JP2018176160A - 基材層表層への機能層の形成方法及び形成装置 - Google Patents
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Abstract
Description
また、樹脂塗装は、基材層の表層に樹脂塗料を接触させて樹脂塗膜層を形成する技術である。そして、従来、基材層の表層と機能層との密着性を高めるために、先ず基材層の表層の汚れ(酸化皮膜を含む)の除去、粗面化または、機能層との馴染を高めるために下地層の形成などが行なわれている。
これは、過熱蒸気の接触により既述の部分から水分等が蒸発し、体積が減少することで真空の潜熱を帯びた活性な表層状態となり、その後、フェイスコート層形成剤を形成する成分を含む水溶液(単に「フェイスコート層形成剤」と記載することもある)を接触(好ましくは過熱蒸気として接触)させることでフェイスコート層形成剤を基材層の表層に吸収させ、基材表層の潜熱と自己熱の関与によりフェイスコート層形成剤に含まれる水分が蒸発し、無数の凹みや亀裂などの空隙内に成分のみがドーピングされ基材表層と強固に一体化したフェイスコート層が形成されると推測できる。
本発明の発明者はこのような知見に基づき、前記表層に各種用途に応じた機能層を強固に形成する本発明の方法に想到した。前記本発明の方法の概念を図1に示す。また、本発明の概念に含まれる実施の形態を図6に示す。
このようにすることでより強固に基材層に結合したフェイスコート層を得ることができる。
請求項4に記載するように、前記フェイスコート層形成剤に粘性付与剤を添加してもよい。また、請求項5に記載するように前記フェイスコート層形成剤を前記表層に接触させた後に過熱蒸気を接触させてもよい(図6(vi))。この方法は、塗布や浸漬によりフェイスコート層を形成する場合に特に有効である。
請求項6に記載するように、前記過熱蒸気の水溶液にフェイスコート層形成剤を含有させることで、前記過熱蒸気を接触させる工程と前記フェイスコート層を形成する工程とを同時に行うことができるようになる(図6(ii)(v))。
なお、前記基材層の表層に過熱蒸気を接触させる工程の前に、基材の組成に応じて酸性水溶液及びアルカリ水溶液を前記基材層に接触させる工程を設けてもよい(図6(iii) (iv))。この酸性水溶液及びアルカリ水溶液は、過熱蒸気としてもよいし、過熱蒸気としなくてもよい。
基材層の表層への過熱蒸気の接触、フェイスコート層形成剤の接触及び機能層形成剤の接触処理方法としては、例えば図5(b)に示すように、各々の接触処理を行うチャンバー又は領域5を上流側から下流側に向けて順に配置し、上流側のチャンバー又は領域5から下流側のチャンバー又は領域5へ、コンベア6等で基材Wを矢印IIの方向に移動させながら各処理を順次行うバッチ処理方式を挙げることができる。
このようにすることで、前記複数の噴射ノズルを通過させるだけで、過熱蒸気の接触、フェイスコート層の形成、機能性の形成を行うことができる。
なお、犠牲防食層の形成に用いられる金属イオン及び/又は金属酸化物としては、特に、クロム、亜鉛、チタン、アルミニウム、錫、ビスマス、マグネシウム、セリウム又はモリブデンから選ばれた少なくとも1種類以上を挙げることができる。
また、フェイスコート層形成剤は、没食子酸、ピロガロール、タンニン酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、酒石酸、グリコール酸、グリセリン酸、オキシ吉草酸、サリチル酸、マンデル酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸又はフタル酸或いはそれらのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩、或いはEDTAのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩の中から選ばれた少なくとも1種以上を含む水溶液とするとよい。
同様に本発明では、フェイスコート層形成剤を含む水溶液の過熱蒸気を基材層表層に接触させた直後に機能層形成剤を接触させることで、機能層形成剤の分子がフェイスコート層形成剤の成分と強固に密着した機能層を形成することができる。
このように本発明の方法で基材層の表層にフェイスコート層を形成することにより、フェイスコート層を介して基材層と強固に密着した機能層を形成することができる。
請求項12に記載するように、過熱蒸気を発生させる過熱蒸気発生部と、移動方向の上流側から下流側に向けてフープバッチ処理方式(別図5−B参照)や基材層に近接して配置された複数の噴射ノズル別図5−A参照)とを有し、前記噴射ノズルを上流側から順に、過熱蒸気を噴射する過熱蒸気噴射ノズル、フェイスコート層形成剤の過熱蒸気を噴射するフェイスコート層形成剤噴射ノズル、機能層形成剤を噴射する機能層形成剤噴射ノズルとして割り当てた構成としてある。このようにすることで、基材層に強固に密着した機能層の形成を短時間で効率よく行うことができる。
また、機能層形成噴射ノズルを、前記フェイスコート層形成剤噴射ノズル又は過熱蒸気噴射ノズルよりも下流側に配置することで、過熱蒸気接触及びフェイスコート層形成の直後に樹脂塗装層等の機能層を形成することができる。
本発明の方法は新しい基材層の表層に各種の機能層を形成する場合に効果があるが、基材層の表層に各種の機能層を再生する場合、例えば基材層に強固に形成された塗膜の一部や錆(酸化皮膜を含む)や鍍金層並びに、有害な金属物質を含む塗料などの劣化した機能層が残存していても、その上から各種の機能層を高い密着度で形成できるという効果もある。
さらに、スチームエゼクターや複数の噴射ノズルを並列して配置し、移動方向の上流側から基材組成に応じて酸性水溶液及び水、並びにアルカリ水溶液から選ばれた水溶液を用いる過熱蒸気噴射ノズル、フェイスコート層形成剤噴射ノズル及び機能層形成ノズルとするか
若しくはフェイスコート層形成剤を含む過熱蒸気噴射ノズル及び機能層形成ノズルとすることで、組合わせた噴射ノズルの一回の移動操作で基材層表層に強固な機能層を形成することができる。
1a 表層
2 錆
3 機能層
4 フェイスコート層
5 チャンバー又は領域
6 コンベア
S 機材層等表層
H 過熱蒸気
W 基材
[第一の実施形態]
第一の実施形態にかかる本発明の機能層の形成方法は、図6(i)に示すように、基材層表層に過熱蒸気を接触させた後に、フェイスコート層形成剤を接触させ、しかる後に機能層を形成するものである。
本発明が適用可能な基材層としては、Be・Mg・Al・Ti・Fe・Co・Ni・Cu・Zn・Mo・Rh・Pd・Ag・Sn・Sb・W・Ir・Pt・Au・Pb・Biの金属又は前述の金属を含む合金、若しくはガラス、石英、セラミック、コンクリート及びコンクリート二次製品、や孔及び空隙のある木製品、更に、樹脂及び樹脂形成品を挙げることができる。前記樹脂としては、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミドヒダントイン変性ポリエステル、ホルマール、ポリウレタン、ポリエステル、ポリビニルホルマール、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリヒダントイン、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリプロピレン、ウレタン、シリコンからなる群より選ばれた少なくとも一つを含む熱硬化性樹脂が挙げられる。
[機能層]
上記の基材層に形成される機能層としては、前記基材層の防錆、防食、保護、透水抑制、装飾、軽量化などの種々の機能を発揮するものであればよく、上記した基材層を形成する金属や樹脂などをそのまま機能層として用いることができる。
本発明に使用する過熱蒸気の条件を、図1を参照しつつ説明する。
本発明において基材層に接触させられる過熱蒸気は、図1に示すような作用を奏するものである。
図1において符号M1で示す白丸は、基材層の表層を形成する金属原子又は金属分子である。また、符号M2で示す黒丸は、新たなフェイスコート層を形成する分子である。
すなわち、過熱蒸気Hの温度及び吐出圧力は、フェイスコート層形成分子M2,M2・・・が含浸可能な状態になるまで、の受け入れが可能になるまで、分子M1,M1・・・の間隙が拡張される拡がる温度であり、フェイスコート層形成分子M2及び分子M1の種類によって相違するが、実験などで求めることができる。
なお、表層の状態は、日立ハイテクノロジーズ社製TM3030卓上顕微鏡Miniscopeのエネルギー分散型X線分析装置AZtecOneで測定して分析を行った。
図10の処理では、ピロガロール4重量%を含む酸性電解水(PH4.0)に、銀イオンを5重量%含有するフェイスコート層形成剤を用い、このフェイスコート層形成剤を吐出口温度125±5℃の過熱蒸気として表層に120秒間接触させ、その後、30秒間水洗を行った後に乾燥させた。
図9及び図10に示すように、洗浄・乾燥後も表層には亜鉛及び銀を含むフェイスコート層が形成されていることがわかる。
過熱蒸気Hのもととなる水溶液の種類は、基材の組成に因って塩酸水溶液や果実酸並びに強電解酸性水溶液や、水(PH5.8以上8.6未満)、或いは、水酸化ナトリウムやアルカリ電解のアルカリ水溶液などであってもよく、酸性水溶液の場合はpH3.0〜1.0未満程度、アルカリ水溶液の場合はpH8.6以上〜12.5未満程度とするとよい。
酸性水溶液を用いることで、基材層表層の酸化被膜を除去し、基材層表層を活性化させることができる。このように活性化させた基材層表層では、フェイスコート層形成分子M2,M2・・と分子M1,M1・・・とがイオン結合し、さらに強固に密着したフェイスコート層を形成することができる。
フェイスコート層形成剤は、前記基材層等表層に接触させることで前記基材層表層を活性化するとともに活性化した基材表層を酸化することを遅らせ、機能層と基材層表層との密着性を均一にまた、強固にするためのものである。
フェイスコート層を形成することができるフェイスコート層形成剤としては、没食子酸、ピロガロール、タンニン酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、酒石酸、グリコール酸、グリセリン酸、オキシ吉草酸、サリチル酸、マンデル酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸又はフタル酸或いはそれらのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩、或いはEDTAのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩の中から選ばれた少なくとも1種以上を含ませた水溶液を用いることができる。
なお、本願発明においては、本願出願人よる特許第5422696号に記載した表層改質処理剤をフェイスコート層形成剤として利用することができる。
この実施形態においてフェイスコート層形成剤を含む水溶液は、金属イオン及び/又は金属酸化物のドーピング金属を配合してもよい(第二の実施形態を含む他の実施形態についても同様である)。この場合、水溶液全体に対して、金属イオン及び/又は金属酸化物の配合割合はその効果や安全性、更に取扱性や作業環境等の観点から、0.001〜5重量%の範囲、好ましくは、0.05〜3重量%の範囲に調整するのが一層望ましい。
なお、これらの金属イオン及び/又は金属酸化物は、一種類のみならず二種類以上の複数種を適宜混合して添加しても良いのである。
「フェイスコート層」とは、基材の組成に応じた処理水溶液を過熱蒸気として接触させることで汚れ(酸化被膜含む)等が除去され、清浄化された基材表層と、錯体を構成する金属イオンを含む錯体形成用物質を接触させることで、表層に混合層(フェイスコート層)を形成することである。
フェイスコート層は、清浄基材層が酸化安定皮膜を形成するのを遅らせることが可能で基材層表層を保護する機能を有し、基材層内部への水分やガス等の浸透を防ぐことで基材層の表層から深層への腐食の進行を防止する効果を果たすと共に、機能層としての合金層、化合物層、混合物層、セラミック層、樹脂層、鍍金層又は犠牲防食層との密着性を強固にし、基材層と機能層とを一体化するものである。
なお、機能層が犠牲防食層である場合、犠牲防食剤として加える金属イオン及び/又は金属酸化物としては、クロム、亜鉛、チタン、アルミニウム、錫、ビスマス、マグネシウム、セリウム又はモリブデンから選ばれた少なくとも1種類以上を挙げることができる。これら金属イオン及び/又は金属酸化物は、フェイスコート層形成剤中で活性な状態を保ちつつ基材層の活性表層にフェイスコート層を形成できるのであり、形成されたフェイスコート層は犠牲防蝕剤を含んで活性な状態を維持することができる。
上記の基材層、過熱蒸気、フェイスコート層形成剤を使った機能層形成の手順を、図2を参照しつつ説明する。
図2(a)に示す初期状態において、基材層1の表層1aを形成する金属分子は、図1(a)のような状態である。
次に、基材層1の表層1aにフェイスコート層形成剤を接触させる。これにより、図1(c)に示すように分子M1,M1・・・の開いた間隙からフェイスコート層形成分子M2,M2・・・が分子M1,M1・・・の内部に入り込む。この後、潜熱を帯びた表層が元の表層温度となることで分子M1,M1・・・の間隙が元の状態に戻ることで、図2(c)に示すように表層1aにフェイスコート層4が形成される。
最後に、図2(d)に示すように、このフェイスコート層4の表層に、機能層形成剤を接触させて機能層5を形成する。
すなわち、図示しない装置本体は、過熱蒸気を噴射するノズル7a、フェイスコート層形成剤を噴射するノズル7b及び機能層形成剤を噴射するノズル7cを有している。ノズル7a,7b,7cは、間隔を置いて移動方向Iの上流側からノズル7a,7b,7cの順で近接して配置される。ノズル7a,7b,7cのそれぞれには、過熱蒸気を発生させる容器8a,フェイスコート層形成剤を収容する容器8b,機能層形成剤を収容する容器8cに連結され、それぞれの容器8a,8b,8cから過熱蒸気、フェイスコート層形成剤、機能層形成剤がノズル7a,7b,7cに供給される。フェイスコート層形成剤を収容する容器8bは、フェイスコート層形成剤の主要成分が蒸発しないように、密閉できるものを選択する。
そして、ノズル7a,7b,7cのそれぞれから過熱蒸気、フェイスコート層形成剤、機能層形成剤を噴射しながら、予め設定された速度で矢印I方向にノズル7a,7b,7cを移動させる。このようにすることで、表層1aに対して過熱蒸気の接触、フェイスコート層の形成、次に機能層の形成とほぼ同時に行うことが可能になる。
また、このような装置を、基材層に沿って自動的に移動する移動体に搭載することで、これら作業の自動化を図ることが可能になる。
本発明の方法は、基材層1の表層1aに劣化した金属の機能層(鍍金層やコーティング層など)が残存していたり錆があったりしても適用が可能である。
例えば、過熱蒸気との接触で鉄(Fe)系素材の場合は錆であるFe(OH)3 ⇒ Fe3O4の四酸化鉄に変化することで耐食性のある皮膜に変化する。
図3(a)に示す初期状態において、基材層1の表層1aには、鍍金層等の劣化した金属の機能層3が部分的に残存しており、機能層3が剥がれて基材層1の表層1aが露出している部分の一部には錆2が発生している。なお、以下の説明では、劣化した機能層3,錆2及び表層1aを「基材層等表層」と総称し、符号Sで示す。
この場合も先の実施形態と同様に、機能層3,錆2及び表層1aを形成するそれぞれの分子M1,M1・・・の間隙が開いて、フェイスコート層形成剤の分子M2,M2・・・の受け入れが可能な状態になる。
次に、図3(c)に示すように、基材層等表層Sにフェイスコート層形成剤を接触させて、基材層等表層Sにフェイスコート層4を形成する。
最後に、図3(d)に示すように、このフェイスコート層4の表層に、機能層形成剤を接触させて新しい機能層5を形成する。
この場合も、ノズル7bからフェイスコート層形成剤の過熱蒸気を噴射させてもよいし、ノズル7cから機能層形成剤の過熱蒸気を噴射させてもよい。
第一の実施形態において、図6(i)の過熱蒸気Hを接触させる工程でその水溶液としてフェイスコート層形成剤を含有するものを用いれば、図6(ii)に示すように過熱蒸気接触の工程とフェイスコート層形成の工程とを一つにすることができる。
すなわち、図4に示すように、フェイスコート層形成剤を含有する過熱蒸気Hを基材層等表層Sに接触させることで、過熱蒸気接触の工程で基材層等表層Sにフェイスコート層4を形成することができ、このフェイスコート層4の表層に、機能層形成剤を接触させることで新しい機能層5を形成することができる。
なお、これらの有機酸は、所望により、一種類のみならず二種類以上の複数種を適宜混合して添加しても良い。
この第四の実施形態では、図6 (iii)に示すように、基材層等表層Sに過熱蒸気Hを接触させる前に、塩酸水溶液や果実酸並びに電解水などの水溶液を接触させる。この水溶液を基材層等表層Sに塗布等することで直接接触させるようにしてもよいが、過熱蒸気として接触させてもよい。
酸性水溶液を接触させることにより、基材層1の表層1aに形成されている酸化皮膜を除去することができる。酸性水溶液を用いて基材層等表層Sにおける酸化皮膜を除去すると、基材層等表層Sが活性化し、その活性表層に生成した基材層等表層Sを構成する成分の元素イオンとフェイスコート層形成剤とが結合して、フェイスコート層3が基材層等表層Sに形成される。アルカリ水溶液を用いた場合も同様である。
この後、中性水溶液の過熱蒸気を基材層等表層Sに接触させて表層1aにフェイスコート層を形成し、このフェイスコート層4の表層に機能層形成剤を接触させて新しい機能層5を形成する。
この第五の実施形態は第四の実施形態の変形例であり、図6(iv)に示すように、フェイスコート層形成剤を混合した中性水溶液の過熱蒸気Hを基材層等表層Sに接触させてフェイスコート層3を形成するものである。
この実施形態によれば、第三の実施形態における中性水溶液の過熱蒸気を接触させる工程とフェイスコート層形成剤の接触工程とを一つにすることができ、第三の実施形態よりも工程数を減らすことができる。
第一及び第四の実施形態においては、図6(v)に示すように、フェイスコート層形成剤を混合した酸性水溶液の過熱蒸気を用いてフェイスコート層を形成してもよい。この場合は、フェイスコート層を形成した後に中性水溶液の過熱蒸気を接触させるとよい。
また、フェイスコート層は、過熱蒸気に限らず塗布や浸漬で形成することができる。この場合は、塗布又は浸漬の直後に中性水溶液の過熱蒸気を接触させるとよい(図6(vi)参照)。また、フェイスコート層形成剤が表層に留まりやすくするために、フェイスコート層形成剤には粘性付与剤を添加するのが好ましい。
先ず、本願発明に係る基材層の表層に接触させる過熱蒸気として、SUS及び銅基材並びに鉄基材には電解酸性水溶液(PH4.5)、また、アルミニウム基材には電解アルカリ水溶液(PH9.2)を用いた。
図5(a)に示すような三つのノズル7a,7b,7cを備える形成装置を用いて、過熱蒸気接触、フェイスコート層形成及び機能層である樹脂塗装層の形成を同時に行った。
密着性の評価は、乾燥後、乾燥した樹脂塗膜にカッターで縦横5mm間隔の切れ目を入れ、縦横10列の合計100マスのマス目を形成して行った。
テスト基材の樹脂塗膜面に、粘着テープ(ニチバン社製:商品名セロテープ(登録商標)CT1535)を貼付け、爪で何度か擦った後、テスト基材とテープとが60度の角度になるように剥離試験を碁盤目試験(クロスカット法)で比較した後の状態で評価した。このセロハンテープによる密着評価試験は、2回行い、その平均を結果として表1に示す。密着強度は点数で表し、◎を90〜100点、○を70〜89点、△を40〜69点、×を39点以下とした。機能層の品質としては、○(70〜89点)以上が合格である。
Arcotest社製の、ぬれ性チェック用ダインペン(表面エネルギー値評価用テストペン)を使用した。評価値における、32mN/mが標準規格のぬれ性を示し、以後、34・36・38・40 mN/mとぬれ性が低いものを用いた。評価方法は、既述の通りテスト基材表面を処理して、基材表面にインクを線状に付着させインクが2秒以上保持されれば、〇が均一塗布で、△は、部分的な弾きがある状態、×は、弾いた状態を表2から表5に示した。
このことから、本発明のように過熱蒸気の接触及びフェイスコート層を形成した後に機能層を形成する方法は、従来の機能層形成の工程を大幅に削減し、作業負担の軽減と作業コストの低減に大きく寄与できることが確かめられた。
この実施例2では、錫や亜鉛などの卑金属が鉄合金(ステンレス)に対して海水など導電性のある電解質溶液中で犠牲となって腐食することにより、鉄合金の腐食を防止する「犠牲防食」の実験を行った。
この実施例2の条件は以下のとおりである。
(1) 基材
鉄系合金素材であるSUS436Lの平板を用いた。前記平板は、亜鉛メッキのボルト(亜鉛ボルト)を取り付けたものと取り付けないものとを準備した。
(2) 前処理
前記平板の表面に、防錆や塗装下地を目的としたリン酸亜鉛でミクロンオーダーの薄い皮膜を生成したものと、表面活性化を目的とした前処理剤を使用したもの。表6において「CH−S」と表記した。当該皮膜を生成しないものとしたものを準備した。
(3) 卑金属
亜鉛を用いた。フェイスコート形成剤をベースとし、表6において亜鉛をドーピング金属として使用した処理剤を「KR−Z」と表記した。
(4) フェイスコート層形成剤
酸性溶液とピロガロール水溶液を混入させたフェイスコート層形成剤を準備した。表6において「KR−SH」と表記した。
(5) フェイスコート層の形成
ノズル出口における吐出口温度をともに125±5℃とし、ノズル出口における吐出圧力は0.32MPaとして、フェイスコート層形成剤を過熱蒸気として1分間接触させてフェイスコート層を形成した。図5(a)に示すようなノズル7a,7bを備える形成装置を用いて、過熱蒸気接触とフェイスコート層形成および金属膜層の形成とを同時に行い機能層である犠牲防食層を前記平板の表面に形成した。機能層を形成した基材をカチオン電着塗料に浸漬し表面に塗料を塗布することで完成となる。
以上のようにして得られたテストピースを、5%、50℃の塩温水に浸し、一定時間経過後に実施例1と同様にテープ剥離試験を行った。亜鉛ボルト付では、縦方向と横方向に剥離試験を行った。その結果を表6に示す。
この実施例3では、2枚の平板の間に機能層としての樹脂層を形成して前記2枚の平板を接着し、接着後に2枚の前記平板を接着面に対して平行に引っ張ることで、前記平板に対する前記樹脂層の密着強度を試験するものである。自動車や航空機、船舶などでは軽量化のために金属と樹脂の複合化が進んでいるが、樹脂と金属とをいかに強固に一体化するかが課題となっている。この実施例は、本発明の方法によりこのような複合材料において密着強度を如何に高めることができるかを検証するものである。この実施例3の主要な条件は以下のとおりである。
改質処理液80℃で3間浸漬処理した基材各2枚(50mm×50mm)を水洗し、エアーブローを行った後、白光株式会社製のホットメルト接着剤塗布器ハッコーメルターに、同社製ホットメルト接着剤ハッコーメルタースティックをセットし、2枚の基材が中央部分で25mm±0.5×50mm±0.5重なるように接着部分を作り、株式会社ナベヤ製リード型バイス 万力 ERON100で挟み、5分間固定し徐冷を行った。5分経過後、万力より取り出し、基材の下方15mmを同万力で挟み上方部分15mmをGISUKE社製オートマチックバイスプライヤーで固定した。固定したオートマチックバイスプライヤーを接着面に平行に引っ張り2枚の基材が破断した時の引張力を測定した。引張力を測定する為にオートマチックバイスプライヤーには株式会社エー・アンド・デイ社製デジタルフォースゲージを取り付けて測定した。前記フォースゲージの最大数値は50Nを上限とする。使用した基材は、高温装置を使用し30度以上に基材加温状態を保った。接着剤は範囲を最小限とし重量範囲0.06〜0.08gで合わせ基材と接触後は10秒間圧力をかけた。処理工程は液温20度±2の常温とし処理時間は3分間とした。処理後は水洗、超音波洗浄、乾燥を行った。
以下のA〜Gの溶液を温度80度の加熱蒸気として用いた。
A:純水
B:PH 0.3〜5の塩化ナトリウム溶液
C:PH 0.1〜4の塩酸水溶液
D:PH 9〜15の水酸化ナトリウム水溶液
E:PH 0.1〜4の硫酸水溶液
F:PH0.1〜5のリン酸水溶液
G:PH:0.1〜4の硝酸水溶液
[フェイスコート層形成剤の種類]
1:ピロガロール(0.4重量%)+硫酸(5重量%)+水(残部) (本願出願人の商品:商品名KR-S)
2:ピロガロール(0.02重量%)+硫酸(0.2重量%)+塩酸(2重量%)+水(残部)(本願出願人の商品:商品名KR-SH)
3:ピロガロール(4重量%)+硫酸(0.3重量%)+水(残部) (本願出願人の商品:商品名KRのベース液)
4:塩化ナトリウム(12重量%)+燐酸(1.5重量%)+水(残部) (本願出願人の商品:商品名FC-KM)
5:ピロガロール(0.91重量%)+フッ化ナトリウム(0.07重量%)+硝酸(0.4重量%)(本願出願人の商品:商品名KR-SG)
[ドーピング金属]
(フェイスコート層形成剤に加えた金属酸化物及びイオン)
I:亜鉛
II:アルミニウム
III:錫
IV:ビスマス
V:モリブデン
1 SUS板:厚さ1.2mm×横25mm×縦70mm :表面粗さ Ra0.36;Ry2.52(未処理)
2 SUS板:同上基材を♯1000番研磨紙で粗面化:表面粗さ Ra0.38;Ry2.72
3 SUS板:同上基材を塩酸エッチングし粗面化:表面粗さ Ra0.43;Ry3.13
4 アルミ板:厚さ0.5mm×横25mm×縦70mm :表面粗さ Ra0.39;Ry2.60(未処理)
5 アルミ板:同上基材を♯1000番研磨紙で粗面化:表面粗さ Ra0.53;Ry3.97
6 アルミ板:同上基材を苛性エッチングし粗面化:表面粗さ Ra0.43;Ry2.82
7 銅板:厚さ1.2mm×横25mm×縦70mm:Ra0.53;Ry3.97
8 銅板:同上基材を♯1000番研磨紙で粗面化:表面粗さ Ra0.53;Ry3.97
9 銅板:同上基材を塩酸エッチングし粗面化:表面粗さ Ra0.48;Ry4.13
10 木板:厚さ30mm×横100mm×縦1700mm:Ra5.11;Ry30.6
11 木板:同上基材を♯1000番研磨紙で粗面化:表面粗さ Ra5.62;Ry4.5
12 御影石板:厚さ30mm×横100mm×縦1700mm:Ra7.97;Ry42.93
13 御影石板:同上基材を♯1000番研磨紙で粗面化:表面粗さ Ra7.62;Ry43.5
14 ABS:厚さ1mm×横50mm×縦50mm:Ra0.36;Ry2.6
15 ABS:同上基材を♯1000番研磨紙で粗面化:表面粗さ Ra0.4;Ry2.67
16 PP:厚さ1mm×横50mm×縦50mm:Ra0.34;Ry2.28
17 PP:同上基材を♯1000番研磨紙で粗面化:表面粗さ Ra0.41;Ry2.91
18 コンクリート板(表面粗はオーバーレンジにより測定不能)
尚、用意した試験片の端部1箇所に1.2mmφ程度の穴を開けφ1.0mmのステンレス製ワイヤーで吊り下げられるようにした。
改質処理液で処理した基材各2枚(50mm×50mm)を水洗し、エアーブローを行った後、白光株式会社製のホットメルト接着剤塗布器ハッコーメルターに、同社製ホットメルト接着剤ハッコーメルタースティックをセットし、2枚の基材が中央部分で25mm±0.5×50mm±0.5重なるように接着部分を作り、株式会社ナベヤ製リード型バイス 万力 ERON100で挟み、5分間固定し徐冷を行った。5分経過後、万力より取り出し、基材の下方15mmを同万力で挟み上方部分15mmをGISUKE社製オートマチックバイスプライヤーで固定した。固定したオートマチックバイスプライヤーを接着面に平行に引っ張り2枚の基材が破断した時の引張力を測定した。引張力を測定する為にオートマチックバイスプライヤーには株式会社エー・アンド・デイ社製デジタルフォースゲージを取り付けて測定した。その結果を表7に記す。
基材加温:高温装置を使用し30度以上に基材加温状態を保つ
接着剤:範囲を最小限とし重量範囲0.06〜0.08gで合わせ基材と接触後は10秒間圧力をかける
処理工程:処理時間3分間 処理後は水洗→超音波洗浄→乾燥
そのため、上述の実施例はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
前記フェイスコート層の表層の少なくとも一部に機能層を形成する工程と、を有し、前記フェイスコート層形成剤には粘性付与剤を添加した方法としてある(図6(i))。
請求項5に記載するように、前記過熱蒸気の水溶液にフェイスコート層形成剤を含有させることで、前記過熱蒸気を接触させる工程と前記フェイスコート層を形成する工程とを同時に行うことができるようになる(図6(ii)(v))。
なお、前記基材層の表層に過熱蒸気を接触させる工程の前に、基材の組成に応じて酸性水溶液及びアルカリ水溶液を前記基材層に接触させる工程を設けてもよい(図6(iii) (iv))。この酸性水溶液及びアルカリ水溶液は、過熱蒸気としてもよいし、過熱蒸気としなくてもよい。
基材層の表層への過熱蒸気の接触、フェイスコート層形成剤の接触及び機能層形成剤の接触処理方法としては、例えば図5(b)に示すように、各々の接触処理を行うチャンバー又は領域5を上流側から下流側に向けて順に配置し、上流側のチャンバー又は領域5から下流側のチャンバー又は領域5へ、コンベア6等で基材Wを矢印IIの方向に移動させながら各処理を順次行うバッチ処理方式を挙げることができる。
このようにすることで、前記複数の噴射ノズルを通過させるだけで、過熱蒸気の接触、フェイスコート層の形成、機能性の形成を行うことができる。
請求項11に記載するように、過熱蒸気を発生させる過熱蒸気発生部と、移動方向の上流側から下流側に向けてフープバッチ処理方式(別図5−B参照)や基材層に近接して配置された複数の噴射ノズル別図5−A参照)とを有し、前記噴射ノズルを上流側から順に、過熱蒸気を噴射する過熱蒸気噴射ノズル、フェイスコート層形成剤の過熱蒸気を噴射するフェイスコート層形成剤噴射ノズル、機能層形成剤を噴射する機能層形成剤噴射ノズルとして割り当てた構成としてある。このようにすることで、基材層に強固に密着した機能層の形成を短時間で効率よく行うことができる。
以下のA〜Gの溶液を、基材に吹き付けられるときの温度が80度となる過熱蒸気として用いた。
A:純水
B:PH 0.3〜5の塩化ナトリウム溶液
C:PH 0.1〜4の塩酸水溶液
D:PH 9〜15の水酸化ナトリウム水溶液
E:PH 0.1〜4の硫酸水溶液
F:PH0.1〜5のリン酸水溶液
G:PH:0.1〜4の硝酸水溶液
[フェイスコート層形成剤の種類]
1:ピロガロール(0.4重量%)+硫酸(5重量%)+水(残部) (本願出願人の商品:商品名KR-S)
2:ピロガロール(0.02重量%)+硫酸(0.2重量%)+塩酸(2重量%)+水(残部)(本願出願人の商品:商品名KR-SH)
3:ピロガロール(4重量%)+硫酸(0.3重量%)+水(残部) (本願出願人の商品:商品名KRのベース液)
4:塩化ナトリウム(12重量%)+燐酸(1.5重量%)+水(残部) (本願出願人の商品:商品名FC-KM)
5:ピロガロール(0.91重量%)+フッ化ナトリウム(0.07重量%)+硝酸(0.4重量%)(本願出願人の商品:商品名KR-SG)
[ドーピング金属]
(フェイスコート層形成剤に加えた金属酸化物及びイオン)
I:亜鉛
II:アルミニウム
III:錫
IV:ビスマス
V:モリブデン
Claims (13)
- 基材層の表層に過熱蒸気を接触させ、前記表層を形成する分子間又は原子間の間隙を一時的に拡開する工程と、
フェイスコート層形成分子を含有するフェイスコート層形成剤を前記表層に接触させ、前記間隙に前記フェイスコート層形成分子を侵入させ基材表層と結合させてフェイスコート層を形成する工程と、
前記フェイスコート層の表層の少なくとも一部に機能層を形成する工程と、
を有することを特徴とする基材層表層への機能層の形成方法。 - 前記基材層の表層に過熱蒸気を接触させることで前記表層を活性化させ、活性化させた前記表層と前記フェイスコート層形成分子とを結合させることを特徴とする請求項1に記載の基材層表層への機能層の形成方法。
- 前記機能層が、合金層、化合物層、混合物層、セラミック層、樹脂層、鍍金層又は犠牲防食層であることを特徴とする請求項1又は2に記載の基材層表層への機能層の形成方法。
- 前記フェイスコート層形成剤に粘性付与剤を添加したことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の基材層表層への機能層の形成方法。
- 前記フェイスコート層形成剤を前記表層に接触させた後に過熱蒸気を接触させることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の基材層表層への機能層の形成方法。
- 前記過熱蒸気が前記フェイスコート層形成剤を含有し、前記過熱蒸気を接触させる工程と当該基材層の表層にフェイスコート層を形成する工程とを同時に行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の基材層表層への機能層の形成方法。
- 前記フェイスコート層形成分子が、ドーピング金属分子であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の基材の表層への機能層の形成方法。
- 前記過熱蒸気が、酸性水溶液、水又はアルカリ水溶液のいずれかであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の基材層表層への機能層の形成方法。
- 前記酸性水溶液を前記表層に接触させた後に、中性水溶液又は中性水溶液の過熱蒸気を前記表層に接触させる工程を設けたことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の基材層表層への機能層の形成方法。
- 過熱蒸気を発生させる過熱蒸気発生部と、移動方向の上流側から下流側に向けて基材層に近接して配置された複数の噴射ノズルとを準備し、前記噴射ノズルを上流側から順に、過熱蒸気を噴射する過熱蒸気噴射ノズル、フェイスコート層形成剤の過熱蒸気を噴射するフェイスコート層形成剤噴射ノズル、機能層形成剤を噴射する機能層形成剤噴射ノズルとして割り当てたこと、
を特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の基材層表層への機能層の形成方法。 - 前記過熱蒸気が前記フェイスコート層形成剤を含む場合に、前記過熱蒸気を一定圧力及び一定温度で保持して密閉する密閉容器を用いて、前記過熱蒸気噴射ノズルから噴射して基材に接触させることを特徴とする請求項10に記載の基材層表層への機能層の形成方法。
- 請求項10又は11に記載の基材層表層への機能層の形成方法のための形成装置であって、
過熱蒸気を発生させる過熱蒸気発生部と、移動方向の上流側から下流側に向けて基材層に近接して配置された複数の噴射ノズルとを有し、前記噴射ノズルを上流側から順に、過熱蒸気を噴射する過熱蒸気噴射ノズル、フェイスコート層形成剤の過熱蒸気を噴射するフェイスコート層形成剤噴射ノズル、機能層形成剤を噴射する機能層形成剤噴射ノズルとして割り当てたこと、を特徴とする基材層表層への機能層の形成装置。 - 前記過熱蒸気が前記フェイスコート層形成剤を含む場合に、前記過熱蒸気を一定圧力及び一定温度で保持して密閉する密閉容器を有するとともに、前記過熱蒸気噴射ノズルを前記フェイスコート層形成剤噴射ノズルとして用いたことを特徴とする請求項12に記載の基材層表層への機能層の形成装置。
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