除去領域e1、及び、レーザ光周期領域e2を含むように調整されたパルスレーザ光LBで被加工面Waを加工して加工平坦面W2を形成する。この構成により、平坦化工程は、被加工面Waの凸部Pの高さが相対的に高い場合、第一平坦化工程においてエネルギー球E1よりも高い分布エネルギー密度であるエネルギー球Eにより被加工面Waの凸部Pを或る程度の高さまで切削することができ、切削工程の時間を相対的に短縮することができる。
〔実施形態1の変形例〕
次に、実施形態1の変形例について説明する。実施形態1は、パルスレーザ光LBの設定エネルギー密度を0.15J/cm2とし、焦点位置Kを凸部Pに位置合わせ(デフォーカス量を0μm)としたが、これらの設定を変更してもよい。例えば、変形例は、パルスレーザ光LBの設定エネルギー密度を0.76J/cm2とし、デフォーカス量を0μm、10μm、26μm、又は、40μmとし、繰り返し数を50回とした。デフォーカス量を0μmとした場合には、被加工面Waにナノ周期構造Vの一部が確認された。デフォーカス量を10μmとした場合には、被加工面Waに図17に示すようなナノ周期構造Vが確認され、デフォーカス量を26μmとした場合には、被加工面Waに図18に示すようなナノ周期構造Vが確認された。デフォーカス量を40μmとした場合には、被加工面Waが細かい粒子状に遷移しナノ周期構造Vが確認されなかった。このように、被加工面Waの加工は、デフォーカスによるビーム径の広がりと分布エネルギー密度とに関係することが分かる。デフォーカス量が0μmの場合、ビーム径が小さいため分布エネルギー密度が相対的に大きく、溶融部分が発生してナノ周期構造Vが一部しか残らない。一方、デフォーカスによりビーム径が広がり分布エネルギー密度が小さくなると、熱の侵入が少なくなり、アブレーション閾値近傍で表面にナノ周期構造Vが形成される。さらに、デフォーカス量を大きくして40μmになると、分布エネルギー密度がアブレーション閾値を下回りナノ周期構造Vの形成が十分に行われておらず、被加工面Waが細かい粒子状になる。なお、図17及び図18において、ナノ周期構造Vのサイズを示すために2μmの長さを示す指標を図示している。
エネルギー球E1の加工深さは、図15に示すように、デフォーカス量が増加するにつれて減少していき、40μmになるとほとんど加工されていないことが分かる。エネルギー球E1は、デフォーカス量が大きくなると分布エネルギー密度の低い部分で加工することになるため、加工領域が狭くなり加工深さが減少する。エネルギー球E1は、デフォーカス量が40μmのときは被加工面Waの大部分が加工領域に含まれなくなり、加工されなかったと考えられる。
各デフォーカス量における表面粗さの変化について説明する。初期表面粗さが0.94μmRaの被加工面Waにパルスレーザを照射することで表面粗さが向上した。例えば、デフォーカス量が26μmのときに表面粗さが0.56μmRaとなり、41%低減された。これについて加工領域の限界付近で加工されたため、被加工面Waの凸部Pが切削されることで平坦化され、表面粗さが向上したと考えられる。これにより、デフォーカス量が26μmのときに表面粗さを最も向上させると同時にナノ周期構造Vも形成できることが分かった(図16参照)。
なお、第一平坦化工程は、被加工面Waの凸部Pを除去可能に調整され、且つ、パルスレーザ光LBの波長に基づくナノ周期構造Vを形成可能に調整されたパルスレーザ光LBで被加工面Waを加工してもよい。つまり、第一平坦化工程は、第二平坦化工程と同様にレーザ光除去領域e1、及び、レーザ光周期領域e2を含むように調整されたパルスレーザ光LBで被加工面Waを加工してもよい。この構成により、レーザ加工方法は、加工条件を変更する手間を省略することができる。
〔実施形態2〕
次に、実施形態2に係るレーザ加工方法について説明する。実施形態2に係るエネルギー球E2(図20参照)は、被加工面Waの凸部Pを除去可能に調整され、且つ、被加工面Waにナノ周期構造Vを形成可能に調整されたパルスレーザ光LBの領域である。つまり、エネルギー球E2は、レーザ光除去領域e1及びレーザ光周期領域e2を含んで構成される。エネルギー球E2は、焦点距離fが30mmの例である。この場合、エネルギー球E2は、上述の(式1)により、パルスレーザ光LBのビーム径がパルスレーザ光LBの焦点位置Kのビーム径Dの√2倍になる焦点位置Kからの高さh1が71.82μmである(図19参照)。エネルギー球E2は、図20に示すように、被加工面Waの凸部Pの最大の高さが50μm程度であるのに対しエネルギー球E2のサイズが72μm程度あり、エネルギー球E2のサイズが平坦化前の被加工面Waの凸部Pの最大の高さより大きい。これにより、エネルギー球E2は、被加工面Waの凸部Pの高さ方向における大部分を一度に切削することができると共にナノ周期構造Vを形成することができる。なお、エネルギー球E2の上限サイズは、被加工面Waの凸部Pの10倍の高さよりも小さい。好ましくは、エネルギー球E2の上限サイズは、被加工面Waの凸部Pと同等の高さ〜2倍の高さよりも小さい。
エネルギー球E2は、被加工面Waに沿って走査する走査方向に直交する直交方向(Z方向)に平行である。つまり、エネルギー球E2は、被加工物Wの厚み方向に対して平行である。エネルギー球E2は、パルスレーザ光LBの分布エネルギー密度が相対的に増加するとエネルギー球E2のサイズが相対的に大きくなる。レーザ加工装置1は、図21に示すように、被加工面Waの凸部Pに対して、焦点位置Kや、レーザ光照射部10から照射する分布エネルギー密度を適宜調整してエネルギー球E2を形成する。図21に示す例では、レーザ加工装置1は、焦点位置KをZ座標が70μm程度の位置に設定し、エネルギー球E2の下端部Lの位置をZ座標が0μm程度の位置に設定している。つまり、レーザ加工装置1は、エネルギー球E2のレーザ光周期領域e2の下端部Lの位置を被加工面Waにおいて加工平坦面W2を形成するための位置に位置合わせしている。この例では、レーザ加工装置1は、1回の走査により被加工面Waの凸部Pを切削し、加工前の被加工面Waの凸部Pの最大の高さRyが50μm〜60μmであったが、加工後の被加工面Waの凸部Pの最大の高さRyが7.6μmになった。レーザ加工装置1は、エネルギー球E2のサイズが実施形態1のエネルギー球E1のサイズよりも大きく分布エネルギー密度が高いので加工時間を短縮することができる。また、レーザ加工装置1は、エネルギー球E2の下端部Lの位置を把握し当該下端部Lの位置を調整することで、簡易に凸部Pを所望の高さに調整することが可能となり被加工面Waを平坦化することができる。なお、図21は、縦軸がZ座標(μm)であり、横軸がX座標(μm)である。図21は、X座標が2000μm〜4000μm程度の範囲までエネルギー球E2により被加工面Waの凸部Pを切削している例である。
以上のように、実施形態2に係るレーザ加工方法において、平坦化工程は、少なくともエネルギー球E2のレーザ光照射方向における上端部Hから下端部Lまでの長さが平坦化前の被加工面Waの凸部Pの最大の高さより大きいエネルギー球E2のパルスレーザ光LBにより被加工面Waの凸部Pを加工する。これにより、実施形態2に係るレーザ加工方法は、被加工面Waの凸部Pをより多く切削することが可能となり、切削時間を短縮することができると共にナノ周期構造Vを形成することができる。
なお、被加工物Wは、例えば、プラスチック成型用の金型鋼から形成される例について説明したが、他の合金であってもよい。また、パルスレーザ光LBの出力特性は、被加工物Wの材質によって適宜変更可能である。