JP2018187662A - Tig溶接装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】タッチスタート方式において被溶接材に加わるトーチ荷重の軽減性および安定性を大きく向上させる。
【解決手段】溶接ヘッド10は、剛性の直進可動部12と、この直進可動部12を鉛直方向で直進移動させる昇降駆動タワー14と、直進可動部12上に鉛直方向で移動可能に搭載されるトーチ16とを有する。直進可動部12の多用途支持部22に回転可能に取り付けられているバランスアーム28の一端部はトーチボディ30に結合され、その他端部にはバランスウエイト98が取り付けられる。モーメント調整部105により、バランスウエイト98の重量モーメントは可変に調整できるようになっている。
【選択図】 図1

Description

本発明は、タッチスタート方式のTIG溶接装置に関する。
従来より、小型電気部品の端子部材同士の接合あるいは端子部材と導線との接合には、非消耗型のトーチ電極(タングステン電極棒)を使用するTIG溶接法が多く用いられている。
非消耗型のトーチ電極を使用するTIG溶接法において、アーク放電を開始する手法には、スタート時に高周波放電により絶縁破壊を起こしてアークに移行させる高周波発生方式と、スタート時だけトーチ電極と母材つまり被接合材との間に通常10kV以上の高電圧を印加して絶縁破壊を起こしアークに移行させる直流高電圧印加方式と、高周波を使わずにトーチ電極を被接合材に接触させて通電を開始した後に引き離してアーク放電を発生させるタッチスタート(またはリフトスタート)方式の3種類がある。高周波発生方式や直流高電圧印加方式は、高周波または高電圧を発生する高圧電源を必要とするために溶接機のコストが高くつくことや、高周波または高電圧のノイズが当該電気回路の電気部品や周囲の電子機器に悪い影響を及ぼすことが、多くの溶接現場で嫌がられている。この点、タッチスタート方式は、高周波電源や高圧電源を使用しないため、溶接機のコストを下げることができるうえ、高周波ノイズの問題がない(特許文献1)。
特開2000−71074号公報 特開2015−128787号公報
もっとも、タッチスタート方式においては、トーチ電極が被溶接材に上から接触する際に、トーチ電極の自重だけでなく、トーチ電極を保持するトーチボディの自重、さらにはトーチボディに接続されている用力(溶接電流、ガス)供給ケーブルの重量等も被溶接材に加わり、その総重量(以下、「トーチ荷重」と称する。)が1000g重を超えることもめずらしくない。このため、小型精密電子部品の端子部材のような物理的強度の低い被溶接材は、タッチスタートの際に受けるトーチ荷重によって折曲または破損することがある。
この問題に対して、従来は、トーチボディとこれを支持して昇降移動する直進駆動部との間に圧縮コイルばねを介在させて、トーチ荷重を圧縮コイルばねに吸収させることにより、タッチスタート方式において被溶接材に加わるトーチ荷重を軽減するようにしている(特許文献2の第7図および第8図参照)。
しかしながら、上記の従来技術は、圧縮コイルばねの弾性変形に基づく反作用を利用する方式であるため、ばね定数の対荷重特性や経時劣化の影響を受けやすく、実際にはトーチ荷重を100g重程度にまでしか軽減できない。また、トーチ荷重のうち用力供給ケーブル分の重量はそのケーブルのトーチボディ付近の引き回しの状態に応じて変動し、それによってタッチスタートを繰り返す度にトーチ荷重がばらつきやすく、この点も従来技術の問題点であった。
タッチスタート方式においては、被溶接材に加わるトーチ荷重が十分に小さくないと、物理的な強度の低い被溶接材の中には折曲または破損しなくても大きく撓むものがあり、この場合にもアーク溶接の品質に支障が生じやすい。すなわち、トーチ荷重によって被溶接材が大きく撓む場合は、タッチスタートで通電を開始してからトーチ電極を引き上げる際に、トーチ電極の先端と撓みから戻る被溶接材との間に最適な離間距離を設ける制御は非常に難しく、トーチ荷重がばらつくと益々難しくなる。精細なアーク溶接が求められるアプリケーションにおいては、トーチ電極の先端と被溶接材との間に適正な離間距離ないしアーク長を確保する必要があり、この要件が満たされないときは、アークの集中性ないし入熱が不安定になり、アーク溶接の品質低下の原因となる。
本発明は、上述のような従来技術の問題点を解決するものであり、タッチスタート方式において被溶接材に加わるトーチ荷重の軽減性および安定性を大きく改善して、アーク溶接の品質を向上させるTIG溶接装置を提供する。
本発明の第1の観点におけるTIG溶接装置は、トーチ電極を着脱可能に装着して保持する筒状のトーチボディと、タッチスタート方式において前記トーチ電極の先端と被溶接材との間で通電を行い、またはアークを発生させるために、前記トーチ電極と前記被溶接材とを含む閉回路内で電流を流す溶接電源と、鉛直方向で移動可能な直進可動部と、前記直進可動部を直進移動させるための駆動部と、前記直進可動部に支点を介して鉛直な面内で回転可能に取り付けられ、一端部が前記トーチボディに接続され、他端部にバランスウェイトが取り付けられるバランスアームと、前記バランスウェイトの重量モーメントを可変に調整するためのモーメント調整部とを有する。
上記の装置構成においては、直進可動部に支点を介してバランスアームを鉛直な面内で回転可能に取り付け、バランスアームの一端部をトーチボディに結合し、他端部にバランスウェイトを取り付けるともに、バランスウェイトの重量モーメントを可変に調整するためのモーメント調整部を備える構成により、トーチボディ側の重量モーメントとバランスウエイト側の重量モーメントとのバランスを自由かつ精細に調整することが可能であり、タッチスタート方式において被溶接材に加わるトーチ荷重を非常に小さな所望の荷重に軽減することができる。
本発明のTIG溶接装置によれば、上記のような構成および作用により、タッチスタート方式において被溶接材に加わるトーチ荷重の軽減性および安定性を大きく改善して、アーク溶接の品質を向上させることができる。
本発明の一実施形態におけるTIG溶接装置の溶接ヘッドを示す斜視図である。 上記TIG溶接装置の本体ユニットを示す斜視図である。 実施形態における被溶接材の一例を示す斜視図である。 実施形態におけるトーチの要部の構成を示す部分断面図である。 図4のA−A線についての断面図である。 実施形態におけるTIG溶接方法の一段階の状態を示す図である。 実施形態におけるTIG溶接方法の一段階の状態を示す図である。 実施形態におけるTIG溶接方法の一段階の状態を示す図である。 実施形態におけるTIG溶接方法の一段階の状態を示す図である。 実施形態におけるTIG溶接方法の一段階の状態を示す図である。 実施形態におけるモーメント調整部の一変形例を示す図である。 上記一変形例のモーメント調整部における要部の分解斜視図である。 実施形態におけるモーメント調整部の別の実施例を示す図である。
以下、添付図を参照して本発明の好適な実施形態を説明する。
[装置全体の構成]
図1および図2に、本発明の一実施形態におけるTIG溶接装置の溶接ヘッドおよび本体ユニットの構成をそれぞれ示す。
図1において、溶接ヘッド10は、主要な構成要素として、たとえば樹脂または金属からなる剛性の直進可動部12と、この直進可動部12を鉛直方向で直進移動させる昇降駆動タワー14と、直進可動部12上に鉛直方向で移動可能に搭載されるトーチ16とを有する。
直進可動部12は、L形の板体を有し、その垂直平板部12aの背後で昇降駆動タワー14内の駆動部(図示せず)に連結部材18を介して結合されている。垂直平板部12aないし連結部材18は、昇降駆動タワー14に取り付けられているリニアガイド(図示せず)により鉛直方向で案内される。昇降駆動タワー14内の駆動部は、駆動源にサーボモータを用いるサーボ機構と、サーボモータの回転駆動力を鉛直方向の直進駆動力に変換するボールネジ機構とを有している。
溶接ヘッド10上またはその付近に制御箱20が配置される。この制御箱20の中には、溶接ヘッド10に備わっている各種電気部品の一部または全部を本体ユニット50(図2)内の主制御部にインタフェースするローカルの制御回路が収容されている。垂直平板部12aの前面には、たとえば樹脂等の絶縁体からなる略直方体形状の多用途支持部22が固着されている。この多用途支持部22も、直進可動部12の一部を構成する。
多用途支持部22の上面には、たとえば銅等の導体からなる中空ブロック構造の用力中継部24が取り付けられている。多用途支持部22の両側面には、支点の軸26を介して左右一対のバランスアーム28が鉛直面内で回転可能に取り付けられている。用力中継部24およびバランスアーム28回りの構成については、後に詳細に説明する。
直進可動部12は、その水平平板部12bの先端部にトーチ16を搭載している。トーチ16は、たとえば銅または真鍮等の導体からなる円筒状のトーチボディ30と、このトーチボディ30の下端部に着脱自在に取り付けられる円筒状または円錐状のトーチノズル32とを有し、トーチボディ30およびトーチノズル32の中に棒状のトーチ電極(タングステン電極棒)34を着脱自在に装着し、トーチノズル32の下端よりトーチ電極34の下端部を突出させている。トーチ電極34は、トーチボディ30の頂部に螺合して装着されるネジ付きのキャップ35に後述する電極ホルダ124(図4)を介して結合または連結されている。トーチ16回りの構成については、後に詳細に説明する。
溶接ヘッド10の直下には、被溶接材Wを載置する可動のステージ40が配置される。ステージ40は、被溶接材Wを水平面内のXY方向で移動させるためのXYステージ42と、被溶接材Wを水平面内の方位角方向(θ方向)で移動させるためのθステージ44とを有している。
図2において、本体ユニット50は、ユニット筐体の正面にタッチパネル表示器52、電源スイッチ54、操作ボタン56等を配置し、ユニット側面または背面に外部接続端子またはコネクタ類60を配置している。ガスボンベ62より送出されるシールドガス(またはアシストガス)は、ホース64および本体ユニット50内の制御弁または開閉弁を経由してトーチ16に供給されるようになっている。
図1および図2において、本体ユニット50と溶接ヘッド10およびステージ40との間には、複数のケーブル66〜72が引かれている。図示の例では、本体ユニット50内の主制御回路(図示せず)が、制御箱20内の制御回路を中継点とし、ケーブル66A〜72A、制御箱20、ケーブル66B〜72Bを介して溶接ヘッド10の昇降駆動タワー14内の駆動部およびタワー14外の各種駆動部ならびにステージ40内の駆動部に接続されている。溶接ヘッド10の用力中継部24は、溶接電流供給ラインおよびシールドガス供給ラインを一緒に収容する用力供給ケーブル70を介して本体ユニット50内の制御弁またはスイッチ類(図示せず)に接続されている。本体ユニット50内の主制御部の機能の一部を制御箱20内に設けることも可能である。
図3に、被溶接材Wの一例を示す。この被溶接材Wは、小型精密電子部品36のパッケージから突出する短冊状の端子部材37に細い導線38を巻き付けて、この巻き付け部を被溶接部とする。寸法的には、たとえば、端子部材37の幅sが約1mm、厚さtが約0.2mmであり、導線38の太さは約0.05mmである。このような小型軽薄の被溶接材Wは、その被溶接部に上方から強め(たとえば100g重以上)の荷重を受けると、端子部材37の根元付近で簡単に折曲または破損しやすく、あるいは大きく撓みやすい。
なお、TIG溶接を行うために、端子部材37の根元付近に接触子75が着脱可能に装着される。この接触子75は、アースケーブル77を介して本体ユニット50内の溶接電源140(図6A)に接続されている。

[装置の主な特徴部分の構成]
次に、図1および図6Aを参照して、このTIG溶接装置の主な特徴部分である溶接ヘッド10の用力中継部24、トーチ16およびバランスアーム28回りの構成を詳細に説明する。
溶接ヘッド10において、直進可動部12の水平平板部12bには、トーチボディ30を鉛直方向で案内するための円筒状のトーチガイド74が設けられている。このトーチガイド74の内側には、上下方向に一定のスペースまたは中間部を挟んで2つのリニアブッシュ76H,76Lが設けられている(図6A)。トーチボディ30は、両リニアブッシュ76H,76Lの案内により正確に鉛直方向で直進移動することができる。
トーチガイド74の中間部には、多用途支持部22と対向する位置に開口部78が形成されている。そして、トーチボディ30の中間部の側面には、開口部78を介して外に露出するように、たとえば銅等の導体からなる中空ブロック構造の用力導入部80が取り付けられている。この用力導入部80は、トーチボディ30内の導電路を介してトーチ電極34に電気的に接続されている。
用力導入部80の上面には一対の上流側ガス導入ポート82が設けられている。さらに、用力導入部80の背面(トーチボディ30と向き合う面)には、トーチボディ30内のガス流路に接続する下流側ガス導入ポート(図示せず)が設けられている。用力導入部80の内部は中空のガス室またはガス通路になっており、上流側ガス導入ポート82と下流側ガス導入ポートとは連通している。
一方、直進可動部12上の用力中継部24には、その両側面に一対の下流側ガス中継ポート84が設けられている。この下流側ガス中継ポート84と用力導入部80のガス導入ポート82との間には、空中でアーチ形に延びる変位または変形可能な樹脂製の架橋型チューブ86が架けられている。さらに、用力中継部24および用力導入部80の互いに向き合う面(正面)の間に、空中でアーチ形に延びる変位または変形可能な帯状シートの架橋型導体88が架けられている。この帯状シートの架橋型導体88は、たとえば厚さ0.05mmの極薄の銅シートを複数枚(たとえば9枚)重ねて構成されている。
用力中継部24の上面には、導電性の上流側ガス中継ポート90が設けられている。このポート90に本体ユニット50からの用力供給ケーブル70の終端が着脱可能に接続される。この場合、用力供給ケーブル70内のガス供給ラインが上流側ガス中継ポート90のガス通路に接続されるだけでなく、用力供給ケーブル70内の溶接電流供給ラインが用力中継部24の本体に電気的に接続される。用力中継部24の内部は中空のガス室またはガス通路になっており、上流側ガス中継ポート90と下流側ガス中継ポート84とは連通している。
用力供給ケーブル70は比較的重いケーブルであるが、上記のように用力中継部24で終端するので、その重量は直進可動部12にかかり、トーチ16には全くかからない。トーチ16には架橋型チューブ86および架橋型導体88の重量がかかる。これら架橋型チューブ86および架橋型導体88は、用力供給ケーブル70に比して格段に軽量であり、しかもそれぞれの空中姿勢がアーチ形で一定なので、トーチ荷重に変動を来たすことは殆どない。
上記のような直進可動部12上の用力中継部24およびトーチ16の用力導入部80回りの用力供給系統において、本体ユニット50(図2)より送出されるシールドガスは、用力供給ケーブル70(ガス供給ライン)→用力中継部24(上流側ガス中継ポート90→下流側ガス中継ポート84)→架橋型チューブ86→用力導入部80(上流側ガス導入ポート82→下流側ガス導入ポート)→トーチボディ30→トーチノズル32と繋がるガス流路を上記の順に流れるようになっている。また、本体ユニット50より送出される溶接電流は、用力供給ケーブル70(溶接電流供給ライン)→用力中継部24(導電性ブロック)→架橋型導体88→用力導入部80(導電性ブロック)→トーチボディ30→トーチ電極34と繋がる電流経路を上記の順または逆の順(逆方向)に流れるようになっている。
バランスアーム28は、剛体たとえばステンレス鋼からなり、屈曲部28a、第1アーム部28bおよび第2アーム部28cを有し、全体が”ヘ”字状に形成されている。屈曲部28aは、支点の軸26により多用途支持部22の両側面の前部に回転可能に取り付けられる。第1アーム部28bの先端部には、トーチボディ30の側面に固着されているピン92と嵌合する横長の軸受94が設けられている。トーチガイド74の側面には、上下方向に移動可能なピン92を通すための縦長の開口部96が形成されている(図1)。
一方、第2アーム部28cの先端部には、たとえばステンレス鋼からなる直方体形状のバランスウエイト98がボルト100によって取り付けられている。このバランスウエイト98の重量は一定であるが、モーメント調整部105により、支点26に対するバランスウエイト98の時計回りの回転モーメントが可変に調整可能となっている。図示のモーメント調整部105は、第2アーム部28cの先端部にボルト100を通すための横方向に延びる長穴29を形成し、第2アーム部28cの先端部におけるボルト100およびバランスウエイト98の取付位置を長穴29内で任意または連続的に調整できるようにしている。これにより、第2アーム部28cの先端部においてバランスウエイト98の取付位置を図の右方向にシフトするとバランスウエイト98の回転モーメントがシフト量に応じて増大し、バランスウエイト98の取付位置を図の左方向にシフトするとバランスウエイト98の回転モーメントがシフト量に応じて減少するようになっている。
このように、バランスアーム28においては、第1アーム部28bの先端部に取り付けられているトーチ16回りの総重量つまりトーチ荷重により図6Aにおいて反時計回りの重量モーメントが作用する一方で、第2アーム部28cの先端部に取り付けられているバランスウエイト98により図6Aにおいて時計回りの可変調整可能な重量モーメントが作用する。
通常は、トーチ16側の重量モーメントがバランスウエイト98側の重量モーメントを少し(たとえばトーチ荷重に換算して10〜30g重)だけ上回るように、第2アーム部28cの先端部の長穴29内でバランスウエイト98の取付位置が調整され、バランスウエイト98の重量モーメントが調整される。このようにトーチ16側の重量モーメントをバランスウエイト98側の重量モーメントより大きく設定することで、トーチ16に外力が加わらないときは、図6Aに示すようにバランスウエイト98の上面が多用途支持部22の下面(ストッパ)に当接する。この状態で、バランスアーム28は静止し、溶接ヘッド10上でトーチ16が一定(基準)の高さ位置に保持される。
なお、トーチ16のピン92とこれに嵌合している第1アーム部28bの軸受94は、トーチ16の鉛直方向の直進移動とバランスアーム28の回転移動とを相互に変換するためのクランク機構を構成している。
多用途支持部22は、中空の筐体またはブロックとして構成され、その中に開口(図示せず)を介してトーチ16の用力導入部80と対向する電磁ソレノイドたとえばプランジャソレノイド110が固定して取り付けられている。このプランジャソレノイド110のプランジャ112が前進移動すると、その先端が用力導入部80の側面(対向面)に大きな押圧力で当接して、プランジャソレノイド110と用力導入部80が物理的に一体化(結合)し、ひいてはトーチ16と直進可動部12とが物理的に一体化(結合)するようになっている。プランジャソレノイド110の駆動回路は制御箱20に収容されている。
この溶接ヘッド10においては、直進可動部12上で昇降移動するトーチ16の高さ位置を検出するために、図1に示すように、トーチ16のピン92に上端が結合されているたとえば金属または樹脂からなる剛性の棒体114の下端の高さ位置が、直進可動部12の水平平板部12bに取り付けられているセンサユニット116の光学センサまたは近接センサ(図示せず)によって検出されるようになっている。センサユニット116の出力信号線118は制御箱20内の制御回路に接続されている。
上記のように、この実施形態においては、溶接ヘッド10の直進可動部12に支点26を介してバランスアーム28を鉛直な面内で回転可能に取り付け、バランスアーム28の第1アーム部28bの先端部にトーチボディ30を結合し、第2アーム部28cの先端部にバランスウェイト98を取り付ける構成により、トーチ16側の重量モーメントとバランスウエイト98側の重量モーメントとのバランスを調整するだけで、トーチ荷重を非常に小さい荷重(たとえば30g重以下)に軽減することができる。
さらに、この実施形態の溶接ヘッド10においては、本体ユニット50から引かれてくる重い用力供給ケーブル70を直進可動部12上の用力中継部24で終端させ、用力中継部24の後段(下流側)では空中でアーチ形の安定な姿勢をとる変位または変形可能な架橋型チューブ86および架橋型導体88をトーチボディ30に接続する構成により、トーチ荷重自体の大幅な低減とトーチ荷重の変動防止を効果的に実現することができる。

[トーチの構成]
図4および図5に、トーチ16の要部の構成を示す。トーチボディ30の内側には、タングステンまたはタングステン合金からなる棒状のトーチ電極34をトーチボディ30の軸心で保持するための円筒状のコレット120がトーチ電極34と一体に収容される。このコレット120は、その下端部にすり割り部120aを有するだけでなく、その上端部にもすり割り部120bを有しており、一回り大きな口径を有する円筒状のコレットボディ122に内挿されている。
コレットボディ122の下端にはトーチ電極34を通すための孔122aが形成され、この孔122aの内側の周囲には下向きのテーパ部122bが形成されている。トーチ16の頂部でキャップ35(図1)をコレットボディ122に螺合すると、その螺合の締め付けでコレット120が下方に押圧され、コレット120の下部すり割り部120aがコレットボディ122下端のテーパ部122bに押し付けられる。これにより、コレット120の下部すり割り部120aがその口径を狭める方向に変形してトーチ電極34を狭着(保持)するようになっている。
コレット120の上端部は、キャップ35まで延びている筒状の電極ホルダ124に保持されている。電極ホルダ124の下端部124aは太径に形成され、この太径下端部124aの内側面には上向きのテーパ部124bが形成されている。上記のようにトーチ16の頂部でキャップ35(図1)をコレットボディ122に螺合すると、その螺合の締め付けで電極ホルダ124が下方に押圧され、コレット120の上部すり割り部120bが電極ホルダ124のテーパ部124bに押し付けられる。これにより、コレット120の上部すり割り部120bが口径を狭める方向に変形してトーチ電極34を狭着(保持)するようになっている。
電極ホルダ124の太径下端部124aは、図5に示すように、各々の角部CがR形状に加工された略直方体の形体を有しており、各々の角部Cがコレットボディ122の内側面に軽く接触しながらコレットボディ122内で軸方向に摺動できるようになっている。この太径下端部124aの角部C以外の平坦な外周面とコレットボディ122の内側面との間の隙間Sは、シールドガスを通すための通孔を形成する。
トーチ16の下端部において、コレット120とコレットボディ122との間には、用力導入部80(図6A)よりトーチボディ30の中間部に導入されたシールドガスSGを下方に導く円筒状のガス通路126が形成されている。そして、コレットボディ122の下端部には周回方向に所定の間隔を置いて複数の通孔122cが形成されている。ガス通路126を下ってきたシールドガスSGは、通孔122cを通ってトーチ電極34とトーチノズル32との間の空間またはノズル室128に出て、このノズル室28の下端の出口つまり噴出口130から外に噴出するようになっている。トーチノズル32は、好ましくはセラミック(たとえばアルミナ)からなっている。
上記のように、この実施形態におけるトーチ16は、トーチ電極34を貫通させた状態でトーチボディ30の中に着脱可能に収容される筒状コレット120の両端部にすり割り部120a,120bを設け、コレットボディ122の下端部にコレット120の下部すり割り部120aと押圧接触するテーパ部122bを設けるとともに、電極ホルダ124の下端部124aにコレット120の上部すり割り部120bと押圧接触するテーパ部124bを設ける。このようなコレット120回りの構成によれば、トーチ電極34をトーチボディ30内の鉛直方向に離間した2箇所で軸心上に保持するので、トーチ電極34の位置ずれや傾きを絶対的に防止することができる。このことは、タッチスタート方式のTIG溶接において、特に被溶接部が小サイズのものである場合は、タッチ(接触)位置の精度が高いだけでなく、アーク放電時にトーチ電極34の先端部が被溶接部と向き合うときの垂直姿勢を保つうえでも、非常に大きな利点となる。

[装置の動作(作用)]
次に、図6A〜図6Eを参照して、この実施形態におけるTIG溶接装置の動作を説明する。
先ず、本体ユニット50内の主制御部の制御の下で、溶接対象の被溶接材Wを載置しているステージ40(XYステージ42およびθステージ44)が水平面内の位置合わせの動作を行う。この位置合わせ動作により、被溶接材Wの被溶接部がトーチ電極34の真下に位置するようになる。
一方、高さ方向においては、本体ユニット50内の主制御部の制御の下で、昇降駆動タワー14の昇降駆動によりトーチ16のスタート位置が調整される。
上記のような位置合わせないし初期高さ位置調整が済むと、本体ユニット50内の主制御部の制御の下で、昇降駆動タワー14が作動して、直進可動部材12を下降移動させる。そして、図6Bに示すようにトーチ電極34の先端が被溶接材Wに当接し、さらに直進可動部材12が下降移動すると、図6Cに示すようにバランスアーム28が作動して時計回りに回転する。この時、被溶接材Wにはトーチ16が載っているが、バランスアーム28の働きにより、非常に小さな荷重(たとえば30g重以下)に軽減されたトーチ荷重が被溶接材Wに加わる。このため、被溶接材Wは、トーチ荷重によって折曲または折損することはなく、可撓性のものにあってもその撓み量が非常に小さい。そして、バランスアーム28の回転移動が一定値に達すると、あるいはそれを超えると、センサユニット116が所定の検出信号を出力し、それに応答して主制御部が直進可動部材12の下降移動を停止する。さらに、プランジャソレノイド110を作動させて、直進可動部材12上でトーチ16を固定(ロック)する。
こうしてトーチ電極34の先端が被溶接材Wに加圧接触している状態の下で、本体ユニット50内で溶接電源140のスイッチSWがそれまでのオフ状態からオン状態に切り換えられる(図6C)。そうすると、溶接電源140より直流電圧がトーチ電極34と被溶接材Wとの間に印加される。これにより、溶接電源140の直流電圧源Eの正極端子→アースケーブル77→被溶接材W→トーチ電極34→トーチボディ30→用力導入部80→架橋型導体88→用力中継部24→用力ケーブル70(溶接電流供給ライン)→直流電圧源Eの負極端子の電流経路(閉回路)で、通電開始の直流電流つまりスタート電流iが流れる。
この時、トーチ電極34の先端が被溶接材Wに接触しているので、電流iの大きさに関係なくアークはまだ発生しない。もっとも、溶接電源回路140の出力を制御することにより、スタート電流iの電流値を一定範囲に制御してもよい。
なお、トーチ16を下ろす途中で、あるいはトーチ電極34の先端が被溶接材Wに当接した後に、シールドガスSGの供給が開始される。上記のように、本体ユニット50(図2)より用力供給ケーブル70(ガス供給ライン)を介して溶接ヘッド10に送られてきたシールドガスは、用力中継部24→架橋型チューブ86→用力導入部80→トーチボディ30→トーチノズル32の各ガス流路を通ってトーチノズル32の噴射口130より被溶接材Wに向けて噴射される。
こうして、スタート電流iを流したまま、かつトーチ16を直進可動部材12に固定(ロック)したまま、主制御部の制御の下で昇降駆動タワー14が上昇駆動を開始し、直進可動部材12をアーク放電に最適な設定離間距離H(たとえば+2mm)に等しいストローク量だけ上方に移動させる。これにより、トーチボディ30も直進可動部材12と一体に同じストローク量だけ上方に移動し、トーチ電極34の先端が被溶接材Wとの接触位置から設定離間距離Hだけ高く引き上げられ、その高さ位置で静止する(図6D)。一方、被溶接材Wは、トーチ荷重を受けた時に殆ど撓んでいなかったので、トーチ電極34の先端が上方へ離れた後もそれまでと略同じ位置で同じ姿勢を保っている。この結果、トーチ電極34の先端と被溶接材Wの被溶接部とは正しく向き合い、両者の間に設定離間距離Hのスペースが確保される。
この場合、昇降駆動タワー14内の駆動部においては、プランジャソレノイド110を介してトーチ16を固定保持している直進可動部材12を正確に設定離間距離Hのストローク量(引き上げ量)だけ上昇移動させるようにサーボ機構が動作する。このサーボ機構の位置決め制御では、センサユニット116の出力信号あるいはロータリエンコーダ(図示せず)の出力信号がフィードバック信号に用いられる。
そして、このトーチ電極34の引き上げと同時に、または引き上げが完了した後に、溶接電源140を制御して、溶接電流をそれまでのスタート電流iよりも一段と大きいアーク放電用の正規の直流電流または主電流iに切り換える。この主電流iの電流値は、被溶接部を溶かすのに十分な高熱のアークを発生させる値(通常10〜30A)に選ばれる。
こうして、主電流iが流れている間は、図6Dに示すように、トーチ電極34(特に先端付近)と被溶接材Wの被溶接部との間でアークACが持続し、被溶接部はアークACの熱によって溶融する。このTIG溶接装置においては、アークACのアーク長が適正(設定通り)に制御されるため、アークの集中性ないし入熱が安定し、アーク溶接が良好に行われる。なお、主電流iの電流値を始終一定値に保ってもよいが、被溶接部の溶融を促進するために、途中で主電流iの電流値をさらにステップ的または漸次的に増大させるような電流波形制御(あるいは逆にダウンスロープの電流波形制御)を用いることも可能である。
そして、通電開始から所定の時間(通常10〜1000msec)が経過すると、溶接電源140のスイッチSWがオフ状態に切り換えられる。スイッチSWがオフして主電流iが切られると、その瞬間にアークは消滅する。直後にシールドガスSGの供給も止められる。アークが消滅すると、被溶接部の溶融部分が大気中の自然冷却によって直ぐに凝固する。こうして、被溶接材Wの被溶接部は一体またはひと固まりに溶接接合される(図6E)。
溶接ヘッド10においては、アークが消滅した直後、昇降駆動部の上昇駆動により、直進可動部材12がスタンバイ用の高さ位置または次回のスタート位置まで上昇し、この直後にプランジャソレノイド110の励磁電流が切られる。すると、バランスアーム28が復動して、図6Aの原位置に戻る。
上述したように、この実施形態におけるTIG溶接装置は、溶接ヘッド10の直進可動部12にバランスアーム28を鉛直な面内で回転可能に取り付け、バランスアーム28の第1アーム部28bの先端部にトーチボディ30を結合し、第2アーム部28cの先端部にバランスウェイト98を取り付ける構成により、トーチ16側の重量モーメントとバランスウエイト98側の重量モーメントとのバランスを調整するだけで、タッチスタート方式において被溶接材Wに加わるトーチ荷重を非常に小さな荷重に軽減することが可能であり、これによって被溶接材Wの折曲または破損を確実に防止することができるとともに、被溶接材Wが可撓性のものであってもトーチ荷重を受けたときの撓み量を可及的に小さくすることができる。
また、この実施形態のTIG溶接装置は、本体ユニット50からの重い用力供給ケーブル70を溶接ヘッド10の直進可動部12上の用力中継部24で終端させ、用力中継部24の後段(下流側)では空中でアーチ形の安定な姿勢をとる変位または変形可能な架橋型チューブ86および架橋型導体88をトーチボディ30に接続する構成により、トーチ荷重自体の大幅な低減と安定性を効果的に実現することができる。
このように、タッチスタート方式において被溶接材Wに加わるトーチ荷重が非常に小さく、しかもトーチ荷重のばらつきも小さいので、アーク溶接の品質が向上する。さらに、この実施形態のTIG溶接装置においては、トーチ電極34をトーチボディ30内の鉛直方向に離間した2箇所で軸心上に保持する電極保持部(120,122,124)によりトーチ電極34の水平方向の位置ずれを確実に防止できるとともに、直進可動部12に設けられる電磁ソレノイド110と昇降駆動タワー14に設けられるサーボ機構との協働動作によりトーチ電極34の引き上げ量ないしアーク放電高さ位置を高い精度で一定値に制御できるようにしている。これにより、アーク長を適正(設定通り)に制御して、アークの集中性ないし入熱の安定化を図り、アーク溶接の品質および信頼性を一層向上させることができる。

[他の実施形態又は変形例]
上述した実施形態では、バランスウエイト98の重量モーメントを可変に調整するためのモーメント調整部105において、バランスウェイト98には、バランスウェイト98をバランスアーム28の第2アーム部28cの先端部に固定するボルト100と螺合するネジ穴をバランスウェイト98の両側面に一対設けている。しかし、図7Aおよび図7Bに示すように、バランスウェイト98の両側面に複数対(図示の例は6対)のネジ穴99を横一列に設け、第2アーム部28cの先端部にも複数対(図示の例は2対)の長穴(ボルト通し穴)29を横一列に設ける構成も可能である。この構成によれば、第2アーム部28cの先端部におけるボルト100およびバランスウエイト98の取付位置について、ボルト100と螺合するネジ穴99の位置を選択することによって粗調整を行い、長穴29内でボルト100の位置を図7Bの矢印方向で変えることによって連続調整または微調整を行うことができる。
また、上述した実施形態におけるモーメント調整部105は、第2アーム部28cの先端部におけるバランスウエイト98の取付位置を横方向で可変に調整可能とした。モーメント調整部105の別の形態として、図8に示すように、バランスウエイト98が取り付けられる第2アーム部28cのアーム長を可変に調整可能に構成してもよい。図8の例では、第2アーム部28cを第1アーム部28bに一体に形成される内側アーム部28eとその先端部に遊嵌する外側アーム部28fとで構成し、内側アーム部28eに対して外側アーム部28fをアーム長手方向の任意の取付位置でたとえばボルト100により固定するようにしている。このような調整機構においても、バランスウエイト98の重量モーメントを一定範囲内で連続的に可変調整することができる。
図示省略するが、モーメント調整部105の他の実施例として、バランスウエイト98の適当な箇所(通常は上面)に液体、粒体または紛体を任意に出し入れできる穴または凹所を設け、この穴の中に適当な液体、粒体または紛体を任意の量だけ収容する構成も可能である。この場合も、穴の中に収容される液体、粒体または紛体を含むバランスウエイト98全体の重量を一定範囲内で任意に可変調整し、ひいてはバランスウエイト98の重量モーメントを一定範囲内で任意に可変調整することができる。また、図示省略するが、バランスウエイト98の重量の粗調整を行うために、たとえば板片状の重量加算用ウエイトをボルト等によりバランスウエイト98に着脱または交換可能に取り付けることも可能である。
上述した実施形態では、1本の用力供給ケーブル70を用いて、本体ユニット50側から溶接ヘッド10への溶接電流の供給とシールドガスの供給を行うようにしている。しかし、独立の電流供給ラインと独立のガス供給ラインを用いることも可能である。また、用力中継部24および/または用力導入部80を溶接電流供給系の中継部とガス供給系の中継部とに分割する構成も可能である。
上述した実施形態においてトーチ電極34をトーチボディ30内の鉛直方向に離間した2箇所で軸心上に保持する電極保持部(120,122,124)の構成は、汎用性が高く、これ単独でも任意のTIG溶接ヘッドまたはトーチに適用可能である。
10 溶接ヘッド
12 直進可動部
14 昇降駆動タワー
16 トーチ
22 用力中継部
28 バランスアーム
30 トーチボディ
35 コイルばね
38 トーチボディ
34 トーチ電極
40 ステージ
98 バランスウエイト
105 モーメント調整部
122 電極ホルダ
W 被溶接材

Claims (5)

  1. トーチ電極を着脱可能に装着して保持する筒状のトーチボディと、
    タッチスタート方式において前記トーチ電極の先端と被溶接材との間で通電を行い、またはアークを発生させるために、前記トーチ電極と前記被溶接材とを含む閉回路内で電流を流す溶接電源と、
    鉛直方向で移動可能な直進可動部と、
    前記直進可動部を直進移動させるための駆動部と、
    前記直進可動部に支点を介して鉛直な面内で回転可能に取り付けられ、一端部が前記トーチボディに結合され、他端部にバランスウェイトが取り付けられるバランスアームと、
    前記バランスウェイトの重量モーメントを可変に調整するためのモーメント調整部と
    を有するTIG溶接装置。
  2. 前記モーメント調整部は、前記バランスウェイトの重量モーメントを一定範囲内で任意または連続的に可変調整できるように構成されている、請求項1記載のTIG溶接装置。
  3. 前記モーメント調整部は、前記バランスアームにおける前記バランスウェイトの取付位置を任意に調整できるように構成されている、請求項1または請求項2に記載のTIG溶接装置。
  4. 前記モーメント調整部は、前記バランスアームの前記支点と前記バランスウェイトとの間に延在するアーム部分の長さを任意に調整できるように構成されている、請求項1または請求項2に記載のTIG溶接装置。
  5. 前記モーメント調整部は、前記バランスウェイトに形成される穴を有し、この穴の中に収容する液体、粒体または紛体の量を任意に調整できるように構成されている、請求項1または請求項2に記載のTIG溶接装置。
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