JP2019019413A - イットリウム系フッ化物溶射皮膜、該溶射皮膜を形成するための溶射材料、該溶射皮膜の形成方法、及び該溶射皮膜を含む耐食性皮膜 - Google Patents

イットリウム系フッ化物溶射皮膜、該溶射皮膜を形成するための溶射材料、該溶射皮膜の形成方法、及び該溶射皮膜を含む耐食性皮膜 Download PDF

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【解決手段】基材表面に形成された厚さ10〜500μmのイットリウム系フッ化物溶射皮膜であり、YF3と、Y5O4F7及び/又はYOFとを含むイットリウム系フッ化物結晶構造を有し、酸素濃度2〜4質量%、硬度350〜470HVであるイットリウム系フッ化物溶射皮膜。【効果】ハロゲン系ガス雰囲気又はハロゲン系ガスプラズマ雰囲気下で優れた耐腐食性を発揮すると共に、酸洗浄時にも酸浸透による基材損傷を効果的に防止することができ、しかも反応生成物や皮膜からの脱粒によるパーティクルの発生を可及的に減少させることができる。【選択図】なし

Description

本発明は、半導体製造、液晶製造、有機EL製造、無機EL製造等の製造工程においてハロゲン系腐食性ガスや腐食性プラズマの雰囲気下に使用される部品等に設けられる低発塵性の耐食性皮膜として好適に採用されるイットリウム系フッ化物溶射皮膜、該溶射皮膜を形成するための溶射材料、該溶射皮膜の形成方法、及び該イットリウム系フッ化物溶射皮膜を含む複数層構造の耐食性皮膜に関する。
従来、半導体製造工程においては、絶縁膜エッチング装置、ゲートエッチング装置、CVD装置などが使用されるが、その場合に微細化加工による高集積化技術に伴いプラズマ発生によるチャンバー部材の耐食性が問題になることがある。また、不純物汚染を防止するため、これら装置を構成する部材には高純度材料が用いられる。
上記半導体製造工程の処理ガスとしては、フッ素系、塩素系のハロゲン系ガスが利用され、フッ素系ガスとしてはSF6、CF4、CHF3、ClF3、HF、NF3等が、また塩素系ガスとしてはCl2、BCl3、HCl、CCl4、SiCl4等が挙げられる。これらのガスが導入された雰囲気にマイクロ波などの高周波を発生させ、これらのガスをプラズマ化させて処理を行なうが、その際このプラズマに暴露されるチャンバーを構成する部材には高い耐食性が要求される。
このような処理に用いられる装置の部品や部材には、表面に耐食性皮膜を形成することが行われており、例えば金属アルミニウム又は酸化アルミニウムセラミックスからなる基材の表面に酸化イットリウム(特許第4006596号公報)やフッ化イットリウム(特許第3523222号公報、特表2011−514933号公報)を溶射し成膜した部品や部材が耐腐食性に優れていることが知られ、採用されている。また、プラズマに暴露されるチャンバー部材の内壁を保護する材料として、石英、アルミナ等のセラミックス、アルマイト処理皮膜、あるいは、これら基材表面に上記溶射を施した溶射皮膜が挙げられる。更に、特開2002−241971号公報には、耐食性ガス下でプラズマに曝される表面領域が周期律表3A族の金属層で形成された耐プラズマ部材が提案されている。その膜厚は、50〜200μm程度が一般的である。
しかしながら、上記セラミック部材は加工コストが高く、腐食性ガス雰囲気下でプラズマに長時間曝されると、反応ガスによる影響で表面からの腐食が進行して表面を構成する結晶粒子が離脱し、いわゆるパーティクルが発生する。この離脱したパーティクルが半導体ウェハーや下部電極などに付着して、エッチング工程の製造歩留まりに悪影響を及ぼすことが分かっており、これらパーティクル汚染の原因となる反応生成物を除去する必要がある。また、部材表面をプラズマに対して耐食性のある材料にする場合にも基材からの金属汚染を防止することも必要になる。更に、アルマイト処理皮膜や溶射皮膜の場合、コートする基材が金属であると、当該金属からの汚染がエッチング工程の品質歩留まりに悪影響を及ぼす場合もある。
一方、プラズマによる影響でチャンバー内壁に付着堆積した反応生成物を洗浄により除去する必要があるが、大気中の水分や水系洗浄工程では、反応生成物と水とが反応して酸が発生し、その酸が溶射皮膜と金属基材との界面まで浸透して基材界面にダメージを与え、これら界面の密着力の低下を招き、皮膜剥離が発生し、本来のプラズマ耐性が損なわれる危険性がある。
また、半導体デバイス製造においては、微細化と大口径化が進んでおり、特にドライエッチングプロセスにおいてチャンバー部材の耐プラズマ性能が与える影響は大きく、チャンバー部材の腐食により発生する金属汚染、反応生成物や皮膜からの脱粒による上記パーティクルが問題になる。
更に、近年は半導体の集積化が進み、配線は20nm以下にもなりつつあるが、上記イットリウム系皮膜の場合、この集積化が進んだ半導体デバイスの製造過程におけるエッチング中に部品のイットリウム系皮膜表面からイットリウム系粒子が剥がれSiウェハー上に落ちてエッチング処理の障害となり、これが半導体デバイスの歩留まりを悪化させる原因となる。また、イットリウム系皮膜表面から剥がれるイットリウム系粒子はエッチング時間の初期に多く、エッチング時間が長くなるにつれて、減少する傾向がある。なお、先行技術文献として上記以外にも下記特許文献5〜9が挙げられる。
特許第4006596号公報 特許第3523222号公報 特表2011−514933号公報 特開2002−241971号公報 特許第3672833号公報 特許第4905697号公報 特許第3894313号公報 特許第5396672号公報 特許第4985928号公報
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、半導体製造装置に使用されるハロゲン系腐食性ガスの部材表面からのガス浸透を抑制し、そのプラズマに対して十分な耐食性(耐プラズマ性)を有すると共に、プラズマエッチング中に部材表面に付着堆積した反応生成物を除去するための酸洗浄を繰り返しても酸浸透による基材損傷を可及的に防止することができ、しかも金属汚染、反応生成物や皮膜からの脱粒によるパーティクル発生の少ない耐食性皮膜を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、YF3、Y547、YOF等を含むイットリウム系フッ化物結晶構造を有し、酸素濃度が1〜6質量%、硬度350HV以上のイットリウム系フッ化物溶射皮膜、特にクラック量や気孔率が皮膜表面積の5%以下、更には炭素含有量が0.01質量%以下の皮膜が、プラズマに対して十分な耐食性を発揮すると共に、酸洗浄時にも酸浸透による基材損傷を効果的に防止することができ、しかも上記パーティクルの発生を可及的に減少させることができることを見い出した。
また、本発明者らは、更に検討を進めた結果、溶射材料として、9〜27質量%がY547で残部がYF3の造粒粉、又はフッ化イットリウムの造粒粉95〜85質量%と酸化イットリウムの造粒粉5〜15質量%とを混合した混合粉末を用いることにより、クラック量5%以下の上記高性能なイットリウム系フッ化物溶射皮膜を容易に成膜することができ、更にY、Sc、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等の希土類の酸化物からなる気孔率5%以下の希土類酸化物溶射皮膜の下層と上記イットリウム系フッ化物溶射皮膜とを組み合わせることにより、より高い酸浸透抑制効果が得られ、皮膜の損傷をより効果的に防止してより信頼性の高い耐食性能が得られることを見い出し、本発明を完成したものである。
従って、本発明は、下記イットリウム系フッ化物溶射皮膜、該溶射皮膜を形成するための溶射材料、該溶射皮膜の形成方法、及び該溶射皮膜を含む耐食性皮膜を提供する。
[1] 基材表面に形成された厚さ10〜500μmのイットリウム系フッ化物溶射皮膜であり、YF3と、Y547及び/又はYOFとを含むイットリウム系フッ化物結晶構造を有し、酸素濃度2〜4質量%、硬度350〜470HVであることを特徴とするイットリウム系フッ化物溶射皮膜。
[2] クラック量が皮膜表面積の5%以下である[1]のイットリウム系フッ化物溶射皮膜。
[3] 気孔率が皮膜表面積の5%以下である[1]又は[2]のイットリウム系フッ化物溶射皮膜。
[4] YF3と、Y547及び/又はYOFとからなるイットリウム系フッ化物結晶構造を有する[1]〜[3]のいずれかのイットリウム系フッ化物溶射皮膜。
[5] 炭素の含有量が0.01質量%以下である[1]〜[4]のいずれかのイットリウム系フッ化物溶射皮膜。
[6] [1]〜[5]のいずれかのイットリウム系フッ化物溶射皮膜を形成するための溶射材料であり、9〜27質量%がY547で残部がYF3の造粒粉からなることを特徴とするイットリウム系フッ化物溶射材料。
[7] [1]〜[5]のいずれかのイットリウム系フッ化物溶射皮膜を形成するための溶射材料であり、フッ化イットリウムの造粒粉95〜85質量%と酸化イットリウムの造粒粉5〜15質量%とを混合した混合粉末であることを特徴とするイットリウム系フッ化物溶射材料。
[8] [1]〜[5]のいずれかのイットリウム系フッ化物溶射皮膜を形成する方法であって、[6]又は[7]記載のイットリウム系フッ化物溶射材料を用いた溶射により形成することを特徴とするイットリウム系フッ化物溶射皮膜の形成方法。
[9] 上記溶射がプラズマ溶射である[8]記載のイットリウム系フッ化物溶射皮膜の形成方法。
[10] 厚さ10〜500μmで気孔率5%以下の希土類酸化物溶射皮膜からなる下層と、[1]〜[5]のいずれかのイットリウム系フッ化物溶射皮膜からなる最表面層とを有する複数層構造であることを特徴とする耐食性皮膜。
[11] 上記下層の希土類酸化物溶射皮膜の希土類金属元素が、Y、Sc、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuから選ばれる1種又は2種以上である[10]の耐食性皮膜。
本発明のイットリウム系フッ化物溶射皮膜によれば、ハロゲン系ガス雰囲気又はハロゲン系ガスプラズマ雰囲気下で処理を行う場合に優れた耐腐食性を発揮すると共に、酸洗浄時にも酸浸透による基材損傷を効果的に防止することができ、しかも反応生成物や皮膜からの脱粒によるパーティクルの発生を可及的に減少させることができる。そして、本発明の溶射材料によれば、このような本発明のイットリウム系フッ化物溶射皮膜を容易に得ることができる。更に、この本発明のイットリウム系フッ化物溶射皮膜を、気孔率5%以下の希土類酸化物溶射皮膜からなる下層と組み合わせた本発明の耐食性皮膜によれば、酸浸透抑制効果をより高めることができ、皮膜の損傷をより効果的に防止してより信頼性の高い耐食性能が得られるものである。
比較例1で成膜したイットリウム系フッ化物溶射皮膜の表面を示す電子顕微鏡写真である。 クラックを強調した図1の電子顕微鏡写真の部分拡大図である。 実施例2で成膜したイットリウム系フッ化物溶射皮膜の表面を示す電子顕微鏡写真である。 クラックを強調した図3の電子顕微鏡写真の部分拡大図である。
本発明の溶射皮膜は、ハロゲン系ガス雰囲気又はハロゲン系ガスプラズマ雰囲気に対して良好な耐食性を有するイットリウム系フッ化物の溶射皮膜であり、例えばYF3、Y547、YOF等を含むイットリウム系フッ化物結晶構造を有するものであり、好ましくはYF3と、Y547、YOF、Y23から選ばれる少なくとも1種以上とからなるイットリウム系フッ化物結晶構造を有するものである。
本発明のイットリウム系フッ化物溶射皮膜は、上記のように、酸素濃度1〜6質量%、硬度350HV以上の皮膜であり、このように酸素濃度が低くかつ高硬度なイットリウム系フッ化物溶射皮膜はクラックや開気孔が少なく緻密な膜質となり、これによりパーティクル汚染やハロゲン系腐食ガスの侵入を抑制することができる。なお、より好ましい酸素濃度は2〜4.8質量%であり、より好ましい硬度は350〜470HVである。皮膜のクラック量はクラックの面積が皮膜表面積の5%以下であることが好ましく、より好ましくは4%以下である。また、気孔率も皮膜表面積の5%以下であることが好ましく、より好ましくは3%以下である。クラック量や気孔率は溶射皮膜表面を画像解析することにより定量化することができ、その画像面積に対する割合を測定することができる。なお、皮膜が切断された状態で使用される場合には、その断面部分の面積も上記の「皮膜表面積」に含むものとする。クラック量や気孔率の詳細及びこれらの具体的な測定方法は後述する。
更に、特に制限されるものではないが、皮膜中の炭素量を0.01質量%以下とすることが好ましく、これによりカーボンによる影響で生ずる結晶系の歪、プラズマガスや熱の影響で起こる膜質の変化を抑制することができ、膜質の安定化を図ることができる。なお、より好ましい炭素量は0.005質量%以下である。
本発明の溶射皮膜を形成するイットリウム系フッ化物は、ハロゲン系プラズマガスと反応せず、反応ガスに伴うパーティクルの発生を抑制することができ、これにより半導体デバイス製造時のプロセス変動を可及的に防止することができる。本発明の溶射皮膜を形成するイットリウム系フッ化物は、特に制限されるものではないが、上記のように、YF3と、Y547、YOF、Y23から選ばれる少なくとも1種以上とからなるイットリウム系フッ化物結晶構造を有するものであることが好ましい。
即ち、希土類フッ化物の中には希土類元素により相転移点を持つものがあり、Y、Sm、Eu、Gd、Er、Tm、Yb、Luは焼結温度からの冷却時に相変化しクラックが発生するため、焼結体の製造が困難である。これは結晶構造に起因する。例えば、フッ化イットリウム溶射皮膜の結晶構造は高温型、低温型の2種類があり、転移温度は1355Kである。相転移により密度が高温型(六方晶系)の3.91g/cm3から低温型(斜方晶系)の5.05g/cm3に変化し体積減少により表面クラックが発生する。これに対し、イットリウム系フッ化物に例えばY23を微量添加すると、結晶が部分安定化されクラックの形態が変わり表面のクラックを減らすことができる。そして、本発明では、上記のように、YF3と、Y547、YOF、Y23から選ばれる少なくとも1種以上とからなるイットリウム系フッ化物結晶構造の皮膜とすることが好ましく、これによりクラックの発生を効果的に抑制することができる。
本発明の溶射皮膜の厚さは、上記のとおり、10〜500μmであり、好ましくは30〜300μmである。皮膜の厚さが10μm未満であると、ハロゲン系ガス雰囲気又はハロゲン系ガスプラズマ雰囲気に対する十分な耐食性が得られない場合があり、またパーティクル汚染の発生を効果的に抑制することが困難となる場合もある。一方、厚さが500μmを超えても、増厚に見合うだけの効果の向上は見られず、また熱応力による皮膜剥離等の不都合を生じる場合もある。
本発明のイットリウム系フッ化物溶射皮膜は、下記溶射材料を用いて溶射を行なうことにより得ることができる。
即ち、YF3原料粉末95〜85質量%とY23原料粉末5〜15質量%とを混合した混合原料粉をスプレードライ等により造粒し、得られた造粒粉を真空又は不活性ガス雰囲気中で600〜1000℃、好ましくは700〜900℃の温度で、1〜12時間、好ましくは2〜5時間焼成して単一の造粒粉とする。なお、上記各原料粉末の粒径は0.01〜3μm(D50)の単一粒子とすることが好ましく、焼成した造粒粉の粒径は10〜60μm(D50)とすることが好ましい。このようにして得られた焼成粉(造粒粉)はY547とYF3とが混在した結晶構造を有することがXRD解析により確認でき、Y547の含有量が9〜27質量%で残部がYF3となる。この焼成粉(単一造粒粉)を本発明溶射皮膜を形成するための溶射材料とすることができる。また、上記YF3の原料粉末(造粒粉)95〜85質量%とY23の原料粉末(造粒粉)5〜15質量%とを混合した未焼成の混合粉末を溶射材料とすることもできる。
上記焼成粉(単一造粒粉)又は上記混合粉末を溶射材料として用いて溶射を行なうことにより、YF3と、Y547、YOF、Y23から選ばれる少なくとも1種以上とからなるイットリウム系フッ化物結晶構造を有する溶射皮膜が得られ、その皮膜は表面のクラックが少なく、硬度350〜470HV程度の緻密な皮膜となる。また、この溶射皮膜中の酸素含有量は2〜4質量%となる。更に、これらの溶射材料を用いることにより、後述する気孔率を小さくすることもでき、気孔率を5%以下とすることが可能である。
本発明の溶射皮膜は、上記のようにクラック量が皮膜表面積の5%以下であることが好ましいが、クラック量を少なくするための方法として、得られた溶射皮膜の表面を研磨する方法も有効である。即ち、溶射形成したイットリウム系フッ化物溶射皮膜の表面を10〜50μm厚ほど削り落してクラックを除去するも方法である。しかしながら、最表層部のクラックを研磨により除去しても硬度が低く、気孔率が大きければ緻密な膜質とはならず、研磨によりクラックを除去した後も350HV以上の高い硬度が維持され、気孔率の小さい膜質であることが必要である。一方、表面研削、研磨加工などによりクラックを減少させる利点としては、研磨により表面粗さを小さくすることで皮膜表面の比表面積を減らし、初期パーティクルを少なくし得ることである。
本発明のイットリウム系フッ化物溶射皮膜を形成する際の溶射条件は、プラズマ溶射、SPS溶射、爆発溶射、減圧溶射等のいずれの雰囲気によるものでもよく、ノズルと基材との距離及び溶射スピード(ガス種、ガス量)をコントロールしながら、例えば上記の粉末状の溶射材料を溶射装置に仕込み、所望の厚さになるように成膜すればよい。その際、特にプラズマ溶射の場合には、セカンダリーガスとしてヘリウムガスを使用するとよい。理由はヘリウムガスを使用することで、溶融フレームの速度が上がり、より緻密な膜が得られるからである。
なお、本発明のイットリウム系フッ化物溶射皮膜が形成される基材としては、特に制限はないが、通常は半導体製造装置で使用されている金属、セラミックス等であり、特にアルミ金属の場合は耐酸性のあるアルマイト処理の施された基材でもよい。
本発明の溶射皮膜は、上記のようにクラック量及び気孔率がいずれも皮膜表面積の5%以下と少ないことが好ましく、また本発明では、このような低いクラック量及び気孔率を達成することができるものである。このクラックや気孔率について以下に更に詳しく説明する。
溶射皮膜の断面には、「溶射技術ハンドブック」(著者:日本溶射協会、出版:技術開発センター、刊行:1998年5月)にも書かれているように結合部、未結合部、垂直割れが存在する。垂直割れのことを開気孔(オープンポア)と定義する。結合部と未結合部空間に存在する閉気孔(クローズポア)ならば、ガスや酸水の浸透は起こらないが、垂直割れ(開気孔)や未結合空間の水平な割れ(開気孔)が溶射皮膜と基材との界面まで繋がっていれば、ガスや酸水の浸透が基材界面部まで起こる。この開気孔(垂直割れ)が存在することで、溶射皮膜と基材との界面まで反応ガスが浸透する。皮膜表面で生成した反応生成物が水と反応し、酸が発生、この酸が水に溶けて溶射皮膜内部に浸透してゆき、基材界面部で基材金属と反応し、反応ガスによる作用で溶射皮膜を浮かし、皮膜剥がれが発生する。この作用は、繰り返しの洗浄で使われる水や酸でも同様な事が起こると推定される。これらのメカニズムを以下に説明する。
半導体製造工程におけるドライエッチングプロセスのポリシリコンゲート電極エッチングではCCl4、CF4、CHF3、NF4等の混合ガスプラズマ、Al配線エッチングではCCl4、BCl3、SiCl4等の混合ガスプラズマ、W配線エッチングではCF4、CCl4、O2等の混合ガスプラズマが使われている。また、CVDプロセスのSi膜形成ではSiH2Cl2−H2混合ガス、Si34形成ではSiH2Cl2−NH3−H2混合ガス、TiN膜形成ではTiCl4−NH3混合ガスが使われている。
この場合、例えば上記Al配線エッチングにおける上記塩素系のガスプラズマにおいて、アルミニウムと塩素が反応して塩化アルミニウム(AlCl3)がデポ物として溶射皮膜表面に付着する。そのデポ物が水と共に溶射皮膜内部に浸透し、溶射皮膜とアルミ基材界面部に溜まる。そうすると、洗浄、乾燥時に界面での塩化アルミの凝集が起こり、塩化アルミニウムは水と反応して水酸化アルミニウムへと変化し塩酸を生成する。この塩酸と下地のアルミニウム金属とが反応して、水素ガスが発生し、界面部の溶射皮膜を浮かせて、部分的な溶射皮膜破壊が起こり、皮膜が剥がれる、いわゆる膜浮き現象が発生する。この膜浮きの発生箇所では、極端な密着力の低下を招く。これらの原因はすべて、溶射皮膜表面部のクラック(割れ)と皮膜内部の開気孔(垂直割れ)が連続的に基材界面部まで繋がっていることにある。上記皮膜表面反応生成物(デポ物)AlCl3の基材界面部での反応は、次の通りである。AlCl3+3H2O→Al(OH)3+3HCl、
Al+3HCl→AlCl3+(3/2)H2
上記膜浮き現象が発生すると、基材の損傷を招き、基材寿命が低下し、製造工程にさまざまな悪影響を及ぼすことになる。本発明では、この皮膜表面部のクラック(割れ)と皮膜内部の開気孔(垂直割れ)を可及的に少なくすることができる。即ち、上述のように、本発明では、クラック量及び気孔率を5%以下とすることができ、溶射皮膜表面からのガスや酸水、反応生成物の浸透を効果的に防止して、溶射皮膜と基材界面部の酸による金属との反応を抑制し、皮膜剥がれを防止することができる。ここで、本発明におけるクラック量の「クラック」とは溶射直後の皮膜最表面に存在する割れ(クラック)のことであり、また上記気孔率の「気孔」とは皮膜断面を鏡面研磨した面に存在する気孔のことであり上記開気孔と閉気孔の両方を含む。これらクラック量や気孔率は次のようにして測定することができる。なお、開気孔のみを測定することは実質的に困難であり、本発明では開気孔と閉気孔の両方を含む気孔率を測定しているが、この気孔率が5%以下であれば、開気孔による上記不都合の発生を可及的に防止することができるものである。
即ち、溶射直後の皮膜最表面(クラック量の場合)又は皮膜表面を鏡面研磨した面(気孔率の場合)の全体から均等に数箇所〜数十箇所(通常5〜10ヶ所程度)を選定して、それぞれ面積0.001〜0.1mm2程度の範囲の電子顕微鏡写真を得、各電子顕微鏡写真を画像処理してクラックの面積が占める割合(%)又は開気孔と閉気孔とを合わせた面積が占める割合(%)を求め、その平均値をクラック量又は気孔率とする。
気孔率の小さいイットリウム系フッ化物溶射皮膜を成膜する方法としては、上記の焼成粉(単一造粒粉)又は上記混合粉末を溶射材料として用いる方法の他、溶射方法として爆発溶射やサスペンションプラズマ溶射(SPS)を用いることも有効である。即ち、プラズマ溶射の場合のフレーム速度はセカンダリーガスに水素を用いた場合300m/秒、ヘリウムガスを用いた場合500〜600m/秒程度であるのに対し、爆発溶射の場合は1000〜2500m/秒のフレーム速度が得られるため、溶融した溶射粉フレームが高速で基板に衝突した時のエネルギーが大きく、その作用により硬度が高く、緻密で特に開気孔の少ない溶射皮膜を得る事ができるものである。また、SPSでは単一粒子の粒径(D50)が1μm前後と小さいため、スプラット内の残留応力を小さくすることができ、皮膜表面部のマイクロクラック(割れ)と皮膜内部の開気孔(垂直割れ)を小さくして、クラック量を可及的に少なくすることができる。
これらの方法を用いることにより、開気孔(オープンポア)の少ない、緻密な膜を得る事ができ、パーティクル汚染やハロゲン系腐食ガスの侵入を抑制できる。更に、上述の水と反応生成物との反応で発生する酸、精密洗浄時の水の浸透を防止でき、部材の損傷を抑制できるため、部材の更なる高寿命化が可能になる。
本発明のイットリウム系フッ化物溶射皮膜を半導体製造装置で使用されている金属、セラミックス等の基材表面に形成することができ、これにより優れた耐食性、良好なパーティクルの発生防止が達成されるが、更に希土類の酸化物からなる希土類酸化物溶射皮膜の下層と上記本発明のイットリウム系フッ化物溶射皮膜とを組み合わせて複数層構造の耐食性皮膜とすることにより、より高い酸浸透抑制効果が得られ、皮膜の損傷をより効果的に防止してより信頼性の高い耐食性能を得ることができる。
上記下層を形成する上記希土類酸化物溶射皮膜の希土類元素としては、Y、Sc、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuから選ばれる希土類金属元素が好ましく用いられ、より好ましくはY、Sc、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuから選ばれる希土類金属元素である。これらの希土類元素は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
この下層は、上記希土類元素の酸化物を基材表面に溶射して形成することができ、その上に上記本発明のイットリウム系フッ化物溶射皮膜を積層形成して複合耐食性皮膜とすればよい。この下層も上記と同様の理由により気孔率が皮膜表面積の5%以下であることが好ましく、より好ましくは3%以下である。このような低い気孔率は、特に制限されるものではないが、例えば次の方法により得ることができる。
即ち、上記希土類酸化物の原料粉として粒径0.5〜30μm(D50)、好ましくは1〜20μmの単一粒子粉を用い、プラズマ溶射、SPS溶射、爆発溶射等により単一粒子を十分に溶融させて溶射を行なうことにより、開気孔の少ない気孔率5%以下の緻密な希土類酸化物の溶射皮膜を形成することができる。この方法では、溶射材料として用いる上記単一粒子粉が一般の造粒溶射粉よりも粒径が小さい細かい粒子で中身が詰まったものであるため、スプラット径が小さくクラック発生を抑制できる。この効果により開気孔の極端に少ない気孔率5%以下の面粗さの小さい溶射膜が得られるものである。なお、上記「単一粒子粉」とは、球状粉、角状粉、粉砕粉等の形態で中身の詰まった粉のことを指す。
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
[実施例1]
20mm角(厚さ5mm)のA6061アルミニウム合金基材の表面をアセトン脱脂し、該基材の片面をコランダムの研削材を用いて粗面化処理した。その後、平均粒径8μm(D50)の酸化イットリウム粉末(角状単一粒)を、大気圧プラズマ溶射装置を使用し、アルゴンガス、水素ガスをプラズマガスとして使用して、出力40kW、溶射距離100mmにて30μm/Passで溶射し、膜厚100μmの酸化イットリウム溶射皮膜を下層として成膜した。画像解析法で確認したところ、この下層の気孔率は3.2%であった。なお、具体的な気孔率の測定方法は、後述する表層の気孔率の測定と同様である。
一方、平均粒径1μm(D50)のフッ化イットリウム粉末Aを95質量%と平均粒径0.2μmの酸化イットリウム粉末Bを5質量%の割合で混合してスプレードライ法により造粒し、窒素ガス雰囲気下にて800℃で焼成し溶射粉(溶射材料)を製造した。この溶射粉の粒径(D50)、嵩密度、安息角を測定した。結果を表1に示す。また、この溶射粉をXRD解析したところ、表1に示したようにYF3とY547とからなりY547割合は9.1質量%であった。この溶射粉(溶射材料)を上記酸化イットリウム溶射皮膜からなる下層の上に、該下層成膜時と同様の条件でプラズマ溶射して、膜厚100μmのイットリウム系フッ化物溶射皮膜の表層を成膜し、全厚み200μmの2層構造の耐食性皮膜を有する試験片を作製した。
上記イットリウム系フッ化物溶射皮膜の表層をXRD解析したところ、表1に示したようにYF3とY547とからなるイットリウム系フッ化物結晶構造を有していた。また、同表層の溶射皮膜につき、表面粗さRa、Y濃度、F濃度、O濃度、C濃度、表面クラック量、気孔率、硬度HVを測定した。結果を表1に示す。なお、クラック量、気孔率、硬度HVの測定は、下記の方法により行った。
[表面のクラック量の測定]
得られた各試験片について電子顕微鏡により表面写真(倍率3000)を撮影した。5視野(1視野の撮影面積:0.0016mm2)の撮影を行った後、画像処理ソフト「Photoshop」(アドビシステムズ株式会社)で画像処理した後、画像解析ソフト「Scion Image」(Scion Corporation)を使い、クラック量の定量化を行った。5箇所の平均クラック量を画像総面積に対する百分率として評価した結果を表1に示す。
[気孔率の測定]
得られた試験片を樹脂埋めし、断面を鏡面仕上げ(Ra=0.1μm)した後、電子顕微鏡により断面写真(倍率:200倍)を撮影した。10視野(1視野の撮影面積:0.017mm2)の撮影を行った後、画像処理ソフト「Photoshop」(アドビシステムズ株式会社)で画像処理した後、画像解析ソフト「Scion Image」(Scion Corporation)を使い、気孔率の定量化を行い、10視野平均の気孔率を画像総面積に対する百分率として評価した。結果を表1に示す。
[硬度HVの測定]
得られた試験片について、表面、断面を鏡面仕上げ(Ra=0.1μm)して、マイクロビッカース硬度計により皮膜表面の硬度測定を実施した。3ヶ所を測定しその平均値を皮膜の表面硬度とした。結果を表1に示す。
[実施例2]
20mm角(厚さ5mm)のA6061アルミニウム合金基材の表面をアセトン脱脂し、該基材の片面をコランダムの研削材を用いて粗面化処理した。その後、平均粒径20μm(D50)の酸化イットリウム粉末(造粒粉)を、大気圧プラズマ溶射装置を使用し、アルゴンガス、水素ガスをプラズマガスとして使用して、出力40kW、溶射距離100mmにて30μm/Passで溶射し、膜厚100μmの酸化イットリウム溶射皮膜を下層として成膜した。実施例1と同様に画像解析法で確認したところ、この下層の気孔率は2.8%であった。
一方、平均粒径1.7μm(D50)のフッ化イットリウム粉末Aを90質量%と平均粒径0.3μmの酸化イットリウム粉末Bを10質量%の割合で混合してスプレードライ法により造粒し、窒素ガス雰囲気下にて800℃で焼成し溶射粉(溶射材料)を製造した。この溶射粉の粒径(D50)、嵩密度、安息角を測定した。結果を表1に示す。また、この溶射粉をXRD解析したところ、表1に示したようにYF3とY547とからなりY547割合は17.3質量%であった。この溶射粉(溶射材料)を上記酸化イットリウム溶射皮膜からなる下層の上に、該下層成膜時と同様の条件でプラズマ溶射して、膜厚100μmのイットリウム系フッ化物溶射皮膜の表層を成膜し、全厚み200μmの2層構造の耐食性皮膜を有する試験片を作製した。
上記イットリウム系フッ化物溶射皮膜の表層をXRD解析したところ、表1に示したようにYF3とY547とからなるイットリウム系フッ化物結晶構造を有していた。また、同表層の溶射皮膜につき、実施例1と同様にして、表面粗さRa、Y濃度、F濃度、O濃度、C濃度、表面クラック量、気孔率、硬度HVを測定した。結果を表1に示す。
[実施例3]
20mm角(厚さ5mm)のアルミナセラミック基材の表面をアセトン脱脂し、該基材の片面をコランダムの研削材を用いて粗面化処理した。その後、平均粒径30μm(D50)の酸化イットリウム粉末を、爆発溶射装置を使用し、酸素、エチレンガスを使用して、溶射距離100mmにて15μm/Passで溶射し、膜厚100μmの酸化イットリウム溶射皮膜を下層として成膜した。実施例1と同様に画像解析法で確認したところ、この下層の気孔率は1.8%であった。
一方、平均粒径1.4μm(D50)のフッ化イットリウム粉末Aを85質量%と平均粒径0.5μmの酸化イットリウム粉末Bを15質量%の割合でボールミル混合し、窒素ガス雰囲気下にて800℃で焼成し溶射粉(溶射材料)を製造した。この溶射粉の粒径(D50)を測定した。結果を表1に示す。また、この溶射粉をXRD解析したところ、表1に示したようにYF3とY547とからなりY547割合は26.4質量%であった。この溶射粉(溶射材料)と純水を使用してスラリー濃度30質量%のスラリーを作製した。上記酸化イットリウム溶射皮膜からなる下層の上に、大気圧プラズマ溶射装置を使用し、アルゴンガス、窒素ガス、水素ガスをプラズマガスとして使用して、出力100kW、溶射距離70mmにて30μm/PassでSPS溶射し、膜厚100μmのイットリウム系フッ化物溶射皮膜の表層を成膜し、全厚み200μmの2層構造の耐食性皮膜を有する試験片を作製した。
上記イットリウム系フッ化物溶射皮膜の表層をXRD解析したところ、表1に示したようにYF3とYOF及びY23とからなるイットリウム系フッ化物結晶構造を有していた。また、同表層の溶射皮膜につき、実施例1と同様にして、表面粗さRa、Y濃度、F濃度、O濃度、C濃度、表面クラック量、気孔率、硬度HVを測定した。結果を表1に示す。
[実施例4]
20mm角(厚さ5mm)のA6061アルミニウム合金基材の表面をアセトン脱脂し、該基材の片面をコランダムの研削材を用いて粗面化処理した。その後、平均粒径18μm(D50)の酸化イットリウム粉末(球状単一粒)を、大気圧プラズマ溶射装置を使用し、アルゴンガス、水素ガスをプラズマガスとして使用して、出力40kW、溶射距離100mmにて30μm/Passで溶射し、膜厚100μmの酸化イットリウム溶射皮膜を下層として成膜した。実施例1と同様に画像解析法で確認したところ、この下層の気孔率は2.8%であった。
一方、平均粒径45μm(D50)のフッ化イットリウム造粒粉Aと平均粒径40μmの酸化イットリウム造粒粉Bを混合比率90:10(質量比)で粉体混合し、混合粉末からなる溶射粉(溶射材料)を製造した。この溶射粉の粒径(D50)、嵩密度、安息角を測定した。結果を表1に示す。また、この溶射粉をXRD解析したところ、表1に示したようにYF3とY23とがそのまま混合された状態であった。この溶射粉(溶射材料)を上記酸化イットリウム溶射皮膜からなる下層の上に、該下層成膜時と同様の条件でプラズマ溶射して、膜厚100μmのイットリウム系フッ化物溶射皮膜の表層を成膜し、全厚み200μmの2層構造の耐食性皮膜を有する試験片を作製した。
上記イットリウム系フッ化物溶射皮膜の表層をXRD解析したところ、表1に示したようにYF3とY547及びY23とからなるイットリウム系フッ化物結晶構造を有していた。また、同表層の溶射皮膜につき、実施例1と同様にして、表面粗さRa、Y濃度、F濃度、O濃度、C濃度、表面クラック量、気孔率、硬度HVを測定した。結果を表1に示す。
[比較例1]
20mm角(厚さ5mm)のA6061アルミニウム合金基材の表面をアセトン脱脂し、該基材の片面をコランダムの研削材を用いて粗面化処理した。その後、平均粒径20μm(D50)の酸化イットリウム粉末(造粒粉)を、大気圧プラズマ溶射装置を使用し、アルゴンガス、水素ガスをプラズマガスとして使用して、出力40kW、溶射距離100mmにて30μm/Passで溶射し、膜厚100μmの酸化イットリウム溶射皮膜を下層として成膜した。実施例1と同様に画像解析法で確認したところ、この下層の気孔率は2.8%であった。
この酸化イットリウム溶射皮膜からなる下層の上に、平均粒径40μmのフッ化イットリウム造粒粉Aを溶射材料として単独で用い、下層成膜時と同様の条件でプラズマ溶射して、膜厚100μmのイットリウム系フッ化物溶射皮膜の表層を成膜し、全厚み200μmの2層構造の耐食性皮膜を有する試験片を作製した。実施例1と同様にして、XRD解析を行なうと共に、溶射粉の嵩密度及び安息角、及び表層の表面粗さRa、Y濃度、F濃度、O濃度、C濃度、表面クラック量、気孔率、硬度HVの測定を行なった。結果を表1に示す。
[比較例2]
20mm角(厚さ5mm)のA6061アルミニウム合金基材の表面をアセトン脱脂し、該基材の片面をコランダムの研削材を用いて粗面化処理した。その後、平均粒径30μm(D50)のフッ化イットリウム造粒粉末Aを、大気圧プラズマ溶射装置を使用し、アルゴンガス、水素ガスをプラズマガスとして使用して、出力40kW、溶射距離100mmにて30μm/Passで溶射し、膜厚200μmのフッ化イットリウム溶射皮膜を成膜した。これにより、フッ化イットリウム溶射皮膜の単層からなる耐食性皮膜を有する試験片を作製した。実施例1と同様にして、XRD解析を行なうと共に、溶射粉の嵩密度及び安息角、溶射皮膜の表面粗さRa、Y濃度、F濃度、O濃度、C濃度、表面クラック量、気孔率、硬度HVの測定を行なった。結果を表1に示す。
[比較例3]
20mm角(厚さ5mm)のA6061アルミニウム合金基材の表面をアセトン脱脂し、該基材の片面をコランダムの研削材を用いて粗面化処理した。その後、平均粒径20μm(D50)の酸化イットリウム粉末(造粒粉)を、大気圧プラズマ溶射装置を使用し、アルゴンガス、水素ガスをプラズマガスとして使用して、出力40kW、溶射距離100mmにて30μm/Passで溶射し、膜厚100μmの酸化イットリウム溶射皮膜を下層として成膜した。実施例1と同様に画像解析法で確認したところ、この下層の気孔率は2.8%であった。
一方、平均粒径1μm(D50)のフッ化イットリウム粉末Aを65質量%と平均粒径0.2μmの酸化イットリウム粉末Bを35質量%の割合で混合してスプレードライ法により造粒し、窒素ガス雰囲気下にて800℃で焼成し溶射粉(溶射材料)を製造した。この溶射粉の粒径(D50)、嵩密度、安息角を測定した。結果を表1に示す。また、この溶射粉をXRD解析したところ、表1に示したようにYF3とY547とからなりY547割合は49.8質量%であった。この溶射粉(溶射材料)を上記酸化イットリウム溶射皮膜からなる下層の上に、該下層成膜時と同様の条件でプラズマ溶射して、膜厚100μmのイットリウム系フッ化物溶射皮膜の表層を成膜し、全厚み200μmの2層構造の耐食性皮膜を有する試験片を作製した。
上記イットリウム系フッ化物溶射皮膜の表層をXRD解析したところ、表1に示したようにYOF、Y547及びY769からなるイットリウム系フッ化物結晶構造を有していた。また、同表層の溶射皮膜につき、実施例1と同様にして、表面粗さRa、Y濃度、F濃度、O濃度、C濃度、表面クラック量、気孔率、硬度HVを測定した。結果を表1に示す。
[比較例4]
20mm角(厚さ5mm)のA6061アルミニウム合金基材の表面をアセトン脱脂し、該基材の片面をコランダムの研削材を用いて粗面化処理した。その後、平均粒径20μm(D50)の酸化イットリウム粉末(造粒粉)を、大気圧プラズマ溶射装置を使用し、アルゴンガス、水素ガスをプラズマガスとして使用して、出力40kW、溶射距離100mmにて30μm/Passで溶射し、膜厚100μmの酸化イットリウム溶射皮膜を下層として成膜した。実施例1と同様に画像解析法で確認したところ、この下層の気孔率は2.8%であった。
一方、平均粒径1μm(D50)のフッ化イットリウム粉末Aを50質量%と平均粒径0.2μmの酸化イットリウム粉末Bを50質量%の割合で混合してスプレードライ法により造粒し、窒素ガス雰囲気下にて800℃で焼成し溶射粉(溶射材料)を製造した。この溶射粉の粒径(D50)、嵩密度、安息角を測定した。結果を表1に示す。また、この溶射粉をXRD解析したところ、表1に示したようにYF3とY547とY23とからなりY547割合は59.1質量%であった。この溶射粉(溶射材料)を上記酸化イットリウム溶射皮膜からなる下層の上に、該下層成膜時と同様の条件でプラズマ溶射して、膜厚100μmのイットリウム系フッ化物溶射皮膜の表層を成膜し、全厚み200μmの2層構造の耐食性皮膜を有する試験片を作製した。
上記イットリウム系フッ化物溶射皮膜の表層をXRD解析したところ、表1に示したようにYOFとY547とからなるイットリウム系フッ化物結晶構造を有していた。また、同表層の溶射皮膜につき、実施例1と同様にして、表面粗さRa、Y濃度、F濃度、O濃度、C濃度、表面クラック量、気孔率、硬度HVを測定した。結果を表1に示す。
得られた上記実施例1〜4及び比較例1〜4の試験片につき、下記の試験により、パーティクルの発生及びプラズマ耐食性を評価した。結果を表1に示す。
[パーティクル発生評価試験]
各試験片について超音波洗浄(出力200W、洗浄時間30分)を行い、試験片を乾燥した後、20ccの超純水の中に浸漬させて更に15分間の超音波洗浄を行った。超音波洗浄後、試験片を取り出し、5.3規定の硝酸液を2cc加えて超純水中に含まれるY23微粒子を溶かし、ICP発光分光分析法によりY23定量値を測定した。結果を表1に示す。
[耐食性評価試験]
各試験片について、表面を鏡面仕上げ(Ra=0.1μm)して、マスキングテープでマスキングした部分と暴露部分を作った後に、リアクティブイオンプラズマ試験装置にセットし、周波数13.56MHz、プラズマ出力1000W、ガス種CF4+O2(20vol%)、流量50sccm、ガス圧50mtorr、20時間の条件でプラズマ耐食性試験を行った。レーザー顕微鏡を使用し、腐食によって暴露部分とマスキング部分との間に生じた段差の高さをレーザー顕微鏡で測定し、測定箇所4点の平均値を求め、耐食性を評価した。結果を表1に示す。
表1に示されているように、本発明にかかる実施例1〜4のイットリウム系フッ化物溶射皮膜は、比較例1〜4の溶射皮膜に比べて、クラック及び開気孔が少なく、高硬度で緻密な皮膜であることが確認された。この場合、図1,2に比較例1の溶射皮膜表面の解析画像写真、図3,4に実施例2の溶射皮膜表面の解析画像写真を示した。図1,2と図3,4の比較により、本発明の溶射皮膜は従来の皮膜に比べてクラックが遥かに少ないことが明確に確認される。
また、表面層として本発明のイットリウム系フッ化物溶射皮膜を含む実施例1〜4の耐食性皮膜は、上記パーティクル発生評価試験におけるY23の溶出量が比較例1〜4の皮膜に比べて遥かに少なく、脱落微粒子(パーティクル)の発生を効果的に防止し得ることが確認された。更に、この実施例1〜4の耐食性皮膜は、上記耐食性試験において腐食により生じる段差の高さが、比較例1〜4の皮膜に比べて遥かに小さく、プラズマエッチングに対する耐食性に優れることが確認された。

Claims (11)

  1. 基材表面に形成された厚さ10〜500μmのイットリウム系フッ化物溶射皮膜であり、YF3と、Y547及び/又はYOFとを含むイットリウム系フッ化物結晶構造を有し、酸素濃度2〜4質量%、硬度350〜470HVであることを特徴とするイットリウム系フッ化物溶射皮膜。
  2. クラック量が皮膜表面積の5%以下である請求項1記載のイットリウム系フッ化物溶射皮膜。
  3. 気孔率が皮膜表面積の5%以下である請求項1又は2記載のイットリウム系フッ化物溶射皮膜。
  4. YF3と、Y547及び/又はYOFとからなるイットリウム系フッ化物結晶構造を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載のイットリウム系フッ化物溶射皮膜。
  5. 炭素の含有量が0.01質量%以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載のイットリウム系フッ化物溶射皮膜。
  6. 請求項1〜5のいずれか1項に記載のイットリウム系フッ化物溶射皮膜を形成するための溶射材料であり、9〜27質量%がY547で残部がYF3の造粒粉からなることを特徴とするイットリウム系フッ化物溶射材料。
  7. 請求項1〜5のいずれか1項に記載のイットリウム系フッ化物溶射皮膜を形成するための溶射材料であり、フッ化イットリウムの造粒粉95〜85質量%と酸化イットリウムの造粒粉5〜15質量%とを混合した混合粉末であることを特徴とするイットリウム系フッ化物溶射材料。
  8. 請求項1〜5のいずれか1項に記載のイットリウム系フッ化物溶射皮膜を形成する方法であって、請求項6又は7記載のイットリウム系フッ化物溶射材料を用いた溶射により形成することを特徴とするイットリウム系フッ化物溶射皮膜の形成方法。
  9. 上記溶射がプラズマ溶射である請求項8記載のイットリウム系フッ化物溶射皮膜の形成方法。
  10. 厚さ10〜500μmで気孔率5%以下の希土類酸化物溶射皮膜からなる下層と、請求項1〜5のいずれか1項に記載のイットリウム系フッ化物溶射皮膜からなる最表面層とを有する複数層構造であることを特徴とする耐食性皮膜。
  11. 上記下層の希土類酸化物溶射皮膜の希土類金属元素が、Y、Sc、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuから選ばれる1種又は2種以上である請求項10記載の耐食性皮膜。
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