JP2019038866A - グラフト鎖付き高分子基材の製造方法 - Google Patents
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特許文献1及び2には、高分子基材として超高分子量ポリエチレンフィルム、ラジカル重合性単量体としてスチレン誘導体等を用いて、上記方法にて高分子基材にグラフト鎖を導入した後、イオン交換基をグラフト鎖に導入するイオン交換膜の製造方法が開示されている。
本発明は、上記課題に鑑みて、グラフト重合率に優れたグラフト鎖付き高分子基材の製造方法の提供を課題とする。
[2] 酸化防止剤を含有する高分子基材を溶媒に浸漬し、酸化防止剤を溶媒に溶出させた後、浸漬後の高分子基材に1回で、又は、2回に分けて電離放射線を照射して、浸漬後の高分子基材からラジカルを発生させ、次いでラジカル重合性単量体を含む溶液と照射後の高分子基材とを接触させて、ラジカル重合性単量体に基づくグラフト鎖を高分子基材に導入することを特徴とする、グラフト鎖付き高分子基材の製造方法。
[3] 高分子基材を構成する材料が、ポリオレフィンである、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4] ポリオレフィンが、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、及び、エチレン−ビニルアルコール共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である、[3]に記載の製造方法。
[5] ポリオレフィンが、高密度ポリエチレン、エチレン−αオレフィン共重合体、及び、低密度ポリエチレンからなる群から選択される少なくとも1種からなる[4]に記載の製造方法。
[6] 高分子基材の形態がフィルムである、[1]〜[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7] 電離放射線が電子線であり、搬送経路を搬送される高分子基材に対して、搬送経路に沿って配置された電子線源から、2回以上にわけて、電子線を照射する、[1]〜[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8] ラジカル重合性単量体が、イオン交換基を導入し得る基を有する、[1]〜[7]のいずれかに記載の製造方法。
[9] グラフト鎖を高分子基材に導入した後、グラフト鎖にイオン交換基を導入する、[8に記載の製造方法。
[10] ラジカル重合性単量体が、スチレン、4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、及び、後述する式(1)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の単量体を含む、[1]〜[9]のいずれかに記載の製造方法。
「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」と「メタクリル」の総称である。
フィルムの膜厚は、グラフト重合率がより向上する観点から、500μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましく、150μm以下がさらに好ましく、100μm以下が特に好ましい。フィルムの膜厚の下限値は、通常30μmが好ましい。
本実施形態に係る製造方法においては、電離放射線として電子線を用い、かつ、フィルム状の高分子基材(すなわち、高分子基材の形態がフィルム)を用いるのが好ましい。この場合、搬送されるフィルム状の特定高分子基材に対して、搬送経路上で、電子線を照射できる。この方法によれば、大量の高分子基材に対して電子線を照射する場合であっても、高分子基材を均質に活性化できるので、工業上の生産性に優れる。
以下では、電離放射線として電子線を用いる場合の実施形態について説明するが、他の電離放射線を用いた場合にも適用できる。
照射線量の合計(連続照射の場合は1回の照射線量)が80kGy以上であると、酸化防止剤が失活するとともに、十分な量のラジカルを高分子基材から発生させることができる。一方、照射線量が500kGy以下であると、発生したラジカル同士が意図しない架橋反応を起こしにくく、また、高分子基材が熱変性しにくい。そのため、結果として、グラフト重合率、寸法安定性、及び、外観に優れたグラフト鎖付き高分子基材が得られる。上記の傾向は、高分子基材を構成する材料がポリオレフィン、特にポリエチレン(PE−HD、PE−LD)の場合に顕著である。
なお、この場合、第1電子線源14の照射線量は、合計で80〜500kGyとなるよう調整される。
また、図3において、高分子基材は電子線照射位置Z3を2回通過しているが、高分子基材は、Z3を3回以上通過してもよい。いずれの場合も、電子線源からの照射線量は、合計が80〜500kGyとなるよう調整される。
高分子基材がフィルムである場合、高分子材料(上述したポリオレフィン等)を準備して、高分子材料を含有するフィルム形成用材料を調製した後、フィルム形成用材料をシート状(フィルム状)に成形する方法が挙げられる。この場合、高分子材料自体の製造時、フィルム形成用材料の調製時及びフィルム成形時に、酸化防止剤を添加すればよい。フィルム形成用材料をシート状に成形する方法の具体例としては、例えば、インフレーション法、Tダイ法、カレンダー法、及び、スカイブ法が挙げられる。
なお、高分子基材中におけるフェノール系酸化防止剤の含有量は特に制限されず、高分子基材の酸化防止機能が得られる程度で適宜選択される。
ラジカル重合性単量体は、グラフト鎖にイオン交換基を導入するのが容易になって、高分子基材をイオン交換膜として使用できる観点から、イオン交換基を導入し得る基(例えば、芳香族基)を有するのが好ましい。
これらの中でも、スチレン及びスチレン誘導体が好ましく、スチレン、p−クロロメチルスチレン、4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、及び、下式(1)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の単量体がより好ましい。スチレン及びスチレン誘導体は、酸化防止剤(特にフェノール系酸化防止剤)の影響を受けやすいため、本製造方法の効果がより顕著に発揮されるので好ましい。また、スチレン及びスチレン誘導体は、イオン交換基を導入し得る基を有するため、イオン交換基(後述)を導入して得られるイオン交換膜の製造に適している観点からも好ましい。
イオン交換基を導入し得る基の具体例としては、芳香族基、下式(1)に挙げられるハロアルキル基、ピリジニウム基などが挙げられる。
ラジカル重合性単量体は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
R1は、炭素数1〜6の2価の炭化水素基又はエーテル性酸素原子を含む炭素数1〜6の2価の炭化水素基である。炭化水素基は、飽和炭化水素基であっても、不飽和炭化水素基であってもよい。また、炭化水素基は、直鎖状であっても、分岐状であっても、環状であってもよく、これらを組み合わせた基であってもよい。
Xは、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)を表す。
式(1)で表される化合物の具体例としては、p−クロロメチルスチレン、p−4ブロモブチルスチレンなどが挙げられる。
有機溶媒の具体例としては、ジクロロメタン、ジクロロエタン、ジクロロエチレン、トリクロロエタン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン及びジクロロベンゼン等の含塩素溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン及びテトラロン等のケトン溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、酪酸メチル、乳酸メチル及び乳酸エチル等のエステル溶媒、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ブチルシクロヘキサン及びデカン等の炭化水素溶媒、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル及びエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエーテル溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル及びエチレングリコールモノアセテート等のアルコール溶媒、ならびに、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、テトラリン及びドデシルベンゼン等の芳香族溶媒が挙げられる。
溶媒は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
溶媒の含有量は、重合液の全質量に対して、20〜90質量%が好ましく、50〜80質量%がより好ましい。
上記接触時の温度(すなわち重合温度)は、20〜80℃が好ましく、25〜70℃がより好ましい。
イオン交換基の導入方法の具体例としては、以下に示すカチオン交換基の導入方法及びアニオン交換基の導入方法が挙げられる。
カチオン交換基の導入方法の具体例としては、クロロスルホン酸をジクロロメタン、ジクロロエタン又はジクロロベンゼン等の溶媒に溶解させた溶液、無水硫酸及び/又はクロロスルホン酸を濃硫酸に溶解させた溶液、又は、濃硫酸と、高分子基材(例えば、スチレンに基づく繰り返し単位を有するグラフト鎖を有する高分子基材)とを接触(例えば、浸漬)させて、グラフト鎖にスルホン酸基を導入する方法が挙げられる。これらの方法については特に温度について限定されるものではないが、濃硫酸と接触させる方法については例えば40℃〜80℃の範囲で加熱することも好ましい方法である。
なお、上記実施形態に係る製造方法における条件、及び、使用する材料等について、以下に説明がないものは、既に説明した第1の実施形態に係る製造方法と同様である。
なお、電離放射線の照射は2回以上に分けて実施されてもよく、その場合には、合計の照射線量が上記の範囲内となるのが好ましい。その場合、1回の照射線量としては、高分子基材に生成する熱量やその他副反応を抑制するという観点で100KGy以下、より好ましくは70KGy以下、特に好ましくは50KGy以下である。
膜厚70μmの高密度ポリエチレン(PE−HD)フィルムを準備し、このフィルムを、1,2−ジクロロエタンに浸漬した。このとき、フィルムの質量(g)に対する1,2−ジクロロエタンの質量(g)の質量比は500質量%であった。次に、液温を40℃に維持しながら、24時間静置した。次に、1,2-ジクロロエタンを回収し、ガスクロマトグラフ質量分析装置で分析したところ、1,2-ジクロロエタン中からBHT(フェノール系酸化防止剤に該当する)及び下式の構造の酸化防止剤(フェノール系酸化防止剤に該当する)が検出された。
グラフト重合率(%)=100×[(グラフト重合による質量増加分)/(グラフト重合前の高分子基材の質量]
例1で用いた膜厚70μmのPE−HDフィルムについて、1,2−ジクロロエタンに浸漬せずそのまま用いたことを除いては、例1と同様の方法でグラフト重合鎖付きPE−HDフィルムを製造し、グラフと重合率を測定したところ、60%だった。
例1の重合液を繰り返し使用し、フィルムのみ毎回新たに例1と同様の方法で1,2−ジクロロエタンに浸漬したフィルムを用いて、グラフト重合鎖付きPE−HDフィルムの製造を例1と同様の条件で繰り返し、繰り返し回数が10回目、30回目において得られたグラフト重合鎖付きPE−HDフィルムのグラフト重合率を測定したところ、それぞれ69%、67%だった。上記から、重合液を繰り返し使用してもグラフト重合率がほとんど低下しないことがわかった。
例2の重合液を繰り返し使用し、フィルムのみ毎回新たに例2と同様の膜厚70μmのPE−HDフィルムを用いて、グラフト重合鎖付きPE−HDフィルムの製造を例2と同様の条件で繰り返し、繰り返し回数が10回目、30回目において得られたグラフト重合鎖付きPE−HDフィルムのグラフト重合率を測定したところ、それぞれ56%、50%だった。上記から、重合液の繰り返し使用によりグラフト重合率が低下することがわかった。
低密度ポリエチレンを含有する高密度ポリエチレンの70μm膜厚のフィルムについて、アセトンに一晩浸漬後、回収したアセトンを分析したところ、酸化防止剤として、BHT(フェノール系酸化防止剤に該当する)、Irganox1076(商品名、フェノール系酸化防止剤に該当する)、Irgafos168(商品名、フェノール系酸化防止剤に該当しない)、SumilaizarGP(商品名、フェノール系酸化防止剤に該当する)が各々20ppm、300ppm、100ppm、1300ppm検出された。
このフィルムに電子線源を有する電子線照射装置を使用し、窒素雰囲気下、25℃、加速電圧200keVで照射線量を変えて照射した後、上記と同様に分析したところ、照射線量が120KGy以上となると、上記酸化防止剤はすべて非検出となることがわかった。
例5の低密度ポリエチレンを含有する高密度ポリエチレンの70μm膜厚のフィルムに電子線源を有する電子線照射装置を使用し、窒素雰囲気下、25℃、加速電圧200keVで、照射線量が、それぞれ40kGy、100kGy、150kGyとなるようで照射した。照射後のフィルムを1g相当を切り出し、500ccガラス容器に移し替えた後、容器内を高純度窒素によりバブリングし、予め同様に高純度窒素バブリングにより酸素ガスを除いた重合液(スチレン40質量部、クロロメチルスチレン4質量部、キシレン60質量部の質量比で混合した液)500ccに、30℃で6時間浸漬させ、グラフト重合した。次に、得られたグラフト鎖付きフィルムをガラス容器より取り出し、アセトンで洗浄し、80℃で3時間乾燥させ、グラフト重合率を測定した。また、同じ重合液を使用し、フィルムのみ新たに同じ条件で照射したものを用いてグラフト鎖付きフィルムを繰り返し製造し、繰り返し回数が5回目、10回目において得られたグラフト鎖付きフィルムのグラフと重合率を測定した。結果を表1に示した。
上記の結果から、照射線量は、100kGy以上が好ましく、また、照射線量が合計150kGy以上となる場合には、断続的に照射するのが好ましいとわかった。
11、16 ロール
13 フィルム状の高分子基材
14 第1電子線源
15 第2電子線源
Claims (10)
- 酸化防止剤を含有する高分子基材に1回で、又は、2回以上に分けて、合計で80〜500kGyの照射線量となるよう、電離放射線を照射し、前記高分子基材からラジカルを発生させると共に前記酸化防止剤を失活させ、次いでラジカル重合性単量体を含有する溶液と前記照射後の前記高分子基材とを接触させて、前記ラジカル重合性単量体に基づくグラフト鎖を前記高分子基材に導入することを特徴とする、グラフト鎖付き高分子基材の製造方法。
- 酸化防止剤を含有する高分子基材を溶媒に浸漬し、前記酸化防止剤を前記溶媒に溶出させた後、前記浸漬後の高分子基材に1回で、又は、2回に分けて電離放射線を照射して、前記浸漬後の前記高分子基材からラジカルを発生させ、次いでラジカル重合性単量体を含む溶液と前記照射後の高分子基材とを接触させて、前記ラジカル重合性単量体に基づくグラフト鎖を前記高分子基材に導入することを特徴とする、グラフト鎖付き高分子基材の製造方法。
- 前記高分子基材を構成する材料が、ポリオレフィンである、請求項1又は2に記載の製造方法。
- 前記ポリオレフィンが、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、及び、エチレン−ビニルアルコール共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項3に記載の製造方法。
- 前記ポリオレフィンが、高密度ポリエチレン、エチレン−αオレフィン共重合体、及び、低密度ポリエチレンからなる群から選択される少なくとも1種からなる請求項4に記載の製造方法。
- 前記高分子基材の形態がフィルムである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
- 前記電離放射線が電子線であり、
搬送経路を搬送される前記高分子基材に対して、前記搬送経路に沿って配置された電子線源から、2回以上にわけて、前記電子線を照射する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。 - 前記ラジカル重合性単量体が、イオン交換基を導入し得る基を有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
- 前記グラフト鎖を前記高分子基材に導入した後、前記グラフト鎖にイオン交換基を導入する、請求項8に記載の製造方法。
- 前記ラジカル重合性単量体が、スチレン、4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、及び、下式(1)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の単量体を含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の製造方法。
式中、R1は、炭素数1〜6の2価の炭化水素基又はエーテル性酸素原子を含有する炭素数1〜6の2価の炭化水素基であり、Xは、ハロゲン原子を表す。
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