以下、ディーゼルエンジンシステム10の構成について図面を参照して説明する。図1は、ディーゼルエンジンシステム10の構成を示す図である。ディーゼルエンジンシステム10は、ディーゼルエンジン12を備える。このディーゼルエンジン12は、周知の構成を採用できる。ディーゼルエンジン12には、各シリンダに燃料を噴射する燃料噴射弁(図示せず)が設けられている。この燃料噴射弁を駆動するアクチュエータは、制御装置14に電磁的に接続されている。制御装置14は、所望の空燃比Rが得られるように、燃料噴射弁からの燃料噴射量を調整する。
ディーゼルエンジン12には、排ガスが流れる排ガス流路16が接続されている。この排ガス流路16の途中には、三元触媒装置18と還元触媒装置20と、が設けられている。図示例では、三元触媒装置18の下流に、還元触媒装置20を設けている。ただし、この配置は、変更されてもよく、例えば、還元触媒装置20の下流に三元触媒装置18を設けたり、三元触媒装置18の上流および下流の双方に、還元触媒装置20を設けたりしてもよい。
三元触媒装置18は、ディーゼルエンジン12の排ガス中に含まれる有害物質である炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)を、プラチナ、パラジウム、ロジウム等を使用した触媒装置により同時に除去する。具体的には、HCを、水と二酸化炭素に酸化し、COを、二酸化炭素に酸化し、NOxを、窒素に還元する。こうした酸化・還元反応を同時に行う関係上、三元触媒装置18では、排ガス中の酸素が多いリーン燃焼時には、NOxの浄化率が低いことが知られている。
そのため、本例では、リーン燃焼時であってもNOxを効果的に浄化するために、還元触媒装置20を設けている。還元触媒装置20は、排ガス中のNOxを還元(N2化)させる装置である。かかる還元触媒装置20としては、尿素等の還元剤を用いてNOxを還元させる選択還元型と、排ガス中のNOxを一時的に吸蔵した後に還元する吸蔵還元型と、がある。図示例では、還元触媒装置20を、選択還元型触媒装置としており、尿素供給源22と、尿素噴射装置24と、を備えている。ただし、選択還元型触媒装置に替えて、または、加えて、吸蔵還元型触媒装置を設けてもよい。
排ガス流路16には、さらに、排ガスの酸素濃度を検出する酸素センサ26,32と、排ガスの流量を検出する流量センサ28と、が設けられている。上流酸素センサ26および流量センサ28は、三元触媒装置18の上流に設けられており、当該三元触媒装置18に流入する排ガスの酸素濃度C1と、流量Qを検出する。下流酸素センサ32は、三元触媒装置18の下流に設けられており、当該三元触媒装置18から流出する排ガスの酸素濃度C2を検出する。
また、三元触媒装置18には、当該三元触媒装置18の床温T2を検出する温度センサ30が、また、還元触媒装置20には、当該還元触媒装置20の床温T1を検出する温度センサ34が、それぞれ、設けられている。各種センサで検出された酸素濃度C1,C2、流量Q、床温T1,T2は、いずれも、制御装置14に送られる。
制御装置14は、ディーゼルエンジン12を含む各部の駆動を制御する。この制御装置14は、各種演算を行うCPUと、各種制御パラメータや演算結果、測定データ、制御プログラム等を記憶するメモリと、を備えている。制御装置14は、既述した通り、所望の空燃比Rとなるように、ディーゼルエンジン12の燃料噴射弁からの燃料噴射量を調整する。また、制御装置14は、後に詳説するように、還元触媒装置20の床温T2に基づいて、当該還元触媒装置20のNOx浄化率を推定する。また、制御装置14は、酸素濃度C1,C2、流量Q、三元触媒装置18の床温T2に基づいて、三元触媒装置18における酸素吸蔵量O2stも推定する。さらに、制御装置14は、推定された還元触媒装置20のNOx浄化率や、三元触媒装置18における酸素吸蔵量O2stに基づいて、ディーゼルエンジン12の空燃比Rを決定する。以下、この空燃比Rの決定方法について詳説する。
ディーゼルエンジン12は、燃費の関係上、空燃比RをストイキRstよりも、燃料比率の低いリーンとすることが多い。リーンの場合、既述した通り、三元触媒装置18によるNOx浄化率が低下する。そのため、リーンの場合には、主に、還元触媒装置20で、NOxの浄化を行う。
ただし、還元触媒装置20は、その床温T1の上昇に伴いNOxの浄化率が低下することが知られている。図2は、還元触媒装置20における床温T1と、NOx浄化率との関係を示す図である。図2に示すように、時間の経過とともに、床温T1が上昇していくとする。この場合、還元触媒装置20のNOx浄化率は、床温T1が、所定の温度Ta未満の場合、大きく変化しない。一方、時刻t1において、床温T1が、所定の温度Taに達すると、以降、還元触媒装置20のNOx浄化率は、急激に低下する。
つまり、還元触媒装置20において、床温T1は、当該還元触媒装置20のNOx浄化率に関連する物理量であり、還元触媒装置20に設けられた温度センサ34は、還元触媒装置20のNOx浄化率に関連する物理量を検出する第一検出部として機能する。制御装置14は、この温度センサ34で検出された床温T1が、予め規定された基準温度Tdef以上となれば、還元触媒装置20のNOx浄化率が、規定の基準未満に低下した浄化率低下状態になったと判定する。浄化率低下状態になった場合、制御装置14は、三元触媒装置18でのNOx浄化ができるように、空燃比Rを変更する。なお、基準温度Tdefは、予め、シミュレーションや実験により求められる値であり、NOxの浄化率が急激に低下し始める際の床温T1、図2の例で言えば、所定の温度Taに相当する温度である。
この基準温度Tdefは、固定値でもよいし、排ガスの流量Qや、還元触媒装置20やディーゼルエンジン12の劣化度合いや使用状況等に応じて変化する可変値としてもよい。いずれにしても、制御装置14のメモリには、この基準温度Tdefが記憶されている。そして、制御装置14は、温度センサ34で検出された床温T1が、当該基準温度Tdef以上となれば、浄化率低下状態であると判定し、空燃比Rを、ストイキRst、または、ストイキRstよりも燃料比率の高いリッチにする。
T1≧Tdefの場合において、空燃比Rを、ストイキRst、リッチのいずれにするかは、三元触媒装置18における酸素吸蔵量O2stに基づいて決定する。すなわち、三元触媒装置18では、HCとCOの酸化と、NOxの還元と、を同時に行う関係上、これら酸化・還元を効率よく行うためには、燃料が完全燃焼し、かつ、酸素の余らない、空燃比RをストイキRstとして運転されることが望まれる。しかし、実際の制御では、空燃比Rを、厳密にストイキRstに維持することは、難しく、実際には、空燃比Rは、僅かに、リーンやリッチ側に振れる。このとき、三元触媒装置18における酸素吸蔵量O2stが、飽和に近付き、新たな酸素吸蔵が困難な場合には、リーンに僅かに振れた時に余剰の酸素を吸蔵できず、NOxの浄化率が大幅に悪化する。換言すれば、三元触媒装置18における酸素吸蔵量O2stが、飽和吸蔵量O2maxに近い場合には、三元触媒装置18で安定してNOxを浄化できない。以下では、三元触媒装置18の酸素吸蔵量O2stが十分に下がり、三元触媒装置18が、ストイキRstにおいて安定してNOxを浄化できるような状態を、「安定状態」と呼ぶ。
三元触媒装置18を、早期に安定状態に移行させるために、酸素吸蔵量O2stが飽和に近い場合には、空燃比Rを一時的にリッチにし、三元触媒装置18に吸蔵されている酸素を積極的に消費することが望ましい。そのため、制御装置14は、T1≧Tdefとなれば、三元触媒装置18の酸素吸蔵量O2stを、規定の基準吸蔵量O2defと比較し、O2st<O2defの場合には、空燃比Rをストイキに設定する。一方、O2st≧O2defの場合、制御装置14は、吸蔵量過大状態であると判定し、この場合には、空燃比Rをリッチに設定する。ここで、基準吸蔵量O2defは、シミュレーションや実験により求められる値であり、飽和吸蔵量O2maxに基づいて定められる値である。
飽和吸蔵量O2maxは、三元触媒装置18で、吸蔵でき得る酸素の最大量である。この飽和吸蔵量O2maxは、三元触媒装置18の床温T2に応じて変化する。図3は、床温T2に対する飽和吸蔵量O2maxの一例を示す図である。図3に示す通り、飽和吸蔵量O2maxは、床温T2が特定の温度Tbになったときに最大値をとる放物線状に変化する。基準吸蔵量O2defは、例えば、この飽和吸蔵量O2maxに規定の係数Kを乗算した値であり、係数Kとしては、例えば、0.8〜0.9を採用できる。制御装置14のメモリには、床温T2ごとの基準吸蔵量O2def、あるいは、係数Kと、図3に例示した飽和吸蔵量O2maxのマップが記憶されている。
ここで、既述した通り、制御装置14は、三元触媒装置18の酸素吸蔵量O2stは、三元触媒装置18の床温T1、三元触媒装置18の上流および下流における排ガス中の酸素濃度C1,C2、排ガスの流量Qに基づいて、推定する。この酸素吸蔵量O2stの推定方法としては、種々考えられる。例えば、三元触媒装置18の上流および下流における酸素濃度の差(C1−C2)に流量Qを乗算することで求まる酸素減少量O2dec=Q×(C1−C2)と、三元触媒装置18の床温T2および流量Qに基づいて定まる酸素吸速度および飽和吸蔵量O2maxと、に基づいて酸素吸蔵量O2stを推定する。したがって、酸素濃度C1,C2、流量Q、床温T2は、いずれも、三元触媒装置18の酸素吸蔵量に関連する物理量に該当し、これらを検出するセンサ26,28,30,32は、三元触媒装置18の酸素吸蔵量に関連する物理量を検出する第二検出部を構成する。
繰り返し述べるように、制御装置14は、還元触媒装置20のNOx浄化率が規定の基準未満に低下した浄化率低下状態となった場合、酸素吸蔵量O2stが、規定の基準吸蔵量O2def未満の場合には、空燃比RをストイキRstに、基準吸蔵量O2def以上の場合には、空燃比Rをリッチに設定する。空燃比Rをリッチとすることで、三元触媒装置18において吸蔵される酸素が積極的に消費される。そして、これにより、空燃比Rを、ストイキRstに移行させても、三元触媒装置18で安定してNOxを浄化できる。結果として、燃費の悪化を抑制しつつ、三元触媒装置18で、安定してNOxを浄化できる。
図4、図5は、本明細書で開示するディーゼルエンジンシステム10における空燃比Rと酸素吸蔵量O2stとの変化の一例を示す図である。図4、図5は、いずれも、上段が空燃比Rの時間変化を、下段が三元触媒装置18の酸素吸蔵量O2stの時間変化を示している。また、図4、図5は、いずれも、時刻t1において、還元触媒装置20の床温T1が、基準温度Tdef以上になった、すなわち、還元触媒装置20が浄化率低下状態になったとする。
図4に示す通り、T1≧Tdefとなる時刻t1において、酸素吸蔵量O2stが、規定の基準吸蔵量O2def未満の場合、制御装置14は、空燃比Rを、リーンからストイキRstへと徐々に移行させる。そして、時刻t2において、空燃比RがストイキRstに達すれば、酸素吸蔵量O2stは、殆ど変化することなく、ほぼ一定の値を維持する。ただし、空燃比Rを厳密にストイキRstに維持することは難しく、実際には、僅かに、リーン側、あるいは、リッチ側に振れる。このとき、三元触媒装置18の酸素吸蔵量O2stが、飽和吸蔵量O2maxに達している場合、空燃比Rが僅かにリーン側に振れたとしても、NOxの浄化率が急激に低下する。しかし、本例では、空燃比RをストイキRstにするとき、酸素吸蔵量O2stは、飽和吸蔵量O2maxよりも十分に低いため、空燃比Rが僅かにリーン側に振れたとしても、余剰の酸素を吸蔵することができ、NOxの浄化率の急激な低下を避けることができる。つまり、三元触媒装置18で安定してNOxを浄化できる。
一方、図5に示す通り、T1≧Tdefとなる時刻t1において、酸素吸蔵量O2stが、規定の基準吸蔵量O2def以上の場合、制御装置14は、空燃比Rを、リーンからリッチへと徐々に以降させる。そして、時刻t2において、空燃比Rが、リッチになれば、酸素吸蔵量O2stが徐々に低下し始める。制御装置14は、空燃比Rが、所定の目標空燃比(リッチ)に達すれば、その状態を維持する。そして、時刻t3において、酸素吸蔵量O2stが規定の基準吸蔵量O2def未満となれば、制御装置14は、空燃比Rを、リッチからストイキRstへと移行させる。このとき、酸素吸蔵量O2stは、飽和吸蔵量O2maxよりも十分に低いため、空燃比Rが僅かにリーン側に振れたとしても、余剰の酸素を吸蔵することができ、NOxの浄化率の急激な低下を避けることができる。つまり、三元触媒装置18で安定してNOxを浄化できる。
ところで、空燃比Rをリッチとした場合、三元触媒装置18の酸素吸蔵量O2stが早期に減少する一方で、ディーゼルエンジン12の燃費は、ストイキRstに比べて、悪化する。そのため、本明細書で開示するディーゼルエンジンシステム10では、三元触媒装置18によるNOx浄化機能を早期に安定させつつも、燃費の悪化を抑制できるように、リッチとして設定される空燃比Rを、燃料単位量当たりの酸素吸蔵量O2stの減少量が、最大となるときの空燃比Rである、最適空燃比Ropを含む、規定の基準空燃比範囲内に収まる空燃比としている。
すなわち、三元触媒装置18における酸素吸蔵量O2stの減少速度(酸素放出速度)は、空燃比Rに応じて変化する。図6は、空燃比Rごとの酸素吸蔵量O2stの変化を示す図である。図6において、横軸は、時間tを、縦軸は、酸素吸蔵量O2stを示している。また、図6において、破線は、空燃比RをストイキRstに比べて僅かにリッチとした場合の酸素吸蔵量O2stの変化を示している。また、実線は、空燃比RをRst−kとして、一点鎖線は、空燃比RをRst−2×k、二点鎖線は、空燃比RをRst−3×kとして、運転した場合の酸素吸蔵量O2stの変化を示している。なお、kは、所定の定数で、例えば、0.5である。したがって、破線、実線、一点鎖線、二点鎖線は、いずれも、リッチで運転した場合を示しており、燃料の比率は、破線、実線、一点鎖線、二点鎖線の順で高くなっている。
図6から明らかな通り、空燃比RがストイキRstに比べて僅かにリッチの場合、時間の経過とともに酸素吸蔵量O2stは、徐々に低下するが、その低下速度は、空燃比Rをよりリッチにした場合に比べて、大幅に遅い。一方、空燃比Rをよりリッチとした場合、酸素吸蔵量O2stは、急激に低下する。そして、その低下速度は、空燃比Rが低いほど(燃料の比率が高いほど)、大きいことが分かる。したがって、空燃比Rを低くするほど、三元触媒装置18での酸素吸蔵量O2stを早期に低下させることができ、三元触媒装置18を、ストイキRstでも安定してNOxを浄化できる安定状態に、早期に移行させることができる。
しかしながら、空燃比Rを低くするほど、当然ながら、燃費が悪化する。そこで、本例のディーゼルエンジンシステム10では、リッチとして設定する空燃比Rを、単位酸素放出量O2reに基づいて決定している。これについて、図7を参照して説明する。
図7は、空燃比Rと、燃料1g当たりの酸素吸蔵量O2stの減少量との関係を示す図である。なお、以下では、燃料1g当たりの酸素吸蔵量O2stの減少量を「単位酸素放出量O2re」と呼ぶ。図7において、横軸は、空燃比Rを示しており、右側にいくほど、空燃比Rが増加している。また、図7において、縦軸は、単位酸素放出量O2reを示している。図7から明らかな通り、単位酸素放出量O2reは、所定の空燃比R6において最大値をとる。以下では、この単位酸素放出量O2reが最大となる空燃比R6を、「最適空燃比Rop」と呼ぶ。
空燃比Rが、最適空燃比Ropよりも低下すると、単位酸素放出量O2reも徐々に低下する。ただし、この低下の度合いは、比較的、緩やかである。一方、空燃比Rが、最適空燃比Ropよりも増加すると、単位酸素放出量O2reは、低下する。この低下の度合いは、R<Ropの場合よりも、急峻であり、特に、空燃比Rが、所定の値R7を超えると、単位酸素放出量O2reは、急激に低下する。
したがって、空燃比Rを、単位酸素放出量O2reが急激に低下し始めるR7より高くした場合、最適空燃比Ropを選択した場合に比べて、三元触媒装置18が安定状態に移行するまでの時間が、大幅に増加するといえる。一方、空燃比Rを、最適空燃比Ropよりも低下させると、最適空燃比Ropを選択した場合に比べて、三元触媒装置18が安定状態に移行するまでの時間は大きく変わらないが、燃費が悪化すると言える。
リッチとして設定される空燃比Rは、こうした事情を考慮し、最適空燃比Ropを含む規定の基準空燃比範囲内となるように設定する。
基準空燃比範囲は、最適空燃比Ropを含むのであれば、特に限定されない。しかし、燃費を重視するのであれば、基準空燃比範囲は、最適空燃比Ropと、最適空燃比RopよりもストイキRst側にある上限空燃比Rmaxとの間の範囲とすることが望ましい。かかる構成とすれば、リッチとして設定される空燃比Rは、常に、最適空燃比Rop以上となる。これにより、燃費の悪化を抑制しつつも、三元触媒装置18を、早期に、安定状態に移行させることができる。
ここで、上限空燃比Rmaxは、最適空燃比RopよりもストイキRst側にあるのであれば、特に限定されない。しかし、上限空燃比Rmaxが、過度にストイキRstに近いと、単位酸素放出量O2reが低下し、三元触媒装置18が安定状態に移行するまでの期間が長くなる。そこで、上限空燃比Rmaxは、例えば、単位酸素放出量O2reの変化曲線を空燃比Rで微分した微分曲線が立ち下がり始めるときの空燃比である臨界空燃比Rcrとしてもよい。換言すれば、基準空燃比範囲を、最適空燃比Ropと、臨界空燃比Rcrとの間の範囲としてもよい。図8は、図7に示す単位酸素放出量O2reの変化曲線を、空燃比Rで微分した微分曲線の一例を示す図である。図8の例では、この微分曲線が立ち下がり始めるときの空燃比の値、すなわち、R7より僅かに小さい値が、臨界空燃比Rcrとなる。基準空燃比範囲は、最適空燃比Ropと、この臨界空燃比Rcrとの間の値としてもよい。かかる構成とすることで、三元触媒装置18が安定状態に移行するまでの期間を短くしつつも、燃費の悪化を効果的に抑制できる。
また、別の形態として、基準空燃比範囲は、単位酸素放出量O2reが、基準放出量O2re_def以上となる空燃比範囲としてもよい。すなわち、図7の例では、基準放出量O2re_defに対応する空燃比RaとRbとの間の範囲を基準空燃比範囲としてもよい。この基準放出量O2re_defは、種々の条件に基づいて決定すればよい。例えば、最適空燃比Ropにおける単位酸素放出量O2reを、最大放出量O2re_maxとした場合において、当該最大放出量O2re_maxに所定の係数を乗じた値を、基準放出量O2re_defとして設定してもよい。この係数は、0.8以上であり、より望ましくは、0.85以上、より望ましくは、0.9以上、より望ましくは、0.95以上である。かかる構成とすることで、三元触媒装置18を、より早期に安定状態に移行させることができる。
また、別の形態では、基準空燃比範囲を、最適空燃比Ropと実質的にみなせる範囲としてもよい。空燃比Rを、最適空燃比Ropとした場合、燃費の悪化を効果的に抑制しつつ、三元触媒装置18を、早期に、安定状態に移行させることができる。ただし、実際の制御においては、多少の制御誤差が生じるため、空燃比Rを、常に、最適空燃比Ropに保つことは難しい。したがって、実際には、基準空燃比範囲は、実質的に、最適空燃比Ropとみなせる範囲とすればよい。実質的に、最適空燃比Ropとみなせる範囲とは、空燃比を最適空燃比Ropに保とうとしたときに生じ得る制御誤差範囲内である。
なお、図7に示した単位酸素放出量O2reの変化曲線は、三元触媒装置18の床温T2、および、三元触媒装置18に流入する排ガス流量Qに応じて、変化する。具体的には、単位酸素放出量O2reの変化曲線は、床温T2が高いほど、また、排ガスの流量Qが大きいほど、グラフ右側へとずれる。図9は、床温T2に対する最適空燃比Ropの変化を、図10は、流量Qに対する最適空燃比Ropの変化を示す図である。図9、図10から明らかな通り、最適空燃比Ropは、床温T2および流量Qの上昇に伴い、上昇する。単位酸素放出量O2reの変化曲線は、この最適空燃比Ropと同様の比率で変化する。
ここで、制御装置14は、現在の三元触媒装置18の状態に応じた単位酸素放出量O2reの変化曲線に基づいて、リッチとして設定する空燃比Rを決定する。この現在の三元触媒装置18の状態に応じた単位酸素放出量O2reの変化曲線を得るために、制御装置14は、各床温T2、各流量Qごとに、単位酸素放出量O2reの変化曲線を記憶してもよい。また、別の形態として、制御装置14は、特定の床温T2、特定の流量Qにおける単位酸素放出量O2reの変化曲線を記憶しておくとともに、当該記憶している変化曲線を現在の床温T2、流量Qに基づいて補正することで、現在の単位酸素放出量O2reの変化曲線を決定するようにしてもよい。いずれにしても、制御装置14は、少なくとも、三元触媒装置18の床温T2と、流量Qとに応じて、基準空燃比範囲、および、リッチとして設定する空燃比Rを変化させる。
次に、本ディーゼルエンジンシステム10における空燃比Rの設定の流れについて図11を参照して説明する。図11は、空燃比Rの設定の流れを示すフローチャートである。制御装置14は、まず、還元触媒装置20のNOx浄化率に関連する物理量として、当該還元触媒装置20の床温T1を取得する(S10)。この床温T1は、還元触媒装置20に設けられた温度センサ34で検出される。
続いて、制御装置14は、三元触媒の酸素吸蔵量O2stに関連する物理量として、三元触媒装置18に流入する排ガスの流量Q、三元触媒装置18の上流および下流における排ガスの酸素濃度C1,C2、三元触媒装置18の床温T2を取得する(S12)。制御装置14は、これらQ,C1,C2,T2の値に基づいて、三元触媒装置18における酸素吸蔵量O2stを推定する(S14)。
次に、制御装置14は、得られた床温T1と、メモリに予め規定された基準温度Tdefとを比較する(S16)。比較の結果、T1<Tdefの場合(ステップS16でYes)、制御装置14は、空燃比Rをリーンに設定する(S18)。このリーンとして設定される空燃比Rの具体的な値は、ディーゼルエンジン12に要求される出力や燃費等を考慮して決定されればよい。一方、T1≧Tdefの場合(ステップS16でNo)、制御装置14は、還元触媒装置20のNOx浄化率が低下していると判断する。この場合、制御装置14は、酸素吸蔵量O2stとメモリに記憶された基準吸蔵量O2defとを比較する(S20)。比較の結果、O2st<O2defの場合(ステップS20でNo)、制御装置14は、空燃比Rを、ストイキRstに設定する。その後は、ステップS10に戻り、ステップS10〜S20を、定期的に行う。したがって、ストイキRstに移行した後も、還元触媒装置20の床温T1が低下すれば、空燃比Rをリーンに移行する。
一方、O2st≧O2defの場合(ステップS20でYes)、制御装置14は、リッチとして設定する空燃比Rを決定する(S24)。リッチとして設定する空燃比Rは、既述した通り、単位酸素放出量O2reに基づいて決定され、三元触媒装置18の床温T1および排ガスの流量Qに応じて変動する。制御装置14は、現在の床温T1、流量Qに応じた単位酸素放出量O2reの変化曲線を決定し、この変化曲線に基づいて、リッチとして設定する空燃比Rを決定する。
リッチとして設定する空燃比Rが決定できれば、空燃比Rを、リッチに設定する(S26)。その後、制御装置14は、流量Q、床温T2の取得(S28)と、酸素吸蔵量O2stの推定(S30)と、を定期的に行い、酸素吸蔵量O2stが、基準吸蔵量O2def以上の場合(S32でYes)には、ステップS24に戻る。一方、酸素吸蔵量O2stが、基準吸蔵量O2def未満になれば(S32でNo)、ステップS22に進み、空燃比RをストイキRstに設定する。
以上の説明から明らかな通り、三元触媒装置18の酸素吸蔵量O2stが多い場合には、空燃比Rをリッチに移行するため、三元触媒装置18を早期に安定状態に移行させることができる。また、リッチとして設定する空燃比Rを、単位酸素放出量O2reを基準として設定するため、燃費の悪化を抑制することができる。
なお、これまで説明した構成は、一例であり、適宜、変更されてもよい。例えば、上述の説明では、還元触媒装置20を一つだけとしたが、還元触媒装置20を複数設けてもよい。還元触媒装置20が複数の場合、全ての還元触媒装置20のNOx浄化率が基準以下となったときに、三元触媒装置18の空燃比Rを、ストイキRstまたはリッチに移行させればよい。
また、これまでの説明では、還元触媒装置20のNOxの浄化率を、床温T1に基づいて判定しているが、他の物理量に基づいて、NOx浄化率を推定してもよい。例えば、還元触媒装置20の下流に、NOxの濃度を検知するNOxセンサを設け、当該NOxセンサの検出値に基づいて、還元触媒装置20のNOxの浄化率を推定してもよい。同様に、三元触媒装置18の酸素吸蔵量O2stも、他の物理量に基づいて、推定してもよい。また、三元触媒装置18の上流側の排ガス中の酸素濃度C1は、ディーゼルエンジン12の運転状態と、事前に設定されたマップやモデル等と、を用いて推定してもよい。