JP5510486B2 - レーザー加工方法、被加工物の分割方法およびレーザー加工装置 - Google Patents

レーザー加工方法、被加工物の分割方法およびレーザー加工装置 Download PDF

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本発明は、レーザー光を照射して被加工物を加工するレーザー加工方法に関する。
パルスレーザー光を照射して被加工物を加工する技術(以下、単にレーザー加工もしくはレーザー加工技術とも称する)として種々のものがすでに公知である(例えば、特許文献1ないし特許文献4参照)。
特許文献1に開示されているのは、被加工物たるダイを分割する際に、レーザーアブレーションにより分割予定線に沿って断面V字形の溝(ブレイク溝)を形成し、この溝を起点としてダイを分割する手法である。一方、特許文献2に開示されているのは、デフォーカス状態のレーザー光を被加工物(被分割体)の分割予定線に沿って照射することにより被照射領域に周囲よりも結晶状態の悪い断面略V字形の融解改質領域(変質領域)を生じさせ、この融解改質領域の最下点を起点として被加工物を分割する手法である。
特許文献1および特許文献2に開示の技術を用いて分割起点を形成する場合はいずれも、その後の分割が良好に行われるために、レーザー光の走査方向である分割予定線方向に沿って均一な形状のV字形断面(溝断面もしくは変質領域断面)を形成することが、重要である。そのための対応として、例えば、1パルスごとのレーザー光の被照射領域(ビームスポット)が前後で重複するようにレーザー光の照射が制御される。
例えば、レーザー加工の最も基本的なパラメータである、繰返し周波数(単位kHz)をRとし、走査速度(単位mm/sec)をVとするとき、両者の比V/Rがビームスポットの中心間隔となるが、特許文献1および特許文献2に開示の技術においては、ビームスポット同士に重なりが生じるよう、V/Rが1μm以下となる条件で、レーザー光の照射および走査が行われる。
また、特許文献3には、表面に積層部を有する基板の内部に集光点を合わせてレーザー光を照射することによって基板内部に改質領域を形成し、この改質領域を切断の起点とする態様が開示されている。
また、特許文献4には、1つの分離線に対して複数回のレーザー光走査を繰り返し、分離線方向に連続する溝部および改質部と、分離線方向に連続しない内部改質部とを深さ方向の上下に形成する態様が開示されている。
特開2004−9139号公報 国際公開第2006/062017号 特開2007−83309号公報 特開2008−98465号公報
レーザー光により分割起点を形成し、その後、ブレーカーにより分割をおこなうという手法は、従来より行われている機械的切断法であるダイヤモンドスクライビングと比較して、自動性・高速性・安定性・高精度性において有利である。
しかしながら、サファイアなどの硬脆性かつ光学的に透明な材料からなる基板の上に、LED構造などの発光素子構造を形成した被加工物をチップ(分割素片)単位に分割する場合、レーザー加工の結果生じる加工痕が、発光素子内部で生じた光を吸収してしまい、素子からの光の取り出し効率を低下させてしまうという問題がある。特に、屈折率の高いサファイア基板を用いた発光素子構造の場合に係る問題が顕著である。
本発明の発明者は、鋭意検討を重ねた結果、被加工物のレーザー光照射位置(被加工位置)に、数μm程度のピッチの微細な凹凸を形成して当該位置での全反射率を低下させることが、上述の問題点を解決するうえで有効であるとの知見を得た。
特許文献1ないし特許文献3においては、係る問題点に対する認識があるとは認められず、当然ながらこれを解決する手段についての開示も示唆もなされてはいない。
例えば、特許文献1および特許文献2に開示されているのは、分割予定線方向に沿って均一な形状のV字形断面を形成する技術であり、上述のような凹凸を形成する態様とは相反するものである。
一方、特許文献4においては、レーザー光で分離面を完全に溶断する場合に光の取り出し効率が悪化する旨を指摘したうえで、上述したように1つの分離予定線に対して上下に複数回の加工を行う態様を開示しているが、係る態様は、工程が複雑であり、かつタクトタイムを要するという問題がある。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、加工痕における光吸収が低減されるレーザー加工を行えるレーザー加工方法およびこれを実現するレーザー加工装置を提供することを目的とする。
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、所定の光源から出射されたパルスレーザー光を走査しつつ照射することにより、光学的に透明な基板と当該基板の上に形成された発光素子構造とを有する被加工物に被加工領域を形成するレーザー加工方法であって、前記パルスレーザー光が、パルス幅が50nsec以上であるYAG3倍高調波であり、前記光源からの前記パルスレーザー光の照射状態を第1の方向において変調させることによって前記被加工物の表面における照射範囲を前記第1の方向において変調させつつ前記パルスレーザー光を照射することにより、前記第1の方向に連続する部分を有するが、前記第1の方向に垂直な断面の状態が前記第1の方向において変化する前記被加工領域を形成する、ことを特徴とする。
請求項2の発明は、所定の光源から出射されたパルスレーザー光を走査しつつ照射することにより、光学的に透明な基板と当該基板の上に形成された発光素子構造とを有する被加工物に被加工領域を形成するレーザー加工方法であって、前記パルスレーザー光が、パルス幅が50nsec以上であるYAG3倍高調波であり、前記光源からの前記パルスレーザー光の照射状態を第1の方向において変調させることによって前記被加工物の表面における照射範囲を前記第1の方向において変調させつつ前記パルスレーザー光を照射することにより、前記被加工物の表面において前記第1の方向に連続する第1領域と、前記第1領域に連接するが前記第1の方向において不連続部分を有する第2領域と、を有する前記被加工領域を形成する、ことを特徴とする。
請求項の発明は、請求項1または請求項に記載のレーザー加工方法であって、前記パルスレーザー光の単位パルスごとのビームスポットが前記第1の方向に沿って離散する照射条件で前記パルスレーザー光を走査することにより、前記被加工物の表面における照射範囲を変調させる、ことを特徴とする。
請求項の発明は、請求項に記載のレーザー加工方法であって、前記パルスレーザー光の繰り返し周波数をR(kHz)とし、前記パルスレーザー光の前記被加工物に対する相対的な移動速度をV(mm/sec)とし、前記被加工物の前記表面における前記被加工領域の前記第1の方向に直交する方向の予定形成幅をW(μm)とするとき、10(kHz)≦R≦200(kHz)かつ30(mm/sec)≦V≦1000(mm/sec)であり、前記パルスレーザー光のビームスポットの中心間隔を表すV/Rが、V/R≧1(μm)かつW/4(μm)≦V/R≦W/2(μm)という関係をみたす照射条件のもとで前記パルスレーザー光を前記第1の方向に沿って走査することにより、前記被加工物の表面における照射範囲を変調させる、ことを特徴とする。
請求項の発明は、請求項に記載のレーザー加工方法であって、V/R≧3(μm)という関係をみたす照射条件のもとで前記パルスレーザー光を走査することを特徴とする。
請求項の発明は、請求項1または請求項に記載のレーザー加工方法であって、前記パルスレーザー光の照射エネルギーを変調させつつ前記パルスレーザー光を前記第1の方向に走査することにより前記被加工物の表面における照射範囲を変調させることを特徴とする。
請求項の発明は、請求項1または請求項に記載のレーザー加工方法であって、それぞれに前記第1の方向に対し所定の角度を有する第2の方向と第3の方向への前記パルスレーザー光の走査を交互に繰り返すことによって、前記被加工物における前記パルスレーザー光の走査軌跡を前記第1の方向に沿った分割予定線と繰り返し交互に交差させることにより、前記被加工物の表面における照射範囲を変調させることを特徴とする。
請求項の発明は、請求項に記載のレーザー加工方法であって、前記パルスレーザー光を前記被加工物の移動方向に直交させる方向にて往復走査させることにより、前記パルスレーザー光の前記走査軌跡を前記第1の方向に沿った分割予定線と繰り返し交互に交差させることにより、前記被加工物の表面における照射範囲を変調させることを特徴とする。
請求項の発明は、請求項1ないし請求項のいずれかに記載のレーザー加工方法であって、前記パルスレーザー光を照射することによって被照射部分の材料を除去することにより前記被加工領域を形成することを特徴とする。
請求項10の発明は、請求項1ないし請求項のいずれかに記載のレーザー加工方法であって、前記パルスレーザー光を照射することによって前記被加工物に融解改質領域を生じさせることにより前記被加工領域を形成することを特徴とする。
請求項11の発明は、請求項1ないし請求項10のいずれかに記載のレーザー加工方法であって、前記基板がサファイア基板、GaN基板、あるいはSiC基板のいずれかであることを特徴とする。
請求項12の発明は、被加工物を分割する方法であって、請求項1ないし請求項11のいずれかに記載のレーザー加工方法によって、前記加工物に、所定の分割予定線に沿った前記被加工領域を形成する形成工程と、前記被加工物を前記被加工領域に沿って分割する分割工程と、を備えることを特徴とする。
請求項13の発明は、パルスレーザー光を発する光源と、前記光源に対して相対的に移動可能に設けられた、被加工物が載置されるステージと、前記光源からのパルスレーザー光の出射と前記ステージの移動とを制御する制御手段と、を備え、前記被加工物が載置された状態で、前記ステージを前記光源に対して相対的に移動させつつ前記光源から前記パルスレーザー光を出射させることによって、前記パルスレーザー光を走査しつつ前記被加工物に被加工領域を形成するレーザー加工装置であって、前記被加工物が、光学的に透明な基板と当該基板の上に形成された発光素子構造とを有するものであり、前記パルスレーザー光が、パルス幅が50nsec以上であるYAG3倍高調波であり、前記制御手段が、前記パルスレーザー光を第1の方向において走査させる際に前記光源からの前記パルスレーザー光の照射状態が前記第1の方向において変調するように前記光源および前記ステージの動作を制御することによって、前記第1の方向に連続する部分を有するが、前記第1の方向に垂直な断面の状態が前記第1の方向において変化する前記被加工領域を形成可能である、ことを特徴とする。
請求項14の発明は、パルスレーザー光を発する光源と、前記光源に対して相対的に移動可能に設けられた、被加工物が載置されるステージと、前記光源からのパルスレーザー光の出射と前記ステージの移動とを制御する制御手段と、を備え、前記被加工物が載置された状態で、前記ステージを前記光源に対して相対的に移動させつつ前記光源から前記パルスレーザー光を出射させることによって、前記パルスレーザー光を走査しつつ前記被加工物に被加工領域を形成するレーザー加工装置であって、前記被加工物が、光学的に透明な基板と当該基板の上に形成された発光素子構造とを有するものであり、前記パルスレーザー光が、パルス幅が50nsec以上であるYAG3倍高調波であり、前記制御手段が、前記パルスレーザー光を第1の方向において走査させる際に前記光源からの前記パルスレーザー光の照射状態が前記第1の方向において変調するように前記光源および前記ステージの動作を制御することによって、前記被加工物の表面において前記第1の方向に連続する第1領域と、前記第1領域に連接するが前記第1の方向において不連続部分を有する第2領域と、を有する前記被加工領域を形成可能である、ことを特徴とする。
請求項15の発明は、請求項13または請求項14に記載のレーザー加工装置であって、前記制御手段が、前記パルスレーザー光を走査させる際に前記パルスレーザー光の単位パルスごとのビームスポットが前記第1の方向に沿って離散するように前記光源および前記ステージの動作を制御することにより、前記被加工物の表面における照射範囲を変調させる、ことを特徴とする。
請求項16の発明は、請求項15に記載のレーザー加工装置であって、前記パルスレーザー光の繰り返し周波数をR(kHz)とし、前記パルスレーザー光の前記被加工物に対する相対的な移動速度をV(mm/sec)とするとき、10(kHz)≦R≦200(kHz)かつ30(mm/sec)≦V≦1000(mm/sec)であり、前記パルスレーザー光のビームスポットの中心間隔を表すV/Rが、V/R≧1(μm)かつW/4(μm)≦V/R≦W/2(μm)という関係をみたすように、前記制御手段が前記光源および前記ステージの動作を制御する、ことを特徴とする。
請求項17の発明は、請求項16に記載のレーザー加工装置であって、前記制御手段が、V/R≧3(μm)という関係をみたすように前記光源および前記ステージの動作を制御することを特徴とする。
請求項18の発明は、請求項13または請求項14に記載のレーザー加工装置であって、前記制御手段が、前記パルスレーザー光を走査させる際に前記パルスレーザー光の照射エネルギーが変調するように前記光源および前記ステージの動作を制御することにより、前記被加工物の表面における照射範囲を変調させる、ことを特徴とする。
請求項19の発明は、請求項13または請求項14に記載のレーザー加工装置であって、前記制御手段が、それぞれに前記第1の方向に対し所定の角度を有する第2の方向と第3の方向への前記パルスレーザー光の走査が交互に繰り返されるように前記光源および前記ステージの動作を制御することによって、前記被加工物における前記パルスレーザー光の走査軌跡を前記第1の方向に沿った分割予定線と繰り返し交互に交差させることにより、前記被加工物の表面における照射範囲を変調させることを特徴とする。
請求項20の発明は、請求項19に記載のレーザー加工装置であって、前記制御手段が、前記パルスレーザー光を前記ステージの移動方向に直交させる方向にて往復走査させるように前記光源および前記ステージの動作を制御することによって、前記パルスレーザー光の前記走査軌跡を前記第1の方向に沿った分割予定線と繰り返し交互に交差させることにより、前記被加工物の表面における照射範囲を変調させることを特徴とする。
請求項21の発明は、請求項13ないし請求項20のいずれかに記載のレーザー加工装置であって、前記基板がサファイア基板、GaN基板、あるいはSiC基板のいずれかであることを特徴とする。
請求項1ないし請求項21の発明によれば、被加工物を分割する際の分割起点となる被加工領域を、表面側では連続するが底部が不連続である形状に形成することができる。これにより、発光素子構造を分割する場合に、加工痕における光吸収能が抑制された分割素片が得られる。
本発明の実施の形態に係るレーザー加工装置50の構成を概略的に示す模式図である。 レーザー加工装置50におけるレーザー光LBの繰り返し周波数と、ステージ7の走査速度と、ビームスポット中心間隔との関係について説明する図である。 第1変調モードにおけるレーザー光LBの照射態様と、形成される被加工領域REとの関係を模式的に示す斜視図である。 第1変調モードにおけるレーザー光LBの照射態様と、形成される被加工領域REとの関係を模式的に示す上面図および断面図である。 第2変調モードにおける照射エネルギーEとビームスポットBSのサイズおよび被加工領域REの形状との関係を模式的に示す図である。 第3変調モードにおけるビームスポットBSの位置と被加工物10移動方向との関係を模式的に示す図である。 変形例に係る被加工領域REの被加工物10の表面における形状を例示する図である。 サファイア基板を被加工物10として第1変調モードにより加工を行った後の、被加工物10の上面についての光学顕微鏡像である。 図8に示すサファイア基板を該被加工領域REを分割起点としてブレイクした結果得られた分割素片10aの側面の光学顕微鏡像である。 サファイア基板を被加工物10として第2変調モードにより加工を行った後の、被加工物10の上面についての光学顕微鏡像である。 図10に示すサファイア基板を該被加工領域REを分割起点としてブレイクした結果得られた分割素片10bの側面の光学顕微鏡像である。
<レーザー加工装置の概要>
図1は、本発明の実施の形態に係るレーザー加工装置50の構成を概略的に示す模式図である。レーザー加工装置50は、レーザー光照射部50Aと、観察部50Bと、例えば石英などの透明な部材からなり、被加工物10をその上に載置するステージ7と、レーザー加工装置50の種々の動作(観察動作、アライメント動作、加工動作など)を行うコントローラ1とを主として備える。レーザー光照射部50Aは、ステージ7に載置された被加工物10にレーザー光を照射する部位であり、観察部50Bは、該被加工物10をレーザー光が照射される側(これを表面と称する)から直接に観測する表面観察と、ステージ7に載置された側(これを裏面と称する)から該ステージ7を介して観察する裏面観察とを行う部位である。
ステージ7は、移動機構7mによってレーザー光照射部50Aと観察部50Bとの間で水平方向に移動可能とされてなる。移動機構7mは、図示しない駆動手段の作用により水平面内で所定のXY2軸方向にステージ7を移動させる。これにより、レーザー光照射部50A内におけるレーザー光照射位置の移動や、観察部50B内における観察位置の移動や、レーザー光照射部50Aと観察部50Bとの間のステージ7の移動などが実現されてなる。なお、移動機構7mについては、所定の回転軸を中心とした、水平面内における回転(θ回転)動作も、水平駆動と独立に行えるようになっている。
また、レーザー加工装置50においては、表面観察と裏面観察とを適宜に切替可能に行えるようになっている。これにより、被加工物10の材質や状態に応じた最適な観察を柔軟かつ速やかに行うことが出来る。
ステージ7は、上述したように、石英など透明な部材で形成されているが、その内部には、被加工物10を吸着固定するための吸気通路となる図示しない吸引用配管が設けられてなる。吸引用配管は、例えば、ステージ7の所定位置を機械加工により削孔することにより設けられる。
被加工物10をステージ7の上に載置した状態で、例えば吸引ポンプなどの吸引手段11により吸引用配管に対し吸引を行い、吸引用配管のステージ7載置面側先端に設けられた吸引孔に対し負圧を与えることで、被加工物10(および透明シート4)がステージ7に固定されるようになっている。なお、図1においては、加工対象である被加工物10が透明シート4に貼り付けられている場合を例示しているが、透明基板保護シート4の貼付は必須ではない。
レーザー光照射部50Aは、ステージ7に載置された被加工物10に対しレーザー光を照射することによって被加工物10を加工することができるように構成されている。
より詳細にいえば、レーザー光照射部50Aにおいては、レーザー光源SLからレーザー光LBを発し、図示を省略する鏡筒内に備わるダイクロイックミラー51にて反射させた後、該レーザー光LBを、レーザー光照射部50Aにステージ7が位置する状態でステージ7に載置された被加工物10の被加工部位にて合焦するよう集光レンズ52にて集光し、被加工物10に照射する。係るレーザー光LBの照射と、ステージ7の移動とを組み合わせることによって、レーザー光LBを被加工物10に対して相対的に走査させつつ被加工物10の加工を行えるようになっている。例えば、被加工物10の表面に溝加工(スクライビング)を施し、被加工物10を分割する加工が行える。
なお、レーザー加工装置50においては、加工処理の際、必要に応じて、合焦位置を被加工物10の表面から意図的にずらしたデフォーカス状態で、レーザー光LBを照射することも可能となっている。
<レーザー光源>
レーザー光源SLとしては、Nd:YAGレーザーを用いるのが好適な態様である。あるいは、Nd:YVO4レーザーやその他の固体レーザーを用いる態様であってもよい。さらには、レーザー光源SLは、Qスイッチ付きであることが好ましい。
また、レーザー光源SLから発せられるレーザー光LBの波長や出力、パルスの繰り返し周波数、パルス幅の調整などは、コントローラ1の照射制御部23により実現される。加工モード設定データD2に従った所定の設定信号が加工処理部25から照射制御部23に対し発せられると、照射制御部23は、該設定信号に従って、レーザー光LBの照射条件を設定する。
本実施の形態においては、レーザー光LBの波長は150nm〜563nmの波長範囲に属することが好ましく、なかでもNd:YAGレーザーをレーザー光源SLとする場合は、その3倍高調波(波長約355nm)を用いるのが好適な態様である。また、パルスの繰り返し周波数は10kHz〜200kHzであることが好ましく、パルス幅は、50nsec以上であることが好適である。
レーザー光LBは、集光レンズ18によって1μm〜10μm程度のビーム径に絞られて照射されることが好ましい。係る場合、レーザー光LBの照射におけるピークパワー密度はおおよそ1GW/cm2〜10GW/cm2となる。
なお、レーザー光源SLから出射されるレーザー光LBの偏光状態は、円偏光であっても直線偏光であってもよい。ただし、直線偏光の場合、結晶性被加工材料中での加工断面の曲がりとエネルギー吸収率の観点から、偏光方向が走査方向と略平行にあるように、例えば両者のなす角が±1°以内にあるようにされることが好ましい。また、出射光が直線偏光の場合、レーザー加工装置50は図示しないアッテネータを備えることが好ましい。アッテネータはレーザー光LBの光路上の適宜の位置に配置され、出射されたレーザー光LBの強度を調整する役割を担う。
<照明系および観察系>
観察部50Bは、ステージ7に載置された被加工物10に対してステージ7の上方から落射照明光源S1からの落射照明光L1の照射と斜光照明光源S2からの斜光透過照明光L2の照射とを重畳的に行いつつ、ステージ7の上方側からの表面観察手段6による表面観察と、ステージ7の下方側からの裏面観察手段16による裏面観察とを、行えるように構成されている。
具体的には、落射照明光源S1から発せられた落射照明光L1が、図示を省略する鏡筒内に設けられたハーフミラー9で反射され、被加工物10に照射されるようになっている。また、観察部50Bは、ハーフミラー9の上方(鏡筒の上方)に設けられたCCDカメラ6aと該CCDカメラ6aに接続されたモニタ6bとを含む表面観察手段6を備えており、落射照明光L1を照射させた状態でリアルタイムに被加工物10の明視野像の観察を行うことが出来るようになっている。
また、観察部50Bにおいては、ステージ7の下方に、より好ましくは、後述するハーフミラー19の下方(鏡筒の下方)に設けられたCCDカメラ16aと該CCDカメラ16aに接続されたモニタ16bとを含む裏面観察手段16を備えている。なお、モニタ16bと表面観察手段6に備わるモニタ6bとは共通のものであってもよい。
また、ステージ7の下方に備わる同軸照明光源S3から発せられた同軸照明光L3が、図示を省略する鏡筒内に設けられたハーフミラー19で反射され、集光レンズ18にて集光されたうえで、ステージ7を介して被加工物10に照射されるようになっていてもよい。さらに好ましくは、ステージ7の下方に斜光照明光源S4を備えており、斜光照明光L4をステージ7を介して被加工物10に対して照射できるようになっていてもよい。これらの同軸照明光源S3や斜光照明光源S4は、例えば被加工物10の表面側に不透明な金属層などがあって表面側からの観察が該金属層からの反射が生じて困難な場合など、被加工物10を裏面側から観察する際に好適に用いることできる。
<コントローラ>
コントローラ1は、上述の各部の動作を制御し、後述する種々の態様での被加工物10の加工処理を実現させる制御部2と、レーザー加工装置50の動作を制御するプログラム3pや加工処理の際に参照される種々のデータを記憶する記憶部3とをさらに備える。
制御部2は、例えばパーソナルコンピュータやマイクロコンピュータなどの汎用のコンピュータによって実現されるものであり、記憶部3に記憶されているプログラム3pが該コンピュータに読み込まれ実行されることにより、種々の構成要素が制御部2の機能的構成要素として実現される。
具体的には、制御部2は、移動機構7mによるステージ7の駆動や集光レンズ18の合焦動作など、加工処理に関係する種々の駆動部分の動作を制御する駆動制御部21と、CCDカメラ6aおよび16aによる撮像を制御する撮像制御部22と、レーザー光源SLからのレーザー光LBの照射を制御する照射制御部23と、吸引手段11によるステージ7への被加工物10の吸着固定動作を制御する吸着制御部24と、与えられた加工位置データD1および加工モード設定データD2に従って加工対象位置への加工処理を実行させる加工処理部25とを、主として備える。
記憶部3は、ROMやRAMおよびハードディスクなどの記憶媒体によって実現される。なお、記憶部3は、制御部2を実現するコンピュータの構成要素によって実現される態様であってもよいし、ハードディスクの場合など、該コンピュータとは別体に設けられる態様であってもよい。
なお、レーザー加工装置50に対してオペレータが与える種々の入力指示は、コントローラ1において実現されるGUIを利用して行われるのが好ましい。例えば、加工処理部25の作用により加工処理用メニューがGUIにて提供される。
<アライメント動作>
レーザー加工装置50においては、加工処理に先立ち、観察部50Bにおいて、被加工物10の配置位置を微調整するアライメント動作が行えるようになっている。アライメント動作は、被加工物10に定められているXY座標軸をステージ7の座標軸と一致させるために行う処理である。アライメント動作は、公知の技術を適用して実行することが可能であり、加工パターンに応じて適宜の態様にて行われればよい。例えば、1つの母基板を用いて作製された多数個のデバイスチップを切り出す場合など、被加工物10の表面に繰り返しパターンが形成されているような場合であれば、パターンマッチングなどの手法を用いることで適切なアライメント動作が実現される。この場合、概略的にいえば、被加工物10に形成されている複数のアライメント用マークの撮像画像をCCDカメラ6aあるいは16aが取得し、それらの撮像画像の撮像位置の相対的関係に基づいて加工処理部25がアライメント量を特定し、駆動制御部21が該アライメント量に応じて移動機構7mによりステージ7を移動させることによって、アライメントが実現される。
係るアライメント動作を行うことによって、加工処理における加工位置が正確に特定される。なお、アライメント動作終了後、被加工物10を載置したステージ7はレーザー光照射部50Aへと移動し、引き続いてレーザー光LBを照射することによる加工処理が行われることになる。なお、観察部50Bからレーザー光照射部50Aへのステージ7の移動は、アライメント動作時に想定された加工予定位置と実際の加工位置とがずれないように保証されている。
<加工モード>
本実施の形態に係るレーザー加工装置50は、レーザー光LBを(相対的に)走査することによる加工処理(レーザー加工)を、種々の加工モードにて行えるようになっている点で特徴的である。これは、レーザー光源SLからのレーザー光LBの照射条件とステージ7を移動させることによる被加工物10に対するレーザー光LBの走査条件の組合せを違えることで実現される。
加工モードは、レーザー光LBの走査方向の任意の位置における該走査方向に垂直な加工断面が略同一となる照射条件でレーザー光LBを分割予定位置に沿って連続的に照射する連続モードと、被加工物の表面におけるレーザー光LBの照射範囲が変調される照射条件でレーザー光LBを照射する変調モードとに大別される。変調モードには、レーザー光の照射条件や走査条件が異なる種々の態様があり、レーザー加工装置50においては、そのうちの少なくとも1つが実行可能とされてなる。
概略的に言えば、連続モードは、分割予定線Lに沿って均一な被加工領域(あるいは加工痕)を形成するモードであり、変調モードは、分割予定線Lに沿って凹凸形状を有する被加工領域(あるいは加工痕)を形成するモードであるといえる。
なお、除去加工の場合は加工溝の断面が加工断面に該当し、融解改質法の場合は、変質領域の断面が加工断面に該当する。
加工モードは、例えば、加工処理部25の作用によりコントローラ1においてオペレータに利用可能に提供される加工処理メニュー従って選択できるのが好適である。コントローラ1の記憶部3には、被加工物10についての分割予定線L(図3)の位置を記述した加工位置データD1が記憶されるとともに、個々の加工モードにおけるレーザー加工の態様に応じた、レーザー光の個々のパラメータについての条件やステージ7の駆動条件(あるいはそれらの設定可能範囲)などが記述された加工モード設定データD2が記憶されている。加工処理部25は、加工位置データD1を取得するとともに選択された加工モードに対応する条件を加工モード設定データD2から取得し、当該条件に応じた動作が実行されるよう、駆動制御部21や照射制御部23その他を通じて対応する各部の動作を制御する。
連続モードでの加工は、特許文献1や特許文献2に開示されているような従来のレーザー加工装置においても行われる公知の加工処理態様であるので、本実施の形態においては詳細な説明を省略する。以下においては、本実施の形態に係るレーザー加工装置50に固有の、変調モードでの加工について詳説する。
<第1変調モード:ビームスポットが離散するようにレーザー光照射>
図2は、レーザー加工装置50におけるレーザー光LBの繰り返し周波数と、ステージ7の移動速度と、ビームスポット中心間隔との関係について説明する図である。
レーザー光の繰り返し周波数がR(kHz)である場合、1/R(msec)ごとに1つのレーザーパルスがレーザー光源SLから発せられることになる。被加工物10が載置されたステージ7が速度V(mm/sec)で移動する場合、あるパルスが発せられてから次のレーザーパルスが発せられる間に、被加工物10はV×(1/R)=V/R(μm)だけ移動することになるので、あるレーザーパルスのビーム中心位置と次に発せられるレーザーパルスのビーム中心位置との間隔、つまりはビームスポット中心間隔Δ(μm)は、Δ=V/Rで定まる。
このことから、被加工物の表面におけるビーム径DがΔ=V/Rよりも大きければ、個々のレーザーパルスは重なるものの、ビーム径DがΔ=V/Rよりも小さい場合は、個々のレーザーパルスは重ならないことになる。第1の変調モードは、このことを利用して、レーザー加工を行うモードである。
図3および図4は、第1変調モードにおけるレーザー光LBの照射態様と、形成される被加工領域REとの関係を模式的に示す図である。図3は、斜視図である。図3および図4には便宜上、分割予定線Lの方向をx軸方向、被加工物10の表面においてx軸と直交する方向をy軸方向、被加工物10の表面に直交する方向をz軸方向とする三次元座標を付している(以降の図においても同様)。図4は、被加工領域REのXY上面図(中央の図)、A−A’断面図(右側の図)、B−B’、C−C’、およびD−D’断面図(左側の図)である。A−A’断面図は、分割予定線Lに平行な面における断面図である。B−B’、C−C’、およびD−D’断面図は、分割予定線L上の異なる位置での分割予定線Lに垂直な面における断面図である。
第1変調モードにおいては、レーザー光LBの単位パルスごとのビームスポットBSが分割予定線Lの方向において離散的に位置する照射条件で、レーザー光LBを照射する。これは、ビーム径Dとビームスポット中心間隔Δ=V/Rとが、D<Δなる関係をみたすことで実現される。具体的には、10(kHz)≦R≦200(kHz)、30(mm/sec)≦V≦1000(mm/sec)、D<V/RかつW/4(μm)≦V/R≦W/2(μm)なる範囲でレーザー光の照射条件およびステージ7の駆動条件が設定可能であるように加工モード設定データD2に記述がなされる。ここで、Wは分割予定線Lに垂直な方向における加工予定幅である。
なお、レーザー光LBを分割予定線Lの方向に沿って走査する際にビームスポットBSが離散的に位置するということは、分割予定線Lの方向においてレーザー光LBが照射される箇所と照射されない箇所とが存在することであるので、被加工物の表面における照射範囲を変調させてレーザー光LBを照射する態様に該当する。
このような条件の下でレーザー光を走査すると、図3および図4に示すような形状の被加工領域REが形成される。概略的には、被加工領域REは、個々のレーザーパルスのビームスポットは離散しているにもかかわらず、個々のレーザーパルスによって形成される略楕円錐状(もしくは略くさび形状)の単位被加工領域REuが分割予定線Lの方向に多数連接してなる形状を有する。
より詳細には、被加工領域REは、被加工物10の表面において連続する一方で、図3および図4のB−B’、C−C’、およびD−D’断面図に示すように、分割予定線Lに垂直な方向についての幅および断面形状が分割予定線L方向(x軸方向)の位置により異なっている。すなわち、被加工領域REは、分割予定線Lの方向(x軸方向)に連続する部分を有するが、x軸方向に垂直な断面(yz断面)の状態がx軸方向において変化する形状を有しているともいえる。なお、図4に示す場合においては、被加工領域REは、被加工物10の表面近傍におけるy軸方向の加工幅が、x軸方向に沿ってw1〜w3の間で変化するように形成されてなる。仮に、C−C’断面における当該加工幅w2が加工予定幅Wと等しいとすると、第1変調モードでの加工は、加工予定幅Wより大きい加工幅を有する領域と加工予定幅Wより小さい加工幅を有する領域とを繰り返し交互に形成していく態様であると捉えることもできる。ただし、実際の加工においては、w1≒w2、w3≒w2となる場合もある。
また、別の見方をすれば、図4のA−A’断面図に示すように、被加工領域REは、被加工物10の表面近傍においてx軸方向に連続する連続領域RE1と、y軸方向において連続領域RE1に連接するが、x軸方向には不連続である不連続領域RE2とから構成されているともいえる。
いずれにせよ、被加工領域REは、xy断面およびzx断面において、つまりはx軸方向に沿って、凹凸を有するものとなっている。凹凸のピッチは、レーザー光LBの照射条件やステージ7の駆動条件によっても異なるが、数μm〜十数μm程度である。
VやRの具体的な値は被加工物10の材質や吸収率、熱伝導率、融点などを勘案して適宜に定められてよい。また、パルスの照射エネルギーは10μJ〜1000μJの範囲内で適宜に定められてよい。
なお、V/R<W/4(μm)の場合は、単位被加工領域REuの重なりが大きくなって加工予定幅と実際の加工幅との差が小さくなり、実質的に連続モードでの加工と差異がなくなってしまう。一方、V/R>W/2(μm)なる場合は、隣り合うビームスポットの距離が大きくなり過ぎるために、結果として個々の単位被加工領域REuが連接しなくなるため好ましくない。
<第2変調モード:エネルギー変調>
上述の第1変調モードは、V/R>Dなる条件のもとで加工を行うことを特徴とするモードであったが、第2変調モードは、V/R≦Dという条件の下で加工を行えるモードである。すなわち、隣接するビームスポットが重なりを有する状態でレーザー光LBが照射される条件下でも取り得る加工モードである。
一般に、照射されるレーザーパルスの照射エネルギーEが大きいほど、被加工物10の厚み方向のより深い領域までが加工され、表面における加工範囲も広がる。第2変調モードでは、このことを利用する加工モードである。
図5は、第2変調モードにおける照射エネルギーEとビームスポットBSのサイズおよび被加工領域REの形状との関係を模式的に示す図である。第2変調モードにおいては、レーザー光LBを分割予定線Lに沿って走査させる際に、レーザー光LBの照射エネルギーが、図5に示すように最小値Eminと最大値Emaxとの間で周期的に変化するように加工処理部25が各部の動作を制御する。つまりは、レーザー加工装置50は、照射エネルギーを変調させつつレーザー光が走査を行うように制御される。すると、照射エネルギーの値に応じて、被加工物10の表面におけるレーザー光LBのビームスポットBSのサイズが変化する。図5においては、E=EminのときのビームスポットBS(BS1)と、E=EmaxのときのビームスポットBS(BS2)とを例示しているが、これらの中間のサイズも取り得る。これにより、結果として、図4と同様の形状の被加工領域REが形成される。
具体的には、5(μJ)≦Emin≦100(μJ)、および20(μJ)≦Emax≦1000(μJ)をみたすようにEminとEmaxが定められる。また、第2モードにおいては、50(kHz)≦R≦200(kHz)、50(mm/sec)≦V≦1000(mm/sec)という範囲をみたすようにRとVの値が設定される。また、変調周期は2μm〜20μm程度とするのが好適である。第2変調モードに関しては、これらの設定範囲が加工モード設定データD2に記述される。
図5からわかるように、照射エネルギーEを変調させるということは結局のところ加工に有効な実質のビームスポット径を変調させることになるので、第2変調モードも、被加工物の表面における照射範囲を変調させてレーザー光LBを照射する態様に該当する。
<第3変調モード:レーザー光を分割予定線と直交する方向に走査>
第3変調モードは、分割予定線と直交する方向にレーザー光LBを走査させつつ、単位パルスごとのビームスポットBSが離散的に位置するように、レーザー光LBを照射する加工モードである。
図6は、第3変調モードにおけるビームスポットBSの位置と被加工物10の移動方向との関係を模式的に示す図である。第3変調モードにおいては、被加工物10が載置されたステージ7を分割予定線Lがx軸方向に沿うように移動させる一方で、図6において矢印AR1にて示すように、分割予定線Lに垂直な方向(y軸方向)にレーザー光LBを往復走査させる。これは、レーザー加工装置50が、レーザー光源SLあるいはレーザー光LBの照射経路の途中にガルバノミラーなどの走査機構を備えることで実現される。
あるレーザーパルスが発せられたときのビームスポット中心と、次のレーザーパルスが発せられたときのビームスポット中心との距離を、レーザー光LBのy軸方向への走査幅p(μm)と合致させるとすると、上述したように、1/R(msec)ごとに1つのレーザーパルスがレーザー光源SLから発せられることから、y軸方向への走査速度がp/(1/R)=pRである場合、図6に示すように、分割予定線Lを挟んで交互にビームスポットBSが位置するように、レーザー光LBが照射されることになる。
このとき、レーザー光LBはy軸方向に往復走査するだけであるが、被加工物10はx軸方向に移動するので、x軸方向については、第1変調モードと同様に、Δ=V/RをみたすようにビームスポットBSが離散的に位置することになる。
結果として、被加工物10においては、図6に示すように、レーザー光LBの走査軌跡Tは、分割予定線Lと繰り返し交互に交差するようになる。いわば、分割予定線Lを軸としてジグザグな走査軌跡Tをたどってレーザー光LBが照射されることになる。
係る第3変調モードの場合、分割予定線Lの方向(x軸方向)に沿ってみれば、レーザー光LBのy軸方向についての照射位置および照射範囲が変化している(照射されない位置も存在する)。従って、係る場合も、被加工物の表面における照射範囲を変調させてレーザー光LBを照射する態様に該当する。
第3変調モードによるレーザー光LBの照射の結果、図6に示すような表面形状を有する被加工領域REが形成される。この場合の被加工領域REは、概略的には、個々のレーザーパルスのビームスポットは離散しているにもかかわらず、個々のレーザーパルスによって形成される略楕円錐状(もしくは略くさび形状)の単位被加工領域REuが走査軌跡Tに沿って多数連接してなる形状を有する。
この場合も、被加工領域REは、被加工物10の表面において連続する一方で、分割予定線Lに垂直な方向についての幅および断面形状が分割予定線L方向(x軸方向)の位置により異なるものとなっている。すなわち、被加工領域REは、分割予定線Lの方向(x軸方向)に連続する部分を有するが、x軸方向に垂直な断面(yz断面)の状態がx軸方向において変化する形状を有しているともいえる。
また、図示は省略するが、第3変調モードで得られる被加工領域REも、被加工物10の表面近傍においてx軸方向に連続する連続領域と、y軸方向において連続領域に連接するが、x軸方向には不連続である不連続領域とから構成される。
すなわち、第3変調モードで得られる被加工領域REについても、xy断面およびzx断面において、つまりはx軸方向に沿って、凹凸を有するものとなっている。凹凸のピッチは、レーザー光LBの照射条件やステージ7の駆動条件によっても異なるが、数μm〜十数μm程度である。
第3変調モードにおいては、単位パルスごとのビームスポットBSが離散的に位置するため、ビーム径Dとビームスポット中心間隔Δ=V/Rと走査幅とが、D<(Δ2+p21/2なる関係をみたすことになる。また、10(kHz)≦R≦200(kHz)、30(mm/sec)≦V≦1000(mm/sec)なる範囲でレーザー光の照射条件およびステージ7の駆動条件が設定可能であるように加工モード設定データD2に記述がなされる。なお、1(μm)≦p≦3(μm)である。例えば、p=1.5μm程度に設定するのが好適である。VやRの具体的な値は被加工物10の材質や吸収率、熱伝導率、融点などを勘案して適宜に定められてよい。また、パルスの照射エネルギーは10μJ〜1000μJの範囲内で適宜に定められてよい。
<第3変調モードの変形例>
上述の第3変調モードでは、単位パルスごとのビームスポットBSが離散的に位置するようにしているが、分割予定線Lと直交する方向にレーザー光LBを走査させつつも、隣接するビームスポットが重なりを有する態様での加工も可能である。
図7は、係る場合に形成される被加工領域REの、被加工物10の表面における形状を例示する図である。この場合、走査軌跡T’は分割予定線Lと繰り返し交互に交差するようになる。そして、被加工領域REはxy断面においては凹凸を有するものの、zx断面においては略連続的に形成される。
<変調モードによる分割起点の形成>
上述のような第1ないし第3変調モードによる加工は、サファイア、GaN、あるいはSiCなどの硬脆なかつ光学的に透明な材料からなる基板の上に、LED構造などの発光素子構造を形成した被加工物10をチップ(分割素片)単位に分割する場合の、分割起点の形成に特に好適である。
すなわち、上述した変調モードを用いて、数μm程度のピッチの微細な凹凸形状を有する被加工領域REを形成し、該被加工領域を分割起点として被加工物をブレイクしてチップを得るようにする。なお、係るブレイクは、例えば、被加工物10の上面から被加工領域REを挟んで相反する側にそれぞれ、被加工領域REを軸として相反する向きの力を作用させることで実現可能である。この場合、被加工領域REの最下端部が起点となって、被加工物10の下方へと分割が進行する。これにより、被加工物10の上下面と略垂直なブレイク面が形成される。
被加工領域REを形成した部位は加工痕として残るが、当該部位は、変調モードで加工を行った結果形成された凹凸を有するので、全反射しにくい形状となっている。これにより、当該部位における光吸収は抑制され、当該部位においても、内部で発光した光が効率的に外部に透過する。
以上、説明したように、本実施の形態によれば、上述した第1ないし第3変調モードのいずれかを用いることで、被加工物を分割する際の分割起点となる被加工領域を、表面側では連続するが底部が不連続である形状に形成することができる。これにより、発光素子構造を被加工物として分割を行うようにすれば、加工痕における光吸収能が抑制された、光取り出し効率の優れた発光素子チップを得ることができる。
(実施例1)
図8は、サファイア基板を被加工物10として第1変調モードにより除去加工を行った後の、被加工物10の上面についての光学顕微鏡像である。図面視左右方向に一様に延在しているのが、被加工領域REの表面部分(連続領域RE1に相当)である。なお、加工は、R66kHz、V200mm/sec、照射エネルギー1.5W、デフォーカス値−12μmという条件の下で行われた。
また、図9は、係る加工の後、図8に示すサファイア基板を該被加工領域REを分割起点としてブレイクした結果得られた分割素片10aの側面の光学顕微鏡像である。
図9においては、連続領域RE1に相当する加工痕M1と、不連続領域RE2に相当する加工痕M2と、平坦なブレイク面Fとが確認される。特に、不連続領域RE2においては、略くさび形状の微細領域が略等間隔で離散的に存在している。これが単位被加工領域REuに相当し、ブレイク時には、それらの微細領域の間でのみ破断が生じている。すなわち、図9からは、分割素片10aに、被加工領域REに由来する凹凸形状が形成されていることが確認される。
(実施例2)
図10は、サファイア基板を被加工物10として第2変調モードにより除去加工を行った後の、被加工物10の上面についての光学顕微鏡像である。実施例1と同様に、図面視左右方向に一様に延在しているのが、被加工領域REの表面部分である。なお、加工は、R=100kHz、V=100mm/sec、デフォーカス値=−10μmとし、照射エネルギーを14μJ〜20μJの範囲として、15μm周期で変調させる条件で行った。
また、図11は、係る加工の後、図10に示すサファイア基板を該被加工領域REを分割起点としてブレイクした結果得られた分割素片10bの側面の光学顕微鏡像である。
図11においても、略くさび形状の微細領域が略等間隔で離散的に存在している不連続領域RE2に相当する加工痕M3が確認される。すなわち、図11からは、分割素片10bにおいても、被加工領域REに由来する凹凸形状が形成されていることが確認される。
4 透明シート
7 ステージ
7m 移動機構
10 被加工物
10a、10b 分割素片
18 集光レンズ
50 レーザー加工装置
BS ビームスポット
F ブレイク面
L 分割予定線
LB レーザー光
M1、M2、M3 加工痕
RE 被加工領域
RE1 連続領域
RE2 不連続領域
REu 単位被加工領域
SL レーザー光源
T、T’ 走査軌跡
W 加工予定幅
p 走査幅

Claims (21)

  1. 所定の光源から出射されたパルスレーザー光を走査しつつ照射することにより、光学的に透明な基板と当該基板の上に形成された発光素子構造とを有する被加工物に被加工領域を形成するレーザー加工方法であって、
    前記パルスレーザー光が、パルス幅が50nsec以上であるYAG3倍高調波であり、
    前記光源からの前記パルスレーザー光の照射状態を第1の方向において変調させることによって前記被加工物の表面における照射範囲を前記第1の方向において変調させつつ前記パルスレーザー光を照射することにより、
    前記第1の方向に連続する部分を有するが、前記第1の方向に垂直な断面の状態が前記第1の方向において変化する前記被加工領域を形成する、
    ことを特徴とするレーザー加工方法。
  2. 所定の光源から出射されたパルスレーザー光を走査しつつ照射することにより、光学的に透明な基板と当該基板の上に形成された発光素子構造とを有する被加工物に被加工領域を形成するレーザー加工方法であって、
    前記パルスレーザー光が、パルス幅が50nsec以上であるYAG3倍高調波であり、
    前記光源からの前記パルスレーザー光の照射状態を第1の方向において変調させることによって前記被加工物の表面における照射範囲を前記第1の方向において変調させつつ前記パルスレーザー光を照射することにより、
    前記被加工物の表面において前記第1の方向に連続する第1領域と、
    前記第1領域に連接するが前記第1の方向において不連続部分を有する第2領域と、
    を有する前記被加工領域を形成する、
    ことを特徴とするレーザー加工方法。
  3. 請求項1または請求項2に記載のレーザー加工方法であって、
    前記パルスレーザー光の単位パルスごとのビームスポットが前記第1の方向に沿って離散する照射条件で前記パルスレーザー光を走査することにより、前記被加工物の表面における照射範囲を変調させる、
    ことを特徴とするレーザー加工方法。
  4. 請求項に記載のレーザー加工方法であって、
    前記パルスレーザー光の繰り返し周波数をR(kHz)とし、前記パルスレーザー光の前記被加工物に対する相対的な移動速度をV(mm/sec)とし、前記被加工物の前記表面における前記被加工領域の前記第1の方向に直交する方向の予定形成幅をW(μm)とするとき、
    10(kHz)≦R≦200(kHz)
    かつ
    30(mm/sec)≦V≦1000(mm/sec)
    であり、前記パルスレーザー光のビームスポットの中心間隔を表すV/Rが、
    V/R≧1(μm)
    かつ
    W/4(μm)≦V/R≦W/2(μm)
    という関係をみたす照射条件のもとで前記パルスレーザー光を前記第1の方向に沿って走査することにより、前記被加工物の表面における照射範囲を変調させる、
    ことを特徴とするレーザー加工方法。
  5. 請求項4に記載のレーザー加工方法であって、
    V/R≧3(μm)という関係をみたす照射条件のもとで前記パルスレーザー光を走査することを特徴とするレーザー加工方法。
  6. 請求項1または請求項2に記載のレーザー加工方法であって、
    前記パルスレーザー光の照射エネルギーを変調させつつ前記パルスレーザー光を前記第1の方向に走査することにより前記被加工物の表面における照射範囲を変調させることを特徴とするレーザー加工方法。
  7. 請求項1または請求項に記載のレーザー加工方法であって、
    それぞれに前記第1の方向に対し所定の角度を有する第2の方向と第3の方向への前記パルスレーザー光の走査を交互に繰り返すことによって、前記被加工物における前記パルスレーザー光の走査軌跡を前記第1の方向に沿った分割予定線と繰り返し交互に交差させることにより、前記被加工物の表面における照射範囲を変調させることを特徴とするレーザー加工方法。
  8. 請求項に記載のレーザー加工方法であって、
    前記パルスレーザー光を前記被加工物の移動方向に直交させる方向にて往復走査させることにより、前記パルスレーザー光の前記走査軌跡を前記第1の方向に沿った分割予定線と繰り返し交互に交差させることにより、前記被加工物の表面における照射範囲を変調させることを特徴とするレーザー加工方法。
  9. 請求項1ないし請求項8のいずれかに記載のレーザー加工方法であって、
    前記パルスレーザー光を照射することによって被照射部分の材料を除去することにより前記被加工領域を形成するレーザー加工方法。
  10. 請求項1ないし請求項のいずれかに記載のレーザー加工方法であって、
    前記パルスレーザー光を照射することによって前記被加工物に融解改質領域を生じさせることにより前記被加工領域を形成することを特徴とするレーザー加工方法。
  11. 請求項1ないし請求項10のいずれかに記載のレーザー加工方法であって、
    前記基板がサファイア基板、GaN基板、あるいはSiC基板のいずれかであることを特徴とするレーザー加工方法。
  12. 被加工物を分割する方法であって、
    請求項1ないし請求項11のいずれかに記載のレーザー加工方法によって、前記加工物に、所定の分割予定線に沿った前記被加工領域を形成する形成工程と、
    前記被加工物を前記被加工領域に沿って分割する分割工程と、
    を備えることを特徴とする被加工物の分割方法。
  13. パルスレーザー光を発する光源と、
    前記光源に対して相対的に移動可能に設けられた、被加工物が載置されるステージと、
    前記光源からのパルスレーザー光の出射と前記ステージの移動とを制御する制御手段と、
    を備え、
    前記被加工物が載置された状態で、前記ステージを前記光源に対して相対的に移動させつつ前記光源から前記パルスレーザー光を出射させることによって、前記パルスレーザー光を走査しつつ前記被加工物に被加工領域を形成するレーザー加工装置であって、
    前記被加工物が、光学的に透明な基板と当該基板の上に形成された発光素子構造とを有するものであり、
    前記パルスレーザー光が、パルス幅が50nsec以上であるYAG3倍高調波であり、
    前記制御手段が、前記パルスレーザー光を第1の方向において走査させる際に前記光源からの前記パルスレーザー光の照射状態が前記第1の方向において変調するように前記光源および前記ステージの動作を制御することによって、
    前記第1の方向に連続する部分を有するが、前記第1の方向に垂直な断面の状態が前記第1の方向において変化する前記被加工領域を形成可能である、
    ことを特徴とするレーザー加工装置。
  14. パルスレーザー光を発する光源と、
    前記光源に対して相対的に移動可能に設けられた、被加工物が載置されるステージと、
    前記光源からのパルスレーザー光の出射と前記ステージの移動とを制御する制御手段と、
    を備え、
    前記被加工物が載置された状態で、前記ステージを前記光源に対して相対的に移動させつつ前記光源から前記パルスレーザー光を出射させることによって、前記パルスレーザー光を走査しつつ前記被加工物に被加工領域を形成するレーザー加工装置であって、
    前記被加工物が、光学的に透明な基板と当該基板の上に形成された発光素子構造とを有するものであり、
    前記パルスレーザー光が、パルス幅が50nsec以上であるYAG3倍高調波であり、
    前記制御手段が、前記パルスレーザー光を第1の方向において走査させる際に前記光源からの前記パルスレーザー光の照射状態が前記第1の方向において変調するように前記光源および前記ステージの動作を制御することによって、
    前記被加工物の表面において前記第1の方向に連続する第1領域と、
    前記第1領域に連接するが前記第1の方向において不連続部分を有する第2領域と、
    を有する前記被加工領域を形成可能である、
    ことを特徴とするレーザー加工装置。
  15. 請求項13または請求項14に記載のレーザー加工装置であって、
    前記制御手段が、前記パルスレーザー光を走査させる際に前記パルスレーザー光の単位パルスごとのビームスポットが前記第1の方向に沿って離散するように前記光源および前記ステージの動作を制御することにより、前記被加工物の表面における照射範囲を変調させる、
    ことを特徴とするレーザー加工装置。
  16. 請求項15に記載のレーザー加工装置であって、
    前記パルスレーザー光の繰り返し周波数をR(kHz)とし、前記パルスレーザー光の前記被加工物に対する相対的な移動速度をV(mm/sec)とするとき、
    10(kHz)≦R≦200(kHz)
    かつ
    30(mm/sec)≦V≦1000(mm/sec)
    であり、前記パルスレーザー光のビームスポットの中心間隔を表すV/Rが、
    V/R≧1(μm)
    かつ
    W/4(μm)≦V/R≦W/2(μm)
    という関係をみたすように、前記制御手段が前記光源および前記ステージの動作を制御する、
    ことを特徴とするレーザー加工装置。
  17. 請求項16に記載のレーザー加工装置であって、
    前記制御手段が、V/R≧3(μm)という関係をみたすように前記光源および前記ステージの動作を制御することを特徴とするレーザー加工装置。
  18. 請求項13または請求項14に記載のレーザー加工装置であって、
    前記制御手段が、前記パルスレーザー光を走査させる際に前記パルスレーザー光の照射エネルギーが変調するように前記光源および前記ステージの動作を制御することにより、前記被加工物の表面における照射範囲を変調させる、
    ことを特徴とするレーザー加工装置。
  19. 請求項13または請求項14に記載のレーザー加工装置であって、
    前記制御手段が、それぞれに前記第1の方向に対し所定の角度を有する第2の方向と第3の方向への前記パルスレーザー光の走査が交互に繰り返されるように前記光源および前記ステージの動作を制御することによって、前記被加工物における前記パルスレーザー光の走査軌跡を前記第1の方向に沿った分割予定線と繰り返し交互に交差させることにより、前記被加工物の表面における照射範囲を変調させることを特徴とするレーザー加工装置。
  20. 請求項19に記載のレーザー加工装置であって、
    前記制御手段が、前記パルスレーザー光を前記ステージの移動方向に直交させる方向にて往復走査させるように前記光源および前記ステージの動作を制御することによって、前記パルスレーザー光の前記走査軌跡を前記第1の方向に沿った分割予定線と繰り返し交互に交差させることにより、前記被加工物の表面における照射範囲を変調させることを特徴とするレーザー加工装置。
  21. 請求項13ないし請求項20のいずれかに記載のレーザー加工装置であって、
    前記基板がサファイア基板、GaN基板、あるいはSiC基板のいずれかであることを特徴とするレーザー加工装置。
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