以下、実施形態の電力変換装置を、図面を参照して説明する。
(第1の実施形態)
まず、第1の実施形態について説明する。図1は、第1の実施形態の電力変換装置が適用される電力系統の一例を示す図である。図1に示すように、電力系統は、電力変換装置1と、交流電源2と、を備える。
電力変換装置1は、三相の交流系統である交流電源2と、直流系統である正側直流端子3、および負側直流端子4を介して直流電力が供給される大規模太陽光発電システムや、産業用のUPS(Uninterruptible Power Supply:無停電電源装置)のような直流電源、または他の電力変換装置等との間に接続され、交流と直流との変換を相互に行う電力変換装置である。
交流電源2は、交流電力を出力する。交流電源2は、例えば、交流電力系統である。つまり、電力変換装置1は、太陽光発電システムや、産業用のUPSにより発電された直流電力を交流電力に変換するシステムなどの用途に用いられるものである。他にも電力損失の少ない直流電力で送電する長距離送電システムなどにも用いられる。
図1に示すように、電力変換装置1は、正側直流端子3と、負側直流端子4と、計器用変圧器5と、変圧器6と、三つのアームユニット8(U相のアームユニット8−1、V相のアームユニット8−2、W相のアームユニット8−3を含む)と、交流端子9(U相の交流端子9−1、V相の交流端子9−2、W相の交流端子9−3)を備える。
正側直流端子3、および負側直流端子4は、直流負荷と接続される接続端子である。計器用変圧器5は、交流電源2の電圧を低下させて制御部50に出力する。変圧器6は、交流電源2と、アームユニット8との間に接続される。変圧器6は、交流電源2から送電される交流電力の電圧を変換する。変圧器6は、例えば、交流電源2と電力変換装置1との間を、電気的に絶縁する絶縁型変圧器である。なお、図1に示す例では、このような変圧器6が交流電源2と電力変換装置1との間に設けられているが、実施形態の電力変換装置1においては、変圧器6を備えていなくともよい。この場合、交流電源2と電力変換装置1との間は、変圧器6を介さずに接続される。また、図1に示す例では、変圧器6は電力変換装置1の内部にあるが、変圧器6が電力変換装置1の外部にあってもよい。
図1に示すように、アームユニット8は、正側アーム10Pと、負側アーム10Nと、正側バッファリアクトル40Pと、負側バッファリアクトル40Pと、正側電流センサ7Pと、負側電流センサ7Nと、を備える。
アームユニット8は、正側接続端子3の側からみて、正側アーム10P、正側バッファリアクトル40P、正側電流センサ7P、交流端子9、負側電流センサ7N、負側バッファリアクトル40N、負側アーム10N、の順に接続される。
アームユニット8は、交流端子9により、交流電源2の三相交流と接続される。図1の例では、アームユニット8は、交流端子9、変圧器6を介して交流電源2の三相交流と接続される。つまり、U相の交流端子9−1は交流電源2のU相と、V相の交流端子9−2は交流電源2のV相と、W相の交流端子9−3は交流電源2のW相と、それぞれ変圧器6を介して接続される。また、アームユニット8の正側の端部は正側直流端子3と、負側の端部は負側直流端子4と、それぞれ接続される。
正側電流センサ7Pと、負側電流センサ7Nとは、それぞれが設置された箇所を流れる電流を計測する。正側電流センサ7Pと、負側電流センサ7Nとは、計測した電流値を制御部50に出力する。
正側バッファリアクトル40P、および負側バッファリアクトル40Nは、三相交流の相間を相互に流れる短絡電流を抑制する。
また、正側アーム10Pと負側アーム10Nとのそれぞれは、例えば、L(Lは任意の自然数)個の変換ユニットCを直列に接続したものである。
図2は、第1の実施形態の変換ユニットCの構成図である。図2の例では、変換は、例えば、ダイオード21U、21Xと、スイッチング素子22U、22Xと、端子23U、23Xとコンデンサ30(蓄電部の一例)と、電圧センサ31と、を備える。
図2に示すように、変換ユニットCにおいては、直列に接続されスイッチング素子22Uと、22Xとが、コンデンサ30と並列に接続される。変換ユニットCは、例えば、チョッパ回路である。変換ユニットCは、制御部50からの制御に基づいて、ある決められた電圧(以下、単位電圧)を出力したりゼロ電圧を出力したりする。変換ユニットCは、スイッチング素子22Uがオンでスイッチング素子22Xがオフのときに、コンデンサ30の電圧を端子23Uから出力する。また、変換ユニットCは、スイッチング素子22Uがオフでスイッチング素子22Xがオンのときに、ゼロ電圧を端子23Uから出力する。なお、「電圧を出力する」とは、端子23Xに対する端子23Uの電圧を調整することを意味する。
スイッチング素子22Uと22Xとは、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)や、MOSET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)である。スイッチング素子22Uと22Xとは、カスコードに接続されている。すなわち、スイッチング素子22Uのエミッタ(ソース)とスイッチング素子22Xのコレクタ(ドレイン)が接続されている。また、スイッチング素子22Xのコレクタ(ドレイン)に接続される端子23Uと、スイッチング素子22Xのエミッタ(ソース)に接続される端子23Xとを介して、他の変換ユニットCと接続される。
端子23Uは、自身の変換ユニットCの正側に直列に接続された別の変換ユニットCの端子23Xと接続される。また、端子23Xは、自身の変換ユニットCの負側に直列に接続された別の変換ユニットCの端子23Uと接続される。なお、自身の変換ユニットCの正側に接続される変換ユニットCがない場合には、端子23Uは正側直流端子3と接続される。また、自身の変換ユニットCの負側に接続される変換ユニットCがない場合には、端子23Xは負側直流端子4と接続される。
スイッチング素子22U、22Xは、IGBTやMOSFETの他、例えば、GTO(Gate Turn-Off Thyristor)、GCT(Gate Commutated Turn-off)など外部(例えば制御部50)からオンオフ制御をすることができ、自己消弧能力をもつスイッチング素子である。
また、各スイッチング素子22U、22Xのそれぞれには、逆並列にダイオード21U、21Xがそれぞれ接続されている。このダイオード21U、21Xは、逆並列ダイオードである。
電圧センサ31は、コンデンサ30の電圧を計測する。電圧センサ31は、計測した電圧値を制御部50に出力する。
図1に戻り、制御部50は、三つのアームユニット8をそれぞれ制御する。制御部50には、各アームユニット8における電流センサ7P、7Nからの電流値がそれぞれ入力される。また、制御部50には、各アームユニット8における正側アーム10P、負側アーム10Nに含まれる変換ユニットCの電圧センサ31からの電圧値がそれぞれ入力される。また、制御部50は、各変換ユニットCのスイッチング素子22U、22Xそれぞれに、スイッチング制御信号を出力する。
ここで、本実施形態の電力変換装置1における電力変換動作について、U相のアームユニット8−1を例として説明する。ここでは、正側直流端子3と負側直流端子4との中性点を、直流系統の基準電位とする。
まず、以下のように、定義する。
Vu…三相交流における各相における交流端子9の電圧
Iu…交流端子9を流れる電流
Vdc…正側直流端子3の電位と基準電位との電位差(直流側の電圧)
Idc…直流側を流れる電流
Vc…変換ユニットCのコンデンサ30の電圧
VuP…正側アーム10Pの電圧
VuN…負側アーム10Nの電圧
IuP…正側アーム10Pを流れる電流
IuN…負側アーム10Nを流れる電流
このとき、正側アーム10Pの電圧VuPは、以下の(1)式で示される。
VuP=−Vu+Vdc/2 …(1)
また、負側アーム10Nの電圧VuNは、以下の(2)式で示される。
VuN=+Vu+Vdc/2 …(2)
上記(1)式に示すように、制御部50は、交流端子9における電圧(以下、交流電圧という)Vuの振幅と位相を調整することにより、正側アーム10Pの電圧VuPを、制御することができる。また、上記(2)式に示すように、制御部50は、交流電圧Vuの振幅と位相を調整することにより、負側アーム10Nの電圧VuNを、制御することができる。なお、制御部50は、変換ユニットCのスイッチング素子22U、22Xをそれぞれオンオフさせる比率を、変換ユニットCから出力させる電圧に対応するパルス幅に変換するPWM(Pulse Width Modulation)制御を行うことにより、変換ユニットCから出力させる電圧を制御する。制御部50は、個々の変換ユニットC出力させる電圧を制御することにより、正側アーム10Pの電圧VuP、および負側アーム10Nの電圧VuNを制御する。
一方、変換ユニットCのコンデンサ30の電圧Vcに着目すると、変換ユニットCから所望の電圧を出力させるためには、コンデンサ電圧の平均値が一定の値となるようにする必要がある。コンデンサ電圧の平均値が一定の値となるようにするには、少なくとも、三相交流の一周期におけるコンデンサ30に入出力される電力の積分値がゼロとなる必要がある。三相交流の一周期におけるコンデンサ30に入出力される電力の積分値がプラス、つまり、正の値である場合にコンデンサ30に蓄えられる電荷が増加し続ける。このとき、コンデンサ30の電圧Vcは増加し続ける。また、三相交流の一周期におけるコンデンサ30に入出力される電力の積分値がマイナス、つまり、負の値である場合にコンデンサ30に蓄えられる電荷が減少し続けることになる。この場合、コンデンサ30の電圧Vcは減少し続ける。いずれの場合も、電力変換装置1は、正常に動作することができない。
これに対処するため、本実施形態の電力変換装置1においては、コンデンサ30の電圧Vcを調整する電流を、各アームユニット8に流す。コンデンサ30の電圧Vcを調整する電流は、コンデンサ30に蓄えられた電荷の一部を充放電させる電流ということができる。ここで、電流が、交流電源2から正側直流端子3および負側直流端子4へ流れる方向、および負側から正側へ流れる方向を正方向とする。この場合、コンデンサ30を充電させるために正方向の電流が流れ、コンデンサ30を放電させるために負方向の電流が流れる。つまり、このようなコンデンサ30の電圧Vcを調整する電流は、交流電流Iuということができる。交流電流Iuは、各アームユニット8における正側アーム10Pと負側アーム10Nとに、半分ずつ流れるものとする。
このとき、正側アーム10Pを流れる電流IuPは、以下の(3)式で示される。
IuP=+Iu/2+Iz …(3)
また、負側アーム10Nを流れる電流IuNは、以下の(4)式で示される。
IuN=−Iu/2+Iz …(4)
ここで、上記(3)式、および上記(4)式に示すIzは循環電流を示す。循環電流Izは、正側アーム10Pと負側アーム10Nとに同方向に流れる電流である。
ここで、三相交流の一周期におけるコンデンサ30に入出力される電力の積分値がゼロとなることから、以下の(5)式が成立する。ここで、EarmPは正側アーム10Pの電力積分値、ParmPは正側アーム10Pの電力、をそれぞれ示す。また、以下の(5)式の第2項の積分区間は、三相交流の一周期である。具体的には、三相交流の周波数をωとすると、以下の(5)式の第2項の積分区間は、0(ゼロ)からω/(2π)である。
EarmP= ∫(ParmP)dt =0 …(5)
上記(5)式と同様に、負側アーム10Nについても、以下の(6)式が成立する。ここで、EarmNは負側アーム10Nの電力積分値、ParmNは負側アーム10Nの電力、をそれぞれ示す。
EarmN= ∫(ParmN)dt =0 …(6)
上記(5)式に、上記(1)式、および上記(3)式を代入することにより、以下の(7)式が得られる。ここで、ωは三相交流の周波数、Vurmsは三相交流の電圧の実効値、Iurmsは三相交流の電流の実効値、をそれぞれ示す。なお、ここでは、三相交流の電圧と電流に位相差がない、つまり、力率1で動作しているものとする。
ParmP
=VuP×IuP
=(−Vu+Vdc/2)×(+Iu/2+Iz)
={−√2×Vurms×sin(ωt)+Vdc/2}×{+√2×Iurms×sin(ωt)/2+Iz}
=‐Vurms×Iurms×sin2(ωt)+(−√2×Vurms×Iz+√2×Iurms×Vdc/4)×sin(ωt)+Iz×Vdc/2
=1/2×Vurms×Iurms×cos(2ωt)+A×sin(ωt)+(−Vurms×Iurms/2+Iz×Vdc/2) …(7)
ここで、上記(7)式においては、sin2(ωt)={1−cos(2ωt)}/2の関係を用いている。また、上記(7)式において、Aは所定の定数(−√2×Vurms×Iz+√2×Iurms×Vdc/4)である。
上記(7)式においては、第1項が周波数ωの2次の周波数成分、つまりcos(2ωt)の係数を持ち、第2項が周波数ωの1次の周波数成分、つまりsin(ωt)の係数を持つ。第1項、および第2項は、いずれも、上記(5)式の第2項に示す積分区間における積分値はゼロとなる。上記(7)式において、上記(5)式が成立するためには、以下の(8)式が成立すればよい。
(−Vurms×Iurms/2+Iz×Vdc/2)=0 …(8)
上記(8)式をIzについて解き、電力変換装置1において交流系統の電力と直流系統の電力とが一致する関係、つまり、Vdc×Idc=3×Vurms×Iurmsの関係があることから、この関係をVdcについて解いた式を、上記(8)式をIzについて解いた式に代入することにより、下記(9)式が成り立つ。
Iz=Vurms×Iurms/Vdc
=Idc/3 …(9)
上記(9)式から、制御部50は、循環電流Izとして、直流電流Idcの1/3の大きさの電流を流すように、スイッチング素子22U、22Xを制御することにより、三相交流の一周期においてコンデンサ30に入出力する電力の積分値はゼロとなり、コンデンサ30の電圧の平均値を一定に保つことができることが判る。
制御部50が調整した正側アーム10Pの電圧VuP、および電流IuPを、図4を用いて説明する。図4は、第1の実施形態の制御部50が行う処理を説明するための第1図である。図4(a)は、三相交流の一周期における正側アーム10Pの電圧VuP、および電流IuPの変化の一例を示す。図4(b)は、三相交流の一周期における正側アーム10Pの電圧VuP、および電流IuPが図4(a)である場合の正側アーム10Pの電力ParmP、および電力積分値EarmPの変化の一例を示す。図4(a)の横軸は位相[deg]、縦軸の第1軸は電圧[V]、縦軸の第2軸は電流[A]、をそれぞれ示す。また、図4(b)の横軸は位相[deg]、縦軸の第1軸は電力[W]、縦軸の第2軸は仕事[J]、をそれぞれ示す。
図4(a)に示すように、正側アーム10Pの電圧VuPは、三相交流と同じ周期をもつ交流成分に、所定の直流成分が重畳された波形となる。つまり、正側アーム10Pの電圧VuPは、正弦波にオフセットがある波形となる。これは、上記(1)式に示す通り、正側アーム10Pの電圧VuPに、交流成分としての電圧(‐Vu)、および直流成分としての電圧(Vdc/2)が含まれていることを表している。
また、正側アーム10Pの電流IuPは、三相交流と同じ周期をもつ交流成分に、所定の直流成分が重畳された波形となる。つまり、正側アーム10Pの電流IuPは、正弦波にオフセットがある波形となる。これは、上記(3)式に示す通り、正側アーム10Pの電流IuPに、交流成分として電流(Iu/2)、および直流成分としての電流(Iz)が含まれていることを表している。
図4(b)に示すように、正側アーム10Pの電力ParmPは、図4(a)に示す電圧VuPと電流IuPの積であることから、三相交流と同じ周期において周期性がある波形となる。具体的には、位相ゼロ[deg]と位相360[deg]における電力ParmPが一致し、位相90[deg]と位相270[deg]において谷があり、谷と谷の間にはそれぞれ山がある波形となる。また、位相90[deg]の谷より位相270[deg]の谷がより深い谷となる波形となる。これは、上記(7)式に示す通り、三相交流の2倍の周期をもつ周波数成分、つまり位相90[deg]と位相270[deg]とにおいて同位相(例えば、谷)となる波形に、三相交流と同じ周期をもつ周波数成分、つまり位相90[deg]と位相270[deg]とにおいて逆位相(例えば、位相90[deg]で山、位相270[deg]で谷)となる波形が重畳された波形となる。
また、正側アーム10Pの電力積分値EarmPは、三相交流と同じ周期において周期性がある正側アーム10Pの電力ParmPの積分であることから、正側アーム10Pの電力ParmPが正の値となる区間、つまり、位相0[deg]から位相180[deg]を過ぎたあたりの地点まで、単調増加する。また、正側アーム10Pの電力ParmPが負の値となる区間、つまり、位相180[deg]を過ぎたあたりの地点から位相360[deg]の手間付近の地点まで、単調に減少する。これは、正側アーム10Pの電力積分値EarmPは、三相交流と同じ周期において平均値が一定となるが、一周期内において値に変動があることを示している。
制御部50について、図3を用いて説明する。図3は、制御部50の構成図である。図3に示すように、制御部50は、コンデンサバランス制御部51と、交流電流制御部52と、循環電流制御部53と、補正交流電圧生成部54と、PWM部55、56と、加算器a〜cと、乗算器dと、を備える。
コンデンサバランス制御部51は、各アームユニット8におけるそれぞれの変換ユニットCのコンデンサ30の電圧のバランスを調整する。各コンデンサ30の電圧は、実際の電力変換動作においてスイッチングによる電力損失が発生したり、スイッチングタイミングのばらつきや、電圧検出誤差等によってばらつきが生じたりしてしまうためである。なお、コンデンサバランス制御部51の具体的な動作については、非特許文献等で既に知られた技術を用いていることから、ここでは詳細な説明を省略する。
コンデンサバランス制御部51は、電圧センサ31からのコンデンサ電圧を入力し、交流有効電流指令値、つまり力率1である場合における交流電流Iuを算出する。また、コンデンサバランス制御部51は、循環電流バランス分を算出する。循環電流バランス分とは、各コンデンサ30の電圧Vcのばらつきを調整するための電流値である。コンデンサバランス制御部51は、算出した有効電流指令値を、交流電流制御部52に出力する。また、コンデンサバランス制御部51は、算出した循環電流バランス分を、循環電流制御部53に出力する。
交流電流制御部52は、各アームユニット8に流す交流電流Iuを調整する。交流電流制御部52は、コンデンサバランス制御部51からの(実際に流れている)交流電流Iu、および交流電圧Vuに基づいて、交流電流Iuを調整するための交流電圧Vuの指令値(交流電圧指令値)を算出する。つまり、制御部50は、交流電圧Vuを制御することで、交流電流Iuを調整する。交流電流制御部52は、算出した交流電圧指令値を、加算器aに出力する。
循環電流制御部53は、各アームユニット8に流す循環電流Izを調整する。循環電流制御部53には、コンデンサバランス制御部51からの循環電流バランス分に、直流側の電流Idc(直流電流指令値)の1/3を加算した値が入力される。つまり、循環電流制御部53には、三相交流の一周期で各コンデンサ30の電圧Vcの平均値が一定となるような循環電流の指令値が、各コンデンサ30の電圧Vcのばらつきを調整したうえで、入力される。
また、循環電流制御部53には、直流側の電圧Vdc(直流電圧指令値)が入力される。また、循環電流制御部53には、補助循環電流の指令値(補助循環電流指令値)が入力される。補助循環電流は、循環電流Izを補助する電流である。循環電流Izに補助循環電流が加わることにより、コンデンサ30の電圧Vcの平均値を一定に保つだけでなく、コンデンサ30の電圧Vcの変動幅を抑制する。補助循環電流を用いてコンデンサ30の電圧Vcの変動幅を抑制する方法については、後で詳しく説明する。
循環電流制御部53は、(各コンデンサ30の電圧Vcのばらつきを調整した)循環電流Iz、直流側の電圧Vdc、および補助循環電流に基づいて、循環電流Izを調整するための直流電圧Vdcの指令値を算出する。つまり、制御部50は、直流電圧Vdcを制御することで、循環電流Izを調整する。循環電流制御部53は、算出した指令値を、乗算器dに出力する。
乗算器dは、循環電流制御部53からの直流電圧Vdcの指令値に1/2を乗算する。乗算器dは、1/2を乗算した直流電圧Vdcを加算器b、および加算器cに出力する。
補正交流電圧生成部54は、補正交流電圧の指令値を生成する。補正交流電圧は、交流電圧Vuを補正する電圧である。交流電圧Vuに補正交流電圧が加わることにより、コンデンサ30の電圧Vcの変動幅を抑制する。補正交流電圧を用いてコンデンサ30の電圧Vcの変動幅を抑制する方法については、後で詳しく説明する。補正交流電圧生成部54は、生成した補正交流電圧の指令値を、加算器aに出力する。
加算器aは、交流電流制御部52からの交流電圧指令値と、補正交流電圧生成部54からの補正交流電圧の指令値を、加算する。加算器aは、加算した値(補正後の交流電圧Vuの指令値)を、加算器c、および加算器bに出力する。
加算器bは、加算器aからの補正後の交流電圧Vuの指令値に−1を乗算した値と、乗算器dからの1/2を乗算した直流電圧Vdcの指令値と、を加算する。加算器bは、加算した値を、PWM部55に出力する。加算器bが出力する値は、上記(1)式に示す正側アーム10Pの電圧VuPの指令値となる。
PWM部55は、加算器bからの正側アーム10Pの電圧VuPの指令値を、パルス幅に変換し、正側アーム電圧VuPの指令値に対応するパルス信号を生成する。PWM部55は、生成したパルス信号を、正側アーム10Pの変換ユニットCにおけるスイッチング素子22U、22Xに出力する。これにより、スイッチング素子22U、22Xは、パルス信号に基づくオンオフ動作を行う。その結果、正側アーム10Pの電圧VuPは、制御部50が算出した指令値が示す値に制御される。
加算器cは、乗算器dからの1/2を乗算した直流電圧Vdcの指令値と、加算器aからの補正後の交流電圧Vuの指令値と、を加算する。加算器cは、加算した値を、PWM部56に出力する。加算器cが出力する値は、上記(2)式に示す負側アーム10Nの電圧VuNの指令値となる。
PWM部56は、加算器cからの負側アーム10Nの電圧VuNの指令値を、パルス幅に変換し、負側アーム電圧VuNの指令値に対応するパルス信号を生成する。PWM部56は、生成したパルス信号を、負側アーム10Nの変換ユニットCにおけるスイッチング素子22U、22Xに出力する。これにより、スイッチング素子22U、22Xは、パルス信号に基づくオンオフ動作を行う。その結果、負側アーム10Nの電圧VuNは、制御部50が算出した指令値が示す値に制御される。
(補助循環電流、および補正交流電圧を用いてコンデンサ30の電圧Vcの変動幅を抑制する方法)
ここで、補助循環電流および補正交流電圧を用いてコンデンサ30の電圧Vcの変動幅を抑制する方法について、正側アーム10Pを例として説明する。上記(9)式に示す通り、循環電流IzをIdc/3(Iz=Idc/3)とすると、正側アーム10Pの電力ParmPは、以下の(10)式に示す関係となる。
ParmP
=1/2×Vurms×Iurms×cos(2ωt)
+(−√2×Vurms×Idc/3+√2×Iurms×Vdc/4)×sin(ωt) …(10)
一方、コンデンサの静電エネルギーUが1/2×Cap×V2(Capはコンデンサの静電容量、Vはコンデンサの電圧)で表されることから、コンデンサ30の電圧Vcは、以下の(11)式に示す関係となる。ここで、Capはコンデンサ30の静電容量、Vciniはコンデンサ30の初期電圧、EarmPは正側アーム10Pの電力積分値、Nは正側アーム10Pにおけるコンデンサ30の個数、をそれぞれ示す。
Vc=√{2×(Cap×Vcini2/2+EarmP/N)/Cap}
≒Vcini×(1+EarmP/N/Cap/Vcini2) …(11)
上記(11)式では、近似式、1+√x≒1+x/2(x<<1)を用いている。つまり、正側アーム10Pの電力積分値EarmPは、コンデンサ30の個数Nとコンデンサ30の静電容量Capとコンデンサ30の初期電圧Vciniの二乗を掛け合わせた値(N×Cap×Vcini2)よりも十分小さいとみなしている。
上記(11)式から、コンデンサ30の電圧Vcの変動幅ΔVcは、以下の(12)式で表すことができる。ここで、Capはコンデンサ30の静電容量、Vciniはコンデンサ30の初期電圧、EarmPは正側アーム10Pの電力積分値、Nは正側アーム10Pにおけるコンデンサ30の個数、をそれぞれ示す。
ΔVc=ΔEarmP/N/Cap/Vcini …(12)
上記(12)式において、正側アーム10Pの電力積分値EarmPの最大値をmax(EarmP)、正側アーム10Pの電力積分値EarmPの最小値をmin(EarmP)とすると、ΔEarmPは、max(EarmP)‐min(EarmP)である。つまり、(12)式から、コンデンサ30の電圧Vcの変動幅ΔVcは、正側アーム10Pの電力積分値EarmPの変動幅に比例し、変換ユニットCのコンデンサ30の静電容量Capに反比例することが判る。コンデンサ30の静電容量Capは三相交流の一周期において変化しない。従って、正側アーム10Pの電力積分値EarmPの変動幅ΔEarmPを抑制することが、すなわち、コンデンサ30の電圧Vcの変動幅ΔVcを抑制することとなる。
ここで、循環電流Iz、および交流電圧Vuに補助循環電流を加えることにより、電力積分値EarmPの変動幅ΔEarmPを抑制する方法について説明する。
本実施形態において、制御部50は、補助循環電流に三相交流の周波数の偶数倍の周波数成分を持たせる。このとき、循環電流Izは、例えば、以下の(13)式で表すことができる。ここで、Izauxは補助循環電流、I2、I4は所定の定数、ωは三相交流の周波数をそれぞれ示す。
Iz=Idc/3+Izaux …(13)
ただし、Izaux=−I2×cos(2ωt)−I4×cos(4ωt)
また、制御部50は、補正交流電圧に三相交流の周波数の3の奇数倍の周波数成分を持たせる。このとき、交流電圧Vuは、例えば、以下の(14)式で表すことができる。ここで、V3は所定の定数、ωは三相交流の周波数をそれぞれ示す。以下の説明において、このV3を、単にV3、または、係数比率V3ともいう。
Vu=√2×Vurms×{sin(ωt)+V3×sin(3ωt)} …(14)
このとき、正側アーム10Pの電力ParmPは、以下の(15)式で表すことができる。ここで、E(M)は三相交流の周波数ωのM倍の周波数(M次の周波数成分)の振幅に相当する係数である。ただし、Mは自然数である。
ParmP
=VuP×IuP
=(−Vu+Vdc/2)×(+Iu/2+Iz)
={−√2×Vurms×{sin(ωt)+V3×sin(3ωt)}+Vdc/2}
×{+√2×Iurms×sin(ωt)/2+Idc/3−I2×cos(2ωt)−I4×cos(4ωt)}
=E(1)×sin(ωt)+E(2)×sin(2ωt)+E(3)×sin(3ωt)
+E(4)×sin(4ωt)+E(5)×sin(5ωt)
+E(7)×sin(7ωt) …(15)
上記(15)式においては、加法定理に基づく公式、sinα×cosβ=1/2×{sin(α+β)+sin(α−β)}等の関係を用いて、正側アーム10Pの電力ParmPの波形に含まれる周波数成分を表現している。
上記(15)式に示す正側アーム10Pの電力ParmPを積分すると電力積分値EarmPとなる。ここで、電力ParmPにおけるm次の周波数成分は、積分されることより、振幅が1/mとなる。このことから、電力積分値EarmPの変動幅に最も影響を与える係数は、1次の周波数成分における係数E(1)と考えることができる。なお、係数E(1)は、上記公式、sinα×cosβ=1/2×{sin(α+β)+sin(α−β)}に基づき、周波数の差分がωとなる三角関数同士の乗算、例えば、B1×sin(ωt)とB2×cos(2ωt)との乗算、により算出された数(B1×B2)から求めることができる。ここで、B1、B2は所定の実数である。
ここで、以下の定格電圧、および定格電流を仮定する。
Vurms=200/√3 [V]
Iurms=50/√3 [A]
Vdc=350 [V]
Idc=28.6 [A]
ω=50 [Hz]
この場合、電力積分値EarmPの一次の周波数成分の係数EarmP(1)は、以下の(16)式で示される。
EarmP(1)=‐(√2/4×Vdc×Iurms‐√2/3×Vurms×Idc‐√2/2×Vurms×I2+√2/2×Vurms×V3×I2−√2/2×Vurms×V3×I4)/ω
=−(6.42−0.26×I2+0.26×V3×I2−0.26×V3×I4) …(16)
上記(16)式から、I2、I4、およびV3を適切な値とすることで、電力積分値EarmPの一次の周波数成分の係数EarmP(1)が低減させることができる。一次の周波数成分の係数EarmP(1)が低減することで、電力積分値EarmPの変動幅が低減する。つまり、補助循環電流に含まれる周波数成分の振幅I2、I4、および補正交流電圧に含まれる周波数成分の振幅の係数比率V3を適切な値とすることで、コンデンサ30の変動幅が低減する。
補助循環電流に含まれる周波数成分の振幅I2、I4、および補正交流電圧に含まれる周波数成分の振幅の係数比率V3を適切に組合せることによりコンデンサ30の電圧Vcの変動幅を抑制する例を、図5から図7を用いて説明する。
図5から図7は、第1の実施形態の制御部50が行う処理を説明するための第2図から第4図である。図5(a)から図7(a)は、三相交流の一周期における正側アーム10Pの電圧VuP、および電流IuPの変化の一例を示す。図5(b)から図7(b)は、三相交流の一周期における正側アーム10Pの電圧VuP、および電流IuPがそれぞれの図の(a)である場合の、正側アーム10Pの電力ParmP、および電力積分値EarmPの変化の一例を示す。図5(a)から図7(a)の横軸は位相[deg]、縦軸の第1軸は電圧[V]、縦軸の第2軸は電流[A]、をそれぞれ示す。また、図5(b)から図7(b)の横軸は位相[deg]、縦軸の第1軸は電力[W]、縦軸の第2軸は仕事[J]、をそれぞれ示す。
図5の例では、I2=8[A]、I4=0[A]、V3=0[%]である。つまり、循環電流Izは、2次の周波数成分8×cos(2ωt)を含む。
図5(a)に示すように、正側アーム10Pの電流IuPにおいて、循環電流Izが2次の周波数成分8×cos(2ωt)を含まない場合、つまり図4(a)の場合と比較して、正側アーム10Pの電流IuPの変動幅が低減する。なお、正側アーム10Pの電圧VuPにおいては、V3=0[%]であることから、図4(a)の場合と同等の波形となる。
図5(b)に示すように、正側アーム10Pの電力ParmPにおいて、正側アーム10Pの電流IuPの変動幅が低減した分、正側アーム10Pの電力ParmPの変動幅も低減される。また、正側アーム10Pの電力積分値EarmPにおいても、正側アーム10Pの電力ParmPの変動幅が低減した分、正側アーム10Pの電力積分値EarmPの変動幅が低減する。
また、図5の例において、上記(16)式に基づけば、EarmP(1)が−4.34となる。これは、I2=0[A]の場合(EarmP(1)=−6.42)と比較して、1次の係数Earm(1)の絶対値が30%程度低減している。
図6の例では、I2=4[A]、I4=8[A]、V3=0[%]である。つまり、循環電流Izは、2次の周波数成分4×cos(2ωt)、および4次の周波数成分8×cos(4ωt)を含む。
図6(a)に示すように、正側アーム10Pの電流IuPにおいて、循環電流Izが2次の周波数成分8×cos(2ωt)のみを含む場合、つまり図5(a)の場合と比較して、波形の山の部分に4次の周波数成分の谷の部分が加わることで、特に位相0[deg]から180[deg]の区間において正側アーム10Pの電流IuPの変動幅が低減する。このとき、正側アーム10Pの電流IuPの変動幅は約10%低減している。
図6(b)に示すように、正側アーム10Pの電力ParmPにおいて、正側アーム10Pの電流IuPの変動幅が低減した分、位相0[deg]から180[deg]の区間において正側アーム10Pの電力ParmPの変動幅が低減される。しかしながら、この場合、位相180[deg]から360[deg]の区間において正側アーム10Pの電力ParmPの変動幅が増大する。また、正側アーム10Pの電力積分値EarmPにおいては、図5(b)の場合と比較して、正側アーム10Pの電力積分値EarmPの変動幅が微増する。
図6の例において、上記(16)式に基づけば、EarmP(1)が−5.38となる。これは、I2=8[A]の場合と比較して、1次の係数EarmP(1)の絶対値が増加している。
図7の例では、I2=4[A]、I4=8[A]、V3=50[%]である。つまり、循環電流Izは、2次の周波数成分4×cos(2ωt)、および4次の周波数成分8×cos(4ωt)を含み、かつ交流電圧Vuは、3次の周波数成分√2Vurms×0.5×cos(3ωt)を含む。
図7(a)に示すように、正側アーム10Pの電流IuPにおいては、図6(a)の場合と同等である。正側アーム10Pの電圧VuPにおいて、交流電圧Vuが3次の周波数成分を含まない場合、つまり図4(a)の場合と比較して、正側アーム10Pの電圧VuPの変動幅が低減する。もともとの交流電圧Vuに存在していた位相90[deg]、および270[deg]における波形の山に、3次の周波数成分の波形の谷が加えられたためである。
図7(b)に示すように、正側アーム10Pの電力ParmPにおいて、正側アーム10Pの電圧VuPの変動幅が低減した分、正側アーム10Pの電力ParmPの変動幅が低減される。また、正側アーム10Pの電力積分値EarmPにおいても、正側アーム10Pの電力ParmPの変動幅が低減した分、正側アーム10Pの電力積分値EarmPの変動幅が低減する。
図7の例において、上記(16)式に基づけば、EarmP(1)が−4.36となる。これは、I2=8[A]の場合(EarmP(1)=−4.34)と比較して、ほぼ同等の値となる。
図7(b)における正側アーム10Pの電力積分値EarmPと、図5における正側アーム10Pの電力積分値EarmPとを比較すると、図7(b)の正側アーム10Pの電力積分値EarmPの方が、変動幅が低減されている。そこで、上記(15)式から電力積分値EarmPの一次の周波数成分の係数EarmP(3)を導出する。係数EarmP(3)は、以下の(17)式で表せる。
EarmP(3)=−(−√2/3×Vurms×V3×Idc+√2/2×Vurms×I2−√2/2×Vurms×I4)/3/ω
=−(−1.65×V3+0.087×I2−0.087×I4) …(17)
なお、上記(17)式においては、上述したように定格電圧、および定格電流を仮定した値を用いている。
上記(17)式に基づけは、図5の場合、つまりI2=8[A]、I4=0[A]、V3=0[%]である場合、EarmP(3)は、−0.69となる。これに対し、図5の場合、つまりI2=4[A]、I4=8[A]、V3=50[%]である場合、EarmP(3)は、1.17となる。
ここで、EarmP(1)とEarmP(3)の関係を、図8を用いて説明する。図8は、コンデンサ30の電力積分値EarmPに含まれる周波数成分を説明するための図である。図8(a)は、図5の場合、つまりI2=8[A]、I4=0[A]、V3=0[%]である場合における正側アーム10Pの電力積分値EarmPの1次成分、3次成分、および1次成分と3次成分の和をそれぞれ示す。図8(b)は、図7の場合、つまりI2=4[A]、I4=8[A]、V3=50[%]である場合における正側アーム10Pの電力積分値EarmPの1次成分、3次成分、および1次成分と3次成分の和をそれぞれ示す。図8(a)、(b)の横軸は位相[deg]、縦軸は仕事[J]、をそれぞれ示す。
図8(a)に示すように、図5に示す条件(I2=8[A]、I4=0[A]、V3=0[%])の場合、コンデンサ30の電力積分値EarmPにおける1次の周波数成分は、位相0[deg]、および360[deg]が谷、位相180[deg]を山となる正弦波となる。コンデンサ30の電力積分値EarmPにおける3次の周波数成分は、位相0[deg]が谷であり、位相360[deg]までの間に3周期する正弦波となる。これにより、3次の周波数成分は、位相180[deg]で山となる。コンデンサ30の電力積分値EarmPにおける1次、および3次の周波数成分の和は、位相0[deg]、および360[deg]において、それぞれの正弦波の谷同士が加重され、位相180[deg]において、それぞれの正弦波の山同士が加重される。このため、位相0[deg]、180[deg]、および360[deg]におけるそれぞれの値の絶対値が増大する。つまり、電力積分値EarmPの変動幅が増大する。
図8(b)に示すように、図7に示す条件(I2=4[A]、I4=8[A]、V3=50[%])の場合、コンデンサ30の電力積分値EarmPにおける1次の周波数成分は、位相0[deg]、および360[deg]が谷、位相180[deg]を山となる正弦波となる。なお、図8(b)に示す1次成分は、I2、およびI4の成分比率の相違により、図8(a)と比較して、正弦波の振幅がやや増大している。また、コンデンサ30の電力積分値EarmPにおける3次の周波数成分は、位相0[deg]が山であり、位相360[deg]までの間に3周期する正弦波となる。これにより、3次の周波数成分は、位相180[deg]で谷となる。コンデンサ30の電力積分値EarmPにおける1次、および3次の周波数成分の和は、位相0[deg]、および360[deg]において1次の谷と、3次の山とがそれぞれ加重され、位相180[deg]において1次の山と、3次の谷とがそれぞれ加重される。このため、位相0[deg]、180[deg]、および360[deg]において、図8(a)と比較して、それぞれの値の絶対値が低減する。つまり、電力積分値EarmPの変動幅が低減する。
つまり、EarmP(1)とEarmP(3)の符号が異なる符号である場合、電力積分値EarmPの変動幅が低減する方向となる。これは、EarmP(1)とEarmP(5)であっても同様に考えることができ、EarmP(1)とEarmP(5)の符号が異なる符号である場合、電力積分値EarmPの変動幅が低減する。つまり、EarmP(1)とEarmP(s)(ただし、sは3以上の奇数)の符号が異なる符号である場合、電力積分値EarmPの変動幅が低減する。電力積分値EarmPの変動幅が低減することにより、コンデンサ30の電圧Vcにおける変動幅を低減することが可能となる。
以上説明したように、第1の実施形態の電力変換装置1においては、アームユニット8−1〜8−3(「三相交流のそれぞれの相に対応して設けられる少なくとも三つのアームユニット」の一例)を備え、各アームユニット8は、正側アーム10Pと負側アーム10Nが直列に接続されており、正側アーム10Pと負側アーム10Nのそれぞれは、コンデンサ30(「蓄電部」の一例)とスイッチング素子22U、22X(「スイッチング素子」の一例)とを含む少なくとも一つの変換ユニットC(「変換器」の一例)を有し、正側アーム10Pと負側アーム10Nの間の箇所から三相交流のうち一相の電力を入出力するとともに、端部から直流電力を入出力し、アームユニット8に流れる電流のうち正側アーム10Pと負側アーム10Nとで同方向に流れる電流である循環電流Izと、アームユニット8に流れる電流のうち正側アーム10Pと負側アーム10Nとで逆方向に流れる電流である交流電流Iuとが生成されるようにスイッチング素子22U、22Xを制御する制御部50であって、三相交流の周波数ωの偶数倍の周波数成分(2ω、4ω、・・・)が含まれる補助循環電流が、循環電流Izに加わるように、且つ、三相交流の周波数ωの奇数倍(3以上)の周波数成分(3ω、5ω、・・・)が含まれる補助交流電圧に対応する成分が交流電流Iuに加わるように、スイッチング素子22U、22Xを制御する制御部50を更に備える。
これにより、第1の実施形態の電力変換装置1においては、循環電流Izに電力変換のために必要な電流(Idc/3)の他に、補助循環電流として三相交流の周波数ωの偶数倍の周波数成分(2ω、4ω、・・・)を含ませることができる。循環電流Izに相交流の周波数ωの偶数倍の周波数成分(2ω、4ω、・・・)を含ませることにより、各アームユニット8における、それぞれの正側アーム10P、負側アーム10Nを流れる電流IuP、IuNの変動幅を低減することができる。電流の変動幅が低減すれば、電力の変動幅が低減する。電力の変動幅が低減すれば、電力積分値の変動幅が低減する。電力積分値の変動幅は、コンデンサ30の電圧Vcに比例するということができる。従って、循環電流Izに相交流の周波数ωの偶数倍の周波数成分(2ω、4ω、・・・)を含ませることにより、それぞれの正側アーム10P、負側アーム10Nにおけるコンデンサ30の電圧Vcの変動幅を低減させることができる。コンデンサ30の電圧Vcの変動幅が低減することにより、コンデンサ30の静電容量Capを大きくしたり、スイッチング素子22U、22Xの耐電圧を大きくしたりする必要がなく、電力変換装置1の体積や重量が増大することを抑制できる。また、第1の実施形態の電力変換装置1においては、交流電圧Vuに電力変換のために必要な電圧の他に、補正電圧として三相交流の周波数ωの奇数倍(三以上)の周波数成分(3ω、5ω、・・・)を含ませることができる。交流電圧Vuに周波数ωの奇数倍(3以上)の周波数成分(3ω、5ω、・・・)を含ませることにより、各アームユニット8における、それぞれの正側アーム10P、負側アーム10Nの電圧VuP、VuNの変動幅を低減することができる。電圧の変動幅が低減すれば、電力の変動幅が低減する。電力の変動幅が低減すれば、電力積分値の変動幅が低減する。電力積分値の変動幅は、コンデンサ30の電圧Vcに比例するということができるため、交流電圧Vuに周波数ωの奇数倍(3以上)の周波数成分(3ω、5ω、・・・)を含ませることにより、コンデンサ30の電圧Vcの変動幅を低減させることができる。
また、制御部50は、三相交流の周波数ωの二倍と四倍の周波数成分(2ω、4ω)を有する補助循環電流が、循環電流Izに加わるようにスイッチング素子22U、22Xを制御する。基本周波数(例えば、三相交流の周波数ω)のM倍数の周波数成分(Mω)は、積分すると、振幅が1/Mとなる。従って、周波数ωの偶数倍(2M倍)の周波数成分(2Mω)を有する補助循環電流が、電力積分値に与える影響は1/2Mとなる。つまり、周波数ωの偶数倍の周波数成分のうち、二倍と四倍の周波数成分(2ω、4ω)電力積分値に与える影響が大きい。従って、第1の実施形態の電力変換装置1においては、電力積分値に与える影響が大きい二倍と四倍の周波数成分(2ω、4ω)を循環電流Izに加えることができ、各アームユニット8における、それぞれの正側アーム10P、負側アーム10Nにおける電力積分値EarmP、EarmNの変動幅を、より大きく低減することができる。従って、装置のコストやサイズを増大させることなく、回路内の電圧の変動幅を低減させることができる。
また、第1の実施形態の電力変換装置1においては、制御部50は、三相交流の周波数ωの三倍の周波数成分(3ω)を有する補助交流電圧に対応する成分が、交流電流Iuに加わるようにスイッチング素子22U、22Xを制御する。周波数ωの奇数倍(3以上)の周波数成分(3ω、5ω、・・・)のうち、積分した場合に振幅が最も大きい周波数成分は周波数ωの三倍の周波数成分(3ω)である。このため、周波数ωの三倍の周波数成分(3ω)が、最も電力積分値に与える影響が大きい。従って、第1の実施形態の電力変換装置1においては、電力積分値に与える影響が大きい三倍の周波数成分(2ω、4ω)を交流電圧Vuに加えることができ、各アームユニット8における、それぞれの正側アーム10P、負側アーム10Nにおける電力積分値EarmP、EarmNの変動幅を、より大きく低減することができる。
(第2の実施形態)
第2の実施形態について説明する。以下の説明において、第1の実施形態と同じ構成には同じ符号を付し、その説明を省略する。第1の実施形態においては、交流電圧Vuと交流電流Iuの位相が一致している、つまり力率1であるとして説明したが、実際には変換ユニットCのスイッチング動作の状況によっては、交流電圧Vuと交流電流Iuの位相が必ずしも一致するとは限らない。第2の実施形態においては、電力変換装置1は、交流電圧Vuと交流電流Iuの位相の差分が生じた場合であっても、コンデンサ30の電圧Vuの変動幅を低減させるようにスイッチング制御を行う。
図9は、第2の実施形態の制御部50Aの構成図である。図9に示す通り、第2の実施形態では、制御部50Aは、補助循環電流演算部57を備える。
補助循環電流演算部57には、交流電圧Vuの位相に対する交流電流Iuの位相の差分である位相差θと、補正交流電圧生成部54が算出した補助交流電圧と、が入力される。補助循環電流演算部57は、取得した位相差θ、および補助交流電圧に基づいて、補助循環電流におけるI2の値を以下の(18)式の通りに算出する。ここで、V3は補正交流電圧の3次の周波数成分の係数比率、θは交流電圧Vuの位相に対する交流電流Iuの位相の差分、ωは三相交流の周波数、をそれぞれ示す。
I2=(V3×sin3θ−sinθ)×Idc/3×sin(2(ωt−θ))
+(V3×cos3θ−cosθ)×Idc/3×cos(2(ωt−θ)) …(18)
また、補助循環電流演算部57は、取得した位相差θに基づいて、補助循環電流におけるI4の値を以下の(19)式の通りに算出する。ここで、V3は補正交流電圧の3次の周波数成分の係数比率、θは交流電圧Vuの位相に対する交流電流Iuの位相の差分、ωは三相交流の周波数、をそれぞれ示す。
I4=−V3×sin3θ×Idc/3×sin(4(ωt−θ))
+V3×cos3θ×Idc/3×cos(4(ωt−θ)) …(19)
補助循環電流演算部57は、上記の(18)、(19)式に基づいて、I2とI4とをそれぞれ算出し、補助循環電流指令値を生成する。上記(18)、(19)式に示すI2、I4に基づく補助循環電流が加えられた循環電流Izを用いた場合、電力ParmPを算出した際には、位相差θをもつ成分が相殺される。つまり、電力ParmPに、位相差θが影響しない。補助循環電流演算部57は、生成した補助循環電流指令値を、循環電流制御部53に出力する。
なお、位相差θは、制御部50、または図示しない位相差算出部等により算出される。例えば、制御部50は、計器用変圧器5から取得した交流電源2の電圧、および電流から変圧器6による電圧差分を換算して交流電圧Vu、および交流電流Iuを取得する。または、制御部50は、変圧器6と各アームユニット8との間に設けられた図示しない電圧センサ、および電流センサにより交流電圧Vu、および交流電流Iuを取得してもよい。制御部50は、取得した交流電圧Vu、および交流電流Iuから、交流電圧Vuの位相に対する交流電流Iuの位相の差分である位相差θを算出する。
以上説明したように、第2の実施形態の電力変換装置1においては、補助循環電流演算部57(「制御部」の一例)は、三相交流における交流電力の電圧Vuと電流Iuとの位相差θ、および補正交流電圧の3次の周波数成分の係数比率V3(「補助交流電圧」の一例)に基づいて、補助循環電流を算出し、算出した補助循環電流が循環電流Izに加わるようにスイッチング素子22U、22Xを制御する。これにより、第2の実施形態の電力変換装置1においては、三相交流における交流電力の電圧Vuと電流Iuとに位相差θが生じた場合であっても、補助循環電流演算部57が、電力積分値に位相差θが影響しないように、補助循環電流におけるI2、およびI4を算出することができる。電力積分値が、位相差θに依存しないため、位相差θの有無にかかわらず、電力積分値の変動幅を低減することができる。従って、第2の実施形態の電力変換装置1は、第1の実施形態と同様の効果を奏する他、三相交流の電圧と電流に位相差が生じた場合であっても、コンデンサ30の電圧Vcの変動幅を低減することができる。
(第3の実施形態)
第3の実施形態について説明する。以下の説明において、第1の実施形態と同じ構成には同じ符号を付し、その説明を省略する。第1の実施形態(特に、図8)において、補正交流電圧の3次の周波数成分の係数比率V3を適切な値とすることよって、コンデンサ30の電圧Vuの変動幅を低減させることを説明した。図8に示す通り、係数比率V3が大きいほど、コンデンサ30の電圧Vuの変動幅をより大きく低減させることが可能となる。しかし、交流電圧Vuに加えることができる補正交流電圧の量は、スイッチング素子やコンデンサ30の耐電圧、変換ユニット数によって決定される、正側アーム10Pおよび負側アーム10Nそれぞれのアームが出力することが許容される電圧の範囲によって制限される。第3の実施形態では、それらの制限を考慮した上で、コンデンサ30の電圧Vuの変動幅をより低減させる。
第3の実施形態においては、補正交流電圧生成部54は、補正交流電圧の指令値を生成する際に、三相交流の周波数ωの3倍の周波数成分の他、周波数ωの9倍、15倍等の三の奇数倍に相当する倍数の周波数成分が含まれるようにする。
図10は、第3の実施形態の制御部50が行う処理を説明するための図である。図10(a)、(b)は、三相交流の一周期における正側アーム10Pの電圧VuPの変化の一例を示す。図10(a)、(b)の横軸は位相[deg]、縦軸は電圧[V]をそれぞれ示す。
図10(a)の例では、係数比率V3を53%としている。例えば、アームに出力させることが許容される電圧の範囲が0〜350[V]である場合、位相45[deg]の近傍において、正側アーム10Pの電圧Vupが、正側アーム10Pに出力させることが許容される電圧の範囲の下限を下回ってしまう。
図10(b)の例では、係数比率V3を53%としたことに加えて、V9を3%、およびV15を4.5%としている。ここで、V9は補正交流電圧の9次の周波数成分の係数比率、V15は補正交流電圧の15次の周波数成分の係数比率である。
補正交流電圧を、係数比率V3の成分の他、係数比率V9、V15を適切に加えることにより、3次の周波数成分をもつ正弦波の山となる部分に、9次、または15次の周波数成分をもつ正弦波の谷を加えることができ、3次の正弦波の山の部分をより平らな波形とすることができる。図10(b)の例では、図10(a)の例でアームに出力させることが許容される電圧の範囲を下回っていた部分(位相45[deg]等)を、より平坦な波形とすることができる。これにより、係数比率V3を小さな値に変更することなく、アームの出力が、アームに出力させることが許容される電圧の範囲の範囲外となってしまうことを抑制できる。なお、係数比率V9、V15それぞれの比率は、三相交流の電圧Vuやアームに出力させることが許容される電圧の範囲などによって決定してよい。
以上説明したように、第3の実施形態の電力変換装置1においては、補正交流電圧生成部54は、(「制御部」の一例)は、三相交流の周波数ωの三の奇数倍(3ω、9ω、15ω・・・)の周波数成分を有する補助交流電圧を算出し、制御部50は、補正交流電圧生成部54が算出した補助交流電圧に対応する成分が交流電流Iuに加わるようにスイッチング素子22U、22Xを制御する。これにより、第3の実施形態の電力変換装置1においては、三相交流の周波数ωの三倍の周波数(3ω)を含めた場合に、正側アーム10Pの電圧VuP、および負側アーム10Nの電圧VuNが、アームに出力させることが許容される電圧の範囲を逸脱した場合であっても、周波数ωの三の奇数倍の周波数(9ω、15ω、・・・)を加えることができるため、周波数ωの三倍の周波数(3ω)の振幅を小さく変更することなく、正側アーム10Pの電圧VuP、および負側アーム10Nの電圧VuNを、アームに出力させることが許容される電圧の範囲の範囲内とすることができる。従って、第3の実施形態の電力変換装置1は、第1の実施形態と同様の効果を奏する他、交流電圧が定格電圧を超えないように制御することができる。
(第4の実施形態)
第4の実施形態について説明する。以下の説明において、第1の実施形態と同じ構成には同じ符号を付し、その説明を省略する。第3の実施形態において、補正交流電圧に周波数ωの3倍の周波数成分のみを加えた場合に、正側アーム10Pの電圧VuP、および負側アーム10Nの電圧VuNが、アームに出力させることが許容される電圧の範囲を逸脱した場合でも、補正交流電圧に、さらに周波数ωの9倍、15倍の周波数成分を加えることでアームに出力させることが許容される電圧の範囲の範囲外となってしまうことを抑制できることを説明した。第4の実施形態においては、係数比率V3、V9、V15の相対的な関係を用いることなく、補正交流電圧を加えた場合の電圧が、アームに出力させることが許容される電圧の範囲の範囲内となるように制御した上で、コンデンサ30の電圧Vuの変動幅をより低減させる。
第4の実施形態においては、三相交流のそれぞれの交流電圧Vu、Vv、Vwのうち、絶対値が2番目に大きい相の電圧に基づいて、交流電圧の補正値を算出する。2番目に大きい相の電圧を用いているのは、1、3番目の相では、第1の実施形態(特に、図8)において説明したEarmP(1)とEarmP(3)の符号が、同じとなるためである。つまり、1、3番目の相を補正すると、コンデンサ30の電圧Vuの変動幅をより増大させる方向に補正することになるため、変動幅を低減させる効果が得られないためである。
図11は、第4の実施形態の制御部50Bの構成図である。図11に示すように、第4の実施形態では、補正交流電圧生成部54Bには、交流電流制御部52から交流電圧Vuの指令値(交流電圧指令値)が入力される。また、補正交流電圧生成部54Bには、補助循環電流を加えた循環電流Izに対応する直流電圧Vdcの指令値(調整後の直流電圧指令値)が、循環電流制御部53から入力される。
補正交流電圧生成部54Bは、入力した交流電圧Vu指令値、および直流電圧Vdcの指令値に基づいて、補正交流電圧を算出し、算出した補正交流電圧に対応する補正交流電圧指令値を出力する。
ここで、補正交流電圧生成部54Bが、補正交流電圧指令値を生成する方法について、図12を用いて説明する。図12は、補正交流電圧生成部54Bの構成図である。図12に示すように、補正交流電圧生成部54Bは、相判定部541と、生成部547と、を備える。
相判定部541は、三相交流の各相の交流電圧指令値に基づいて、三相交流の各相の交流電圧Vu、Vv、Vwのうち、2番目に大きい電圧となる相を判定する。図12に示すように、相判定部541は、絶対値算出部542と、最大最小判定部543と、加算器544と、加算部545と、相判定部546とを備える。
絶対値算出部542は、交流電圧Vu、Vv、Vwの絶対値を算出する。最大最小判定部543は、絶対値算出部542からのそれぞれの絶対値のうち、最大値と、最小値を検出する。加算部545は、絶対値検出部542からのそれぞれの絶対値を加算する。加算器544は、加算部545からのそれぞれの絶対値を加算した値から、それぞれの絶対値のうち、最大値と最小値とを減算する。つまり、加算器544から出力される値は、交流電圧Vu、Vv、Vwの絶対値のうち2番目に大きい値である。
相判定部546には、加算器544から出力される値と、交流電圧Vu、Vv、Vwの指令値とが入力される。相判定部546は、加算器544から出力される値と絶対値が一致するものを、交流電圧Vu、Vv、Vwそれぞれの指令値から選択する。そして、相判定部546は、選択した値が交流電圧のどの相であるか判定する。つまり、相判定部546は、三相交流の各相の交流電圧Vu、Vv、Vwのうち、2番目に絶対値が大きい相を判定する。相判定部546は、相を判定した結果である相判定結果を、生成部547に出力する。
生成部547は、三相交流の各相の交流電圧Vu、Vv、Vwのうち、2番目に絶対値が大きい相(以下、中間相)に対し、中間相の値が正の値であれば正の最大値、中間相の値が負の値であれば負の最小値となるような補正値を算出し、算出した補正値を、補正交流電圧の指令値として出力する。
図12に示すように、生成部547は、乗算選択部548と、選択制御部549と、加算器eと、を備える。生成部547には、相判定部541が判定した相の交流電圧指令値、および循環電流制御操作量が、入力される。つまり、交流電圧Vu、Vv、Vwのうち2番目に絶対値が大きい相がU相である場合、生成部547は、U相の交流電圧Vuの指令値、およびU相の循環電流制御操作量が入力される。生成部547は、循環電流制御操作量を、循環電流制御部53から取得する。
乗算選択部548は、中間相の循環電流制御操作量に、1/2と、−1/2とをそれぞれ乗算する。乗算選択部548は、選択制御部549からの制御に従い、中間相の循環電流制御操作量に1/2を乗算した値、または−1/2を乗算した値のいずれかを、加算器eに出力する。
選択制御部549は、選択相の電圧の符号を取得し、取得した符号が正の値である場合には、乗算選択部548から中間相の循環電流制御操作量に1/2を乗算した値を出力させる。また、選択制御部549は、取得した符号が負の値である場合には、乗算選択部548から中間相の循環電流制御操作量に−1/2を乗算した値を出力させる。
加算器eは、乗算選択部548から出力される値から、中間相の電圧を減算する。具体的には、加算器eは、選択相の電圧が正の値である場合、中間相の循環電流制御操作量に1/2を乗算した値から中間相の電圧を減算した値を算出する。
図13は、第4の実施形態の制御部が行う処理を説明するための第1図である。図13(a)は、三相交流における各相の交流電圧を示す。図13(b)は、図13(a)に示す場合に相判定部546が判定した相判定結果を示す。図13(c)は、生成部547が出力する補正交流電圧の指令値を示す。図13(a)〜(c)のそれぞれの横軸は位相を示す。図13(a)の縦軸は、指令値に相当する電圧を示す。図14(a)の縦軸は、相を示し、1がr相(U相)、2がs相(V相)、3がt相(W相)をそれぞれ示す。図13(a)の縦軸は、指令値に相当する電圧を示す。
図13(a)に示すように、三相交流における各相の交流電圧は、互いに位相が120[deg]ずれている。図13(b)に示すように、中間相は、位相0[deg]から順番に、t相、r相、s相の順に変化する。図13(c)に示すように、補正交流電圧の指令値は、中間相が正である場合には、正の値であって、最大値と中間相の値との差分が出力される。また、補正交流電圧の指令値は、中間相が負である場合には、負の値であって、最小値と中間相の値との差分が出力される。
図14は、第4の実施形態の制御部が行う処理を説明するための第2図である。図14(a)は、補正後の三相交流の一周期における正側アーム10Pの電圧VuP、および電流IuPの変化の一例を示す。図14(b)は、三相交流の一周期における正側アーム10Pの電圧VuP、および電流IuPが、図14(a)である場合の、正側アーム10Pの電力ParmP、および電力積分値EarmPの変化の一例を示す。図14(a)、(b)の横軸は位相[deg]をそれぞれ示す。図14(a)の縦軸の第1軸は電圧[V]、縦軸の第2軸は電流[A]、をそれぞれ示す。図14(b)の縦軸の第1軸は電力[W]、縦軸の第2軸は仕事[J]、をそれぞれ示す。
図14(a)に示すように、補正後の電圧VuPは、自身の相が中間相である場合、電圧VuPは上限、または下限に張り付く波形となる。また、他の相が中間相である場合には、その中間相の値に基づいて算出された値で補正される。補正後の電圧VuPは、正弦波であった補正前の電圧VuPよりもより急峻に下限値となり、その後、下限値に張り付くような、独特な波形となる。補正後の電圧VuPの変動幅は、許容される電圧の上下限であることから低減していないが、下限に張り付いた後、位相90[deg]を中心とした所定区間において電圧VuPがゼロ電圧に近づくため、電圧VuPを積分した場合に、単調に減少せず、減少と増加を繰り返すことになり、電力積分値の変動幅は低減する方向となる。なお、電流IuPは、I2=4[A]、I4=8[A]である場合の例を示す。
なお、補正後の電圧VuPは、補正前の正弦波とは異なる波形となるが、三相がそれぞれ、同じ補正値に基づいて補正されることから、三相それぞれの線間電圧は、補正の前後で変化しない。つまり、補正後に、三相交流としての性能が劣化することはない。
図14(b)に示すように、補正後の電力ParmPは、独特の波形となり、一周期において、正の値と負の値とが、交互に同量程度の振幅で振れている。補正後の電力積分値EarmPは、電力ParmPが交互に同量程度の振幅で振れていることから、増加し続けたり減少し続けたりすることなく、台形のような波形となり、変動幅が低減する。
以上説明したように、第4の実施形態の電力変換装置1においては、制御部50は、アームユニット8−1〜8−3(「少なくとも三つのアームユニット」の一例)それぞれに入力される交流電力の電圧(Vu、Vv、Vw)うち、振幅の絶対値が二番目に大きい中間相に対し、中間相の電圧が正の値である場合、中間相の電圧が、正側直流端子3(「アームユニットの正側の端部である正側直流端子」の一例)と負側直流端子4(「アームユニットの負側の端部である負側直流端子」の一例)との間の直流電圧に相当する値となるようにスイッチング素子22U、22Xを制御する。また、制御部50は、中間相の電圧が負の値である場合、中間相の電圧がゼロ電圧に相当する電圧となるように、スイッチング素子22U、22Xを制御する。
これにより、第4の実施形態の電力変換装置1においては、制御部50は、交流電圧に加える補正電圧を、係数比率V3等を用いて算出する手間をかけることなく、アームユニット8の電力積分値(例えば、EarmP)の変動幅を低減することができる。また、中間相を、電圧の上限、または下限に張り付けるように補正した場合、中間相のアームユニットの制御は、全てのスイッチング素子22U、22Xがオン、またはオフとなる。このため、スイッチング制御に起因する高周波の発生などの劣化要因を抑制することができる。従って、第4の実施形態の電力変換装置1は、第1の実施形態と同様の効果を奏する他、複雑な演算処理を行うことなく容易に、かつ精度よく回路内の電圧の変動幅を低減させることができる。
(第5の実施形態)
第5の実施形態について、説明する。以下の説明において、第1の実施形態と同じ構成には同じ符号を付し、その説明を省略する。図15は、第5の実施形態について、説明する図である。図15に示すように、第5の実施形態では、変圧器6、およびバッファリアクトル40(40P,40N)に代えて、三巻線変圧器6Aを備える。U相、V相、及びW相の三巻線変圧器6Aは、スター結線されている。三巻線変圧器6Aは、三相交流側と接続される交流系統側巻線と、正側アーム10Pと負側アーム10Nとの間に直列接続される第1の直流系統側巻線、および第2の直流系統側巻線と、不図示の鉄心とを有する。それぞれの巻線は、鉄心に巻回されている。第1の直流系統側巻線と第2の直流系統側巻線は、巻き数が等しく、負極性が互いに接続されることで逆極性を有する。
また、三巻線変圧器6Aは、三相各相の第1の直流系統側巻線と第2の直流系統側巻線との間に中性線を有する。中性線は、3相各相の第1の直流系統側巻線と第2の直流系統側巻線との間から延びて互いに結線しており、U相、V相およびW相の三巻線変圧器6Aを互いに接続している。
このように、変圧器6、およびバッファリアクトル40を、三巻線変圧器6Aに代えたことで、電力変換装置1内の直流電流Idcは、正側アーム10Pから第1の直流系統側巻線、第2の直流系統側巻線を介して負側アーム10Nへ流れる。従って、第1の直流系統側巻線、第2の直流系統側巻線が逆極性で直列接続されているので、それぞれ流れる直流電流Idcによる直流起磁力は、互いに逆極性になって打ち消し合い、鉄心内に直流磁束が生じない。更に、同一相内で直流起磁力を打ち消すことができるため、事故時などに交流系統に不平衡が生じた場合でも、三巻線変圧器6Aの鉄心は偏磁や飽和せずに動作することができる。
なお、第5の実施形態で用いた変圧器は三巻線変圧器6Aであったが、系統へ流出する高調波を抑制することを目的とした4巻線変圧器を用いてもよい。
以上、説明したように、第5の実施形態の電力変換装置1Aにおいては、正側アーム10Pと負側アーム10Nとの間に設けられた三巻線変圧器6Aをさらに備え、三巻線変圧器6Aは、三相交流に接続される交流系統側巻線と、正側アーム10Pと負側アーム10Nとの間に逆極性で直列接続された第1の直列系統側巻線、および第2の直列系統側巻線と、を有する。これにより、バッファリアクトル40を接続する必要なくなり、装置の小型化及び低コスト化を図ることができる。また、このような、三巻線変圧器6Aを備えた電力変換装置1Aに対しても、他の実施形態と同様に、コンデンサ30の電圧Vuの変動幅を低減させることができる。従って、第5の実施形態の電力変換装置1は、第1の実施形態と同様の効果を奏する他、電力変換装置1のサイズを低減させることができる。
(第6の実施形態)
第6の実施形態について説明する。以下の説明において、第1の実施形態と同じ構成には同じ符号を付し、その説明を省略する。図16は、第6の実施形態について、説明する図である。図16に示すように、第6の実施形態では、正側直流端子3と負側直流端子4を分割して中性点電位を作るための直列接続された第1及び第2のコンデンサ70P、70Nを有する。それぞれのコンデンサ70P、70Nと並列に2つのスイッチング素子を直列に接続して構成されるスイッチングレグ60P、60Nを接続する。
第1のコンデンサ70Pと並列に接続されたスイッチングレグ60Pの出力端子と第2のコンデンサ70Nと並列に接続されたスイッチングレグ60Nの出力端子との間に、変換ユニットCを直列接続して構成される正側アーム10Pおよび負側アーム10Nを有するアームユニット8A(U相のアームユニット8A−1、V相のアームユニット8A−2、W相のアームユニット8A−3)を接続する。変換ユニットCの直列数は、第1の実施形態の電力変換装置1と比較して、1/2でよい。正側アーム10Pと負側アーム10Nの接続点が交流出力点となる。
次に第6の実施形態の電力変換装置1Aの動作について説明する。2つのスイッチングレグ60P、60Nは、交流電圧Vuが正の半周期は上側のスイッチング素子をオン、下側のスイッチング素子をオフにする。一方、負の半周期は下側のスイッチング素子をオン、上側のスイッチング素子をオフにする。これにより、2つのスイッチングレグ60P、60Nの出力端子の間には、交流電圧が正の半周期は、上側のコンデンサ70Pの電圧が出力され、負の半周期は、下側のコンデンサ70Nの電圧が出力される。2つのコンデンサ70P、70Nの電圧は、正側直流端子3と負側直流端子4との間の直流電圧Idcのおよそ1/2の電圧であるため、結果として2つのスイッチングレグ60P、60Nの出力端子の間は直流電圧のおよそ1/2となる。
正側アームの出力電圧は、以下の(20)、(21)式で表すことができる。 また、負側アームの出力電圧は、以下の(22)、(23)式で表すことができる。ここで、Vuは三相交流の電圧、Vdcは直流電圧、ωは三相交流の周波数、をそれぞれ示す。
VuP=−Vu+Vdc/4・・(0[deg]<ωt<180[deg]) …(20)
VuP=Vu ・・(180[deg]<ωt<360[deg]) …(21)
VuN=Vu ・・(0[deg]<ωt<180[deg]) …(22)
VuN=−Vu+Vdc/4・・(180[deg]<ωt<360[deg]) …(23)
図17に通常の動作波形を示す。図18に第1の実施形態の制御部50によりコンデンサ30の変動幅が低減するように制御した場合の動作波形を示す。図17(a)、18(a)は、三相交流の一周期における正側アーム10Pの電圧VuP、および電流IuPの変化の一例を示す。図17(b)、18(b)は、三相交流の一周期における正側アーム10Pの電圧VuP、および電流IuPが図17(a)、18(a)である場合の正側アーム10Pの電力ParmP、および電力積分値EarmPの変化の一例を示す。図17(a)、18(a)の横軸は位相[deg]、縦軸の第1軸は電圧[V]、縦軸の第2軸は電流[A]、をそれぞれ示す。また、図17(b)、18(b)の横軸は位相[deg]、縦軸の第1軸は電力[W]、縦軸の第2軸は仕事[J]、をそれぞれ示す。
図17(a)に示すように、正側アーム10Pの電圧VuPが、位相180[deg]において、オフセット(+Vdc/4)が切り替わるため、電圧VuPは、第1の実施形態の電力変換装置1と比較して、1/2の範囲に出力される。つまり、電圧VuPの変動幅は、低減する。また、図17(b)に示すように、電力ParmPは、位相180[deg]において、電圧VuPの変化に伴う変化が生じる。電力積分値EarmPは、位相180[deg]で最大となる。
本実施形態においても、循環電流は系統電圧の偶数倍の周波数成分をもつ補助循環電流を含み、かつ、交流電圧は、通常の電力変換に必要な電圧の他に、系統電圧の3以上の奇数倍の周波数成分を含んだ場合に、コンデンサ電圧脈動幅を小さくすることが可能となる。たとえば、I2=4A、I4=8A、V3=50%の場合の波形を図18に示す。さらに、2つのスイッチングレグの出力端子の間は直流電圧のおよそ1/2となることから単位変換器の直列数は、第1の実施形態の電力変換装置1と比較して、1/2でよく、コンデンサそのものの数を低減でき、より小型化とすることが可能になる。
図16では、スイッチングレグ60P、60Nに用いるスイッチング素子は1つとしたが、2つ以上のスイッチング素子を直列に接続し、同じタイミングでスイッチングさせてもよい。通常、第1及び第2のコンデンサ70P、70Nと並列に接続したスイッチングレグ60P、60Nに用いるスイッチング素子と変換ユニットCを構成するスイッチング素子22U、22Xの電圧定格は異なる。そのため、異なる電圧定格のスイッチング素子が必要となり、コスト増加をまねく。これに対し、変換ユニットCを構成するスイッチング素子22U、22Xを直列に接続してスイッチングレグ60P、60Nを構成してもよい。これにより、電力変換装置1Bを構成するスイッチング素子を単一とすることができ、コストを低減することが出来る。
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、アームユニット8−1〜8−3を備え、各アームユニット8は、正側アーム10Pと負側アーム10Nが直列に接続されており、正側アーム10Pと負側アーム10Nのそれぞれは、コンデンサ30とスイッチング素子22U、22Xとを含む少なくとも一つの変換ユニットCを有し、正側アーム10Pと負側アーム10Nの間の箇所から三相交流のうち一相の電力を入出力するとともに、端部から直流電力を入出力し、アームユニット8に流れる電流のうち正側アーム10Pと負側アーム10Nとで同方向に流れる電流である循環電流Izと、アームユニット8に流れる電流のうち正側アーム10Pと負側アーム10Nとで逆方向に流れる電流である交流電流Iuとが生成されるようにスイッチング素子22U、22Xを制御する制御部50であって、三相交流の周波数ωの偶数倍の周波数成分(2ω、4ω、・・・)が含まれる補助循環電流が、循環電流Izに加わるように、且つ、三相交流の周波数ωの奇数倍(3以上)の周波数成分(3ω、5ω、・・・)が含まれる補助交流電圧に対応する成分が交流電流Iuに加わるように、スイッチング素子22U、22Xを制御する制御部50を更に備える。
これにより、実施形態の電力変換装置1においては、循環電流Izに電力変換のために必要な電流(Idc/3)の他に、補助循環電流として三相交流の周波数ωの偶数倍の周波数成分(2ω、4ω、・・・)を含ませることができる。循環電流Izに相交流の周波数ωの偶数倍の周波数成分(2ω、4ω、・・・)を含ませることにより、各アームユニット8における、それぞれの正側アーム10P、負側アーム10Nを流れる電流IuP、IuNの変動幅を低減することができる。電流の変動幅が低減すれば、電力の変動幅が低減する。電力の変動幅が低減すれば、電力積分値の変動幅が低減する。電力積分値の変動幅は、コンデンサ30の電圧Vcに比例するということができる。従って、循環電流Izに相交流の周波数ωの偶数倍の周波数成分(2ω、4ω、・・・)を含ませることにより、それぞれの正側アーム10P、負側アーム10Nにおけるコンデンサ30の電圧Vcの変動幅を低減させることができる。コンデンサ30の電圧Vcの変動幅が低減することにより、コンデンサ30の静電容量Capを大きくしたり、スイッチング素子22U、22Xの耐電圧を大きくしたりする必要がなく、電力変換装置1の体積や重量が増大することを抑制できる。また、第1の実施形態の電力変換装置1においては、交流電圧Vuに電力変換のために必要な電圧の他に、補正電圧として三相交流の周波数ωの奇数倍(三以上)の周波数成分(3ω、5ω、・・・)を含ませることができる。交流電圧Vuに周波数ωの奇数倍(3以上)の周波数成分(3ω、5ω、・・・)を含ませることにより、各アームユニット8における、それぞれの正側アーム10P、負側アーム10Nの電圧VuP、VuNの変動幅を低減することができる。電圧の変動幅が低減すれば、電力の変動幅が低減する。電力の変動幅が低減すれば、電力積分値の変動幅が低減する。電力積分値の変動幅は、コンデンサ30の電圧Vcに比例するということができるため、交流電圧Vuに周波数ωの奇数倍(3以上)の周波数成分(3ω、5ω、・・・)を含ませることにより、コンデンサ30の電圧Vcの変動幅を低減させることができる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。