本発明は、本発明の代表的実施形態が示された添付の図面を参照してここに記載される。しかし本発明は、異なる形態で具体化してもよく、本明細書中に示される実施形態に限定されると解釈すべきではない。むしろ、これらの実施形態は、この開示が徹底的かつ完全となり、本発明の範囲を当業者に完全に伝達するように提供されるものである。
特に規定しない限り、本明細書中で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書中で発明の説明において使用される術語は、特定の実施形態だけを記載することを目的としており、本発明を限定することを意図しない。本明細書中で言及される全ての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は、その全体が参照により本明細書中に組み込まれる。
[定義]
以下の用語が、本明細書中の記載および添付の特許請求の範囲において使用される。
単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が明らかに他を示さない限り、複数形も同様に含むことが意図される。
さらに、用語「約」は、本明細書中で使用する場合、ポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列の長さ、用量、時間、温度などの量などの測定可能な値をいう場合、特定された量の±20%、±10%、±5%、±1%、±0.5%またはさらには±0.1%の変動を包含することを意味する。
また、本明細書中で使用する場合、「および/または」は、関連する列挙された項目のうち1つまたは複数の、任意のおよび全ての可能な組み合わせ、ならびに代替として解釈される場合(「または」)には組み合わせの欠如をいい、かつこれらを包含する。
文脈が他を示さない限り、本明細書中に記載される本発明の種々の特徴が任意の組み合わせで使用され得ることが、具体的に意図される。
さらに、本発明は、本明細書中に示される本発明のいくつかの実施形態、任意の特徴または特徴の組み合わせが排除または割愛できることも企図している。
例えば、特定のアミノ酸がA、G、I、Lおよび/またはVから選択できることを本明細書が示す場合をさらに説明するために、この言葉は、各かかる下位の組み合わせが本明細書中に明示的に示されるかのように、例えばA、G、IまたはL;A、G、IまたはV;AまたはG;Lのみなどの、これらのアミノ酸(複数可)の任意のサブセットからアミノ酸を選択できることもまた示す。さらに、かかる言葉は、1つまたは複数の特定されたアミノ酸が放棄され得ることもまた示す。例えば、特定の実施形態では、各かかる可能な放棄が明示的に示されるかのように、アミノ酸は、A、GまたはIではなく;Aではなく;GまたはVではない、など。
本明細書中で使用する場合、用語「低下する(reduce/reduces)」、「低下」および類似の用語は、少なくとも約25%、35%、50%、75%、80%、85%、90%、95%、97%またはそれ以上の減少を意味する。
本明細書中で使用する場合、用語「増強する(enhance/enhances)」「増強」および類似の用語は、少なくとも約5%、10%、20%、25%、50%、75%、100%、150%、200%、300%、400%、500%またはそれ以上の増加を示す。
用語「パルボウイルス」は、本明細書中で使用する場合、自律複製するパルボウイルスおよびディペンドウイルス属が含まれるパルボウイルス科(Parvoviridae)を包含する。自律的パルボウイルスには、パルボウイルス属(Parvovirus)、エリスロウイルス属(Erythrovirus)、デンソウイルス属(Densovirus)、イテラウイルス属(Iteravirus)およびコントラウイルス属(Contravirus)のメンバーが含まれる。例示的な自律的パルボウイルスには、マウス微小ウイルス、ウシパルボウイルス、イヌパルボウイルス、ニワトリパルボウイルス、ネコ汎白血球減少症ウイルス、ネコパルボウイルス、ガチョウパルボウイルス、H1パルボウイルス、バリケンパルボウイルス、B19ウイルス、および現在公知のまたは後に発見される任意の他の自律的パルボウイルスが含まれるが、これらに限定されない。他の自律的パルボウイルスは、当業者に公知である。例えば、BERNARD N.FIELDSら、VIROLOGY、第2巻、第69章(第4版、Lippincott−Raven Publishers)を参照のこと。
本明細書中で使用する場合、用語「アデノ随伴ウイルス」(AAV)には、1型AAV、2型AAV、3型AAV(3A型および3B型を含む)、4型AAV、5型AAV、6型AAV、7型AAV、8型AAV、9型AAV、10型AAV、11型AAV、12型AAV、トリAAV、ウシAAV、イヌAAV、ウマAAV、ヒツジAAV、および現在公知のまたは後に発見される任意の他のAAVが含まれるが、これらに限定されない。例えば、BERNARD N.FIELDSら、VIROLOGY、第2巻、第69章(第4版、Lippincott−Raven Publishers)を参照のこと。多数の比較的新しいAAV血清型およびクレードが同定されている(例えば、Gaoら(2004)J.Virology 78:6381〜6388頁;Morisら(2004)Virology 33:375〜383頁;および表1を参照のこと)。
AAVおよび自律的パルボウイルスの種々の血清型のゲノム配列、ならびにネイティブ末端反復(TR)、Repタンパク質およびカプシドサブユニットの配列が、当該分野で公知である。かかる配列は、文献中またはGenBank(登録商標)データベースなどの公的データベース中で見出され得る。例えば、GenBank受託番号NC_044927、NC_002077、NC_001401、NC_001729、NC_001863、NC_001829、NC_001862、NC_000883、NC_001701、NC_001510、NC_006152、NC_006261、AF063497、U89790、AF043303、AF028705、AF028704、J02275、J01901、J02275、X01457、AF288061、AH009962、AY028226、AY028223、NC_001358、NC_001540、AF513851、AF513852、AY530579を参照でき、その開示は、パルボウイルスおよびAAVの核酸配列およびアミノ酸配列を教示するために、参照により本明細書の一部をなすものとする。例えば以下もまた参照のこと:Srivistavaら(1983)J.Virology 45:555頁;Chioriniら(1998)J.Virology 71:6823頁;Chioriniら(1999)J.Virology 73:1309頁;Bantel−Schaalら(1999)J.Virology 73:939頁;Xiaoら(1999)J. Virology 73:3994頁;Muramatsuら(1996)Virology 221:208頁;Shadeら(1986)J.Virol.58:921頁;Gaoら(2002)Proc.Nat.Acad.Sci.USA 99:11854頁;Morisら(2004)Virology 33−:375〜383頁;国際特許公開公報WO 00/28061、WO 99/61601、WO 98/11244;および米国特許第6,156,303号;これらの開示は、パルボウイルスおよびAAVの核酸配列およびアミノ酸配列を教示するために、参照により本明細書の一部をなすものとする。表1もまた参照のこと。
自律的パルボウイルスおよびAAVのカプシド構造は、BERNARD N.FIELDSら、VIROLOGY、第2巻、第69章および第70章(第4版、Lippincott−Raven Publishers)中により詳細に記載されている。AAV2(Xieら(2002)Proc.Nat.Acad.Sci.99:10405〜10頁)、AAV4(Padronら(2005)J.Virol.79:5047〜58頁)、AAV5(Waltersら(2004)J.Virol.78:3361〜71頁)およびCPV(Xieら(1996)J.Mol.Biol.6:497〜520頁およびTsaoら(1991)Science 251:1456〜64頁)の結晶構造の説明もまた参照のこと。
用語「トロピズム」とは、本明細書中で使用する場合、特定の細胞または組織へのウイルスの優先的な侵入と、任意選択的に、その後の、例えば組換えウイルスについて細胞中でのウイルスゲノムが保有する配列(複数可)の発現(例えば、転写および任意選択的に翻訳)、対象の異種核酸の発現をいう。当業者は、ウイルスゲノムからの異種核酸配列の転写は、例えば、誘導性プロモーターまたは他の方法で調節される核酸配列について、トランス作用因子の非存在下では開始されない場合があることを理解するであろう。rAAVゲノムの場合、ウイルスゲノムからの遺伝子発現は、安定に組み込まれたプロウイルスから、非組み込みエピソームから、ならびに細胞内でウイルスが取り得る任意の他の形態からであり得る。
本明細書中で使用する場合、「全身性トロピズム」および「全身性形質導入」(および同等の用語)は、本発明のウイルスカプシドまたはウイルスベクターが、身体中の組織(例えば、脳、肺、骨格筋、心臓、肝臓、腎臓および/または膵臓)に対して、それぞれトロピズムを示すことまたはそれらの組織を形質導入することを示す。本発明の実施形態では、筋組織(例えば、骨格筋、横隔膜筋および心筋)の全身性形質導入が観察される。他の実施形態では、骨格筋組織の全身性形質導入が達成される。例えば、特定の実施形態では、身体中の本質的に全ての骨格筋が形質導入される(しかし、形質導入の効率は筋の型によって異なり得る)。特定の実施形態では、四肢筋、心筋および横隔膜筋の全身性形質導入が達成される。任意選択的に、ウイルスカプシドまたはウイルスベクターは、全身性経路(例えば、静脈内、関節内またはリンパ内などの全身性経路)を介して投与される。あるいは、他の実施形態では、カプシドまたはウイルスベクターは、局所送達される(例えば、足蹠に、筋内、皮内、皮下、外用)。本発明に従う改変されたウイルスベクターの例は、表5に提供される。
特に示さない限り、「効率的な形質導入」もしくは「効率的なトロピズム」または同様の用語は、適切な対照を参照することにより決定され得る(例えば、対照のそれぞれ形質導入またはトロピズムの、少なくとも約50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%またはそれ以上)。特定の実施形態では、ウイルスベクターは、骨格筋、心筋、横隔膜筋、膵臓(膵島β細胞を含む)、脾臓、胃腸管(例えば、上皮および/または平滑筋)、中枢神経系の細胞、肺、関節細胞および/または腎臓を効率的に形質導入するまたはそれらに対する効率的なトロピズムを有する。適切な対照は、所望のトロピズムプロファイルを含む種々の因子に依存する。
同様に、ウイルスが標識組織について「効率的に形質導入しない」もしくは「効率的なトロピズムを有さない」または同様の用語であるか否かを、適切な対照を参照して決定することができる。特定の実施形態では、ウイルスベクターは、肝臓、腎臓、生殖腺および/または生殖細胞について、効率的に形質導入しない(即ち、効率的なトロピズムを有さない)。特定の実施形態では、組織(複数可)(例えば肝臓)の望ましくない形質導入は、所望の標的組織(複数可)(例えば、骨格筋、横隔膜筋、心筋および/または中枢神経系の細胞)の形質導入レベルと比較して、20%以下、10%以下、5%以下、1%以下、0.1%以下である。
本明細書中で使用する場合、用語「ポリペプチド」は、特に示さない限り、ペプチドおよびタンパク質の両方を包含する。
「ポリヌクレオチド」は、ヌクレオチド塩基の配列であり、RNA、DNAまたはDNA−RNAハイブリッド配列(天然に存在するヌクレオチドおよび天然に存在しないヌクレオチドの両方を含む)であり得るが、代表的実施形態では、一本鎖または二本鎖のいずれかのDNA配列である。
本明細書中で使用する場合、「単離された」ポリヌクレオチド(例えば、「単離されたDNA」または「単離されたRNA」)は、天然に存在する生物またはウイルスの他の成分、例えば、そのポリヌクレオチドと一般的には関連して見出される細胞もしくはウイルスの構造成分または他のポリペプチドもしくは核酸の少なくともいくつかから少なくとも部分的に分離されたポリヌクレオチドを意味する。代表的実施形態では、「単離された」ヌクレオチドは、出発材料と比較して、少なくとも約10倍、100倍、1000倍、10,000倍またはそれ以上富化されている。
同様に、「単離された」ポリペプチドとは、天然に存在する生物またはウイルスの他の成分、例えば、そのポリペプチドと一般的には関連して見出される細胞もしくはウイルスの構造成分または他のポリペプチドもしくは核酸の少なくともいくつかから少なくとも部分的に分離されたポリペプチドを意味する。代表的実施形態では、「単離された」ポリペプチドは、出発材料と比較して、少なくとも約10倍、100倍、1000倍、10,000倍またはそれ以上富化されている。
本明細書中で使用する場合、ウイルスベクターを「単離する」もしくは「精製する」(または文法的等価物)とは、そのウイルスベクターが、出発材料中の他の成分の少なくともいくつかから少なくとも部分的に分離されることを意味する。代表的実施形態では、「単離された」または「精製された」ウイルスベクターは、出発材料と比較して、少なくとも約10倍、100倍、1000倍、10,000倍またはそれ以上富化されている。
「治療的タンパク質」は、細胞または対象中のタンパク質の非存在または欠損から生じる症状を緩和、低下、予防、遅延および/または安定化できるタンパク質、ならびに/あるいは利益を他の方法で対象に付与するタンパク質である。
「治療的RNA分子」または「機能的RNA分子」は、本明細書中で使用する場合、当該分野で公知の、アンチセンス核酸、リボザイム(例えば、米国特許第5,877,022号に記載される)、スプライソソーム媒介性のトランススプライシングをもたらすRNA(Puttarajuら(1999)Nature Biotech.17:246頁;米国特許第6,013,487号;米国特許第6,083,702号を参照のこと)、遺伝子サイレンシングを媒介するsiRNA、shRNAまたはmiRNAを含む干渉RNA(RNAi)(Sharpら、(2000)Science 287:2431頁を参照のこと)、および「ガイド」RNAなどの任意の他の非翻訳RNA(Gormanら(1998)Proc.Nat.Acad.Sci.USA 95:4929頁;Yuanらに対する米国特許第5,869,248号)などであり得る。
用語「治療する(treat/treating)」または「〜の治療」(およびその文法的な変形)は、対象の状態の重症度が低下され、少なくとも部分的に改善または安定化されること、および/あるいは少なくとも1つの臨床症状における幾分かの緩和、軽減、減少または安定化が達成されること、および/あるいは疾患または障害の進行の遅延が存在することを意味する。
用語「予防する(prevent/preventing)」および「予防」(およびその文法的な変形)とは、対象における疾患、障害および/または臨床症状(複数可)の発症の予防および/または遅延、ならびに/あるいは本発明の方法の非存在下で生じるものと比較した、疾患、障害および/または臨床症状(複数可)の発症の重症度における低下をいう。予防は、疾患、障害および/または臨床症状(複数可)の完全な非存在のように、完全であり得る。予防は部分的でもあり得、その結果、対象における疾患、障害および/または臨床症状(複数可)の出現ならびに/あるいは発症の重症度は、本発明の非存在下で生じるものよりも低くなる。
「治療有効」量は、本明細書中で使用する場合、いくらかの改善または利益を対象に提供するのに充分な量である。代替的に述べると、「治療有効」量は、対象における少なくとも1つの臨床症状におけるいくらかの緩和、軽減、減少または安定化を提供する量である。いくらかの利益が対象に提供される限り、治療効果は完全である必要も治癒的である必要もないことを、当業者は理解するであろう。
「予防有効」量は、本明細書中で使用する場合、対象における疾患、障害および/または臨床症状の発症を予防および/または遅延するのに充分な量、ならびに/あるいは本発明の方法の非存在下で生じるものと比較して、対象における疾患、障害および/または臨床症状の発症の重症度を低下および/または遅延させるのに充分な量である。いくらかの利益が対象に提供される限り、予防のレベルが完全である必要がないことを、当業者は理解するであろう。
用語「異種ヌクレオチド配列」および「異種核酸分子」は、本明細書中で互換的に使用され、ウイルス中に天然に存在しない核酸配列をいう。一般に、異種核酸は、対象のタンパク質または非翻訳RNAをコードするオープンリーディングフレームを含む(例えば、細胞または対象への送達のため)。
本明細書中で使用する場合、用語「ウイルスベクター」、「ベクター」または「遺伝子送達ベクター」とは、核酸送達ビヒクルとして機能し、ビリオン内にパッケージングされたベクターゲノム(例えば、ウイルスDNA[vDNA])を含む、ウイルス(例えば、AAV)粒子をいう。あるいは、いくつかの文脈では、用語「ベクター」は、ベクターゲノム/vDNA単独をいうために使用され得る。
「rAAVベクターゲノム」または「rAAVゲノム」は、1つまたは複数の異種核酸配列を含むAAVゲノム(即ち、vDNA)である。rAAVベクターは一般に、ウイルスを生成するためにシスの末端反復(複数可)(TR(複数可))だけを必要とする。それ以外の全てのウイルス配列は不可欠ではなく、トランスエレメントとして供給され得る(Muzyczka(1992)Curr.Topics Microbiol.Immunol.158:97頁)。典型的には、rAAVベクターゲノムは、ベクターによって効率的にパッケージングされ得る導入遺伝子のサイズを最大化するように、1つまたは複数のTR配列を保持するだけである。構造タンパク質および非構造タンパク質をコードする配列は、トランスエレメントとして提供され得る(例えば、プラスミドなどのベクターから、またはその配列をパッケージング細胞中に安定に組み込むことによる)。本発明の実施形態では、rAAVベクターゲノムは、典型的にはベクターゲノムの5’末端および3’末端に存在し、異種核酸配列に隣接するがそれらと連続している必要はない少なくとも1つの末端反復(TR)配列(例えば、AAVのTR配列)、任意選択的に2つのTR(例えば、2つのAAV−TR)を含む。TRは、互いに同じでも異なってもよい。
用語「末端反復」または「TR」には、ヘアピン構造を形成し、逆位末端反復として機能する(即ち、例えば複製、ウイルスパッケージング、組み込みおよび/またはプロウイルスレスキューなどの所望の機能を媒介する)、任意のウイルス末端反復または合成配列が含まれる。TRは、AAVのTRまたは非AAVのTRであり得る。例えば、非AAV−TR配列、例えば、他のパルボウイルス(例えば、イヌパルボウイルス(CPV)、マウスパルボウイルス(MVM)、ヒトパルボウイルスB−19)または任意の他の適切なウイルス配列(例えば、SV40複製起点として機能するSV40ヘアピン)のTR配列がTRとして使用され得、これは、短縮、置換、欠失、挿入および/または付加によってさらに改変され得る。さらに、TRは、例えば、Samulskiらに対する米国特許第5,478,745号に記載された「ダブル−D配列」などのように、部分的に合成でも完全に合成でもよい。
「AAV末端反復」または「AAV−TR」は、血清型1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、あるいは11が含まれるがこれらに限定されない任意のAAV、または現在公知のまたは後に発見される任意の他のAAVに由来し得る(例えば、表1を参照のこと)。末端反復が、例えば、複製、ウイルスパッケージング、組み込み、および/またはプロウイルスレスキューなどの所望の機能を媒介する限り、AAV末端反復はネイティブ末端反復配列を有する必要はない(例えば、ネイティブのAAV−TR配列は、挿入、欠失、短縮および/またはミスセンス変異によって変更されていてもよい)。
本発明のウイルスベクターは、さらに、国際特許公開公報WO 00/28004およびChaoら、(2000)Molecular Therapy 2:619頁に記載されるように、「標的化された」ウイルスベクター(例えば、指向性トロピズムを有する)および/または「ハイブリッド」パルボウイルス(即ち、ウイルスTRおよびウイルスカプシドが異なるパルボウイルスに由来するもの)であり得る。
本発明のウイルスベクターは、さらに、国際特許公開公報WO 01/92551(その開示は、その全体が参照により本明細書中に組み込まれる)に記載されるように、二重鎖パルボウイルス粒子であり得る。従って、いくつかの実施形態では、二本鎖(二重鎖)ゲノムが、本発明のウイルスカプシド中にパッケージングされ得る。
さらに、ウイルスカプシドまたはゲノムエレメントは、挿入、欠失および/または置換を含む他の改変を含み得る。
本明細書中で使用する場合、用語「アミノ酸」は、任意の天然に存在するアミノ酸、その改変形態および合成アミノ酸を包含する。
天然に存在する左旋性(L−)アミノ酸を表2に示す。
あるいは、アミノ酸は、改変されたアミノ酸残基であり得(非限定的な例を表3に示す)、および/または翻訳後修飾(例えば、アセチル化、アミド化、ホルミル化、ヒドロキシル化、メチル化、リン酸化または硫酸化(sulfatation))によって改変されたアミノ酸であり得る。
さらに、天然に存在しないアミノ酸は、Wangら(Annu Rev Biophys Biomol Struct.35:225〜49頁(2006))によって記載されるような「非天然」アミノ酸であり得る。これらの非天然アミノ酸は、対象の分子をAAVカプシドタンパク質に化学的に連結するために有利に使用され得る。
<改変されたAAVカプシドタンパク質ならびにそれを含むウイルスカプシドおよびウイルスベクター>
本発明は、アミノ酸配列中に変異(即ち、改変)を含むAAVカプシドタンパク質、ならびに改変されたAAVカプシドタンパク質を含むウイルスカプシドおよびウイルスベクターを提供する。本発明者らは、本明細書中に記載されるアミノ酸位置における改変が、(i)表面上にポリシアル酸を有する細胞の選択的形質導入;(ii)シアル酸(SA)からポリシアル酸(PSA)への受容体特異性における切り替え;(iii)脳の至る所での細胞の増強された形質導入;および(iii)移動中の前駆細胞へのAAVベクターの再方向付け、が含まれるがこれらに限定されない1または複数の所望の特性を、改変されたAAVカプシドタンパク質を含むウイルスベクターに付与できることを発見した。
特定の実施形態では、本発明の改変されたAAVカプシドタンパク質は、ネイティブAAV4カプシドタンパク質のアミノ酸配列またはAAV11、AAV12、ウシAAV、Rh32、Rh33およびRh34が含まれるがこれらに限定されない別のAAV由来のカプシドタンパク質の対応する領域中に、1または複数の変異(即ち、改変)を含む。
本明細書中で使用する場合、アミノ酸配列における「変異」または「改変」には、そのそれぞれに1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10またはそれ以上のアミノ酸が関与し得る、置換、挿入および/または欠失が含まれる。特定の実施形態では、改変は置換である。例えば、特定の実施形態では、AAV4カプシドタンパク質配列は、アミノ酸位置492、503、585、523、590、581、583、594および/または596において任意の組み合わせで改変される。アミノ酸番号付けは、GenBank受託番号NP_044927を有するAAV4カプシドタンパク質のアミノ酸配列(配列番号1):
または以下のアミノ酸配列(配列番号2)を有するAAV4カプシドタンパク質:
に基づく。
本発明の改変されたウイルスカプシドタンパク質は、1つのAAVカプシドタンパク質由来のアミノ酸が別のAAVカプシドタンパク質に置換されたAAVカプシドタンパク質であり得るがこれに限定されず、置換および/または挿入されたアミノ酸は、任意の供給源由来であり得、さらに、天然に存在するまたは部分的もしくは完全に合成であり得る。さらに、本発明のAAVカプシドタンパク質は、ネイティブアミノ酸配列または合成アミノ酸配列を有し得る。
従って、一実施形態では、本発明は、カプシドタンパク質が、K492、K503およびN585における変異を含み、以下のアミノ酸残基部位M523、G580、G581、Q583、S586、N587、L588、T590、D592、R593、L594、T595および/またはA596のうち1または複数における変異を任意の組み合わせでさらに含むアデノ随伴ウイルス(AAV)血清型4(AAV4)カプシドタンパク質を提供する。いくつかの実施形態では、このAAV4カプシドタンパク質は、K492E変異、K503E変異および/またはN585S変異を任意の組み合わせで含み得る。さらなる実施形態では、このAAVカプシドタンパク質は、アミノ酸残基部位K492、K503、M523、G580、G581、Q583、N585、S586、N587、L588、T590、D592、R593、L594、T595および/またはA596のうち1または複数における変異単一または変異の任意の組み合わせを含み得、この変異は、その位置におけるネイティブアミノ酸でない任意の他のアミノ酸によるネイティブアミノ酸の置換である。これらそれぞれの位置におけるネイティブアミノ酸を置換し得るアミノ酸残基の例は、表2および3に示される。
さらなる実施形態では、本発明は、AAV4カプシドタンパク質が、アミノ酸残基K492、K503およびN585における改変を含み、アミノ酸残基M523、G580、G581、Q583、S586、N587、L588、T590、D592、R593、L594、T595および/またはA596のうち1または複数における改変を任意の組み合わせでさらに含むアデノ随伴ウイルス(AAV)血清型4(AAV4)カプシドタンパク質であって、これらの残基の番号付けは、配列番号1のアミノ酸配列に基づく、アデノ随伴ウイルス(AAV)血清型4(AAV4)カプシドタンパク質を提供する。
いくつかの実施形態では、上で言及したAAV4カプシドタンパク質は、K492E置換、K503E置換および/またはN585S置換を任意の組み合わせで含み得る。いくつかの実施形態では、上で言及したAAV4カプシドタンパク質は、N585R置換を含み得る。
本発明は、AAV4カプシドタンパク質が、アミノ酸残基K493、K504およびN586における改変を含み、アミノ酸残基M524、G581、G582、Q584、S587、N588、L589、T591、D593、R594、L595、T596および/またはA597のうち1または複数における改変を任意の組み合わせでさらに含むアデノ随伴ウイルス(AAV)血清型4(AAV4)カプシドタンパク質であって、これらの残基の番号付けは、配列番号2のアミノ酸配列に基づく、アデノ随伴ウイルス(AAV)血清型4(AAV4)カプシドタンパク質をさらに提供する。
いくつかの実施形態では、上で言及したAAV4カプシドタンパク質は、K493E置換、K504E置換および/またはN586S置換を任意の組み合わせで含み得る。いくつかの実施形態では、上で言及したAAV4カプシドタンパク質は、N586R置換を含み得る。
一実施形態では、本発明のAAV4カプシドタンパク質は、AAV4.18−6aのアミノ酸配列(配列番号29)を含み得る。
一実施形態では、本発明のAAV4カプシドタンパク質は、AAV4.18−6bのアミノ酸配列(配列番号30)を含み得る。
一実施形態では、本発明のAAV4カプシドタンパク質は、AAV4.18−6cのアミノ酸配列(配列番号31)を含み得る。
一実施形態では、本発明のAAV4カプシドタンパク質は、AAV4.18−5aのアミノ酸配列(配列番号32)を含み得る。
一実施形態では、本発明のAAV4カプシドタンパク質は、AAV4.18−5bのアミノ酸配列(配列番号33)を含み得る。
さらなる実施形態では、本発明のAAV4カプシドタンパク質は、本明細書および配列表において本明細書中に示されるアミノ酸配列のいずれかを含み得る。
本明細書中に記載される置換を有するAAV4カプシドタンパク質のさらなる非限定的な例は、図4中に提供され(aav4_1、aav4_2、aav4_3、aav4_10、aav4_13、aav4_14、aav4_20、aav4_22、aav4_24、aav4_26、aav4_27、aav4_28、aav4_31、aav4_39、aav4_40、aav4_43、aav4_49、aav4_60、aav4_63、aav4_80およびaav4_90)、異なる形質転換された細胞型(Y軸)に対するこれらのクローンの相対的遺伝子発現効率(X軸)は、図3中に提供される。
本明細書中に記載されるAAV4カプシドタンパク質を含むAAVカプシド、ならびにこのAAVカプシドを含むウイルスベクターが、本明細書中でさらに提供される。また、薬学的に許容される担体中に本発明のウイルスベクターを含む組成物が本明細書で提供される。
本明細書中で記載する場合、多数のAAV由来のカプシドタンパク質の核酸およびアミノ酸配列は、当該分野で公知である。従って、参照AAV4カプシドタンパク質のアミノ酸位置492、503、585、523、580、582、583、594および596に「対応する」アミノ酸(複数可)は、例えば、AAV11、AAV12、ウシAAV、クローン性単離体Rh32、クローン性単離体Rh33またはクローン性単離体Rh34が含まれる任意の他のAAVカプシドタンパク質について容易に決定できる(例えば、当該分野で周知のように、配列アラインメントを使用して)。
本発明は、本発明の改変されたカプシドタンパク質が、現在公知のまたは後に発見される任意のAAVのカプシドタンパク質を改変することによって生成され得ることを企図している。さらに、改変されるAAVカプシドタンパク質は、天然に存在するAAVカプシドタンパク質(例えば、表1に示されるAAV2、AAV3aもしくは3b、AAV4、AAV5、AAV8、AAV9、AAV10またはAAV11カプシドタンパク質あるいは任意のAAV)であり得るがそれらに限定されない。当業者は、AAVカプシドタンパク質に対する種々の操作が当該分野で公知であり、本発明が天然に存在するAAVカプシドタンパク質の改変に限定されないことを理解するであろう。例えば、改変されるカプシドタンパク質は、天然に存在するAAV(例えば、天然に存在するAAVカプシドタンパク質、例えば、AAV2、AAV3a、AAV3b、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11および/またはAAV12あるいは現在公知のまたは後に発見される任意の他のAAVに由来する)と比較して、既に変更を有していてもよい。かかるAAVカプシドタンパク質もまた、本発明の範囲内である。
従って、特定の実施形態では、改変されるAAVカプシドタンパク質は、天然に存在するAAVに由来し得るが、カプシドタンパク質中に挿入および/または置換されたならびに/あるいは1つまたは複数のアミノ酸の欠失によって変更された、1つまたは複数の外来配列(例えば、ネイティブウイルスにとって外因性である)をさらに含み得る。
従って、特定のAAVカプシドタンパク質(例えば、表1に示されたAAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11もしくはAAV12カプシドタンパク質、または任意のAAV由来のカプシドタンパク質など)に本明細書中で言及する場合、ネイティブカプシドタンパク質ならびに本発明の改変以外の変更を有するカプシドタンパク質を包含する意図である。かかる変更には、置換、挿入および/または欠失が含まれる。特定の実施形態では、カプシドタンパク質は、ネイティブAAVカプシドタンパク質配列と比較して、そこに挿入された1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19もしくは20の、20未満、30未満、40未満、50未満、60未満または70未満のアミノ酸を含む(本発明の挿入以外に)。本発明の実施形態では、カプシドタンパク質は、ネイティブAAVカプシドタンパク質配列と比較して、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19もしくは20の、20未満、30未満、40未満、50未満、60未満または70未満のアミノ酸置換を含む(本発明に従うアミノ酸置換以外に)。本発明の実施形態では、カプシドタンパク質は、ネイティブAAVカプシドタンパク質配列と比較して、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19もしくは20の、20未満、30未満、40未満、50未満、60未満または70未満のアミノ酸の欠失を含む(本発明のアミノ酸欠失以外に)。
従って、例えば用語「AAV4カプシドタンパク質」には、ネイティブAAV4カプシドタンパク質配列を有するAAVカプシドタンパク質(GenBank受託番号NC_044927を参照のこと)ならびにネイティブAAV4カプシドタンパク質配列中に置換、挿入および/または欠失(本明細書に記載したもの)を含むものが含まれる。
特定の実施形態では、AAVカプシドタンパク質は、ネイティブAAVカプシドタンパク質配列を有する、あるいはネイティブAAVカプシドタンパク質配列と少なくとも約90%、95%、97%、98%または99%類似または同一なアミノ酸配列を有する。例えば、特定の実施形態では、「AAV4」カプシドタンパク質は、ネイティブAAV4カプシドタンパク質配列、ならびにネイティブAAV4カプシドタンパク質配列と少なくとも約90%、95%、97%、98%または99%類似または同一な配列を包含する。
2つ以上のアミノ酸配列間の配列類似性または同一性を決定する方法は、当該分野で公知である。配列類似性または同一性は、当該分野で公知の標準的な技術を使用して決定され得、この技術には、SmithおよびWaterman、Adv.Appl.Math.2、482頁(1981)の局所配列同一性アルゴリズム、NeedlemanおよびWunsch、J.Mol.Biol.48、443頁(1970)の配列同一性アラインメントアルゴリズム、PearsonおよびLipman、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85、2444頁(1988)の類似性検索方法、これらのアルゴリズムのコンピュータ化実行(Wisconsin Genetics Software Package、Genetics Computer Group、575 Science Drive、Madison、WIにおけるGAP、BESTFIT、FASTAおよびTFASTA)、Devereuxら、Nucl.Acid Res.12:387〜395頁(1984)に記載されるBest Fit配列プログラム、または検査が含まれるがこれらに限定されない。
別の適切なアルゴリズムは、Altschulら、J.Mol.Biol.215:403〜410頁(1990)およびKarlinら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90、5873〜5787頁(1993)に記載されたBLASTアルゴリズムである。特に有用なBLASTプログラムは、Altschulら、Methods in Enzymology、266:460〜480頁(1996);http://blast.wustl/edu/blast/README.htmlから得られるWU−BLAST−2プログラムである。WU−BLAST−2は、任意選択的にデフォルト値に設定されるいくつかの検索パラメータを使用する。これらのパラメータは、ダイナミックな値であり、特定の配列の組成および対象の配列がそれに対して検索されている特定のデータベースの構成に依存して、プログラム自体によって設定されるが、これらの値は、感度を増加させるために調整されてよい。
さらに、さらなる有用なアルゴリズムは、Altschulら、(1997)Nucleic Acids Res.25:3389〜3402頁に報告されるgapped BLASTである。
本発明の代表的実施形態では、置換は、ネイティブAAV4カプシドタンパク質のK492、K503およびN585(VP1番号付けを使用する)において、または他のAAVの対応する位置、即ち、ネイティブAAV4カプシドタンパク質のアミノ酸位置492、503および585に対応するアミノ酸においてなされ、少なくとも1つの置換は、M523、G580、G581、Q583、L594および/もしくはA596において単一でもしくは任意の組み合わせで、または他のAAVの対応する位置、即ち、ネイティブAAV4カプシドタンパク質のアミノ酸位置523、580、581、583、594および/もしくは596に対応するアミノ酸においてなされる。ネイティブAAV4におけるこれらの位「に対応する」他のAAV血清型または改変されたAAVカプシド中のアミノ酸位置は、当業者に明らかであり、配列アラインメント技術(例えば、WO 2006/066066の図7を参照のこと)および/または結晶構造解析(Padronら、(2005)J.Virol.79:5047〜58頁)を使用して容易に決定され得る。
本発明は、本発明の改変されたAAVカプシドタンパク質を含む、本質的にこれからなる、またはこれからなるウイルスカプシドもまた提供する。特定の実施形態では、ウイルスカプシドは、さらに自律的パルボウイルスカプシドまたはディペンドウイルスカプシドであり得るパルボウイルスカプシドである。任意選択的に、ウイルスカプシドはAAVカプシドである。特定の実施形態では、AAVカプシドは、表1に示されるAAV1、AAV2、AAV3a、AAV3b、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11または任意の他のAAVであるか、あるいは1つまたは複数の挿入、置換および/または欠失により上述のいずれかから誘導される。
改変されたウイルスカプシドは、例えば米国特許第5,863,541号に記載された「カプシドビヒクル」として使用され得る。改変されたウイルスカプシドによってパッケージングされ得、細胞中に移入され得る分子には、異種DNA、RNA、ポリペプチド、有機小分子、金属またはそれらの組み合わせが含まれる。
異種分子は、AAV感染において天然には見出されない分子、例えば、野生型AAVゲノムによってコードされない分子として規定される。さらに、治療的に有用な分子は、宿主標的細胞中への分子の移入のために、キメラウイルスカプシドの外側と会合し得る。かかる会合した分子には、DNA、RNA、有機小分子、金属、炭水化物、脂質および/またはポリペプチドが含まれ得る。本発明の一実施形態では、治療的に有用な分子は、カプシドタンパク質に共有結合される(即ち、コンジュゲート化または化学的にカップリングされる)。分子を共有結合する方法は、当業者に公知である。
本発明の改変されたウイルスカプシドはまた、新規カプシド構造に対する抗体を惹起するのに用途を見出す。さらなる代替として、外因性アミノ酸配列は、細胞への抗原提示のために、例えば、外因性アミノ酸配列に対する免疫応答を生じるために対象に投与するために、改変されたウイルスカプシド中に挿入され得る。
他の実施形態では、ウイルスカプシドは、対象のポリペプチドまたは機能的RNAをコードする核酸を送達するウイルスベクターの投与の前および/または同時に(例えば、互いに数分以内または数時間以内)、特定の細胞部位を遮断するために投与され得る。例えば、本発明のカプシドは、特定の細胞上の細胞受容体を遮断するために送達され得、遮断された細胞の形質導入を低下させ得、他の標的(例えば、CNSの前駆細胞および/または神経芽細胞)の形質導入を増強し得る送達ベクターが、その後にまたは同時に投与され得る。
代表的実施形態によれば、改変されたウイルスカプシドは、本発明に従う改変されたウイルスベクターの前および/または同時に対象に投与され得る。さらに、本発明は、本発明の改変されたウイルスカプシドを含む組成物および医薬製剤を提供するが、任意選択的に、この組成物は、本発明の改変されたウイルスベクターもまた含む。
本発明は、本発明の改変されたウイルスカプシドおよびカプシドタンパク質をコードする核酸分子(任意選択的に、単離された核酸分子)もまた提供する。核酸分子を含むベクター、ならびに本発明の核酸分子および/またはベクターを含む細胞(インビボまたは培養物中)がさらに提供される。適切なベクターには、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルス、AAV、ヘルペスウイルス、ワクシニア、ポックスウイルス、バキュロウイルスなど)、プラスミド、ファージ、YAC、BACなどが含まれるがこれらに限定されない。かかる核酸分子、ベクターおよび細胞は、例えば、本明細書中に記載される改変されたウイルスカプシドまたはウイルスベクターの生成のための試薬(例えば、ヘルパーパッケージング構築物またはパッケージング細胞)として使用され得る。
本発明に従うウイルスカプシドは、例えばバキュロウイルスからの発現によるなどの、当該分野で公知の任意の方法を使用して生成され得る(Brownら、(1994)Virology 198:477〜488頁)。
本発明に従うAAVカプシドタンパク質への改変は、「選択的」改変である。このアプローチは、AAV血清型間のサブユニット全体または大きいドメインのスワップを用いる以前の研究とは対照的である(例えば、国際特許公開公報WO 00/28004およびHauckら、(2003)J.Virology 77:2768〜2774頁を参照のこと)。特定の実施形態では、「選択的」改変は、約20、18、15、12、10、9、8、7、6、5、4または3個未満の連続アミノ酸の挿入および/または置換および/または欠失を生じる。
本発明の改変されたカプシドタンパク質およびカプシドは、現在公知のまたは後に同定される任意の他の改変をさらに含み得る。
例えば、本発明のAAVカプシドタンパク質およびウイルスカプシドは、例えば、国際特許公開公報WO 00/28004号に記載されるように、別のウイルス、任意選択的に別のパルボウイルスまたはAAV由来のカプシドサブユニットの全てまたは一部を含み得るという意味で、キメラであり得る。
ウイルスカプシドは、ウイルスカプシドを所望の標的組織(複数可)上に存在する細胞表面分子と相互作用するよう方向付ける標的化配列(例えば、ウイルスカプシド中に置換または挿入されたもの)を含む標的化ウイルスカプシドであり得る(例えば、国際特許公開公報WO 00/28004号およびHauckら、(2003)J.Virology 77:2768〜2774頁);Shiら、Human Gene Therapy 17:353〜361頁(2006)[AAVカプシドサブユニットの520位および/または584位におけるインテグリン受容体結合モチーフRGDの挿入を記載している];および米国特許第7,314,912号[AAV2カプシドサブユニットのアミノ酸447位、534位、573位および587位の後にRGDモチーフを含むP1ペプチドの挿入を記載している]を参照のこと)。挿入を許容するAAVカプシドサブユニット内の他の位置は当該分野で公知である(例えば、Grifmanら、Molecular Therapy 3:964〜975頁(2001)に記載される449位および588位)。
例えば、いくつかの本発明のウイルスカプシドは、対象の殆どの標的組織(例えば、肝臓、骨格筋、心臓、横隔膜筋、腎臓、脳、胃、腸、皮膚、内皮細胞および/または肺)に向かう比較的非効率なトロピズムを有する。標的化配列は、これらの低形質導入ベクター中に有利に組み込まれ得、それにより、所望のトロピズムおよび任意選択的に特定の組織(複数可)に対する選択的トロピズムをウイルスカプシドに付与する。標的化配列を含むAAVカプシドタンパク質、カプシドおよびベクターは、例えば国際特許公開公報WO 00/28004号中に記載されている。別の可能性として、低形質導入ベクターを所望の標的組織(複数可)に再方向付けする手段として、Wangら(Annu Rev Biophys Biomol Struct.35:225〜49頁(2006))に記載される1つまたは複数の天然に存在しないアミノ酸が、直交部位においてAAVカプシドサブユニット中に組み込まれ得る。これらの非天然アミノ酸は、グリカン(マンノース−樹状細胞標的化);特定のがん細胞型への標的化送達のためのRGD、ボンベシンまたはニューロペプチド;増殖因子受容体、インテグリンなどの特定の細胞表面受容体に標的化されたファージディスプレイから選択されるRNAアプタマーまたはペプチドが含まれるがこれらに限定されない対象の分子をAAVカプシドタンパク質に化学的に連結するために有利に使用され得る。アミノ酸を化学的に改変する方法は、当該分野で公知である(例えば、Greg T.Hermanson、Bioconjugate Techniques、第1版、Academic Press、1996を参照のこと)。
代表的実施形態では、標的化配列は、特定の細胞型(複数可)への感染を指向するウイルスカプシド配列(例えば、自律的パルボウイルスカプシド配列、AAVカプシド配列または任意の他のウイルスカプシド配列)であり得る。
別の非限定的な例として、ヘパリン結合ドメイン(例えば、RSウイルスヘパリン結合ドメイン)が、得られた変異体にヘパリン結合を付与するために、典型的にはHS受容体に結合しないカプシドサブユニット(例えば、AAV4、AAV5)中に挿入または置換され得る。
B19は、その受容体としてグロボシドを使用する初代赤血球前駆細胞に感染する(Brownら(1993)Science 262:114頁)。B19の構造は、8Åの分解能まで決定されている(Agbandje−McKennaら(1994)Virology 203:106頁)。グロボシドに結合するB19カプシドの領域は、アミノ酸399〜406の間(Chapmanら(1993)Virology 194:419頁)、βバレル構造EとFとの間のループアウト(looped out)領域(Chipmanら(1996)Proc.Nat.Acad.Sci.USA 93:7502頁)にマップされている。従って、B19カプシドのグロボシド受容体結合ドメインは、それを含むウイルスカプシドまたはウイルスベクターを赤血球細胞に標的化するために、AAVカプシドタンパク質中に置換され得る。
代表的実施形態では、外因性標的化配列は、改変されたAAVカプシドタンパク質を含むウイルスカプシドまたはウイルスベクターのトロピズムを変更するペプチドをコードする任意のアミノ酸配列であり得る。特定の実施形態では、標的化ペプチドまたはタンパク質は、天然に存在するものであってもよく、あるいは完全にまたは部分的に合成であってもよい。例示的な標的化配列には、細胞表面受容体および糖タンパク質に結合するリガンドおよび他のペプチド、例えば、RGDペプチド配列、ブラジキニン、ホルモン、ペプチド増殖因子(例えば、上皮増殖因子、神経増殖因子、線維芽細胞増殖因子、血小板由来増殖因子、インスリン様増殖因子IおよびIIなど)、サイトカイン、メラニン細胞刺激ホルモン(例えば、α、βまたはγ)、ニューロペプチドおよびエンドルフィンなど、ならびにそれらの同族受容体へと細胞を標的化する能力を保持したその断片が含まれる。他の例示的なペプチドおよびタンパク質には、サブスタンスP、ケラチノサイト増殖因子、ニューロペプチドY、ガストリン放出ペプチド、インターロイキン2、ニワトリ卵白リゾチーム、エリスロポエチン、ゴナドリベリン、コルチコスタチン、β−エンドルフィン、ロイシンエンケファリン、リモルフィン、α−ネオエンケファリン、アンジオテンシン、ニューマジン(pneumadin)、血管作用性腸ペプチド、ニューロテンシン、モチリン、および上記のようなそれらの断片が含まれる。なおさらなる代替として、毒素(例えば、破傷風毒素または蛇毒、例えば、α−ブンガロトキシンなど)由来の結合ドメインが、標的化配列としてカプシドタンパク質中に置換され得る。なおさらなる代表的実施形態では、AAVカプシドタンパク質は、Cleves(Current Biology 7:R318(1997))に記載される「非典型的」インポート/エクスポートシグナルペプチド(例えば、線維芽細胞増殖因子−1および−2、インターロイキン1、HIV−1 Tatタンパク質、ヘルペスウイルスVP22タンパク質など)によるAAVカプシドタンパク質中への置換によって改変され得る。特定の細胞による取込みを方向付けるペプチドモチーフもまた包含され、例えば、FVFLPペプチドモチーフは、肝臓細胞による取込みを誘発する。
ファージディスプレイ技術ならびに当該分野で公知の他の技術が、対象の任意の細胞型を認識するペプチドを同定するために使用され得る。
標的化配列は、受容体(例えば、タンパク質、炭水化物、糖タンパク質またはプロテオグリカン)を含む、細胞表面結合部位に標的化する任意のペプチドをコードし得る。細胞表面結合部位の例としては、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸および他のグリコサミノグリカン、シアル酸部分、ポリシアル酸部分、糖タンパク質、およびガングリオシド、MHC I糖タンパク質、マンノース、N−アセチル−ガラクトサミン、N−アセチル−グルコサミン、フコース、ガラクトースを含めた、膜糖タンパク質上に見出される炭水化物成分などが含まれるがこれらに限定されない。
なおさらなる代替として、標的化配列は、細胞中への進入を標的化する別の分子への化学的カップリングのために使用され得る(例えば、そのR基を介して化学的にカップリングされ得るアルギニンおよび/またはリシン残基を含み得る)ペプチドであり得る。
本発明の上述の実施形態は、本明細書中に記載されるように細胞または対象に異種核酸を送達するために使用され得る。従って、一実施形態では、本発明は、細胞を本発明のウイルスベクターおよび/または組成物と接触させるステップを含む、細胞中に核酸分子を導入する方法を提供する。
さらに、本発明のウイルスベクターおよび/または本発明の組成物を対象に投与するステップを含む、対象に核酸分子を送達する方法が本明細書中で提供される。いくつかの実施形態では、このウイルスベクターまたは組成物は、対象の中枢神経系に投与される。
さらに、細胞を本発明のウイルスベクターおよび/または本発明の組成物と接触させるステップを含む、表面上にポリシアル酸を有する細胞を選択的に形質導入する方法が本明細書中で提供される。
本発明は、前駆細胞および/または神経芽細胞を本発明のウイルスベクターと接触させるステップを含み、このウイルスベクターが目的の核酸分子を含む、目的の核酸分子を中枢神経系の前駆細胞および/または神経芽細胞に送達する方法をさらに提供する。この方法のいくつかの実施形態では、目的の核酸分子は、治療的タンパク質または治療的RNAをコードする。
上記方法のいくつかの実施形態では、表面上にポリシアル酸を有する細胞、中枢神経系の前駆細胞および/または神経芽細胞は、対象中にあり得、いくつかの実施形態では、この対象はヒト対象であり得る。
本発明は、本発明のウイルスベクターを対象に投与するステップを含み、このウイルスベクターが、神経学的障害または欠損を治療することにおいて有効な治療的タンパク質または治療的RNAをコードする核酸分子を含む、対象において神経学的障害または欠損を治療する方法をさらに提供する。この方法のいくつかの実施形態では、このウイルスベクターは、脳室内(intracerebroventrical)、大槽内、脳実質内、頭蓋内および/または髄腔内経路を介して投与される。
さらなる実施形態では、本発明は、細胞を、アデノ随伴ウイルス(AAV)血清型4(AAV4)カプシドタンパク質を含むウイルスベクターと接触させるステップを含み、このカプシドタンパク質が、K492、K503およびN585における変異を含む、表面上にポリシアル酸を有する細胞を選択的に形質導入する方法を提供する。
また、前駆細胞および/または神経芽細胞を、アデノ随伴ウイルス(AAV)血清型4(AAV4)カプシドタンパク質を含むウイルスベクターと接触させるステップを含み、このカプシドタンパク質が、K492、K503およびN585における変異を含み、このウイルスベクターが、目的の核酸分子を含む、目的の核酸分子(NOI)を中枢神経系の前駆細胞および/または神経芽細胞に送達する方法が本明細書中で提供される。この方法のいくつかの実施形態では、目的の核酸分子は、治療的タンパク質または治療的RNAをコードし得、いくつかの実施形態では、この中枢神経系の前駆細胞および/または神経芽細胞は、対象中にあり得る。
この方法のさらなる実施形態では、アデノ随伴ウイルス(AAV)血清型4(AAV4)カプシドタンパク質を含むウイルスベクターを対象に投与するステップを含み、このカプシドタンパク質が、K492、K503およびN585における変異を含み、このウイルスベクターが、神経学的障害または欠損を治療することにおいて有効な治療的タンパク質または治療的RNAをコードする核酸分子を含む、対象において神経学的障害または欠損を治療する方法が提供される。この方法のいくつかの実施形態では、このウイルスベクターは、脳室内、大槽内、脳実質内、頭蓋内および/または髄腔内経路を介して投与される。この方法のいくつかの実施形態では、この対象はヒト対象である。
いくつかのAAVカプシドタンパク質について、対応するアミノ酸位置が、ウイルス中に部分的にまたは完全に存在するかどうか、あるいは完全に存在していないかに依存して、対応する改変が挿入および/または置換となることを、当業者は理解するであろう。同様に、AAV4以外のAAVを改変する場合、特定のアミノ酸位置(複数可)は、AAV4中の位置とは異なる位置であり得る(例えば、AAV4中のS257に対応するアミノ酸残基の代表的例を示す表4を参照のこと)。本明細書中の別の箇所で考察するように、対応するアミノ酸位置(複数可)は、周知の技術を使用して当業者に容易に明らかとなろう。
上記改変は、互いに組み合わせて、および/あるいは現在公知のまたは後に発見される任意の他の改変と組み合わせて、本発明のカプシドタンパク質またはカプシド中に取り込まれ得る。
本発明は、本発明の改変されたカプシドタンパク質およびカプシドを含むウイルスベクターもまた包含する。特定の実施形態では、ウイルスベクターは、パルボウイルスベクター(例えば、パルボウイルスカプシドおよび/またはベクターゲノムを含んでいる)、例えば、AAVベクター(例えば、AAVカプシドおよび/またはベクターゲノムを含んでいる)である。代表的実施形態では、ウイルスベクターは、本発明の改変されたカプシドサブユニットを含む改変されたAAVカプシドとベクターゲノムとを含む。
例えば、代表的実施形態では、ウイルスベクターは、(a)本発明の改変されたカプシドタンパク質を含む改変されたウイルスカプシド(例えば、改変されたAAVカプシド)と、(b)末端反復配列(例えば、AAV−TR)を含む核酸とを含み、この末端反復配列を含む核酸は、改変されたウイルスカプシドによってカプシド封入されている。核酸は、2つの末端反復(例えば、2つのAAV−TR)を任意選択的に含み得る。
代表的実施形態では、ウイルスベクターは、対象のタンパク質または機能的RNAをコードする異種核酸分子を含む組換えウイルスベクターである。組換えウイルスベクターは、以下により詳細に記載される。
本発明の改変されたカプシドタンパク質、ウイルスカプシドおよびウイルスベクターは、そのネイティブ状態において特定の位置に示されたアミノ酸を有するカプシドタンパク質、カプシドおよびウイルスベクター(即ち、変異体ではない)を排除することが、当業者に理解されるであろう。
<ウイルスベクターを生成する方法>
本発明は、本発明のウイルスベクターを生成する方法をさらに提供する。1つの代表的実施形態では、本発明は、ウイルスベクターを生成する方法を提供し、この方法は、(a)少なくとも1つのTR配列(例えば、AAV−TR配列)を含む核酸鋳型と、(b)核酸鋳型の複製およびAAVカプシド中へのカプシド封入に充分なAAV配列(例えば、本発明のAAVカプシドをコードするAAVのrep配列およびAAVのcap配列)とを、細胞に提供するステップを含む。任意選択的に、核酸鋳型は、少なくとも1つの異種核酸配列をさらに含む。特定の実施形態では、核酸鋳型は2つのAAV ITR配列を含み、これらは、(存在する場合)異種核酸配列に対して5’側および3’側に位置するが、異種核酸配列と直接隣接している必要はない。
核酸鋳型ならびにAAVのrepおよびcap配列は、AAVカプシド内にパッケージングされた核酸鋳型を含むウイルスベクターが細胞中で生成されるような条件下で提供される。この方法は、細胞からウイルスベクターを回収するステップをさらに含み得る。ウイルスベクターは、培地からおよび/または細胞を溶解することによって回収され得る。
細胞は、AAVウイルスの複製を許容する細胞であり得る。当該分野で公知の任意の適切な細胞が使用され得る。特定の実施形態では、細胞は哺乳動物細胞である。別の選択肢として、細胞は、複製欠損ヘルパーウイルスから欠失した機能を提供するトランス補完性(trans−complementing)パッケージング細胞株、例えば、293細胞または他のE1aトランス補完性細胞であり得る。
AAV複製およびカプシド配列は、当該分野で公知の任意の方法によって提供され得る。現在のプロトコールは典型的に、単一のプラスミド上のAAVのrep/cap遺伝子を発現する。AAV複製およびパッケージング配列は、一緒に提供される必要はないが、一緒に提供するのが簡便であり得る。AAVのrepおよび/またはcap配列は、任意のウイルスベクターまたは非ウイルスベクターによって提供され得る。例えば、rep/cap配列は、ハイブリッドアデノウイルスまたはヘルペスウイルスベクターによって提供され得る(例えば、欠失型アデノウイルスベクターのE1a領域またはE3領域中に挿入される)。EBVベクターもまた、AAVのcapおよびrep遺伝子を発現するために使用され得る。この方法の1つの利点は、EBVベクターがエピソームであるが、連続的な細胞分裂の間中、高コピー数をなおも維持することである(即ち、「EBVベースの核エピソーム(EBV based nuclear episome)」と称される染色体外エレメントとして細胞中に安定に組み込まれる、Margolski(1992)Curr.Top.Microbiol.Immun.158:67頁を参照のこと)。
さらなる代替として、rep/cap配列は、細胞中に安定に取り込まれ得る。
典型的には、AAVのrep/cap配列は、これらの配列のレスキューおよび/またはパッケージングを防止するために、TRと隣接していない。
核酸鋳型は、当該分野で公知の任意の方法を使用して細胞に提供され得る。例えば、鋳型は、非ウイルスベクター(例えば、プラスミド)またはウイルスベクターによって供給され得る。特定の実施形態では、核酸鋳型は、ヘルペスウイルスベクターまたはアデノウイルスベクターによって供給される(例えば、欠失型アデノウイルスのE1a領域またはE3領域中に挿入される)。別の説明として、Palomboら(1998)J.Virology 72:5025頁は、AAV−TRが隣接するレポーター遺伝子を保有するバキュロウイルスベクターを記載している。EBVベクターもまた、rep/cap遺伝子に関して上記したように、鋳型を送達するために使用され得る。
別の代表的実施形態では、核酸鋳型は、複製するrAAVウイルスによって提供される。なお他の実施形態では、核酸鋳型を含むAAVプロウイルスは、細胞の染色体中に安定に組み込まれる。
ウイルス力価を増強するために、増殖性AAV感染を促進するヘルパーウイルス機能(例えば、アデノウイルスまたはヘルペスウイルス)が、細胞に提供され得る。AAV複製に必要なヘルパーウイルス配列は、当該分野で公知である。典型的には、これらの配列は、ヘルパーアデノウイルスベクターまたはヘルペスウイルスベクターによって提供される。あるいは、アデノウイルス配列またはヘルペスウイルス配列は、例えば、Ferrariら(1997)Nature Med.3:1295頁、ならびに米国特許第6,040,183号および同第6,093,570号によって記載されるような、効率的なAAV生成を促進するヘルパー遺伝子の全てを保有する非感染性アデノウイルスミニプラスミドとして、別の非ウイルスベクターまたはウイルスベクターによって提供され得る。
さらに、ヘルパーウイルス機能は、染色体中に埋め込まれたまたは安定な染色体外エレメントとして維持されるヘルパー配列を有するパッケージング細胞によって提供され得る。一般に、ヘルパーウイルス配列は、AAVビリオン中にパッケージングすることはできない、例えば、ヘルパーウイルス配列にTRは隣接していない。
単一のヘルパー構築物上のAAV複製およびカプシド配列ならびにヘルパーウイルス配列(例えば、アデノウイルス配列)を提供することが有利であり得ることを、当業者は理解するであろう。このヘルパー構築物は、非ウイルス構築物でもウイルス構築物でもよい。1つの非限定的説明として、ヘルパー構築物は、AAVのrep/cap遺伝子を含むハイブリッドアデノウイルスまたはハイブリッドヘルペスウイルスであり得る。
1つの特定の実施形態では、AAVのrep/cap配列およびアデノウイルスヘルパー配列は、単一のアデノウイルスヘルパーベクターによって供給される。このベクターは、核酸鋳型をさらに含み得る。AAVのrep/cap配列および/またはrAAV鋳型は、アデノウイルスの欠失した領域(例えば、E1a領域またはE3領域)中に挿入され得る。
さらなる実施形態では、AAVのrep/cap配列およびアデノウイルスヘルパー配列は、単一のアデノウイルスヘルパーベクターによって供給される。この実施形態によれば、rAAV鋳型は、プラスミド鋳型として提供され得る。
別の例示的実施形態では、AAVのrep/cap配列およびアデノウイルスヘルパー配列は、単一のアデノウイルスヘルパーベクターによって提供され、rAAV鋳型は、プロウイルスとして細胞中に取り込まれる。あるいは、rAAV鋳型は、染色体外エレメント(例えば、EBVベースの核エピソーム)として細胞内で維持されるEBVベクターによって提供される。
さらなる例示的な実施形態では、AAVのrep/cap配列およびアデノウイルスヘルパー配列は、単一のアデノウイルスヘルパーによって提供される。rAAV鋳型は、別個の複製するウイルスベクターとして提供され得る。例えば、rAAV鋳型は、rAAV粒子または第2の組換えアデノウイルス粒子によって提供され得る。
上述の方法によれば、ハイブリッドアデノウイルスベクターは典型的に、アデノウイルスの複製およびパッケージングに充分なアデノウイルスの5’および3’のシス配列(即ち、アデノウイルス末端反復およびPAC配列)を含む。AAVのrep/cap配列および存在する場合にはrAAV鋳型は、アデノウイルス骨格中に埋め込まれ、5’および3’のシス配列がそれに隣接しており、その結果これらの配列は、アデノウイルスカプシド中にパッケージングされ得る。上記のように、アデノウイルスヘルパー配列およびAAVのrep/cap配列には一般に、これらの配列がAAVビリオン中にパッケージングされないように、TRが隣接していない。
Zhangら((2001)Gene Ther.18:704〜12頁)は、アデノウイルスならびにAAVのrepおよびcap遺伝子の両方を含むキメラヘルパーを記載している。
ヘルペスウイルスもまた、AAVパッケージング法においてヘルパーウイルスとして使用され得る。AAVのrepタンパク質(複数可)をコードするハイブリッドヘルペスウイルスは、拡大縮小可能なAAVベクター生成スキームを有利に促進し得る。AAV−2 repおよびcap遺伝子を発現するハイブリッド単純ヘルペスウイルスI型(HSV−1)ベクターが、Conwayら(1999)Gene Therapy 6:986頁およびWO 00/17377号に記載されている。
さらなる代替として、本発明のウイルスベクターは、例えばUrabeら(2002)Human Gene Therapy 13:1935〜43頁によって記載されるように、rep/cap遺伝子およびrAAV鋳型を送達するためのバキュロウイルスベクターを使用して昆虫細胞中で生成され得る。
混入するヘルパーウイルスを含まないAAVベクターストックは、当該分野で公知の任意の方法によって得られ得る。例えば、AAVおよびヘルパーウイルスは、サイズに基づいて容易に識別され得る。AAVはまた、ヘパリン基質に対する親和性に基づいて、ヘルパーウイルスから分離され得る(Zolotukhinら(1999)Gene Therapy 6:973頁)。任意の混入するヘルパーウイルスが複製コンピテントにならないように、欠失型複製欠損ヘルパーウイルスが使用され得る。アデノウイルス初期遺伝子発現のみがAAVウイルスのパッケージングを媒介するために必要なので、さらなる代替として、後期遺伝子発現を欠くアデノウイルスヘルパーが使用され得る。後期遺伝子発現が欠損したアデノウイルス変異体は当該分野で公知である(例えば、ts100Kおよびts149アデノウイルス変異体)。
<組換えウイルスベクター>
本発明のウイルスベクターは、インビトロ、エクスビボおよびインビボで細胞に核酸を送達するために有用である。特に、ウイルスベクターは、哺乳動物を含む動物、細胞に核酸を送達または移入するために有利に使用され得る。
対象の任意の異種核酸配列(複数可)は、本発明のウイルスベクター中で送達され得る。対象の核酸には、治療的(例えば、医療用途または獣医学用途のため)もしくは免疫原性(例えば、ワクチンのため)タンパク質を含むポリペプチドおよび/または機能的もしくは治療的RNA分子をコードする核酸が含まれる。
治療的ポリペプチドには嚢胞性線維症膜貫通制御タンパク質(cystic fibrosis transmembrane regulator protein(CFTR))、ジストロフィン(ミニジストロフィンおよびマイクロジストロフィン)が含まれる、例えば、Vincentら(1993)Nature Genetics 5:130頁;米国特許公開公報2003017131号;国際公開公報WO/2008/088895号、Wangら Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97:13714〜13719頁(2000);およびGregorevicら Mol.Ther.16:657〜64頁(2008)を参照のこと)、ミオスタチンプロペプチド、フォリスタチン、アクチビンII型可溶性受容体、IGF−1、抗炎症性ポリペプチド、例えば、IκB優性変異体、サルコスパン、ユートロフィン(Tinsleyら(1996)Nature 384:349頁)、ミニユートロフィン、凝固因子(例えば、第VIII因子、第IX因子、第X因子など)、エリスロポエチン、アンジオスタチン、エンドスタチン、カタラーゼ、チロシンヒドロキシラーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、レプチン、LDL受容体、リポタンパク質リパーゼ、オルニチントランスカルバミラーゼ、β−グロビン、α−グロビン、スペクトリン、α1−アンチトリプシン、アデノシンデアミナーゼ、ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ、β−グルコセレブロシダーゼ、スフィンゴミエリナーゼ、リソソームヘキソサミニダーゼA、分岐鎖ケト酸脱水素酵素、RP65タンパク質、サイトカイン(例えば、α−インターフェロン、β−インターフェロン、インターフェロン−γ、インターロイキン−2、インターロイキン−4、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、リンホトキシンなど)、ペプチド増殖因子、神経栄養因子およびホルモン(例えば、ソマトトロピン、インスリン、インスリン様増殖因子1および2、血小板由来増殖因子、上皮増殖因子、線維芽細胞増殖因子、神経増殖因子、神経栄養因子−3および−4、脳由来神経栄養因子、骨形態形成(bone morphogenic)タンパク質[RANKLおよびVEGFが含まれる]、グリア由来増殖因子、形質転換増殖因子−αおよび−βなど)、リソソーム酸α−グルコシダーゼ、α−ガラクトシダーゼA、受容体(例えば、腫瘍壊死増殖因子α可溶性受容体)、S100A1、パルブアルブミン、アデニリルシクラーゼ6型、カルシウムハンドリングをモジュレートする分子(例えば、SERCA2A、PP1のインヒビター1およびそれらの断片[例えば、WO 2006/029319号およびWO 2007/100465号])、短縮型の構成的に活性なbARKctなどのGタンパク質共役型受容体キナーゼ2型ノックダウンをもたらす分子、IRAPなどの抗炎症性因子、抗ミオスタチンタンパク質、アスパルトアシラーゼ、モノクローナル抗体(単鎖モノクローナル抗体が含まれる;例示的なMabは、Herceptin(登録商標)Mabである)、ニューロペプチドおよびその断片(例えば、ガラニン、ニューロペプチドY(米国特許第7,071,172号を参照のこと)、バソヒビンなどの血管新生インヒビターならびに他のVEGFインヒビター(例えば、バソヒビン2[WO JP2006/073052号を参照のこと])が含まれるがこれらに限定されない。他の例示的な異種核酸配列は、自殺遺伝子産物(例えば、チミジンキナーゼ、シトシンデアミナーゼ、ジフテリア毒素、および腫瘍壊死因子)、がん療法において使用される薬物に対する耐性を付与するタンパク質、腫瘍抑制遺伝子産物(例えば、p53、Rb、Wt−1)、TRAIL、FAS−リガンド、およびそれを必要とする対象において治療効果を有する任意の他のポリペプチドをコードする。AAVベクターは、モノクローナル抗体および抗体断片、例えば、ミオスタチンに対する抗体または抗体断片を送達するためにも使用され得る(例えば、Fangら Nature Biotechnology 23:584〜590頁(2005)を参照のこと)。
ポリペプチドをコードする異種核酸配列には、レポーターポリペプチド(例えば酵素)をコードする異種核酸配列が含まれる。レポーターポリペプチドは当該分野で公知であり、緑色蛍光タンパク質、β−ガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ルシフェラーゼおよびクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子が含まれるがこれらに限定されない。
任意選択的に、異種核酸は、分泌型ポリペプチド(例えば、そのネイティブ状態で分泌型ポリペプチドであるポリペプチド、または例えば当該分野で公知の分泌シグナル配列との作動可能な関連によって分泌されるように操作されたポリペプチド)をコードする。
あるいは、本発明の特定の実施形態では、異種核酸は、アンチセンス核酸、リボザイム(例えば、米国特許第5,877,022号に記載される)、スプライソソーム媒介性のトランススプライシングをもたらすRNA(Puttarajuら(1999)Nature Biotech.17:24頁6;米国特許第6,013,487号;米国特許第6,083,702号を参照のこと)、遺伝子サイレンシングを媒介するsiRNA、shRNAまたはmiRNAを含む干渉RNA(RNAi)(Sharpら(2000)Science 287:2431頁を参照のこと)および「ガイド」RNAなどの他の非翻訳RNA(Gormanら(1998)Proc.Nat.Acad.Sci.USA 95:4929頁;Yuanらに対する米国特許第5,869,248号)などをコードし得る。例示的な非翻訳RNAには、多剤耐性(MDR)遺伝子産物に対するRNAi(例えば、腫瘍を治療および/もしくは予防するため、ならびに/または化学療法による損傷を予防するために心臓に投与するため)、ミオスタチンに対するRNAi(例えば、デュシェンヌ型筋ジストロフィーのため)、VEGFに対するRNAi(例えば、腫瘍を治療および/または予防するため)、ホスホランバンに対するRNAi(例えば、心血管疾患を治療するため、例えば、Andinoら J.Gene Med.10:132〜142頁(2008)およびLiら Acta Pharmacol Sin.26:51〜55頁(2005)を参照のこと);ホスホランバンS16Eなどのホスホランバン阻害分子またはドミナントネガティブ分子(例えば、心血管疾患を治療するため、例えば、Hoshijimaら Nat.Med.8:864〜871頁(2002)を参照のこと)、アデノシンキナーゼに対するRNAi(例えば、癲癇のため)、ならびに病原性生物およびウイルス(例えば、B型および/またはC型肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、CMV、単純ヘルペスウイルス、ヒトパピローマウイルスなど)に対するRNAiが含まれる。
さらに、選択的スプライシングを指示する核酸配列が送達され得る。説明するために、ストロフィンエクソン51の5’および/または3’スプライス部位に相補的なアンチセンス配列(または他の阻害配列)が、このエクソンの読み飛ばしを誘導するためにU1またはU7低分子核内(sn)RNAプロモーターと合わせて送達され得る。例えば、アンチセンス/阻害配列(複数可)に対して5’側に位置するU1またはU7 snRNAプロモーターを含むDNA配列は、本発明の改変されたカプシド中にパッケージングされて送達され得る。
ウイルスベクターは、宿主染色体上の遺伝子座と相同性を共有し、宿主染色体上の遺伝子座と組み換わる異種核酸もまた含み得る。このアプローチは、例えば、宿主細胞中の遺伝的欠陥を修正するために利用され得る。
本発明は、例えばワクチン接種のための免疫原性ポリペプチドを発現するウイルスベクターもまた提供する。核酸は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、インフルエンザウイルス、HIVまたはSIVのgagタンパク質、腫瘍抗原、がん抗原、細菌抗原、ウイルス抗原など由来の免疫原が含まれるがこれらに限定されない、当該分野で公知の対象の任意の免疫原をコードし得る。
ワクチンベクターとしてのパルボウイルスの使用は当該分野で公知である(例えば、Miyamuraら、(1994)Proc.Nat.Acad.Sci USA 91:8507頁;Youngらに対する米国特許第5,916,563号、Mazzaraらに対する米国特許第5,905,040号、米国特許第5,882,652号、Samulskiらに対する米国特許第5,863,541号を参照のこと)。抗原は、パルボウイルスカプシド中に存在し得る。あるいは、抗原は、組換えベクターゲノム中に導入された異種核酸から発現され得る。本明細書中に記載されるおよび/または当該分野で公知の対象の任意の免疫原は、本発明のウイルスベクターによって提供され得る。
免疫原性ポリペプチドは、免疫応答を惹起するのに適した、ならびに/または微生物、細菌、原生動物、寄生生物、真菌および/もしくはウイルスの感染および疾患が含まれるがこれらに限定されない感染および/もしくは疾患に対して対象を保護するのに適した任意のポリペプチドであり得る。例えば、免疫原性ポリペプチドは、オルソミクソウイルス免疫原(例えば、インフルエンザウイルスヘマグルチニン(HA)表面タンパク質もしくはインフルエンザウイルス核タンパク質、またはウマインフルエンザウイルス免疫原などの、インフルエンザウイルス免疫原)もしくはレンチウイルス免疫原(例えば、HIVもしくはSIVのエンベロープGP160タンパク質、HIVもしくはSIVのマトリックス/カプシドタンパク質ならびにHIVもしくはSIVのgag、polおよびenv遺伝子産物などの、ウマ感染性貧血ウイルス免疫原、サル免疫不全ウイルス(SIV)免疫原またはヒト免疫不全ウイルス(HIV)免疫原)であり得る。免疫原性ポリペプチドは、アレナウイルス免疫原(例えば、ラッサ熱ウイルス核カプシドタンパク質およびラッサ熱エンベロープ糖タンパク質などのラッサ熱ウイルス免疫原)、ポックスウイルス免疫原(例えば、ワクシニアL1またはL8遺伝子産物などのワクシニアウイルス免疫原)、フラビウイルス免疫原(例えば、黄熱病ウイルス免疫原または日本脳炎ウイルス免疫原)、フィロウイルス免疫原(例えば、NPおよびGP遺伝子産物などの、エボラウイルス免疫原またはマールブルグウイルス免疫原)、ブニヤウイルス免疫原(例えば、RVFV、CCHFおよび/またはSFSウイルス免疫原)、またはコロナウイルス免疫原(例えば、ヒトコロナウイルスエンベロープ糖タンパク質などの感染性ヒトコロナウイルス免疫原、またはブタ伝染性胃腸炎ウイルス免疫原またはトリ感染性気管支炎ウイルス免疫原)でもあり得る。免疫原性ポリペプチドはさらに、ポリオ免疫原、ヘルペス免疫原(例えば、CMV、EBV、HSV免疫原)ムンプス免疫原、麻疹免疫原、風疹免疫原、ジフテリア毒素もしくは他のジフテリア免疫原、百日咳抗原、肝炎(例えば、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎など)免疫原、および/または当該分野で現在公知のまたは免疫原として後に同定される任意の他のワクチン免疫原であり得る。
あるいは、免疫原性ポリペプチドは、任意の腫瘍細胞またはがん細胞の抗原であり得る。任意選択的に、腫瘍抗原またはがん抗原は、がん細胞の表面上に発現される。例示的ながんおよび腫瘍細胞の抗原は、S.A.Rosenberg(Immunity 10:281頁(1991))に記載されている。他の例示的ながん抗原および腫瘍抗原には、BRCA1遺伝子産物、BRCA2遺伝子産物、gp100、チロシナーゼ、GAGE−1/2、BAGE、RAGE、LAGE、NY−ESO−1、CDK−4、β−カテニン、MUM−1、カスパーゼ−8、KIAA0205、HPVE、SART−1、PRAME、p15、メラノーマ腫瘍抗原(Kawakamiら(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:3515頁;Kawakamiら(1994)J.Exp.Med.180:347頁;Kawakamiら(1994)Cancer Res.54:3124頁)、MART−1、gp100 MAGE−1、MAGE−2、MAGE−3、CEA、TRP−1、TRP−2、P−15、チロシナーゼ(Brichardら(1993)J.Exp.Med.178:489頁);HER−2/neu遺伝子産物(米国特許第4,968,603号)、CA125、LK26、FB5(エンドシアリン)、TAG72、AFP、CA19−9、NSE、DU−PAN−2、CA50、SPan−1、CA72−4、HCG、STN(シアリルTn抗原)、c−erbB−2タンパク質、PSA、L−CanAg、エストロゲン受容体、乳脂肪グロブリン、p53腫瘍抑制因子タンパク質(Levine、(1993)Ann.Rev.Biochem.62:623頁);ムチン抗原(国際特許公開公報WO 90/05142号);テロメラーゼ;核マトリックスタンパク質;前立腺酸性ホスファターゼ;パピローマウイルス抗原;および/あるいは現在公知のまたは以下のがんに関連することが後に発見される抗原:メラノーマ、腺癌腫、胸腺腫、リンパ腫(例えば、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫)、肉腫、肺がん、肝臓がん、結腸がん、白血病、子宮がん、乳がん、前立腺がん、卵巣がん、子宮頚がん、膀胱がん、腎臓がん、膵臓がん、脳がん、および現在公知のまたは後に同定される任意の他のがんまたは悪性状態(例えば、Rosenberg、(1996)Ann.Rev.Med.47:481〜91頁を参照のこと)が含まれるがこれらに限定されない。
さらなる代替として、異種核酸は、インビトロ、エクスビボまたはインビボで細胞中において生成されることが望ましい任意のポリペプチドをコードし得る。例えば、ウイルスベクターは、培養細胞中に導入され得、発現された遺伝子産物がそこから単離される。
対象の異種核酸(複数可)が適切な制御配列と作動可能に関連し得ることが、当業者に理解されよう。例えば、異種核酸は、発現制御エレメント、例えば転写/翻訳制御シグナル、複製起点、ポリアデニル化シグナル、配列内リボソーム進入部位(IRES)、プロモーターおよび/またはエンハンサーなどと、作動可能に関連し得る。
さらに、対象の異種核酸(複数可)の調節された発現は、転写後レベルで、例えば、オリゴヌクレオチド、小分子および/または特定の部位におけるスプライシング活性を選択的に遮断する他の化合物(例えば、WO 2006/119137号に記載される)の存在または非存在によって、異なるイントロンの選択的スプライシングを調節することによって、達成され得る。
種々のプロモーター/エンハンサーエレメントが、所望されるレベルおよび組織特異的発現に依存して使用され得ることを、当業者は理解するであろう。プロモーター/エンハンサーは、所望の発現パターンに依存して、構成的または誘導性であり得る。プロモーター/エンハンサーは、ネイティブまたは外来であり得、天然配列または合成配列であり得る。外来とは、転写開始領域が、その転写開始領域が導入される野生型宿主において見出されないものであることを意図する。
特定の実施形態では、プロモーター/エンハンサーエレメントは、標的細胞または治療される対象にとってネイティブであり得る。代表的実施形態では、プロモーター/エンハンサーエレメントは、異種核酸配列にとってネイティブであり得る。プロモーター/エンハンサーエレメントは一般に、対象の標的細胞(複数可)において機能するように選択される。さらに、特定の実施形態では、プロモーター/エンハンサーエレメントは、哺乳動物のプロモーター/エンハンサーエレメントである。プロモーター/エンハンサーエレメントは、構成的でも誘導性でもよい。
誘導性発現制御エレメントは典型的に、異種核酸配列(複数可)の発現の調節を提供することが望ましい適用において有利である。遺伝子送達のための誘導性プロモーター/エンハンサーエレメントは、組織特異的プロモーター/エンハンサーエレメントまたは好ましいプロモーター/エンハンサーエレメントであり得、筋特異的または好ましい(心筋、骨格筋および/または平滑筋特異的または好ましいものが含まれる)、神経組織特異的または好ましい(脳特異的または好ましいものが含まれる)、眼特異的または好ましい(網膜特異的および角膜特異的なものが含まれる)、肝臓特異的または好ましい、骨髄特異的または好ましい、膵臓特異的または好ましい、脾臓特異的または好ましい、および肺特異的または好ましいプロモーター/エンハンサーエレメントが含まれる。他の誘導性プロモーター/エンハンサーエレメントには、ホルモン誘導性エレメントおよび金属誘導性エレメントが含まれる。例示的な誘導性プロモーター/エンハンサーエレメントには、Tetオン/オフエレメント、RU486誘導性プロモーター、エクジソン誘導性プロモーター、ラパマイシン誘導性プロモーターおよびメタロチオネインプロモーターが含まれるが、これらに限定されない。
異種核酸配列(複数可)が標的細胞において転写され、次いで翻訳される実施形態では、特異的開始シグナルが一般に、挿入されたタンパク質コード配列の効率的な翻訳のために含まれる。ATG開始コドンおよび隣接配列を含み得るこれらの外因性翻訳制御配列は、天然および合成の両方の、種々の起源のものであり得る。
本発明に従うウイルスベクターは、分裂細胞および非分裂細胞を含む広範な細胞中に異種核酸を送達する手段を提供する。ウイルスベクターは、例えば、インビトロでポリペプチドを生成するために、またはエクスビボの遺伝子療法のために、対象の核酸をインビトロで細胞に送達するために使用され得る。ウイルスベクターは、例えば、免疫原性もしくは治療的ポリペプチドまたは機能的RNAを発現するために、それを必要とする対象に核酸を送達する方法において、さらに有用である。この様式で、ポリペプチドまたは機能的RNAは、対象中においてインビボで生成され得る。対象は、ポリペプチドの欠乏症を有するので、そのポリペプチドを必要とし得る。さらに、対象におけるポリペプチドまたは機能的RNAの生成は、いくらかの有益な効果を付与し得るので、この方法が実施され得る。
ウイルスベクターは、(例えば、スクリーニング方法と合わせて、例えばポリペプチドを生成するためまたは対象に対する機能的RNAの影響を観察するためのバイオリアクタとして対象を使用して)培養細胞または対象において対象のポリペプチドまたは機能的RNAを生成するためにも使用され得る。
一般に、本発明のウイルスベクターは、治療的ポリペプチドまたは機能的RNAを送達することが有利な任意の疾患状態を治療および/または予防するために、ポリペプチドまたは機能的RNAをコードする異種核酸を送達するために使用され得る。例示的な疾患状態には、嚢胞性線維症(嚢胞性線維症膜貫通制御タンパク質)および他の肺の疾患、血友病A(第VIII因子)、血友病B(第IX因子)、サラセミア(β−グロビン)、貧血(エリスロポエチン)および他の血液障害、アルツハイマー病(GDF;ネプリライシン)、多発性硬化症(β−インターフェロン)、パーキンソン病(グリア細胞株由来神経栄養因子[GDNF])、ハンチントン病(反復を除去するためのRNAi)、筋萎縮性側索硬化症、癲癇(ガラニン、神経栄養因子)および他の神経学的障害、がん(エンドスタチン、アンジオスタチン、TRAIL、FAS−リガンド、インターフェロンを含むサイトカイン;VEGFまたは多剤耐性遺伝子産物に対するRNAiを含むRNAi、mir−26a[例えば、肝細胞癌腫のため])、真正糖尿病(インスリン)、デュシェンヌ型(ジストロフィン、ミニジストロフィン、インスリン様増殖因子I、サルコグリカン[例えば、α、β、γ]、ミオスタチンに対するRNAi、ミオスタチンプロペプチド、フォリスタチン、アクチビンII型可溶性受容体、抗炎症性ポリペプチド、例えば、IκB優性変異体、サルコスパン、ユートロフィン、ミニユートロフィン、エクソン読み飛ばしを誘導するためのジストロフィン遺伝子中のスプライスジャンクションに対するアンチセンスまたはRNAi[例えば、WO/2003/095647号を参照のこと]、エクソン読み飛ばしを誘導するためのU7 snRNAに対するアンチセンス[例えば、WO/2006/021724号を参照のこと]、およびミオスタチンまたはミオスタチンプロペプチドに対する抗体または抗体断片)およびベッカー型を含む筋ジストロフィー、ゴーシェ病(グルコセレブロシダーゼ)、ハーラー病(α−L−イズロニダーゼ)、アデノシンデアミナーゼ欠乏症(アデノシンデアミナーゼ)、糖原貯蔵疾患(例えば、ファブリー病[α−ガラクトシダーゼ]およびポンペ病[リソソーム酸α−グルコシダーゼ])および他の代謝障害、先天性肺気腫(α1−アンチトリプシン)、レッシュ・ナイハン症候群(ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ)、ニーマン・ピック病(スフィンゴミエリナーゼ)、テイ・サックス病(Tay Sachs disease)(リソソームヘキソサミニダーゼA)、メープルシロップ尿症(分岐鎖ケト酸脱水素酵素)、網膜変性疾患(ならびに眼および網膜の他の疾患;例えば、黄斑変性症についてPDGF、および/あるいは例えばI型糖尿病における網膜障害を治療/予防するためのバソヒビンもしくはVEGFの他のインヒビターまたは他の血管新生インヒビター)、固形臓器の疾患、例えば脳(パーキンソン病[GDNF]、星状細胞腫[エンドスタチン、アンジオスタチン、および/またはVEGFに対するRNAi]、膠芽腫[エンドスタチン、アンジオスタチン、および/またはVEGFに対するRNAi]が含まれる)、肝臓、腎臓、うっ血性心不全または末梢動脈疾患(PAD)を含む心臓(例えば、プロテインホスファターゼインヒビターI(I−1)およびその断片(例えば、I1C)、serca2a、ホスホランバン遺伝子を調節するジンクフィンガータンパク質、Barkct、β2アドレナリン受容体、β2アドレナリン受容体キナーゼ(BARK)、ホスホイノシチド−3キナーゼ(PI3キナーゼ)、S100A1、パルブアルブミン、アデニリルシクラーゼ6型、短縮型の構成的に活性なbARKctなどのGタンパク質共役型受容体キナーゼ2型ノックダウンをもたらす分子;カルサルシン(calsarcin)、ホスホランバンに対するRNAi;ホスホランバンS16Eなどのホスホランバン阻害分子またはドミナントネガティブ分子などを送達することによる)、関節炎(インスリン様増殖因子)、関節障害(インスリン様増殖因子1および/または2)、内膜過形成(例えば、enos、inosを送達することによる)、心臓移植物の生存の改善(スーパーオキシドジスムターゼ)、AIDS(可溶性CD4)、筋消耗(インスリン様増殖因子I)、腎臓欠損症(kidney deficiency)(エリスロポエチン)、貧血(エリスロポエチン)、関節炎(IRAPおよびTNFα可溶性受容体などの抗炎症性因子)、肝炎(α−インターフェロン)、LDL受容体欠乏症(LDL受容体)、高アンモニア血症(オルニチントランスカルバミラーゼ)、クラッベ病(ガラクトセレブロシダーゼ)、バッテン病、SCA1、SCA2およびSCA3を含む脊髄性大脳性運動失調症(spinal cerebral ataxias)、フェニルケトン尿症(フェニルアラニンヒドロキシラーゼ)、自己免疫疾患などが含まれるがこれらに限定されない。本発明はさらに、移植の成功率を増加させるためおよび/または臓器移植もしくは補助療法の負の副作用を低下させるために、臓器移植後に使用され得る(例えば、サイトカイン生成を遮断するために免疫抑制剤または阻害核酸を投与することによって)。別の例として、骨形態形成タンパク質(BNP2、7など、RANKLおよび/またはVEGFを含む)が、例えば、がん患者における破壊(break)または外科的除去後に、骨同種移植片と共に投与され得る。
本発明は、誘導多能性幹細胞(iPS)を生成するためにも使用され得る。例えば、本発明のウイルスベクターは、例えば成人線維芽細胞、皮膚細胞、肝臓細胞、腎細胞、脂肪細胞、心臓細胞、神経細胞、上皮細胞、内皮細胞などの非多能性細胞中に、幹細胞関連核酸(複数可)を送達するために使用され得る。幹細胞に関連する因子をコードする核酸は、当該分野で公知である。かかる幹細胞および多能性に関連する因子の非限定的な例には、Oct−3/4、SOXファミリー(例えば、SOX1、SOX2、SOX3および/またはSOX15)、Klfファミリー(例えば、Klf1、Klf2、Klf4および/またはKlf5)、Mycファミリー(例えば、C−myc、L−mycおよび/またはN−myc)、NANOGおよび/またはLIN28が含まれる。
本発明は、癲癇、脳卒中、外傷性脳損傷、認知障害、行動障害、精神障害、ハンチントン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、および軸索/ニューロン再生もしくは修復から利益を得うるまたは軸索/ニューロン再生もしくは修復を必要とし得る任意の他の神経変性状態を治療および/または予防するためにも実施され得る。
特定の実施形態では、本発明は、例えば、幹細胞分化因子および再プログラム因子、例えば、FoxJ1、Fox2、NeuroD2、NG2もしくはOlig2および/またはmicroRNA、例えば、miR−137、MiR124、ならびにニューロンの発生および分化に関与する任意の他の因子またはmiRNAの標的化調節または過剰発現によって、軸索再生およびニューロン修復を促進し、回路を再建し、ならびに/または失われたニューロンを矯正療法として補充するために、実施され得る。
遺伝子移入は、疾患状態のための療法を理解および提供するためのかなり有望な用途を有する。欠損した遺伝子が既知でありクローニングされている多数の遺伝性疾患が存在する。一般に、上記疾患状態は2つのクラスに入る:(劣性様式で一般に遺伝する、多くは酵素の)欠乏状態、および(調節タンパク質または構造タンパク質が関与し得、典型的には優性様式で遺伝する)バランスを欠いた状態。欠乏状態の疾患について、遺伝子移入は、補充療法のために罹患組織中に正常な遺伝子をもたらすため、ならびにアンチセンス変異を使用して疾患の動物モデルを創出するために使用され得る。バランスを欠いた疾患状態について、遺伝子移入は、モデル系において疾患状態を創出するために使用され得、このモデル系は次いで疾患状態に対抗するための試みにおいて使用され得る。従って、本発明に従うウイルスベクターは、遺伝疾患の治療および/または予防を可能にする。
本発明に従うウイルスベクターは、機能的RNAをインビトロまたはインビボで細胞に提供するためにも使用され得る。細胞における機能的RNAの発現は、例えば、細胞による特定の標的タンパク質の発現を減殺し得る。従って、機能的RNAは、それを必要とする対象において特定のタンパク質の発現を減少させるために投与され得る。機能的RNAはまた、遺伝子発現および/または細胞生理学を調節するため、例えば、細胞もしくは組織培養系を最適化するために、またはスクリーニング方法において、インビトロで細胞に投与され得る。
さらに、本発明に従うウイルスベクターは、診断方法およびスクリーニング方法において用途を見出し、それにより、対象の核酸が、細胞培養系において、あるいはトランスジェニック動物モデルにおいて、一過的にまたは安定に発現される。
本発明のウイルスベクターは、当業者に明らかなように、遺伝子の標的化、クリアランス、転写、翻訳などを評価するためのプロトコールにおける使用が含まれるがこれらに限定されない種々の非治療的目的のためにも使用され得る。ウイルスベクターは、安全性(伝播、毒性、免疫原性など)を評価する目的のためにも使用され得る。かかるデータは、例えば、臨床的有効性の評価の前に、通常の承認プロセスの一部として、米国食品医薬品局によって検討される。
さらなる態様として、本発明のウイルスベクターは、対象において免疫応答を生成するために使用され得る。この実施形態によれば、免疫原性ポリペプチドをコードする異種核酸配列を含むウイルスベクターが対象に投与され得、その免疫原性ポリペプチドに対する能動免疫応答が、対象によって開始される。免疫原性ポリペプチドは、本明細書中で上記したとおりである。いくつかの実施形態では、防御免疫応答が惹起される。
あるいは、ウイルスベクターは、エクスビボで細胞に投与され得、変更された細胞が対象に投与される。異種核酸を含むウイルスベクターが細胞中に導入され、その細胞が対象に投与され、ここで、免疫原をコードする異種核酸が発現され得、対象においてその免疫原に対する免疫応答を誘導し得る。特定の実施形態では、細胞は抗原提示細胞(例えば、樹状細胞)である。
「能動免疫応答」または「能動免疫」は、「免疫原との遭遇後の宿主組織および細胞の関与」を特徴とし、「これは、抗体の合成もしくは細胞媒介反応性の発生またはそれら両方を導く、リンパ細網組織における免疫担当細胞の分化および増殖に関与する。」Herbert B.Herscowitz、Immunophysiology:Cell Function and Cellular Interactions in Antibody Formation、IMMUNOLOGY:BASIC PROCESSES 117(Joseph A.Bellanti編、1985)。代替的に述べると、能動免疫応答は、感染またはワクチン接種による免疫原への曝露後に宿主によって開始される。能動免疫は受動免疫と対比され得、受動免疫は、「能動免疫された宿主から非免疫宿主への、予め形成された物質(抗体、トランスファー因子、胸腺移植片、インターロイキン−2)の移入」を介して達成される(同文献)。
「防御」免疫応答または「防御」免疫は、本明細書中で使用される場合、疾患の発生率を予防するまたは低下させるという点で、免疫応答が対象にいくらかの利益を付与することを示す。あるいは、防御免疫応答または防御免疫は、疾患、特にがんまたは腫瘍の治療および/または予防において有用であり得る(例えば、がんまたは腫瘍の形成を予防することによって、がんまたは腫瘍の退縮を引き起こすことによって、および/あるいは転移を予防することによって、および/あるいは転移性小結節の増殖を予防することによって)。防御効果は、治療の利益がその任意の不利益を上回る限り、完全でも部分的でもよい。
特定の実施形態では、異種核酸を含むウイルスベクターまたは細胞は、以下に記載される免疫原的有効量で投与され得る。
本発明のウイルスベクターは、1つまたは複数のがん細胞抗原(または免疫学的に類似の分子)あるいはがん細胞に対する免疫応答を生成する任意の他の免疫原を発現するウイルスベクターの投与によるがん免疫療法のためにも投与され得る。説明するために、例えば、がんを有する患者を治療するために、および/または、対象においてがんの発生を予防するために、がん細胞抗原をコードする異種核酸を含むウイルスベクターを投与することによって、対象においてがん細胞抗原に対する免疫応答が生成され得る。ウイルスベクターは、本明細書中で記載されるように、インビボでまたはエクスビボ方法を使用することによって対象に投与され得る。あるいは、がん抗原は、ウイルスカプシドの一部として発現され得るか、またはウイルスカプシドと他の方法で関連し得る(例えば、上記されるように)。
別の代替方法として、当該分野で公知の任意の他の治療的核酸(例えば、RNAi)またはポリペプチド(例えば、サイトカイン)が、がんを治療および/または予防するために投与され得る。
本明細書中で使用する場合、用語「がん」は、腫瘍形成がんを包含する。同様に、用語「がん性組織」は腫瘍を包含する。「がん細胞抗原」は腫瘍抗原を包含する。
用語「がん」は、当該分野で理解される意味を有し、例えば、身体の離れた部位に伝播する能力を有する組織の制御されない増殖(即ち、転移)である。例示的ながんには、メラノーマ、腺癌腫、胸腺腫、リンパ腫(例えば、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫)、肉腫、肺がん、肝臓がん、結腸がん、白血病、子宮がん、乳がん、前立腺がん、卵巣がん、子宮頚がん、膀胱がん、腎臓がん、膵臓がん、脳がんならびに現在公知のまたは後に同定される任意の他のがんまたは悪性状態が含まれるが、これらに限定されない。代表的実施形態では、本発明は、腫瘍形成がんを治療および/または予防する方法を提供する。
用語「腫瘍」もまた、例えば、多細胞生物内の未分化細胞の異常な塊として、当該分野で理解される。腫瘍は悪性または良性であり得る。代表的実施形態では、本明細書中に開示される方法は、悪性腫瘍を予防および治療するために使用される。
用語「がんを治療する」、「がんの治療」および等価な用語は、がんの重症度が低下されもしくは少なくとも部分的に排除されること、ならびに/または疾患の進行が減速されるおよび/もしくは制御されること、ならびに/または疾患が安定化されることを意図する。特定の実施形態では、これらの用語は、がんの転移が予防もしくは低下もしくは少なくとも部分的に排除されること、ならびに/または転移性小結節の増殖が予防もしくは低下もしくは少なくとも部分的に排除されることを示す。
用語「がんの予防」または「がんを予防する」および等価な用語は、その方法が、がんの発症の発生率および/または重症度を、少なくとも部分的に排除または低下および/または遅延させることを意図する。代替的に述べると、対象におけるがんの発症は、尤度もしくは確率において低下され得る、および/または遅延され得る。
特定の実施形態では、細胞は、がんを有する対象から取り出され得、本発明に従うがん細胞抗原を発現するウイルスベクターと接触され得る。次いで、改変された細胞が対象に投与され、それにより、がん細胞抗原に対する免疫応答が惹起される。この方法は、インビボで充分な免疫応答を開始できない(即ち、充分な量で促進抗体を生成できない)易感染性対象と共に有利に使用され得る。
免疫応答は、免疫調節性サイトカイン(例えば、α−インターフェロン、β−インターフェロン、γ−インターフェロン、ω−インターフェロン、τ−インターフェロン、インターロイキン−1α、インターロイキン−1β、インターロイキン−2、インターロイキン−3、インターロイキン−4、インターロイキン5、インターロイキン−6、インターロイキン−7、インターロイキン−8、インターロイキン−9、インターロイキン−10、インターロイキン−11、インターロイキン12、インターロイキン−13、インターロイキン−14、インターロイキン−18、B細胞増殖因子、CD40リガンド、腫瘍壊死因子−α、腫瘍壊死因子−β、単球走化性因子タンパク質−1、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子およびリンホトキシン)によって増強され得ることが、当該分野で公知である。従って、免疫調節性サイトカイン(好ましくは、CTL誘導性サイトカイン)が、ウイルスベクターと合わせて対象に投与され得る。
サイトカインは、当該分野で公知の任意の方法によって投与され得る。外因性サイトカインが対象に投与され得るか、あるいはサイトカインをコードする核酸が適切なベクターを使用して対象に送達され得、サイトカインがインビボで生成され得る。
<対象、医薬製剤および投与様式>
本発明に従うウイルスベクターおよびカプシドは、獣医学適用および医療適用の両方において用途を見出す。適切な対象には、トリおよび哺乳動物の両方が含まれる。用語「トリ」には、本明細書中で使用する場合、ニワトリ、アヒル、ガチョウ、ウズラ、シチメンチョウ、キジ、オウム、インコなどが含まれるがこれらに限定されない。用語「哺乳動物」には、本明細書中で使用する場合、ヒト、非ヒト霊長類、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ネコ、イヌ、ウサギなどが含まれるがこれらに限定されない。ヒト対象には、新生児、乳幼児、若年、成人および老人の対象が含まれる。
代表的実施形態では、対象は、本発明の方法「を必要とする」。
特定の実施形態では、本発明は、薬学的に許容される担体中に本発明のウイルスベクターおよび/またはカプシドを含み、任意選択的に、他の薬剤、医薬品、安定化剤、緩衝剤、担体、補助剤、希釈剤などを含む、医薬組成物を提供する。注射について、担体は典型的には液体である。他の投与方法について、担体は固体または液体のいずれかであり得る。吸入投与について、担体は呼吸用であり、任意選択的に、固体または液体の粒状形態であり得る。
「薬学的に許容される」とは、毒性でなくその他の点でも望ましくない材料、即ち、その材料が、望ましくない生物学的影響をいずれも引き起こすことなしに対象に投与され得ることを意味する。
本発明の一態様は、核酸をインビトロで細胞に移入する方法である。ウイルスベクターは、特定の標的細胞に適した標準的な形質導入法に従って、適切な感染多重度で細胞中に導入され得る。投与するウイルスベクターの力価は、標的細胞の型および数、ならびに特定のウイルスベクターに依存して変動し得、過度の実験なしに当業者によって決定され得る。代表的実施形態では、少なくとも約103感染単位、任意選択的に少なくとも約105感染単位が、細胞に導入される。
ウイルスベクターが導入される細胞(複数可)は、任意の型の細胞であり得、神経細胞(末梢神経系および中枢神経系の細胞、特に、ニューロンおよびオリゴデンドロサイト(oligodendricyte)などの脳細胞が含まれる)、肺細胞、眼の細胞(網膜細胞、網膜色素上皮および角膜細胞が含まれる)、上皮細胞(例えば、腸および呼吸器の上皮細胞)、筋細胞(例えば、骨格筋細胞、心筋細胞、平滑筋細胞および/または横隔膜筋細胞)、樹状細胞、膵臓細胞(膵島細胞が含まれる)、肝細胞、心筋細胞、骨細胞(例えば、骨髄幹細胞)、造血幹細胞、脾臓細胞、ケラチノサイト、線維芽細胞、内皮細胞、前立腺細胞、生殖細胞などが含まれるがこれらに限定されない。代表的実施形態では、細胞は任意の前駆細胞であり得る。さらなる可能性として、細胞は幹細胞(例えば、神経幹細胞、肝臓幹細胞)であり得る。なおさらなる代替として、細胞はがん細胞または腫瘍細胞であり得る。さらに、細胞は、上で示したような任意の種起源であり得る。
ウイルスベクターは、改変された細胞を対象に投与する目的のために、インビトロで細胞中に導入され得る。特定の実施形態では、細胞は、対象から取り出されたものであり、ウイルスベクターがその細胞に導入され、次いで、その細胞が対象中に戻し投与される。エクスビボでの操作のために対象から細胞を取り出し、その後、対象中に戻し導入する方法は、当該分野で公知である(例えば、米国特許第5,399,346号を参照のこと)。あるいは、組換えウイルスベクターは、ドナー対象由来の細胞中に、培養細胞中に、または任意の他の適切な供給源由来の細胞中に導入され得、この細胞が、それを必要とする対象(即ち、「レシピエント」対象)に投与される。
エクスビボ核酸送達に適した細胞は上記のとおりである。対象に投与する細胞の投薬量は、対象の年齢、状態および種、細胞の型、細胞が発現する核酸、投与様式などに応じて変動する。典型的には、少なくとも約102〜約108細胞または少なくとも約103〜約106細胞が、1投薬当たり薬学的に許容される担体中で投与される。特定の実施形態では、ウイルスベクターで形質導入された細胞は、医薬担体と組み合わせて、治療有効量または予防有効量で対象に投与される。
いくつかの実施形態では、ウイルスベクターが細胞中に導入され、その細胞が、送達されたポリペプチド(例えば、導入遺伝子として発現されたまたはカプシド中の)に対する免疫原性応答を惹起するために、対象に投与され得る。典型的には、免疫原的有効量のポリペプチドを発現する細胞の量が、薬学的に許容される担体と組み合わせて投与される。「免疫原的有効量」は、医薬製剤が投与される対象において、そのポリペプチドに対する能動免疫応答を誘起するのに充分な、発現されたポリペプチドの量である。特定の実施形態では、投薬量は、防御免疫応答(上で定義した)を生成するのに充分である。免疫原性ポリペプチドを投与することの利益がその任意の不利益を上回る限り、付与される保護の程度は、完全または永続的である必要はない。
本発明のさらなる態様は、ウイルスベクターおよび/またはウイルスカプシドを対象に投与する方法である。それを必要とするヒト対象または動物への、本発明に従うウイルスベクターおよび/またはカプシドの投与は、当該分野で公知の任意の手段によってであり得る。任意選択的に、ウイルスベクターおよび/またはカプシドは、薬学的に許容される担体中で、治療有効用量または予防有効用量で送達される。
本発明のウイルスベクターおよび/またはカプシドはさらに、(例えば、ワクチンとして)免疫原性応答を惹起するために投与され得る。典型的には、本発明の免疫原性組成物は、薬学的に許容される担体と組み合わせて、免疫原的有効量のウイルスベクターおよび/またはカプシドを含む。任意選択的に、投薬量は、防御免疫応答(上で定義した)を生成するのに充分である。免疫原性ポリペプチドを投与することの利益がその任意の不利益を上回る限り、付与される保護の程度は、完全または永続的である必要はない。対象および免疫原は上記のとおりである。
対象に投与されるウイルスベクターおよび/またはカプシドの投薬量は、投与様式、治療および/または予防される疾患または状態、個々の対象の状態、特定のウイルスベクターまたはカプシド、ならびに送達される核酸などに依存し、慣用的な様式で決定され得る。治療効果を達成するための例示的な用量は、少なくとも約105、106、107、108、109、1010、1011、1012、103、1014、1015形質導入単位、任意選択的に約108〜1013形質導入単位の力価である。
特定の実施形態では、1回より多い投与(例えば、2回、3回、4回またはそれ以上の投与)が、例えば、毎日、週1回、月1回、年1回などの種々の間隔の期間にわたって、所望のレベルの遺伝子発現を達成するために使用され得る。
例示的な投与様式には、経口、直腸、経粘膜、鼻腔内、吸入(例えば、エアロゾルを介して)、頬側(例えば、舌下)、膣、髄腔内、眼内、経皮、子宮内(または胚内)、非経口(例えば、静脈内、皮下、皮内、筋内[骨格筋、横隔膜筋および/または心筋への投与が含まれる]、皮内、胸膜内、脳内および関節内)、外用(例えば、気道表面を含む皮膚表面および粘膜表面の両方への、ならびに経皮投与)、リンパ内など、ならびに直接的な組織または臓器への注射(例えば、肝臓、骨格筋、心筋、横隔膜筋または脳への)が含まれる。投与は、腫瘍への投与であり得る(例えば、腫瘍またはリンパ節の中または近傍)。任意の所与の場合における最も適切な経路は、治療および/または予防される状態の性質および重症度、ならびに使用されている特定のベクターの性質に依存する。
標的組織への送達は、ウイルスベクターおよび/またはカプシドを含むデポーを送達することによっても達成され得る。代表的実施形態では、ウイルスベクターおよび/またはカプシドを含むデポーは、骨格筋、心筋および/または横隔膜筋組織中に移植され、あるいは組織が、ウイルスベクターおよび/またはカプシドを含むフィルムまたは他のマトリックスと接触され得る。かかる移植可能なマトリックスまたは基材は、米国特許第7,201,898号中に記載されている。
特定の実施形態では、本発明に従うウイルスベクターおよび/またはウイルスカプシドは、(例えば、筋ジストロフィー、心臓疾患[例えば、PADまたはうっ血性心不全]を治療および/または予防するために)骨格筋、横隔膜筋および/または心筋に投与される。
本発明は、全身送達のためのアンチセンスRNA、RNAiまたは他の機能的RNA(例えば、リボザイム)を生成するためにも実施され得る。
注射剤は、液体溶液もしくは懸濁液、注射の前に液体中で溶液もしくは懸濁液にするのに適した固体形態、または乳濁液のいずれかとして、従来の形態で調製され得る。あるいは、本発明のウイルスベクターおよび/またはウイルスカプシドを、全身様式ではなく局所様式で、例えば、デポー製剤または徐放性製剤で、投与し得る。さらに、ウイルスベクターおよび/またはウイルスカプシドは、外科的に移植可能なマトリックスに付着して送達され得る(例えば、米国公開公報US−2004−0013645−A1号に記載される)。
ウイルスベクターおよびウイルスカプシドは、CNSの組織(例えば、脳、眼)に投与され得、本発明の非存在下で観察されるものよりも広い分布のウイルスベクターまたはカプシドを有利に生じ得る。
特定の実施形態では、本発明の送達ベクターは、遺伝性障害、神経変性障害、精神障害および腫瘍を含むCNSの疾患を治療するために投与され得る。
CNSの例示的疾患には、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、カナバン病、リー病、レフサム病、トゥレット症候群、原発性側索硬化症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、進行性筋萎縮症、ピック病、筋ジストロフィー、多発性硬化症、重症筋無力症、ビンスワンガー病、脊髄および/または頭部の損傷に起因する外傷(例えば、外傷性脳損傷)、テイ・サックス病、レッシュ・ナイハン病(Lesch−Nyan disease)、癲癇、脳卒中、脳梗塞、気分障害(例えば、うつ病、双極性感情障害、持続性感情障害、二次的気分障害)、統合失調症、薬物依存性(例えば、アルコール依存症および他の物質の依存性)、神経症(例えば、不安症、強迫障害、身体表現性障害、解離性障害、悲嘆、産後うつ病)、精神病(例えば、幻覚および妄想)、認知症、パラノイア、注意欠陥障害、精神性的障害、軸索/ニューロン再生および/もしくは修復から利益を得ることができるまたは軸索/ニューロン再生および/もしくは修復を必要とし得る任意の神経変性状態、認知障害、行動障害、睡眠障害、疼痛性障害、摂食障害または体重障害(例えば、肥満症、悪液質、神経性食欲不振症および過食症(bulemia))を含む精神障害、ならびにCNSのがんおよび腫瘍(例えば、原発性腫瘍)が含まれるがこれらに限定されない。
CNSの障害には、網膜、後方路(posterior tract)および視神経に関与する眼科障害(例えば、網膜色素変性症、糖尿病性網膜症および他の網膜変性疾患、ぶどう膜炎、加齢性黄斑変性症、緑内障)が含まれる。
全部ではないが殆どの眼科の疾患および障害は、3つの型の指標のうち1つまたは複数と関連する:(1)血管新生、(2)炎症および(3)変性。本発明の送達ベクターは、抗血管新生因子;抗炎症性因子;細胞変性を遅延させ、細胞温存(sparing)を促進し、または細胞増殖を促進する因子、および上述の組み合わせを送達するために使用され得る。
例えば、糖尿病性網膜症は、血管新生によって特徴付けられる。糖尿病性網膜症は、眼内(例えば、硝子体中)または眼窩周囲(例えば、テノン下領域中)のいずれかに、1つまたは複数の抗血管新生因子を送達することによって治療され得る。1つまたは複数の神経栄養因子もまた、眼内(例えば、硝子体内)または眼窩周囲のいずれかに同時送達され得る。
ぶどう膜炎は炎症に関与する。1つまたは複数の抗炎症因子が、本発明の送達ベクターの眼内(例えば、硝子体または前房)投与によって投与され得る。
比較として、網膜色素変性症は、網膜変性によって特徴付けられる。代表的実施形態では、網膜色素変性症は、1つまたは複数の神経栄養因子をコードする送達ベクターの眼内(例えば、硝子体投与)によって治療され得る。
加齢性黄斑変性症は、血管新生および網膜変性の両方に関与する。この障害は、1つまたは複数の神経栄養因子をコードする本発明の送達ベクターを眼内(例えば、硝子体)に、および/あるいは1つまたは複数の抗血管新生因子をコードする本発明の送達ベクターを眼内または眼窩周囲(例えば、テノンのう下領域中)に投与することによって、治療され得る。
緑内障は、眼圧の増加および網膜神経節細胞の喪失によって特徴付けられる。緑内障の治療には、本発明の送達ベクターを使用して興奮毒性損傷から細胞を保護する1つまたは複数の神経保護剤の投与が含まれる。かかる薬剤には、眼内に、任意選択的に硝子体内に送達される、N−メチル−D−アスパラギン酸(NMDA)アンタゴニスト、サイトカインおよび神経栄養因子が含まれる。
他の実施形態では、本発明は、発作を治療するため、例えば、発作の発症、発生率または重症度を低下させるために使用され得る。発作の治療的処置の効力は、行動的手段(例えば、眼または口の震え、チック(tick))および/または電気記録手段(殆どの発作は、顕著な電気記録の異常を有する)によって評価され得る。従って、本発明は、経時的な複数の発作を特徴とする癲癇を治療するためにも使用され得る。
1つの代表的実施形態では、ソマトスタチン(またはその活性断片)が、下垂体腫瘍を治療するために、本発明の送達ベクターを使用して脳に投与される。この実施形態によれば、ソマトスタチン(またはその活性断片)をコードする送達ベクターは、微量注入によって下垂体中に投与される。同様に、かかる治療は、先端巨大症(下垂体からの異常な成長ホルモン分泌)を治療するために使用され得る。ソマトスタチンの核酸(例えば、GenBank受託番号J00306)およびアミノ酸(例えば、GenBank受託番号P01166;プロセシングされた活性ペプチドソマトスタチン−28およびソマトスタチン−14を含む)配列は、当該分野で公知である。
特定の実施形態では、ベクターは、米国特許第7,071,172号に記載された分泌シグナルを含み得る。
本発明の代表的実施形態では、ウイルスベクターおよび/またはウイルスカプシドは、CNSに(例えば、脳にまたは眼に)投与される。ウイルスベクターおよび/またはカプシドは、脊髄、脳幹(延髄、脳橋)、中脳(視床下部、視床、視床上部、下垂体、黒質、松果体)、小脳、終脳(線条体、後頭葉皮質、側頭葉皮質、頭頂葉皮質および前頭葉皮質、基底核、海馬ならびに扁桃体(portaamygdala)を含む大脳)、辺縁系、新皮質、線条体、大脳および下丘中に導入され得る。ウイルスベクターおよび/またはカプシドは、網膜、角膜および/または視神経などの眼の異なる領域にも投与され得る。
ウイルスベクターおよび/またはカプシドは、送達ベクターのより分散した投与のために、脳脊髄液中に(例えば、腰椎穿刺によって)送達され得る。ウイルスベクターおよび/またはカプシドはさらに、血液脳関門が撹乱された状況(例えば、脳腫瘍または脳梗塞)において、CNSに血管内投与され得る。
このウイルスベクターおよび/またはカプシドは、脳室内、大槽内、脳実質内、頭蓋内、髄腔内、眼内、脳内、脳室内、静脈内(例えば、マンニトールなどの糖の存在下)、鼻腔内、耳内、眼内(例えば、硝子体内、網膜下、前房)および眼窩周囲(例えば、テノン下領域)送達、ならびに運動ニューロンへの逆行性送達と合わせた筋内送達が含まれるがこれらに限定されない当該分野で公知の任意の経路によって、CNSの所望の領域(複数可)に投与され得る。
特定の実施形態では、ウイルスベクターおよび/またはカプシドは、CNS中の所望の領域または区画への直接的注射(例えば、定位注射)によって、液体製剤で投与される。他の実施形態では、ウイルスベクターおよび/またはカプシドは、所望の領域への外用適用によって、またはエアロゾル製剤の鼻腔内投与によって提供され得る。眼への投与は、液滴の外用適用によるものであり得る。さらなる代替として、ウイルスベクターおよび/またはカプシドは、固体の持続放出製剤として投与され得る(例えば、米国特許第7,201,898号を参照のこと)。
なおさらなる実施形態では、ウイルスベクターは、運動ニューロンに関与する疾患および障害(例えば、筋萎縮性側索硬化症(ALS);脊髄性筋萎縮症(SMA)など)を治療および/または予防するための逆行性輸送に使用され得る。例えば、ウイルスベクターは、筋肉組織に送達され得、そこからニューロン中に移動し得る。
本発明を説明してきたが、同内容は以下の実施例においてさらに詳細に説明され、以下の実施例は、本発明の説明目的のためだけに本明細書中に含まれるものであり、本発明を限定する意図ではない。
[実施例1]
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、脳脊髄液(CSF)流動を利用し、軸索輸送経路を乗っ取ることによって中枢神経系(CNS)中に伝播すると考えられる。これらのプロセスを媒介する宿主受容体の役割は、十分に理解されていない。ここで、本発明者らは、新生児脳におけるAAV血清型4の輸送およびトロピズムの新規調節因子として、胚神経新生の不可欠なマーカー、ポリシアル酸(PSA)を報告する。具体的には、本発明者らは、シアル酸(SA)からポリシアル酸(PSA)への受容体特異性の切り替えを示す、研究室由来のAAV4変異体を記載する。新生児マウス脳の側脳室中への頭蓋内注射の際に、本発明者らは、吻側移動経路(migratory stream)および嗅球において、2,3−結合型SA+上衣裏層(ependymal lining)から2,8−結合型PSA+の移動中の前駆体への、ウイルストロピズムにおける著しいシフトを観察した。さらに、この機能獲得型表現型は、傍血管(paravascular)輸送経路を介したAAV4変異体の強固なCNS伝播と相関する。これらの観察と一致して、基質特異的ノイラミニダーゼを共投与することによって脳内のグリカンダイナミクスを変更させることは、AAV4および変異体ビリオンの両方の細胞トロピズムおよび形質導入効率に対する著しい変化を生じた。これらの研究は、宿主発生に関連するグリカンシグネチャーが、脳におけるウイルス輸送およびトロピズムを調節できることを示している。
ウイルスは、種々の機構を介してCNSに侵入する。本研究では、本発明者らは、発生中の脳におけるウイルス−炭水化物相互作用のダイナミクス、およびウイルストロピズムに対するその影響を研究するためのモデルとして、AAVを利用する。具体的には、本発明者らは、新生マウスの脳内の脳脊髄液腔中に異なるAAV株を投与した。受容体用法における切り替えを示す変異体ウイルスは、脳全体にわたって伝播するだけでなく、脳脊髄液を裏打ちする細胞から、移動中の前駆細胞へと再方向付けされる。特異的酵素を使用して脳の炭水化物内容を変更することは、ウイルスの伝播および細胞トロピズムに対する各受容体の示差的影響を確認する。これらの研究は、炭水化物が脳中で複数のレベルでウイルス感染を調節できるという見解を支持している。
ウイルスは、末梢神経終末の予備的感染に依存する種々の輸送経路を利用することによって、または循環白血球もしくは脳内皮細胞に感染することによって血液を介して、CNSに進入する。脳内での引き続く伝播は、軸索輸送および経シナプス伝播によって達成される。CNS中へのウイルス進入および引き続く定方向性輸送における重要なステップは、受容体としての特異的細胞表面膜糖タンパク質の認識である。例えば、ポリオウイルスは、受容体としてCD155を利用するが、アルファヘルペスウイルスは、CNS進入のためにネクチン−1を利用し、これらは共に、免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーである。いくつかの膜関連成分もまた、狂犬病ウイルスのCNS進入に関与している。かかる宿主膜タンパク質の結合の前に、ウイルスは、付着のために細胞表面グリカンに結合することが多い。ウイルス付着因子として利用されている最も多能な宿主グリカンの1つは、シアル酸(SA)のファミリーである。例えば、SA受容体は、レオウイルスおよびポリオーマウイルスの神経毒性に関与している。SA結合親和性をモジュレートすることは、マウスの微小ウイルス(MVM)の神経毒性株の病原性に影響することもまた示されている。
これまで、脳組織からの天然の単離体は報告されていないが、ヘルパー依存的パルボウイルスであるアデノ随伴ウイルス(AAV)は、異なる宿主において、頭蓋内または全身性投与後に、広いスペクトルのCNSトロピズムを示す。アストロサイトおよびグリアにもまた形質導入できるという例外はあるが、これらの研究において観察された異なるAAV株の細胞トロピズムは、主にニューロン性であった。それらのヘルパーウイルス、例えば、アデノウイルス科(Adenoviridae)またはヘルペスウイルス科(Herpesviridae)と同様に、AAV株は、CNS内で間質および軸索輸送を受ける。しかし、AAV輸送機構およびCNSトロピズムにおけるこの多様性の分子的基礎は、十分に理解されていない。この枠組みの中で、AAV単離体は、細胞表面付着のために3種の異なるグリカン、SA、ガラクトース(GAL)およびヘパラン硫酸(HS)を利用することが示されている。さらに、いくつかの増殖因子受容体およびインテグリンが、AAV細胞進入のために必須であると同定されている。本発明者らの研究室などは、マウスモデルにおいて、異なるAAV血清型の全身運命を決定することにおけるSAおよびGALの役割を最近実証した。
アフリカミドリザル単離体、AAV血清型4は、今日までに知られている進化的および構造的に最も異なる血清型の1つであり、新生児および成体マウスにおいて、脳室内(ICV)投与後に上衣裏層に対する選択的トロピズムを示す。さらに、脳室下帯中に直接注射されたAAV4粒子は、アストロサイトを形質導入して、RMS内でグリア管(glial tube)を形成できる。AAV4に対する機能的細胞表面付着因子は、O結合型α2,3−SA(ムチン)である。本発明者らは、マウスにおいて全身性投与後に、2,3−SAに対する減少した親和性および形質導入欠損表現型を示す新規AAV4変異体(AAV4.18)を以前に同定した。本研究では、本発明者らは、AAV4および研究室由来変異体株のCNS輸送および細胞トロピズムを差次的に調節する新規グリカンを同定する。上衣裏層に対する限定的なトロピズムを示すAAV4とは異なり、研究室由来のAAV4.18変異体は、脳実質の至る所に伝播し、新生児マウスにおいて片側ICV注射から吻側および尾側の方向で移動中の前駆体に選択的に感染できる。マウス脳におけるAAV4およびAAV4.18のさらなる生化学的特徴付けにより、神経新生の十分に確立されたマーカー、α2,3−結合型SAからα2,8−結合型ポリシアル酸(PSA)への受容体特異性における切り替えが確認された。
このAAV4.18変異体は、移動中の前駆体に対する拡張されたトロピズムを示す。SEZ中のニューロン前駆体は、RMSを介してOBへと移動することが公知であり、その場所で、それらは、発生過程および成体のげっ歯類の脳において顆粒および傍糸球体層の介在ニューロンへと分化する。注射の2週間後に画像化した出生後マウス脳の矢状切片の共焦点顕微鏡分析により、AAV4ベクターとAAV4.18ベクターとの間での形質導入の著しく異なるパターンが明らかになった。特に、AAV4.18注射マウスは、AAV4注射マウスと比較して、RMSおよびOB(それぞれ、約3および6倍の増加、n=4匹のマウス)領域において顕著により多いtdTom発現を示した。次いで、本発明者らは、移動中神経芽細胞マーカーダブルコルチン(Dcx)および増殖中細胞マーカーであるホスホヒストンH3(PH3)についての免疫染色を実施して、RMSおよびOB中の、tdTom発現と関連する細胞型を評価した。AAV4.18注射マウス脳中のRMSおよびOB内のtdTom+細胞は、AAV4注射脳と比較して、Dcx+細胞との有意に増加した共局在を示す。tdTom+発現とPH3+細胞との共局在の増加を示す同様の傾向が、4.18注射脳のRMSにおいて観察され、4.18注射脳のOBにおいてはより低いレベルまで観察された。これらの観察は、定量的および統計的分析によって実証された(図1;p<0.05)。RMSおよびOBにおけるこれらの著しい差異にもかかわらず、親株および変異体株の両方が、上衣下層(sub−ependymal zone)(SEZ)において類似の遺伝子発現(tdTom+)プロファイルを示した(図2)。具体的には、上衣細胞に対するマーカー(S100β)およびアストロサイトに対するマーカー(GFAP)を用いた免疫共局在研究により、AAV4およびAAV4.18の両方が、高い同様の効率で、上衣裏層中のS100β+およびGFAP+細胞に形質導入したことが明らかになった(図2)。類似の形質導入プロファイルおよび上衣トロピズムが、成体マウス脳において観察されたことに言及することも注目すべきである。
変異体AAV4.18ビリオンは、増強されたCNS伝播を示す。出生後CNS中の前駆体および神経芽細胞に対するAAV4.18の選択的トロピズムの基礎をなす機構を理解するために、本発明者らは、ICV注射後のマウス脳実質における各AAVベクターの分布を追跡した。これを達成するために、本発明者らは、新生児マウスにおいて、ICV注射を介して、チミジンアナログであるブロモデオキシウリジン(BrdU)で標識したゲノムをパッケージングしているAAVベクターを注射した。脳を、ベクター投与の2時間後の早期に回収し、抗BrdU抗体で免疫染色して、脳実質におけるAAVゲノムの体内分布を可視化した。AAV4注射マウスは、おそらくはCSF輸送に起因する、新生児脳のSEZにおける注射の部位の直ぐ近くおよび外髄膜(outer meninges)における強いBrdU染色を示す。対照的に、AAV4.18ベクターは、SEZ中だけでなく、脳実質を通じて、特に皮質領域においても、BrdU標識ウイルス粒子の顕著に拡散性の分布パターンを示す。内皮細胞マーカーCD31による脳切片の免疫染色分析により、マウス脳の皮質領域中のCD31+突起に沿って配置されたBrdU+AAV4.18ゲノムが明らかになった。対照的に、AAV4ゲノムは、皮質ではこの表現型を示さなかった。AAV4.18ゲノムの拡張された伝播にもかかわらず、内皮細胞との完全な共局在は観察されなかったことに留意すべきである。これは、移動中の前駆体に対する選択的トロピズムが、一部、新生児脳実質の至る所に伝播するAAV4.18の能力に帰する可能性があることを示唆している。
AAV4.18変異体による上衣形質導入は、シアル酸(SA)に部分的にのみ依存する。AAV4株および4.18株の差次的形質導入プロファイルを媒介するカプシド−受容体相互作用を精査するために、本発明者らは、P0マウス脳において、細胞表面シアログリカンから末端SAを酵素的に除去した。具体的には、酵素ノイラミニダーゼIIIは、末端2,3−結合型SAおよび2,6−結合型SAを切断し、前者は、親AAV4株に対する同族細胞付着因子である。マウス脳の細胞表面グリカン構造に対するこの処理の影響を評価するために、本発明者らは、O−結合型シアル酸部分に結合するフルオレセインイソチオシアネート(FITC)標識ジャカリンを用いて、矢状切片を免疫染色した。ICV投与の2週間後、ノイラミニダーゼ共注射は、AAV4注射マウスの上衣細胞および脈絡叢におけるtdTom発現を完全に抑止し、これは、これらの脳におけるジャカリン染色の喪失と相関する。この結果は、AAV4が、新生児マウス脳における形質導入のためにアルファ2,3−結合型シアル酸および/またはアルファ2,6−結合型シアル酸を利用することを示唆している。対照的に、上衣裏層のAAV4.18媒介性tdTom発現は、この選択的酵素処理によって部分的にのみ抑止される。本発明者らは、AAV4.18が、ジャカリン+染色が見られない場合に、上衣細胞に形質導入することをさらに観察した。これらの結果は、AAV4.18変異体が、新生児マウス脳中の上衣裏層および脈絡叢に形質導入するために、シアル酸非依存的機構を獲得した可能性があることを示している。
この変異体AAV4.18株は、神経新生バイオマーカーであるポリシアル酸(PSA)への、受容体特異性における切り替えを示す。ポリシアル酸化形態(PSA、アルファ2,8−結合型シアル酸)の神経細胞接着分子(NCAM)は、OB神経新生の間に、RMSの移動中の前駆細胞において発現される。PSA−NCAMは、嗅球先駆細胞の吻側移動を媒介することにおいて中心的な役割を果たし、PSAまたはNCAMのいずれかにおける欠乏症は、異常な嗅覚組織形成を生じる、SEZおよびRMSにおける前駆細胞の蓄積を引き起こす。上衣細胞から、移動中の神経芽細胞へのウイルストロピズムにおけるこの切り替えの基礎をなす可能性のある機構を精査するために、本発明者らは、新生児マウス脳のシアログリカン組成を選択的にモジュレートした。本発明者らは、2種の異なる酵素、ノイラミニダーゼIII(先に記載した)または2,8−結合型ポリシアル酸(PSA)を選択的に切断するエンドノイラミニダーゼ−Nの影響を比較した。未処理の対照と類似の様式で、ノイラミニダーゼIIIの共注射は、AAV4.18注射マウス脳中のRMSまたはOBにおけるtdTom+細胞とPSA−NCAM+細胞との間の共局在の程度を変更させなかった。対照的に、2,8−結合型PSAを切断するエンドノイラミニダーゼ−Nの共投与は、AAV4.18注射マウス脳におけるtdTomレポーター遺伝子発現の完全な喪失を生じた。この観察は、これらのマウスにおける移動中の前駆体連続体に沿ったPSA−NCAM染色の喪失によってさらに実証された。合わせると、これらの結果は、AAV4.18が、2,3−結合型SAから2,8−結合型PSAへのグリカン受容体特異性における切り替えを受けており、発生中の脳中の神経芽細胞を形質導入するために後者のグリカンを必要とするという見解を支持している。
AAV4.18ベクターの細胞トロピズムのさらなる特徴付けにより、RMSおよびOBにおける前駆体移動連続体に沿ったtdTom+細胞とPSA−NCAM免疫染色との間の明確な相関が明らかになった。見かけの共局在は、PSA−NCAM標識領域中の成熟ニューロンマーカーNeuNでは観察されなかったが、移動経路に沿ったいくつかのtdTom+細胞は、RMSおよびOBにおいてアストロサイトマーカーであるGFAPと共局在し、RC2/ネスチン免疫染色突起と密接に関連した。尾側方向におけるtdTom+移動前駆体の特徴付けは、同様の結果を生じた。従って、AAV4.18は、PSA−NCAM+の移動中神経芽細胞ならびにSEZ−RMS−OB連続体中のグリア管の周囲GFAP+網目構造内の細胞を潜在的に形質導入する能力を明らかに獲得している。
RMSおよびOBにおける親AAV4株と同様の評価により、ノイラミニダーゼIII処理ありまたはなしでの、移動中の前駆体の最小限の形質導入が明らかになった。対照的に、エンドノイラミニダーゼ−N処理は、RMSおよびOBにおいてAAV4.18形質導入を完全に抑止したが、親AAV4ビリオンは、RMSではなくOB中の細胞を形質導入する拡張された能力を示した。これらのマウス由来の矢状切片に対して実施した免疫共局在研究により、OB中のNeuN+細胞における有意な導入遺伝子発現(tdTom+)が示された。これらの結果は、2,8−結合型PSAがAAV4伝播を負に調節し、AAV4カプシド上の2,3−結合型SA結合部位について競合することによって形質導入を遮断するという見解を間接的に支持している。
AAVなどのパルボウイルスによる首尾よい感染には、細胞表面受容体結合、エンドサイトーシス取込み、カプシド脱コート、核進入およびゲノム放出、その後の第2鎖合成および引き続く転写を含む、一連の綿密に編成された事象が関与する。第1のステップ、即ち、宿主細胞表面へのパルボウイルス付着は、異なるグリカンによって媒介される。脳では、ヘパラン硫酸(HS)とのAAVカプシド相互作用は、特によく研究されている。一次受容体としてHSを利用するAAV血清型2の直接的な脳実質注射は、顕著にニューロン性の形質導入プロファイルを生じる。可溶性ヘパリンの共注射は、げっ歯類モデルにおける頭蓋内注射後にAAV2のCNS伝播を改善し、引き続いてその形質導入効率を改善することが示されている。HSに結合する能力はまた、AAV血清型6のCNS形質導入プロファイルを制限するようである。しかし、この効果は、カプシド表面上のリシン残基(K531)を変異させてHS結合を消失させることによって、一部逆転され得る。これらの初期の研究は、脳におけるウイルス伝播およびトロピズムを調節するグリカン発現パターンの能力を強調している。
本研究で、本発明者らは、新生児マウス脳中の移動中の前駆体を選択的に形質導入する新規AAV変異体を特徴付けた。この変異体は、ランダムに変異したAAV4カプシドライブラリーから元々発見され、SA結合欠損変異体として特徴付けられた。全身投与した場合、このAAV4.18変異体は、親AAV4血清型に対する同族受容体であるO−結合型2,3−SAに対する低い結合親和性に起因して、マウスにおいて減弱した心肺トロピズムを示す。新生児マウス脳では、天然単離体のAAV4は、脳室注射後に上衣細胞を排他的に形質導入する。興味深いことに、SEZ中に直接注射した場合、AAV4は、SVZ中のB型アストロサイトおよびRMSを覆うグリアを形質導入できる。ここで、本発明者らの研究は、この二者が、ICV投与後の上衣裏層への形質導入を制限する可能性が高い、AAV4カプシドの高いSA結合親和性から潜在的に生じることを示している。対照的に、低親和性AAV4.18変異体は、単回ICV注射後に、上衣障壁を貫通して脳実質中に入ることができ、移動中の神経芽細胞および増殖中の細胞に対して選択的に形質導入できる。マウス脳の遠位領域へのAAV4.18粒子の増強された伝播が、これらの領域内の成熟ニューロンの首尾よい形質導入を生じないことは注目に値する。むしろ、免疫組織化学的分析は、皮質に達するAAV4.18粒子が、内皮細胞に対して実際に形質導入することなく、脳微小血管系と密接に関連することを示唆している。この観察は、ウイルス粒子などの間質溶質が、静脈傍流出または「グリンパティック(glymphatic)」クリアランス経路を利用し得ることを示唆している。対応して、本発明者らは、SAにゆるく結合したAAV4.18粒子が、脳実質の増強された貫通をもたらす、白質索および血管周囲空間を介した間質液輸送によって影響される可能性がより高いと推論している。本発明者らは、基質特異的ノイラミニダーゼのICV注射による、マウス脳からの2,3−結合型SAまたは2,8−結合型SAの選択的酵素的除去の影響を評価することによって、これらの知見をさらに拡張させた。AAV4形質導入は、早期の処理によって完全に抑止されるが、上衣壁、脈絡叢中の細胞のサブセット、およびポリシアル酸化NCAMについて陽性に染色する移動中の前駆体のAAV4.18形質導入は、影響を受けないままである。2,8−結合型SAの選択的切断が、マウス脳におけるAAV4.18形質導入の完全な喪失をもたらしたとき、AAV4.18によるグリカン受容体用法におけるこの切り替えが明らかに実証された。合わせると、これらの結果は、AAV4.18が、脳実質の至る所に伝播できるだけでなく、PSA(2,8−結合型SA)を選択的に利用して、マウス前脳中の出生後の移動中前駆体を形質導入できるという見解を支持している。
AAV4.18粒子によって示される拡張された受容体用法および選択的細胞トロピズムは、単なる偶然ではない。アルファ2,8−結合型シアル酸の直鎖ホモポリマー(ポリシアル酸/PSA)は、胚および成体の神経新生において不可欠な役割を果たすことが周知である。脳の2つの領域、即ち、OBおよび海馬歯状回は、持続的に神経原性であり、げっ歯類において、成体期に至るまで一定の前駆体連鎖移動を受ける。成体神経新生と胚神経新生(neurogeneses)との間には複数の差異があるにもかかわらず、一貫したPSA−NCAM発現は、成体期を通じてこれら両方の領域において観察される特徴である。PSAの生化学的特性は、PSAを、細胞−細胞付着の強力な負の調節因子にしている。これは、神経新生の間の先駆細胞の首尾よい移動のために重要である。これは、潜在的に、PSA−NCAMが嗅覚神経新生の間にニューロン先駆細胞において高度に発現される理由である。さらに、エンドノイラミニダーゼ−N処理を使用するPSAの酵素的除去は、RMSを破壊し、皮質および線条体などの非特異的領域への神経芽細胞分散をもたらす。従って、AAV4.18による移動中の前駆体の選択的形質導入は、宿主生物の発生段階と共に変動し得るこの独自のグリカン付着因子の発現パターンに直接帰することができる。
PSAは、細胞培養物または静脈内投与後の心臓および肺などの全身性臓器などにおける、CNS以外の生理学的設定におけるAV4または関連変異体のトロピズムまたは形質導入効率に機能的に影響しないようである。発生中の脳は、この新規ウイルス−グリカン相互作用のための独自の設定を提供する可能性がある。第2に、AAV4および変異体ビリオンによるPSA認識を媒介する構造座標は未だ決定されていない。予備的構造モデリングにより、親AAV4株と比較して、AAV4.18変異体について変更された表面静電性が明らかになった。カプシド表面電荷密度の操作は、分岐鎖または直鎖の2,3−結合型SAグリカンに対する親和性を減少させ得るが、同時に、負に荷電したPSA糖ポリマー(glycopolymer)を認識する拡張された能力を与えると推測することは魅力的である。本発明者らの全体的なアプローチは、CNSにおけるウイルス−グリカン相互作用を変更させることの機能的意義、ウイルスニューロトロピズム(neurotropism)に対する、発生的に調節されるグリカン発現プロファイルの影響の理解を助け、同時に、脳における遺伝子移入適用のために特定のグリカン構造を好むようにウイルスを操作するためのロードマップを提供する。
組換えAAVベクター産生。組換えAAV4および変異体AAV4.18ベクターを、最新の三重プラスミドトランスフェクション法を使用して生成した。簡潔に述べると、これは、(a)pXR4ヘルパープラスミドまたは変異体pXR4.18ヘルパープラスミド;(b)アデノウイルスヘルパープラスミドpXX6−80;および(c)ニワトリベータアクチン(CBA)プロモーターによって駆動され、AAV2ゲノム由来の逆位末端反復(ITR)が隣接する、tdTomato(tdTom)レポーター遺伝子をコードするpTR−CBA−tdTomプラスミド、のトランスフェクションを伴った。ベクター精製を、セシウム勾配超遠心を使用して実施し、ウイルス力価を、CBAプロモーターのために設計したプライマー(IDT Technologies、Ames、IA)(フォワード、5’−CGT CAA TGG GTG GAG TAT TT−3’(配列番号34);リバース、5’−GCG ATG ACT AAT ACG TAG ATG−3’(配列番号35))と共にRoche Lightcycler(登録商標)480(Roche Applied Sciences、Pleasanton、CA)を使用して、定量的PCRによって得た。
チミジンアナログ5−ブロモ−2’−デオキシウリジン(BrdU)標識ゲノムをパッケージングするAAV粒子を生成するために、本発明者らは、改変されたベクター産生プロトコールを適応した。簡潔に述べると、三重プラスミドトランスフェクションの1時間後に、HEK293産生細胞を、培地1ml当たり10μgのBrdU(invitrogen、Camarillo、CA)の最終濃度の、BrdUおよび5−フルオロ−2’−デオキシウリジンの10:1モル濃度混合物で処理した。BrdU標識ゲノムをパッケージングするベクターを、上記のように精製および定量した。
脳室内(ICV)注射。全ての動物実験を、NIHガイドラインに従い、UNC実験動物委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)(IACUC)によって承認されたとおりに繁殖および維持したBalb/cマウスで実施した。新生児P0仔を、氷上に1分間配置することによる低体温と、その後の定位脳室内大脳注射とによって、迅速に麻酔した。26sゲージ針を備えたHamilton 700シリーズのシリンジ(Sigma−Aldrich、St.Louis、MO)を、KOPF−900小動物定位機器(KOPF instruments、Tujunga、CA)に取り付け、マウスに、CBA−tdTomレポーターカセットをパッケージングするAAV4またはAAV4.18ベクターの1×109粒子の用量(容量3μl)を、それらの左側脳室に片側注射した。発生中のマウス脳(P14)を回収し、事後固定し、以下に記載したように免疫染色した。ブロモデオキシウリジン(BrdU)標識ウイルスを追跡するために、5μLの容量中7.4×108のベクターゲノム含有粒子を、P0マウスの左側脳室中に注射した。新生児脳を、注射の2時間後に回収し、パラホルムアルデヒド中で事後固定し、切片化し、以下に記載したように免疫染色した。組換えシアリダーゼ共注射実験のために、ベクターを、5.2mUのノイラミニダーゼIII型(シアリダーゼ、Sigma−Aldrich、St.Louis、MO)または1.45Uのエンドノイラミニダーゼ−N(ABC Scientific、Los Angeles、CA)のいずれかと混合して、4.3μlの総注射容量にした。全ての新生児注射を、矢状静脈洞に対して0.5mm、横静脈洞に対して2mm吻側、および1.5mmの深さで実施した。ベクター投与後、マウスを、加熱ランプ下で甦生し、寝具中でこすり、その後母獣のもとに戻した。
組織処理、共焦点顕微鏡および免疫蛍光分析。2週齢のマウスを、過量のトリブロモエタノール(アバチン)(1.25%溶液10g当たり0.2ml)と、その後のPBS中4%のパラホルムアルデヒドの経心腔的灌流とによって屠殺した。脳を取り出し、24時間にわたって事後固定し、50μm厚切片を、Leica VT 1000S振動刃ミクロトーム(Leica VT 1000S、Leica Biosystems、IL)を使用して得た。自由浮遊脳切片を、PBS中10%のヤギ血清および1%のTriton X(Sigma−Aldrich、St.Louis、MO)中で1時間ブロッキングし、その後、一次モノクローナル抗体と共に4℃で一晩インキュベートした。以下の一次抗体、ウサギ抗S100β(Sigma、1:1000)、マウス抗GFAP(Abcam、1:1000)、モルモット抗Dcx(Abcam、1:1000)、ヤギ抗ホスホヒストンH3(Millipore、1:1000)、マウス抗BrdU(Invitrogen−033900、1:2500)、ウサギ抗NeuN(Abcam、1:750)、マウス抗PSA−NCAM(DSHB、1:750)およびマウス抗Rc2/ネスチン(DSHB、1:750)を利用した。二次抗体を、ヤギにおいて作製し、Alexa488またはAlexa647(Abcam、1:500)とコンジュゲートした。ジャカリン染色のために、FITC−ジャカリン中で、室温における1.5時間の自由浮遊マウス脳切片のインキュベーションを用いたブロッキングステップに従った(Vectorlabs、Burlingame、CA、1:40)。ジャカリンを、PBS−T中3%のヤギ血清中20μg/mlの作業濃度まで希釈した。免疫染色した脳切片を、Zeiss CLSM 700共焦点レーザー走査顕微鏡を使用して可視化し、Zen(登録商標)Blackソフトウェアを用いて分析した。tdTomatoレポーター発現と異なる細胞型特異的マーカーとの共局在(%)を、S100β/GFAP/Dcx/PH3+であった形質導入細胞(tdTom+)の数と、形質導入細胞(tdTom+)の総数との比率から導出した。細胞を、P14マウス脳中の上衣下層、吻側移動経路、嗅球または他の関連の領域における200μm2面積の非重複視野中で計数した。
[実施例2]
AAV4カプシド上の表面ループドメインを、脳室内注射後の脳において、ランダム変異誘発および選択のプロセスを介して、さらなる反復性の改変のために選択した。これらの第2世代変異体を、元の鋳型カプシドとしてAAV4.18を使用して生成した。従って、これらの変異体は、変異K492EおよびK503Eを少なくとも含む。いくつかの実施形態では、これらの変異体は、N585SまたはN585Rを含む、N585残基における異なるアミノ酸置換を含む。合計で数個の新たな第2世代変異体を、このプロセスを介して同定した。これらのクローンは、(i)AAV4.18と同程度(変異体6a、5a、5b)または(ii)より高い形質導入効率を有する拡張された前駆細胞トロピズム(変異体6b、6c)、として分類され得る細胞トロピズムを示した。
変異体のこのパネルは、上衣細胞、脈絡叢、吻側および尾側移動経路にある移動中の前駆体、嗅球、皮質ならびに海馬領域に選択的な、CNSにおける高効率の遺伝子移入のための試薬を提供する。これらにより、脳卒中、癲癇、神経変性、脳動静脈奇形、リソソーム蓄積症および他の疾患を含む種々のCNS適応症の遺伝子療法に利用可能な試薬のパネルへと、第1世代変異体AAV4.18が拡張される。表5は、CNS注射後の異なる変異体の結果をまとめる。緑色蛍光タンパク質(GFP)発現は、表中に記載されるスコアリング系によって示される。
上記は本発明の例示であり、本発明の限定として解釈すべきではない。本発明は、以下の特許請求の範囲によって規定され、特許請求の範囲の均等物が本明細書中に含まれる。
[配列]