JP2018186771A - 低糖質パン用食品素材及び低糖質パン - Google Patents

低糖質パン用食品素材及び低糖質パン Download PDF

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真幸 垣澤
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Abstract

【課題】外観及び食感が良好な低糖質パンが得られる低糖質パン用食品素材及びその製造方法を提供する。前記低糖質パン用食品素材を用いた、外観及び食感が良好な低糖質パンを提供する。【解決手段】低糖質パン用食品素材は、タンパク質と、フィチン酸と、素材全量に対して0.1質量%以上5.0質量%以下のセルロースとを含有し、且つ、素材中の澱粉の含有量が50質量%以下である。低糖質パンは、前記低糖質パン用食品素材を用いて生地を作り焼成してなり、且つ、パン100gあたりの糖質の含有量が30g以下である。低糖質パン用食品素材の製造方法は、小麦タンパク質と、ふすま及びぬかのうち少なくとも一種と、素材全量に対して0.1質量%以上5.0質量%以下のセルロースとを混合する工程を備え、素材中の澱粉の含有量が50質量%以下である方法である。【選択図】なし

Description

本発明は、低糖質パン用食品素材及び前記低糖質パン用食品素材を用いた低糖質パンに関する。
近年、健康意識の高まり等から、小麦粉、米等の糖質の含有量が比較的少ない低糖質の食品の需要が増してきている。また、2014年3月5日に世界保健機関(WHO)は、肥満、糖尿病、癌等の予防のために糖類(糖類のうち、主に単糖類と2糖類のショ糖(砂糖))の摂取量を総エネルギーの5%以下にすべきと発表した。これ以降、さらに低糖質の食品の需要が増してきており、パン類についても、糖質含有量の低いパン類が求められている。
小麦粉はその7割以上が糖質(糖質のうち、主に澱粉)である。よって、小麦粉を他の物質で代替し、小麦粉を使用せずに低糖質パンを得ることが行われている。しかしながら、小麦粉を使用しないことで、発酵中に腰が折れたり、焼成時にブレイキング不足により腰が伸びなかったりする。これらが原因となり、いわゆる窯落ちが起きる。又は、窯落ちが起こらない場合でも、膨らみが不足して外観の不良となったり、硬くて重い食感になったりすることが多い。したがって、小麦粉を使用せずに、糖質含有量を減らした場合でも、小麦粉を使用する通常のパンと同じような外観、食感を維持している低糖質パンが望まれている。
特許文献1には、ふすま及びぬかのうち少なくとも一種と、小麦タンパク質と、増粘安定剤とを含有し、さらにシトラスファイバーを含有するパン様食品素材が開示されている。このパン様食品素材を用いて得られたパン様食品は、従来の低糖質パンと比較して、小麦粉を含まないことによるボディー形成不足や外観不良、又は、食感の悪さを解消できることが開示されている。
また、特許文献2には、小麦ふすま、グルテン、アルギン酸エステル、酢及びL−アスコルビン酸を含む生地原料を用いてパン生地を作製する工程を有する、パン類の製造方法が開示されている。この製造方法によれば、低糖質でありながらも、ボリュームに優れたパン類が得られることが開示されている。
また、特許文献3には、グルテン、難消化性澱粉及び大豆由来食品用素材を含む製パン用組成物が開示されている。この製パン用組成物は、生地の成形性及び生地の取り扱い性がよく、且つ、汎用性のあることが開示されている。さらに、この製パン用組成物を用いて得られたパンは、一般的なパン類よりも糖質含有量が低いが、焼成したパン類の比容積の大きさ、並びに食味及び食感の良さが両立しており、おいしくて満足感があることが開示されている。
また、特許文献4には、難消化性デキストリン50〜90重量部と結晶セルロース10〜50重量部とからなる食物繊維を17重量%以下の量を含有する原料粉を使用して得られる食物繊維強化パンが開示されている。
特許第3977409号公報 特開2015−097500号公報 特開2017−023048号公報 特許第4065084号公報
特許文献1では、従来の低糖質パンと比較すると、小麦粉を含まないことによるボディー形成不足、外観不良、又は、食感の悪さがある程度解消されている。また、焙煎したふすま及びぬかのうち少なくとも一種と小麦タンパク質(グルテン)とを主成分とするため、本来のパンに近い風味を味わえる。しかしながら、通常量の小麦粉を使用したパンと比較すると、依然としてボディーの形成不足が問題となる。具体的には、3斤型で食パンを焼成した場合に真中に腰折れが発生する。1斤型で食パンを焼成した場合に、通常の小麦粉を配合した食パンと比較すると、膨らみが少なく、食感も依然として重めとなっている。
また、特許文献1では、高い保水性を有するシトラスフレイバーを使用することで、低糖質パンの膨らみを補助している。一方、セルロースはファイバーの一例として記載はされているが、シトラスファイバーと比較すると吸水性は4分の1程度である。そのため、セルロース粉末が低糖質パンのボディー感の改良につながることについての開示はされていない。
さらに、特許文献1では、セルロースは水には溶けないのに対して、セルロースの水酸基の一部をメチル基やカルボキシメチル基で置換したメチルセルロースやカルボキシメチルセルロース等のセルロースの誘導体を使用することが記載されている。前記セルロースの誘導体は冷水溶解性、高粘性及び高い保水力を有し、それらの性状が、グルテンの網目構造の形成、釜伸び及び最終製品のボリュームに大きく寄与すると記載されている。よって、誘導体でないセルロース自体はグルテンの網目構造の形成、釜伸び及び最終製品のボリュームに寄与しないものと考えられている。
特許文献2では、低糖質でありながらも、ボリュームに優れたパン類の製造方法が開示されている。しかしながら、特許文献2では、酢及びL−アスコルビン酸を使用しているため、酸味を呈し、風味が変化してしまう問題がある。また、アルギン酸エステルは、 アレルギー体質の人が摂取すると皮膚発疹を起こす可能性が示唆されている食品添加物である。
特許文献3では、難消化性デンプン及び大豆由来食品用素材が必須であり、大豆由来食品素材を配合しない場合(特許文献3の明細書段落番号[0044]の表1中の比較例6)においては、ボリュームも不足し、食感も悪いものとなっている。一方で、特許文献3の実施例で使用されている全脂大豆粉は、大豆の成分をすべて含む。そのため、大豆特有の風味があることから、パン本来の風味が損なわれやすい問題がある。また、大豆粉には、糖質が多く含まれることから、糖質を減らすという目的にはそぐわない。
また、特許文献3では、不溶性食物繊維として、セルロースや穀物の外皮(ふすま)を配合する例も開示されている。しかしながら、これらは腸の蠕動運動の活発化作用や整腸作用を目的に配合されているものである。よって、セルロースを用いた場合に、低糖質パンのグルテンの網目構造の形成、釜伸び及び最終製品のボリュームを改善することについての開示はされていない。
特許文献4では、文字通り、パンに食物繊維を付与するために難消化性デキストリンと結晶セルロースとが配合されている。しかしながら、食物繊維を添加しないものと同等の食感を維持する必要があることから、原料粉に対する難消化性デキストリン及び結晶セルロースの配合量は17%以下にする必要があり、原料粉の主成分は小麦粉である。また、特許文献4に開示された原料粉を使用してパンを製造する場合(特許文献4の実施例)において、食品成分表から算出される原料粉中の澱粉量は60%以上と推定される。よって、特許文献4では、食感を維持するためには澱粉が必要であり、あくまで食物繊維付与を目的としており、糖質を減らすという思想については開示されていない。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、外観及び食感が良好な低糖質パンが得られる低糖質パン用食品素材及びその製造方法を提供する。また、前記低糖質パン用食品素材を用いた、外観及び食感が良好な低糖質パン及びその製造方法を提供する。
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、低糖質パン用食品素材にセルロースを配合することで、従来の低糖質パンよりも外観及び食感が良好な低糖質パンが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
本発明の第1態様に係る低糖質パン用食品素材は、タンパク質と、フィチン酸と、素材全量に対して0.1質量%以上5.0質量%以下のセルロースとを含有し、且つ、素材中の澱粉の含有量が50質量%以下である。
上記第1態様に係る低糖質パン用素材において、前記セルロースが、1gあたりの吸水量が5.0g以下のセルロースであってもよい。
上記第1態様に係る低糖質パン用素材において、前記セルロースが結晶セルロースであってもよい。
上記第1態様に係る低糖質パン用素材において、素材中の前記タンパク質の含有量が15質量%以上70質量%以下であってもよい。
上記第1態様に係る低糖質パン用素材において、素材中の前記フィチン酸の含有量が0.05質量%以上であってもよい。
上記第1態様に係る低糖質パン用素材において、前記フィチン酸がふすま及びぬかのうち少なくともいずれか一種に由来してもよい。
本発明の第2態様に係る低糖質パンは、上記第1態様に係る低糖質パン用食品素材を用いて生地を作り焼成してなり、且つ、パン100gあたりの糖質の含有量が30g以下である。
本発明の第3態様に係る低糖質パン用食品素材の製造方法は、小麦タンパク質と、ふすま及びぬかのうち少なくとも一種と、素材全量に対して0.1質量%以上5.0質量%以下のセルロースとを混合する工程を備え、素材中の澱粉の含有量が50質量%以下である方法である。
本発明の第4態様に係る低糖質パンの製造方法は、上記第1態様に係る低糖質パン用食品素材を用いて生地を作り、焼成する工程を備え、パン100gあたりの糖質の含有量が30g以下である方法である。
上記態様によれば、外観及び食感が良好な低糖質パンが得られる低糖質パン用食品素材及びその製造方法を提供することができる。また、前記低糖質パン用食品素材を用いた、外観及び食感が良好な低糖質パン及びその製造方法を提供することができる。
≪低糖質パン用食品素材≫
本発明の第1実施形態に係る低糖質パン用食品素材は、タンパク質と、フィチン酸と、素材全量に対して0.1質量%以上5.0質量%以下のセルロースとを含有し、且つ、素材中の澱粉の含有量が50質量%以下である。
本実施形態の低糖質パン用食品素材によれば、製パン時における発酵中及び焼成中の腰折れ、並びに、焼成中の窯落ちを防止することができる。さらに、本実施形態の低糖質パン用食品素材を用いて製造された低糖質パンは、糖質の含有量が低減されながらも、従来の低糖質パンよりも外観及び食感を有する。具体的には、焼成時に通常のパンと同等に膨らみ、さらに、ふんわりとした軽い食感の低糖質パンが得られる。
一般に、パンの糖質は、パンの種類にもよるが、パン100g当たり40〜60g程度であることが多い。そのため、上記範囲よりも糖質の含有量を低減させたものを低糖質パンと称する。
なお、ここで、「糖質」とは、食品の栄養表示基準(平成15年厚生労働省告示第176号)に基づく糖質をいう。具体的には、食品から、タンパク質、脂質、食物繊維、灰分、及び水分を除いたものを糖質とよぶ。すなわち、食品中の糖質の含有量は、当該食品の重量から、タンパク質、脂質、食物繊維、灰分及び水分の量を控除することにより算定される。この場合に、タンパク質、脂質、食物繊維、灰分及び水分の量は、栄養表示基準に掲げる方法により測定することができる。すなわち、タンパク質の量はケルダール法、改良デュマ法等の窒素定量換算法で、脂質の量はエーテル抽出法、クロロホルム・メタノール混液抽出法、ゲルベル法、酸分解法、レーゼゴットリーブ法で、食物繊維の量は高速液体クロマトグラフ法、またはプロスキー変法で、灰分の量は酸化マグネシウム灰化法、直接灰化法、硫酸添加灰化法で、水分の量はカールフィッシャー法、乾燥助剤法、減圧加熱乾燥法、常圧加熱乾燥法、プラスチックフィルム法で測定することができる。
又は、食品中の糖質の含有量は、使用する原料毎に、日本食品標準成分表2015年版(七訂)(文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会著)で公表されている栄養成分表示に従い、それぞれの原料の含有量から算出して求めても良い。
本実施形態における低糖質パン用食品素材は、「低糖質」を実現するために、素材中の澱粉の含有量が50質量%以下であり、30質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましく、15質量%以下であることが最も好ましい。ここでいう、「澱粉」とは、小麦粉等の穀粉由来の澱粉、又は、製パン時における焼成中及び焼成中の腰折れ、並びに、膨らみの改善、若しくは、食感及び風味の改善を目的として、意図的に添加される澱粉素材(例えば、澱粉、加工澱粉、部分アルファー化澱粉、アルファー化澱粉等)を意味する。また、澱粉には、小麦タンパク質、又は、ふすま及びぬかに付着して除去しきれずに含まれる澱粉も包含される。
なお、低糖質パン用食品素材における澱粉の含有量は、公知の方法を使用して用いて測定することでき、例えば以下のような酵素法で測定することができる。
まず、食品素材からサンプルを採取し、低分子糖を除去後、加熱糊化する。その後、グルコアミラーゼで酵素分解反応させ、定容及び濾過を行う。次いで、ブドウ糖をムタロターゼ・グルコースオキシターゼ法で定量する。次いで、定量されたブドウ糖含有量から澱粉の含有量を、以下の計算式[A]により算出する。
澱粉含有量[%]=ブドウ糖含有量[%]×0.9 ・・・[A]
又は、低糖質パン用食品素材における澱粉の含有量は、以下の方法を用いて測定することできる。
まず、低糖質パン用食品素材中の原料の含有量から、日本食品標準成分表2015年版(七訂)(文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会著)で公表されている栄養成分表示に従い、低糖質パン用食品素材中の澱粉の含有量[g]を算出する。次いで、低糖質パン用食品素材の全体の質量に対する澱粉の質量の比率を算出して、澱粉の含有量[質量%]を得ればよい。
次いで、低糖質パン用食品素材に含まれる各材料について説明する。
<材料>
[タンパク質]
本実施形態において食品素材中に含まれるタンパク質は、食品として使用されるタンパク質から持ち込まれるものであればよい。タンパク質としては、動物性タンパク質であってもよく、植物性タンパク質であってもよい。中でも、本実施形態の食品素材に含まれるタンパク質としては、低糖質という目的とパンに用いられるという観点から、植物性タンパク質であることが好ましい。
また、植物性タンパク質としては、糖質等の持ち込みを減らす観点から、大豆や小麦等の植物を原料として、それに含まれる「タンパク質」を抽出した粉末から供されるものであることが好ましい。
植物性タンパク質として具体的には、例えば、大豆タンパク質、大麦タンパク質、小麦タンパク質等が挙げられ、これらに限定されない。中でも、植物性タンパク質としては、製造されるパンに本来の小麦粉に近い風味を付与できることから、小麦タンパク質であることがより好ましい。
また、一般に、「小麦タンパク質」とは、小麦粉に水を加えて練り、その生地を水洗して得られるガム状の物質を、さらに乾燥して粉末状したものを意味する。また、小麦タンパク質は、グルテン又は活性グルテンとも称される。
低糖質パン用食品素材中のタンパク質の含有量は、特別な限定はない。例えば、低糖質パン用食品素材に含まれるタンパク質が小麦タンパク質に由来するものである場合、素材中のタンパク質の含有量は、グルテンによるしなやかなネットワーク構造により充分な膨らみが得られ、なおかつ柔らかい食感の低糖質パンが得られることから、15質量%以上70質量%以下であることが好ましく、20質量%以上50質量%以下であることがより好ましく、30質量%以上45質量%以下であることがさらに好ましい。
なお、低糖質パン用食品素材におけるタンパク質の含有量は、公知の方法を使用して用いて測定することでき、例えば以下のようなケルダール法で測定することができる。
ケルダール法による定量法として具体的には、まず、食品素材からサンプルを採取する。次いで、サンプルを分解促進剤(硫酸カリウムと硫酸銅(II)五水和物との90/10の混合物)とともに濃硫酸溶液(0.025mol/l)で加熱分解し、含まれている窒素を全て硫酸アンモニウムに変える。次いで、放冷後、過剰の30%水酸化ナトリウム水溶液を加えて加熱して、アンモニアを生じさせる。次いで、遊離したアンモニアを水蒸気蒸留してホウ酸溶液に捕集する。次いで、得られたアンモニア捕集液を硫酸標準溶液で滴定して窒素量を求める。次いで、定量された窒素量から、タンパク質の含有量を、以下の計算式[B]により算出する。
タンパク質含有量[%]=窒素含有量[%]×6.25 ・・・[B]
[フィチン酸]
本実施形態において食品素材中に含まれるフィチン酸は、穀物、特にふすま又はぬかに多く含まれている成分である。中でも、本実施形態の食品素材に含まれるフィチン酸としては、ふすま又はぬかに由来するものであることが好ましく、ふすま及びぬかに由来するものであることがより好ましい。
また、フィチン酸は、抗酸化作用があり、細胞の酸化を防いで、ガン細胞の発生と増殖を抑える効果や、血液が凝固しにくくする効果があると言われている。これらの効果より、フィチン酸は、血栓症を予防する効果、高カルシウム尿症を予防する効果、貧血を予防する効果、及び生活習慣病による血液不調を改善する効果があると言われている。
本実施形態の低糖質パン用食品素材中のフィチン酸の含有量の下限値は、0.05質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、0.2質量%以上であることがさらに好ましく、0.3質量%以上であることが特に好ましく、0.4質量%以上であることが最も好ましい。
一方、本実施形態の低糖質パン用食品素材中のフィチン酸の含有量の上限値は、特別な限定はない。フィチン酸を摂取しすぎると、その強い排泄作用により、体内の大事な栄養成分までも排出してしまうとも言われていることから、本実施形態の低糖質パン用食品素材中のフィチン酸の含有量の上限値は、2.0質量%以下であることが好ましい。
フィチン酸は、ふすま又はぬかに多く含まれており、通常のパンに使用する強力粉中には0.02質量%以上0.03質量%以下しか含まれていないとされている。したがって、本実施形態の低糖質パン用食品素材中のフィチン酸の含有量が上記下限値以上であることにより、上述のフィチン酸の効果が発揮しやすい。そのため、本実施形態の低糖質パン用食品素材中のフィチン酸は、その含有量が上記範囲となるように、ふすま又はぬかを配合することが好ましい。また、フィチン酸は、ふすま又はぬか以外の食品素材や食品添加物等由来のものであってもよい。
なお、低糖質パン用食品素材におけるフィチン酸の含有量は、Wade法と呼ばれる公知の方法により定量することができる。
Wade法による定量法として具体的には、まず、食品素材からサンプルを採取する。次いで、サンプルに100倍量の2.4%塩酸を加えて、1時間室温にて攪拌する。その後、この溶液をろ過する。次いで、適当に希釈したろ液3mLをとり、Wade試薬(0.3(W/V)%スルホサリチル酸を含む0.03%(W/V)塩化第二鉄水溶液)1mLを添加する。次いで、沈殿が生じた場合は遠心分離により除去し、500nmにおける吸光度を測定する。次いで、測定値からフィチン酸ナトリウムで作成した検量線を元に濃度を算出し、フィチン酸の含有量を算出すればよい。
(ふすま又はぬか)
本実施形態の食品素材に配合されるふすまとは、小麦又はライ麦の表皮部分を意味する。
また、本実施形態の食品素材に配合されるぬかとは、小麦やライ麦を除く穀物、例えば、米、大麦、オーツ麦、ハト麦、裸麦等を精白する際に出る表皮、胚芽、細胞壁等の部分を意味する。本実施形態におけるぬかは、低糖質を実現するために、ぬかに含まれる糖質(例えば、澱粉、米粉、大麦粉等) は、分級、篩い分け等の工程を経て予め分離されて取り除かれたものである。
通常のふすま及びぬかには、細菌、酵母、カビ等の微生物及びポリフェノールオキシダーゼ等の酵素が含まれており、このままでは食品用には適さない。したがって、本実施形態におけるふすま及びぬかは、微生物の殺菌及び酵素を失活させたものであることが好ましい。
また、本実施形態の食品素材に配合されるふすま及びぬかは、乾燥工程を経て製造されたものであることが好ましい。乾燥方法としては、例えば、熱風乾燥、冷風乾燥、噴霧乾燥、凍結乾燥等が挙げられる。また、乾燥工程によっては、ふすま及びぬかの不快なにおいが残り最終製品に影響をあたえることから、本実施形態の食品素材に配合されるふすま及びぬかは、さらに、焙煎工程を経て製造されたものであることが好ましい。
このような処理をすることにより、微生物の殺菌、酵素の失活、及び特有の穀物臭をマスキングすることができる。
また、本実施形態の食品素材に配合されるふすま及びぬかは、乾燥工程後に粉砕機等により粉砕して粉末状にしたものであってもよい。
素材中の低糖質パン用食品素材中のふすま及びぬかの含有量は、特別な限定はない。例えば、低糖質パン用食品素材中のフィチン酸がふすま及びぬかに由来する場合、フィチン酸の含有量を上記範囲とするために、素材中のふすま及びぬかの含有量は、20質量%以上80質量%以下であることが好ましく、30質量%以上70質量%以下であることがより好ましく、40質量%以上60質量%以下であることがさらに好ましい。
[セルロース]
本明細書における「セルロース」とは、D−グルコピラノースがβ1→4結合で連なった構造を有するものを意味し、且つ、前記構造を有するセルロースを主成分とする物質を包含する。セルロースの原料としては、例えば、木材、竹、麦藁、稲藁、精製リンター、コットン、ラミー、バガス、ケナフ、ビート、ホヤ、バクテリアセルロース等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
(セルロースの種類)
一般に入手できるセルロースとしては、例えば、粉末セルロース、結晶セルロース等が挙げられる。中でも、本実施形態におけるセルロースとしては、後述の実施例に示すように、平均重合度が低いことに起因して、低糖質パンの焼成時の膨らみをより改善できることから、結晶セルロースであることが好ましい。
・粉末セルロース
一般に、「粉末セルロース」とは、木材パルプ、精製リンター等のセルロース原料から得たパルプをそのまま、又は、当該パルプからヘミセルロース、リグニン等の非晶領域の一部を取り除いたものを、機械的に粉砕して得られる、セルロースを主成分とする粉末である。
また、一般に、粉末セルロースの平均重合度は、400以上1500以下程度である。粉末セルロースの平均重合度は、例えば第十五改正日本薬局方解説書(廣川書店発行)の確認試験(3)に記載の、銅エチレンジアミン溶液による還元比粘度法に従い、測定することができる。粉末セルロースとして具体的には、例えば、日本製紙製のKCフロックシリーズ等が挙げられる。
・結晶セルロース
一般に、「結晶セルロース」とは、木材パルプ、精製リンター等のセルロース原料を、酸加水分解、アルカリ酸化分解、酵素分解等により解重合処理して非晶領域(ヘミセルロース、リグニン等)を取り除いた後に、乾燥工程を経て得られる、結晶セルロースを主成分とする粉体状のものである、
また、一般に、結晶セルロースの平均重合度は、通常、10以上400以下程度である。結晶セルロースは、解重合を受けているため、上記粉末セルロースよりも平均重合度が低い。
結晶セルロースは、例えば、加水分解処理された天然セルロースを乾燥することにより得られる。この場合、加水分解処理により得られる反応溶液(以下、「加水分解溶液」と称する場合がある。)から、加水分解処理されたセルロースを含む固形分を単離し、これを適当な媒体に分散させて調製した分散液を乾燥してもよく、又は、前記加水分解溶液がそのままの状態でセルロース分散液を形成している場合は、このセルロース分散液を直接乾燥してもよい。
結晶セルロースは、主成分である結晶セルロースに水溶性高分子が複合化された、結晶セルロース複合体であってもよい。ここで、「複合化」とは、結晶セルロースの表面が、水素結合等の化学結合により、水溶性高分子で被覆された形態を意味する。したがって、結晶セルロース複合体は、結晶セルロースと水溶性高分子とを単に混合した状態ではなく、水溶性高分子が結晶セルロース表面を被覆した状態である。そのため、結晶セルロース複合体を水系媒体中に分散させると、水溶性高分子が結晶セルロース表面から剥離することなく、表面から放射状に広がった構造を形成し、水中でコロイド状となる。
よって、結晶セルロースが結晶セルロース複合体である場合、結晶セルロースは、乾燥させて一次粒子が凝集した粉体の状態からでも、元の結晶セルロースの一次粒子の大きさに分散させることができる。
ここで、「水溶性高分子」とは、親水性高分子物質を意味する。また、「親水性」とは、常温のイオン交換水に少なくとも一部が溶解する性質を有することを意味する。なお、定量的に親水性を定義すると、以下のとおりである。
まず、被検物質0.05gを、50mLのイオン交換水に、攪拌下(スターラーチップ等による)で平衡まで溶解させる。次いで、目開き1μmのメンブレンフィルターを通過させた際に、被検物質の1質量%以上が通過するとき、当該被検物質は、親水性を有するといえる。
水溶性高分子としては、化学構造の一部に単糖、二糖類等のオリゴ糖又は多糖類を含むもの等が挙げられる。
前記多糖類としては、例えば、キサンタンガム、カラヤガム、サイリウムシードガム、ジェランガム、カラギナン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カルシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、HMペクチン、LMペクチン等の陰イオン性多糖類;ローカストビーンガム、グァーガム、タラガム、タマリンドシードガム、キトサン、アラビアガム、ガッティガム、グルコマンナン、トラガントガム、寒天、アルギン酸プロピレングリコールエステル、アゾトバクター・ビネランジーガム、カードラン、プルラン、デキストラン;メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース及びヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体が好適な例として挙げられる。
また、水溶性高分子としては、化学構造の一部に糖を含まないものであってもよく、例えば、ゼラチン等が挙げられ、これらに限定されない。水溶性高分子は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
結晶セルロースと複合体を形成する水溶性高分子としては、セルロースと複合化しやすいことから、陰イオン性多糖類であることが好ましい。ここで、「陰イオン性多糖類」とは、当該物質を水中で分散又は溶解した際に、陽イオンが遊離し、それ自身が陰イオンとなるものを意味する。
上記陰イオン性多糖類は、1種のみを結晶セルロースと複合化してもよく、2種以上を組み合わせてセルロースと複合化してもよい。
結晶セルロース複合体は、さらに、澱粉加水分解物、加工澱粉等の比較的低分子量の多糖類;フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、乳糖、マルトース、ショ糖、α−、β−、γ−シクロデキストリン等のオリゴ糖類;ブドウ糖、果糖、ソルボース等の単糖類;マルチトール、ソルビット、エリスリトール等の糖アルコール類等の親水性物質を含んでもよい。当該親水性物質は、水系媒体中にセルロースを分散させた際の、崩壊剤又は導水剤として機能する。
(セルロースの平均重合度)
セルロースの平均重合度は、第十五改正日本薬局方解説書(廣川書店発行)の確認試験(3)に記載の、銅エチレンジアミン溶液による還元比粘度法にしたがって、測定することができる値である。上述したセルロースの効果を得るためには、上記の方法で測定されるセルロースの平均重合度は1400以下であることが好ましく、1000以下であることがより好ましく、700以下であることがさらに好ましく、500以下であることがことさらに好ましく、350以下であることが特に好ましく、250以下であることが最も好ましい。
一般に、植物中に存在するセルロースの平均重合度は、1500〜10000程度と言われている。穀物の外皮や茎等を乾燥及び粉砕して得られる、いわゆる植物ファイバーの平均重合度も同じである。
本実施形態では、これらとは異なり、植物の原料を加工し、セルロースの平均重合度1500以下、好ましくは1000以下、より好ましくは700以下、さらに好ましくは500以下、特に好ましくは350以下、最も好ましくは250以下に小さくしたものである。驚くべきことに、この重合度を小さくしたセルロースを含む低糖質パンは、発酵中及び焼成中の腰折れ、並びに、焼成時の窯落ちが防止され、パンの膨らみと食感とが大きく改善されることを見出した。重合度が低いということは、セルロース分子の大きさが小さいことを意味し、セルロース分子が小さいことにより、グルテンのしなやかな形成等に寄与しやすくなるものと考えられ、これはこれまでになかった知見である。
平均重合度は、小さいほど効果が大きくなるため、下限は特に制限されない。平均重合度の好ましい範囲としては10以上であり、より好ましくは50以上、さらに好ましくは100以上である。
(セルロースの製造方法)
・セルロースの加水分解
本実施形態におけるセルロースは、平均重合度が上記範囲内となるように公知の製造方法を用いて、製造すればよい。セルロースの平均重合度を制御する方法としては、例えば、加水分解処理等が挙げられる。加水分解処理によって、セルロース繊維質内部の非晶質セルロースの解重合が進み、平均重合度が小さくなる。また同時に、加水分解処理により、上述の非晶質セルロースに加え、ヘミセルロースやリグニン等の不純物も取り除かれるため、繊維質内部が多孔質化する。それにより、結晶セルロース複合体を製造する場合には、セルロースと水溶性高分子とに機械的せん断力を与える工程において、セルロースが機械処理を受けやすくなり、セルロースが微細化されやすくなる。その結果、セルロースの表面積が高くなり、水溶性高分子との複合化の制御が容易になる。
加水分解の方法は特に制限されない。加水分解の方法として具体的には、例えば、酸加水分解、熱水分解、スチームエクスプロージョン、マイクロ波分解等が挙げられる。これらの方法は、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
例えば、酸加水分解の方法では、セルロース原料を水系媒体に分散させた状態で、プロトン酸、カルボン酸、ルイス酸、ヘテロポリ酸等を適量加え、攪拌しながら加温することにより、容易に平均重合度を制御できる。この際の温度、圧力、時間等の反応条件は、セルロースの種類、セルロース濃度、酸種、酸濃度等により異なるが、目的とする平均重合度が達成されるように適宜調整すればよい。例えば、2質量%以下の鉱酸水溶液を使用し、20℃以上140℃以下、好ましくは40℃以上100℃以下の温度下、且つ、加圧下で、10分以上セルロースを処理するという条件が挙げられる。この条件のとき、酸等の触媒成分がセルロース繊維内部まで浸透し、加水分解が促進され、使用する触媒成分量が少量となり、その後の精製も容易になる。
なお、加水分解時のセルロースの分散液には、水の他、本実施形態の効果を損なわない範囲であれば、有機溶媒を少量含んでいてもよい。
・セルロースの乾燥
次いで、加水分解後のセルロース粒子の分散液を、乾燥によって粉末にして、セルロース粉末を得ればよい。反応後、洗浄、pH調整した乾燥前のセルロース粒子の分散液のIC(電気伝導度)は300μS/cm以下であることが好ましく、150μS/cmであることがより好ましく、100μS/cm以下であることがさらに好ましい。前記上限値以下であることにより、粒子の水中での分散性の悪化による崩壊性の悪化を防ぐことができる。
乾燥方法としては、例えば、噴霧乾燥法等が挙げられる。噴霧乾燥における品温は、130℃未満であることが好ましく、100℃未満であることがより好ましい。
ここでいう、「品温」とは、噴霧乾燥時の入口温度ではなく排風温度を意味する。噴霧乾燥ではセルロース粒子分散液中の凝集粒子が全方向からの熱収縮応力によって圧密されるため、緻密化(重質化)して流動性が良好なものとなる。また、凝集粒子間の水素結合が弱いため、崩壊性が良好なものになる。
乾燥前のセルロース粒子の分散液の濃度は25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。一方、セルロース粒子の分散液の濃度の下限については、生産性の観点から、1質量%以上であることが好ましい。前記下限値以上であることにより、コスト高となることを防止できる。
また、本実施形態の効果を損なわない程度に、乾燥後のセルロース粉末を粉砕してもよい。
(セルロースの吸水量)
本実施形態に用いられるセルロースは、セルロース1gあたりの吸水量が5.0g以下であることが好ましく、3.5g以下であることがより好ましく、3.0g以下であることがさらに好ましく、2.5g以下であることが特に好ましい。セルロースの吸水量が前記上限値以下であることにより、低糖質パン全体の保水性に影響を与えずに、グルテン形成にのみ作用することができると考えられる。
従来では、糖質を実質的に含有しないパンにおいて、パンの骨格形成に必要な糖質の代替として、1gあたりの吸水量が高いファイバー素材が有効であることが知られていた。これに対し、本実施形態では、吸水量の低いセルロースが、低糖質パンの骨格形成、並びに、発酵中及び焼成中の腰折れ抑制に有効であることを見出した。これは、これまでになかった驚くべき知見である。
また、本実施形態におけるセルロースは、吸水量の観点でも、セルロースは、平均重合度を小さくして繊維性を低くしたものが好ましく、結晶セルロースが好ましいといえる。セルロース1gあたりの吸水量の下限値に特別な限定はない。セルロース1gあたりの吸水量の下限値は、実質的な範囲として、1.0g以上であることが好ましい。
(セルロースの含有量)
本実施形態において、低糖質パン用食品素材中のセルロースの含有量の下限値は、0.1質量%以上であり、0.3質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。また、低糖質パン用食品素材中のセルロースの含有量の上限値は、5.0質量%以下であり、3.0質量%以下であることが好ましく、2.5質量%以下であることがより好ましい。
低糖質パン用食品素材中のセルロースの含有量が前記範囲内であることにより、低糖質パンの製パン時における発酵中及び焼成中の腰折れ、並びに、焼成中の窯落ちを防止し、通常量の小麦粉を含有するパンと同等の膨らみ及び食感を有する低糖質パンを得ることができる。
[その他材料]
本実施形態における低糖質パン用食品素材は、以下に示す材料を含んでいてもよい。
(増粘多糖類)
・増粘多糖類の種類
本実施形態における低糖質パン用食品素材は、増粘多糖類を含んでいてもよい。
増粘多糖類としては、例えば、グァーガム、タラガム、カシアガム、タマリンドシードガム、ローカストビーンガム、コンニャクマンナン等の植物種子粘質物;アラビアガム、トラガントガム、カラヤガム、ガティガム等の植物樹脂粘質物;ペクチン、アラビノガラクタン等の植物果実粘質物;キサンタンガム、プルラン、デキストラン、ジェランガム等の微生物産生粘質物;カラギナン、アルギン酸、アルギン酸ソーダ、アルギン酸プロピレングリコール、ファーセレラン、寒天、カードラン等の海草多糖類;カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)等のセルロース誘導体が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
また、上記の増粘多糖類を多く含む食品素材を使用してもよい。例えば、シトラスファイバーは、オレンジ等の柑橘類を圧搾後、絞り液から果汁を除き、粉末化後の細胞壁に高衝撃を与えて得られる物質である。シトラスファイバーには、ペクチンを主成分とする増粘多糖類と、セルロースの平均重合度が大きな植物ファイバーとが約半分ずつ含まれている。このような食品素材を使用する場合は、実質的に含まれる増粘多糖類として、低糖質パン用食品素材中の増粘多糖類の含有量が、後述する範囲の含有量となるようにすればよい。
低糖質パン用食品素材は、増粘多糖類を含有することで、生地の粘性及び保水性が向上し、しっとり感が得られる。そのため、本実施形態においては、増粘多糖類をセルロースとともに使用することにより、セルロースによる窯落ち抑制効果、並びに、膨らみ及び食感の改善効果を補強することが可能となる。一方、後述の実施例において示すように、増粘多糖類のみを使用しセルロースを使用しない場合には、セルロースのみを配合する場合、並びに、セルロース及び増粘多糖類を併用する場合と比較して、セルロースによる窯落ち抑制効果、並びに、膨らみ及び食感の改善効果を補強することはできない。
・増粘多糖類の含有量
低糖質パン用食品素材中の増粘多糖類の含有量は、0.01質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以上3質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以上2質量%以下であることがさらに好ましい。
(その他の材料)
本実施形態における低糖質パン用食品素材は、本実施形態の効果を妨げない範囲で、一般的にパン類用生地原料に使用されている副材料を適宜含有してもよい。
当該副材料としては、例えば、乳化剤、油脂(例えば、バター、マーガリン、ショートニング等)、乳由来の素材(例えば、脱脂粉乳等)、卵、卵由来の素材、製パン改良剤、酵素製剤、無機塩類(例えば、食塩、炭酸カルシウム等)、ビタミン類、イースト、イーストフード、着色料、香料等が挙げられる。
また、副材料として、低糖質の目的を大きく逸脱しない範囲で、小麦粉等の穀粉、澱粉類、糖類を少量配合させることも可能である。
<低糖質パン用食品素材の製造方法>
本実施形態の低糖質パン用食品素材は、上述の材料を粉体のまま混合することで製造することができる。また、得られる低糖質パン用食品素材中の澱粉の含有量は、50質量%以下である。
各材料の製造方法について、上述のとおりである。
≪低糖質パン≫
本発明の第1実施形態に係る低糖質パンは、上述の低糖質パン用食品素材を用いて生地を作り焼成してなり、且つ、パン100gあたりの糖質の含有量が30g以下である。
食パンは、3斤型で焼成する場合には、側面の中央部が内側に折れ曲がって外観を損なう「腰折れ」(ケーブイン又はケービング等とも呼ばれる。)現象が発生することが知られている。また、1斤型で焼成する場合にも、上面が凹む「窯落ち」が起こりやすいことが知られている。また、見た目には窯落ちしていなくても、食パンの内部のクラム(食パンの白い部分)が凹んで、クラスト(一般に「耳」と称される部分)と剥離する、クラストフレーキングと呼ばれる現象が発生する場合があることが知られている。
そのため、食パンの場合、他のパン類と比較して、低糖質パンとした場合に、小麦粉を代替したことによる影響が出やすい。これに対し、本実施形態の低糖質パンは、糖質の含有量が低減されながらも、発酵中及び焼成中の腰折れ、並びに、焼成中の窯落ちが防止され、従来の低糖質パンよりも良好な外観(膨らみ)及び食感を有する。
<糖質の含有量>
本実施形態の低糖質パンにおいて、100g当たりの糖質が30g以下であることが好ましく、25g以下がより好ましく、20g以下がさらに好ましく、15g以下が特に好ましく、10g以下が最も好ましい。
<低糖質パンの種類>
本実施形態における低糖質パンとしては、例えば、食パン、ロールパン、菓子パン、フランスパン、ライ麦パン、クロワッサン、ナン、蒸しパン、ベーグル、パイ、調理パン、パン粉等が挙げられる。中でも、本実施形態における低糖質パンとしては、食パン又はロールパンであることが好ましく、食パンであることがより好ましい。
<低糖質パンの製造方法>
本実施形態における低糖質パンは、前記低糖質パン用食品素材に製パンに必要な副材料が全て含まれている場合はそのまま用いて、通常のパンの製造方法に従い、生地を作り、焼成等して製造すれば容易に得ることができる。又は、前記低糖質パン用食品素材に、製パンに必要な副材料を添加し、通常のパンの製造方法に従い、生地を作り、焼成等して製造すれば容易に得ることができる。製パンに必要な副材料としては、上述の副材料と同様のものが挙げられる。
本実施形態の製造方法により得られる低糖質パン100gあたりの糖質の含有量が30g以下である。
また、低糖質パンの製造方法としては、いずれの公知の製パン法を好適に実施することができる。公知の製パン法としては、例えば、速成法、ストレート法、中種法、液種法、サワー種法、酒種法、ホップ種法、中麺法、チョリーウッド法、連続製パン法、冷蔵生地法等が挙げられる。
ストレート製法には、オールインミックス法と2段ミキシング法とがある。オールインミックス法は、原材料全部を投入して混合する製法である。また、2段ミキシング法は小麦粉、イースト、乳化剤及び水を混合し、7割程度混合した後に、油脂類を投入し再び混合して生地を仕上げる製法である。
中種製法は、原材料の一部(低糖質パン用食品素材、イースト、水、必要に応じてイーストフード、卵、糖類)で種を作り、これを発酵させる。発酵終了後、残りの原材料を加え、生地を作る製法である。
液種法は、イースト、砂糖、食塩、イーストフード、モルトの全部又は一部で液種を作り、一定時間後、残りの原料と共に生地を仕込む製法である。
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
<各種試験項目の測定方法>
1.低糖質パン用食品素材中の澱粉含有量
酵素法を用いて、澱粉含有量を測定した。
具体的には、食品素材からサンプルを採取し、低分子糖を除去後、加熱糊化した。その後、グルコアミラーゼで酵素分解反応させ、定容及び濾過を行った。次いで、ブドウ糖をムタロターゼ・グルコースオキシターゼ法で定量した。次いで、定量されたブドウ糖含有量から澱粉の含有量を、以下の計算式[A]により算出した。
澱粉含有量[%]=ブドウ糖含有量[%]×0.9 ・・・[A]
2.低糖質パン用食品素材中のタンパク質含有量
ケルダール法を用いて、タンパク質含有量を測定した。
具体的には、まず、食品素材からサンプルを採取する。次いで、サンプルを分解促進剤(硫酸カリウムと硫酸銅(II)五水和物との90/10の混合物)とともに濃硫酸溶液(0.025mol/l)で加熱分解し、含まれている窒素を全て硫酸アンモニウムに変えた。次いで、放冷後、過剰の30%水酸化ナトリウム水溶液を加えて加熱して、アンモニアを生じさせた。次いで、遊離したアンモニアを水蒸気蒸留してホウ酸溶液に捕集した。次いで、得られたアンモニア捕集液を硫酸標準溶液で滴定して窒素量を求めた。次いしたする。
タンパク質含有量[%]=窒素含有量[%]×6.25 ・・・[B]
3.低糖質パン用食品素材中のフィチン酸含有量
Wade法を用いて、フィチン酸含有量を測定した。
具体的には、まず、食品素材からサンプルを採取した。次いで、サンプルに100倍量の2.4%塩酸を加えて、1時間室温にて攪拌した。その後、この溶液をろ過した。次いで、適当に希釈したろ液3mLをとり、Wade試薬(0.3(W/V)%スルホサリチルSANTA FEを含む0.03%(W/V)塩化第二鉄水溶液)1mLを添加した。次いで、沈殿が生じた場合は遠心分離により除去し、500nmにおける吸光度を測定した。次いで、測定値からフィチン酸ナトリウムで作成した検量線を元に濃度を算出し、フィチン酸の含有量を算出した。
4.糖質含有量
原料の含有量から、日本食品標準成分表2015年版(七訂)(文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会著)で公表されている栄養成分表示に従い、パン100gあたりの糖質含有量を算出し、計算値(推定値)として使用した。
5.食パンの高さ
各配合からなる低糖質パン用食品素材を用いて、パン生地を作り焼成した。次いで、オーブンから取り出して1時間後に、食パンの中央部で2等分し、食パンの底面から中央部付近の最も高い点までの距離を食パンの高さとして、デジタルハイトゲージを用いて測定した。
6.食パンの官能評価
26歳から63歳までの男女10名のパネルにより、各配合からなる低糖質パン用食品素材を用いて、パン生地を作り焼成し、オーブンから取り出して3時間経過後の低糖質パンを実際に食すことで評価した。このとき、通常の配合の食パンを食したときの食味、食感の印象と比較して以下の4段階で評価した。
◎:一般的な配合の食パンと同等で、非常においしい
○:一般的な配合の食パンよりもやや劣るが、低糖質パンとしてはおいしい
△:一般的な配合の食パンよりも劣るが、低糖質パン製品として許容レベルである
×:一般的な配合の食パンよりも大きく劣り、低糖質パンとしても許容できない
[製造例1]セルロース粉末Aの製造
市販SPパルプを裁断後、4N塩酸中で低速型攪拌機(池袋琺瑯工業製、30LGL反応器、翼径30cm)を用いて、40℃、48時間、撹拌(撹拌速度5rpm)しながら加水分解した(重合度200)。加水分解後、水洗、濾過及び中和を行った。次いで、90Lのポリバケツに入れ、スリーワンモーター(HEIDEN製、タイプ1200G、8M/M、翼径5cm)で撹拌(撹拌速度50rpm)しながら、濃度18%のセルロース粒子の分散体とした。これを噴霧乾燥(液供給速度6L/hr、入口温度180〜220℃、出口温度50〜70℃)して、セルロース粉末Aを得た。
セルロース粉末Aの平均重合度は210であり、結晶セルロースに相当するものであった。また、セルロース粉末A 1gあたりの吸水量は2.1gであった。
[参考例1]通常の配合の食パン(対照食パン)の製造
ホームベーカリー(アイリスオーヤマ HMB−002)を使用して、以下の方法で通常の配合の食パン(以下、「対照食パン」と称する場合がある。)を製造した。
(1)水167.5gを投入し、イーストフード0.25g、上白糖15g、食塩5g、脱脂粉乳5g及びショートニング15gを予め混合した混合物を投入し、さらに強力粉250g及びドライイースト2gを投入した。
なお、使用した強力粉における澱粉、タンパク質及びフィチン酸の含有量を、低糖質食パン用食品素材の対照として、澱粉、タンパク質及びフィチン酸の含有量を上述の各種試験項目の測定方法に従い、算出した。その結果、澱粉の含有量は0.1質量%、タンパク質の含有量は11.8質量%、及びフィチン酸の含有量は0.03質量%であった。
(2)蓋をし、通常コースを選択し、スタートボタンを押して、焼成した。
[実施例1]低糖質食パン1の製造
ホームベーカリー(アイリスオーヤマ HMB−002)を使用して、以下の方法で低糖質食パン1を製造した。
(1)製造例1で得られたセルロース粉末Aを使用し、下記表1に示す配合で、低糖質パン用食品素材1を得た。
なお、表1において、セルロースの含有量[質量%]は、低糖質パン用食品素材の全体の質量に対するセルロースの質量の比率を算出することにより得た。
また、澱粉、タンパク質及びフィチン酸の含有量は、上述の各種試験項目の測定方法に従い、算出した。
(2)ドライイースト5gをパンケースに入れ、次に、低糖質パン用食品素材1 200g、脱脂粉乳5g、エリスリトール3.98g、アセスルファムカリウム0.024g、食塩2g、全卵45g、無塩バター35g及び水200gを順次加えた。
(3)蓋をし、速焼きコースを選択し、スタートボタンを押して焼成した。
[実施例2]低糖質食パン2の製造
ホームベーカリー(アイリスオーヤマ HMB−002)を使用して、以下の方法で低糖質食パン1を製造した。
(1)製造例1で得られたセルロース粉末Aを使用し、下記表1に示す配合で、低糖質パン用食品素材2を得た。
(2)低糖質パン用食品素材1の代わりに低糖質パン用食品素材2を使用した以外は、実施例1と同様の方法を用いて低糖質食パン2を製造した。
[実施例3]低糖質食パン3の製造
ホームベーカリー(アイリスオーヤマ HMB−002)を使用して、以下の方法で低糖質食パン3を製造した。
(1)製造例1で得られたセルロース粉末Aを使用し、下記表1に示す配合で、低糖質パン用食品素材3を得た。
(2)低糖質パン用食品素材1の代わりに低糖質パン用食品素材3を使用した以外は、実施例1と同様の方法を用いて低糖質食パン3を製造した。
[実施例4]低糖質食パン4の製造
ホームベーカリー(アイリスオーヤマ HMB−002)を使用して、以下の方法で低糖質食パン4を製造した。
(1)セルロース粉末Bとして、セオラス(登録商標)RC−591(旭化成製)を使用し、下記表1に示す配合で、低糖質パン用食品素材4を得た。
なお、セオラス(登録商標)RC−591は、平均重合度が190の結晶セルロース85%とカルボキシメチルセルロース15%とからなる結晶セルロース複合体である。また、セオラス(登録商標)RC−591 1gあたりの吸水量は1.9gであった。
(2)低糖質パン用食品素材1の代わりに低糖質パン用食品素材4を使用した以外は、実施例1と同様の方法を用いて低糖質食パン4を製造した。
[実施例5]低糖質食パン5の製造
ホームベーカリー(アイリスオーヤマ HMB−002)を使用して、以下の方法で低糖質食パン5を製造した。
(1)セルロース粉末Cとして、KCフロックW−200(日本製紙製、平均重合度700)を使用し、下記表1に示す配合で、低糖質パン用食品素材5を得た。
なお、KCフロックW−200は、粉末セルロースである。また、KCフロックW−200 1gあたりの吸水量は3.4gであった。
(2)低糖質パン用食品素材1の代わりに低糖質パン用食品素材5を使用した以外は、実施例1と同様の方法を用いて低糖質食パン5を製造した。
[実施例6]低糖質食パン6の製造
ホームベーカリー(アイリスオーヤマ HMB−002)を使用して、以下の方法で低糖質食パン6を製造した。
(1)製造例1で得られたセルロース粉末Aを使用し、下記表2に示す配合で、低糖質パン用食品素材6を得た。
(2)低糖質パン用食品素材1の代わりに低糖質パン用食品素材6を使用した以外は、実施例1と同様の方法を用いて低糖質食パン6を製造した。
[実施例7]低糖質食パン7の製造
ホームベーカリー(アイリスオーヤマ HMB−002)を使用して、以下の方法で低糖質食パン7を製造した。
(1)製造例1で得られたセルロース粉末Aを使用し、下記表2に示す配合で、低糖質パン用食品素材7を得た。
(2)低糖質パン用食品素材1の代わりに低糖質パン用食品素材7を使用した以外は、実施例1と同様の方法を用いて低糖質食パン7を製造した。
[実施例8]低糖質食パン8の製造
ホームベーカリー(アイリスオーヤマ HMB−002)を使用して、以下の方法で低糖質食パン8を製造した。
(1)製造例1で得られたセルロース粉末Aを使用し、下記表2に示す配合で、低糖質パン用食品素材8を得た。
(2)低糖質パン用食品素材1の代わりに低糖質パン用食品素材8を使用した以外は、実施例1と同様の方法を用いて低糖質食パン8を製造した。
[実施例9]低糖質食パン9の製造
ホームベーカリー(アイリスオーヤマ HMB−002)を使用して、以下の方法で低糖質食パン9を製造した。
(1)製造例1で得られたセルロース粉末Aを使用し、下記表3に示す配合で、低糖質パン用食品素材9を得た。
(2)低糖質パン用食品素材1の代わりに低糖質パン用食品素材9を使用した以外は、実施例1と同様の方法を用いて低糖質食パン9を製造した。
[実施例10]低糖質食パン10の製造
ホームベーカリー(アイリスオーヤマ HMB−002)を使用して、以下の方法で低糖質食パン10を製造した。
(1)製造例1で得られたセルロース粉末Aを使用し、下記表3に示す配合で、低糖質パン用食品素材10を得た。
(2)低糖質パン用食品素材1の代わりに低糖質パン用食品素材10を使用した以外は、実施例1と同様の方法を用いて低糖質食パン10を製造した。
[実施例11]低糖質食パン11の製造
ホームベーカリー(アイリスオーヤマ HMB−002)を使用して、以下の方法で低糖質食パン11を製造した。
(1)製造例1で得られたセルロース粉末Aを使用し、下記表3に示す配合で、低糖質パン用食品素材11を得た。
(2)低糖質パン用食品素材1の代わりに低糖質パン用食品素材11を使用した以外は、実施例1と同様の方法を用いて低糖質食パン11を製造した。
[実施例12]低糖質食パン12の製造
ホームベーカリー(アイリスオーヤマ HMB−002)を使用して、以下の方法で低糖質食パン12を製造した。
(1)製造例1で得られたセルロース粉末Aを使用し、下記表3に示す配合で、低糖質パン用食品素材12を得た。
(2)低糖質パン用食品素材1の代わりに低糖質パン用食品素材12を使用した以外は、実施例1と同様の方法を用いて低糖質食パン12を製造した。
[実施例13]低糖質食パン13の製造
ホームベーカリー(アイリスオーヤマ HMB−002)を使用して、以下の方法で低糖質食パン13を製造した。
(1)製造例1で得られたセルロース粉末Aを使用し、下記表3に示す配合で、低糖質パン用食品素材13を得た。
(2)低糖質パン用食品素材1の代わりに低糖質パン用食品素材13を使用した以外は、実施例1と同様の方法を用いて低糖質食パン13を製造した。
[実施例14]低糖質食パン14の製造
ホームベーカリー(アイリスオーヤマ HMB−002)を使用して、以下の方法で低糖質食パン14を製造した。
(1)製造例1で得られたセルロース粉末Aを使用し、下記表3に示す配合で、低糖質パン用食品素材14を得た。
(2)低糖質パン用食品素材1の代わりに低糖質パン用食品素材14を使用した以外は、実施例1と同様の方法を用いて低糖質食パン14を製造した。
[実施例15]低糖質食パン15の製造
ホームベーカリー(アイリスオーヤマ HMB−002)を使用して、以下の方法で低糖質食パン15を製造した。
(1)製造例1で得られたセルロース粉末Aを使用し、下記表4に示す配合で、低糖質パン用食品素材15を得た。
(2)低糖質パン用食品素材1の代わりに低糖質パン用食品素材15を使用した以外は、実施例1と同様の方法を用いて低糖質食パン15を製造した。
[実施例16]低糖質食パン16の製造
ホームベーカリー(アイリスオーヤマ HMB−002)を使用して、以下の方法で低糖質食パン16を製造した。
(1)製造例1で得られたセルロース粉末Aを使用し、下記表4に示す配合で、低糖質パン用食品素材16を得た。
(2)低糖質パン用食品素材1の代わりに低糖質パン用食品素材16を使用した以外は、実施例1と同様の方法を用いて低糖質食パン16を製造した。
[実施例17]低糖質食パン17の製造
ホームベーカリー(アイリスオーヤマ HMB−002)を使用して、以下の方法で低糖質食パン17を製造した。
(1)製造例1で得られたセルロース粉末Aを使用し、下記表4に示す配合で、低糖質パン用食品素材17を得た。
(2)低糖質パン用食品素材1の代わりに低糖質パン用食品素材17を使用した以外は、実施例1と同様の方法を用いて低糖質食パン17を製造した。
[実施例18]低糖質食パン18の製造
ホームベーカリー(アイリスオーヤマ HMB−002)を使用して、以下の方法で低糖質食パン18を製造した。
(1)製造例1で得られたセルロース粉末Aを使用し、下記表4に示す配合で、低糖質パン用食品素材18を得た。
(2)低糖質パン用食品素材1の代わりに低糖質パン用食品素材18を使用した以外は、実施例1と同様の方法を用いて低糖質食パン18を製造した。
[実施例19]低糖質食パン19の製造
ホームベーカリー(アイリスオーヤマ HMB−002)を使用して、以下の方法で低糖質食パン19を製造した。
(1)製造例1で得られたセルロース粉末Aを使用し、下記表4に示す配合で、低糖質パン用食品素材19を得た。
(2)低糖質パン用食品素材1の代わりに低糖質パン用食品素材19を使用した以外は、実施例1と同様の方法を用いて低糖質食パン19を製造した。
[実施例20]低糖質食パン20の製造
ホームベーカリー(アイリスオーヤマ HMB−002)を使用して、以下の方法で低糖質食パン20を製造した。
(1)製造例1で得られたセルロース粉末Aを使用し、下記表5に示す配合で、低糖質パン用食品素材20を得た。
(2)低糖質パン用食品素材1の代わりに低糖質パン用食品素材20を使用した以外は、実施例1と同様の方法を用いて低糖質食パン20を製造した。
[実施例21]低糖質食パン21の製造
ホームベーカリー(アイリスオーヤマ HMB−002)を使用して、以下の方法で低糖質食パン20を製造した。
(1)製造例1で得られたセルロース粉末Aを使用し、下記表5に示す配合で、低糖質パン用食品素材21を得た。
(2)低糖質パン用食品素材1の代わりに低糖質パン用食品素材21を使用した以外は、実施例1と同様の方法を用いて低糖質食パン21を製造した。
[実施例22]低糖質食パン22の製造
ホームベーカリー(アイリスオーヤマ HMB−002)を使用して、以下の方法で低糖質食パン21を製造した。
(1)製造例1で得られたセルロース粉末Aを使用し、下記表5に示す配合で、低糖質パン用食品素材22を得た。
(2)低糖質パン用食品素材1の代わりに低糖質パン用食品素材22を使用した以外は、実施例1と同様の方法を用いて低糖質食パン22を製造した。
[実施例23]低糖質食パン23の製造
ホームベーカリー(アイリスオーヤマ HMB−002)を使用して、以下の方法で低糖質食パン22を製造した。
(1)製造例1で得られたセルロース粉末Aを使用し、下記表5に示す配合で、低糖質パン用食品素材23を得た。
(2)低糖質パン用食品素材1の代わりに低糖質パン用食品素材23を使用した以外は、実施例1と同様の方法を用いて低糖質食パン23を製造した。
[比較例1]低糖質食パン24の製造
ホームベーカリー(アイリスオーヤマ HMB−002)を使用して、以下の方法で低糖質食パン24を製造した。
(1)セルロースを使用せずに、下記表6に示す配合で、低糖質パン用食品素材24を得た。
(2)低糖質パン用食品素材1の代わりに低糖質パン用食品素材24を使用した以外は、実施例1と同様の方法を用いて低糖質食パン24を製造した。
[比較例2]低糖質食パン25の製造
ホームベーカリー(アイリスオーヤマ HMB−002)を使用して、以下の方法で低糖質食パン25を製造した。
(1)製造例1で得られたセルロース粉末Aを使用し、下記表6に示す配合で、低糖質パン用食品素材25を得た。
(2)低糖質パン用食品素材1の代わりに低糖質パン用食品素材25を使用した以外は、実施例1と同様の方法を用いて低糖質食パン25を製造した。
[比較例3]低糖質食パン26の製造
ホームベーカリー(アイリスオーヤマ HMB−002)を使用して、以下の方法で低糖質食パン26を製造した。
(1)製造例1で得られたセルロース粉末Aを使用し、下記表6に示す配合で、低糖質パン用食品素材26を得た。
(2)低糖質パン用食品素材1の代わりに低糖質パン用食品素材26を使用した以外は、実施例1と同様の方法を用いて低糖質食パン26を製造した。
[比較例4]低糖質食パン27の製造
ホームベーカリー(アイリスオーヤマ HMB−002)を使用して、以下の方法で低糖質食パン27を製造した。
(1)セルロースを使用せずに、下記表6に示す配合で、低糖質パン用食品素材27を得た。
(2)低糖質パン用食品素材1の代わりに低糖質パン用食品素材27を使用した以外は、実施例1と同様の方法を用いて低糖質食パン27を製造した。
[比較例5]低糖質食パン28の製造
ホームベーカリー(アイリスオーヤマ HMB−002)を使用して、以下の方法で低糖質食パン28を製造した。
(1)製造例1で得られたセルロース粉末Aを使用し、下記表6に示す配合で、低糖質パン用食品素材28を得た。
(2)低糖質パン用食品素材1の代わりに低糖質パン用食品素材28を使用した以外は、実施例1と同様の方法を用いて低糖質食パン28を製造した。
[比較例6]低糖質食パン29の製造
ホームベーカリー(アイリスオーヤマ HMB−002)を使用して、以下の方法で低糖質食パン29を製造した。
(1)製造例1で得られたセルロース粉末Aを使用し、下記表6に示す配合で、低糖質パン用食品素材29を得た。
(2)低糖質パン用食品素材1の代わりに低糖質パン用食品素材29を使用した以外は、実施例1と同様の方法を用いて低糖質食パン29を製造した。
[試験例1]食パンの評価
上記参考例1、実施例1〜23及び比較例1〜6の焼成後の食パンについて、上記試験項目に従い、評価を行った。
参考例1で製造された対照食パンでは、糖質の含有量は100gあたり44.4gであり、高さは13.1cmであった。この対照食パンの食味及び食感を、実施例1〜22及び比較例1〜16の官能評価の比較対照(コントロール)とした。
実施例1〜5で製造された食パンでの糖質の含有量、高さ及び官能評価結果を下記表1に示す。
実施例6〜8で製造された食パンでの糖質の含有量、高さ及び官能評価結果を下記表2に示す。
実施例9〜14で製造された食パンでの糖質の含有量、高さ及び官能評価結果を下記表3に示す。
実施例15〜19で製造された食パンでの糖質の含有量、高さ及び官能評価結果を下記表4に示す。
実施例20〜23で製造された食パンでの糖質の含有量、高さ及び官能評価結果を下記表5に示す。また、実施例19〜22で製造された食パンにおいて、糖質削減率[質量%]を以下の式[1]を用いて算出した。なお、糖質削減率[質量%]は、対照食パン100gあたりの糖質の含有量44.4g、及び、各実施例において製造された低糖質パン100gあたりの糖質の含有量を元に算出されたものである。結果を下記表5に示す。
糖質削減率[質量%] = (44.4−X)/44.4×100 ・・・[1]
(式中、Xは低糖質パン100gあたりの糖質の含有量[g]である。)
比較例1〜6で製造された食パンでの糖質の含有量、高さ及び官能評価結果を下記表6に示す。また、比較例1〜6で製造された食パンにおいて、糖質削減率[質量%]を上記式[1]を用いて算出した。結果を下記表6に示す。
Figure 2018186771
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Figure 2018186771
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[実施例1〜23及び比較例1〜6の考察]
低糖質パン用食品素材中のセルロースの含有量の影響を、実施例1〜3及び比較例1〜3の結果から検討した。
比較例1のように、小麦タンパク及び焙煎ふすまのみを含む低糖質パン用食品素材を使用した場合は、通常の小麦粉を使用したパンと比較して、全く膨らまず、食感も非常に硬く、パンとして許容し難いものであった。
また、比較例2、実施例1、2の結果から、低糖質パン用食品素材中のセルロースの含有量の増加に伴い、徐々に膨らみが改善されていくが、セルロースの含有量が0.1質量%未満の場合は、不充分であった。一方、低糖質パン用食品素材中のセルロースの含有量が0.5質量%である場合に低糖質パンとして許容できるものが得られ、低糖質パン用食品素材中のセルロースの含有量が2.5質量%である場合に、膨らみが非常に改善され、食感も通常の食パンと同様にふんわり軽い感じとなった。これは、セルロースがグルテンの網目構造の形成を強化したためであると推察された。
また、実施例3の結果から、セルロースの含有量をさらに増やすと、パンの高さは少しずつ低くなり、比較例3のように、セルロースの含有量が5.0質量%を超えると、再びパンの膨らみがなくなり、食感も硬いものになった。これは、セルロースの含有量が多すぎると、グルテンの網目構造中のセルロースが増えすぎて、セルロース同士が焼成時に結着し、膨化を抑制するためであると推察された。
次に、セルロースの種類の影響を、実施例2、4、5の結果から検討した。
セルロースが結晶セルロース複合体であるセルロースBを用いた場合、結晶セルロースであるセルロースAとほぼ同等な食パンの高さ、並びに、食味及び食感であり、同等の効果が得られた。また、平均重合度の大きい粉末セルロースであるセルロースCを用いた場合も、セルロースを添加しない比較例1と比較して、膨らみ改善の効果は得られた。一方、食パンの高さ、並びに、食味及び食感について、セルロースA、セルロースBほどの効果は得られなかった。これらのことから、平均重合度が小さいセルロースの方が、低糖質パンの膨らみをより改善できることが分かった。
次に、低糖質パン用食品素材に、増粘多糖類の有無による影響を、実施例6〜8及び比較例4の結果から検討した。
キサンタンガム及びセルロースを含む低糖質パン用食品素材6を用いた実施例6、シトラスファイバー及びセルロースを含む低糖質パン用食品素材7を用いた実施例7、キサンタンガム、並びに、シトラスファイバー及びセルロースを含む低糖質パン用食品素材8を用いた実施例8について、いずれも、同量のセルロースのみを含む低糖質パン用食品素材2を用いた実施例2と比較して、膨らみ及び食感がより改善される傾向が見られた。すなわち、増粘多糖類及びセルロースを併用することで、膨らみ及び食感について、さらに高い効果が得られることが分かった。
一方、増粘多糖類としてキサンタンガム及びシトラスファイバーを含有し、セルロースを含有しない低糖質パン用食品素材26を用いた比較例4の結果から、増粘多糖類を含有しない比較例1と比較して、増粘多糖類を含有することで、パンの膨らみは改善された。しかしながら、依然として通常の食パン(食パンの高さ:13.1cm)と比較して膨らみが不足し、硬い食感であった。すなわち、セルロースを含有せず、増粘多糖類を含有するだけでは、通常の食パンと同じような食感を持つ、低糖質パンを得ることは困難であることが分かった。
低糖質パン用食品素材に、増粘多糖類及びセルロースを併用した場合の、低糖質パン用食品素材中のセルロースの含有量の影響をさらに検討したのが、実施例8〜14及び比較例4〜6である。
増粘多糖類及びセルロースを併用した場合は、セルロースのみを使用する場合と比べて、少ないセルロース含有量で膨らみの改善及び食感改善効果を発揮する。
しかしながら、比較例4の結果から、セルロースの含有量が0.1質量%未満では上記効果は不充分であり、実施例9の結果から、セルロースの含有量が0.1質量%以上では上記効果を発揮する。また、実施例8〜14の結果から、セルロースの含有量の増加に伴い、食パンの膨らみ及び食感はより改善され、セルロースの含有量が1質量%以上2.5質量%以下で最も改善効果を発揮する。一方、増粘多糖類及びセルロースを併用した場合においても、セルロースの含有量が多すぎると、パンの膨らみは小さくなる傾向があり、セルロースの含有量が5.0質量%を超えると、膨らみが悪く、許容できないレベルとなった。
また、実施例15は、小麦ふすまに替えて、大麦ぬかを含む低糖質パン用食品素材を用いた場合であり、セルロースを含有することで膨らみのある、食感の良い低糖質パンが得られた。
また、実施例16、17は、小麦粉を含む低糖質パン用食品素材を用いた例である。小麦粉の含有量の増加に伴い、食パンは膨らみ、風味はさらに良くなる。ただし、小麦粉を含有した分、糖質の含有量が増加しており、小麦粉の配合量によっては、低糖質パンと謳うことが難しくなる。ゆえに、小麦粉の含有量は、糖質の含有量の低減、並びに、パンの膨らみ及び食感の改善のバランスから、決定すればよい。
また、実施例18は、食感及び風味の改善を目的として、部分アルファー化澱粉を含む低糖質パン用食品素材を用いた例である。部分アルファー化澱粉を含有することで、膨らみのある、食感の良い低糖質パンが得られた。ただし、部分アルファー化澱粉を含有した分、部分アルファー化澱粉を含有しない実施例9と比較して、糖質の含有量が増加している。このため、部分アルファー化澱粉の配合量によっては、低糖質パンと謳うことが難しくなる。ゆえに、部分アルファー化澱粉の含有量は、糖質の含有量の低減、並びに、パンの膨らみ及び食感の改善のバランスから、決定すればよい。
また、実施例19は、タンパク質原料として、小麦タンパク質の替わりに、大豆タンパク質を含む低糖質パン用食品素材を用いた例である。大豆タンパク質を使用した場合でも、低糖質パン製品として許容レベルである食パンが得られた。ただし、タンパク質原料以外の成分が同じである、実施例12と比較した場合、ややパンの膨らみが不足し、硬い傾向にあった。このことから、大豆タンパク質は水を含んでゲル化することから膨らみ改善に一定の効果はあるが、小麦タンパク質の主成分であるグルテンほど、パン生地の中でネットワーク構造を作りにくいためであると推測された。
低糖質パン用食品素材の小麦タンパク質及び焙煎小麦ふすま以外の成分の含有量を実施例12に合わせ、低糖質パン用食品素材の小麦タンパク質及び焙煎小麦ふすまの含有量を変えた場合の影響を、実施例20〜23で検討した。
実施例20〜23の結果から、低糖質パン用食品素材20〜23における小麦タンパク質及び焙煎小麦ふすまの含有量の範囲とすることで、実用的な膨らみと良好な食感とを有する低糖質パンが得られた。
[実施例24]低糖質パン30の製造
1.低糖質パン30の製造
以下の方法で、中種法を用いて、3斤型の食パンを焼成した。
(1)低糖質パン用食品素材として、実施例12で製造した低糖質パン用食品素材12を使用した。低糖質パン用食品素材12 560g、生イースト24g、食塩4g、イーストフード0.8g及び水320gをミキサー(カントーミキサーHPi−20M、関東混合機工業社製)を用いて、1速(136rpm)で2分、2足(248rpm)で1.5分間混合し、中種生地を作製した。
(2)次いで、この中種生地を生地ボックスに入れ、温度28℃、相対湿度75%の恒温室で4時間、中種一次発酵を行った。
(3)次いで、中種発酵の終了した生地を再び、ミキサーに投入し、さらに低糖質用パン用食品素材12 240g、脱脂粉乳20g、エリスリトール15.904g、アセスルファムカリウム0.09g、食塩4g、及び水160gを添加し、1速(136rpm)で3分、2速(248pm)で4分、3速(310rpm)で1.5分間混合した。さらにショートニング48gを添加し、1速(136rpm)で2分、2速(248pm)で3分、3速(310rpm)で4分間混合し、生地を得た。
(4)次いで、得られた生地を28℃で30分静置した後、成型モルダー(ナショナル Sheeter−moulder)を用いて、成型(3/8インチ間隙で1回通し、その後三つ折にして、さらに2回通した)し、型(上縁:20.5×9.8cm、下縁:18.9×8.5cm、深さ:8cm、体積:1445cm3)に詰めた。
(5)次いで、ホイロを用いて、温度38℃、相対湿度90%の恒温室で、型上縁2cm上に達するまで二次発酵させた。
(6)次いで、二次発酵後、オーブンの焼成温度を220℃、焼成時間を23分として3斤型の食パンを製造した。
2.評価
得られた食パンは、発酵中及び焼成中の腰折れ、並びに、焼成中の窯落ちを起こさずに、まっすぐな形状で、きれいに型から取り出すことができた。また、食感はふっくらして軽い食感であり、通常の食パンとほぼ同じ食感であった。
[比較例7]低糖質パン31の製造
1.低糖質パン31の製造
低糖質パン用食品素材として、実施例12で製造した低糖質パン用食品素材12の代わりに、比較例4で製造した低糖質パン用食品素材27を使用した以外は、実施例24と同じ方法で、3斤型の食パンを製造した。
2.評価
得られた食パンは、両脇の部分が凹み、腰折れを起こしていた。また、食感は硬く、通常の食パンとは明らかに異なり、悪かった。
本実施形態の低糖質パン用食品素材によれば、製パン時における発酵中及び焼成中の腰折れ、並びに、焼成中の窯落ちを防止することができる。また、前記低糖質パン用食品素材を用いた低糖質パンは、糖質の含有量が低減されながらも、従来の低糖質パンよりも良好な外観及び食感を有する。

Claims (9)

  1. タンパク質と、フィチン酸と、素材全量に対して0.1質量%以上5.0質量%以下のセルロースとを含有し、且つ、素材中の澱粉の含有量が50質量%以下であることを特徴とする低糖質パン用食品素材。
  2. 前記セルロースが、1gあたりの吸水量が5.0g以下のセルロースである請求項1に記載の低糖質パン用食品素材。
  3. 前記セルロースが結晶セルロースである請求項1又は2に記載の低糖質パン用食品素材。
  4. 素材中の前記タンパク質の含有量が15質量%以上70質量%以下である請求項1〜3のいずれか一項に記載の低糖質パン用食品素材。
  5. 素材中の前記フィチン酸の含有量が0.05質量%以上である請求項1〜4のいずれか一項に記載の低糖質パン用食品素材。
  6. 前記フィチン酸がふすま及びぬかのうち少なくともいずれか一種に由来する請求項1〜5のいずれか一項に記載の低糖質パン用食品素材。
  7. 請求項1〜6のいずれか一項に記載の低糖質パン用食品素材を用いて生地を作り焼成してなり、且つ、パン100gあたりの糖質の含有量が30g以下であることを特徴とする低糖質パン。
  8. 小麦タンパク質と、ふすま及びぬかのうち少なくとも一種と、素材全量に対して0.1質量%以上5.0質量%以下のセルロースとを混合する工程を備え、
    素材中の澱粉の含有量が50質量%以下であることを特徴とする低糖質パン用食品素材の製造方法。
  9. 請求項1〜6のいずれか一項に記載の低糖質パン用食品素材を用いて生地を作り、焼成する工程を備え、
    パン100gあたりの糖質の含有量が30g以下であることを特徴とする低糖質パンの製造方法。
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