JP2018168470A - ベーパーチャンバー用銅合金板 - Google Patents

ベーパーチャンバー用銅合金板 Download PDF

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Abstract

【課題】製造後のベーパーチャンバーに十分な強度と放熱性能を持たせることができる銅合金板を提供する。【解決手段】Ni:0.2〜0.95質量%及びFe:0.05〜0.8質量%と、P:0.03〜0.2質量%を含有し、Ni及びFeの合計含有量を[Ni+Fe]とし、Pの含有量を[P]としたとき、[Ni+Fe]が0.25〜1.0質量%、かつ[Ni+Fe]/[P]が2〜10であり、残部がCu及び不可避不純物からなる銅合金板。この銅合金板は、0.2%耐力が100MPa以上で優れた曲げ加工性を有し、850℃で30分加熱後水冷し、次いで500℃で2時間加熱する時効処理をした後の0.2%耐力が120MPa以上、導電率が40%IACS以上である。【選択図】なし

Description

本発明は、コンピューターのCPU、LEDランプ等から発生する熱を処理するベーパーチャンバー用銅合金板に関する。
デスク型PC、ノート型PC等に搭載されるCPUの動作速度の高速化や高密度化が急速に進展し、これらのCPUからの発熱量が一段と増大している。CPUの温度が一定以上の温度に上昇すると、誤作動、熱暴走などの原因となるため、CPU等の半導体装置からの効果的な放熱は切実な問題となっている。
半導体装置の熱を吸収し、大気中に放散させる放熱部品してヒートシンクが使われている。ヒートシンクには高熱伝導性が求められることから、素材として熱伝導率の大きい銅、アルミニウムなどが用いられる。しかし、対流熱抵抗が、ヒートシンクの性能を制限しており、発熱量が増大する高機能電子部品の放熱要求を満たすことが難しくなってきている。
このため、より高い放熱性を有する放熱部品として、高い熱伝導性及び熱輸送能力を備える管状ヒートパイプや平面状ヒートパイプ(ベーパーチャンバー)が提案されている。ヒートパイプは、内部に封入した冷媒の蒸発(CPUからの吸熱)と凝縮(吸収した熱の放出)が循環的に行われることにより、ヒートシンクに比べて高い放熱特性を発揮する。また、ヒートパイプをヒートシンクやファンといった放熱部品と組合せることにより、半導体装置の発熱問題を解決することが提案されている。
放熱板、ヒートシンク、ヒートパイプ等に用いられる放熱部品の素材として、導電率及び耐食性に優れる純銅製(無酸素銅:C1020)の板又は管が多用されている。成形加工性を確保するため、素材として軟質の焼鈍材(O材)や1/4H調質材が用いられるが、後述する放熱部品の製造工程において、変形や疵が発生しやすい、打抜き加工時にバリが出やすい、打抜き金型が磨耗しやすい等の問題がある。一方、特許文献1,2には、放熱部品の素材としてFe−P系の銅合金板が記載されている。
放熱板やヒートシンクは、純銅板をプレス成形、打抜き加工、切削、穴開け加工、エッチングなどにより所定形状に加工後、必要に応じてNiめっき、Snめっきを行ってからはんだ、ろう、接着剤等でCPU等の半導体装置と接合する。
管状ヒートパイプ(特許文献3参照)は、銅粉末を管内に焼結してウィックを形成し、加熱脱ガス処理後、一端をろう付け封止し、真空又は減圧下で管内に冷媒を入れてからもう一方の端部をろう付け封止して製造する。
ベーパーチャンバー(特許文献4,5参照)は、管状ヒートパイプの放熱性能を更に向上させたものである。ベーパーチャンバー、冷媒の凝縮と蒸発を効率的に行うために、管状ヒートパイプと同様に、内面に粗面化加工、溝加工等を行ったものが提案されている。プレス成形、打抜き加工、切削、エッチングなどの加工を行った上下2枚の純銅板を、ろう付け、拡散接合、溶接等の方法により接合し、内部に冷媒を入れた後、ろう付け等の方法により封止する。接合工程で脱ガス処理が行われることがある。
また、ベーパーチャンバーとして、外面部材と、外面部材の内部に収容される内部部材とより構成されたものが提案されている。内部部材は、冷媒の凝縮、蒸発、輸送を促進するために、外面部材の内部に一又は複数配置されるもので、種々の形状のフィン、突起、穴、スリット等が加工されている。この形式のベーパーチャンバーにおいても、内部部材を外面部材の内部に配置した後、ろう付け、拡散接合等の方法により外面部材と内部部材を接合一体化し、冷媒を入れた後、ろう付け等の方法により封止する。
特開2003−277853号公報 特開2014−189816号公報 特開2008−232563号公報 特開2007−315745号公報 特開2014−134347号公報
これらの放熱部品の製造工程において、放熱板、ヒートシンクは、はんだ付け、ろう付けの工程で200〜700℃程度に加熱される。管状ヒートパイプ、ベーパーチャンバーは、焼結、脱ガス、りん銅ロウ(BCuP−2等)を用いたろう付け、拡散接合、溶接などの工程で800〜1000℃程度に加熱される。
例えば、ベーパーチャンバーの素材として純銅板を用いた場合、650℃以上の温度で加熱をしたときの軟化が激しい。また、急激な結晶粒の粗大化が生じる。このため、ヒートシンク、半導体装置への取付け、又はPC筐体への組込み等の際に、製造したベーパーチャンバーが変形しやすく、ベーパーチャンバー内部の構造が変化してしまい、また表面の凹凸が大きくなり、所期の放熱性能を発揮できなくなってしまう問題がある。また、このような変形を避けるには純銅板の厚さを厚くすればよいが、そうするとベーパーチャンバーの質量、及び厚さが増大する。厚さが増大した場合、PC筐体内部の隙間が小さくなり、対流伝熱性能が低下する問題がある。
また、特許文献1,2に記載された銅合金板(Fe−P系)も、650℃以上の温度で加熱をすると軟化し、さらに純銅に比べて導電率が大きく低下する。このため、焼結、脱ガス、ろう付け、拡散接合、溶接等の工程を経て例えばベーパーチャンバーを製造した場合、同ベーパーチャンバーの搬送及びハンドリング、基盤への組込み工程等で容易に変形する。また、導電率が低下することで、ベーパーチャンバーとしての所期の性能が出なくなる。
本発明は、純銅又は銅合金板からベーパーチャンバーを製造する場合の上記問題点に鑑みてなされたもので、上記プロセスを経て製造されたベーパーチャンバーに、十分な強度と放熱性能を持たせることができる銅合金板を提供することを目的とする。
析出硬化型銅合金は、溶体化処理後、時効処理を行うことで、強度及び導電率が向上する。しかし、析出硬化型銅合金は、溶体化処理後、冷間で塑性加工を加えて析出サイトとなる塑性歪みを合金中に導入した後、時効処理を行うのでなければ、時効処理による強度及び導電率の向上効果が低い場合がある。
ろう付け、拡散接合、溶接等の加熱工程を経て製作されたベーパチャンバ−の場合、前記加熱工程後に塑性加工が加えられることはない。従って、前記ベーパチャンバ−を析出強化型銅合金の板材から製作した場合に、溶体化処理に相当する上記加熱工程後、時効処理を施しても、強度及び導電率が十分向上しない場合がある。
一方、本発明者らは、析出硬化型銅合金のうちCu−(Ni,Fe)−P系合金において、Ni、Fe、Pの組成範囲及び[Ni+Fe]/P比を限定することにより、上記加熱工程後、塑性加工を加えることなく時効処理した場合でも、ベーパチャンバ−の強度及び導電率が大きく向上することを見出し、本発明に到達した。
本発明に係るベーパチャンバ−用銅合金板は、Ni:0.2〜0.95質量%及びFe:0.05〜0.8質量%と、P:0.03〜0.2質量%、残部がCu及び不可避不純物からなり、Ni及びFeの合計含有量を[Ni+Fe]とし、Pの含有量を[P]としたとき、[Ni+Fe]が0.25〜1.0質量%、かつ[Ni+Fe]/[P]が2〜10であり、0.2%耐力が100MPa以上で優れた曲げ加工性を有し、850℃で30分加熱後水冷し、次いで500℃で2時間加熱する時効処理をした後の0.2%耐力が120MPa以上、導電率が40%IACS以上である。
本発明に係るベーパチャンバ−用銅合金板は、必要に応じて、合金元素としてさらに、Coを0.05質量%未満の範囲で含有することができる。また、本発明に係るベーパチャンバ−用銅合金板は、必要に応じて、合金元素としてさらに、SnとMgの1種又は2種をSn:0.005〜1.0質量%、Mg:0.005〜0.2質量%の範囲で含有し、又は/及びZnを1.0質量%以下の範囲で含有することができる。また、本発明に係るベーパチャンバ−用銅合金板は、必要に応じて、合金元素としてさらに、Si、Al、Mn、Cr、Ti、Zr、Agのうち1種又は2種以上を合計で0.005〜0.5質量%含有することができる。
ベーパーチャンバーを製造するプロセスの一部として、ろう付け、拡散接合、溶接等の650℃以上に高温加熱するプロセスが含まれる。本発明に係る銅合金板を用いて製造されたベーパーチャンバーは、前記高温加熱プロセスの後、時効処理を行うことにより、強度が向上する。
本発明に係る銅合金板は、0.2%耐力が100MPa以上であり、優れた曲げ加工性を有する。そして、本発明に係る銅合金板は、850℃に30分加熱し、次いで500℃で2時間加熱する時効処理を行ったとき、0.2%耐力が120MPa以上、導電率が40%IACS以上である。本発明に係る銅合金板は、時効処理後の強度が高いため、この銅合金板を用いて製造したベーパーチャンバーを、ヒートシンク、半導体装置へ取り付け、又はPC筐体等に組み込む際に、該ベーパーチャンバーが変形しにくい。また、本発明に係る銅合金板は、導電率が純銅板より低いが、時効処理後の強度が高いため薄肉化でき、放熱性能の点で導電率の低下分を補うことができる。
以下、本発明に係るベーパーチャンバー用銅合金板について、より詳細に説明する。
本発明に係る銅合金板は、プレス成形、打抜き加工、切削、エッチングなどにより所定形状に加工され、高温加熱(脱ガス、接合(ろう付け、拡散接合、溶接(TIG、MIG、レーザー等)、焼結等のための加熱)を経て、ベーパーチャンバーに仕上げられる。ベーパーチャンバーの種類や製造方法により前記高温加熱の加熱条件が異なるが、本発明では、前記高温加熱を650℃〜1050℃程度で行う場合を想定している。本発明に係る銅合金板は後述する組成の(Ni,Fe)−P系銅合金からなり、前記温度範囲内に加熱すると、母材に析出していた(Ni,Fe)−P化合物の少なくとも一部が固溶し、結晶粒が成長し、軟化及び導電率の低下が生じる。
本発明に係る銅合金板は、850℃で30分加熱後水冷し、次いで500℃で2時間加熱する時効処理をした後の強度(0.2%耐力)が120MPa以上、導電率が40%IACS以上である。850℃で30分の加熱は、ベーパーチャンバーの製造における前記高温加熱のプロセスを想定した加熱条件である。本発明に係る銅合金板をこの条件で高温加熱すると、加熱前に析出していた(Ni,Fe)−P化合物が固溶し、結晶粒が成長し、軟化、及び導電率の低下が生じる。次いで前記銅合金板を時効処理すると、微細な(Ni,Fe)−P化合物が析出する。これにより、前記高温加熱により低下した強度及び導電率が顕著に改善する。
前記時効処理は、(a)高温加熱後の冷却工程中に析出温度範囲に一定時間保持する、(b)高温加熱後室温まで冷却し、その後析出温度範囲に再加熱して一定時間保持する、(c)前記(a)の工程後、析出温度範囲に再加熱して一定時間保持する、等の方法で実施することができる。
具体的な時効処理条件として、300〜600℃の温度範囲で5分〜10時間保持する条件が挙げられる。強度の向上を優先するときは微細な(Ni,Fe)−P化合物が生成する温度−時間条件を、導電率の向上を優先するときは固溶するNi、Fe、Pが減少する過時効気味の温度−時間条件を、適宜選定すればよい。
時効処理後の銅合金板は、高温加熱後の純銅板に比べて導電率は低いが、強度は純銅板に比べて顕著に高くなる。この効果を得るため、本発明に係る銅合金板を用いて製造したベーパーチャンバーは、高温加熱後時効処理される。時効処理条件は、前記のとおりである。時効処理後のベーパーチャンバー(銅合金板)は強度が高く、ヒートシンク、半導体装置へ取り付け、又はPC筐体等に組み込む際に、該ベーパーチャンバーの変形を防止できる。また、本発明に係る銅合金板(時効処理後)は、純銅板に比べて強度が高いため、薄肉化(0.1〜1.0mm厚)することができ、そのことによりベーパーチャンバーの放熱性能を高め、純銅板と比べた場合の導電率の低下分を補うことができる。
なお、本発明に係る銅合金板は、高温加熱の温度が850℃未満(650℃以上)又は850℃超(1050℃以下)であっても、時効処理後に、120MPa以上の0.2%耐力、及び40%IACS以上の導電率を達成できる。
本発明に係る銅合金板は、650℃以上の温度に高温加熱される前に、プレス成形、打抜き加工、切削、エッチングなどにより、ベーパーチャンバーに加工される。銅合金板は、前記加工に際しての搬送及びハンドリングにおいて容易に変形しない強度を有し、前記加工が支障なく実行できる機械的特性を有することが好ましい。より具体的には、本発明に係る銅合金板は、0.2%耐力が100MPa以上、及び優れた曲げ加工性を有することが好ましい。以上の特性を満たしていれば、銅合金板の調質は問題にならない。例えば溶体化処理材、時効処理上がり、時効処理上り材を冷間圧延したものなど、いずれも使用可能である。
曲げ加工においては、曲げ部で割れが発生しないことが求められる。さらに、曲げ線及びその近傍において、肌荒れが発生しないことが好ましい。同一材質の銅合金板であっても、曲げによる割れや肌荒れの発生しやすさは、曲げ半径Rと板厚tの比率R/tに依存する。銅合金板を用いてベーパーチャンバーを製造する場合、銅合金板の曲げ加工性として、通常、圧延平行方向、直角方向共にR/t≦2の曲げを行った場合に割れが発生しないことが求められる。銅合金板の曲げ加工性として、R/t≦1.5の曲げで割れが発生しないことが好ましく、R/t≦1.0の曲げで割れが発生しないことがより好ましい。銅合金板の曲げ加工性は、一般に板幅10mmの試験片で試験される(後述する実施例の曲げ加工性試験を参照)。銅合金板材を曲げ加工する場合、曲げ幅が大きいほど割れが発生しやすくなることから、ベーパーチャンバーとして特に曲げ幅が大きい場合には、R/t=1.0の曲げで割れが発生しないことが好ましく、さらにR/t=0.5の曲げで割れが発生しないことが好ましい。また、曲げ線及びその近傍で肌荒れを発生させないためには、銅合金板の表面において板幅方向に測定した平均結晶粒径(切断法)が20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましい。
先に述べたとおり、本発明に係る銅合金板を加工して製造したベーパーチャンバーは、650℃以上の温度に高温加熱すると軟化する。高温加熱後のベーパーチャンバーは、さらに時効処理を施す際の搬送及びハンドリングにおいて容易に変形しない強度を有することが好ましい。そのためには、850℃で30分加熱後水冷した段階で、50MPa以上の0.2%耐力を有することが好ましい。
本発明に係る銅合金板を用いて製造されたベーパーチャンバーは、時効処理を受けた後、必要に応じて、耐食性及びはんだ付け性の向上を主目的として、少なくとも外表面の一部にSn被覆層が形成される。Sn被覆層には、電気めっき、無電解めっき、あるいはこれらのめっき後、Snの融点以下又は融点以上に加熱して形成されたものが含まれる。Sn被覆層には、Sn金属とSn合金が含まれ、Sn合金としては、Sn以外に合金元素としてBi,Ag,Cu,Ni,In,Znのうち1種以上を合計で5質量%以下含むものが挙げられる。
Sn被覆層の下に、Ni,Co,Fe等の下地めっきを形成することができる。これらの下地めっきは、母材からのCuや合金元素の拡散を防止するバリアとしての機能、及びベーパーチャンバーの表面硬さを大きくすることによる傷つき防止の機能を有する。前記下地めっきの上にCuをめっきし、さらにSnをめっき後、Snの融点以下又は融点以上に加熱する熱処理を行ってCu−Sn合金層を形成し、下地めっき、Cu−Sn合金層及びSn被覆層の3層構成とすることもできる。Cu−Sn合金層は、母材からのCuや合金元素の拡散を防止するバリアとしての機能、及びベーパーチャンバーの表面硬さを大きくすることによる傷つき防止の機能を有する。
また、本発明に係る銅合金板を用いて製造されたベーパーチャンバーは、時効処理を受けた後、必要に応じて、少なくとも外表面の一部にNi被覆層が形成される。Ni被覆層は、母材からのCuや合金元素の拡散を防止するバリア、ベーパーチャンバーの表面硬さを大きくすることによる傷つき防止、及び耐食性を向上させる機能を有する。
次に本発明に係る銅合金板の組成について説明する。
本発明に係る銅合金は、Ni:0.2〜0.95質量%及びFe:0.05〜0.8質量%と、P:0.03〜0.2質量%を含有する。Ni、Feの合計含有量[Ni+Fe]は0.25〜1.0質量%の範囲内とされる。
Ni、Feは、Pとの間にP化合物を生成し、銅合金板の強度や耐応力緩和特性を向上させる。なお、このP化合物は、Ni−P化合物、Fe−P化合物、及びNiの一部がFeで置換されたNi−Fe−P化合物の1種又は2種以上からなる。本発明ではこのP化物を(Ni,Fe)−P化合物と表記している。P化合物は固溶温度が高く、銅合金板が650℃以上の高温(例えば850℃)に加熱されても一部は比較的安定に存在し、結晶粒径の粗大化が防止される。一方、銅合金板の加熱温度が高いほど、水冷後の凍結空孔濃度が高くなり、析出物の核生成サイトが増えるため、続いて行われる時効処理により球状の析出物の数密度を増やすことができ、これは時効処理後の強度の向上に寄与する。
Ni、Feの合計含有量[Ni+Fe]が0.25質量%未満、又はP含有量が0.03質量%未満では、P化合物の析出量が少なく、銅合金板の強度や耐応力緩和特性を向上させる効果が少ない。一方、[Ni+Fe]が1.0質量%を超え又はP含有量[P]が0.2質量%を超えると、粗大な酸化物、晶出物、析出物などが生成して熱間加工性が低下し、かつ銅合金板の強度、耐応力緩和特性、曲げ加工性が低下する。また、Ni、Fe、Pの固溶量が増え、銅合金板の導電率が低下する。従って、[Ni+Fe]は0.25〜1.0質量%、P含有量は0.03〜0.2質量%とする。
また、Ni、Feの個々の含有量が、それぞれ0.2質量%未満、0.05質量%未満の場合、銅合金板の強度や耐応力緩和特性を向上させる効果が少ない。従って、Ni、Feの含有量の下限値は、それぞれ0.2質量%、0.05質量%とする。
Ni及びFeの合計含有量[Ni+Fe]とP含有量[P]の含有量比[Ni+Fe]/[P]が、2未満又は10を超える場合、過剰となったNi、Fe又はPが固溶して、導電率が低下する。従って、含有量比[Ni+Fe]/[P]は2〜10とする。[Ni+Fe]/[P]の下限値は好ましくは2.2、上限値は好ましくは9.5である。
CoはCuマトリックス中にCo単独で析出して銅合金の耐熱性を向上させるため、必要に応じて添加される。また、Coは(Ni,Fe)−P化合物のNi又はFeの一部を置換し、銅合金板の強度や耐応力緩和特性を向上させる。しかし、Coは高価であるので、Co含有量は0.05質量%未満とする。
Snは銅合金母相に固溶して銅合金の強度を向上させる作用を有するため、必要に応じて添加される。また、Snの添加は耐応力緩和特性の向上にも有効である。ベーパーチャンバーの使用環境が80℃又はそれ以上となると、クリ−プ変形が生じてCPU等の熱源との接触面が小さくなり、放熱性が低下するが、耐応力緩和特性を向上させることで、この現象を抑制できる。強度及び耐応力緩和特性の向上の効果を得るため、Sn含有量は0.005質量%以上とし、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上とする。一方、Sn含有量が1.0質量%を超えると、銅合金板の曲げ加工性を低下させ、かつ時効処理後の導電率を低下させる。従って、Sn含有量は1.0質量%以下とし、好ましくは0.6質量%以下、より好ましくは0.3質量%以下とする。
Mgは、Snと同様に、銅合金母相に固溶して銅合金の強度及び耐応力緩和特性を向上させる作用を有するため、必要に応じて添加される。強度及び耐応力緩和特性の向上の効果を得るため、Mg含有量は0.005質量%以上とする。一方、Mg含有量が0.2質量%を超えると、銅合金板の曲げ加工性を低下させ、かつ時効処理後の導電率を低下させる。従って、Mg含有量は0.2質量%以下とし、好ましくは0.15質量%以下、より好ましくは0.05質量%以下とする。
Znは、銅合金板のはんだの耐熱剥離性及びSnめっきの耐熱剥離性を改善する作用を有するため、必要に応じて添加される。ベーパーチャンバーを半導体装置へ組み込むとき、はんだ付けが必要な場合があり、また、ベーパーチャンバーを製造後、耐食性改善のためSnめっきを行う場合がある。このようなベーパーチャンバーの製造に、Znを含有する銅合金板が好適に用いられる。しかし、Znの含有量が1.0質量%を越えると、はんだ濡れ性が低下するため、Znの含有量は1.0質量%以下とする。Znの含有量は好ましくは0.7質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下とする。一方、Zn含有量が0.01質量%未満では、耐熱剥離性の改善には不十分であり、Znの含有量は0.01質量%以上であることが好ましい。Zn含有量は0.05質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上がさらに好ましい。
なお、本発明の銅合金板がZnを含む場合、500℃以上の温度で加熱すると、加熱雰囲気によってはZnが気化し、銅合金板の表面性状を低下させたり、加熱炉を汚染することがある。Znの気化を防止するとの観点からは、Znの含有量は好ましくは0.5質量%以下とし、より好ましくは0.3質量%以下、さらに好ましくは0.2質量%以下とする。
Si、Al、Mn、Cr、Ti、Zr、Agは、銅合金の強度及び耐熱性を向上させる作用を有するため、これらの1種又は2種以上が必要に応じて添加される。これらの元素が添加される場合、含有量が多いと銅合金の導電率が低下するため、これらの元素の1種又は2種以上の合計含有量は0.5質量%以下に制限される。一方、上記作用を得るため、これらの元素の合計含有量の下限値は0.005質量以上とする。下限値は、より好ましくは0.01質量%、さらに好ましくは0.02質量%である。
このうちSi、Al、Mnは、少量含有させても銅合金の導電率を低下させることから、それぞれ上限値を、Si:0.2質量%、Al:0.2質量%、Mn:0.1質量%とすることが好ましい。一方、上記作用を得るため、Si、Al、Mnは、それぞれ下限値を、Si:0.01質量%、Al:0.01質量%、Mn:0.01質量とすることが好ましい。Cr、Ti、Zrは、数μm〜数10μm程度の酸化物系、硫化物系などの介在物を形成しやすく、冷間圧延により前記介在物と母材の間に隙間ができ、前記介在物が表面に存在したとき銅合金の耐食性を低下させる。従って、Cr、Ti、Zrの上限値は、Cr:0.2質量%、Ti:0.1質量%、Zr:0.05質量%とすることが好ましい。一方、上記作用を得るため、Cr、Ti、Zrは、それぞれ下限値を、Cr:0.005質量%、Ti:0.01質量%、Zr:0.005質量%とすることが好ましい。Agの上限値は0.5質量%とし、上記作用を得るため、下限値を0.01質量%とすることが好ましい。
不可避不純物であるH、O、S、Pb、Bi、Sb、Se、Asは、銅合金板が650℃以上の温度に長時間加熱されると粒界に集まり、加熱中及び加熱後の粒界割れ並びに粒界脆化等を引起す可能性があるため、これらの元素の含有量は低減することが好ましい。Hは、加熱中に粒界や介在物と母材との界面に集まり、膨れを発生させることから、好ましくは1.5ppm(質量ppm、以下同じ)未満とし、より好ましくは1ppm未満とする。Oは、好ましくは20ppm未満、より好ましくは15ppm未満とする。S、Pb、Bi、Sb、Se、Asは、好ましくは合計で30ppm未満、より好ましくは20ppm未満とする。特にBi、Sb、Se、Asについては、好ましくはこれらの元素の合計含有量を10ppm未満、より好ましくは5ppm未満とする。
本発明に係る銅合金板は、前記組成を有する鋳塊を均熱処理後、(1)熱間圧延−冷間圧延−焼鈍、(2)熱間圧延−冷間圧延−焼鈍−冷間圧延、(3)熱間圧延−冷間圧延−焼鈍−冷間圧延−低温焼鈍、等の工程で製造できる。上記(1)〜(3)において、冷間圧延−焼鈍の工程を複数回行ってもよい。
前記焼鈍には、軟化焼鈍、再結晶焼鈍又は析出焼鈍(時効処理)が含まれる。軟化焼鈍又は再結晶焼鈍の場合は、加熱温度を600〜950℃の範囲から、加熱時間を5秒〜1時間の範囲から選定するとよい。軟化焼鈍又は再結晶焼鈍が溶体化処理を兼ねる場合は、650〜950℃で5秒〜3分加熱する連続焼鈍を行うとよい。析出焼鈍の場合、前述したとおり、300〜600℃程度の温度範囲に0.5〜10時間保持する条件で行うとよい。軟化焼鈍又は再結晶焼鈍が溶体化処理を兼ねる場合、後工程で析出焼鈍を行うことができる。
最終冷間圧延は、目標とする0.2%耐力と曲げ加工性に合わせて、加工率5〜80%の範囲から選定するとよい。
低温焼鈍は、銅合金板の延性の回復のため、銅合金板を再結晶させることなく軟化させるもので、連続焼鈍による場合は300〜650℃の雰囲気に1秒〜5分程度保持されるように定めるとよい。また、バッチ式焼鈍の場合は、銅合金板の実体温度が250℃〜400℃に5分〜1時間程度保持されるように定めるとよい。
以上の製造方法により、0.2%耐力が100MPa以上で、優れた曲げ加工性を有する銅合金板を製造することができる。また、この銅合金板は、850℃で30分加熱し、次いで500℃で2時間加熱する時効処理をしたとき、120MPa以上の0.2%耐力、40%IACS以上の導電率を有する。
本発明に係る銅合金板は、好ましくは、鋳塊を均熱処理し、熱間圧延した後、冷間圧延、溶体化を伴う再結晶処理、冷間圧延、時効処理の工程で製造される。溶体化を伴う再結晶処理後、冷間圧延を行うことなく時効処理を行い、続いて冷間圧延を行ってもよい。この製造方法の下で、前記組成の銅合金を用い、以下の条件で製造した銅合金板は、0.2%耐力が300MPa以上で、優れた曲げ加工性を有する。
溶解、鋳造は、連続鋳造、半連続鋳造などの通常の方法によって行うことができる。なお、銅溶解原料として、S、Pb、Bi、Se、As含有量の少ないものを使用することが好ましい。また、銅合金溶湯に被覆する木炭の赤熱化(水分除去)、地金、スクラップ原料、樋、鋳型の乾燥、及び溶湯の脱酸等に注意し、O、Hを低減することが好ましい。
均質化処理は、鋳塊内部の温度が800℃以上の温度に到達後、30分以上保持することが好ましい。均質化処理の保持時間は1時間以上がより好ましく、2時間以上がさらに好ましい。
均質化処理後、熱間圧延を800℃以上の温度で開始する。熱間圧延材に粗大な(Ni,Fe)−P析出物が形成されないように、熱間圧延は600℃以上の温度で終了し、その温度から水冷等の方法により急冷することが好ましい。熱間圧延後の急冷開始温度が600℃より低いと、粗大な(Ni,Fe)−P析出物が形成され、組織が不均一になりやすく、銅合金板(製品板)の強度が低下する。熱間圧延の終了温度は650℃以上の温度であることが好ましく、700℃以上の温度であることがさらに好ましい。なお、熱間圧延後急冷した熱間圧延材の組織は再結晶組織となる。後述の溶体化を伴う再結晶処理は熱間圧延後の急冷を行うことで兼ねることができる。
熱間圧延後の冷間圧延により、銅合金板に一定の歪みを加えることで、続く再結晶処理後に、所望の再結晶組織(微細な再結晶組織)を有する銅合金板が得られる。
溶体化を伴う再結晶処理は、650〜950℃、好ましくは670〜900℃で3分以下の保持の条件で行う。銅合金中のNi、Fe、Pの含有量が少ない場合は,上記温度範囲内のより低温領域で、Ni、Fe,Pの含有量が多い場合は、上記温度範囲内のより高温領域で行うことが好ましい。この再結晶処理により、Ni、Fe、Pを銅合金母材に固溶させると共に、曲げ加工性が良好となる再結晶組織(結晶粒径が1〜20μm)を形成することができる。この再結晶処理の温度が650℃より低いと、Ni、Fe、Pの固溶量が少なくなり、強度が低下する。一方、再結晶処理の温度が950℃を超え又は処理時間が3分を超えると、再結晶粒が粗大化する。
溶体化を伴う再結晶処理後は、(a)冷間圧延−時効処理、(b)冷間圧延−時効処理−冷間圧延、(c)冷間圧延−時効処理−冷間圧延−低温焼鈍、(d)時効処理−冷間圧延、(e)時効処理−冷間圧延−低温焼鈍、のいずれかの工程が選択できる。
時効処理(析出焼鈍)は、加熱温度300〜600℃程度で0.5〜10時間保持する条件で行う。この加熱温度が300℃未満では析出量が少なく、600℃を超えると析出物が粗大化しやすい。加熱温度の下限は、好ましくは350℃とし、上限は好ましくは580℃、より好ましくは560℃とする。時効処理の保持時間は、加熱温度により適宜選択し、0.5〜10時間の範囲内で行う。この保持時間が0.5時間以下では析出が不十分となり、10時間を越えても析出量が飽和し、生産性が低下する。保持時間の下限は、好ましくは1時間、より好ましくは2時間とする。
表1,2に示す組成の銅合金を鋳造し、それぞれ厚さ45mm、長さ85mm、幅200mmの鋳塊を作製した。この銅合金において、不可避不純物であるHは1ppm未満、Oは15ppm未満、S、Pb、Bi、Sb、Se、Asは合計で20ppm未満であった。
各鋳塊に対し965℃で3時間の均熱処理を行い、続いて熱間圧延を行って板厚15mmの熱間圧延材とし、650℃以上の温度から焼き入れ(水冷)した。焼き入れ後の熱間圧延材の両面を1mmずつ研磨(面削)した後、目標板厚0.6mmまで冷間粗圧延し、650〜950℃で10〜60秒保持する再結晶処理(溶体化を伴う)を行った。次いで500℃で2時間の時効処理(析出焼鈍)後、50%の仕上げ冷間圧延を施し、板厚0.3mmの銅合金板を製造した。
なお、表1,2に示す実施例4,7,10と比較例1,5について、冷間粗圧延後の銅合金板(厚さ0.6mm)の一部(長さ2000mm)を、後述する[実施例3]、[実施例4]に用いた。
Figure 2018168470
Figure 2018168470
得られた銅合金板を供試材として、下記要領で、導電率、機械的特性、曲げ加工性、はんだ濡れ性の各測定試験を行った。その結果を表3,4に示す。
また、得られた銅合金板を850℃で30分間加熱後水冷したもの、さらに500℃で2時間加熱する時効処理(析出処理)を行ったものを、それぞれ供試材として、導電率及び機械的特性の各測定試験を行った。その結果を表3,4に示す。
(導電率の測定)
導電率の測定は,JIS−H0505に規定されている非鉄金属材料導電率測定法に準拠し,ダブルブリッジを用いた四端子法で行った。
(機械的特性)
供試材から、長手方向が圧延平行方向となるようにJIS5号引張り試験片を切り出し、JIS−Z2241に準拠して引張り試験を実施して、耐力と伸びを測定した。耐力は永久伸び0.2%に相当する引張強さである。
(曲げ加工性)
曲げ加工性の測定は、伸銅協会標準JBMA−T307に規定されるW曲げ試験方法に従い実施した。各供試材から幅10mm、長さ30mmの試験片を切り出し、R/t=0.5となる冶具を用いて、G.W.(Good Way(曲げ軸が圧延方向に垂直))及びB.W.(Bad Way(曲げ軸が圧延方向に平行))の曲げを行った。次いで、曲げ部における割れの有無を100倍の光学顕微鏡により目視観察し、G.W.及びB.W.の双方で割れの発生がないものを○(合格)、G.W.又はB.W.のいずれか一方又は双方で割れが発生したものを×(不合格)、と評価した。
(はんだ濡れ性)
各供試材から短冊状試験片を採取し、非活性フラックスを1秒間浸漬塗布した後、メニスコグラフ法にてはんだ濡れ時間を測定した。はんだは260±5℃に保持したSn−3質量%Ag−0.5質量%Cuを用い、浸漬速度を25mm/sec、浸漬深さを5mm、浸漬時間を5secの試験条件で実施した。はんだ濡れ時間が2秒以下のものをはんだ濡れ性が優れると評価した。なお、比較例6以外は、はんだ濡れ時間が2秒以下であった。
Figure 2018168470
Figure 2018168470
表1,3に示す実施例1〜24の銅合金板は、合金組成が本発明の規定を満たし、850℃で30分間加熱し、次いで時効処理した後の強度(0.2%耐力)が120MPa以上で、かつ導電率が40%IACS以上である。また、850℃で加熱する前の銅合金板の特性は、強度(0.2%耐力)が300MPa以上であり、曲げ加工性やはんだ濡れ性も優れている。
これに対し、表2,4に示す比較例1〜10の銅合金板は、以下に示すように、何らかの特性が劣る。
比較例1は、Niを含まず、かつNi及びFeの合計含有量[Ni+Fe]が少ないため、時効処理後の強度が低い。
比較例2は、P含有量が過剰なため、熱間圧延時に割れが生じて、熱間圧延後の工程に進むことができなかった。
比較例3は、Ni含有量が少なく、かつNi及びFeの合計含有量[Ni+Fe]が少なく、P含有量も少ないため、時効処理後の強度が低い。
比較例4、5は、それぞれSn又はMg含有量が過剰で、時効処理後の導電率が低い。
比較例6は、Zn含有量が過剰で、先に述べたようにはんだ濡れ性が劣っていた。
比較例7は、主要元素以外の元素(Al、Mn等)の合計が過剰で0.5質量%を超えたため、時効処理後の導電率が低い。
比較例8は、Feを含まず、かつNi及びFeの合計含有量[Ni+Fe]が少ないため、時効処理後の強度が低い。
比較例9は、Ni及びFeの合計含有量[Ni+Fe]及びP含有量が過剰で、熱間圧延時に割れが生じて、熱間圧延後の工程に進むことができなかった。
比較例10は、Ni含有量が少なく、時効処理後の耐力が低い。
[実施例1]で製造した銅合金板(板厚0.3mm)のうち代表的なもの(表1,2に示す実施例4,7,10と比較例1,5)について、1000℃で30分間加熱後水冷し、さらに500℃で2時間加熱(時効処理)し、当該銅合金板を供試材として、導電率及び機械的特性の各測定試験を、[実施例1]に記載した方法で行った。その結果を表5に示す。
Figure 2018168470
表5に示すように、実施例4,7,10は、1000℃で30分間加熱し、次いで時効処理した後の強度(0.2%耐力)が120MPa以上で、かつ導電率が40%IACS以上である。表5に示す数値(時効処理後の耐力と導電率)を、850℃で30分間加熱し、次いで時効処理した後の測定結果(表3参照)と比較すると、数値に大きい違いはない。
一方、比較例1,5は、1000℃で30分間加熱し、次いで時効処理した後の強度又は導電率が基準(0.2%耐力が120MPa以上、導電率が40%IACS以上)に達していない。
表1,2に示す実施例4,7,10と比較例1,5について、[実施例1]で製造した冷間粗圧延後の銅合金板(厚さ0.6mm)を用い、これにさらに50%の冷間圧延を施し、板厚0.3mmの銅合金板を製造した。次いで、この銅合金板に650〜825℃で10〜60秒保持する再結晶処理(溶体化を伴う)を行った。
得られた銅合金板を供試材として、前記[実施例1]に記載した方法で、導電率、機械的特性、曲げ加工性の各測定試験を行った。また、得られた銅合金板を850℃で30分間加熱後水冷したもの、さらに500℃で2時間加熱する時効処理(析出処理)を行ったものを、それぞれ供試材として、同様に導電率及び機械的特性の各測定試験を行った。その結果を表6に示す。表6において、実施例4A,7A,10Aの組成は、表1の実施例4,7,10の組成と同じであり、比較例1A,5Aの組成は、表2の比較例1,5の組成と同じである。
Figure 2018168470
表6に示す実施例4A,7A,10Aの銅合金板は、合金組成が本発明の規定を満たし、850℃で30分間加熱し、次いで時効処理した後の強度(0.2%耐力)が120MPa以上で、かつ導電率が40%IACS以上である。また、850℃で加熱する前の銅合金板の特性は、強度(0.2%耐力)が100MPa以上であり、曲げ加工性も優れている。
これに対し、比較例1Aの銅合金板は時効処理後の強度が低く、比較例5Aの銅合金は時効処理後の導電率が低い。
表1,2に示す実施例4,7,10と比較例1,5について、[実施例1]で製造した冷間粗圧延後の銅合金板(厚さ0.6mm)を用い、これにさらに冷間圧延を施し、板厚0.32mmとした。次いで、650〜825℃で10〜60秒保持する再結晶処理(溶体化を伴う)を行った後、仕上げ冷間圧延を施し、板厚0.3mmの銅合金板を製造した。
得られた銅合金板を供試材として、前記実施例1に記載した方法で、導電率、機械的特性、曲げ加工性の各測定試験を行った。また、得られた銅合金板を850℃で30分間加熱後水冷したもの、さらに500℃で2時間加熱する時効処理(析出処理)を行ったものを、それぞれ供試材として、同様に導電率及び機械的特性の各測定試験を行った。その結果を表7に示す。表7において、実施例4B,7B,10Bの組成は、表1の実施例4,7,10の組成と同じであり、比較例1B,5Bの組成は、表2の比較例1,5の組成と同じである。
Figure 2018168470
表7に示す実施例4B,7B,10Bの銅合金板は、合金組成が本発明の規定を満たし、850℃で30分間加熱し、次いで時効処理した後の強度(0.2%耐力)が120MPa以上で、かつ導電率が40%IACS以上である。また、850℃で加熱する前の銅合金板の特性は、強度(0.2%耐力)が100MPa以上であり、曲げ加工性も優れている。
これに対し、比較例1Bの銅合金板は時効処理後の強度が低く、比較例5Bの銅合金は時効処理後の導電率が低い。

Claims (5)

  1. Ni:0.2〜0.95質量%及びFe:0.05〜0.8質量%と、P:0.03〜0.2質量%を含有し、残部がCu及び不可避不純物からなり、NiとFeの合計含有量を[Ni+Fe]とし、Pの含有量を[P]としたとき、[Ni+Fe]が0.25〜1.0質量%、[Ni+Fe]/[P]が2〜10であり、0.2%耐力が100MPa以上で優れた曲げ加工性を有し、850℃で30分加熱後水冷し、次いで500℃で2時間加熱する時効処理をした後の0.2%耐力が120MPa以上、導電率が40%IACS以上であることを特徴とするベーパーチャンバー用銅合金板。
  2. さらに、Coを0.05質量%未満の範囲で含有することを特徴とする請求項1に記載されたベーパーチャンバー用銅合金。
  3. さらに、SnとMgの1種又は2種を、Sn:0.005〜1.0質量%、Mg:0.005〜0.2質量%の範囲で含有することを特徴とする請求項1又は2に記載されたベーパーチャンバー用銅合金板。
  4. さらに、Znを1.0質量%以下含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載されたベーパーチャンバー用銅合金板。
  5. さらに、Si、Al、Mn、Cr、Ti、Zr、Agのうち1種又は2種以上を合計で0.005〜0.5質量%含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載されたベーパーチャンバー用銅合金板。
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