以下に添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含むものである。
(第1実施形態)
本実施例に係る超音波検査装置1は、例えば、火力発電プラントに用いられた蒸気などの高温流体が流れる配管の溶接部の内部欠陥を検出する装置である。この配管の溶接部には、高クロム鋼が用いられる。高クロム鋼とは、例えば9〜12モル%のクロムを含むフェライト系の鋼である。すなわち、本実施形態においては、超音波検査装置1は、高クロム鋼で形成された部材を検査対象物100とし、さらに言えば、配管の溶接部を検査対象物100としている。なお、検査対象物100は、高クロム鋼であったり、配管の溶接部であったりすることに限られず、後述する内部欠陥X1及び再結晶組織X2が内部に生成する金属部材であればよい。
検査対象物100は、高温及び高圧下に晒されるため、クリープ現象などにより、内部欠陥X1が生じる場合がある。内部欠陥X1は、検査対象物100の内部に生じた欠陥であり、本実施形態では、例えば、長さが2mm以上の欠陥(亀裂や空孔などの空洞)である。検査対象物100は、この内部欠陥X1が生じることにより、強度が低下する。従って、検査対象物100は、例えばプラントの定期検査などで、内部欠陥X1が生じているかの非破壊検査を行う。超音波検査装置1は、超音波探傷により、この内部欠陥X1を検出する。
図1は、本実施形態に係る超音波検査装置の模式図である。図1に示すように、超音波検査装置1は、探触子10と、検出装置20とを有する。探触子10は、検査対象物100の表面に設置され、検査対象物100に向けて超音波、すなわち超音波信号Aを送信する。また、探触子10は、この超音波信号Aを検査対象物100の内部から反射した信号である反射信号Bを受信(検出)する。本実施形態においては、探触子10は、アレイ探触子であり、複数設けられている。検出装置20は、この探触子10の動作を制御し、また、反射信号Bを取得して、内部欠陥X1が生じているかを判定する。検出装置20の構成については後述する。
このように、超音波検査装置1は、探触子10によって検査対象物100に超音波信号Aを照射させ、探触子10によって反射信号Bを検出することにより、超音波検査、すなわち超音波探傷を実行する。本実施形態において、超音波検査装置1は、フェーズドアレイ法によって、超音波探傷を行う。すなわち、超音波検査装置1は、複数の探触子10を順番に電子走査(スキャン)して、超音波探傷を実行している。ただし、超音波検査装置1の超音波探傷の方法は、これに限られず任意であり、例えば開口合成法を用いてもよい。例えば、開口合成法として、FMC(Full Matrix Capture;フルマトリクスキャプチャ)やTFM(Total Focusing Method;トータルフォーカシングメソッド)で探傷を行ってもよい。また、スキャンの方式も任意であり、例えば扇形に超音波信号Aをスキャンするセクタスキャン、平行に超音波信号Aをスキャンするリニアスキャンなどを用いてよい。
図2は、超音波探傷の原理を説明するグラフである。図2の横軸は、時間であり、縦軸は、信号の強度である。図2に示す信号の波形は、説明のための一例である。図2に示すように、時刻t0において、探触子10から検査対象物100に超音波信号Aを照射すると、検査対象物100の内部欠陥X1の界面で超音波信号Aが反射される。そして、探触子10は、この内部欠陥X1から反射された反射信号Bを検出する。さらに、探触子10は、反射信号B以外にも、信号のノイズなども検出する。ただし、内部欠陥X1から反射された反射信号Bは、ノイズなどよりも強度が高い。従って、検出装置20は、探触子10が検出した信号のうち、強度がある程度高い信号を、反射信号Bであると判定する。図3の例では、時刻t2で検出信号Baが検出され、時刻t3で検出信号Bbが検出される。検出信号Baは、強度が低いものであるため、検出装置20は、反射信号であると判定しない。検出装置20は、強度がある程度高い(所定の閾値以上である)検出信号Bbを、反射信号Bと判断する。このように、検出装置20は、探触子10が検出した検出信号のうち、強度が所定の閾値以上である信号を、反射信号Bとして取得する。
ここで、検査対象物100は、内部に再結晶組織X2が析出する場合がある。再結晶組織X2は、検査対象物100内の周囲の組織と組成が異なる金属組織であり、本実施形態では、例えばδ−フェライトである。この再結晶組織X2は、内部欠陥X1と異なり、内部に金属が充填されている組織であるため、内部欠陥X1よりも、検査対象物100を破損に導くリスクが低い。一方、再結晶組織X2は、周囲と組成が異なるため、界面において超音波信号Aを反射する。この再結晶組織X2によって反射された信号も、強度がある程度高くなる(所定の強度値である検出閾値以上となる)。従って、検出装置20が取得した反射信号Bには、内部欠陥X1から反射された反射波に加えて、再結晶組織X2から反射された反射波が含まれる場合がある。この場合、取得した反射信号Bが、内部欠陥X1からのものか再結晶組織X2からのものかを区別することが困難となり、内部欠陥X1の検出精度が低下するおそれがある。このような問題に対し、本発明者は、内部欠陥X1からの反射波と再結晶組織X2からの反射波とを解析することで、それらの特性の違いを発見し、内部欠陥X1からの反射波と再結晶組織X2からの反射波とを区別する方法を想起した。なお、本実施形態における再結晶組織X2の長さは、例えば2mm以上である。
発明者は、内部欠陥X1(すなわち内部の空洞)からの反射波は、ピークの数が比較的少なく、さらに周波数毎のスペクトル信号に分解した場合に、スペクトル信号の波形が比較的なだらかであることを発見した。また、発明者は、再結晶組織X2(すなわち内部の異組織)からの反射波は、ピークの数が多く、さらに周波数毎のスペクトル信号に分解した場合に、スペクトル信号の曲線が急峻であることを発見した。
本実施形態に係る検出装置20は、この反射波の特性の差異に基づき、反射信号Bが、内部欠陥X1からのものであるか再結晶組織X2からのものであるかを判断して、超音波探傷における内部欠陥X1の検出精度の低下を抑制している。以下、検出装置20についてより詳細に説明する。
図3は、第1実施形態に係る検査装置の模式的なブロック図である。検出装置20は、本実施形態においては、コンピュータであり、図3に示すように、制御部22、入力部24、及び出力部26を有する。制御部22は、プロセッサ、ここではCPU(Central Processing Unit)である。入力部24は、例えばマウス、キーボード又はタッチパネルなどであり、操作者の入力を受け付け、制御部22に操作者の入力に応じた制御(動作)を実行させる。出力部26は、例えばディスプレイやタッチパネルなどであり、制御部22の動作結果を表示する。制御部22は、動作結果、ここでは内部欠陥X1を可視化した検査対象物100の画像データを、出力部26に出力する。出力部26は、この画像データを表示する。
また、制御部22は、探触子制御部30と、反射信号取得部32と、解析信号生成部33と、欠陥判定部34と、出力制御部36とを有する。探触子制御部30と反射信号取得部32と解析信号生成部33と欠陥判定部34とは、制御部22、すなわちプロセッサにより動作が実現されるソフトウェアであるが、例えばそれぞれが決められた処理を行う個別のプロセッサやハードウェアであってもよい。
探触子制御部30は、探触子10の動作を制御して、探触子10に超音波信号Aを照射させ、探触子10に反射信号Bを検出させる。反射信号取得部32は、探触子10が検出した反射信号Bを取得する。反射信号取得部32は、探触子10が検出した検出信号のうち、強度が所定の検出閾値以上である信号を、反射信号Bとして取得する。この反射信号Bは、反射信号B1と反射信号B2とのいずれかである。反射信号B1は、内部欠陥X1からの反射信号であり、反射信号B2は、再結晶組織X2からの反射信号である。ただし、反射信号Bは、内部欠陥X1からの反射信号と再結晶組織X2からの反射信号とが合成された波形の反射信号である場合もある。
解析信号生成部33は、反射信号取得部32が取得した反射信号Bを解析して、解析信号Cを生成する。解析信号Cは、反射信号Bを、周波数毎のスペクトル信号Dに分解した信号である。解析信号生成部33は、反射信号Bの波形に対してフーリエ解析を実行して、解析信号Cの波形を得る。
図4は、解析信号の生成を説明する模式図である。図4の左側のグラフは、反射信号Bの波形の一例であり、横軸が時間であり、縦軸が信号強度である。図4の右側のグラフは、解析信号Cの波形の一例であり、横軸が周波数であり、縦軸が信号強度である。図4に示すように、反射信号Bは、時間経過に伴ったピークPを複数含む波形となる。図5に示すように、解析信号Cは、反射信号Bを、周波数毎に複数のスペクトル信号Dに分解した波形となる。それぞれのスペクトル信号Dは、反射信号Bの、ある周波数における強度を示した信号である。スペクトル信号Dは、周波数に対するピークを、1つだけ有する波形となる。
発明者は、内部欠陥X1起因の反射信号B1から生成した解析信号C1は、スペクトル信号Dの数が少ないことを発見した。また、発明者は、解析信号C1に含まれるスペクトル信号Dは、波形がなだらかである、すなわちスペクトル信号Dの幅、よりくわしくは半値全幅(FWHM;Half Width at Half Maximum)が、比較的大きいことを見出した。また、発明者は、再結晶組織X2起因の反射信号B2から生成した解析信号C2は、スペクトル信号Dの数が多い(林状の波形である)ことを発見した。また、発明者は、解析信号C2に含まれるスペクトル信号Dは、波形が急峻である、すなわちスペクトル信号Dの幅、よりくわしくは半値全幅(FWHM;Half Width at Half Maximum)が、小さいことを見出した。
図3に示す欠陥判定部34は、反射信号BのピークPの数に基づき、その反射信号Bが、内部欠陥X1から反射されたもの(反射信号B1)であるか、再結晶組織X2から反射されたもの(反射信号B2)であるかを判定する。より詳しくは、本実施形態において、欠陥判定部34は、解析信号Cのデータを取得する。欠陥判定部34は、解析信号Cに含まれるスペクトル信号Dの数が、所定の閾値K0より少ない場合、その解析信号Cの基となった反射信号Bが、反射信号B1である、すなわち内部欠陥X1に起因すると判定する。また、欠陥判定部34は、解析信号Cに含まれるスペクトル信号Dの数が、所定の閾値K0以上である場合、その解析信号Cの基となった反射信号Bが、反射信号B1でない、すなわち内部欠陥X1に起因するものでないと判定する。さらに詳しくは、欠陥判定部34は、解析信号Cに含まれるスペクトル信号Dの数が、所定の閾値K0以上である場合、その解析信号Cの基となった反射信号Bが、反射信号B2である、すなわち再結晶組織X2に起因するものであると判定する。なお、閾値K0は、例えば3(すなわち閾値は信号の数が3つ)であるが、これに限られず、例えば、2以上5以下であってもよい。また、閾値K0は、設定により変更してもよく、例えば、同じ検査のタイミングで取得した複数の解析信号Cのスペクトル信号Dの数に応じて変更してもよい。例えば、複数の解析信号Cのスペクトル信号Dの平均値が、前回の検査や他の検査対象物100の検査での解析信号Cのスペクトル信号Dの平均値より高くなった場合に、閾値K0を大きくし、逆に低くなった場合に、閾値K0を小さくしてもよい。
図5は、内部欠陥起因の解析信号の波形の一例を示したグラフである。図6は、再結晶組織起因の解析信号の波形の一例を示したグラフである。図5に示すように、内部欠陥X1起因の解析信号C1は、図6に示す再結晶組織X2起因の解析信号C2よりも、含まれるスペクトル信号Dの数が少ない。図5及び図6に示すように、本実施形態においては、欠陥判定部34は、強度閾値K1を設定する。強度閾値K1は、任意の信号強度の値であってよいが、生成した解析信号Cの最大の強度(解析信号C中の、強度が一番高いスペクトル信号Dの強度)の値に対して、50%の値であることが好ましい。また、例えば、強度閾値K1は、生成した解析信号Cの最大の強度(すなわち強度が一番高いスペクトル信号Dの強度)の値に対して、30%以上70%以下であってもよい。
本実施形態においては、欠陥判定部34は、解析信号Cに含まれるスペクトル信号Dのうち、強度が強度閾値K1以上であるスペクトル信号Dの数が、所定の閾値K0より少ない場合、その解析信号Cの基となった反射信号Bが、反射信号B1であると判定する。また、欠陥判定部34は、強度が強度閾値K1以上であるスペクトル信号Dの数が、所定の閾値K0以上である場合、その解析信号Cの基となった反射信号Bが、反射信号B1でなく(内部欠陥X1に起因するものでなく)、反射信号B2である(再結晶組織X2に起因するものである)と判定する。
例えば、図5の例では、強度が強度閾値K1以上であるスペクトル信号Dの数は、1つであり、閾値K0(3つ)より小さい。従って、欠陥判定部34は、図5の解析信号Cが解析信号C1であり、それに対応する反射信号Bが、内部欠陥X1の反射信号B1であると判断する。また、図6の例では、強度が強度閾値K1以上であるスペクトル信号Dの数は、9つであり、閾値K0(3つ)以上である。従って、欠陥判定部34は、図6の解析信号Cが解析信号C2であり、それに対応する反射信号Bが、再結晶組織X2の反射信号B2であると判断する。
欠陥判定部34は、このようにして、反射信号Bが、内部欠陥X1によるものか再結晶組織X2によるものかを区別することで、内部欠陥X1の検出精度の低下を抑制している。
出力制御部36は、欠陥判定部34の判定結果を取得して、出力部26に判定結果を表示させる。出力制御部36は、反射信号Bに基づき、検査対象物100の画像データを生成し、反射信号B1を反射してきた箇所を、内部欠陥X1として表示させる。この場合、出力制御部36は、反射信号B1を反射してきた箇所を、内部欠陥X1として、周囲とは異なる輝度の領域として表示させてもよい。また、出力制御部36は、反射信号B2を反射してきた箇所を、内部欠陥X1として表示させず、例えば内部欠陥X1及び周囲とは異なる再結晶組織X2として(異なる輝度で)表示させる。また、出力制御部36は、反射信号B2を反射してきた箇所を、再結晶組織X2として表示させなくてもよく、周囲と同じ輝度で表示させてもよい。
超音波検査装置1は、以上説明した構成となっている。以下に、制御部22による内部欠陥X1の検出フローを説明する。図7は、第1実施形態に係る内部欠陥の検出フローを説明するフローチャートである。図7に示すように、第1実施形態において内部欠陥X1を検出する場合、制御部22は、最初に、探触子制御部30が、探触子10を制御して、超音波信号Aを検査対象物100に照射させる(ステップS10)。そして、制御部22は、反射信号取得部32により、探触子10が検出した検査対象物100からの反射信号Bを取得する(ステップS12)。
反射信号Bを取得したら、制御部22は、解析信号生成部33により、解析信号Cを生成する(ステップS14)。解析信号Cは、反射信号Bを、周波数毎に複数のスペクトル信号Dに分解した波形信号である。解析信号Cを生成したら、制御部22は、欠陥判定部34により、解析信号Cに含まれるスペクトル信号Dの数を算出する(ステップS16)。より詳しくは、欠陥判定部34は、解析信号Cに含まれるスペクトル信号Dのうち、強度が強度閾値K1以上であるスペクトル信号Dの数を算出する。欠陥判定部34は、この算出したスペクトル信号Dの数が、閾値K0より小さいか判定し(ステップS18)、閾値K0より小さい場合(ステップS18;Yes)、その解析信号Cに対応する反射信号Bが、内部欠陥X1によるもの、すなわち内部欠陥X1であると判定する(ステップS20)。一方、欠陥判定部34は、算出したスペクトル信号Dの数が、閾値K0より小さくない、すなわち閾値K0以上であると判定した場合(ステップS18;No)、その解析信号Cに対応する反射信号Bが、再結晶組織X2によるもの、すなわち再結晶組織X2であると判定する(ステップS22)。ステップS20、S22において、反射信号Bが内部欠陥X1によるものか再結晶組織X2であるかを判定することにより、本処理は終了する。
本実施形態では、このようにして内部欠陥X1の検出を行う。ただし、本実施形態における制御部22は、必ずしも図7で説明したように内部欠陥X1の検出を行う必要はなく、少なくとも、反射信号BのピークPの数に基づき、その反射信号Bが内部欠陥X1から反射されたものであるかを判定すればよい。以下、内部欠陥X1の検出フローの他の例を説明する。
図8は、第1実施形態に係る内部欠陥の検出フローの他の例を説明するフローチャートである。図8に示すように、他の例において、制御部22は、図7の説明と同様に、ステップS10、S12、S14を実行して、解析信号Cを生成する。解析信号Cを生成したら、欠陥判定部34は、次のようにピークフィッティング処理を行う。すなわち、欠陥判定部34は、解析信号Cのスペクトル信号Dの数を算出し、複数の基準スペクトル信号を生成する(ステップS30)。基準スペクトル信号は、強度値と幅(半値全幅)とが、予め基準の値に設定された、1つの強度ピーク値を持つ波形信号である。欠陥判定部34は、少なくともスペクトル信号Dの数分だけの基準スペクトル信号を生成し、より好適には、スペクトル信号Dの数より1つ多い数の基準スペクトル信号を生成する。そして、欠陥判定部34は、基準スペクトル信号の強度値と半値全幅とを、互いに異なる値にしても互いに共通する値にしてもよい。ただし、欠陥判定部34は、スペクトル信号Dの数分だけの基準スペクトル信号については、強度値と半値全幅とを互いに共通とし、残った1つの基準スペクトル信号については、半値全幅を他より大きくすることが好ましい。また、欠陥判定部34は、基準スペクトル信号を、ガウス関数としているが、波形はこれに限られず任意であってよく、例えば、ローレンツ関数又はフォークト関数としてもよい。
基準スペクトル信号を生成したら、欠陥判定部34は、基準スペクトル信号のパラメータを調整して、基準スペクトル信号の合成信号を生成する(ステップS31)。欠陥判定部34は、基準スペクトル信号のパラメータとして、強度値と幅(半値全幅)との値を調整させる(変化させる)。欠陥判定部34は、パラメータを調整した基準スペクトル信号を合成して、合成信号を生成する。合成信号は、基準スペクトル信号のピークとなる値を周波数毎に割り当てた上で合成さえた信号であり、基準スペクトル信号が周波数毎に配列した波形信号となる。欠陥判定部34は、この合成信号の各周波数における強度値と幅(半値全幅)とが、解析信号Cに近づくように(より好ましくは一致するように)、基準スペクトル信号のパラメータを調整する。すなわち、欠陥判定部34は、ステップS31において、ピークフィッティング処理を行う。
合成信号を生成したら、欠陥判定部34は、合成信号と解析信号Cとの差分が所定値以下であるかを判定する(ステップS32)。欠陥判定部34は、各周波数における合成信号と解析信号Cとの、強度値と幅(半値全幅)との差分を算出して、その差分が所定値以下であるかを判定する。欠陥判定部34は、この差分が所定値以下でない場合、すなわち所定値以上である場合は(ステップS32;No)、ステップS31に戻り、差分が所定値以下となるまで、基準スペクトル信号のパラメータの調整を続ける。
欠陥判定部34は、差分が所定値以下である場合は(ステップS32;Yes)、この合成信号中に、他の基準スペクトル信号よりも幅(半値全幅)が大きい基準スペクトル信号があるかを検出する(ステップS34)。欠陥判定部34は、他の基準スペクトル信号よりも幅(半値全幅)が大きい基準スペクトル信号がある場合(ステップS34;Yes)、その解析信号Cに対応する反射信号Bに、内部欠陥X1によって反射された信号を含む、すなわち内部欠陥X1があると判定する(ステップS34;Yes)。より詳しくは、欠陥判定部34は、幅が大きい基準スペクトル信号に対応(一致)するスペクトル信号Dが、内部欠陥X1によって反射された反射信号Bによるスペクトル信号Dであると判定する。また、欠陥判定部34は、他の基準スペクトル信号よりも幅(半値全幅)が大きい基準スペクトル信号がない場合(ステップS34;No)、すなわち全ての基準スペクトル信号の幅が等しい場合、その解析信号Cに対応する対応する反射信号Bは、再結晶組織X2によって反射されたものであると判定する(ステップS34;Yes)。
上述のように、内部欠陥X1によるスペクトル信号Dは、幅が大きく、再結晶組織X2によるスペクトル信号Dは、幅が小さい。図8の例では、それを利用して、欠陥判定部34が、各スペクトル信号Dに対応するガウス関数の基準スペクトル信号の合成波形(合成信号)を生成し、その基準スペクトル信号のうち、幅が大きい基準スペクトル信号があるかを判定する。そして、欠陥判定部34は、幅が大きい基準スペクトル信号がある場合、その反射信号Bが内部欠陥X1を含むと判定し、幅が大きい基準スペクトル信号が無い場合、その反射信号Bが内部欠陥X1を含まず、再結晶組織X2のみを含むと判定する。この図8の例では、反射信号Bに、内部欠陥X1からのものと再結晶組織X2からのものを含む場合に特に有効である。なお、この図8の処理は、解析信号Cのスペクトル信号Dの数に基づき基準スペクトル信号を生成しているため、反射信号BのピークPの数に基づき、内部欠陥X1を検出しているということができる。
なお、図8の例では、ステップS44において、幅(半値全幅)が大きい基準スペクトル信号を検出したが、例えば、基準スペクトル信号の幅を全て共通としたまま、合成信号を生成してもよい。この場合、この合成信号と解析信号Cとの差分が大きい箇所に相当するスペクトル信号Dを、内部欠陥X1によるものと判定する。
次に、内部欠陥X1の検出の更なる他の例について説明する。図9は、第1実施形態に係る内部欠陥の検出フローの他の例を説明するフローチャートである。図9の例では、解析信号Cを生成せず、反射信号Bのピークを直接利用して、内部欠陥X1を検出する。すなわち、図9の例では、解析信号生成部33を含まなくてもよい。図9に示すように、他の例において、制御部22は、図7の説明と同様に、ステップS10、S12を実行して、反射信号Bを取得する。反射信号Bを取得したら、制御部22は、欠陥判定部34により、反射信号Bを平滑化処理して、平滑化信号Eを生成する(ステップS40)。
図10は、平滑化処理の一例を示すグラフである。平滑化処理とは、反射信号Bの波形をなだらかにする処理であり、例えば、反射信号Bの時間毎の強度のピーク値を平均した値に変換する移動平均処理である。ここでの移動平均処理には、例えば単純移動平均、荷重移動平均など、任意の移動平均処理が挙げられる。図10には、反射信号Bと、その反射信号Bを平滑化処理した平滑化信号Eの一例が記載されている。図10に示すように、反射信号Bは、複数のピークPを含むが、平滑化信号Eは、ピークPが平滑化(平均化)処理されているため、急峻なピークPが消えている。
図9に戻り、平滑化信号Eを生成したら、制御部22は、欠陥判定部34により、反射信号Bと平滑化信号Eとの差分Sを算出する(ステップS42)。より詳しくは、制御部22は、反射信号BのピークPの強度値と、そのピークPと同じ横軸(時間)における平滑化信号Eの強度値との差分Sを算出する。また、欠陥判定部34は、差分閾値K2を設定している。差分閾値K2は、予め定められた所定の値である。欠陥判定部34は、差分Sの値が差分閾値K2以上であるかを検出し、差分Sの値が差分閾値K2以上であるピークPの数が、所定値より少ないかを判定する(ステップS44)。欠陥判定部34は、差分Sの値が差分閾値K2以上であるピークPの数が、所定値より少ない場合(ステップS44;Yes)、その反射信号Bが、内部欠陥X1によるものと判定する(ステップS46)。また、欠陥判定部34は、差分Sの値が差分閾値K2以上であるピークPの数が、所定値より少なくない、すなわち所定値以上である場合(ステップS44;No)、その反射信号Bが、再結晶組織X2によるものと判定する(ステップS48)。なお、このピークPの数の閾値である所定値は、上述の閾値K0(例えば3つ)と同じ値であってよい。
図9の処理のように、反射信号Bと平滑化信号Eとの比較によっても、ピークPの数に基づき、内部欠陥X1の検出が可能である。
以上説明したように、第1実施形態に係る内部欠陥X1の検出方法は、検査対象物100の内部欠陥X1の検出方法であって、反射信号取得ステップと欠陥判定ステップとを有する。反射信号取得ステップは、反射信号取得部32により実行され、超音波信号Aが照射された検査対象物100から反射される反射信号Bを取得する。欠陥判定ステップは、欠陥判定部34により実行され、反射信号BのピークPの数に基づき、その反射信号Bが、検査対象物100の内部欠陥X1から反射されたものであるか、検査対象物100の再結晶組織X2から反射されたものであるかを判定する。
上述のように、反射信号Bには、内部欠陥X1からの反射信号B1と、再結晶組織X2からの反射信号B2とのいずれかが含まれる可能性がある。超音波探傷は、反射信号Bに基づいて行われるが、この反射信号Bが、反射信号B1、B2のいずれを含むものであるかを区分できない場合、内部欠陥X1の検出精度が低下するおそれがある。しかし、本実施形態に係る検出方法では、反射信号B1、B2とで、ピークPの数が異なることに着目し、反射信号BのピークPの数に基づき、内部欠陥X1であるか再結晶組織X2であるかを判定している。従って、この検出方法によると、内部欠陥X1の検出精度の低下を抑制することが可能となる。
また、第1実施形態に係る内部欠陥X1の検出方法は、解析信号生成ステップを更に有する。解析信号生成ステップは、解析信号生成部33によって実行され、反射信号Bを解析して、反射信号Bを周波数毎のスペクトル信号Dに分解した解析信号Cを生成する。そして、欠陥判定ステップにおいて、解析信号Cに含まれる周波数毎のスペクトル信号Dの数が、所定の閾値K0より少ない場合に、その解析信号Cに対応する反射信号Bが、内部欠陥X1から反射されたものであると判定する。また、欠陥判定ステップにおいて、解析信号Cに含まれる周波数毎のスペクトル信号Dの数が、閾値K0以上である場合に、その解析信号Cに対応する反射信号Bが、検査対象物100の再結晶組織X2から反射されたものであると判定する。この検出方法によると、反射信号Bを周波数毎のスペクトル信号Dに分解する。そして、このスペクトル信号Dの数に基づき、内部欠陥X1であるか再結晶組織X2であるかを判定する。この検出方法によると、スペクトル信号Dの数に基づき検出を行うことで、ピーク数の検出精度を好適に向上させて、内部欠陥X1の検出精度の低下をより好適に抑制することが可能となる。
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。第2実施形態に係る検出装置20aは、内部欠陥X1の検出方法が、第1実施形態と異なる。第2実施形態において第1実施形態と構成が共通する箇所は、説明を省略する。
図11は、第2実施形態に係る検査装置の模式的なブロック図である。図11に示すように、第2実施形態に係る検出装置20aは、制御部22aを有する。制御部22aは、探触子制御部30aと、反射信号取得部32aと、欠陥判定部34aと、出力制御部36とを有する。
図12Aは、内部欠陥からの反射波の様子を示した模式図であり、図12Bは、再結晶組織からの反射波の様子を示した模式図である。内部欠陥X1は、超音波信号Aを受けた際に、異なる角度に反射波を反射する。同様に、再結晶組織X2も、超音波信号Aを受けた際に、異なる角度に反射波を反射する。発明者は、異なる角度に反射される反射波に着目し、図12Aに示すように、内部欠陥X1が異なる角度に反射した反射波は、強度の値が大きく異なり、図12Bに示すように、再結晶組織X2が異なる角度に反射した反射波は、強度の値があまり異ならないことを発見した。すなわち、発明者は、内部欠陥X1からの反射信号B1は、角度によって強度の異方性が強く、再結晶組織X2からの反射信号B2は、角度によって強度の異方性が弱い(等方性を有する)ことを発見した。本実施形態に係る検出装置20aは、この反射波の特性の差異に基づき、反射信号Bが、内部欠陥X1からのものであるか再結晶組織X2からのものであるかを判断して、超音波探傷における内部欠陥X1の検出精度の低下を抑制している。
具体的には、探触子制御部30aは、複数の探触子10のうち、1つの探触子10(図12A、図12Bの探触子10A)に、超音波信号Aを照射させつつ、複数の探触子10(好ましくは全ての探触子10)を、反射信号Bを検出可能な状態とする。これにより、各探触子10は、1つの超音波信号Aに対して、異なる角度に反射された反射信号Bを検出する。すなわち、第2実施形態においては、FMCやTFMなどの開口合成法を用いることが好ましい。図12Aに示すように、超音波信号Aが内部欠陥X1に向けて照射されていた場合、各探触子10は、内部欠陥X1によって互いに異なる角度に反射された反射信号B1を検出する。この場合、反射信号B1の強度は、探触子10毎に大きく異なる。一方、図12Bに示すように、超音波信号Aが再結晶組織X2に向けて照射された場合、各探触子10は、再結晶組織X2によって互いに異なる角度に反射された反射信号B2を検出する。この場合、反射信号B2の強度は、探触子10毎に差異が少ない。
そして、反射信号取得部32aは、各探触子10からの反射信号Bを取得することで、1つの超音波信号Aに対して、互いに異なる角度に反射された複数の反射信号Bを取得する。欠陥判定部34aは、この複数の反射信号B同士の強度を比較し、その強度比に基づき、その反射信号Bが、内部欠陥X1から反射されたものであるか再結晶組織X2から反射されたものであるかを判定する。さらに詳しくは、欠陥判定部34aは、所定の強度比閾値K3を設定する。欠陥判定部34aは、この反射信号Bの強度比が強度比閾値K3の範囲外である場合、それらの反射信号Bが、内部欠陥X1から反射されたものであると判定する。そして、欠陥判定部34aは、この反射信号Bの強度比が強度比閾値K3の範囲内である場合、それらの反射信号Bが、内部欠陥X1から反射されたものでなく、再結晶組織X2から反射されたものであると判定する。
反射信号B同士の強度比が強度比閾値K3の範囲内であるということは、反射信号B同士の強度の差が小さい(異方性が弱い、又は指向性が弱い)ということが言える。この場合、欠陥判定部34aは、反射信号Bが、内部欠陥X1ではなく再結晶組織X2によって反射されたものであると判断する。一方、反射信号B同士の強度比が強度比閾値K3の範囲外であるということは、反射信号B同士の強度の差が大きい(異方性が強い、又は指向性が強い)ということが言える。この場合、欠陥判定部34aは、反射信号Bが、内部欠陥X1によって反射されたものであると判断する。なお、強度比閾値K3は、下限閾値K3minから上限閾値K3maxまでの数値範囲である。ここで、互いに箇所が異なる位置の探触子10から検出された反射信号を、それぞれ、反射信号BL1、BL2とする。この場合、欠陥判定部34aは、以下の式(1)を満たす場合に、反射信号Bが、内部欠陥X1ではなく再結晶組織X2によって反射されたものであると判断する。そして、欠陥判定部34aは、以下の式(1)を満たさない場合に、反射信号Bが、内部欠陥X1によって反射されたものであると判断する。なお、下限閾値K3minは、例えば0.5であり、上限閾値K3maxが2であるが、これらは一例であり任意に設定可能である。例えば、下限閾値K3minは、0.1以上1.0以下であり、上限閾値K3maxは、1.0以上10以下であることが好ましい。
K3min≦(BL1/BL2)≦K3max・・・(1)
また、強度比閾値K3を数値範囲でなく1つの値とし、以下の式(2)を満たす場合に、反射信号Bが、内部欠陥X1によって反射されたものであると判定し、式(2)を満たさない場合に、反射信号Bが、内部欠陥X1ではなく再結晶組織X2によって反射されたものであると判定してもよい。
K3<(BL1/BL2) ただし、BL1≧BL2 ・・・(2)
式(2)の場合、強度比閾値K3は、上限閾値K3maxと同じ値としてよい。なお、式(1)、(2)においては、2つの反射信号B同士の強度比較のみを行っているが、探触子10が3つ以上ある場合、例えば全ての反射信号B同士の強度比を算出してもよい。この場合、少なくとも1つの強度比が強度比閾値K3の範囲外である場合には、内部欠陥X1から反射されたものであると判定してもよい。また、強度比のうち、例えば所定数以上の強度比が、強度比閾値K3の範囲外である場合には、内部欠陥X1から反射されたものであると判定してもよい。この所定数は、例えば3つなど任意に設定可能である。
第2実施形態に係る検出装置20aは、以上説明した構成となっている。以下に、制御部22aによる内部欠陥X1の検出フローを説明する。図13は、第2実施形態に係る内部欠陥の検出フローを説明するフローチャートである。図13に示すように、第2実施形態において内部欠陥X1を検出する場合、制御部22aは、最初に、探触子制御部30が、1つの探触子10に対して、超音波信号Aを検査対象物100に照射させる(ステップS70)。そして、制御部22は、反射信号取得部32により、複数の箇所で検出された反射信号B、すなわち、複数の探触子10が検出した1つの超音波信号Aに対する複数の反射信号Bを取得する(ステップS72)。
複数の箇所からの反射信号Bを取得したら、制御部22は、欠陥判定部34aにより、異なる箇所毎の反射信号Bの強度比を算出する(ステップS74)。すなわち、欠陥判定部34aは、異なる探触子10が検出した、同じ超音波信号Aに対する反射信号B同士の強度比を算出する。欠陥判定部34aは、この強度比が強度比閾値K3の範囲外であるかを判断し(ステップS76)、強度比が強度比閾値K3の範囲外である場合(ステップS76;Yes)、その反射信号Bが内部欠陥X1から反射されたものであると判定する(ステップS78)。また、欠陥判定部34aは、強度比が強度比閾値K3の範囲外でない、すなわち強度比が強度比閾値K3の範囲内であると判定した場合(ステップS76;No)、その反射信号Bが再結晶組織X2から反射されたものであると判定する(ステップS80)。ステップS78、S80において、反射信号Bが内部欠陥X1によるものか再結晶組織X2であるかを判定することにより、本処理は終了する。
以上説明したように、第2実施形態に係る内部欠陥X1の検出方法は、検査対象物100の内部欠陥X1の検出方法であって、反射信号取得ステップと欠陥判定ステップとを有する。反射信号取得ステップは、反射信号取得部32aにより実行され、超音波信号Aが照射された検査対象物100から反射される反射信号Bであって、互いに位置が異なる複数の箇所(探触子10)から検出した反射信号Bを取得する。欠陥判定ステップは、欠陥判定部34aにより実行され、箇所毎の反射信号B同士の強度比に基づき、反射信号Bが、検査対象物100の内部欠陥X1から反射されたものであるか、再結晶組織X2から反射されたものであるかを判定する。
上述のように、反射信号Bには、内部欠陥X1からの反射信号B1と、再結晶組織X2からの反射信号B2とのいずれかが含まれる可能性がある。反射信号Bが反射信号B1、B2のいずれを含むものであるかを区分できない場合、内部欠陥X1の検出精度が低下するおそれがある。しかし、本実施形態に係る検出方法では、反射信号B1、B2とで、指向性が異なる、すなわち異なる箇所で検出した信号強度が異なることに着目し、異なる箇所での反射信号Bの強度比に基づき、内部欠陥X1であるか再結晶組織X2であるかを判定している。従って、この検出方法によると、内部欠陥X1の検出精度の低下を抑制することが可能となる。
また、第2実施形態に係る検出方法は、欠陥判定ステップにおいて、箇所毎の反射信号B同士の強度比が、所定の強度比閾値K3の範囲外である場合に、反射信号Bが内部欠陥X1から反射されたものであると判定する。そして、この検出方法は、欠陥判定ステップにおいて、箇所毎の反射信号B同士の強度比が、強度比閾値K3の範囲内である場合に、反射信号Bが再結晶組織X2から反射されたものであると判定する。この検出方法は、強度比の大きさに基づき、内部欠陥X1であるか再結晶組織X2であるかを判定している。従って、この検出方法によると、内部欠陥X1の検出精度の低下をより好適に抑制することが可能となる。
なお、この第2実施形態に係る検出方法は、第1実施形態に係る検出方法と組み合わせてもよい。すなわち、この場合、第1実施形態に係る検出方法が、反射信号取得ステップにおいて、互いに位置が異なる複数の箇所から検出した反射信号Bを取得し、欠陥判定ステップにおいて、箇所毎の反射信号B同士の強度比にも基づき、反射信号Bが内部欠陥X1から反射されたものであるか再結晶組織X2から反射されたものであるかを判定してもよい。この場合、この検出方法は、第1実施形態に係る内部欠陥X1の判定基準と第2実施形態に係る内部欠陥X1の判定基準との両方を満たした場合に、その反射信号Bが内部欠陥X1から反射されたものであると判定してもよい。また、例えば、この検出方法は、第1実施形態に係る内部欠陥X1の判定基準と第2実施形態に係る内部欠陥X1の判定基準との少なくともいずれかを満たした場合に、その反射信号Bが内部欠陥X1から反射されたものであると判定してもよい。すなわち、この検出方法は、例えば、スペクトル信号Dの数が閾値K0以下であり、かつ、箇所毎の反射信号B同士の強度比が強度比閾値K3の範囲外である場合に、その反射信号Bが内部欠陥X1から反射されたものであると判定してもよい。また、この検出方法は、例えば、スペクトル信号Dの数が閾値K0以下である条件と、箇所毎の反射信号B同士の強度比が強度比閾値K3の範囲外である条件との、すくなくともいずれかを満たした場合に、その反射信号Bが内部欠陥X1から反射されたものであると判定してもよい。
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について説明する。第3実施形態に係る検出装置20bは、内部欠陥X1の検出方法が、第1実施形態と異なる。第3実施形態において第1実施形態と構成が共通する箇所は、説明を省略する。
図14は、第3実施形態に係る検査装置の模式的なブロック図である。図14に示すように、第3実施形態に係る検出装置20bは、制御部22bを有する。制御部22bは、探触子制御部30と、反射信号取得部32bと、欠陥判定部34bと、出力制御部36とを有する。
上述のように、内部欠陥X1及び再結晶組織X2は、超音波信号Aを受けた際に、反射波(反射信号B1、B2)を反射する。発明者は、超音波信号Aの出力周波数を変化させると、内部欠陥X1及び再結晶組織X2の反射信号B1、B2の強度が変化し、その変化の仕方が、反射信号B1と反射信号B2とで異なることを発見した。より詳しくは、発明者は、超音波信号Aが高周波数に変化するに伴い、反射信号B1、B2の強度が高くなるが、強度が高くなる変曲点が、反射信号B1、B2とで異なることを発見した。さらに言えば、発明者は、反射信号B1の方が、反射信号B2より低い周波数で反射信号の強度が高くなることを発見した。
図15は、反射信号の周波数毎の強度の変化を示す模式的なグラフである。発明者は、反射信号B1、B2が図15の関係になることを見出した。図15は、超音波信号Aの周波数を変化させた場合における反射信号Bの周波数毎の強度を示したグラフである。反射信号Bは、基となる超音波信号Aと周波数が一致するため、強度と周波数とは、図15のような関係となる。すなわち、図15の横軸は、反射信号Bの周波数であるが、言い換えれば超音波信号Aの周波数であるということもできる。図15の縦軸は、周波数毎の反射信号Bの最大値の正規化強度である。正規化強度とは、全周波数中の反射信号Bの強度の最大値を1に正規化した、周波数毎の反射信号Bの強度の最大値である。曲線F1は、反射信号B1の周波数毎の正規化強度を示し、曲線F2は、反射信号B2の周波数毎の正規化強度を示す。
曲線F1に示すように、反射信号B1の正規化強度は、周波数が0MHzから約5MHzまでにおいて、周波数が上昇するにつれて、0から大きく上昇する。そして、反射信号B1の正規化強度は、約5MHzから約10MHzまでで上昇率が小さくなりながらも、徐々に上昇し、超音波信号Aの周波数が約10MHzから約20MHzまでにおいては、約1とほぼ一定となる。一方、曲線F2に示すように、反射信号B2の正規化強度は、周波数が0MHzから約5MHzにおいては、周波数が上昇しても、0に近い値でほぼ一定となり、言い換えれば変化が小さい。そして、反射信号B2の正規化強度は、超音波信号Aの周波数が約5MHzから約20MHzまでにおいては、約0から約1まで徐々に上昇する。
言い換えれば、超音波信号Aの周波数が0MHzから約5MHzまで上昇するに従って、反射信号B1の強度は、反射信号B2よりも大きく上昇するが、反射信号B2の強度は、あまり上昇しない。一方、超音波信号Aの周波数が5MHzから約20MHzまで上昇するに従って、反射信号B1の強度は、あまり上昇せず、反射信号B2の強度は、反射信号B2よりも大きく上昇する。このように、内部欠陥X1は、低周波数の超音波信号Aに対する応答性が高いのに対し、再結晶組織X2は、低周波数の超音波信号Aに対する応答性が、内部欠陥X1より低い。
また、ここで、例えば所定の強度閾値である所定値K4を設定する。図15の例では、所定値K4は、正規化強度の0.5であるが、その値は0より大きく1より小さければ任意である。この場合、反射信号B1は、約2MHz以上の周波数における強度の最大値が、所定値K4より大きくなる。一方、反射信号B2は、約12MHz以上の周波数における強度の最大値が、所定値K4より大きくなる。言い換えれば、反射信号Bの強度の最大値が所定値K4より大きくなる場合の反射信号Bの周波数を、応答周波数とする。この場合、反射信号B1の応答周波数は、反射信号B2の応答周波数より小さくなり、逆に、反射信号B2の応答周波数は、反射信号B1の応答周波数より小さくなる。
制御部22bは、上記の図15のような関係を利用して、内部欠陥X1を検出する。すなわち、図14に示す探触子制御部30aは、探触子10に対して、周波数を変化させつつ超音波信号Aを照射させる。探触子制御部30aは、周波数を変化させている場合でも、探触子10に、同じ位置及び同じ強度で超音波信号Aを照射させる(探触子10の位置及び強度を固定した状態で、周波数を変化させる)。本実施形態では、探触子制御部30aは、探触子10が、周波数が、例えば2MHzから20MHzまでにわたって、徐々に変化するように、超音波信号Aを照射させる。ただし、探触子制御部30aは、探触子10が、例えば2MHzから20MHzまでの間の周波数値であって、互いに異なる周波数値を有する超音波信号Aを、それぞれ別のタイミングで照射させてもよい。探触子制御部30aは、探触子10に対して、この周波数が変化した超音波信号Aに対する反射信号Bを検出させる。
そして、反射信号取得部32bは、探触子10から、周波数が変化した超音波信号Aに対する反射信号Bを取得する。反射信号Bは、超音波信号Aの周波数変化に対応して、周波数が変化した波形となり、また、周波数毎に最大強度が変化する。欠陥判定部34bは、この反射信号Bの周波数毎の強度の最大値を算出し、周波数毎の反射信号Bの強度の最大値を、所定値K4と比較する。欠陥判定部34bは、反射信号Bの強度の最大値が、所定値K4以上となった際の反射信号Bの周波数を検出する。欠陥判定部34bは、反射信号Bの強度の最大値が所定値K4以上となった際の周波数のうちの最小値を、応答周波数として算出する。すなわち、5MHz以上の周波数において反射信号Bの強度の最大値が所定値K4以上となった場合、応答周波数は、5MHzとなる。
欠陥判定部34bは、この応答周波数に基づき、反射信号Bが内部欠陥X1から反射されたものであるかを判定する。より詳しくは、欠陥判定部34bは、応答周波数が周波数閾値より小さいかを判定する。欠陥判定部34bは、応答周波数が周波数閾値より小さい場合、反射信号Bが、内部欠陥X1から反射されたものである(反射信号B1である)と判定する。そして、欠陥判定部34bは、応答周波数が周波数閾値以上である場合に、反射信号Bが内部欠陥X1から反射されたものでなく(反射信号B1でなく)、反射信号Bが再結晶組織X2から反射されたものである(反射信号B2である)と判定する。周波数閾値は、例えば、5MHz以下であることが好ましい。
第3実施形態に係る検出装置20bは、以上説明した構成となっている。以下に、制御部22bによる内部欠陥X1の検出フローを説明する。図16は、第3実施形態に係る内部欠陥の検出フローを説明するフローチャートである。図16に示すように、第3実施形態において内部欠陥X1を検出する場合、制御部22bは、最初に、探触子制御部30が、探触子10に対して、超音波信号Aを、周波数を変化させつつ、検査対象物100に照射させる(ステップS90)。そして、制御部22bは、反射信号取得部32bにより、その超音波信号Aに対する反射信号Bを取得する(ステップS92)。
反射信号Bを取得したら、制御部22bは、欠陥判定部34bにより、反射信号Bの強度が所定値K4以上となった場合の、反射信号Bの周波数(応答周波数)を検出する(ステップS94)。より詳しくは、欠陥判定部34bは、反射信号Bの強度の最大値が所定値K4以上となった場合の、周波数の最小値を検出して、その最小値を応答周波数とする。欠陥判定部34bは、応答周波数が周波数閾値より小さいかを判断し(ステップS96)、応答周波数が周波数閾値より小さい場合(ステップS96;Yes)、その反射信号Bが内部欠陥X1によるものであると判断する(ステップS98)。また、欠陥判定部34bは、応答周波数が周波数閾値より小さくない、すなわち応答周波数が周波数閾値以上である場合(ステップS96;No)、その反射信号Bが再結晶組織X2によるものであると判断する(ステップS99)。ステップS98、S99において、反射信号Bが内部欠陥X1によるものか再結晶組織X2であるかを判定することにより、本処理は終了する。
以上説明したように、第3実施形態に係る内部欠陥X1の検出方法は、検査対象物100の内部欠陥X1の検出方法であって、反射信号取得ステップと欠陥判定ステップとを有する。反射信号取得ステップは、反射信号取得部32bにより実行され、検査対象物100に周波数を変化させて照射された超音波信号Aに対して、検査対象物100から反射される反射信号Bを取得する。欠陥判定ステップは、欠陥判定部34bにより実行され、反射信号Bの強度が所定値K4以上である場合における反射信号Bの周波数の値である応答周波数に基づき、反射信号Bが、内部欠陥X1から反射されたものであるか再結晶組織X2から反射されたものであるかを判定する。
上述のように、反射信号Bには、内部欠陥X1からの反射信号B1と、再結晶組織X2からの反射信号B2とのいずれかが含まれる可能性がある。反射信号Bが反射信号B1、B2のいずれを含むものであるかを区分できない場合、内部欠陥X1の検出精度が低下するおそれがある。しかし、本実施形態に係る検出方法では、周波数毎の反射信号B1、B2の応答強度が異なることに着目し、強度が所定値以上となった場合の反射信号Bの周波数(応答周波数)に基づき、内部欠陥X1であるかを再結晶組織X2であるかを判定している。従って、この検出方法によると、内部欠陥X1の検出精度の低下を抑制することが可能となる。
また、第3実施形態に係る検出方法は、欠陥判定ステップにおいて、応答周波数が所定の周波数閾値より小さい場合に、反射信号が検査対象物100の内部欠陥から反射されたものであると判定し、応答周波数が周波数閾値以上である場合に、反射信号が再結晶組織X2から反射されたものであると判定する。この検出方法は、応答周波数の大きさに基づき、内部欠陥X1であるか再結晶組織X2であるかを判定している。従って、この検出方法によると、内部欠陥X1の検出精度の低下をより好適に抑制することが可能となる。
なお、この第3実施形態に係る検出方法は、第1実施形態に係る検出方法と組み合わせてもよい。すなわち、この場合、第1実施形態に係る検出方法が、反射信号取得ステップにおいて、周波数を変化させて照射した超音波信号Aの反射信号Bを取得し、欠陥判定ステップにおいて、反射信号Bの強度が所定値K4以上である場合における応答周波数値にも基づき、反射信号が、内部欠陥X1から反射されたものであるか再結晶組織X2から反射されたものであるかを判定する。この場合、この検出方法は、第1実施形態に係る内部欠陥X1の判定基準と第3実施形態に係る内部欠陥X1の判定基準との両方を満たした場合に、その反射信号Bが内部欠陥X1から反射されたものであると判定してもよい。また、例えば、この検出方法は、第1実施形態に係る内部欠陥X1の判定基準と第3実施形態に係る内部欠陥X1の判定基準との少なくともいずれかを満たした場合に、その反射信号Bが内部欠陥X1から反射されたものであると判定してもよい。
また、この第3実施形態に係る検出方法は、第2実施形態に係る検出方法と組み合わせてもよい。この場合においても、この検出方法は、第2実施形態に係る内部欠陥X1の判定基準と第3実施形態に係る内部欠陥X1の判定基準との両方を満たした場合に、その反射信号Bが内部欠陥X1から反射されたものであると判定してもよい。また、例えば、この検出方法は、第2実施形態に係る内部欠陥X1の判定基準と第3実施形態に係る内部欠陥X1の判定基準との少なくともいずれかを満たした場合に、その反射信号Bが内部欠陥X1から反射されたものであると判定してもよい。
また、第1実施形態、第2実施形態、及び第3実施形態の全ての検出方法を組み合わせてもよい。この場合においても、この検出方法は、第1実施形態から第3実施形態に係る内部欠陥X1の判定基準を全て満たした場合に、その反射信号Bが内部欠陥X1から反射されたものであると判定してもよい。また、例えば、この検出方法は、第1実施形態から第3実施形態に係る内部欠陥X1の判定基準の少なくともいずれか1つ(又は2つ)を満たした場合に、その反射信号Bが内部欠陥X1から反射されたものであると判定してもよい。
(実施例1)
次に、実施例1について説明する。実施例1は、内部欠陥X1と再結晶組織X2との反射信号Bのピークの違いを解析した結果である。実施例1においては、内部欠陥X1としての2mmの空隙からの反射信号B1aを実測し、その反射信号B1aに対する解析信号C1aを生成した。また、内部欠陥X1としての亀裂からの反射信号B1bを実測し、その反射信号B1bに対する解析信号C1bを生成した。また、再結晶組織X2からの反射信号B2aを実測し、その反射信号B2aに対する解析信号C2aを生成した。
図17Aは、空隙からの反射信号と解析信号の波形を示す図である。図17Bは、亀裂からの反射信号と解析信号の波形を示す図である。図17Cは、再結晶組織からの反射信号と解析信号の波形を示す図である。図17A及び図17Bに示すように、反射信号B1a、B1bは、ピークの数が、図17Cに示す反射信号B2aのピークの数よりも少ない。また、解析信号C1a、C1bは、スペクトル信号の数が、解析信号C2aより少なく、曲線が解析信号C2aよりなだらかであることがわかる。実施例1により、第1実施形態による検出方法によると、内部欠陥X1と再結晶組織X2とを適切に区分できることが分かる。
(実施例2)
次に、実施例2について説明する。実施例2においては、反射信号B1、B2の周波数にローパスフィルタを掛けて、周波数範囲毎の反射信号B1、B2の波形を検出した結果である。図18は、内部欠陥による反射信号の周波数範囲毎の波形を示すグラフであり、図19は、再結晶組織による反射信号の周波数範囲毎の波形を示すグラフである。図18及び図19では、2MHz以下、5MHz以下、10MHz以下、15MHz以下の周波数範囲における反射信号B1、B2の波形を示している。図18に示すように、内部欠陥X1による反射信号B1は、10MHzまでに強度が大きくなっているが、再結晶組織X2による反射信号B2は、10MHzまではあまり強度が大きくならずに、15MHzで強度が大きくなっていることが分かる。実施例2により、第3実施形態による検出方法によると、内部欠陥X1と再結晶組織X2とを適切に区分できることが分かる。
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態の内容により実施形態が限定されるものではない。また、前述した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、前述した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。さらに、前述した実施形態の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。