A.実施形態:
A1)微粒子検出装置全体のハードウェア構成:
図1Aは、実施形態に係る微粒子検出装置10の全体構成、特に微粒子検出装置10を搭載した車両50の概略構成を例示した説明図である。図1Bは、車両50に取り付けられた微粒子検出装置10の概略構成を例示した説明図である。
図1Aに示すように、実施形態の微粒子検出装置10は、微粒子センサ100と、ケーブル20と、センサ駆動部30とを含んで構成され、内燃機関40から排出される排ガスEGに含まれる煤などの微粒子の量を測定する。内燃機関40とは、車両50の動力源であり、本実施形態では、ディーゼルエンジンである。もとよりガソリンやアルコールなどの他の燃料を利用したエンジンなどであっても差し支えない。
微粒子センサ100は、内燃機関40から延びる排ガス配管62に取り付けられ、コロナ放電を利用して排ガス配管62中の煤などの微粒子を検出する。微粒子センサ100は、ケーブル20によってセンサ駆動部30と電気的に接続されている。本実施形態では、微粒子センサ100は、フィルタ装置41(例えば、DPF(Diesel particulate filter))よりも下流側の排ガス配管62に取り付けられている。微粒子センサ100は、気体である排ガスEGに含まれる微粒子の量に相関する信号をセンサ駆動部30に出力する。
センサ駆動部30は、微粒子センサ100を駆動させるとともに、微粒子センサ100から入力される信号に基づいて、排ガスEG中の微粒子の量を検出する。センサ駆動部30が検出する「排ガスEG中の微粒子の量」とは、排ガスEG中の微粒子の表面積の合計に比例する値であってもよいし、微粒子の質量の合計に比例する値であってもよい。または、排ガスEGの単位体積中に含まれる微粒子の個数に比例する値(微粒子の濃度)であってもよい。この場合には、微粒子センサ100を通過した排ガスEGの量を別途測定しておく。微粒子センサ100を通過する排ガスEGの量は、排ガス配管62に設けた流量センサ(図示省略)の出力から求めたり、車両の運転状態に関する複数のパラメータを用いた公知の手法により推定したりすることができる。
センサ駆動部30は、車両50側の車両制御部42と電気的に接続されており、検出した排ガスEG中の微粒子量を示す信号を車両制御部42に出力する。車両制御部42は、車両50全体の制御を司っており、各部とはCANなどのネットワークを用いて接続され、データのやり取りを行なっている。車両制御部42は、センサ駆動部30との間で信号を入出力し、センサ駆動部30の動作を指示し、また逆にセンサ駆動部30から信号を入力し、燃料配管61を介して燃料供給部43から内燃機関40に供給される燃料の供給量を調整するなど内燃機関40の燃焼状態を制御するする。また、車両制御部42は、車両の異常などを検出し、その状態を記録するダイアグノーシスとしての機能を有する。例えば、排ガスEG中の微粒子量が所定量よりも多い場合には、フィルタ装置41の劣化や異常を車両50の運転手に警告する。車両には、バッテリ44が搭載されており、車両の各部に電力を供給する。後述する各回路は、電源回路を備える場合があり、このバッテリ44からの電力を元に、必要に応じて動作に必要な電圧を提供する。
図1Bに示すように、微粒子センサ100は、円筒形状の先端部100eを備えており、この先端部100eが排ガス配管62の内側に挿入された状態で、排ガス配管62の外表面に固定されている。ここでは、微粒子センサ100の先端部100eは、排ガス配管62の延伸方向DLに対してほぼ垂直に挿入されている。先端部100eのケーシングCSの表面には、排ガスEGをケーシングCSの内部に取り込むための流入孔145と、取り込んだ排ガスEGをケーシングCSの外部に排出するための排出孔135とが設けられている。排ガス配管62の内部を流通する排ガスEGの一部は、流入孔145を介して先端部100eのケーシングCSの内部に取り込まれる。取り込まれた排ガスEG中に含まれる微粒子は、微粒子センサ100において生成するイオン(ここでは、陽イオン)によって帯電される。帯電した微粒子を含む排ガスEGは、排出孔135を介してケーシングCSの外部に排出される。微粒子センサ100は、帯電した微粒子が外部に排出される排出量に応じて変化するイオン電流を用いて、微粒子量の検出を行なう。ケーシングCSの内部の構成や、微粒子センサ100の具体的な構成については後述する。
微粒子センサ100の後端部100rには、ケーブル20が取り付けられている。ケーブル20は、第1の配線21と、第2の配線22と、信号線23と、空気供給管24と、を束ねた構成を備えている。ケーブル20を構成する配線21,22および信号線23と、空気供給管24は、それぞれ可撓性の部材によって構成されている。第1の配線21、第2の配線22、および、信号線23は、センサ駆動部30の電気回路部70に電気的に接続され、空気供給管24は、空気供給部80に接続されている。
センサ駆動部30は、制御部60と、電気回路部70と、空気供給部80とを備えている。制御部60と電気回路部70との間、および、制御部60と空気供給部80との間は、必要な電気的な絶縁を施した上で、それぞれ電気的な信号のやり取りが可能とされている。
制御部60は、マイクロコンピュータを含んで構成されており、電気回路部70と空気供給部80とを制御する。また、制御部60は、電気回路部70から入力される信号から排ガスEG中の微粒子の量を検出し、排ガスEG中の微粒子量を表す信号を車両制御部42に出力する。この他、制御部60は、電気回路部70の異常検出も行なう。制御部60が行なう異常検出の処理については、後で詳しく説明する。
電気回路部70は、第1の配線21および第2の配線22を介して、微粒子センサ100を駆動するための電力を供給する。また、電気回路部70は、信号線23を介して微粒子センサ100からコロナ電流に相関する信号が入力される。電気回路部70は、信号線23から入力される信号を用いて、コロナ電流の安定化を図り、その上で、排ガスEG中の微粒子量に対応するイオン電流に応じた信号を制御部60に出力する。これらの信号の具体的な内容については後述する。
空気供給部80は、ポンプ(図示しない)を含んで構成されており、制御部60からの指示に基づいて、空気供給管24を介して、高圧空気を微粒子センサ100に供給する。空気供給部80から供給される高圧空気は、微粒子センサ100を駆動させるときに用いられる。なお、空気供給部80が供給するガスの種類は空気以外であってもよい。
A2)微粒子センサの構成:
図2は、微粒子センサ100の先端部100eの概略構成を模式的に示した説明図である。微粒子センサ100の先端部100eは、全体が、排ガス配管62の内部に配置され、排ガスEGに晒されている。微粒子センサ100の先端部100eは、イオン発生部110と、排ガス帯電部120と、イオン捕捉部130と、を備えている。ケーシングCSは、イオン発生部110、排ガス帯電部120、および、イオン捕捉部130の3つの機構部がこの順に先端部100eの基端側(図2の上方)から先端側(図2の下方)に向かって(換言すれば、微粒子センサ100の軸線方向に沿って)並んだ構成を有している。ケーシングCSは、導電性部材によって形成され、信号線23(図1B)を介して、図3を用いて後述するように、電気回路部70の内部で、シャント抵抗器R1を介して、二次側グランドSGLに接続されている。
イオン発生部110は、排ガス帯電部120に供給するイオン(ここでは陽イオン)を発生させるための機構部であり、イオン発生室111と、第1の電極112とを含んで構成されている。イオン発生室111は、ケーシングCSの内側に形成された小空間であり、内周面には空気供給孔155とノズル124とが設けられ、内部には第1の電極112が突出した状態で取り付けられている。空気供給孔155は、空気供給管24(図1B)と連通しており、空気供給部80(図1B)から供給される高圧空気をイオン発生室111に供給する。ノズル124は、排ガス帯電部120との間を区画する隔壁142の中心部付近に設けられた微小孔(オリフィス)であり、イオン発生室111で発生したイオンを排ガス帯電部120の帯電室121に供給する。第1の電極112は、棒状の外形を備え、先端部が隔壁142と近接するようにして基端部がセラミックパイプ25を介してケーシングCSに固定されている。第1の電極112は、第1の配線21(図1B)を介して電気回路部70に接続されている。その詳細は後述する。
イオン発生部110は、第1の電極112を陽極とし、隔壁142を陰極として、電気回路部70により、直流電圧(例えば、2〜3kV)が印加される。イオン発生部110は、この電圧の印加によって、第1の電極112の先端部と、隔壁142との間にコロナ放電が生じる。コロナ放電は、第1の電極112周辺の空気を構成する分子の一部を電離する。これにより、第1の電極112の周りに陽イオンPIが発生する。イオン発生部110において発生した陽イオンPIは、空気供給部80(図1B)から供給される高圧空気とともに、ノズル124を介して排ガス帯電部120の帯電室121に噴射される。ノズル124から噴射される空気の噴射速度は音速程度とすることが好ましい。
排ガス帯電部120は、排ガスEGに含まれる微粒子を陽イオンPIによって帯電させるための部位であり、帯電室121を備えている。帯電室121は、イオン発生室111と隣接する小空間であり、ノズル124を介してイオン発生室111と連通している。また、帯電室121は、流入孔145を介して、ケーシングCSの外部と連通し、ガス流路134を介してイオン捕捉部130の捕捉室131と連通している。帯電室121は、ノズル124から陽イオンPIを含む空気が噴射されたときに内部が負圧になり、流入孔145を介してケーシングCSの外部の排ガスEGが流入するように構成されている。そのため、ノズル124から噴射された陽イオンPIを含む空気と、流入孔145から流入した排ガスEGとは、帯電室121の内部において混合される。このとき、流入孔145から流入した排ガスEGに含まれる煤S(微粒子)の少なくとも一部は、ノズル124から供給される陽イオンPIにより帯電される。帯電した煤Sと帯電に供されなかった陽イオンPIとを含む空気は、ガス流路134を介してイオン捕捉部130の捕捉室131に供給される。つまり、帯電室121が、気体(排気ガスEG)が流通する測定室に該当する。
図2において、陽イオンPIを「○」に「+」として、煤Sをハッチングした「○」として、それぞれ示した。陽イオンPIは、視認できないので、図示は理解を図るための模式的なものである。また、煤Sの大きさも、説明のためであり、実際には、0.1μmから数十μm程度のものが多い。微粒子である煤Sの大きさいは、使用する内燃機関40の種類やその燃料、燃焼の状態などにより異なる。
イオン捕捉部130は、煤S(微粒子)の帯電に使用されなかったイオンを捕捉するための部位であり、捕捉室131と、第2の電極132とを含んで構成されている。捕捉室131は、帯電室121と隣接する小空間であり、ガス流路134を介して帯電室121と連通している。また、捕捉室131は、排出孔135を介して、ケーシングCSの外部と連通している。
第2の電極132は、略棒状の外形を備え、長手方向がガス流路134を流通する空気の流通方向(ケーシングCSの延伸方向)に沿うようにしてケーシングCSに固定されている。第2の電極132は、第2の配線22(図1B)を介して電気回路部70に接続されている。第2の電極132は、煤Sの帯電に供されなかった陽イオンの捕捉を補助する補助電極として機能する。具体的には、イオン捕捉部130は、電気回路部70により、第2の電極132を陽極とし、帯電室121および捕捉室131を構成するケーシングCSを陰極として、100V程度の電圧が印加されている。これにより、煤Sの帯電に用いられなかった陽イオンPIは、第2の電極132から斥力を受けて、第2の電極132から離れる方向に移動しやすい状態とされる。移動方向が第2の電極132から離れる方向とされた陽イオンPIは、陰極として機能する捕捉室131やガス流路134の内周壁に捕捉される。一方、陽イオンPIが帯電された煤Sは、陽イオンPIの単体と同様に第2の電極132から斥力を受けるが、質量が陽イオンPIと比較して格段に大きいため、斥力によってその進行方向に与えられる影響が、単体の陽イオンPIに比較して小さい。そのため、帯電した煤Sは、排ガスEGの流れに従って、排出孔135からケーシングCSの外部へと排出される。
微粒子センサ100は、イオン捕捉部130における陽イオンPIの捕捉量に応じた電流の変化を示す信号を出力する。制御部60(図1B)は、微粒子センサ100から出力された信号に基づいて、排ガスEG中に含まれる煤Sの量を検出する。微粒子センサ100から出力される信号から排ガスEG中に含まれる煤Sの量を算出する方法については後述する。
A3)電気回路部の構成:
次に、図3を用いて、電気回路部70および電気回路部70と微粒子センサ100との接続について説明する。図3は、微粒子検出装置10における電気的な全体構成を示す説明図である。電気回路部70は、ドライバ71と、絶縁トランス72と、コロナ電流測定回路73と、イオン電流測定回路74と、第1,第2,第3の整流回路81,82,12と、を備えている。電気回路部70は、絶縁トランス72を挟んで、大きくは絶縁トランス72の一次側と二次側とに分けられる。一次側と二次側とは、それぞれ独立の電源により動作する。一次側の電源は、バッテリ44に接続された電源部46により、安定化された電圧として供給される。ドライバ71の各回路75.76はもとより、制御部60等も、電源部46からドライバ71に供給される直流電源により動作する。この電源は、図3を初めとする各図において、「○」印にVp として示した。なお、二次側の電源は、複数種類存在するので、別途説明する。
本実施形態の絶縁トランス72は、一次側の巻線と二次側の巻線とが、電気的にはもとより、物理的にも接触していない。このため、絶縁不良が生じない限り、絶縁トランス72の一次側と二次側とは、完全に切り離されている。図3において、破線は、電気回路部70の一次側と二次側の境界を示している。絶縁トランス72の一次側の回路としては、ドライバ71のほか、制御部60や電源部46が含まれる。絶縁トランス72の二次側の回路としては、微粒子センサ100や第1,第2,第3の整流回路81,82,12が含まれる。コロナ電流測定回路73とイオン電流測定回路74は、絶縁トランス72の一次側の回路と二次側の回路との間に跨がる回路であり、両方の回路にそれぞれ電気的に接続されている。コロナ電流測定回路73は、後述するように、絶縁トランス72の一次側の回路に電気的に接続される回路部分と、二次側の回路に電気的に接続されている回路部分とが存在するが、両者は、後述するように、フォトカプラにより、電気的に絶縁されている。
電気的に絶縁された一次側と二次側とは、それぞれ個別にグランド電位(接地電位)を定め、接地配線を設けている。ここでは、一次側の回路の基準電位を示すグランドを「一次側グランドPGL」と呼び、図3等では「▽」印により示すものとした。また、二次側の回路の基準電位を示すグランドを「二次側グランドSGL」と呼び、同じく図3等では、「▼」印で示すものとした。絶縁トランス72は、二次側の巻線の終端のタップが二次側グランドSGLに接続されている。イオン電流測定回路74は、一次側グランドPGLに接続されている。一次側の電源は、車載のバッテリ44なので、一次側グランドPGLは、車両のシャーシに接続されている。従って、一次側グランドPGLは、シャーシグランドPGLとも言う。
ドライバ71は、絶縁トランス72の一次側巻線に供給する電力を調整する回路であり、放電電圧制御回路75とトランス駆動回路76とを備える。ドライバ71は、この放電電圧制御回路75とトランス駆動回路76との協働により、絶縁トランス72の一次側と共に、プッシュプル型の電源回路を構成する。放電電圧制御回路75は、出力電圧可変のDC/DCコンバータ(図示省略)を内蔵し、電源部46の出力する電源電圧Vpを昇圧し、これを、絶縁トランス72の一次側巻線のセンタタップPT1に印加する。DC/DCコンバータの出力電圧は、制御部60により調整可能である。トランス駆動回路76は、絶縁トランス72の一次側巻線の両端のタップPT2,PT3にそれぞれ接続される2つのスイッチング素子を備える。スイッチング素子は、ドライバ71の一次側グランドPGLとタップPT2、PT3との間に介装されている。トランス駆動回路76は、この2つのスイッチング素子を数十KHzで交互に繰り返しオン・オフすることで、放電電圧制御回路75から供給される直流電圧を交流に変換する。こうした一次側に印加された交流電圧を、絶縁トランス72は、その一次側と二次側のコイルの巻線比より変換し、二次側の電圧を生成する。絶縁トランス72の二次側の回路構成については、後述する。
電源部46が生成する電源電圧Vpで動作するもうひとつの回路である制御部60は、第1の配線21を介して微粒子センサ100の第1の電極112に供給される入力電流Iinの電流値が予め設定された目標電流値(例えば、5μA)となるように、絶縁トランス72の一次側に印加される電圧を制御する。この制御の方法については後述する。これにより、イオン発生部110において、コロナ放電によって発生する陽イオンPIの発生量は一定に保たれる。
絶縁トランス72は、上述したように、プッシュプル型の電源回路を構成する。絶縁トランス72の二次側の電圧は、一次側に供給される電圧と、一次側巻線および二次側巻線の巻線数の比とに応じて定まる。二次巻線には複数のタップが設けられ、二次側のグランドSGLに対して、全部で3種類の交流電圧を取り出すことができる。最も巻線数比の高いタップの出力は、第1の整流回路81に接続され、次に巻線数比の高いタップの出力は、第2の整流回路82に接続されている。最も巻線数比の低いタップの出力は、第3の整流回路12に、接続されている。
第1,第2の整流回路81,82は、絶縁トランス72から出力されたそれぞれの電圧の交流を整流し、直流に変換する。第1の整流回路81は、多段のチャージポンプからなり、直流に変換した電圧を、10倍程度の電圧に昇圧する。図3に示すように、第1の整流回路81の出力(直流)は、ショート保護用抵抗83を介して第1の電極112に接続されており、変換した直流電圧を、第1の配線21を介して第1の電極112に印加する。すなわち、第1の整流回路81により印加される直流電圧は、ほぼ第1の電極112における放電電圧となり、第1の整流回路81から供給される直流電流は、第1の電極112に入力される入力電流Iinとなる。第2の整流回路82は、絶縁トランス72により昇圧された交流電圧を整流する。第2の整流回路82は、ショート保護用抵抗84を介して第2の電極132に接続されており、整流後の直流電圧を第2の配線22を介して第2の電極132に印加する。
上述した第1,第2の整流回路81,82が、微粒子センサ100における放電に関与する電圧を生成しているのに対して、第3の整流回路12は、二次側の増幅器などのための駆動電圧Vccを生成する。第3の整流回路12は、フォワード方式を採用しており、絶縁トランス72から所定電圧の交流を入力し、これを整流して、直流電圧に変換する。変換された直流電圧は完全な直流にはなっていないので、精度の良い三端子レギュレータ等を用いた安定化回路により安定化してから出力する。これは、コロナ電流測定回路73やイオン電流測定回路74の回路を動作させる電源電圧として用いられる。これを、駆動電圧Vccと呼ぶものとし、図3等においては、「●」印に「Vcc」として示した。
コロナ電流測定回路73は、イオン発生部110において発生するコロナ放電によって流れる放電電流(コロナ電流)の電流値を検出するための回路であり、イオン電流測定回路74は、イオン捕捉部130において捕捉されずに流出した陽イオンPIに相当する電流(Ic)を一次側から二次側の回路に供給することで、イオン電流を測定する回路である。両回路73,74の動作について、微粒子センサ100との接続を含めて、以下説明する。
A4)コロナ電流測定回路およびイオン電流測定回路の構成:
微粒子センサ100のケーシングCSからの信号線23は、電気回路部70の内部で、イオン電流測定回路74の入力ライン95と接続されており、この信号ラインは、電圧変換部に相当するシャント抵抗器R1を介して、二次側グランドSGLに接続されている。このシャント抵抗器R1の両端は、配線91,92により、コロナ電流測定回路73の二次側に接続されている。シャント抵抗器R1には、ケーシングCSから信号線23を介した電流(Idc+Itrp)と、イオン電流測定回路74からのイオン電流(Ic )とが、二次側グランドSGLに向けて流れ込むので、シャント抵抗器R1には、合計電流(Iall =Idc+Itrp+Ic )が流れる。ここで、電流Idcは、コロナ放電により、第1の電極112から隔壁142を介してケーシングCSに流れる電流であり、電流Itrp は、ケーシングCSに捕捉された陽イオンPIの電荷に相当する電流である。また、電流Ic は、コロナ放電により発生した陽イオンPIのうち、煤Sの帯電に用いられ、排ガスEGと共にケーシングCSの外部へと持ち去られた陽イオンPIの電荷に相当する電流Iesc に相当する。煤Sと共に陽イオンPIが外部に持ち去られると、この電流Iesc に相当する電流が、イオン電流測定回路74から供給される。これは、持ち去られた陽イオンPIに相当する電荷は、どこかでグランドに落ち、車両50のシャーシに、つまり一次側の電源部46に還ってくるからである。換言すれば、煤Sと共に持ち去られた陽イオンPIに相当する電流Iesc に等しい電流Ic が、一次側の電源電圧Vp からイオン電流測定回路74を介して、二次側グランドSGLに供給されることで、第1の整流回路81から第1の配線21を介して第1の電極112に供給された放電用の入力電流Iinと、微粒子センサ100から回収される合計電流Iall とが等しくなり、電気回路部70における電流の収支はバランスする。そこで、この電流Ic を、以下、イオン電流Ic と呼ぶ。
測定電流に相当する上述した合計電流Iall は、シャント抵抗器R1を流れる。従って、シャント抵抗器R1の両端には、この合計電流Iall にシャント抵抗器R1の抵抗値を乗算した電圧が発生する。コロナ電流測定回路73は、シャント抵抗器R1の両端の電圧を増幅する図示しない増幅器と、その増幅器の出力電圧を光絶縁して外部に出力する図示しないフォトカプラとから構成されている。増幅器とフォトカプラの入力側は、駆動電圧Vccにより動作している。他方、フォトカプラの出力側は、配線93により制御部60に接続されている。フォトカプラの出力側は、一次側の電源電圧Vpにより動作している。従って、コロナ電流測定回路73の二次側は、一次側と完全に絶縁されている。なお、上記の説明では、コロナ電流測定回路73は、シャント抵抗器R1の両端電圧をそのままアナログ信号として増幅し、光絶縁して、制御部60に出力しているものとして説明したが、増幅器の出力をデジタル信号に変換してから、フォトカプラにより絶縁し、デジタル信号として制御部60側に出力するものとしてもよい。こうしたデジタル信号への変換は、例えばコロナ電流測定回路73内に三角波を発生する発振器を内蔵し、増幅器の出力をこの三角波の電圧信号と比較することで、増幅器の出力を、その出力電圧に応じたデューティのデジタル信号に変換すると言った構成により実現することができる。あるいは、増幅器の出力をA/D変換器でパラレルまたはシリアルなデジタル信号に変換した後、各信号をフォトカプラで絶縁しても良い。
コロナ電流測定回路73の出力は、配線93により制御部60に入力されている。即ち、制御部60は、コロナ放電に用いられる合計電流Iall を検出することができる。上述したように、電気回路部70から微粒子センサ100の第1の電極112に供給された入力電流Iinは、全てコロナ放電に用いられ、合計電流Iall とバランスする。従って、この合計電流Iall が一定になるように、制御部60は、ドライバ71の放電電圧制御回路75とトランス駆動回路76を介して、絶縁トランス72の一次巻線に印加される交流電圧の実効値をフィードバック制御する。この結果、第1の配線21を介して第1の電極112に供給される入力電流Iinは、一定に保たれる。
A5)イオン電流測定回路詳細:
次に、イオン電流測定回路74の構成と働きについて説明する。イオン電流測定回路74は、オペアンプとして構成されており、イオン電流Ic を所定の増幅度で増幅する。この出力は、配線94を介して、制御部60のアナログ入力ポートADC1に入力される。制御部60は、アナログ入力ポートADC1の信号を、内蔵するアナログ/デジタル変換器で変換して読み取ることで、イオン電流Ic の大きさを知り、排ガスEG中の微粒子の量を検出する。検出した微粒子の量は、車両制御部42に出力され、運転者への警告の出力や、内燃機関40の運転条件の切り替えなどに用いられる。なお、イオン電流測定回路74は、制御部60から制御信号を受け取っている。この制御信号は、制御部60の出力ポートQ3,Q4から、配線96,97を介してイオン電流測定回路74に入力されている。
イオン電流測定回路74の回路構成を図4に示した。イオン電流測定回路74は、前段の変換回路(電圧電流変換回路)を構成するオペアンプ35と後段の差動増幅器を構成するオペアンプ36からなる増幅回路を備える。更に、イオン電流測定回路74は、チャージポンプの原理により負電圧Vnを生成する負電圧生成回路39や、オフセット電圧を作り出す2つのオペアンプ37,38、オフセット電圧を設定する抵抗器R3,R4,R13,R14、差動増幅器として機能するオペアンプ36のゲインを設定する抵抗器R6〜R9、その他の抵抗器R0,R5,R10〜R12,トランジスタTr11等を備える。以下の説明では、各抵抗器の抵抗値を、抵抗器の符号(例えばR3〜R12)を用いて表すものとする。
このイオン電流測定回路74は、大まかには、オペアンプ35と抵抗器R0,R5からなり変換回路として動作する部分、オペアンプ38と抵抗器R13,R14からなり、オフセット電圧付与回路として動作する部分、オペアンプ36,37と抵抗器R3,R4,R6〜R10からなり、増幅回路として動作する部分、および負電圧生成回路39からなる。このうち、増幅回路として動作する部分は、より詳細には、オペアンプ37と抵抗器R3,R4からなり、シフト電圧を出力する回路、およびオペアンプ36と抵抗器R6〜R9からなり、電圧増幅を行なう回路から構成されている。
説明の都合上、先に負電圧生成回路39について説明する。負電圧生成回路39は、駆動電圧Vcc(+5V)から、−0.6V程度の負電圧を生成する回路である。負電圧生成回路39は、スイッチング用のトランジスタTr21、電荷を蓄積するためのコンデンサC21,C22、発生した正負の電圧を選択的にコンデンサC22に蓄積するためのダイオードD21,D22,D23、必要な抵抗器R21〜R24を備える。
図4に示したように、トランジスタTr21のベース端子は、抵抗器R21および配線97を介して制御部60の出力ポートQ4に接続されている。またトランジスタTr21のコレクタ端子は、電流制限用の抵抗器R23を介して駆動電圧Vccに接続されている。トランジスタTr21のベース・エミクタ間には、抵抗器R22が介装されている。トランジスタTr21のコレクタには、コンデンサC21を介して、整流用のダイオードD21,D22が接続されている。従って、制御部60の出力ポートQ4がハイレベル(+5V)とロウレベル(0V)とに切り替えられると、トランジスタTr21は、オン・オフする。トランジスタTrがオフの時には、駆動電圧Vccから、抵抗器R23−コンデンサC21−ダイオードD21−一次側のグランドPGLという回路ができ、コンデンサC21のトランジスタTr21側をプラスとして、コンデンサC21には電荷が蓄積される。次にトランジスタTr21がオンになると、コンデンサC21は、プラス側がトランジスタTr21を介して一次側のグランドPGLに接続された状態となるから、コンデンサC21のダイオードD21,D22側は、マイナスの電位となる。このため、ダイオードD22およびこれに直列に接続された電圧安定化用の抵抗器R24を介して、コンデンサC22が充電される。コンデンサC22に対する充電は、ダイオードD22を介して行なわれるから、グランドPGLと接続された側とは反対側がマイナスの電位になる。
以上の動作が、制御部60の出力ポートQ4がハイレベルとロウレベルに切り替えられる度に生じる。この結果、コンデンサC22の接地側とは反対側から、連続してマイナスの電圧を取り出すことができる。コンデンサC22には、ダイオードD23が並列に接続されているので、コンデンサC22から出力される電圧は、このダイオードD23の順方向電圧(約0.6V)によって制限される。つまり、コンデンサC22から出力される電圧は、−0.6Vに安定化される。この電圧を、負電圧Vnと呼び、図4では、「◇」に「−」として示した。
イオン電流測定回路74のオペアンプ35,36は、正負の電源端子のうち、正電圧側が駆動電圧Vccに接続され、負電圧側が上記の負電圧Vnに接続されている。オペアンプ37,38については、負電圧側はグランド(0V)でも差し支えない。2つのオペアンプ37,38は、ボルテージフォロワの回路構成をとり、予め定めた電圧(本実施形態では2.5V)を出力するので、分圧抵抗器R3,R4およびR13,R14の分圧抵抗比を変更するだけで、所望の電圧が得られるからである。ボルテージフォロワの回路構成をとるオペアンプ37は、その入力端子に接続された電圧をそのまま出力する。入力側の電圧は、駆動電圧Vccを、2つの抵抗器R3,R4の抵抗値で分圧した値、即ちVcc×R4/(R3+R4)となる。オペアンプ37の出力電圧を、シフト電圧Vbsと呼ぶ。
オペアンプ38も、分圧抵抗器R13,R14を用いて、同様に、所定の電圧(2.5V)を出力するが、オペアンプ38の入力端子(+)には、分圧用の抵抗器R13,R14に加えてトランジスタTr11のコレクタ端子も接続されているので、オペアンプ38の出力電圧は、トランジスタTr11のオン・オフにより変化する。トランジスタTr11のベースには、制御部60の出力ポートQ3が、抵抗器R11および配線96を介して接続されている。またトランジスタTr11のベース・エミクタ間には、抵抗器R12が接続されている。従って、制御部60の出力ポートQ3がハイレベル(H)になると、トランジスタTr11はターンオンし、オペアンプ38の出力であるオフセット電圧Vosは0Vとなる。他方、制御部60の出力ポートQ3がロウレベル(L)になると、トランジスタTr11はターンオフし、オペアンプ38の出力であるオフセット電圧Vosは2.5Vとなる。
オフセット電圧Vosを出力するオペアンプ38の出力端子は、変換回路(電圧電流変換回路)を構成するオペアンプ35の入力端子(+)に対しては直接、また増幅回路を構成するオペアンプ36の入力端子(−)に対しては抵抗器R7を介して、それぞれ接続されている。オペアンプ35は、入力端子(−)に抵抗器R0および信号線23を介して微粒子センサ100のケーシングCSに接続されている。また、この入力端子(−)は、抵抗器R5を介して、オペアンプ35の出力端子と接続されている。ケーシングCSに流れ込むイオン電流Ic は、この抵抗器R5を流れるから、オペアンプ35は、
Va=R*Ic
の関係に従って、イオン電流Ic を電圧Vaに変換する。但し、オペアンプ35の入力端子(+)には、オフセット電圧Vosが付与されているので、オペアンプ35の出力電圧は、オフセット電圧Vos+電圧Vaとなる。
オペアンプ35を用いて構成された変換回路(電圧電流回路)の後段には、オペアンプ36を用いた増幅器が接続されている。オペアンプ36は、オペアンプ35の出力(オフセット電圧Vos+電圧Va)とオフセット電圧Vossとの差分を増幅して出力する。プラス入力端子(+)には、前段のオペアンプ35の出力が抵抗器R8,R10を介して、およびオペアンプ37の出力であるシフト電圧Vbsが抵抗器R9を介して、それぞれ接続されている。オペアンプ36のマイナス入力端子(−)には、上述したように、抵抗器R7を介して、オフセット電圧Vosが入力されている。オペアンプ36の増幅度Gbは、2つの入力端子(+、−)に接続された抵抗器R6〜R9の比、即ちR9/R8=R6/R7により決定される。実際の回路では、R9=R6,R8=R7とされている。
増幅回路を構成している前段のオペアンプ35の出力は、オフセット電圧Vos+出力電圧Vaとなっているが、オペアンプ36のマイナス入力端子(−)に抵抗器R7を介してオフセット電圧Vosが接続されているため、イオン電流検出回路74全体としては、オフセット電圧Vosの影響は相殺され、オペアンプ36の出力には、オフセット電圧Vosは現れない。但し、オペアンプ36の入力端子(+)にはシフト電圧Vbsが入力されているので、オペアンプ36の出力は、このシフト電圧Vbsだけシフトされる。この結果、オペアンプ36の出力は、このシフト電圧Vbs(本実施形態では2.5V)を中心電圧とし、イオン電流Ic に対応した電圧Gb・Vaとなる。
このオペアンプ36の出力は、制御部60のアナログ入力ポートADC1に入力される。制御部60によって読み取られるオペアンプ36の出力を検出信号Vion と呼ぶ。制御部60は、アナログ入力ポートADC1に入力されるこの検出信号Vion を、内蔵するアナログ/デジタル変換器で変換して読み取る。読み取られた検出信号Vion は、コロナ放電が行なわれ、微粒子センサ100を含む全回路構成に異常がなければ、イオン電流Icを反映した値として扱うことができる。従って、この検出信号Vion を読み取ることで、制御部60は、排ガス中の微粒子の量を検出することができる。検出した微粒子の量は、車両制御部42に出力され、運転者への警告の出力や、内燃機関40の運転条件の切り替えなどに用いられる。
上述したように、イオン電流測定回路74が出力する検出信号Vionは、微粒子量に対応したイオン電流Ic を反映した値となるが、そのためには、コロナ放電が正常に行なわれ、かつコロナ放電に基づいて生じるイオン電流Ic の検出回路が正常に動作していることが前提となる。かかる前提を検証し得るように、イオン電流測定回路74には、以下の構成が組み込まれている。
(A)イオン電流測定回路74では、制御部60の出力ポートQ3がオン(ハイレベル)・オフ(ロウレベル)とされることで、オフセット電圧Vosを切り替えることができる。イオン電流Ic を測定する場合には、オペアンプ38の出力であるオフセット電圧Vosは0Vとされ、微粒子センサ100が正常か否かの判定を行なう場合には、オフセット電圧Vosは必要に応じて2.5Vとされる。正常か否かの判定については後で詳しく説明する。
(B)負電圧生成回路39により、負電圧Vn(−0.6V)を生成し、オペアンプ35〜36の一方の動作電圧として用いている。このため、オペアンプ35の出力は、マイナスの値を取り得る。このオペアンプ35の出力を受ける後段のオペアンプ36には、オペアンプ37の出力であるシフト電圧Vbs(+2.5V)が入力されているので、イオン電流測定回路74の出力は、結局、このシフト電圧Vbsを中心に、シフト電圧Vbs以下の値にもなり得る。具体的に言えば、イオン電流Ic が流れる場合には、イオン電流Ic に対応する電圧(Va)だけシフト電圧Vbsより高くなり、イオン電流Ic が流れておらず、絶縁劣化などに起因して、逆向きの電流が流れれば、シフト電圧Vbsより低くなる。
イオン電流測定回路74による測定が正常に行なわれない要因としては、微粒子センサ100のケーシングCS、つまり二次側のグランドSGLとシャーシグランドPGLと間の短絡や絶縁劣化等を生じた場合、あるいは電気回路部70の回路基板や絶縁トランス72の絶縁が劣化して絶縁抵抗が有意に低下した場合などが考えられる。そこで、この知見に基づいて、本実施形態では、以下に示す微粒子検出処理を実行するものとした。
A6)微粒子検出処理:
図5は、制御部60が実行する微粒子検出処理ルーチンを示すフローチャートである。制御部60は、この処理ルーチンを、電源投入直後から所定のインターバルで常時実行する。この処理ルーチンを開始すると、制御部60は、まず異常判定可能か否かの判断を行なう(ステップS100)。異常判定可能か否かは、車両50の運転状況に基づいて判断される。具体的には、制御部60は、車両制御部42から、運転状況を示す信号を受け取り、これに基づいて判断する。異常判定は、以下の場合に可能と判断される。
(あ)車両50のイグニッションスイッチがオフにされ、内燃機関40の運転が停止されたとき、
(い)内燃機関40の運転中で、軽負荷で運転されているとき(例えばアイドル運転時)、
(う)その他、車両制御部42が、運転中の内燃機関40から煤が出ていない(例えばフューエルカット時)と判断し、その旨を通知してきたとき。
異常判定が可能でないと判断した場合には(ステップS100:NO)、制御部60は、出力ポートQ1をアクティブにして、トランス駆動回路76動作させ、微粒子センサ100の第1の電極112に高電圧を付与し、出力ポートQ4をオン(ハイレベル)として、オフセット電圧Vosをオフ(0V)とする(ステップS200)。その上で、アナログ入力ポートADC1の信号を読み取って、微粒子を測定する(ステップS210)。
他方、異常判定が可能と判断した場合は(ステップS100:YES)、制御部60は、出力ポートQ1をオフにして、トランス駆動回路76を停止させ、微粒子センサ100の第1の電極112への高電圧付与をオフとすると共に、出力ポートQ4をハイレベルとして、オフセット電圧Vosをオフ(0V)とする(ステップS110)。この結果、微粒子センサ100の第1の電極112には高電圧は付与されず、かつオフセット電圧Vosも付与されない状態となる。
次に、フラグFcおよびFsを値0に初期化する処理を行なう(ステップS120)。フラグFcは、回路異常が検出されたときに値1にセットされ、フラグFsは、微粒子センサ100およびその電源系に異常が検出されたときに値1または2にセットされる。フラグFc,Fsを用いるのは、車両制御部42が備えるダイアグノーシスの機能において、異常をモニタし記録するためである。
続いて、イオン電流測定回路74からの検出信号Vion をアナログ入力ポートADC1を介して読み込み、この検出信号Vion を予め設定した所定値Vt1と比較する処理を行なう(ステップS130)。この所定値Vt1は、本実施形態では、1.5Vとした。検出信号Vion が所定値Vt1(1.5V)未満であれば、フラグFcに値1を設定する(ステップS140)。フラグFcに値1を設定するとは、電気回路部70の回路の絶縁抵抗が劣化していることを示す。
トランス駆動回路76を停止させ、微粒子センサ100の第1の電極112への高電圧付与をオフとすると共に、出力ポートQ4をハイレベルとして、オフセット電圧Vosをオフ(0V)とすると、本来は、検出信号Vion は、2.5Vとなる。しかしながら、電気回路部70の回路の絶縁抵抗が劣化していると、各オペアンプの入力インピーダンスが小さくなり、増幅回路としてのオペアンプ36の出力電圧は低下する。オペアンプ36の出力が1.5Vを下回っていれば、回路の絶縁劣化はかなり進んでいて、イオン電流測定回路74の回路の絶縁抵抗は相当に劣化しており、その検出信号Vion は測定信号としての信頼性を備えていないと判断することができる。このためフラグFcに値1を設定し(ステップS140)、ステップS150〜S175を経ることなく、後述するステップS180に移行する。
他方、検出信号Vion が所定値Vt1以上であれば、電気回路部70の絶縁抵抗の劣化はそれほど進んでいないと判断し、フラグFcはそのままにして、次に、出力ポートQ1をオフにして、トランス駆動回路76を停止させ、微粒子センサ100の第1の電極112への高電圧付与をオフとすると共に、出力ポートQ4をロウレベルとして、オフセット電圧Vosをオン(5V)とする(ステップS150)。この結果、微粒子センサ100の第1の電極112には高電圧は付与されず、他方オフセット電圧Vosは付与された状態となる。
その上で、イオン電流測定回路74からの検出信号Vion をアナログ入力ポートADC1を介して読み込み、この検出信号Vion を予め設定した所定値Vt2、Vt3と比較する処理を行なう(ステップS160)。本実施形態では、所定値Vt2は3.0V、Vt3は4.5Vとした。検出信号Vion が、所定値Vt3(4.5V)以上であれば、フラグFsに値1を設定する(ステップS170)。また、検出信号Vion が所定値Vt2(3.0V)より大きく所定値Vt3(4.5V)以下であれば、フラグFsに値2を設定する(ステップS175)。他方、検出信号Vion が所定値Vt2(3.0V)以下であれば、フラグFsについては何も行なわない。
トランス駆動回路76を停止させ、微粒子センサ100の第1の電極112への高電圧付与をオフとしたまま、出力ポートQ4をロウレベルとして、オフセット電圧Vosをオン(2.5V)とすると、オペアンプ35の動作点は、イオン電流Ic の検出を行なう場合と比べてオフセット電圧Vosだけシフトする。動作点がシフトしても、微粒子センサ100が正常で十分絶縁された状態であれば、抵抗器R0に流れる電流は0なので、オペアンプ35の電圧Vaは0のままに維持される。しかし、仮に微粒子センサ100の絶縁が劣化していると、コロナ放電がなされていないにもかかわらず、抵抗器R0を介して、イオン電流Ic と同じ方向に電流が流れ、オペアンプ35の出力に電圧Vaが現れる。微粒子センサ100の絶縁劣化としては、第1の電極112に煤が付着してそのインピーダンスが低下する場合の他、第1の電極112が短絡故障を起こしている場合などが考えられる。
第1の電極112が短絡故障を起こすと、ケーシングCSは第1の電極112を介して、二次側の回路に接地された状態となり、大きな電流が流れるから、オペアンプ35の電圧Vaは過大となる。この結果、検出信号Vion は、所定値Vt3(4.5V)を越える。他方、短絡故障までは至らなくても、第1の電極112に煤などが付着し、その絶縁が劣化して来ると、同様にオペアンプ35の電圧Vaは、イオン電流の検出を行なっていないにもかかわらず有意に上昇し、検出信号Vion は、所定値Vt2(3.0V)を越える。図5のステップS150〜S175の処理により、こうした状態となっていることが、フラグFsに、値1または値2として記録される。
そこで、ステップS150〜S175上記の処理の後、フラグFc,Fsの値について判断し(ステップS180)、フラグFc,Fsが共に値0であれば、異常を示すフラグはセットされていないとして、上述したステップS200に移行し、制御部60により、トランス駆動回路76を起動させ、微粒子センサ100の第1の電極112への高電圧付与をオンとすると共に、出力ポートQ4をハイレベルとして、オフセット電圧Vosをオフ(0V)とし、イオン電流Ic の測定、つまり微粒子の測定を行なう(ステップS210)。
他方、フラグFc,Fsの少なくとも1つが0でなければ、異常判定結果を出力する処理を行なう(ステップS190)。異常判定結果の出力として、本実施形態では、フラグFc,Fsの値を、車両制御部42に送信すると共に、インスツルメントパネルに表示させ、異常の発生を運転者に報知する処理を行なう。フラグFc,Fsを受け取った車両制御部42は、これらをダイアグノーシスにおいて記録すると共に、必要に応じて内燃機関の運転制御に反映させる。例えば、燃料供給部43を制御して燃料供給を停止して内燃機関40の運転を停止したり、煤の発生を極力回避するような運転モードで内燃機関40を運転するといった制御を行なう。また、ダイアグノーシスは、外部からの求めに応じて、異常の内容を出力する。各フラグの値と、その値が示す異常の内容は以下の通りである。
Fc=1:回路絶縁劣化異常(電気回路部70の回路の絶縁劣化の発生)
Fs=1:微粒子センサの短絡故障(第1の電極112の短絡の発生)
Fs=2:微粒子センサの絶縁劣化異常(第1の電極112への煤の付着等)
イオン電流測定回路74によるイオン電流の測定に係わる回路や微粒子センサ100に何らかの異常がある場合の上記処理(ステップS190)または異常が見い出されず通常の微粒子測定を行なう処理(ステップS200〜S210)の後、制御部60は、本ルーチンを終了する。
A7)実施形態の作用・効果:
上記処理における各部の状態を、図6に模式的に示した。図において、符号t1は、図5におけるステップS100、即ち異常判定を行なって良いか否かの判断を行なうタイミングを示す。ここで、異常判定を行なって良いとの判断がなされると、図6に示したように、制御部60は、トランス駆動回路76を制御して、絶縁トランス72へのタップPT2、PT3をオフとし、微粒子センサ100の第1の電極112への高電圧付与をオフとし、また出力ポートQ3をハイレベルに保ち、オフセット電圧Vosをオフ(0V)とする(ステップS110)。従って、タイミングt1以降、制御部60は、イオン電流測定回路74および微粒子センサ100の異常を判定する処理に入る。
このときイオン電流測定回路74から制御部60のアナログ入力ポートADC1に入力される検出信号Vion の電圧は、シフト電圧Vbsを中心とする所定の電圧となる。電気回路部70の絶縁劣化がなければ、この検出信号Vion の電圧は、+2.5Vに保たれる(図6、実線LN)。しかしながら、電気回路部70の絶縁が劣化し、リーク電流が生じていると、この電圧は低下し(図6、破線LL)、場合によっては、所定値Vt1を下回り、回路絶縁劣化異常として検出される。
電気回路部70の回路基板の絶縁劣化により、検出信号Vion の電圧が低下し、場合によっては所定値Vt1未満となる理由について、図7を用いて説明する。図7は、変換回路(電圧電流変換回路)としてのオペアンプ35の入力側の等価回路ECを示す模式図である。オペアンプ35の入力端子(−)は、抵抗器R0を介して、微粒子センサ100のケーシングCSに接続されているが、回路基板の絶縁抵抗などを介して、様々な部位と電気的には結合されているとみなすことができる。
等価回路ECにおいて想定し得るのは次の2つの経路である。
[1]絶縁抵抗Rtおよび絶縁トランス72を介して電源(ここでは、一次側のバッテリ44)に接続される経路;
[2]絶縁抵抗RcからケーシングCSおよびケーシングCSを除くセンサ構成部品を介して一次側グランドPGLに接続される経路:
まず、[1]のケースについて説明する。オペアンプ35は、イオン電流Ic がケーシングCS側に流れ出す場合に、検出信号Vion がシフト電圧Vbsよりも高くなるように回路設計されているので、電気回路部70の回路基板の絶縁不良により、絶縁抵抗Rtが低下して、絶縁トランス72を介して、オペアンプ35の入力端子(−)に電流が流れ込むと、検出信号Vion の電圧は低下する。検出信号Vion の電圧の低下は、絶縁抵抗Rtの大きさによるから、検出信号Vion の電圧が所定値Vt1未満となれば、これを回路基板の絶縁劣化異常として検出することができる。
次に[2]のケースについて説明する。図5のステップS130で、検出信号Vion の電圧が所定値Vt1以上であると判定された場合には(図6、タイミングt2)、制御部60は、微粒子センサ100の第1の電極112への高電圧の付与をオフとしたまま、出力ポートQ3をロウレベルとして、オフセット電圧Vosをオンとする(ステップS150)。この場合でも、異常がなければ、検出信号Vion は+2.5Vに保たれる(図6、実線LN)。
しかしながら、微粒子センサ100のケーシングCS、つまり二次側のグランドSGLとシャーシグランドPGLとの間の短絡や絶縁劣化等と言った異常を生じていると、オペアンプ35の入力端子(−)は、絶縁抵抗RcからケーシングCSおよびケーシングCSを除くセンサ構成部品を介して一次側グランドPGLに接続された状態となるため、イオン電流Ic と同方向に大きな電流が流れることになり、検出信号Vion の電圧は大きな値となり(図6、一点鎖線LH)、所定値Vt3を上回る。これは、センサのショート異常として検出される(図5、ステップS160、S170、S180、S190)。
他方、ケーシングCSの絶縁劣化が生じた場合には、短絡故障ほどの電流にはならないので、検出信号Vion の電圧は、所定値Vt3は上回らないものの、所定値Vt2を上回る場合がある。この場合には、センサ絶縁劣化異常として検出される(ステップS160、S175、S180,S190)。
こうした異常判定の処理を行なった後、検出信号Vion の電圧が図6に示した正常測定範囲(所定値Vt1〜Vt2)に入っており、いずれの異常も検出されなかった場合には、図6タイミングt3において、制御部60は、トランス駆動回路76を制御して、絶縁トランス72へのタップPT2、PT3をオンとし、微粒子センサ100の第1の電極112への高電圧付与を開始(オン)し、また出力ポートQ3をハイレベルに切り替え、オフセット電圧Vosをオフ(0V)とする(ステップS200)。従って、タイミングt3以降、制御部60は、微粒子センサ100およびイオン電流測定回路74を用いてイオン電流Ic 、即ち内燃機関40の排気中に含まれる微粒子量を判定する処理に入る。
以上説明したように、本実施形態の微粒子検出装置10は、コロナ放電を利用して、排気EG中の微粒子量を検出することができる上、電気回路部70の回路基板の絶縁劣化や、微粒子センサ100のケーシングCS、つまり二次側のグランドSGLとシャーシグランドPGLとの短絡異常や絶縁劣化異常などを併せて検出することができる。しかも、こうした異常の検出を行なう際にだけ、イオン電流Ic を電圧信号に変換する変換回路に相当するオペアンプ35にオフセット電圧Vosを付与するので、オフセット電圧Vosの影響によって、イオン電流Ic の測定に誤差を生じるということがない。
オフセット電圧Vosは、上述したように回路や微粒子センサの絶縁劣化を検出しようとすると、オペアンプ35に付与する必要が生じるが、付与したままイオン電流Ic の検出を行なうと、誤差の要因となる。この点について説明する。図7に示したように、オペアンプ35の入力端子(−)は、絶縁抵抗Rpを介して、基板のガードパターンに接続されているとみなすことができる。基板のガードパターンとは、イオン電流測定回路74において、絶縁トランス72の一次側のノイズが二次側に影響しないように、イオン電流測定回路74の二次側の駆動電圧Vccで動作している範囲を囲っている導体パターンである。この導体パターンには、電気回路部70の回路基板上に設けられており、オフセット電圧Vosが接続されている。このため、イオン電流Ic を測定する場合、回路基板の絶縁抵抗Rpを介して、オフセット電圧Vosの影響を受けたものを測定していることになる。より詳しくは、抵抗R0と絶縁抵抗Rt,Rp,Rcの合成抵抗でオフセット電圧Vosを除算した分の電流が、イオン電流Ic に重畳されることになる。
本実施形態では、回路の異常を検出する際にのみ、このオフセット電圧Vosを加え、イオン電流Ic の測定中はオフセット電圧Vosを加えていない。このため、イオン電流Ic の測定にはオフセット電圧Vosが影響することがない。
B.他の構成例:
以上本発明の一実施形態について説明したが、本発明は他の種々の構成を取り得る。例えば、オフセット電圧Vosを加えて行なう異常検出は、センサの短絡劣化と絶縁劣化の異常のいずれか1つだけでも差し支えない。あるいは、回路基板の絶縁劣化の検出を行なわなくても良い。また、上記実施形態では、イオン電流Ic の検出時には、オフセット電圧Vosをオペアンプ35に加えない構成としたが、等価回路の解析によりオフセット電圧Vosにより影響が分かっているので、イオン電流Ic の測定中もオフセット電圧Vosを印加し、検出信号Vion の計測値から、オフセット電圧Vosの影響を除いてイオン電流Ic を求めるように構成しても良い。この場合、異常判定は同様に行なうから、電気回路部70の回路基板の絶縁劣化を検出してイオン電流Ic の計測を中止すれば、誤ったイオン電流Ic の測定値を用いて微粒子量の検出を行なうことがない。
上記の実施形態では、微粒子センサ100には、空気供給孔155を設け、空気供給部80からの空気を供給したが、微粒子センサ100は、こうした外部からの空気の強制的な流れを用いないものとしてもよい。例えば特開2016−61767号公報に記載された粒子検知システムの構成を採用し、この回路部200に本願のイオン電流測定回路74および制御部60を含む電気回路部70の構成を適用することも可能である。また、微粒子センサ100としては、第2の電極132がない構成とすることも可能である。第2の電極132は、微粒子に付着しなかった陽イオンを、微粒子センサ100の外部に排出せず回収するために設けられているが、コロナ放電を行なう第1の電極112での放電により生成される陽イオンの量や、排ガスEGの流路などを工夫することにより、微粒子に付着しない陽イオンの排出を抑制することができる。
上記実施形態では、高電圧を微粒子センサ100の第1の電極112に付与するか否かおよび変換回路としてのオペアンプ35にオフセット電圧Vosを付与するか否かは、制御部60が自ら決定している。これに対して、これらの付与の切替を自律的に行なう回路を設け、その状態を制御部60が検出しこれに合せて、検出信号Vion による微粒子量の検出とセンサ異常などの判定とを行なう構成としても差し支えない。
上述した実施形態では、異常の発生は車両制御部42内のダイアグノーシスにフラグの値を出力し、これを記録するものとしたが、単にインスツルメントパネルに表示するだけでも差し支えない。また、外部への報知は行なわず、ダイアグノーシスにおいて記録するだけでも差し支えない。また、異常の内容により対応を変更することも差し支えない。フラグFc=1、つまり電気回路部70の回路基板の絶縁劣化の場合には、微粒子の測定を行なう回路自体の異常であるため、これを運転者に報知するものとし、フラグFs≠0の場合には運転者への報知は行なわないといったように、両者の対応を変えても良い。
図5に示した処理では、検出信号Vion の電圧が所定値Vt1(実施形態では1.5V)未満であれば、回路が絶縁劣化しているとして、フラグFcに値1をセットした後、ステップS150以下の処理・判断は行なっていないが、検出信号Vion の電圧が所定値Vt1未満であっても、フラグFcを値1に設定した後、処理をステップS150に移行させて、微粒子センサ100の絶縁劣化や短絡を検出するものとしてもよい。更に、回路を工夫して、微粒子センサ100の第1の電極112の配線の断線検出を併せ行なうものとしても良い。
図5に示した処理では、異常検出の際にコロナ放電を停止したが、コロナ放電を行なう回路を、電気回路部70とは全く別体に設けている場合には、例えば内燃機関40を停止した状態では、コロナ放電を行ないながら、回路異常の検出を行なうことも可能である。内燃機関40を停止して煤が出ない状態であれば、微粒子の排出は行なわれないので、イオン電流Ic はないものとして扱えからである。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々の態様で実施できることは勿論である。実施形態の中でハードウェアにより実施している部分は、ソフトウェアによって置き換えことも可能である。例えば制御部60、コロナ電流測定回路73が検出する合計電流Iall を一定にするように放電電圧制御回路75を制御しているが、合計電流Iall を一定にするようなフィードバック回路をハードウェアにより実現することは容易である。また、負電圧生成回路39は、制御部60の出力ポートQ4を用いず、単独でマイナスの電圧を出力するDC/DCコンバータなどにより実現してもよい。他方、オフセット電圧Vosは、制御部60がD/Aコンバータを介して出力するものとし、その電圧を、制御部60がソフトウェアにより設定することも可能である。